特許拒絶査定不服審判
2020-003804
発電システム及び発電方法
- 審判番号
- 2020-003804
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-176188外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年03月19日
- 審決日
- 2021年10月22日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .536-WZ (F03B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2015-176188「発電システム及び発電方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月16日出願公開、特開2017- 53246〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月7日に出願された特願2015-176188号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 元年 5月31日付け 拒絶理由通知書
令和 元年 8月23日 意見書、手続補正書の提出
令和 元年11月25日付け 拒絶査定
令和 2年 3月19日 審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 4月28日付け 拒絶理由通知書
令和 3年 7月 7日 意見書、手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
少なくとも下部が液体で満たされた貯液部(100)と、
下部が前記貯液部(100)の前記液体の液面下部に沈み、上部が該液面上部に出る様に設置され、上端部近傍の前記液面より所定の高さ位置に液取り出し口が設けられた揚水路(200)と、
一定量の圧縮気体(圧力値Pt)を貯蔵する圧縮気体貯蔵タンク(600)と、
前記液取り出し口から、前記揚水路(200)内に揚水された液体を前記所定の高さ位置より一定距離下方に導出する下方導水路(250)と、
一方が前記下方導水路(250)の下方端部に連結し、他方に前記液体を水平に送り出す入口を設けるとともに開閉式のゲート(300)が配設された水平導水路(260)と、
下部が前記水平導水路(260)に連通し上部が気体圧縮機(500)に連結し、少なくとも前記水平導水路(260)との連結部よりも下方に前記液体を集液可能な、内部が大気圧(圧力値P0(P0<Pt))に維持された集液部(400)と、
前記気体圧縮機(500)で圧縮された気体を前記圧縮気体貯蔵タンク(600)へ送出する気体通路(650)と、
前記圧縮気体貯蔵タンク(600)よりの圧縮気体を前記水平導水路(260)の前記入口から前記集液部(400)方向に出射する圧縮気体供給路(670)と、
一方が前記集液部(400)底部に接続され、他方が前記貯液部(100)の水面下までほぼ垂直に延出するよう配設された導水路(350)と、
前記導水路(350)下部に設けられ、前記導水路(350)を介して前記貯液部(100)へ落下する液体の落下エネルギーで発電する発電手段(700)とを備え、
発電開始前に前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に圧縮した気体を貯蔵するとともに、前記ゲート(300)を閉めて前記揚水路(200)および前記下方導水路(250)内に前記液体を充填しておき、
発電時に前記ゲート(300)を開けて、前記水平導水路(260)の前記入口を介して、前記液体と前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に貯蔵されている圧縮気体とが前記水平導水路(260)から前記集液部(400)に射出されるとともに前記集液部(400)上部から前記気体が前記気体圧縮機(500)に供給されて圧縮されることによって、前記下方導水路(250)内の液体が前記一定距離下方に落下し、該落下に伴って前記揚水路(200)の頂上部の液体も前記下方導水路(250)に流出して該頂上部が真空域に保たれることで前記揚水路(200)に前記貯液部(100)の液体が揚水され、前記液体と前記圧縮気体とが循環再使用されることを特徴とする発電システム。」
第3 当審の拒絶理由通知書の概要
令和3年4月28日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由1の概要は、次のとおりである。
