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特許拒絶査定不服審判

2020-015766

光学撮像システム

審判番号
2020-015766
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2019-108412外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年11月16日
審決日
2022年01月13日
公報発行日
2022年07月29日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .536-Z (G02B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2019-108412「光学撮像システム」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月17日出願公開、特開2019-179251〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、平成26年9月26日に出願した特願2014-196097号の一部を令和元年6月11日に新たな特許出願(パリ条約による優先権主張2013年9月26日、ドイツ)としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年 2月17日付け:拒絶理由通知書 令和2年 6月 2日 :意見書の提出 令和2年 6月30日付け:拒絶査定 令和2年11月16日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 本願発明について 1 本願発明 本願の請求項に係る発明は、令和2年11月16日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 対象平面の画像を生成するための光学撮像システム(1)であって、 第1の焦点面に設定された主対物レンズ(20)と、前記主対物レンズ(20)と前記対象平面との間の縮小光学ユニットであって前記主対物レンズ(20)の第1の焦点面を第2の焦点面に変更するための縮小光学ユニットとを備える、光軸(23)に沿って位置合わせされたレンズ系を備える、光学撮像システム(1)において、 前記縮小光学ユニットは、前記主対物レンズ(20)側から順に、正の屈折力を有する第1のレンズ(22)、及び負の屈折力を有する第2のレンズ(21)を備え、 対象側の第1の主平面(H)及び画像側の第2の主平面(H‘)が前記レンズ系によって画定され、 前記光学撮像システム(1)は、前記レンズ系を通って案内される観察用光線経路(30、40)を、前記第1の主平面(H)及び前記第2の主平面(H‘)それぞれにおいて前記レンズ系の前記光軸(23)から特定の距離Bに位置するように画定し、 前記第1のレンズ(22)は、第1のアッベ数を有する第1の材料から製造されること; 前記第2のレンズ(21)は、第2のアッベ数を有する第2の材料から製造されること(ここで前記第1のアッベ数は、前記第2のアッベ数より大きく該第1のアッベ数と第2のアッベ数との差が16~22であり、かつ第1の材料及び第2の材料は、第1の材料の第1の屈折率が1.6超、第2の材料の第2の屈折率が1.6超である); 前記縮小光学ユニットの第1のレンズ(22)もしくは第2のレンズ(21)を前記光軸(23)に沿って変位可能に配置すること;並びに 前記レンズ系は、波長λの範囲480nm≦λ≦660nm及び主波長e=546nmに関して以下の関係式: 【数1】 [図:0001385623000001.jpg] (ここで、 fe=前記第1の主平面Hに対する、前記主波長eに関する対象側焦点距離; fλ=前記第1の主平面Hに対する、前記波長λに関する対象側焦点距離; fe‘=前記第2の主平面H‘に対する、前記主波長eに関する画像側焦点距離) が満たされるように構成されること を特徴とする、光学撮像システム(1)。」 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、概要、次のものを含むものである。 