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特許拒絶査定不服審判

2020-003955

蛋白質吸着抑制剤及び蛋白質吸着抑制方法

審判番号
2020-003955
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-547443外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年03月24日
審決日
2020年10月26日
公報発行日
2020年12月25日
結論
原査定取消(特許/登録すべき)
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-WY (G01N) / P18 .575-WY (G01N) / P18 .121-WY (G01N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第17条の2第5項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2016-547443「蛋白質吸着抑制剤及び蛋白質吸着抑制方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月17日国際公開、WO2016/039319、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。

理由

目次 ▾ 20項目
【理 由】

第1 手続の経緯

本願は、2015年(平成27年)9月8日(優先権主張 平成26年9月10日)を国際出願日とする出願であって、令和元年6月28日付けで拒絶理由が通知され、同年8月29日に意見書が提出され、令和2年1月9日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、同年3月24日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

本件補正を却下する。

[理由]

1 本件補正について

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。

「【請求項1】
式(1)で示される化合物を有効成分として0.01~10質量%含有する蛋白質吸着抑制剤。
【化1】
[式(1)中、Xは水素原子又はメチル基を示す。nは9~15の整数である。]」(下線は追加された補正箇所である。)

2 補正の適否

(1)補正の目的について

本件補正は、式(1)で示される化合物を有効成分として含有することを「0.01~10質量%」含有することに限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるといえる。

そこで、上記1で記載した本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(2)サポート要件について

ア 本願明細書の記載(下線については、明細書の下線を削除し、強調のため当審において改めて付与した。)

本願明細書には、「0.01~10質量%」に関する事項について、

「【0020】
蛋白質吸着抑制剤溶液中に含有される式(1)で示される化合物は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。上限値としては、溶媒若しくは緩衝液に溶解する限り特に制限はないが、例えば、20質量%以下、好ましくは10質量%以下である。」と記載され、さらに実施例として、
「【0034】
実施例1-1:実施例1-1-1~1-1-4
<蛋白質吸着抑制剤溶液の調製>
合成例1の化合物をダルベッコリン酸緩衝液(Sigma Aldrich社製、以後、D-PBSと略称する)に5質量%~0.5質量%(実施例1-1-1~1-1-4)となるように溶解し、蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。」
「【0036】
実施例1-2:実施例1-2-1~1-2-6
合成例1の化合物の代わりに合成例2の化合物を使用し、表1に示す各濃度とした以外は、実施例1-1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。さらに、実施例1-1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表1に示す。
【0037】
実施例1-3:実施例1-3-1~1-3-9
合成例1の化合物の代わりに合成例3の化合物を使用し、表1に示す各濃度とした以外は、実施例1-1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。さらに、実施例1-1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表1に示す。
【0038】
実施例1-4:実施例1-4-1~1-4-8
合成例1の化合物の代わりに合成例4の化合物を使用し、表1に示す各濃度とした以外は、実施例1-1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。さらに、実施例1-1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表1に示す。」
「【0051】
実施例3-1:実施例3-1-1~3-1-4
<蛋白質吸着抑制剤溶液の調製>
合成例1の化合物をD-PBSに5質量%~0.5質量%(実施例3-1-1~3-1-4)となるように溶解し、蛋白質吸着抑制剤溶液を調製した。」
「【0054】実施例3-2:実施例3-2-1~3-2-6
合成例1の化合物の代わりに合成例2の化合物を使用し、表3に示す濃度とした以外は、実施例3-1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製し、被覆層形成基材を作製した。さらに、実施例3-1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表3に示す。
【0055】
実施例3-3:実施例3-3-1~3-3-6
合成例1の化合物の代わりに合成例3の化合物を使用し、表3に示す濃度とした以外は、実施例3-1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製し、被覆層形成基材を作製した。さらに、実施例3-1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表3に示す。
【0056】
実施例3-4:実施例3-4-1~3-4-6
合成例1の化合物の代わりに合成例4の化合物を使用し、表3に示す濃度とした以外は、実施例3-1と同様にして蛋白質吸着抑制剤溶液を調製し、被覆層形成基材を作製した。さらに、実施例3-1と同様にして蛋白質吸着抑制効果を評価した。結果を表3に示す。」と記載されている。

