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特許異議申立

2020-700558

組み換え代謝微生物およびその使用

審判番号
2020-700558
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-514948
登録番号
特許第6643083号(P6643083)
請求日
2020年08月05日
審決日
2021年09月21日
公報発行日
2021年12月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ランザテク・ニュージーランド・リミテッド
  • 【権利者代理人】小林 浩
  • 【権利者代理人】大森 規雄
  • 【権利者代理人】植田 渉
  • 【権利者代理人】鈴木 康仁
  • 【異議申立人】森 收平
審判長/審判官
  • 審判長 中島 庸子
  • 審判官 平林 由利子
  • 審判官 森井 隆信
分類
P1652.536-YAA(C12P) / P1652.537-YAA(C12P)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法114条4項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9号、特許法第114条第4項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6643083号発明「組み換え代謝微生物およびその使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6643083号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。 特許第6643083号の請求項1,2,4~10に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6643083号の請求項1~10に係る特許についての出願は、平成25年6月4日(優先権主張 平成24年6月1日 米国)を国際出願日として出願され、令和2年1月8日にその特許権の設定登録がされ、同年2月12日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は概ね次のとおりである。 令和 2年 8月 5日   特許異議申立人 森 收平 による 請求項1,2,4~10に係る特許に対する 特許異議の申立て 令和 2年10月29日付け 取消理由通知書 令和 3年 1月28日   特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 令和 3年 2月10日付け 訂正請求があった旨の通知書 (特許法第120条の5第5項) 令和 3年 6月24日付け 取消理由通知書(決定の予告) 令和 3年 7月26日   特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 なお、令和3年2月10日付け通知書に対し、特許異議申立人森 收平は意見書を提出しなかった。 令和3年1月28日の訂正請求に対してはすでに特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられており、令和3年7月26日の訂正請求は、令和3年1月28日の訂正請求による訂正事項を含み、さらに限定する訂正であるから、令和3年7月26日の訂正請求について、訂正請求があった旨の通知はしなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 令和3年7月26日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、 「前記培養物を発酵して気体状の物質からテルペンまたはその前駆体を産生することとを含み」から、「前記培養物を発酵して前記気体状の物質からテルペンまたはその前駆体を産生することとを含み」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1の末尾の「選択される、 前記方法。」を、「選択され、 (i)前記細菌が、DXS経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有するか、又は(ii)前記細菌が、メバロン酸経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有し、イソペンテニル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がイソプレンである場合、前記細菌はイソプレンシンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がゲラニルピロリン酸(GPP)又はファルネシルピロリン酸(FPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がファルネセンである場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸及びファルネセンシンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がヘプタプレニル二リン酸(HPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸及びヘプタプレニル二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がオクタプレニル二リン酸(OPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸、ヘプタプレニル二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸、及びオクタプレニル-二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸を含む、 前記方法。」