特許異議申立
2020-700733
箱型船
- 審判番号
- 2020-700733
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-251641
- 登録番号
- 特許第6672252号(P6672252)
- 請求日
- 2020年09月25日
- 審決日
- 2020年12月14日
- 公報発行日
- 2021年02月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】光洋通商株式会社
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】清水 雄一郎
- 【権利者代理人】仁内 宏紀
- 【異議申立人】本庄 正秀
- 審判長/審判官
- 審判長 住田 秀弘
- 審判官 土屋 真理子
- 審判官 有家 秀郎
- 分類
- P1651.121-Y (A01G) / P1651.537-Y (A01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6672252号発明「箱型船」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6672252号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6672252号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成28年10月26日に出願した特願2016-209850号の一部を、平成29年4月3日に新たな特許出願とした特願2017-73990号の一部を、さらに特願2017-251641号として平成29年12月27日に新たな特許出願としたものであって、令和2年3月6日にその特許権の設定登録がされ、令和2年3月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年9月25日に特許異議申立人 本庄 正秀(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第6672252号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下「本件発明1等」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着した海苔網を巻き取る一対の巻取ロールとを備える箱型船であって、
前記酸処理槽に設けられ、前記酸処理液のpHを検出するpHセンサと、
前記巻取ロールに巻き取られる前記海苔網と干渉しない位置に設けられ、酸原液を吐出する原液吐出部と、
前記pHセンサの検出値に基づいて前記原液吐出部に供給する前記酸原液の供給量を自動調節する原液供給装置とを備え、
前記原液吐出部は、前記酸処理槽において前記海苔網の進入側の壁面近傍に設けられ、当該壁面に向かって前記酸原液を吐出することを特徴とする箱型船。
【請求項2】
前記原液吐出部は、前記原液吐出部は、複数の吐出孔を備え、該吐出孔は下方または下方に対して前記酸処理槽の壁面側に傾斜した角度で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の箱型船。
【請求項3】
前記原液吐出部は、前進方向側と後進方向側とに各々設けられ、
前記原液供給装置は、各々の前記原液吐出部について個別に設けられたバルブを介して各々の前記原液吐出部に前記酸原液を供給することを特徴とする請求項1または2に記載の箱型船。
第3 申立理由の概要及び提出された証拠
1 申立理由の概要
申立人は、甲第1号証ないし甲第4号証(主たる証拠として甲第1号証)を提出して、本件発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないものであり、本件発明1ないし3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきである旨、本件発明2は、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしておらず、本件発明2に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきである旨、主張している。
2 提出された証拠
申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開平5-95740号公報
甲第2号証:特開平11-332406号公報
甲第3号証:特開平4-252121号公報
