特許異議申立
2019-700961
ドームスクリーン投映施設
- 審判番号
- 2019-700961
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-049368
- 登録番号
- 特許第6522378号(P6522378)
- 請求日
- 2019年11月28日
- 審決日
- 2021年03月31日
- 公報発行日
- 2021年07月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】コニカミノルタプラネタリウム株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
- 【異議申立人】株式会社 五藤光学研究所
- 【異議申立人代理人】神保 欣正
- 審判長/審判官
- 審判長 尾崎 淳史
- 審判官 吉村 尚
- 審判官 畑井 順一
- 分類
- P1651.121-YAA(G09B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第113条第1項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6522378号発明「ドームスクリーン投映施設」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6522378号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第6522378号の請求項2ないし5に係る特許を維持する。 特許第6522378号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6522378号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は,平成27年3月12日にされたものであって,令和1年5月10日にその特許権の設定登録がされ,令和1年5月29日に特許掲載公報が発行され,その特許について令和1年11月28日に特許異議申立人株式会社五藤光学研究所(以下,「異議申立人」という。)による特許異議の申立てがなされた。
本件特許異議の申立て以後の経緯は,次のとおりである。
令和 2年 3月 5日:取消理由通知書
令和 2年 4月30日:意見書
令和 2年 4月30日:訂正請求書
令和 2年 7月21日:取消理由通知書(決定の予告)
令和 2年 9月24日:意見書
令和 2年 9月24日:訂正請求書
令和 3年 2月 7日:意見書(異議申立人が提出)
なお,令和2年4月30日付けの訂正の請求は,特許法第120条の5第7項に規定するとおり,取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容(下線部は,当審で付した。以下同じ。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲において,【請求項2】の
「請求項1に記載のドームスクリーン投映施設であって,前記画像投映装置は,
投映範囲の異なる複数の投映機により構成されており,
前記水平投映モードと前記傾斜投映モードとのいずれの投映モードを用いるかにより,前記複数の投映機の投映範囲を揃って変更するように構成されていることを特徴とするドームスクリーン投映施設。」を,
「一方向を正面としてその正面に向かって設置された観客席と,
前記観客席の上方に,前記観客席を覆って配置されたドームスクリーンと,
前記ドームスクリーンの内面に,前記観客席の観客に閲覧させる画像を投映する画像投映装置とを有するドームスクリーン投映施設であって,
前記ドームスクリーンは,
前記観客席に対して天頂より正面側のスクリーンエッジから天頂より背面側のスクリーンエッジにわたる映像エリアを有するとともに,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジから天頂を経て背面側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく,
前記画像投映装置は,
前記正面側のスクリーンエッジから前記背面側のスクリーンエッジに至る前記映像エリアの全体を包含する投映範囲を有するものであるとともに,
投映範囲の異なる複数の投映機により構成されており,
前記映像エリアにおける天頂を中心とする領域を投映対象とする水平投映モードと,
前記映像エリアにおける天頂よりも正面側に傾斜した位置を中心とする領域を投映対象とする傾斜投映モードとを有し,
水平投映モード用か傾斜投映モード用かの区別があらかじめ付与された画像コンテンツについて,前記画像コンテンツに付与された前記区別に基づき,
水平投映モード用の画像コンテンツであれば前記水平投映モードを選択し,
傾斜投映モード用の画像コンテンツであれば前記傾斜投映モードを選択して投映を行うとともに,
前記水平投映モードと前記傾斜投映モードとのいずれの投映モードを用いるかにより,前記複数の投映機の投映範囲を,いずれの前記投映機を移動させることなく,前記画像コンテンツの描画データを変換することによって,前記傾斜投映モードの場合には前記水平投映モードの場合に対して,正面側に前記傾斜投映モードの傾斜角の分揃ってシフトさせるように構成されていることを特徴とするドームスクリーン投映施設。」と,訂正する。
(請求項2を引用する請求項3ないし5も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
発明の詳細な説明において,段落【0013】の
「また,上記態様のドームスクリーン投映施設における画像投映装置は,投映範囲の異なる複数の投映機により構成されている場合がある。この場合には,水平投映モードと傾斜投映モードとのいずれの投映モードを用いるかにより,複数の投映機の投映範囲を揃って変更するように構成されていることが望ましい。これにより,複数台の投映機を用いた多彩な画像の投映が,いずれの投映モードでも,また投映モードが切り替えられた場合でも,適切になされる。また,画像投映装置が投映範囲の異なる複数の投映機により構成されている場合の複数の投映機には,ドームスクリーンの周辺部であって観客席より高い位置に設けられた複数のものが含まれることが望ましい。さらに,ドームスクリーンの内部の床面上の,観客席から見て正面側の位置に設けられたものも含まれればよりよい。あるいは,ドームスクリーンの内部の床面の中央の位置に設けられたものが含まれることもまた,望ましい。」を,
「また,上記態様のドームスクリーン投映施設における画像投映装置は,投映範囲の異なる複数の投映機により構成されており,水平投映モードと傾斜投映モードとのいずれの投映モードを用いるかにより,複数の投映機の投映範囲を,いずれの投映機を移動させることなく,画像コンテンツの描画データを変換することによって,傾斜投映モードの場合には水平投映モードの場合に対して,正面側に傾斜投映モードの傾斜角の分揃ってシフトさせるように構成されている。これにより,複数台の投映機を用いた多彩な画像の投映が,いずれの投映モードでも,また投映モードが切り替えられた場合でも,適切になされる。また,画像投映装置が投映範囲の異なる複数の投映機により構成されている場合の複数の投映機には,ドームスクリーンの周辺部であって観客席より高い位置に設けられた複数のものが含まれることが望ましい。さらに,ドームスクリーンの内部の床面上の,観客席から見て正面側の位置に設けられたものも含まれればよりよい。あるいは,ドームスクリーンの内部の床面の中央の位置に設けられたものが含まれることもまた,望ましい。」と,訂正する。
2 当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,請求項1を削除するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
請求項の削除であるから,特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「本件明細書等」という。)の記載の事項の範囲内での訂正であることは明らかである。
