特許拒絶査定不服審判
2021-002141
半割軸受
- 審判番号
- 2021-002141
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-239351外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年02月17日
- 審決日
- 2022年07月26日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】大豊工業株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人朝日特許事務所
- 【請求人代理人】渡邉 浩
- 分類
- P18 .121-Z (F16C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2016-239351号「半割軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月21日出願公開、特開2018- 96408号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月9日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年 3月25日付け :拒絶理由通知書
令和2年 6月 1日 :意見書、手続補正書の提出
令和2年11月12日付け :拒絶査定
令和3年 2月17日 :審判請求書の提出
第2 本願発明(本願発明の認定)
本願の請求項に係る発明は、令和2年6月1日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
半円筒形状であって軸が摺動する内周面を有する半割軸受であって、
前記内周面において軸方向における中央より一方の端側において周方向に沿って形成された第1溝と、
前記内周面において前記軸方向における中央より他方の端側において前記周方向に沿って形成された第2溝と
を備え、
前記軸の回転方向下流側にある合せ面の前記内周面側の端と外周面の中心軸とを結ぶ線と、前記第1溝及び前記第2溝の前記周方向の端であって前記軸の回転方向上流側の端と前記中心軸とを結ぶ線とのなす角度θが90°<θ≦105°の範囲内である
半割軸受。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし5に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1ないし3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
1 請求項1に対して、引用文献1
引用文献1.特開2015-137709号公報
2 請求項2ないし3に対して、引用文献1及び2
引用文献2.特開2015-152104号公報
3 請求項4ないし5に対して、引用文献1、引用文献2及び引用文献3
引用文献3.特開2015-132367号公報
第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1(特開2015-137709号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(なお、下線は当審で付加した。)。
(1)「【0001】
本発明は、すべり軸受の技術に関し、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置したすべり軸受の技術に関する。」
(2)「【発明が解決しようとする課題】
「【0004】
しかし、従来の全周に細溝を形成した軸受では、摺動面積減少により、負荷容量が低下し、良好な潤滑に必要な油膜厚さを確保することができず、かつ、総和の流出油量が多かった。」
(3)「【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
すなわち、油膜圧力の発生を妨げない程度の細溝を設けることで、摺動面積を減らしつつ、フリクション低減効果を得ることができ、かつ、総和の流出油量を抑えることができる。・・・」
(4)「【0014】
・・・すべり軸受1は、二つの半割部材2・2で構成されている。二つの半割部材2・2は、円筒を軸方向と平行に二分割した形状であり、断面が半円状となるように形成されている。本実施形態においては、半割部材2・2は上下に配置されており、左右に合わせ面が配置されている。クランクシャフト11をすべり軸受1で軸支する場合、所定の隙間が形成され、この隙間に対し図示せぬ油路から潤滑油が供給される。」
(5)「【0015】
