特許拒絶査定不服審判
2018-007724
成長因子タンパク質の精製方法
- 審判番号
- 2018-007724
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-112029
- 請求日
- 2018年06月05日
- 審決日
- 2019年03月11日
- 公報発行日
- 2019年09月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】オクタファルマ・アーゲー
- 【請求人代理人】中島 淳
- 【請求人代理人】加藤 和詳
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 啓子
- 審判官 中島 庸子
- 審判官 澤田 浩平
- 分類
- P18 .575-Z (C07K) / P18 .121-Z (C07K) / P18 .113-Z (C07K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第44条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第44条第1項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-112029「成長因子タンパク質の精製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年11月10日出願公開、特開2016-190856〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成28年6月3日の出願であって、平成23年3月30日を国際出願日とする特願2013-501831号(パリ条約による優先権主張 平成22年3月30日 欧州特許庁,平成22年4月16日 米国)の一部を特許法第44条第1項の規定に基づいて分割出願したものであり、 平成30年1月29日付けで拒絶査定がなされ、同年6月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。
第2 平成30年6月5日付け手続補正についての補正却下の決定
[結論]
平成30年6月5日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1が、
「【請求項1】
クロマトグラフィーを用いる一連の精製においてG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を精製する方法であって:
少なくとも1つのクロマトグラフィーは、負に荷電した2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンドを含むマルチモーダル樹脂を用いて行われ;
G-CSFは4~6.2の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し;及び
前記G-CSFは5.5~6.5のpHで溶出し、アルギニンを0.1M~2.0Mの範囲の濃度で用いることで溶出が行われること、を特徴とする方法。」であったものを、
「【請求項1】
クロマトグラフィーを用いる一連の精製においてrhG-CSF(組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子)を精製する方法であって:
少なくとも1つのクロマトグラフィーは、負に荷電した2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンドを含むマルチモーダル樹脂を用いて行われ;
rhG-CSFは4.0~6.0の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し;及び
前記rhG-CSFは5.5~6.5のpHで溶出し、アルギニンを0.1M~2.0Mの範囲の濃度で用いることで溶出が行われること、を特徴とする方法。」とする補正事項を含むものである。
2.目的要件について
上記補正事項によって、補正後の請求項1は、補正前の請求項1の「G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)」が「rhG-CSF(組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子)」に補正され、補正前の請求項1の「G-CSFは4~6.2の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し」が「rhG-CSFは4.0~6.0の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し」に補正されており、これらは補正前の請求項1の発明特定事項を限定するものであると認められる。
したがって、上記補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。
3.独立特許要件について
(1)本願補正発明
補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、補正後の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「クロマトグラフィーを用いる一連の精製においてrhG-CSF(組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子)を精製する方法であって:
少なくとも1つのクロマトグラフィーは、負に荷電した2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンドを含むマルチモーダル樹脂を用いて行われ;