したがって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項にも適合する。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は,複数の訂正事項からなっているため,以下のとおり分割して検討する。
ア 訂正事項2-1
請求項1を引用する引用項の形式で記載されていた請求項2を独立項の形式とする。
この訂正事項2-1により,請求項2は以下のように訂正されたと解される。
「一方向を正面としてその正面に向かって設置された観客席と,
前記観客席の上方に,前記観客席を覆って配置されたドームスクリーンと,
前記ドームスクリーンの内面に,前記観客席の観客に閲覧させる画像を投映する画像投映装置とを有するドームスクリーン投映施設であって,
前記ドームスクリーンは,
前記観客席に対して天頂より正面側のスクリーンエッジから天頂より背面側のスクリーンエッジにわたる映像エリアを有するとともに,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジから天頂を経て背面側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく,
前記画像投映装置は,
前記正面側のスクリーンエッジから前記背面側のスクリーンエッジに至る前記映像エリアの全体を包含する投映範囲を有するものであるとともに,
投映範囲の異なる複数の投映機により構成されており,
前記映像エリアにおける天頂を中心とする領域を投映対象とする水平投映モードと,
前記映像エリアにおける天頂よりも正面側に傾斜した位置を中心とする領域を投映対象とする傾斜投映モードとを有し,
水平投映モード用か傾斜投映モード用かの区別があらかじめ付与された画像コンテンツについて,前記画像コンテンツに付与された前記区別に基づき,
水平投映モード用の画像コンテンツであれば前記水平投映モードを選択し,
傾斜投映モード用の画像コンテンツであれば前記傾斜投映モードを選択して投映を行い,
前記水平投映モードと前記傾斜投映モードとのいずれの投映モードを用いるかにより,前記複数の投映機の投映範囲を揃って変更するように構成されていることを特徴とするドームスクリーン投映施設。」
イ 訂正事項2-2
訂正事項2-1による訂正後の請求項2における「揃って変更する」を
「,前記画像コンテンツの描画データを変換することによって,前記傾斜投映モードの場合には前記水平投映モードの場合に対して,正面側に前記傾斜投映モードの傾斜角の分揃ってシフトさせる」と訂正する。
この訂正事項2-2により,請求項2は以下のように訂正されたと解される。
「一方向を正面としてその正面に向かって設置された観客席と,
前記観客席の上方に,前記観客席を覆って配置されたドームスクリーンと,
前記ドームスクリーンの内面に,前記観客席の観客に閲覧させる画像を投映する画像投映装置とを有するドームスクリーン投映施設であって,
前記ドームスクリーンは,
前記観客席に対して天頂より正面側のスクリーンエッジから天頂より背面側のスクリーンエッジにわたる映像エリアを有するとともに,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジから天頂を経て背面側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく,
前記画像投映装置は,
前記正面側のスクリーンエッジから前記背面側のスクリーンエッジに至る前記映像エリアの全体を包含する投映範囲を有するものであるとともに,
投映範囲の異なる複数の投映機により構成されており,
前記映像エリアにおける天頂を中心とする領域を投映対象とする水平投映モードと,
前記映像エリアにおける天頂よりも正面側に傾斜した位置を中心とする領域を投映対象とする傾斜投映モードとを有し,
水平投映モード用か傾斜投映モード用かの区別があらかじめ付与された画像コンテンツについて,前記画像コンテンツに付与された前記区別に基づき,
水平投映モード用の画像コンテンツであれば前記水平投映モードを選択し,
傾斜投映モード用の画像コンテンツであれば前記傾斜投映モードを選択して投映を行い,
前記水平投映モードと前記傾斜投映モードとのいずれの投映モードを用いるかにより,前記複数の投映機の投映範囲を,前記画像コンテンツの描画データを変換することによって,前記傾斜投映モードの場合には前記水平投映モードの場合に対して,正面側に前記傾斜投映モードの傾斜角の分揃ってシフトさせるように構成されていることを特徴とするドームスクリーン投映施設。」
ウ 訂正事項2-3
訂正事項2-2による訂正後の請求項2における「前記複数の投映機の投映範囲を,」と「前記画像コンテンツの描画データを変換することによって,」との間に,
「いずれの前記投映機も移動させることなく」を挿入する。
この訂正事項2-3により,請求項2は最終的に,以下のように訂正されたと解される。
「一方向を正面としてその正面に向かって設置された観客席と,
前記観客席の上方に,前記観客席を覆って配置されたドームスクリーンと,
前記ドームスクリーンの内面に,前記観客席の観客に閲覧させる画像を投映する画像投映装置とを有するドームスクリーン投映施設であって,
前記ドームスクリーンは,
前記観客席に対して天頂より正面側のスクリーンエッジから天頂より背面側のスクリーンエッジにわたる映像エリアを有するとともに,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジから天頂を経て背面側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく,
前記画像投映装置は,
前記正面側のスクリーンエッジから前記背面側のスクリーンエッジに至る前記映像エリアの全体を包含する投映範囲を有するものであるとともに,
投映範囲の異なる複数の投映機により構成されており,
前記映像エリアにおける天頂を中心とする領域を投映対象とする水平投映モードと,
前記映像エリアにおける天頂よりも正面側に傾斜した位置を中心とする領域を投映対象とする傾斜投映モードとを有し,
水平投映モード用か傾斜投映モード用かの区別があらかじめ付与された画像コンテンツについて,前記画像コンテンツに付与された前記区別に基づき,
水平投映モード用の画像コンテンツであれば前記水平投映モードを選択し,
傾斜投映モード用の画像コンテンツであれば前記傾斜投映モードを選択して投映を行うとともに,
前記水平投映モードと前記傾斜投映モードとのいずれの投映モードを用いるかにより,前記複数の投映機の投映範囲を,いずれの前記投映機を移動させることなく,前記画像コンテンツの描画データを変換することによって,前記傾斜投映モードの場合には前記水平投映モードの場合に対して,正面側に前記傾斜投映モードの傾斜角の分揃ってシフトさせるように構成されていることを特徴とするドームスクリーン投映施設。」
エ 訂正事項2-1について
訂正事項2-1は,請求項1の記載を引用する請求項2の記載を,当該請求項1の記載を引用しないものとするものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を,当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
他の請求項の記載を引用する請求項の記載を,当該他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であるから,特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず,本件明細書等の記載の事項の範囲内での訂正であることは明らかである。
したがって,訂正事項1は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項にも適合する。
オ 訂正事項2-2について