本願発明は、光学撮像システムにおいて、「主対物レンズ(20)」並びに、「第1のレンズ(22)」及び「第2のレンズ(21)」を含む「縮小光学ユニット」を有する所定のレンズ構成を特定し、波長e及び波長λにおける対象側焦点距離及び画像側焦点距離等による条件式を規定することにより、主に、「主対物レンズの上流で縮小光学ユニットを使用する際に極めて高い撮像品質を達成できる光学撮像システムを提供することである。本発明の更なる目的は、設備の長さが短い撮像システムを提供することである。」([0007])との課題を解決したものであるが、発明の詳細な説明には実施例としてのレンズデータが開示されていないので、どのような具体的手段により前記の「極めて高い撮像品質を達成」するとの課題を解決したのかが理解できないとともに、請求項に特定された発明をどのような具体的手段により実施したのかも理解できず、よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 3 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)についての当審の判断 (1)この出願の発明の詳細な説明には、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。 ア 「【背景技術】 【0002】 光学撮像システム、特にステレオ手術用顕微鏡を通して対象を観察する場合、光学撮像システムの主対物レンズと観察される対象(例えば眼)との間の光線経路に、広角光学ユニットを導入できる。これにより、眼底の観察が可能となる。この広角光学ユニットに加えて、縮小光学ユニットを広角光学ユニットと光学撮像システムの主対物レンズとの間の光線経路内へと枢動させて、広角光学ユニットを光学撮像システム(例えば手術用顕微鏡)に適合させることができる。 【0003】 特許文献1は、選択的に追加可能な光学ユニットを用いて眼底の画像を生成できる眼科手術のための広角観察用顕微鏡を開示している。この顕微鏡はレンズ系を備え、このレンズ系は主対物レンズと、この主対物レンズの上流に配置されたレンズとを備えている。 【0004】 この顕微鏡の欠点は、広角観察における撮像品質が理想的ではないことである。主対物レンズと観察される対象との間の距離が小さいために、光線経路に付与できる焦点距離が極めて短くなる。広角光学ユニットは、光線経路に導入できる更なる縮小光学ユニットを用いて顕微鏡に適合させることができるが、これは撮像品質の低下という欠点に結びつく。 【0005】 上記のような光学的な欠点に加えて、特許文献1の光学撮像システムは、設備の長さが比較的長い。ユーザ(例えば外科医)が光学撮像システムを用いて対象(例えば患者の眼)に対して作業を行う際に、ユーザにとって不必要に邪魔にならないようにするために、縮小光学ユニットの設備の長さはごく短いものであるべきであり、また主対物レンズに可能な限り近接して配置されるべきである。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、主対物レンズの上流で縮小光学ユニットを使用する際に極めて高い撮像品質を達成できる光学撮像システムを提供することである。本発明の更なる目的は、設備の長さが短い撮像システムを提供することである。」 ウ 「【0012】 480nm~660nmの全波長λ及び主波長e=546nmに関して以下の条件: 【0013】 【数2】 [図:0001385623000002.jpg] 【0014】 が満たされるようにレンズ系を構成すると、観察用光線経路に関する撮像品質は、コントラストを低減する厄介な収差を補正できる程度に良好となり、波長λの範囲全体に亘って変わることなく高いコントラスト及び高い画像品質が達成される。 【0015】 本発明の一実施形態では、第1の材料及び第2の材料は、第1のアッベ数と第2のアッベ数との間の差が16~22となるように選択される。 【0016】 レンズ系を設計する際、正の屈折力を有するレンズの第1の材料及び負の屈折力を有するレンズの第2の材料を、これら2つの材料のアッベ数の差が16~22となるように選択すると特に有利であることが分かった。これを用いると、上述の条件を良好に満たすことができ、低い色角度偏差を維持しながら全波長範囲に亘って極めて良好なコントラストが得られ有利である。特に有利には、正の屈折力を有するレンズを高いアッベ数を有する材料から形成し、負の屈折力を有するレンズを低いアッベ数を有する材料から形成して、これらアッベ数の差を16~22とする。 