特許拒絶査定不服審判
2019-009593
自動車用の側面エアバッグ展開システム及び方法
- 審判番号
- 2019-009593
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-165128
- 請求日
- 2019年07月18日
- 審決日
- 2020年04月14日
- 公報発行日
- 2020年10月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】現代自動車株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人共生国際特許事務所
- 【請求人】起亞自動車株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人共生国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 藤井 昇
- 審判官 一ノ瀬 覚
- 審判官 島田 信一
- 分類
- P18 .121-Z (B60R)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-165128号「自動車用の側面エアバッグ展開システム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月 4日出願公開、特開2015-101329号〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成26年8月14日(パリ条約による優先権主張 2013年11月26日(KR)韓国)に出願されたものであって、平成30年3月13日付けで拒絶理由が通知され、同年6月19日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月11日付けで2回目の拒絶理由が通知され、平成31年1月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年2月28日付けで2回目の拒絶理由で通知した理由による拒絶査定がされ、令和1年7月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~6に係る発明は、平成31年1月16日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「正面エアバッグの展開過程と、側面エアバッグの展開過程と、を制御する正/側面エアバッグ制御部を含み、
前記正/側面エアバッグ制御部は、
エアバッグコントロールユニットから提供された正面加速度信号を、時間にともなう速度に変換した後、変換された時間にともなう速度VXが、予め決定された時間に従う第1閾値THDを超えるか否かを判定する正面信号モニタリング部と、
前記正面信号モニタリング部の閾値調節要請信号を受けて、側面エアバッグの展開のための判断因子に対する閾値である第2閾値THsgを下向き調節させる閾値調節部と、を含み、
前記閾値調節部は、前記正面加速度信号を変換した時間にともなう速度VXが時間に従う第1閾値THDを超えて、側面エアバッグの展開のための判断因子に対する第2閾値THsgが下向き調節されるとしても、速度VXが第1閾値THDよりも再び小さくなれば、第2閾値THsgも再び元来の値に上向き調節させることを特徴とする自動車用の側面エアバッグ展開システム。」
第3 原査定の概要
この出願の請求項1~6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2003-327073号公報
引用文献3.特開2012-166619号公報
引用文献4.特開2001-260803号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特開2006-264420号公報
特に請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献5に記載された技術的事項に基いて、あるいは、引用文献1に記載された発明、引用文献5に記載された技術的事項及び引用文献4に例示される周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 引用文献の記載事項等
1 引用文献1
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には次の記載がある(下線は当審で付加。以下同様。)。
(1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、衝突時の前後加速度および横加速度を検出して乗員を保護するようにした車両の乗員保護装置に関する。」
