特許訂正審判
2019-390017
電気化学セル用セパレーターのための保護コーティング
- 審判番号
- 2019-390017
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2000-588826
- 登録番号
- 特許第4807538号(P4807538)
- 請求日
- 2019年02月06日
- 審決日
- 2019年07月18日
- 公報発行日
- 2019年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】シオン・パワー・コーポレーション
- 【請求人代理人】窪田 英一郎
- 【請求人代理人】乾 裕介
- 【請求人代理人】今井 優仁
- 【請求人代理人】中岡 起代子
- 【請求人代理人】本阿弥 友子
- 【請求人代理人】鈴木 佑一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 池渕 立
- 審判官 土屋 知久
- 審判官 松本 要
- 分類
- P141 .852-Y (H01M) / P141 .841-Y (H01M) / P141 .855-Y (H01M) / P141 .856-Y (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法126条1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第126条第1項第2号、特許法第70条、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第126条第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第4807538号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第4807538号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~16〕、〔46~50〕について訂正することを認める。
理由
【理 由】
1 経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第4807538号(以下、「本件特許」という。)は、1999年(平成11年)12月16日(優先権主張1998年12月17日、1999年9月21日 米国)を国際出願日とする出願(特願2000-588826号)の請求項1~50に係る発明について、平成23年8月26日に特許権の設定登録がなされた。
本件は、その後、平成31年2月6日に請求された訂正審判であって、同年2月28日に手続補正(方式)がなされ、同年4月9日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対して、令和元年5月9日に意見書が提出され、その後、令和1年5月20日付けで審尋がなされ、令和元年6月17日に上申書が提出されたものである。
2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第4807538号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~16、46~50について訂正することを認める、との審決を求めるものである。
なお、平成31年2月28日になされた手続補正により、請求の趣旨が、補正前の「訂正後の請求項1、46について訂正することを認める」から「訂正後の請求項1~16、46~50について訂正することを認める」と補正された。
3 訂正事項
本件訂正審判における訂正事項は、次のとおりである。
なお、当審で訂正箇所には下線を付した。
(1)訂正事項1
本件の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1について、「該擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0より小さいかまたは1.5より大きく、かつ、該微小多孔性擬ベーマイト層は、1nm~300nmの平均孔径を有する」を「該擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0以上1.5以下であり、かつ、該微小多孔性擬ベーマイト層は、1nm~300nmの平均孔径を有する」と訂正する。
(2)訂正事項2
本件の願書に添付された特許請求の範囲の請求項46について、「該擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0より小さいかまたは1.5より大きく、かつ、該微小多孔性擬ベーマイト層は、1nm~300nmの平均孔径を有する」を「該擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0以上1.5以下であり、かつ、該微小多孔性擬ベーマイト層は、1nm~300nmの平均孔径を有する」と訂正する。
