特許無効審判
2019-800094
半田付け装置、半田付け方法、プリント基板の製造方法、および製品の製造方法
- 審判番号
- 2019-800094
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2016-150884
- 登録番号
- 6138324
- 請求日
- 2019年11月12日
- 審決日
- 2023年05月22日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 アンド
- 【請求人代理人】山田 茂樹
- 【被請求人】株式会社 パラット
- 【被請求人代理人】西原 広徳
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 畑中 博幸
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1113.113-YAA(H05K) / P1113.121-YAA(H05K) / P1113.16 -YAA(H05K) / P1113.537-YAA(H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第123条第1項第4号、特許法第134条の2第3項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6138324号「半田付け装置、半田付け方法、プリント基板の製造方法、および製品の製造方法」の特許無効審判事件についてされた令和3年10月8日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(令和03年(行ケ)第10136号、令和03年(行ケ)第10138号、令和 4年8月31日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6138324号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4-7〕について訂正することを認める。
特許第6138324号の請求項1、2、4ないし7に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
理由
第1 手続の経緯
1 一次審決までの主な手続の経緯
特許第6138324号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成28年7月30日に出願され、平成29年5月12日にその特許権の設定登録がなされ、同年5月31日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、平成29年11月9日に特許異議申立人 山本英生により特許異議の申立てがなされ、平成30年9月7日付けで取消理由通知(決定の予告)が通知され、その指定期間である同年11月12日に訂正請求書及び意見書の提出がなされ、平成31年2月19日付で「特許第6138324号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1ないし7]について訂正することを認める。特許第6138324号の請求項1、2、及び4ないし7に係る特許を維持する。特許第6138324号の請求項3についての特許異議の申立てを却下する。」と結論する異議の決定がなされた。
その後の本件の本件無効審判に係る令和3年10月8日付け審決(以下、「一次審決」という。)までの手続等の経緯は、次のとおりである。
令和 1年11月12日 審判請求書の提出
令和 2年 2月18日 審判事件答弁書の提出
令和 2年 4月28日付け 審理事項通知書
令和 2年 6月30日 口頭審理陳述要領書(請求人)の提出
令和 2年 6月30日 口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
令和 2年 7月 7日付け 書面審理通知書
令和 2年 7月21日 上申書(被請求人)の提出
令和 2年 9月14日付け 審尋
令和 2年11月 9日 回答書(請求人)の提出
令和 2年11月16日 回答書(被請求人)の提出
令和 3年 2月24日付け 審決の予告
令和 3年 5月 6日 訂正請求書、上申書(被請求人)の提出
令和 3年 5月21日 手続補正書(方式)(被請求人)の提出
令和 3年 7月15日 審判事件弁駁書の提出
令和 3年10月 8日付け 審決
一次審決の結論は、「特許第6138324号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4-7〕について訂正することを認める。特許第6138324号の請求項1、2、5ないし7に係る発明についての特許を無効とする。特許第6138324号の請求項4に係る発明についての審判請求は、成り立たない。審判費用は、その6分の1を請求人の負担とし、6分の5を被請求人の負担とする。」というものである。
2 審決取消訴訟
被請求人は、令和3年11月13日、一次審決のうち「特許第6138324号の請求項1、2、5ないし7に係る発明についての特許を無効とする。」との部分の取消しを求めて、知的財産高等裁判所に訴えを提起した。
請求人は、同月16日、一次審決のうち「特許第6138324号の請求項4に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との部分の取消しを求めて、知的財産高等裁判所に訴えを提起した。
知的財産高等裁判所は、前記各訴えを令和3年(行ケ)第10136号事件(第1事件)、令和3年(行ケ)第10138号事件(第2事件)として審理し、令和4年8月31日に「1 特許庁が無効2019-800094号事件について令和3年10月8日にした審決中、特許第6138324号の請求項1、2及び5ないし7に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す。2 被告の請求を棄却する。3 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決(以下、「取消判決」という。なお、ここでいう「被告」とは、第1事件被告兼第2事件原告である。)を言渡し、その後該判決は確定した。
3 取消判決後の手続の経緯
取消判決確定後の手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 4年11月24日付け 審理再開通知書
令和 5年 1月12日 上申書(請求人)の提出
令和 5年 2月 9日付け 審尋
令和 5年 3月16日 回答書(被請求人)の提出
第2 訂正請求による訂正の適否
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
本件特許無効審判事件の被請求人より令和3年5月6日に訂正請求された訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第6138324号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、4~7について訂正することを求める」ものであり、その訂正の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融した前記半田片」と記載されているのを、「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項4~7も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、」と記載されているのを、「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項4~7も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2に「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融した前記半田片」と記載されているのを、「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項4~7も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、」と記載されているのを、「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項4~7も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に「前記ノズルは、前記端子の先端に当接した当接位置で溶融して略球状となるべき前記半田片が前記ノズルの内壁と当接する筒状の溶融部を有し、」と記載されているのを、「前記当接位置規制手段は、溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁により構成され、前記ノズルは、前記端子の先端に当接した当接位置で溶融して略球状となるべき前記半田片が前記ノズルの内壁と当接する筒状の溶融部を有し、」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5~7も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に「前記溶融部の前記ノズルの内径は、前記当接位置で前記半田片を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径より小さい」と記載されているのを、「前記溶融部の前記ノズルの内径は、前記当接位置で前記半田片を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径より小さく、前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径より大きい」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5~7も同様に訂正する)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5に「当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して前記加熱手段により前記半田片を加熱溶融し、」と記載されているのを、「当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、」と記載されているのを、「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項6に「当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して前記加熱手段により前記半田片を加熱溶融し、」と記載されているのを、「当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、」に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項6に「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、」と記載されているのを、「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項7に「当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して前記加熱手段により前記半田片を加熱溶融し、」と記載されているのを、「当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、」に訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項7に「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、」と記載されているのを、「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、」に訂正する。
(13)一群の請求項について
上記訂正事項1ないし12に係る本件訂正前の請求項1、2、4ないし7について、請求項4は請求項1または2を引用し、請求項5ないし7は請求項1、2または4を引用しているものであるから、本件訂正前の請求項1、2、4ないし7に対応する本件訂正の請求項1、2、4ないし7は、特許法第134条の2第3項に規定する関係を有する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「加熱手段」について、「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融」することを限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書の段落【0067】に「上方から落下するように供給された半田片2aは、案内部24cを通過中に予熱され、端部2bが端子Tの先端Tsに当接して当接位置APで停止し、位置が規制される。」、段落【0068】に「このため、当接位置APにある溶融前の半田片2aは、溶融部24bのノズル24の内壁25に当接した半田片2aの一端部、両端部、又は側部を介した熱伝導により溶融される。」と記載されているから、本件特許明細書には、端子の先端に当接した溶融前の半田片が熱伝達により溶融されることが記載されている。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「加熱手段」について、溶融した半田片が「必ず」真球になれないまま端子の上に載った状態になることを限定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書の段落【0059】に「溶融部24bのノズル24の内壁25は、この内壁25に囲まれた空間の中心軸に垂直な断面の最小幅である内径S2が、当接位置APで溶融し質量変化せずに真球状に変形したと仮定した場合の当該真球状の半田片2aの大円の直径(糸半田溶融球形の直径)より小さい大きさに形成されている。」と記載され、また、段落【0069】に「半田片2aは、溶融すると表面張力により丸まって略球状になろうとするが、溶融部24bのノズル24の内壁25と端子Tの先端に規制されるため真球になれず、図6(B)の端面図に示すように、端子Tの先端Tsに接触している状態で太く短い形状に変形する。」と、溶融した半田片は規制され真球になれないことが記載されており、本件特許明細書には、溶融した半田片が必ず真球になれないことが記載されている。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「加熱手段」について、「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融」することを限定するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書には上記「(1)イ」に摘記した記載があり、本件特許明細書には、端子の先端に当接した溶融前の半田片が熱伝達により溶融されることが記載されている。
よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、本件訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「加熱手段」について、溶融した半田片が「必ず」真球になれないまま端子の上に載った状態になることを限定するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書には上記「(2)イ」に摘記した記載があり、本件特許明細書には、溶融した半田片が必ず真球になれないことが記載されている。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、請求項1または2を引用する本件訂正前の請求項4に係る発明の発明特定事項である「当接位置規制手段」について、「前記当接位置規制手段は、溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁により構成され」たものに限定するものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件訂正前の請求項1に、「前記当接位置規制手段は、・・・溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁、により構成され」と記載されている。
また、本件特許明細書の段落【0047】に「ノズル24は、端子Tを挿入するノズル先端部の挿入部24aと、・・・当該半田片2aを溶融部に案内するノズル後端部の案内部24cとに分けることができる。」、段落【0081】に「案内部124c(当審注:「123c」は「124c」の誤記と認める。)の内壁125は、ノズル124内に供給された溶融前の半田片2aの端子T側の端部2bを前記端子Tの先端Tsに当接させる当接位置規制手段として機能する。」と記載されているから、本件特許明細書には、案内部(ノズル後端部)により構成された当接位置規制手段が溶融前の半田片の端子側の端部を端子の先端に当接させることが記載されている。段落【0083】に「案内部124cに供給された半田片2aは、案内部124cのノズル124の内壁125に沿った姿勢で案内部124cを通過し、当該姿勢のまま、溶融部124bの当接位置APに案内される。そして、当接位置APに案内された半田片2aは、移動範囲および角度変動範囲が規制」と記載されており、本件特許明細書には、案内部(ノズル後端部)が半田片を所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向を含め移動範囲を規制することが記載されている。そして、一般に「ノズル先端部」は孔を備えており、当該ノズル先端部の孔の周(ノズルの内径)が「ノズルの内壁」であるから、ノズル先端部(ノズルの外径)よりも前記ノズルの内壁が狭いのは当然のことである。
してみると、本件特許明細書には、当接位置規制手段は、溶融前の半田片の端子側の端部を端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制し、ノズルのノズル先端部よりも狭いノズルの内壁により構成されることが記載されている。
よって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6は、本件訂正前の請求項4に係る発明の発明特定事項である「ノズル」について、「前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径よりも大きい」と限定するものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書の段落【0047】に「すなわち、ノズル24は、端子Tを挿入するノズル先端部の挿入部24aと、・・・当該半田片2aを溶融部に案内するノズル後端部の案内部24cとに分けることができる。」と、段落【0079】に「ノズル124は、孔126を案内部124cが狭く・・・挿入部124aが広い形状に形成されている。」と記載されているから、本件特許明細書には、挿入部であるノズル先端部の内径が案内部であるノズル後端部の内径よりも広い(径が大きい)ことが記載されている。
よって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項6は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は、本件訂正前の請求項5に係る発明の発明特定事項である加熱手段により加熱溶融される対象として、「前記規制された状態の溶融前の前記半田片」に限定するものである。
したがって、訂正事項7は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書の段落【0056】に「このため、溶融前の半田片2aは、溶融前の半田片2aの端子T側の端部が端子Tの先端Tsに当接して留まっている当接位置APからこれ以上ランドR側へ移動しないように規制されている。」と、段落【0068】に「このため、当接位置APにある溶融前の半田片2aは、溶融部24bのノズル24の内壁25に当接した半田片2aの一端部、両端部、又は側部を介した熱伝導により溶融される。」と記載されており、本件特許明細書には、当接位置から移動しないように規制された溶融前の半田片が熱伝達により溶融されることが記載されている。
よって、訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項7は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的
訂正事項8は、本件訂正前の請求項5に係る発明の発明特定事項である「加熱手段」について、溶融した半田片が「必ず」真球になれないまま端子の上に載った状態になることを限定するものである。
したがって、訂正事項8は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書には上記「(2)イ」に摘記した記載があり、本件特許明細書には、溶融した半田片が必ず真球になれないことが記載されている。
よって、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項8は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(9)訂正事項9について
ア 訂正の目的
訂正事項9は、本件訂正前の請求項6に係る発明の発明特定事項である加熱手段により加熱溶融される対象として、「前記規制された状態の溶融前の前記半田片」に限定するものである。
したがって、訂正事項9は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書には、上記「(7)イ」に摘記した記載があり、本件特許明細書には、当接位置から移動しないように規制された溶融前の半田片が熱伝達により溶融されることが記載されている。
よって、訂正事項9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項9は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(10)訂正事項10について
ア 訂正の目的
訂正事項10は、本件訂正前の請求項6に係る発明の発明特定事項である「加熱手段」について、溶融した半田片が「必ず」真球になれないまま端子の上に載った状態になることを限定するものである。
したがって、訂正事項10は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書には上記「(2)イ」に摘記した記載があり、本件特許明細書には、溶融した半田片が必ず真球になれないことが記載されている。
よって、訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項10は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(11)訂正事項11について
ア 訂正の目的
訂正事項11は、本件訂正前の請求項7に係る発明の発明特定事項である加熱手段により加熱溶融される対象として、「前記規制された状態の溶融前の前記半田片」に限定するものである。
したがって、訂正事項11は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書には、上記「(7)イ」に摘記した記載があり、本件特許明細書には、当接位置から移動しないように規制された溶融前の半田片が熱伝達により溶融されることが記載されている。
よって、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項11は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(12)訂正事項12について
ア 訂正の目的
訂正事項12は、本件訂正前の請求項7に係る発明の発明特定事項である「加熱手段」について、溶融した半田片が「必ず」真球になれないまま端子の上に載った状態になることを限定するものである。
したがって、訂正事項12は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許明細書には上記「(2)イ」に摘記した記載があり、本件特許明細書には、溶融した半田片が必ず真球になれないことが記載されている。
よって、訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項12は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
3 独立特許要件
本件特許無効審判事件において、請求項1、2、4ないし7は、無効審判の請求の対象とされているので、請求項1、2、4ないし7に係る訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第7項に掲げる「特許出願の祭独立して特許を受けることができるものでなければならない」との要件は適用されない。
よって、請求項1、2、4ないし7に係る訂正である上記訂正事項1ないし12は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4-7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1、2、4ないし7に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明4」ないし「本件発明7」という。)は、本件訂正による特許請求の範囲の請求項1、2、4ないし7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、
前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、
前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段を備え、
前記当接位置規制手段は、
前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁、
または、
溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁、
により構成され、
前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である
半田付け装置。
【請求項2】
端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、
前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、
前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段とを備え、
前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である半田付け装置。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記当接位置規制手段は、
溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁により構成され、
前記ノズルは、前記端子の先端に当接した当接位置で溶融して略球状となるべき前記半田片が前記ノズルの内壁と当接する筒状の溶融部を有し、
前記溶融部の前記ノズルの内径は、前記当接位置で前記半田片を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径より小さく、
前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径より大きい
請求項1または2記載の半田付け装置。
【請求項5】
請求項1、2または4記載の半田付け装置を用いて、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる前記相対距離変化手段により前記ノズルに前記端子の少なくとも先端を挿入または近接し、
前記ノズルの内側に前記半田片供給手段により半田片を供給し、
供給された溶融前の前記半田片の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、
当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、
溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、
この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、
この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す
半田付け方法。
【請求項6】
請求項1、2、または4記載の半田付け装置を用いて、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる前記相対距離変化手段により前記ノズルに前記端子の少なくとも先端を挿入または近接し、
前記ノズルの内側に前記半田片供給手段により半田片を供給し、
供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、
当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、
溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、
この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、
この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出し、
前記溶融した半田片により前記電子部品の端子をプリント基板のランドに半田付けする
プリント基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1、2、または4記載の半田付け装置を用いて、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる前記相対距離変化手段により前記ノズルに前記端子の少なくとも先端を挿入または近接し、
