2020-006513
薬剤拡散状況認識システム
- 審判番号
- 2020-006513
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-234648外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年05月14日
- 審決日
- 2020年10月12日
- 公報発行日
- 2020年12月25日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】大日本除蟲菊株式会社
- 【請求人代理人】沖中 仁
- 分類
- P18 .121-WY (G01M) / P18 .575-WY (G01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 17項目
1 手続の経緯
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本件出願(以下「本願」と記す。)は、平成27年(2015年)12月1日の出願であって、平成30年9月10日に審査請求がなされ、令和元年6月20日付けで拒絶理由が通知され、同年10月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月8日付けで最後の拒絶理由が通知され、令和2年1月15日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年2月4日付けで補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定されたところ、同年5月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで提出された手続補正書により手続補正がなされたものである。
2 令和2年2月4日付けの補正の却下の決定及び原査定の概要
(1)令和2年2月4日付けの補正の却下の決定の概要は以下のとおりである。
令和2年1月15日付けの補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるが、当該補正後の本願請求項1ないし3に係る発明は、引用文献1ないし4に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであり、独立特許要件を満たさないから、令和2年1月15日付けの補正は却下すべきものである。
引用文献等一覧
1.特開2010-181404号公報
2.特開平10-182301号公報
3.特表2015-519621号公報
4.特開2011-220910号公報
(2)原査定(令和2年2月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願の請求項1及び3に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願の請求項2に係る発明は、以下の引用文献1及び2に記載された発明と周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1.特開2010-181404号公報
2.特開平10-182301号公報
3 本願発明
本願請求項1ないし2に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明2」という。)は、令和2年5月14日提出の手続補正書により手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりである。(下線は補正箇所を表す。)
「【請求項1】薬剤含有製品から放出される薬剤の拡散状況を、当該薬剤含有製品の利用者に認識させる薬剤拡散状況認識システムであって、前記薬剤の拡散状況をイメージ化した視認データとして、所定のシミュレーション空間で前記薬剤含有製品から時間の進行に伴い薬剤が拡散していく状況を解析したシミュレーションの結果をイメージ化したものがコンピュータ、ホームページ、又はウェブ上に設けられており、前記視認データとリンクされている薬剤拡散情報が、前記薬剤含有製品に付されており、前記薬剤含有製品は、静置式薬剤揮散具、ファン式薬剤揮散具、エアゾール剤、ワンプッシュ式噴射剤、燻煙剤、蒸散剤、蚊取リキッド剤、及び蚊取線香からなる群から選択される少なくとも一つであり、前記シミュレーションにおいて、前記シミュレーション空間における気流の速度及び気流の方向、並びに空気の温度を含む気流状態の空間分布を定常状態になるまで解析し、次に、前記薬剤含有製品から薬剤を発生させ、解析した定常状態での気流状態を用いて、薬剤濃度の空間分布を定常解析により予測する薬剤拡散状況認識システム。」
