特許訂正審判
2020-390106
(メタ)アクリル樹脂組成物及び(メタ)アクリル樹脂成形体
- 審判番号
- 2020-390106
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2016-001743
- 登録番号
- 特許第6642008号(P6642008)
- 請求日
- 2020年11月11日
- 審決日
- 2021年05月06日
- 公報発行日
- 2021年09月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】三菱ケミカル 株式会社
- 【請求人代理人】宮崎 昭夫
- 【請求人代理人】緒方 雅昭
- 審判長/審判官
- 審判長 佐藤 健史
- 審判官 杉江 渉
- 審判官 佐藤 玲奈
- 分類
- P141 .852-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第126条第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6642008号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第6642008号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、5-12〕に訂正することを認める。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第6642008号発明(以下「本件特許」という。)は、平成28年1月7日を出願日とする特許出願(特願2016-1743号)に係るものであって、その請求項1~12に係る発明について令和2年1月8日に特許権の設定登録がなされたものである。
そして、令和2年11月11日に本件訂正審判の請求がなされ、令和3年1月14日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年2月17日に意見書及び参考資料1~2が提出されたものである。
第2 請求の趣旨及び内容
1 訂正の趣旨
本件訂正審判請求の趣旨は、「特許第6642008号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2及び5~12について訂正することを認める、との審決を求める。」というものであり、すなわち、本件特許に係る願書に添付した明細書、特許請求の範囲を下記「2 訂正の内容」の訂正事項1~10のとおりに訂正することを求めるというものである。
2 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「(メタ)アクリル重合体(P)とタングステン酸化物粒子とを含有する(メタ)アクリル樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量が0.003質量部以上0.02質量部以下であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記方法3で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)が150,000以上30,000,000以下であり、且つ
前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分を、前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む、(メタ)アクリル樹脂組成物。
<方法3>
(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとする。
GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用し、検出器には示差屈折計を用いる。
分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行ない、GPC分子量分布曲線を得る。得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340~1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める。」
とあるのを
「(メタ)アクリル重合体(P)とタングステン酸化物粒子とを含有する(メタ)アクリル樹脂組成物であって、
前記(メタ)アクリル重合体(P)100質量部に対する前記タングステン酸化物粒子の量が0.003質量部以上0.02質量部以下であり、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記方法3で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)が150,000以上30,000,000以下であり、且つ
前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分を、前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む、
(メタ)アクリル樹脂組成物。
<方法3>
(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとする。
GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用し、検出器には示差屈折計を用いる。
分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行ない、GPC分子量分布曲線を得る。得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340~1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める。」
と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)250,000以上の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において20%以上含む、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
とあるのを
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量250,000以上の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において20%以上含む、請求項1又は2に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6に
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)400,000以上の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において5%以上含む、請求項1、2及び5のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
とあるのを