前記ノズルの内側に前記半田片供給手段により半田片を供給し、
供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、
溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、
この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、
この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出し、
前記溶融した半田片により前記端子と前記接続対象を半田付けする
製品の製造方法。」
第4 当事者の主張
1 請求人
(1)請求の趣旨、概要
請求人は、審判請求書において、特許第6138324号の請求項1、2、及び4ないし7に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めることを請求の趣旨とし、次の無効理由を主張している。
ア 無効理由1(新規性欠如)
特許第6138324号の請求項1、2、及び4ないし7に係る発明は、その出願の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものであるため、その特許は同法第123条第1項第2号により、無効とされるべきである。
イ 無効理由2(進歩性欠如)
特許第6138324号の請求項1、2、及び4ないし7に係る発明は、その出願の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第1号証または甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるため、その特許は同法第123条第1項第2号により、無効とされるべきである。
ウ 無効理由3(拡大先願)
特許第6138324号の請求項1、2、及び4ないし7に係る発明は、その出願の日前の特許出願であってその出願後に出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明(甲第3号証参照)と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるため、その特許は同法第123条第1項第2号により、無効とされるべきである。
エ 無効理由4(サポート要件違反)
特許第6138324号の請求項1、2、及び4ないし7の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許第6138324号の請求項1、2、及び4ないし7に係る発明についての特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当する。
オ 無効理由5(明確性要件違反)
特許第6138324号の請求項1、4の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないから、特許第6138324号の請求項1、4に係る発明についての特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当する。
(2)提出した証拠
ア 審判請求書に添付した証拠方法
甲第1号証 特開2009-195938号公報
甲第2号証 Ken IMANISHI 外4名, MELTING/SOLIDIFICATION ANALYSIS OF THE PB FREE-SOLDER IN SLEEVE SOLDERING, Proceedings of the ASME 2015 International Mechanical Engineering Congress & Exposition IMECE 2015(IMECE 2015-51253),November 13-19, 2015, Houston, Texas USA
甲第3号証 特願2015-31205号(特開2016-153125号公報)
甲第4号証 特開2017-74619号公報
甲第5号証 実験成績証明書、令和元年11月6日、株式会社アンド 長岡行夫
イ 口頭審理陳述要領書に添付した証拠方法
甲第6号証 実験成績証明書、令和2年6月23日、株式会社アンド 長岡行夫
甲第7号証 大澤直、「はんだ付けの基礎」、エレクトロニクス実装学会誌、Vol.5、No.3(2002)、p.304-309
甲第8号証 佐々木信博、「はんだのぬれ性について」、HYBRIDS、Vol.8、No.2(1992)、p.21-27
甲第9号証 袁章福 外3名、「溶融スズの表面張力の温度、酸素分圧依存性」、日本金属学会誌、第65巻、第1号(2001)、p.21-28
ウ 審判事件弁駁書に添付した証拠方法
甲第10号証 日本工業規格、JIS Z 3283:2006
甲第11号証 特開2015-166096号公報
甲第12号証 特開2015-166098号公報
甲第13号証 特開2015-221449号公報
2 被請求人
(1)答弁の趣旨
被請求人は、審判事件答弁書において、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めることを答弁の趣旨として、無効理由1ないし5はいずれも成り立たないと主張している。
(2)提出した証拠
ア 審判事件答弁書に添付した証拠方法
乙第1号証 実験成績証明書、株式会社パラット 中慎太郎
乙第2号証 製品安全データシート、千住金属工業株式会社、平成16年5月7日
イ 令和2年11月16日提出の回答書に添付した証拠方法
乙第3号証 千住金属工業 鉛フリーやに入りはんだ 製品カタログ、千住金属工業株式会社、2019年、01-18頁
第5 当審の判断
1 請求人が提出した証拠について
請求人が提出した甲第1、3、4号証の成立について当事者間に争いはない。
一方、被請求人は令和2年11月16日に提出された回答書において、甲第2号証を不知、又は成立を争い、甲第5号証の成立を争うとしている。
しかしながら、甲第2号証は2015年11月13日から15日にアメリカ合衆国ヒューストンで開催されたASME2015国際機械工学会議および博覧会の論文集の写しであり、当審がウェブ上で存在を確認できたので、甲第2号証に係る文書は真正に成立したものと認める。
また、甲第5号証は令和元年11月6日に株式会社アンドの長岡行夫が作成した私文書であり本人の押印が認められる。しかしながら、被請求人からは甲第5号証に係る文書の真性を覆す反証もなされていない。よって、甲第5号証に係る文書は真正に成立したものと認める。
さらに、甲第6号証は令和2年6月23日に株式会社アンドの長岡行夫が作成した私文書であり本人の押印が認められるから、上記甲第5号証と同様に、甲第6号証に係る文書は真正に成立したものと認める。
また、甲第7号証ないし甲第13号証はいずれも、日本国内において頒布された刊行物であるから、甲第7号証ないし甲第13号証に係る文書は真正に成立したものと認める。
乙第1、2号証の成立について当事者間に争いはない。
また、乙第3号証は、日本国内において頒布された刊行物であるから、乙第3号証に係る文書は真正に成立したものと認める。
2 無効理由1および無効理由2について
(1)証拠に記載された事項及び証拠に記載された発明
ア 甲第1号証
(ア)甲第1号証(特開2009-195938号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。下線は、当審で付与した。
「【請求項1】
以下の形状の筒状半田鏝であって、
半田鏝の中心軸に筒状の貫通孔を有し、
半田鏝の先端部が円錐台状又は角錐台状を形成し、先端部における貫通孔開口部の径(d)が0.5~3mmであり、
半田鏝の後端部の貫通孔の径(D)が先端部の開口部の径(d)と同じであるか、又は開口部の径(d)以上で且つ9mm以下である、
半田鏝は半田に対して濡れにくいセラミック、ステンレス、チタン又はクロムで形成されている、
ことを特徴とする筒状半田鏝。
・・・中略・・・
【請求項6】
請求項1~5記載の筒状半田鏝に、前記先端部で半田を溶融させるための加熱手段を設置し、該先端部の温度を250~600℃になるよう加熱する、
該先端部の開口部を電子部品の端子銅線に差込み、基盤に接触させる、
糸半田を一回の半田付けに必要な長さに切断して、得られた半田片を後端部の貫通孔から投入落下させる、
該先端部の筒内で落下半田片を溶融させ、その溶融の間、筒状半田鏝を該端子銅線を中心に相対運動させることを特徴とする、半田付け電子機器の製造方法。」
「【0005】
本課題を解決するために、本発明では以下の形状の筒状半田鏝を採用することで、フラックスの飛散を防止するとともに、詰まりの生じにくい半田鏝を実現することができた。即ち、
1)半田鏝の中心軸に筒状の貫通孔を有し、
2)半田鏝の先端部が円錐台状又は角錐台状を形成し、先端部における貫通孔開口部の径(d)が0.5~3mmであり、
3)半田鏝の後端部の貫通孔の径(D)が先端部の開口部の径(d)と同じであるか、又は開口部の径(d)以上で且つ9mm以下である、
4)半田鏝は半田に対して濡れにくいセラミック、ステンレス、チタン又はクロムで形成されている、
ことを特徴とする筒状半田鏝を使用することで、本発明の課題を解決することが可能となった。
【0006】
この半田鏝によれば、鏝の軸方向に貫通孔があり、半田鏝の両端が開口しているので、この鏝をランドの上に立てて、一回の半田付けに必要な長さに切断した糸半田を鏝の後端から投入すれば、先端まで落下してランドやピンに接する。そして、鏝の先端部で半田を溶融させることにより、ピンやワイヤなどの相手側端子が一定量の半田で接合される。半田付け部が半田鏝の貫通孔で囲まれているので、溶融半田やフラックスが周囲に飛散することはなく、しかも溶融半田が均等に回り込むことができる。また、半田鏝の先端部が半田に対して濡れにくい材料(セラミック、ステンレス、チタン又はクロム)で形成されているので、貫通孔の内面に半田が付着することがほとんどなく、貫通孔の半田詰まりを抑制できる。その結果、供給半田の定量性が維持されるとともに、接合後のピンの外観がきれいに仕上がる。」
「【0009】
半田を溶融させるための加熱手段としては、適宜、汎用の加熱手段を使用することができる。好ましい加熱手段としては、前記半田鏝の外周面にコイル状に巻かれたシーズヒーター等を挙げることができる。」
「【0016】
また、この製造方法に適切な装置は、
切り刃及び受け刃からなり、少なくともいずれか一方に所定の長さの糸半田を受け入れ可能な半田保持孔が形成され、互いに擦れ合いながら相対的に変位することにより、半田保持孔に挿入された糸半田を切り取るカッターユニットと、
少なくとも先端部が半田に対して濡れにくい材料で形成され、糸半田が通過可能な内径の貫通孔を有し、両端が開口した半田鏝と、
前記先端部で半田を溶融させるための加熱手段と、
半田鏝の後端部を開閉するシャッター
を備えることを特徴とする。
【0017】
前記カッターユニットの一つの具体的構成においては、前記切り刃が駆動源の出力に応じて一方向に進退可能で、前記半田保持孔が切り刃の進退方向と直交する方向に貫通して形成される。この場合、前記受け刃が切り刃を進退方向に案内する凹部を有し、一側に切り刃の後退時に前記貫通孔と位置が合う半田供給孔が形成され、同じ側又は反対側に切り刃の前進時に前記貫通孔と位置が合う半田排出孔が形成される。そして、前記半田鏝の貫通孔が、径方向位置が前記半田排出孔と一致するように置かれる。
【0018】
この構成によれば、供給孔より保持孔に糸半田を供給した状態で、受け刃に対して切り刃を前進させると両刃の嵌合部に剪断力が作用して糸半田が切断される。得られた半田片は、排出孔より出て筒内に入り、自重で落下し、半田鏝の貫通孔の先端部が接触しているランドに接地する。そして、加熱溶融されて前記の通り接合が行われる。一回の半田付けに使用される半田は、保持孔に供給された長さで定まる一定長の半田片である。そして、保持孔に供給される糸半田の長さは、半田送りローラの回転数によって制御することができる。
【0019】
なお、好ましくは半田供給孔側に気体もしくはプランジャを受け入れる導入孔を有する。切断して得られた半田片にバリや曲げが生じていても導入孔から保持孔内に圧縮気体を吹き付けるかプランジャを挿入することにより、半田片を排出することができるからである。前記半田保持孔及び筒の内径は、半田保持孔の軸方向長さよりも小さいのが好ましい。これにより半田片を軸方向に立てた状態で少ない抵抗で半田鏝の先端部に送ることができる。
【0020】
前記カッターユニットの別の具体的構成においては、前記切り刃が駆動源の出力に応じて一方向に進退可能で、前記受け刃が、切り刃を進退方向に案内する平面を有する。この場合、前記半田保持孔が切り刃の進退方向と直交する方向に貫通して受け刃に形成される。そして、前記半田鏝の貫通孔が、 径方向位置が前記半田保持孔と一致するように置かれる。
【0021】
この構成によれば、保持孔に糸半田を供給した状態で、受け刃に対して切り刃を前進させると両刃の嵌合部に剪断力が作用して糸半田が切断される。得られた半田片は、保持孔より出て半田鏝の貫通孔内に入り、自重で落下し、半田鏝の先端部が接触するランドに接地する。そして、加熱溶融されて前記の通り接合が行われる。一回の半田付けに使用される半田は、前記と同様に保持孔に供給された長さで定まる一定長の半田片である。」
「【0029】
半田鏝1の貫通孔2の径(d)は、一回の半田付けに必要な半田の量に応じて適宜定めればよいが、供給半田片の径より大きく、半田付けするピンの径より大きいことが必須である。例えばピンの外径が0.6mmであるとき、糸半田Wの直径を0.8mm、貫通孔2の内径(d)を1.2mm、糸半田Wの切断片(半田片)の長さを1.2mmに設定することで、半田片が貫通孔2内でピンや貫通孔側壁に接触して起立した状態となり、半田片全体が速やかに加熱される。従って、糸半田Wが無鉛半田であった場合でも、半田鏝先端部の下端温度を350℃とすれば、良好に半田付けをすることができる。
【0030】
加熱手段3としては、汎用の加熱手段を適用することができ、半田鏝1と別体のヒータで加熱することができる。具体的には例えばシーズヒータ等を巻くことができる。いずれの場合も半田鏝1を直接加熱して立ち上がりが早く効率のよい加熱手段を適用することが望ましい。更にまた、半田付け対象のランドの予熱は、半田鏝からの輻射熱で行ってもよく、あるいは半田鏝を 直接ランドとピンに当接し、伝導熱を利用して行っても良い。
【0031】
図2には、先端部の開口部2の径(d)と後端部の貫通孔4の径(D)が異なる場合の半田鏝1が示されている。半田鏝の後端部の貫通孔4の径(D)は、半田片が容易に落下し、落下途中で半田片が引っかかって溶融したり、半田片内のフラックスが蒸発しないだけの径を持つことが望ましい。具体的には、先端部の開口部2の径(d)と関係するが、径(D)は径(d)の1~5倍の範囲であることが挙げられる。また、先端部に長さ(L)の貫通孔を有しているが、この貫通孔内に半田片が落下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構築されている。」
「【0034】
図3には、半田鏝の先端部の貫通孔の長さ(L)が0.5mm以下であるか、ほとんど長さ(L)がない場合の半田鏝で、先端部の貫通孔内部がテーパ孔となっている半田鏝が示されている。このテーパ孔についても、図2の場合と同様に、落下半田片が途中で引っかかって溶融することがなく、ランドに接地して、そこで溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構築されている。
【0035】
径(D)と(d)の関係、半田鏝の材質、加熱手段等は図1や図2と同様である。
-実施形態2-
本発明の半田鏝を用いた製造方法の実施形態を図4、図5の要部断面図として示す。即ち、半田付け装置を用いて半田付けをする手順は次の通りである。
【0036】
配線基板のランドに金属ピンを挿入し、この配線基板5を治具に載せる。そして、半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部2)の真下に位置するように治具を配線基板5とともに移動させる。半田鏝の下端面がランドの直近に位置するところまで、あるいはランドに接触するところまで下げる。図4に示すように切り刃8を保持孔9が供給孔10と一致するところまで後退させておく。ランドとピンは半田鏝の輻射熱で予熱される。送りローラ11を回転させて半田リールより糸半田Wを引き出して供給孔10に通す。糸半田Wが保持孔9に入り、所定の長さ送られた時点で送りローラ4を停止させる。糸半田Wの送り量は、送りローラ4の回転数によって制御される。この状態でシリンダ12を駆動して切り刃8を前進させる。
【0037】
切り刃8を前進させると図5に示すように、切り刃8と受け刃7との間に剪断力が働いて糸半田Wが所定の長さに切断され、半田片となって保持孔9とともに排出孔13上に移動する。ここで導入孔14に接続されたプッシャー15で半田片を保持孔9から押し出す。半田片は、排出孔13よりシャッターの開口部を通過して半田鏝の貫通孔4内に落下し、ランドに接地する。ランドに達した半田片は、半田鏝の先端部筒内側壁の熱により溶融し、ランドとピンを接合する。その際、溶融半田は半田鏝の貫通孔で囲まれているので、周囲に半田やフラックスが飛散することはない。また、半田鏝が半田に濡れにくい材料から形成されているので、半田片の全量が金属ピンとランドとの接合に消費され、接合後の外観もきれいに仕上がる。
【0038】
また、該先端部の筒内で落下半田片を溶融させる間、筒状半田鏝をピンを中心に相対運動させることによって、ランドとピンに溶融半田を充分なじませることができる。即ち、図6で示されるように、例えば半田鏝をピンの回りに偏心運動をさせることによって目的を達成させることができる。例えば、図6に要部断面図として示している実施形態では、先ず図6(a)に示すように半田片を半田鏝1の貫通孔内に落下させ、溶融させる。そして、図6(b)及び図6(c)に示すように半田鏝1を一方向(図面左方向)に移動させ、その後反対方向(同右方向)に移動させる。これにより溶融半田がランドの両端まで広がる。更に好ましくは前後方向にも移動させる。そして、半田鏝1を上方に退避させると、図6(d)に示すように半田がランド全体に広がる。いずれもランドに対して半田鏝1が相対移動すればよい。また、図示しない旋回機構によりピン18を中心として図6(e)に示すように半田鏝1を公転あるいは偏心運動をさせてもよい。その結果、品質のよい半田付けを達成することが出来る
シャッターは、受け刃7に固定されたシリンダ16、ロッド17及びシャッター板6からなり、ロッド17の往復に伴ってシャッターが排出孔13と半田鏝の貫通孔4との間を水平方向に進退することにより、貫通孔4の後端を開閉する。」
「【実施例】
【0040】
以下の実施例は、本発明の理解を補助するためのものであり、これに限定されるものではない。
実施例1:
図2で示した形状で、窒化アルミニウム焼結体から形成される半田鏝を使用した。半田鏝の先端部の径(d)が1.0mm、(L)が5mm、後端部の径(D)が2.5mmであるものを準備した。半田片は径が0.8mmであり、半田長さが1.2mmである無鉛半田を準備した。
【0041】
半田付けの対象部品として、ランド径1.5mmに電子部品の端子銅線径0.6mmのものを準備し、半田付けを行った。半田鏝の貫通孔内に半田片を供給し、半田鏝先端部の下端温度を350℃に保った。半田溶融時に、ピンを中心に半田鏝の偏心運動を行った。そのようにして半田付けを行ったところ、半田片の全部がピンとランドに付着した。これを約30回繰り返したが、半田鏝貫通孔の先端部の内面に半田が付着することなく、半田の詰まりが起きなかった。」
「【0046】
【図2】先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異なる場合の半田鏝の断面図である。
【図3】先端部がテーパ孔となっている半田鏝の断面図である。
【図4】一定量の半田片を切断する前の状態を示した半田付け装置の要部断面図である。
【図5】一定量の半田片を切断した後の状態を示した半田付け装置の要部断 面図である。
【図6】筒状半田鏝を該端子銅線(ピン)を中心に相対運動させて、溶融半田をピンに充分巻きつける工程の様子を順次示した半田付け装置の要部断面図である。」
[図:0001411597000001.jpg]
[図:0001411597000002.jpg]
[図:0001411597000003.jpg]
(イ)上記記載から、甲第1号証には、半田付け装置について次の技術的事項が記載されていると認められる。
・段落【0035】、【0037】の記載によれば、「半田付け装置」は「金属ピンとランドとの接合」を行うものである。
・【0005】、【0006】の記載によれば、「半田鏝」は、「軸方向に貫通孔があり、」「両端が開口し」「ランドの上に立て」る「筒状」のものである。
・【0016】の記載によれば、「切り刃及び受け刃からなり」、「半田保持孔に挿入された糸半田を切り取るカッターユニット」を備える。
・【0037】、図4、図5の記載によれば、「糸半田が所定の長さに切断」された「半田片」を、「半田保持孔から押し出」し「半田鏝の貫通孔内に落下」させる「プッシャー」を有する。
・【0009】の記載によれば、「半田を溶融させるための加熱手段として」「半田鏝の外周面にコイル状に巻かれたシーズヒーター」を有する。
・【0036】の記載によれば、「配線基板のランドに金属ピンを挿入し」、「半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部)の真下に位置するうに」「移動させ」、「半田鏝の下端面が」「ランドに接触するところまで下げる」ものである。
・【0031】の記載によれば、半田鏝は「先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異な」り、「先端部に長さ(L)の貫通孔を有しているが、この貫通孔内に半田片が落下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され」る。
・【0040】、【0041】、【0046】、図2の記載によれば、「半田鏝の先端部の開口部の径(d)が1.0mm、先端部の貫通孔の長さ(L)が5mm、後端部の貫通孔の径(D)が2.5mm」であり、「半田片は径が0.8mmであり、長さが1.2mm」であり、「半田付けの対象部品」は「ランド」及び「電子部品の端子銅線(金属ピン)」であり、「ランド径1.5mm」、「金属ピン径0.6mm」である。
以上の技術的事項から、甲第1号証には、図2の形状の半田鏝を有する半田付け装置として次の発明(以下、「甲1発明」という)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
金属ピンとランドとの接合を行う半田付け装置であって、
軸方向に貫通孔があり、両端が開口し、ランドの上に立てる筒状の半田鏝と、
切り刃及び受け刃からなり半田保持孔に挿入された糸半田を切り取るカッターユニット、糸半田が所定の長さに切断された半田片を半田保持孔から押し出し半田鏝の貫通孔内に落下させるプッシャーと、
半田を溶融させるための加熱手段として半田鏝の外周面にコイル状に巻かれたシーズヒーターを有し、
配線基板のランドに金属ピンを挿入し、半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部)の真下に位置するように移動させ、半田鏝の下端面がランドに接触するところまで下げ、
半田鏝は先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異なり先端部に長さ(L)の貫通孔を有し、この貫通孔内に半田片が落下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され、
半田鏝の先端部の開口部の径(d)が1.0mm、先端部の貫通孔の長さ(L)が5mm、後端部の貫通孔の径(D)が2.5mmであり、
半田片は径が0.8mm、長さが1.2mmであり、
半田付けの対象部品はランド及び金属ピンであり、ランド径1.5mm、金属ピン径0.6mmである
半田付け装置。
(ウ)また、甲第1号証には、上記技術的事項に加え、半田付け装置を用いて半田付けをする手順として、次の技術的事項が記載されていると認められる。
・【0036】の記載によれば、「配線基板のランドに金属ピンを挿入し」、「半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部)の真下に位置するように」「移動させ」、「半田鏝の下端面が」「ランドに接触するところまで下げる」ものである。
・【0038】の記載によれば、「半田片を半田鏝の貫通孔内に落下させ、溶融させる」ものである。
・【0041】の記載によれば、「半田片の全部」を「ピンとランドに付着」させるものである。
以上の技術的事項から、甲第1号証には、甲1発明の半田付け装置を用いた半田付け方法として次の発明(以下、「甲1発明2」という)が記載されていると認められる。
[甲1発明2]
金属ピンとランドとの接合を行う半田付け装置であって、
軸方向に貫通孔があり、両端が開口し、ランドの上に立てる筒状の半田鏝と、
切り刃及び受け刃からなり半田保持孔に挿入された糸半田を切り取るカッターユニット、糸半田が所定の長さに切断された半田片を半田保持孔から押し出し半田鏝の貫通孔内に落下させるプッシャーと、
半田を溶融させるための加熱手段として半田鏝の外周面にコイル状に巻かれたシーズヒーターを有し、
配線基板のランドに金属ピンを挿入し、半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部)の真下に位置するように移動させ、半田鏝の下端面がランドに接触するところまで下げ、
半田鏝は先端部の開口部の径(d)と後端部の貫通孔の径(D)が異なり先端部に長さ(L)の貫通孔を有し、この貫通孔内に半田片が落下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され、
半田鏝の先端部の開口部の径(d)が1.0mm、先端部の貫通孔の長さ(L)が5mm、後端部の貫通孔の径(D)が2.5mmであり、
半田片は径が0.8mm、長さが1.2mmであり、
半田付けの対象部品はランド及び金属ピンであり、ランド径1.5mm、金属ピン径0.6mmである
半田付け装置を用いて、
配線基板のランドに金属ピンを挿入し、半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部)の真下に位置するように移動させ、半田鏝の下端面がランドに接触するところまで下げ、
半田片を半田鏝の貫通孔内に落下させ、溶融させ、
半田片の全部をピンとランドに付着させる
半田付け方法。
イ 甲第2号証
(ア)甲第2号証(Ken IMANISHI 外4名, MELTING/SOLIDIFICATION ANALYSIS OF THE PB FREE-SOLDER IN SLEEVE SOLDERING, Proceedings of the ASME 2015 International Mechanical Engineering Congress & Exposition IMECE 2015(IMECE 2015-51253),November 13-19, 2015, Houston, Texas USA)には、図面とともに次の事項が記載されている。下線は、当審で付与した。訳は、請求人提出の甲第2号証訳文による。
「The automatization of operation process is not uncommon these days in production job site. Therefore, industrial robot and automatic machine tool are introduced in various processes. This is no exception also about soldering technic as laser type soldering[1], wave soldering[2][3][4],ultrasonic soldering[5].Various automatic soldering machines have been introduced. Even among them, automatic soldering technic called Sleeve soldering has been developed recently. In the technic, a ceramic tube has been used instead of a soldering iron. This ceramic tube is called Sleeve. Fixed amount of solder is loaded into this Sleeve. The melting solder is poured from tip of the Sleeve to glue electronic parts into electronic boards.」(第1頁左欄下から6行目ないし同頁右欄第6行)
(当審訳:オペレーションプロセスの自動化は、こんにちの生産現場においては一般的である。それゆえ、工業用ロボットと自動機械はさまざまなプロセスに導入されている。これははんだ付け技術においても例外ではなく、レーザーはんだ、フローはんだ、超音波はんだのようなものがある。さまざまな自動はんだ付け装置が導入されてきている。それらの中においてさえ、スリーブはんだ付けと呼ばれる自動はんだ付け技術は最近になって開発された。この技術においては、セラミックチューブがはんだごての代わりに使われる。このセラミックチューブは「スリーブ」と呼ばれる。一定量のはんだが、このスリーブに装填される。融解はんだは、電子部品をプリント基板に装着するためにスリーブの先端から送り出される。)
「SLEEVE SOLDERING
Fixed amount of solder is loaded into this Sleeve. The melting solder is poured from tip of the Sleeve to glue electronic parts into electronic boards. The process of the Sleeve soldering is shown in Figure 1.