【0017】 本発明の更なる実施形態では、第1の材料及び第2の材料は、第1の材料の第1の屈折率が1.6超、第2の材料の第2の屈折率が1.6超となるように選択される。 【0018】 縮小光学ユニットの第1及び第2のレンズに、高い屈折率、即ち1.6超の屈折率を有する材料を用いることにより、上述の条件を良好に満たすことができる。その結果、極めて良好なコントラスト及び低い色角度偏差を有する良好に補正された画像が得られ有利である。 【0019】 本発明の更なる実施形態では、第1のレンズを静止させた状態で配置し、第2のレンズを光軸の方向に変位可能に配置する。 【0020】 主対物レンズから観察される対象平面までの距離は可変であってもよい。その結果、修正された対象平面に対して光学観察装置の焦点を適合させる必要が生じる場合がある。顕微鏡の焦点設定が変化しないようにするために、縮小光学ユニットが焦点合わせを任意に行うことができるようにすると有利である。この任意の焦点合わせは、縮小光学ユニットの第1のレンズを静止させた状態で配置し、第2のレンズが光軸に沿って相対移動できるようにすることにより、比較的容易に達成できる。請求項1に記載の条件を満たすことにより、全焦点合わせ範囲に亘って色角度偏差の良好な補正が保証される。 【0021】 本発明の更なる実施形態では、第2のレンズを静止させた状態で配置し、第1のレンズを光軸の方向に変位可能に配置する。 【0022】 縮小光学ユニットの第2のレンズを静止させた状態で配置し、縮小光学ユニットの第1のレンズを光軸の方向に変位可能に配置すると、上記実施形態において説明したものと同一の利点を達成できる。」 (2)上記(1)の各記載によれば、本願発明の技術的意義は次のとおりであると認められる。 ア ステレオ手術用顕微鏡のような光学撮像システムを通して対象を観察する場合、広角観察が求められることから、光学撮像システムの主対物レンズと観察対象との間の光線経路に、広角光学ユニットを配置したものが知られているところ、そのような光学撮像システムにおいては、主対物レンズと観察対象との間の距離が小さく、光線経路に付与できる焦点距離は極めて短くなることから、当該焦点距離を変更するために縮小光学ユニットを光線経路に導入することが考えられるが、そうすると、撮像品質が低下するという欠点があった。(【0002】~【0004】) また、ユーザが光学撮像システムを用いて、対象(患者の眼等)に対し支障なく作業を行うためには、縮小光学ユニットの設備の長さを十分短くするとともに、縮小光学ユニットを主対物レンズに可能な限り近接して配置することが望ましいが、既存の光学撮像システムでは、設備の長さが比較的長いという欠点があった。(【0005】) イ そこで、本願発明は、主対物レンズの上流で縮小光学ユニットを使用する際に極めて高い撮像品質を達成できる光学撮像システムを提供するとともに、設備の長さが短い撮像システムを提供することを目的とする。(【0007】) ウ 本願発明は、480nm~660nmの全波長λ及び主波長e=546nmに関して、【数1】の条件が満たされるようにレンズ系を構成することにより、観察用光線経路に関する撮像品質について、コントラストを低減する厄介な収差を補正できる程度に良好となり、波長λの範囲全体に亘って変わることなく高いコントラスト(画像品質)が達成される。(【0012】~【0014】) 上記条件を良好に満たすためには、縮小光学ユニットの第1及び第2のレンズのうち、正の屈折力を有するレンズの第1の材料及び負の屈折力を有するレンズの第2の材料を、これら2つの材料のアッベ数の差が16~22となるように選択するとともに、当該第1及び第2のレンズに、高い屈折率、即ち1.6超の屈折率を有する材料を用いると有利である。(【0015】~【0018】) 主対物レンズから観察対象までの距離を可変とするために、縮小光学ユニットの焦点合わせを任意に行うことができるようにすると有利である。この任意の焦点合わせは、縮小光学ユニットの第1のレンズ及び第2のレンズの一方を静止させた状態で配置するとともに、他方を光軸に沿って相対移動できるように配置することにより、比較的容易に達成でき、ここで本願発明の【数1】の条件を満たすことにより、全焦点合わせ範囲に亘って色角度偏差の良好な補正が保証される。(【0019】~【0022】) (3)判断 ア 特許法第36条第4項第1号が実施可能要件を定める趣旨は、発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。 