特許拒絶査定不服審判
2024-006934
ばね部材用金属箔、ばね部材用金属箔の製造方法、および、電子機器用ばね部材の製造方法
- 審判番号
- 2024-006934
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-158953
- 請求日
- 2024年04月23日
- 審決日
- 2026年03月26日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】TOPPANホールディングス株式会社
- 【請求人代理人】恩田 誠
- 【請求人代理人】恩田 博宣
- 審判長/審判官
- 審判長 波多江 進
- 審判官 小澤 尚由
- 審判官 野村 伸雄
- 分類
- P18 .536-WZ (G02B) / P18 .537-WZ (G02B) / P18 .121-WZ (G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-158953「ばね部材用金属箔、ばね部材用金属箔の製造方法、および、電子機器用ばね部材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 8月23日出願公開、特開2023-117369〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和4年9月30日の出願であって(優先権主張 令和4年2月10日、パリ条約による優先権主張 2022年9月20日 世界知的所有権機関)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年 7月28日付け:拒絶理由通知書
同年11月30日 :意見書、手続補正書の提出
令和6年 1月 9日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月23日 :原査定の謄本の送達)
同年 4月23日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 8月 8日付け:前置報告書
同年10月23日 :上申書の提出
令和7年10月17日付け:拒絶理由通知書(以下、この拒絶理由通知書
で通知した拒絶理由を「当審拒絶理由」とい
う。)
同年12月22日 :意見書(以下「本件意見書」という。)、手
続補正書の提出
以下、令和4年2月10日を最先の優先日という。
第2 本願発明について
1 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和7年12月22日に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載された次に示す事項により特定されるとおりのものである。
「ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔であって、
前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
一辺の長さが280mmである正方形状を有し、前記ばね部材が形成されるための第1領域を備え、
前記第1領域において、
圧延方向における厚さの分散から、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散を減算した差分値の絶対値が、0.15μm2以下であり、
前記圧延方向における前記厚さの最大値が第1最大値であり、前記幅方向における前記厚さの最大値が第2最大値であり、前記第1最大値から前記第2最大値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であり、
前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上150μm以下である
ばね部材用金属箔。」
2 本願発明の分説
検討の便宜上、本願発明の構成を次のように構成Xと構成Aから構成Eまでに分説する。また、参考図として、本願の【図1】を元に部材名を記入したものを掲載する。
<本願発明の分説>
X ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔であって、
A 前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
B 一辺の長さが280mmである正方形状を有し、前記ばね部材が形成されるための第1領域を備え、
C 前記第1領域において、
圧延方向における厚さの分散から、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散を減算した差分値の絶対値が、0.15μm2以下であり、
D 前記圧延方向における前記厚さの最大値が第1最大値であり、前記幅方向における前記厚さの最大値が第2最大値であり、前記第1最大値から前記第2最大値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であり、
E 前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上150μm以下である
X ばね部材用金属箔。
<参考図>
【図1】
[図:0001435587000001.jpg]
10 :ばね部材用金属箔 DR :圧延方向
10F :表面 DW :幅方向
10B :裏面 T :厚さ
10R1:第1領域
R1R :第1測定領域
R1W :第2測定領域
3 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本開示は、ばね部材用金属箔、ばね部材用金属箔の製造方法、および、電子機器用ばね部材に関する。
【背景技術】
【0002】
タブレット端末やスマートフォンなどのカメラ付き電子機器が備えるカメラモジュールは、オートフォーカスやズームを可能とするための駆動機構を備えている。駆動機構には、レンズ駆動方式と、センサー駆動方式とが知られている。レンズ駆動方式の駆動機構は、レンズの光軸方向におけるレンズの位置を変更することを可能にする板ばねを備えている。これに対して、センサー駆動方式の駆動機構は、レンズの光軸方向におけるイメージセンサーの位置を変更することを可能にする板ばねを備えている(例えば、特許文献1,2を参照)。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、板ばねには、限られた容積のなかで特定のばね荷重またはたわみを満たすことが求められる。ばね荷重およびたわみに対する要求を満たすためには、板ばねは硬度の高い金属から形成される必要がある。
【0005】
ばね荷重およびたわみには、板ばねが有する幅と厚さとが大きく寄与する。板ばねの原料である金属箔は、圧延によって所定の厚さまで薄くされる。金属箔は硬度の高い金属から形成されるから、硬度の低い金属から形成される場合に比べて、圧延によって金属箔の厚さを均一化することが難しい。
【0006】
一方、板ばねは、金属箔のウェットエッチングによって形成される。金属箔における厚さのばらつきはエッチング量のばらつきを生じさせ、これによって板ばね厚さ方向において幅におけるばらつきを生じさせる。板ばねの厚さ方向における幅のばらつきは、板ばねが有するばね荷重およびたわみのばらつきを生じさせるから、厚さ方向におけるばね幅のばらつきを抑えることが求められている。
…(中略)…
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、金属箔から形成されたばね部材の厚さ方向におけるばね幅のばらつきを抑えることができる。」
「【発明を実施するための形態】
…(中略)…
【0041】
図1が示すばね部材用金属箔(以下、金属箔とも称する)10において、ばね部材が形成されるための領域が第1領域10R1である。第1領域10R1は、一辺の長さが300mmである正方形状を有している。金属箔10は、ばね部材に求められるばね荷重またはたわみを実現することが可能な程度に高い硬度を有した金属から形成された圧延材である。金属箔10は、圧延方向DRに沿って延びる帯状を有している。圧延方向DRに直交する方向が、幅方向DWである。金属箔10が有する厚さTは、例えば150μm以下であり、好ましくは50μm以上120μm以下である。金属箔10の厚さは、基材の厚さの平均値に対する、金属箔10の厚さTの最大値と厚さの最小値の差分値の比率が3%以下であるような均一性を有する。」
「【図1】
[図:0001435587000002.jpg]
」
「【0042】
金属箔10は、以下の条件1を満たす。
(条件1)第1領域10R1において、第1分散から第2分散を減算した差分値の絶対値が、0.15μm2以下であり、かつ、第1最大値から第2最大値を減算した差分値の絶対値が0.8μm以下である。
【0043】
圧延方向DRにおける厚さの分散が第1分散であり、幅方向DWにおける厚さの分散が第2分散である。第1分散から第2分散を減算した差分値の絶対値は、第2絶対値である。なお、第1分散は、圧延方向DRに沿って延びる直線上の各点での厚さにおける分散である。また、第2分散は、幅方向DWに沿って延びる直線上の各点での厚さにおける分散である。
【0044】