ANALYSIS METHOD
We decided to move the analysis result closer to the expreimental result as the Research direction. At first we had to make sure of aptitude of the simulation software and make the base of simulation. The software called FLOW 3D ver10(FLOW Science) had been used for Sleeve soldering simulation. Figure 2 shows an analysis model of Sleeve soldering. This 3Dmodel consists of four parts, Electric board, pin, Sleeve and solder. These parts are a minimum for this simulation. Each component has two parameters, temperature and contact angle. The contact angle where used to express the wettability of components. The dimension of each components is as follows: The inside diameter of the sleeve: 1.0[mm], the diameter of a through-hole: 1.0[mm], substrate thickness: 1.6[mm], the length of the pin: 5.6[mm], projecting length of the pin: 2.0[mm]. The solder has four parameters in each melting state and solidification, density, viscosity, specific heat and thermal conductivity. The solder has a dimension of 1.0[mm] diameter and 3.0[mm] length. Postulate the solder is in contact with the inside wall of Sleeve at the start of the analysis. This analysis has two sections. First, melting solder flow from the Sleeve to the back side of electric board. Second, state of solder change from melting to solidification after the Sleeve is removed. Meanwhile, air temperature falls from 663[K] to 293[K]. Table1 shows the temperature and the contact angle of components. Table2 shows the physical properties of the solder.」(第2頁左欄第3行ないし同頁右欄第18行)
(当審訳:スリーブはんだ付け
一定量のはんだが、このスリーブに装填される。融解はんだは、電子部品をプリント基板に接着するためにスリーブの先端から送り出される。「スリーブはんだ付け」のプロセスを図1に示す。
解析方法
我々は研究の方向として、解析結果を実験結果により近づけることに移すことを決意した。最初に、シミュレーションソフトの性能を確かめ、シミュレーションの基礎を作らなければならなかった。FLOW 3D ver10(FLOW Science)と呼ばれるソフトウェアが「スリーブはんだ付け」シミュレーションに使われた。図2は「スリーブはんだ付け」の解析モデルを示す。この3Dモデルは、プリント基板、ピン、スリーブ、はんだの4つのパーツから構成される。これらのパーツはこのシミュレーションの最小構成である。それぞれの部材は2つのパラメータとして温度と接触角を持つ。接触角は部品の濡れやすさを表現するために使われる。それぞれの部材の寸法は以下のとおりである。スリーブ内径:1.0[mm]、スルーホール直径:1.0[mm]、プリント基板厚み:1.6[mm]、ピン長さ:5.6[mm]、(プリント基板上の)ピンの突出長:2.0[mm]。はんだは融解と凝固の状態の各々について、密度、粘度、比熱、熱伝導率の4つパラメータを持つ。はんだは、直径1.0[mm]、長さ3.0[mm]である。解析の最初に、はんだはスリーブの内壁面に接触していると仮定する。この解析はふたつのセクションを有する。まず、溶融はんだがスリーブからプリント基板の裏側へ流れる。次に、スリーブが取り去られた後、はんだの状態が溶融から凝固に変化する。その間、空気温度は663[K]から293[K]へ低下する。表1は部材の温度と接触角を示す。表2は、はんだの物理的特性を示す。)
「EVALUATION OF THE ANALYSIS METHOD
Figure 3 shows the Melting / Solidification analysis result of the solder. The initial temperature of the solder was set to 492[K] that is lower than melting temperature by 1[K]. This analysis result shows that the solder flowed from the Sleeve to the back side of electric board through the through-hole. Also a fillet and a back fillet were formed on surface of the electric board. The result in the behavior using the solder model has been similar to actual phenomenon in this simulation. The back fillet was formed in the analysis results so far, as shown in Figure 3. However, these results were different from ideal shape.
IMPROVEMENT OF THE BACK FILLET SHAPE
Ideal shape of the back fillet is looked as red line in Figure 4. Therefore we had examined process of forming the back fillet. (a)When the solder is heated in the Sleeve, flux in the solder flows to the backside of electric board before the solder melts. (b)The solder melts and flows to the through-hole and the backside of electric board as to trace the flux.」(第3頁左欄第1行ないし19行)
(当審訳:解析方法の評価
図3は、はんだの融解/凝固解析の結果を示す。はんだの初期値は、融解温度から1[K]低い492[K]にセットされた。この解析結果は、はんだがスルーホールを通ってスリーブからプリント基板の裏側へと流れたことを示している。また、フィレットとバックフィレットがプリント基板の表面に形成された。このはんだモデルを使用しての挙動の結果は、このシミュレーションにおいて実際の現象に類似している。図3に示すように、バックフィレットはこれまでのところ、この解析結果において形成されていた。しかしながら、これらの結果は理想的な形状とは異なるものであった。
バックフィレット形状の改善
バックフィレットの理想的な形状は、図4の赤線で示されるようなものである。それゆえ、我々は、バックフィレットの形成プロセスを調べた。(a)はんだがスリーブ内で加熱されるとき、はんだが溶ける前に、はんだの中のフラックスがプリント基板の裏側に流れる。(b)はんだが溶けてフラックスをなぞるようにスルーホールとプリント基板の裏側に流れる。)
[図:0001411597000004.jpg]
[図:0001411597000005.jpg]
[図:0001411597000006.jpg]
[図:0001411597000007.jpg]
[図:0001411597000008.jpg]
(イ)上記記載から、甲第2号証には、自動はんだ付け装置について次の技術的事項が記載されていると認められる。
・第1頁左欄下から6行ないし同頁右欄第6行の記載によれば、「自動はんだ付け装置」は「スリーブ」を有するものである。
・第2頁左欄第3ないし同頁右欄第18行の記載によれば、「一定量のはんだが、スリーブに装填され」、「融解はんだは、電子部品とプリント基板に接着するためにスリーブの先端から送り出される」ものである。
また、第2頁左欄第3行ないし同頁右欄第18行の「プリント基板、ピン、スリーブ、はんだ」「から構成される」との記載及び図1によれば、自動はんだ付け装置は、電子部品のピンをプリント基板に接着するものと認められる。
してみると、甲第2号証に記載された「自動はんだ付け装置」は、一定量のはんだがスリーブに充填され、溶融はんだをスリーブの先端から送り出して、電子部品のピンをプリント基板に接着するための自動はんだ付け装置であるものと認められる。
・第2頁左欄第3行ないし同頁右欄第18行の記載によれば、「スリーブ内径:1.0mm、スルーホール直径:1.0mm、プリント基板厚み:1.6mm、ピン長さ:5.6mm、ピンの突出長:2.0mm」、「はんだ:直径1.0mm、長さ3.0mm」である。
ここで、図1、図4を参酌すると、「スルーホール」は基板に形成され、ピンが挿入されるものである。
・図4(a)によれば、「プリント基板のスルーホールに挿入されたピンはスリーブ内に位置し、スリーブ先端はプリント基板に接し、はんだはピン先端に接して位置する」ことが見てとれる。
・第3頁左欄第1ないし19行の記載によれば、「はんだの初期値は、融解温度から1K低い492K」であるから、「はんだの融解温度は493K」である。
・第2頁左欄第3行ないし同頁右欄第18行の記載及び表1によれば、「スリーブの温度は663K」である。
・第3頁左欄第1ないし19行の記載によれば、「はんだがスリーブ内で加熱され」、「はんだが溶けて」「スルーホールとプリント基板の裏側に流れる」ものである。
(ウ)以上の技術的事項から、甲第2号証には、自動はんだ付け装置として次の発明(以下、「甲2発明」という)が記載されていると認められる。
[甲2発明]
一定量のはんだがスリーブに充填され、溶融はんだをスリーブの先端から送り出して、電子部品のピンをプリント基板に接着するための自動はんだ付け装置であり、
スリーブ内径:1.0mm、ピンが挿入されるプリント基板のスルーホール直径:1.0mm、プリント基板厚み:1.6mm、ピン長さ:5.6mm、ピンの突出長:2.0mm、はんだ:直径1.0mm、長さ3.0mmであり、
プリント基板のスルーホールに挿入されたピンはスリーブ内に位置し、スリーブ先端はプリント基板に接し、はんだはピン先端に接して位置し、
はんだの溶融温度は493K、スリーブの温度は663Kであり、
はんだがスリーブ内で加熱され、
はんだが溶けてスルーホールとプリント基板の裏面に流れる、
自動はんだ付け装置。
(2)甲第1号証に記載された発明との対比・判断
ア 取消判決の拘束力
審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。
したがって、当審の審理は、取消判決の判決主文が導き出されるのに必要な認定判断に係る、次の判事事項に拘束されるものである。
(ア)本件各発明の概要について
「本件各発明は、基板の孔に通された電子部品につながる端子を孔の周りの基板のランドに半田付けする半田付け装置、半田付け方法、プリント基板の製造方法及び製品の製造方法に関するものである。従来から、半田付けが大量に行われている作業現場においては、ばらつきにより半田付け不良が発生するという課題があった。かかる課題を解決し、半田付け不良を防止することを目的として、本件各発明は、端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段を備え、前記当接位置規制手段は、前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁、または、溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁、により構成され、前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である半田付け装置等及びこれらを前提とする半田付け方法等を採用したものである。本件各発明は、溶融前の半田片をノズルの内壁及び端子の先端に必ず当接させるとともに、溶融した半田片を必ず真球にならないまま端子の上に載った状態で下方に移動しないように停止させ、ノズルからの熱伝導等により半田片及び端子を十分に加熱し、これにより適正温度での半田付けを実現する結果、半田付け不良の防止という効果を奏する。」(取消判決45頁13行ないし46頁17行を参照)
(イ)甲第1号証の記載について
「甲1には、『本発明の第一の課題は、フラックスの飛散を防止するとともに、詰まりの生じにくい半田鏝を提供することにある。』などの記載(段落【0004】等)があり、甲1発明は、フラックスを含有する半田を用いることを前提としているものと認められるが、フラックスの含有量がどの程度の半田を用いるのかについては、甲1に記載又は示唆はない。」(取消判決47頁1ないし5行を参照)
(ウ)半田のフラックス含有量について
「(3) その他の証拠の関係証拠の記載
次の各証拠には、次の各記載がある。
ア 甲10
「日本工業規格 JIS 3283:2006
やに入りはんだ
・・・
この規格は、主として電気機器、電子機器、通信機器などの配線接続、部品の製造などに用いるフラックスを心として、はんだを線状にしたやに入りはんだについて規定されたもの・・・である。
今回の改正は、JIS Z 3282が、2006年に改正されたのに伴い、両規格の整合性を保持する目的で行われたものである。
・・・
やに入り半田のフラックス含有量は、・・・表3による。
表3-フラックス含有量 単位 %(質量分率)
記号 フラックス含有量 許容範囲
F1 1.0 0.5以上1.5未満
F2 2.0 1.5以上2.5未満
F3 3.0 2.5以上3.5未満
F4 4.0 3.5以上4.5未満
F5 5.0 4.5以上5.5未満
F6 6.0 5.5以上6.5未満」
・・・
ウ 甲16 (千住金属工業発行の商品カタログ(平成31年又は令和元年))
「SENシリーズ・・・フラックス含有量 3mass%、4mass%
・・・
GAOシリーズ・・・フラックス含有量 3mass%
・・・
CBFシリーズ・・・フラックス含有量 3mass%
・・・
ZEROシリーズ・・・フラックス含有量 3mass%、4mass%
・・・
MACROSシリーズ・・・フラックス含有量 3.5mass%
・・・
LEOシリーズ・・・フラックス含有量 2mass%
・・・
EFCシリーズ・・・フラックス含有量 3mass%」
エ 甲37 (「i-MAKER」なる名称のウェブサイトヘの投稿記事(平成27年))
「一般的なヤニ入りはんだ。 ワイヤーの内部にヤニ、すなわちフラックスが入っている フラックス含有量は2~4%」
オ 甲41(千住金属工業の従業員作成の電子メール(令和3年))
「お問い合わせいただきました件、お取り扱いに対する資料になるかと思います。・・・ご要望の1%のもののご用意はございません。」
・・・
キ 甲45(株式会社ニホンゲンマ作成の回答書(令和4年))
「当社でのやにいりはんだ製造につきまして、現在、生産設備の都合上、フラックス含有量1%には対応しておりません。過去におきましてもお客様からのご要望もなく、フラックス含有量1%製品の製造実績はございません。フラックス含有量1%のやにいりはんだを製造する上で危惧される点といたしましては、「やに切れ(フラックスが入っていない不具合)」が上げられます。」
(4)上記(3)のとおり、千住金属工業発行の商品カタログには、フラックスの含有量を2ないし4wt%とする半田のみが掲載され、フラックスの含有量を2wt%未満とする半田は掲載されていないこと(なお、この商品カタログは、本件出願日の後である平成31年又は令和元年に発行されたものであるが、本件出願日が平成28年7月30日であることに加え、甲41及び45の上記各記載にも照らすと、千住金属工業は、本件出願日当時も、その商品カタログにフラックスの含有量を1wt%とする半田を掲載していなかったものと推認するのが相当である。)、ウェブサイトヘの投稿記事においても、フラックスの含有量は2ないし4%とされていること、株式会社ニホンゲンマは、過去においてもフラックス含有量を1%とする半田を製造したことはなく、そのような半田を製造すると、フラックスが入っていない不具合が発生することが危惧される旨回答していること、本件出願日の後に作成された電子メールにおいではあるが、千住金属工業の従業員も、フラックスの含有量を1%とする半田は提供できない旨回答していることに照らすと、フラックスの含有量を1wt%とする半田は、本件出願日当時、やに入り半田の市場において普通に流通していなかったものと認めるのが相当である。
この点に関し、被告は、フラックスの含有量を1wt%とする半田は日本工業規格に定められた記号F1の半田に該当する旨主張する。確かに、甲10によると、記号F1の半田(フラックスの含有量を1Wt%とする半田を含む。)は、日本工業規格として定められているものであるが、そのことから直ちに、記号F1の半田が現実にやに入り半田の市場において普通に流通していたとまでいえるものではないから、甲10の記載から、フラックスの含有量を1wt%とする半田が本件出願日当時にやに入り半田の市場において普通に流通していたと認めることはできない。」(取消判決47頁6行ないし50頁5行を参照)
(エ)甲1発明に基づく容易性について
「(5) 前記1(2)のとおり、本件発明1は、溶融前の半田片をノズルの内壁及び端子の先端に必ず当接させるとともに、溶融した半田片を必ず真球にならないまま端子の上に載った状態で下方に移動しないように停止させ、ノズルからの熱伝導等により半田片及び端子を十分に加熱し、これにより適正温度での半田付けを実現する結果、半田付け不良の防止という効果を奏するものである。これに対し、甲1には、ランドに接地した糸半田が貫通孔の周壁から輻射熱、伝導熱及び対流熱により加熱され、遜色なく溶解され、より的確な半田付けが可能になった旨の記載はみられるものの(段落【0023】及び【0042】)、溶融した半田が必ず真球にならないまま停止すること、すなわち、溶融後も半田がノズルの内壁に当接し続けることにより半田片及び端子が十分に加熱されることについての記載及び示唆はないから、甲1に接した当業者にとって、溶融した半田が必ず真球にならないとの構成が解決しようとする課題及び当該構成が奏する作用効果を知らないまま、当該構成を得るためにフラックスの含有量が1wt%半田をわざわざ採用しようとする動機付けはないものといわざるを得ない。
(6) なお、証拠(甲39)及び弁論の全趣旨によると、フラックスの含有量が小さい半田を用いると、半田付け不良の原因になるものと認められる。
(7) 以上によると、使用する半田に含有されるフラックスの量についての記載及び示唆がない甲1に接した当業者にとって、甲1発明においてフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用し、溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが容易になし得たものであったと認めることはできず、その他、当業者が甲1発明に基づいて溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが容易になし得たものであったと認めるに足りる証拠はない。」(取消判決50頁12行ないし51頁7行を参照)
(オ)半田が溶融した際に形成される球の直径について
「乙3(技術説明資料17頁)には、甲1発明においてフラックスの含有量が2wt%以下の半田を用いても必ず真球にならないとの構成を得ることができる旨の記載があるが、半田が溶融した際に形成される球の直径を求めるに当たっては、フラックスの組成、半田の組成、半田の熱膨張、ノズルの熱膨張等の諸般の要素につき詳細な検討が必要であるから、乙3が引用する甲33(原告の特許庁審判長に対する回答書)の計算結果並びに残存するフラックスの影響及び半田の熱膨張の影響のみを考慮することによっては、甲1発明においてフラックスの含有量が2wt%以下の半田を用いた場合に必ず真球にならないとの構成を得るものと認めることはできない。」(取消判決51頁8ないし16行を参照)
イ 本件発明1と甲1発明との対比・判断
(ア)甲1発明の「金属ピン」は、本件発明1の「端子」に相当する。甲1発明の「ランド」は、半田により金属ピンと接合されるものであるから、本件発明1の「当該端子に電気的に接続される接続対象」に相当する。
してみると、甲1発明の「金属ピンとランドとの接合を行う半田付け装置」は、本件発明1の「端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置」に相当する。
(イ)甲1発明の「筒状の半田鏝」は両端が開口し、金属ピンが挿入されるランド上に立てるものであるから、本件発明1の「前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズル」に相当する。
