特許異議申立
2020-700015
歯科用矯正器具
- 審判番号
- 2020-700015
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-134009
- 登録番号
- 特許第6557637号(P6557637)
- 請求日
- 2020年01月14日
- 審決日
- 2020年12月25日
- 公報発行日
- 2021年04月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社NN
- 【権利者代理人】広瀬 文彦
- 【異議申立人】岡本 昭二
- 審判長/審判官
- 審判長 内藤 真徳
- 審判官 莊司 英史
- 審判官 宮崎 基樹
- 分類
- P1651.121-YAA(A61C) / P1651.113-YAA(A61C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6557637号発明「歯科用矯正器具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6557637号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1、2]について訂正することを認める。
特許第6557637号の請求項1および2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6557637号の請求項1および2に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成28年7月6日に出願され、令和1年7月19日にその特許権の設定登録がされ、同年8月7日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年1月14日 特許異議申立人岡本昭二(以下「申立人」とい う。)による特許異議の申立て
令和2年 5月7日付け 取消理由通知書
令和2年 7月9日 特許権者による意見書および訂正請求書の提出
令和2年9月25日 申立人による意見書の提出
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和2年7月9日付けの訂正請求書による訂正の請求は、「特許6557637号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~2について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は本件特許に係る特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(以下「以下「本件訂正事項」という。)。
特許請求の範囲の請求項1において「前記矯正機器(10)の上顎用矯正部(11)に設けられた凹溝(14)を介して前記臼歯キャップ(20)に係止することにより、前記臼歯キャップ(20)の外周に装着されることを特徴とする歯科用矯正器具。」と記載されているのを、「前記矯正機器(10)の上顎用矯正部(11)の上顎当接部(15)に臼歯キャップ(20)と同じ形状で削設される凹形状からなる凹溝(14)を介して前記臼歯キャップ(20)に係止装着することにより、前記臼歯キャップ(20)の外周に装着されて前記矯正機器(10)と前記臼歯キャップ(20)とが一体となることを特徴とする歯科用矯正器具。」に訂正する。(請求項1の記載を引用する訂正後の請求項2も同様に訂正する。)
2 訂正の適否
(1) 訂正の目的について
本件訂正事項は、訂正前の請求項1の発明特定事項である「矯正機器(10)」について、「前記矯正機器(10)の上顎用矯正部(11)の上顎当接部(15)に臼歯キャップ(20)と同じ形状で削設される凹形状からなる凹溝(14)を介して前記臼歯キャップ(20)に係止装着することにより、前記臼歯キャップ(20)の外周に装着されて前記矯正機器(10)と前記臼歯キャップ(20)とが一体となる」と減縮するとともに、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2について同様に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないこと
本件訂正事項は、訂正前の請求項1の発明特定事項である「矯正機器(10)」について、「前記矯正機器(10)の上顎用矯正部(11)の上顎当接部(15)に臼歯キャップ(20)と同じ形状で削設される凹形状からなる凹溝(14)を介して前記臼歯キャップ(20)に係止装着することにより、前記臼歯キャップ(20)の外周に装着されて前記矯正機器(10)と前記臼歯キャップ(20)とが一体となる」と減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもなく、同様に、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2についても発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