なお、本願発明2の概要は以下のとおりである。
本願発明2は、本願発明1を減縮した発明である。
4 引用文献、引用発明等
(1)引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同じ。)
ア 「【0001】本発明は、防虫成分や消臭成分などの活性成分を内部に収納可能な薬剤揮散器具のデモンストレーション方法に係り、更に詳しくは薬剤揮散器具の稼働時の吸排気の様子および気流の拡散状態を可視化する方法に関するものである。」
イ 「【0009】上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る薬剤揮散器具のデモンストレーション方法は、吸気口と排気口を有し、内部に活性成分を収納可能な薬剤揮散器具と、薬剤揮散器具の後方に設置した背景材と、可視化したトレーサとを備え、吸気口の近傍にトレーサを供給し、薬剤揮散器具の稼働によって吸気口からトレーサを薬剤揮散器具の内部に吸引させ、排気口からトレーサを排出させる構成にしてある。」
ウ 「【0018】本発明の請求項5に係る薬剤揮散器具のデモンストレーション方法は、活性成分が、防虫剤、殺虫剤、消臭剤、芳香剤、除菌剤から選ばれる少なくとも1種以上のものであるように構成されているので、各種の活性成分を用いた薬剤揮散器具の吸排気の様子や気流の拡散状態を把握することができる。」
エ 「【0036】次に、薬剤揮散器具1のスイッチを入れ、薬剤揮散器具1のファンあるいは薬剤が保持されている担体を回転させる。【0037】そうすると、図2(b)に示すように、吸気口10の近傍の空気が吸気口10に取り込まれる気流が発生することから、その気流にのってトレーサ3が吸気口10に取り込まれることになる。そして、吸気口10に取り込まれたトレーサ3は、薬剤揮散器具1の内部を通過して排気口11から排出される。その際、トレーサ3は、薬剤揮散器具1のファンあるいは薬剤が保持されている担体の回転によって、時計回りなど気流に回転方向がついた状態で排気口11から排出される。」
オ 「【0040】さらに、吸排気の様子および気流の拡散状態を動画や写真にして頒布することによって、消費者に新商品として開発した薬剤揮散器具の効果を訴求することもできる。」
上記引用文献1の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「防虫成分や消臭成分などの活性成分を内部に収納可能な薬剤揮散器具のデモンストレーションを行うシステムにおいて、吸気口10と排気口11を有し、内部に活性成分を収納可能な薬剤揮散器具1と、薬剤揮散器具1の後方に設置した背景材と、可視化したトレーサ3とを備え、吸気口10の近傍にトレーサ3を供給し、薬剤揮散器具1の稼働によって吸気口10からトレーサ3を薬剤揮散器具1の内部に吸引させ、排気口11からトレーサを排出させることにより、薬剤揮散器具の稼働時の吸排気の様子および気流の拡散状態を可視化するシステムであり、前記活性成分が、防虫剤、殺虫剤、消臭剤、芳香剤、除菌剤から選ばれる少なくとも1種以上のものであり、薬剤揮散器具1のファンを回転させ、吸気口10の近傍の空気が吸気口10に取り込まれる気流が発生することから、その気流にのってトレーサ3が吸気口10に取り込まれ、吸気口10に取り込まれたトレーサ3は、薬剤揮散器具1の内部を通過して排気口11から排出されるものであり、吸排気の様子および気流の拡散状態を動画や写真にして頒布する、システム。」
(2)引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、有害生物防除活性化合物が含まれる薬剤を室内で使用する場合に、化合物の室内挙動を予測する予測方法及びそれを用いて人体に対する安全性を評価する安全性評価方法を含む、有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーション方法に関するものであり、特に、有害生物防除活性化合物が含まれる薬剤を残留噴霧した場合、室内空間に噴霧した場合、加熱して揮散させた場合、床全域に噴霧した場合における、有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーション方法に関するものである。」