(ウ)甲1発明の「カッターユニット」は糸半田を切り取るものであり、甲1発明の「プッシャー」は糸半田が所定の長さに切断された半田片を半田鏝の貫通孔内に落下させるものである。
してみると、甲1発明の「カッターユニット」及び「プッシャー」は、本件発明1の「前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段」に相当する。
(エ)甲1発明の「シーズヒーター」は半田を溶融させるための加熱手段であるから、本件発明1の「前記半田片を加熱溶融する加熱手段」に相当する。
(オ)甲1発明は「配線基板のランドに金属ピンを挿入し」「半田鏝の下端面がランドに接触するところまで下げ」るものであるから、金属ピンと半田鏝との相対距離を変化させており、甲1発明が本件発明1の「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段」に相当する構成を有するのは明らかである。
(カ)甲1発明は「半田鏝の先端部の開口部の径(d)が1.0mm」、「半田片は径が0.8mm」、「金属ピン径0.6mm」であるから、金属ピンの側面と半田鏝の先端部の長さ(L)の貫通孔の内壁との間隔が最大で0.4mm(1.0mm-0.6mm)であり、半田片の径0.8mmより短い。
また、甲1発明は「先端部に長さ(L)の貫通孔を有し、この貫通孔内に半田片が落下し溶融できるように半田鏝筒内のテーパが構成され」ているものであるから、前記ピンの先端が、径1.0mmの前記半田鏝の先端部の貫通孔内に位置するのは明らかであり、半田片とピンとが接触する場合は、半田鏝の先端部の貫通孔内で接触することとなる。
してみると、甲1発明の半田鏝の先端部の長さ(L)の貫通孔の内壁は、本件発明1の「前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁」である「当接位置規制手段」に相当する。
ただし、「当接位置規制手段」が、本件発明1は「前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する」ものであるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
なお、本件発明1の「当接位置規制手段」は、「前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁」または「溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁」のいずれかの構成を有するものであれば足るものであるところ、上述したように、甲1発明は「前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁」に相当する構成を有するものである。
(キ)本件発明1は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
(ク)一致点・相違点
以上(ア)ないし(キ)より、本件発明1と甲1発明の一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点]
端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、
前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、
当接位置規制手段を備え、
前記当接位置規制手段は、
前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁、
により構成される
半田付け装置。
[相違点]
相違点1
当接位置規制手段が、本件発明1は「前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する」ものであるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点
相違点2
本件発明1は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点
(ケ)小括
以上のように、本件発明1と甲1発明は少なくとも相違点2を有するから、本件発明1は甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するとはいえない。
(コ)相違点についての容易性の判断
a 相違点1について
まず、本件発明1の「端子の先端に必ず当接させ」ることの技術内容を検討する。
「必ず当接する」ことについて、本件の明細書には、段落【0090】に「以上の構成により、案内部224cに供給された半田片202aは、案内部224cのノズル224の内壁225に沿った姿勢で案内部224cを通過し、当該姿勢のまま、溶融部224bに案内される。そして、ノズル244と端子Tとが左右方向に大きく位置ズレした場合においても、半田片202aの端子T側の端部の一部は端子Tの先端に必ず当接する」と記載されているのみである。よって、本件発明1の「端子の先端に必ず当接させ」るとは、ノズルと端子とが左右方向にどのように位置ズレしても、半田片の端子側端部の一部が端子の先端に当接させることと解釈できる。
そうすると、相違点1に係る構成は、ノズルの径、端子の径、半田片の径及び長さによって定まるものであるところ、甲1発明の半田鏝の先端部の貫通孔は径1.0mm、電子部品の端子銅線(ピン)は径0.6mmであるから、前記先端部の貫通孔の内壁と前記ピンの側面との隙間の間隔は合計で0.4mm、すなわち、半田鏝とピンとが左右方向にどのように位置ズレしても最大で0.4mmである。また、上記(カ)で述べたよう、ピンの先端が、径1.0mmの前記半田鏝の先端部の貫通孔内に位置するのは明らかである。そして、径0.8mm、長さ1.2mmの半田片は、最大でも0.4mmしかない隙間へ侵入し得ないことは明らかであるから、半田鏝とピンとが左右方向にどのように位置ズレしても、半田片は前記半田鏝の先端部の貫通孔内で前記ピンの先端に当接して留まる。
以上のことより、甲1発明は「前記先端部の貫通孔に供給された前記半田片のピン側の端部を前記ピンの先端に必ず当接させ、半田片をランドに接触させずに前記先端部の貫通孔内に留めるように規制」する「当接位置規制手段」に相当する構成を備えているから、相違点1は実質的な相違ではない。
b 相違点2について
相違点2に係る構成のうち、取消判決で判断された「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止」する点について検討する。
(a)甲第1号証には、半田鏝の貫通孔内に落下した半田片が溶融し金属ピンとランドとを接合するまでの間の溶融した半田片の挙動に係る記載や示唆は何等見当たらない。また、下記の「ク 請求人の主張について」で述べるように、甲第4号証ないし甲第10号証のいずれも、甲1発明が「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止」する構成を備えることを裏付ける証拠であるとはいえない。
(b)ここで、取消判決は「使用する半田に含有されるフラックスの量についての記載及び示唆がない甲1に接した当業者にとって、甲1発明においてフラックスの含有量が1wt%の半田をわざわざ採用し、溶融した半田が必ず真球にならないとの構成を得ることが容易になし得たものであったと認めることはできない」と判示するところ(上記ア(エ)を参照。)、同判決によれば、フラックスの含有量が例えば2wt%程度の半田は、本件出願日当時、やに入り半田の市場において普通に流通していたものであり(上記ア(ウ)を参照)、甲第1号証の段落【0004】等からすれば、甲1発明はフラックスを含有する半田を用いることを前提とするものであるから(上記ア(ア)を参照)、甲1発明においてもフラックスの含有量が2wt%程度の半田を採用することが想定される。
(c)そして請求人は、令和5年1月11日提出の上申書において、添付された実験生成証明書によれば、フラックス含有量が2.49wt%の半田片を作製しピン上で溶融させて球状となった半田球の残留フラックス量が0.99wt%であったため、フラックス含有量が2.49wt%の糸半田を用いた場合の甲1発明における溶融半田の直径を、フラックス残存量および半田の熱膨張を考慮して求めたところ1.028mmとなり、甲1発明の半田片が溶融する半田鰻の先端部の貫通孔内壁の熱膨張を考慮した径1.0015mmよりも大きい。よって、日本工業規格で記号「F2」として定められる半田の許容上限超のフラックス含有量2.5wt%の半田片を用いた場合であっても、甲1発明は、溶融した半田片は貫通孔内において貫通孔の内壁とピンの先端に規制されて溶融半田片は真球になれないという構成を具備する旨主張している(6頁4行ないし7頁22行を参照)。
(d)しかし、取消判決は「半田が溶融した際に形成される球の直径を求めるに当たっては、フラックスの組成、半田の組成、半田の熱膨張、ノズルの熱膨張等の諸般の要素につき詳細な検討が必要である」と判示しているように(上記ア(オ)を参照)、フラックス及び半田の組成、半田及びノズルの熱膨張のみを考慮して半田が溶融した際に形成される球の直径を求めればよいことを判示しているわけではなく、半田が溶融した際に形成される球の直径を求める場合、例えば、「糸半田の直径の製造誤差、切断した半田片の切断長誤差、ノズル内径の製造誤差」等の誤差を考慮すると、F2規格の半田が「必ず真球にならない構成」となるとは限らない。被請求人が令和5年3月16日に提出した回答書によれば、甲第10号証の日本工業規格「JIS Z 3283:2006 やに入りはんだ」によると、外形0.8mmの許容誤差は±0.05mmであり、甲1発明の外形0.8mmの糸半田は、許容誤差±0.05にて許容される最小径となると外形0.75mmとなる。そして請求人主張の計算式(令和5年1月12日提出の上申書6ないし7頁を参照)を用いて、請求人が採用したフラックス含有量2.49wt%で計算すると、真球の直径が0.985mmとなり、1mmのノズル内径の中で真球になる。
<令和5年3月16日提出の回答書5頁の表>
[図:0001411597000009.jpg]
そして、上記(c)で述べたような請求人が主張する計算方法のみで、溶融した半田片の真球の直径を求められることを裏付ける証拠も提出されていない。さらに、請求人が主張する計算方法により求められた溶融した半田片の真球の直径が半田鏝の先端部の貫通孔内壁のより大きい場合に、実際に甲1発明において半田片を溶融させると「必ず真球になれない」ことを実証する実験・分析結果等も提出されていない。
以上からすれば、上記(c)で述べた請求人が主張する甲1発明における溶融した半田片の真球の直径を求める方法は妥当なものとはいえず、請求人の該主張は採用できない。
(e)してみると、上記(c)で述べたように請求人が主張する溶融した半田片の真球の直径を求める方法は妥当ものとはいえないことから、日本工業規格で記号「F2」として定められたフラックス含有量2.0wt%の半田(甲第10号証2頁を参照)を甲1発明に用いたとしても半田が溶融した際に必ず真球にならない構成が得られるとは限らない。なお、フラックス含有量が3wt%、4wt%の半田を甲1発明に用いた場合でも半田が溶融した際に必ず真球にならない構成が得られることも立証されていない。
また、取消判決は「本件発明1は、溶融前の半田片をノズルの内壁及び端子の先端に必ず当接させるとともに、溶融した半田片を必ず真球にならないまま端子の上に載った状態で下方に移動しないように停止させ、ノズルからの熱伝導等により半田片及び端子を十分に加熱し、これにより適正温度での半田付けを実現する結果、半田付け不良の防止という効果を奏するものである。これに対し、甲第1号証には、ランドに接地した糸半田が貫通孔の周壁から輻射熱、伝導熱及び対流熱により加熱され、遜色なく溶解され、より的確な半田付けが可能になった旨の記載はみられるものの(段落【0023】及び【0042】)、溶融した半田が必ず真球にならないまま停止すること、すなわち、溶融後も半田がノズルの内壁に当接し続けることにより半田片及び端子が十分に加熱されることについての記載及び示唆はない」と判示している(上記ア(エ)を参照)。
してみると、「溶融した半田が必ず真球にならないまま停止すること」の記載や示唆がない甲第1号証に接した当業者が、甲1発明にフラックスの含有量が2wt%程度の半田(「F2」規格の半田)をあえて採用して、溶融した半田片が必ず真球にならないとの構成を得ることが容易に想到し得たとはいえない。
(f)請求人は、また、令和5年1月11日提出の上申書において、本件明細書段落【0059】の「溶融部24bのノズル24の内壁25は、この内壁25に囲まれた空間の中心軸に垂直な断面の最小幅である内径S2が、当接位置APで溶融し質量変化せずに真球状に変形したと仮定した場合の当該真球状の半田片2aの大円の直径(糸半田溶融球形の直径)より小さい大きさに形成されている。」との記載は、本件発明1の「溶融した削記半田片が丸まって略球状になろうとするが必ず前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれない」を実現するための、ノズルの内径と、溶融半田が真球状と仮定した場合の直径との関係を説明したものである。上記記載からすれば、溶融半田の真球状に変形したと仮定した場合の直径は、半田片に含まれるフラックスなどの成分の揮発や流出は考慮せずに算出すればよく、令和2年9月14日付けの審尋における暫定的な見解(7頁下から3行ないし8頁8行)で指摘された結論は本件明細書との上記記述とも整合し妥当といえ、甲1発明は、「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが必ず前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため真球になれない」構成を具備している。したがって、甲1発明と本件特許1との相違点2は実質的な相違点ではなく、特許発明1の進歩性は否定されるべきものである旨主張する(7頁25行ないし8頁27行)。
(g)ここで、本件特許明細書には、半田片にフラックスが含有されていることは記載されていないものの、端子の先端が挿入される筒状のノイズの内側へ半田片を供給し、該端子と該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置において、該半田片としてフラックス含有の半田片を用い、半田片が溶融時にフラックスが流れ出ることは技術常識(例えば、甲第1号証の段落【0004】、【0039】、甲第2号証1頁右欄1ないし11行、3頁左欄16-18行、甲第3号証の段落【0002】、【0003】、【0005】を参照)であることから、半田片にフラックスが含有され、半田片が溶融する際にフラックスが流れ出ることは本件特許明細書等に記載されているのと同然であると理解される。
(h)してみると、上記段落【0059】の記載から「溶融半田の真球状に変形したと仮定した場合の直径は、半田片に含まれるフラックスなどの成分の揮発や流出は考慮せずに算出すればよ」いとの請求人の解釈は、半田付け装置における技術常識に基づくものとはいえない。
そして、本件発明1は「溶融前の半田片をノズルの内壁及び端子の先端に必ず当接させるとともに、溶融した半田片を必ず真球にならないまま端子の上に載った状態で下方に移動しないように停止させ、ノズルからの熱伝導等により半田片及び端子を十分に加熱し、これにより適正温度での半田付けを実現する結果、半田付け不良の防止という効果を奏する」(取消判決46頁12ないし17行、同50頁12ないし16行を参照)ものであり、本件発明1は、溶融した半田片が実際に真球にならないまま端子の上に載った状態となる構成のものであると解するべきものであるところ、請求人の解釈に従って半田付けを実施したとしても、実際は半田が溶融時にフラックスが流れ出るため、真球状に変形したとした場合の半田の直径が必ずしもノズルの内壁のサイズよりも大きくなる、すなわち実際に真球にならないまま端子の上に載った状態となるとは限らないことは明らかであるから、請求人が主張する前記解釈は採用できない。
(i)小括
したがって、相違点2の「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止」する構成以外の構成を検討するまでもなく、甲1発明によって本件発明1の相違点2に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たことではない。
(サ)まとめ
以上によれば、本件発明1は甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、本件発明1は、甲1発明より当業者が容易になし得たものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
ウ 本件発明2と甲1発明との対比・判断
(ア)甲1発明の「金属ピン」は、本件発明2の「端子」に相当する。甲1発明の「ランド」は、半田により金属ピンと接合されるものであるから、本件発明2の「当該端子に電気的に接続される接続対象」に相当する。
してみると、甲1発明の「金属ピンとランドとの接合を行う半田付け装置」は、本件発明2の「端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置」に相当する。
(イ)甲1発明の「筒状の半田鏝」は両端が開口し、金属ピンが挿入されるランド上に立てるものであるから、本件発明2の「前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズル」に相当する。
(ウ)甲1発明の「カッターユニット」は糸半田を切り取るものであり、甲1発明の「プッシャー」は糸半田が所定の長さに切断された半田片を半田鏝の貫通孔内に落下させるものである。
してみると、甲1発明の「カッターユニット」及び「プッシャー」は、本件発明2の「前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段」に相当する。
(エ)甲1発明の「シーズヒーター」は半田を溶融させるための加熱手段であるから、本件発明2の「前記半田片を加熱溶融する加熱手段」に相当する。
(オ)甲1発明は「配線基板のランドに金属ピンを挿入し」「半田鏝の下端面がランドに接触するところまで下げ」るものであるから、金属ピンと半田鏝との相対距離を変化させており、甲1発明が本件発明2の「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段」に相当する構成を有するのは明らかである。
(カ)本件発明2は「前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段」を備えるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
(キ)本件発明2は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
(ク)一致点・相違点
以上(ア)ないし(キ)より、本件発明2と甲1発明の一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点]
端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、
前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段とを備える
半田付け装置。
[相違点]
相違点3
本件発明2は「前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段」を備えるのに対し、甲1発明はその旨特定されていない点
相違点4
本件発明2は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点
(ケ)小括
以上のように、本件発明2と甲1発明は少なくとも相違点4を有するから、本件発明2は甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
(コ)相違点についての容易性の判断
a 相違点3について
本件発明2の相違点3に係る構成と本件発明1の相違点1に係る構成とは、相違点3が「前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留める」のに対して、相違点1は「前記ノズル内に留める」点で文言上の相違があるものの、本件発明1及び2はいずれも「溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に」「当接させ」るものであるから、相違点3に係る構成と相違点1に係る構成とは実質的に同一である。
してみると、上記「イ(コ)a」で相違点1について検討したのと同様に、相違点3は実質的な相違ではない。
b 相違点4について
本件発明2の相違点4に係る構成は本件発明1の相違点2に係る構成と同一であるから、上記「イ(コ)b」で検討したのと同様に、甲1発明によって本件発明2の相違点4に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たことではない。
(サ)まとめ
以上によれば、本件発明2は甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、本件発明2は、甲1発明より当業者が容易になし得たものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
エ 本件発明4と甲1発明との対比・判断
(ア)本件発明4の「前記当接位置規制手段は、溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁により構成され」るのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
また、本件発明4は「前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径よりも大きい」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
