特許異議申立
2019-700499
ホウ素中性子捕捉療法システム
- 審判番号
- 2019-700499
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-120054
- 登録番号
- 特許第6442697号(P6442697)
- 請求日
- 2019年06月24日
- 審決日
- 2020年12月25日
- 公報発行日
- 2021年04月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】フジデノロ株式会社
- 【権利者代理人】池田 治幸
- 【権利者代理人】池田 光治郎
- 【権利者】株式会社CICS
- 【権利者代理人】池田 治幸
- 【権利者代理人】池田 光治郎
- 【異議申立人】桜井 裕
- 審判長/審判官
- 審判長 千壽 哲郎
- 審判官 栗山 卓也
- 審判官 内藤 真徳
- 分類
- P1651.113-YAA(A61N) / P1651.121-YAA(A61N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6442697号発明「ホウ素中性子捕捉療法システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6442697号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第6442697号の請求項1-3、5-10に係る特許を維持する。
特許第6442697号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第6442697号(以下「本件特許」という。)の請求項1-10に係る特許についての出願は、平成30年12月7日にその特許権の設定登録がされ、同月26日に特許掲載公報が発行された。
令和1年6月24日に特許異議申立人桜井裕(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされたところ、その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和1年10月 9日付け 取消理由通知
12月10日 特許権者による意見書の提出
令和2年 3月31日付け 取消理由通知(決定の予告)
6月 2日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
7月20日 申立人による意見書の提出
第2 訂正の請求
1 訂正の内容
令和2年6月2日付け訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6442697号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-10について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、請求項4のすべての特定事項を付加する、すなわち、請求項1の「位置調整機構と、」に続けて、改行し、「前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、」を挿入する。さらに、請求項1の「前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構により変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部と」との記載を、「前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部と」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的もしくは間接的に引用する請求項2、3、5-10も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8における、「請求項4に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。」を「請求項1に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0006】における「位置調整機構と、」に続けて、「前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、」を挿入する。さらに、「前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構により変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部と」との記載を、「前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部と」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0007】における「位置調整機構と、」に続けて、「前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、」を挿入する。さらに、「前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構により変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部とを、」との記載を、「前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部とを、」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0010】を削除する。
(7)訂正事項7
明細書の段落【0014】における、「前記第4発明に従属する本第8発明の」を「前記第1発明に従属する本第8発明の」に訂正する。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
(ア)訂正事項1は、訂正前の請求項1に、当該請求項1を引用する請求項4の「前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、」との中性子線の照射方向に対する照射台の角度を調整するための構成を付加するものであって、特許請求の範囲を減縮するものである。
(イ)さらに、訂正事項1は、訂正前の請求項1の「制御部」が、「3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる」際の具体的な制御内容について、「前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させる」ことを特定するものであって、特許請求の範囲を減縮するものである。
(ウ)そして、訂正事項1は、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、3、5-10についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
(エ)よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、訂正前の請求項4の発明特定事項を請求項1に付加するものであり、また、訂正前の請求項1の「制御部」による「3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる」際の具体的制御内容を特定するものであるところ、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2、3、5-10について発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、訂正前の請求項4の発明特定事項を請求項1に付加するものであるとともに、願書に添付した明細書の「前記中性子線照射装置14における中性子線照射口14oに対して前記照射台16の位置決めを行う機構として、位置調整機構34、第1角度調整機構36、及び第2角度調整機構38を備えている。前記位置調整機構34は、相互に直交する3つの軸(並進軸)それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置14の照射口14oに対する前記照射台16の位置を変化させる。」