特許拒絶査定不服審判
2020-017459
DNA変性剤を使用する成長促進剤。
- 審判番号
- 2020-017459
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-176192外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年11月17日
- 審決日
- 2022年08月19日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】石井 均
- 分類
- P18 .536-Z (A01N) / P18 .561-Z (A01N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2第1項、特許法第17条の2第3項、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-176192「DNA変性剤を使用する成長促進剤。」拒絶査定不服審判事件〔令和3年3月11日 出願公開、特開2021-38192〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、令和1年9月6日(優先権主張、令和1年5月31日、令和1年8月29日)の特許出願であって、出願後の主な手続の経緯は次のとおりである。
令和 2年 6月 1日付け: 拒絶理由通知
令和 2年 7月28日 : 意見書及び手続補正書の受付
令和 2年10月 1日付け: 拒絶査定
令和 2年11月18日 : 審判請求書及び手続補正書の受付
第2 令和2年11月18日受付の手続補正書による手続補正についての
補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年11月18日受付の手続補正書による手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
令和2年11月18日受付の手続補正書による明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号に掲げる場合の、拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にした補正であり、明細書の全文を変更するものであるところ、明細書の【発明を実施するための形態】の欄の末尾に、以下の事項を新たに加入する補正を含むものである。なお、下線は当審が付した。
「実施例
豆苗を実際に栽培して、実験データを集めました。
化合物は尿素を原料とした肥料を使用する。
豆苗を栽培する際に使用する肥料の水に対する濃度を、100%から10%ずつ刻み、10%まで、10通りの実験を実施した。
豆苗を1週間栽培して、成長スピードを観察した。濃度60%が一番成長した。次に濃度50%と濃度70%が同程度成長した。濃度50%から濃度70%をピークにして、両サイドに向かい、徐々に成長スピードは低下している。
尿素を原料とした肥料は、生物の成長スピードと因果関係がある。最適の分量の肥料を加えることにより、成長促進剤になる。」
本件補正による上記「実施例」の追加以外の補正事項は、下記2(1)イに全文を摘記した明細書の【背景技術】の欄における「・・・の塩基が水素結合している。」の後の改行の削除のみである。
2 本件補正の適否
特許法第17条の2第1項の規定により明細書について補正するときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない(同法同条第3項)。
そこで、本件補正が、本願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「当初明細書等」という。なお、本願の願書には図面は添付されていない。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるか否かについて、以下、検討する。
(1)当初明細書等の記載
当初明細書等には、以下の事項(いずれも全文を摘記した。)が記載されている。なお、下線は当審が付した。
ア 特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
実際に生きている生物に投与するDNA変性剤を使用する成長促進剤であり、尿素やホルムアミドやDMSOなどのDNA変性剤のうちの一つに対して、TAEやTBEなどの緩衝液もしくは、DTTなどの酸化還元剤などのうちの一つを加えて使用するものであり、その結果、生物の生産量を増産するという、成長促進剤。」
イ 明細書の記載
「【発明の名称】DNA変性剤を使用する成長促進剤。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物の成長スピードを早めるDNA変性剤を使用する成長促進剤の発明に関する。
【背景技術】
【0002】
生物とは、農産物や樹木や花などの植物、魚貝類や畜産動物などの動物のことをいう。
生物の細胞分裂は、染色体の量が2倍になり、染色体の塊が分かれて2個の核ができて、その結果2つの新しい細胞ができる。染色体内のDNAが分離して再作成される仕組みは次の通りである。DNAは2本の鎖がらせん状に対をなす構造となっており、AとT、GとCの塩基が水素結合している。
