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特許拒絶査定不服審判

2021-000542

ゴム組成物及びタイヤ

審判番号
2021-000542
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-528188外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2021年01月14日
審決日
2023年01月26日
公報発行日
2023年05月26日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .536-WZ (C08L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-528188「ゴム組成物及びタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月30日国際公開、WO2020/022322〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 8項目
理 由

第1 手続の経緯

本願は、令和1年7月23日(優先権主張 平成30年7月27日)を国際出願日とする出願であって、令和2年7月1日付けで拒絶理由が通知され、同年8月27日に意見書が提出され、同年10月23日付けで拒絶査定がされ、令和3年1月14日に拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正書が提出され、令和4年9月5日付けで拒絶理由が通知され、同年11月1日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和4年11月1日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される事項により特定されるとおりの以下のものである。

「【請求項1】
水によって可逆的に硬度が変化し、下記式(1)及び(2)を満たす加硫後のトレッド用ゴム組成物。
乾燥時の硬度-水湿潤時の硬度≧1 (1)
(式中、硬度は、加硫後のゴム組成物の25℃におけるJIS-A硬度である。)
乾燥時の70℃のtanδ<0.14 (2)
(式中、70℃のtanδは、70℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hzの条件で測定した損失正接である。)」

第3 当審において通知した拒絶理由の概要

当審において、令和4年9月5日付けで通知した拒絶理由の概要は、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、請求項1に係る発明についてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、というものを含むものである。

