特許拒絶査定不服審判
2022-011092
すべり軸受
- 審判番号
- 2022-011092
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-107221
- 請求日
- 2022年07月15日
- 審決日
- 2023年05月10日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】大豊工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人矢野内外国特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 平田 信勝
- 審判官 尾崎 和寛
- 審判官 岡本 健太郎
- 分類
- P18 .121-Z (F16C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2018-107221「すべり軸受」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月12日出願公開、特開2019-211001〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年6月4日の出願であって、令和3年10月13日付けで拒絶理由が通知され、令和3年11月22日に出願人より意見書、手続補正書の提出がされ、令和4年4月13日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされた。これに対して、令和4年7月15日に出願人より審判請求書の提出がされたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~5に係る発明は、令和3年11月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
[本願発明]
「円筒を軸方向と平行に二分割した一対の半割部材からなり、前記円筒の軸方向に直交する方向に貫通する油孔を有するすべり軸受であって、
前記油孔の内周部にレーザー溶融部が形成され、
前記円筒の外形の真円度が20μm以下である、
ことを特徴とするすべり軸受。」
第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~5に係る発明は、その特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1~3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2016-191420号公報
引用文献2:国際公開第2017/126399号
引用文献3:特開2007-205254号公報(周知技術を示す文献)
第4 引用文献について
1 引用文献1に記載の事項及び発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付したもの。)。
「【0001】
本発明は、軸部材を回転可能に支持する円筒状のすべり軸受の技術に関する。」
「【0034】
図2及び図3に示す主軸受2は、クランクジャーナル1aを回転可能に支持する円筒状のすべり軸受である。主軸受2は、アッパー側軸受10及びロア側軸受20を具備する。アッパー側軸受10とロア側軸受20とを向かい合わせに上下に組み合わせることで、円筒状の主軸受2が形成される。
【0035】
アッパー側軸受10は、主軸受2のうち上半部を形成する部材である。図3及び図4に示すように、アッパー側軸受10は、円筒の下半分を切り落としたような半円筒状に形成される。アッパー側軸受10は、その内周面10aを下方に向けた状態でシリンダブロック3の本体側ハウジング3aの軸受部3dに配置される(図2参照)。アッパー側軸受10は、主として下流側合わせ面11、上流側合わせ面12、下流側クラッシュリリーフ13、上流側クラッシュリリーフ14、油溝15及び貫通孔16を具備する。」
「【0044】
貫通孔16は、アッパー側軸受10の内周面10a(より詳細には、油溝15)と外周面とを連通するものである。貫通孔16は、アッパー側軸受10の左右中央部(上端部)に形成される。」
「【0059】
図3及び図4に示すように、貫通孔16を介して外部からアッパー側軸受10の内周面10a(油溝15)へと供給された潤滑油は、重力やクランクジャーナル1aの回転に伴って当該油溝15内を下方へと流通する。特に、背面視時計回りに回転するクランクジャーナル1aによって、当該潤滑油は油溝15内を背面視時計回りに流通する。油溝15内を流通する潤滑油の一部がアッパー側軸受10とクランクジャーナル1aとの摺動面に供給され、当該摺動面に油膜を形成する。」