DNAはらせん状の2本の鎖をほどきながら2本の鎖の間で対になっている塩基の結合を解除する。解除された2本のDNA鎖に、相補正のある塩基をもった新たなDNA鎖が結合し、元々あったDNA鎖の一方と新たに生成したDNA鎖の2本で二重らせん形状を構築する。元々あったDNAと同じ塩基配列を持ったDNAが2本に増え、細胞分裂を可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、生物の成長に寄与する成長促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明の成長促進剤は、実際に生きている生物に、尿素やホルムアミドやDMSOなどのDNA変性剤のうち一つに対し、TAEやTBEなどの緩衝液もしくは、DTTなどの酸化還元剤のうち一つに加えて使用する成長促進剤である。その成長促進剤を生物に投与する結果、DNA変性が起こり、DNA再作成の仕組みが変わる。DNAは塩基間で水素結合しているが、DNA溶液に尿素やホルムアミドやDMSOなどの変性剤を加えてアルカリ性にすると、水素イオンを放出するため変性し、DNAの二重らせんが1本鎖ごと2本に分離する。分離したまま細胞分裂が起こると、2本の鎖をほどいたり塩基の結合を解除する必要がなく、さらに、同時期に同じ配列の塩基を持つ新たなDNAが発生して、2対のDNAは二重らせん形状をせず分離した状態で染色体内に留まり、染色体の塊が分かれて2個の核ができ、細胞分裂をする。この場合、細胞分裂の際、DNAの鎖をほどいたり塩基の結合解除する必要がないため、効率よく細胞分裂が起き、成長を早める。その結果、生産量を増やすことができる。
【発明の効果】
実際に生きている生物に、成長促進剤を加えることにより、生物の成長スピードを早め、生産量を増やすことができるので、将来心配される食糧不足や森林不足に対応できる。
【発明を実施するための形態】
本発明を適用した実施形態を次に説明する。
農産物や樹木や花などの植物の場合、植物が芽を出す前からの根の部分に、肥料を加えるのと同様の方法で、成長促進剤を加えるか、成長促進剤を葉面散布して、生物全体に加えるか、植物に直接成長促進剤を注射で注入するなどの方法がある。
魚貝類や畜産動物などの動物の場合、動物の餌に成長促進剤を加えるか、動物に直接成長促進剤を注射で注入するなどの方法がある。」
(2)判断
ア
当初明細書等には、明細書の【課題を解決するための手段】の欄に、「尿素」や「ホルムアミド」や「DMSO」などの「DNA変性剤」に、「緩衝液」又は「酸化還元剤」を加えて使用する「成長促進剤」を、実際に生きている生物に投与した場合、DNAの二重らせんが1本鎖ごと2本に分離し、DNAが1本鎖に分離したままで細胞分裂が起こると、DNAの鎖をほどいたり塩基の結合解除する必要がないため、効率よく細胞分裂が起き、生物の成長を早めるという、本願に係る発明の作用機序とも解される説明が記載されている。また、明細書の【発明を実施するための形態】の欄には、実際に生きている生物が植物の場合には、植物が芽を出す前からの根の部分に肥料を加えるのと同様の方法で成長促進剤を加えるといった、本願に係る発明の「成長促進剤」の投与方法についての説明が記載されている。
イ
しかし、当初明細書等には、本願に係る発明の「成長促進剤」を実際に生きている生物に投与した場合に、生物の成長スピードが早まるか否か、成長促進剤におけるDNA変性剤の濃度の違いにより、どのような影響が生じるかについて、具体的に確認できるような事項も、それらの結果を予測し得るような事項も、記載されているとは認められない。
そうすると、本件補正によって明細書に実施例として追加された、尿素を原料とした肥料を、水に対する濃度を変えて使用し、豆苗を実際に栽培して得られた、当該濃度と豆苗の成長スピードとの関係を示した実験データは、当初明細書等に記載された事項でなく、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえない。
ウ
したがって、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえないから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定に違反するものと認められる。
3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反しているものと認められるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本願に係る発明は、令和2年7月28日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認められる(以下「本願発明」という。)。なお、下線は当審が付した。
「【請求項1】
実際に生きている生物に投与するDNA変性剤を使用する成長促進剤であり、DNA変性剤に対して、緩衝液もしくは、酸化還元剤を加えて使用するものであり、その結果、生物の生産量を増産するという、成長促進剤。」
2 原査定の拒絶の理由
原査定は、「この出願については、令和2年6月1日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その理由1は、
「1.(実施可能要件) この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」
というものである。
そして、令和2年6月1日付け拒絶理由通知書の備考欄においては、次の点が指摘されている。
「発明の詳細な説明には、本願が規定する「成長促進剤」を使用することにより生物の生産量が増加したことを示す実験データ等は何ら開示されていない。
・・・、本願出願時(優先日)の技術常識によれば、核酸安定化に寄与する物質が動植物の成長促進作用を有することが知られており(・・・)、DNA変性剤として知られる物質はむしろ発癌作用や細胞傷害作用等を引き起こすものであって(・・・)、成長促進とは真逆の作用を呈するものであることが知られている。さらに、生物学の基礎知識に照らしても、本来備わるDNAの解離メカニズムを逸脱して、人為的にほどかれた不安定な状態にあるDNA鎖が、正しく複製され、かつ、細胞分裂の段階で2個の細胞に適切に分配されるとも推察し得ない。してみると、本願発明の詳細な説明に記載されたメカニズムは、具体的な実施態様等の開示なく直ちに受け入れられるものとは到底言い難いものである。」
