2020-012632
しごき型ポンプ
- 審判番号
- 2020-012632
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-221346外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年09月09日
- 審決日
- 2021年11月26日
- 公報発行日
- 2022年02月25日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (F04C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 16項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成27年11月11日の出願であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 元年 7月24日付け 拒絶理由通知書
令和 元年 9月27日 意見書・手続補正書の提出
令和 元年12月26日付け 拒絶理由通知書(最後の拒絶理由)
令和 2年 3月10日 意見書・手続補正書の提出
令和 2年 5月 7日付け 令和2年3月10日の手続補正についての補正の却下の決定・拒絶査定
令和 2年 9月 9日 審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 5月 7日付け 拒絶理由通知書
令和 3年 7月 9日 意見書・手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「流体を流動させ得る可撓性チューブの被しごき部が取り付けられる取付部を具備したステータと、前記取付部内で回転可能とされたロータと、該ロータを回転駆動するための駆動源と、前記ロータに形成され、当該取付部に取り付けられた被しごき部を径方向に圧縮しつつ当該ロータの回転に伴い長手方向にしごくことにより、前記可撓性チューブ内で流体を流動させるためのローラと、を具備したしごき型ポンプにおいて、前記被しごき部を一定温度に保持するための温度保持手段を具備して構成され、且つ、前記ステータの前記取付部には、第1の被しごき部及び第2の被しごき部を含む複数の前記被しごき部が取り付けられるとともに、前記ロータは、当該取付部に取り付けられる被しごき部に対応して複数配設され、複数の前記ロータの回転時に、前記第1の被しごき部の流量が前記第2の被しごき部の流量より大きくなるよう設定され、前記ステータの前記取付部を介して複数の被しごき部を一括して一定温度に保持可能になるように前記ステータの前記取付部に前記温度保持手段が配設され、さらに、前記第1の被しごき部は、患者の血液を流動させる可撓性チューブの被しごき部であり、前記第2の被しごき部は、所定の希釈液を流動させる可撓性チューブの被しごき部であり、前記複数のロータによって、前記第1の被しごき部及び前記第2の被しごき部をそれぞれしごいて前記患者の血液及び前記希釈液を流動させ、前記血液と希釈液とを所定比率に混合して希釈する希釈装置に適用される、ことを特徴とするしごき型ポンプ。」
第3 拒絶の理由
令和3年5月7日付けで当審が通知した拒絶理由の理由1は、次のとおりのものである。
本件補正前の請求項1~5に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び引用文献3~5に示されるような周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1.特開2013-245664号公報
引用文献2.実願昭54-25549号(実開昭55-125989号)のマイクロフィルム
引用文献3.特表2002-527148号公報
引用文献4.特表平8-506983号公報
引用文献5.特開平6-280749号公報
第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1の記載
(1)引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審にて付した。以下同様。)
「【0001】この発明は定量サンプリング装置、生体成分測定装置及び人工膵臓装置に関し、さらに詳しくは、内蔵するチューブポンプのチューブ交換による影響を受け難く、高精度で定量的なサンプリングのできる定量サンプリング装置、この定量サンプリング装置を備えた生体成分測定装置及び人工膵臓装置に関する。」