4 平成31年4月9日付けの訂正拒絶理由の概要
上記3の(1)及び(2)の訂正事項1及び2は、「誤記の訂正」を目的としたものとはいえず、また、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」であって、特許法第126条第1項ただし書第1号から第4号に掲げる事項のいずれを目的とするものでもないし、同条第6項の規定に適合しないものであるから、訂正後の請求項1~16、46~50についての訂正は、認められない。
5 本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載事項
(1)本件の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~16、46~50には、次の記載がある。
「【請求項1】 電流発生セルにおいて使用するためのセパレーターであって、ここで、該セルは、カソード活性層を有するカソード、アノード、および該カソードと該アノードとの間に挿入された電解質素子を含み、ここで該電解質素子は、該セパレーターおよび電解質を含み;そして該セパレーターは、少なくとも1つの微小多孔性擬ベーマイト層を含み、ここで該セパレーターが、少なくとも1つのポリマー保護コーティング層と接触しており;そしてここで該少なくとも1つのポリマー保護コーティング層の少なくとも1つが、該セルの該カソード活性層と反対の、該セパレーターのアノードに面する側面上にあり、該擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0より小さいかまたは1.5より大きく、かつ、該微小多孔性擬ベーマイト層は、1nm~300nmの平均孔径を有する、
セパレーター。
【請求項2】 前記アノードに面する側面上の前記ポリマー保護コーティング層の少なくとも1つが、ポリマーを含む、請求項1に記載のセパレーター。
【請求項3】 ポリマーを含む前記ポリマー保護コーティング層が、単一のイオン伝導層である、請求項2に記載のセパレーター。
【請求項4】 請求項2に記載のセパレーターであって、ポリマーを含む前記ポリマー保護コーティング層が、ポリ(p-フェニレン)、ポリアセチレン、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリアズレン、ポリ(ぺリナフタレン)、ポリアセン、およびポリ(ナフタレン-2,6-ジイル)からなる群から選択される伝導性ポリマーを含む、セパレーター。
【請求項5】 前記アノードに面する側面上の前記ポリマー保護コーティング層の少なくとも1つが、単一のイオン伝導層である、請求項1に記載のセパレーター。
【請求項6】 前記アノードに面する側面上の前記ポリマー保護コーティング層の少なくとも1つが、リチウムイオン伝導性の単一のイオン伝導ガラスを含む、請求項1に記載のセパレーター。
【請求項7】 請求項6に記載のセパレーターであって、前記単一のイオン伝導ガラスが、ケイ酸リチウム、ホウ酸リチウム、アルミン酸リチウム、リン酸リチウム、オキシ窒化リンリチウム、酸化リチウムチタン、酸化リチウムランタン、リチウムシリコスルフィド、リチウムボロスルフィド、リチウムアルミノスルフィド、リチウムゲルマノスルフィド、およびリチウムホスホスルフィド、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、セパレーター。
【請求項8】 前記アノードに面する側面上の少なくとも1つの前記ポリマー保護コーティング層が、オキシ窒化リンリチウムを含む、請求項1に記載のセパレーター。
【請求項9】 前記ポリマー保護コーティング層が、0.2~20μmの厚みを有する、請求項2に記載のセパレーター。
【請求項10】 前記ポリマー保護コーティング層が、5nm~5μmの厚みを有する、請求項6に記載のセパレーター。
【請求項11】 請求項1に記載のセパレーターであって、ここで前記セパレーターは、第1および第2のポリマー保護コーティング層と接触し、ここで該第1のポリマー保護コーティング層が、前記カソード活性層と反対の、該セパレーターの側面上で前記擬ベーマイト層と接触し、そして該第2のポリマー保護コーティング層が、該擬ベーマイト層と反対の側面上で該第1のポリマー保護コーティング層と接触し、該ポリマー保護コーティング層の各々は、1つ以上のポリマーを含み、該第1のポリマー保護コーティング層の各々のポリマーは、該第2のポリマー保護コーティング層の各々のポリマーと同じかまたは異なる、セパレーター。
【請求項12】 前記第2のポリマー保護コーティング層が、リチウムイオン伝導性単一のイオン伝導ガラスを含む、請求項11に記載のセパレーター。
【請求項13】 前記2つのポリマー保護コーティング層の合わせた厚さが、10nm~20μmである、請求項12に記載のセパレーター。