イ 「【0012】【課題を解決するための手段】請求項1の発明に係る有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーション方法は、上記課題を解決するために、室内環境を所定の媒体(構成要素)に分割し、該各媒体における前記化合物の逸散度に関する微分方程式を立てる工程と、前記微分方程式から、前記各媒体における前記化合物の逸散度を求める工程と、前記各媒体における前記化合物の逸散度から、前記化合物の室内挙動を求める工程と、前記微分方程式を解くときに用いる微小時間単位を、室内における化合物のマスバランスの変動に応じて変化させる工程とを備えていることを特徴としている。【0013】上記構成によれば、室内環境を所定の媒体に分割し、各媒体間の化合物のやり取り等を考慮することにより、実際の化合物の挙動に近いシミュレーション結果を得ることが可能になるとともに、経時的変化を伴うパラメータを含む連立微分方程式を解くときに、マスバランスの変動に合わせて自動的に微小時間単位が設定することができ、コンピュータで上記微分方程式を処理する場合に、短時間で正確な解を得ることが可能となる。」
ウ 「【0690】最後に、本発明の上記各実施形態に用いられるコンピュータプログラム製品(記憶媒体)について説明する。図19は、本発明の上記各実施形態に用いられる記憶媒体20の構成図である。図19に示すように、記憶媒体20は、プログラムを記憶するプログラム領域20aを備えており、このプログラム領域20aには、有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーションプログラム22が記憶されている。有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーションプログラム22は、処理を統括するメインプログラム22aと、所定の媒体に分割された室内環境に応じて、各媒体における化合物の逸散度に関する微分方程式を立てるために必要な1次条件の入力(S1)、及び2次条件の計算(S2)をし、上記の微分方程式を立てる、微分方程式作成プログラム22bと、上記の微分方程式から化合物の逸散度を求める(S3)Fugacity計算プログラム22cと、計算された逸散度から、化合物の室内挙動である、経時的室内空気中濃度及び残留量を算出する(S4)室内挙動計算プログラム22dと、上記の経時的室内空気中濃度及び残留量にもとづいて化合物の人体に対する安全性を評価する(S5~S17)安全性評価プログラム22eと、微分方程式を解くときに用いる微小時間単位を、化合物のマスバランスの変動に応じて変化させる(S21~S35)微小時間単位変更プログラム22fとを備えている。なお、上記かっこ内の記号は、図1又は図5において、対応する工程を示している。」
【0691】記憶媒体20としては、例えば、フレキシブルディスクやCD-ROMなど、円盤形記憶媒体が用いられる。また、磁気テープなどのテープ型記憶媒体を用いてもよい。
【0692】記憶媒体20は、図20及び図21に示す情報処理装置で用いることができる。つまり、情報処理装置30は、媒体ドライブ装置32を備えており、この媒体ドライブ装置32に記憶媒体20を収納することができる。そして、この収納によって、記憶媒体20に記憶された情報は、媒体ドライブ装置32でアクセス可能となる。このため、プログラム領域20aに記憶された、有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーションプログラム22が情報処理装置30で実行できるようになる。
【0693】この情報処理装置の構成は、次の通りである。まず、上述の媒体ドライブ装置32と、シミュレーション結果等を示す画像データを記憶する画像メモリ34と、オペレーティングシステム(OS)を常駐した作業用メモリ(内部メモリ)36と、表示手段であるディスプレイ38とを備えている。また、1次条件等の入力データを受け付けるマウス40及びキーボード42を有する入力手段である入力装置44と、画像データ等を出力するプリンタ46と、有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーションプログラム22の実行等を制御するCPU48とを備えている。」
エ 「【0702】従って、短時間、かつ精度良く、化合物の人体に対する安全性を評価することが可能となる。これにより、化合物を含む殺虫剤等の薬剤を処方する際に、条件を変えて容易にシミュレーションを繰り返すことができ、安全性が高く目的に応じた薬剤を処方し易くなる。」