甲第4号証:特開平8-298885号公報
甲第5号証:特許第6672252公報(本件特許公報)
第4 各証拠の記載
1 甲第1号証(特開平5-95740号公報)
申立書に添付された甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
(1)「【0013】
【実施例】本発明の実施例を図面にもとづき詳説すれば、第1図の説明図において、1は本発明に係る海苔網処理装置を示し、同処理装置1は、船内に装着し、現場において、海苔網を引き上げなから海苔網の処理を行うものであり、以下、その構成を詳説する。即ち、海苔網処理装置1は、一定容量の処理槽2内に、海苔網引上装置3を取付けており、同引上装置3は、処理槽2内に2つの回転体4,5を軸支し、しかも、各回転体4,5を正逆回転自在として、一方の回転体4を海苔網引上げ用とし、他方の回転体5を海苔網戻し用としている。
【0014】また、処理槽2の一側部には、駆動エンジン6と連動機構7とを設けており、同エンジン6の出力軸に、連動機構7を介して各回転体4,5とを連動連結している。
【0015】本発明では、海苔網処理装置1に、処理槽2内に酸原液を供給する酸原液補給装置8と、酸処理液aのpHを検出し、補給装置8の作動させて、酸処理液aを一定のpH値、例えばpH2.0前後に保持する制御部9とを設けて、処理槽2内のpHを一定に保持可能に構成している。
【0016】本実施例では、補給装置8を、酸原液を収納したタンク10と、処理槽2内に伸延したパイプ11と、酸原液を補給するポンプ12とよりなり、処理槽2の他側部にタンク10を配設するとともに、同タンク10に、ポンプ12を介してパイプ11の基端部を接続し、同パイプ11の先端部を処理槽2内の側面から底面に沿って配設している。なお、13はパイプ11に設けた酸原液を噴出する為の孔を示す。
【0017】また、処理槽2内には、pH検出用センサ14を取付けており、同酸処理液aのpH値を検出しており、補給装置8の近傍に制御部9を内蔵したpH検出ボックス15を配設し、同ボックス15のメーター等でその値を表示するようにしいる。
【0018】さらに、本発明では、制御部9を介して補給装置8を作動させ、処理槽2内に酸原液を補給して、酸原液のpH値を一定に保持するようにしており、補給装置8を作動させる制御部9の構成について詳説すると、図3において、制御部9は、マイクロプロセッサユニットMPUと、入出力インターフエイス16,17と、ROM及びRAMからなるメモリ18と、タイマ19とから構成されており、pH検出用センサ14からの出力信号を入力インターフエイス16に送信する。
【0019】一方、出力インターフエイス17には、補給装置8のポンプ12が接続されており、同ポンプ12に操作信号を送信する。また、メモリ18には、上記のpH検出用センサ14からの出力信号に基づいてポンプ12を作動させるプログラムが記憶されている。このように、制御部9によって、酸原液補給装置8を制御して、酸処理液aのpH値を一定に保持することができる。
【0020】本実施例では、制御部9に、pHの上限値と下限値とをセットして、その間でのpH値を一定に保持するものであり、酸処理液aの目標pH値を、例えば2.0とした場合、制御部9への上限値と下限値とを2.05~1.95として、酸処理液a内のpHを可及的に2.0に保持するようしている。」
(2)「【0021】次いで、上記の海苔網処理装置1による処理方法について詳説する。即ち、まず、処理槽2内に入れた海水が、例えば、300リットルの場合、酸原液1.5リットルを加えて撹拌して、一定のpH値、例えば、pH2.0とした酸処理液aとする。
【0022】そして、引上装置3の回転体4に海苔網の一側部を係合させて、駆動エンジン6で回転させて、海苔網を引き上げ、その酸処理液aに海苔網を約6分間浸漬させ、浸けた海苔網を再度海中に戻し、順次、他の海苔網の作業を行う。
【0023】その作業中において、処理槽2内のpH検出用センサ14で、薄くなる酸処理液aのpH値を検出して、その検出値にもとづいて補給装置8でタンク10内の酸原液を処理槽2内に補給して、酸処理液aのpH値を一定のpH値、例えば、2.0前後に保持するものである。
【0024】かかる処理方法によって、一定のpH値の酸処理液aに海苔網を浸漬することにより、病菌及び雑藻を除去するとともに、海苔の成長を早め、しかも、各海苔網の成長を一定状態として、海苔の収穫を増大させることができる。」
(3)「【図1】
」
(4)「【図2】
」