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1は、請求項1に記載される2つの「気体状の物質」のうち後者の「気体状の物質」が前者の「気体状の物質」であることを明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると認められ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2 訂正事項2は、請求項1に「(i)前記細菌が、DXS経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有するか、又は(ii)前記細菌が、メバロン酸経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有し、イソペンテニル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がイソプレンである場合、前記細菌はイソプレンシンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がゲラニルピロリン酸(GPP)又はファルネシルピロリン酸(FPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がファルネセンである場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸及びファルネセンシンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がヘプタプレニル二リン酸(HPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸及びヘプタプレニル二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がオクタプレニル二リン酸(OPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸、ヘプタプレニル二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸、及びオクタプレニル-二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸を含む、 前記方法。」という発明特定事項を付加するものであり、そして、訂正前の請求項1に係る発明と訂正後の請求項1に係る発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、訂正事項2における、(i)に特定されるDXS経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有することに関して、特許明細書の段落【0116】には、「DXS経路」がピルビン酸およびD-グリセルアルデヒド-3-リン酸からDMAPPまたはIPPすなわちイソペンテニルニリン酸(同段落【0268】参照)への酵素的経路であることが記載され、(ii)に特定されるメバロン酸経路によりイソペンテニル二リン酸を産生し、イソペンテニル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸を含むことに関して、同段落【0117】には、「メバロン酸(MVA)経路」は、アセチルCoaからIPPまでの酵素的経路であること、同段落【0026】には、微生物中で発現する時微生物がCOを含む基質の発酵により1つ以上のテルペン類および/またはその前駆体を産生することを可能にする、1つ以上の酵素をコードする核酸を提供すること、同段落【0052】~【0053】、【0081】には、当該核酸が、イソペンテニル-二リン酸Δ-イソメラーゼ(idi)であること、同段落【0268】~【0271】には、DMAPP(ジメチルアリル二リン酸)およびIPP(イソペンテニル二リン酸)間の変換のためのイソペンテニル-二リン酸Δ-イソメラーゼを、微生物に発現させたことが、それぞれ記載されている。 さらに、合成される各テルペンまたはその前駆体に応じて特定の外来性核酸を含む点に関して、特許明細書の段落【0031】には、「さらなる実施形態では、核酸は、発現または過剰発現されてテルペン化合物またはその前駆体の産生をもたらす1つ以上のさらなる外来性または内在性酵素をコードし、発現する外来性核酸または過剰発現する内在性核酸は、a) ゲラニルトランストランスフェラーゼ Fps(EC:2.5.1.10)、b) ヘプタプレニル二リン酸シンターゼ(EC:2.5.1.10)、c) オクタプレニル-二リン酸シンターゼ(EC:2.5.1.90)、d) イソプレンシンターゼ(EC 4.2.3.27)、e) イソペンテニル-二リン酸Δ-イソメラーゼ(EC 5.3.3.2)、f) ファルネセンシンターゼ(EC 4.2.3.46 / EC 4.2.3.47)、およびg) 機能的に等価であるそれらのいずれかの変異体からなる群から選択される酵素をコードする。」と記載され、図1に示されるテルペンまたはその前駆体の産生の経路図には、イソプレンがDMAPPからイソプレンシンターゼによって合成されること、ゲラニルピロリン酸(GPP)又はファルネシルピロリン酸(FPP)がIPP及びDMAPPからゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsにより合成されること、ファルネセンがIPP及びDMAPPからゲラニルトランストランスフェラーゼ Fps及びファルネセンシンターゼによって合成されること、ヘプタプレニル二リン酸(HPP)がIPP及びDMAPPからゲラニルトランストランスフェラーゼ Fps及びヘプタプレニル二リン酸シンターゼによって合成されること、オクタプレニル二リン酸(OPP)がIPP及びDMAPPからゲラニルトランストランスフェラーゼ Fps、ヘプタプレニル二リン酸シンターゼ、及びオクタプレニル-二リン酸シンターゼによって合成されることが、それぞれ記載されている。 よって、訂正事項2は新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3.