(1b)「【0010】この実施形態の乗員保護装置を備えた車両1には、図1に示すように車両前後方向に発生する前後減速度を検出する前後減速度センサー11と、車両左右方向に発生する横減速度を検出する横減速度センサー12と、これら両減速度センサー11,12の検出信号に基づいて衝突形態を判定するとともに、後述する乗員保護手段に作動信号を出力する衝突形態判定手段としてのコントローラ13を設けてある。
【0011】乗員保護手段としては、図2に示すように前面衝突時に乗員Pの前屈を拘束する前後拘束デバイスとしての前突エアバッグ20と、側面衝突時に乗員Pの横倒れを拘束する左右拘束デバイスとしての側突エアバッグ21と、斜め衝突時に乗員Pの斜め方向の倒れ込みを拘束するために、斜め衝突用デバイスとして前記側突エアバッグ21および脚部拘束手段22とが用いられる。」
(1c)「【0013】コントローラ13は、図5に示すフローチャートに従って前面(正面)衝突、側面衝突、斜め衝突、軽衝突等の衝突形態を判定するようにしており、このときの衝突形態の判定に図3に示すマップが用いられる。
【0014】このマップは横軸に前後減速度G1を取り、縦軸に横減速度G2を取って衝突形態別の領域を示し、前後減速度G1の第1しきい値α以上が前面衝突領域A1となり、横減速度G2の第2しきい値β以上が側面衝突領域A2となる。
【0015】斜め衝突時に車両に発生する減速度波形は図4に示すようになり、図1に示すように自車両1が相手車両2に斜め衝突すると、衝突直後には前後減速度G1が発生し、一定時間t0の後に自車両1の横並進移動に伴って横減速度G2が発生する。
【0016】従って、斜め衝突は前後減速度G1が発生した後に横減速度G2が発生するので、図3に示すように第1しきい値α以上で、第2しきい値β以下の領域に斜め衝突領域A3が形成され、このとき、斜め衝突を判定する横減速度G2レベルは衝突直後の前後減速度に連動して決定され、側面衝突の判定基準となる第2しきい値βより低く設定される第3しきい値γ以上としてある。」
(1d)「【0022】前記コントローラ13は図5に示すフローチャートに従って制御を実行し、衝突形態を判定するとともに、その衝突形態に応じて前突エアバッグ20、側突エアバッグ21、脚部拘束手段22を選択して作動するようになっている。
【0023】即ち、前記フローチャートは所定の短時間毎に処理され、まず、ステップS1によって前後減速度センサー11および横減速度センサー12で検出した前後減速度G1および横減速度G2を読み込み、ステップS2では前後減速度G1と図3のマップの第1しきい値αとを比較して前面衝突であるかどうかを判定し、前面衝突である場合(YES)はステップS3によって前突エアバッグ20を作動する。
【0024】一方、前記ステップS2で前後減速度G1が第1しきい値αよりも小さいと判断した場合(NO)はステップS4に進み、横減速度G2と第2しきい値βとを比較して側面衝突であるかどうか判定し、側面衝突である場合(YES)はステップS5によって側突エアバッグ21を作動する。
【0025】また、前記ステップS4で横減速度G2が第2しきい値βよりも小さいと判断した場合(NO)はステップS6によって軽衝突であると判断し、乗員保護手段を非作動状態とする。
【0026】ところで、前面衝突と判定して前突エアバッグ20を作動する(ステップS2,S3)と、ステップS7によって側突エアバッグ21を作動する横減速度G2の判定レベルを前記第2しきい値βよりも低い第3しきい値γに下げ、ステップS8ではこの第3しきい値γと横減速度G2とを比較する。
【0027】そして、横減速度G2が第3しきい値γ以上であると判断した場合(YES)は斜め衝突であると判定し、ステップS9によって斜め衝突用デバイスとなる側突エアバッグ21および脚部拘束手段22を作動するようになっており、この斜め衝突デバイスの作動は、前記前突エアバッグ20が作動した後に一定の時間後に作動されるようになっている。」
(1e)【図1】は次のとおりである。
(1f)【図5】は次のとおりである。なお、「S9」に「斜め衝突用デバイス22作動」と記載されているが、記載事項(1d)の段落【0027】より、「斜め衝突用デバイスとなる側突エアバッグ21および脚部拘束手段22」を作動させていることは明らかである。
(2)引用発明
上記(1)より、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「車両前後方向に発生する前後減速度を検出する前後減速度センサー11と、車両左右方向に発生する横減速度を検出する横減速度センサー12と、これら両減速度センサー11,12の検出信号に基づいて衝突形態を判定するとともに、乗員保護手段に作動信号を出力する衝突形態判定手段としてのコントローラ13を設け、
