特許拒絶査定不服審判
2020-017828
健康補助システム、センサー、及び健康補助方法
- 審判番号
- 2020-017828
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-565355外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年12月25日
- 審決日
- 2022年02月28日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社ファーストスクリーニング
- 【請求人代理人】特許業務法人朝日特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (G01N) / P18 .113-Z (G01N) / P18 .575-Z (G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-565355「健康補助システム、センサー、及び健康補助方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月 3日国際公開、WO2019/187018〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)3月30日を国際出願日とする出願であって、令和2年2月19日付けで拒絶理由が通知され、同年6月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年9月24日付けで拒絶査定されたところ、同年12月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
第2 令和2年12月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年12月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項19の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項19】
体液中の特定の成分に応じた出力信号を出力する、1回の使用で使い捨てのセンサー素子を有するセンサーと、
前記センサーと接続される非ウェアラブル形状の送信機と
を有し、
前記送信機は、
前記センサーの出力信号が入力される入力部と、
自身の識別子を記憶する記憶部と、
前記出力信号に応じたデータ及び前記識別子を示す無線信号を、ユーザに所持されるユーザ端末に送信する無線通信部と
を有する
健康補助システム。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和2年6月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項19の記載は次のとおりである。
「【請求項19】
体液中の特定の成分に応じた出力信号を出力する、使い捨てのセンサー素子を有するセンサーと、
前記センサーと接続される非ウェアラブル形状の送信機と
を有し、
前記送信機は、
前記センサーの出力信号が入力される入力部と、
自身の識別子を記憶する記憶部と、
前記出力信号に応じたデータ及び前記識別子を示す無線信号を、ユーザに所持されるユーザ端末に送信する無線通信部と
を有する
健康補助システム。」
2 補正の適否
本件補正は、「使い捨てのセンサー素子」が「1回の使用で使い捨て」られるものである旨の限定を付加するものであって、補正前の請求項19に記載された発明と補正後の請求項19に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項19に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2005-172493号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(引1a)「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の具体例を、図1~3に示した。以下、これらの図を参照して、本発明の具体的な態様を説明するが、本発明はかかる態様のみに限定されるものではない。
【0010】
尿成分検知体2は、尿を採取できる構造であり、机などの平面に安定に置けるように底部は平らな面を持つ構造が好ましく、例えば底部が平面のコップ状あるいは筒状のものが用いられる。これらの形状のものであれば、測定時における操作性あるいは測定終了後の洗浄も容易となる。また一時的に尿成分検知体を測定結果表示体上以外の場所に置いたとき尿のこぼれも防止できる。
【0011】
尿成分検知体には、電極部が組み込まれており、好ましくは尿成分検知体の底面、さらに好ましくは尿成分検知体の底面中央部に少なくとも1種の電極が配置される。
【0012】
電極部は、ガラス電極、金属電極およびカーボン電極の少くとも1種の電極および参照電極からなり、尿中に含有される成分、例えば尿糖、尿タンパク質、硫酸抱合型胆汁酸、乳酸、尿酸、クレアチン、クレアチニン、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモンなどの各成分を検知する場合には、これらの各成分と特異的に反応して電流もしくは起電力を発生する物質、より具体的には酵素、酵素-電子伝達体および抗体の少くとも1種が、電極の周辺部に配置されている。
【0013】
