特許異議申立
2020-700169
車両用塗料組成物
- 審判番号
- 2020-700169
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-072008
- 登録番号
- 特許第6573773号(P6573773)
- 請求日
- 2020年03月11日
- 審決日
- 2020年06月03日
- 公報発行日
- 2020年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大日本塗料株式会社
- 【権利者代理人】関口 正夫
- 【権利者代理人】仲野 孝雅
- 【異議申立人】羽川 照江
- 審判長/審判官
- 審判長 蔵野 雅昭
- 審判官 川端 修
- 審判官 門前 浩一
- 分類
- P1651.113-Y (C09D) / P1651.121-Y (C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6573773号発明「車両用塗料組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6573773号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6573773号の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成27年3月31日の出願であって、令和元年8月23日にその特許権の設定登録がされ、同年9月11日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~3に係る特許に対し、令和2年3月11日に特許異議申立人羽川照江(以下、「申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
1 特許第6573773号の請求項1~3の特許に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明3」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂と有機溶剤とを含む車両用塗料組成物であって、前記樹脂は、重量平均分子量が5000~60000である樹脂(X)を含み、樹脂全体に占める樹脂(X)の含有量が86.1~100質量%であり、前記樹脂(X)は、酸価が3~30のアクリル樹脂であり、前記有機溶剤がエステル系溶剤(A)と、脂環式炭化水素及び脂肪族炭化水素から選択される少なくとも一方の炭化水素(B)と、更にケトン系溶剤(C)とを含み、前記有機溶剤に占めるエステル系溶剤(A)の含有量が65.0~99.0質量%であり、前記有機溶剤に占める炭化水素(B)の含有量が0.3~25.0質量%であり、前記有機溶剤に占めるケトン系溶剤(C)の含有量が0.5~15.0質量%であり、前記エステル系溶剤(A)が、酢酸エチル、酢酸(イソ)ブチル、酢酸(イソ)ペンチル、メトキシプロピルアセテート、3-エトキシプロピオン酸エチル、ブチルグリコールアセテート、及びブチルジグリコールアセテートよりなる群から選択される少なくとも1種であり、前記ケトン系溶剤(C)が、メチルペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、及びメチルエチルケトンよりなる群から選択される少なくとも1種であり、且つ前記有機溶剤に占める芳香族化合物の含有量が5.0質量%未満であることを特徴とする2液型の車両用塗料組成物。
【請求項2】
更に、着色剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用塗料組成物。
【請求項3】
更に、メタリック顔料を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用塗料組成物。」
第3 申立理由の概要
申立人は、下記3の甲第1~7号証を提出し、次の1及び2について主張している(以下、甲号証は、単に「甲1」などと記載する。)。
1 特許法第29条第1項第3号又は第2項について(同法第113条第2号)
(1)同法第29条第1項第3号について
本件発明1~3は、甲1及び甲2に記載された発明であって、本件発明1~3は、同法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)同法第29条第2項について
本件発明1~3は、甲1又は甲2に記載された発明を主たる引用発明とし、甲1~甲6の記載に基づいて、出願前に当業者が容易に想到し得る発明であって、本件発明1~3は、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 特許法第36条第6項第1号に係る申立理由について (同法第113条第4号)
(1)本件特許発明の課題は、「キシレンやトルエンを含まない塗料組成物は、塗装作業性や乾燥性が十分に得られないため、補修用塗料組成物として実際に用いることは困難であった」という「従来技術の問題を解決し、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族化合物を含有しない車両用塗料組成物であって、塗装作業性及び乾燥性に優れる車両用塗料組成物を提供すること」である。
そして、本件特許発明は、「有機溶剤に占めるエステル系溶剤の含有量を65.0~99.0質量%、並びに脂環式炭化水素又は/及び脂肪族炭化水素の含有量を0.3~25.0質量%に調整することで、有機溶剤に占める芳香族化合物の含有朧が5.0質量%未満であっても、塗装作業性及び乾燥性に優れる車両用塗料組成物を提供することができる」という効果を奏するとされている。
(2)本件特許発明において、塗料組成物に含まれる樹脂は、重量平均分子量及び酸価がそれぞれ特定の範囲にあるアクリル樹脂(樹脂(X))を含む樹脂である。