【請求項14】 請求項2に記載のセパレーターであって、ここで前記ポリマー保護コーティング層が、式:
R1(R2O)n-R3
を有するモノマーまたはマクロモノマーからなる群から選択される1つ以上のモノマーまたはマクロモノマーの重合により形成される、1つ以上の部分を含み、この式で:
R1は、各場合において、同じかまたは異なり、そして以下:
【化1】
からなる群から選択され;
R2は、各場合において、同じかまたは異なり、そして以下:
-CH2-CH2-、
-CH(CH3)-CH2-、
-CH2-CH2-CH2-、
-CH(C2H5)-CH2-、
-CH2-CH2-CH2-CH2-;
からなる群から選択され;
R3は、各場合において、同じかまたは異なり、そしてシアノ、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、デシル、ドデシル、フェニル、ブチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、R1、-X-(OR2)m-R1、-Y[(OR2)o-R1]2、-Z[(OR2)p-R1]3からなる群から選択され;
Xは、
【化2】
および-(CH2)r-(ここでrは、3、4、または6)からなる群から選択される、二価基であり;
Yは、以下:
【化3】
からなる群から選択される三価基であり;
Zは、以下:
【化4】
からなる群から選択される四価基であり;
mは、0~100の範囲の整数であり;
nは、0~100の範囲の整数であり;
oは、0~100の範囲の整数であり;そして
pは、0~100の範囲の整数である、
セパレーター。
【請求項15】 請求項2に記載のセパレーターであって、ここで前記ポリマー保護コーティング層が、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、エトキシル化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシル化脂肪族ウレタンアクリレート、エトキシル化アルキルフェノールアクリレート、およびアルキルアクリレートからなる群から選択される1つ以上アクリレートの重合により形成される1つ以上の部分を含む、セパレーター。
【請求項16】 請求項2に記載のセパレーターであって、ここで前記ポリマー保護コーティング層が、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、スルホン化スチレン/エチレン-ブチレン/スチレントリブロックポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択されるポリマーを含む、セパレーター。」
「【請求項46】 カソード、アノード、および該カソードと該アノードとの間に挿入された電解質素子を含む、電流発生セルであって、ここで該電解質素子が以下:
(a)セパレータ;および
(b)有機電解質;
を含み、ここで該セパレーターが以下:
(i)(ii)と接触している微小多孔性擬ベーマイト層;
(ii)ポリマーを含むポリマー保護コーティング層;
を含み、そしてここで該有機電解質が、該セパレーターの細孔内に含まれ、該擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0より小さいかまたは1.5より大きく、かつ、該微小多孔性擬ベーマイト層は、1nm~300nmの平均孔径を有する、セル。
【請求項47】 前記ポリマー保護コーティング層が、前記カソード反対の、前記セパレーターの前記アノードに面する側面上にある、請求項46に記載のセル。
【請求項48】 前記電解質が、液体電解質、ゲルポリマー電解質、および固体ポリマー電解質からなる群から選択される1つ以上の電解質を含む、請求項43または46に記載のセル。
【請求項49】 前記平均孔径は、2nm~30nmである、請求項1、17、37、43または46に記載のセパレーター。
【請求項50】 前記平均孔径は、3nm~10nmである、請求項1、17、37、43または46に記載のセパレーター。」
(2)また、本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、次の記載がある。
「【0095】
本明細書中で用いられる場合、用語「擬ベーマイト」は、化学式Al2O3・xH2O(ここで、xは1.0~1.5の範囲である)を有する水和酸化アルミニウムに関する。「擬ベーマイト」と同義の、本明細書中で用いられる用語は、「ベーマイト」「AlOOH」および「水酸化アルミナ」を含む。本明細書中で「擬ベーマイト」と言及される物質は、無水アルミナ(Al2O3、例えば、αアルミナおよびγアルミナ)および化学式Al2O3・xH2Oの水和酸化アルミニウム(ここで、xは1.0より小さいかまたは1.5より大きい)とは異なる。」
6 引用文献及びその記載事項
(1)審判請求人が引用した甲第1~4号証及び参考文献並びにそれらの記載事項は、以下のとおりである。