(【0027】)との記載、「前記3次元診断装置18による診断に係る、前記被験者固定載置部22上における患部の中心(例えば、腫瘍中心)の位置座標(例えば、xyz座標)及び前記被験者8の姿勢に関する情報(例えば、ピッチング角及びローテーション角に相当する情報)が、前記制御部60(照射台16の制御システム)に対して出力される。」(【0049】)、「図10は、この位置合わせの様子を概略的に示す図である。先ず、前記3次元診断装置18による撮影に係る撮像基準点(例えば、CT原点)が、前記水平方向レーザ68a、68bの表示位置を結ぶ直線と、その直線に垂直な直線であって前記垂直方向レーザ70の表示位置を通る直線との交点(以下、レーザポインタ交点という)に合致するように、前記位置調整機構34等により前記照射台16が移動させられる。次に、前記撮像基準点に対応して付された目印(マーキング)と、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70による表示位置との照合が行われ、位置がずれている場合には、前記位置調整部62による例えば人的な操作により位置調整が行われる。次に、前記3次元診断装置18による診断において出力された前記被験者8の姿勢に関する情報に基づいて、前記第1角度調整機構36及び前記第2角度調整機構38により、前記中性子線照射口14oに対する前記照射台16のピッチング角及びローリング角が変更される。以上の位置調整により、前記制御部60に出力されたデータ上における前記患部の中心位置が、前記レーザポインタ交点に合致するように前記照射台16が移動させられる。次に、前記水平方向レーザ68a、68b及び前記垂直方向レーザ70により前記被験者8の体に表示される位置と、前記患部に対応して前記被験者8の体に付された目印(マーキング)の位置との照合が行われ、位置がずれている場合には、前記位置調整部62による例えば人的な操作により位置調整が行われる。すなわち、前記目印の付された位置との誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構34、前記第1角度調整機構36、及び前記第2角度調整機構38の少なくとも1つにより調整が行われる。好適には、この位置調整に係るピッチング角及びローリング角の中心(回転中心)は、前記レーザポインタ交点とされる。」(【0051】)との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項(同法第184条の19の規定により読み替える括弧書きの規定を含む)に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、訂正前の請求項4を削除するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、訂正前の請求項4の記載を削除するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、上記訂正事項1により、訂正前の請求項4の発明特定事項を請求項1に付加したことに応じて、請求項8が従属する請求項を請求項4から請求項1に変更することにより従属関係を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項3は、訂正前の請求項4の発明特定事項を請求項1に付加したことに応じて、請求項8が従属する請求項を請求項4から請求項1に変更することにより従属関係を整合させるものであるところ、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アの理由から明らかなように、訂正事項3は、訂正前の請求項4の発明特定事項を請求項1に付加したことに応じて、請求項8が従属する請求項を請求項4から請求項1に変更することにより従属関係を整合させるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項(同法第184条の19の規定により読み替える括弧書きを含む)に適合する。
(4)訂正事項4-7について
ア 訂正の目的について
訂正事項4-7は、訂正事項1-3により訂正前の請求項1、4、8が訂正されることに伴って、対応する願書に添付した明細書の段落【0006】、【0007】、【0010】及び【0014】の記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項4-7は、訂正事項1-3により訂正前の請求項1、4、8が訂正されることに伴って、対応する願書に添付した明細書の記載を整合させるものであるから、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
よって、訂正事項4-7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アの理由から明らかなように、訂正事項4-7は、訂正事項1-3により訂正前の請求項1、4、8が訂正されることに伴って、対応する願書に添付した明細書の記載を整合させるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
(5)一群の請求項、及び、願書に添付した明細書の訂正に係る請求項について
訂正前の請求項1-10について、請求項2-10はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1-10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項4-7は、当該一群の請求項を対象とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合する。
3 まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第4項、第5項(同法第184条の19の規定により読み替える括弧書きの規定を含む)及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正を認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1-3、5-10に係る発明(以下「本件発明1-3、5-10」という。これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-3、5-10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
中性子線遮蔽に覆われた室内に中性子線照射装置を備え、該中性子線照射装置により被験者のホウ素化合物が取り込まれた患部に対して中性子線を照射することで治療を行うホウ素中性子捕捉療法システムであって、
前記被験者を載置した状態で固定する被験者固定載置部と、
前記被験者における前記患部の位置を検出する3次元診断装置と、
前記中性子線照射装置に対して位置決めされる照射台と、
相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる位置調整機構と、
前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構と、
前記被験者固定載置部上における前記3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる前記患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、および、前記第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させ、且つ前記患部を前記照射口に対して可及的に接近させる制御部と
を、備えたことを特徴とするホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項2】
前記被験者が載置され且つ固定された前記被験者固定載置部を、前記3次元診断装置と前記照射台との間で移乗させる移乗装置を備えた
請求項1に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項3】
前記3次元診断装置による前記患部の位置の検出に際して、前記被験者固定載置部に載置され且つ固定された前記被験者に付された、前記検出に係る位置座標に対応する目印に基づいて、前記被験者固定載置部が移乗された前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記位置調整機構により変化させることで、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置と、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置とを整合させる位置調整部を備えた