訂正事項2-2は,傾斜投映モードにおける複数の投映機の投映範囲を揃って変更することについて,「画像コンテンツの描画データを変換」することによって,「水平投映モードの場合に対して,正面側に傾斜投映モードの傾斜角の分揃ってシフト」させることに限定したものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,訂正事項2-2により限定された発明特定事項については,本件明細書等の段落【0036】に「すなわち,当該画像コンテンツの描画データを,指定された角度φの値に応じて変換する。この演算は,図6にした各画像生成装置23で行われる。このため各画像生成装置23には,S2で入力された角度φの値が操作用制御装置20から提供されている。この演算により,投映モードに応じた描画データが生成される。したがってこの演算により,各プロジェクター16の投映領域がシフトすることがある。例えば,もともと,エンタメ的な内容であるものの水平投映を前提に作られた画像コンテンツがあったとして,これにS2で傾斜投映モードを指定したとする。すると,角度φの分,画像の投映位置が正面側に向かってシフトすることになる。これに伴う演算が各画像生成装置23でそれぞれ行われることで,各プロジェクター16の投映領域が角度φの分揃ってシフトすることとなる。」と記載されているとおりである。
したがって,訂正事項2-2は,本件明細書等との関係において,新たな技術的事項を導入するものではなく,当業者によって,本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるから,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
したがって,訂正事項2-2は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項にも適合する。
カ 訂正事項2-3について
訂正事項2-3は,傾斜投映モードの場合に,水平投映モードの場合に対して,正面側に傾斜投映モードの傾斜角の分揃ってシフトさせるに際し,いずれの投映機を移動させることがないことを限定したものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして,訂正事項2-3により限定された発明特定事項については,本件明細書等において,請求項の「投映機」に相当する「(複数台の場合を含む)プロジェクター16」や「センタープロジェクター24」が移動するとの記載はなく,訂正後の請求項2に記載された発明が,傾斜投映モードの場合に,水平投映モードの場合に対して,正面側に傾斜投映モードの傾斜角の分揃ってシフトさせるに際し,画像コンテンツの描画データを変換することで実現していることを踏まえれば,訂正事項2-3は,本件明細書等に実質的に記載されていることは明らかである。
したがって,訂正事項2-3は,本件明細書等との関係において,新たな技術的事項を導入するものではなく,当業者によって,本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるから,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
したがって,訂正事項2-3は,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項にも適合する。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は,訂正事項2によって請求項2の記載が訂正されたことにともない,請求項の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性をとるために,当該請求項2に対応する発明の詳細な説明の段落を訂正するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして,上記「(2)訂正事項2について」で検討したように,訂正事項2が,本件明細書等との関係において,新たな技術的事項を導入するものではなく,当業者によって,本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるから,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない以上,同様の訂正内容である訂正事項3についても,本件明細書等との関係において,新たな技術的事項を導入するものではなく,当業者によって,本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるから,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(4)独立特許要件について
請求項2ないし5に係る訂正については,特許異議の申立てがされているため,訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるかについての判断を要しない。
(5)小括
したがって,上記訂正請求による訂正事項1ないし3は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号,3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項1ないし5について訂正を認める。
第3 訂正後の請求項に係る発明について
1 訂正後の請求項に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1ないし5に係る発明(以下,訂正後の請求項1に係る発明を「本件特許発明1」という。また,項番に従い「本件特許発明2」などという。)は,以下のとおりのものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】一方向を正面としてその正面に向かって設置された観客席と,
前記観客席の上方に,前記観客席を覆って配置されたドームスクリーンと,
前記ドームスクリーンの内面に,前記観客席の観客に閲覧させる画像を投映する画像投映装置とを有するドームスクリーン投映施設であって,
前記ドームスクリーンは,
前記観客席に対して天頂より正面側のスクリーンエッジから天頂より背面側のスクリーンエッジにわたる映像エリアを有するとともに,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジから天頂を経て背面側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく,
前記画像投映装置は,
前記正面側のスクリーンエッジから前記背面側のスクリーンエッジに至る前記映像エリアの全体を包含する投映範囲を有するものであるとともに,
投映範囲の異なる複数の投映機により構成されており,
前記映像エリアにおける天頂を中心とする領域を投映対象とする水平投映モードと,
前記映像エリアにおける天頂よりも正面側に傾斜した位置を中心とする領域を投映対象とする傾斜投映モードとを有し,
水平投映モード用か傾斜投映モード用かの区別があらかじめ付与された画像コンテンツについて,前記画像コンテンツに付与された前記区別に基づき,
水平投映モード用の画像コンテンツであれば前記水平投映モードを選択し,
傾斜投映モード用の画像コンテンツであれば前記傾斜投映モードを選択して投映を行うとともに,
前記水平投映モードと前記傾斜投映モードとのいずれの投映モードを用いるかにより,前記複数の投映機の投映範囲を,いずれの前記投映機を移動させることなく,前記画像コンテンツの描画データを変換することによって,前記傾斜投映モードの場合には前記水平投映モードの場合に対して,正面側に前記傾斜投映モードの傾斜角の分揃ってシフトさせるように構成されていることを特徴とするドームスクリーン投映施設。
【請求項3】請求項2に記載のドームスクリーン投映施設であって,前記画像投映装置を構成する前記複数の投映機に,
前記ドームスクリーンの周辺部であって前記観客席より高い位置に設けられた複数のものが含まれることを特徴とするドームスクリーン投映施設。
【請求項4】請求項3に記載のドームスクリーン投映施設であって,前記画像投映装置を構成する前記複数の投映機に,
前記ドームスクリーンの内部の床面上の,前記観客席から見て前記正面側の位置に設けられたものが含まれることを特徴とするドームスクリーン投映施設。
【請求項5】請求項2から請求項4までのいずれか1つに記載のドームスクリーン投映施設であって,前記画像投映装置を構成する前記複数の投映機に,