ここで、本件発明4の「前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁により構成され」ることと「前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径よりも大きい」ことは実質的に同じ構成を表しているものと認められる。
してみると、本件発明4の「前記当接位置規制手段は、溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する」ために「前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径よりも大きい」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違するものと認められる。
(イ)本件発明4は「前記ノズルは、前記端子の先端に当接した当接位置で溶融して略球状となるべき前記半田片が前記ノズルの内壁と当接する筒状の溶融部を有し、前記溶融部の前記ノズルの内径は、前記当接位置で前記半田片を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径より小さ」いのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点で相違する。
(ウ)本件発明4は「請求項1または2記載の半田付け装置」であるから、本件発明4は甲1発明と、上記「イ(ク)」または上記「ウ(ク)」に記載した一致点及び相違点を有する。
(エ)相違点
以上(ア)ないし(ウ)より、本件発明4と甲1発明とは、上記相違点1及び2、または、上記相違点3及び4に加えて、以下の相違点を有する。
[相違点]
相違点5
本件発明4の「前記当接位置規制手段は、溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する」ために「前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径よりも大きい」のに対して、甲1発明はその旨特定されていない点
相違点6
本件発明4は「前記ノズルは、前記端子の先端に当接した当接位置で溶融して略球状となるべき前記半田片が前記ノズルの内壁と当接する筒状の溶融部を有し、前記溶融部の前記ノズルの内径は、前記当接位置で前記半田片を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径より小さ」いのに対して、甲1発明はその旨特定されていない点
(オ)小括
以上のように、本件発明4と甲1発明は少なくとも相違点2または相違点4を有するから、本件発明4は甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
(カ)相違点についての容易性の判断
相違点1及び3は、上記「イ(コ)a」、上記「ウ(コ)a」で検討したように、実質的な相違点ではない。
また、相違点2及び4は、上記「イ(コ)b」、上記「ウ(コ)b」で検討したように、甲1発明より当業者が容易になし得たものではない。
なお、半田鏝先端部の内径を半田鏝後端部の内径より大きくする構成自体は甲第11ないし13号証に図示されるように周知の技術事項であるところ、甲1発明は半田片を落下させるために半田鏝後端部の内径を半田鏝先端部の内径より大きくしたものであるから、半田鏝後端部の内径を小さくすることにより、半田鏝先端部の内径を半田鏝後端部の内径より大きくすることには阻害要因があり、相違点5及び相違点6の構成を導くことはできない。
(キ)まとめ
以上によれば、本件発明4は甲1発明であるとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、本件発明4は、甲1発明より当業者が容易になし得たものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
オ 本件発明5と甲1発明2との対比・判断
(ア)本件発明5は「請求項1、2または4記載の半田付け装置を用い」た「半田付け方法」である。
してみると、甲1発明2は本件発明5と、上記「イ(ク)」、上記「ウ(ク)」または上記「エ(エ)」に記載した相違点を除いて、「請求項1、2または4記載の半田付け装置を用い」た「半田付け方法」である点で一致する。
(イ)甲1発明2の「配線基板のランドに金属ピンを挿入し、半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部)の真下に位置するように移動させ、半田鏝の下端面がランドに接触するところまで下げ」ることは、本件発明5の「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる前記相対距離変化手段により前記ノズルに前記端子の少なくとも先端を挿入または近接」することに相当する。
(ウ)甲1発明2の「半田片を半田鏝の貫通孔内に落下させ」ることは、本件発明5の「前記ノズルの内側に前記半田片供給手段により半田片を供給」することに相当する。
(エ)本件発明5は「供給された溶融前の前記半田片の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す」のに対して、甲1発明2はその旨特定されていない点で相違する。
(オ)相違点
以上(ア)ないし(エ)より、本件発明5と甲1発明2とは、上記相違点1及び2、上記相違点3及び4、または、上記相違点5及び6に加えて、以下の相違点を有する。
[相違点]
相違点7
本件発明5は「供給された溶融前の前記半田片の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す」のに対して、甲1発明2はその旨特定されていない点
(カ)小括
以上のように、本件発明5と甲1発明2は少なくとも相違点2または相違点4を有するから、本件発明5は甲1発明2であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
(キ)相違点についての容易性の判断
相違点1及び3は、上記「イ(コ)a」、上記「ウ(コ)a」で検討したのと同様に、実質的な相違点ではない。
また、相違点2及び4は、上記「イ(コ)b」、上記「ウ(コ)b」で検討したのと同様に、甲1発明2より当業者が容易になし得たものではない。
(ク)まとめ
以上によれば、請求項1、2を引用する本件発明5は甲1発明2であるとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、請求項1、2を引用する本件発明5は、相違点7を検討するまでもなく、甲1発明2より当業者が容易になし得たものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
カ 本件発明6と甲1発明2との対比・判断
(ア)本件発明6は「請求項1、2または4記載の半田付け装置を用い」た「前記溶融した半田片により前記電子部品の端子をプリント配線基板のランドに半田付けするプリント基板の製造方法」である。
甲1発明2は、「配線基板のランドに金属ピンを挿入し」「半田片の全部をピンとランドに付着させる」ものであるから、溶融した半田片により電子部品の端子をプリント配線基板のランドに半田付けするプリント基板の製造方法といい得るものである。
してみると、甲1発明2は本件発明6と、上記「イ(ク)」、上記「ウ(ク)」または上記「エ(エ)」に記載した相違点を除いて、「請求項1、2または4記載の半田付け装置を用い」た「前記溶融した半田片により前記電子部品の端子をプリント配線基板のランドに半田付けするプリント基板の製造方法」である点で一致する。
(イ)甲1発明2の「配線基板のランドに金属ピンを挿入し、半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部)の真下に位置するように移動させ、半田鏝の下端面がランドに接触するところまで下げ」ることは、本件発明6の「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる前記相対距離変化手段により前記ノズルに前記端子の少なくとも先端を挿入または近接」することに相当する。
(ウ)甲1発明2の「半田片を半田鏝の貫通孔内に落下させ」ることは、本件発明6の「前記ノズルの内側に前記半田片供給手段により半田片を供給」することに相当する。
(エ)本件発明6は「供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出」すのに対して、甲1発明2はその旨特定されていない点で相違する。
(オ)相違点
以上(ア)ないし(エ)より、本件発明6と甲1発明2とは、上記相違点1及び2、上記相違点3及び4、または、上記相違点5及び6に加えて、以下の相違点を有する。
[相違点]
相違点8
本件発明6は「供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出」すのに対して、甲1発明2はその旨特定されていない点
(カ)小括
以上のように、本件発明6と甲1発明2は少なくとも相違点2または相違点4を有するから、本件発明6は甲1発明2であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
(キ)相違点についての判断
相違点1及び3は、上記「イ(コ)a」、上記「ウ(コ)a」で検討したのと同様に、実質的な相違点ではない。
また、相違点2及び4は、上記「イ(コ)b」、上記「ウ(コ)b」で検討したのと同様に、甲1発明2より当業者が容易になし得たものではない。
(ク)まとめ
以上によれば、請求項1、2を引用する本件発明6は甲1発明2であるとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、請求項1、2を引用する本件発明6は、相違点8を検討するまでもなく、甲1発明2より当業者が容易になし得たものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
キ 本件発明7と甲1発明2との対比・判断
(ア)本件発明7は「請求項1、2または4記載の半田付け装置を用い」た「前記溶融した半田片により前記端子と前記接続対象を半田付けする製品の製造方法」である。
甲1発明2は、「配線基板のランドに金属ピンを挿入し」「半田片の全部をピンとランドに付着させる」ものであるから、溶融した半田片により端子と接続対象を半田付けする製品の製造方法といい得るものである。
してみると、甲1発明2は本件発明7と、上記「イ(ク)」、上記「ウ(ク)」または上記「エ(エ)」に記載した相違点を除いて、「請求項1、2または4記載の半田付け装置を用い」た「前記溶融した半田片により前記端子と前記接続対象を半田付けする製品の製造方法」である点で一致する。
(イ)甲1発明2の「配線基板のランドに金属ピンを挿入し、半田付けすべきランドを半田鏝(先端部の開口部)の真下に位置するように移動させ、半田鏝の下端面がランドに接触するところまで下げ」ることは、本件発明7の「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる前記相対距離変化手段により前記ノズルに前記端子の少なくとも先端を挿入または近接」することに相当する。
(ウ)甲1発明2の「半田片を半田鏝の貫通孔内に落下させ」ることは、本件発明7の「前記ノズルの内側に前記半田片供給手段により半田片を供給」することに相当する。
(エ)本件発明7は「供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出」すのに対して、甲1発明2はその旨特定されていない点で相違する。
(オ)相違点
以上(ア)ないし(エ)より、本件発明7と甲1発明2とは、上記相違点1及び2、上記相違点3及び4、または上記相違点5及び6に加えて、以下の相違点を有する。
[相違点]
相違点9
本件発明7は「供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して、前記加熱手段により、前記規制された状態の溶融前の前記半田片を加熱溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出」すのに対して、甲1発明2はその旨特定されていない点
(カ)小括
以上のように、本件発明7と甲1発明2は少なくとも相違点2または相違点4を有するから、本件発明7は甲1発明2であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。
(キ)相違点についての判断
相違点1及び3は、上記「イ(コ)a」、上記「ウ(コ)a」で検討したのと同様に、実質的な相違点ではない。
また、相違点2及び4は、上記「イ(コ)b」、上記「ウ(コ)b」で検討したのと同様に、甲1発明2より当業者が容易になし得たものではない。
(ク)まとめ
以上によれば、請求項1、2を引用する本件発明7は甲1発明2であるとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、請求項1、2を引用する本件発明7は、相違点9を検討するまでもなく、甲1発明2より当業者が容易になし得たものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
ク 被請求人の主張について
(ア)「溶融前の半田片の端部を端子の先端に必ず当接させる」構成について
a 被請求人は、審判事件答弁書において、概略次の通り主張している。
・請求人は、甲第1号証の実施例1の実験結果として甲第5号証を提出しているが、甲第1号証の図2のノズル形状は、甲第5号証のノズル形状とは異なっており、甲第5号証では甲第1号証が「溶融前の半田片の端子側の端部を端子の先端に必ず当接させる」構成を充足することの証明とはなっていない。(第2頁第23行ないし第3頁第9行)
・甲第5号証のようにストレートの孔のノズルで半田付けを行っても、半田片は直径が0.8mmで長さが1.2mmの円柱形でノズルの貫通孔の内径も1.2mmであることにより、何十万回と繰り返した場合は、溶融前の半田片がノズルの途中で引っかかって止まることが生じ得る。(第3頁第12ないし22行)
・甲第1号証の図3は、貫通孔の先端がテーパ状の傾斜を有するように構成されたものであって、端子の側面に半田片が当接するケースがあるのは、乙第1号証から明らかである。(第3頁第25ないし28行)
b 上記aにおける主張について検討する。
本件の明細書には、「必ず当接する」ことについて、上記「イ(コ)a」に摘記したとおりの記載があるのみである。
本件の明細書の当該記載によれば、「端子Tの先端に必ず当接する」のは「溶融部224bに案内された半田片202a」であり、本件発明1、2、及び4ないし7における「端子の先端に必ず当接させ」るとは、ノズルと端子とが左右方向にどのように位置ズレしても、溶融部に案内された半田片の端子側端部の一部を端子の先端に当接させることであり、半田片がノズルの途中で引っ掛かって止まることが生じることがないことを示す事項ではない。
そして、甲第1号証の図2に示される形状のノズルを有するものである甲1発明は、上記「ア(コ)a」で検討したように、半田鏝とピンとが左右方向にどのように位置ズレしても、半田片は前記半田鏝の先端部の貫通孔内で前記ピンの先端に当接して留まるものである。
したがって、甲第1号証の図3の構成や、乙第1号証、甲第5号証を検討するまでもなく、甲1発明は本件発明1、2、及び4ないし7でいう、溶融前の半田片の端部を「端子の先端に必ず当接させ」る構成を備えるものである。
よって、被請求人の上記の主張は採用できない。
なお、本件の明細書には、半田片がノズルの途中で引っ掛かって止まることが生じることがないものであることは記載されていない。
c 被請求人は、口頭審理陳述要領書において、概略次の通り主張している。
・甲第1号証の段落【0019】の「半田片を軸方向に立てた状態」なる記載は、半田片の軸方向が落下方向と平行になるということを記載しているとは認められず、ピンの先端に半田片が当接するかどうかについては全く関係がないものである。(第2頁第4行ないし第3頁第8行)
・甲第1号証の図4、図5に示されるとおりの寸法であるとすれば、ピンの先端がテーパ部分まで突出するため、半田片はピン先端ではなく側面に当接する。(第3頁第9ないし13行)
・甲第1号証の図4、図5において半田鏝を図1としたものは、貫通孔2の内径は排出孔13の内径およびシャッタ6の孔の内径よりはるかに小さく、半田片が詰まるエラーが発生しないということはあり得ない形状であるから、そのようなエラーが発生した場合には半田片がピンの先端には当接しない 。(第4頁第1ないし19行)
・甲第1号証の段落【0031】の「半田鏝の後端部の貫通孔4の径(D)は、半田片が容易に落下し、落下途中で半田片が引っかかって溶融したり、半田片内のフラックスが蒸発しないだけの径を持つことが望ましい。」なる記載によれば、甲第1号証の図1の例では半田片が途中で引っかかる可能性があり、甲第1号証には、半田片が途中でひっかかることもなく端子の先端に半田片が確実に当接する構成については記載も示唆もない。(第5頁第7ないし14行)
・ピンの外形と貫通孔2の内径との関係が制限されていないから、大量の電子基板に順次半田付けをし、消耗品である糸半田や半田鏝を交換しながら半田付けを繰り返していく半田付け現場において、半田片を端子の先端に必ず当接させることは、甲第1号証には記載されていない。(第5頁第15ないし38行)
・甲第1号証の図1ないし3の半田鏝形状に関する記載は一定しないから、半田片がピンの先端に必ず乗るように設計するという設計思想が存在しないことは明らかである。(第6頁第1ないし13行)
d 上記cにおける主張について検討する。
上記bで述べたように、甲1発明は溶融前の半田片の端部を「端子の先端に必ず当接させ」る構成を備えるものであり、このことは、甲第1号証の段落【0019】の「半田片を軸方向に立てた状態」なる記載が、半田片の軸方向が落下方向と平行になることを記載しているか否かにかかわらない。
また、上記bで述べたように、甲1発明は、甲第1号証の図2に示される形状のノズルを有するものであり、甲第1号証の図1、図3ないし図5及び図1に関する段落【0031】の記載は、甲1発明に関するものではなく、甲1発明は溶融前の半田片の端部を「端子の先端に必ず当接させ」る構成を備えるものである。
そして、本件発明における「半田片を端子の先端に必ず当接」させるとは、上記「ア(コ)a」で検討したとおり、端子(ピン)まで到達した半田片に対して端子の先端に当接すること規定したものであり、途中でひっかかることがないことを規定したものとは認められず、甲1発明の認定に用いた甲第1号証の段落【0040】、【0041】には、ピンの径、貫通孔2の内径、半田片の径の寸法が特定されており、当該記載に基づく甲1発明は「半田片を端子の先端に必ず当接」させるものである。
よって、被請求人の上記の主張は採用できない。
ケ 請求人の主張について
(ア)甲第4ないし9号証に基づく請求人の主張について
a 甲第4号証について
(a)請求人は、審判請求書において、本件発明1と甲第1号証に記載された発明との相違点に関して、甲第4号証の記載に基づき、概略次の通り主張している。
甲第4号証の段落【0057】、【0106】、【0116】の記載及び図17は、「溶融した半田片が表面張力で丸まって略球状になろうとするがノズルの内壁と端子の先端に規制されるため真球になれないまま端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止」することを開示あるいは示唆するものである。(第28頁第9行ないし第29頁第11行)
溶融した半田片が端子の上に載った状態で停止すれば、「前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わった熱が当該溶融した半田片から前記端子に伝えられて前記端子が加熱」されることは必然的に起こる現象であり、この加熱によって「前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す」ことも必然的に起こる現象である。(第29頁第12ないし16行)
以上、甲第4号証にも開示されているように、本件発明1の構成Aから構成D1までの構成「端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段を備え、前記当接位置規制手段は、前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁、または、溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁、により構成され、前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ」が具備されていれば、本件発明1の構成G1「溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止」、G2「この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱」、G3「この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す」の構成は必然的に具備される。(第29頁第17行ないし第30頁第2行)
(b)請求人は、口頭審理陳述要領書において、概略次の通り主張している。
甲第4号証の図4、図6、図8、段落【0052】、【0057】、【0106】の記載より、甲第4号証には「溶融した半田片がノズルの内壁に規制されていること」及び「溶融した半田片が端子の上に載った状態で移動せずに停止すること」が実質的に開示されている。(第8頁第7行ないし同頁下から2行目)
(c)上記(a)及び(b)における主張について検討する。
甲第4号証に記載された半田付け装置は各部の寸法が特定されておらず、半田孔と半田片との寸法関係が本件発明1と同一の半田付け装置であるとはいえない。
してみると、甲第4号証に基づいて、本件発明1の構成Aから構成D1までの構成が具備されていれば、本件発明1の構成G1、G2、G3は必然的に具備されるとはいえない。
よって、請求人の上記の主張は採用できない。
b 甲第5号証について