独立特許要件 訂正された請求項3は、元の請求項3の「気体状の物質」を「前記気体状の物質」に訂正し、イソペンテニル二リン酸(IPP)を産生する方法において、「(i)前記細菌が、DXS経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有するか、又は(ii)前記細菌が、メバロン酸経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有し、イソペンテニル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がイソプレンである場合、前記細菌はイソプレンシンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がゲラニルピロリン酸(GPP)又はファルネシルピロリン酸(FPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がファルネセンである場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸及びファルネセンシンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がヘプタプレニル二リン酸(HPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸及びヘプタプレニル二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がオクタプレニル二リン酸(OPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸、ヘプタプレニル二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸、及びオクタプレニル-二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸を含む、 前記方法。」という発明特定事項を付加するものである。そして、訂正後の請求項3に異議申立理由はなく、訂正後の請求項3に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。 したがって、請求項3に係る訂正は、特許法第120条の5第9号において「特許異議の申立てがされていない請求項に係る第1項ただし書第1号又は第2号」と読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合するものである。 4.小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項乃至第7項の規定に適合する したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】 テルペンまたはその前駆体を産生する方法であって、 遺伝的に改変された、酸化炭素栄養性の、酢酸産生細菌を含む培養物にCOを含む気体状の物質を提供することと、前記培養物を発酵して前記気体状の物質からテルペンまたはその前駆体を産生することとを含み、前記テルペンまたはその前駆体が、メバロン酸、イソペンテニル二リン酸(IPP)、ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)、イソプレン、ゲラニルピロリン酸(GPP)、ファルネシルピロリン酸(FPP)、ファルネセン、ヘプタプレニル二リン酸(HPP)、およびオクタプレニル二リン酸(OPP)からなる群から選択され、 前記細菌が、 チオラーゼ(EC 2.3.1.9)、HMG-CoAシンターゼ(EC 2.3.3.10)、HMG-CoAレダクターゼ(EC 1.1.1.88)、メバロン酸キナーゼ(EC 2.7.1.36)、ホスホメバロン酸キナーゼ(EC 2.7.4.2)、およびジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.33)をコードする外来性核酸を含み、 前記細菌が、Clostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、Clostridium ragsdalei、Clostridium carboxidivorans、Clostridium drakei、Clostridium scatologenes、Clostridium aceticum、Clostridium formicoaceticum、Clostridium magnum、Butyribacterium methylotrophicum、Acetobacterium woodii、Alkalibaculum bacchii、Blautia producta、Eubacterium limosum、Moorella thermoacetica、Moorella thermautotrophica、Sporomusa ovata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphaeroides、Oxobacter pfennigii、およびThermoanaerobacter kiuviからなる群から選択され、 (i)前記細菌が、DXS経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有するか、又は(ii)前記細菌が、メバロン酸経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有し、イソペンテニル二リン酸Δイソメラーゼをコードする核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がイソプレンである場合、前記細菌はイソプレンシンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がゲラニルピロリン酸(GPP)又はファルネシルピロリン酸(FPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がファルネセンである場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸及びファルネセンシンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がヘプタプレニル二リン酸(HPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸及びヘプタプレニル二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸を含み、 前記テルペンまたはその前駆体がオクタプレニル二リン酸(OPP)である場合、前記細菌はゲラニルトランストランスフェラーゼ Fpsをコードする外来性核酸、ヘプタプレニル二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸、及びオクタプレニル-二リン酸シンターゼをコードする外来性核酸を含む、 前記方法。 