請求項1又は2に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記被験者固定載置部及び前記照射台は、前記被験者固定載置部が前記照射台に移乗させられた際に相互に対面させられる部分に、相互に嵌合させられる嵌合構造を備えた
請求項1から4の何れか1項に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項6】
前記3次元診断装置は、前記被験者の体内の画像を撮影する装置であり、
前記目印の素材には、前記3次元診断装置により撮影された前記画像上において、前記被験者固定載置部の主要素材と前記目印とが十分に区別される素材が用いられる
請求項3に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項7】
前記移乗装置として、前記被験者固定載置部を載置した状態で搬送する搬送装置を備え、
該搬送装置は、
前記被験者固定載置部を保持し、且つ該被験者固定載置部を前記3次元診断装置又は前記照射台に移乗させた後に引き抜くことができる保持部を備え、
前記搬送装置に設けられた昇降機構、前記3次元診断装置に設けられた昇降機構、又は前記位置調整機構を用いて、前記被験者が固定された前記被験者固定載置部を、前記搬送装置と前記3次元診断装置又は前記照射台との間で移乗させる
請求項2に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項8】
前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置に対して、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置が必要十分に整合していることを確認するための表示を行う位置表示部と、
該位置表示部による表示に基づいて、前記中性子線照射装置から照射される中性子線の位置に対する、前記3次元診断装置により検出された前記被験者における前記患部の位置の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように、前記位置調整機構、前記第1角度調整機構、及び前記第2角度調整機構の少なくとも1つにより調整を行う位置調整部と
を、備えた
請求項1に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項9】
前記3次元診断装置は、前記被験者の体内の画像を撮影する装置であり、
前記位置表示部は、前記3つの軸の方向に対応する座標系に対して、前記3次元診断装置による前記画像の撮像基準点が必要十分に整合していることを確認するための表示を行うものであり、
前記位置調整部は、前記位置表示部による表示に基づいて、前記照射台における前記3
つの軸の方向に対応する座標系に対する、前記3次元診断装置による前記画像の撮像基準点の誤差が、規定の許容範囲内に収まるように調整を行うものである
請求項8に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
【請求項10】
前記照射台は、前記中性子線照射装置から照射される中性子線により放射化された場合において、中性子線暴露による放射化の度合いが炭素繊維強化プラスチックと同等かそれ以下である材料から構成されたものである
請求項1から9の何れか1項に記載のホウ素中性子捕捉療法システム。
第4 取消理由の概要
当審が取消理由通知に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。
本件発明1-3、5-10は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<刊行物>
甲第1号証: 熊田博明外2名、“原子炉による医療照射のための患者セッティングシステムの開発”、日本原子力学会和文論文誌、社団法人日本原子力学会、2002年3月25日発行、第1巻、第1号、p.59-68
甲第2号証:特開2012-148026号公報
甲第4号証:特開2000-167072号公報
追加引用例:国際公開第2013/146373号
取消理由について
本件発明1-3、5-10は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第2号証、甲第4号証、追加引用例に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。(以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。また、「甲第1号証に記載された発明」、「甲第2号証に記載された事項」等を、それぞれ「甲1発明」、「甲2記載事項」等という。)
第5 取消理由についての判断
1 刊行物の記載及び刊行物に記載された発明
(1)甲1
甲1には、「原子炉による医療照射のための患者セッティングシステムの開発」に関し、Fig.1-12、table1-5とともに、以下の事項が記載されている。
ア 「I . 緒言
ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy: BNCT)は,腫瘍細胞に選択的に集まるボロン化合物を患者に投与し,患部に中性子ビームを照射することにより,10B(n, α) 7Li 反応を起こし腫瘍細胞のみを破壊する治療法である。」(59頁左欄1-6行)
イ 「JCDSは,医療画像であるCT,MRI画像により患者頭部3次元モデルを作成し,モンテカルロコードMCNP-4Bによって頭部内の照射線量を計算するソフトウェアである。JCDSによる線量計算を基に,患者の症例に合致した最適な照射条件を決定する。
事前評価に基づくBNCTを実施には,高精度な計算による線量評価,的確な照射条件の決定とともに,その条件の正確な再現が要求される。すなわちJCDSによって最適な照射条件を導いても,この照射条件が実際のBNCTにおいて再現されていなければ,事前評価どおりのBNCT照射を行うことができない。特に頭部の照射位置条件(ビ-ムに対する頭部の距離,角度,脳表面照射位置)は,患者の患部領域,正常組織,脳内深部にある重要組織への照射線量を評価して決定しているため,実際のBNCT照射時にこの位置条件を正確に再現しなければ,患部に適切な線量を照射することができない。・・・本研究は,JCDSによって決定された照射条件において,特に重要な頭部の照射位置条件の再現について検討し,正確かつ迅速な患者のセッティングを可能にするシステムの開発を目的としている。」(59頁右欄下から2行-60頁左欄26行)
ウ 「II.患者セッティングシステム
1.患者セッティングに要求される事項
事前評価に基づくBNCT実施においては,JCDSによって決定された照射位置に患者を固定のためのシステム開発が必要である。この患者のセッティングに要求される事項について,以下のとおり検討を行った。
(1)照射位置条件の正確な再現
Fig.1は,JCDSによる事前評価に基づくBNCT実施の手順を示している。JCDSを使用して,ビームの線質,頭部の照射位置等の計算条件を設定して線量計算を行い,最適な照射条件を導く。このときのJCDS上の頭部位置(ビーム孔に対する距離,角度,脳表面照射位置)が照射位置条件として設定されることとなる。この照射位置条件は,JCDS上の仮想3次元空間内のビーム孔に対する頭部位置(Ideal Position: I.P.)と実際の照射室内のビーム孔に対する位置(Real Position: R.P.)を一致させることにより,再現される。」(60頁右欄7-23行)
エ 「2.患者セッティング手法
患者セッティングに要求される事項を踏まえ,我々は患者を照射位置に固定する「患者セッティングシステム」の開発を行った。この患者セッティングシステムはJCDSで決定された照射位置条件を正確に再現するために用いられるものであり,JCDSと組み合わせて開発を行う必要があった。患者セッティングシステムに適用されているセッティング手法を手順に従って以下に述べる。Fig.2は,患者セッティングシステムによる患者の照射位置への固定手順の概略を示している。
(1)JCDSでの位置情報出力