(3) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであること
本件訂正事項は、訂正前の請求項1の発明特定事項である「矯正機器(10)」について、「前記矯正機器(10)の上顎用矯正部(11)の上顎当接部(15)に臼歯キャップ(20)と同じ形状で削設される凹形状からなる凹溝(14)を介して前記臼歯キャップ(20)に係止装着することにより、前記臼歯キャップ(20)の外周に装着されて前記矯正機器(10)と前記臼歯キャップ(20)とが一体となる」と減縮するものである。
本件訂正事項のうち、凹溝(14)が「前記矯正機器(10)の上顎用矯正部(11)の上顎当接部(15)に臼歯キャップ(20)と同じ形状で削設される凹形状からなる」との事項については、本件明細書の段落【0024】の「凹溝14は、本実施例では、前述の上顎側左右の臼歯乃至犬歯に位置する箇所に設けられる樹脂製の上顎当接部15に削設される凹形状からなる。凹溝14は、臼歯キャップ20と同じ形状で削設されており、」との記載から、本件明細書に記載されていることが理解できる。
また、本件訂正事項のうち、矯正機器(10)が「凹溝(14)を介して前記臼歯キャップ(20)に係止装着することにより、前記臼歯キャップ(20)の外周に装着されて前記矯正機器(10)と前記臼歯キャップ(20)とが一体となる」との事項については、本件明細書の段落【0024】の「すなわち、矯正機器10は、左右上下の任意の臼歯に装着し咬合拳上を行うため、上顎用矯正部11に設けられた凹溝14を介して臼歯キャップ20に係止する構造である。これにより、矯正機器10と臼歯キャップ20とを一体的に使用することが可能となり、」との記載および図1の図示内容から、本件明細書に記載されていることが理解できる。
よって、本件訂正事項は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(4)一群の請求項であることについて
訂正前の請求項2は、請求項1を引用しているものであって、本件訂正事項によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、訂正前の請求項1および2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 小括
上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項の規定により準用する第126条第5項および第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、令和2年7月9日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1、2]について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正が認められたため、本件特許発明は、令和2年7月9日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1および2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。(以下、それぞれ「本件発明1、本件発明2」という。)
【請求項1】
口腔内に装着した状態で使用するための歯科用矯正器具(1)において、
前記歯科用矯正器具(1)は、口腔内に着脱自在に装備される矯正機器(10)と、該矯正機器近傍に立設される臼歯キャップ(20)と、からなり、
前記矯正機器(10)は、上顎用矯正部(11)と下顎用矯正部(12)とをワイヤー(13)により一体的に形成した一対のU字型矯正具からなり、上下顎の位置を調整しつつ歯列の矯正を行うとともに、
前記臼歯キャップ(20)は、周辺の歯より少し高さのある臼歯と略同じ形状の大型の固定用被覆蓋体からなり、上下の臼歯キャップを咬合させて咬合せの最適化を行うように、上下顎の各臼歯の4カ所であって、上下の臼歯キャップが咬合する位置に嵌合装着可能に形成され、
前記矯正機器(10)は、前記臼歯キャップ(20)を左右上下の任意の臼歯に装着し咬合拳上を行いながら矯正機器(10)による歯列矯正を行うため、前記矯正機器(10)の上顎用矯正部(11)の上顎当接部(15)に臼歯キャップ(20)と同じ形状で削設される凹形状からなる凹溝(14)を介して前記臼歯キャップ(20)に係止装着することにより、前記臼歯キャップ(20)の外周に装着されて前記矯正機器(10)と前記臼歯キャップ(20)とが一体となることを特徴とする歯科用矯正器具。
【請求項2】
前記臼歯キャップ(20)は、レジンからなることを特徴とする請求項1記載の歯科用矯正器具。