尿成分検知体は、尿成分に応答する各電極部、各電極と測定結果表示体との接合部などを主要な構成要素としており、寿命がきた部分についてはその都度交換すればよい。検知の種類は、1項目でも多項目でもよい。
【0014】
尿のpHを測定する場合には、pHガラス電極が用いられ、Na+やK+などの金属イオン濃度を測定する場合には、Naイオン電極やKイオン電極が用いられる。尿のpHのみを測定する場合には、pHガラス電極の周辺部に特に配置されるものはなく、NaイオンやKイオン濃度を測定する場合も同様である。なお、金属電極としては、他にAu、Ag、Ni電極などが用いられる。これらの電極には、その電位を正確に測定するために、参照電極の併設が必要とされる。参照電極としては飽和カロメル電極、銀・塩化銀電極などが用いられるが、製作の容易性から好ましくは銀・塩化銀電極が用いられる。
【0015】
pHの測定や金属イオン濃度の測定以外に、前記の如き尿中含有有機成分を測定する場合には、次のようなバイオセンサーが用いられる。すなわち各種電極の周辺部に尿中含有成分と反応してそれらを特異的に検出する物質、例えばグルコースオキシダーゼ、クレアチナーゼ、クレアチニナーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、プロテアーゼ、グルタミン酸オキシダーゼ、胆汁酸硫酸スルフェターゼなどの酵素、これらの酵素とフェロセンまたはその誘導体、フェリシアン化カリウム、パラベンゾキノンなどの電子伝達体(メディエータ)との混合物または積層物、抗ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン抗体が配置され、被検出物質と特異的に反応して電流もしくは起電力を発生せしめ、それを測定する方式のものが用いられる。これらの場合にも、参照電極が併設される。
【0016】
一方、測定結果表示体3は、尿成分検知体に配置されている電極に対応する位置に、接合部が配置されている他、測定回路部、電磁波発信部、CPU、測定結果表示部4、電池などを主要な構成要素としており、寿命がきた部分についてはその都度交換される。また平面に安定な状態で設置できるように底部は平らな面を持つ構造が望ましい。
【0017】
測定結果表示部4の表示内容は、測定結果の数値の他、尿中含有成分の平均濃度など、表示部に予め入力されていた対応データーによる測定結果に対する説明や対処法であり、例えばpHが酸性を示す場合には、対処法として“野菜不足です。今日は野菜を食べましょう”などが挙げられる。pH以外の表示項目としては、前記したような尿中含有成分などが挙げられ、それらに対しても測定結果の数値の他、表示部に予め入力されていた対応データによる測定結果に対する説明や対処法が表示される。
【0018】
尿成分検知体および測定結果表示体は、一体型となっていても良いが、好ましくは分離・結合可能な状態、さらに好ましくは下段に測定結果表示体、上段に尿成分検知体となる状態で、いずれも平面に安定な状態で設置できる、底部が平らな面を持つコップ型またはスタンド型の尿成分検知機器1を構成する。このようにすることにより、尿のこぼれなどを防止できる。また分離・結合型とすることにより、尿成分検知体の電極の寿命が来たとき、尿成分検知体だけ交換すればよく、経済的にも有利となる。
【0019】
コップ型またはスタンド型の尿成分検知機器には、さらに測定データを無線あるいは有線で他の機器へ転送する機能を追加することもでき、例えば下段の測定結果表示体に組み込まれた電磁波発信部により、測定データを例えばパソコンに送信することができる。このような機能を有するコップ型またはスタンド型の尿成分検知機器を用いれば、パソコンにデータを保管したり、そのデータを医療機関に転送して健康状態についてのアドバイスを受けることも可能となる。
【0020】
測定の開始および終了は、手動によるボタン操作、赤外線などの無線による自動操作の形で、一時稼動もしくは常時稼動のいずれの状態でも行われる。」
(引1b)「【図3】
[図:0001385664000001.jpg]
」
(イ)引用文献1に記載された発明
a 上記(引1a)において、「尿成分検知機器1」と「尿成分検知機器」、「尿成分検知体2」と「尿成分検知体」及び「測定結果表示体3」と「測定結果表示体」は、いずれも同じものを指していることから、それぞれ、「尿成分検知機器1」、「尿成分検知体2」及び「測定結果表示体3」として整理する。また、(引1a)において、「尿成分」、「尿中含有有機成分」及び「尿中含有成分」は、いずれも尿に含有される「尿糖」などの有機成分であるから、「尿糖などの尿中含有有機成分」として整理する。
b 上記aを踏まえると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「下段に測定結果表示体3、上段に尿成分検知体2となる状態で構成された平面に安定な状態で設置できる、底部が平らな面を持つスタンド型の尿成分検知機器1において、
尿成分検知体2は、
尿糖などの尿中含有有機成分に応答する各電極部、各電極と測定結果表示体との接合部などを主要な構成要素とし、
寿命がきた部分についてはその都度交換するものであって、
尿糖などの尿中含有有機成分を測定するバイオセンサーが用いられ、
バイオセンサーは、
各種電極の周辺部に尿糖などの尿中含有有機成分と反応してそれらを特異的に検出する物質が配置され、被検出物質と特異的に反応して電流もしくは起電力を発生せしめ、それを測定する方式のものが用いられ、
測定結果表示体3は、
接合部が配置されている他、測定回路部、電磁波発信部、CPU、測定結果表示部4、電池などを主要な構成要素としており、
電磁波発信部は、