乗員保護手段としては、前面衝突時に乗員Pの前屈を拘束する前後拘束デバイスとしての前突エアバッグ20と、側面衝突時に乗員Pの横倒れを拘束する左右拘束デバイスとしての側突エアバッグ21と、斜め衝突時に乗員Pの斜め方向の倒れ込みを拘束するために、斜め衝突用デバイスとして側突エアバッグ21および脚部拘束手段22とが用いられ、
コントローラ13は、前面(正面)衝突、側面衝突、斜め衝突、軽衝突等の衝突形態を判定するようにしており、
コントローラ13は、衝突形態を判定するとともに、その衝突形態に応じて前突エアバッグ20、側突エアバッグ21、脚部拘束手段22を選択して作動させるようになっており、
コントローラ13は、
ステップS1によって前後減速度センサー11および横減速度センサー12で検出した前後減速度G1および横減速度G2を読み込み、ステップS2では前後減速度G1と第1しきい値αとを比較して前面衝突であるかどうかを判定し、前面衝突である場合はステップS3によって前突エアバッグ20を作動させ、
ステップS2で前後減速度G1が第1しきい値αよりも小さいと判断した場合はステップS4に進み、横減速度G2と第2しきい値βとを比較して側面衝突であるかどうか判定し、側面衝突である場合はステップS5によって側突エアバッグ21を作動させ、
ステップS4で横減速度G2が第2しきい値βよりも小さいと判断した場合はステップS6によって軽衝突であると判断し、乗員保護手段を非作動状態とし、
前面衝突と判定して前突エアバッグ20を作動すると、ステップS7によって側突エアバッグ21を作動する横減速度G2の判定レベルを第2しきい値βよりも低い第3しきい値γに下げ、ステップS8ではこの第3しきい値γと横減速度G2とを比較し、
横減速度G2が第3しきい値γ以上であると判断した場合は斜め衝突であると判定し、ステップS9によって斜め衝突用デバイスとなる側突エアバッグ21および脚部拘束手段22を作動させる、
車両の乗員保護装置。」
2 引用文献5
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には次の記載がある。
(5a)「【0037】
図4は、「64kphODB(GS1)」と「26kph正面条件(GS2)」の2種類の衝突について経過時間と加速度累積値の関係を示した図である。ここで、一点鎖線Tsは速度用閾値を示し、この速度用閾値Tsは所定の経過時間(図4ではt=7.0ms)までは一定の値(20G)でそれ以降所定の経過時間(図4ではt=10.0ms)までは経過時間の増加に比例して増加する閾値となっており、加速度累積値の傾きを判断できる閾値となっている。」
(5b)「【0059】
そして、エアバッグの展開形態を決定するのに加速度信号の積分値を使用することで、瞬時値である加速度によって判断する場合に比べて安定した展開形態の判断をおこなうことができる。」
(5c)図4は次のとおりである。
3 引用文献4
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に周知技術を示す文献として引用された引用文献4には次の記載がある。
(4a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両が衝突した際に車両内の乗員を保護するエアバッグ装置やシートベルトプリテンショナー装置、ヘッドレスト装置装置等の乗員保護装置に係わり、特に、この乗員保護装置が車両の衝撃時に起動するようにした乗員保護装置の起動制御装置に関する。」(合議体注;「ヘッドレスト装置装置」は「ヘッドレスト装置」の誤記と認める。)
(4b)「【0006】また、前記断線検出手段は、前記車両の前部左右に配設されているヘッドランプのフィラメントの断線状態を検出するものであって、前記起動制御手段は、前記衝撃度検出手段で検出された衝撃度が所定の閾値を超えると前記乗員保護装置を起動するものであって、且つ前記断線検出手段により前記フィラメントが断線されたことが検出されると前記閾値を低下させるものであることを特徴とするものである。」
(4c)「【0010】また、前記起動制御手段は、前記断線検出手段により前記フィラメントの断線が検出された後、所定時間以内に前記衝撃度が前記低下された閾値を超えなかったときには、該閾値を元の閾値に戻すことを特徴とするものである。」
第5 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)後者の「前突エアバッグ20」は、前者の「正面エアバッグ」に相当し、同様に、「側突エアバッグ21」は、「側面エアバッグ」に相当する。
また、「加速度」とは「速度変化の時間に対する割合」[株式会社岩波書店広辞苑第六版]のことであり、後者の「前後減速度G1」は信号であることは明らかであるから、前者の「正面加速度信号」に相当する。