イ 判断

上記本願明細書の記載を参照すると、「0.01~10質量%」は、蛋白質吸着抑制剤「溶液」における式(1)で示される化合物の濃度として記載されているものであり、「溶液」以外の蛋白質吸着抑制剤について、式(1)で示される化合物の濃度として記載されていない。

一方、補正発明の「蛋白質吸着抑制剤」は「溶液」と特定されていないことから、溶液以外のものを含むものであり、「式(1)で示される化合物を有効成分として0.01~10質量%含有する」と特定する補正発明は、溶液以外のものを含む「蛋白質吸着抑制剤」という点においてサポートさたものとはいえない

よって、補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。

(3)まとめ

したがって、補正発明は発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび

よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 原査定の概要

原査定の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の請求項1~5に係る発明は、その出願前(優先日前)に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>

1. Matsuno R, Takami K, Ishihara K,Simple Synthesis of a Library of Zwitterionic Surfactants via Michael-Type Addition of Methacrylate and Alkane Thiol Compounds,Langmuir,2010年 8月17日,Vol.26,No.16,Page.13028-13032

2.特開平5-312807号公報

3.特開平4-9665号公報

4.特開2007-91736号公報

第4 本願発明について

本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明5」という。)は、国際出願当初の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
式(1)で示される化合物を有効成分として含有する蛋白質吸着抑制剤。
【化1】
[式(1)中、Xは水素原子又はメチル基を示す。nは9~15の整数である。]
続きを表示(全14行)
【請求項2】
請求項1記載の蛋白質吸着抑制剤の被覆層を表面に備える基材。
【請求項3】
基材表面への蛋白質吸着抑制のための式(1)で示される化合物の使用。
【化2】
[式(1)中、Xは水素原子又はメチル基を示す。nは9~15の整数である。]
【請求項4】
基材表面を請求項1に記載の蛋白質吸着抑制剤で処理して被覆層を形成することを含む、基材への蛋白質吸着抑制方法。
【請求項5】
前記基材表面を前記蛋白質吸着抑制剤で処理した後、乾燥して被覆層を形成することを含む、請求項4に記載の方法。」

第5 引用文献について

1 引用文献1について

(1)本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で上記引用文献1として引用された「Simple Synthesis of a Library of Zwitterionic Surfactants via Michael-Type Addition of Methacrylate and Alkane Thiol Compounds」(当審訳:メタクリレートとアルカンチオール化合物のマイケル付加反応による両性イオン界面活性剤のライブラリの簡単な合成)には、次の事項が記載されている。

(1ア)「Among surfactants, we targeted zwitterionic surfactants. Many commercially available zwitterionic surfactants such as alkyl sulfobetaine and alkyl carboxybetaine have been synthesized. These zwitterionic surfactants have been widely used as components of shampoo, foaming agents, membrane protein solubilizers, and antistatic agents.」(13028頁右欄18~23行)

(当審訳:界面活性剤の中で、我々は両性イオン界面活性剤に着目した。アルキルスルホベタイン、アルキルカルボキシルベタイン等の多くの市販されている両性イオン界面活性剤が合成されてきた。これらの両性イオン界面活性剤は、シャンプー、起泡剤、膜タンパク質可溶化剤、帯電防止剤の成分として広く使用されてきた。)

(1イ)「Synthesis of Surfactants via Michael-Type Addition.

Figure 1 shows a schematic of the procedure for synthesizing zwitterionic surfactants with a PC group and various alkyl chains via Michael-type addition.」(13029頁左欄33~36行)

(当審訳:マイケル付加反応による界面活性剤の合成。

図1は、PC基と様々なアルキル鎖をもつ両性イオン界面活性剤をマイケル付加反応により合成する手順の概略図を示している。)

(1ウ)13029頁上部に図1として、以下の図面が記載されている。

Figure 1. Synthetic route of zwitterionic surfactants via Michael-type addition of MPC and alkane thiols.