測定データを無線で他の機器へ転送するものであって、
測定データは、
パソコンに送信され、
パソコンは、
データを保管したり、そのデータを医療機関に転送して健康状態についてのアドバイスを受けることができる
尿成分検知機器1」
イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で周知例として引用された本願の国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2007-121060号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(引2a)「【0026】
本発明のセンサチップは、バイオセンサチップとして好ましく用いられる。請求項3は、この好ましい態様に該当する。例えば、血液中のグルコース量(血糖値)や尿糖値を測定する血糖値センサ、尿糖値センサなどとして用いられ、また、フルクトースセンサや肝機能検査、中性脂肪やコレステロール量の検査などにおいても好適に用いられる。特に、薬剤の劣化が問題となりやすい使い捨てタイプのバイオセンサチップとして好ましい。」
ウ 引用文献3
原査定の拒絶の理由で周知例として引用された本願の国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2010-054379号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(引3a)「【0077】
そこで、バイオセンサ1では、酸化還元電位が-0.3~+0.3Vの電子受容体を用いる構成を採用することができる。これにより、干渉物質の影響を受けにくくし、基質濃度を精度よく測定することができる。したがって、フィルターを不要とし、バイオセンサの構造をシンプルにすることができる。よって、バイオセンサ1をディスポーザブル式のバイオセンサとして好適に用いることができる。
【0078】
また、高濃度の基質量を精度よく測定できる電子受容体を反応層103に担持し、低濃度の基質量を精度よく測定できる電子受容体を反応層203に担持することで、所望の検量範囲のバイオセンサ1を設計することができる。たとえば、酸化還元酵素としてグルコースオキシダーゼを採用し、反応層103にTTF化合物、反応層203にフェロセン化合物を採用することで、生体試料に含まれる0~5g/dLのグルコース濃度を定量することができる。このバイオセンサは、干渉物質の影響も受けにくく、かつ、広範囲のグルコース濃度を測定でき、構造をシンプルにすることができる。そのため、ディスポーザブル式の尿糖バイオセンサとして好適に用いることができる。」
(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「尿成分検知機器1」は、「医療機関に転送して健康状態についてのアドバイスを受ける」ための「測定データ」である「尿糖などの尿中含有有機成分を測定する」ものであるから、本件補正発明の「健康補助システム」に相当する。
(イ)引用発明の「バイオセンサー」及び「尿糖などの尿中含有有機成分」は、それぞれ本件補正発明の「センサー素子」及び「体液中の特定の成分」に相当する。そして、引用発明の「尿成分検知体2」は、「バイオセンサー」で「尿糖などの尿中含有有機成分を測定」した信号を出力するものであるから、引用発明の「尿糖などの尿中含有有機成分を測定」した信号を出力する「バイオセンサー」を有する「尿成分検知体2」は、本件補正発明の「体液中の特定の成分に応じた出力信号を出力する」、「センサー素子を有するセンサー」に相当する。また、引用発明の「尿成分検知体2」は、「寿命がきた部分についてはその都度交換するものであ」るから、「尿成分検知体2」に有る「バイオセンサー」も「寿命がきた」ら「その都度交換するものであ」る。
一方、本件補正発明の「1回の使用で使い捨てのセンサー素子を有するセンサー」は、1回使用したセンサー素子を新たなセンサー素子に交換し、その使用したセンサー素子を捨てるという意味である。
そうすると、引用発明の「寿命がきた」ら「その都度交換する」「バイオセンサー」を有する「尿成分検知体2」と、本件補正発明の「1回の使用で使い捨てのセンサー素子を有するセンサー」とは、「交換するセンサー素子を有するセンサー」である点で共通する。
(ウ)引用発明の「電磁波発信部」は、「測定結果表示体3」に有るものであって、「測定データを無線で他の機器へ転送するもの」であるから、該「電磁波発信部」を有する「測定結果表示体3」は、本件補正発明の「送信機」に相当する。そして、引用発明の「下段」にある「測定結果表示体3」は、「接合部」により「上段」にある「尿成分検知体2」に接続されている。また、「尿成分検知機器1」は、「平面に安定な状態で設置できる、底部が平らな面を持つスタンド型」であるから、該「尿成分検知機器1」は、被ウェアラブルであって、「尿成分検知機器1」を構成する「測定結果表示体3」も非ウェアラブルであるといえる。
そうすると、引用発明の「尿成分検知体2」に接続されている非ウェアラブルである「測定結果表示体3」は、本件補正発明の「前記センサーと接続される非ウェアラブル形状の送信機」に相当する。
(エ)引用発明の「尿成分検知体2」の「接合部」は、「各電極と測定結果表示体との接合部」であるから、「測定結果表示体3」の「接合部」は、「バイオセンサー」で「尿糖などの尿中含有有機成分を測定」した信号が、「測定データ」として「尿成分検知体2」の「接合部」から入力されるものであるといえる。