(5)上記(1)及び(2)の記載を踏まえると、上記(3)の図1及び上記(4)の図2からは、酸処理液aを貯留する処理槽2の底面に沿って配設された酸原液を噴出する為の孔13が複数所定間隔で形成されたパイプ11は、回転体4,5に沿って、前記回転体4,5の間であって、回転体4,5の下方に設けられており、海苔網と干渉しない位置に配置されていることが看取される。
(6)上記(1)ないし(5)からみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
甲1発明
「海苔網処理装置1は、船内に装着され、
海苔網処理装置1は、海苔網引上装置3を取付けており、同引上装置3は、酸処理液aを貯留する処理槽2内に、2つの正逆回転自在の回転体4,5を軸支し、一方の回転体4を海苔網引上げ用とし、他方の回転体5を海苔網戻し用としており、
処理槽2内には、pH検出用センサ14を取付けて、酸処理液aのpH値を検出しており、
海苔網処理装置1に、処理槽2内に酸原液を供給する酸原液補給装置8と、酸処理液aのpHを検出し、補給装置8を作動させて、酸処理液aを一定のpH値、例えばpH2.0前後に保持する制御部9とを設け、
酸原液補給装置8は、酸原液を収納したタンク10と、処理槽2内に伸延したパイプ11と、酸原液を補給するポンプ12とよりなり、タンク10に、ポンプ12を介してパイプ11の基端部を接続し、パイプ11の先端部は処理槽2内の側面から底面に沿って配設され、底面に沿って配設されたパイプ11には複数の酸原液を噴出する為の孔13が所定間隔で形成されており、パイプ11は、回転体4,5に巻き取られる海苔網と干渉しない位置に配置され、回転体4,5に沿って、前記回転体4,5の間に設けられており、
制御部9は、マイクロプロセッサユニットMPUと、入出力インターフエイス16,17と、ROM及びRAMからなる、pH検出用センサ14からの出力信号に基づいてポンプ12を作動させるプログラムが記憶されているメモリ18と、タイマ19とから構成されている、
海苔網処理装置1を装着した船。」
2 甲第2号証(特開平11-332406号公報)
申立書に添付された甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、船に積載されて消毒液が貯溜される容器と、この容器の内部に配設されて駆動手段により駆動されて回転する複数本の海苔網の巻取り体と、消毒液が貯溜され且つ前記容器内の消毒液が導入されるタンクと、このタンク内の消毒液を吸い出すポンプと、このポンプで吸い出された消毒液を前記容器へ供給する配管とを備えたことを特徴とする海苔網の消毒装置である。
【0009】この構成において、容器内の濃度の低い消毒液をタンクに導入し、タンク内の消毒液を希釈する。そしてポンプを駆動することによりタンク内の消毒液を吸い出し、配管を通じて容器に供給する。
【0010】また好ましくは、前記配管に接続された吐出部が前記容器の相対する2つの壁面に設けられている。
【0011】この構成によれば、容器内に2方向から消毒液をまんべんなく供給できる。
【0012】また好ましくは、前記巻取り体が前記容器の内部に4本並設されており、また前記吐出部が前記4本の巻取り体の中の両側部の巻取り体に消毒液を吐出するように前記容器の相対する2つの壁面に設けられている。
【0013】この構成により、消毒効果の大きい巻取り体へ向って消毒液を吐出できる。
【0014】また好ましくは、前記相対する2つの壁面に設けられた吐出部から消毒液を選択的に吐出させるための流路の切替手段を設けた。
【0015】この構成において、流路の切替え手段を操作することにより、互いに相対する2つの壁面に設けられた任意の吐出部から容器内に消毒液を補給する。この場合、吐出部からの消毒液の吐出のパターンは自由に選択できるが、海苔網を巻取った巻取り体から巻返す巻取り体に近い方の吐出部から消毒液を補給するのが好ましい。」
(2)「【0017】図1において、船1上には海苔網の消毒装置の主体となる容器2が積載されている。容器2の内部には巻取り体3A,3B,3C,3Dが4本互いに平行かつ水平に配設されている。このうち、両側部の巻取り体3A,3Bの端部には、ガイド体4が装着されている。ガイド体4は、海洋に張設された海苔網を巻取る際に、海苔網の浮棒が容器2の内壁面に当るのを防止する。
(・・・中略・・・)
【0019】図1~図3において、容器2の側部にはタンク10が設けられている。タンク10には濃い目の消毒液が貯溜されている。容器2とタンク10はパイプ11で接続されており、パイプ11にはパイプ11の流路を開閉する開閉手段としてのコック12が設けられている。コック12を開けると、容器2内に貯溜された消毒液はタンク10内に導入される(図2の矢印a)。すなわち、パイプ11やコック12は容器2内の消毒液をタンク10内に導入する導入部になっている。容器2内に貯溜された消毒液は、海洋から引き上げた海苔網8を浸漬する間に、海苔網8が含浸していた海水が容器2内に流出する結果、かなり濃度が低くなっている。したがって容器2内の消毒液をタンク10内に導入すれば、タンク10内の消毒液は希釈されて濃度が低くなる。