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1および2に係る特許に対して、当審が令和2年5月7日付けで特許権者に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許の請求項1および2に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が下記の引用文献に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
[引用文献]
甲第1号証:特開2010-200986号公報(以下「甲1」という。)
甲第3号証:遠藤敏哉、「必携!矯正装置 簡便な矯正装置で最大の治療効果を得るために」2014年1月10日発行、クインテッセンス出版株式会社、第32-33頁(以下「甲3」という。)
甲第4号証:中原泉、外1名、「常用歯科辞典」2016年5月20日第4版発行、医歯薬出版株式会社、第1356頁(以下「甲4」という。)
(2) 引用文献の記載
(2-1) 甲1に記載された技術的事項、引用発明について
ア 甲1には、下記の記載がある(下線は当審で付与した。以下同様。)。
(ア) 「【0001】
本発明は、歯並びを楽に治すための機能的矯正キャップに関する
ものである。」
(イ) 「【背景技術】
【0002】
従前から、機能的矯正装置としては、バイオネーター(Bionator)、ビムラー(Bimler)、ムー(MUH)などが知られている。この機能的矯正が考え出された歴史は古く、正常な筋機能は正常な咬合を導き、異常な筋機能は不正咬合を招くという知見に基づいている。したがって、機能的矯正とは、異常な筋機能を正常な筋機能に戻すことにある。筋機能のバランスを整えることでもある。歯列弓(はならび)は機能の調和によって成り立つからである。上記の機能的矯正装置の利点をあげるとつぎのようになる。1上記に示した機能的矯正装置はいずれも取り外しできるため夜いれるだけでよい。」
(ウ) 「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る機能的矯正キャップは、プラスチックで高さがある臼歯状に作られるとともに、内側は凹状として臼歯に装着可能に成形されてなる
ものである。 また、本発明に係る機能的矯正キャップは、プラスチックで高さがある臼歯状に作られるとともに、内側は凹状として奥歯の臼歯に装着可能に成形されてなるものである。」
(エ) 「【発明の効果】
【0006】
本発明に係る機能的矯正キャップによれば、白色のプラスチックで高さがある臼歯状に作られるとともに、内側は凹状として臼歯に装着可能としてなるから、これを実際に患者の歯に装着すると噛み合せが高く変わる。同時に口の中が広く舌の動く範囲も広くなるから、継続して使用することにより舌圧と頬圧の力の働きも相俟って前後左右の顎の位置が理想的な位置に動き、歯の移動する余地を拡大して自然にその人にとってバランスのよいニュートラルゾーンに移動させる効果が得られる。」
(オ) 「【0008】
・・・本発明に係る機能的矯正キャップとして上顎第一乳臼歯キャップ1A, 1B、上顎第二乳臼歯キャップ2A, 2B、下顎第一乳臼歯キャップ3A, 3B、下顎第二乳臼歯キャップ4A, 4Bの計8本を用意した。
図1~図3は上顎第二乳臼歯2Aの平面写真、底面写真、側面写真をそれぞれ示している。図2および図3の写真で明らかなように、キャップの内側は患者の歯に装着可能な凹状部5が成形されている。このように機能的矯正キャップはすべて対応する患者の歯に装着可能な凹状部が成形されている。
図4は上顎石膏モデル6のキャップ未装着平面写真で、上顎第一乳臼歯キャップ1A, 1Bと上顎第二乳臼歯2A, 2Bを左右に並べている。図5は上顎石膏モデル6のキャップ装着平面写真で、上顎石膏モデル6の上顎第一乳臼歯と上顎第二乳臼歯に、上記上顎第一乳臼歯キャップ1A, 1Bと上顎第二乳臼歯2A, 2Bが装着されている。実際には接着剤などを使用して取り外せないように固定させる。固定手段についてはどのような固定手段を用いてもよい。取り外すときに容易に取り外しできる固定手段であってもよい。図6は下顎石膏モデル7のキャップ未装着平面写真で、下顎一乳臼歯キャップ3A, 3B、下顎第二乳臼歯キャップ4A, 4Bを左右に並べている。図7は上顎石膏モデル7のキャップ装着平面写真で、下顎石膏モデル7の下顎第一乳臼歯と下顎第二乳臼歯に、下顎一乳臼歯キャップ3A, 3B、下顎第二乳臼歯キャップ4A, 4Bが装着されている。」
(カ) 「【0009】
・・・
図26はビムラー(Bimler)を併用している正面写真を示す。図27は4か月後の歯の正面写真を示す。・・・」
(キ) 「【0011】
・・・