(当審訳:図1.MPCとアルカンチオールのマイケル付加反応による両性イオン界面活性剤の合成経路)

(2)引用発明について

上記図1の右側には合成された化合物が記載されており、これは両性イオン界面活性剤であるから、引用文献1には、以下の発明が記載されている。

「
で示される化合物である、両性イオン界面活性剤。」(以下「引用発明」という。)

2 引用文献2について

本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で上記引用文献2として引用された特開平5-312807号公報には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した(以下同様)。

「【0027】本発明によるヒト血中に存在する肺組織障害マーカー蛋白の免疫学的測定方法
(1)ヒト血中に存在するレクチンであるSP―Aとイムノグロブリンとの複合体中のレクチンであるSP―Aの免疫学的測定方法
肺サーファクタントアポ蛋白A(SP―A)に対するモノクローナル抗体(1次抗体;PC―6)を適当な不溶性担体(例えばプラスチック容器)に固定化する(以下これを“固相抗体”という)。次いで不溶性担体と測定しようとする試薬または検体試料との非特異的結合を避けるために適当な物質(例えば牛血清アルブミン)で不溶性担体の表面を被覆する。
【0028】このようにして得られた1次抗体が固定化された不溶性担体を検体試料と、酵素で標識した抗肺サーファクタントアポ蛋白抗体(2次抗体,PE―10)(標識抗体)を、非イオン・陰イオン界面活性剤と、分子量1.6~5.0でかつ等電点が1.0~5.0なる蛋白を同時に、免疫反応液、例えば免疫反応用緩衝液に共存させ、一定時間および一定温度で接触させ反応させる。免疫反応温度は0~50℃までよいが、比較的高い温度で用いられる。ただし、低い温度の免疫反応では、反応時間は長く、比較的高い温度の免疫反応では、免疫反応時間は短い。実用面から、常温(20℃)から45℃が好んで用いられる。これを適当な洗浄液で洗い、次いで不溶性担体上に存在する2次抗体に標識された標識物質の量を測定する。
【0029】かくしてその値から、ヒト血中のレクチン(SP―A)―イクノグロブリン複合体のレクチン(SP―A)の量を算出することができる。
【0030】(2)ヒト血中に存在するレクチン(SP―A)―イムノグロブリン複合体の免疫学的測定方法
肺サーファクタントアポ蛋白に対するモノクローナル抗体(1次抗体;PC―6)を適当な不溶性担体(例えばプラスチック容器)に固定化する(以下これを“固相抗体”という)。次いで不溶性担体と測定しようとする試薬または検体試料との非特異的結合を避けるために適当な物質(例えば牛血清アルブミン)で不溶性担体の表面を被覆する。
【0031】このようにして得られた1次抗体が固定化された不溶性担体を検体試料とを一定時間反応させ、同複合体を、固相に結合させしめる。次いで、洗浄後酵素で標識した抗イムノグロブリンを、非イオン・陰イオン界面活性剤と、分子量1.6~5.0でかつ等電点が1.0~5.0なる蛋白を同時に、免疫反応液、例えば免疫反応用緩衝液に共存させ、一定時間および一定温度で接触させ反応させる。免疫反応温度は0~50℃までよいが、比較的高い温度で用いられる。ただし、低い温度の免疫反応では、反応時間は長く、比較的高い温度の免疫反応では、免疫反応時間は短い。実用面から、常温(20℃)から45℃が好んで用いられる。これを適当な洗浄液で洗い、次いで不溶性担体上に存在する2次抗体に標識された標識物質の量を測定する。
【0032】かくしてその値からヒト血中のレクチン―イムノグロブリン複合体の量を算出することができる。」

3 引用文献3について

本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で上記引用文献3として引用された特開平4-9665号公報には、次の事項が記載されている。

「本発明によるヒト血中に存在する肺疾患マーカー蛋白の免疫学的測定方法 肺サ-ファクタントアポ蛋白に対するモノクローナル抗体(1次抗体;PC-6)を適当な不溶性担体(例えばプラスチック容器)に固定化する(以下これを“固相抗体”という)。次いで不溶性担体と測定しようとする試薬または検体試料どの非特異的結合を避けるために適当な物質(例えば牛血清アルブミン)で不溶性担体の表面を被覆する。
このようにして得られた1次抗体が固定化された不溶性担体を検体試料と、酵素で標識した抗肺サーファクタントアポ蛋白抗体(2次抗体、PE-10)(標識抗体)を、非イオン・陰イオン界面活性剤と、分子量1.6~5.0でかつ等電点が1.0~5.0なる蛋白を同時に、免疫反応液、例えば免疫反応用緩衝液に共存させ、一定時間および一定温度で接触させ反応させる。免疫反応温度は0~50℃までよいが、比較的高い温度で用いられる。ただし、低い温度の免疫反応では、反応時間は長く、比較的高い温度の免疫反応では、免疫反応時間は短い。実用面から、常温(20℃)から45℃が好んで用いられる。これを適当な洗浄液で洗い、次いで不溶性担体上に存在する2次抗体に標識された標識物質の量を測定する。」(5頁左上欄最下行~左下欄3行)