第1最大値は、圧延方向DRにおける厚さの最大値である。第2最大値は、幅方向DWにおける厚さの最大値である。なお、第1最大値から第2最大値を減算した差分値の絶対値は、第4絶対値である。
【0045】
第2絶対値が0.15μm2以下であり、かつ、第4絶対値が0.8μm以下であるから、金属箔10における厚さのばらつきが抑えられる。そのため、金属箔10のウェットエッチングによって形成されたばね部材において、厚さ方向におけるばね幅のばらつきが抑えられる。
…(中略)…
【0048】
金属箔10において、圧延方向DRでの厚さのばらつきは、金属箔10を製造するための材料に対して圧延が繰り返されるほど小さくなる。そのため、圧延方向DRでのばらつきを抑える観点では、金属箔10の製造時に行われる圧延の回数を増やすことが好ましい。しかしながら、ばね部材用の金属箔10には、ばね部材に求められるばね荷重またはたわみを実現する観点において、所定以上の厚さを有する必要がある。そのため、ばね部材用の金属箔10では、圧延方向DRでの厚さのばらつきを解消することが可能な回数の圧延を金属箔10の製造において行い難い。これに対して、金属箔10において、幅方向DWでの厚さのばらつきは、圧延に用いられる圧延ローラーの表面状態によって支配されるから、圧延の回数によらず、ばらつきが抑えられる傾向を有する。それゆえに、金属箔10は、第2分散が、第1分散以下になりやすい傾向を有する。
【0049】
一方、金属箔10の厚さ方向に沿って金属箔10を貫通する貫通孔を形成するためのウェットエッチングが金属箔10に行われた場合には、金属箔10において厚さが薄い部分ほど、貫通孔が形成されるまでに要する時間が短い。そして、金属箔10に形成された貫通孔は、金属箔10の表面10Fと裏面10Bとの間におけるエッチング液の流れを形成する一方で、貫通する方向に対して垂直な方向への金属箔10の等方的なエッチングの進行にはほとんど寄与しない。これに対して、金属箔10において厚さが厚い部分ほど、貫通孔が形成されるまでに要する時間が長い。そのため、金属箔10において厚さが厚い部分は、金属箔10の等方的なエッチングの進行に大きく寄与する。
【0050】
それゆえに、金属箔10の厚さにおいて、第1分散を、圧延方向DRにおいて等方的なエッチングの生じやすさの指標とすることが可能である。また、金属箔10の厚さにおいて、第2分散を、幅方向DWにおいて等方的なエッチングの生じやすさの指標とすることが可能である。さらには、第1絶対値を、等方的なエッチングの生じにくい幅方向DWに対する、圧延方向DRにおいて等方的なエッチングの生じやすさの指標とすることが可能である。
【0051】
この点、金属箔10が上述した条件1を満たす場合には、幅方向DWにおける等方的なエッチングの生じやすさを基準とした場合に、圧延方向DRでの等方的なエッチングの生じやすさが過剰に大きくなることが抑えられる。そのため、金属箔10のエッチングによって形成されるばね部材において、所望の形状が得られやすくなる。
…(中略)…
【0074】
接触式の測定装置には、例えば長さゲージを用いることができる。非接触式の測定装置には、例えば、X線を照射する照射部と、蛍光X線を検出する検出部とを備える測定装置を用いることができる。この測定装置を用いる場合には、まず、照射部を用いて金属箔10にX線を照射し、これによって金属箔10から放出される蛍光X線を検出部を用いて検出する。検出部によって検出された蛍光X線の強度は、金属箔10の厚さに依存するから、蛍光X線の強度から、金属箔10の厚さを把握することが可能である。
【0075】
なお、第1標準偏差、第2標準偏差、第1分散、第2分散、第1差分値、および、第2差分値を、以下の少なくとも1つを変更することによって、変更することが可能である。圧延ローラーRL1,RL2の回転速度、圧延ローラーRL1,RL2の間での押圧力、圧延ローラーRL1,RL2の温度、および、圧延ローラーRL1,RL2の数量の少なくとも1つを変更することによって、上述した値を変更することができる。すなわち、圧延ローラーRL1,RL2の回転速度、圧延ローラーRL1,RL2の間での押圧力、圧延ローラーRL1,RL2の温度、および、圧延ローラーRL1,RL2の数量のうちの1つのみが変更されてもよい。あるいは、圧延ローラーRL1,RL2の回転速度、圧延ローラーRL1,RL2の間での押圧力、圧延ローラーRL1,RL2の温度、および、圧延ローラーRL1,RL2の数量のうちの任意の2つ以上が変更されてもよい。
…(後略)」
「【0082】
[実施例]
図11から図16を参照して、実施例および比較例を説明する。
[実施例1]
まず、チタン銅を材料とする母材に圧延工程を施して圧延材を形成した。次いで、圧延材にアニール工程を施した。これによって、厚さの設計値が120μmである実施例1の金属箔を得た。
…(中略)…
【0084】
[評価方法]
[厚さの測定]
図11を参照して、金属箔10における厚さの測定方法を説明する。
【0085】
図11が示すように、各実施例および各比較例の金属箔から、一辺の長さが300mmである正方形状を有した測定用金属箔30を切り出した。各測定用金属箔30の第1の一辺が延びる方向と金属箔の圧延方向DRとが平行であり、かつ、各測定用金属箔30の第2の一辺が延びる方向と金属箔の幅方向DWとが垂直であるように、各金属箔から測定用金属箔30を切り出した。各測定用金属箔30において、測定用金属箔30の中央を含み、正方形状を有する測定領域30Aと、測定領域30Aを取り囲む矩形枠状を有した周辺領域30Bとを設定した。この際に、周辺領域30Bの幅W3を10mmに設定した。」
「【図11】
[図:0001435587000003.jpg]
」
「【0086】
また、圧延方向DRに沿って延びる帯状を有する第1測定領域R1Rと、幅方向DWに沿って延びる帯状を有する第2測定領域R1Wとを測定領域30A内に設定した。この際に、第1測定領域R1Rにおける幅方向DWの長さである幅W1を20mmに設定し、かつ、第2測定領域R1Wにおける圧延方向DRの長さである幅W2を20mmに設定した。
【0087】
そして、第1測定領域R1Rを圧延方向DRにおいて14等分した領域の全てにおいて金属箔の厚さを測定した。また、第2測定領域R1Wを幅方向DWにおいて14等分した領域の全てにおいて測定用金属箔30の厚さを測定した。
【0088】
各領域のうち、対向する2つの角部を結ぶ対角線同士が交わる点において厚さを測定した。すなわち、同一の直線上に位置する各点において厚さを測定した。測定用金属箔ごとに、圧延方向DRにおける14点、および、幅方向DWにおける14点において厚さを測定した。ただし、第1測定領域R1Rと第2測定領域R1Wとが交わる領域では、圧延方向DRにおける測定点と幅方向DWにおける測定点とが同一の点であるため、各測定用金属箔について、合計で27点において厚さの測定を行った。そして、測定された値を小数第二位において四捨五入し、これによって、各領域での厚さの測定値とした。
【0089】
これら測定値から、第1標準偏差、第2標準偏差、第1分散、および、第2分散を算出した。また、第1標準偏差から第2標準偏差を減算した差分値である第3差分値と、第3差分値の絶対値である第1絶対値とを算出した。また、第1分散から第2分散を減算した差分値である第4差分値と、第4差分値の絶対値である第2絶対値とを算出した。また、第1差分値から第2差分値を減算した差分値の絶対値である第3絶対値と、圧延方向DRにおける厚さの最大値から幅方向DWにおける厚さの最大値を減算した差分値の絶対値である第4絶対値とを算出した。
…(中略)…
【0094】
こうしたレジストマスクを用いて、測定用金属箔30において、ばね部材20の形状に対応するエッチングパターンを複数形成した。エッチングパターンにおいて、ばね部23の平面視におけるばね幅の設計値を30μmに設定した。
【0095】
エッチング後の各測定用金属箔30に存在するばね部材20のばね部23を合成樹脂を用いて包埋した。そして、ミクロトームを用いて包埋後のばね部23を切断することによって、ばね部が含む線分が延びる方向に直交する平面でのばね部23の断面を露出させた。
【0096】
ばね部23の断面において、以下の位置におけるばね幅を測定した。すなわち、ばね部23において、測定用金属箔30の表面におけるばね幅、測定用金属箔30の裏面におけるばね幅、および、ばね部23を厚さ方向において4等分する平面のうち、測定用金属箔30の表面と裏面とに挟まれる3つの平面でのばね幅を測定した。すなわち、測定用金属箔30の表面における深さを0μmに設定する場合に、エッチングパターンにおいて、深さが0μmでのばね幅、深さが約30μmでのばね幅、深さが約60μmでのばね幅、深さが約90μmでのばね幅、および、深さが約120μmでのばね幅を測定した。ばね部23のばね幅を測定する際には、デジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製、VHX-7000)を用い、かつ、デジタルマイクロスコープにおいて対物レンズの倍率を200倍に設定した。
【0097】
また、各実施例および各比較例の測定用金属箔30から得られたエッチングパターンについて、第1規格値、ばね幅の標準偏差、第2規格値、ばね幅の平均値に対する3σの百分率、および、ばね幅の分散を算出した。
【0098】