JCDSによって決定された頭部照射位置(I.P.)と実際の照射室内のR.P.を一致させるためは,JCDS上の頭部位置が実際の照射室内のどの位置であるかを認識する必要がある。このため,JCDSに患者の位置情報を出力する機能を追加した。Fig.3はJCDSによる頭部位置情報の出力画面を示している。JCDSの仮想3次元空間に対して,ビーム孔の中心を基点(0,0,0)とし,炉心からビームの照射方向をX, 鉛直方向をY, 水平方向をZとし(Fig.4参照),この座標系における頭部モデル上の任意点の3次元座標を出力するようにした。この頭部3次元モデル上の任意点を位置合せ基準点として使用し,実際のセッティングを行う。この位置合せ基準点は,JCDSの頭部3次元モデル(およびCT,MRI等の医療画像)に対して,実際の患者の外観から確認可能な場所を設定する必要があり,Fig.3の例では,鼻根部,右目尻,右耳,鼻尖を位置合せ基準点として設定している。この位置情報出力例では,それぞれの位置合せ基準点の3次元座標を出力するとともに,頭部3次元モデル上にビームの中心軸線,鼻尖と鼻根部とを結ぶ直線,右耳と鼻根部とを結ぶ直線を表示している。
(2)セッティングシミュレーション
照射室での患者照射位置固定を迅速かつ円滑に行うために,事前にセッティングのシミュレーションを行うこととした。この事前のシミュレーションをまず開頭術前に実施することにより,
(1) 照射室でのセッティングを簡便に行うためのマーキングを患者に施すことができる。
(2) 患部周辺にドレープ,リチウム・ヘルメット等がないため患者の顔が十分に確認できる。
(3) 患者は遠隔麻酔ではなく通常の麻酔によって管理されているため負担が小さい。
(4) 照射時の患者の頭部位置,体位,照射台の位置等を事前に把握しておくことができる。
といった利点がある。
このシミュレーション後,患者の体位,頭部位置は,照射用の体位から,開頭手術に最適な体位に変更されることとなる。よって開頭術後,患者を照射室へ移送する前に,再びシミュレーションを実施し,照射用の体位を再現することとする。この術後のシミュレーションにより,患部が曝露した状態(実際の照射状態)での照射野を確認できるとともに,あらかじめ患者の体位を照射用体位にしておくことにより,照射室内でのセッティングを迅速に行うことができる。この術後の照射用体位の再現は,開頭前のシミュレーションによって頭部位置,患者体位,照射台の位置が把握できているため,短時間で実施することができる。
このシミュレーションは,後述する患者セッティングシミュレータを使って実現される。Fig.5はシミュレータの概略図であり,Fig.6はシミュレータに照射台を接続した写真である。このシミュレータには,次項のレーザー光による位置合せ手法,ビーム中心軸線マーキングを実施できる機能を備えており,患者をシミュレータ上のビーム孔に対する照射位置にセッティングすることができる。」(61頁左欄下から11行-62頁左欄末行)
オ 「患者セッティングシステムでは,上記のことを考慮した上で,JCDSが出力した位置合せ基準点をレーザー光によって垂直方向,水平方向からを指示し,患者頭部の基準点に対応する部位とレーザー光を合わせることにより,患者を照射位置に導く手法を採用した。まず患者の上方から垂直に3点以上の位置合せ基準点をレーザー光で指示し,このレーザー光と患者の基準点部位を一致させる。これによりビーム孔に対する患者の水平面上の位置が決まる。この状態で患者の側面から水平に1点以上の位置合せ基準点をレーザー光で指示し,この指示点と患者の部位を合わせることにより,患者の垂直(高さ)位置を合せることができる。この手法により患者頭部位置を3次元空間上に一義的に固定することが可能となる。(Fig.4のX-Z平面図とX-Y平面図参照)。シミュレータには,この手法を可能とする垂直,水平方向からのレーザー光発生装置が複数取り付けられている。Fig.7は,頭部ファントムに対してレーザー光による位置合せ手法を行っている様子である。
(4)ビーム中心軸線マーキング
レーザー光による位置合せ手法によって,患者はシミュレータ上の照射位置にセッティングされている。シミュレータには,ビームの中心軸線(Y=0,Z=0)を垂直方向,水平方向からレーザー光によって示することもできるため,照射位置に導かれた患者の頭部表面には,ビーム中心軸線の位置が示されている。この状態で患者頭部に対してビーム中心軸線のマーキングを施す。照射室内には,ビームの中心軸線を垂直,水平方向から指示するレーザー光発生装置を設置している(Fig.8)。照射室における患者セッティングでは, 頭部のマーキングと照射室内レーザー光を一致させることにより,シミュレーション時の照射位置が再現され,患者を照射条件に決定された照射位置(I.P.)に簡便にセッティングすることができる。Fig.9はシミュレーションによってビーム中心軸線がマーキングされた頭部ファントムを照射位置ヘセッティングしている様子である。」(63頁右欄10行-64頁左欄12行)
カ 「3.セッティングシステムのための機器
セッティング手法を実行するために開発,整備した機器について以下に述べる。
(1)患者セッティングシミュレータ
事前のセッティングシミュレーションを実施するために,セッティングシミュレータを開発した。Fig.5はシミュレータの概略図であり,Fig.6はシミュレータに照射台を接続した写真である。シミュレータは,照射室内ビーム孔周辺を模擬した筐体,照射室壁面形状を模擬したプレート,複数のレーザー光発生装置および照射台接続ジグによって構成されている。シミュレータは実際の照射室内の諸条件を模擬するとともに,レーザー光位置指示手法によって患者のセッティングを実施するための機能を備えている。
(a) レーザー光発生装置
セッティングシミュレーションには,レーザー光による位置合せ手法を使い患者セッティングを実行するため,シミュレータの上面部,左右側面部にそれぞれ,上面3個と左右2個ずつの十字線レーザー光発生装置が取り付けられている。このレーザー光発生装置は患者頭部範囲内の任意の位置に移動できるとともに,十字線の角度を変えることができる。これらの十字線レーザー光発生装置によって,患者セッティングに必要な位置合せ基準点とビーム中心軸線を垂直方向,水平方向からの指示することができる。
シミュレーションを介したI.P.とR.P.の間接的な再現,患者の表皮の動き,ヘッド・フレームの剛性,実際の照射室内セッティング等を考慮し,医師側の要求する患者の位置合せ精度5mm以下を実現するため,シミュレータのレーザー光の指示精度は1mm以下とした。
Fig.7は,頭部ファントムによるシミュレーションにおいて,頭部ファントムの鼻根部,右耳,鼻尖を垂直方向から,右耳を水平方向から指示するとともに,ビームの中心軸線を指示している様子である。
(b) 模擬ビーム孔,照射壁プレート,照射台接続冶具
シミュレータには,照射室で患者のセッティングをシミュレーションするため,実際のビーム孔に設定可能な4種類のビームコリメータ(φ100, 120, 150, 200)が模擬されている。また,照射室内の壁面形状を模擬したプレートをシミュレータに取り付け,照射台接続ジグによって照射台を連結することにより,照射室内の照射台の可動範囲を把握でき,事前に照射台の位置,患者の照射体位を決定することができる。
(2)照射室内ビーム中心軸指示装置
Fig.8に,照射室内のビーム孔周辺の様子を示す。照射室内の天井部と左右の壁には垂直,水平方向からビーム中心軸を表示する十字線レーザー光照射装置が設置されている。このレーザー光の指示精度も1mm以下としている。
(3)油圧駆動照射台,照射台旋回装置
照射台上の患者を円滑に照射位置に誘導するため,照射台は油圧駆動により天板を多軸で移動させることができるようになっている。照射室内のビーム孔壁面には照射台を乗せてビーム孔を中心として旋回できる「照射台旋回装置」が設置されている。旋回装置と油圧駆動により照射台上の患者を円滑に照射位置に導くことができる。Fig.11は照射台の概略図と照射室内での照射台旋回装置による照射台可動範囲を示している。」(64頁右欄下から5行-65頁右欄18行)。
キ 「(2)迅速性等に関する評価
患者セッティングシステム使用以前では,開頭術後,目視により照射位置を決定し,患者をできるだけ照射体位に固定し,照射室へ移送していた。しかし実際のビーム孔に対してセッティングを行っている際に,照射台可動範囲等により患者固定体位の変更を余儀なくされたこともあった。患者セッティングシステムを適用した照射位置固定では,シミュレーションにより患者は事前に照射体位に固定されており,また照射台の角度,高さ等の位置情報も把握できているため,シミュレーション時の照射台の状態を再現するだけで照射位置へ誘導することが可能となった。最後に患者に施されているマーキングと照射室内レーザー光を微調整によって合わせることで,従来の患者固定方法と同等以上の短時間でセッティングを行うことが可能となった。また,照射室内で患者の体位,頭部位置を変更することもなく,手際の良いセッティングを実施することが可能となった。」(67頁右欄19行-35行)