・・・なお、本実施形態においては、クランクシャフト11の回転方向を図1の矢印に示すように正面視時計回り方向とする。また、軸受角度ωは、図1における右端の位置を0度とし、図1において、反時計回り方向を正とする。すなわち、図1において、左端の位置の軸受角度ωが180度となり、下端の位置の軸受角度ωが270度となるように定義する。」
(6)「【0016】
・・・下側の半割部材2の内周の摺動面において、その軸方向の端部に細溝3が形成されている。」
(7)「【0017】
細溝3は下側の半割部材2に設けられる。本実施形態においては、細溝3は軸方向に並列して二本設けられている。・・・
詳細には、細溝3の回転方向下流側端部3aが、クランクシャフト11の回転方向下流側合わせ面がある180度よりも大きい軸受角度ω0に配置されている。すなわち、細溝3は、クランクシャフト11の回転方向下流側合わせ面(軸受角度ωが180度)よりも大きい軸受角度ωから軸受角度ωが正となる方向(反時計回り方向)に向けて円周方向に設けられる。
下側の半割部材2においては、図1の右側の合わせ面が回転方向上流側合わせ面、図1の左側の合わせ面が回転方向下流側合わせ面となる。」
(8)「【0018】
細溝3の長さlは、回転方向下流側端部3a(軸受角度がω0)から回転方向上流側端部3b(軸受角度がω1)までの長さに形成したものである。なお、軸受角度ω1は、ω0よりも大きく270度以下である。より詳細には、軸受角度ω1は、通常225度よりも大きく270度以下である領域に存在する。」
(9)図1には、本発明の実施形態に係るすべり軸受を示す正面図として、以下の図が示されている。
[図:0001388722000001.jpg]
(10)図2には、本発明の実施形態に係るすべり軸受を構成する半割部材を示す平面図として、以下の図が示されている。
[図:0001388722000002.jpg]
(11)図3には、(a)に本発明の実施形態に係る半割部材を示す平面拡大図、(b)同じくA-A線断面図、(c)同じくB-B線拡大図として、以下の図が示されている。
[図:0001388722000003.jpg]
2 引用発明
(1)段落【0016】の「下側の半割部材2の内周の摺動面において、その軸方向の端部に細溝3が形成されている」との記載、段落【0017】の「細溝3は軸方向に並列して二本設けられている」と記載、及び図2を参照すると、細溝3は、軸方向の一方の端部に形成された細溝2と、軸方向の他方の端部に形成された細溝2を備えたものといえる。
(2)図3(b)を参照すると、細溝3は半割部材2の内周に形成されているといえる。
(3)段落【0015】の「クランクシャフト11の回転方向を図1の矢印に示すように正面視時計回り方向とする。また、軸受角度ωは、図1における右端の位置を0度とし、図1において、反時計回り方向を正とする。」との記載、段落【0017】の「細溝3は、クランクシャフト11の回転方向下流側合わせ面(軸受角度ωが180度)よりも大きい軸受角度ωから軸受角度ωが正となる方向(反時計回り方向)に向けて円周方向に設けられる」との記載、及び図1から、軸受角度ωは、クランクシャフトの回転方向上流側の合わせ面を0度とし、クランクシャフトの回転方向下流側の合わせ面を180度とし、クランクシャフトの回転方向の反対回り方向を正としたものといえる。
(4)したがって、引用文献1には、下側の半割部材2に着目すると、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「円筒を軸方向と平行に二分割した形状であり、断面が半円状となるように形成されており、内周の摺動面において、クランクシャフト11を軸支する半割部材2であって、
半割部材2の内周に円周方向に設けられ、軸方向の一方の端部に形成された細溝3と、
半割部材2の内周に円周方向に設けられ、軸方向の他方の端部に形成された細溝3と、
を備え、
クランクシャフトの回転方向上流側の合わせ面を0度とし、クランクシャフトの回転方向下流側の合わせ面を180度とし、クランクシャフトの回転方向の反対回り方向を正とした軸受角度ωにおいて、細溝3の回転方向上流側端部3bの軸受角度ω1は270度以下である
半割部材2。」
第5 対比(一致点、相違点の認定)
1 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
(1)引用発明の「円筒を軸方向と平行に二分割した形状であり、断面が半円状となるように形成されて」いることは、本願発明の「半円筒形状であ」ることに相当する。また、引用発明の「クランクシャフト」は軸支されるものであるから本願発明の「軸」に相当し、同様に「内周の摺動面」は「摺動する内周面」に、「半割部材」は「半割軸受」にそれぞれ相当する。