第4 当審の判断

当審は、本願は、第3で示した拒絶理由により拒絶すべきものと判断する。その理由は以下のとおりである。

1 実施可能要件の考え方について

特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。

特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。

2 本願発明についての実施可能要件の判断

本願発明は、第2で示したとおりのものであり、ゴム組成物の組成が何ら特定されていないものである。

このような本願発明において、明細書の発明の詳細な説明の記載が、上記1で示した考え方に基づき、実施可能要件を満たすといえるか否かについて検討する。

(1)発明の詳細な説明の記載

発明の詳細な説明には、次の記載がある。なお、下線は当審が付与したものである。

「【0021】
上記ゴム組成物は前述の効果が得られるが、このような作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
本発明のゴム組成物は、水によって可逆的に硬度が変化し、上記式(1)を満たす。ここで、上記式(1)は、乾燥時の硬度に比べて、水湿潤時の硬度が小さいことを意味する。すなわち、本発明のゴム組成物は、水によって可逆的に硬度が変化し、上記式(1)を満たすものであるが、これは、乾燥時の硬度に比べて、水湿潤時の硬度が小さく、かつ、硬度が水の存在によって可逆的に変化することを意味する。
従って、ドライ路面からウェット路面へ変化すると、ゴム組成物が水によって湿潤されてゴム組成物の硬度が低下し、グリップ性能(ウェットグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ウェットグリップ性能)が得られる。これは、ウェット路面ではスリップしやすいためにドライ路面にとって好適な硬度のままでは充分なグリップ性能が得られないが、硬度が低下することにより、路面との接触面積が増大し、グリップ性能(ウェットグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ウェットグリップ性能)が得られるものと推測される。
一方、ウェット路面からドライ路面へ変化すると、水によって湿潤されたゴム組成物が乾燥されてゴム組成物の硬度が上昇し、グリップ性能(ドライグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ドライグリップ性能)が得られる。これは、ドライ路面ではスリップしにくいためにウェット路面にとって好適な硬度のままでは充分なグリップ性能が得られないが、硬度が上昇することにより、ドライ路面にとって好適な硬度となり、グリップ性能(ドライグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ドライグリップ性能)が得られるものと推測される。
このように、水によって可逆的に硬度が変化し、かつ、上記式(1)を満たすことにより、路面の水の状態(ウェット路面、ドライ路面)に応じた適切な硬度が得られるため、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できる。
更に、本発明のゴム組成物は、上記式(2)を満たすことにより、低燃費性も改善できる。
従って、本発明のゴム組成物は、水によって可逆的に硬度が変化し、上記式(1)及び(2)を満たすことにより、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能、低燃費性の総合性能を改善できる。
なお、本明細書において、ゴム組成物の硬度、tanδは、加硫後のゴム組成物の硬度、tanδを意味する。また、tanδは、加硫後のゴム組成物に対し、粘弾性試験を実施することで得られる値である。」
「【0031】
なお、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化は、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能な化合物を配合することにより達成できる。より具体的に説明すると、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を実現できる。これは、ヘテロ原子は、ゴム組成物中で、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能であり、この分子結合が形成された結果、水湿潤時のゴム組成物の硬度が低下するためである。
更には、上記併用により、加硫の際に炭素-炭素2重結合によりポリマーがゴム成分に架橋されてゴム成分に固定されるため、ゴム成分からの上記ポリマーの遊離を抑制でき、ゴム表面に上記ポリマーが析出することを抑制でき、グリップ性能(ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能)の低下も抑制できる。
【0032】
続きを表示(全16行)
また、乾燥時の70℃のtanδは、ゴム組成物に配合される薬品(特に、ゴム成分、充填材、軟化剤、硫黄、加硫促進剤、シランカップリング剤)の種類や量によって調整することが可能であり、例えば、ゴム成分と相溶性の高い軟化剤を使用したり、変性ゴムを使用したり、充填材としてシリカを使用したり、可塑剤としてのオイルを減らしたり、硫黄を増やしたり、加硫促進剤を増やしたり、シランカップリング剤を増やしたりすると70℃のtanδは小さくなる傾向がある。
【0033】
また、乾燥時の硬度は、ゴム組成物に配合される薬品(特に、ゴム成分、充填材、オイルなどの軟化剤)の種類や量によって調整することが可能であり、例えば、軟化剤の量を増量すると乾燥時の硬度は小さくなる傾向、充填材の量を増量すると乾燥時の硬度は大きくなる傾向、硫黄の量を減らすと乾燥時の硬度は小さくなる傾向がある。また、硫黄と加硫促進剤の配合量を調整することによっても、乾燥時の硬度を調整できる。より具体的には、硫黄量を増やすと乾燥時の硬度は大きくなる傾向、加硫促進剤を増やすと乾燥時の硬度は大きくなる傾向がある。
【0034】
より具体的に説明すると、乾燥時の硬度を所望の範囲内に調整した上で、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を実現できると共に、乾燥時の70℃のtanδも所望の範囲内に調整することが可能となる。
