特許拒絶査定不服審判
2020-006436
MCM5に結合するモノクローナル抗体
- 審判番号
- 2020-006436
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-564337外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年05月13日
- 審決日
- 2022年01月18日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アーケア ダイアグノスティクス リミテッド
- 【請求人代理人】特許業務法人平木国際特許事務所
- 分類
- P18 .113-WZ (C07K) / P18 .121-WZ (C07K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2017-564337「MCM5に結合するモノクローナル抗体」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日国際公開、WO2016/198834、平成30年 7月26日国内公表、特表2018-520127〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願(以下、「本願」という。)は、2016年(平成28年)6月1日を国際出願日(パリ条約による優先権主張 2015年6月8日 英国)とする特許出願であって、その手続の主な経緯は次のとおりである。
令和1年12月26日付け:拒絶査定
令和2年 5月13日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和3年 3月23日付け:拒絶理由通知書
令和3年 9月29日 :意見書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~18に係る発明は、令和2年5月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲1~18に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
配列番号21の配列を有する4B4 CDRH1、配列番号23の配列を有する4B4 CDRH2、配列番号25の配列を有する4B4 CDRH3、配列番号15の配列を有する4B4 CDRL1、配列番号17の配列を有する4B4 CDRL2、及び配列番号19の配列を有する4B4 CDRL3を含む、Mcm5に特異的に結合するモノクローナル抗体。」
第3 当審による拒絶理由の概要
令和3年3月23日付けで当審が通知した拒絶理由には、理由1として、次の理由が含まれている。
本願請求項1に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下、「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、下記の引用例1に記載された発明に基いて、本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用例1:Journal of the National Cancer Institute, 2002年, 94(14), 1071-1079
第4 認定事実
1.引用例1の記載事項
引用例1には、以下の事項が記載されている(英文であるため当審により和訳したものを摘記する。下線は当審が付したものである。)。
(1-1)「抗体の産生及び精製
細菌で発現されたHisタグ化ヒトMcm5(アミノ酸367-582)に対するモノクローナル抗体が、BAL/c×CBA F1マウスで作製された。細菌で発現された融合タンパク質100μgを、同容量のタイターマックス(Stratech Scientific Ltd.,Luton,U.K.)で乳化し、月齢3ヶ月のマウスに皮下注射し免疫した。免疫は2~3ヶ月間隔で3回繰り返され、免疫後、マウスは6ヶ月間飼育された。追加のPBS 0.3%中の融合タンパク質を、死亡の6~3日前に腹腔内投与した。ハイブリドーマ細胞株は、免疫された動物の脾細胞とミエローマ細胞株Sp2/0-Ag14とを、ポリエチレングリコール処理により融合することで樹立された(27)。ハイブリドーマ細胞株は、ドットブロット法によって融合タンパク質に対する抗体についてスクリーニングされ、これらの抗体を発現する細胞株は、抗体産生に使用される前に少なくとも三回クローン化された(27)。