4 引用文献4について

本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で上記引用文献4として引用された特開2007-91736号公報には、次の事項が記載されている。

「【0022】
まず、以下の各用語について説明する。
<非特異吸着抑制剤、抗体、免疫グロブリン、抗体フラグメント、抗体断片、可変ドメイン、軽鎖/重鎖、機能的部分、結合性タンパク分子>
<非特異吸着抑制剤>
非特異吸着抑制剤は、本発明の目的効果を達成し得るものであればいかなるものであってもよい。中でも本発明が解決する課題点の一つである、標的物質以外の挟雑物による反応領域への非特異的吸着を抑制または防止するための機能を有するものが望ましい。そのような非特異吸着抑制剤としては、生体由来物質および非生体由来物質を利用することができる。生体由来物質として、例えば、ウシ血清アルブミン、カゼイン、スキムミルク、等の標的物質との相互作用のない生体由来物質が公知の非特異吸着抑制剤として挙げられる。更に、これらの生体由来物質を修飾して得られる誘導体で非特異吸着抑制剤としての機能を有するものも利用できる。
【0023】
また、非生体由来物質として、非特異吸着抑制能を有する官能基の1以上を、少なくとも一部に含むポリマーを非特異吸着抑制剤として利用できる。そのような官能基としては、基体表面への物質の非特異的な吸着を防止または抑制するとされるものであればいかなるものでもよい。かかる官能基としては、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブチル基、t-ブチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、3-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシイソプロピル基、2-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、4-ヒドロキシブチル基、スチレン基、スルホニル基、ホスホニル基、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、イソプロピルアミノ基、アミド基、メチルアミド基、エチルアミド基、イソプロピルアミド基、ピロリドン基、エチレングリコール基、リン脂質基、コリン基、ホスファチジルコリン基及びこれらの誘導体からなる基を挙げることができる。また、糖などの親水性分子を後に結合させるためのものであってもよい。これらの中では、エチレングリコール基及びその誘導体からなる基の一種以上を一部に含む非特異吸着抑制機能を有するポリマー、更には、ホスファチジルコリン基及びその誘導体からなる基の一種以上を一部に含む非特異吸着抑制機能を有するポリマーが好ましい。」

第6 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比

本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の化合物は、炭素-炭素結合を直線で示し、炭素原子および炭素と結合している水素原子をすべて省略(CH2及びCH3を省略)した表記法で骨格構造を表したものであるから、本願発明1の「化合物」と引用発明の「化合物」とは、以下の点で共通する。

「式(1)で示される化合物。
[式(1)中、Xはメチル基を示す。nは9、11の整数である。]」

イ一致点・相違点

そうすると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)

「式(1)で示される化合物を含む剤。
[式(1)中、Xはメチル基を示す。nは9、11の整数である。]」

(相違点)

本願発明1は、上記(1)式[式(1)中、Xはメチル基を示す。nは9、11の整数である。]で示される化合物(以下「該化合物」という。)を「有効成分として含有する蛋白質吸着抑制剤」であるのに対し、引用発明では、該化合物は両性イオン界面活性剤である点。

(2)判断

ア 上記相違点について検討する。

(ア)上記引用文献2及び3に記載の「不溶性担体の表面を被覆する」「不溶性担体と測定しようとする試薬または検体試料との非特異的結合を避けるために適当な物質」は、本願発明1の「蛋白質吸着抑制剤」に対応するところ、引用文献2及び3では、その物質として「牛血清アルブミン」を用いている。