a 摘記事項アの「ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy: BNCT)は,腫瘍細胞に選択的に集まるボロン化合物を患者に投与し,患部に中性子ビームを照射することにより,10B(n, α) 7Li 反応を起こし腫瘍細胞のみを破壊する治療法である。」との記載、摘記事項イの「JCDSは,医療画像であるCT,MRI画像により患者頭部3次元モデルを作成し,モンテカルロコードMCNP-4Bによって頭部内の照射線量を計算するソフトウェアである。JCDSによる線量計算を基に,患者の症例に合致した最適な照射条件を決定する。・・・本研究は,JCDSによって決定された照射条件において,特に重要な頭部の照射位置条件の再現について検討し,正確かつ迅速な患者のセッティングを可能にするシステムの開発を目的としている。」との記載、さらに中性子線照射装置は中性子線遮蔽に覆われた室内に設置されることは技術常識であることから、甲第1号証に記載された発明は、中性子線遮蔽に覆われた室内に中性子線照射装置を備え、該中性子線照射装置により患者のホウ素化合物が取り込まれた患部に対して中性子線を照射することで治療を行うホウ素中性子捕捉療法に用いる装置であることが理解できる。
b 摘記事項イの「JCDSは,医療画像であるCT,MRI画像により患者頭部3次元モデルを作成し,モンテカルロコードMCNP-4Bによって頭部内の照射線量を計算するソフトウェアである。JCDSによる線量計算を基に,患者の症例に合致した最適な照射条件を決定する。」との記載、摘記事項ウの「JCDSを使用して,ビームの線質,頭部の照射位置等の計算条件を設定して線量計算を行い,最適な照射条件を導く。このときのJCDS上の頭部位置(ビーム孔に対する距離,角度,脳表面照射位置)が照射位置条件として設定されることとなる。この照射位置条件は,JCDS上の仮想3次元空間内のピーム孔に対する頭部位置(Ideal Position: I.P.)と実際の照射室内のビーム孔に対する位置(Real Position: R.P.)を一致させることにより,再現される。」との記載から、甲第1号証に記載された発明は、患者における患部の位置を検出するCTと、CTの画像に基づき患者頭部の照射位置条件を決定するJCDSとを備えるといえる。
c また、摘記事項カの「(3)油圧駆動照射台,照射台旋回装置
照射台上の患者を円滑に照射位置に誘導するため,照射台は油圧駆動により天板を多軸で移動させることができるようになっている。照射室内のビーム孔壁面には照射台を乗せてビーム孔を中心として旋回できる「照射台旋回装置」が設置されている。旋回装置と油圧駆動により照射台上の患者を円滑に照射位置に導くことができる。Fig.11は照射台の概略図と照射室内での照射台旋回装置による照射台可動範囲を示している。」との記載及びFig.11の図示内容からみて、甲第1号証に記載された発明は、照射台の天板と、中性子線照射装置に対して位置決めされる照射台と、相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置とを備え、天板を設置した前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置により変化させるものであることが理解できる。
d 摘記事項エの「患者セッティングに要求される事項を踏まえ,我々は患者を照射位置に固定する「患者セッティングシステム」の開発を行った。この患者セッティングシステムはJCDSで決定された照射位置条件を正確に再現するために用いられるものであり,JCDSと組み合わせて開発を行う必要があった。・・・照射室での患者照射位置固定を迅速かつ円滑に行うために,事前にセッティングのシミュレーションを行うこととした。この事前のシミュレーションをまず開頭術前に実施することにより,・・・(4) 照射時の患者の頭部位置,体位,照射台の位置等を事前に把握しておくことができる。
といった利点がある。
このシミュレーション後,患者の体位,頭部位置は,照射用の体位から,開頭手術に最適な体位に変更されることとなる。よって開頭術後,患者を照射室へ移送する前に,再びシミュレーションを実施し,照射用の体位を再現することとする。この術後のシミュレーションにより,患部が曝露した状態(実際の照射状態)での照射野を確認できるとともに,あらかじめ患者の体位を照射用体位にしておくことにより,照射室内でのセッティングを迅速に行うことができる。この術後の照射用体位の再現は,開頭前のシミュレーションによって頭部位置,患者体位,照射台の位置が把握できているため,短時間で実施することができる。」との記載及び摘記事項オの「照射室における患者セッティングでは頭部のマーキングと照射室内レーザー光を一致させることにより,シミュレーション時の照射位置が再現され,患者を照射条件に決定された照射位置(I.P.)に簡便にセッティングすることができる。」との記載からみて、甲第1号証に記載された発明は、JCDSで決定された照射位置条件を、施療室内での開頭術前のセッティングシミュレーションにおいて再現するとともに、開頭術後、患者を照射室へ移送する前に、再びシミュレーションを実施して照射用の体位を再現するものであるから、照射室において照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置を制御する制御部は、施療室内でのセッティングシミュレーション時において再現された前記患者頭部の照射位置条件を再び照射室において再現するものであることが理解できる。
e さらに、摘記事項エの「このシミュレーション後,患者の体位,頭部位置は,照射用の体位から,開頭手術に最適な体位に変更されることとなる。よって開頭術後,患者を照射室へ移送する前に,再びシミュレーションを実施し,照射用の体位を再現することとする。この術後のシミュレーションにより,患部が曝露した状態(実際の照射状態)での照射野を確認できるとともに,あらかじめ患者の体位を照射用体位にしておくことにより,照射室内でのセッティングを迅速に行うことができる。」との記載、摘記事項カの「照射台上の患者を円滑に照射位置に誘導するため,照射台は油圧駆動により天板を多軸で移動させることができるようになっている。」との記載及び摘記事項キの「患者セッティングシステムを適用した照射位置固定では,シミュレーションにより患者は事前に照射体位に固定されており,また照射台の角度,高さ等の位置情報も把握できているため,シミュレーション時の照射台の状態を再現するだけで照射位置へ誘導することが可能となった。・・・また,照射室内で患者の体位,頭部位置を変更することもなく,手際の良いセッティングを実施することが可能となった。」との記載からみて、甲第1号証に記載された発明では、患者は、天板の上で照射用体位に固定されること、施療室内での開頭術後のシミュレーション時において、患者の体位を照射用体位とし、その後患者を固定したまま照射室に移送して、中性子線の照射を実施するものであることが理解できる。
摘記事項ア-キ、認定事項a-eを踏まえると、甲1には、次の甲1発明が記載されている。
「中性子線遮蔽に覆われた室内に中性子線照射装置を備え、該中性子線照射装置により患者のホウ素化合物が取り込まれた患部に対して中性子線を照射することで治療を行うホウ素中性子捕捉療法に用いる装置であって、
前記患者を、その上で照射用体位に固定する天板と、
前記患者における前記患部の位置を検出するCTと、
前記CTの画像に基づき患者頭部の照射位置条件を決定するJCDSと、
前記中性子線照射装置に対して位置決めされる照射台と、
相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置とを備え、
天板を設置した前記照射台における前記3つの軸それぞれの方向に関する位置を、前記照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置により変化させることで、施療室内でのセッティングシミュレーション時において再現された前記患者頭部の照射位置条件を再び照射室において再現する制御部と
を、備え、
前記施療室内での開頭術後のシミュレーション時において、患者の体位を照射用体位とし、その後患者を固定したまま照射室に移送して、中性子線の照射を実施するホウ素中性子捕捉療法システム。」
(2)甲2
「【0013】