ハイブリドーマ上清をPBSで予め平衡化したProtein A Sepharose 4B Fast Flowビーズカラム(30mg免疫グロブリンG[IgG]/mL結合容量;Sigma-Aldrich Co.Ltd,Gillingham,U.K.)に通した。カラムをPBSで洗浄し、100mMのグリシン-HCl(pH2.9,1mL/step)にて、1Mトリス(pH9.6)を含むチューブにゆっくり段階的に溶出した。チューブを穏やかに混合してpHを7.0-7.8に戻した。各溶出画分について280nmの吸光度を測定し、抗体を含む画分をプールした。
プロテインA精製モノクローナル抗体を、Ni-NTA HisSorbTMマイクロタイタープレート(Qiagen)上に固定化された組換えMcm5に対してスクリーニングした。結合したモノクローナル抗体は、西洋ワサビペルオキシダーゼに結合した抗マウスヤギ二次抗体(Dako,Ely,U.K.)とのインキュベーション後、450nmの吸光度で比色分析により検出した。候補モノクローナル抗体を、製造元の指示に従ったNi-NTA HisSorbTMスクリーニングアッセイにおける競合条件下で、エピトープ特異性のペアの組合せで試験し、二つの高親和性モノクローナル抗体(MAbs;IgG2bアイソタイプ)を選択した。これらのMAbsは、12A7および4B4と命名され、Mcm5の異なるエピトープに向けられており、尿沈殿物中のMcm5レベルを決定するための2部位時間分解免疫蛍光分析に用いられた。」(1073頁左欄下から25行~右欄16行)
(1-2)「Mcm5レベルを測定するためのDissociation-Enhanced Lanthanide FluorometricImmunoassay(DELFIA)
我々は、DELFIA(登録商標)Eu標識キットを用い(Perikin Elmer Life Scence, Wallac Oy, Turku, Finland)、メーカーの手順にしたがって、プロテインAで精製されたMAb4B4をユーロピウム(28)で標識した。ユーロピウム標識されたMAb 4B4(IgG当たり7分子のEu)を5%(wt/vol)の高純度BSAにて安定化し、0.02%NaN3を含有する0.1M重炭酸塩緩衝液(pH9.2)中、4℃で保存した。アッセイは、Hela細胞を用いて標準化し、1つの蛍光単位を、1つの増殖Hela S3細胞のMcm5含有量により生成されたシグナルとして定義し、それはおよそ105Mcm5分子である(29)。DELFIA(登録商標)研究試薬はPerkin Elmer Life Scienceから入手した。他の全ての試薬はSigma-Aldrichから入手した。
Nunc Maxisorpマイクロタイタープレートウェル(Life Technologies)を8μL/mlプロテインA生成MAb 12A7 200μLで受動的吸着によって被覆し、常温で一晩インキュベートした。・・・(中略)・・・ウェルは蒸発を防止するための接着性プラスチックシートで密閉され、マイクロタイタープレートをプレートシェーカーで一晩、室温でインキュベートした。マイクロタイターウェルをDELFIA(登録商標)洗浄緩衝液で6回洗浄し、1g/mLのユーロピウム結合MAb4B4 200μLを添加した。プレートシェーカー上での4時間の常温でのインキュベーションの後、マイクロタイタープレートをDELFIA(登録商標)洗浄緩衝液で6回洗浄し、次いで200μLのDELFIA(登録商標)増強溶液を各ウェルに添加した。プレートシェーカー上で5分間のインキュベーションした後、各ウェルの蛍光(613nm)をWallac DELFIA(登録商標)1232 時間分解蛍光高度計で検出した。ブランク及び標準ウェルから生じた蛍光値により標準曲線を作成し、臨床サンプルの蛍光値をMulticalc Advanced Immunoassay Data Management package(Perlin Elmer Life Science)によって計算した。」(1073頁右欄17行~下から1行)
(1-3)「膀胱癌の診断テストとしての免疫蛍光測定Mcm5アッセイの性能は、ROC曲線として示されている(図1)。このテストでは、ROC曲線の下の広い領域(0.93[95%CI=0.89~0.97])が示すように、膀胱癌のある患者と健常者を高い感度で識別した。」(1074頁右欄下から9行~下から4行)