尚、上記機能的矯正キャップは子供の上顎および下顎の第一臼歯および第二臼歯の計8本の乳歯に装着させているが、乳歯が抜けて1本しか残っていない場合はその1本に装着しても効果は期待できるので、キャップを装着する本数には限定されない。理想としては、上の永久歯の前歯2本と下の永久歯の前場4本が揃った時期が一番よく、またきれいに治るが、最適の時期を過ぎたとしても、たとえば上の真中から2本目が下の歯の前にきてしまった時に治療を始めても間に合う。また、本発明に係る機能的矯正キャップを他の機能的矯正装置と併用しても支障ない。たとえば夜寝るときはビムラー(Bimler)と併用するといったこともケースによっては効果的であり、むしろ望ましいこともある。」
(ク) 甲1の機能的矯正キャップやビムラーは、臼歯に装着されるものであるから、甲1の矯正器具は、口腔内に装着した状態で使用されることは、明らかである。
(ケ) 甲1の「機能的矯正装置はいずれも取り外しできるため夜いれるだけでよい。」(イ)との記載から、ビムラーは、口腔内に着脱自在に装着されるものといえる。
(コ) 甲1の機能的矯正キャップは、臼歯に装着できる大きさであることから、機能的矯正キャップは、臼歯より大きいことは明らかである。
イ 引用発明
上記(1)の(ア)~(キ)の記載事項および(ク)~(コ)の認定事項より、甲1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「口腔内で臼歯に装着した状態で使用される、機能的矯正キャップおよびビムラーからなる矯正器具において、
前記ビムラーは、口腔内に着脱自在に装備されるものであり、
前記機能的矯正キャップは、白色のプラスチックで高さがあり臼歯より大きい臼歯状に作られるとともに、内側は凹状として臼歯に装着可能としてなり、患者の歯に装着すると噛み合せが高く変わり、患者の上顎および下顎の第一臼歯および第二臼歯の計8本の乳歯に装着されるものである機能的矯正キャップおよびビムラーからなる歯並びを治す矯正器具。」
(2-2) 甲3に記載された技術
「
」(33ページ)
甲3の図4-1c(33ページ)の図示内容によれば、ビムラーはワイヤーで形成されるとともに上顎用矯正部に凹溝を有し、該凹溝が臼歯に当接して口腔内に固定されること、および一体的かつ上下に一対のU字型の矯正具を備えていることが看取できる。
(2-3) 甲4に記載された技術
「
」(1356ページ)
甲4の写真(1356ページ)の図示内容によれば、ビムラーはワイヤーで形成されるとともに上顎用矯正部に凹溝を有し、該凹溝が臼歯に当接して口腔内に固定されること、および一体的かつ上下に一対のU字型の矯正具を備えていることが看取できる。
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「機能的矯正キャップ」は、その機能からみて本件発明1の「臼歯キャップ(20)」に相当する。
以下同様に「ビムラー」は「矯正機器(10)」に、「機能的矯正キャップおよびビムラーからなる矯正器具」は「歯科用矯正器具(1)」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1の「機能的矯正キャップは、白色のプラスチックで高さがあり臼歯より大きい臼歯状に作られる」態様は、本件発明1の「前記臼歯キャップ(20)は、周辺の歯より少し高さのある臼歯と略同じ形状の大型の固定用被覆蓋体からな」る態様に相当する。
引用発明1の機能的矯正キャップが、「内側は凹状として臼歯に装着可能としてなり、患者の歯に装着すると噛み合せが高く変わり、患者の上顎および下顎の第一臼歯および第二臼歯の計8本の乳歯に装着され」る態様は、歯にかぶせ物をしたときには、咬み合わせの最適化を行うことが技術常識であることを踏まえれば、本件発明1の「上下の臼歯キャップを咬合させて咬合せの最適化を行うように、上下顎の各臼歯の4カ所であって、上下の臼歯キャップが咬合する位置に嵌合装着可能に形成され」る態様に相当する。
引用発明1のビムラーと機能的矯正キャップは、内側は凹状として臼歯に装着可能なキャップであって口腔内で同時に用いられるものであるから、機能的矯正キャップは、ビムラーの近傍に立設されているといえる。
そうすると、本件発明1と引用発明1とは、
「口腔内に装着した状態で使用するための歯科用矯正器具において、
前記歯科用矯正器具は、口腔内に着脱自在に装備される矯正機器と、該矯正機器近傍に立設される臼歯キャップと、からなり、
前記臼歯キャップは、周辺の歯より少し高さのある臼歯と略同じ形状の大型の固定用被覆蓋体からなり、上下の臼歯キャップを咬合させて咬合せの最適化を行うように、上下顎の各臼歯の4カ所であって、上下の臼歯キャップが咬合する位置に嵌合装着可能に形成される、
歯科用矯正器具。」