一方、甲7には、アクリル樹脂及び有機溶剤を含み、硬化剤及び着色剤のいずれか1種以上を合んでいてもよい自動車用塗料組成物において、アクリル樹脂のモノマー組成が、塗装作業性や乾燥性等の塗料特性に大きな影響を与えることが記載されており、そして、この点は技術常識である。
よって、本件特許発明において、アクリル樹脂である樹脂(X)として、アクリル樹脂溶液1~5以外のものを用いる場合、塗装作業性及び乾燥性に係る発明の課題を解決できることが、出願時の技術常識に照らしても、当業者が認識することができない。さらに、具体的に確認した例がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、本願発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。
(3)本件特許発明において、塗料組成物に含まれる有機溶剤は、エステル系溶剤(A)と、脂環式炭化水素及び脂肪族炭化水素から選択される少なくとも一方の炭化水素(B)と、更にケトン系溶剤(C)とを含む。
一方、個々の溶剤やそれらを混合して得られた混合溶剤は、樹脂との溶解性、他の溶剤との相溶性、蒸発速度(乾燥性)等が、組成により異なるものとなることが周知である。
そうすると、本件特許発明において、有機溶剤として、実施例にある特定の有機溶剤以外の組み合わせの場合には、塗装作業性及び乾燥性に係る発明の課題を解決できることが、出願時の技術常識に照らしても、当業者が認識することができない。さらに、具体的に確認した例がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、本願発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。
(4)本件特許発明において、塗料組成物は、多種多様なアクリル樹脂、多種多様なエステル系溶剤(A)、多種多様な脂環式炭化水素及び脂肪族炭化水素から選択される少なくとも一方の炭化水素(B)、及び、多種多様なケトン系溶剤(C)を含む。
一方、アクリル樹脂のモノマー組成、個々の溶剤やそれらを混合して得られた混合溶剤の組成が、樹脂との溶解性・相溶性、溶剤間の相溶性、蒸発速度(乾燥性)等に影響を与えることが周知である。
そうすると、本件特許発明において、塗料組成物として、実施例にある特定の組成の塗料組成物以外の組成を採用した場合には、塗装作業性及び乾燥性に係る発明の課題を解決できることが、出願時の技術常識に照らしても、当業者が認識することができない。さらに、具体的に確認した例がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、本願発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。
3 証拠方法
甲1:特開2006-348116号公報
甲2:特開2006-152259号公報
甲3:米国特許出願公開第2015/0044452号明細書
甲3-1:特表2015―515506号公報(甲3の訳文)
甲4:特開2002-177869号公報
甲5:特表2012-517498号公報
甲6:特開昭60-139368号公報
甲7:特開平1-254775号公報
第4 甲1、2の記載
1 甲1
甲1には、「塗料組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
水酸基含有共重合体(A)、水酸基含有共重合体(B)、セルロース誘導体(C)並びにポリイソシアネート(D)を含有する塗料組成物であって、水酸基含有共重合体(A)を構成するモノマー成分が、スチレン(a)、有橋脂環式炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)及びその他の重合性不飽和モノマー(d)を含み、該モノマー成分合計量に基くスチレン(a)及び有橋脂環式炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b)の合計量が30質量%以上であって、水酸基含有共重合体(B)を構成するモノマー成分が、スチレン(a)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)、炭素数が1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(e)及びその他の重合性不飽和モノマー(f)を含み、且つその他の重合性不飽和モノマー(f)は、有橋脂環式炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b)を含んでも含まなくてもよいものであって、該モノマー成分合計量に基くスチレン(a)及び有橋脂環式炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b)の合計量が30質量%未満であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
水酸基含有共重合体(A)、水酸基含有共重合体(B)及びセルロース誘導体(C)の配合割合が、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計量に基いて、水酸基含有共重合体(A)が5~49質量%、水酸基含有共重合体(B)が50~94質量%、セルロース誘導体(C)が1~45質量%である請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
エステル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤及びエーテル系有機溶剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤(E)をさらに含有する請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