なお、測定用金属箔30が含む各単位パターンについて、ばね部23が含む全てのばねにおいて、厚さ方向における上述した5箇所でのばね幅を測定した。そして、ばね毎に最大値と最小値とを特定し、最大値から最小値を減算した差分値を算出し、かつ、ばね幅の平均値を算出した。次いで、全てのばねについて特定した最大値から最大値の平均値を算出し、当該平均値をその測定用金属箔30でのばね幅の最大値に設定した。また、全てのばねについて特定した最小値から最小値の平均値を算出し、当該最小値をその測定用金属箔30でのばね幅の最小値に設定した。また、全てのばねについて算出した差分値から差分値の平均値を算出し、当該平均値をその測定用金属箔30の差分値に設定した。また、全てのばねについて算出した平均値について平均値を算出し、当該平均値をその測定用金属箔30の平均値に設定した。
【0099】
また、各実施例および各比較例の測定用金属箔30から得られたエッチングパターンについて、第1規格値、ばね幅の標準偏差、第2規格値、および、ばね幅の平均値に対する3σの百分率を算出した。ばね幅の平均値に対する3σの百分率を算出する際には、各測定用金属箔30に対して設定された平均値を用いた。なお、第1規格値は、ばね幅の設計値に対するばね幅の差分値の百分率である。第1規格値の算出には、各測定用金属箔30に対して設定された差分値を用いた。また、第2規格値は、ばね幅の設計値に対するばね幅の標準偏差の百分率である。
【0100】
ばね幅の標準偏差を算出する際には、まず、ばね毎に測定した5箇所の厚さからばね幅の標準偏差を算出した。次いで、全てのばねについて算出した標準偏差から標準偏差の平均値を算出し、当該平均値をその測定用金属箔30でのばね幅の標準偏差に設定した。また、第2規格値の算出には、各測定用金属箔30に対して設定された標準偏差を用いた。
【0101】
ばね幅の分散を算出する際には、まず、ばね毎に測定した5箇所の厚さからばね幅の分散を算出した。次いで、全てのばねについて算出した分散から分散の平均値を算出し、当該平均値をその測定用金属箔30でのばね幅の分散に設定した。
【0102】
[評価結果]
図12から図14を参照して、測定用金属箔30の厚さ、および、エッチングパターンのばね幅における評価結果を説明する。」
「【図12】
[図:0001435587000004.jpg]
」
「【0121】
このように、実施例1から実施例8のばね部材用金属箔では、比較例1から比較例3のばね部材用金属箔に比べて、第1規格値、標準偏差、第2規格値、平均値に対する3σの百分率、および、分散の全てが小さいことが認められた。そのため、実施例1から実施例8のばね部材用金属箔によれば、比較例1から比較例3のばね部材用金属箔に比べて、厚さ方向におけるばね幅のばらつきが抑えられているといえる。」
「【0123】
図14は、第4絶対値と、ばね幅の差分値との関係を示すグラフである。
図14が示すように、第4絶対値が0.8μm以下である場合には、エッチングパターンのばね幅における差分値が、6.0μm以上10.0μm以下の範囲内に含まれることが認められた。これに対して、第4絶対値が0.8μmよりも大きい場合には、エッチングパターンのばね幅における差分値が、12μmを超えることが認められた。このように、第4絶対値では、0.8μmを境界としてエッチングパターンのばね幅におけるばらつきが大きく異なることが認められた。」
「【図14】
[図:0001435587000005.jpg]
」
「【0124】
図15は、第2絶対値と、ばね幅の差分値との関係を示すグラフである。
図15が示すように、第2絶対値が0.15μm2以下である場合には、エッチングパターンのばね幅における差分値が、6.0μm以上10.0μm以下の範囲内に含まれることが認められた。これに対して、第2絶対値が0.15μm2よりも大きい場合には、エッチングパターンのばね幅における差分値が、11μmを超えることが認められた。このように、第2絶対値では、0.15μm2を境界としてエッチングパターンのばね幅におけるばらつきが大きく異なることが認められた。」
「【図15】
[図:0001435587000006.jpg]
」
第3 当審拒絶理由の概要
本願発明は、本件補正前の請求項1(令和6年4月23日に提出された手続補正書による補正後のもの)に係る発明を補正したものであるところ、当審拒絶理由は、概略、本件補正前の請求項1に係る発明に対する次の各理由を含むものである。
理由1.(委任省令要件)請求項1に係る発明は、「圧延方向における厚さの分散から、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散を減算した差分値の絶対値が、0.15μm2以下」であること(以下「本件第2絶対値」という。)及び「前記圧延方向における前記厚さの最大値が第1最大値であり、前記幅方向における前記厚さの最大値が第2最大値であり、前記第1最大値から前記第2最大値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下」であること(以下「本件第4絶対値」という。)を発明特定事項とするものであるが、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本件第2絶対値及び本件第4絶対値の技術上の意義が理解できず、また、出願時の技術常識を考慮してもその技術上の意義が不明である点で、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
理由2.(明確性)請求項1には、「圧延方向における厚さの分散」及び「前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散」(以下、これらをまとめて「本件分散」という。)並びに「前記圧延方向における前記厚さの最大値」及び「前記幅方向における前記厚さの最大値」(以下、これらをまとめて「本件最大値」という。)と記載され、そして、本件分散及び本件最大値の定義としては、特に、厚さの測定方向と直交する方向についてどのような値を用いるのか(平均値なのか、最大値又は最小値なのか、ある直交方向位置における代表値なのか)について、種々の定義が考えられるところ、請求項1の記載からは当該定義は明らかではない点で、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
理由4.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その最先の優先日前に日本国内又は外国において発行された特開2014-59345号公報(以下「引用文献1」という。)に記載された発明に基いて、その最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
第4 委任省令要件違反についての判断
請求項1に係る発明は、「前記第1領域において、圧延方向における厚さの分散から、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散を減算した差分値の絶対値が、0.15μm2以下」であること、すなわち、本件第2絶対値を発明特定事項とするものであるが、以下に示すとおり、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本件第2絶対値の技術上の意義が理解できず、また、出願時の技術常識を考慮してもその技術上の意義が不明である。
また、請求項1に係る発明は、「前記圧延方向における前記厚さの最大値が第1最大値であり、前記幅方向における前記厚さの最大値が第2最大値であり、前記第1最大値から前記第2最大値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下」であること、すなわち、本件第4絶対値を発明特定事項とするものであるが、後記1、3及び4で説示した本件第2絶対値と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本件第4絶対値の技術上の意義が理解できず、また、出願時の技術常識を考慮してもその技術上の意義が不明である。
1 請求項に係る発明が解決しようとする課題について
(1) 発明の詳細な説明の【0006】の「一方、板ばねは、金属箔のウェットエッチングによって形成される。金属箔における厚さのばらつきはエッチング量のばらつきを生じさせ、これによって板ばね厚さ方向において幅におけるばらつきを生じさせる。板ばねの厚さ方向における幅のばらつきは、板ばねが有するばね荷重およびたわみのばらつきを生じさせるから、厚さ方向におけるばね幅のばらつきを抑えることが求められている。」との記載によれば、請求項1に係る発明が解決しようとする課題は、「厚さ方向におけるばね幅のばらつきを抑えること」(以下「本件課題」という。)であると認められる。しかしながら、以下に示すとおり、本件課題が理解できない。