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量400,000以上の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において5%以上含む、請求項1、2及び5のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)100,000以下の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において45%以下含む、請求項1、2、5及び6のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
とあるのを
「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量100,000以下の成分を、前記GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において45%以下含む、請求項1、2、5及び6のいずれかに記載の(メタ)アクリル樹脂組成物。」
と訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0015】、【0016】、【0017】、【0018】、【0030】、【0046】、【0047】、【0048】及び【0049】にそれぞれ「重量平均分子量(Mw)」と記載されているのを、「分子量」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0073】~【0076】にそれぞれ「Mw」と記載されているのを、「分子量」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の段落【0096】、【0100】、【0104】及び明細書の段落【0106】の【表1】中にそれぞれ「Mw150,000以上の成分のGPC面積比率」と記載されているのを、
「分子量150,000以上の成分のGPC面積比率」に訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0096】、【0100】、【0104】及び明細書の段落【0106】の【表1】中にそれぞれ「Mw250,000以上の成分のGPC面積比率」と記載されているのを、
「分子量250,000以上の成分のGPC面積比率」に訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の段落【0096】、【0100】、【0104】及び明細書の段落【0106】の【表1】中にそれぞれ「Mw400,000以上の成分のGPC面積比率」と記載されているのを、「分子量400,000以上の成分のGPC面積比率」に訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の段落【0096】、【0100】、【0104】及び明細書の段落【0106】の【表1】中にそれぞれ「Mw100,000以下の成分のGPC面積比率」と記載されているのを、「分子量100,000以下の成分のGPC面積比率」に訂正する。
第3 請求人が令和3年2月17日付けの意見書に添付して提出した資料
請求人は、令和3年2月17日付けの意見書に、以下の資料を添付して提出した。
参考資料1:蒲池幹治ら監修「ラジカル重合ハンドブック-基礎から新展開まで-」、株式会社エヌ・ティー・エス、1999年、第434頁~435、453頁
参考資料2:社団法人日本分析化学会、高分子分析研究懇談会編「新版高分子分析ハンドブック」、株式会社紀伊國屋書店、1995年1月、122頁
参考資料1、2に記載された事項は、以下のとおりである。
(1)参考資料1
参考資料1には、以下の事項が記載されている。
(参1a)「1.1 はじめに
合成高分子は分子量の異なる分子の集合体であり、したがって合成高分子の分子量は一般に平均分子量で表示される。平均分子量の測定法には光散乱法(LS)、沈降平衡法、膜浸透圧法(MO)、蒸気圧浸透圧法(VPO)、末端基測定法などがあり、前二者によって重量平均分子量(Mw)が,後三者によって数平均分子量(Mn)が求められる。これらの方法は分子量既知の標準試料を必要としない点で絶対測定法に位置づけられている。」(第434頁左欄第2~11行)
(参1b)「1.2 サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
カラム充填剤の細孔の大きさを利用し、試料分子を分子サイズの大きいものから順次分離していく液体クロマトグラフィーをSECという。充填剤(固定相)と試料分子との間に水素結合などの相互作用がないことを原則とし、同じ分子サイズの分子は種類によらず同じ位置に溶出する。したがって種類の異なる高分子の間でも、分子サイズと分子量の関係を知ることにより、分子量の相互換算が可能となる。このことよりSECは高分子の分子量測定法に位置づけられる。」(第434頁右欄第9~19行)
(参1c)「またMnとMw(さらに、z平均分子量や粘度平均分子量も求められる)が同時に測定できることから、分子量分布を求めることもでき、今ではSECは高分子の分子量測定法としてよく利用されている。」(第434頁右欄第19~23行)
(参1d)「SECで高分子の分子量を求めるには、まず高速液体クロマトグラフに目的高分子の分別に適したSECカラムを装着し、クロマトグラムを測定する。また分子量既知で分子量分布の狭いポリスチレン(PS)標準試料を用いてlogM-保持容量(VR)の関係を図示した較正曲線を作成する(図1参照)。次に試料高分子のSECクロマトグラムを等分に分割し(図2)、各分割点におけるクロマトグラム高さ(Hi)を求め、また図1の較正曲線から同じ保持容量における分子量Miを求める。例えば保持容量26mlにおける高さと同じ位置における分子量(図1では275,000)を求める。次式によって平均分子量を計算する。
」(第434頁右欄第24行~第435頁左欄)
(2)参考資料2
参考資料2には、以下の事項が記載されている。
(参2a)「4.5.2 サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィー(以下SEC)はしばしばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)とも呼ばれ、MWD測定法のなかでも最も広く用いられている方法である。」(第122頁第3~6行)
第4 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)目的要件について
ア 目的要件の判断の前提
審判請求人は、訂正事項について、審判請求書5頁5.(3)イ(ア)aにおいて、本件訂正が特許法第126条第1項ただし書き2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである旨主張しているので、まず検討する。
明細書の誤記を目的とする訂正が認められるためには、特許がされた明細書の記載に誤記が存在し、それ自体で又は明細書又は図面の他の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ正しい記載が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面から自明な事項として定まる必要がある。
イ 目的要件の判断
訂正前及び訂正後の請求項1の記載は、上記「第2 請求の趣旨及び内容」「2 訂正の内容」「(1)訂正事項1」のとおりである。