2.引用発明
上記(1-1)~(1-3)より、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「4B4と命名された、Mcm5に特異的に結合するモノクローナル抗体。」
第5 対比、判断
1.本願発明1について
本願発明1の「配列番号21の配列を有する4B4 CDRH1、配列番号23の配列を有する4B4 CDRH2、配列番号25の配列を有する4B4 CDRH3、配列番号15の配列を有する4B4 CDRL1、配列番号17の配列を有する4B4 CDRL2、及び配列番号19の配列を有する4B4 CDRL3を含む」なる事項について、本願明細書の【0045】における「一実施形態において、本発明の抗体は、4B4の重鎖由来の少なくとも1つのCDR(4B4 CDRH1、4B4 CDRH2又は4B4 CDRH3)、及び4B4の軽鎖由来の少なくとも1つのCDR(4B4 CDRL1、4B4 CDRL2又は4B4 CDRL3)を含む。・・・」と記載され、【0046】に「・・・配列番号15(4B4 CDRL1)、配列番号17(4B4 CDRL2)、配列番号19(4B4 CDRL3)、配列番号21(4B4 CDRH1)、配列番号23(4B4 CDRH2)又は配列番号25(4B4 CDRH3)のうちいずれか1つに記載されるものに対し同一である配列を有する、少なくとも1つのCDRを含む。・・・」(下線は当審による。)と記載されている。
そうすると、本願明細書中の記載からみて、本願発明1は、「4B4」の重鎖由来の3つのCDR及び「4B4」の軽鎖由来の3つのCDRを含むモノクローナル抗体であるといえる。
2.本願発明1と引用発明との対比
ここで、当該「4B4」という名称についてみると、引用発明のMcm5に特異的に結合するモノクローナル抗体に対しても同一名称が付されている。本願優先日前に頒布された刊行物である引用例1は、本願発明者2名のうちの1名が著者となって執筆していることからみて、引用発明における「4B4」という名称は、本願発明の「4B4」と同一のモノクローナル抗体を指していると通常解される。
さらに、本願明細書中【0017】、【0018】には、以下の記載がある。
「現在のところ、泌尿器がん、特に前立腺がん又は膀胱がんの検出は困難であり、侵襲性の技術が必要である場合がある。Mcm5はがんのバイオマーカーである。本発明者らは、Mcm5に結合するが、互いに異なるエピトープに結合する2種類の抗体を開発した(12A7は配列番号1に結合し、4B4は配列番号2に結合する)。このような抗体は、Mcm5(又はこれらのエピトープを含む類似のMcmタンパク質)を検出するためのアッセイに使用可能であるため有利である。具体的には、これらの抗体は、Mcm5抗原の固定化が必要なアッセイで使用可能である。例えば、2部位免疫測定法を使用してMcm5を検出することができる。・・・」(【0017】、下線は当審による。)「しかし、このようなアッセイを開発するには、Mcm5に結合する2種類の抗体が特定されなければならない。さらに、これらの2種類の抗体が互いに異なるエピトープに結合しなければならないだけでなく、2種類の抗体が結合する2種類の異なるエピトープが、両抗体がMcm5に同時に(実質的な立体障害なしに)結合することができるように、空間をあけて位置付けられなければならない。本発明者らは、2種類のこのような抗体(12A7及び4B4と命名)を開発した。・・・」(【0018】、下線は当審による。)
上記記載からみて、本願発明1の「4B4」モノクローナル抗体は、「12A7」モノクローナル抗体とは互いに異なるエピトープに結合し、かつ、2種類の抗体が結合する2種類の異なるエピトープが、両抗体がMcm5に同時に(実質的な立体障害なしに)結合することができるように、空間をあけて位置付けられることにより、2部位免疫測定法を用いたMcm5の検出に用いることができるものであるといえる。
一方、引用発明の「4B4」モノクローナル抗体も、上記(1-1)~(1-3)の記載からみて、「12A7」と命名されたモノクローナル抗体と共に取得され、それぞれ異なるエピトープに結合するものであって、2部位免疫測定法を用いたMcm5の検出に用いることができるものであり、当該性質の点においても、本願発明1と引用発明は相違がない。
加えて、本願明細書中の【0013】、【0014】、【0017】には、以下の記載がある。