rhG-CSFは4.0~6.0の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し;及び
前記rhG-CSFは5.5~6.5のpHで溶出し、アルギニンを0.1M~2.0Mの範囲の濃度で用いることで溶出が行われること、を特徴とする方法。」
そして、本願補正発明には「rhG-CSFは4.0~6.0の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し;及び 前記rhG-CSFは5.5~6.5のpHで溶出し」と特定されており、マルチモーダル樹脂に結合させたrhG-CSFを溶出するpHが『pH5.5~6.5』であることが特定されていると認められる。
(2)原出願の願書に最初に添付した明細書
本願の原出願(特願2013-501831号、特表2013-523690号公報)の願書に最初に添付した明細書等(以下、「当初明細書」という。)には、マルチモーダル樹脂を用いたクロマトグラフィーにおけるrhG-CSFの溶出に関して以下の事項が記載されている。
ア 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、先行技術の成長因子タンパク質の精製方法の欠点を、新規の方法を提供することによって回避することを1つの目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下の方法により目的が達成される。
-少なくとも1つのクロマトグラフィーがマルチモーダル樹脂を用いて実行され、
-成長因子タンパク質が4~6.2の間のpHでマルチモーダル樹脂に結合する、および、
-成長因子タンパク質が6.3より高いpHでマルチモーダル樹脂から溶出している、
クロマトグラフィーを用いる一連の精製において、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)または顆粒球マクロファージCSF(GM-CSF)のようなコロニー刺激因子(CSF)、インターロイキン3(IL-3)、肝細胞増殖因子、上皮成長因子、および、線維芽細胞成長因子(酸)からなる群より選択される成長因子タンパク質を精製する方法。」
イ 「【0023】
別の実施形態において、前記成長因子タンパク質はpH6.3より高いpHへの変化によって溶出する。
・・・・
【0026】
本発明の別の実施形態によれば、成長因子タンパク質は約pH6.0でマルチモーダル樹脂に結合し、一方、成長因子タンパク質はpH6.5以上で、特に約pH7.0で前記マルチモーダル樹脂から溶出する。」
ウ 「【0103】
実施例6(実験6、7、8、9、10、11)
出発物質
カプトMMCカラムへのロードの前に、総タンパク質濃度を低下させ、より扱いやすい体積にするために精製されたrhG-CSFを平衡化緩衝液に希釈した。そして、また各実験の所望のpHにするために。希釈の前に前記rhG-CSFを20mM酢酸ナトリウム、0.2M塩化ナトリウム、0.02%ツイーン20、pH6.5に溶解した。
【0104】
クロマトグラフィー樹脂およびカラム
rhG-CSF分子の捕捉工程としてGEヘルスケアから入手した混合モード樹脂であるカプトMMC(カタログ番号17-5317)を用いた。カプトMMCは疎水性相互作用、および、チオフィリック相互作用、および、水素結合を有する弱カチオン樹脂である。トリコーン5/150カラム(GEヘルスケア)は15cmのベッド高までカプトMMC樹脂で充填された。カプトMMCのカラム容積(CV)は3mlであった。
【0105】
緩衝液
実験6
平衡化緩衝液:20mM酢酸ナトリウム、0.1M塩化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH4.0
洗浄緩衝液:20mM酢酸ナトリウム、1M塩化ナトリウム、0,02%ポリソルベート80、pH4.0
溶出緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、0.5Mアルギニン1塩酸塩、0.1M塩化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH7.0
【0106】
実験7
平衡化緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、0.1M塩化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH5.0
溶出緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、0.5Mアルギニン1塩酸塩、0.1M塩化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH7.0
【0107】
実験8
平衡化緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、0.1M塩化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH6.0
溶出緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、0.5Mアルギニン1塩酸塩、0.1M塩化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH7.0
【0108】
実験9