また、原査定の備考欄においては、次の点が指摘されている。
「そもそも本願出願時(優先日)の技術常識からして、試験管レベルで細胞傷害作用が確認されている薬剤等を生きている個体に対して投与することは通常あり得ないことである。このような理解の下、例えば実験室レベルでDNA変性剤の取扱いに細心の注意が払われているのは、その実験者にも害が及ぶことを恐れるからに他ならず、何らの具体的な実施態様等の開示なく、当業者が本願発明を実施できると合理的に説明し得る根拠は全く認められない。」
3 当審の判断
(1)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)に
ついて
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(「当業者」)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならない旨を定めているところ(いわゆる「実施可能要件」)、この規定にいう「実施」とは、物の発明にあっては、その物の生産、使用等をする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第1号)、明細書の発明の詳細な説明の記載が、物の発明について実施可能要件を満たすためには、出願時の技術常識に照らし、当業者が、その物を生産できるだけでなく、使用することができる程度のものでなければならない、というべきである。
以上のことを前提として、明細書の発明の詳細な説明の記載が、本願発明について実施可能要件を満たすか否か、以下、検討する。
(2)本願発明についての実施可能要件の検討
ア
本願発明は、上記1に摘記した請求項1の記載からみて、「成長促進剤」という「物」の発明であり、この「成長促進剤」は、「DNA変性剤」に、「緩衝液」もしくは「酸化還元剤」を加えて使用するものであって、実際に生きている生物に投与することにより、その成長を促進し、生物の生産量を増産する、というものである。
そうすると、物の発明である本願発明について、明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすためには、当業者が、出願時の技術常識に照らし、上記の「成長促進剤」を使用することができると理解し得ることが必要であり、そのためには、「DNA変性剤」に「緩衝液」又は「酸化還元剤」を加えて、実際に生きている生物に投与した場合に、生物の成長が促進され、生物の生産量が増産されるということを、当業者が、出願時の技術常識に照らし、明細書の発明の詳細な説明の記載から理解し得ることが必要である。
イ
明細書の【課題を解決するための手段】の欄には、「尿素」や「ホルムアミド」や「DMSO」などの「DNA変性剤」に「緩衝液」又は「酸化還元剤」を加えて使用する「成長促進剤」を、実際に生きている生物に投与した場合の、本願発明の作用機序とも解される説明が記載されている。
ここで、「尿素」や「ホルムアミド」や「DMSO」などが「DNA変性剤」であり、例えば、水溶液中の2本鎖のDNAを1本鎖に分離させるなどして、DNAの検査や分析等に利用されることは、本願の出願時の技術常識であったと認められる。
例えば、特表2012-518430号公報には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付した。
「【0001】
本発明は、ターゲット及びプローブを別々に変性させることを含むハイブリダイゼーション用途のための組成物及び方法に関する。一実施態様では、本発明は、DNA及びRNAのインビボ、インビトロ、及びインサイツでの分子的検査に使用できる。・・・」
「【0050】
ここで使用される「変性」は、核酸又はタンパク質が、化合物、例えば・・・、有機溶媒の適用により、及び/又は例えば熱のような外部ストレスにより、その三次及び/又は二次構造を減少させたり又は失わせたりする過程を意味する。これは、変性が核酸に関連し、上記核酸が二本鎖である場合、その鎖が部分的に又は完全に分離することを意味する。・・・。
【0051】
「変性剤」は、水に比して核酸の相補鎖の相互結合親和性を低減させることのできる任意の物質を意味する。変性剤の非限定的な典型例は、ホルムアミド、尿素、DMSO及びテトラアルキルアンモニウムハロゲン化物又はその組み合わせのような有機溶媒を含む。・・・。」
また、国際公開第2018/073934号にも、以下の記載がある。なお、下線は当審が付した。
「[0034] 本発明の一実施形態は、ナノポアを用いた分析のために生体分子を処理する方法であって、・・・、少なくとも一部の高次構造が融解された生体分子と、を含む試料溶液を用意する工程を含む方法である。」
「[0048] ・・・、「高次構造が融解される」とは、高次構造が解かれることを意味し、例えば、・・・二本鎖核酸もしくは三本鎖核酸のハイブリダイゼーション構造が解かれること、・・・を意味する。」
「[0052] ・・・、生体分子と、該生体分子の高次構造を融解させる変性剤とを含む溶液を調製することにより、試料溶液を用意する。少なくとも一部の高次構造が融解された生体分子は、変性剤に基づく変性作用により得られる。変性剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、生体分子が核酸の場合は、ホルムアミド、ホルムアルデヒド、尿素、DMSOなどを用いることができ、・・・。」