【0020】タンク10はパイプ13を通じてポンプ14に接続されている。タンク10にはパイプ15が接続されており、パイプ15の先端部は流路の切替手段であるコック16に接続されている。16aはコック16の操作レバーである。コック16にはパイプ17,18が接続されている。また容器2の互いに相対する壁面には吐出部19,20が設けられている。一方のパイプ17は一方の吐出部19に接続されており、また他方のパイプ18は他方の吐出部20に接続されている。すなわち、パイプ15,17,18は、ポンプ14でタンク10から吸い出された消毒液を容器2へ供給する配管になっている。パイプとしては、塩化ビニールパイプやチューブなどが使用される。
【0021】したがってタンク10内の消毒液はパイプ13を通してポンプ14に吸い出され(図2の矢印b)、更にパイプ15へ送り出される(矢印c)。そしてコック16の操作のレバー16aを操作することにより、一方のパイプ17または他方のパイプ18へ選択的に送り出される(矢印d,e)。そして吐出部19または吐出部20から容器2内へ選択的に吐出される(矢印f,g)。なお本形態では、コック16の操作レバー16aを操作することにより、吐出部19または吐出部20から選択的に容器2へ消毒液を吐出して供給するものであるが、2つの吐出部19,20から同時に容器2へ消毒液を供給するようにしてもよいものであり、吐出部19,20から消毒液を吐出するパターンは自由に選択できる。」
(3)「図1
」
(4)「図2
」
(5)「図3
」
(6)上記(2)の記載を踏まえると、上記(3)の図1からは、消毒装置の容器2が積載される船1は箱形の船であることが看取される。
上記(2)の記載を踏まえると、上記(5)の図3からは、濃度の濃いめの消毒液の吐出部19、20は、容器2の上方の互いに相対する壁面から、巻取り体の回転軸と交差する方向に水面に向かって消毒液を吐出するように、設けられていることが看取される。
(7)上記(1)ないし(6)からみて、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
甲2発明
「消毒液が貯溜される容器2と、この容器2の内部に配設されて回転する複数本の海苔網の巻取り体3A,3B,3C,3Dと、消毒液が貯溜されるタンク10と、このタンク10内の消毒液を吸い出すポンプ14と、このポンプ14で吸い出された消毒液を前記容器2へ供給する配管とを備えた海苔網の消毒装置が積載された箱形の船であって、
配管に接続された吐出部19、20が前記容器の上方の相対する2つの壁面から、巻取り体の回転軸と交差する方向に水面に向かって消毒液を吐出するように設けられている、箱形の船。」
3 甲第3号証(特開平4-252121号公報)
申立書に添付された甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】 海面に張設された海苔網の始端を洗滌液を満した洗滌槽内の第1の巻取り軸に掛止し、前記巻取軸を回転し、海苔網の巻き取りにつれて前記洗滌槽を前進させることにより、前記第1の巻取り軸に所定長さの海苔網を全部巻取った後、前記海苔網の終端を、第1の巻取り軸と平行な第2の巻取り軸に掛止し、第2の巻取り軸を回転して、前記海苔網を第2の巻取り軸に巻き移す。斯して第2の巻取り軸の最外端に位置した海苔網の始端を支柱棒に固定し、前記洗滌槽を移動し乍ら第2の巻取り軸から巻きもどした海苔網を逐次海面に張設敷設することを特徴とした海苔付網の洗滌方法
【請求項2】 第1の巻取り軸に海苔網を巻きつける際に、洗滌液をシャワーすることとした請求項1記載の海苔付網の洗滌方法
(・・・中略・・・)
【請求項6】 平面方形の洗滌槽内に、二本の巻取り軸を平行に、かつ水平に回転自在に架設し、前記巻取り軸端は切換え装置を介して原動機の出力軸と連結し、前記洗滌槽の側縁部に海苔網の案内具を設置し、前記洗滌槽の側縁部にシャワー管を前記巻取り軸と平行に架設したことを特徴とする海苔付網の洗滌装置」
(2)「【0009】前記における洗滌液は、例えば弱酸性(酢酸、クエン酸などの希釈液pH5.0~2.5)であり、pHの度合により浸漬時間を通常1分~5分に調節する。例えばpH1.5ならば更に短時間処理とする。」
(3)「【0015】
