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特許拒絶査定不服審判

2020-008880

トリコプルシア・ニの蛹における組み換えタンパク質の発現

審判番号
2020-008880
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-513860外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年06月25日
審決日
2022年03月16日
公報発行日
2022年09月30日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (A01K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2018-513860「トリコプルシア・ニの蛹における組み換えタンパク質の発現」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月23日国際公開、WO2017/046415、平成30年10月11日国内公表、特表2018-529337〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 8項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、平成28年 9月19日(パリ条約による優先権主張 2015年 9月17日、欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

令和 1年 6月21日付:拒絶理由通知
令和 1年10月 1日付:意見書、手続補正書
令和 2年 2月14日付:拒絶査定
令和 2年 6月25日付:審判請求、手続補正書
令和 3年 8月18日付:拒絶理由通知
令和 3年12月23日付:意見書、手続補正書

第2 本願発明

本願の請求項1~8に係る発明は、令和 3年12月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「少なくとも1つの組み換えタンパク質を産生する方法であって、以下(a)~(d)を含む方法:
(a)絹繭に含まれるトリコプルシア属に属する蛹を準備する工程と、
(b)蛹を含む前記絹繭を除去する工程と、
(c)絹を含まない、外部殺菌された蛹を得る工程と、
(d)オートグラファ・カリフォルニカマルチカプシド核多角体病ウイルス(AcMNPV)に由来する組み換えバキュロウイルスを工程(c)の蛹に接種する工程と、
ただし、前記組み換えバキュロウイルスは前記組み換えタンパク質をコードする核酸配列を含み、
(e)少なくとも1つの組み換えタンパク質が発現するのに十分な期間に亘って工程(d)の接種を受けた蛹をインキュベートする工程と、
(f)少なくとも1つの組み換えタンパク質を含む蛹を得る工程。」

第3 当審の拒絶理由

令和3年 8月18日付けで当審が通知した拒絶理由は、次の理由を含むものである。

本願の請求項7、10に係る発明は、本願の出願前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.米国特許出願公開第2011/0314562号明細書

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1の記載

引用文献1には、以下の記載がある(原文は英語のため、当審による翻訳で示す。下線は合議体による。)。

ア

「請求項1
昆虫におけるバキュロウイルス発現ベクターによるタンパク質の産生に使用するための昆虫感染方法であって、以下の工程を含む方法。
(a)複数の昆虫の幼虫または蛹を提供する工程;
(b)野生型バキュロウイルスまたはタンパク質をコードする所望の遺伝子を有するバキュロウイルス発現ベクターを含むウイルス溶液を提供する工程;
(c)前記昆虫の幼虫または蛹にストレスをかける工程;
(d)昆虫の幼虫または蛹が野生型バキュロウイルスまたはバキュロウイルス発現ベクターに感染するように、昆虫の幼虫または蛹を溶液に適切な時間浸漬する工程;及び
(e)タンパク質の産生のために、感染した幼虫または蛹をインキュベートする工程;及び
(f)前記タンパク質を回収する工程。」

イ

「請求項3
昆虫が、Bombyxmori(カイコ)又はTrichoplusiani(ヤガ)である請求項1に記載の感染方法」

ウ

「請求項5
バキュロウイルスが、オートグラファ・カリフォルニカマルチカプシド核多角体病ウイルス(AcMNPV)又は、カイコ(Bombyxmori)核多角体病ウイルス(BmNPV)である請求項1に記載の感染方法」

エ

「バキュロウイルス発現ベクター系は、昆虫において広く使用されている。
昆虫ウイルスであるバキュロウイルスは、最近まで昆虫のみに感染すると考えられており、昆虫における導入遺伝子の大規模発現系として利用されてきた。
バキュロウイルスは、通常、それらが単離される宿主にちなんで命名される。
例えば、Alfalfa Looperから単離されたバキュロウイルスは、(Ac)MNPVと命名された。しかしながら、AcMNPVとほとんど同一であるバキュロウイルスがTrichoplusia ni,Galleria mellonella,Rachiplusia ouに見出されている。
他のバキュロウイルス発現ベクターもまた、例えば、カイコからの(Bm)NPVなどが公知である。BmNPVベクター系は、容易に飼育され、取り扱われるカイコ幼虫における組み換えタンパク質の産生に特に有用である。」([0003]段落)

オ

「本発明によれば、昆虫の幼虫または蛹の浸漬は、昆虫の幼虫または蛹が死滅することなくバキュロウイルスに感染するように、昆虫の幼虫または蛹をバキュロウイルス溶液に浸漬することによって行われる。ウイルスは、感染のために幼虫または蛹の小孔に入る。好ましくは、幼虫または蛹の浸漬時間は少なくとも5分である。好ましくは、浸漬時間は、5分~6時間、より好ましくは10分~6時間、15分~1時間、30分~1時間、30分~2時間または30分~3時間の範囲である。当業者は、種、生理学的条件、異種遺伝子の種などに基づいて浸漬時間およびウイルス濃度を調整することができる。」([0035]段落)