なお、下線は当審で付した。以下、同じ。
甲第1号証:佐藤太一「水酸化アルミニウムとアルミナについて」鉱物学雑誌、1989年3月、第19巻第1号第21~41頁(以下、「甲1」という。)
ア「2.水酸化アルミニウム
水酸化アルミニウムは結晶状とゲル状の2形態に分類されるが,便宜的に前者をアルミナ水和物とし後者をアルミナゲルと呼ぶことにする。
2.1 アルミナ水和物
現在アルミナ水和物としては,3水和物のハイドラルジライト(Hydrargillite,H)とバイヤライト(Bayerite,B)および1水和物のベーマイト(Boehmite,Bo)(当審注:原文には、「Bo」の「o」に、「¨」が付されている。)とダイアスポア(Diaspore,D)のそれぞれ2種類がよく知られている.」(第21頁右欄第3~12行)
イ「2.2 アルミナゲル
一般にアルミナゲルとはアルミニウム塩水溶液とアルカリとの反応により生成する水酸化アルミニウムのゲル状沈殿を指すが,・・・(略)・・・,無定形水酸化アルミニウム(amorphous aluminium hydroxide,A),擬ベーマイト(pseudoboehmite, Bo)およびアルミナ3水和物(結晶性のバイヤライトまたはハイドラルジライト)の3つに大別される.」(第24頁右欄第5~15行)
ウ「ii)擬ベーマイト
ベーマイトゲルとも呼ばれ,X線回折図はベーマイトに似ているが,各回折線はブロードで明らかに区別される(Fig.4).なおアルミニウム塩と尿素との反応により生成するゲル状沈殿には,アルミニウム塩が塩化物または硝酸塩の場合擬ベーマイトとベーマイトの中間体(intermediate boehmite, Bo)(当審注:原文には、「Bo」の「o」に、「¨」が付されている。)が生成することがあるが,硫酸塩の場合には擬ベーマイトのみが生成する.中間体は斜方晶系のベーマイトと同じX線回折図を示すが,(200)面が極めて強い回折線を示す・・・(略)・・・.」(第25頁左欄第8~17行)
エ「
」
(当審訳:図4 水酸化アルミニウムゲルのX線回折図)
甲第2号証:特開平9-314982号公報(以下、「甲2」という。)
オ「【0011】本発明の好ましい態様によれば、擬ベーマイトとは、好ましくはべーマイト結晶:Al2O3 ・nH2 O(n=1~1.5)のコロイド状凝集体である。」
甲第3号証:特開平8-2087号公報(以下、「甲3」という。)
カ「【0006】本発明においてアルミナ水和物としては、インク吸収性、色素定着などの優れる点で擬ベーマイトが好ましい。ここで擬ベーマイトとは、ベーマイト結晶(組成式Al2 O3 ・nH2 O、n=1~1.5)のコロイド状凝集体である。アルミナ水和物多孔質層は、好ましくは有機バインダー成分を含む。」
甲第4号証:特開平11-286164号公報(以下、「甲4」という。)
キ「【0027】・・・(略)・・・アルミナ水和物としては、良好な吸収機能を有することから擬ベーマイトが好ましい。ここで、擬ベーマイトは、Al2O3・nH2O(n=1~1.5)の組成式で表されるアルミナ水和物の凝集体である。」
参考文献:Zhou Qing Jiang et al.,"Synthesis of Nanosized Pseudoboehmite and γ-Al2O3 by Control Precipitation Method"(当審訳「制御沈殿法によるナノサイズ擬ベーマイトおよびγ-Al2O3の合成」),Advanced Materials Research,(2013),Vol.684,p46-52
ク「2AlOOH→Al2O3+H2O
・・・(略)・・・
It had been reported that the dehydroxylation of boehmite to γ-Al2O3 occurred when the temperature is higher than 230 ℃.」(第50頁第4~10行)
(当審訳)「2AlOOH→Al2O3+H2O
・・・(略)・・・
ベーマイトのγ-Al2O3への脱ヒドロキシル化は、温度が230℃を超えると生じることが報告されている。
(2)当審が職権で調査して引用する文献及びそれらの記載事項は、以下のとおりである。
引用文献1:塚田高行等「擬ベーマイト粉末のキャラクタリゼーションと希硝酸中での解膠性」 Journal of the Ceramic Society of Japan 107[4]p359-364(1999)
ア「1.緒 言
アルミニウムオキシ水酸化物であるベーマイト(γ-AlOOH)粉末は,γアルミナ及びαアルミナ用の原料として重要である.γアルミナは表面積が大きく,容易に多孔体が形成できることにより各種吸着剤,分離材や触媒担体として,また,αアルミナは,硬度や強度などの機械的特性が良好であること,電気的絶縁体であること,熱的に安定であることにより研磨剤,粉砕媒体,電子材料用基板や高温用耐火物として広く用いられている.