【0035】
ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を達成する他の手段としては、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、加硫の際に炭素-炭素2重結合によりポリマーがゴム成分に架橋されてゴム成分に固定されるため、ゴム成分からの上記ポリマーの遊離を抑制でき、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を達成することができる。
炭素-炭素2重結合を持たない場合、ゴム組成物が水に触れた際に水中へ遊離してしまい、可逆的な硬度変化が得られない場合がある。
【0036】
乾燥時の70℃のtanδを上記範囲内とする他の手段としては、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、加硫の際に炭素-炭素2重結合によりポリマーがゴム成分に架橋されてゴム成分に固定されるため、ゴム成分からの上記ポリマーの遊離を抑制でき、70℃のtanδを小さくできる。
【0037】
なお、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を達成する他の手段としては、例えば、ゴム分子間のイオン結合を、水の添加・乾燥によって可逆的に切断、再結合させる方法が挙げられる。より具体的に説明すると、ハロゲンや酸素を有するゴムと、金属、半金属や窒素を有する化合物とを併用することにより、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を実現できる。これは、該併用により、金属、半金属や窒素由来のカチオンと、ハロゲンや酸素由来のアニオンとによりゴム分子間でイオン結合が形成され、そして、ゴム分子間において、水の添加によるイオン結合の開裂、水の乾燥によるイオン結合の再結合が生じる結果、水湿潤時には硬度低下、乾燥時には硬度上昇が起きるためである。」
「【0038】
以下、使用可能な薬品について説明する。
【0039】
ゴム成分としては、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジエン系ゴムが好ましく、イソプレン系ゴム、BR、SBRがより好ましく、SBRが更に好ましい。イソプレン系ゴム、SBRの併用、BR、SBRの併用、イソプレン系ゴム、BR、SBRの併用も好ましい。」
「【0054】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、NRが好ましい。」
「【0057】
上記ゴム組成物は、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー(重合体)を含むことが好ましく、ジエン系ゴムと、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを含むことがより好ましい。
【0058】
炭素-炭素2重結合は、ジエン系ゴムと架橋されるために必要であり、その数は特に限定されない。
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【0059】
ヘテロ原子は、炭素原子、水素原子以外の原子を意味し、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能な限り特に限定されないが、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であることが好ましく、酸素原子、窒素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子がより好ましく、酸素原子が更に好ましい。
すなわち、ジエン系ゴムと、「炭素-炭素2重結合と、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子とを有するポリマー」とを含むことが好ましく、ジエン系ゴムと、「炭素-炭素2重結合と、酸素原子、窒素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子とを有するポリマー」とを含むことがより好ましく、ジエン系ゴムと、「炭素-炭素2重結合と、酸素原子とを有するポリマー」とを含むことが更に好ましい。なお、ヘテロ原子は、上記ポリマーの主鎖(骨格)中に存在することが好ましく、上記ポリマーの繰り返し単位中に存在することがより好ましい。
【0060】
酸素原子を含む構造、基としては、エーテル基、エステル、カルボキシ基、カルボニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。なかでも、エーテル基が好ましく、オキシアルキレン基がより好ましい。
窒素原子を含む構造、基としては、アミノ基(第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基)、アミド基、ニトリル基、ニトロ基等が挙げられる。なかでも、アミノ基が好ましく、第三級アミノ基がより好ましい。
ケイ素原子を含む構造、基としては、シリル基、アルコキシシリル基、シラノー ル基等が挙げられる。なかでも、シリル基が好ましく、アルコキシシリル基がより好ましい。
硫黄原子を含む構造、基としては、スルフィド基、硫酸基、硫酸エステル、スルホ基等が挙げられる。
リン原子を含む構造、基としては、リン酸基、リン酸エステル等が挙げられる。
ハロゲン原子を含む構造、基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基等が挙げられる。
【0061】
オキシアルキレン基とは、-(AO)-で表される基であり、-(AO)n-で表される基(nは繰り返し単位数)であることが好ましい。
オキシアルキレン基AO中のアルキレン基Aの炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0062】
オキシアルキレン基AO中のアルキレン基Aは、直鎖状、分岐状のいずれでもよいが、より嵩高い構造となり、効果がより好適に得られるという理由から、分岐状が好ましい。