(a)請求人は、審判請求書において、概略次の通り主張している。
甲第1号証の記載に沿って半田付けを行い甲1発明1においても溶融半田片が構成G1(溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止)、G2(この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱)、G3(この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す)で規定される挙動を示すことを実験により確認した。(第30頁第3ないし5行)
(b)上記(a)における主張について検討する。
甲第5号証に記載された実験結果は、半田鏝の貫通孔の内径が1.0mmで一定の実験条件によるものであるから、甲第1号証に記載された、ノズル先端部の貫通孔の内径が1.0mmであるがテーパーを有するノズルや貫通孔の内径が1.2mmであるノズルの半田付け装置と貫通孔の形状が同一の実験条件の実験結果とは認められない。
したがって、甲第5号証の実験結果に基づいて、甲第1号証に記載された発明が本件発明1の構成G1、G2、G3を備えるとはいえない。
よって、請求人の上記の主張は採用できない。
c 甲第6ないし9号証について
(a)請求人は、口頭審理陳述要領書において、概略次の通り主張している。
ノズルを貫通孔の中心軸を通る垂直面で切断した形状に模した実験装置を組み立てて検証実験を行った。実験成績証明書を甲第6号証として提出する。甲第6号証の実験成績証明書では実験Aと実験Bの2つの実験を行った。(第4頁第11ないし14行)
実験Aの結果から「・銅線の先端に当接した半田片が、鏝による加熱によって溶融すると焼結体の溝内で球状になり銅線の先端に載った状態で停止すること・溶融半田片は銅線の先端に載った状態でしばらく停止した後に銅線に沿って下方に移動すること」が明らかになった。(第4頁第20ないし23行)
実験Bの結果から「・フラックスを含有しない半田片は加熱されて溶融温度を以上になっても元の形状を保持し球状にならないこと・上記元の形状を保持している溶融半田片にフラックス(ロジン)を供給すると直ちに球状になること・上記球状になった溶融半田片は銅線に載った状態で停止すること・溶融半田片は銅線の先端に載った状態で停止した後に銅線に沿って下方に移動すること」が明らかになった。(第5頁第7ないし13行)
甲第7号証及び甲第8号証には溶融半田片の表面張力やぬれ性がフラックスの使用で変化すること、甲第9号証には半田片の主材料であるSn(スズ)は高酸素分圧雰囲気下では酸素が容易にスズ滴表面に到着して酸化膜が形成されることなどが記載されている。(第5頁第22ないし25行)
以上説明した甲第6号証の実験成績証明書で観察された溶融半田片の挙動は、甲第1号証に記載された半田付け装置においても同様に示される。(第5頁第26ないし27行)
(b)上記(a)における主張について検討する。
甲第6号証に記載された実験結果は、ノズルとして直方体形状で上面に断面半円状で直線状の溝が幅方向中央で縦方向全体にわたって形成されたセラミックを用いたものである。一方、甲第1号証に記載された半田付け装置は、ノズル先端部の貫通孔の内径が1.0mmでテーパーを有するノズルや貫通孔の内径が1.2mmであるノズルのものである。
よって、両者は形状が異なるから、甲第6号証は、甲第1号証に記載された半田付け装置の半田鏝や貫通孔と形状が同一の実験装置の実験結果とは認められない。
したがって、甲第6号証に記載された実験結果に基づいて、甲第1号証に記載された発明が本件発明1の「溶融した半田片に関する構成」を備えるとはいえない。
また、甲第7ないし9号証には、半田の表面張力やぬれ性とフラックスとの関係、溶融スズの表面張力や酸素分圧依存性が示されているのみであり、甲第7ないし9号証に基づいて、甲第1号証に記載された発明が本件発明1の「溶融した半田片に関する構成」を備えるとはいえない。
よって、請求人の上記の主張は採用できない。
(イ)甲第11ないし13号証に基づく請求人の主張について
a 請求人は、審判事件弁駁書において、概略次の通り主張している。
端子の挿入部位であるノズルの先端部の内径を、端子の挿入を容易化する等のために拡径し、ノズルの後端部の内径よりも大きくすることは、例えば甲第11号証~甲第13号証の図にも示されているように、当業者が適宜行う設計的事項にすぎず、本件発明4ないし本件発明7は甲1発明から当業者が容易に創作できるものである。(第3頁第6ないし13行)
b 請求人は、令和5年1月11日提出の上申書において、概略次の通り主張している。
一次審決は、本件特許の請求項4に係る「前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径よりも大きい」と限定訂正請求に対して、「ノズル後端部」はノズルの「案内部」であると解釈して当該訂正請求を認め、他方、原審決は、本件発明4の進歩性の有無について、甲1発明における「ノズル後端部」に相当する部分を、半田鏝全b体の後端部であると解釈し、その結果として、甲1発明を周知技術と組み合わせるにあたり阻害要因があるなどとして、進歩性を認定したため、一次審決においては、訂正要件を認容するにあたっての発明の認定と、引用発明の認定との間で、「ノズル後端部」の解釈に矛盾がある。
この点、「ノズル後端部」の意味については、「案内部(当接位置規制手段)」を指すものとしなければ新規事項の追加の問題を生じるものであるほか、本件発明の技術的意義という観点からも「案内部(当接位置規制手段)」を指すものと解すべきである。
そして、「ノズル後端部」を「案内部(当接位置規制手段)」と解し、甲1発明に対して、甲第11ないし13号証に示されている周知の技術事項を適用して半田錢先端部の内径を大きくした場合、甲1発明の半田鏝先端部におけるピンが挿入される部分の内径が局所的に大きくなるだけであり、案内部(ノズル後端部)に相当する部分の内径は1.0mmで変わらないから、「前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径よりも大きい」という構成を甲1発明は備えるだけでなく、「前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ」る構成も有するといえる。
また、甲1発明に対して甲第11号証ないし13号証に示されている周知の技術事項を適用することには何らの阻害要因もないから、甲1発明と本件特許4との相違点5は、当業者が容易になし得たものであり、その進歩性は否定されるべきものである。(8頁28行ないし10頁14行)
c 上記a、bにおける主張について検討する。
上記「エ」で述べたように、本件発明4と甲1発明とは、上記相違点2、または、上記相違点4を有し、相違点2及び4は、上記「イ(コ)b」、上記「ウ(コ)b」で検討したように、甲1発明より当業者が容易になし得たものではなく、また、上記「エ(カ)」で検討したように、甲第11ないし13号証に示されている周知の技術事項の甲1発明への適用には阻害要因があるから、相違点2または相違点4に係る構成を導き出すことはできない。
してみれば、本件発明4は、「前記ノズル先端部の内径は、ノズル後端部の内径よりも大きい」との発明特定事項を含む相違点5について検討するまでもなく、甲1発明より当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、請求人の上記の主張は採用できない。
(3)甲第2号証に記載された発明との対比・判断
ア 本件発明1と甲2発明との対比・判断
(ア)甲2発明の「ピン」は、本件発明1の「端子」に相当する。また、甲2発明は「はんだはピン先端に接して位置し」、「はんだが溶けてスルーホールとプリント基板の裏面に流れる」から、甲2発明の「プリント基板」がピンとはんだ付けされる対象を有していることは明らかであり、当該対象は本件発明1の「当該端子に電気的に接続される接続対象」に相当する。
してみると、甲2発明の「電子部品のピンをプリント基板に接着するための自動はんだ付け装置」は、本件発明1の「端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置」に相当する。
(イ)甲2発明は「ピンはスリーブ内に位置」するから、「スリーブ」は「ピン」の少なくとも先端が挿入されたものであり、本件発明1の「前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズル」に相当する。
(ウ)本件発明1は「前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。
(エ)甲2発明は、「はんだがスリーブ内で加熱され」、「はんだが溶けてスルーホールとプリント基板の裏面に流れる」ものであるから、はんだを加熱溶融する手段を有することは明らかであり、本件発明1の「前記半田片を加熱溶融する加熱手段」に相当する構成を備えている。
(オ)本件発明1は「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。
(カ)甲2発明は「一定量のはんだがスリーブに充填され」「はんだはピン先端に接して位置」するもので、「スリーブ内径:1.0mm」、「はんだ:直径1.0mm、長さ3.0mm」であるから、スリーブに充填されピン先端に接して位置するはんだの側面とスリーブ内壁とは接触して隙間はなく、はんだはピンの先端に当接したままスリーブ内に留まることになり、プリント基板には接触しないものと認められる。また、スリーブ内径とはんだ直径は同じ寸法であるから、ピンの径が如何なる大きさであっても、スリーブ内壁とピンの側面との間隔は、はんだ直径より短い。
してみると、甲2発明のスリーブ内壁は、本件発明1の「前記ノズル内に供給された」「前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該」「半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段」であり、「前記当接位置規制手段は、前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁」に相当する。
しかしながら、甲2発明は、はんだの融解温度が493K、スリーブの温度が663K、半田の直径、スリーブの内径は共に1.0mmであるから、はんだは融解温度より高い温度のスリーブ内壁と常に接触しながら装填される。してみると、はんだは、スリーブ内をピンの先端に向かって移動中も溶融するものと認められる。
よって、「当接位置規制手段」が規制する「半田片」は、本件発明1は「溶融前の前記半田片」であるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。
なお、本件発明1の「当接位置規制手段」は、「前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁」または「溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁」のいずれかの構成を有するものであれば足るものであるところ、上述したように、甲2発明は、規制する半田片が「溶融前の半田片」とは特定されていないものの、「前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁」に相当する構成を有するものである。
(キ)本件発明1は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。
(ク)一致点・相違点
以上(ア)ないし(キ)より、本件発明1と甲2発明の一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点]
端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記ノズル内に供給された前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段を備え、
前記当接位置規制手段は、
前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁、
により構成される
半田付け装置。
[相違点]
相違点10
本件発明1は「前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点
相違点11
本件発明1は「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点
相違点12
当接位置規制手段が規制する半田片が、本件発明1は「溶融前の前記半田片」であるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点
相違点13
本件発明1は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、甲2発明はその旨特定されていない点
(ケ)小括
以上のように、本件発明1と甲2発明は相違点10ないし13を有するから、本件発明1は甲2発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するとはいえない。
(コ)相違点についての容易性の判断
a 相違点10について
甲2発明は、一定量のはんだがスリーブ内に装填されるのであるから、スリーブ内にはんだ片が供給されることは明らかである。
そして、供給するための何らかの手段を設けることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、甲2発明において、本件発明1の相違点10に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
b 相違点11について
甲2発明は、ピンがスリーブ内に位置しているから、ピンをスリーブ内に位置させるためにピンとスリーブとの近接離間方向の相対距離を変化させているのは明らかである。
そして、相対距離を変化させるための何らかの手段を設けることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、甲2発明において、本件発明1の相違点11に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
c 相違点12について
甲第2号証には、はんだ直径をスリーブ内径より小さくすることや溶融前のはんだをピンの先端に当接させることは記載も示唆もされておらず、そのようにする動機も存在しない。
そして、はんだが移動中に溶融しないようにはんだ直径をスリーブ内径より小さくしたとしても、甲2発明ではピンの径が特定されていないから、「スリーブ内壁とピン側面との間隔」と「はんだ直径」との大小関係は特定されない。そして、当該大小関係が特定されない場合、はんだのピン側の端部が、ピンの先端に必ず当接するとはいえない。
したがって、甲2発明において、「溶融前のはんだ」をピンの先端に必ず当接することは、当業者が容易になし得たとはいえない。
よって、甲2発明において、相違点12に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たとはいえない。
d 相違点13について
(a)「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ」について
甲2発明は、上記(エ)に記載したとおり、スリーブを加熱するための加熱手段が設けられている。そして、甲2発明は、スリーブ内径(1.0mm)とはんだ直径(1.0mm)が同一であるから、スリーブ内壁とはんだが接触しているものと認められる。また、ピンは通常スリーブとは接触させないから、ピンは加熱されていない。よって、ピンの先端に当接したはんだには、スリーブ内壁を介して加熱手段の熱が伝達されるものと認められる。
してみると、甲2発明は、本件発明1の「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ」ることに相当する構成を有するといえる。
(b)「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す」について
甲2発明は、スリーブ内径(1.0mm)とはんだ直径(1.0mm)の関係から、はんだがスリーブの内壁とピンの先端とに当接して留まったとしても、上記(カ)で検討したように、ピンの先端に当接して留まったはんだは溶融前のはんだではない。
そして、甲2発明において、はんだ直径を、ピンの先端に当接して留まり、且つ、当接して留まったはんだが溶融前のはんだとなる径とする理由があるものとは認められない。
してみると、甲2発明を「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す」構成とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
(c)小括
したがって、上記(b)のとおり、甲2発明によって本件発明1の相違点13に係る構成を得ることは当業者が容易になし得たこととはいえない。
(サ)まとめ
以上によれば、本件発明1は甲2発明であるとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、本件発明1は、甲2発明より当業者が容易になし得たものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
イ 本件発明2と甲2発明との対比・判断
(ア)甲2発明の「ピン」は、本件発明2の「端子」に相当する。また、甲2発明は「はんだはピン先端に接して位置し」、「はんだが溶けてスルーホールとプリント基板の裏面に流れる」から、甲2発明の「プリント基板」がピンとはんだ付けされる対象を有していることは明らかであり、当該対象は本件発明2の「当該端子に電気的に接続される接続対象」に相当する。
してみると、甲2発明の「電子部品のピンをプリント基板に接着するための自動はんだ付け装置」は、本件発明2の「端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置」に相当する。
(イ)甲2発明は「ピンはスリーブ内に位置」するから、「スリーブ」は「ピン」の少なくとも先端が挿入されたものであり、本件発明2の「前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズル」に相当する。
(ウ)本件発明2は「前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。
(エ)甲2発明は、「はんだがスリーブ内で加熱され」、「はんだが溶けてスルーホールとプリント基板の裏面に流れる」ものであるから、はんだを加熱溶融する手段を有することは明らかであり、本件発明2の「前記半田片を加熱溶融する加熱手段」に相当する構成を備えている。
(オ)本件発明2は「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。
(カ)甲2発明は「一定量のはんだがスリーブに充填され」「はんだはピン先端に接して位置」するもので、「スリーブ内径:1.0mm」、「はんだ:直径1.0mm、長さ3.0mm」であるから、スリーブに充填されピン先端に接して位置するはんだの側面とスリーブ内壁とは接触して隙間はなく、はんだはピンの先端に当接したままスリーブ内に留まることになり、プリント基板には接触しないものと認められる。
してみると、甲2発明のスリーブ内壁は、本件発明2の「前記ノズル内に供給された」「前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該」「半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段」に相当する。
しかしながら、上記「ア(カ)」で検討したように、はんだは、スリーブ内をピンの先端に向かって移動中も溶融するものと認められる。
よって、「当接位置規制手段」が規制する「半田片」は、本件発明2は「溶融前の前記半田片」であるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。
(キ)本件発明2は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、甲2発明はその旨特定されていない点で相違する。
(ク)一致点・相違点
以上(ア)ないし(キ)より、本件発明2と甲2発明の一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点]
端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記ノズル内に供給された前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段とを備える
半田付け装置。
[相違点]
相違点14
本件発明2は「前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点
相違点15
本件発明2は「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段」を備えるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点
相違点16
当接位置規制手段が規制する半田片が、本件発明2は「溶融前の前記半田片」であるのに対し、甲2発明はその旨特定されていない点
相違点17
本件発明2は「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ、溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、甲2発明はその旨特定されていない点
(ケ)小括
以上のように、本件発明2と甲2発明は相違点14ないし17を有するから、本件発明2は甲2発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するとはいえない。
(コ)相違点についての容易性の判断