したがって、この出願の発明の詳細な説明が実施可能要件を満たすというためには、本願発明の各構成要件を充足するレンズ系を、本願の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に基づいて、当業者が製造し、使用することができる程度の記載が本願の発明の詳細な説明にあることを要するというべきである。 そして、一般にレンズ系においては、すべてのレンズの諸元データ(曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数)が特定されてはじめて光線を追跡でき、光線追跡によって結像性能の評価(光軸上の色収差をはじめとした諸収差の状態の評価)が可能になるところ、この「結像性能の評価」によってはじめて技術的に意味のある(あるいは実際の使用に耐えうる)レンズ系であるか否か、換言すれば、レンズ系として完成されたか否かの評価が可能になることが技術常識である。そうすると、レンズ系が完成されたというためには、諸元データの開示が必要であり、また、上記の実施可能要件の充足性の判断は、このような技術常識をも踏まえてなされるのが相当である。 イ これを本願発明についてみると、本願発明は、主対物レンズと、正の屈折力を有する第1のレンズ及び負の屈折力を有する第2のレンズを備えた縮小光学ユニットと、を備えたレンズ系が、【数1】の条件を満たすように構成されるものである。 そして、上記条件の技術的意義は、上記(2)ウで認定したとおり、光学撮像システムのレンズ系における色角度偏差を良好に補正し、波長範囲全体に亘って高いコントラストを達成することにある。ここで、上記条件を規定する不等式である【数1】の左辺が意味するものは、主波長eを基準とした波長λにおける色角度偏差そのものである(本願の発明の詳細な説明の【0056】の【数4】の第1行にも示されているとおりである。)ところ、【数1】は、波長範囲全体に亘って色角度偏差を0.5′未満に抑えるという達成目標を示すものに他ならない。 しかも、本願の発明の詳細な説明には、実施例が示されておらず、レンズ系の諸元データ(すべてのレンズの曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数)を具体的に把握することができない。 そうすると、本願の発明の詳細な説明には、完成されたレンズ系が開示されているとはいえず、結局、本願発明が特定する【数1】の条件を達成するために、どのようにレンズ系を構成すればよいのかについて、本願の発明の詳細な説明に記載されていない。 ウ もっとも、本願発明は、「縮小光学ユニット」について、「主対物レンズ(20)側から順に、正の屈折力を有する第1のレンズ(22)、及び負の屈折力を有する第2のレンズ(21)を備え」るものであり、アッベ数及び屈折率に関し、「第1のアッベ数は、前記第2のアッベ数より大きく該第1のアッベ数と第2のアッベ数との差が16~22であり、かつ第1の材料及び第2の材料は、第1の材料の第1の屈折率が1.6超、第2の材料の第2の屈折率が1.6超である」ところ、本願の発明の詳細な説明の【0040】には、「例えば、主対物レンズ20が設置距離LHO=1cmを有する場合、全体の設置距離としてLges<3.2cmが現れる。」との記載があることを踏まえると、本願発明の「レンズ系」として、主対物レンズ、正の屈折力を有する第1のレンズ、及び負の屈折率を有する第2のレンズを、この順に「画像側」から配置して上記設置距離を満たすようにし、第1及び第2のレンズについて、上記アッベ数及び屈折率の範囲を満たすようにすることで、縮小光学ユニットに関しては一応、ある程度具体的なレンズ構成を想起しうる。 しかし、この程度の記載によっては、当業者が本願発明に係るレンズ系を設計することを可能とする指針となるものとはいえない。 すなわち、まず、縮小光学ユニットについて、上記アッベ数及び屈折率の範囲を満たすとはいっても、その範囲は相当に広く、またそれ以外に、レンズ形状やレンズ間距離といった考慮要素があるから、縮小光学ユニットの設計自由度は依然として高く、諸元の組合せは無数に存在する。 また、本願発明に係るレンズ系を完成させるためには、主対物レンズとの関係も考慮しなければならないが、主対物レンズとしてどのようなものを用いるかについては、上述の設置距離を除き、本願の発明の詳細な説明に何ら具体的なレンズ構成が記載されていない。 