特許拒絶査定不服審判
2021-013408
非アルコール性脂肪性肝疾患の非ヒトモデル動物
- 審判番号
- 2021-013408
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-179348外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年10月04日
- 審決日
- 2023年07月25日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】学校法人 日本歯科大学
- 【請求人代理人】中村 行孝
- 【請求人代理人】宮嶋 学
- 【請求人代理人】浅野 真理
- 【請求人代理人】反町 洋
- 分類
- P18 .121-Z (A01K) / P18 .575-Z (A01K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-179348「非アルコール性脂肪性肝疾患の非ヒトモデル動物」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 5月14日出願公開、特開2020- 72658〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成28年6月13日に出願した特願2016-117362号の一部を令和1年9月30日に新たに特許出願されたものであって、令和2年9月29日付けの拒絶理由の通知に対し、令和3年2月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月29日付けで拒絶査定がされたところ、同年10月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出されたものである。
第2 令和3年10月4日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年10月4日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
ブタにコリン不含・L-アミノ酸規定(CDAA)飼料を与えて飼育する工程を含む、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のモデルブタを作製する方法であって、
前記CDAA飼料が、タンパク質を実質的に含有せず、
前記非アルコール性脂肪性肝疾患が、以下の所見(1)~(6):
(1)血中総コレステロール濃度の低下
(2)血中アルブミン濃度の低下
(3)ヘパプラスチンテスト(HPT)の値の低下
(4)血中IV型コラーゲン濃度の上昇
(5)血中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)濃度の上昇
(6)血中ヒアルロン酸濃度の上昇
の少なくとも1つを示す、方法。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和3年2月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
ブタにコリン不含・L-アミノ酸規定(CDAA)飼料を与えて飼育する工程を含む、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のモデルブタを作製する方法であって、
前記CDAA飼料が、タンパク質を実質的に含有しないことを特徴とする、方法。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「非アルコール性脂肪性肝疾患」について、
「前記非アルコール性脂肪性肝疾患が、以下の所見(1)~(6):
(1)血中総コレステロール濃度の低下
(2)血中アルブミン濃度の低下
(3)ヘパプラスチンテスト(HPT)の値の低下
(4)血中IV型コラーゲン濃度の上昇
(5)血中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)濃度の上昇
(6)血中ヒアルロン酸濃度の上昇
の少なくとも1つを示す」のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
原査定の拒絶理由で引用文献2として引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物であるLaboratory Investigation,2015年,Vol.95,p.1130-1144(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は合議体による。)。
ア 「この研究では、我々は、2つの異なるマウスモデル、すなわち、コリン不含・L-アミノ酸規定飼料モデル及び高脂肪飼料モデルを使用して、NAFLDの病態生理においてLSECの正確な役割を解明することを目標とした。」(第1130頁要約第3行~第5行)
イ 「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、メタボリック症候群の1つであり、その全世界での患者数が拡大し続けている。NAFLDは、比較的穏やかな経過へと続く単純な脂肪症から、線維化や肝硬変、最終的には肝細胞癌に至るより深刻な形態である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に及ぶ。」(第1130頁左欄第1行~第7行)
ウ 「この研究では、我々は、NAFLDのコリン不含・L-アミノ酸規定(CDAA)飼料モデル及び高脂肪飼料(HFD)モデルを使用して、LSEC傷害とNAFLD/NASHの進行の関連を明らかにすることを目標とした。」(第1130頁右欄第15行~第18行)
エ 「CDAAマウスにおいて、脂肪性肝炎を誘導するために、1、4、8又は22週間、マウスにCDAA飼料(Dyets Inc.,Bethlehem, PA, USA)を給餌した。」(第1131頁左欄第22行~第24行)
オ 「図1