1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
記
●理由1(実施可能要件)について
(1)発明の詳細な説明の【0031】には、「エネルギー源として、(1)大気圧は、水銀柱760mmHg(トリチェリの実験)程度である。」と記載されている。
トリチェリの実験とは、水を満たした管の一端が水槽に入れられ、管の他端は閉じられている状態(真空状態)で、管を鉛直に立てて大気圧を測定する実験である。
しかし、本願の発明では、揚水棟200の下端は水槽100に入れられているものの、揚水棟200の他端は上部導水路210、下方導水路250、下部導水路260を介して大気圧室400に開放されている。すなわち、揚水棟200から続いている水柱の、水槽100側端部には水槽100を介して大気圧が働き、水柱の大気圧室400側端部にも大気圧室400からの大気圧(又は圧縮された空気圧)が働いている。
したがって、発電のために少しでもゲート300が開口しているときは、揚水棟200から続いている上記水柱にトリチェリの実験の条件が当てはまらないから、発明の詳細な説明の【0031】に記載されている「エネルギー源としての大気圧」とは、何のエネルギー源を意味しているのか不明である。
(2)発明の詳細な説明の【0026】には、「大気圧を利用し真空域として水面上10.0m程度まで揚水し、揚水した水を圧縮空気も使用して大気圧域へ放出し、その際の落下エネルギーを利用して発電を行なう。」と記載されている。これは、揚水棟200からゲート300までが水で満たされたならば、圧縮空気も使用して水を大気圧域(大気圧室400)へ放出し、水槽100へ戻された水を揚水棟200を介して循環させることを意味していると解される。
上記(1)で検討したとおり、揚水棟200から続いている水柱には、両端に大気圧が作用しているため、サイフォンの原理に従って当該水柱に働く力を考察する。
当該水柱の一端は水槽100の水面にあり、水柱は長く見積もっても大気圧室400で途切れているから、当該水柱の他端は下部導水管260にあると考えられる。揚水棟200の高さが7m~8m(【0040】)、下方導水路250の長さが2m(【0044】)であることから、下部導水管260(水柱の他端)は水槽100の水面(水柱の一端)から5m~6m上方に位置していることになる。サイフォンの原理では水柱の両端に作用する大気圧は相殺されるから、当該水柱には下部導水管260から揚水棟200へ戻る方向(発電する際の水の流れとは逆方向)に、水柱両端の高低差である5m~6mの水圧に相当する力が作用していることになる。
一方、水柱を大気圧室400の方向へ移動させる動力源は、圧縮空気導出管670から噴射される圧縮空気である。
空気の密度は温度が0度で、圧力が大気圧の場合、1m3あたり1.293kgであるから、発明の詳細な説明の【0041】に記載されている大気圧の1.5倍に加圧された圧縮空気の密度は、1m3あたり約1.9kgである。それに対して水の密度は1m3あたり1000kgである。
また、発明の詳細な説明の【0048】には「圧縮空気を毎秒1.0m3程度下部揚水路内に上述した構成で噴出すると、毎秒0.7~1.0m3の水を送り出すことができる。」と記載されている。1秒当たり、圧縮空気が1.0m3程度噴射され、送り出される水の量が0.7~1.0m3であるならば、大気圧の1.5倍程度の圧力の圧縮空気約1.9kgで、700kg~1000kgの水を、圧縮空気の噴出方向とは逆向きに働いている5m~6mの水圧(約1.5気圧)相当の力に抗して、水を移動させることになるが、エネルギー保存則や運動量保存則に基づけば圧縮空気のみでは不可能といえる。なお、発明の詳細な説明の【0026】には、「揚水した水を圧縮空気も使用して大気圧域へ放出し」と記載されているが、大気圧域へ放出する方向へ圧縮空気以外に何の力が作用しているのか不明である。したがって、どのようにして大気圧室400の方向へ水を移動させているのか不明である。
(3)発明の詳細な説明の【0048】の記載によれば、1秒当たり、圧縮空気が1.0m3程度噴射され、送り出される水の量が0.7~1.0m3であるため、下部導水路において圧縮空気と水の体積比は1:1~1:0.7となっている。これは、水柱が大量の空気によって途切れてしまい、水柱を形成し得ない状態といえる。つまり、圧縮空気が噴射されるときの力を水柱へ伝達することができない。その結果、サイフォンの原理により、水は揚水棟200方向へ逆流してしまうはずであり、どのようにして大気圧室400の方向へ水を移動させるのか不明である。
第4 当審の判断
