特許拒絶査定不服審判
2020-014676
半導体素子及びそれを用いた電気機器
- 審判番号
- 2020-014676
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-159351外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年10月21日
- 審決日
- 2021年10月04日
- 公報発行日
- 2021年11月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】出光興産株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人平和国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WY (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-159351「半導体素子及びそれを用いた電気機器」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月 6日出願公開、特開2017-120878、請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,平成28年8月15日(優先権主張 平成27年12月25日)の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
令和2年4月1日付け :拒絶理由通知書
令和2年6月4日 :意見書,手続補正書の提出
令和2年7月17日付け :拒絶査定
令和2年10月21日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和3年3月9日 :上申書の提出
令和3年5月20日付け :最後の拒絶理由通知書
令和3年7月20日 :意見書,手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~15に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」~「本願発明15」という。)は,令和3年7月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される発明であり,そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
離間する一対のオーミック電極及びショットキー電極と,
前記オーミック電極と前記ショットキー電極に接する半導体層を有し,
前記ショットキー電極が金属酸化物から構成され,
前記ショットキー電極が,Pd,Mo,Pt,Ir,Ru,W,Cr,Re,Te,Mn,Os,Fe,Rh,Co及びNiから選択される1以上の金属の酸化物を含み,
下記式(I)を満たすことを特徴とする半導体素子。
【数15】
(式中,nは前記半導体層のキャリア濃度(cm-3),εは前記半導体層の誘電率(F/cm),Veは前記オーミック電極と前記ショットキー電極の間の順方向実効電圧(V),qは素電荷(C),Lは前記オーミック電極と前記ショットキー電極の間の距離(cm)である。)」
本願発明2~15は,本願発明1の発明特定事項をすべて含む発明である。
第3 引用例の記載と引用発明
1.引用例1について
(1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1(国際公開第2015/025500号)には,次の記載がある。(下線は当審により付加。)
「[0014] 1.ショットキーバリアダイオード素子
本発明のショットキーバリアダイオード素子は,n型又はp型シリコン(Si)基板と,酸化物半導体層と,ショットキー電極層とを有するショットキーバリアダイオード素子であって,前記酸化物半導体層がガリウム(Ga)を主成分とする多結晶酸化物及び非晶質酸化物のいずれか一方又は両方を含む。
・・・」
「[0024] ショットキー電極層には,仕事関数が4.7eV以上の材料が用いられる。具体的には,Ru,Au,Pd,Ni,Ir,Pt,又はこれらの合金が用いられる。仕事関数が4.7eVを下回ると,ショットキー障壁の高さが低く,逆バイアス時のリークが大きくなる。
一方,オーミック電極層に使用される金属の仕事関数は,シリコンウェハーの不純物濃度にもよるが,4.1eV程度が好ましく,密着性も考慮するとTiやMoが好ましい。」
「[0026] また,本発明のショットキーバリアダイオード素子の別の実施形態では,シリコン基板上にショットキー電極層が形成され,ショットキー電極層上に酸化物半導体層が形成される。
p型シリコンウェハーを用いた場合,基板の表面側は,最初にPt,Au,Pd,Ni等のショットキー電極層が積層され,その上に,Ga2O3系酸化物半導体がスパッタ法により形成される。この場合もショットキー障壁は,Pt,Au,Pd,Ni等の金属と,酸化物半導体層の界面に形成される。また,酸化物半導体層を形成する前に,ショットキー電極層表面を酸素プラズマやUVオゾン等で酸化処理すると,より良好なダイオード特性を得ることができる。
「[0028] 続いて,酸化物半導体層上に,Ti等の,酸化物半導体とオーミック接合を形成する金属が積層される。この場合も,前記と同様に,Niを挟んでAu等の良導体をさらに積層してもよい。一方,p型シリコンウェハーの裏面側には導通を補助するための密着性に優れた電極が積層される。」
「[0030] 本発明のショットキーバリアダイオード素子を構成する酸化物半導体層,ショットキー電極層,オーミック電極層等は,例えば,実施例に記載するように,安価で量産性に優れた方法である従来公知のスパッタ成膜法等により形成することができる。
また,ショットキー電極を形成する電極層と酸化物半導体層の界面は,ショットキー電極スパッタ工程で酸素を導入して反応性スパッタを行い,10nm以下の薄い酸化膜を積層してもよい。」