[図:0001402063000001.jpg]
図1(c)対照マウス(0週;白棒)及び1、4、8週間後のCDAA給餌マウス(黒棒)における・・・・・・アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の血中濃度」(第1132頁、図1)
カ 「対照マウスと比較して、CDAA給餌マウスは、1週間で血中ALT及びグルコース濃度、4週間でビリルビン及びALP濃度の著しい上昇を示した(図1c)。」(第1134頁左欄第27行~第30行)
キ 「CDAA給餌1週間では、顕著な炎症性浸潤や顕著な線維症は見られなかった。このように、CDAA給餌1週間のマウスは、NAFLD/NASHの発症の非常に早期のステージを表す、単純な脂肪症を示した。」(第1134頁右欄第2行~第6行)
原査定の拒絶理由で引用文献3として引用された、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったCholine Deficient and Sufficient Iron Supplemented L-AA Defined Rodent Diet,2015年,https://dyets.com/wp-content/uploads/2015/08/D51875 3-D518754.pdf(以下、「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。
ク 「
[図:0001402063000002.jpg]
」
原査定の拒絶理由で引用文献5として引用された、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2008/18191号(以下、「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
ケ 「[0001]
本発明は、非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis,以降「NASH」と呼称する)の生化学的特徴及び/又は病理組織学的特徴を有する病態モデル実験動物及びその作出方法並びに利用方法に関する。
・・・・・・・・・・・・
[0065]
本発明において対象となるげっ歯類動物としてマウス、ラット、モルモットおよびハムスターが挙げられるが、特にラットを好ましいものとして挙げることができる。より好ましくはWistar系ラットが挙げられる。本発明において対象となる非げっ歯類哺乳動物として、ウサギ、ブタおよびイヌがあるが、ヒトと類似した心臓血管系や臓器・組織を持つブタを更に好ましい材料として挙げることができる。より好ましくはミニブタおよびマイクロブタを挙げることが出来る。」([0001]~[0065])
上記記載事項ア~キから、引用文献2には、「マウスにコリン不含・L-アミノ酸規定(CDAA)飼料を給餌する工程を含む、血中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)濃度の上昇を示す、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のモデルを作製する方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「飼料を給餌する」は、本件補正発明の「飼料を与えて飼育する」に相当し、また、引用発明の「マウス」、本件補正発明の「ブタ」が、「動物」に該当することは、本願の出願時の技術常識である。
そうすると、本件補正発明と引用発明は、「動物にコリン不含・L-アミノ酸規定(CDAA)飼料を与えて飼育する工程を含む、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のモデル動物を作製する方法であって、前記非アルコール性脂肪性肝疾患が、血中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)濃度の上昇を示す、方法。」である点で一致し、両者は以下の点で相違する。
相違点1:本件補正発明は、CDAA飼料が、タンパク質を実質的に含有しないのに対し、引用発明は、そのような特定は記載されていない点。
相違点2:動物が、本件補正発明は、ブタであるのに対し、引用発明は、マウスである点。
(4)判断
以下、上記相違点について検討する。
相違点1について
引用文献2の上記記載事項エ中の「CDAA飼料(Dyets Inc.,Bethlehem, PA, USA)」は、引用文献3の記載(上記記載事項ク)から、タンパク質を含有しないものであることは明らかであるから、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
相違点2について
引用文献5には、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)のモデル動物として、マウス、ラットなどのげっ歯類動物が記載され、また、非げっ歯類哺乳動物として、ヒトと類似した心臓血管系や臓器・組織を持つブタが好ましいことが記載されている(上記記載事項ケ)。
また、原査定の拒絶理由で引用文献6~8として引用された、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったHepatology,2004年,Vol.40, No.4, Suppl.1,p.624A(以下、「引用文献6」という。)、Journal of Nutritional Biochemistry,2016年 2月,Vol.28,p.51-60(以下、「引用文献7」という。)、Hepatology,2009年,Vol.50, No.1,p.56-67(以下、「引用文献8」という。)に記載されている(引用文献6の表題、引用文献7の要約、引用文献8の表題参照。)ように、NAFLD/NASHのモデル動物として、ブタを使用することは、本願の出願日前の周知技術であったと認められる。