そして、実際にレンズ系を設計するに当たっては、使用可能なレンズの材料や加工方法等に制約があるため、アッベ数、屈折率を含めた諸元を所望の任意の値に設定できるというものではないし、トレードオフの関係にある条件を考量しつつ、実際の使用に適し、かつ本願発明の上記条件を満たすようなレンズ構成を見出す必要がある。そうであるにもかかわらず、本願の発明の詳細な説明には、上記イのとおり、完成されたレンズ系が開示されていないから、完成されたレンズ系を参考にして設計したり、設計上の指針を見いだしたりすることができないし、そもそも、本願発明の上記条件を満たすような具体的なレンズ構成が存在するかすら明らかになっていない。 そうすると、本願の発明の詳細な説明に記載された、上記の縮小光学ユニットに関する、ある程度具体的なレンズ構成は、当業者が本願発明に係るレンズ系を設計することを可能とする指針となるものとはいえない。 そして、本願の発明の詳細な説明のその他の記載を踏まえても、そのような設計上の指針といえるものは記載されておらず、主対物レンズと縮小光学ユニットとをどのように組み合わせて本願発明の【数1】の条件を達成するのかを把握することはできない。 エ さらにいえば、光学撮像システムのレンズ系として使用することができるためには、色角度偏差だけではなく、他の収差についてもバランス良く補正される必要があるところ、主対物レンズと縮小光学ユニットとを組み合わせてレンズ系を構成する際に、他の収差とのバランスをいかに図るのかについて、本願の発明の詳細な説明には何ら記載されていない。 オ このように、本願の発明の詳細な説明には、本願発明に係るレンズ系を製造し、使用することができる程度の記載に関して、完成されたレンズ系といえるものが開示されておらず、設計上の指針となるものも存在しない。 以上によれば、当業者といえども、本願発明を実施するためには、過度の試行錯誤を要するといわざるを得ない。 そうすると、本願の発明の詳細な説明は、当業者が、本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 (4)審判請求人の主張について ア 審判請求人は審判請求書において、眼の手術用顕微鏡は、従来から数多くの装置が提供されており、それらの多くはある程度共通のレンズ系を有していること、本願の発明の詳細な説明の【0040】に記載された主対物レンズ20の設置距離としてLHO=1cm、レンズ系全体の設置距離Lges<3.2cmと記載されており、本願発明を実施する際の実際の距離を示すものであることを踏まえると、当業者であれば、ある程度レンズ構成を想定できる旨、主張している。 しかしながら、レンズ系をなす各レンズの材料や配置関係がある程度限定的であるとしても、上記(3)に示したように、レンズの設計には、ほかに多くの考慮要因があるから、これをもって、試行錯誤の程度が過度でなくなるとはいえない。 イ 審判請求人は審判請求書において、現在ではレンズ系の設計ソフトウェアもかなり発展しており、この点も過度な試行錯誤を強いることはない旨、主張している。 そこで検討すると、レンズ系の設計ソフトウェアを用いる場合に、既知のレンズ系の諸元を初期データとし、当該初期データを変更しながら設計を行うことは、光学レンズの技術分野において通常行われているといえるが、本願発明の【数1】の条件を満たす諸元データを明らかにする実施例が、本願の発明の詳細な説明に記載されていないことは既述のとおりであり、上記条件を満たす初期データを設定することはそもそも困難である。 また、本願の発明の詳細な説明には、縮小光学ユニットのアッベ数、屈折率やレンズ系の設置距離に関しては、ある程度の数値範囲の開示があるとはいえ、いずれも断片的な情報にとどまり、当該数値範囲を満たすレンズ系の(アッベ数、屈折率以外の、曲率半径、レンズ厚さ、空気間隔も含めた)諸元データの組合せは無数に存在するところ、その中から上記条件を満たす諸元データを見いだすための一般的な指針といえるものは、本願の発明の詳細な説明に記載されておらず、当業者といえども上記条件を満たす諸元を過度の試行錯誤なく特定することができないことは、上記(3)に示したとおりである。 ウ したがって、審判請求人の主張は、いずれも採用することができない。 第3 むすび 以上のとおり、この出願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2020-015766

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