効果がより好適に得られるという理由から、AOは、炭素数2~3のオキシアルキレン基(オキシエチレン基(EO)、オキシプロピレン基(PO))、炭素数2~3のオキシアルキレン基に分岐鎖R4(R4は、ヘテロ原子を有してもよい炭化水素基を表す。)が結合した基であることが好ましく、炭素数2~3のオキシアルキレン基、炭素数2~3のオキシアルキレン基に分岐鎖R4が結合した基を併用することがより好ましい。なお、分岐鎖R4は、酸素原子に隣接する炭素原子に結合していることが好ましい。
【0063】
R4のヘテロ原子を有してもよい炭化水素基は、特に限定されない。炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
R4のヘテロ原子を有してもよい炭化水素基としては、下記式で表される基が好ましい。
【化1】
[図:0001396573000001.jpg]
【0064】
-(AO)-で表される基は、下記式(B)で表される基であることが更に好ましく、下記式(A)~(B)で表される基であることが特に好ましく、下記式(C)で表される基を併用することもできる。
【化2】
[図:0001396573000002.jpg]
【0065】
上記ポリマーが2種以上のオキシアルキレン基を含む場合、オキシアルキレン基の配列はブロックでもランダムでもよい。
【0066】
上記ポリマーとしては、上記式(B)で表される基(構造単位)を含む重合体が好ましく、上記式(A)~(B)で表される基(構造単位)からなる重合体がより好ましい。
上記ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は、好ましくは2mol%以上、より好ましくは5mol%以上であり、好ましくは50mol%以下、より好ましくは40mol%以下、更に好ましくは30mol%以下、特に好ましくは20mol%以下である。」
「【実施例】
【0111】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0112】
続きを表示(全63行)
(製造例1)
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、ヘキサン、1,3-ブタジエン、スチレン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルを投入した。次に、ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン及びn-ブチルリチウムを、それぞれ、シクロヘキサン溶液及びn-ヘキサン溶液として投入し、重合を開始した。
撹拌速度を130rpm、反応器内温度を65℃とし、単量体を反応器内に連続的に供給しながら、1,3-ブタジエンとスチレンの共重合を3時間行った。次に、得られた重合体溶液を130rpmの撹拌速度で撹拌し、N-(3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミドを添加し、15分間反応を行った。重合反応終了後、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥して変性スチレンブタジエンゴム(SBR)を得た。
【0113】
(製造例2)重合体1(エポキシド・アリルグリシジルエーテル共重合体)の合成
窒素置換したガラス製フラスコにジエチルエーテルを500mL添加し、内部温度を0℃以下に冷却した後、0.55mol/Lのトリイソブチルアルミニウム/ヘキサン溶液を10mL添加し、次いで0.55mol/Lのエタノール/ジエチルエーテル溶液を内部温度が10℃を超えないよう滴下した。次いで、エチレンオキサイドおよびアリルグリシジルエーテルをモル比で9/1、合計重量200gになるように混合した溶液を、内部温度が10℃を超えないように滴下した後、8時間撹拌させた。次いで、外部温度50℃/内部圧力1.0kPa以下で溶媒を減圧留去した後、残った残渣を水に懸濁させたものを濾過して、濾過残渣をTHFで洗浄した後、50℃/1kPa以下で恒量に達するまで減圧乾燥し、80%の収率で重合体1(赤外吸収スペクトルにて上記式(A)に由来するエーテル基および上記式(B)に由来する炭素-炭素のピークが確認された。重量平均分子量(Mw)は78万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%であった)を得た。
【0114】
(製造例3)重合体2(アミン・アリルグリシジルエーテル共重合体)の合成
エチレンオキサイドをトリグリシジルアミンに変更した点以外は、製造例2と同様に操作して、80%の収率でトリグリシジルアミンとアリルグリシジルエーテルの重合体2(製造例2と同様の分析を行いアミンの吸収と炭素-炭素2重結合由来のピークを確認し、重量平均分子量は98万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%であった)を得た。
【0115】
(製造例4)重合体3(シリル・アリルグリシジルエーテル共重合体)の合成
エチレンオキサイドをトリエトキシシリルグリシジルエーテルに変更した点以外は、製造例2と同様に操作して、80%の収率でトリエトキシシリルグリシジルエーテルとアリルグリシジルエーテルの重合体3(製造例2と同様の分析を行いシラノールの吸収と炭素-炭素2重結合由来のピークを確認し、重量平均分子量は64万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%であった)を得た。
【0116】
(製造例5)重合体4(エチレンオキサイド・アリルグリシジルエーテル・ハロゲン系モノマー共重合体)の合成
エチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、エピクロロヒドリンをモル比で8/1/1になるように変更した以外は製造例2と同様に操作をして、78%の収率でエチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテルおよびエピクロロヒドリンの重合体4(製造例2と同様の分析を行い上記式(A)に由来するエーテル基、上記式(B)に由来する炭素-炭素二重結合、エピクロロヒドリンに対応する炭素-塩素結合ピークを確認し、重量平均分子量は62万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%で、塩素-炭素結合の構造単位の含有量は11mol%であった)を得た。