そうすると、引用文献5~8の記載から、引用発明において、動物として、マウスの代わりに、ブタを採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本件補正発明のブタを採用したことによる「ヒトと同様の臨床病態を示す非アルコール性脂肪性心疾患(NAFLD)の非ヒトモデル動物を作製することができる」という効果は、引用文献2、5の記載から当業者が予測し得るものであり、格別顕著なものとは認められない。
(5)審判請求人の主張
審判請求人は、令和3年11月11日提出の手続補正書により補正された審判請求書において、マウスやラットは、大型の哺乳動物(例えば、ヒト、ブタ)と比較して解剖学的に大きく異なることから、代謝等の生理学的な機能も大きく異なりマウスやラットは、ヒトの疾患状態を反映するモデルとしては実際には適していない点が多くあり、このような解剖学的、生理学的な違いを考慮すれば、マウスやラット等の小型の哺乳動物にCDAA飼料を与えて飼育することにより、NASHの所見を示すモデルラットが作製されたことが開示されていたとしても、ブタにCDAA飼料を与えて飼育することにより、特定の所見を示すNAFLDのモデルブタを作製することが容易であるとは必ずしもいえず、困難性を伴うものである旨主張しているので、以下この点について検討する。
引用文献2には、マウスにCDAA飼料を給餌することにより、血中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)濃度の上昇を示す、NAFLDのモデル動物を作製したことが記載されている(上記記載事項ア~キ)。
「血中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)濃度の上昇を示す」という特性は、本願の請求項1に記載されている「特定の所見」に該当するものであるから、動物にCDAA飼料を給餌するという引用文献2に記載されている方法により、本願の請求項1に記載されている「特定の所見」を示すNAFLDのモデル動物を作製することができるものと認められる。
そして、マウスやラットが大型の哺乳動物(例えば、ヒト、ブタ)と解剖学的、生理学的な違いが一部であったとしても、マウス、ラット、ブタなどの哺乳動物間においては、解剖学的に共通した部分が多く、代謝等の生理学的な機能が共通している面が多いことが、本願の出願時の技術常識であり、引用文献5~8の記載事項に照らすと、マウスやラットなどの小型の哺乳動物に行うのと同じ処理を行うことにより、ブタ等の大型の哺乳動物においても同様の結果が得られることは十分に期待できるといえる。
よって、マウスにCDAA飼料を給餌するという引用文献2に記載されている方法をブタに適用すれば、本願の請求項1に記載されている「特定の所見」を示すNAFLDのモデルブタを作製することは、当業者が容易になし得ることであり、そのことに技術的困難性があったとは認められない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。
(6)小括
したがって、本件補正発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献3、5~8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和3年10月4日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~3に係る発明は、令和3年2月5日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、本願の請求項1~3に係る発明は、本願の出願日前に頒布された下記の引用文献2に記載された発明及び引用文献3、5~8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献2:Laboratory Investigation,2015年,Vol.95,p.1130-1144
引用文献3:Choline Deficient and Sufficient Iron Supplemented L-AA Defined Rodent Diet,2015年,https://dyets.com/wp-content/uploads/2015/08/D51875 3-D518754.pdf
引用文献5:国際公開第2008/18191号
引用文献6:Hepatology,2004年,Vol.40, No.4, Suppl.1,p.624A
引用文献7:Journal of Nutritional Biochemistry,2016年 2月,Vol.28,p.51-60
引用文献8:Hepatology,2009年,Vol.50, No.1,p.56-67
3 引用文献の記載事項
原査定の拒絶理由で引用された引用文献2、3、5及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、
「前記非アルコール性脂肪性肝疾患が、以下の所見(1)~(6):
(1)血中総コレステロール濃度の低下
(2)血中アルブミン濃度の低下
(3)ヘパプラスチンテスト(HPT)の値の低下
(4)血中IV型コラーゲン濃度の上昇
(5)血中アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)濃度の上昇
(6)血中ヒアルロン酸濃度の上昇
の少なくとも1つを示す」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用文献2に記載された発明及び引用文献3、5~8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献2に記載された発明及び引用文献3、5~8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献2に記載された発明及び引用文献3、5~8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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