1.当審が通知した拒絶理由について
(1)発明の詳細な説明には、本願発明の発電原理に関して、次のように記載されている。
「【0026】原理的には、大気圧0の環境では大気圧作用により水であれば約10mの高さとなる。そこで、大気圧を利用し真空域として水面上10.0m程度まで揚水し、揚水した水を圧縮空気も使用して大気圧域へ放出し、その際の落下エネルギーを利用して発電を行なう。」、「【0029】本実施の形態例の具体的な発電原理をまとめると以下の通りである。【0030】(1)大気圧を利用すると真空域において水は10m程度まで揚水可能である。」、「【0031】以上を踏まえて、(1)大気圧は、水銀柱760mmHg(トリチェリの実験)程度である。」
これらの記載から、本願発明は、大気圧を測定するトリチェリの実験に着想を得て、大気圧をエネルギー源として揚水しようとしているものであると解される。
ここで、上記【0031】において言及されている「トリチェリの実験」とは、液体を満たした管の一端が液槽に入れられ、管の他端は閉じられている状態(真空状態)で、管を鉛直に立てて大気圧を測定する実験である。液体が水銀の場合、管内の水銀は液槽に働く大気圧により約760mmの高さの水銀柱となり、水銀柱より上の閉じた管内は真空となる。また、液体が水の場合、管内の水は水槽に働く大気圧により約10mの高さの水柱となり、水柱より上の閉じた管内は真空となる。
本願発明において、水槽100から延びる水柱に着目すると、請求項1には「発電開始前に前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に圧縮した気体を貯蔵するとともに、前記ゲート(300)を閉めて前記揚水路(200)および前記下方導水路(250)内に前記液体を充填しておき、発電時に前記ゲート(300)を開けて、」と記載されており、発明の詳細な説明にも同様に【0024】において「発電開始前に堰圧縮気体貯蔵タンクに圧縮空気を貯蔵すると共に、前記開閉式ゲートを閉めて前記揚水路内に前記液体を充填しておき、発電時に前記ゲートを開けて」と記載されていることから、発電開始前の水柱は、一端が水槽100の水面であり、そこから、揚水路200、(上部導水路210、)下方導水路250を経て、他端はゲート300まで延在していると理解できる。なお、【0041】には「大気圧室400の水面は下部導水路260の下部より低く保つ」と記載されていることから、水柱の一端を上流側、他端を下流側とすると、ゲート300よりも下流側の管内には水が存在しないことも理解できる。この状態をトリチェリの実験と対比すると、揚水路200、上部導水路210、下方導水路250が、トリチェリの実験における管に相当し、管の一端である揚水路200の下端は水槽(液槽)に入れられ、管の他端である下方導水路250の下流側端部はゲート300により閉じられているから、ここまでは、トリチェリの実験と同様の状態となっている。
次に、請求項1及び【0024】の上記記載によれば、発電時にはゲート300を開けることから、トリチェリの実験における管の他端である下方導水路250は、ゲート300によって閉じられている状態から、下部導水路260を介して集液部400に連通する状態となる。そして、請求項1には「内部が大気圧(圧力値P0(P0<Pt))に維持された集液部(400)」と記載されており、発明の詳細な説明には「大気圧室400」と記載されていることから、トリチェリの実験における管の他端である下方導水路250は、下部導水路260を介して大気圧に連通し、真空を維持できない状態になる。つまり、発電時には、トリチェリの実験とは異なる状態になると理解できる。
本願発明は、「発電時に前記ゲート(300)を開けて」「前記液体と」「圧縮気体とが前記水平導水路(260)から前記集液部(400)に射出されるとともに」「前記下方導水路(250)内の液体が前記一定距離下方に落下し、該落下に伴って前記揚水路(200)の頂上部の液体も前記下方導水路(250)に流出して該頂上部が真空域に保たれることで前記揚水路(200)に前記貯液部(100)の液体が揚水され、前記液体と前記圧縮気体とが循環再使用される」ようにしようとするものであるが、上述したように、発電時にゲート300を開けると揚水路200の頂上部は真空域に保たれないため、大気圧を利用して揚水路200に貯液部100の液体を揚水することはできない。
(2)次に、ゲート300を開けた後の水柱の挙動について検討する。