【請求項2】 前記テルペンまたはその前駆体がイソプレンである、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記テルペンまたはその前駆体がイソペンテニル二リン酸(IPP)である、請求項1に記載の方法。 【請求項4】 前記気体状の物質が少なくとも20%のCOを含む、請求項1に記載の方法。 【請求項5】 前記気体状の物質がCO2をさらに含む、請求項1に記載の方法。 【請求項6】 前記気体状の物質がH2をさらに含む、請求項1に記載の方法。 【請求項7】 前記気体状の物質が鉄金属製品の製造、非鉄製品の製造、石油精製、石炭の気化、電力産生、カーボンブラック産生、アンモニア産生、メタノール産生、およびコークの製造からなる群から選択される工業工程に由来する、請求項1に記載の方法。 【請求項8】 前記気体状の物質が合成ガスである、請求項1に記載の方法。 【請求項9】 前記細菌がClostridium autoethanogenum、Clostridium ragsdalei、Clostridium carboxidivorans、Clostridium drakei、Clostridium scatologenes、Clostridium aceticum、Clostridium formicoaceticum、Clostridium magnum、Butyribacterium methylotrophicum、Acetobacterium woodii、Alkalibaculum bacchii、Blautia producta、Eubacterium limosum、Moorella thermoacetica、Moorella thermautotrophica、Sporomusa ovata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphaeroides、Oxobacter pfennigii、およびThermoanaerobacter kiuviからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。 【請求項10】 前記細菌がClostridium autoethanogenumである、請求項1に記載の方法。 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1.取消理由の概要 訂正前の請求項1~10に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由(令和2年10月29日付け、及び令和3年6月24日付け)の概要は、次のとおりである。 (1)(サポート要件)本件発明1,2,4~10は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものである。 (2)(明確性)本件発明1,2,4~10は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものである。 2.サポート要件について 本件発明1の解決しようとする課題は、テルペンまたはその前駆体を産生できる方法の提供であると認められる。 そして、特許図面の図1には、テルペンまたはその前駆体の産生の経路図が記載されており、図1から、本件発明1に記載のテルペンまたはその前駆体の産生に必要な酵素は、図1右下部に記載される番号で記載すると、下記のとおりであると認められる。 a)メバロン酸:「14」、「15」、「16」 b)イソペンテニル二リン酸(IPP):「14」、「15」、「16」、「17」、「18」及び「19」、又はDXS経路の酵素(「1」、「2」、「3」、「4」、「5」、「6」及び「7」) c)ジメチルアリル二リン酸(DMAPP):「14」、「15」、「16」、「17」、「18」、「19」及び「12」、又はDXS経路の酵素(「1」、「2」、「3」、「4」、「5」、「6」及び「7」) d)イソプレン:DMAPP合成に必要な「14」等の酵素又はDXS経路の酵素に加え「11」 e)ゲラニルピロリン酸(GPP):DMAPP合成に必要な「14」等の酵素又はDXS経路の酵素に加え「8」 f)ファルネシルピロリン酸(FPP):DMAPP合成に必要な「14」等の酵素又はDXS経路の酵素に加え「8」 g)ファルネセン:DMAPP合成に必要な「14」等の酵素又はDXS経路の酵素に加え「8」及び「13」 h)ヘプタプレニル二リン酸(HPP):DMAPP合成に必要な「14」等の酵素又はDXS経路の酵素に加え「8」及び「9」 i)オクタプレニル二リン酸(OPP):DMAPP合成に必要な「14」等の酵素又はDXS経路の酵素に加え「8」、「9」及び「10」 また、本件特許明細書の実施例1には、ポプラのイソプレンシンターゼ(EC 4.2.3.27)(特許図面の図1の「11」に相当する。以下酵素を「11」等と図1で付された番号でいうこともある。また、「イソプレン合成酵素」ともいう。)遺伝子をCOからイソプレンを産生するように酸化炭素栄養性酢酸産生菌C.autoethanogenumに導入し、その発現を確認したことが記載され、実施例2には、イソペンテニル-二リン酸Δ-イソメラーゼ(図1の「12」に相当する。)