前記訂正事項は、要するに、「(メタ)アクリル重合体(P)」について「樹脂成形体の切削加工性を良好にできる点」(段落【0046】)から特徴づけるための、「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分」と「重量平均分子量(Mw)」を指標にしていたのを、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」と「分子量」を指標にするものである。
そして、誤記の訂正を目的としたものとして認められるためには、(ア)訂正前の特許請求の範囲の記載がそれ自体で、又は特許された明細書の記載との関係で誤りであることが明らかであり、かつ、(イ)特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まることが必要である。
したがって、前記訂正事項が認められるためには、(ア)訂正前の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分」の記載がそれ自体で、又は明細書、特許請求の範囲の記載との関係で誤りであることが明らかであり、かつ、(イ)明細書、特許請求の範囲の記載全体から「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」の記載が自明な事項として定まることが必要である。
(ア)訂正前の特許請求の範囲の記載がそれ自体で、又は特許された明細書、他の特許請求の範囲の記載との関係で誤りであることが明らかであることについて
まず、「訂正前の特許請求の範囲の記載がそれ自体で、誤りであることが明らかであること」について検討する。
訂正前の請求項1は、「・・・ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記方法3で測定した前記(メタ)アクリル重合体(P)の重量平均分子量(Mw)が150,000以上30,000,000以下であり、且つ
前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分を、前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む、(メタ)アクリル樹脂組成物。
<方法3>
(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとする。GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用し、検出器には示差屈折計を用いる。分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行ない、GPC分子量分布曲線を得る。得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340~1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める。」
を発明特定事項としている。
まず、はじめに、本件訂正前の請求項1の記載のうち「GPC分子量分布曲線」について検討する。
「GPC分子量分布曲線」について、一般文献である参考資料2の(参2a)には「サイズ排除クロマトグラフィー(以下SEC)はしばしばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)とも呼ばれ」と記載され、同じく一般文献である参考資料1の(参1d)には、「サイズ排除クロマトグラフィー(以下SEC)」について、「SECで高分子の分子量を求めるには、まず高速液体クロマトグラフに目的高分子の分別に適したSECカラムを装着し、クロマトグラムを測定する。また分子量既知で分子量分布の狭いポリスチレン(PS)標準試料を用いてlogM-保持容量(VR)の関係を図示した較正曲線を作成する(図1参照)。次に試料高分子のSECクロマトグラムを等分に分割し(図2)、各分割点におけるクロマトグラム高さ(Hi)を求め、また図1の較正曲線から同じ保持容量における分子量Miを求める」と記載され、第2図には、縦軸に「記録計応答」、横軸に「保持容量(ml)」の曲線のグラフが記載されており、上記記載から、横軸の「保持容量(ml)」は第1図の「較正曲線」により同じ「保持容量」における「分子量Mi」に変換されること、すなわち、第2図には、縦軸が「記録計応答」であり、横軸が「分子量Mi」に変換可能な「保持容量」である「分子量分布曲線」が記載されているといえる。
そうすると、訂正前の請求項1に記載された「GPC分子量分布曲線」とは、請求人が令和3年2月17日に提出した意見書の第4頁の「((ア)及び(イ)についての説明)」の中で「本件特許請求の範囲および明細書における「GPC分子量分布曲線」は、参考資料1の435頁の図2に示されるようなものであり・・・」(第4頁第25から26行)と述べているとおり、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)」により測定された、参考資料1の第2図のような縦軸が「記録計応答」であり、横軸が「分子量Mi」である分布曲線であるといえる。
「GPC分子量分布曲線」について、訂正前の請求項1の「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線・・・ <方法3>(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとする。GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用し、検出器には示差屈折計を用いる。分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行ない、GPC分子量分布曲線を得る。得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340~1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める」の記載を確認すると、
訂正前の請求項1における「高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用」とは、参考文献1の(参1d)の「高速液体クロマトグラフに目的高分子の分別に適したSECカラムを装着」して使用することであり、訂正前の請求項1の「<方法3>」では、「分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μl」の具体的な測定条件で、「示差屈折計」を用いて「記録計応答」の値を測定している。
また、訂正前の請求項1における「得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340~1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める」とは、(参1d)の「標準資料」として「分子量既知で分子量分布の狭いポリスチレン(PS)」ではなく「分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340~1,950,000)」を用いるものであるが、(参1d)の「分子量既知で分子量分布の狭いポリスチレン(PS)標準試料を用いてlogM-保持容量(VR)の関係を図示した較正曲線を作成」と同様の操作を行っているといえる。