引用発明の「内周」は本願発明の「内周面」に、同様に「円周方向」は「周方向」に相当する。また、引用発明の「軸方向の一方の端部」は本願発明における「軸方向における中央より一方の端側」に包含されるものであり、同様に「軸方向の他方の端部」は「軸方向における中央より他方の端側」に包含されるものである。そして、引用発明の一方及び他方の端部に形成された2つの「細溝」は、本願発明の「第1溝」及び「第2溝」にそれぞれ相当する。
(2)上記(1)の相当関係を踏まえると、引用発明の「円筒を軸方向と平行に二分割した形状であり、断面が半円状となるように形成されており、内周の摺動面において、クランクシャフトを軸支する半割部材2であって」との構成は、本願発明の「半円筒形状であって軸が摺動する内周面を有する半割軸受であって」との構成に相当する。
また、引用発明の「半割部材の内周に円周方向に設けられ、軸方向の一方の端部に形成された細溝3と、半割部材の内周に円周方向に設けられ、軸方向の他方の端部に形成された細溝3と、を備え」る構成は、本願発明の「前記内周面において軸方向における中央より一方の端側において周方向に沿って形成された第1溝と、前記内周面において前記軸方向における中央より他方の端側において前記周方向に沿って形成された第2溝とを備え」る構成に相当する。
(3)引用発明の「クランクシャフトの回転方向上流側の合わせ面を0度とし、クランクシャフトの回転方向下流側の合わせ面を180度とし、クランクシャフトの回転方向の反対回り方向を正とした軸受角度ω」について、半割部材2は円筒を軸方向と平行に分割した形状であること(段落【0014】)及び図1から、軸受角度ωは、円筒の中心を原点として、原点とクランクシャフトの回転方向上流側の合わせ面を結ぶ線と、原点と任意の点を結ぶ線とがなす角度を、クランクシャフトの回転方向の反対回り方向を正として定義されたものといえる。してみれば、180度を定める線は、円筒の中心とクランクシャフトの回転方向下流側の合わせ面を結ぶ線であり、細溝3の回転方向上流側端部3bの軸受角度ω1を定める線は、円筒の中心と細溝3の回転方向上流側端部3bを結ぶ線である。また、円筒の中心は、円筒の外周面の中心軸であることは自明であり、180度を起点(0度)とすれば270度は90度である。
そうすると、引用発明における「クランクシャフトの回転方向上流側の合わせ面を0度と、クランクシャフトの回転方向下流側の合わせ面を180度とし、クランクシャフトの回転方向の反対回り方向を正とした軸受角度ωにおいて、細溝3の回転方向上流側端部3bの軸受角度ω1は270度以下である」構成は、本願発明に倣って表現すれば、「軸の回転方向下流側にある合せ面の前記内周面側の端と外周面の中心軸とを結ぶ線と第1溝及び第2溝の周方向の端であって軸の回転方向上流側の端と前記中心軸とを結ぶ線とのなす角度θが90度以下である」構成となる。
以上を踏まえると、引用発明の「クランクシャフトの回転方向上流側の合わせ面を0度と、クランクシャフトの回転方向下流側の合わせ面を180度とし、クランクシャフトの回転方向の反対回り方向を正とした軸受角度ωにおいて、細溝3の回転方向上流側端部3bの軸受角度ω1は270度以下である」構成と本願発明の「前記軸の回転方向下流側にある合せ面の前記内周面側の端と外周面の中心軸とを結ぶ線と、前記第1溝及び前記第2溝の前記周方向の端であって前記軸の回転方向上流側の端と前記中心軸とを結ぶ線とのなす角度θが90°<θ≦105°の範囲内である」構成とは、「前記軸の回転方向下流側にある合せ面の前記内周面側の端と外周面の中心軸とを結ぶ線と第1溝及び第2溝の周方向の端であって軸の回転方向上流側の端と前記中心軸とを結ぶ線とのなす角度θを所定範囲とする」点で共通する。
2 一致点
本願発明と引用発明は、以下の構成において一致する。
「半円筒形状であって軸が摺動する内周面を有する半割軸受であって、
前記内周面において軸方向における中央より一方の端側において周方向に沿って形成された第1溝と、
前記内周面において前記軸方向における中央より他方の端側において前記周方向に沿って形成された第2溝と
を備え、
前記軸の回転方向下流側にある合せ面の前記内周面側の端と外周面の中心軸とを結ぶ線と第1溝及び第2溝の周方向の端であって軸の回転方向上流側の端と前記中心軸とを結ぶ線とのなす角度θを所定範囲とする
半割軸受。」
3 相違点
本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
軸の回転方向下流側にある合せ面の内周面側の端と外周面の中心軸とを結ぶ線と、第1溝及び第2溝の前記周方向の端であって軸の回転方向上流側の端と前記中心軸とを結ぶ線とのなす角度θについて、本願発明では、「90°<θ≦105°の範囲内である」のに対し、引用発明では、「90度以下」である点。
第6 判断(相違点についての検討)
1 本願発明について