そして、記載事項(1e)より、後者の「車両」は、実質的には「自動車」であることは明らかといえるので、前者の「自動車」に相当するといえる。
(2)後者の「コントローラ13」は、「前突エアバッグ20」及び「側突エアバッグ21」も含めて作動させるものであるから、上記(1)も踏まえると、前者の「正/側面エアバッグ制御部」に相当するといえ、また、「エアバッグコントロールユニット」にも相当するといえる。
(3)後者の「車両の乗員保護装置」は、その構成からみて「システム」ともいい得るものであり、「側突エアバッグ21」も作動させるものであるから、上記(1)も踏まえると、前者の「自動車用の側面エアバッグ展開システム」に相当するといえる。
(4)上記(1)、(2)を踏まえると、後者の
「車両前後方向に発生する前後減速度を検出する前後減速度センサー11と、車両左右方向に発生する横減速度を検出する横減速度センサー12と、これら両減速度センサー11,12の検出信号に基づいて衝突形態を判定するとともに、乗員保護手段に作動信号を出力する衝突形態判定手段としてのコントローラ13を設け、
乗員保護手段としては、前面衝突時に乗員Pの前屈を拘束する前後拘束デバイスとしての前突エアバッグ20と、側面衝突時に乗員Pの横倒れを拘束する左右拘束デバイスとしての側突エアバッグ21と、斜め衝突時に乗員Pの斜め方向の倒れ込みを拘束するために、斜め衝突用デバイスとして側突エアバッグ21および脚部拘束手段22とが用いられ、
コントローラ13は、前面(正面)衝突、側面衝突、斜め衝突、軽衝突等の衝突形態を判定するようにしており、
コントローラ13は、衝突形態を判定するとともに、その衝突形態に応じて前突エアバッグ20、側突エアバッグ21、脚部拘束手段22を選択して作動させるようになっており」
という事項は、前者の
「正面エアバッグの展開過程と、側面エアバッグの展開過程と、を制御する正/側面エアバッグ制御部を含み」
という事項を満たすといえる。
(5)前者の「エアバッグコントロールユニットから提供された正面加速度信号」という事項について検討するに、本願明細書における「発明を実施するための形態」の説明(段落【0021】~【0037】)に「エアバッグコントロールユニット」についての具体的な記載はないが、「背景技術」を説明する段落【0004】に「前記正面衝突センサー16及び側面衝突センサー12は、別体としてではなく、エアバッグコントロールユニット10内に、車両の縦方向(ACU-X)と横方向(ACU-Y)の加速度を感知するセンサーとして取り付けられている。したがって、エアバッグコントロールユニット10は、側面圧力センサー14と、エアバッグコントロールユニット10内の車両の縦方向(ACU-X)と横方向(ACU-Y)の加速度を感知するセンサーの信号と、に基づいて運転席エアバッグ30、助手席エアバッグ32、又は/及び側面エアバッグを展開制御する。」と記載されており、本願明細書及び図面の実施例の説明においても「ACUX」(【図3】、【図4】)、「ACU-Y」(段落【0027】等)の記載があり、本願発明の「エアバッグコントロールユニット」において、縦方向と横方向の加速度の感知について、背景技術と異なるものであることの記載もないことから、「発明を実施するための形態」における「エアバッグコントロールユニット」も縦方向と横方向の加速度の感知については同様の構成を有していると解される。そうすると、本願発明の「エアバッグコントロールユニットから提供された正面加速度信号」という事項は、実質的には「エアバッグコントロールユニット」内で検出され、そこから提供された「正面加速度信号」ということを示すと解される。
また、後者の「コントローラ13」は、「ステップS1によって前後減速度センサー11および横減速度センサー12で検出した前後減速度G1および横減速度G2を読み込み、ステップS2では前後減速度G1と第1しきい値αとを比較して前面衝突であるかどうかを判定し、前面衝突である場合はステップS3によって前突エアバッグ20を作動させ」、「前面衝突と判定して前突エアバッグ20を作動すると、ステップS7によって側突エアバッグ21を作動する横減速度G2の判定レベルを第2しきい値βよりも低い第3しきい値γに下げ、ステップS8ではこの第3しきい値γと横減速度G2とを比較し、横減速度G2が第3しきい値γ以上であると判断した場合は斜め衝突であると判定し、ステップS9によって斜め衝突用デバイスとなる側突エアバッグ21および脚部拘束手段22を作動させる」ものであるから、「前後減速度G1」をモニタリングしているといえるので、前者の「正面信号モニタリング部」に相当する構成を有しているのは明らかといえる。