「【0004】チューブポンプは、弾性チューブを押圧しながらしごくことによりチューブ内の流体を移送する装置であり、ローラポンプ、しごきポンプ、ペリスタルティックポンプ、蠕動ポンプ等と呼ばれている類似のポンプもあり、これらも含めてチューブポンプと呼ぶ。これらのチューブポンプはいずれも、基本的な同じ原理にてポンプ機能を発揮する。【0005】さらに詳述すると、あるチューブポンプは、駆動源例えばモータにより回転することのできる回転軸と、その回転軸に放射状に取り付けられた複数の、かつ同じ長さの軸体と、前記軸体それぞれの先端部に回転自在に取り付けられたローラと、少なくとも2個の隣接するローラに架け渡され、かつ液体を流通させることのできる内部空間を有するように形成され、かつ押し潰すことのできる程度の弾力性を有する素材で作成されたチューブと、前記チューブを前記ローラにより押し潰すことができるように配置された押え板とを備える。」
「【0015】人口膵臓装置等に使用される定量サンプリング装置により採取される血液等の生体液につき、患者負担を軽減するために生体液の採取量はできるだけ少なくすることが要請される。また、人口膵臓装置等に使用される定量サンプリング装置では採取される生体液が少量であるから生体液中の生体成分を測定するためには希釈液で生体液を希釈しなければならず、したがって、前記人口膵臓装置及び生体成分測定装置等に使用される定量サンプリング装置にあっては、採取する生体液の量と生体液及び希釈液の合計量との比である希釈比を厳密に管理する必要がある。」
「【0049】図1には、この発明の定量サンプリング装置の概略説明図を示した。この態様における定量サンプリング装置10は、例えば軸線方向に沿って同一内径を有するチューブである希釈液供給チューブと軸線方向に沿って同一内径を有し、前記希釈液供給チューブの内径と同じ内径を有する希釈生体液導出チューブとを備えたふたつのローラポンプからなるマルチポンプ7を備えている。【0050】このような、希釈液供給チューブの内径と同じ内径を有する希釈生体液導出チューブを得るには、たとえば長尺のチューブから所定長さの1本のチューブを切り出し、次いでその1本のチューブを切断して2本のチューブにし、2本のチューブの内の一方のチューブを希釈液供給チューブとし、他方のチューブを希釈生体液導出チューブとするのが良い。【0051】ひとつのローラポンプは希釈液供給用のポンプで、もうひとつのローラポンプは希釈生体液導出用のポンプである。この態様の定量サンプリング装置10では、希釈液タンク14からマルチポンプ7により単位時間あたり所定量の希釈液を、希釈液供給流路18を通して体液採取器であるカテーテル12に導入する。【0052】カテーテル12は生体液、例えば血液を採取し、カテーテル12により採取された生体液は希釈液供給流路18を通して導入された希釈液とともにマルチポンプ7により希釈生体液導出流路17を通して吸引される。この際、カテーテル12に供給される希釈液の流量よりも、吸引される希釈液と生体液とを合わせた希釈生体液の流量のほうが多くなるようにマルチポンプ7におけるそれぞれのポンプの流量比が設定されている。【0053】このようにして、血液はカテーテル12中で希釈液により希釈され、希釈生体液としてマルチポンプ7により、定量サンプリング装置10の外部にあるセンサ13に導かれ、そのセンサ13により生体成分が測定される。具体的には、そのセンサ13が例えば血糖値センサであればその血糖値センサで血糖値が測定される。」
「【0060】この発明の定量サンプリング装置に備えられたローラポンプの形態例について図12を参照にしながら説明する。図12は希釈生体液導出用のローラポンプと希釈液供給用のローラポンプとを備えたマルチポンプの説明用斜視図である。【0061】この発明の定量サンプリング装置に備えられたローラポンプは、図12に示すように希釈液供給用のローラポンプと希釈生体液導出用のポンプとが共通ローラ3a,3b,3c,3dを共有して連動する所謂マルチポンプであり、それぞれのローラポンプは、円盤状の支持体5により回転軸と平行に支持され回転軸の周囲に配置された複数の共通ローラ3a,3b,3c,3dが、回転軸を中心に回転し、回転する共通ローラ3a,3b,3c,3dの回転面の外側に設けた円弧状の押さえ板2の内面の円弧に沿って配置した弾性を持つ希釈生体液導出チューブ8と希釈液供給チューブ9を閉塞するように押さえ板2と協働して押さえつけながらしごいて、チューブ内の流体を移送する。