カ

「本発明によれば、幼虫または蛹はタンパク質の産生のためにインキュベートされる。好ましくは、インキュベート時間は、1.5日から5日、1.5日から6日、1.2日から4日、1.5日から3日、2日から3日である。」([0036]段落)

キ

「カイコ幼虫へのBombyx moriバキュロウイルス(BmNPV)感染と感染率の分析。Bombyx mori OJ03*OJ04の第5齢のカイコ幼虫に、エアロゾル感染、注射感染、経口感染及び本発明の感染方法によって、赤色蛍光タンパク質を含むBmNPを、最初の日に接種した。」(実施例1)

上記「ア~ウ」の記載から、引用文献1には、

「Trichoplusia niにおけるAcMNPV又はBmNPVであるバキュロウイルス発現ベクターによる組み換えタンパク質の産生方法であって、以下の工程を含む方法。
(a)複数の昆虫の蛹を提供する工程;
(b)タンパク質をコードする所望の遺伝子を有するバキュロウイルス発現ベクターを含むウイルス溶液を提供する工程;
(d)昆虫の蛹がバキュロウイルス発現ベクターに感染するように、昆虫の蛹を溶液に適切な時間浸漬する工程;
(e)タンパク質の産生のために、感染した蛹をインキュベートする工程」の発明が記載されている(以下、「引用発明」という。)。

第5 対比

引用発明の

「タンパク質をコードする所望の遺伝子を有するバキュロウイルス発現ベクターを含むウイルス溶液を提供する工程;
(d)昆虫の蛹がバキュロウイルス発現ベクターに感染するように、昆虫の蛹を溶液に適切な時間浸漬する工程」

は、上記記載事項キの記載からも、バキュロウイルス発現ベクターに感染するように蛹を浸漬することで、蛹に当該ベクターが接種されていることは明らかであり、本願発明の

「(d)・・・組み換えバキュロウイルスを・・・接種する工程と、
ただし、前記組み換えバキュロウイルスは前記組み換えタンパク質をコードする核酸配列を含み、」

に相当する。

また、引用発明の

「(e)タンパク質の産生のために、感染した蛹をインキュベートする工程」

は、上記記載事項カの記載からも、十分な期間において行われることは明らかであるから、本願発明の

「(e)少なくとも1つの組み換えタンパク質が発現するのに十分な期間に亘って工程(d)の接種を受けた対象をインキュベートする工程」

に相当する。

さらに、引用発明は、タンパク質の産生に使用するために昆虫を感染させるのだから、蛹に組み換えタンパク質をコードする核酸配列を有するウイルス発現ベクターを蛹に感染させた場合、感染した蛹を得る工程を行うことは、自明である。

そうすると、本願発明と引用発明とは、

「少なくとも1つの組み換えタンパク質を産生する方法であって、
前記組み換えタンパク質をコードする核酸配列を含む、組み換えバキュロウイルスを蛹に接種する工程と、
少なくとも1つの組み換えタンパク質が発現するのに十分な期間に亘って接種を受けた蛹をインキュベートする工程と、
少なくとも1つの組み換えタンパク質を含む蛹を得る工程。」

を含む方法の発明である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1

本願発明は、絹繭に含まれるトリコプルシア属に属する蛹を準備し、絹繭を除去し、外部殺菌された蛹を得る工程が特定されているのに対し、引用発明は、蛹を得る具体的な工程については特定されていない点。

相違点2

本願発明は、組み換えバキュロウイルスがAcMNPVであるのに対し、引用発明は、AcMNPVとBmNPVが選択的に記載されている点。

第6 判断

上記相違点について、判断する。

(相違点1について)

当審拒絶理由で周知技術として引用する、引用文献12(Soledad Chazarra et al.、Purification and Kinetic Properits of Human Recombinant Dihydrofolate Reductase Produced in Bombyx mori Chrysalides、Applied Biochemistry and Biotechnology、2010.発行、vol.162、pp.1834-1846)には、「あるいは、組換えタンパク質の発現レベルが2つのプラットフォームにおいて同様に効率的であるかどうかを評価するために、カイコ蛹にもベクターを接種した。そのために、紡糸が完了した1週間後に繭から蛹を抽出した。蛹の背側、胸腹接合部に、幼虫に使用したのと同じ接種材料を注射した。注入後、25℃のインキュベーター中で5日間静置し、その後、凍結し、処理まで-80℃で保存した。」(1837ページ、22~27行、原文は英語のため、当審による翻訳で示す。以下同じ。)との記載がある。