(2) 前記(1)で摘記した【0006】の記載中、「金属箔における厚さのばらつきはエッチング量のばらつきを生じさせ、これによって板ばね厚さ方向において幅におけるばらつきを生じさせる」ことの理由が不明である。すなわち、金属箔における厚さのばらつきが等方的なエッチング量の面内方向のばらつきを生じさせることは理解できるが(後記2(2)も参照)、等方的なエッチング量の面内方向のばらつきが、板ばね厚さ方向において幅におけるばらつきを生じさせる理由が不明である。なぜなら、板ばねの厚さ方向における幅のばらつきの大きさは、表面側・裏面側と厚さ方向中心部における面内方向のエッチング量の差、すなわち、等方的なエッチング量の大きさ自体に依存し、等方的なエッチング量の大きさは金属箔の厚さ自体に依存するのであって(すなわち、厚さが薄ければ、等方的なエッチング量自体が小さいから、厚さ方向における幅のばらつきは小さくなり、厚さが厚ければ、等方的なエッチング量自体が大きいから、厚さ方向における幅のばらつきは大きくなる)、金属箔における厚さの「ばらつき」及び等方的なエッチング量の面内方向の「ばらつき」が、板ばね厚さ方向において幅におけるばらつきを生じさせることの技術的な理由が不明である。例えば、金属箔における厚さの「ばらつき」及び等方的なエッチング量の面内方向の「ばらつき」がないとしても、金属箔における厚さそれ自体が厚ければ、等方的なエッチング量の大きさが大きくなり、この結果、板ばねの厚さ方向における幅のばらつきは大きくなると考えられる。
(3) 前記(1)で摘記した【0006】の記載中、「板ばねの厚さ方向における幅のばらつきは、板ばねが有するばね荷重およびたわみのばらつきを生じさせる」ことの意味が不明である。すなわち、「板ばねが有するばね荷重およびたわみのばらつき」とは、どのような母集団におけるばらつきを意味しているのか、不明である。通常は、複数の板ばね間のばらつきと解するのが自然であるが、板ばねの厚さ方向における幅のばらつきとは一つの板ばね内における幅のばらつきを意味しており、これは複数の板ばね間のばね荷重やたわみのばらつきとは本質的に無関係であるから(すなわち、各板ばねが厚さ方向における幅のばらつきを有していたとしても、全ての板ばねが同一の当該ばらつきを有していれば、複数の板ばね間でばね荷重やたわみのばらつきは生じ得ない。)、技術的に不可解である。また、「板ばねが有するばね荷重およびたわみのばらつき」が厚さ方向におけるばらつきであるとすると、厚さ方向に複数のばね加重やたわみが定義されることとなるが、ばね加重やたわみは通常、1つの板ばねに対して1つの値が定義されるものであるから、厚さ方向にばね加重やたわみを定義するとはどのような意味であるのか技術的に理解できない。
2 厚さの分散値と等方的なエッチングの生じやすさの関係について
(1) 発明の詳細な説明の【0049】には「一方、金属箔10の厚さ方向に沿って金属箔10を貫通する貫通孔を形成するためのウェットエッチングが金属箔10に行われた場合には、金属箔10において厚さが薄い部分ほど、貫通孔が形成されるまでに要する時間が短い。そして、金属箔10に形成された貫通孔は、金属箔10の表面10Fと裏面10Bとの間におけるエッチング液の流れを形成する一方で、貫通する方向に対して垂直な方向への金属箔10の等方的なエッチングの進行にはほとんど寄与しない。これに対して、金属箔10において厚さが厚い部分ほど、貫通孔が形成されるまでに要する時間が長い。そのため、金属箔10において厚さが厚い部分は、金属箔10の等方的なエッチングの進行に大きく寄与する。」と記載されており、金属箔10において厚さが薄い部分は、金属箔10の等方的なエッチングの進行にはほとんど寄与せず、金属箔10において厚さが厚い部分は、金属箔10の等方的なエッチングの進行に大きく寄与することから、金属箔10の厚さ自体を等方的なエッチングの生じやすさの指標とすることは理解できる。これは、本願出願時の技術常識にも沿うものである。
(2) 一方、【0050】には「それゆえに、金属箔10の厚さにおいて、第1分散を、圧延方向DRにおいて等方的なエッチングの生じやすさの指標とすることが可能である。また、金属箔10の厚さにおいて、第2分散を、幅方向DWにおいて等方的なエッチングの生じやすさの指標とすることが可能である。さらには、第1絶対値を、等方的なエッチングの生じにくい幅方向DWに対する、圧延方向DRにおいて等方的なエッチングの生じやすさの指標とすることが可能である。」と記載されているが、本願出願時の技術常識にも沿う前記(1)の理解に従えば、当業者は、第1分散及び第2分散は、それぞれの方向の等方的なエッチングの生じやすさの「ばらつき」の指標となることを理解するのであって(この理解は、前記1で検討した【0006】の記載にも沿うものである。)、第1分散及び第2分散をそれぞれの方向の等方的なエッチングの生じやすさの指標とすることが可能であることの理由が不明である。
(3) また、【0051】には「この点、金属箔10が上述した条件1を満たす場合には、幅方向DWにおける等方的なエッチングの生じやすさを基準とした場合に、圧延方向DRでの等方的なエッチングの生じやすさが過剰に大きくなることが抑えられる。そのため、金属箔10のエッチングによって形成されるばね部材において、所望の形状が得られやすくなる。」と記載されているが、以下に示すとおり、当該記載についても技術的に意味が不明である。
ア まず、当該記載における「等方的なエッチングの生じやすさ」が技術的に不可解であることは、前記(2)で指摘したとおりである。そこで以下では、これを「等方的なエッチングの生じやすさのばらつき」と解して検討する。
イ また、当該記載中の「所望の形状」は、本件課題からみて厚さ方向におけるばね幅のばらつきが小さいことを意味するものと解される。そうすると、前記記載は、幅方向DWにおける等方的なエッチングの生じやすさのばらつきを基準とした場合に、圧延方向DRでの等方的なエッチングの生じやすさのばらつきが過剰に大きくなることが抑えられるため、金属箔10のエッチングによって形成されるばね部材において、厚さ方向におけるばね幅のばらつきが小さい形状が得られやすくなることを意味することとなる。しなしながら、前記1(2)で説示したとおり、金属箔におけるエッチング量の面内方向のばらつきが、板ばね厚さ方向において幅におけるばらつきを生じさせることの技術的な理由が不明であるから、当該記載もまた技術的に不可解な記載である。
3 本件第2絶対値と本件課題の関係について
(1) 前記1及び2で指摘した点が不明である結果、【0010】、【0033】、【0051】、及び【0080】に記載されているように、本件第2絶対値により、なぜ本件課題が解決できるのか、両者の関係が理解できない。
(2)ア 前記1及び2で指摘した点について、仮に厚さの分散値と厚さ方向におけるばね幅のばらつきに技術的な関係があるとしても、本件第2絶対値において、圧延方向における厚さの分散から、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散を減算することの技術上の意義が不明である。
イ すなわち、仮に当該技術的な関係があるのであれば、厚さ方向におけるばね幅のばらつきは厚さの分散値それ自体に依存するはずである。例えば、圧延方向にもこれと直交する方向にも厚さの分散値がいずれも大きく同じ値である場合、圧延方向における厚さの分散から、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散を減算した差分値の絶対値は0であるが、(仮に当該技術的な関係があるのであれば)厚さ方向におけるばね幅のばらつきは大きくなるはずであり、本件第2絶対値により本件課題を解決できるとは考えられない。
ウ この点、【0050】には、「第1絶対値を、等方的なエッチングの生じにくい幅方向DWに対する、圧延方向DRにおいて等方的なエッチングの生じやすさの指標とすることが可能である」と記載されているが、実施例2では第2分散は第1分散よりも大きく、すなわち、【0050】の記載でいう、幅方向で等方的なエッチングが生じやすいものとなっており(なお、この記載自体不可解であることは前記2(2)で指摘したとおりである。)、「等方的なエッチングの生じにくい幅方向DW」が当然の前提であるともいえないから、【0050】の記載を考慮してもなお、本件第2絶対値において、圧延方向における厚さの分散から、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散を減算することの技術上の意義は不明である。
4 実施例について
実施例及び比較例では、一見、本件第2絶対値と本件課題の関係が示されているように見える。
しかしながら、実施例及び比較例における厚さ方向におけるばね幅のばらつきに関連する指標は、本件第2絶対値ではなく、金属箔の厚さ自体及びこれに起因する等方的なエッチング量の大きさ自体に依存すると理解されることは前記1~3で指摘したとおりであるところ、発明の詳細な説明においては、各実施例及び比較例における金属箔の厚さの具体的な値(特に、平均値)が不明であることから(なお、【0082】には厚さの設計値が120μmであることは記載されているが、これは、各実施例及び比較例の金属箔の厚さの平均値がいずれも120μmであることを意味しないことは明らかである。)、実施例及び比較例における厚さ方向におけるばね幅のばらつきに関連する指標は、金属箔の厚さ自体の違いに基づくとの技術常識を超えるものではない蓋然性が高い。したがって、実施例及び比較例の記載を参酌しても、本件第2絶対値と本件課題の関係が裏付けられているとはいえない。