脂肪族炭化水素系有機溶剤(F)をさらに含有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
被塗面に、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、光沢及び研磨性を有する塗膜を形成するのに適する塗料組成物に関する。」
2 甲2には、「塗料組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【請求項1】
ベース塗料(I)並びに希釈剤(II)を含んでなる塗料組成物であって、ベース塗料(I)が、セルロース誘導体(A)、アクリル樹脂(B)、ポリエステル樹脂(C)並びにエステル系有機溶剤及びケトン系有機溶剤から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤(D)を含んでなり、セルロース誘導体(A)を成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計固形分重量中に5~75重量%含有し、希釈剤(II)が、脂肪族炭化水素系有機溶剤(E)を、希釈剤(II)中に5~90重量%含有することを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
該ベース塗料(I)がメタリックベース塗料である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
セルロース誘導体(A)が、セルロースアセテートブチレートを含む請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
セルロース誘導体(A)が、セルロースのエステル化物及び該エステル化物に重合性不飽和基を導入して得られる重合性不飽和基含有セルロースエステル化物と重合性不飽和モノマーを反応せしめてなる共重合体(F)を含む請求項1ないし3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
有機溶剤(E)が、アルキルシクロヘキサンである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
希釈剤(II)が、有機溶剤(D)を希釈剤(II)中に10~95重量%の範囲内で含有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項7】
ベース塗料(I)中の樹脂固形分100重量部を基準にして、有機溶剤(D)を100~700重量部、有機溶剤(E)を20~340重量部の範囲内で含有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項8】
希釈剤(II)の配合量がベース塗料(I)の重量に対して20~250重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1ないし7項のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項9】
被塗面に、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項10】
被塗面に、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装した後、該塗面上にクリヤー塗料を塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項 11】
請求項9または10に記載の塗装方法により得られる塗装物品。 」
「【技術分野】
【0001】
環境に対する影響のために使用が抑制されつつあるトルエン、キシレン等の揮発性有機化合物を実質的に含むことなく、仕上がり性、乾燥性、硬度、付着性等に優れた塗膜を形成するのに適する塗料組成物を提供する。」
第5 判断
1 特許法第29条第1項第3号又は同条第2項に係る申立理由について
(1)甲1、2に記載された発明
ア 甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1には、その請求項1からみて、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「水酸基含有共重合体(A)、水酸基含有共重合体(B)、セルロース誘導体(C)並びにポリイソシアネート(D)を含有する塗料組成物であって、水酸基含有共重合体(A)を構成するモノマー成分が、スチレン(a)、有橋脂環式炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)及びその他の重合性不飽和モノマー(d)を含み、該モノマー成分合計量に基くスチレン(a)及び有橋脂環式炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b)の合計量が30質量%以上であって、水酸基含有共重合体(B)を構成するモノマー成分が、スチレン(a)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(c)、炭素数が1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレート(e)及びその他の重合性不飽和モノマー(f)を含み、且つその他の重合性不飽和モノマー(f)は、有橋脂環式炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b)を含んでも含まなくてもよいものであって、該モノマー成分合計量に基くスチレン(a)及び有橋脂環式炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b)の合計量が30質量%未満である塗料組成物。」