上記引用文献2の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「有害生物防除活性化合物が含まれる薬剤を室内で使用する場合に、化合物の室内挙動を予測する予測方法及びそれを用いて人体に対する安全性を評価する安全性評価方法を含む、有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーションプログラム22を情報処理装置30で実行するシステムにおいて、有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーションプログラム22は、室内環境を所定の媒体(構成要素)に分割し、該各媒体における前記化合物の逸散度に関する微分方程式を立てる工程と、前記微分方程式から、前記各媒体における前記化合物の逸散度を求める工程と、前記各媒体における前記化合物の逸散度から、前記化合物の室内挙動を求める工程と、前記微分方程式を解くときに用いる微小時間単位を、室内における化合物のマスバランスの変動に応じて変化させる工程とを備えており、前記情報処理装置30は、媒体ドライブ装置32と、シミュレーション結果等を示す画像データを記憶する画像メモリ34と、オペレーティングシステム(OS)を常駐した作業用メモリ(内部メモリ)36と、表示手段であるディスプレイ38とを備えており、前記媒体ドライブ装置32には記憶媒体20を収納することができ、記憶媒体20は、プログラムを記憶するプログラム領域20aを備えており、このプログラム領域20aには、有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーションプログラム22が記憶されており、化合物を含む殺虫剤等の薬剤を処方する際に、条件を変えて容易にシミュレーションを繰り返すことができる、システム。」
(3)特表2015-519621号公報について
令和2年2月4日付け補正の却下の決定において、引用文献3として引用された特表2015-519621号公報(以下「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0002】本開示は、識別子を使用して商品を追跡すること及び商品に付随する情報を提供することに関する。より具体的には、QRコードを使用して商品を追跡しかつ商品に付随する情報を提供する方法及び装置が記載される。」
イ 「【0019】QRコードは、情報の2次元的な図示表現であり、紙、布、プラスチック、金属などの材料に印刷することができる。QRコードには、QRコードスキャナ又は移動通信装置(例えば、図1に示す移動通信装置102)などのデバイスによって、スキャン及び解釈を行うことができる形式で情報が表現されている。QRコードは、様々な量の情報(例えば、数文字から数千文字まで)を含むことができる。大抵、QRコードにはウェブアドレスが含まれ、そのウェブアドレスを使用してそのコードと関連付けられた製品又はサービスに関連する情報などの情報を提供することができる。例えば、QRコードは、製品を収容している箱に添付されたラベルに含めることができる。一実施形態では、QRコードは、商品に直接配置される。例えば、QRコードは、製品にシルクスクリーンによって直接印刷してもよい。またQRコードは、製品上に成形することによって、又は製品の表面上にQRコードをエッチングすることによって、製品に直接配置されてもよい。」
上記引用文献3の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「QRコードを使用して商品に付随する情報を提供する装置において、前記QRコードにはウェブアドレスが含まれ、そのウェブアドレスを使用してそのコードと関連付けられた製品又はサービスに関連する情報などの情報を提供することができ、前記QRコードは、製品を収容している箱に添付されたラベルに含めることができる、装置。」
(4)特開2011-220910号公報について
令和2年2月4日付け補正の却下の決定において、引用文献4として引用された特開2011-220910号公報(以下「引用文献4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「【0001】本発明は、拡散物質の濃度分布を予測する計算方法に係り、特に、発生してからの時間によって残存率が変化する特性を持った拡散物質の濃度分布計算方法に関するものである。」
イ 「【0019】前記の目的を達成するために、本発明に係る拡散物質の濃度分布計算方法は、発生源から空間中に放出された後、時間と共に残存量が減少していく特性を持った拡散物質の濃度分布計算方法であって、前記発生源からの発生時刻と気流解析に基づいて計算された前記拡散物質の濃度分布を、各計算要素において発生時刻別の濃度分布に分ける分配計算処理の後に、分配された発生時刻別の前記拡散物質の総量を前記計算要素毎に補正する総量補正処理を行って、発生からの経過時間と共に減少する前記拡散物質の残存量を計算する残存量計算処理と、前記残存量計算処理で計算された残存量に基づいて前記拡散物質の総濃度分布を計算する総濃度分布計算処理と、を有する構成をとっている。」