各実施例及び比較例における金属箔の厚さの具体的な値(特に、平均値)が不明である点について補足すると、各実施例及び比較例においては、各測定点における厚さの測定値は一切記載されていない。また、厚さの分散や標準偏差が記載される一方で、これらの算出に必要な厚さの平均値は記載されていないし、厚さの最大値と最小値との差分値である第1差分値及び第2差分値は記載されているものの、厚さの最大値及び最小値は記載がない。このように、各実施例及び比較例には、厚さの具体的な値(特に、平均値)を推認するための値が一切記載されていない。
5 請求人の主張について
(1) 請求人の主張1(本件意見書の理由1についての(1)-1ア)
ア 請求人の主張内容
前記1について、請求人は、「板ばねの厚さ方向における幅のばらつきは、板ばねが有するばね荷重およびたわみのばらつきを生じさせる」との記載のうち、「板ばねが有するばね荷重およびたわみのばらつき」について、「通常は、複数の板ばね間のばらつきと解するのが自然である」とし、「複数の板ばね間のばらつき」を意味するのであれば、「板ばねの厚さ方向における幅のばらつき」とは、板ばねAが有する幅のばらつき、板ばねBが有する幅のばらつきを意味するのであって、板ばねAでのばらつきと板ばねBでのばらつきとが互いに異なるのであれば、各板ばねA、Bが有する幅自体も異なり得るのであって、こうした幅の違いは当然にばね荷重やたわみの違い、すなわち2以上のばね部材間でのばらつきをもたらすことは明らかである旨主張している。
イ 請求人の主張についての検討
本件課題である「厚さ方向におけるばね幅のばらつきを抑えること」は、板ばねAでの厚さ方向におけるばね幅のばらつき、板ばねBでの厚さ方向におけるばね幅のばらつき、のそれぞれのばらつきを抑えることを意味するのであって、板ばねAでのばらつきと板ばねBでのばらつきが異なることを抑えることを意味しないし、そのように解することを理解できる記載は発明の詳細な説明には存在しない。このことは、発明の詳細な説明の実施例において、図14及び図15で評価指標とされているばね幅の差分値は、全てのばねについて算出した差分値から算出される平均値であり(【0098】)、平均値には板ばねAでのばらつきと板ばねBでのばらつきが異なることは反映されないことからも明らかである。
したがって、請求人の主張は発明の詳細な説明の記載に基づくものではなく、失当である。
(2) 請求人の主張2(本件意見書の理由1についての(1)-1イ)
ア 請求人の主張内容
前記2について、請求人は、当業者は、第1分散及び第2分散をそれぞれの方向での等方的なエッチングの生じやすさの「ばらつき」の指標として理解するところ、発明の詳細な説明の段落【0050】における「指標」は、このような生じやすさのばらつき(不均一性)を把握するための指標として述べられているものと当業者であれば合理的に解する旨主張している。
イ 請求人の主張についての検討
発明の詳細な説明の【0050】には、「金属箔10の厚さにおいて、第1分散を、圧延方向DRにおいて等方的なエッチングの生じやすさの指標とすることが可能である」と明記されているから、第1分散が、エッチングの生じやすさの「ばらつき」の指標である旨の請求人の主張は発明の詳細な説明の記載に基づくものではない。第2分散についても同様である。
したがって、請求人の主張は失当である。
(3) 請求人の主張3(本件意見書の理由1についての(1)-1イ)
ア 請求人の主張内容
前記2について、請求人は、発明の詳細な説明の段落【0049】に記載のとおり、金属箔では厚さの差によって貫通孔が形成されるまでの時間が異なり、当該時間の差に応じて等方的なエッチング、すなわちアンダーカットの進行量が局所的に異なり、そのため、圧延方向と幅方向とから定まる面内方向に沿う厚さのばらつきは、同方向に沿う等方的なエッチング量、すなわち側壁の後退量のばらつきとして現れ、「所望の形状」を厚さ方向におけるばね幅のばらつきが小さいことと解した場合でも、側壁の後退量のばらつきが抑えられれば、側壁の形状における乱れが抑えられ、結果として厚さ方向におけるばね幅のばらつきが小さい形状が得られやすいことは、当業者であれば理解可能である旨主張している。
イ 請求人の主張についての検討
前記1(2)で説示したように、金属箔における厚さそれ自体が厚ければ、板ばねの厚さ方向における幅のばらつきは大きくなると考えられるから、各板バネA、B、C間の側壁の後退量のばらつきが抑えられれば、結果として厚さ方向におけるばね幅のばらつきが小さい形状が得られやすいとの請求人の主張は根拠のないものである。
したがって、請求人の主張は失当である。
(4) 請求人の主張4(本件意見書の理由1についての(1)-1ウ)
ア 請求人の主張内容
前記3について、請求人は、両分散が同値で第2絶対値が0となる場合は、分散自体が小さいことではなく方向間での偏りが小さいことを意味するに留まり、これをもって第2絶対値の技術的意義を否定することはできない旨主張している。
イ 請求人の主張についての検討
請求人の主張するように、両分散が同値で第2絶対値が0となる場合は、分散自体が小さいことではなく方向間での偏りが小さいことを意味するに留まるのであるから、仮に厚さの分散値と厚さ方向におけるばね幅のばらつきに技術的な関係があるとしても、圧延方向にもこれと直交する方向にも厚さの分散値がいずれも大きく同じ値である場合、本件第2絶対値は0となるが、厚さ方向におけるばね幅のばらつきは大きくなり、本件課題を解決できないものとなることは前記3(2)イで説示したとおりである。
したがって、請求人の主張は失当である。
(5) 請求人の主張5(本件意見書の理由1についての(1)-1エ)
ア 請求人の主張内容
前記4について、請求人は、第2絶対値は、圧延方向に沿った厚さの分散と幅方向に沿った厚さの分散との差の絶対値であり、厚さの絶対値を表すのではなく、両方向における厚さ不均一性の差、すなわち方向間の偏り、言い換えれば異方性の大きさを示す指標であることは明らかであり、発明の詳細な説明に記載された機序に照らせば、厚さのばらつきは貫通孔の形成までの時間差を介して、等方的なエッチング量である側壁の後退量のばらつきとして現れ得るところ、第2絶対値が小さいことは当該ばらつきが一方方向に過渡に大きくなる状態が抑えられることを意味し、「過剰に大きくなることの抑制」ひいては「所望の形状が得られやすい」ことに整合し、したがって、厚さの平均値が明示されていないことをもって直ちに「効果は平均厚さ差に起因する蓋然性が高い」と推断することはできず、実施例および比較例の記載は第2絶対値と本件課題の解決との関係を否定するものではない旨主張している。
イ 請求人の主張についての検討
第2絶対値が小さいことと、「厚さ方向におけるばね幅のばらつきを抑えること」との本件課題を解決することとの関係が理解できないことは、これまでに説示してきたとおりであり、当該関係を理解できることを前提とする請求人の主張は失当である。
6 小括
以上検討のとおり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されたものとは認められないから、本願発明は、経済産業省令で定めるところにより、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
第5 明確性要件違反についての判断
1 請求項1には、「圧延方向における厚さの分散」及び「前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散」(以下、これらをまとめて「本件分散」という。)並びに「前記圧延方向における前記厚さの最大値」及び「前記幅方向における前記厚さの最大値」(以下、これらをまとめて「本件最大値」という。)と記載されている。
そして、本件分散及び本件最大値の定義としては、特に、厚さの測定方向と直交する方向についてどのような値を用いるのか(平均値なのか、最大値又は最小値なのか、ある直交方向位置における代表値なのか)について、種々の定義が考えられるところ、請求項の記載からは当該定義は明らかではないから、明細書の記載を参酌して検討する。
明細書の【0086】には、「また、圧延方向DRに沿って延びる帯状を有する第1測定領域R1Rと、幅方向DWに沿って延びる帯状を有する第2測定領域R1Wとを測定領域30A内に設定した。この際に、第1測定領域R1Rにおける幅方向DWの長さである幅W1を20mmに設定し、かつ、第2測定領域R1Wにおける圧延方向DRの長さである幅W2を20mmに設定した。」と記載されている。しかしながら、第1測定領域R1R及び第2測定領域R1Wの位置が明確に定義されていない。そして、第1測定領域R1R及び第2測定領域R1Wの位置によって厚さは変わることが予想されるから、本願発明の技術的範囲を客観的に確定することができない。したがって、請求項1の本件分散についての記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。
2 請求人の主張について
(1) 請求人の主張内容
【図11】
[図:0001435587000007.jpg]
請求人は、本願明細書の段落【0084】から段落【0089】の記載によれば、圧延方向での厚さは、上記図11に示される白丸が記載された部位において測定され、かつ、当該図11に記載の白丸14点において得られた測定値を用いて、圧延方向における厚さの分散、標準偏差、第1差分値が算出されたことは明らかであり、また、幅方向での厚さは、上記図11に示される黒丸が記載された部位、及び、幅方向において黒丸間に位置する白丸が記載された部位において測定され、かつ、当該図11に記載の黒丸13点、及び、幅方向において黒丸間に位置する白丸1点において得られた測定値を用いて、幅方向における厚さの分散、標準偏差、第2差分値が算出されたことは明らかである旨主張している。