【0117】
(製造例6)重合体5(エチレンオキサイド・アリルグリシジルエーテル・リン系モノマー共重合体)の合成
エチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、2-オキシラニルメチルリン酸ジメチルエステルをモル比で8/1/1になるように変更した以外は製造例2と同様に操作をして、78%の収率でエチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテルおよび2-オキシラニルメチルリン酸ジメチルエステルの重合体5(製造例2と同様の分析を行い上記式(A)に由来するエーテル基、上記式(B)に由来する炭素-炭素二重結合、2-オキシラニルメチルリン酸ジメチルエステルに対応するリン-酸素結合ピークを確認し、重量平均分子量は67万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%で、リン-酸素結合の構造単位の含有量は11mol%であった)を得た。
【0118】
(製造例7)重合体6(エチレンオキサイド・アリルグリシジルエーテル・硫黄系モノマー共重合体)の合成
エチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、2-【(メチルチオ)メチル】-オキシランをモル比で8/1/1になるように変更した以外は製造例2と同様に操作をして、78%の収率でエチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテルおよび2-【(メチルチオ)メチル】-オキシランの重合体6(製造例2と同様の分析を行い上記式(A)に由来するエーテル基、上記式(B)に由来する炭素-炭素二重結合、2-【(メチルチオ)メチル】-オキシランに対応する硫黄-炭素結合ピークを確認し、重量平均分子量は65万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%で、硫黄-炭素結合の構造単位の含有量は11mol%であった)を得た。
【0119】
また、得られた重合体1~6について下記の評価を行った。
【0120】
<水不溶分の測定>
ガラス製フラスコにポリマーを1g計量し、水10mLを注ぎ、内部温度66℃で10分撹拌した後、内部温度25℃以下になるまで撹拌を続けた後、材質セルロース、メッシュサイズ5Cのろ紙により濾過し、濾紙に残った残渣を温度80℃、内圧0.1kPa以下で8時間乾燥し、重量を測定し、下記式により水不溶分を算出した。
水不溶分(質量%)=残渣の乾燥重量(g)/ポリマーの初期重量(g)x100
【0121】
<THF不溶分の測定>
ガラス製フラスコにポリマーを1g計量し、テトラヒドロフラン10mLを注ぎ、内部温度66℃で10分撹拌した後、内部温度25℃以下になるまで撹拌を続けた後、材質セルロース、メッシュサイズ5Cのろ紙により濾過し、濾紙に残った残渣を温度80℃、内圧0.1kPa以下で8時間乾燥し、重量を測定し、下記式によりTHF不溶分を算出した。
THF不溶分(質量%)=残渣の乾燥重量(g)/ポリマーの初期重量(g)x100
【0122】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:上記方法で合成したSBR(変性S-SBR、スチレン量:25質量%、ビニル量:59モル%、非油展品)
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス量:97質量%)
NR:TSR20
重合体1:上記方法で合成した重合体1(水不溶分:96質量%、THF不溶分:96質量%)
重合体2:上記方法で合成した重合体2(水不溶分:82質量%、THF不溶分:96質量%)
重合体3:上記方法で合成した重合体3(水不溶分:92質量%、THF不溶分:92質量%)
重合体4:上記方法で合成した重合体4(水不溶分:97質量%、THF不溶分:97質量%)
重合体5:上記方法で合成した重合体5(水不溶分:95質量%、THF不溶分:95質量%)
重合体6:上記方法で合成した重合体6(水不溶分:94質量%、THF不溶分:96質量%)
シリカ:ローデシア社製のZEOSIL 1165MP(N2SA:160m2/g)
カーボンブラック:東海カーボン(株)製のシースト9H(DBP吸油量115ml/100g、N2SA:110m2/g)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi75(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX-140(アロマ系プロセスオイル)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤:フレキシス(株)製のサントフレックス13(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD))
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン)
【0123】
(実施例及び比較例)
表1に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を160℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で4分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0124】
得られた加硫ゴム組成物を下記により評価した。結果を表1に示す。」
「【0133】
【表1】
[図:0001396573000003.jpg]
【0134】
表1より、水によって可逆的に硬度が変化し、上記式(1)及び(2)を満たす実施例は、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能、低燃費性の総合性能(ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能、低燃費性3つの指数の総和で表す)を改善できることが分かった。」