前記希釈生体液導出チューブ8と希釈液供給チューブ9は、それぞれ前出の図1または図2に示した希釈生体液導出流路17、希釈液供給流路18に接続するポンプ要素としてのチューブである(以下、それぞれ単に「チューブ」と称することがある。)。【0062】チューブ9を押さえつけている希釈液供給用のローラポンプは、チューブ内部を完全に閉塞させながらチューブ9をしごく複数の共通ローラ3a,3b,3c,3dのほかに、共通ローラ3a,3b,3c,3dと同一の支持体5に支持されたローラであって、共通ローラ3a,3b,3c,3dと同時に回転し、ローラとの当接部におけるチューブ9の内部を完全に閉塞させるようにチューブ9を押さえつけてしごく希釈液供給用ローラ3eを備えている。一方、チューブ8を備えた希釈生体液導出用のローラポンプは、希釈液供給用のローラポンプと共通ローラ3a,3b,3c,3dは共有しているが、希釈液供給用ローラ3eにより押さえつけられることはなく、通常のローラポンプと同様の形態をしている。」
「【0075】チューブ6内部の上流側の流体6a(図5で示せば共通ローラ3bの右側)は、共通ローラ3bと希釈液供給用ローラ3eとがチューブ6を押さえ板2と共に押さえつけてチューブ6を押し潰すことによりチューブ6の内部を完全に閉塞しているので、流体6a自らは自由に移動することができない状態になっている。この状態からローラポンプが作動し、共通ローラ3b、希釈液供給用ローラ3eが回転軸4を中心に図5の矢印のように時計回りに回転しながらチューブ6をしごいていくと、共通ローラ3bと希釈液供給用ローラ3eとに押さえつけられて内部が完全に閉塞しているチューブ6の当接部、換言すると押し潰し部は、図5のチューブ6内を右側へ移動していく。チューブ6は弾性があるので、最初に共通ローラ3bに押さえつけられていた部分は膨らんでもとのチューブ形状に戻ろうとする。そのため、チューブ6の共通ローラ3bの左側である上流側にあった流体は、チューブ6内を共通ローラ3bの移動に伴って図5の中央左部分の流体6aのあった部分に移動する。」
「【0089】上述したようなチューブポンプの集合であるマルチポンプ7は、容易にチューブ8,9を交換して使用することができ、また、チューブ8,9は交換することを前提にしていることが多い。一般に、チューブ交換にあたっては、マルチポンプ7のチューブ8,9を全て一緒に交換する。チューブ8,9を交換してもポンプ流量を厳密に交換前と同じにするためには、ローラ等からなる移動押圧部材の運転速度を一定とすれば、チューブ8,9の内径及び弾性を厳密に交換前と同じにせねばならない。」
(2)図12からは、円盤状の支持体5は押さえ板2の内側に設けられていること、1枚の押さえ板2の軸方向の一方側に希釈生体液導出チューブ8の押さえつけられる部分が配置され、他方側に希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分が配置されていることが看取される。
(3)上記(1)の【0061】における「円盤状の支持体5により回転軸と平行に支持され回転軸の周囲に配置された複数の共通ローラ3a,3b,3c,3dが、回転軸を中心に回転し」との記載、【0075】における「ローラポンプが作動し、共通ローラ3b、希釈液供給用ローラ3eが回転軸4を中心に図5の矢印のように時計回りに回転しながらチューブ6をしごいていく」との記載、及び、上記(2)の「円盤状の支持体5は押さえ板2の内側に設けられていること」から、円盤状の支持体5は押さえ板2の内側で回転軸4を中心に回転することがわかる。
図1 図12
[図:0001381343000001.jpg]
(4)引用発明
上記(1)~(3)から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「流体6aを移送する弾性を持つ希釈生体液導出チューブ8と希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分が配置される押さえ板2と、前記押さえ板2の内側で回転軸4を中心に回転する円盤状の支持体5と、前記円盤状の支持体5を回転させることができる駆動源と、前記円盤状の支持体5に支持され、前記押さえ板2と協働して前記押さえつけられる部分をしごいて、前記弾性を持つ希釈生体液導出チューブ8と希釈液供給チューブ9内で流体6aを移送するローラ3a~3eと、を具備したチューブポンプにおいて、前記押さえ板2には、希釈生体液導