(2) 請求人の主張についての検討
本願明細書の【0084】~【0089】及び図11は、実施例であり、本願発明の「圧延方向における厚さ」及び「圧延方向に直交する幅方向における厚さ」を定義するものであるとは認められない。
例えば、図11において、圧延方向の厚さを測定する第1測定領域R1Rは、測定領域30Aを幅方向DWにおいて14等分し、図11の左から7番目、右から8番目の領域であると解されるから、測定領域30Aの中心位置というわけでもない。そうすると、実施例の記載を参酌して厚さの測定方向と直交する方向については、ある直交方向位置における代表値を用いると解するとしても、そのある直交方向位置が14等分した左から7番目、右から8番目の位置であることまでが「圧延方向における厚さ」の定義に含まれるとまで解することはできないし、実施例の記載をどのように一般化して代表値の直交方向位置を定めるのかを理解することもできない。
したがって、請求人の主張は失当である。
第6 進歩性欠如についての判断
1 引用文献1の記載事項並びに引用発明及び引用文献1技術事項の認定
(1) 引用文献1の記載事項
当審拒絶理由において引用された、最先の優先日前に発行された文献である引用文献1(特開2014-59345号公報)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記(2)の引用発明等の認定に用いる記載に下線を付した。)。
ア 板バネの製造方法(【0042】~【0074】)
「【0042】
(板バネの製造方法)
次に図5(a)~(c)および図6(a)~(f)により、上部板バネ5および下部板バネ11の製造方法について述べる。」
「【図5】
[図:0001435587000008.jpg]
【図6】
[図:0001435587000009.jpg]
」
「【0043】
上部板バネ5および下部板バネ11は、それぞれ銅合金(ベリリウム銅、ニッケル錫銅、チタニウム銅など)等の金属を含む板バネ材料40を加工することにより作製される。
【0044】
具体的には、まず図5(a)に示すように、(未加工の)板バネ材料40を準備する。
【0045】
次に図5(b)に示すように、板バネ材料40を所定の圧延方向Dに沿って圧延する。この場合、板バネ材料40は、一対のローラー45、45間に通され、所定の厚みとなるように圧延される。圧延方法としては、熱間圧延であってもよく、冷間圧延であっても良く、あるいはこの両者を実行しても良い。
【0046】
続いて、このようにして圧延された板バネ材料40は、ロール状に巻き取られ、その後例えばバッチ式の水素雰囲気ベル型焼鈍炉46内で焼鈍される(図5(c))。
【0047】
なお、本実施の形態において、板バネ材料40は、圧延された後に焼鈍されるが、これに限らず、焼鈍された後に圧延されても良い。
【0048】
このようにして作製された多数の板バネ材料40は、本来同一の厚みを有することが好ましいが、実際にはある程度のばらつきを有している。
【0049】
次に、これら多数の板バネ材料40の厚みtをそれぞれ測定する(図6(a))。この場合、例えば図6(a)に示すように、測長器(HEIDENHAIN社製CT60M)等の厚み測定器47を用いて板バネ材料40の厚みtを測定しても良い。
【0050】
続いて、板バネ材料40をその厚みtに応じて複数のクラスに分類する。
【0051】
例えば、クラスの数をNとし、板バネ材料40の厚みtが基準値t0に対して±Δtだけばらついている場合、以下のように厚みtのばらつきの幅(2Δt)をN等分したN個のクラスを設定しても良い。この場合、例えば第1のクラスには、厚みtがt0-Δt~t0-Δt+(2Δt/N)となる板バネ材料40が分類され、第nのクラスには、厚みtがt0-Δt+(n-1)・(2Δt/N)~t0-Δt+n・(2Δt/N)となる板バネ材料40が分類される。
【0052】
【表1】
[図:0001435587000010.jpg]
【0053】
なお、クラスの数Nとしては、例えば2~10程度とすることが好ましい。
【0054】
次に、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いて、各クラスに分類された板バネ材料40に対してそれぞれエッチング加工を施す(図6(b)~(g))。
【0055】
すなわち、まず図6(b)に示すように、各クラスに分類された板バネ材料40に対応するエッチング用原版50を準備する。エッチング用原版50としては、ガラスマスクやフィルムマスク等、公知のフォトマスクを用いることができる。
【0056】
このエッチング用原版50は、図8(a)(b)に示すように、透光部51と遮光部52とを有している。このうち遮光部52は、板バネ5、11の外枠部5a、11aに対応する外枠対応部分52aと、内枠部5b、11bに対応する内枠対応部分52bと、スプリング部5c、11cに対応するスプリング対応部分52cとを有している。なお、図8(a)は上部板バネ5を作製するためのエッチング用原版50を示し、図8(b)は下部板バネ11を作製するためのエッチング用原版50を示している。また、図8(a)(b)において、遮光部52を灰色で示している。
【0057】
本実施の形態において、各クラス別に準備された複数のエッチング用原版50は、遮光部52のスプリング対応部分52cの幅wが互いに異なるように形成されている。このエッチング用原版50を用いることにより、分類されたクラス毎に板バネ5、11のスプリング部5c、11cの幅b(図3および図4参照)を異ならせるように、エッチング加工が施される。」
「【図3】
[図:0001435587000011.jpg]
【図4】
[図:0001435587000012.jpg]
」
「【0058】
ところで一般に、板バネ5、11のバネ定数Kは、次式で表すことができる。
K=P/σ=Ebt3/4l3
(P:荷重、σ:たわみ、E:縦弾性係数、l:スプリング部の長さ、b:スプリング部の幅、t:スプリング部の厚み)
【0059】
すなわち、バネ定数Kは、スプリング部5c、11cの厚みtの3乗に比例し、スプリング部5c、11cの幅bに比例する。また、スプリング部5c、11cの幅bは、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50のスプリング対応部分52cの幅wに対応する値となる。
【0060】
このため、複数のクラスのうち、板バネ材料40の厚みが厚いクラスに対応するエッチング用原版50のスプリング対応部分52cの幅wを相対的に狭くし、板バネ材料40の厚みが薄いクラスに対応するエッチング用原版50のスプリング対応部分52cの幅wを相対的に広くしておく。この結果、板バネ材料40の厚みが厚いクラスに対応する板バネ5、11のスプリング部5c、11cの幅bが相対的に狭くなり、板バネ材料40の厚みが薄いクラスに対応する板バネ5、11のスプリング部5c、11cの幅bが相対的に広くなる。このことにより、板バネ5、11のバネ定数Kのばらつきを低減することが可能となる。具体的には、スプリング対応部分52cの幅wが板バネ材料40の厚みtの3乗に略反比例するように設定しておくことにより、板バネ5、11のバネ定数Kを安定化させることができる。
【0061】
続いて、図6(c)に示すように、板バネ材料40の表面及び裏面上にカゼインレジスト(レジスト)41を塗布し乾燥させる。
【0062】
次に、分類されたクラスに対応する所定のエッチング用原版50を、板バネ材料40の表面及び裏面のレジスト41上に載せ、超高圧水銀灯で所定時間露光する(図6(d))。
【0063】
次にレジスト41を現像した後、ポストベークを施して、板バネ材料40上に所定パターンをもつレジスト41が形成される(図6(e)参照)。
【0064】
その後、レジスト41が塗布された板バネ材料40に対して塩化第二鉄水溶液のようなエッチング液を用いてエッチングを施し、板バネ材料40が所定の平面形状をもつよう加工される(図6(f)参照)。このようにして、板バネ材料40に外枠部5a、11a、内枠部5b、11bおよびスプリング部5c、11cが形成される。
【0065】
次に、例えば水酸化ナトリウム溶液等のレジスト剥離液を用いて、板バネ材料40からレジスト41を剥離し、次いで板バネ材料40を水洗及び乾燥させる(図6(g)参照)。
【0066】
その後、板バネ材料40が断裁され、バネ形状に個片化され、このようにして板バネ材料40から板バネ5、11が得られる(図6(g)参照)。この場合、板バネ5、11のスプリング部5c、11cの幅bは、エッチング用原版50のスプリング対応部分52cの幅wに対応する値となる。一般にウエットエッチング加工により作製される部材は、エッチング用原版50にデザインされた形状よりも僅かながら小さく作製される。これはエッチング加工の途中で、エッチング液が板バネ材料の上下面のみならず、側面にも回り込むからである。したがって、エッチング用原版50のスプリング対応部分52cの幅wは、このエッチング代(補正)を考慮に入れ、スプリング部5c、11cの幅bよりも所定の値(例えば20μm~30μm)だけ太く設定することでバネ定数の制御を行う。このようにして、スプリング部5c、11cの幅bは、板バネ5、11の厚みに応じて分類されたクラスに対応する所定の値となり、複数の板バネ5、11間でそのバネ定数のばらつきを低減することができる。