で一致し、下記の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「前記矯正機器(10)は、上顎用矯正部(11)と下顎用矯正部(12)とをワイヤー(13)により一体的に形成した一対のU字型矯正具からなり、上下顎の位置を調整しつつ歯列の矯正を行う」のに対して、引用発明1のビムラーの構成は不明であり、上下顎の位置を調整しつつ、歯列の矯正を行うか不明な点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記矯正機器(10)は、前記臼歯キャップ(20)を左右上下の任意の臼歯に装着し咬合拳上を行いながら矯正機器(10)による歯列矯正を行うため、前記矯正機器(10)の上顎用矯正部(11)の上顎当接部(15)に臼歯キャップ(20)と同じ形状で削設される凹形状からなる凹溝(14)を介して前記臼歯キャップ(20)に係止装着することにより、前記臼歯キャップ(20)の外周に装着されて前記矯正機器(10)と前記臼歯キャップ(20)とが一体となる」のに対して、引用発明1のビムラーは、咬合挙上を行いながら歯列矯正を行うために、機能的矯正キャップに係止装着するための、機能的矯正キャップと同じ形状で削設される凹形状からなる凹溝を上顎に当接する部分に備え、当該凹溝を介して機能的矯正キャップに係止装着することにより当該機能的矯正キャップの外周に装着されて当該ビムラーと当該機能的矯正キャップとが一体となるか不明な点。
(2) 判断
相違点についての検討
事案に鑑み、先ず、相違点2について検討すると、甲1には、「また、本発明に係る機能的矯正キャップを他の機能的矯正装置と併用しても支障ない。たとえば夜寝るときはビムラー(Bimler)と併用するといったこともケースによっては効果的であり、むしろ望ましいこともある。」(【0011】)との記載はあるが、咬合挙上を行いながら歯列矯正を行うために、ビムラーを機能的矯正キャップに係止装着するとの記載はない。
そして、甲3および甲4の記載から、ビムラーはワイヤーで形成されるとともに上顎用矯正部に凹溝を有し、該凹溝が臼歯に当接して口腔内に固定されること、および一体的かつ上下に一対のU字型の矯正具を備えていることが技術常識であったとしても、甲1、甲3および甲4には、ビムラーを臼歯以外のものである機能的矯正キャップに係止装着することは開示されていない。
そして、本件発明1は、相違点2に係る構成を備えることにより、「矯正機器10と臼歯キャップ20とを一体的に使用することが可能となり、歯科用矯正器具1を口腔内に装着する際に使用者が不快感、違和感等の負担を感じることを抑制することが可能となるとともに、下顎の前方成長促進とともに正しい咬合位置を確保した精確な歯列矯正を行う事が可能」(【0024】)とすることができるという格別顕著な効果を奏するものであり、当業者が適宜なし得る設計的事項ということもできない。
したがって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、引用発明1並びに甲3および甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 本件特許発明2について
上記第3に示したとおり、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、 本件発明2は、引用発明1とは、少なくとも上記相違点2において相違するといえる。
そして、上記相違点2については、上記1(2)に示したとおりであるから、本件発明2についても、引用発明1並びに甲3および甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(3) 小括
よって、本件発明1および2は、引用発明1並びに甲3および甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 甲1に基づく新規性欠如について
申立人は、本件発明1は、本件特許の出願前日本国内において頒布された甲1に記載された発明あって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないと主張する。
しかしながら、上記第5 1 (1)で検討したとおり、本件発明1と甲1に記載された引用発明とは相違点1および2で相違する。
事案に鑑み、先ず、相違点2について検討すると、相違点2が当業者からみて自明な事項であることを裏付けるような証拠はない。
そして、本件発明1は、相違点2に係る構成を備えることにより、「矯正機器10と臼歯キャップ20とを一体的に使用することが可能となり、歯科用矯正器具1を口腔内に装着する際に使用者が不快感、違和感等の負担を感じることを抑制することが可能となるとともに、下顎の前方成長促進とともに正しい咬合位置を確保した精確な歯列矯正を行う事が可能」(【0024】)とすることができるという格別顕著な効果を奏するものであるから相違点2は実質的な相違点といえる。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は引用発明1であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないとすることはできない。
2 甲2に基づく新規性欠如について
(1) 申立人の主張