【実施例1】図1のように、海面に敷設され海苔網1の一方の端A(端縁側)を支柱棒2、2の吊綱16から外して、図4、5に示す洗滌槽3内の第1の巻取り軸4の掛止片5、5に掛止すると共に、エンジン6を始動する。然るときはエンジン6の回転力は、連動装置7を経て第1の巻取り軸4を回転するので、海苔網1は図5中矢示8のように巻き込まれる。このようにして一定長さ(例えば18m又は36m)を巻き込んだならば、海苔網1の終端になる。そこで、海苔網1の終端を第2の巻取り軸9の掛止片10、10に掛止し、第2の巻取り軸9を矢示11の方向へ回転すれば、前記第1の巻取り軸4の海苔網1を鎖線図示12、矢示17のように第2の巻取り軸9へ巻き換えることができる。このようにすれば、第1の巻取り軸4の中側へ巻き込んだ海苔網1が第2の巻取り軸9では外側に巻かれることになり、引続いて第2の巻取り軸9から図5の矢示13のように巻き出す時に、最初に洗滌液に浸漬した海苔網1の端縁が、最初に洗滌液から引出されることになる。そこで全海苔網は、ほぼ同一時間洗滌液に浸漬され、同一時間処理されることになる。前記図5において矢示8のように海苔網を引張って第1の巻取り軸4に巻き込む時に、洗滌槽3をのせた箱舟14は、図5中矢示15の方向へ前進するので、海苔網1を引張って巻き込む必要なく、きわめて合理的である。然して当初の巻き込みを終了したならば、引続き第1の巻取り軸4から第2の巻取り軸9へ巻き移す。従って、第1の巻取り軸4は空くことになる。そこで矢示53のように、図1のB部で箱舟14を180度回転し、第1の巻取り軸4を再び海苔網1側に対向させると共に、次位の海苔網1aの端縁を第1の巻取り軸4の掛止片5、5に掛けて、第1の巻取り軸4を回転すれば、海苔網1aは第1の巻取り軸4に巻き始められる。この時に、第2の巻取り軸9に巻き込まれている海苔網1の端縁を支柱棒2、2の吊綱16に縛着すると共に、第2の巻取り軸9の回転をフリーにすれば、箱舟14の進行につれて海苔網1を矢示13のように巻き出し、所定位置(海苔網1aのあった位置)に敷設することができる。
【0016】前記実施例において、海苔網1を巻取る際に、図7のポンプ18を始動し、吸入ホース19から洗滌槽3内の洗滌液を吸入し、吐出ホース20を介して洗滌槽3の一側に架設したシャワー管21から巻込まれる海苔網1に洗滌液をシャワーすれば、海苔網1等の付着汚物が先づ洗除されるので、爾後洗滌液へ浸漬した際の処理が一層円滑になる。また、第1の巻取り軸4及び第2の巻取り軸9にも多数の小孔を穿設し、前記各巻取り軸4、9に、前記吐出ホース20の分岐ホース20a、20bを夫々連結して、内側からシャワーすることもできる。前記吸入ホース19には三方コック51を介して海水吸入ホース22が連結されているので、三方コック51を操作することにより、海水をシャワーすることもできる。また、洗滌液を入れ換える場合には、前記シャワーを介して洗滌槽3内へ海水を満すと共に、薬剤槽23の抽出細管24の先端を、前記海水吸入ホース22に連結開口し、コック25を開けば、海水の吸入量に応じ必要量の薬剤を供給して、洗滌液を所定のpHに生成することができる。前記吐出ホース20に三方コック27を介して排水ホース26を連結しておけば、三方コック27の操作により、吸入した液を海上へ排水することもできる。例えば作業中に箱舟14内に水が溜るが、そのような時には、海水吸入ホース22の先端を箱舟14内に入れ、三方コック51、27を操作した後、ポンプ18を始動すれば、箱舟14内の排水ができる。図中28は分岐匣、29、30は分岐ホース20a、20bのコックである。」
(4)「図3
」
(5)「図4
」
(6)「図5
」
(7)上記(1)~(6)からみて、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
甲3発明
「海苔付網の洗滌装置の洗滌槽3をのせた箱舟14であって、洗滌槽3内に、二本の巻取り軸4、9を平行に、かつ水平に回転自在に架設し、洗滌槽3の側縁部にシャワー管21を前記巻取り軸4、9と平行に架設し、シャワー管21から海苔網1に吸入ホース19から吸入した洗滌槽3内の洗滌液をシャワーする、箱舟14。」
4 甲第4号証(特開平8-298885号公報)
申立書に添付された甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0022】本実施例の海苔網作業船は、船本体1に液処理装置2を搭載したもので、液処理装置2は、処理液槽3、同処理液槽3内の仕切り板4、四本の巻取りローラ5a~5d、同巻取りローラ5a~5dの駆動機構6などから構成されている。