発明の詳細な説明の【0026】には、「大気圧を利用し真空域として水面上10.0m程度まで揚水し、揚水した水を圧縮空気も使用して大気圧域へ放出し、その際の落下エネルギーを利用して発電を行なう。」と記載されている。これは、揚水路200からゲート300までが水で満たされたならば、圧縮空気も使用して水を大気圧域(大気圧室400)へ放出し、水槽100へ戻された水を揚水路200を介して循環させることを意味していると解される。
ゲート300を開けた後の水柱には、上記(1)で検討したとおり、一端には水槽100を介して大気圧が作用し、他端には大気圧に維持された集液部400からの気圧が作用するため、サイフォンの原理に従って水柱に働く力を考察することができる。
サイフォンの原理では、高い位置にある液槽と低い位置にある液槽を管でつないだ場合、管内が液体で満たされていれば、高い位置にある液槽よりも、さらに高い地点が管の途中にあっても、液体はポンプで汲み上げることなく低い位置にある液槽へ流れ続ける。これは、液柱の両端に作用する大気圧は相殺され、高い位置にある液槽の液面から管の頂上部までの高さと、低い位置にある液槽の液面から管の頂上部までの高さとの差分に相当する圧力が、低い液槽側へ向かって液柱に働くためである。
本願発明において、ゲート300を開けた直後の水柱の一端は水槽100の水面にあり、水柱の他端は下方導水管250の下端にある。【0040】の記載によれば、揚水路200の高さは7m~8mであり、【0038】の記載によれば、上部導水路210はほぼ水平であり、【0044】の記載によれば下方導水路250の長さは2mであることから、水柱の他端は水槽100の水面(水柱の一端)から5m~6m上方に位置している。また、図1の記載からも、水柱の一端より他端の方が上方に位置していることが看取される。
サイフォンの原理を本願発明の水柱に当てはめると、水柱は一端から他端まで連続しており、一端の方が他端より5m~6m低いから、水柱には他端から一端へ(揚水棟200へ戻る方向、発電する際の水の流れとは逆方向へ)、水柱両端の高低差である5m~6mの水圧に相当する力が作用していることになる。
また、請求項1における「前記水平導水路(260)の前記入口から前記集液部(400)方向に出射する圧縮気体供給路(670)」との記載から、圧縮気体供給路670は、下方導水管250より下流側に位置する水平導水路260に設けられていることが理解でき、図1及び図2からも、圧縮気体供給路670がゲート300より下流側に設けられていることが看取されるから、発電時にゲート300を開けた時、水柱の他端は圧縮気体供給路670より上流側に位置しており、圧縮空気は水柱内には噴出されない。
本願発明は、「発電時に前記ゲート(300)を開けて」「前記下方導水路(250)内の液体が前記一定距離下方に落下し、該落下に伴って前記揚水路(200)の頂上部の液体も前記下方導水路(250)に流出して該頂上部が真空域に保たれることで前記揚水路(200)に前記貯液部(100)の液体が揚水され、前記液体と前記圧縮気体とが循環再使用される」ようにしようとするものであり、これに関して発明の詳細な説明には、上述した【0026】【0030】【0031】等の記載があるが、上述したとおり、ゲート300を開けた時に、圧縮空気は水柱内に噴射されず、水柱はサイフォンの原理により他端から一端へ(揚水棟200へ戻る向き、発電する際の水の流れとは逆向きに)移動することになるから、揚水路に貯液部の液体を揚水したり、液体を循環再使用したりすることはできない。
仮に、水柱内に圧縮空気が噴出された場合についても検討しておく。
空気の密度は温度が0度で、圧力が大気圧の場合、1m3あたり1.293kgであるから、【0041】に記載されている大気圧の1.5倍に加圧された圧縮空気の密度は、1m3あたり約1.9kgである。それに対して水の密度は1m3あたり1000kgである。
【0048】には「圧縮空気を毎秒1.0m3程度下部導水路260内に上述した構成で噴出すると、毎秒0.7~1.0m3の水を送り出すことができる。」と記載されている。1秒当たり、圧縮空気が1.0m3程度噴射され、送り出される水の量が0.7~1.0m3であるならば、大気圧の1.5倍程度の圧力の圧縮空気約1.9kgで、700kg~1000kgの水を、圧縮空気の噴出方向とは逆向きに働いている5m~6mの水圧相当の力に抗して、水を移動させることになるが、エネルギー保存則や運動量保存則に基づけば、この水の移動を実施することはできない。