γアルミナ多孔体及びαアルミナ焼結体の製造法のーつに,アルミニウムアルコキシドの加水分解により結晶性の低いベーマイト(擬ベーマイト)のゾルを形成し,ゾルを濃縮乾燥することによりゲルを得,焼成する方法が挙げられる.結晶性の低いベーマイトは一般に擬ベーマイトあるいはベーマイトゲルと呼ばれており,連続的に結晶子径や結晶の面間隔が変化することが知られている.」(第359頁左欄第1~16行)
引用文献2:特開昭54-42399号公報
イ「〔特許請求の範囲〕
(1)式
Al2O3・xH2O
式中、xは0.3乃至5の数である、
で表わされる化学組成を有する非晶質乃至擬べ一マイト型水和アルミナにおいて、前記水和アルミナは500℃よりも高い結晶性アルミナへの転移温度、2.6乃至2.8の真比重、正の水中帯電極性及び2.0×106Ω-cmよりも小さい体積固有抵抗を有することを特徴とする超微粉水和アルミナ。」(特許請求の範囲第1項)
ウ「実施例1.
・・・(略)・・・
ここで本実施例のA-法によって得られた新規水和アルミナの乾燥物及び焼成物の諸物性を測定し、その結果をまとめて第3表に表示した。
以上の結果第3表から明らかなように、新規な微粉末状水和アルミナの結晶形は、擬ベーマイトであり、おもしろいことには温度処理をすると一度非晶質化し、500℃附近からX線的にはその回折線は微弱であるが、γ-アルミナに転位し、そのまま結晶成長が見られなく、しかも1200℃でようやくα-アルミナに転位するというように、従来の擬ベーマイトに比らべ結晶転位のしにくい、いわゆる耐熱性の水和アルミナである。」(第6頁右下欄下から4行~第8頁左上欄下から2行)
エ「第3表
」
上記第3表から、実施例1において、水和度xが、実験番号1-1では5.0、実験番号1-2では2.8、実験番号1-3では2.0、実験番号1-4では0.5、実験番号1-5はで0.4、実験番号1-6では0.36、実験番号1-7では0.3であると読み取れる。すなわち、これを上記イの記載に照らせば、実施例1では、Al2O3・xH2Oの水和度xが、0.3~5.0であり、上記イより、このようなものを「擬ベーマイト」と定義している。
引用文献3:特開平10-193777号公報
オ「【0020】Al2O3・nH2O
式中、nが1である場合はベーマイト構造のアルミナ水和物を表し、nが1を超え3未満である場合は擬ベーマイト構造のアルミナ水和物を表し、nがそれ以上になる場合は非晶質構造のアルミナ水和物を表す。すなわち、本発明に用いるアルミナ水和物は、少なくともnが1を超え3未満のアルミナ水和物である。」
引用文献4:特開平3-58927号公報
カ「また吸着剤として合成吸着剤も用いられ、このような合成吸着剤としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウムおよび二酸化珪素からなる群より選択される少なくとも1種の金属酸化物を主成分とする合成吸着剤、例えば擬ベーマイト(Al2O3・2H2O;協和化学工業(株)製「キョーワードR200B」)、・・・(略)・・・を挙げることができる。」(第2頁左下欄第14行~右下欄第6行)
引用文献5:特開平9-267549号公報
キ「【0012】この無定形アルミナ水和物は、化学的に不安定で、酸又はアルカリに容易に溶解するCα無定形ゲルを発生し、中性又は弱アルカリ水溶液中及び/又は加熱によりCβゲルへと変化する。このような性質を持つ無定形アルミナ水和物は、ベーマイトゲルと呼ばれ、その組成はAl2O3・1.0~2.0H2Oと考えられており、結晶性ベーマイトとは明らかに異なる。このような性質を持つ無定形アルミナ水和物は、X線回折図では結晶性ベーマイトより半値幅が大きく、擬ベーマイトと呼ばれている。又、このような擬ベーマイトは結晶性の低い化合物であり、Rocekらの文献(Collect.Czech.Chem.Commun.,56巻、1253~1262、1991年)によれば、組成はAl2O3・xH2O(1.0<x<2.0)であると考えられる。」
7 引用文献の記載事項についての検討
(1)擬ベーマイトについて
ア 上記6の(1)のアより、「水酸化アルミニウムは結晶状とゲル状の2形態に分類されるが,便宜的に前者をアルミナ水和物とし後者をアルミナゲルと呼」び、「アルミナ水和物」として、1水和物のベーマイト(Boehmite,Bo)(当審注:原文には、「Bo」の「o」に「¨」が付されている。)が知られている。
イ 上記6の(1)のイより、上記アの「アルミナゲル」として、擬ベーマイト(pseudoboehmite, Bo)が存在する。