そうすると、引用発明の「バイオセンサー」で「尿糖などの尿中含有有機成分を測定」した信号が、「測定データ」として入力される、「測定結果表示体3」の「接合部」は、本件補正発明の「前記センサーの出力信号が入力される入力部」に相当する。
(オ)引用発明の「測定結果表示体3」は、「測定回路部、電磁波発信部、CPU」などを有しているものであって、「電磁波発信部」は、「測定データを無線で他の機器へ転送するもの」である。
そうすると、引用発明の「測定結果表示体3」には、「電磁波発信部」から「無線で他の機器へ転送」される「測定データ」を記憶しておくための記憶部を有していることは明らかであるから、「測定データ」を記憶しておくための記憶部を有する引用発明と、「自身の識別子を記憶する記憶部」を有する本件補正発明とは、「記憶部」を有する点で共通する。
(カ)引用発明の「パソコン」は、ユーザーが所有しているものであることは明らかであるから、本件補正発明の「ユーザに所持されるユーザ端末」に相当する。そして、引用発明の「電磁波発信部」は、「測定データを無線で他の機器へ転送するもの」であって、「測定データは、パソコンに送信され」るから、引用発明の「測定データを無線で」「パソコンに送信」する「電磁波発信部」と、本件補正発明の「前記出力信号に応じたデータ及び前記識別子を示す無線信号を、ユーザに所持されるユーザ端末に送信する無線通信部」とは、「前記出力信号に応じたデータを示す無線信号を、ユーザに所持されるユーザ端末に送信する無線通信部」である点で共通する。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)「体液中の特定の成分に応じた出力信号を出力する、交換するセンサー素子を有するセンサーと、
前記センサーと接続される非ウェアラブル形状の送信機と
を有し、
前記送信機は、
前記センサーの出力信号が入力される入力部と、
記憶部と、
前記出力信号に応じたデータを示す無線信号を、ユーザに所持されるユーザ端末に送信する無線通信部と
を有する
健康補助システム。」
(相違点1)交換するセンサ素子が、本件補正発明は「1回の使用で使い捨て」であるのに対し、引用発明は「寿命がきた」場合に「その都度交換するもの」である点。
(相違点2)送信機が、本件補正発明は、送信機の「記憶部」が「自身の識別子を記憶する」ものであって、送信機の「無線通信部」が、出力信号に応じたデータだけでなく「前記識別子を示す無線信号」を、ユーザに所持されるユーザ端末に送信するものであるのに対し、引用発明はそのような特定がない点。
(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
上記(2)イ及びウで摘記したように、引用文献2に「尿糖値を測定する・・尿糖値センサなどとして用いられ・・・使い捨てタイプのバイオセンサチップ」と記載され、引用文献3に「ディスポーザブル式の尿糖バイオセンサ」と記載されていることから、「尿中含有有機成分」である「尿糖値」を測定する使い捨てのバイオセンサーは周知技術であるといえ、バイオセンサーにおける「使い捨て」とは、前回測定した体液成分等の付着の影響をなくすために、1回使用して使い捨てることを意味しているのが通常である。
そうすると、引用発明の「尿糖などの尿中含有有機成分を測定するバイオセンサー」は、上記周知技術を踏まえると、「1回の使用で使い捨て」るものであるといえる。また、仮に「1回の使用で使い捨て」るものでないとしても、「尿糖などの尿中含有有機成分を測定するバイオセンサー」を、前回測定した尿中に含有される成分等の付着の影響をなくすために、「1回の使用で使い捨て」るものとすることは当業者が容易になしえたことである。すなわち、引用発明の「尿糖などの尿中含有有機成分を測定するバイオセンサー」を、「寿命がきた場合にその都度交換するもの」から、前回測定した尿中に含有される成分等の影響をなくすために「1回の使用で使い捨て」るものとすることは当業者が容易になしえたことである。
イ 相違点2について
特殊な帯域を使用して1対1でデータを送る等の特殊な場合を除き、無線でデータを他の機器に送る場合は、通常、送信側の端末を識別するための識別子とともにデータを送信するものであって、引用発明の「測定結果表示体3」に有る「電磁波発信部」も識別子とともに「測定データを無線で他の機器へ転送」していることは明らかである。そして、該識別子は、「測定結果表示体3」内のどこかに記憶されていなければならないものであって、通常、記憶部に記憶されているものである。
そうすると、上記相違点2は、実質的な相違点であるとはいえないし、仮に、実質的な相違点であったとしても、当業者が容易に想到できたものであるといえる。
ウ 効果について
本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1ないし3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
エ 請求人の主張について
(a)請求人は、審判請求書において、本件補正発明(請求項19に係る発明)について、
「請求項17乃至19に係る発明も、相違点1に係る本願発明1の構成と対応する構成を有している。したがって、請求項17乃至19に係る発明は、本願発明1と同様の理由により、当業者が引用発明に基づいて容易に想到できたものではないと言える。」
と主張しており、その相違点1について、
「(相違点1) 本願発明1のセンサー素子は1回の使用で使い捨てであるのに対し、主引用発明の尿検知体2は交換可能であるものの1回の使用で使い捨てではない点。」
と記載し、それに対する容易想到性の判断として、
「相違点1に係る本願発明1の構成が解決しようとする課題は以下のとおりである。