加えて、特表2005-507674号公報にも、以下の記載がある。なお、下線は当審が付した。
「【請求項1】
迅速乾燥アッセイ法の形で、核酸を検出、識別および特徴付けするための方法であって、
・・・・
(i)二本鎖核酸の場合、検出されるべき核酸を変性し、その後中和する段階、
(ii)穏やかな変性剤を含む流動緩衝液において検出されるべき核酸を該試料受け取りゾーンへ添加する段階、
・・・
を含むことをさらに特徴とする方法。」
「【請求項10】
方法段階(ii)による流動緩衝液がリン酸緩衝液であり、かつ該流動緩衝液に含まれる穏やかな変性剤が、ホルムアミド、DMSO、尿素のうちの1つまたは複数であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。」
「【0037】
・・・。検出されるべき核酸の変性は、二本鎖核酸が試料に存在している場合に、常に必要とされる。・・・、好ましくは、方法段階(ii)による流動緩衝液が、リン酸またはトリス緩衝液であり、穏やかな変性剤として、ホルムアミド、DMSO、尿素のうちの1個または複数個を含む・・・。」
ウ
次に、明細書の【課題を解決するための手段】の欄に記載された本願発明の作用機序とも解される説明のうち、「尿素」や「ホルムアミド」や「DMSO」などの「DNA変性剤」に「緩衝液」又は「酸化還元剤」を加えて、実際に生きている生物に投与した場合に、
・DNA再作成の仕組みが変わる
・変性したDNAの二重らせんが1本鎖ごと2本に分離したままで細胞分裂
が起こる
・DNAの2本鎖をほどいたり塩基の結合を解除する必要がなく、同時期に
同じ配列の塩基を持つ新たなDNAが発生し、2対のDNAが二重らせん
形状をせず分離した状態で染色体内に留まり、染色体の塊が分かれて2個
の核ができ、細胞分裂をする
・細胞分裂の際に、DNAの鎖をほどいたり塩基の結合解除する必要がない
ため、効率よく細胞分裂が起き、成長を早め、その結果、生産量を増やす
ことができる
とされている点について検討する。
上記の説明は、DNA複製後に細胞質分裂が起こるという、実際に生きている生物における本来の細胞分裂時のDNA複製のメカニズムとは異なり、「DNA変性剤」に「緩衝液」又は「酸化還元剤」を加えて、実際に生きている生物に投与すると、細胞内において、人為的にほどかれたDNAが1本鎖ごとに2本に分離したままで、それぞれ2つの分裂した細胞に分配され、同時にDNA複製が行われて、その結果、効率よく細胞分裂が起き、生物の成長が促進されるというものであるが、そのような現象が生じるという技術常識が本願の出願時に存在したとは認められない。
この点については、令和2年7月28日受付の意見書において、「実際に栽培している(生きている)植物に変性剤を加えるという発想は専門家の間でもなかった、という証言を、大学教授の方から頂いております。」と述べられているように、請求人自身も認めている。
エ
そうすると、明細書に記載された上記の本願発明の作用機序とも解される説明のうち、「尿素」や「ホルムアミド」や「DMSO」などが「DNA変性剤」であるということ以外は、本願の出願時の技術常識であるとはいえず、独自の仮説や推論に基づくものと解されるが、当業者は、そのような仮説や推論が正しいことを裏付ける具体的な試験結果等が示されなければ、「DNA変性剤」に「緩衝液」又は「酸化還元剤」を加えて、実際に生きている生物に投与した場合に、生物の成長が促進され、生物の生産量が増産されるということを、理解することができないというべきである。
オ
しかしながら、明細書の発明の詳細な説明には、「DNA変性剤」に「緩衝液」又は「酸化還元剤」を加えて、実際に生きている生物に投与した場合に、生物の成長が促進され、生物の生産量が増産されることを裏付ける試験結果等は全く記載されていない。
また、上記第2のとおり、尿素を原料とした肥料を使用して豆苗を実際に栽培して得られた実験データを含む「実施例」を明細書に加入した令和2年11月18日受付の手続補正書による手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるとはいえないため、却下されている。
カ
なお、上記「実施例」の内容についても、念のため検討すると、例えば、「化学大辞典」、1996年4月1日、第1版第4刷発行、株式会社東京化学同人、第1704~1705頁、「尿素」の項目には、「尿素は,中性の窒素肥料で硫安にまさる肥効性があり,・・・」(下線は当審が付した。)と記載されているように、「尿素」が優れた窒素肥料であることは技術常識であって、適量の肥料を与えて植物を栽培することにより植物の成長促進作用が見られるのは至極当然のことである。
上記「実施例」の実験データは、豆苗を栽培した際の「尿素」の窒素肥料としての効果を、水に対する濃度を変えて具体的に確認したものに過ぎず、明細書に記載された本願発明の「DNA変性剤」の作用機序を何ら裏付けるものでないから、「ホルムアミド」や「DMSO」など様々な「DNA変性剤」に、「緩衝液」又は「酸化還元剤」を加えて、実際に生きている生物に投与した場合に、生物の成長が促進され、生物の生産量が増産されると、当業者が理解することができるとはいえない。
(3)小括
したがって、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、出願時の技術常識に照らし、本願発明の「成長促進剤」を使用することができることを理解することができるように記載したものでないから、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
第4 むすび
以上のとおり、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-017459