発現プラスミドを構築し、「12」の遺伝子及び「11」の遺伝子を含むプラスミドをC.autoethanogenumへ形質転換し、両遺伝子の発現を確認したことが記載されている。 実施例3には、「12」の遺伝子及び「11」の遺伝子を含むプラスミドに1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸シンターゼ((図1の「1」に相当する。また、「DXS」ともいう。)を組み込み、当該酵素を過剰発現するプラスミドを構築し、C.autoethanogenumに導入し、その発現を確認したことが記載されている。 実施例4には、メバロン産経路にかかる酵素を導入したプラスミドとして、チオラーゼ(図1の「14」に相当する。)、HMG-CoAシンターゼ(図1の「15」に相当する。)、HMG-CoAレダクターゼ(図1の「16」に相当する。)、メバロン酸キナーゼ(図1の「17」に相当する。)、ホスホメバロン酸キナーゼ(図1の「18」に相当する。)、ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(図1の「19」に相当する。)、「12」および「11」を含むイソプレン発現プラスミドを作製したことが記載されている。 実施例5には、上流のメバロン酸経路を持たないファルネセン発現プラスミドとして、ゲラニルトランストランスフェラーゼ(図1の「8」に相当する。)及びαファルネセンシンターゼ(図1の「13」に相当する。)と、「17」~「19」及び「12」の遺伝子を含むプラスミドを構築し、C.autoethanogenumへ形質転換して「17」~「19」、「12」、「8」及び「13」の発現を確認したこと、及び当該形質転換体を、唯一の炭素およびエネルギー供給源としてReal Mill Gas(44% CO、32% N2、22% CO2、2%H2)を用いて培地中で増殖させ、上記形質転換物を、メバロン酸を追加した培地で培養してメバロン酸からファルネセンが産生されたことを検出したことが記載されている。 テルペン産生の経路について、段落【0268】には、「前駆体DMAPP(ジメチルアリル二リン酸)およびIPP(イソペンテニル二リン酸)の利用可能性および均衡は、テルペン類の産生に重要である。DXS経路はIPPおよびDMAPPを等しく合成するのに対し、メバロン酸経路ではIPPのみが産生される。イソプレンの産生では、イソプレンシンターゼとともに存在する前駆体DMAPPのみを必要とし」と記載されている。段落【0026】には、「第2の態様では、本発明は、微生物中で発現する時微生物がCOを含む基質の発酵により1つ以上のテルペン類および/またはその前駆体を産生することを可能にする、1つ以上の酵素をコードする核酸を提供する。」、段落【0031】には、「さらなる実施形態では、核酸は、発現または過剰発現されてテルペン化合物またはその前駆体の産生をもたらす1つ以上のさらなる外来性または内在性酵素をコードし、発現する外来性核酸または過剰発現する内在性核酸は、a) ゲラニルトランストランスフェラーゼ Fps(EC:2.5.1.10)、b) ヘプタプレニル二リン酸シンターゼ(EC:2.5.1.10)、c) オクタプレニル-二リン酸シンターゼ(EC:2.5.1.90)、d) イソプレンシンターゼ(EC 4.2.3.27)、e) イソペンテニル-二リン酸Δ-イソメラーゼ(EC 5.3.3.2)、f) ファルネセンシンターゼ(EC 4.2.3.46 / EC 4.2.3.47)、およびg) 機能的に等価であるそれらのいずれかの変異体からなる群から選択される酵素をコードする。」と記載されている。 さらに、訂正前の請求項1には、細菌について、「14」~「19」をコードする外来性核酸を含むことが特定されているところ、訂正によって、さらに、 (i)DXS経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有するか、又は(ii)メバロン酸経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有し、「12」をコードする核酸を含むこと、及びイソプレンを産生する方法においては「11」をコードする外来性核酸を含み、ゲラニルピロリン酸(GPP)又はファルネシルピロリン酸(FPP)を産生する方法においては「8」をコードする外来性核酸を含み、ファルネセンを産生する方法においては「8」及び「13」をコードする外来性核酸を含み、ヘプタプレニル二リン酸(HPP)を産生する方法においては「8」及び「9」をコードする外来性核酸を含み、オクタプレニル二リン酸(OPP)を産生する方法においては「8」~「10」をコードする外来性核酸を含むことが追加されたから、本件発明1のテルペンまたはその前駆体を産生する方法で特定された細菌は、メバロン酸及びIPPのみならず、ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)、イソプレン、ゲラニルピロリン酸(GPP)、ファルネシルピロリン酸(FPP)、ファルネセン、ヘプタプレニル二リン酸(HPP)、オクタプレニル二リン酸(OPP)を産生するための代謝系を構成する複数の酵素をコードする複数の核酸が導入された細菌であると認められる。 そして、微生物による化合物産生の分野において、基質が当該微生物内に存在し、代謝系を構成する複数の酵素をコードする複数の核酸もベクターに組み込まれる等して当該微生物内に存在する場合、一般的には、当該酵素が発現して活性を発揮し、所望の生成物が産生されることが、本願出願時の技術常識である。 