上記した「GPC分子量分布曲線」の意味を踏まえて訂正前の請求項1の「<方法3>」の記載をみると、その測定結果は、(参1d)の図2のような、縦軸に「記録計応答」である「示差屈折計」によって測定された値が、横軸に、「保持容量」を「分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340~1,950,000)を標準ポリマー」を用いて作成した「較正曲線」により変換した「分子量Mi」の「分子量分布曲線」になるといえる。
次に、訂正前の請求項1に記載された「重量平均分子量(Mw)」について検討する。
「重量平均分子量(Mw)」とは、(参1a)に記載されているように「平均分子量」を示す値であり、(参1d)の「試料高分子のSECクロマトグラムを等分に分割し(図2)、各分割点におけるクロマトグラム高さ(Hi)を求め、また図1の較正曲線から同じ保持容量における分子量Miを求める。例えば保持容量26mlにおける高さと同じ位置における分子量(図1では275,000)を求める。次式によって平均分子量を計算する。・・・」の「重量平均分子量」を意味する「Mw」の式により求められるものである。
そして、訂正前の請求項1における「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)」についても、上記(参1d)記載の手順により計算して求められるものであるといえる。
また、参考資料1の(参1c)には「今ではSECは高分子の分子量測定法としてよく利用されている」と、「SEC(サイズ排除クロマトグラフィー」、すなわち、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)」は、「高分子の分子量測定法」として汎用のものであることが記載されている。
以上を踏まえると、訂正前の請求項1における「GPC分子量分布曲線」とは、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)」により測定された、参考資料1の(参1d)の第2図のような縦軸が「記録計応答」であり、横軸が「分子量Mi」であるグラフの「分子量分布曲線」であるところ、訂正前の請求項1の「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として、「GPC分子量分布曲線」から(参1d)の「Mw」の計算式から算出され「平均分子量」を表す「重量平均分子量」では、「GPC分子量分布曲線」において一部の面積を画することはできないことは当業者からみれば明らかである。
したがって、訂正前の請求項1の「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分を、前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む」の記載における「重量平均分子量(Mw)」を「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積」を画する指標として用いることは当業者にとって明らかな誤りであるといえる。
(イ)訂正後の記載に関して、特許がされた明細書、特許請求の範囲の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まることについて
上記(ア)で検討したとおり、訂正前の請求項1の「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線・・・ <方法3>(メタ)アクリル樹脂組成物をTHFに溶解した溶液を、GPC測定用のサンプルとする。GPC測定では、高速液体クロマトグラフィー測定装置に、分離カラム(TSK-Gel社製、商品名:SUPER HM-H)を2本直列で使用し、検出器には示差屈折計を用いる。分離カラム温度:40℃、移動層:テトラヒドロフラン(THF)、移動層の流量:0.6ml/min、サンプル注入量:10μlの条件で測定を行ない、GPC分子量分布曲線を得る。得られたGPC分子量分布曲線について、分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340~1,950,000)を標準ポリマーとして、標準ポリマー換算分子量を求める」の記載のうち「GPC分子量分布曲線」とは、(参1d)の図2のような、縦軸に「記録計応答」である「示差屈折計」によって測定された値が、横軸に、「保持容量」を「分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340~1,950,000)を標準ポリマー」を用いて作成した「較正曲線」に変換した「分子量Mi」の「分子量分布曲線」であるといえる。
そして、「GPC分子量分布曲線」において、「前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画することができる指標は、横軸となる「保持容量」を「分子量既知のポリメタクリル酸メチル数種類(Mw340~1,950,000)を標準ポリマー」を用いて作成した「較正曲線」に変換した「分子量Mi」のみであることは当業者にとって明らかであるといえる。
そうすると、訂正前の請求項1の「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分を、前記方法3で測定したGPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む」の記載について、「重量平均分子量(Mw)」が誤りであり、「分子量」が正しいことであることは、当業者にとって自明なことといえる。
ウ 小括
以上のとおり、(ア)訂正前の請求項1の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分」の記載が技術常識からみてそれ自体で誤りであることが明らかであり、かつ、(イ)「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」の記載が技術常識からみて自明な事項として定まるといえる。
よって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものといえる。
(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であること(特許法第126条第3項)
ア はじめに
前記(1)で判断したとおり、本件訂正は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、本件訂正が特許法第126条第5項の規定に適合するかどうかについては、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)を基準として判断する(特許法第126条第5項括弧書)。
イ 本件当初明細書等の記載
本件当初明細書等の特許請求の範囲の【請求項4】には、「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において40%以上含む、請求項3に記載の(メタ)アクリル樹脂組成物」と記載され、本件訂正前の請求項1と同様の発明特定事項が記載されている。
ウ 検討
上記(1)イ(ア)及び(イ)で検討したとおり、本件の当初明細書等の特許請求の範囲の【請求項4】の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分」の記載についても技術常識からみてそれ自体で誤りであることが明らかであり、かつ、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」であることが正しい記載であることが技術常識からみて自明な事項として定まり同一の意味といえる。