【0023】船本体1は、従来の海苔網作業船の本体と同様なFRP製の箱状のものであり、図示していない船外機により自走可能である。この船本体1に、図1及び図2に示すように液処理装置2が設置されており、液処理装置2の両側の空間は作業場S1,S2となっている。
【0024】処理液槽3は、FRP製の箱状のもので、船本体1に搭載した後、動かないように固定されている。この処理液槽3には、槽体を船体前後方向(図1において上下方向)に二分する仕切り板4が設けられ、この仕切り板4の一方の側に巻取りローラ5a,5bが配設され、他方の側に巻取りローラ5c,5dが配設されている。」
(2)上記(1)からみて、甲第4号証には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
甲4発明
「液処理装置2を搭載した箱状の船本体1であって、液処理装置2の処理液槽3には槽体を船体前後方向に二分する仕切り板4が設けられ、この仕切り板4の一方の側に巻取りローラ5a,5bが配設され、他方の側に巻取りローラ5c,5dが配設されている箱状の船本体1。」
第5 当審の判断
1 特許法第29条第2項(容易性)
(1)請求項1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「酸処理液a」、「処理槽2」及び「pH検出用センサ14」は、それぞれ、本件発明1の「酸処理液」、「酸処理槽」及び「pHセンサ」に相当する。
甲1発明の「処理槽2内」に「軸支」された「2つの正逆回転自在の回転体4,5」は、処理槽2内に設けられたものである。そして、「一方の回転体4を海苔網引上げ用とし、他方の回転体5を海苔網戻し用とし」たものであって、引上げた海苔網を巻き取る一方の回転体4も、引上げた海苔網が巻き戻される他方の回転体5も海苔が付着した海苔網を巻き取る回転体であることは自明であるから、甲1発明の「一方の回転体4」及び「他方の回転体5」とからなる「2つの正逆回転自在の回転体4,5」は、本件発明1の「酸処理槽内に設けられ、海苔が付着した海苔網を巻き取る一対の巻取ロール」に相当する。
甲1発明の「処理槽2」と「2つの正逆回転自在の回転体4,5」とを備える「海苔網処理装置1を装着した船」と、本件発明1の「酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着した海苔網を巻き取る一対の巻取ロールとを備える箱型船」とは、「酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着した海苔網を巻き取る一対の巻取ロールとを備える船」の点で共通する。
甲1発明の「制御部9」は、「pH検出用センサ14からの出力信号に基づいてポンプ12を作動させるプログラムが記憶されているメモリ18」を備えてなり、「酸処理液aを一定のpH値、例えばpH2.0前後に保持する」制御を行うものである。
また、甲1発明は、「酸原液を収納したタンク10」に、「ポンプ12を介してパイプ11の基端部」が「接続」され、先端部の処理槽2内の底面に沿って配設されたパイプ11には複数の酸原液を噴出する為の孔13が所定間隔で形成されているものであるから、甲1発明において、「ポンプ12を作動させ」ることは、処理槽2内の底面に沿って配設された酸原液を噴出する為の孔13が設けられたパイプ11に酸原液を供給することといえる。
そうすると、甲1発明の「メモリ18」に記憶されている「pH検出用センサ14からの出力信号に基づいてポンプ12を作動させるプログラム」により「酸処理液aを一定のpH値、例えばpH2.0前後に保持する」制御を行う「制御部9」により作動する「酸原液補給装置8」は、本件発明1の「pHセンサの検出値に基づいて原液吐出部に供給する酸原液の供給量を自動調節する原液供給装置」に相当する。
そうすると、甲1発明と本件発明1とは、以下の一致点、相違点を有する。
一致点
酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着した海苔網を巻き取る一対の巻取ロールとを備える船であって、
前記酸処理槽に設けられ、前記酸処理液のpHを検出するpHセンサと、
前記巻取ロールに巻き取られる前記海苔網と干渉しない位置に設けられ、酸原液を吐出する原液吐出部と、
前記pHセンサの検出値に基づいて前記原液吐出部に供給する前記酸原液の供給量を自動調節する原液供給装置とを備える船。
相違点1
本件発明1は、「酸処理液を貯留する酸処理槽と、該酸処理槽内に設けられ、海苔が付着した海苔網を巻き取る一対の巻取ロールとを備える船」が「箱形船」と特定されているのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点。
相違点2