そして、後者の「第1しきい値α」は、前者の「第1閾値THD」に相当し、同様に「第2しきい値β」は、「第2閾値THsg」に相当し、後者の「第2しきい値βよりも低い第3しきい値γに下げ」るということは、上記の「正面信号モニタリング部」に相当する構成の電気的な信号によって作動することは自明のことであるから、前者の「前記正面信号モニタリング部の閾値調節要請信号を受けて、側面エアバッグの展開のための判断因子に対する閾値である第2閾値THsgを下向き調節させる」ことに相当するといえ、そうすると、後者の「コントローラ13」は、前者の「閾値調節部」に相当する構成を有しているのは明らかといえる。
加えて、後者の「前後減速度G1」と、前者の「正面加速度信号を、時間にともなう速度に変換した後、変換された時間にともなう速度VX」とは、「正面加速度信号に係る値」であることにおいて共通するといえる。
以上のことと、上記(1)~(4)も踏まえると、後者の
「コントローラ13は、
ステップS1によって前後減速度センサー11および横減速度センサー12で検出した前後減速度G1および横減速度G2を読み込み、ステップS2では前後減速度G1と第1しきい値αとを比較して前面衝突であるかどうかを判定し、前面衝突である場合はステップS3によって前突エアバッグ20を作動させ、
ステップS2で前後減速度G1が第1しきい値αよりも小さいと判断した場合はステップS4に進み、横減速度G2と第2しきい値βとを比較して側面衝突であるかどうか判定し、側面衝突である場合はステップS5によって側突エアバッグ21を作動させ、
ステップS4で横減速度G2が第2しきい値βよりも小さいと判断した場合はステップS6によって軽衝突であると判断し、乗員保護手段を非作動状態とし、
前面衝突と判定して前突エアバッグ20を作動すると、ステップS7によって側突エアバッグ21を作動する横減速度G2の判定レベルを第2しきい値βよりも低い第3しきい値γに下げ、ステップS8ではこの第3しきい値γと横減速度G2とを比較し、
横減速度G2が第3しきい値γ以上であると判断した場合は斜め衝突であると判定し、ステップS9によって斜め衝突用デバイスとなる側突エアバッグ21および脚部拘束手段22を作動させる」
という事項と、前者の
「前記正/側面エアバッグ制御部は、
エアバッグコントロールユニットから提供された正面加速度信号を、時間にともなう速度に変換した後、変換された時間にともなう速度VXが、予め決定された時間に従う第1閾値THDを超えるか否かを判定する正面信号モニタリング部と、
前記正面信号モニタリング部の閾値調節要請信号を受けて、側面エアバッグの展開のための判断因子に対する閾値である第2閾値THsgを下向き調節させる閾値調節部と、を含」む
という事項とは、
「前記正/側面エアバッグ制御部は、
正面加速度信号に係る値が、第1閾値THDを超えるか否かを判定する正面信号モニタリング部と、
前記正面信号モニタリング部の閾値調節要請信号を受けて、側面エアバッグの展開のための判断因子に対する閾値である第2閾値THsgを下向き調節させる閾値調節部と、を含」む
という事項であることにおいて共通するといえる。
(6)以上より、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりと認める。
〔一致点〕
「正面エアバッグの展開過程と、側面エアバッグの展開過程と、を制御する正/側面エアバッグ制御部を含み、
前記正/側面エアバッグ制御部は、
正面加速度信号に係る値が、第1閾値THDを超えるか否かを判定する正面信号モニタリング部と、
前記正面信号モニタリング部の閾値調節要請信号を受けて、側面エアバッグの展開のための判断因子に対する閾値である第2閾値THsgを下向き調節させる閾値調節部と、を含む自動車用の側面エアバッグ展開システム。」
〔相違点1〕
「正面加速度信号」に関し、本願発明が、「エアバッグコントロールユニットから提供された」ものであるのに対し、引用発明は、「前後減速度センサー11」「で検出した」ものである点。
〔相違点2〕
「正面加速度信号に係る値」及び「第1閾値THD」に関し、本願発明が、それぞれ「正面加速度信号を、時間にともなう速度に変換した後、変換された時間にともなう速度VX」であり、「予め決定された時間に従う第1閾値THD」であるのに対し、引用発明は「前後減速度G1」であり、「第1しきい値α」は予め決定された時間に従うものではない点。
〔相違点3〕
本願発明が、「前記閾値調節部は、前記正面加速度信号を変換した時間にともなう速度VXが時間に従う第1閾値THDを超えて、側面エアバッグの展開のための判断因子に対する第2閾値THsgが下向き調節されるとしても、速度VXが第1閾値THDよりも再び小さくなれば、第2閾値THsgも再び元来の値に上向き調節させる」ものであるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。