ウ 上記6の(1)のウより、擬ベーマイトのX線回折図は、ベーマイトに似ているが各回折線はブロードで明らかに区別される。
エ 上記6の(1)のエから、「Bo」(当審注:原文には、「Bo」の「o」に、「¨」が付されている。)で示されている「ベーマイト」のX線回折は、「Bo」で示されている「擬ベーマイト」のX線回折と比較して、鋭く高いピークが存在することが看取できる。
なお、上記6の(1)のウに、「擬ベーマイト」は、「X線回折図はベーマイトに似ているが,各回折線はブロードで明らかに区別される(Fig.4)」と、ベーマイトのX線回折図と擬ベーマイトのX線回折図とを、Fig.4において比較することが記載されているし、当該文献には、Fig.4以外に「Bo」の「o」に「′」が付されている記号が記載されていないから、上記5の(1)のエのFig.4において、「Bo」の「o」に「′」が付されている記号は、ベーマイトを示す「Bo」の「o」に「¨」が付されている記号の誤記であると認める。
オ 上記6の(2)のアより、結晶性の低いベーマイトは一般に擬ベーマイトあるいはベーマイトゲルと呼ばれている。
カ 上記6の(2)のキより、擬ベーマイトは、X線回折図では結晶性ベーマイトより半値幅が大きい。
キ そうすると、上記ア及びイより、「ベーマイト」は結晶状であるのに対し、「擬ベーマイト」はゲル状である。
ク また、X線回折図において、結晶性のよい物質は、より鋭いピークを持ち半値幅がより小さいことは、技術常識であるから、上記ウ及びエより、「擬ベーマイト」は、「ベーマイト」と比較して結晶性が劣るものであるといえる。
ケ したがって、上記オ、キ及びクより、「擬ベーマイト」は「ベーマイト」と比較して結晶性が劣るものであることが、技術常識であるといえる。
(2)化学式Al2O3:xH2Oの水和度xについて
ア 「ベーマイト」は、上記6の(1)のアによれば、アルミナの1水和物であり、上記(2)のオによれば、Al2O3:nH2Oでnが1のものである。
イ 一方、「擬ベーマイト」は、上記6の(1)のオによれば、Al2O3:nH2Oでn=1~1.5のものであり、上記6の(1)のカによれば、Al2O3:nH2Oでn=1~1.5のものであり、上記6の(1)のキによれば、Al2O3:nH2Oでn=1~1.5のものであり、上記6の(2)のオによれば、Al2O3:nH2Oでnが1を超えて3未満のものであり、上記6の(2)のカによれば、Al2O3:2H2Oであり、上記6の(2)のキによれば、Al2O3:xH2Oで1.0<x<2.0のものである。
ウ そうすると、上記アより、「ベーマイト」は、Al2O3:nH2Oでnが1で表せるアルミナの1水和物である。
エ また、上記イより、「擬ベーマイト」は、審判請求人が引用した甲第1~3号証、及び、当審が職権で調査して引用する引用文献3~5によれば、Al2O3:nH2Oのxが概ね1~3であることが技術常識であるといえる。
オ なお、当審が職権で調査して引用する引用文献2によれば、上記6の(2)のエのとおり、Al2O3:xH2Oの水和度xは0.3~5である。
カ ここで、上記6の(2)のエの第3表によれば、引用文献2において「擬ベーマイト」と称する物質は、処理温度200℃では、水和度xが2.0であるが、処理温度300℃を超える温度では、水和度xが0.5よりも小さくなっているから、処理温度200℃と300℃との間に水和度xが1.0となる処理温度が存在すると考えられる。すなわち、上記アに鑑みると、処理温度200℃と300℃との間にベーマイトに近い物質となる処理温度が存在すると考えられる。
キ 一方、上記6の(1)のクより、ベーマイトのγ-Al2O3への脱ヒドロキシル化(2AlOOH→Al2O3+H2O)は、温度が230℃を超えると生じることが報告されているから、上記6の(2)のエの第3表に示された処理温度300℃を超えるものは、ベーマイトのγ-Al2O3への脱ヒドロキシル化(2AlOOH→Al2O3+H2O)が起こり、ベーマイトの一部または大半が無水酸化アルミニウム(すなわち、水和度x=0)となり、平均的な水和度を押し下げていると考えられる。
ク そうすると、引用文献2において「擬ベーマイト」と称する物質は、実際は「擬ベーマイト」とは異なる物質である可能性が高く、その信頼性に疑義があるから、引用文献2は技術常識を示す文献から除外した。
8 当審の判断
以下、訂正事項1及び訂正事項2について検討する。
(1)訂正の目的について
ア 訂正事項1について