ウ 「【0028】図1に示すステップS11で初期時刻t0(普通、最初は「0秒」)を設定した後、その時刻における流れ場の初期条件を設定するステップS12を行う。流れ場の条件というのは、各計算要素における流速と圧力である。実際には温度も流れ場に関係するが、ここでの説明は温度一定と仮定して、温度を除いて行う。このモデルの場合、室内空間1に気流がなく、拡散物質の発生器2が停止している状態から計算を開始すると考えると、初期条件は室内全体の流速も「0m/秒」、拡散物質の濃度も「0%」である。圧力は一定値(通常、1気圧)である。」
上記引用文献4の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献4には、次の発明(以下「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「発生してからの時間によって残存率が変化する特性を持った拡散物質の濃度分布計算方法において、前記計算方法は、発生源から空間中に放出された後、時間と共に残存量が減少していく特性を持った拡散物質の濃度分布計算方法であって、前記発生源からの発生時刻と気流解析に基づいて計算された前記拡散物質の濃度分布を、各計算要素において発生時刻別の濃度分布に分ける分配計算処理の後に、分配された発生時刻別の前記拡散物質の総量を前記計算要素毎に補正する総量補正処理を行って、発生からの経過時間と共に減少する前記拡散物質の残存量を計算する残存量計算処理と、前記残存量計算処理で計算された残存量に基づいて前記拡散物質の総濃度分布を計算する総濃度分布計算処理と、を有する構成をとっており、初期条件は室内全体の流速も「0m/秒」、拡散物質の濃度も「0%」であり、圧力は一定値(通常、1気圧)である、計算方法。」
5 対比・判断
(1)本願発明1について
ア 対比
本願発明1を、引用発明1と比較する。
(ア)引用発明1の「防虫剤、殺虫剤」などの「活性成分を内部に収納可能な」「薬剤揮散器具1」は、本願発明1における「薬剤含有製品」に相当する。
(イ)引用発明1における「薬剤揮散器具1」は、「薬剤揮散器具1のファンを回転させ、吸気口10の近傍の空気が吸気口10に取り込まれる気流が発生する」ことから、本願発明1とは「薬剤含有製品は、ファン式薬剤揮散具である」の点で一致する。
(ウ)引用発明1の「吸気口10の近傍にトレーサ3を供給し、薬剤揮散器具1の稼働によって吸気口10からトレーサ3を薬剤揮散器具1の内部に吸引させ、排気口11からトレーサを排出させることにより、薬剤揮散器具の稼働時の吸排気の様子および気流の拡散状態を可視化」した「動画や写真」は、本願発明1における「薬剤の拡散状況をイメージした視認データ」に相当する。
(エ)引用発明1の「防虫成分や消臭成分などの活性成分を内部に収納可能な薬剤揮散器具のデモンストレーションを行うシステム」は、「薬剤揮散器具の稼働時の吸排気の様子および気流の拡散状態を可視化」したものを「動画や写真にして頒布する」ことを含むことから、本願発明1における「薬剤含有製品から放出される薬剤の拡散状況を、当該薬剤含有製品の利用者に認識させる薬剤拡散状況認識システム」に相当する。
すると、本願発明1と、引用発明1とは、次の点で一致する。
<一致点>
「薬剤含有製品から放出される薬剤の拡散状況を、当該薬剤含有製品の利用者に認識させる薬剤拡散状況認識システムであって、前記薬剤の拡散状況をイメージした視認データがあり、前記薬剤含有製品は、ファン式薬剤揮散具である、薬剤拡散状況認識システム。」
一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点1>
「薬剤の拡散状況をイメージ化した視認データ」が、本願発明1では、「所定のシミュレーション空間で前記薬剤含有製品から時間の進行に伴い薬剤が拡散していく状況を解析したシミュレーションの結果をイメージ化したもの」であり、「前記シミュレーションにおいて、前記シミュレーション空間における気流の速度及び気流の方向、並びに空気の温度を含む気流状態の空間分布を定常状態になるまで解析し、次に、前記薬剤含有製品から薬剤を発生させ、解析した定常状態での気流状態を用いて、薬剤濃度の空間分布を定常解析により予測する」のに対し、引用発明1では「吸気口10と排気口11を有し、内部に活性成分を収納可能な薬剤揮散器具1と、薬剤揮散器具1の後方に設置した背景材と、可視化したトレーサ3とを備え、吸気口10の近傍にトレーサ3を供給し、薬剤揮散器具1の稼働によって吸気口10からトレーサ3を薬剤揮散器具1の内部に吸引させ、排気口11からトレーサを排出させることにより、薬剤揮散器具の稼働時の吸排気の様子および気流の拡散状態を可視化」した「動画や写真」である点。
<相違点2>