患者位置設定方法の概略を、図2を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態1による患者位置設定方法の概略を説明する図である。図2(a)は準備室における患者15の位置決めを説明する図であり、図2(b)は患者15の搬送を説明する図であり、図2(c)は治療室における患者15の位置決め状態の再現を説明する図である。まず、患者15は、準備室にて、天板5に搭載され駆動装置9(9a)で高精度の位置決めを行う(位置情報決定手順)。
【0014】
患者台2(2a)は、着脱自在な天板5を複数の天板固定具6(6a、6b、6c、6d、図3(c)参照)により駆動装置9(9a)の天板支持部3(3a)に固定された状態である。患者15を患者台2(2a)の天板5に搭載して固定具4を取付け、レーザポインタによる粗据付などのセッティングを行う。次に、患者15の精密な位置決めを行う。準備室ではCT装置やX線撮像装置が設置されている。CT装置のCT画像またはX線撮像装置のX線画像を用いて、治療計画を作成する際に用いた基準CT画像の患部に合うように、駆動装置9(9a)の各軸方向を設定するモータを駆動して患者の位置決めを行う。準備室で位置決めされ、決定された患者台2(2a)の駆動装置パラメータは、ネットワークを通じて、治療室の患者台2(2b)に転送される。
【0015】
ここで、準備室の患者台2(2a)による位置決めは、治療室の患者台2(2b)におけるアイソンセンタを基準にして行われる。すなわち、準備室の患者台2aの駆動装置パラメータは、準備室の患者台2aにおける天板5上のアイソセンタが、治療室の患者台2bにおける天板5上のアイソセンタと一致するように調整されているか、または、準備室の患者台2aの駆動装置パラメータは、準備室の患者台2aにおける天板5上のアイソセンタが、治療室の患者台2bにおける天板5上のアイソセンタと一致するように、転送される駆動装置パラメータのデータをオフセット調整する。
【0016】
次に、患者15は天板5に固定された状態を保持したまま、天板5と共に搬送装置20により搬送される(患者搬送手順)。図2(b)に示すように、患者15が患者固定具4で固定された天板5を搬送装置20に載せて、治療室へ搬送する。図2(b)は、準備室から治療室へ向かう廊下等の床16(16c)を搬送して場合を示している。
【0017】
次に、患者15は、天板5に固定された状態を保持したまま、治療室の患者台2(2b)の駆動装置9(9b)に移動され、他の治療台2(2a)で位置決めされた状態を再現する(位置決め状態再現手順)。患者15は、天板5に固定された状態のまま、搬送装置20から治療室の患者台2(2b)の駆動装置9(9b)の天板支持部3(3b)に設置され、天板支持部3(3a、3b)と天板5に設けられた位置決め部により、天板5と天板支持部3(3b)の相対位置が再現される。天板5は、複数の天板固定具6(6a、6b、6c、6d)により駆動装置9(9b)の天板支持部3(3a)に固定される。その後、駆動装置9(9b)は、準備室で位置決めされた患者台2(2a)の駆動装置パラメータを取り込む。駆動装置9(9b)は、各軸方向を設定するモータを駆動して、天板5及び患者15を準備室で高精度に位置決めされた位置状態に再現する。位置決め状態が再現された後に、粒子線照射装置の照射ノズル1から荷電粒子線ビーム10を、患者15の患部に照射する。なお、位置決め部については後述する。」
「【0034】
その後、駆動装置9(9b)は、準備室で位置決めされた患者台2(2a)の駆動装置パラメータを、ネットワークを通じて取得する。取得した駆動装置パラメータに基づいて、駆動装置9(9b)は、各軸方向を設定するモータを駆動して、天板5及び患者15を準備室で高精度に位置決めされた位置状態に再現する。位置決め状態が再現された後に、粒子線照射装置の照射ノズル1から荷電粒子線ビーム10を、患者15の患部に照射する。
【0035】
実施の形態1の患者位置設定装置70は、位置決め用の部屋(準備室等)にて患部の位置を着脱自在な天板5に対して固定された患者15を、搬送装置20により固定状態を保ったまま、治療用の部屋(治療室)に移動させ、治療用の部屋に配置された患者台2の駆動装置9に天板5を移し替えることができる。駆動装置9に配置された天板固定穴13を用いて天板支持部3に天板5を固定することで、位置決め用の部屋での患者の患部位置を駆動装置9に対して高い精度で再現することが可能となる。すなわち、着脱自在な天板5と駆動装置9により構成される患者台2に対して、位置決め用の部屋での患者の患部位置を治療用の部屋においても高い精度で再現することが可能となる。位置決め用の部屋で位置決めされた患者台2(2a)の駆動装置パラメータを、ネットワークを通じて取得し、取得した駆動装置パラメータに基づいて、治療用の部屋の駆動装置9(9b)の各軸方向を設定するので、天板5及び患者15を位置決め用の部屋で高精度に位置決めされた位置状態に再現することができる。すなわち、実際に放射線を照射する際に用いる治療用の部屋の患者台2以外で患者15の位置決めを行い、患者台2の天板5に対する患者15の位置決めされた状態を保持して治療用の部屋に移動させ、治療用の部屋にて患者15の位置決め状態を再現することにより、患者15の位置設定を行うことができる。」
甲2(特に、【0013】-【0017】参照。)には、CT装置が設置された準備室から粒子線照射装置が設置された治療室に患者を搬送する際に、着脱自在な天板5に患者を搭載した上で、患者の精密な位置決めを行った後、患者は天板5に固定された状態で、天板5と共に搬送装置20により治療室に搬送され、治療室においても、患者は天板5に固定された状態のまま、搬送装置20から治療室の患者台2bに設置すること(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
(3)甲4
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、機構系の絶対精度に依存せずに、体幹部内で動き回る腫瘍の位置を実時間で、かつ自動的に算出し、腫瘍に対して選択的に大線量の照射を正確に行い、正常組織への被爆を低減できる、X線、電子線、陽子線、重粒子線等の動体追跡照射装置及びこれを用いた位置決め方法に関するものである。」
「【0030】図1において、15はライナック、16は該ライナック15より照射される治療ビーム、17は患者体内の腫瘍に埋め込まれた直径1~2mm程度のAu,Pt,或いはIr等の人体に害が少なく、かつX線の吸収が大きい材質からなる球状の腫瘍マーカ、18は体内にある腫瘍、19は患者、20はCFRP等X線吸収の少ない材質でできた天板を備えた治療台である。」
(4)追加引用例
「[0006]・・・中性子捕捉療法では、治療開始前に患部に照射する中性子の中性子線量が予め決められている。上記した従来の装置では、照射精度の向上が図られているものの、照射される部位によっては、直方体形状のコリメータと患者との間に一定の間隔が生じる。そのため、コリメータを通った中性子が、患者の体表に到達するまでに散逸する場合がある。その場合、患部以外の組織に照射される中性子線量が増えてしまう。また、時間あたりに患部に照射される中性子線量が不足することとなり、所定の中性子線量を患部に照射するのに時間を要してしまう。」
2 本件発明1についての判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その余の点で一致する。
(相違点1)
中性子線照射装置の照射口と照射台との位置関係を調整するための機構に関して、本件発明1が、相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる位置調整機構に加えて、前記3つの軸のうち何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第1角度調整機構、および、前記3つの軸のうち前記1つの軸とは異なる何れか1つの軸と平行である軸を中心として、前記中性子線の照射方向に対する前記照射台の角度を変化させる第2角度調整機構を備えているのに対し、甲1発明は、相互に直交する3つの軸それぞれの方向に関して、前記中性子線照射装置の照射口に対する前記照射台の位置を変化させる照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置を備えるものの、さらに第1角度調整機構、および、第2角度調整機構を備えているか、明らかでない点。
(相違点2)