「【図3】
[図:0001400149000001.jpg]
」
「【図4】
[図:0001400149000002.jpg]
」
引用文献1の段落【0035】、【0044】及び【0059】並びに【図4】の記載より、引用文献1に記載のものの貫通孔16は、円筒状のすべり軸受である主軸受2の円筒の軸方向に直交する方向に貫通する油孔であると認められる。
引用文献1の上記記載及び上記認定事項から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「クランクジャーナル1aを回転可能に支持する円筒状のすべり軸受である主軸受2であって、
主軸受2は、アッパー側軸受10及びロア側軸受20を具備し、アッパー側軸受10とロア側軸受20とを向かい合わせに上下に組み合わせることで、円筒状の主軸受2が形成され、
アッパー側軸受10は、円筒状のすべり軸受である主軸受2の円筒の軸方向に直交する方向に貫通する油孔である貫通孔16を具備する、
すべり軸受である主軸受2。」
2 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
「[0013] また、本発明に係る流体動圧軸受スリーブの製造方法は、一端面又は他端面に向けてレーザーを照射して、流体動圧軸受スリーブに貫通孔を形成するものであってもよい。
[0014] ラジアル動圧発生部のサイジング加工後に、貫通孔を形成するための手段としては、例えば(1)ドリル等を用いた機械加工、(2)放電加工、及び(3)レーザー加工が考えられる。このうち、(1)ドリル等を用いた機械加工では、焼結体の内部空孔に起因する切削性の悪さから、加工時間の長大化、あるいは工具(ドリル)の短寿命化を招くなど、精度面、コスト面の双方で好適とはいえない。(2)放電加工では、加工精度は確保できるものの、その加工特性上、加工時間が長くなる欠点を有する。また、放電加工に際しては誘電のための液体(水など)が必要となるため、加工後にワーク(流体動圧軸受スリーブ)を洗浄する手間を要する。特に、この種の軸受スリーブはHDDなど精密回転を要求される用途に用いられる場合も少なくないため、洗浄に要する時間が長くなる。以上より、この方法によっても、コスト面が問題となる。
[0015] これに対して、(3)レーザー加工であれば、非常に短時間で加工が可能であり、またレーザーでワークの一部を溶融又は蒸発させることで、孔(貫通孔)を形成することから、工具寿命の問題は生じない。また、レーザー加工の際、エアーなどのガスを使用することはあるが、特に液体を用いる必要はないため、加工後に洗浄工程を設ける必要もない。加えて、レーザーであれば、そのエネルギー密度やレーザービーム径などを調整することで、貫通孔のサイズ(内径寸法)や内周面の表面性状等を制御することができる。以上より、レーザーの照射により軸方向の貫通孔を形成するようにすれば、加工精度面及びコスト面の双方で優位である。
[0016] また、この場合、本発明に係る流体動圧軸受スリーブの製造方法は、流体動圧軸受スリーブの一端面にスラスト動圧発生部が設けられる場合に、レーザーを他端面に向けて照射して、流体動圧軸受スリーブに貫通孔を形成するものであってもよい。」
「[0044] このようにして、各動圧発生部が形成された焼結体108に対してレーザー加工を行って、軸方向の貫通孔11を形成する。具体的には、図7に示すように、所定の姿勢で図示しない保持部材により保持された状態の焼結体108に対して、レーザーLの照射方向が焼結体108の中心軸方向と一致するように、レーザー発振器110及び図示しない光学系を配置する。そして、レーザー発振器110より発振されたレーザーLを光学系で適宜集光して、本実施形態では焼結体108の下端面8cに向けて照射する。これにより、レーザーLの照射開始側(すなわち下端面8cの側)から焼結体108が溶融していき、その結果、貫通孔11が軸方向に沿って上端面8bと下端面8cとに開口して形成される。なお、上述のように、レーザーLの照射により焼結体108を溶かして軸方向の貫通孔11を形成する場合、両端面8b,8cの開口部周辺にレーザーLの照射により生じた溶融金属が付着していることがある。その場合には、例えばレーザーLを溶融金属の付着部に照射しながらエアー等のガスを吹き付けることで、付着した溶融金属を除去することが可能である。もちろん、レーザーLを用いなくても、ラップ加工やバニシング加工を開口部の周辺に施すことで付着した溶融金属を除去することも可能である。