本願発明1では、「薬剤の拡散状況をイメージ化した視認データ」が、「コンピュータ、ホームページ、又はウェブ上に設けられており、前記視認データとリンクされている薬剤拡散情報が、前記薬剤含有製品に付されて」いるのに対し、引用発明1では、「薬剤の拡散状況をイメージ化した視認データ」を「動画や写真にして頒布する」点。
イ 判断
前記「ア」で記載した各相違点について判断する。
(ア)相違点1について
a 引用発明2は「有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーションプログラム22を情報処理装置30で実行するシステム」であり、「シミュレーション結果等を示す画像データを記憶する画像メモリ34」を備えていることから、相違点1における「所定のシミュレーション空間で前記薬剤含有製品から時間の進行に伴い薬剤が拡散していく状況を解析したシミュレーションの結果をイメージ化したもの」を生成する技術を開示している。しかしながらそのシミュレーションは、相違点1における「前記シミュレーション空間における気流の速度及び気流の方向、並びに空気の温度を含む気流状態の空間分布を定常状態になるまで解析し、次に、前記薬剤含有製品から薬剤を発生させ、解析した定常状態での気流状態を用いて、薬剤濃度の空間分布を定常解析により予測する」手法とは異なっている。
b 以上のことから、上記相違点1に係る発明特定事項を引用発明1ないし2から当業者が導き出すことはできない。
c 引用発明3は、「QRコードを使用して商品に付随する情報を提供する装置」であり、前記「a」で検討したシミュレーションに関する技術は開示していない。
d 引用発明4は、「拡散物質の濃度分布計算方法」として「初期条件は室内全体の流速も「0m/秒」、拡散物質の濃度も「0%」であり、圧力は一定値(通常、1気圧)である」計算方法を開示している。この計算方法は、相違点1における「前記シミュレーション空間における気流の速度及び気流の方向、並びに空気の温度を含む気流状態の空間分布を定常状態になるまで解析し、次に、前記薬剤含有製品から薬剤を発生させ、解析した定常状態での気流状態を用いて、薬剤濃度の空間分布を定常解析により予測する」手法とは異なっている。
e 以上のことから、上記相違点1に係る発明特定事項を引用発明1ないし4から当業者が導き出すことはできない。
(イ)相違点2について
a 引用発明2は「有害生物防除活性化合物の室内挙動シミュレーションプログラム22を情報処理装置30で実行するシステム」であり、「シミュレーション結果等を示す画像データを記憶する画像メモリ34」を備えていることから、上記相違点2における「薬剤の拡散状況をイメージ化した視認データ」が、「コンピュータ」「に設けられて」いる技術を開示している。
b 引用発明3は、「QRコードを使用して商品に付随する情報を提供する装置」であり、「QRコードにはウェブアドレスが含まれ、そのウェブアドレスを使用してそのコードと関連付けられた製品又はサービスに関連する情報などの情報を提供することができ」、「QRコードは、製品を収容している箱に添付されたラベルに含めることができる」ことから、上記相違点2における「データとリンクされている」「情報が、前記薬剤含有製品に付され」る技術を開示している。
c 以上のことから、引用発明1において、「薬剤の拡散状況をイメージ化した視認データ」である薬剤揮散器具の稼働時の吸排気の様子および気流の拡散状態を可視化」した「動画や写真」を頒布する際に、前記「a」ないし「b」で述べた引用発明2ないし引用発明3に開示された技術を採用して、動画や写真をコンピュータに設け、その動画や写真とリンクされている情報を薬剤揮散器具を収容している箱に添付されたラベルに含めるようにして、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者ならば容易になし得たことである。
ウ 小括
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1ないし2または引用発明1ないし4に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(2)本願発明2について
本願発明2も、本願発明1の上記相違点1に係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1ないし2または引用発明1ないし4に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし2は、当業者が引用発明1ないし2または引用発明1ないし4に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-006513