前記ドームスクリーンの内部の床面の中央の位置に設けられたものが含まれることを特徴とするドームスクリーン投映施設。」
2 取消理由通知に記載した取消理由について
令和2年7月21日付け取消理由(決定の予告)の概要
本件特許発明1ないし本件特許発明5には,引用文献1に記載された引用発明1と周知技術1ないし6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本件の請求項1ないし5に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,特許法第113条第1項第2号に該当し,取り消されるべきものである。
3 当審の判断
(1)本件特許発明2について
ア 引用文献1の記載事項
取消理由(決定の予告)において引用された引用文献1(特開昭59-228285号公報)には,以下の記載がある。
(ア)「本発明の構成を図に示す実施例について説明する。第5図ないし第7図は本発明の第1実施例であって,投映機1は水平な上半球2の中心Oに配設され,スクリーン3は,上半球2と,下半球側の床面5との間に形成される球帯の南S側の半分の帯状球面2a(第7図の斜線で示した部分)とによって構成されている。床面5に設置される観客席4は,下半球側の前記帯状球面2aに向けて直線的に下方に傾斜するように設けられ,後側の観客席4からもスクリーン3の帯状球面2aに投映された映像がよく見えるようにしている。
プラネタリウムをこのように構成した場合,天文教育のカリキユラムに欠くことのできない球面座標,例えば地平座標系の垂直圏目盛,子午線目盛および水平線目盛を,それぞれ第7図に示す垂直圏V,子午線NZSおよび天文学的地平線Hに沿って完全に投映することができ,天文教育の投映に必要な機能を備えさせることができる。
また,観客席4の前面側の下半球に,床面5に達する帯状球面2aを設けて投映機1による映像を観客の視点以下にも投映できるようにしたから,「目の前は足もとから全て画面(投映像)」という動的で,しかも新鮮な視野と驚きを観客に与えることができ,映像と観客との一体感をより密接にして投映効果の向上を図ることができる。この投映効果は,特殊なショー効果を演出しようとするとき,最も効果的に発揮される。」(第3ページ右下欄第2行~第4ページ左上欄第13行)
(イ)第5図ないし第7図から,観客席4は,一方向を向いて配置されていることが看て取れる。
(ウ)第5図ないし第7図から,上半球2と,下半球側の床面5との間に形成される球帯の南S側の半分の帯状球面2aからなるスクリーン3は,観客席4の上方に,前記観客席4を覆って配置されたドームスクリーンであることが看て取れ,ドームの内面がスクリーンであることは自明である。
(エ)第5図ないし第7図から,スクリーン3は,観客席4に対して天頂より前面側のスクリーンエッジから天頂より後面側のスクリーンエッジにわたる画面を有することが看て取れる。
(オ)第5図ないし第7図から,上半球2と,下半球側の床面5との間に形成される球帯の南S側の半分の帯状球面2aとによって構成されているスクリーン3の画角は,180°より大きいことが看て取れる。
(カ)上記摘記事項ア及び第5図ないし第7図から,投映機1は,前面側のスクリーンエッジから後面側のスクリーンエッジに至る画面の全体を包含する投映範囲を有することが看て取れる。
(キ)第5図ないし第7図から,下半球側の床面5との間に形成される球帯の南S側の半分の帯状球面2aは,上半球2の水平面2Hより下に食い込んでいることが看て取れる。
(ク)上記摘記事項アから,天文教育のカリキユラムに欠くことのできない球面座標,例えば地平座標系の垂直圏目盛,子午線目盛および水平線目盛を,それぞれ第7図に示す垂直圏V,子午線NZSおよび天文学的地平線Hに沿って完全に投映する「天文教育の投映」用の画像コンテンツが,投映機1によって投映されることと,このような画像コンテンツが水平な上半球2に投映されることが理解できる。
(ケ)上記摘記事項アから,「目の前は足もとから全て画面(投映像)」という動的で,しかも新鮮な視野と驚きを観客に与えることができ,映像と観客との一体感をより密接にして投映効果の向上を図ることができる「特殊なショー効果」用の画像コンテンツが,投映機1によって投映されることと,このような画像コンテンツが少なくとも下半球側の前記帯状球面2aにも投映されることが理解できる。
イ 引用文献1に記載の発明について
上記(ア)ないし(ケ)より,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「一方向に向かって設置された観客席と,前記観客席の上方に,前記観客席を覆って配置されたドームスクリーンと,前記ドームスクリーンの内面に,前記観客席の観客に閲覧させる画像を投映する投映機とを有するプラネタリウムであって,
前記ドームスクリーンは,
前記観客席に対して天頂より前面側のスクリーンエッジから天頂より後面側のスクリーンエッジにわたる画面を有するとともに,
前記画面の正面側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,
前記画面の正面側のスクリーンエッジから天頂を経て後面側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく,
前記投映機は,
前記正面側のスクリーンエッジから前記後面側のスクリーンエッジに至る前記映像エリアの全体を包含する投映範囲を有するものであるとともに,
水平な上半球2に投映する「天文教育の投映」用の画像コンテンツと,
少なくとも下半球側の前記帯状球面2aにも投映する「特殊なショー効果」用の画像コンテンツと,を投映するプラネタリウム。」
ウ 取消理由(決定の予告)において認定した周知技術1ないし6について
取消理由(決定の予告)において,周知技術が記載されているとした文献1(特開2010-28830号公報),文献2(特開2006-215231号公報)には,以下の周知技術1ないし6が記載されている。(以下、周知技術が記載されているとした文献1及び2を、それぞれ「周知技術文献1」、「周知技術文献2」という。)
周知技術1:「画像表示制御の技術分野において,画像コンテンツのモード(属性)を区別できるような情報を付与し,その情報に基づいて画像表示を行う機器の制御を行うこと」が,周知技術文献1に記載されている。
周知技術2:「投映範囲の異なる複数の投映機により画像投映装置が構成されているドームスクリーン投映施設,及び,投映する画像によって投映範囲の異なる複数の投映機を揃って変更すること」が,周知技術文献2に記載されている。
周知技術3:「投映範囲の異なる複数の投映機により画像投映装置が構成されているドームスクリーン投映施設において,複数の投映機をドームスクリーンの周辺部に設けること」が,周知技術文献2に記載されている。
周知技術4:「投映範囲の異なる複数の投映機により画像投映装置が構成されているドームスクリーン投映施設において,複数の投映機をドームスクリーンの周辺部に設けたものと,ドームスクリーンの内部の床面上に設けたものから構成すること」が,周知技術文献2に記載されている。
周知技術5:「投映範囲の異なる複数の投映機により画像投映装置が構成されているドームスクリーン投映施設において,複数の投映機をドームスクリーンの周辺部に設けたものと,ドームスクリーンの内部の床面の中央の位置に設けたものから構成すること」が,周知技術文献2に記載されている。
周知技術6:「複数の電子式投映機の出力映像を描画データの変換によって補正すること」が,周知技術文献2に記載されている。
エ 対比
本件特許発明2と,引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「一方向に向かって設置された観客席」について,ドームスクリーン内にある観客席は,観客席に座る観客が向く方向である「一方向」を「正面」としていることは明らかであるから,本件特許発明2の「一方向を正面としてその正面に向かって設置された観客席」に相当する。
(イ)引用発明1の「ドームスクリーン」は,本件特許発明2の「ドームスクリーン」に相当する。
(ウ)引用発明1の「投映機」は,本件特許発明2の「画像投映装置」に相当する。
(エ)引用発明1の「観客席に対して天頂より前面側のスクリーンエッジ」は,本件特許発明2の「観客席に対して天頂より正面側のスクリーンエッジ」に相当する。