平衡化緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、0.1M塩化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH6.5
溶出緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、0.5Mアルギニン1塩酸塩、0.1M塩
化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH7.0
【0109】
実験10
平衡化緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、0.1M塩化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH5.5
溶出緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、0.5Mアルギニン1塩酸塩、0.1M塩化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH7.0
【0110】
実験11
平衡化緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、0.1M塩化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH4.0
溶出緩衝液:20mMクエン酸ナトリウム、0.5Mアルギニン1塩酸塩、0.1M塩化ナトリウム、0.02%ポリソルベート80、pH7.0
【0111】
実験構成
次のように各実験を行った。使用する平衡化緩衝液で精製されたrhG-CSFを約20分の1に希釈した。出発物質のpHはコントロールされ、全ての実験で調整なしで平衡化緩衝液と同じであった。平衡化緩衝液でカラムを平衡化し、引き続いて1ml/分の流速で出発物質のロードが行われた。続いて、平衡化緩衝液での洗浄工程を行い、次に、溶出緩衝液を用いてカラムを溶出した。実験6では、溶出の前に1M塩化ナトリウムを含む緩衝液で前記カラムの洗浄もされた。試料を回収し、HPLC法によりrhG-CSFを分析した。
【0112】
実験6の図4に見られるように、1M塩化ナトリウムでの洗浄でピークは得られなかった。このことは、rhG-CSFがカプトMMCカラムから洗い落とされなかったことを示す。酢酸ナトリウム緩衝液、または、クエン酸ナトリウム緩衝液をpH4で用いる場合(実験6、および、実験11)、カプトMMCカラムでG-CSFを独立に精製すると、同じ溶出プロファイルが得られた。
【0113】
表6は、どのレベルでrhG-CSFがカプトMMCに結合し、そして、どの収率が得られるのか明らかにする分析の結果を示す。
【0114】
【表6】
【0115】
pH4~6で通過画分中に物質を少しも失うことなくG-CSFがカプトMMC樹脂に結合することを表6のデータは示している。しかし、出発物質のpHが6.5のとき、検出されたG-CSFの大部分は通過画分で検出された。
【0116】
0.5Mアルギニンを含むpH7とした緩衝液で前記カプトMMCカラムを溶出した。pH4~6で材料がカラムにロードされるとき、G-CSFの回収率は高かったが、pH6.5が出発物質に用いられるとき、溶出液中の収率は低かった。
【0117】
以下のクロマトグラムにおいて(図4、5、および、6)、rhG-CSFがpH4、または、5の緩衝液に存在するとき、二重ピークとしてカプトMMCカラムから溶出することが示される。一方、前記出発物質のpHが5.5、6.0、または、6.5のとき(図7、8、および、9)、一重ピークが得られた。銀染色されたSDS‐PAGE(図10A)に示されるように、実験8(pH6.0)、実験9(pH6.5)、および、実験10(pH5.5)からの溶出液は見事な一本のバンドを有する。一方、実験6(pH4.0)、および、実験7(pH5.0)の溶出液は銀染色されたSDS-PAGEでより多くのバンドを示す(図10B)。
【0118】
結論
これらの実験の結果は、rhG-CSFはpH4.0、5.0、5.5、6.0でカプトMMCに結合することができることを示す。pH6.5でのカプトMMCへのrhG-CSFの結合はより強くなく、pH4~6の場合と異なり通過画分にrhG-CSFを検出した。
【0119】
pH5.5~6.5が用いられたとき、溶出プロファイルはより良く、これらのpHがロード物質に用いられたとき、産物はSDS-PAGEでより良く見える。
【0120】
pH6.5を用いたとき、カプトMMCカラムからG-CSFが漏れたため、ロード物質にpH5.5~6.0を用いるのが好ましい。
【0121】
全ての実験で、結合した物質はpH7で溶出された。そして、溶出緩衝液が0.5Mアルギニン1塩酸塩を含むとき、ピークはより幅が狭くなった。G-CSFを少しも失うことなく1M塩化ナトリウムでの洗浄工程をpH4で行うことができる。」
(3)分割要件
上記(1)のとおり、本願補正発明には、マルチモーダル樹脂に結合させたrhG-CSFを溶出するpHが『pH5.5~6.5』であることが特定されていると認められる。
これに対して、上記(2)ア~ウのとおり、本願の原出願の当初明細書には、マルチモーダル樹脂を用いたクロマトグラフィーにおいて、マルチモーダル樹脂に結合させたrhG-CSFを溶出するpHが「6.3より高いpH」、「pH6.5以上で、特に約pH7.0」であることは記載されているが、『pH5.5~6.5』であることは記載されていない。