(ア)審判請求人は、審判請求書において、訂正事項1は「誤記の訂正」を目的とするものであると主張しているので、この主張について検討する。
(イ)まず、「誤記の訂正」を目的とした訂正については、次のように解される。
特許法第126条第1項第2号は、明細書及び特許請求の範囲(以下、「明細書等」という。)の「誤記の訂正」を許しているので、一見して特許請求の範囲の特定の記載が明細書全体の記載からみて誤記であることが明らかなときは、これを本来書かれる筈であった記載に訂正することが許されているように考えられる。しかし、同条第6項は、この誤記の訂正は「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであつてはならない。」と規定しており、これは明細書等の誤記を訂正することによって特許発明の技術的範囲、したがって特許権の効力の及ぶ範囲に拡張または変更が生じてはならない趣旨であることが明らかである。そして、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に基づいて定めなければならないものであるから(特許法第70条)、同条第6項にいう「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」であるか否かの判断は、特許請求の範囲の記載を基準としてなされなければならない。したがって、特許請求の範囲の記載に関する限り、誤記の訂正は、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解する場合に限って許されることになる。そして、発明の詳細な説明の項の記載は、この点の判断の資料となる限度においてのみしんしやくされると解さなければならない。(要すれば、昭和44年(行ケ)10号参照。)
(ウ)そこで、まず、訂正前の請求項1に係る発明(以下、「訂正前発明」という。)について、その文言から、訂正事項1が、その訂正前後で「当然に」「同一の意味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解する」ものであるか否かについて検討する。
(エ)訂正前の請求項1の「化学式Al2O3:xH2O」について、訂正前は「xは1.0より小さいかまたは1.5より大きく」と記載されており、この記載は、文言上、明確なものであって、訂正後の「xは1.0以上1.5以下であり」を意味するものではないことは明らかである。
(オ)次に、訂正前発明の解釈について、本件明細書及び技術常識を参酌することにより、訂正事項1が、その訂正前後で「当然に」「同一の意味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解する」ものであるか否かについて検討する。
(カ)本件明細書には、「本明細書中で用いられる場合、用語「擬ベーマイト」は、化学式Al2O3・xH2O(ここで、xは1.0~1.5の範囲である)を有する水和酸化アルミニウムに関する」、「本明細書中で「擬ベーマイト」と言及される物質は、無水アルミナ(Al2O3、例えば、αアルミナおよびγアルミナ)および化学式Al2O3・xH2Oの水和酸化アルミニウム(ここで、xは1.0より小さいかまたは1.5より大きい)とは異なる」(上記5の(2)参照。)と記載されており、これらの記載は、訂正前発明の「擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0より小さいかまたは1.5より大き」いとの特定事項とは明らかに矛盾するものである。
(キ)しかしながら、本件明細書には、「擬ベーマイト」についての説明が上記5の(2)の記載以外に存在しないので、訂正前の特許請求の範囲及び本件明細書の記載から、訂正前発明と本件明細書の上記記載とのどちらが正しい記載であるか判断できない。
(ク)一方、上記7の(2)のエより、「擬ベーマイト」は、審判請求人が引用した甲第1~3号証、及び、当審で引用する引用文献3~5によれば、Al2O3:nH2Oのxが概ね1~3であることが技術常識であるといえる。
(ケ)そうすると、訂正前発明の「擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0より小さいかまたは1.5より大き」いとの特定事項には、上記(ク)の技術常識とは反する範囲が含まれているのに対し、本件明細書に記載された、「本明細書中で「擬ベーマイト」と言及される物質は、無水アルミナ(Al2O3、例えば、αアルミナおよびγアルミナ)および化学式Al2O3・xH2Oの水和酸化アルミニウム(ここで、xは1.0より小さいかまたは1.5より大きい)とは異なる」との記載は、上記(ク)の技術常識と整合するものである。