【0067】
このように本実施の形態によれば、複数の板バネ材料40を、その厚みに応じて複数のクラスに分類し、その後、予め各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いて、当該クラスに分類された板バネ材料40に対してエッチング加工を施すことにより、板バネ5、11を形成する。このことにより、板バネ材料40の厚さにばらつきが生じている場合であっても、板バネ5、11のバネ定数のばらつきを低減することができる。
【0068】
なお、本実施の形態では、分類されたクラス毎にスプリング部5c、11cの幅を異ならせているが、これに限られるものではない。例えば、スプリング部5c、11cの長さ等、板バネ5、11のバネ定数に影響する部分の形状を分類されたクラス毎に異ならせても良い。」
イ 実施例(【0075】~【0081】)
「【実施例】
【0075】
次に、本実施の形態における具体的実施例について説明する。
【0076】
(実施例)
まず、圧延されたニッケル錫銅(15%ニッケル、8%錫および77%銅を含む)の板バネ材料40を50枚準備した。板バネ材料40の厚みの規格値は0.040mmであった。次に、これら50枚の板バネ材料40の厚みを測定した。この結果、板バネ材料40の厚みは0.040mm±0.002mmのばらつきをもっていた。
【0077】
次に、これら50枚の板バネ材料40を5つのクラスに分類した。具体的には、0.0380mm~0.0387mm(第1のクラス)、0.0388mm~0.0395mm(第2のクラス)、0.0396mm~0.0404mm(第3のクラス)、0.0405mm~0.0412mm(第4のクラス)、0.0413mm~0.0420mm(第5のクラス)の5つのクラスに分類した。
【0078】
次に、各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いて、当該クラスに分類された板バネ材料40に対してエッチング加工を施すことにより、板バネ(実施例)を形成した。なお、板バネの形状は図3に示す上部板バネ5と同一のものを用いた。このようにして作製された板バネ(実施例)のバネ定数は、3.50gf/mm~3.75gf/mmとなった。なおバネ定数は、板バネ5の外枠部5aを固定した上で内枠部5bに力を加え、板バネ5の変位量が0.08mm~0.24mmとなった時の測定値である。
【0079】
(比較例)
実施例と同等の厚みのばらつき(0.040mm±0.002mm)をもつ板バネ材料40を50枚準備し、この板バネ材料40に対して単一のエッチング用原版50(実施例1の第3のクラスで用いたものと同一のもの)を用いてエッチング加工を施すことにより、板バネ(比較例)を形成した。このようにして作製された板バネ(比較例)のバネ定数は、3.01gf/mm~4.25gf/mmとなった。
【0080】
このように、実施例の板バネのバネ定数のばらつきを比較例の板バネのバネ定数のばらつきより小さくすることができた。
【0081】
【表2】
[図:0001435587000013.jpg]
」
(2) 引用発明及び引用文献1技術事項の認定
前記(1)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、板バネ材料40に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められ、また、実施例から次の技術事項(以下「引用文献1技術事項」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「銅合金(ベリリウム銅、ニッケル錫銅、チタニウム銅など)等の金属を含む板バネ材料40であって、(【0043】)
未加工の板バネ材料40を準備し、(【0044】)
板バネ材料40は、一対のローラー45、45間に通され、所定の厚みとなるように圧延され、(【0045】)
このようにして圧延された板バネ材料40は、ロール状に巻き取られ、その後例えばバッチ式の水素雰囲気ベル型焼鈍炉46内で焼鈍され、(【0046】)
このようにして作製された多数の板バネ材料40は、本来同一の厚みを有することが好ましいが、実際にはある程度のばらつきを有しており、(【0048】)
板バネ材料40が断裁され、バネ形状に個片化され、このようにして板バネ材料40から板バネ5、11が得られる、(【0066】」
板バネ材料40。」
<引用文献1技術事項>
「圧延されたニッケル錫銅(15%ニッケル、8%錫および77%銅を含む)の板バネ材料40であって、(【0076】)
板バネ材料40の厚みの規格値は0.040mmであり、(【0076】)
板バネ材料40を、0.0380mm~0.0387mm(第1のクラス)、0.0388mm~0.0395mm(第2のクラス)、0.0396mm~0.0404mm(第3のクラス)、0.0405mm~0.0412mm(第4のクラス)、0.0413mm~0.0420mm(第5のクラス)の5つのクラスに分類し、(【0077】)
次に、各クラス別に準備されたエッチング用原版50を用いて、当該クラスに分類された板バネ材料40に対してエッチング加工を施すことにより、板バネを形成し、(【0078】)
板バネのバネ定数のばらつきを小さくすること。(【0080】)」
2 本願発明と引用発明の対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 構成Xの観点(ばね部材用金属箔)
構成Xは、ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔の発明であることを特定するものである。
「ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔」の発明である本願発明と、「銅合金(ベリリウム銅、ニッケル錫銅、チタニウム銅など)等の金属を含[み]」、「所定の厚みとなるように圧延され[た]」、「板バネ5、11が得られる」「板バネ材料40」の発明である引用発明は、「ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔」の発明である点において一致する。
イ 構成Aの観点(圧延材であるばね部材用金属箔)
(ア) 構成Aは、「ばね部材用金属箔は、圧延材であ[る]」ことである。
(イ) 引用発明における「板バネ材料40」は、「一対のローラー45、45間に通され、所定の厚みとなるように圧延され[た]」ものであるから、本願発明にいうところの「圧延材であ[る]」といえる。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記ばね部材用金属箔は、圧延材であ[る]」点。
ウ 構成Bの観点(第1領域について)
(ア) 構成Bは、ばね部材用金属箔が、「一辺の長さが280mmである正方形状を有し、前記ばね部材が形成されるための第1領域を備え[る]」ことである。
(イ) 引用発明は、「板バネ材料40が断裁され、バネ形状に個片化され、このようにして板バネ材料40から板バネ5、11が得られる」ものであるから、板バネ材料40は、板バネ5、11が形成される領域を有しているといえ、当該領域は、本願発明の「第1領域」に相当する。
(ウ) 以上の検討結果を踏まえると、本願発明と引用発明の構成Bの観点にける一致点及び相違点は、次のa及びbのとおりである。
a 構成Bの観点における一致点
「前記ばね部材が形成されるための第1領域を備え[る]」点。
b 構成Bの観点における相違点
第1領域が、
本願発明においては、「一辺の長さが280mmである正方形状を有[する]」のに対して、
引用発明においては、そのようなものか明らかでない点。
エ 構成Cの観点(厚さの分散について)
(ア) 構成Cは、「前記第1領域において、圧延方向における厚さの分散から、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散を減算した差分値の絶対値が、0.15μm2以下である」ことである。
(イ) 引用発明は、本願発明の構成Cに相当する構成を備えているか明らかでないから、本願発明と引用発明は、次の点において相違する。
本願発明においては、「前記第1領域において、圧延方向における厚さの分散から、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散を減算した差分値の絶対値が、0.15μm2以下であ[る]」のに対して、
引用発明においては、そのようなものか明らかでない点。
オ 構成Dの観点(厚さの最大値について)
(ア) 構成Dは、「前記第1領域において、」「前記圧延方向における前記厚さの最大値が第1最大値であり、前記幅方向における前記厚さの最大値が第2最大値であり、前記第1最大値から前記第2最大値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であ[る]」ことである。