イ 甲2に記載された発明(甲2発明)
甲2には、その請求項1からみて、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「ベース塗料(I)並びに希釈剤(II)を含んでなる塗料組成物であって、ベース塗料(I)が、セルロース誘導体(A)、アクリル樹脂(B)、ポリエステル樹脂(C)並びにエステル系有機溶剤及びケトン系有機溶剤から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤(D)を含んでなり、セルロース誘導体(A)を成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計固形分重量中に5~75重量%含有し、希釈剤(II)が、脂肪族炭化水素系有機溶剤(E)を、希釈剤(II)中に5~90重量%含有する塗料組成物。」
(2)本件発明1と甲1、2発明との対比
本件発明1と甲1発明、甲2発明とを対比する。
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
本件発明1の「車両用塗料組成物」と、甲1発明の「塗料組成物」とは、「塗料組成物」である点で共通する。
また、甲1発明の「水酸基含有共重合体(A)」及び「水酸基含有共重合体(B)」は、本件発明1の「樹脂」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「樹脂を含む塗料組成物」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
[相違点1]
樹脂について、本件発明1は、「重量平均分子量が5000~60000である樹脂(X)を含み、樹脂全体に占める樹脂(X)の含有量が86.1~100質量%であり、前記樹脂(X)は、酸価が3~30のアクリル樹脂であ」る点が特定されているのに対し、甲1発明の「水酸基含有共重合体(A)」及び「水酸基含有共重合体(B)」に、「重量平均分子量が5000~60000である樹脂(X)を含」むかどうか不明である点。
[相違点2]
有機溶剤について、本件発明1は、「有機溶剤を含み」、「前記有機溶剤がエステル系溶剤(A)と、脂環式炭化水素及び脂肪族炭化水素から選択される少なくとも一方の炭化水素(B)と、更にケトン系溶剤(C)とを含み、前記有機溶剤に占めるエステル系溶剤(A)の含有量が65.0~99.0質量%であり、前記有機溶剤に占める炭化水素(B)の含有量が0.3~25.0質量%であり、前記有機溶剤に占めるケトン系溶剤(C)の含有量が0.5~15.0質量%であり、前記エステル系溶剤(A)が、酢酸エチル、酢酸(イソ)ブチル、酢酸(イソ)ペンチル、メトキシプロピルアセテート、3-エトキシプロピオン酸エチル、ブチルグリコールアセテート、及びブチルジグリコールアセテートよりなる群から選択される少なくとも1種であり、前記ケトン系溶剤(C)が、メチルペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、及びメチルエチルケトンよりなる群から選択される少なくとも1種であり、且つ前記有機溶剤に占める芳香族化合物の含有量が5.0質量%未満である」点が特定されているのに対し、甲1発明は、有機溶剤を含むかどうか不明な点。
[相違点3]
「塗料組成物」の型について、本件発明1は、「2液型」であることが特定されているのに対し、甲1発明は、「2液型」かどうか不明な点。
[相違点4]
「塗料組成物」の用途について、本件発明1は、「車両用」であるのに対し、甲1発明の用途は規定されていない点。
ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点1、2について検討する。
[相違点1について]
甲1の記載を参照しても、甲1発明の「水酸基含有共重合体(A)」にアクリル樹脂が含まれるかどうかは明らかではなく、その酸価も明らかではない。同様に、「水酸基含有共重合体(B)」を構成するモノマー成分には、炭素数が1~3のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが含まれるものの、その酸価は明らかではない。
そうすると、上記相違点1は実質的な相違点である。
また、甲1発明において、仮に、「水酸基含有共重合体(A)」又は「水酸基含有共重合体(B)」について、上記相違点1に係る「樹脂(X)」を採用した場合に、甲1発明がどのような特性を有する塗料組成物となるのかは明らかではなく、「水酸基含有共重合体(A)」又は「水酸基含有共重合体(B)」について、上記相違点1に係る「樹脂(X)」のものを採用する動機付けはない。
[相違点2について]
甲1発明は、有機溶剤に占める芳香族化合物の含有量が5.0質量%未満であるとしても、甲1には、甲1発明に上記相違点2に係る有機溶剤である、エステル系溶剤(A)、脂環式炭化水素及び脂肪族炭化水素から選択される少なくとも一方の炭化水素(B)及び、ケトン系溶剤(C)を含むことは記載されていない。
そうすると、上記相違点2は実質的な相違点である。
また、甲1発明において、仮に、有機溶剤として、上記相違点2に係るものを採用した場合に、甲1発明がどのような特性を有する塗料組成物となるのかは明らかではなく、上記相違点2に係る有機溶剤を採用する動機付けはない。
[本件発明1の効果について]