(ア)衛生面の向上(センサー素子を洗浄して繰り返し使用する構造だと、洗浄時に手が汚れる可能性がある)。
(イ)過去の測定時とのコンタミネーションの回避(過去の測定時に付着した尿の洗い残しがあると残留物質が反応してしまうおそれがある)。
(ウ)センサー感度の低下(センサー素子を洗浄して繰り返し使用する構造だと、使用毎にセンサー感度が低下してしまうおそれがある)。
一方、相違点1に係る主引用発明の構成が解決しようとする課題は以下のとおりであると理解できる。
(エ)必要な部品だけを交換することにより、経済性を向上させる(引用文献1段落0018)。
このように、相違点1に係る本願発明1の構成が解決しようとする課題と相違点1に係る主引用発明の構成が解決しようとする課題は相違しており、当業者が主引用発明において相違点1に係る本願発明1の構成を適用する動機付けは無いと言える。特に、相違点1に係る主引用発明の構成は(装置全体でなく)必要な部品のみを交換することにより装置の経済性を向上させることを課題としているところ、本願発明1のようにセンサー素子を1回の使用で使い捨てとしたのでは経済性においてはむしろマイナスであり、主引用発明の構成が解決しようとする課題に反すると言え、この観点からも当業者が主引用発明において相違点1に係る本願発明1の特徴を導入する動機付けが無いと言える。相違点1に係る本願発明1の構成が解決しようとする課題(ア)~(ウ)は主引用発明において示唆すらされていない。」
旨主張している。
(b)請求人の主張に対する当審の判断
まず、請求人の主張は、引用発明の構成である「バイオセンサー」を踏まえた主張になっていない。すなわち、請求人は、引用発明の構成が解決しようとする課題として、「(エ)必要な部品だけを交換することにより、経済性を向上させる」ことのみに注目しているが、引用発明のセンサー素子は「バイオセンサー」であり、バイオセンサーである以上、上記(ア)~(ウ)の課題を内在していることは当業者において自明のことである。
そうすると、請求人の上記「相違点1に係る本願発明1の構成が解決しようとする課題と相違点1に係る主引用発明の構成が解決しようとする課題は相違しており、当業者が主引用発明において相違点1に係る本願発明1の構成を適用する動機付けは無いと言える」との主張は、両者課題が相違しているとまではいえないことから、「動機付けはない」とまではいえない。
また、請求人の上記「相違点1に係る主引用発明の構成は(装置全体でなく)必要な部品のみを交換することにより装置の経済性を向上させることを課題としているところ、本願発明1のようにセンサー素子を1回の使用で使い捨てとしたのでは経済性においてはむしろマイナスであり、主引用発明の構成が解決しようとする課題に反する」との主張については、引用発明の「尿糖などの尿中含有有機成分を測定するバイオセンサー」を1回の使用で使い捨てないとすると、使用のたびに前回測定した尿中に含有される成分等の付着を十分に洗浄するなどの経費などがかかり、経済性において必ずしも有利であるとはいえない。
以上のことから、上記請求人の主張を考慮しても、上記アの判断が変わることはない。
オ したがって、本件補正発明は、引用発明であるから、特許法29条1項3号に該当するか、又は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条1項又は2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和2年12月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和2年6月25日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項19に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項19に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の、この出願の請求項19に係る発明に対する拒絶の理由は、この出願の請求項19に係る発明は、本願の国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当するか、又は、下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開2005-172493号公報
引用文献2:特開2007-121060号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2010-054379号公報(周知技術を示す文献)
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1~3及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「使い捨てのセンサー素子」が「1回の使用で使い捨て」られるものである旨の限定を事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明であるか、又は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明であるか、又は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号に該当し同条1項の規定、又は、同条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-017828