原出願の当初明細書の実施例6(上記ウ)には、rhG-CSFタンパク質の精製に使用される緩衝液のpHに関して記載されており、平衡化緩衝液のpHをpH4.0~6.5、溶出緩衝液をpH7.0とした実験6~11が示されており、「rhG-CSFがpH4、または、5の緩衝液に存在するとき、二重ピークとしてカプトMMCカラムから溶出することが示される。一方、前記出発物質のpHが5.5、6.0、または、6.5のとき(図7、8、および、9)、一重ピークが得られた。銀染色されたSDS‐PAGE(図10A)に示されるように、実験8(pH6.0)、実験9(pH6.5)、および、実験10(pH5.5)からの溶出液は見事な一本のバンドを有する。一方、実験6(pH4.0)、および、実験7(pH5.0)の溶出液は銀染色されたSDS-PAGEでより多くのバンドを示す(図10B)。」(段落【0117】)と記載されている。
そうすると、実施例6の記載から、出発物質のrhG-CSFをpH5.5、pH6.0、pH6.5の平衡化緩衝液を用いてロードすることでrhG-CSFをマルチモーダル樹脂に結合させ、次に同平衡化緩衝液を用いて洗浄し、さらにpH7.0の溶出緩衝液で溶出した場合(実験8~10)に、「一重ピーク」、「溶出液は見事な一本のバンド」の結果が得られたこと、すなわち、平衡化緩衝液のpHが4.0(実験6、11)、pH5.0(実験7)の場合よりも優れた精製ができたことが示されていると認められる。しかし、実施例6におけるrhG-CSFを溶出するpHについては「全ての実験で、結合した物質はpH7で溶出された。」(段落【0121】)と記載されており、rhG-CSFを溶出するpHは『pH5.5~6.5』ではない。
したがって、本分割出願の原出願の当初明細書にマルチモーダル樹脂に結合させたrhG-CSFを『pH5.5~6.5』で溶出することが記載されているとも、記載されているに等しいとも認められない。
よって、本願補正発明は原出願の当初明細書に記載された事項の範囲内でなく、分割の実体的要件を満たさないから、特許法第44条第2項本文の適用を受けることはできない。
(4)審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において以下の点を主張している。
「まず、原出願の当初明細書にはG-CSFが6.3より高いpHでマルチモーダル樹脂から溶出することが開示されております(段落0013等)。
次に、原出願の当初明細書には、pHが6.3以下の場合であってもG-CSFを溶出可能であることが示されております。具体的には、pHが6.0、アルギニン濃度が0.8Mである緩衝液C(溶出緩衝液II)を用いてG-CSFを溶出させたことが記載されております(段落0146~0148)。このように、原出願の当初明細書においてpH6.0での溶出が立証されており、この具体的な実験結果に基づけば、pH6.0の近傍、即ち、pH5.5~6.5の範囲においてもG-CSFがマルチモーダル樹脂から溶出することは当業者にとって明確に理解されます。」
そこで、以下検討する。
審判請求人が指摘する段落0013には、G-CSFが6.3より高いpHでマルチモーダル樹脂から溶出することが記載されているが、『pH5.5~6.5』の範囲で溶出することは記載されていない。
また、審判請求人が指摘する段落0146~0148の記載は、実施例9で使用したクロマトグラフィーカラム、すなわち、
「カラムおよび樹脂
トリコーン5/50カラム(GEヘルスケア)はカプトMPベースのマトリックスに結合した酵母由来Fab断片ベースのアフィニティーリガンドで充填された。ベッド高は約2cmであり、約0.4mlの樹脂容積を生じた。アフィニティー樹脂の原型(G-CSF8)はBAC BV社から入手した。」というアフィニティーリガンドクロマトグラフィーカラムにおける溶出に関するものであって、マルチモーダル樹脂からの溶出に関するものではない。
むしろ、原出願の当初明細書には「pH4~6で通過画分中に物質を少しも失うことなくG-CSFがカプトMMC樹脂に結合することを表6のデータは示している。(段落0115)」と記載されており、pH5.5~6.0の範囲ではG-CSFがマルチモーダル樹脂(カプトMMC樹脂)から溶出しないことが示されていると認められる。
そうすると、pH5.5~6.5の範囲においてもG-CSFがマルチモーダル樹脂から溶出することが原出願の当初明細書に記載されているとも、当初明細書の記載から自明であるともいえない。
なお、審判請求人は[更なる補正案]を示しているが、[更なる補正案]の請求項1にも「rhG-CSFは4.0~6.0の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し;及び 前記rhG-CSFは5.5~6.3のpHで溶出し、アルギニンを0.1M~2.0Mの範囲の濃度で用いることで溶出が行われること」、すなわち、マルチモーダル樹脂に結合させたrhG-CSFを[pH5.5~6.3]で溶出することが特定されているから、[更なる補正案]の請求項1に記載された発明も分割要件を満足しない。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。
(5)進歩性違反の拒絶の理由
ア 引用文献1、引用発明
本願の現実の出願日である平成28年6月3日より前に頒布された刊行物である特開2013-523690号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている
(ア)「【要約】
少なくとも1つのクロマトグラフィー工程がマルチモーダルレジンを用いて実行されること、4から6.2の間のpHで成長因子タンパク質がマルチモーダルレジンに結合し、成長因子タンパク質が6.3より高いpHで溶出し、そして、成長因子タンパク質の溶出は溶出緩衝液へのアルギニン、及び/又は、塩化ナトリウムの添加により改善されること、マルチモーダルレジン工程に引き続いて、酵母由来アフィニティーリガンドレジン工程が実行され、その結果、90%より高い純度の産物が生じることを特徴とするクロマトグラフィーを用いる、一連の精製で成長因子タンパク質を精製する方法。」