一方、引用発明の「両性イオン界面活性剤」は、摘記(1ア)に記載されているとおり、シャンプー、起泡剤、膜タンパク質可溶化剤、帯電防止剤に用いられるものであり、引用文献2及び3の界面活性剤ではない牛血清アルブミンの記載から、引用発明の「両性イオン界面活性剤」である該化合物を、蛋白質吸着抑制剤の有効成分として用いることは当業者といえども発想できるものではない。 また、引用文献2及び3には「非イオン・陰イオン界面活性剤」との記載もあるが、それは標識抗体を可溶化するために添加されているものであり、それらは蛋白質吸着抑制剤の有効成分ではない。さらに加えていうなら、「非イオン・陰イオン界面活性剤」は「両性イオン界面活性剤」でもない。

そうすると、引用文献2及び3の「非イオン・陰イオン界面活性剤」との記載から、引用発明の「両性イオン界面活性剤」である該化合物を、蛋白質吸着抑制剤の有効成分として用いることは当業者といえども発想できるものではない。

(イ)上記引用文献4に記載の「非特異吸着抑制剤」は、本願発明1の「蛋白質吸着抑制剤」に対応するところ、引用文献4では、非特異吸着抑制剤として「ホスファチジルコリン基及びその誘導体からなる基の一種以上を一部に含む非特異吸着抑制機能を有するポリマー」を用いることが好ましいことが記載されている。ここで、ホスファチジルコリン基は、上記引用発明の「両性イオン界面活性剤」の化合物に含まれる下記の骨格構造を有するものであるが、引用文献4に記載の「非特異吸着抑制剤」はポリマーであり、化合物ではない。さらに加えていうなら、化合物における部分的な基が共通するからといって、化合物全体により発揮される機能(内容・程度)が同じとはいえない。

ホスファチジルコリン基:

なお、この点、本願明細書の実施例を参照するに、化合物の上記基以外の部分について、本願発明1の式(1)のnをn=9、11、13及び15として化合物を合成した例(合成例1、2、3及び4)とn=3、5、7及び19として化合物を合成した例(比較合成例1、2、3及び4)とを蛋白質吸着抑制性能の点で比較、評価した結果が【表1】及び【表3】に記載されており、これらから、本願発明1の式(1)のnが9、11、13及び15である化合物の方が、n=3、5、7及び19である化合物よりも蛋白質吸着抑制効果が優れていることが分かる。すなわち、ホスファチジルコリン基以外の部分の調整によって蛋白質吸着抑制効果が異なってくることが示されている。

そうすると、引用発明の「両性イオン界面活性剤」である化合物の部分的な基が引用文献4の基と共通するからといって、引用発明の上記「R」を有する「両性イオン界面活性剤」である化合物から、Rとして「CH3(CH2)9-」又は「CH3(CH2)11-」であるもののみを選択して、蛋白質吸着抑制剤の有効成分として用いることが当業者といえども容易になし得たこととはいえない。

(ウ)してみれば、引用文献2~4の記載事項を鑑みても、上記相違点は当業者が容易になし得たこととはいえない。

イ 小括

よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2~4の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2、4及び5について

本願発明2、4及び5は、本願発明1を直接又は間接的に引用する発明であるから、少なくとも上記1(1)イで記載した相違点で引用発明と相違し、それに対する判断は、上記1(2)のとおりである。

よって、本願発明2、4及び5は、引用発明及び引用文献2~4の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明3について

(1)対比

本願発明3は「基材表面への蛋白質吸着抑制のための式(1)で示される化合物の使用。」(式(1)は本願発明1と同じ)の発明であり、引用発明と対比すると、相違点は以下のとおりとなる。

(相違点’)

本願発明3は、該化合物を「基材表面への蛋白質吸着抑制のため」に「使用」するのに対し、引用発明では、該化合物は両性イオン界面活性剤であり、「基材表面への蛋白質吸着抑制のため」に「使用」するものではない点。

(2)判断

上記1(2)で述べたとおり、引用発明の「両性イオン界面活性剤」である化合物を、引用文献2~4の記載事項に基づいて、蛋白質吸着抑制剤の有効成分として用いることが当業者といえども容易になし得たことではないから、引用発明の両性イオン界面活性剤である該化合物を「基材表面への蛋白質吸着抑制のため」に「使用」することも当業者が容易になし得たことではない。

(3)小括

よって、本願発明3は、引用発明及び引用文献2~4の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 むすび

以上のとおり、本願発明1~5は、引用発明及び引用文献2~4の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

したがって、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

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2020-003955

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