(オ)引用発明1の「観客席に対して天頂より前面側のスクリーンエッジから天頂より後面側のスクリーンエッジにわたる画面」は,本件特許発明2の「観客席に対して天頂より正面側のスクリーンエッジから天頂より背面側のスクリーンエッジにわたる映像エリア」に相当する。
(カ)引用発明1の「前記画面の正面側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,前記画面の正面側のスクリーンエッジから天頂を経て後面側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく」は,本件特許発明2の「水平投映モード用の画像コンテンツ」とは,「前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジから天頂を経て背面側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく」に相当する。
(キ)引用発明1の「水平な上半球2に投映する「天文教育の投映」用の画像コンテンツ」と,本件特許発明2の「水平投映モード用の画像コンテンツ」とは,「ドームスクリーンの映像エリアにおける天頂を中心とする領域を投映対象」とする点において共通する。
(ク)引用発明1の「少なくとも下半球側の前記帯状球面2aにも投映する「特殊なショー効果」用の画像コンテンツ」と,本件特許発明2の「水平投映モード用の画像コンテンツ」とは,「ドームスクリーン映像エリアにおける天頂よりも正面側に傾斜した位置を中心とする領域を投映対象」とする点において共通する。
(ケ)引用発明1の投映機は「水平な上半球2に投映する「天文教育の投映」用の画像コンテンツ」と「少なくとも下半球側の前記帯状球面2aにも投映する「特殊なショー効果」用の画像コンテンツ」を投映可能であって,それぞれのコンテンツを投映するための何らかの「モード」を有していることは明らかであるから,「映像エリアにおける天頂を中心とする領域を投映対象とする水平投映モード」と「映像エリアにおける天頂よりも正面側に傾斜した位置を中心とする領域を投映対象とする傾斜投映モード」を有する点において,本件特許発明2の「画像投映装置」に共通する。
したがって,本件特許発明2と引用発明1とは,以下の一致点で一致し,相違点で相違する。
〈一致点〉
「一方向を正面としてその正面に向かって設置された観客席と,
前記観客席の上方に,前記観客席を覆って配置されたドームスクリーンと,
前記ドームスクリーンの内面に,前記観客席の観客に閲覧させる画像を投映する画像投映装置とを有するドームスクリーン投映施設であって,
前記ドームスクリーンは,
前記観客席に対して天頂より正面側のスクリーンエッジから天頂より背面側のスクリーンエッジにわたる映像エリアを有するとともに,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,
前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジから天頂を経て背面側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく,
前記画像投映装置は,
前記正面側のスクリーンエッジから前記背面側のスクリーンエッジに至る前記映像エリアの全体を包含する投映範囲を有するものであるとともに,
前記映像エリアにおける天頂を中心とする領域を投映対象とする水平投映モードと,
前記映像エリアにおける天頂よりも正面側に傾斜した位置を中心とする領域を投映対象とする傾斜投映モードとを有するドームスクリーン投映施設。」
〈相違点1〉
本件特許発明2の画像投映装置は「投映範囲の異なる複数の投映機により構成」されているのに対し,引用発明1の投映機は「投映範囲の異なる複数」の投映機で構成されていない点。
〈相違点2〉画像コンテンツに関し,本件特許発明2においては「水平投映モード用か傾斜投映モード用かの区別があらかじめ付与された画像コンテンツ」であるのに対し,引用発明1においては,そのような区別があらかじめ付与されたものであるか不明である点。
〈相違点3〉
本件特許発明2は「水平投映モード用か傾斜投映モード用かの区別があらかじめ付与された画像コンテンツについて,前記画像コンテンツに付与された前記区別に基づき,水平投映モード用の画像コンテンツであれば前記水平投映モードを選択し,傾斜投映モード用の画像コンテンツであれば前記傾斜投映モードを選択して投映を行う」ものであるのに対し,引用発明1は,画像コンテンツに付与された区別を有するものであるかは不明であり,該区別に基づくモードを選択する投映を行うものかについても不明である点。
〈相違点4〉
本件特許発明2は「複数の投映機の投映範囲を,いずれの前記投映機を移動させることなく,画像コンテンツの描画データを変換することによって,前記傾斜投映モードの場合には前記水平投映モードの場合に対して,正面側に前記傾斜投映モードの傾斜角の分揃ってシフトさせる」ものであるのに対し,引用発明1は「少なくとも下半球側の前記帯状球面2aにも投映する「特殊なショー効果」用の画像コンテンツ」を投映する際に投映機が移動するか否か,画像コンテンツの描画データを変換するか否かについて不明である点。
オ 判断
事案に鑑み,相違点4について検討する。
相違点4に係る本件特許発明2の発明特定事項(以下,「相違点4発明特定事項」という。)は,上記周知技術が記載された文献1及び2に記載された周知技術1ないし6を考慮したとしても,当業者が容易に想到し得たとはいえず,また,相違点4発明特定事項が周知技術であると認めることもできない。
さらに,相違点4発明特定事項は,複数の投映機を備える投映施設を前提としたものであるから,相違点4発明特定事項が公知技術であったとしても,そもそも投映範囲の異なる複数の投映機を備えるものではない引用発明1に,相違点4発明特定事項を適用する動機付けはなく,当業者が容易に想到し得えるとはいえない。
したがって,当業者といえども,本件特許発明2が引用発明1から容易に想到することができないといわざるを得ず,本件特許発明2は引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(2)本件特許発明3ないし5について
請求項3ないし5は,本件特許発明2である請求項2に係る発明を直接的に,または間接的に引用しており,本件特許発明2が引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件特許発明2に新たな発明特定事項を付加して限定した請求項3ないし5に係る特許も,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない
(3)小括
本件特許発明2は,引用文献1に記載された引用発明1と周知技術1ないし6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項2に係る特許,請求項2を引用する請求項3ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
なお,上記取消理由の対象となっていた本件特許発明1に係る請求項1は,令和2年9月24日付け訂正請求により,削除された。
第4 異議申立人の意見について
異議申立人は,令和3年2月7日付け意見書において 「訂正後の請求項2は,訂正前に含まれていない技術的事項を,訂正により含むため,実質上請求項2の範囲を変更または,新規事項を追加するものである」旨主張し,具体的には「投映モードの選択および描画データの変換が,画像コンテンツに付与された情報によって自動的に行われるものである」点,「複数の投映機の投映範囲を,いずれの前記投映機を移動させることなく,(前記画像コンテンツの描画データを変換することによって,前記傾斜投映モードの場合には前記水平投映モードの場合に対して,正面側に前記傾斜投映モードの傾斜角の分)揃ってシフトさせる」点が,それぞれ,請求項2の範囲を変更すること,新規事項を追加するものであるとしている。