「Mcm5はがんのバイオマーカーである(WO99021014)。尿沈渣中の、Mcm5などのMcmタンパク質レベルの上昇は、前立腺における悪性変化と関連している。したがって、これらのMcmタンパク質レベルの上昇が、前立腺がんを検出するのに使用可能となった。2抗体法に、DELFIA(登録商標)(Dissociation-Enhanced Lanthanide Fluorometric Immunoassay)、並びに抗Mcm5モノクローナル抗体4B4及び12A7を使用して、Dudderidgeら(BJC, 103, 701-707; 2010)は、前立腺がん検出における泌尿器バイオマーカーとしてのMcm5の使用について調べ、これが「前立腺がん患者を特定するための簡便で正確かつ非侵襲性の方法と考えられる」と結論付けた。特異度30%を有するPSA試験と比較して、Mcm5の特異度は73%~93%の間と推定された。重要なことには、PSA試験の短所である偽陽性結果が良性前立腺肥大症で生じなかった。」(【0013】、下線は当審による。)
「しかし、きわめて特異的にMcm5に結合し、そのためMcm5用の高親和性アッセイをデザインするのに適した抗体の配列については開示されていない。」(【0014】、下線は当審による。)
「・・・本発明者らは、各エピトープに対する抗体が同時に結合することができるように配置される2種類のMcm5エピトープを特定した第一人者である。さらに本発明者らは、Mcm5に独立に結合することができる2種類の抗体の配列を提供した第一人者でもある。」(【0017】、下線は当審による。)
上記記載からみて、本願発明は、既知の抗体である「4B4」のアミノ酸配列を開示することが特徴であると推認される。
したがって、本願発明1の抗体「4B4」と、引用発明の抗体「4B4」とは、同一のモノクローナル抗体である蓋然性が極めて高い。また、このような「4B4」モノクローナル抗体は、「4B4」の重鎖由来の3つのCDR及び「4B4」の軽鎖由来の3つのCDRを含むものである。
そうしてみると、本願発明1と、引用発明とは、「配列番号21の配列を有する4B4 CDRH1、配列番号23の配列を有する4B4 CDRH2、配列番号25の配列を有する4B4 CDRH3、配列番号15の配列を有する4B4 CDRL1、配列番号17の配列を有する4B4 CDRL2、及び配列番号19の配列を有する4B4 CDRL3を含む、Mcm5に特異的に結合するモノクローナル抗体。」である点で一致し、相違点はない。
3.引用例1の抗体「4B4」が公知であったことについて
次に、引用例1の抗体「4B4」が本願優先日前に公知であったかについて、以下検討する。
(3-1)公開年について
引用例1は、本願優先日である2015年6月8日よりも10年以上前の2002年に公開されたものである。
(3-2)複数の研究者が関与していることについて
引用例1は、本願発明者2名のうちの1名が著者であることに加えて、11名の著者が共著者として記載され、本願発明者2名のうちの1名とは異なる研究機関に属する著者がラストオーサーとして記載されている。
また、引用例1の公開の後、本願優先日前までの間に公開された引用例2、4~6は、いずれも本願発明者2名のうちの1名が著者であり、抗体「4B4」が記載されているものであるところ、複数の著者が共著者として記載されており、特に引用例6では、本願発明者2名のうちの1名とは異なる研究機関に属する著者がラストオーサーとして記載されている。
したがって、本願優先日前には、異なる研究機関に属する複数の研究者が抗体「4B4」を用いていること、論文のラストオーサーとは、当該研究の統括的立場で指揮にあたった人物であることが一般的であり(必要であれば、コトバンク[on line],「オーサーシップ」,URL<https://kotobank.jp/word/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97-677013>参照のこと。)、研究に用いられた生物材料の分譲の可否の判断は、当然、研究の統括的立場で指揮にあたった人物が行うであろうことを考えれば、第三者から抗体「4B4」の分譲要求があった場合には、本願発明者2名のうちの1名とは異なる研究機関に属する著者も、分譲要求の可否の判断、対応をしていたといえる。
(3-3)ジャーナルの投稿規定について