出チューブ8の押さえつけられる部分及び希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分が配置されるとともに、前記円盤状の支持体5は、前記押さえ板2に配置される前記希釈生体液導出チューブ8と希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分をしごく共通ローラ3a~3dと、希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分をしごく希釈液供給用ローラ3eとを備え、前記円盤状の支持体5の回転時に、希釈生体液の流量が希釈液の流量より多くなるよう設定され、さらに、前記希釈生体液導出チューブ8の押さえつけられる部分は、生体液、例えば血液と希釈液とを合わせた希釈生体液を移送するチューブの押さえつけられる部分であり、前記希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分は、希釈液を移送するチューブの押さえつけられる部分であり、前記円盤状の支持体5に支持されるローラ3a~3eによって、前記希釈生体液導出チューブ8の押さえつけられる部分及び前記希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分をそれぞれしごいて前記希釈生体液及び前記希釈液を移送し、同じ希釈比で希釈生体液を導出する定量サンプリング装置10に備えられる、チューブポンプ。」
2.引用文献2の記載
(1)引用文献2には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。
「従来のローリングポンプは低温で使用すると弾性チユーブが堅くなり、駆動系がスムーズに作動しなくなつたり、弾性チユーブに割れが生じて液体漏れが生じたりしていた。また、高温になると、弾性チユーブの復元力が低下したり、塑性変形してローリングポンプとしての役目を果たさなくなつてしまうことがある。このように、従来のローリングポンプは温度、特に弾性チユーブの温度によつて寿命および液体移送量の精度が大きく左右される欠点があつた。本考案の目的は、上述した欠点を除去し、長期間に亘つて常に安定して正確な量の液体移送が行えるように適切に構成配置したローリングポンプを提供せんとするにある。」(1頁20行~2頁13行)
「本実施例では、かかるローリングポンプにおいて、押え部材1に発熱体15を設けると共に、円弧面2の近傍に温度センサー16を設け、この温度センサー16によつて発熱体15をオン-オフするスイツチング回路17の動作を制御して、押え部材1の円弧面2の近傍、すなわち弾性チユーブ8の温度を常に適正範囲に制御する。このようにすれば、周囲温度が適正範囲の温度でなくても、弾性チユーブ8は適正な一定範囲の温度に制御されるから、弾性チユーブ8に割れや塑性変形等を生じさせることなく、長期間に亘つて安定して使用することができる。また、液体移送量のばらつきも防止することができるから、精度も向上すると共に、移送液を定温化することもできる。」(3頁19行~4頁14行)
図2
[図:0001381343000002.jpg]
(2)上記記載から、引用文献2には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
「ローリングポンプにおいて、温度によってチユーブが堅くなったり復元力が低下したりすることにより液体移送量の精度が左右される欠点を除去して、常に安定して正確な量の液体移送が行えるようにするために、弾性チユーブ8を適正な一定範囲の温度に制御するための発熱体15及び温度センサー16を設け、押え部材1を介して弾性チユーブ8の温度を常に適正範囲になるように前記押え部材1に前記発熱体15及び前記温度センサー16を設ける技術事項。」
第5 対比
1.本願発明と引用発明との対比