(イ) 引用発明は、本願発明の構成Dに相当する構成を備えているか明らかでないから、本願発明と引用発明は、次の点において相違する。
本願発明においては、「前記圧延方向における前記厚さの最大値が第1最大値であり、前記幅方向における前記厚さの最大値が第2最大値であり、前記第1最大値から前記第2最大値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であ[る]」のに対して、
引用発明においては、多数の板バネ材料40は、本来同一の厚みを有することが好ましいが、実際にはある程度のばらつきを有している点。
カ 構成Eの観点(ばね部材用金属箔の厚さについて)
(ア) 構成Eは、「前記ばね部材用金属箔の厚さが、50μm以上150μm以下である」ことである。
(イ) 引用発明は、本願発明の構成Eに相当する構成を備えているか明らかでないから、本願発明と引用発明は、次の点において相違する。
前記ばね部材用金属箔の厚さが
本願発明においては、「50μm以上150μm以下である」のに対して、
引用発明においては、多数の板バネ材料40は、本来同一の厚みを有することが好ましいが、実際にはある程度のばらつきを有している点。
(2) 一致点及び相違点
前記(1)の対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のア及びイに示すとおりである。
ア 一致点
「ばね部材を製造するためのばね部材用金属箔であって、
前記ばね部材用金属箔は、圧延材であり、
前記ばね部材が形成されるための第1領域を備える
ばね部材用金属箔」である点。
イ 相違点
(ア) 相違点1
第1領域が、
本願発明においては、「一辺の長さが280mmである正方形状を有す[る]」のに対して、
引用発明においては、そのようなものか明らかでない点。
(イ) 相違点2
本願発明においては、「前記第1領域において、圧延方向における厚さの分散から、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散を減算した差分値の絶対値が、0.15μm2以下であ[る]」のに対して、
引用発明においては、そのようなものか明らかでない点。
(ウ) 相違点3
本願発明においては、「前記第1領域において、」「前記圧延方向における前記厚さの最大値が第1最大値であり、前記幅方向における前記厚さの最大値が第2最大値であり、前記第1最大値から前記第2最大値を減算した差分値の絶対値が、0.8μm以下であ[る]」のに対して、引用発明においては、多数の板バネ材料40は、本来同一の厚みを有することが好ましいが、実際にはある程度のばらつきを有している点。
(エ) 相違点4
前記ばね部材用金属箔の厚さが、
本願発明においては、「50μm以上150μm以下である」のに対して、
引用発明においては、多数の板バネ材料40は、本来同一の厚みを有することが好ましいが、実際にはある程度のばらつきを有している点。
3 判断
(1) 相違点1、相違点2及び相違点3について
事案に鑑み、相違点1~3を合わせて検討する。
まず、相違点1~3に係る本願発明の技術上の意義について検討すると、相違点1に係るばね部材が形成される領域ための第1領域が1辺の長さが280mmである正方形状を有する領域とすることの技術上の意義は、その領域において厚さの分散及び最大値が定義されるということであり、相違点2及び3に係る本件第2絶対値及び本件第4絶対値の技術上の意義は、前記第4で説示したとおり不明である。
これに対して、引用発明は、「板バネ材料40が断裁され、バネ形状に個片化され、このようにして板バネ材料40から板バネ5、11が得られる」ものであるから、板バネ材料40から板バネ5、11が得られる領域は、複数の板バネを得るための所定の形状及大きさをもっているといえる。また、引用発明は、「作製された多数の板バネ材料40は、本来同一の厚みを有することが好ましい」ものであるところ、板バネ材料40から複数の板バネ5、11を得ることに鑑みれば、多数の板バネ材料40間で同一の厚みを有することが好ましいのみならず、同一の板バネ材料40内においても厚みが均一であることが好ましいことは当業者であればただちに理解できる事項である。そうすると、引用発明において、板バネ材料40の厚みを均一にする、すなわち、板バネ材料40の厚みの分散をいずれに方向においても小さくするという技術思想及び板バネ材料40の圧延方向の厚さの最大値から圧延方向と直交する幅方向における厚さの最大値を減算した差分値の絶対値を小さくするという技術思想を想到することは、当業者が容易になし得たことであるし、厚さの分散及び最大値を定義する領域として1辺の長さが280mmである正方形状を有する領域とすることも、格別の技術上の意義を伴わない単なる設計事項にすぎない。
さらに、本件第2絶対値の0.15μm2以下という具体的な値について検討しても、引用文献1に引用発明とともに開示されている引用文献1技術事項において、各クラスの厚みの幅は0.0007mm(0.7μm)であることからみて、各板バネ材料の厚みはそのばらつきを考慮しても0.0007mm(0.7μm)の幅に収まっていると解するのが相当であり、このことからすると、各方向における厚みの分散が0.15μm2以下であることは、引用文献1技術事項から予測される値としてごく普通の値にすぎないし、この結果、板バネ材料40の圧延方向における厚さの分散から、前記圧延方向に直交する幅方向における厚さの分散を減算した差分値の絶対値についても、0.15μm2以下であることは引用文献1技術事項から予測される値としてごく普通の値にすぎない。また、本件第4絶対値の0.8μm以下という具体的な値についても、前述のとおり各板バネ材料の厚みはそのばらつきを考慮しても0.0007mm(0.7μm)の幅に収まっていると解するのが相当であることに照らせば、引用発明において必然的な値にすぎないものである。
したがって、引用発明において、引用文献1技術事項を適用することにより、相違点1~3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
(2) 相違点4について
まず、相違点4に係る本願発明の技術上の意義について検討すると、明細書の記載を参酌してもばね部材用金属箔の厚さが50μm以上150μm以下であることに格別の技術上の意義は認められない。
これに対して、引用発明の「板バネ材料40」は、「一対のローラー45、45間に通され、所定の厚みとなるように圧延された」ものであり、引用文献1技術事項においては、「板バネ材料40の厚みの規格値は0.040mmであ[る]」、すなわち40μmであるが、当業者は、板バネ材料40の厚みを、所望の板バネの剛性等を考慮して、適宜決定や変更することができるといえる。
したがって、引用発明において、板バネの剛性等を考慮して、板バネ材料40の厚みを50μm以上150μm以下とすること、すなわち、相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎない。
(3) 総合評価
前記(1)及び(2)において検討したとおり、引用発明において、前記相違点1~4に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、引用発明及び引用文献1技術事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、相違点1~4を総合的に勘案しても、本願発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 請求人の主張について
(1) 請求人の主張内容
請求人は、引用文献1に記載の発明は、板バネ材料40の厚さのばらつきが生じていることを前提として、それぞれの厚みに応じてエッチング加工を変えることで、エッチング加工後の板バネのバネ定数のばらつきを低減しようとするものであるから、引用文献1には、エッチング加工前の板バネ材料40の厚さのばらつきを小さくすることによってエッチング加工後の板バネのバネ定数のばらつきを低減しようとする動機付けが無い旨、引用文献1には、本件第2絶対値とすることにより、厚さのばらつきを低減しようとする動機付けは無い旨、引用文献1に記載の発明において、ウェットエッチング条件を変更せずともばらつきを所定の範囲内に抑えられるようにすることには阻害要因があるともいえる旨主張している。
(2) 請求人の主張についての検討
まず動機付けが無い旨の主張については、前記3(1)で説示したとおり、同一の板バネ材料40内においても厚みが均一であることが好ましいことは当業者であればただちに理解できる事項である。また、阻害要因の主張については、引用文献1では、ウェットエッチング条件を変更することにより複数の板バネ材料40間のばらつきを低減しようとするものであって、板バネ材料内の厚さのばらつきを低減するための他の手段の採用を妨げるものではないから、請求人の主張する阻害要因は存在しないというべきである。
したがって、請求人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上検討のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず、さらに、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-006934