(2)発明の詳細な説明の記載から理解できる事項

上記(1)の記載から、式(1)については以下のことが理解できる。

ア 式(1)は、乾燥時の硬度に比べて、水湿潤時の硬度が小さいことを意味する。

そして、ドライ路面からウェット路面へ変化すると、ゴム組成物が水によって湿潤されてゴム組成物の硬度が低下し、路面との接触面積が増大することで、グリップ性能(ウェットグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ウェットグリップ性能)が得られる。

一方、ウェット路面からドライ路面へ変化すると、水によって湿潤されたゴム組成物が乾燥されてゴム組成物の硬度が上昇し、ドライ路面にとって好適な硬度となり、グリップ性能(ドライグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ドライグリップ性能)が得られる。

このように、水によって可逆的に硬度が変化し、かつ、上記式(1)を満たすことにより、路面の水の状態(ウェット路面、ドライ路面)に応じた適切な硬度が得られるため、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できること(【0021】)。

イ ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化は、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能な化合物を配合することにより達成できる。より具体的には、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、実現できること。(【0031】)

ウ 乾燥時の硬度は、ゴム組成物に配合される薬品(特に、ゴム成分、充填材、オイルなどの軟化剤)の種類や量によって調整することが可能であり(【0033】)、乾燥時の硬度を所望の範囲内に調整した上で、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を実現できること(【0034】)。

エ 「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」としては、「炭素-炭素2重結合と、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子とを有するポリマー」とを含むことが好ましく、酸素原子を含むものが更に好ましく(【0059】)、酸素原子を含む構造、基としては、エーテル基が好ましく、オキシアルキレン基がより好ましく(【0060】)、オキシアルキレン基としては、下記式(A)~(B)で表される基であることが特に好ましく、下記式(C)で表される基を併用することもでき(【0061】~【0064】)、そのようなポリマーとしては、下記式(B)で表される基(構造単位)を含む重合体が好ましいこと(【0066】)。

【化2】

[図:0001396573000004.jpg]

オ ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、加硫の際に炭素-炭素2重結合によりポリマーがゴム成分に架橋されてゴム成分に固定されるため、ゴム成分からの上記ポリマーの遊離を抑制でき、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を達成することができること(【0035】)、また、「炭素-炭素2重結合」は、ジエン系ゴムと架橋されるために必要であること(【0058】)。

カ ゴム組成物の式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を達成する他の手段としては、例えば、ゴム分子間のイオン結合を、水の添加・乾燥によって可逆的に切断、再結合させる方法が挙げられ、より具体的には、ハロゲンや酸素を有するゴムと、金属、半金属や窒素を有する化合物とを併用することにより、ゴム組成物の上記式(1)で表される硬度変化、水による可逆的な硬度変化を実現できること(【0037】)。

キ 実施例1~18として、ゴム成分としてSBR70重量部、BR20重量部、NR10重量部(【0039】,【0054】,【0112】の記載からみて、これらはいずれも「ジエン系ゴム」であると認められる。)と、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」に該当する重合体1~6を5~90重量部を配合したものが製造され、それらの加硫ゴムが式(1),式(2)を満たす一方、重合体1~6を配合しない比較例1の加硫ゴムは式(1)及び式(2)のいずれも満たさなかったこと(【0111】~【0134】)。