申立人は、本件発明1は、本件特許の出願前日本国内において頒布された下記の甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないと主張する。
甲第2号証 永井光希子、「歯並びは楽に治そう!」、2008年7月1日発行、星雲社、24、25、30、31、34、35、42、43、72、73、82、83、86、87、132ページ(以下「甲2」という。)
(2) 甲2に記載された技術的事項、甲2記載の発明
ア 甲2に記載された技術的事項
甲2には、下記の記載がある。なお、括弧内の記載はふりがなである。
(ア) 「このBimler(ビムラー)装置を夜、お口にいれて寝るだけです。
それが、ブラケットを必要としない矯正(きょうせい)を完成させるのです」(24ページ9,10行)
(イ) 「NeO-Cap(ネオキャップ)+Bimler(ビムラー)
夜のみBimler(ビムラー)をいれます。」(31ページ 1、2行)
(ウ) 「このシステムは、NeO-Cap(ネオキャップ)というものにBimler(ビムラー)をたす。この二つの装置だけで、ブラケットをつけずに最期まで治療をするというシステムです。」(34ページ 2、3行)
(エ) 「その時にレジン(プラスチック)だと簡単に外す事ができるのです。」(42ページ 9、10行)
(オ) 「NeO-Cap(ネオキャップ)は、乳歯の奥歯につけます。」(72ページ 2行)
(カ) 「乳歯の奥歯二本。
この2本は大変大事です。
NeO-Cap(ネオキャップ)をつける歯です。」(82ページ 2~4行)
(キ) 「NeO-Cap(ネオキャップ)の材料には金属ではなくプラスチックを使っています。」(86ページ 10行)
(ク) 「NeO-Cap(ネオキャップ)
装着時の写真
確かに
高そうに見えます
心配ありません!」(87ページ 2~6行)
(ケ) 甲2のNeO-Cap(ネオキャップ)は、乳歯の奥歯につけられている(上記(オ)、(カ))ことから、NeO-Cap(ネオキャップ)およびBimler(ビムラー)とからなるシステムは、口腔内に装着した状態で使用するためのものであることは、明らかである。
イ 甲2に記載された発明
上記(ア)~(ク)の記載事項、並びに(ケ)の認定事項より、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。
「口腔内に装着した状態で使用するためのシステムにおいて、
乳歯の奥歯2本につけるNeO-Cap(ネオキャップ)、Bimler(ビムラー)とからなり、治療をするシステム。」(以下「引用発明2」という。)
(3)対比・判断
ア 対比
本件発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2における「口腔内に装着した状態で使用するためのシステム」は、その機能からみて「歯科用矯正器具(1)」に相当する。
以下同様に、「乳歯の奥歯2本につけるNeO-Cap(ネオキャップ)」は「臼歯キャップ(20)」に、「Bimler(ビムラー)」は「矯正機器(10)」に、「治療をするシステム」は「歯科用矯正器具(1)」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明2とは、
「口腔内に装着した状態で使用するための歯科用矯正器具において、
前記歯科用矯正器具は、矯正機器と、臼歯キャップと、からなる歯科用矯正器具。」
で一致し、下記の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1の「矯正機器(10)」は、「上顎用矯正部(11)と下顎用矯正部(12)とをワイヤー(13)により一体的に形成した一対のU字型矯正具からなり、上下顎の位置を調整しつつ歯列の矯正を行うとともに、
前記臼歯キャップ(20)は、周辺の歯より少し高さのある臼歯と略同じ形状の大型の固定用被覆蓋体からなり、上下の臼歯キャップを咬合させて咬合せの最適化を行うように、上下顎の各臼歯の4カ所であって、上下の臼歯キャップが咬合する位置に嵌合装着可能に形成され、」ているのに対して、甲2発明の「Bimler(ビムラー)」は、上顎用矯正部と下顎用矯正部とをワイヤーにより一体的に形成した一対のU字型矯正具からなり、上下顎の位置を調整しつつ歯列の矯正を行うとともに、
NeO-Cap(ネオキャップ)は、周辺の歯より少し高さのある臼歯と略同じ形状の大型の固定用被覆蓋体からなり、上下のNeO-Cap(ネオキャップ)を咬合させて咬合せの最適化を行うように、上下顎の各臼歯の4カ所であって、上下のNeO-Cap(ネオキャップ)が咬合する位置に嵌合装着可能に形成されているか不明な点。
<相違点4>