「[0072] 実施例7
抵抗率0.02Ω・cmのn型Si基板(4インチφ)を用意した。このSiウェハーをスパッタリング装置(島津製作所製:HSM552)に装着し,円形状のエリアマスクを用いて,Tiを15nm,Pdを50nmの順にスパッタ成膜した。エリアマスクを交換後,Ga2O3:SnO2=99.9:0.1wt%の焼結体ターゲットを用い,RF100W,Ar100%の条件で,Ga2O3:SnO2を200nmの膜厚でスパッタ成膜した。次にこの構造体をホットプレートに載せて,空気中,300℃,1時間の条件でアニール処理した。」
「[0074] 実施例8
実施例7で製造した構造体を再びスパッタ装置に装填し,直径1mmのエリアマスクを用いてTiを50nm,Auを50nmの順にスパッタ成膜した。このようにして得られた積層体の模式図を図6に示す。さらに,実施例7と同様にして電流-電圧特性を評価した。電流密度は直径1mmエリアマスクの孔の面積で除算して求めた結果,30A/cm2以上の順方向電流が得られた。オーミック電極を設けたことで,順方向の立ち上がり電圧(Vf)が大幅に低減し,2.5Vから立ち上がった。逆バイアス印加によるブレークダウン電圧は-30Vであり,絶縁価破壊電界強度としては,1.5MV/cmが得られた。
これらの性能を表2にまとめた。
[0075] 実施例9~16
以下,実施例8と同様の構造体を,半導体の材料や電極材料を変更しながら評価を行った。結果を表2に示す。尚,実施例表中の微結晶とは,多結晶の形態の一つである。」
「[0078] 実施例15では最終工程で空気中,600℃,1時間でアニールしたため,多結晶構造となった。このため,絶縁破壊電界は低下したものの,順方向電圧は0.1Vとなり,内部抵抗の小さなダイオードが得られた。
実施例16では純粋なGa2O3膜を用いてダイオードを形成した。その結果,順方向電圧は25Vと大きくなったものの,絶縁破壊電界とOn電流については良好な性能が得られた。」
表2-2として,以下の表が示されている。
引用例1の図4及び図6として,以下の図面が示されている。
(2)摘記の整理
以上によれば,引用例1には次の事項が記載されているものと理解できる。
ア n型又はp型シリコン(Si)基板と,酸化物半導体層と,ショットキー電極層とを有するショットキーバリアダイオード素子。(段落0014)
イ ショットキー電極層には,Ru,Au,Pd,Ni,Ir,Pt,又はこれらの合金が用いられること。(段落0024)
ウ 基板の表面側は,最初にPt,Au,Pd,Ni等のショットキー電極層が積層され,その上に,Ga2O3系酸化物半導体がスパッタ法により形成され,続いて,酸化物半導体層上に,Ti等の,酸化物半導体とオーミック接合を形成する金属が積層されることで,ショットキーバリアダイオード素子が形成されること。(段落0026,0028)
エ n型Si基板上にTi,Pdの順にスパッタ成膜し,その後,Ga2O3:SnO2をスパッタ成膜して,実施例7の構造体を製造すること。(段落0072)
オ 実施例7で製造した構造体上に,Ti,Auの順に成膜して,実施例8の構造体を得ること。(段落0074)
カ 実施例16として,基板にSiウエハー,ショットキー電極にPd,オーミック電極にTi,半導体層に膜厚200nm,キャリア濃度3×1014cm-3のGa2O3膜を用いて,実施例8と同様の構造のダイオードを形成すること。(段落0075,0078,表2-2)
(3)引用発明1
上記ア~ウと上記エ~オを比較すると,実施例8すなわち実施例16の構造体は上記ア~ウに記載された構造と同様であると理解できるから,実施例16は,Si基板上にショットキー電極,Ga2O3膜,オーミック電極を順に積層した構造を備えるショットキーバリアダイオード素子を構成するものと理解できる。
そうすると,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「Si基板上に積層されたショットキー電極層と,
ショットキー電極上にスパッタ成膜されたGa2O3膜と,
Ga2O3膜上に積層されたオーミック電極層とを有し,
ショットキー電極層はPdであり
Ga2O3膜は膜厚200nm,キャリア濃度3×1014cm-3である,
ショットキーバリアダイオード素子。」
2.引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用例2(特開2016-165532号公報)には,次の記載がある。
「【0283】
上記PN-T素子のドレイン電極-ソース電極間に流れる電流は,上記ゲート電極2に印加される電圧に従って,上記N型半導体内に形成される空乏領域の大きさが変わるため,上記ドレイン電極-ソース電極間の電流経路のサイズが増減することにより決まる。上記PN-T素子は,TFTと異なり,絶縁層が必要ないという利点がある。
(実施例4:上記透明膜を用いたSD素子)
図13に示すように,ガラス,プラスチックなどの絶縁基板10上に,パルスレーザー堆積法により上記In-Ga-Zn-O系アモルファスN型半導体13をパルスレーザー堆積法により30nm形成する。そして,フォトリソグラフィー法とリフトオフ法により,パターニングされた上記In-Ga-Zn-O系アモルファスN型半導体膜を形成する。続いて,上記半導体上に,電極12として,パルスレーザー堆積法により,Pt薄膜を30nm形成し,フォトリソグラフィー法とリフトオフ法でパターニングする。さらに,上記半導体上に,電極11として,パルスレーザー法でITO膜を30nm形成し,フォトリソグラフィー法とリフトオフ法によりパターニングする。上記手段により,SD素子が作製できる(図13)。
【0284】
ここで,上記電極11と電極12の作製順を入れ替えても良い。
【0285】
上記SD素子は,上記電極12と上記半導体膜13の間でショットキー障壁が形成されることで,整流性を持つようになる。
・・・(以下略)・・・」
引用例2の図13として,以下の図面が示されている。
第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1の対比