制御部による、被験者における患部の位置と中性子線の位置とを整合させるための中性子線照射装置の照射口と照射台との位置関係の調整について、本件発明1は、被験者固定載置部上における3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、位置調整機構、第1角度調整機構、および、第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、被験者固定載置部が移乗された前記照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させるものであるのに対し、甲1発明は、施療室内でのセッティングシミュレーション時において再現された患者頭部の照射位置条件を再び照射室において再現するために、天板を設置した照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置を、照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置により変化させるものであって、その具体的な調整については明らかでない点。
(相違点3)
制御部が、本件発明1では、患部の位置と中性子線の位置とを整合させ、且つ患部を照射口に対して可及的に接近させるものであるのに対して、甲1発明では、施療室内でのセッティングシミュレーション時において再現された患者頭部の照射位置条件を再び照射室において再現するものであって、患部を照射口に対して可及的に接近させるものであるか否か明らかでない点。
事案に鑑み、まず相違点2から検討する。
甲1発明は、施療室内でのセッティングシミュレーション時において再現された患者頭部の照射位置条件を再び照射室において再現するために、天板を設置した照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置を、照射台の油圧駆動機構及び照射台旋回装置により変化させるものであるところ、より詳細には、上記摘記事項ウの「・・・事前評価に基づくBNCT実施においては,JCDSによって決定された照射位置に患者を固定のためのシステム開発が必要である。この患者のセッティングに要求される事項について,以下のとおり検討を行った。
(1)照射位置条件の正確な再現
Fig.1は,JCDSによる事前評価に基づくBNCT実施の手順を示している。JCDSを使用して,ビームの線質,頭部の照射位置等の計算条件を設定して線量計算を行い,最適な照射条件を導く。このときのJCDS上の頭部位置(ビーム孔に対する距離,角度,脳表面照射位置)が照射位置条件として設定されることとなる。この照射位置条件は,JCDS上の仮想3次元空間内のビーム孔に対する頭部位置(Ideal Position: I.P.)と実際の照射室内のビーム孔に対する位置(Real Position: R.P.)を一致させることにより,再現される。」との記載、上記摘記事項エの「(1)JCDSでの位置情報出力
JCDSによって決定された頭部照射位置(I.P.)と実際の照射室内のR.P.を一致させるためは,JCDS上の頭部位置が実際の照射室内のどの位置であるかを認識する必要がある。このため,JCDSに患者の位置情報を出力する機能を追加した。Fig.3はJCDSによる頭部位置情報の出力画面を示している。JCDSの仮想3次元空間に対して,ビーム孔の中心を基点(0,0,0)とし,炉心からビームの照射方向をX, 鉛直方向をY, 水平方向をZとし(Fig.4参照),この座標系における頭部モデル上の任意点の3次元座標を出力するようにした。この頭部3次元モデル上の任意点を位置合せ基準点として使用し,実際のセッティングを行う。この位置合せ基準点は,JCDSの頭部3次元モデル(およびCT,MRI等の医療画像)に対して,実際の患者の外観から確認可能な場所を設定する必要があり,Fig.3の例では,鼻根部,右目尻,右耳,鼻尖を位置合せ基準点として設定している。この位置情報出力例では,それぞれの位置合せ基準点の3次元座標を出力するとともに,頭部3次元モデル上にビームの中心軸線,鼻尖と鼻根部とを結ぶ直線,右耳と鼻根部とを結ぶ直線を表示している。
(2)セッティングシミュレーション
照射室での患者照射位置固定を迅速かつ円滑に行うために,事前にセッティングのシミュレーションを行うこととした。・・・
このシミュレーション後,患者の体位,頭部位置は,照射用の体位から,開頭手術に最適な体位に変更されることとなる。よって開頭術後,患者を照射室へ移送する前に,再びシミュレーションを実施し,照射用の体位を再現することとする。この術後のシミュレーションにより,患部が曝露した状態(実際の照射状態)での照射野を確認できるとともに,あらかじめ患者の体位を照射用体位にしておくことにより,照射室内でのセッティングを迅速に行うことができる。この術後の照射用体位の再現は,開頭前のシミュレーションによって頭部位置,患者体位,照射台の位置が把握できているため,短時間で実施することができる。
このシミュレーションは,後述する患者セッティングシミュレータを使って実現される。Fig.5はシミュレータの概略図であり,Fig.6はシミュレータに照射台を接続した写真である。このシミュレータには,次項のレーザー光による位置合せ手法,ビーム中心軸線マーキングを実施できる機能を備えており,患者をシミュレータ上のビーム孔に対する照射位置にセッティングすることができる。」との記載、上記摘記事項オの「患者セッティングシステムでは,上記のことを考慮した上で,JCDSが出力した位置合せ基準点をレーザー光によって垂直方向,水平方向からを指示し,患者頭部の基準点に対応する部位とレーザー光を合わせることにより,患者を照射位置に導く手法を採用した。まず患者の上方から垂直に3点以上の位置合せ基準点をレーザー光で指示し,このレーザー光と患者の基準点部位を一致させる。これによりビーム孔に対する患者の水平面上の位置が決まる。この状態で患者の側面から水平に1点以上の位置合せ基準点をレーザー光で指示し,この指示点と患者の部位を合わせることにより,患者の垂直(高さ)位置を合せることができる。この手法により患者頭部位置を3次元空間上に一義的に固定することが可能となる。(Fig.4のX-Z平面図とX-Y平面図参照)。シミュレータには,この手法を可能とする垂直,水平方向からのレーザー光発生装置が複数取り付けられている。Fig.7は,頭部ファントムに対してレーザー光による位置合せ手法を行っている様子である。
(4)ビーム中心軸線マーキング
レーザー光による位置合せ手法によって,患者はシミュレータ上の照射位置にセッティングされている。シミュレータには,ビームの中心軸線(Y=0,Z=0)を垂直方向,水平方向からレーザー光によって示することもできるため,照射位置に導かれた患者の頭部表面には,ビーム中心軸線の位置が示されている。この状態で患者頭部に対してビーム中心軸線のマーキングを施す。照射室内には,ビームの中心軸線を垂直,水平方向から指示するレーザー光発生装置を設置している(Fig.8)。照射室における患者セッティングでは, 頭部のマーキングと照射室内レーザー光を一致させることにより,シミュレーション時の照射位置が再現され,患者を照射条件に決定された照射位置(I.P.)に簡便にセッティングすることができる。Fig.9はシミュレーションによってビーム中心軸線がマーキングされた頭部ファントムを照射位置ヘセッティングしている様子である。」との記載を踏まえると、甲1発明においては、JCDS上の頭部位置を示す照射位置条件を再現するため、JCDSの仮想3次元空間の座標系において、複数の位置合わせ基準点を設定し、施療室内でのシミュレーション時にシミュレータに設置されたレーザー光と患者頭部の複数の位置合わせ基準点とを一致させ、患者頭部に対しビーム中心軸線のマーキングを施した上で、患者を照射室に移動して、頭部に施されたマーキングと照射室内に設置されたビーム中心軸線を指示する照射室内レーザー光を一致させることにより、シミュレーション時の照射位置が再現され、患者を照射位置条件に決定された照射位置にセッティングすることが開示されているものの、中性子線照射装置の照射口と照射台との位置関係を調整するための機構の制御に関して、甲1には、上記摘記事項カに「(3)油圧駆動照射台,照射台旋回装置