また、同じく当審拒絶理由で周知技術として引用する、引用文献7(特開平09-215499号公報)には、「通常カイコの蛹は繭に覆われているため、ウイルス接種時の作業の効率を考慮すると、蛹化時に繭をつくらない品種、いわゆる裸蛹系等のカイコを使用することが好ましい」(0013段落)との記載がある。

そうすると、蛹にバキュロウイルスを感染させる際には、繭が障害になるため、繭から取り出すことが一般的と認められ、引用発明においても、蛹は繭から取り出してウイルス接種を行うことが通常と認められる。そして、生物実験において、細菌類のコンタミネーションを防ぐために、予め対象試料を殺菌することや、無菌、静菌状態下で実験を行うこと等は当業者にとって常套手段である。

したがって、引用発明において、絹繭に含まれるトリコプルシア属に属する蛹を準備し、絹繭を除去し、外部殺菌されて得られた蛹を用いることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(相違点2について)

バキュロウイルスとして選択した昆虫に近い系統のものを用いることが自然であるところ、上記記載事項エで示したとおり、Trichoplusia niにおいてAcMNPVとほとんど同一のバキュロウイルスが発見されている。そうすると、引用発明の選択肢で、昆虫がTrichoplusia niの場合は、AcMNPVを用いることが通常であると認められる。

そして、Trichoplusia niの形質転換においてバキュロウイルス発現ベクターとしてAcMNPVを利用することは、例えば、本願明細書の[0014]段落で先行技術文献として引用される非特許文献11(「Medin, JA; Hunt, L; Gathy, K; Evans, RK; Coleman, MS. 1990. Efficient, low-cost protein factories - expression of human adenosine-deaminase in baculovirus-infected insect larvae. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 87(7), 2760-2764」、2760~2762ページ、MATERIALS AND METHODS、Construction of Reconbinant Baculovirus及びCell Culture and Larval Growth Conditions)、非特許文献14(「Burden, JP; Hails, RS; Windass, JD; Suner, MM; Cory, JS. 2000. Infectivity, speed of kill, and productivity of a baculovirus expressing the itch mite toxin txp-1 in second and fourth instar larvae of Trichoplusia ni. Journal of Invertebrate Pathology, 75(3), 226-236」、226ページ、Abstact)に記載されているように、本願優先日前において周知技術である。

したがって、引用発明において、バキュロウイルス発現ベクターとしてAcMNPVを利用することも、当業者であれば容易になし得たことである。

審判請求人は、令和 3年12月23日提出の意見書において、以下の旨主張している。

本願請求項1に係る発明(本願発明)は、絹繭に含まれるトリコプルシア属に属する蛹を用いることを特徴とし、この特定の蛹を含む絹繭を次亜塩素酸の塩の溶液で処理することにより、当初明細書に記載されるとおり、それほど密ではない絹の繭を有し、容易に溶解され得るという特徴を有します(0088段落等)。このため、特定の蛹を使用することを特徴とする本願発明は、この特徴と工程的特徴との組み合わせにより、繭が容易に溶解されるという顕著な効果を奏します。この効果により、自動化又は半自動化の形態で全プロセスを行うことができるため、効率を増加させ、全体のコストを下げることができる利点がもたらされます。

引用文献のいずれにおいても、特定の繭を用いることにより上記のような格別な効果が得られることについて記載も示唆もしておらず、出願時の技術水準からも予測できたものではないことが明らかです。

よって、本願発明はかかる顕著な効果を奏するものであり、進歩性を有するものと確信いたします。発明特定事項を共有するその他の発明についても同様です。

上記主張について検討するに、本願発明は、次亜塩素酸の塩の溶液で処理することは特定されていない。

したがって、本願発明について、上記主張は採用できない。

なお、繭の除去方法として、次亜塩素酸ソーダ溶液等を用いることは、当審拒絶理由で引用文献13として引用した「植物防疫所調査研究報告、1966年、第4号、66~69ページ」(66ページ右欄1行)に記載されているように、本願優先日前に周知であり、1965年に発行された「J. Eco. Entomol., Vol.58, No.3, p.522-524」の523ページ左欄10~12行目にも、トリコプルシア属では、従来、繭は次亜塩素酸ソーダ溶液で除去されていたことが記載されている。

したがって、仮に本願発明の繭の除去工程が、次亜塩素酸の塩の溶液で処理するものだとしても、トリコプルシア属の繭の除去を次亜塩素酸ソーダ溶液で除去することは本願優先日前周知技術であり、薬品処理をすれば手作業よりも自動的又は半自動的に大量に処理できることは当業者にとって自明の効果に過ぎない。

以上のことから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

第7 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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