(3)実施可能要件の検討

上記(2)キより、本願明細書の発明の詳細な説明に実施例として示されているのは、ジエン系ゴム100重量部に、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」に該当する特定の重合体1~6を5~90重量部を混合したものに限られるところ、本願発明はゴム組成物の組成を何ら特定するものではないから、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含まないものも、その範囲に含まれることになる。

そこで、本願発明のうち、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含まないものについて、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かについて検討する。

上記(2)イ、ウからみて、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含むゴム組成物であれば、本願発明の式(1)を満たすことができるものと認められる。そして、上記(2)オ によれば、加硫の際に炭素-炭素2重結合によりポリマーがゴム成分に架橋されてゴム成分に固定されることで、式(1)を満たすことができるものと解される。

また、上記(2)キによれば、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」に該当する重合体1~6を含む実施例1~18のゴム組成物が本願発明の式(1)を満たす一方、重合体1~6を含まない比較例1のゴム組成物は本願発明の式(1)を満たしておらず、この結果からも、ゴム組成物中に「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を配合することで、式(1)を満たすことができることが理解できる。

また、上記(2)カによれば、式(1)を満たす他の方法として、「ハロゲンや酸素を有するゴムと、金属、半金属や窒素を有する化合物とを併用すること」が挙げられるが、発明の詳細な説明には、「ハロゲンや酸素を有するゴム」や「金属、半金属や窒素を有する化合物」としてどのような物質をどの程度の量で配合すればよいのか何ら具体的な説明がなく、そのことが本願出願時の技術常識であったともいえない。また、上記他の方法によって式(1)を満足した具体例の記載もない。

そして、「ハロゲンや酸素を有するゴム」にはクロロプレンゴムやフッ素ゴム、シリコーンゴム等、性質の異なる様々なものが含まれるし、「金属、半金属や窒素を有する化合物」にも、酸化鉄や塩化ナトリウム、シリカや硝酸など、化学的性質の異なる膨大な物質が含まれることから、上記(2)カの記載のみで、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を用いずに式(1)を満足するゴム組成物を得ようとする場合には、当業者は「ハロゲンや酸素を有するゴムと、金属、半金属や窒素を有する化合物とを併用すること」という条件の範囲内で、具体的な調整方法の指針もないまま、該当する膨大な数の物質を1つ1つ試していくしかなく、期待しうる程度を超える試行錯誤が必要になるものと認められる。

これらをふまえると、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が現実的に本願発明の式(1)を満たすゴム組成物を製造できると認められるのは、ゴム組成物が「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含むものに限られ、それ以外のゴム組成物については、具体的にどのような物質をどの程度の量で配合すれば式(1)を満たすことができるのか明らかでなく、式(1)を満たすゴム組成物を見いだすために当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等を要するものと認められる。

したがって、発明の詳細な説明の記載は、本願発明のうち、ゴム組成物が「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含まない部分について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

(4)審判請求人の主張について

審判請求人は、令和4年11月1日提出の意見書において、式(1)を満たすことが当業者に実施可能であることに関して、概ね以下の点を主張している。

ア 組成物に配合する材料の違いによって多少の特性は異なるが、配合量を増やせば、引用文献のいずれのゴム組成物も式(1)を満たす可能性があり、引用文献5(特開2000-239445号公報)の実施例2の組成物は式(1)を満たし、引用文献4(特開2006-213864号公報)の実施例4のゴム組成物、引用文献6(特開2003-128839号公報)の実施例1、4、5のゴム組成物は、重合体の配合量が少ないため式(1)を満たさないものの、重合体の配合量を増加させることにより、これらのゴム組成物についても、式(1)を満たすと考えられること。