本願発明1と引用発明1を対比する。
・引用発明1における「ショットキー電極層」,「オーミック電極層」,「Ga2O3膜」及び「ショットキーバリアダイオード素子」は,本願発明1における「ショットキー電極」,「オーミック電極」,「半導体層」及び「半導体素子」にそれぞれ相当する。
・本願の発明の詳細な説明には次の記載がある。(下線は当審で付加。)
「【0031】
順方向実効電圧Veに関しては,実際の順方向特性使用時のユニポーラデバイスへの印加電圧が通常0.5V~1.5V程度であり,ビルトイン電圧Vbiが通常0.7~1.3V程度あることを考慮すると,Veは0.1V程度とみなすことができる。素電荷の値は1.602×10-19C/個なので,εrを10と仮定すると,式(I)を鑑み,キャリア濃度nの上限値は,半導体層の一対のオーミック電極及びショットキー電極の間隔Lで決まり,表1のようになる。
【0032】
」
上記表1によれば,一対のオーミック電極とショットキー電極の間隔Lが「200nm」のとき,キャリア濃度nの上限値は「1.37E+15(cm-3)」であり,一方,引用発明1の「Ga2O3膜」は「膜厚200nm,キャリア濃度3×1014cm-3である」から,引用発明1は,本願発明1の式(I)を満たしているといえる。
以上によれば,本願発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,以下のとおりとなる。
(一致点)
「離間する一対のオーミック電極及びショットキー電極と,
前記オーミック電極と前記ショットキー電極に接する半導体層を有し,
下記式(I)を満たすことを特徴とする半導体素子。
【数15】
(式中,nは前記半導体層のキャリア濃度(cm-3),εは前記半導体層の誘電率(F/cm),Veは前記オーミック電極と前記ショットキー電極の間の順方向実効電圧(V),qは素電荷(C),Lは前記オーミック電極と前記ショットキー電極の間の距離(cm)である。)」
(相違点)
本願発明1は,「前記ショットキー電極が金属酸化物から構成され,」「前記ショットキー電極が,Pd,Mo,Pt,Ir,Ru,W,Cr,Re,Te,Mn,Os,Fe,Rh,Co及びNiから選択される1以上の金属の酸化物を含」むのに対し,引用発明1は,「ショットキー電極層」が「Pd」である点。
(2)相違点についての判断
引用例1には,「酸化物半導体層を形成する前に,ショットキー電極層表面を酸素プラズマやUVオゾン等で酸化処理する」(段落0026)ことや,「ショットキー電極を形成する電極層と酸化物半導体層の界面」に「10nm以下の薄い酸化膜を積層してもよい」(段落0030)は記載されている。しかしながら,これらの技術的事項はいずれも,引用例1の実施例16において,Pdとその表面のPd酸化物によりショットキー電極を構成することは示唆するものの,ショットキー電極をPd酸化物から構成することまで示唆するものとはいえない。また,引用例1には,ショットキー電極層には,Pt,Ir,Ru及びNiが用いられることは記載されているものの,ショットキー電極をPt,Ir,Ru及びNiの酸化物から構成することまで示唆するものとはいえない。更にまた,引用例1には,ショットキー電極層にMo,W,Cr,Re,Te,Mn,Os,Fe,Rh,Coの酸化物から構成することは記載も示唆もされていない。
また,引用例2は,半導体層の同一表面上にショットキー電極とオーミック電極を形成した素子について記載されているものの,ショットキー電極を金属酸化物から構成する点については記載も示唆もされていない。
そして,本願発明1は上記相違点に係る構成を備えることにより,耐圧及びリーク電流値について顕著な効果を得るものであるといえる。
したがって,本願発明1は,引用発明1及び引用例1又は引用例2に記載された技術的事項から当業者が容易に発明できたものとはいえない。
2.本願発明2~15について
本願発明2~15は本願発明1の発明特定事項の全てを含む発明であるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1及び引用例2に記載の技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定の概要は,本願の請求項3~13,15~18に係る発明は,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり,本願の請求項14に係る発明は,引用例1に記載された発明に引用例2に記載された技術的事項を適用することにより当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら,本願発明1は,原査定の対象である本願の請求項3に係る発明において,「前記ショットキー電極が,Pd,Mo,Pt,Ir,Ru,W,Cr,Re,Te,Mn,Os,Fe,Rh,Co及びNiから選択される1以上の金属の酸化物を含み」との事項を限定したものであるところ,上記第4で示したとおり,本願発明1は引用発明1及び引用例1又は2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではなく,本願発明1の発明特定事項を全て含む本願発明2~15もまた,本願発明1と同様の理由により当業者が容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。
第6 当審拒絶理由(特許法36条6項2号)について
当審では,請求項3の「前記金属酸化物」という記載の意味が不明確であるとの拒絶の理由を令和3年5月20日付けで通知しているが,令和3年7月20日提出の手続補正書でした補正により,「前記半導体層の金属酸化物」と補正された結果,この拒絶の理由は解消した。
第7 結言
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
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