さらに、上記のとおり、実施例3には「12」、「11」及び「1」を含むDXS過剰発現プラスミドを作製し、DXSの発現を確認したことが記載されていること、実施例4には「14」~「19」、「12」及び「11」を含むイソプレン発現プラスミドを作製したことが記載されていること、実施例5には「17」~「19」、「12」、「8」及び「13」含むプラスミドを導入されたC.autoethanogenumが、メバロン酸を追加した培地での培養でファルネセンを産生したことが具体的に示されていること、及び本件発明1で産生するテルペンまたはその前駆体に応じて特定された各酵素がC.autoethanogenumに共存した場合、生育し得ない又はこれらの酵素が活性を発揮し得ないとの特段の事情も認められないことを踏まえると、「14」~「19」をコードする外来性核酸を含むことに加え、(i)DXS経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有するか、又は(ii)メバロン酸経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有し、かつ「12」をコードする核酸を含み、さらに、「11」をコードする外来性核酸を含むか、「8」をコードする外来性核酸を含むか、「8」及び「13」をコードする外来性核酸を含むか、「8」及び「9」をコードする外来性核酸を含むか、「8」~「10」をコードする外来性核酸を含む細菌において、各酵素が活性を発揮し、メバロン酸、IPP、ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)、イソプレン、ゲラニルピロリン酸(GPP)、ファルネシルピロリン酸(FPP)、ファルネセン、ヘプタプレニル二リン酸(HPP)、又はオクタプレニル二リン酸(OPP)が産生されると認められる。このことは、実施例4,5において、代謝系を構成する複数の酵素をコードする複数の核酸を導入した微生物がファルネセンを産生したことに裏付けられる。 よって、明細書及び図面の記載事項に加え、出願時の技術常識を考慮すると、本件発明1のテルペンまたはその前駆体を産生する方法によって、COを含む気体基質から、メバロン酸、IPP、ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)、イソプレン、ゲラニルピロリン酸(GPP)、ファルネシルピロリン酸(FPP)、ファルネセン、ヘプタプレニル二リン酸(HPP)、又はオクタプレニル二リン酸(OPP)を産生することを、合理的に理解できる。 すなわち、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件発明1で特定されるテルペンまたはその前駆体を産生する方法により本件発明1の課題が解決できることが、具体的に示されていることから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。 また、本件発明2,4~10も同様である。 したがって、本件発明1,2,4~10が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。 3.明確性要件について 訂正前の請求項1には、「遺伝的に改変された、酸化炭素栄養性の、酢酸産生細菌を含む培養物にCOを含む気体状の物質を提供する」なる記載と「前記培養物を発酵して気体状の物質からテルペンまたはその前駆体を産生する」なる記載が存在するが、後者の「気体状の物質」が前者の「気体状の物質」であることは特定されていないから、後者の「気体状の物質」がいかなる物質であるのかが明らかでなかったところ、訂正によって、後者の「気体状の物質」が「前記気体状の物質」に訂正されたため、後者の「気体状の物質」が前記の「気体状の物質」であることが明らかとなった。 よって、本件発明1は明確である。 本件発明2,4~10も同様である。 したがって、本件発明1,2,4~10が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満足しないとはいえない。 第5 取消理由で採用しなかった特許異議申立人が主張する取消理由について 1.特許異議申立人の取消理由 取消理由で採用しなかった特許異議申立人が主張する取消理由は概ね次のとおりである。 (実施可能要件)本件発明1,2,4~10は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものである。 2.本件発明1,2,4~10の実施可能要件違反について 上記第4の「2.サポート要件について」に記載したとおり、明細書及び図面の記載事項に加え、本願出願時の技術常識を考慮すると、テルペンまたその前駆体を産生する方法において、細菌が、「14」~「19」をコードする外来性核酸を含むことに加え、(i)DXS経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有するか、又は(ii)メバロン酸経路によりイソペンテニル二リン酸を産生する能力を有し、かつ「12」をコードする核酸を含み、さらに、イソプレンを産生する方法においては、「11」をコードする外来性核酸を含み、ゲラニルピロリン酸(GPP)又はファルネシルピロリン酸(FPP)を産生する方法においては、「8」をコードする外来性核酸を含み、ファルネセンを産生する方法においては、「8」及び「13」をコードする外来性核酸を含み、ヘプタプレニル二リン酸(HPP)を産生する方法においては、「8」及び「9」をコードする外来性核酸を含み、そして、オクタプレニル二リン酸(OPP)を産生する方法においては、「8」~「10」をコードする外来性核酸を含むことが特定されており、そのような細菌によっては、メバロン酸、IPP、ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)、イソプレン、ゲラニルピロリン酸(GPP)、ファルネシルピロリン酸(FPP)、ファルネセン、ヘプタプレニル二リン酸(HPP)、又はオクタプレニル二リン酸(OPP)を産生可能であるといえる。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。 請求項1を引用する請求項2,4~10も同様である。 したがって、本件特許発明1,2,4~10が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1,2,4~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法第114条第4項の規定により、本件請求項1,2,4~10に係る特許について結論のとおり決定する。

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2020-700558

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