相違点14ないし17はそれぞれ、相違点10ないし13と同一の構成であるから、相違点14、15に係る構成は、上記「ア(コ)a」、「ア(コ)b」で検討したように、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。
しかしながら、相違点16、17に係る構成は、上記「ア(コ)c」、「ア(コ)d」で検討したように、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
(サ)まとめ
以上によれば、本件発明2は甲2発明であるとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、本件発明2は、甲2発明より当業者が容易になし得たものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
ウ 本件発明4ないし7と甲2発明との対比・判断
本件発明4ないし7は、本件発明1または本件発明2を引用しさらに他の構成要素を加えたものであるから、本件発明4ないし7は甲2発明であるとはいえず、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、本件発明4ないし7は、甲2発明より当業者が容易になし得たものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
エ 請求人の主張について
(ア)請求人は、口頭審理陳述要領書において、「当接位置規制手段」について概略次の通り主張している。
甲第2号証に記載された発明が「前記スリーブ内に供給された溶融前の前記半田片の前記ピン側の端部を前記ピンの先端に当接させ、当該溶融前の半田片を前記電子基板に接触させずに前記スリーブ内に留めるように規制する当接位置規制手段」を有することは、甲第2号証の図3に、スリーブ内に供給された溶融前の半田片のピン側の端部をピンの先端に当接させ、当該溶融前の半田片を電子基板に接触させずにスリーブ内に留めるように規制する、スリーブの内壁が示されていることに基づくものである。(第9頁第20ないし25行)
甲第2号証に記載された発明が「前記スリーブ内に供給された溶融前の前記半田片の前記ピン側の端部を前記ピンの先端に当接させ、当該溶融前の半田片を前記電子基板に接触させずに前記スリーブ内で前記半田片の前記ピン側の端部が前記ピンの先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段」を有することは、甲第2号証の図3に、スリーブの内壁が、溶融前の半田片を溶融前の半田片のピン側の端部がピンの先端に当接させ、溶融前の半田片を電子基板に接触させずに、スリーブ内で半田片のピン側の端部がピンの先端に当接する当接位置に留めるように規制することが示されていることに基づくものである。(第10頁第8ないし15行)
(イ)上記(ア)における主張について検討する。
上記「ア(カ)」で検討したように、甲2発明においてはんだは、スリーブ内をピンの先端に向かって移動中も溶融するものと認められる。
したがって、「当接位置規制手段」が規制する「半田片」が「溶融前の前記半田片」であることが甲第2号証に開示されているとはいえない。
よって、請求人の上記の主張は採用できない。
(ウ)請求人は、令和2年11月9日に提出された回答書において、概略次の通り主張している。
甲2発明は、“溶融した半田片は丸まって略球状になろうとするがノズルの内壁と端子の先端に規制されるため真球になれないまま端子の上に載った状態で半田片が供給された方向へ移動せずに停止”する構成を備えているといえるのであるから、甲2発明においても、被請求人がいう「熱伝導機能」は発揮される。(第3頁第19ないし23行)
(エ)上記(ウ)における主張について検討する。
上記「ア(コ)d(b)」で検討したように、甲2発明は「溶融した半田片は丸まって略球状になろうとするがノズルの内壁と端子の先端に規制されるため真球になれないまま端子の上に載った状態で半田片が供給された方向へ移動せずに停止」する構成を有しているとはいえず、また、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、請求人の上記の主張は採用できない。
3 無効理由3について
(1)証拠に記載された事項及び証拠に記載された発明
甲第3号証に対応する特願2015-31205号(特開2016-153125号)の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「甲第3号証」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。下線は、当審で付与した。
「【請求項1】
管状の半田層の内部にフラックスの層が設けられた糸半田を切断して生成された半田片を、長手方向一端を下端部にした姿勢で加熱して、溶融した半田を下方へ供給する半田処理方法であって、
前記加熱時に、前記半田片の下端部からの前記フラックスの流出を低減させることを特徴とする半田処理方法。
・・・・
【請求項10】
請求項1に記載の半田処理方法に使用する半田処理装置であって、
前記姿勢の前記半田片に対して、下側寄りの部分より上側寄りの部分を優先的に加熱する処理を行うことを特徴とする半田処理装置。
【請求項11】
加熱可能である上下に伸びた略筒形状の鏝先を有し、
当該鏝先内にて前記姿勢に保持された前記半田片に対して、当該鏝先の熱を伝えることで加熱を行う請求項10に記載の半田処理装置であって、
前記鏝先の内径について、
前記保持された半田片の上側寄り部分に対応する内径よりも、下側寄り部分に対応する内径を大きくした半田処理装置。」
「【0019】
図1に示すように半田付け装置Aは、上方から糸半田7を供給し、下部に設けられた鏝先5を利用して、鏝先5の下方に配置される配線基板Bdと、電子部品Epとを半田付けする装置である。なお、糸半田7は、管状の半田層71の内部にフラックス層72が設けられた構造となっている。半田付け装置Aは、支持部1、カッターユニット2、駆動機構3、ヒーターユニット4、鏝先5及び半田送り機構6を備えている。ヒーターユニット4と鏝先5とを組み合わせたものが、半田鏝部を構成している。
【0020】
支持部1は、立設された平板状の壁体11を備えている。なお、以下の説明では、便宜上、図1に示すように、壁体11に沿う水平方向をX方向、壁体11と垂直な水平方向をY方向、壁体11に沿う鉛直方向をZ方向とする。例えば、図1に示すように、壁体11はZX平面を有している。
【0021】
半田付け装置Aは、治具Gjに取り付けられた配線基板Bdと、配線基板Bdに配置された電子部品Epの端子Pとに溶融半田を供給し、接続固定を行う。半田付けを行うとき、治具GjをX方向及びY方向に移動させ配線基板BdのランドLdとの位置決めを行う。また、そして、半田付け装置AはZ方向に移動可能であり、位置決め後Z方向に移動することで、鏝先5の先端をランドLdに接触させることができる。
【0022】
支持部1は、壁体11のZ方向の下端部より上方にずれた位置に設けられた保持部12と、壁体11のZ方向の辺縁部(下部)に固定された摺動ガイド13と、壁体11のZ方向の端部(下端部)に設けられたヒーターユニット固定部14とを備えている。
【0023】
カッターユニット2は、半田送り機構6によって送られた糸半田7を所定長さの半田片70(図2に図示)に切断するものである。カッターユニット2は、摺動ガイド13に固定されたカッター下刃22(固定刃部)と、カッター下刃22の上部に配置され、X方向に摺動可能に配置されたカッター上刃21(可動刃部)と、カッター上刃21に設けられ、カッター上刃21の摺動方向と交差する方向(Z方向)に摺動するプッシャーピン23(半田押部)とを備えている。図1に示すように、カッター上刃21は、摺動ガイド13によって、Z方向の移動が規制されているとともに、X方向に摺動可能となっている。」
「【0034】
図2に示すように、ヒーターユニット4は、半田片70を加熱し、溶融させるための加熱装置であり、壁体22の下端部に設けられたヒーターユニット固定部14に固定されている。ヒーターユニット4は、電気を通すことで発熱するヒーター41と、ヒーター41を取り付けるためのヒーターブロック42とを備えている。ヒーター41は円筒形状のヒーターブロック42の外周面に巻き回されている。
【0035】
ヒーターブロック42は円筒形状を有しており、軸方向の端部に鏝先5をとりつけるための断面円形状の凹部421と、凹部421の底部の中心部から反対側に貫通した半田供給孔422とを備えている。ヒーターブロック42は、半田供給孔422と下刃孔221とが連通するように、カッター下刃22に接触して設けられている。ヒーターブロック42をこのように設けることで、半田片70は、下刃孔221から半田供給孔422に移動する。
【0036】
鏝先5は、円筒形状の部材であり、中央部分に軸方向に延びる半田孔51を備えている。鏝先5は、ヒーターブロック42の凹部421に挿入され、図示を省略した部材によって抜け止めがなされている。また、鏝先5の半田孔51は、ヒーターブロック42の半田供給孔421と連通しており、半田供給孔421から半田片70が送られる。」
「【0038】
図1、図2に示すように、半田送り機構6は、糸半田7を供給するものであり、糸半田7を送る一対の送りローラ(61a、61b)と、送られた糸半田7をカッター上刃21の上刃孔211にガイドするガイド管62とを備えている。一対の送りローラ(61a、61b)は、支持部1に取り付けられており、糸半田7を挟むとともに、回転することで糸半田7を下方に送る。ガイド管62は、弾性変形可能な管体であり、上端は、送りローラ61の糸半田7が送り出される部分に近接して配置されている。なお、詳しくは後述するが、一方の送りローラ61bの外周には、糸半田7にV穴73を開けるための凸部が設けられている。
【0039】
また、ガイド管62の下端は、カッター上刃21の上刃孔211と連通するように設けられている。なお、ガイド管62の下端はカッター上刃21の摺動に追従して移動するものであり、ガイド管62はカッター上刃21が摺動する範囲で過剰に引っ張られたり、突っ張ったりしないように設けられている。各送りローラ(61a、61b)は回転角度(回転数)によって、送り出した糸半田の長さを決定している。
【0040】
半田付け装置Aで半田付けを行う場合、鏝先5の先端を半田付けを行う配線基板BdのランドLdに接触させ、鏝先5で、ランドLd及び電子部品Epの端子Pを囲む。このとき、鏝先5には、ヒーター41からの熱が伝達されており、鏝先5が接触することでランドLd及び電子部品Epの端子Pは、半田付けに適した温度に加温(プレヒート)される。
【0041】
次に、半田付け装置Aの動作について説明する。図2に示すように、半田付け装置Aは、半田付けを行う直前、ピストンロッド32がエアシリンダー31の内部に収納された状態になっており、カム部材33がZ方向の上部(摺動範囲の最上部)にある。このとき、ピン332がカム溝340の第1溝部341内に位置しており、カッター上刃21がガイド軸35に最も接近した位置にある。この位置を初期位置とする。また、半田付け装置Aでは初期位置にあるとき、上刃孔211が下刃孔221とZ方向に重なるようにカッター上刃21及びカッター下刃22が形成されている。
【0042】
そして、各送りローラ(61a、61b)を回転駆動し糸半田7を送り出す。上刃孔211と下刃孔221とが連通状態になっているので、糸半田7の先端は下刃孔221の内部に移動する。各送りローラ(61a、61b)の回転角度を調整し、下刃孔221内に進入する糸半田7の長さを半田付けに必要な長さになるようにする。下刃孔221内に進入する糸半田の長さは半田片70の長さであり、半田付けを行うランドLdや電子部品Epの端子Pの大きさ等によって決められる。」
「【0046】
ピストンロッド32がさらに突出すると、カム部材33が下方に摺動し、カム部材33のピン押し部333がプッシャーピン23のヘッド部232を押す。これにより、プッシャーピン23のロッド部231が下刃孔221に挿入される。このとき、下刃孔221に残っている半田片70は、ロッド部231に押され、鏝先5に向かって移動する。なお、半田片70は、切断時に自重によって下方に移動する場合もあるが、プッシャーピン23を利用することで、半田片70を確実に鏝先5の半田孔51に供給することができる。半田孔51に供給された半田片70は、後述する図6に示すように、電子部品Epの端子Pに乗るようにして、鏝先5内に立った状態で保持される。
【0047】
鏝先5には、ヒーター41からの熱が伝達されており、この熱によって半田孔51内で糸半田7は溶融される。そして、鏝先5は、配線基板BdのランドLdと電子部品Epの端子Pとを囲んでいるため、溶融した半田は、ランドLdと電子部品Epの端子Pとに流れる。そして、半田付け装置AをZ方向に移動することで、鏝先5がランドLdから離れる。これにより、半田は外気によって冷却され、固化することで、ランドLdと電子部品Epの端子Pとが半田付けされる。」
「【0051】
すなわち半田付け装置Aは、糸半田7の切断およびV穴73を設ける処理を行って半田片70を生成し、この生成した半田片70を、図6に示すように立てた姿勢(長手方向一端である下端部を下にした姿勢)で加熱して、下方へ溶融した半田を供給する。この加熱の際、半田層71より早く溶融したフラックスは、半田片70の上端や下端だけでなく側面のV穴73からも流出することになる。その結果、V穴73が設けられていない場合に比べて、半田片70の下端部からのフラックスの流出が低減することになる。このようにV穴73を設ける加工処理は、半田片70の加熱時に、半田片70の下端部からのフラックスの流出を低減させる処理となっている。」
「【0068】
図12は、(a)半田片70が鏝先5内で立てた姿勢(下端部を下にした姿勢)に保持された状態と、(b)その状態にて半田片70の加熱を進めた状態とを示している。図12(a)に示すように、本実施形態における鏝先5の内径については、保持された半田片70の上側寄り部分に対応する内径よりも、下側寄り部分に対応する内径が大きくされている。なお、本実施形態では、電子部品Epの端子Pの上端と鏝先5との上下の位置関係や、半田片70の長さ寸法(つまり糸半田7を切断する間隔)は、予めほぼ一定となるよう設定されている。
【0069】
そのため半田片70と鏝先5内部との隙間は、半田片70の下側寄り部分よりも、上側寄り部分の方が狭くなっている。これによって図12(b)に示すように、加熱が進むと半田片70は上部より溶融し、フラックスが半田片70の上部から流れ出ることになる。その結果、第1実施形態の場合と同様の原理により、半田片70をより確実に加熱溶融させることが出来る。」
[図:0001411597000010.jpg]
[図:0001411597000011.jpg]
上記記載から、甲第3号証には、半田付け装置について次の技術的事項が記載されていると認められる。
・【0019】の記載によれば、「鏝先5の下方に配置される配線基板Bdと、電子部品Epとを半田付けする」「半田付け装置」である。そして、【0047】の記載によれば、「配線基板BdのランドLdと電子部品Epの端子P」とが半田付けされている。してみると、「半田付け装置」は、鏝先5の下方に配置される配線基板BdのランドLdと、電子部品Epの端子Pとを半田付けするものである。
・【0036】の記載によれば、「円筒形状の部材であり、中央部分に軸方向に延びる半田孔51を備え、」「ヒーターブロック42の凹部421に挿入され」る「鏝先5」を備える。
・【0023】の記載によれば、「糸半田7を所定長さの半田片70に切断する」「カッターユニット2」を備える。
・【0046】の記載によれば、「半田片70を確実に鏝先5の半田孔51に供給する」「プッシャーピン23」を備える。
・【0034】の記載によれば、「電気を通すことで発熱するヒーター41と、ヒーター41を取り付けるためのヒーターブロック42とを備え」た「ヒーターユニット4」を備える。
・【0021】の記載によれば、「治具GjをX方向及びY方向に移動させ配線基板BdのランドLdとの位置決めを行」った「後Z方向に移動することで、鏝先5の先端をランドLdに接触させる」ものである。
・【0046】の記載によれば、「半田孔51に供給された半田片70は、」「電子部品Epの端子Pに乗るようにして、鏝先5内に立った状態で保持され」るものである。
・【0068】の記載によれば、「鏝先5の内径」「は、保持された半田片70の上側寄り部分に対応する内径よりも、下側寄り部分に対応する内径が大きく」されたものである。
・【0047】の記載によれば、「鏝先5には、ヒーター41からの熱が伝達されており、この熱によって半田孔51内で糸半田7」(半田片70)「は溶融され、鏝先5は、配線基板BdのランドLdと電子部品Epの端子Pとを囲んでいるため、溶融した半田は、ランドLdと電子部品Epの端子Pとに流れる」ものである。
以上の技術的事項から、甲第3号証には、図12の形態の鏝先の半田付け装置として次の発明(以下、「甲3発明」という)が記載されていると認められる。
[甲3発明]
鏝先5の下方に配置される配線基板BdのランドLdと、電子部品Epの端子Pとを半田付けする半田付け装置において、
円筒形状の部材であり、中央部分に軸方向に延びる半田孔51を備え、ヒーターブロック42の凹部421に挿入される鏝先5と、
糸半田7を所定長さの半田片70に切断するカッターユニット2と、
半田片70を確実に鏝先5の半田孔51に供給するプッシャーピン23と、
電気を通すことで発熱するヒーター41と、ヒーター41を取り付けるためのヒーターブロック42とを備えたヒーターユニット4とを備え、
治具GjをX方向及びY方向に移動させ配線基板BdのランドLdとの位置決めを行った後にZ方向に移動することで、鏝先5の先端をランドLdに接触させるものであり、
半田孔51に供給された半田片70は、電子部品Epの端子Pに乗るようにして、鏝先5内に立った状態で保持され、
鏝先5の内径は、保持された半田片70の上側寄り部分に対応する内径よりも、下側寄り部分に対応する内径が大きくされており、
鏝先5には、ヒーター41からの熱が伝達されており、この熱によって半田孔51内で糸半田7(半田片70)は溶融され、鏝先5は、配線基板BdのランドLdと電子部品Epの端子Pとを囲んでいるため、溶融した半田は、ランドLdと電子部品Epの端子Pとに流れる、
半田付け装置。
(2)甲3発明との対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲3発明の「端子P」は、配線基板BdランドLdと半田付けされるものであるから、本件発明1の「端子」に相当する。また、甲3発明は、溶融した半田は、ランドLdと電子部品Epの端子Pとに流れるものであるから、甲3発明の「ランドLd」は、本件発明1の「当該端子に電気的に接続される接続対象」に相当する。
してみると、甲3発明の「鏝先5の下方に配置される配線基板BdのランドLdと、電子部品Epの端子Pとを半田付けする半田付け装置」は、本件発明1の「端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置」に相当する。
(イ)甲3発明の「半田片70」は「電子部品Epの端子Pに乗るようにして、鏝先5内に立った状態で保持され」るから、甲3発明の「鏝先5」内に端子Pが位置しているのは明らかである。してみると、甲3発明の「円筒形状の部材であり、中央部分に軸方向に延びる半田孔51を備え」る「鏝先5」は、本件発明1の「前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズル」に相当する。
(ウ)甲3発明の「半田片70を確実に鏝先5の半田孔51に供給するプッシャーピン23」は、本件発明1の「前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段」に相当する。
(エ)甲3発明は「ヒーター41からの熱が伝達されており、この熱によって半田孔51内で糸半田7(半田片70)は溶融され」るものであるから、甲3発明の「ヒーター41」は、本件発明1の「前記半田片を加熱溶融する加熱手段」に相当する。
(オ)甲3発明は「治具GjをX方向及びY方向に移動させ配線基板BdのランドLdとの位置決めを行った後Z方向に移動することで、鏝先5の先端をランドLdに接触させ」、「鏝先5は、配線基板BdのランドLdと電子部品Epの端子Pとを囲んでいる」ものであるから、端子Pと鏝先5との相対距離を変化させており、甲3発明が本件発明1の「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段」に相当する構成を有するのは明らかである。
(カ)甲3発明は「半田孔51に供給された半田片70は、電子部品Epの端子Pに乗るようにして、鏝先5内に立った状態で保持され」るから、当該保持のための構成は、本件発明1の「前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段」に相当する。
(キ)甲3発明は「半田孔51に供給された半田片70は、電子部品Epの端子Pに乗るようにして、鏝先5内に立った状態で保持され」るから、「鏝先5」の「半田孔51」内壁により、半田片70は端子Pの先端に当接する位置に立った状態で案内されるといえる。
また、甲3発明は「鏝先5の内径は、保持された半田片70の上側寄り部分に対応する内径よりも、下側寄り部分に対応する内径が大きくされて」いるから、「下側寄り部分に対応する内径」より小さい「上側寄り部分の内径」の「鏝先5」の「半田孔51」内壁により、半田片70は径方向(本件発明1の「案内方向に垂直な方向」に相当。)への移動が規制されている。
そして、「鏝先5」先端部(「鏝先5」の外径)よりも「鏝先5」の「半田孔51」内壁が狭いのは当然のことである。
してみると、甲3発明の「鏝先5」の「半田孔51」内壁は、本件発明1の「前記当接位置規制手段は、」「溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁」に相当する。
(ク)甲3発明は「半田孔51に供給された半田片70は、電子部品Epの端子Pに乗るようにして、鏝先5内に立った状態で保持され、」「鏝先5には、ヒーター41からの熱が伝達されており、この熱によって半田孔51内で糸半田7(半田片70)は溶融され」るから、甲3発明は「端子P」に乗るように保持された「半田片70」に「鏝先5」を介して熱が伝達されるように「ヒータ41」が設けられており、本件発明1の「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ」ることに相当する。