[0045] この場合、レーザーLの入射側となる焼結体108の下端面8cには、円すい状に拡径して、貫通孔11と下端面8cとをつなぐ拡径面11bが形成される(図3)。また、貫通孔11の内周面11aの少なくとも一部には、図8に示すように、焼結体108(流体動圧軸受スリーブ8)の内周面8aに形成される表面開孔、及び/又は焼結体108(流体動圧軸受スリーブ8)を構成する金属組織81の間に存在する内部空孔には、レーザーLの照射により焼結体108が溶けたことにより生じた溶融金属82が充填され、かつ冷却固化してなる内周封孔部83が形成されている。
[0046] なお、上述した貫通孔11の内径寸法は、レーザーLの照射条件を制御することで適宜調整が可能であり、例えば内径寸法が0.1mm以上の貫通孔11であればレーザーLで形成可能である。また、その上限については、焼結体108(流体動圧軸受スリーブ8)の内径寸法、及び外径寸法との関係で定まり、例えば流体動圧軸受スリーブ8の内径寸法をD1、外径寸法をD2、そして貫通孔11の内径寸法をD3とした場合(図3)、貫通孔11の内径寸法D3は、以下の数式 D3<(D2-D1)/4 を満たす範囲において任意に設定することが可能である。」
3 引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。
「【0008】
本発明によるスクロール型圧縮機は、密閉容器内に、出力回転軸を有する電動機と、この電動機の出力回転軸の回転によって駆動されるスクロール型圧縮機構部と、電動機の出力回転軸を回転自在に支持する軸支承部と、この軸支承部に供給される潤滑油を溜める潤滑油溜めとを備えており、・・・中略・・・軸支承部は、固定スクロール基部に設けられていると共に回転軸本体の一端側が挿通されている貫通孔と、この貫通孔に嵌合固定されていると共に内周面で回転軸本体の一端側を回転摺動自在に支持するすべり軸受と、密閉容器に固定されている支持フレームと、この支持フレームに設けられていると共に回転軸本体の他端側が配されている貫通孔又は凹所と、この貫通孔又は凹所に嵌合固定されていると共に内周面で回転軸本体の他端側を回転摺動自在に支持するすべり軸受と、旋回スクロール基部に設けられていると共に偏心軸が配されている貫通孔又は凹所と、この貫通孔又は凹所に嵌合固定されていると共に内周面で偏心軸を回転摺動自在に支持するすべり軸受とを具備しており、これらすべり軸受の夫々は、金属製の裏金と該裏金の表面に一体に形成された多孔質青銅焼結層と該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物の被覆層とを備えた複層材を、該被覆層を内側にして円筒状に捲回したのちアプセット加工が施され、かつアニーリング処理が施された円筒軸受ブッシュからなり、該回転軸本体及び偏心軸を回転自在に支承する該円筒軸受ブッシュの内周面は、該多孔質青銅焼結層と該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物とが混在して露出した平滑な面となっており、該円筒軸受ブッシュの内周面の真円度は5~10μmであり、該円筒軸受ブッシュの内周面には、該多孔質青銅焼結層の青銅が20~60%の割合で露出していることを特徴とする。
【0009】
本発明のスクロール型圧縮機によれば、各すべり軸受は金属製の裏金と該裏金の表面に一体に形成された多孔質青銅焼結層と該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された合成樹脂組成物の被覆層とを備えた複層材を該被覆層を内側にして円筒状に捲回したのちアプセット加工が施され、かつアニーリング処理が施された円筒軸受ブッシュであり、かつ回転軸本体及び偏心軸を支承する該円筒軸受ブッシュの内周面は、該多孔質青銅焼結層と該多孔質青銅焼結層の孔隙及び表面に充填被覆された該合成樹脂組成物とが混在して露出した平滑な面となっており、円筒軸受ブッシュの内周面の真円度は5~10μmであり、円筒軸受ブッシュの内周面には多孔質青銅焼結層の青銅が20~60%の割合で露出していることから、スクロール型圧縮機の使用中の温度上昇に起因する円筒軸受ブッシュの内径寸法の変動は防止され、結果としてすべり軸受の内周面と回転軸の外周面との間の軸受隙間の変動は防止されるので、金属同士の接触による焼付きや異常摩耗を生じることはない。円筒軸受ブッシュの内周面の被覆層に多孔質青銅焼結層の青銅が露出する割合が20%未満では、相手材(回転軸)との摺動において低摩擦性を発揮し、焼付き荷重が高い反面、被覆層の摩耗に起因する摺動隙間の変化を生じる虞があり、また青銅が露出する割合が60%を超えると低摩擦性が損なわれるばかりでなく、焼付き荷重が極端に低下し、容易に焼付きを生じる虞がある。」
「【0042】