引用発明の「流体6a」は本願発明の「流体」に相当し、以下同様に、「移送する」という事項は「流動させ得る」あるいは「流動させる」という事項に、「弾性を持つ希釈生体液導出チューブ8と希釈液供給チューブ9」は「可撓性チューブ」に、「押さえつけられる部分」は「被しごき部」に、「配置される」という事項は「取り付けられる」という事項に、「押さえ板2」は「取付部」、「取付部を具備したステータ」あるいは「ステータの取付部」に、「押さえ板2の内側で回転軸4を中心に回転する」という事項は「取付部内で回転可能とされた」という事項に、「円盤状の支持体5」は「ロータ」に、「回転させることができる駆動源」は「回転駆動するための駆動源」に、「円盤状の支持体5に支持され」という事項は「ロータに形成され」という事項に、「前記押さえ板2と協働して前記押さえつけられる部分をしごいて」という事項は「当該取付部に取り付けられた被しごき部を径方向に圧縮しつつ当該ロータの回転に伴い長手方向にしごくことにより」という事項に、「流体6aを移送するローラ3a~3e」は「流体を流動させるためのローラ」に、「チューブポンプ」は「しごき型ポンプ」に、「希釈生体液導出チューブ8の押さえつけられる部分」は「第1の被しごき部」に、「希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分」は「第2の被しごき部」に、それぞれ相当する。
引用発明の「前記円盤状の支持体5は、前記押さえ板2に配置される前記希釈生体液導出チューブ8と希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分をしごく共通ローラ3a~3dと、希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分をしごく希釈液供給用ローラ3eとを備え、前記円盤状の支持体5の回転時に」という事項と、本願発明の「前記ロータは、当該取付部に取り付けられる被しごき部に対応して複数配設され、複数の前記ロータの回転時に」という事項は、「前記ロータは、当該取付部に取り付けられる被しごき部に対応して複数のしごき部を有し、前記ロータの回転時に」という事項である点において共通する。
そして、引用発明の「希釈生体液の流量」は本願発明の「第1の被しごき部の流量」に相当し、以下同様に、「希釈液の流量」は「第2の被しごき部の流量」に、「多く」は「大きく」に、「生体液、例えば血液と希釈液とを合わせた希釈生体液」は「患者の血液」に、「同じ希釈比で希釈生体液を導出する」という事項は「前記血液と希釈液とを所定比率に混合して希釈する」という事項に、「定量サンプリング装置10に備えられる」という事項は「希釈装置に適用される」という事項に、それぞれ相当する。
2.一致点及び相違点
以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「流体を流動させ得る可撓性チューブの被しごき部が取り付けられる取付部を具備したステータと、前記取付部内で回転可能とされたロータと、該ロータを回転駆動するための駆動源と、前記ロータに形成され、当該取付部に取り付けられた被しごき部を径方向に圧縮しつつ当該ロータの回転に伴い長手方向にしごくことにより、前記可撓性チューブ内で流体を流動させるためのローラと、を具備したしごき型ポンプにおいて、前記ステータの前記取付部には、第1の被しごき部及び第2の被しごき部を含む複数の前記被しごき部が取り付けられるとともに、前記ロータは、当該取付部に取り付けられる被しごき部に対応して複数のしごき部を有し、前記ロータの回転時に、前記第1の被しごき部の流量が前記第2の被しごき部の流量より大きくなるよう設定され、さらに、前記第1の被しごき部は、患者の血液を流動させる可撓性チューブの被しごき部であり、前記第2の被しごき部は、所定の希釈液を流動させる可撓性チューブの被しごき部であり、前記ロータによって、前記第1の被しごき部及び前記第2の被しごき部をそれぞれしごいて前記患者の血液及び前記希釈液を流動させ、前記血液と希釈液とを所定比率に混合して希釈する希釈装置に適用される、しごき型ポンプ。」
<相違点1>
本願発明では、「前記被しごき部を一定温度に保持するための温度保持手段を具備して構成され」「前記ステータの前記取付部を介して複数の被しごき部を一括して一定温度に保持可能になるように前記ステータの前記取付部に前記温度保持手段が配設され」ているのに対し、引用発明では、温度保持手段を有しているか明らかではない点。
<相違点2>
複数のしごき部に関し、本願発明では「ロータは」複数の被しごき部に対応して「複数配設され、複数の」ロータの回転時に、「複数のロータ」によって、複数の被しごき部をそれぞれしごいている(すなわち、ロータを複数有している)のに対し、引用発明では、円盤状の支持体5は、複数の被しごき部に対応して共通ローラ3a~3dと希釈液供給用ローラ3eとを備え、円盤状の支持体5の回転時に共通ローラ3a~3dは前記希釈生体液導出チューブ8と希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分をしごき、希釈液供給用ローラ3eは希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分をしごいている(すなわち、ロータのローラ部分のみが複数の被しごき部に対応している)点。