本願発明の「角度θ」の数値限定(「90°<θ≦105°」)の臨界的意義について検討する。
(1)本願の図6は、偏角θと最小油膜厚さの関係の解析結果を示した以下の図であるところ、偏角θが45°~135°を超える数値範囲において、最小油膜厚さについて8つのプロットと、2本の近似曲線(鎖線)と、偏角θが105°のところに縦軸と平行な実線が記載されている。
(2)しかし、本願明細書(特に、段落【0039】を参照。)及び図6には、最小油膜厚さについて具体的な数値が記載されていない。このため、左側の近似曲線と右側の近似曲線との変化率の差異がどの程度のものであるか具体的に把握できない。また、8つのプロットの並びは1本の近似曲線で表すことができる程度のものであるともいえる。
(3)段落【0039】には、「最小油膜厚さは、偏角θ1と偏角θ2が105°以下の場合と比較すると著しく薄くなる。」と記載されているが、偏角θが105°のプロットと、その右隣のプロットとでは最小油膜厚さはほぼ同じ値になっており、最小油膜厚さが具体的にどの程度であれば「著しく薄くなる」状態といえるのか、明細書及び図面の記載からだけでは把握できない。
(4)また、図6から、偏角θが105°を超える右側の近似曲線から、単調に減少していることは把握できるものの、最小油膜厚さが具体的にどの程度であれば、本願発明の半割軸受の軸摺動に問題が生じることになるのか、本願明細書及び図6から把握することはできない。
(5)さらに、偏角θが90°以下の場合は、最小油膜厚さが大きくなっていることから、最小油膜厚さが小さくなることにより起こる問題が生じるということはできないといえる。
(6)そうすると、本願明細書及び図面は、最小油膜厚さが具体的にどの程度の数値範囲であれば、本願発明の半割軸受の軸摺動に問題が生じるのかを実験データとともに示しているということはできず、本願発明の角度θの数値限定(90°<θ≦105°)に臨界的意義があることを証拠に基づいて示しているということはできない。
【図6】
[図:0001388722000004.jpg]
2 相違点について
(1)引用発明は、細溝の回転方向上流側端部の軸受角度ω1を270度以下の所定の範囲で調整可能、上記「第5 1(3)」で検討したように、引用発明の軸受角度ω1の270度は、本願発明の角度θに変換すると90°になることから、本願発明の角度θで90°以下の所定範囲で調整可能とするものである。さらに、引用文献1の段落【0018】には、細溝の回転方向上流側端部の軸受角度ω1を「通常」225度よりも大きく270度以下、すなわち、本願発明の角度θで45°よりも大きく90°以下とすることが記載されており、「通常」との記載から、状況に応じて、軸受角度ω1の数値範囲は、変更し得ることが示唆されている。
(2)引用文献1の【0002】には、円筒形状を二分割した二つの部材を合わせる半割れ構造のすべり軸受、及び、当該軸受において全周に逃げ部分(細溝)を形成する技術が公知であることが記載されている。また、以下ア~ウの周知例1~3に示すように、内周面に溝を有する半割軸受において、当該溝の回転方向上流側端部を角度θが90°よりも大きい範囲に位置づけることは、本願出願前に周知の技術である。(なお、角度θは、本願発明の角度θと同じく、半割軸受の回転方向下流側の合せ面を基準(角度θ=0°)として、回転方向上流側に向かう方向の角度を正とするものである。以下同じ。)
ア 周知例1:特開2015-152105号公報
段落【0043】~【0049】、図8を参照。油溝23は、軸線Cの鉛直下方の位置P2を基準とした上流側及び下流側の所定範囲に形成しており、油溝23の回転方向上流側端部は角度θが90°よりも大きい範囲の位置にある。
イ 周知例2:実願昭55-166305号(実開昭57-87826号)のマイクロフィルム
明細書第4ページ第17行~第6ページ第5行、第3図を参照。溝17の回転方向上流側端部P3は、90°よりも大きい位置が図示されているし、明細書第5ページ第2~6行の溝17の位置の説明及び同ページ14行のθr、θの角度範囲からみて、溝17の回転方向上流側端部は角度θが90°よりも大きい範囲の位置となることを含んでいる。
ウ 周知例3:特開昭52-94954号公報
公報第2ページ左下欄第4~10行、第3図を参照。溝6の始点の位置、すなわち溝6の回転方向上流側端部の範囲は、必要とする油膜厚みAを満足するよう定めることが記載されており、第3図を参照すると、グラフ上の90°未満の範囲(角度θが90°より大きい範囲)でも最小油膜厚さAがグラフ上の0°における厚さよりも大きい範囲が存在するから、グラフ上の90°未満の範囲(角度θが90°よりも大きい範囲)も必要とする油膜の厚みAに応じて選択する範囲である。