このアプセット加工においては、大径筒状内壁面41及び小径筒状外面52の残部並びに環状面49及び55によって形成される環状空間Sを、その容積が最終の円筒軸受ブッシュ38aの体積の近傍になるまで減少させて行うのであるが、環状空間Sの容積減少により、略円筒軸受ブッシュ38に軸方向の圧縮力を加えて、略円筒軸受ブッシュ38の軸方向の長さを減少させる一方、この軸方向の長さの減少に基づいて略円筒軸受ブッシュ38を径方向に塑性変形させて、大径筒状内壁面41に圧接させ、突き合わせ端面37が互いに接触した円筒軸受ブッシュ38aとする。このアプセット加工が施された円筒軸受ブッシュ38aの内周面の真円度は、おおよそ20μmである。」
「【0055】
金型から取り出した状態での円筒軸受ブッシュ(I)及び(II)について、円筒軸受ブッシュの一方の端部から5mmの位置の内周面の真円度を測定したところ、円筒軸受ブッシュ(I)の真円度は20μmであり、円筒軸受ブッシュ(II)の真円度は22μmであった。アプセット加工を施さない状態での円筒軸受ブッシュ(III)の真円度は40μmであった。」
「【0057】
アニーリング処理が施された円筒軸受ブッシュ(I)及び(II)、アニーリング処理を施さなかった円筒軸受ブッシュ(III)を夫々試験治具のハウジングの円孔に圧入したのち、該円筒軸受ブッシュ(I)、(II)及び(III)の内周面に研削加工を施し、該内周面を多孔質青銅焼結層と該多孔質青銅焼結層の孔隙に充填された合成樹脂組成物とが混在して露出した平滑な面に形成した。円筒軸受ブッシュ(I)の内周面に露出した青銅の露出割合は34.3%で、円筒軸受ブッシュ(I)の一方の端部から5mmの位置の内周面の真円度は7μmであり、円筒軸受ブッシュ(II)の内周面に露出した青銅の露出割合は39.3%で、円筒軸受ブッシュ(II)の一方の端部から5mmの位置の内周面の真円度は8μmであり、円筒軸受ブッシュ(III)の内周面に露出した青銅の露出割合は36.5%で、円筒軸受ブッシュ(III)の一方の端部から5mmの位置の内周面の真円度は20μmであった。」
第5 当審の判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「すべり軸受である主軸受2」は、本願発明の「すべり軸受」に相当する。
引用発明の「主軸受2は、アッパー側軸受10及びロア側軸受20を具備し、アッパー側軸受10とロア側軸受20とを向かい合わせに上下に組み合わせることで、円筒状の主軸受2が形成され」ることは、円筒状の主軸受2が、円筒を軸方向と平行に分割したアッパー側軸受10とロア側軸受20との一対の半割部材とからなることといえるから、本願発明の「円筒を軸方向と平行に二分割した一対の半割部材から」なることに相当する。
引用発明の「油孔である貫通孔16」は、本願発明の「油孔」に相当し、引用発明の「アッパー側軸受10は、円筒状のすべり軸受である主軸受2の円筒の軸方向に直交する方向に貫通する油孔である貫通孔16を具備する」ことは、本願発明の「すべり軸受」が「前記円筒の軸方向に直交する方向に貫通する油孔を有する」ことに相当する。
したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。
[一致点]
「円筒を軸方向と平行に二分割した一対の半割部材からなり、前記円筒の軸方向に直交する方向に貫通する油孔を有するすべり軸受。」
[相違点1]
本願発明が「前記油孔の内周部にレーザー溶融部が形成され」ているのに対し、引用発明の「油孔である貫通孔16」の内周部の状態については特定されていない点。
[相違点2]
本願発明が「前記円筒の外径の真円度が20μm以下である」とされているのに対し、引用発明の「円筒状のすべり軸受」の外径の真円度については特定されていない点。
2 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
ワークに対する孔開け加工手段として、打ち抜き加工、レーザー加工とも当業者には周知・慣用であって、必要に応じて選択可能な手段として認識されている(例えば、特開2011-93745号公報の段落【0004】を参照。)。
引用文献1において、貫通孔16の加工手段について特定の手段に限定する記載はないし、引用文献1の記載からは引用発明の「油孔である貫通孔16」の孔開け加工手段として当業者における周知・慣用のレーザー加工手段を選択することが困難であったとの事情も伺われない。
また、引用文献2に、すべり軸受である流体動圧軸受スリーブ8の油循環のための貫通孔11をレーザー加工にて形成することが記載されているように、すべり軸受における油孔の加工手段として周知・慣用のレーザー加工を採用することに困難性はない。