(コ)したがって、本件の訂正前発明及び本件明細書に触れた当業者であれば、技術常識を考慮することにより、当然に訂正前発明の記載は誤記であって、本件明細書の記載が正しいものであると認識するに至ることとなるから、本件の訂正前発明の「擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0より小さいかまたは1.5より大き」いとの特定事項は、「擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0以上1.5以下であ」るとの特定事項と、「当然に」「同一の意味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解する」ものであるといえる。
(サ)よって、訂正事項1は、「誤記の訂正」を目的とするものである。
(シ)以上より、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、実質的に訂正事項1と同様のものであるから、上記アで検討した理由と同様の理由により、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものである。
(2)新規事項の追加の有無について
訂正事項1は、上記5の(2)のとおり、本件明細書【0095】に記載されたものであるから、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるといえる。
また、訂正事項2も同様である。
よって、訂正事項1及び訂正事項2は、特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(3)特許請求の範囲の実質的な拡張又は変更について
上記(1)で検討したとおり、本件の訂正前発明の「擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0より小さいかまたは1.5より大き」いとの特定事項は、「擬ベーマイト層は、化学式Al2O3:xH2Oを有し、xは1.0以上1.5以下であ」るとの特定事項と、「当然に」「同一の意味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解する」ものであるといえる。
したがって、訂正事項1は、「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」にはあたらない。
また、訂正事項2も同様である。
よって、訂正事項1及び訂正事項2は、特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
(4)独立特許要件について
本件訂正後の請求項1~16、46~50に係る発明については、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見いだせない。
よって、訂正事項1及び訂正事項2は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。
(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~16、49、50は、請求項1を引用するものであり、本件訂正前の請求項47~50は、請求項46を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~16,46~50は全て一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、そのような一群の請求項ごとにされたものであるから、特許法第126条第3項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~16,46~50〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。
9 むすび
以上のとおり、本件審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、同条第5~7項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-390017