まず,「複数の投映機の投映範囲を,いずれの前記投映機を移動させることなく,(前記画像コンテンツの描画データを変換することによって,前記傾斜投映モードの場合には前記水平投映モードの場合に対して,正面側に前記傾斜投映モードの傾斜角の分)揃ってシフトさせる」点が,新規事項を追加するものである,つまり,本件明細書等との関係において,新たな技術的事項を導入するものであり,当業者によって,本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項ではなく,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではないかについて検討する。
本件明細書等には以下の記載がある。
1 「【0034】
図7のフローではまず,傾斜角度φの入力を受けつける(S1)。すなわち,図5中の角度φを,操作者が操作用入力装置19により指定するのである。図4の水平投映モードを用いようとする場合には,角度φを0°とすればよい。S1では具体的には,角度φの入力操作を操作員に促す画像を操作用表示装置21に表示する。
【0035】
そこで操作員は,角度φの値を操作用入力装置19に実際に入力する(S2)。通常は,投映しようとする画像コンテンツの種類に応じて角度φを指定すればよい。すなわち,星野の投映をする場合には,角度φとして0°を入力すればよい。これにより,水平投映モードが選択されることとなる。一方,エンタメ等の全天映像を投映しようとする場合には,角度φとして正の値を入力すればよい。これにより,傾斜投映モードが選択される。角度φの値としては,前述の通り通常は角度ψと同じ値でよいが,それに限定されるものではない。
【0036】
そして,S2での入力値に応じて,描画の演算を行う(S3)。すなわち,当該画像コンテンツの描画データを,指定された角度φの値に応じて変換する。この演算は,図6に示した各画像生成装置23で行われる。このため各画像生成装置23には,S2で入力された角度φの値が操作用制御装置20から提供されている。この演算により,投映モードに応じた描画データが生成される。したがってこの演算により,各プロジェクター16の投映領域がシフトすることがある。例えば,もともと,エンタメ的な内容であるものの水平投映を前提に作られた画像コンテンツがあったとして,これにS2で傾斜投映モードを指定したとする。すると,角度φの分,画像の投映位置が正面側に向かってシフトすることになる。これに伴う演算が各画像生成装置23でそれぞれ行われることで,各プロジェクター16の投映領域が角度φの分揃ってシフトすることとなる。
【0037】
演算結果は,各画像生成装置23内でグラフィックボードに転送される(S4)。そして描画データは,各画像生成装置23に繋がっているプロジェクター16に出力される。各プロジェクター16はこれを受けて,ドームスクリーン11への投映を実行する。こうして,当該画像コンテンツについて,図4もしくは図5に示した投映が実行される。」
2「【0038】
このフローの説明の冒頭において,いずれの投映モードを用いるかの指定があらかじめなされていない画像コンテンツを対象とする旨を述べた。しかしこれに限らず,使用すべき投映モードがあらかじめ指定されている画像コンテンツを対象とすることもできる。その場合,当該画像コンテンツに指定されている投映モードに自動的に従うように構成されている。ただし,その機能を使わず,指定されている投映モードに従って,前記S2において操作員が角度φを入力することも可能である。傾斜投映モードの場合の角度φの値までは指定されていない場合には,角度ψと同じ値を入力すればよい。なお,指定されている投映モードと無関係に操作員が自分の判断で角度φを入力することも事実上可能である。
【0039】
画像コンテンツにおける投映モードの指定に自動的に従う機能を使用する場合には,画像コンテンツにおける当該指定に関する情報が操作用制御装置20に入力されると,操作用制御装置20では前記S2の入力がなされたものと見なしてS3以下の処理を実行することになる。なお,画像コンテンツの種別(天文,エンタメ,広告,広報,等のジャンルの違い)に応じて,自動的に操作用制御装置20で投映モードを選択するように構成することもできる。例えば,画像コンテンツの種別の情報が操作用制御装置20に入力されると,天文ジャンルであれば水平投映モードを,天文ジャンル以外のジャンルのものであれば傾斜投映モードを,操作用制御装置20が自動的に指定するようにするのである。」
3 「【0040】
さらに,連続して上映される一連の画像コンテンツ群について,使用する投映モードをあらかじめスケジューリングしておくことができる。すなわち,一連上映を開始する前に,個々の画像コンテンツで使用する投映モードをあらかじめ指定しておくのである。図8にそのためのスケジューリング例を示す。このようなコンテンツの上映順序表を操作用表示装置21に表示して,その「モード」の欄に,投映モードの種類もしくは角度φの値を,操作員に入力させるのである。図8では「モード」の欄は空白になっているが,この欄の入力を完了してから上映を開始させればよい。もちろんこの場合でも,個々の画像コンテンツについてあらかじめ固有の投映モードの指定がなされていてもよいし,「ジャンル」に基づく投映モードの自動指定をしてもよい。
【0041】
そうすると,図8の表中の「番号」に従って上から順に,各コンテンツが上映される。そして,各コンテンツの開始時に自動的に図7のフローが実施され,その際のS2では,図8の表中の「モード」の欄に前述のように入力した内容が自動的に設定される。これにより,上映の進捗に応じて自動的に投映モードが選択されて,順次画像コンテンツの投映がなされる。」
4 上記の摘記した段落に記載される「S2」,「S3」については,ドームスクリーン投映施設の画像の投映のフローチャートを示す【図7】には「S2:星野を投映する場合は0°,全天映像を出す場合はφに設定」,「S3:CPUにて,設定に基づき,描画演算」と記載されている。
上記1では,操作員が角度φの値を入力する場合の手順が記載されている。
上記2では,上記1の記載を踏まえ,使用すべき投映モードがあらかじめ指定されている画像コンテンツを対象とした場合,当該画像コンテンツに指定されている投映モードに自動的に従うように構成されていること,画像コンテンツにおける投映モードの指定に自動的に従う機能を使用する場合には,画像コンテンツにおける当該指定に関する情報が操作用制御装置20に入力されると,操作用制御装置20では前記S2の入力がなされたものと見なしてS3以下の処理を実行することになることが記載されている。
ここで,「指定」とは,「画像コンテンツに指定されている投映モード」のことである。
また,【0038】の「ただし,その機能を使わず,指定されている投映モードに従って,前記S2において操作員が角度φを入力することも可能である。傾斜投映モードの場合の角度φの値までは指定されていない場合には,角度ψと同じ値を入力すればよい。なお,指定されている投映モードと無関係に操作員が自分の判断で角度φを入力することも事実上可能である。」については,画像コンテンツにおける投映モードの指定に自動的に従う機能を使用する場合であっても,操作員が角度φを入力することができることを述べているだけのことであって,画像コンテンツにおける投映モードの指定に自動的に従う機能を使用する場合に,必ず操作員による角度φの入力を必要とすることを述べているものではない。
上記3では,一連上映の場合,スケジューリングされた個々の画像コンテンツの「ジャンル」に基づく投映モードの自動指定が可能であり,各コンテンツの開始時に自動的に図7のフローが実施され,その際のS2では,図8の表中の「モード」の欄に前述のように入力した内容が自動的に設定され,上映の進捗に応じて自動的に投映モードが選択されて,順次画像コンテンツの投映がなされることが記載されている。
また,画像コンテンツにおける投映モードの指定に自動的に従う機能を使用する場合,上記4の記載を踏まえると,CPUは,たとえば,投映モードの指定に含まれる「星野を投映する場合は0°」,「全天映像を出す場合はφ」という設定に基づき,自動的に描画演算することは明らかである。
したがって,本件明細書等には,「複数の投映機の投映範囲を,いずれの前記投映機を移動させることなく,(前記画像コンテンツの描画データを変換することによって,前記傾斜投映モードの場合には前記水平投映モードの場合に対して,正面側に前記傾斜投映モードの傾斜角の分)揃ってシフトさせる」こと,が記載されていると認められ,訂正後の請求項2は,いわゆる新規事項を追加するものではない。