原液吐出部について、本件発明1は「原液吐出部は、前記酸処理槽において前記海苔網の進入側の壁面近傍に設けられ、 当該壁面に向かって前記酸原液を吐出する」と特定されているのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み上記相違点2について検討する。
甲2発明の、吐出部(原液吐出部)は、「容器」(本件発明1の「酸処理槽」に相当。)において、壁面から水面に向かって消毒液を吐出するように設けられているものであって、「壁面近傍に設けられ、 壁面に向かって酸原液を吐出する」ものではない。
海苔養殖に用いる「酸処理槽」において、酸原液を槽内に供給する場合、甲1発明や甲2発明のように、槽の底面や側面から酸原液の吐出を行うことが通常であり、吐出部(原液吐出部)を「壁面に向かって酸原液を吐出する」ものとすることが当業者が容易になし得たこととはいえない。
甲3発明は、洗滌槽3内の洗滌液をシャワー管21から海苔網1にシャワーするものであって、酸原液を酸処理槽に供給するものでないから、甲1発明の原液吐出部の変更に関し、何らの開示もなく、示唆もない。
甲4発明は、原液吐出部について開示がなく、甲1発明の原液吐出部の変更に関し、何らの開示もなく、示唆もない。
また、「前記一対の巻取ロールに沿って前記酸処理槽に設けられる管状部材」である原液吐出部を「酸処理槽の上方」に設けることが当業者に周知であるものでもない。
よって、相違点2は甲2発明ないし甲4発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものではない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ないし甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明ないし甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えた発明である。
よって、上記(1)で検討した理由と同様の理由により、本件発明2、3は、甲1発明ないし甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 特許法第36条第6項第2号(明確性)
(1)申立人の主張
申立人は、本件発明2には、「前記原液吐出部は、複数の吐出孔を備え、該吐出孔は下方」と記載されるが、本件発明1では、「前記原液吐出部は、前記酸処理槽において前記海苔網の進入側の壁面近傍に設けられ、当該壁面に向かって前記酸原液を吐出する」ものであり、処理液面にそのまま滴下するものではないので、「下方」の記載は本件発明1と整合せず明確でない旨主張する(申立書第9頁第13~19行)。
(2)判断
本件明細書には、以下の記載がある。
「【0038】
パイプ8C、8Dは、酸処理槽3において海苔網4の進入側に幅方向に沿って設けられている。すなわち、一方のパイプ8Cは、酸処理槽3において箱型船Bの前進方向側かつ幅方向に沿って設けられ、他方のパイプ8Dは、酸処理槽3において箱型船Bの後進方向側かつ幅方向に沿って設けられている。このようなパイプ8C、8Dは、複数の吐出孔8c、8dが長さ方向に所定間隔で形成されており、例えば塩化ビニル製である。各吐出孔8c、8dは、酸原液12を酸処理槽3の壁面に向かって吐出するように、下方又は下方に対して酸処理槽3の壁面側に傾斜した角度で形成されている。」
上記段落【0038】の記載に示されるように、本件明細書においては、各吐出孔が「下方」に形成されている場合にも、「酸原液12を酸処理槽3の壁面に向かって吐出する」ようにされており、吐出孔が「下方」に形成されていることと酸原液12の吐出が「壁面に向かって」行われることとは、矛盾しないものとされている。
また、下方は、一般にも「したの方。」を意味する言葉であり(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)、滴下する方向、すなわち、重力の働く垂直下方のみを示す語ではない。
以上から、本件発明1の従属請求項である本件発明2の原液吐出部は、壁面に向かって酸原液を吐出するものであるとともに、吐出孔は下方に設けられていると、不整合なく解することができる。
そうすると、本件発明2は、申立人が主張するように、壁面近傍に設けられ、下方であるからといって処理液面にそのまま滴下すると解されるものではなく、本件発明2は明確である。
(3)小括
本件発明2は、申立人が申し立てる点で不明確なものではない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700733