(3)引用文献1には、引用発明の細溝の回転方向上流側端部を軸受角度ω1が270度以下の範囲、つまり、角度θが90°以下の範囲に位置づけるよう限定した理由も特段記載されていないことを考慮すると、引用発明において、軸受角度ω1を270°よりも大きい範囲、つまり、角度θを90°よりも大きい範囲とすることに、いわゆる阻害要因があるともいえない。
(4)上記(1)~(3)によれば、引用発明において、細溝の回転方向上流側端部を軸受角度ω1が270°よりも大きい、つまり、角度θが90°よりも大きい範囲に位置づけることは、当業者が容易になし得たことである。その際に、角度θの上限をどのような値とするかは、引用文献1の段落【0004】に記載されたとおり、良好な潤滑に必要な油膜厚さを確保できる程度のものとなるよう、実験的に確認するなどして、適宜設定できる単なる設計事項にすぎない。
よって、引用発明において、上記相違点に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
3 効果について
(1)上記「1」で説示したとおり、本願発明の数値限定90°<角度θ≦105°に臨界的意義があるということはできないものの、本願発明は、本願明細書の段落【0013】に記載されたとおり「負荷容量の低下を抑えることができる」との効果を奏するものといえる。
しかしながら、引用文献1の段落【0004】の「従来の全周に細溝を形成した軸受では、摺動面積減少により、負荷容量が低下し、良好な潤滑に必要な油膜厚さを確保することができず」との記載及び段落【0011】の「油膜圧力の発生を妨げない程度の細溝を設けることで、摺動面積を減らしつつ、フリクション低減効果を得ることができ」との記載から、引用発明の細溝は、その長さが長すぎると必要な油膜厚さが確保できないことを前提に、負荷容量が低下しない程度の長さとしたものといえ、引用発明は、本願発明の「負荷容量の低下を抑えることができる」との効果と同じ効果を有するものである。
(2)また、本願の図6から、偏角θ、すなわち角度θが、45°~135°を超える数値範囲において最小油膜厚さが単調に減少しているが、引用文献の上記段落【0004】及び【0011】の記載から、細溝が長すぎると必要な油膜厚さが確保できないこと、すなわち角度θが増加すると油膜厚さが減少することは、当業者の予測の範囲内のものである。
(3)したがって、本願発明の奏する効果は、引用発明と比べて格別顕著な効果があるとはいえない。
4 請求人の主張について
(1)請求人は、審判請求書において、摺動面の形状は摺動特性に直接影響するものであり、単に摺動面積を減らせばよいというものではなく、容易に設計変更できる類いのものではない旨、及び仮に当業者が主引用発明において摺動面積を減らそうという着想を得たとしても、細溝の本数を増やす、軸受自体の幅を狭くするなど、設計の対象となるパラメータは数多くあるところ、特に細溝3の長さを伸ばすという設計変更を行う動機付けが当業者には無い旨、を主張している。
しかしながら、上記「2(1)」で説示したとおり、引用文献1において、細溝の回転方向上流側端部の角度は調整可能なものとしているから、細溝の長さに着目して、摺動面積が減ることによるフリクション低減効果というメリットと、油膜厚さの確保ができなくなるというデメリットを比較考慮の上、細溝の回転方向上流側端部の角度を変更することは、当業者が適宜なし得たことである。請求人の主張のように、摺動面積を減らすためには他の種々のパラメータがあり得るとしても、引用発明は、細溝の長さを調整可能とするのであるから、請求人の主張は当を得たものではない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
(2)また、請求人は、審判請求書において、偏角θ1と偏角θ2が105°を超えると油膜厚さが薄くなる勾配が急になることが本願発明に関する研究により明らかになっており、臨界的意義があると言える旨も主張している。しかしながら、上記「1」で説示したとおり、本願発明の数値限定に臨界的意義があるということはできないし、勾配の変化もどの程度か具体的に把握できず、勾配が急になることを明らかにしたということもできない。また、角度θの上限を定めたことについても、上記「3(1)」で指摘した、溝が長すぎると必要な油膜厚さが確保できないことを前提としている引用文献1の記載から、角度θの望ましい所定の上限値があることは、当業者の予測の範囲内のものにすぎない。
したがって、請求人の上記主張も採用できない。
5 判断についてのまとめ
以上によれば、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第7 むすび
上記のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-002141