照射台上の患者を円滑に照射位置に誘導するため,照射台は油圧駆動により天板を多軸で移動させることができるようになっている。照射室内のビーム孔壁面には照射台を乗せてビーム孔を中心として旋回できる「照射台旋回装置」が設置されている。旋回装置と油圧駆動により照射台上の患者を円滑に照射位置に導くことができる。Fig.11は照射台の概略図と照射室内での照射台旋回装置による照射台可動範囲を示している。」と記載されているのみで具体的に記載されておらず、相違点2に係る「被験者固定載置部上における3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、位置調整機構、第1角度調整機構、および、第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、被験者固定載置部が移乗された前記照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させる」点は開示されておらず、また甲2、4、追加引用例にも開示されていない。さらに、この点が本件特許に係る出願時の技術常識であったとの証拠もない。
よって、甲1発明において、上記相違点2の構成とすることは、当業者が容易に想到できたものということはできない。
そして、本件発明1は、被験者固定載置部上における3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、位置調整機構、第1角度調整機構、および、第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、被験者固定載置部が移乗された前記照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させるものであるから、照射台の位置決めをいわゆる自動的に照射室内において行うことが可能であり、あらかじめシミュレーションを行う必要がないという効果を奏するものである。
そうすると、上記相違点1及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2、4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
申立人は、令和2年7月20日付けの意見書において、上記相違点2に関し、患部の位置を整合させる場合、3次元診断装置における患部の位置座標を基に照射室における患部の位置座標を対比することで、正確な照射位置を決定することは甲1にも実質的に開示されており、さらに対比結果に基づいて各位置調整機構の作動量を決めることも当然の技術的事項であって、また位置決めを自動で行うことは医療分野のみならず、あらゆる分野において周知慣用手段である旨主張する。
しかしながら、相違点2の被験者固定載置部上における3次元診断装置の撮影に係る原点、および、該撮影によって得られる患部の中心の座標、および治療姿勢に係る情報に基づいて、位置調整機構、第1角度調整機構、および、第2角度調整機構による作動量を前記照射台の座標系において算出し、被験者固定載置部が移乗された前記照射台における3つの軸それぞれの方向に関する位置および角度を、前記位置調整機構、および、前記第1角度調整機構および前記第2角度調整機構の少なくとも一方により前記作動量に基づいて変化させる点は、甲1、2、4、追加引用例には開示されておらず、また本件特許に係る出願時の技術常識であったということもできないことは上述のとおりである。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
3 本件発明2、3、5-10について
本件発明2、3、5-10は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記2のとおり、本件発明1は甲1発明及び甲2、4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3、5-10も甲1発明及び甲2、4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 まとめ
以上のとおり、本件発明1-3、5-10は、甲1発明及び甲2、4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。
したがって、本件発明1-3、5-10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号違反(特許異議申立書16頁12行-18頁22行、19頁18行-20頁22行、22頁5-23行、24頁10行-26頁4行)
本件発明1、3、6、8、9は、甲1発明と実質的に同一であるから、本件発明1、3、6、8、9は特許法第29条第1項第3号の規定に違反し、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)特許法第29条第2項違反(特許異議申立書22頁24行-24頁9行)
本件発明7は、甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明7は特許法第29条第2項の規定に違反し、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲3 特公昭60-19251号公報
2 上記特許異議申立理由についての判断
(1)上記第5 2のとおり、本件発明1と甲1発明とは相違点1-3で相違し、少なくとも相違点2は実質的なものと認められるから、本件発明1は、甲1発明であるということはできない。
また、本件発明3、6、8、9は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記のとおり、本件発明1は、甲1発明であるということはできないから、本件発明3、6、8、9も甲1発明であるということはできない。
(2)上記第5 3のとおり、本件発明7は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、本件発明1は甲1発明及び甲2、4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲3には、看護設備に関し、「先ず第1図~第3図により患者搬送用クレーンについて説明すると、1は搬送時患者を上に乗せる多数のフオーク、2,3,4は同フオーク1を固定している側板、6は片持ちのフオーク1を上下に移動させるためのモータで、5はその上下移動のガイドである。7は前後方向移動レールで、フオーク1は前後方向駆動モータ8によってローラ9を介し前記レール7に沿って前後方向に移動できるようになっている。13は左右方向移動用レール12を有するレール本体であり、フオーク1は左右方向駆動モータ10によりローラ11を介しレール12に沿って左右方向に移動できるようになっている。14は前記側板2,4の角度を変えるためのモータ、15はモータ14と側板2,4とを結ぶワイヤである。」(第2欄9-23行)、「さてフオーク1に乗った患者は用便の際には便器18の上まで、モータ10の駆動によりローラ11がレール12上を第3図の右方向に転動してフオーク1が搬送されることにより運ばれ、モ-夕6の駆動によりフオーク1は下降し、患者は便器18の上に乗ることができる。便器18にはフオーク1との干渉を避けるため必要に応じ部分的に切欠き18′を入れてある。」(第3欄15-22行)との記載はあるものの、上記第5 2の相違点2に係る本件発明1の構成を何ら開示していないことは明らかである。
したがって、本件発明7も甲1発明並びに甲2-4、追加引用例に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 小括
以上のとおり、本件発明1、3、6、8、9は特許法第29条第1項第3号に該当するものでなく、また本件発明7は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでない。
したがって、本件発明1、3、6-9に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものとすることはできない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1-3、5-10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1-3、5-10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、上記第2のとおり、本件訂正が認められることにより、請求項4は削除され、本件特許の請求項4についての本件特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、本件特許の請求項4についての本件特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700499