(イ)「【請求項1】
G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、または、顆粒球マクロファージCSF(GM-CSF)のようなコロニー刺激因子(CSF)、インターロイキン3(IL-3)、肝細胞増殖因子、上皮成長因子、および、線維芽細胞成長因子(酸)からなる群より選択される成長因子タンパク質を精製する方法であって、一連の精製において、
少なくとも1つのクロマトグラフィーがマルチモーダル樹脂を用いて行われ、
前記成長因子タンパク質が4~6.2の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し、および、
6.3より高いpHで前記成長因子タンパク質が溶出し、
任意に、酵母由来アフィニティーリガンドクロマトグラフィー工程、特に前記成長因子タンパク質に対する酵母由来Fab断片と組み合わせる、
ことを特徴とするクロマトグラフィーを用いる方法。
・・・・
【請求項4】
前記成長因子タンパク質が組換え成長因子タンパク質である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
・・・・
【請求項12】
前記成長因子タンパク質の溶出前のpH4.0~6.0の範囲での洗浄工程において、約0.1M~2M塩化ナトリウムを含む緩衝液が使用される、または、0.1M~2Mアルギニン1塩酸塩が使用されることができる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
・・・・
【請求項14】
前記マルチモーダルクロマトグラフィー樹脂が次の部分、
a.正に荷電したN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンリガンド、
b.負に荷電した2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンド、
c.フェニルプロピルリガンド、
d.N-ヘキシルリガンド、
e.4-メルカプト-エチル-ピリジンリガンド、
f.3-((3-メチル-5-((テトラヒドロフラン-2-イルメチル)-アミノ)-フェニル)-アミノ)-安息香酸リガンド、
のうちの少なくとも1つ、または、これらの組合せを含むことを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。」
(ウ)「【0075】
結論
ロードされたG-CSFの全てがpH4.0でカプトMMCに結合した。3カラム容量回収された溶出画分で高い収率(89%)が得られた。溶出緩衝液はpHが7.0であり0.5Mのアルギニン1塩酸塩が含まれた。」
上記(ア)~(ウ)より、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「組換えG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)タンパク質を精製する方法であって、一連の精製において、
少なくとも1つのクロマトグラフィーがマルチモーダル樹脂を用いて行われ、
前記マルチモーダルクロマトグラフィー樹脂が負に荷電した2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンドを含み、
前記組換えG-CSFタンパク質が4~6.2の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し、および、
6.3より高いpHで前記組換えG-CSFタンパク質が溶出する、クロマトグラフィーを用いる方法であって、
0.1M~2Mアルギニン1塩酸塩が使用され、組換えG-CSFタンパク質の溶出は溶出緩衝液へのアルギニンの添加により改善される、方法」
イ 対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明の「組換えG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)タンパク質」は本願補正発明の「rhG-CSF(組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子)」と「rG-CSF(組換え顆粒球コロニー刺激因子)」である点で共通する。また、引用発明の「6.3より高いpH」は、本願発明の「5.5~6.5のpH」と「pH6.3より高く6.5まで」の範囲で重複するから、引用発明の「6.3より高いpHで前記組換えG-CSFタンパク質が溶出する」は、本願発明の「前記rhG-CSFは5.5~6.5のpHで溶出し」と一致し、引用発明の「0.1M~2Mアルギニン1塩酸塩が使用され、組換えG-CSFタンパク質の溶出は溶出緩衝液へのアルギニンの添加により改善される」は、本願補正発明の「アルギニンを0.1M~2.0Mの範囲の濃度で用いることで溶出が行われること」に相当すると認められる。
したがって、両者は、
「クロマトグラフィーを用いる一連の精製においてrhG-CSF(組換えヒト顆粒球コロニー刺激因子)を精製する方法であって:
少なくとも1つのクロマトグラフィーは、負に荷電した2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンドを含むマルチモーダル樹脂を用いて行われ;
rhG-CSFは4.0~6.0の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し;及び