したがって、本件訂正後の記載である「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」は、本件当初明細書等の記載においても自明な事項として定まるものであるということができるから、本件訂正が、本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
エ 小括
以上によると、本件訂正は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。
したがって、本件訂正は特許法第126条第5項の規定に適合する。
(3)実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更する訂正ではないこと(特許法第126条第6項)
上記(1)イ(ア)及び(イ)で検討したとおり、訂正前の請求項1の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)150,000以上の成分」の記載が技術常識からみてそれ自体で誤りであることが明らかであり、かつ、(イ)「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量150,000以上の成分」の記載が技術常識からみて自明な事項として定まり同一の意味といえるから、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は特許法第126条第6項の規定に適合する。
(4)訂正後における請求項に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであること(特許法第126条第7項)
本件訂正による訂正後の本件発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができるとはいえないものであるとする理由はみあたらない。
したがって、本件訂正は特許法第126条第7項の規定に適合する。
(5)まとめ
以上のとおり、本件訂正1は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同法同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
2 訂正事項2~4について
訂正事項2~4は、訂正前の請求項5、6、7の「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)・・・以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以上含む」ないし「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)・・・以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以下含む」の記載について、訂正事項1と同様に、「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量・・・以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以上含む」ないし「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した分子量・・・以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以下含む」と、「GPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として「重量平均分子量(Mw)」を指標にしていたのを、「分子量」を指標にするものである。
これらの訂正は、上記1で検討したとおり、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであり、かつ、同法同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
3 訂正事項5~6について
訂正事項5は、訂正前の本件明細書の段落【0015】、【0016】、【0017】、【0018】、【0030】の訂正前の「前記(メタ)アクリル重合体(P)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)・・・以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以上含む」の記載、また、段落【0046】、【0047】、【0048】及び【0049】の訂正前の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)・・・以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以下含む」の記載における、「重量平均分子量(Mw)」の記載を「分子量」と訂正、すなわち、「GPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として「重量平均分子量(Mw)」を指標にしていたのを、「分子量」を指標に訂正するものである。
訂正事項6は、訂正前の本件明細書の段落【0073】~【0076】の「前記(メタ)アクリル重合体(P)は、GPCで測定したMw・・・・以上の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以上含む」ないしは「前記(メタ)アクリル重合体(P)は、GPCで測定したMw・・・・以下の成分を、GPC分子量分布曲線におけるピーク面積において・・・%以下含む」の記載における、「Mw」の記載を「分子量」と訂正、すなわち、「GPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として「重量平均分子量」を意味する「Mw」を指標にしていたのを、「分子量」を指標に訂正するものである。
これらの訂正は、上記1で検討したとおり、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであり、かつ、同法同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
4 訂正事項7~10について
訂正事項7~10は、訂正前の本件明細書の段落【0096】、【0100】、【0104】の及び明細書の段落【0106】の【表1】中の「Mw・・・以上の成分のGPC面積比率は・・・%」ないし「Mw・・・以下の成分のGPC面積比率は・・・%」の記載における「「Mw」(重量平均分子量)の記載を「分子量」と訂正、すなわち、「GPC分子量分布曲線におけるピーク面積」における一部の面積を画する指標として「重量平均分子量」を意味する「Mw」を指標にしていたのを、「分子量」を指標に訂正するものである。
これらの訂正は、上記1で検討したとおり、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであり、かつ、同法同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
第5 むすび
以上のとおり、本件訂正は、本件訂正の訂正事項1~10は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同法同条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-390106