引用例1の投稿規定(引用例7;Manuscript Preparation|JNCI:Journal of the National Cancer Institute、英国、2020.03.03検索)には、「「ジャーナルに掲載された論文の著者は、報告された研究で使用された生物学的材料を共有するための資格のある研究者からの合理的な要求を尊重することが期待されている。」(Sharing Materials項、当審により和訳した。)と記載されている。
加えて、審判請求人が令和3年9月29日付け意見書において引用した参考資料1(Sharing Publication-Related Data and Materials: Responsibilities of Authorship in the Life Sciences)の第2章(Chapter 2)には、「今日のほとんどのジャーナルは、資格のある読者が全ての実験手順を複製できるように、著者が材料と方法について十分な詳細を提供することを明示的に要求している。その要件の論理的で、しばしば暗黙の拡張は、著者は、論文で報告された発見を検証又は反論するために他者が必要とするデータと材料を利用可能にしなければならない。」(32頁下から10行~下から5行、当審により和訳した。)、「著者の義務は、他の人が公開された調査結果を検証または複製できるようにするためのデータと試料を公開するだけでなく(ジャーナルがすでに暗黙的または明示的に要求しているため)、他の科学者がさらなる研究で構築できる形式でそれらを提供することである。」(34頁8行~12行、当審により和訳した。)と記載されている。
したがって、これらの記載からみると、一般的には、著者は、投稿した論文に記載された生物学的材料について、第三者からの分譲の要求があったときには、その要求に応じるよう求められていたといえる。
(3-4)分譲要求の拒否の意思を示す証拠の存否について
審判請求人が令和3年9月29日付け意見書において添付した、参考資料2(Cancer Research Technology LimitedとUrosens Limited(現在のArquer Diagnostics Ltd;本願出願人)との間のライセンス契約)の記載をみると、契約の署名日が2012年1月17日となっており、契約署名日から有効となることが記載されている。
したがって、当該契約によっていかなる事項が契約されているかにかかわらず、当該署名日以前の2002年に発行された引用例1に対しては何ら効力を及ぼさないものである。
一方で、引用例1、2、4~6、引用例1の投稿規定である引用例7、参考資料1、2のいずれにも、引用例1の公開から本願の優先日前に、引用例1の著者が抗体「4B4」を第三者から分譲の要求があっても当該要求を拒否していたことの根拠となる記載はなく、その他、そのことを示す証拠は出されていない。
以上、(3-1)~(3-4)の事実を総合的に判断すると、本願優先日前、抗体「4B4」について、引用例1の著者が抗体「4B4」を第三者から分譲の要求があっても当該要求を拒否していたとはいえず、引用例1の抗体「4B4」は公知であったといわざるを得ない。
したがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明であり、引用例1の記載に基づいて、当業者が容易になし得た発明である。
4.審判請求人の主張について
審判請求人は、令和3年9月29日付け意見書において、以下のア~エの点から抗体4B4が公に利用可能となっていなかったと主張し、さらにオ、カの点についても主張しているので、以下、これらの点について検討する。
ア.「・・・第三者がジャーナル記事の著者に対して、当該著者が商業化/特許取得を望む生物学的材料を共有するよう依頼することは、これらの生物学的材料が私的、機密、非営利目的でのみ使用される場合を除いて、合理的ではないものと思料します。著者/発明者は、抗体をパブリックドメインに置く要求を不合理であるとして拒否する裁量を有していたはずです。なぜなら、抗体をパブリックドメインに置くことは、計画された特許出願に対して不利益だからです。 引用文献1(引用文献7)には、上述の「合理的な要求」を構成するものの正式な定義はない一方で、科学的刊行物の筆頭著者が、第三者による当該要求が「合理的」であるか否かを決定する責任があることは十分に理解されている事項です。このことは、この分野では一般的な事項です。