本件発明1は、上記相違点1、2に係る発明特定事項を備えることで、すなわち、「樹脂(X)」として、「酸価が3~30である」「アクリル樹脂」を採用することで、「硬化剤との反応が効率よく行われるため、乾燥性を更に向上させることができ」、「ポットライフが短くなる」ことがなく、「樹脂が着色する」こともない車両用塗料組成物であって(【0033】)、しかも、「有機溶剤に占めるエステル系溶剤の含有量を65.0~99.0質量%、並びに脂環式炭化水素又は/及び脂肪族炭化水素の含有量を0.3~25.0質量%に調整することで、有機溶剤に占める芳香族化合物の含有量が5.0質量%未満であっても、塗装作業性及び乾燥性に優れる車両用塗料組成物を提供することができ」(【0018】)、さらに、有機溶剤に占める含有量が0.5~15.0質量%のケトン系溶剤(C)を含むことで、「塗料組成物のポットライフを長くしたり、塗装作業性を更に向上させたりする」(【0026】)ものとなるという、甲1に記載されている事項からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものであって、その作用効果は実施例において確認されていると認められる。
[まとめ]
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明であるとすることはできないし、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
イ 甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
本件発明1の「車両用塗料組成物」と、甲2発明の「塗料組成物」とは、「塗料組成物」である点で共通する。
また、甲2発明の「ベース塗料(I)」に含まれる「アクリル樹脂(B)」は、本件発明1の「アクリル樹脂」である「樹脂(X)」に相当する。
そして、甲2発明の「希釈剤(II)」は、本件発明1の「有機溶剤」に相当し、甲2発明の「希釈剤(II)」に含まれる「脂肪族炭化水素系有機溶剤(E)」は、本件発明1の「脂肪族炭化水素」である「炭化水素(B)」に相当し、甲2発明の「脂肪族炭化水素系有機溶剤(E)」の含有量の「5~90重量%」は、本件発明1の「炭化水素(B)」の含有量である「0.3~25.0質量%」と重複する。
また、有機溶剤について、本件発明1は、「エステル系溶剤(A)と、脂環式炭化水素及び脂肪族炭化水素から選択される少なくとも一方の炭化水素(B)と、更にケトン系溶剤(C)とを含」むものであり、甲2発明は、「エステル系有機溶剤及びケトン系有機溶剤から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤(D)を含」むものであるから、「エステル系溶剤(A)」又は、「ケトン系溶剤(C)」を含む点で一致する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、「樹脂と有機溶剤とを含む塗料組成物であって、前記樹脂は、樹脂(X)を含み、前記樹脂(X)は、アクリル樹脂であり、前記有機溶剤がエステル系溶剤(A)又はケトン系溶剤(C)と、脂環式炭化水素及び脂肪族炭化水素から選択される少なくとも一方の炭化水素(B)を含み、前記有機溶剤に占める炭化水素(B)の含有量が0.3~25.0質量%である塗料組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
[相違点2-1]
樹脂(X)について、本件発明1は、「重量平均分子量が5000~60000であ」り、「樹脂全体に占める樹脂(X)の含有量が86.1~100質量%であり、前記樹脂(X)は、酸価が3~30のアクリル樹脂であ」る点が特定されているのに対し、甲2発明の「アクリル樹脂(B)」の重量平均分子量、樹脂全体に占める含有量及び酸価は不明である点。
[相違点2-2]
有機溶剤について、本件発明1は、「エステル系溶剤(A)」と、「ケトン系溶剤(C)」とを含み、「前記有機溶剤に占めるエステル系溶剤(A)の含有量が65.0~99.0質量%であり、前記有機溶剤に占めるケトン系溶剤(C)の含有量が0.5~15.0質量%であり、前記エステル系溶剤(A)が、酢酸エチル、酢酸(イソ)ブチル、酢酸(イソ)ペンチル、メトキシプロピルアセテート、3-エトキシプロピオン酸エチル、ブチルグリコールアセテート、及びブチルジグリコールアセテートよりなる群から選択される少なくとも1種であり、前記ケトン系溶剤(C)が、メチルペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、及びメチルエチルケトンよりなる群から選択される少なくとも1種であり、且つ前記有機溶剤に占める芳香族化合物の含有量が5.0質量%未満である」点が特定されているのに対し、甲2発明は、「エステル系有機溶剤及びケトン系有機溶剤から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤(D)」であり、少なくとも、「エステル系有機溶剤」又は「ケトン系有機溶剤」のいずれか一方を含むことは規定されているものの、「エステル系溶剤(A)」及び「ケトン系溶剤(C)」の両者を含むかどうか不明な点。
[相違点2-3]
「塗料組成物」の型について、本件発明1は、「2液型」であることが特定されているのに対し、甲2発明は、「2液型」かどうか不明な点。
[相違点2-4]
「塗料組成物」の用途について、本件発明1は、「車両用」であるのに対し、甲2発明の用途は規定されていない点。
[相違点2-5]
「炭化水素(B)」の含有量について、本件発明1は「0.3~25.0質量%」であるのに対し、甲2発明の「脂肪族炭化水素系有機溶剤(E)」の含有量は「5~90重量%」である点。
ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点2-1及び相違点2-2について検討する。
[相違点2-1について]
甲2の記載を参照しても、甲2発明の「アクリル樹脂(B)」の酸価は明らかではない。
そうすると、上記相違点2-1は実質的な相違点である。
また、甲2発明において、「アクリル樹脂(B)」の酸価によって、甲2発明がどのような特性を有する塗料組成物となるのかは明らかではなく、「アクリル樹脂(B)」の酸価として「3~30」のものを採用する動機付けはない。