次に,「投映モードの選択および描画データの変換が,画像コンテンツに付与された情報によって自動的に行われるものである」点が,請求項2の範囲を変更することに該当するか検討する。
訂正前の請求項2には「前記水平投映モードと前記傾斜投映モードとのいずれの投映モードを用いるかにより,前記複数の投映機の投映範囲を揃って変更する」と記載されているから,訂正前の請求項2の画像投影装置は,投映モードが定まれば,それに伴って複数の投映機の投映範囲を揃って変更するものであることが特定されていることは明らかである。
そして,該請求項2が引用する,訂正前の請求項1には,「前記画像コンテンツに付与された前記区別に基づき,水平投映モード用の画像コンテンツであれば前記水平投映モードを選択し,傾斜投映モード用の画像コンテンツであれば前記傾斜投映モードを選択して投映を行うように構成されている」と記載されているから,画像投映装置が,画像コンテンツに付与された区別に基づき,投映モードを選択して投映を行うものであることは明らかである。
つまり,訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2には「画像コンテンツに付与された区別に基づき,水平投映モード用の画像コンテンツであれば水平投映モードを選択し,傾斜投映モード用の画像コンテンツであれば傾斜投映モードを選択して投映を行うとともに,水平投映モードと傾斜投映モードとのいずれの投映モードを用いるかにより,複数の投映機の投映範囲を揃って変更する画像投映装置」が特定され,これは,上記の新規事項の追加で検討したように,たとえば,投映モードの指定に含まれる「(水平投映モード用の画像コンテンツである)星野を投映する場合は0°」,「(傾斜投映モード用の画像コンテンツである)全天映像を出す場合はφ」という設定に基づき,自動的に描画演算するものという,ドームスクリーン投映施設のCPUの機能を特定しているものと認められる。
したがって,「投映モードの選択および描画データの変換が,画像コンテンツに付与された情報によって自動的に行われるものである」点については,訂正前の請求項2に記載されていたものと認められるから,訂正によって請求項2の範囲が変更されたと認めることはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は,特許異議申立書において,訂正前の特許請求の範囲に関し,以下のとおり主張する。
請求項1ないし5に記載される本件特許発明1ないし5は,甲第1号証に記載された甲1発明または甲第2号証に記載された甲2発明,甲第3号証~甲第6号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。
異議申立人の主張は,甲第1号証に記載された甲1発明を主引用例とするものと,甲第2号証に記載された甲2発明を主引用例とするものとの2つの主張であるため,分けて検討する。
1 甲第1号証に記載された甲1発明を主引用例とするもの
(1)本件特許発明2について
甲第1号証は,令和2年7月21日付け取消理由(決定の予告)における引用文献1であるから,甲1発明はこの異議の決定における引用発明1(「第3 訂正後の請求項に係る発明について」,「3 当審の判断」,「イ 引用文献1に記載の発明について」参照)であり,本件特許発明2と甲1発明とを対比すると,「第3 訂正後の請求項に係る発明について」,「3 当審の判断」,「ウ 対比」で検討したとおりの相違点1ないし4が存在する。
そして,甲第3号証ないし甲第6号証には,特に相違点4発明特定事項については,記載も示唆もなく,相違点4発明特定事項が周知技術であると認めることもできない。
また,相違点4発明特定事項は,複数の投映機を備える投映施設を前提としたものであるから,該相違点4発明特定事項が公知技術であったとしても,そもそも投映範囲の異なる複数の投映機を備えるものではない甲1発明に,相違点4発明特定事項を適用する動機付けはなく,当業者が容易に想到し得えるとはいえない。
したがって,当業者といえども,本件特許発明2が甲1発明から容易に想到することができないといわざるを得ず,本件特許発明2は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(2)本件特許発明3ないし5について
請求項3ないし5は,本件特許発明2である請求項2に係る発明を直接的に,または間接的に引用しており,本件特許発明2が甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件特許発明2に新たな発明特定事項を付加して限定した請求項3ないし5に係る特許も,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(3)小括
本件特許発明2は甲第1号証に記載された甲1発明,甲第3号証ないし甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件の請求項2に係る特許,請求項2を引用する請求項3ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって,特許異議申立人のかかる主張は,採用することができない。
2 甲第2号証に記載された甲2発明を主引用例とするもの
(1)本件特許発明2について
ア 甲第2号証(特開2009-282535号公報)の記載事項
甲第2号証には,以下の記載がある。
(ア)「【0015】
ここで図2A及び図2Bを参照して,本発明のいくつかの実施形態による,投影される画素を一定角度で分離する傾斜可能な光学的投影システムを説明する。光学的投影システム10は,角度θで示すように隣接する画素間が一定の角度で分離された画素のアレイ12を投影する。この角度θは,隣接する画素12a~12nの間で一定である。さらに,この光学的投影システム10は,画素のアレイ12を180°よりも大きい投影角度で投影するように構成される。図2A及び図2Bに示すように,光学的投影システム10は,角度が一定に分離された画素のアレイ12を先端が切り取られた半球形のドーム20の内面20a上へと投影する。180°よりも大きい光学的投影システム10はf-θ逆望遠レンズと呼ぶことができる。ここでfはレンズの焦点距離であり,θは投影角度である。本発明の実施形態は画素を半球形の表面上へと投影することに関連して本願で説明されるが,限定はされないが,超半球形表面(hyper-hemispherical surface)及び楕円形表面を含むどのようなスクリーン表面をも使用できることは理解されよう。」
(イ)「【0018】
傾斜手段又は照準手段を組み込むことによって,光学的投影システム10は,図2Aに示すようにプラネタリウム投影式で縦方向の上方に,又は図2Bに示すように劇場投影位置で垂直線からある角度(例えば,45度)で投影することができる。一般に,図2Aに示すようにプラネタリウム方式で投影する場合には,観客領域22は投影システム10を取り巻く。これとは対照的に,劇場方式で投影する場合には,観客領域22’は一般に光学的投影システム10の後にあり,観客が彼らの前の全視野を見ることができるように,観客領域22’は高くされている。従って,種々の観客の配置を取り入れることができる。」
(ウ)【図2】から,「映像エリアのスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,前記映像エリアの一方側のスクリーンエッジから天頂を経て他方側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きい」ことが,看て取れる。
(エ)【図2】から,「光学的投影システムは,一方側のスクリーンエッジから他方側のスクリーンエッジに至る画面の全体を包含する投映範囲を有する」ことが看て取れる。
イ 甲第2号証に記載の発明について
上記(ア)ないし(エ)より,甲第2号証には,次の発明(以下,「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「光学的投影システムは,角度が一定に分離された画素のアレイを先端が切り取られた半球形のドームの内面上へと投影する光学的投影システムであって,