本件発明1の「前記矯正機器(10)」は、「前記臼歯キャップ(20)を左右上下の任意の臼歯に装着し咬合拳上を行いながら矯正機器(10)による歯列矯正を行うため、前記矯正機器(10)の上顎用矯正部(11)の上顎当接部(15)に臼歯キャップ(20)と同じ形状で削設される凹形状からなる凹溝(14)を介して前記臼歯キャップ(20)に係止装着することにより、前記臼歯キャップ(20)の外周に装着されて前記矯正機器(10)と前記臼歯キャップ(20)とが一体となる」のに対して、引用発明2の「Bimler(ビムラー)」は、NeO-Cap(ネオキャップ)を左右上下の任意の臼歯に装着し咬合拳上を行いながらBimler(ビムラー)による歯列矯正を行うため、前記Bimler(ビムラー)の上顎用矯正部の上顎当接部にNeO-Cap(ネオキャップ)と同じ形状で削設される凹形状からなる凹溝を介して前記NeO-Cap(ネオキャップ)に係止装着することにより、前記NeO-Cap(ネオキャップ)の外周に装着されて前記Bimler(ビムラー)と前記NeO-Cap(ネオキャップ)とが一体となるような構成となっているか不明な点。
イ 判断
本件発明1と引用発明2とは相違点3、4で相違する。
事案に鑑み、先ず、相違点4について検討すると、相違点4が当業者からみて自明な事項であることを裏付けるような証拠はない。
そして、本件発明1は、相違点4に係る構成を備えることにより、「矯正機器10と臼歯キャップ20とを一体的に使用することが可能となり、歯科用矯正器具1を口腔内に装着する際に使用者が不快感、違和感等の負担を感じることを抑制することが可能となるとともに、下顎の前方成長促進とともに正しい咬合位置を確保した精確な歯列矯正を行う事が可能」(【0024】)とすることができるという格別顕著な効果を奏するものであるから相違点4は実質的な相違点である。
そうすると、相違点3を検討するまでもなく、本件発明1は引用発明2であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないとすることはできない。
3 甲2に基づく進歩性欠如
(1) 申立人の主張
本件特許の請求項1および2に係る発明は、その出願前にその当業者が甲2に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2) 本件発明1について
対比・判断
上記2(2)~(3)に示したとおり、本件発明1と引用発明2とは、上記相違点3、4で相違する。
イ 判断
事案に鑑み、先ず、相違点4について検討すると、甲2には、「このシステムは、Neo-Cap(ネオキャップ)といものにBimler(ビムラー)をたす。この二つの装置だけで、ブラケットをつけずに最期まで治療をするというシステムです。」(2(2)(ウ))との記載はあるが、咬合挙上を行いながら歯列矯正を行うために、Bimler(ビムラー)をNeO-Cap(ネオキャップ)に係止装着するとの記載はない。
そして、甲3および甲4の記載から、ビムラーはワイヤーで形成されるとともに上顎用矯正部に凹溝を有し、該凹溝が臼歯に当接して口腔内に固定されること、および一体的かつ上下に一対のU字型の矯正具を備えていることが技術常識であったとしても、甲2~4には、ビムラーを臼歯以外のものであるNeO-Cap(ネオキャップ)に係止装着することは開示されていない。
そして、本件発明1は、上記相違点4に係る構成を備えることにより、「矯正機器10と臼歯キャップ20とを一体的に使用することが可能となり、歯科用矯正器具1を口腔内に装着する際に使用者が不快感、違和感等の負担を感じることを抑制することが可能となるとともに、下顎の前方成長促進とともに正しい咬合位置を確保した精確な歯列矯正を行う事が可能」(【0024】)とすることができるという格別顕著な効果を奏するものであり、当業者が適宜なし得る設計的事項ということもできない。
したがって、本件発明1は、上記相違点3について検討するまでもなく、引用発明2並びに甲3および甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 本件発明2について
上記第3に示したとおり、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、 本件発明2は、引用発明2とは、少なくとも上記相違点4において相違するといえる。
そして、上記相違点4については、上記(2)に示したとおりであるから、本件発明2についても、その余の相違点を検討するまでもなく、引用発明2並びに甲3および4号に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 小括
よって、本件発明1および2は、引用発明2並びに甲3および甲4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
第7 むすび
以上のとおり、本件発明1および2に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由および特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1および2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700015