前記rhG-CSFは5.5~6.5のpHで溶出し、アルギニンを0.1M~2.0Mの範囲の濃度で用いることで溶出が行われること、を特徴とする方法。」で一致し、以下の点で相違すると認められる。
(相違点)
「組換えG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)タンパク質」について、本願補正発明では「ヒト(h)」由来に特定されているのに対して、引用発明では特定されていない点。
ウ 判断
引用文献1には「実施例6(実験6、7、8、9、10、11)/ 出発物質/カプトMMCカラムへのロードの前に、総タンパク質濃度を低下させ、より扱いやすい体積にするために精製されたrhG-CSFを平衡化緩衝液に希釈した。・・・」(段落【0103】)と、実施例においてヒト由来の組換えG-CSFを精製したことが記載されているから、「組換えG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)タンパク質」について、「ヒト(h)」由来のものを特定することは、当業者が容易になし得ることである。
したがって、本願補正発明は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることできない。
4.小括
以上のとおり、上記の補正事項を含む本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
第3 本願発明について
1.原査定の拒絶の理由
平成30年1月29日付けの拒絶査定は、この出願の請求項1~12に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。
2.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、この出願の請求項1~12に係る発明は、本願の出願時の特許請求の範囲の請求項1~12に記載の事項により特定される発明であり、そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
クロマトグラフィーを用いる一連の精製においてG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を精製する方法であって:
少なくとも1つのクロマトグラフィーは、負に荷電した2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンドを含むマルチモーダル樹脂を用いて行われ;
G-CSFは4~6.2の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し;及び
前記G-CSFは5.5~6.5のpHで溶出し、アルギニンを0.1M~2.0Mの範囲の濃度で用いることで溶出が行われること、を特徴とする方法。」
本願発明には、マルチモーダル樹脂に結合させたG-CSFを溶出するpHが『pH5.5~6.5』であることが特定されていると認められる。
そして、上記第2の3.(3)で述べたとおり、本分割出願の原出願の当初明細書にマルチモーダル樹脂に結合させたrhG-CSFを『pH5.5~6.5』で溶出することが記載されているとも、記載されているに等しいとも認められない。
したがって、本願発明は原出願の当初明細書に記載された事項の範囲内でなく、分割の実体的要件を満たさないから、特許法第44条第2項本文の適用を受けることはできない。
3.引用発明
本願の現実の出願日である平成28年6月3日より前に頒布された引用文献1には、上記第2の3.(5)アのとおり、次の引用発明が記載されていると認められる。
「組換えG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)タンパク質を精製する方法であって、一連の精製において、
少なくとも1つのクロマトグラフィーがマルチモーダル樹脂を用いて行われ、
前記マルチモーダルクロマトグラフィー樹脂が負に荷電した2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンドを含み、
前記組換えG-CSFタンパク質が4~6.2の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し、および、
6.3より高いpHで前記成長因子タンパク質が溶出する ことを特徴とするクロマトグラフィーを用いる方法であって、
0.1M~2Mアルギニン1塩酸塩が使用され、組換えG-CSFタンパク質の溶出は溶出緩衝液へのアルギニンの添加により改善される、方法」
4.対比、判断
本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「クロマトグラフィーを用いる一連の精製においてG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を精製する方法であって:
少なくとも1つのクロマトグラフィーは、負に荷電した2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンドを含むマルチモーダル樹脂を用いて行われ;
G-CSFは4~6.2の間のpHで前記マルチモーダル樹脂に結合し;及び
前記G-CSFは5.5~6.5のpHで溶出し、アルギニンを0.1M~2.0Mの範囲の濃度で用いることで溶出が行われること、を特徴とする方法。」
である点で一致し、相違点はない。
したがって、本願発明は引用発明と同一であると認められる。
第4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2018-007724