映像エリアのスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,前記映像エリアの一方側のスクリーンエッジから天頂を経て他方側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく,
光学的投影システムは,一方側のスクリーンエッジから他方側のスクリーンエッジに至る画面の全体を包含する投映範囲を有し,
プラネタリウム投影式では,縦方向の上方に,劇場投影位置では垂直線からある角度(例えば,45度)で投影することができ,
プラネタリウム方式で投影する場合には,観客領域は投影システムを取り巻き,劇場方式で投影する場合には,観客領域は一般に光学的投影システムの後にあり,観客が彼らの前の全視野を見ることができるように,観客領域は高くされている光学的投影システム」
ウ 対比
本件特許発明2と,甲2発明を対比する。
(ア)甲2発明の「観客領域」と本件特許発明2の「観客席」とは,投映された映像を見る「観客が存在する場所」である点で共通する。
(イ)甲2発明の「ドームの内面」は,本件特許発明2の「ドームスクリーン」に相当する。
(ウ)甲2発明の「光学的投影システム」は,本件特許発明2の「画像投映装置」に相当する。
(エ)甲2発明の「映像エリアのスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,前記映像エリアの一方側のスクリーンエッジから天頂を経て他方側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく」と,本件特許発明2の「前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,前記映像エリアの正面側のスクリーンエッジから天頂を経て背面側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく」とは,ドーム内のスクリーンエッジの範囲において「前記映像エリアの一方側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,前記映像エリアの一方側のスクリーンエッジから天頂を経て他方側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく」されている点において共通する。
(オ)甲2発明の「光学的投影システムは,一方側のスクリーンエッジから他方側のスクリーンエッジに至る画面の全体を包含する投映範囲を有」しと,本件特許発明2の「前記画像投映装置は,前記正面側のスクリーンエッジから前記背面側のスクリーンエッジに至る前記映像エリアの全体を包含する投映範囲を有」するとは,画像を投映する装置の投映範囲において「一方側のスクリーンエッジから他方側のスクリーンエッジに至る画面の全体を包含する」点で共通する。
したがって,本件特許発明2と甲2発明とは,以下の一致点で一致し,相違点で相違する。
〈一致点〉
観客が存在する場所と,
前記観客が存在する場所の上方に,前記観客が存在する場所を覆って配置されたドームスクリーンと,
前記ドームスクリーンの内面に,前記観客が存在する場所の観客に閲覧させる画像を投映する画像投映装置とを有するドームスクリーン投映施設であって,
前記ドームスクリーンは,
前記観客が存在する場所に対して天頂より一方側のスクリーンエッジから天頂より他方側のスクリーンエッジにわたる映像エリアを有するとともに,
前記映像エリアの一方側のスクリーンエッジが水平面よりも下に食い込んでおり,
前記映像エリアの一方側のスクリーンエッジから天頂を経て他方側のスクリーンエッジに至るスクリーン画角が180°より大きく,
前記画像投映装置は,
前記一方側のスクリーンエッジから前記他方側のスクリーンエッジに至る画面の全体を包含する投映範囲を有しているドームスクリーン投映施設。
〈相違点1〉
本件特許発明2の画像投映装置は「投映範囲の異なる複数の投映機により構成」されているのに対し,甲2発明の投映機は「投映範囲の異なる複数」の投映機で構成されていない点。
〈相違点2〉画像コンテンツに関し,本件特許発明2においては「水平投映モード用か傾斜投映モード用かの区別があらかじめ付与された画像コンテンツ」であるのに対し,甲2発明においては,そのような区別があらかじめ付与されたものであるか不明である点。
〈相違点3〉
本件特許発明2は「水平投映モード用か傾斜投映モード用かの区別があらかじめ付与された画像コンテンツについて,前記画像コンテンツに付与された前記区別に基づき,水平投映モード用の画像コンテンツであれば前記水平投映モードを選択し,傾斜投映モード用の画像コンテンツであれば前記傾斜投映モードを選択して投映を行う」ものであるのに対し,甲2発明は,画像コンテンツに付与された区別を有するものであるかは不明であり,該区別に基づくモードを選択する投映を行うものかについても不明である点。
〈相違点4〉
本件特許発明2は「複数の投映機の投映範囲を,いずれの前記投映機を移動させることなく,画像コンテンツの描画データを変換することによって,前記傾斜投映モードの場合には前記水平投映モードの場合に対して,正面側に前記傾斜投映モードの傾斜角の分揃ってシフトさせる」ものであるのに対し,甲2発明は「プラネタリウム投影式では,縦方向の上方に,劇場投影位置では垂直線からある角度(例えば,45度)」で投影するものの,劇場投影位置で投映する際に投映機が移動するか否か,画像コンテンツの描画データを変換するか否かについて不明である点。
エ 判断
事案に鑑み,相違点4について検討する。
甲第3号証ないし甲第6号証には,特に相違点4発明特定事項については,記載も示唆もなく,相違点4発明特定事項が周知技術であると認めることもできない。
また,相違点4発明特定事項は,複数の投映機を備える投映施設を前提としたものであるから,該相違点4発明特定事項が公知技術であったとしても,そもそも投映範囲の異なる複数の投映機を備えるものではない甲2発明に,相違点4発明特定事項を適用する動機付けはなく,当業者が容易に想到し得えるとはいえない。
したがって,当業者といえども,本件特許発明2が甲2発明から容易に想到することができないといわざるを得ず,本件特許発明2は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(2)本件特許発明3ないし5について
請求項3ないし5は,本件特許発明2である請求項2に係る発明を直接的に,または間接的に引用しており,本件特許発明2が甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件特許発明2に新たな発明特定事項を付加して限定した請求項3ないし5に係る特許も,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(3)小括
本件特許発明2は甲第2号証に記載された甲2発明,甲第3号証ないし甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項2に係る特許,請求項2を引用する請求項3ないし5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって,特許異議申立人のかかる主張は,採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項2乃至5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件の請求項2乃至5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件の請求項1は,令和2年9月24日付け訂正請求により,削除されたため,請求項1に係る申立ては,申立ての対象が存在しないものとなり,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
したがって,上記結論のとおり決定する。
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2019-700961