第6 判断
以下、相違点について検討する。
1.相違点1について
引用発明は、上記「第4 1.(1)」の【0015】に記載されているように「採取する生体液の量と生体液及び希釈液の合計量との比である希釈比を厳密に管理する必要がある」チューブポンプであるところ、温度によってチューブが堅くなったり復元力が低下したりすることにより液体移送量の精度が左右されることは当業者であれば予測し得る事項であり、同【0089】にはチューブ8、9の弾性を管理する必要性についても示唆されている。
そして、引用発明において温度変化による影響を受けることなく、採取する生体液の量と生体液及び希釈液の合計量との比である希釈比を厳密に管理するために、引用発明の押さえ板2に、引用文献2に記載された技術事項を適用し、1枚の押さえ板2に配置されている希釈生体液導出チューブ8の押さえつけられる部分及び希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分の双方を一括して適正な一定範囲の温度に制御するようにして、相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たことである。
なお、引用発明の押さえ板2に、引用文献2に記載された技術事項を適用する際に、発熱体15及び温度センサー16からなる温度保持手段を、希釈生体液導出チューブ8の押さえつけられる部分と、希釈液供給チューブ9の押さえつけられる部分に対応して別々に設けることも考えられる。しかしながら、引用発明において、希釈生体液導出チューブ8と希釈液供給チューブ9の温度を異なる温度に管理すべき、特別の事情は見当たらず、むしろ、採取する生体液の量と生体液及び希釈液の合計量との比である希釈比を厳密に管理する必要があり、チューブ8、9の弾性を一定に管理するべき発明であることから、製造コストや製造容易性も考慮すると、1枚の押さえ板2に1つの温度保持手段を配置することが自然であり、少なくともこのような配置とすることに格別の困難性はないといえる。
2.相違点2について
本願発明における「ロータは複数配設され」る構成が、チューブをしごくためのローラの数が異なる部分が複数配設されていることも含意しているのであれば、引用発明も希釈生体液導出チューブ8に対応する部分である共通ローラ3a~3dのみが設けられている部分と、希釈液供給チューブ9に対応する部分である共通ローラ3a~3dと希釈液供給用ローラ3eとが設けられている部分とが配設されていることから、相違点2は実質的な相違点ではない。
また、実質的な相違点であったとしても、複数の被しごき部を備えるしごき型ポンプにおいて、被しごき部に対応してロータを複数配設すること(ロータが回転軸方向に個別化されていること)は周知の技術(以下、「周知技術」という。)であり、例えば、引用文献3(段落[0021]-[0023]、図3におけるポンプヘッド16a及び16b)、引用文献4(9頁、図6にけるポンプローターアセンブリー112、114、116及び118)、引用文献5(段落[0008]、図1、図3におけるローラ4a~4d)にも開示されている。
そして、周知技術に倣って引用発明の円盤状の支持体5を、複数の被しごき部に対応して、対応するローラ3a~3eとともに複数配設し、複数の支持体5及び対応するローラ3a~3eの回転時に、当該複数の支持体5及び対応するローラ3a~3eによって、前記複数の被しごき部をそれぞれしごくようにすることは当業者であれば容易に想到し得たことである。
3.作用効果について
引用発明の押さえ板2に引用文献2に記載された技術事項を適用することにより、可撓性チューブの被しごき部が外部温度の変化に影響されず、ロータの回転速度に応じた液体の吐出量を常に一定に維持することができることは、上記「1.」において検討したとおりである。
そして、本願発明の「取付部」に相当する部材である、引用発明の押さえ板2は1枚であり、上記「2.」において周知例として挙げた引用文献3におけるプラテン32(特に図1参照)、引用文献4における内部カバー133(特に図12参照)、引用文献5におけるポンプ1a~1dのチューブが沿って配設されるケーシング2(特に段落【0008】参照)も、複数のロータに対して1つ設けられているから、引用発明に周知技術を適用してロータを複数としても、上記「1.」で検討した「取付部を介して複数の被しごき部を一括して一定温度に保持可能になるようにステータの取付部に温度保持手段が配設され」ることを妨げるものではない。