また、引用文献7(国際公開第97/39055号)の実施例3、4で使用されている重合体では、重合体中のアリルグリシジルエーテル含有量が少ないため式(1)を満たさないものの、重合体中のアリルグリシジルエーテル含有量を増加させたり、重合体の配合量を増加させたりすることにより、これらのゴム組成物についても、式(1)を満たすと考えられること。他の先行技術の実施例に記載のゴム組成物についても、材料の配合量を適宜変更することにより式(1)を満たすと考えられること。

よって、式(1)という目指すべき指針が存在すれば、技術常識を考慮して、当業者であれば、式(1)を満たすことが可能となること。

イ 本願明細書【0031】-【0037】には、上記式(1)及び(2)のパラメータを満たすための様々な製造指針が示されているから、当業者であれば、本願明細書【0031】-【0037】に記載の製造指針に従って、実施例で示されているゴム組成物以外のゴム組成物も過度な負担なく製造できることは明らかであること。

また、本願発明は、上記式(1)及び(2)の各パラメータを特徴とする発明であるが、本願の発明の詳細な説明においては、上記式(1)及び(2)の各範囲において十分な実施例が記載されているから、上記各パラメータの全範囲について実施することは当業者であれば容易であり、本願は実施可能要件を満たすといえること。

ウ 物の発明については、例えば明細書にその物を製造することができ、使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくとも、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し、使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができるのだから、明細書に実施の一態様が記載されていれば十分であり、あらゆる態様が記載されていることを要しない。

エ 平成29年(行ケ)第100006号の判決例、無効2015-800156、及び、無効2015-800158の審決例に照らしても、本願は実施可能要件を満たすことは明らかである、

そこで、上記主張ア~エについて検討する。

アについて

アについては、審判請求人は「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含むゴム組成物である引用文献4~7の実施例において、技術常識を考慮すれば式(1)を満たすようにすることができること又はその可能性を述べるにとどまり、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含まないゴム組成物において、式(1)を満たすようにすることができることを具体的に説明していないし、考慮する技術常識の内容も明らかにしていない。

よって、この主張は採用することができない。

イについて

上記(3)で言及したように、発明の詳細な説明の【0031】~【0037】の記載から、当業者が現実的に本願発明の式(1)を満たすゴム組成物を製造できると認められるのは、ゴム組成物が「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含むものに限られる。

請求人が主張する【0031】~【0037】のうち、【0031】,【0034】~【0036】は、ゴム組成物が「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含む場合に、式(1)を満足することを説明するものであり、【0032】は本願発明の式(2)についての説明であり、【0033】は式(1)の「乾燥時の硬度」を調整することの説明にすぎない。

そして、【0037】には、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含む方法とは異なる方法について一応の記載があるものの、「ハロゲンや酸素を有するゴム」や「金属、半金属や窒素を有する化合物」としてどのような物質をどの程度の量で配合すればよいのか、何ら具体的な説明がなく、当業者は具体的な調整方法の指針もないまま、上記「ハロゲンや酸素を有するゴム」や「金属、半金属や窒素を有する化合物」に該当する膨大な数の物質を1つ1つ試していくしかなく、期待しうる程度を超える試行錯誤が必要になるものと認められる。

また、発明の詳細な説明には実施例が18例記載されているが、これらは全て「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含むゴム組成物である。

したがって、【0037】の記載や、実施例の記載を考慮しても、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含まないゴム組成物であって、本願発明の式(1)を満たすゴム組成物を製造することが、当業者に過度の試行錯誤なく実施可能であるとは認められない。

よって、主張イも採用することはできない。

ウ,エについて

実施可能要件は、上記1に示した「考え方」に沿って判断されるものであり、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含むゴム組成物であれば「明細書に実施の一態様が記載されていれば十分」であるとしても、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含まないゴム組成物であって、式(1)を満たすものを当業者が製造することができるものとは解せない。そして、このような事情を鑑みれば、他の判例や審決例をそのまま当てはめて判断することはできない。

したがって、審判請求人の主張は採用することができない。

3 小括

よって、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、本願発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていない。

第5 むすび

以上のとおり、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余の点について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

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2021-000542

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