(3)本願発明は、「前記液体と前記圧縮気体貯蔵タンク(600)に貯蔵されている圧縮気体とが前記水平導水路(260)から前記集液部(400)に射出されるとともに前記集液部(400)上部から前記気体が前記気体圧縮機(500)に供給されて圧縮されることによって、前記下方導水路(250)内の液体が前記一定距離下方に落下し、該落下に伴って前記揚水路(200)の頂上部の液体も前記下方導水路(250)に流出して該頂上部が真空域に保たれることで前記揚水路(200)に前記貯液部(100)の液体が揚水され、前記液体と前記圧縮気体とが循環再使用される」ようにしようとするものである。これに関して、発明の詳細な説明における【0048】の記載によれば、1秒当たり、圧縮空気が1.0m3程度噴射され、送り出される水の量が0.7~1.0m3であるため、下部導水路において圧縮空気と水の体積比は1:1~1:0.7となっている。これは、水柱が大量の空気によって途切れてしまい、水柱を形成し得ない状態といえる。つまり、圧縮空気が水中内に射出されたとしても水柱が分離してしまい、圧縮空気が射出されたときのエネルギーや運動量を水柱へ伝達することができない。その結果、サイフォンの原理により、水は揚水路200の方へ逆流することになるから、揚水路200に貯液部100の液体を揚水して前記液体と圧縮気体とを循環再使用することはできない。
よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められない。
2.審判請求人の主張について
審判請求人は意見書の「3.1 理由1(実施可能要件)の(1)~(3)について」において主に次の主張をしている。
(1)発電時にはゲート300を開けることで、液体と、圧縮気体貯蔵タンク600に貯蔵されている圧縮気体とが水平導水路260の入口を介して大気圧室(集液部)400方向に射出(放流)されます。
すなわち、水平導水路260より液体が大気圧室400に射出されると、下方導水路250内の液体が一定距離(下方導水路250の垂直方向の長さ分)下方に落下し、それに伴い揚水路200の頂上部の液体も下方導水路250に流出し、それによって揚水路200の頂上部が真空域に保たれます。
(2)このとき集液部400内の気体は、水平導水路260より噴出された圧縮気体によって押しのけられ、それにより集液部400内には、水平導水路260の入口を介して噴出される液体の移動空間が確保されます。この空間は、真空域である揚水路200の頂上部の圧力値に近い低圧力値の空間となるため、あたかも、水平導水路260より液体をストローで吸い込むように、水平導水路260から大気圧室400へ液体が射出されます。
(3)上記のように揚水路200の頂上部が真空域(負圧状態)に保たれることで、貯液部100の水面に作用する大気圧によって揚水路200に貯液部100の液体が揚水されます。
主張(1)について。
上記1(1)(2)で検討したとおり、ゲート300を閉めて水柱の他端側を真空にすれば、トリチェリの実験のとおり10m程度まで揚水することは理論上可能であるが、発電時にゲート300を開けるとトリチェリの実験とは異なる状態となり、サイフォンの原理によって、水柱は、より低い位置に端面がある一端側に流れることになる。
ゲート300を開けることによって下方導水路250は、内部が大気圧に維持された集液部400に連通するから、ゲート300を開けた際に、集液部400からの空気が水柱内に混入して水柱が途中で分離(切断)した場合は、下方導水路250内に溜まっていた液体が集液部400側に落下することも考えられるが、集液部400からの空気が水柱内に混入して水柱分離を起こしたことによる落下であるから、揚水路200内の水を集液部400側へ引き込むことは無い。そして、内部が大気圧に維持された集液部400に連通した下方導水路300に、揚水路200の頂上部が連通することになるから、揚水路200の頂上部が真空域に保たれるとの主張を採用することはできない。
主張(2)について。
上述したとおり、ゲート300を開けることによってトリチェリの実験とは異なる状態となるから、揚水路200の頂上部の圧力値は真空域ではなくなる。また、内部が大気圧に維持された集液部400(大気圧室400)の一部分だけが、水平導水路260から集液部400(大気圧室400)へ液体をストローで吸い込むような真空に近い低圧力値の空間になるとの主張も、流体力学の技術常識に照らせば採用することはできない。
主張(3)について。
ゲート300を開けた後、揚水路200の頂上部が真空域(負圧状態)に保たれることを前提とした主張は、上述したとおり採用することはできない。
そうすると、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第5 むすび
以上のとおり、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-003804