例えば、本意見書に添付します参考資料1(「Sharing Publication-Related Data and Materials: Responsibilities of Authorship in the Life Sciences」)の第4章(Chapter 4)は、著者が公開された材料を他の研究者が利用できるようにする責任がある一方で、特許取得のための材料又は方法に関連する情報を公開する行為は、著者の商業的利益を損なうものであってはならないと説明しています。特に、当該第4章の第52~53頁には、以下の説明がなされています: 「刊行物関連の材料が著者に要求される場合、著者は、更なる研究を可能にする目的で当該材料を提供する(又は当該材料をリポジトリに置く)と理解される。・・・(中略)・・・ 特許取得の材料又は方法に関連する情報を公開する行為は、著者の商業的利益を損なうべきではない」 このように、引用文献1の共有ポリシー(投稿規定)では、著者が、自由に制限なく著者の仕事を提供する必要はありませんでした。代わりに、引用文献1の著者は、抗体をパブリックドメインに置く要求を不合理であるとして拒否する裁量を有していました。なぜなら、抗体をパブリックドメインに置くことは、計画された特許出願に対して不利益であるからです。・・・」
イ.「・・・本願出願人は、Cancer Research Technology Limited(CRUKの完全所有子会社)とUrosens Limited(現在のArquer Diagnostics Ltd;本願出願人)との間の機密契約により、抗体12A7及び4B4を入手しました。証拠として、Cancer Research Technology LimitedとUrosens Limited(現在のArquer Diagnostics Ltd;本願出願人)との間のライセンス契約を参考資料2として、本意見書に添付致します。この契約は、これらの抗体がジャーナル共有ポリシーに準じた要求によって取得されたものではなく、機密の法的合意によって取得されたことの証拠を提供するものです。・・・」
ウ.「・・・引用文献から明らかなように、本願発明者の1人であるKai Stoeber氏は、引用文献1、2及び4~6の全てにおいて著者でした。これにより、引用文献4~6の著者が、同じ研究室の一部として(又は共同で)一緒に働いていたことは明確であるものと思料します。さらに、著者がこれら抗体へのアクセスが許可されていた場合に、材料トランスファー合意書、機密保持契約、又はその他の制限的な法的手段を通じてアクセスが行われなかったと考える理由はありません。このような合意は、学術的な設定で材料を共有する場合、特に、1人以上の共同研究者が問題の材料に関する特許出願を出願することを意図している場合には一般的なことです。換言すれば、抗体12A7及び4B4に関する引用文献4~6に記載されている別々の機関からの著者がいるという事実が、引用文献1又は2の著者により、これら抗体が自由に第三者に利用可能としたことを示唆するものではないのです。・・・」
エ.「この判決(知的財産高等裁判所の判決(平成22年(行ケ)10029号)は、特許性に対する障壁としてのジャーナル共有ポリシーに関するものです。この判決において、裁判所は、配布要求に応じるか否かを決定するのは著者の裁量であり、また共著者は、特許出願の新規性を確保するために配布要求を拒否することができると裁定しました。この判決に鑑みても、引用文献1の共有ポリシー(投稿規定)は、引用文献1の著者が抗体12A7及び4B4を第三者に自動的に利用可能にすることを義務付けていないのです。むしろ、引用文献1の著者は、発明者/ライセンシーの商業的利益を損なうため、裁量を行使し、これら抗体を第三者と共有することを拒否することができたはずです。」
オ.「モノクローナル抗体産生の可変性は、当業者が、自発的に抗体4B4及び12A7を生成することが事実上統計的に不可能であることを意味します。」
カ.「引用文献のいずれも、抗体4B4のCDRを有する抗体及び12A7のCDRを有する抗体が2部位(two-site)アッセイにおけるMCM5の検出に特に有利であることが教示も示唆もされていないのです。」
(a)主張アについて
審判請求人は、参考資料1を引用し、抗体「4B4」は商業化/特許取得を望む生物材料であるから、引用例1の著者が、自由に制限なく著者の仕事を提供する必要がなく、抗体をパブリックドメインに置く要求を不合理であるとして拒否する裁量を有し、抗体の使用目的を制御することができたはずである旨主張している。