(ケ)甲第3号証には、半田片の径や長さ、鏝先5の半田孔51の径、端子Pの径はいずれも記載されていない。また、甲第3号証の図面には、半田孔51の径に近い径を有する、半田層71及びフラックス層72からなる半田片70が図示されているが、甲第3号証の図面は概略を表す説明図であって各部の寸法を特定し得るものではなく、溶融し真球となると仮定した場合の半田の直径と半田孔51の径との関係を特定できない。
したがって、甲3発明は、「溶融して真球となる場合の径がノズルの内壁に規制される大きさとなる体積を半田片2aが有する」とはいえず、上記「2(2)ア(コ)b(b)」での検討を踏まえると、「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止」する構成を有するとはいえない。
よって、本件発明1は「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対し、甲3発明はその旨特定されていない点で相違する。
(コ)一致点・相違点
以上(ア)ないし(ケ)より、本件発明1と甲3発明の一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点]
端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、
前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、
前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段とを備え、
前記当接位置規制手段は、
溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁、
により構成され、
前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられる
半田付け装置。
[相違点]
相違点18
本件発明1は「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対し、甲3発明はその旨特定されていない点
(サ)まとめ
以上によれば、本件発明1は甲3発明と同一であるとはいえず、本件発明1は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものとはいえない。
イ 本件発明2について
(ア)甲3発明の「端子P」は、配線基板BdランドLdと半田付けされるものであるから、本件発明2の「端子」に相当する。甲3発明は、溶融した半田は、ランドLdと電子部品Epの端子Pとに流れるものであるから、甲3発明の「ランドLd」は、本件発明2の「当該端子に電気的に接続される接続対象」に相当する。
してみると、甲3発明の「鏝先5の下方に配置される配線基板BdのランドLdと、電子部品Epの端子Pとを半田付けする半田付け装置」は、本件発明2の「端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置」に相当する。
(イ)甲3発明の「半田片70」は「電子部品Epの端子Pに乗るようにして、鏝先5内に立った状態で保持され」るから、甲3発明の「鏝先5」内に端子Pが位置しているのは明らかである。してみると、甲3発明の「円筒形状の部材であり、中央部分に軸方向に延びる半田孔51を備え」る「鏝先5」は、本件発明2の「前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズル」に相当する。
(ウ)甲3発明の「半田片70を確実に鏝先5の半田孔51に供給するプッシャーピン23」は、本件発明2の「前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段」に相当する。
(エ)甲3発明は「ヒーター41からの熱が伝達されており、この熱によって半田孔51内で糸半田7(半田片70)は溶融され」るものであるから、甲3発明の「ヒーター41」は、本件発明2の「前記半田片を加熱溶融する加熱手段」に相当する。
(オ)甲3発明は「治具GjをX方向及びY方向に移動させ配線基板BdのランドLdとの位置決めを行った後Z方向に移動することで、鏝先5の先端をランドLdに接触させ」、「鏝先5は、配線基板BdのランドLdと電子部品Epの端子Pとを囲んでいる」ものであるから、端子Pと鏝先5との相対距離を変化させており、甲3発明が本件発明2の「前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段」に相当する構成を有するのは明らかである。
(カ)甲3発明は「半田孔51に供給された半田片70は、電子部品Epの端子Pに乗るようにして、鏝先5内に立った状態で保持され」るから、当該保持のための構成は、本件発明2の「前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段」に相当する。
(キ)甲3発明は「半田孔51に供給された半田片70は、電子部品Epの端子Pに乗るようにして、鏝先5内に立った状態で保持され、」「鏝先5には、ヒーター41からの熱が伝達されており、この熱によって半田孔51内で糸半田7(半田片70)は溶融され」るから、甲3発明は「端子P」に乗るように保持された「半田片70」に「鏝先5」を介して熱が伝達されるように「ヒータ41」が設けられており、本件発明2の「前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ」ることに相当する。
(ク)甲3発明は、上記「ア(ケ)」で検討したように、「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止」する構成を有するとはいえない。
よって、本件発明2は「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対し、甲3発明はその旨特定されていない点で相違する。
(ケ)一致点・相違点
以上(ア)ないし(ク)より、本件発明2と甲3発明の一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点]
端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、
前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、
前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、
前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、
前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、
前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段とを備え、
前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられる
半田付け装置。
[相違点]
相違点19
本件発明2は「溶融前の前記半田片が前記端子の先端に当接した状態で当該熱伝達を受けて溶融し、溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため必ず真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止し、この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱し、この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す構成である」のに対して、甲3発明はその旨特定されていない点
(コ)まとめ
以上によれば、本件発明2は甲3発明と同一であるとはいえず、本件発明2は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものとはいえない。
ウ 本件発明4ないし7について
本件発明4ないし7は、本件発明1または本件発明2を引用しさらに他の構成要素を加えたものであるから、本件発明4ないし7は甲3発明と同一であるとはいえず、本件発明4ないし7は特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものとはいえない。
エ 請求人の主張について
(ア)請求人は、口頭審理陳述要領書において、「甲第3号証の図12(b)から“溶融部の鏝先5の内径が当接位置で半田片70を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径よりも小さい”という構成が看取できるかについて」概略次の通り主張している。
甲第3号証の図12に示される鏝先5の溶融部は、端子P上に保持された半田片70の上側寄り部分と下側寄り部分とで異なる内径を有しており、図12において半田片70が溶融して真球状になった場合、溶融半田片の直径は少なくとも上側内径よりも大きいであろうことは図から明らかであり、図形寸法を参酌すれば下側内径よりも大きいと見ることもできる。(第11頁下から1行目ないし第12頁第10行)
甲第3号証の図12(b)は半田片70が上部から溶融していく一つの瞬間を示したものであって、半田片はフラックスが介在することによって溶融しやすくなると共に溶融した半田片は表面張力によって真球状になりやすくなる。このことは甲第6号証として提出した実験成績証明書からも明らかと考える。したがって、本件発明は甲第3号証に記載された発明と実質的に同一である。(第15頁第26ないし32行)
(イ)上記(ア)における主張について検討する。
甲第3号証の図12は各部の寸法を正確に示した図面とは認められないから、上記「ア(ケ)」で検討したように図面のみに基づいて溶融部の鏝先5の内径が当該位置で半田片70を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径よりも小さいとはいえない。
また、半田片が溶融し真球状となるのは半田片中のフラックスが流れ出した後と認められ、半田片中に含まれるフラックスの量により上記真球の直径は変化するものであるところ、甲第3号証には半田片のフラックスの含有量は記載されておらず、甲第3号証の半田片の上記真球の直径は特定できない。
したがって、甲第3号証の図12に基づいて「溶融部の鏝先5の内径が当接位置で半田片70を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径よりも小さい」とはいえず、本件発明は甲第3号証に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない。
よって、請求人の上記の主張は採用できない。
4 無効理由4について
ア 請求人は、審判請求書において、サポート要件違反の無効理由として、概略次の通り主張している。
溶融半田片が丸まって略球状になろうとする挙動が溶融半田の表面張力以外にどのような力や条件が必要であるのか、また、溶融半田片が端子の上に載った状態で半田片供給方向(下方向)へ移動せずに停止している挙動が端子が十分に加熱されていないという条件以外にどのような条件が必要であるのかまったく不明である。(審判請求書第64頁第7ないし11行)
そうすると、本件発明1の構成Aから構成D1までの構成(端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内に留めるように規制する当接位置規制手段を備え、前記当接位置規制手段は、前記端子の側面との間隔が溶融前の前記半田片の最小幅より短く形成された前記ノズルの内壁、または、溶融前の前記半田片を前記溶融前の前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する位置に所定の姿勢で案内し且つ案内方向に垂直な方向への前記半田片の移動範囲を規制する前記ノズルのノズル先端部よりも狭い前記ノズルの内壁、により構成され、前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ)、本件発明2の構成Aから構成D1までの構成(端子と当該端子に電気的に接続される接続対象とを半田付けする半田付け装置であって、前記端子の少なくとも先端を挿入または近接する筒状のノズルと、前記ノズルの内側へ半田片を供給する半田片供給手段と、前記半田片を加熱溶融する加熱手段と、前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる相対距離変化手段と、前記ノズル内に供給された溶融前の前記半田片の前記端子側の端部を前記端子の先端に必ず当接させ、当該溶融前の半田片を前記接続対象に接触させずに前記ノズル内で前記半田片の前記端子側の端部が前記端子の先端に当接する当接位置に留めるように規制する当接位置規制手段とを備え、前記加熱手段は、前記端子の先端に当接した前記半田片に前記ノズルを介して熱伝達させる位置に設けられ)又は本件発明5ないし7の構成Hから構成Kまでの構成(請求項1、2または4記載の半田付け装置を用いて、前記端子と前記ノズルとの近接離間方向の相対距離を変化させる前記相対距離変化手段により前記ノズルに前記端子の少なくとも先端を挿入または近接し、前記ノズルの内側に前記半田片供給手段により半田片を供給し、供給された溶融前の前記半田片の端部を当接位置規制手段により前記端子の先端に必ず当接させ、当該当接によって前記端子側へ溶融前の前記半田片が移動しないように規制して前記加熱手段により前記半田片を加熱溶融し)が具備されていても、本件発明1,2,4ないし7における構成G1(溶融した前記半田片が丸まって略球状になろうとするが前記ノズルの内壁と前記端子の先端に規制されるため真球になれないまま前記端子の上に載った状態で前記半田片が供給された方向へ移動せずに停止)、G2(この停止した状態で前記ノズルから前記溶融した半田片に伝わる熱を当該溶融した半田片から前記端子に伝えて前記端子を加熱)、G3(この加熱によって前記端子が加熱された後に前記溶融した半田片が流れ出す)で規定される溶融半田片の前記挙動が当然に実現されるとは限らないのであれば、本件発明1,2,4ないし7は特許法第36条第6項第1号に規定のサポート要件を満たしていない。(審判請求書第64頁第12ないし17行)
イ また、請求人は、口頭審理陳述要領書において、概略次の通り主張している。
審判請求人が審判請求書において指摘したのは、本件発明1において、溶融半田片が丸まって略球状になろうとする挙動には溶融半田片の表面張力以外にどのような力や条件が必要であるのか、また、溶融半田片が端子の上に載った状態で半田片供給方向(下方向)へ移動せずに停止している挙動には端子が十分に加熱されていないという条件以外にどのような条件が必要であるのかということである。(第15頁下から3行目ないし第16頁第3行)
ウ 上記無効理由について検討する。
本件の明細書には、「端子Tとノズル24が非接触で離間した状態が保たれている。これにより、ノズル24から端子Tに直接熱が伝達されることを防止しており、端子Tは、輻射熱伝達および対流熱伝達により徐々に加熱される。」(【0066】)、「当接位置APに案内された溶融前の半田片2aは、端子Tと反対側の端部などの少なくとも一部が、ヒータ36の近くに位置して挿入部24aより高温となっている溶融部24bの内壁25に当接する。このため、当接位置APにある溶融前の半田片2aは、溶融部24bのノズル24の内壁25に当接した半田片2aの一端部、両端部、又は側部を介した熱伝導により溶融される。」(【0068】)、「半田片2aは、溶融すると表面張力により丸まって略球状になろうとするが、溶融部24bのノズル24の内壁25と端子Tの先端に規制されるため真球になれず、」「端子Tの先端Tsに接触している状態で太く短い形状に変形する。」(【0069】)、「こうして溶融すると、矢印Y1に示すように、ノズル24から半田片2aに熱が伝わり、さらに、矢印Y2に示すように、半田片2aから端子Tに熱が伝わることで、端子Tは以前にも増して急速に加熱される。この加熱中、溶融した半田片2aは端子Tと接触した状態、すなわち端子Tの上に載った状態で半田片供給方向(下方向)へ移動せずに停止している。」(【0070】)、「溶融した半田片2aを介して適正温度にまで端子Tが加熱されると、溶融した半田片2aは、ぬれ始め、端子Tの先端Tsから端子Tの側面Twを伝って流れ出す。」(【0071】)と記載されている。
当該記載によれば、本件発明1、2、4ないし7における構成G1、G2、G3は、本件発明1の構成Aから構成D1までの構成、本件発明2の構成Aから構成D1までの構成又は本件発明5ないし7の構成Hから構成Kまでの構成により得られるものと認められる。
そして請求人は、半田片が丸まって略球状になろうとする挙動には溶融半田片の表面張力以外の力が必要であり、溶融半田片が端子の上に載った状態で半田片供給方向(下方向)へ移動せずに停止している挙動には端子が十分に加熱されていないという条件以外の条件が必要である理由を述べておらず、明細書に記載された構成以外の構成が必要であるとは認められない。
したがって、請求項1,2,及び4ないし7の記載が特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていないとはいえず、請求人の主張する無効理由4は存在しない。
5 無効理由5について
ア 請求人は、審判請求書において、明確性要件違反の無効理由として、概略次の通り主張している。
本件請求項4で規定する「溶融部」の定義が、本件明細書の実施例1,2,4のノズルで異なっているため、本件請求項4で規定する「溶融部」がノズルのどの部分を指すのか不明確であり、本件特許は特許を受けようとする発明が明確でなく特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。(審判請求書第64頁第21ないし23行、第68頁第1ないし4行)
加えて、平成30年11月12日付けの訂正請求によって、訂正前の本件発明1の「案内部」が「前記ノズルの先端部よりも狭い前記ノズルの内壁」に訂正された。一方、本件明細書において、実施例2を除く、実施例1、実施例3及び実施例4のノズルでは、ノズルの先端部よりも狭いノズルの内壁は存在していない。そうすると、本件明細書の実施例1、実施例3及び実施例4におけるノズルには「案内部」は存在しないことになるにもかかわらず、本件明細書には「案内部」に関する記載があり、訂正後の特許を受けようとする発明と本件明細書の記載内容とが整合していない。よって、この点においても、本件特許は特許を受けようとする発明が明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。(審判請求書第68頁第5ないし13行)
イ また、請求人は、口頭審理陳述要領書において、概略次の通り主張している。
請求項4の「溶融部」が「前記端子の先端に当接した当接位置で溶融して略球状となるべき前記半田片が前記ノズルの内壁と当接する」という条件と、「前記溶融部の前記ノズルの内径が前記当接位置で前記半田片を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径より小さい」という条件とを両方満たす領域であるならば、後段の条件は溶融部が特定された上でその内径が溶融半田片の真球化した直径よりも小さいと規定しているのであるから、溶融半田片の真球化した直径よりも小さい内径のところが溶融部であるとするのは前提と結論が逆であり「溶融部」の定義たり得ず当該主張は合理的でない。また、前段の条件だけが溶融部の成立条件だとすると、本件図7や図9で示されているような、内壁の径が半田片の落下方向途中部において変化する領域を有するノズルの場合、半田片の長さによっては溶融部の内径が1つに定まらず本件発明4の技術的範囲は曖昧となり不明確となる。(第16頁第14ないし26行)
ウ 上記無効理由について検討する。
請求項4には「前記半田片が前記ノズルの内壁と当接する筒状の溶融部を有し、前記溶融部の前記ノズルの内径は、前記当接位置で前記半田片を溶融し1つの真球状に変形したと仮定した場合の当該真球の直径より小さい」と記載されており、「溶融部」は半田片が内壁に当接するノズルの部分であり、当該ノズルの部分の内径は半田片が溶融し真球となったと仮定した場合の直径より小さいものとして明確である。
そして、本件の実施例2の端面図である図7及び関連する明細書の記載には、半田片が内壁に当接するノズルの部分の内径が半田片が溶融し真球となったと仮定した場合の直径より小さい構成が明記されている。
したがって、特許請求の範囲には、明細書に記載した全ての実施例を表さなければいけないわけではないから、特許請求の範囲の記載と明細書のある実施例に関する記載とが全て整合しないとしても、ただちに特許請求の範囲の記載が明確でないとはいえないところ、本件の請求項4の「溶融部」は本件の実施例2の構成を記載したものとして明確である。
また、請求項1には「当接位置規制手段」の択一的な構成として、「前記ノズルの先端部より狭い前記ノズルの内壁」「により構成され」ると記載されている。
一般に「ノズルの先端部」は孔を備えており、当該ノズルの先端部の孔の周(ノズルの内径)が「ノズルの内壁」であるから、ノズルの先端部(ノズルの外径)よりも前記ノズルの内壁が狭いのは当然のことであるから、請求項1の「当接位置規制手段」の上記記載は、本件の各実施例の構成を記載したものとして明確である。
以上のことより、請求項1、4の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしていないとはいえず、請求人の主張する無効理由5は存在しない。
第6 むすび
以上のとおり、請求人の主張するいずれの無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許1、2、4ないし7に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-800094