してみると、引用発明の「油孔である貫通孔16」の加工手段としてレーザー加工手段を採用することは当業者であれば容易に想到し得たことといえる。
そして、引用発明の「油孔である貫通孔16」の加工手段としてレーザー加工手段を採用すれば、貫通孔16の内周面にはレーザー溶融部が形成されることとなる。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
(2)相違点2について
円形の軸を支えるすべり軸受において、すべり軸受を構成する円筒状の部材がより真円に近いほど(真円度がゼロに近いほど)、荷重を均一に受けることができ軸受の性能が高くなることから、より真円に近いすべり軸受を目指すことは当業者における技術常識であるといえる。
しかも、薄鋼板から成型された円筒状すべり軸受において真円度の20μmという数値は、例えば引用文献3の段落【0008】、【0009】、【0042】、【0055】及び【0057】に示されるように、何ら特別な数値であるともいえない。
してみると、本願発明の「円筒の外径の真円度が20μm以下」との発明特定事項は、すべり軸受に要求される性能などの必要に応じて適宜設定しうる設計上の一事項にすぎないものといえ、引用発明において相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことといえる。
(3)作用効果について
相違点1及び2を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に示される事項及び引用文献3に示される事項から予測される範囲内のものにすぎず格別なものということはできない。
(4)審判請求人の意見について
ア 審判請求人の主張
審判請求人は、意見書及び審判請求書において概ね次のように主張する。
(ア)本願発明は、油孔を加工する際に真円度が悪化することを課題とし、油孔を形成しながらも良好な真円度を確保できる点に特徴を有しているのであって、油孔がなくて真円度が良い軸受(引用文献3)を引用して、本願発明について進歩性がないとする判断は妥当でない(意見書第2頁第23行~34行、審判請求書第2頁第23行~第3頁第1行)。
(イ)従来技術による孔開けをした軸受においては、真円度が20~25μm程度であるのに対し、本願発明は、真円度が5~7μm程度となり、真円度に対する背面当たり率、また、背面当たり率に対する耐疲労性の間には相関があることから、従来技術による孔開けをした一般的な軸受の背面当たり率と比較して明確な優位性となり、従来技術よりも有利な効果を奏するものである(審判請求書第3頁第2行~第4頁第11行)。
イ 当審の判断
まず、本願の各請求項に係る発明は、発明特定事項として、「油孔の内周部にレーザー溶融部が形成される」と特定されるものの、「油孔」を穿孔する加工手段については何ら特定されていない。
そうだとすれば、審判請求人の(ア)での「本願発明は、油孔を加工する際に真円度が悪化することを課題とし、油孔を形成しながらも良好な真円度を確保できる点に特徴を有している」との主張、及び(イ)での「従来技術による孔開けをした軸受においては、真円度が20~25μm程度であるのに対し、本願発明は、真円度が5~7μm程度となり」との主張は、その主張の前提を欠くものであるといえる。
仮に、本願の各請求項に係る発明において、「油孔」の穿孔手段がレーザー加工によるものであるとしても、引用発明の「油孔である貫通孔16」の加工手段としてレーザー加工を採用することが当業者にとって容易に想到し得たことは上記(1)で述べたとおりであり、打ち抜き加工に比べてレーザー加工はワークに対する衝撃が少ない加工手段であるから(前者はダイに載置したワークに対してパンチで孔を打ち抜くという加工原理であるのに対し、後者は、レーザーによりワークを溶解させ孔を開けるという加工原理であり、後者のワークに対する物理的衝撃は前者に比べて小さいといえる)、加工前後の寸法変動が小さく加工後における寸法精度に勝ることが当業者における技術常識ともいえることは、両者の加工原理の違いに照らして明らかであるといえる。
そうしてみると、審判請求人の主張する作用効果は、引用発明の「油孔である貫通孔16」の加工手段としてレーザー加工手段を採用することに伴って生じる作用効果にすぎず、当業者にとって格別顕著なものということはできない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2に示される事項及び引用文献3に示される事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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