しかしながら、参考資料1における「特許取得の材料又は方法に関連する情報を公開する行為は、著者の商業的利益を損なうべきではない」との記載は、知的財産権が材料に関連する場合についての記載であるところ、引用例1は、本願優先日である2015年6月8日よりも10年以上前である2002年に公開されたものであるから、引用例1の発表当時、抗体「4B4」に関して、知的財産権が材料に関連する場合に該当したとはいえない。
したがって、参考資料1における「特許取得の材料又は方法に関連する情報を公開する行為は、著者の商業的利益を損なうべきではない」との記載は本件には何ら関係のないものである。
また、上記3.引用例1の抗体「4B4」が公知であったことについての(3-3)で既に述べたように、一般的には、著者は、投稿した論文に記載された生物学的材料について、第三者からの分譲の要求があったときは、その要求に応ずるよう求められていたといえる。
一方で、引用例7、及び、参考資料1において特許取得の材料又は方法に関連する情報を公開する行為は、著者の商業的利益を損なうべきではない」との記載があるからといって、引用例1の著者が本願優先日前に、抗体「4B4」を第三者から分譲の要求があっても当該要求を拒否する意思を有していたことの根拠にはならないし、その他、当該抗体の第三者への分譲要求を拒否する意思を有していた、あるいは、実際に分譲要求を拒否していたことを示す記載もない。
よって、審判請求人の主張は採用し得ないものである。
(b)主張イについて
上記3.引用例1の抗体「4B4」が公知であったことについての(3-4)で述べたように、参考資料2は契約の署名日が2012年1月17日であるから、当該契約によっていかなる事項が契約されているかにかかわらず、当該署名日以前の2002年に発行された引用例1に対しては何ら効力を及ぼさないものであって、引用例1の著者が本願優先日前に、抗体「4B4」を第三者から分譲の要求があっても当該要求を拒否する意思を有していたことの根拠にはならない。
よって、審判請求人の主張は採用し得ないものである。
(c)主張ウについて
上記3.引用例1の抗体「4B4」が公知であったことについての(3-4、(a)、(b)で述べたように、参考資料1、2には、引用例1の著者が本願優先日前に、抗体「4B4」を第三者から分譲の要求があっても当該要求を拒否する意思を有していたことは示されておらず、引用例1の著者の一人であり、発明者の一人でもあるKai Stoeber氏が当該抗体の第三者への分譲要求を拒否していた、または、他の研究機関に所属する共同研究者が第三者による研究利用目的の分譲要求に応じることを制限していたとの審判請求人の主張は根拠がない。
(d)主張エについて
知的財産高等裁判所の判決(平成22年(行ケ)10029号では、A博士(発明者)の宣誓供述書により、他の共同著者はA博士の指揮下で研究を行った共同研究者であって、L612細胞を第三者に領布するためには、A博士の許可を得なければならなかったこと、A博士は、仮に共同著者から該細胞を第三者に領布するための許可を求められてもその許可を与える意図はなかったことが記載され、本願優先日前、A博士自身も、仮に第三者から該細胞の提供を要求されても提供する意図はなかったことが記載されていることから、結果として、細胞は、第三者にとって入手可能であったと結論付けている。
一方で、本願では、上述したとおり、引用例1の著者が当該抗体の第三者への分譲要求を拒否していたことを示す証拠は何ら提出されていない。
よって、審判請求人の主張は採用し得ないものである。
(e)主張オについて
抗体「4B4」を自発的に生成することが統計的に不可能であったか否かにかかわらず、主張ア~エについて、で上述したとおり、引用例1の抗体「4B4」自体を第三者でも入手することが可能であったと推認される。
したがって、抗体「4B4」を入手するためには自発的に抗体「4B4」を生成する必要はなく、審判請求人の主張は採用できない。
(f)主張カについて
4B4と12A7を2部位アッセイにおけるMcm5の検出に用いたことは、引用例1(上記(1-1)参照のこと。)に記載されていることから、審判請求人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、引用例1に記載された発明に基いて本願優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-006436