[相違点2-2について]
甲2発明は、有機溶剤に占める芳香族化合物の含有量が5.0質量%未満であるとしても、甲2には、甲2発明にエステル系溶剤(A)及びケトン系溶剤(C)のいずれかを含むことは記載されており、仮に、両者を含むことが想定されるとしても、それらを、上記相違点2に係る本件発明1の含有量で含むことかどうかは明らかではない。また、甲2には、上記相違点2に係る本件発明1の含有量で含むことが明確に記載されているとは認められない。
そうすると、上記相違点2は実質的な相違点である。
また、甲2発明において、甲2発明にエステル系溶剤(A)及びケトン系溶剤(C)を、上記相違点2に係る本件発明1の含有量で含むようにした場合に、甲2発明がどのような特性を有する塗料組成物となるのかは明らかではなく、ステル系溶剤(A)及びケトン系溶剤(C)を、上記相違点2に係る本件発明1の含有量を採用する動機付けはない。
そして、本件発明1は、上記「[本件発明1の効果について]」で述べたように、格別顕著な作用効果を奏するものである。
[まとめ]
以上のとおり、本件発明1は、甲2発明であるとすることはできないし、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、甲1には、アクリル樹脂が記載され、その酸価は、約0.8~約32.6、好ましくは約0.8~約23.4と算出され、甲1の実施例では、酸価が6.5のアクリル樹脂が用いられている旨主張している(48頁2~9行)。
しかしながら、甲1にアクリル樹脂が記載されているとしても、その酸価の算出根拠は不明であって、申立人の当該主張は採用できない。
(イ)申立人は、甲2に記載されたアクリル樹脂の酸価は、約0.5~約32.6と算出される旨主張している(54頁14~19行)。
しかしながら、甲2にアクリル樹脂が記載されているとしても、その酸価の算出根拠は不明であって、申立人の当該主張は採用できない。
(ウ)申立人は、甲2の実施例5には、塗料組成物中の有機溶剤の組成を、酢酸ブチル80.6質量%、メチルエチルケトン6.1質量%及び脂環族炭化水素13.3質量%とすることが記載されている旨主張している(54頁24~55頁1行)。
しかしながら、甲2の実施例5について、有機溶剤の組成を申立人が主張するような含有量と認定できる根拠は不明であって、申立人の当該主張は採用できない。
エ まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明又は甲2発明と同一であるとも、甲1発明又は甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである、とすることはできない。
また、上記ウで述べたように、申立人が主張するように、甲1、2に記載された事項を認定することができず、申立人の特許法第29条に関する主張は採用することができない。
(3)本件発明2、3と甲1、2発明との対比
本件発明2、3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明又は甲2発明と同一であるとも、甲1発明、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである、とすることはできない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1~3についての申立人の特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に係る申立理由には、理由がない。
2 特許法第36条第6項第1号に係る申立理由について
本件発明の課題は、「キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族化合物を含有しない車両用塗料組成物であって、塗装作業性及び乾燥性に優れる車両用塗料組成物を提供すること」(【0006】)と認められる。
そして、上記第5 2(1)アの「[本件発明1の効果について]」で述べたように、本件明細書の記載によれば、本件発明1は、「樹脂(X)」として、「酸価が3~30である」「アクリル樹脂」を採用することで、「硬化剤との反応が効率よく行われるため、乾燥性を更に向上させることができ」、「ポットライフが短くなる」ことがなく、「樹脂が着色する」こともない車両用塗料組成物であって(【0033】)、しかも、「有機溶剤に占めるエステル系溶剤の含有量を65.0~99.0質量%、並びに脂環式炭化水素又は/及び脂肪族炭化水素の含有量を0.3~25.0質量%に調整することで、有機溶剤に占める芳香族化合物の含有量が5.0質量%未満であっても、塗装作業性及び乾燥性に優れる車両用塗料組成物を提供することができ」(【0018】)、さらに、有機溶剤に占める含有量が0.5~15.0質量%のケトン系溶剤(C)を含むことで、「塗料組成物のポットライフを長くしたり、塗装作業性を更に向上させたりする」(【0026】)ものとなることが理解でき、その作用効果は実施例において確認されていると認められる。
これに対し、申立人は、アクリル樹脂である樹脂(X)として、実施例に示されたアクリル樹脂溶液1~5以外のものを用いた場合、有機溶剤として、実施例にある特定の有機溶剤以外の組み合わせの場合、塗料組成物として、実施例にある特定の組成の塗料組成物以外の組成を採用した場合には、いずれも、塗装作業性及び乾燥性に係る発明の課題を解決できることが、出願時の技術常識に照らしても、当業者が認識することができない旨を主張しているものの、具体的な根拠は示されていない。
そうすると、本件発明が本件発明の課題を解決するものではない、ということはできず、申立人の特許法第36条第6項第1号に係る申立理由には、理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700169