したがって、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
4.請求人の主張について
請求人は、令和3年7月9日に提出した意見書において、引用発明は以下に示す本願発明の特徴点(a)~(d)を具備していないから、以下の効果(1)~(4)を奏することはないと主張している。
特徴点
(a)被しごき部を一定温度に保持するための温度保持手段を具備した点
(b)上記特徴点(a)を前提として、ステータの取付部には、複数の被しごき部が取り付けられるとともに、ロータは、当該取付部に取り付けられる被しごき部に対応して複数配設され、ステータの取付部を介して複数の被しごき部を一括して一定温度に保持可能になるようにステータの取付部に温度保持手段が配設された点
(c)上記特徴点(b)を前提として、ステータの取付部には、第1の被しごき部及び第2の被しごき部を含む複数の被しごき部が取り付けられるとともに、ロータは、当該取付部に取り付けられる被しごき部に対応して複数配設され、複数のロータの回転時に、第1の被しごき部の流量が第2の被しごき部の流量より大きくなるよう設定された点
(d)上記特徴点(a)~(c)を前提として、第1の被しごき部は、患者の血液を流動させる可撓性チューブの被しごき部であり、第2の被しごき部は、所定の希釈液を流動させる可撓性チューブの被しごき部であり、複数のロータによって、第1の被しごき部及び第2の被しごき部をそれぞれしごいて患者の血液及び希釈液を流動させ、血液と希釈液とを所定比率に混合して希釈する希釈装置に適用される点
効果
(1)上記特徴点(a)を有することにより、外部温度が変化しても被しごき部の吐出量特性が変化してしまうのを防止することができ、外部温度の変化に影響されず、ロータの回転速度に応じた液体の吐出量を常に一定に維持することができる。
(2)上記特徴点(b)を有することにより、ステータの取付部を介して複数の被しごき部を同時に加温又は冷却することができ、複数の被しごき部を一括して一定温度に保持することができる。
(3)上記特徴点(c)を有することにより、以下の効果を奏することができる。
すなわち、ロータの回転時に第1の被しごき部及び第2被しごき部の流量が互いに異なる場合、外部温度の変化により、第1の被しごき部及び第2被しごき部の流量比率も変動してしまう。したがって、本願発明によれば、第1の被しごき部及び第2被しごき部を含む複数の被しごき部を一括して一定温度に保持することができるので、その結果、流量比率を精度よく管理することができる。
(4)上記特徴点(d)を有することにより、希釈装置による希釈液と血液との混合比率を精度よく設定することができる。
すなわち、希釈液及び血液は温度変化による流動特性が互いに異なるため、第1の被しごき部及び第2の被しごき部をそれぞれしごいて患者の血液及び希釈液を流動させ、血液と希釈液とを所定比率に混合して希釈する希釈装置に適用した場合、血液及び希釈液が流通する第1の被しごき部及び第2の被しごき部の温度が一定となるよう管理することにより各流量を一定にすることができ、混合比率の精度を向上させることができる。
引用発明は特徴点(a)~(d)の全てを具備したものではないが、特徴点(a)~(d)については、相違点1及び相違点2として挙げており、これら相違点1、相違点2についての判断、相違点1及び相違点2を総合的に勘案した判断や効果については、上記「1.」~上記「3.」において検討したとおりである。
また、請求人が主張する、複数の被しごき部を一括して一定温度に保持することができ、希釈装置による希釈液と血液との混合比率を精度よく管理することができるという効果は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項から予測可能なものであり、この効果は、上記「3.」において示したとおり、ロータを複数としても妨げられるものではない。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。
5.まとめ
よって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-012632