2 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
ア 引用発明の「前後減速度G1」(正面加速度信号に相当)は、「コントローラ13」(エアバッグコントロールユニットに相当)とは別に配置された「前後減速度センサー11」により検出されるものであるが、当該センサーの配置位置は、必要に応じて適宜選択し得ることであり、「コントローラ13」内に配置して、「前後減速度G1」を「コントローラ13」内に配置した「前後減速度センサー11」から、「コントローラ13」(正/側面エアバッグ制御部に相当)内の「正面信号モニタリング部」に相当する構成(上記「1(5)」参照。)に提供するようにすること、すなわち、上記相違点1に係る本願発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
イ なお、上記「1(5)」で述べたとおり、本願明細書における「発明を実施するための形態」の説明には「エアバッグコントロールユニット」についての具体的な記載がないが、仮に、本願発明の「エアバッグコントロールユニット」と「正/側面エアバッグ制御部」が別体として構成されているとしても、一般に制御システムにおける各制御部を必要に応じて集約あるいは分離して配置することは、当業者であれば適宜なし得る設計的事項にすぎず、引用発明の「コントローラ13」内の「正面信号モニタリング部」に相当する構成を、「コントローラ13」から分離して別体として構成することは、設計変更にすぎない。
したがって、この場合であっても、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(2)相違点2について
エアバッグの制御に用いる信号において、安定した展開形態とするため、検出した加速度信号を、そのまま用いるのではなく、時間にともなう速度に変換して用いる技術的事項が、引用文献5に記載されている(記載事項(5b)参照。加速度信号を積分するということは、時間にともなう速度に変換していることに相当する。)。
引用発明においても、より安定した展開形態とするべく、引用文献5に記載された技術的事項を採用しようとする動機付けは十分にあるといえる。
そして、当該採用に合わせ、引用文献5の記載事項(5a)、(5c)に示されるように速度用閾値Tsを経過時間に従って決定するようにすることにより、引用発明の「第1しきい値α」(第1閾値THDに相当)も予め決定された時間に従うように変更して、上記相違点2に係る本願発明の事項を有するものとすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(3)相違点3について
ア 引用文献1の記載事項(1d)の段落【0023】には、「前記フローチャートは所定の短時間毎に処理され」ることが記載されており、当該記載を踏まえると、記載事項(1f)のフローチャートは繰り返されるものであることが理解でき、その場合、「前後減速度G1」(正面加速度信号に相当)が「第1しきい値α」(第1閾値THDに相当)を越えて、「側突エアバッグ21を作動する横減速度G2の判定レベルを第2しきい値βよりも低い第3しきい値γに下げ」たとしても、「斜め衝突用デバイスとなる側突エアバッグ21および脚部拘束手段22」が作動しなかった場合で(記載事項(1f)の「S8」の「NO」の場合を参照。)、「前後減速度G1」が「第1しきい値α」よりも再び小さくなれば、「横減速度G2の判定レベル」は再び「第2しきい値β」(第2閾値THsg(の元来の値)に相当)に上向き調節されることは自明のことといえる。
そして、「正面加速度信号を変換した時間にともなう速度VX」、「時間に従う第1閾値THD」については、上記「相違点2について」で検討したとおりである。
したがって、上記相違点3に係る本願発明の事項は、引用発明に引用文献5に記載された技術的事項を適用した場合、自ずと得られる構成であるといえる。
イ あるいは、エアバッグの制御において、閾値を低下させた後、低下させることが不要となった場合、元の値に戻すことは引用文献4(記載事項(4a)~(4c)参照。)に示されるように周知技術といえる。
引用発明において、「斜め衝突用デバイスとなる側突エアバッグ21および脚部拘束手段22」が作動しなかった場合で、「前後減速度G1」が「第1しきい値α」よりも再び小さくなった場合、「横減速度G2の判定レベル」を「第2しきい値β」よりも低い「第3しきい値γ」に下げ続ける必要がないことは自明のことであるから、上記周知技術を参酌することにより、引用発明において、「前後減速度G1」が「第1しきい値α」を越えて、「側突エアバッグ21を作動する横減速度G2の判定レベルを第2しきい値βよりも低い第3しきい値γに下げ」たとしても、「斜め衝突用デバイスとなる側突エアバッグ21および脚部拘束手段22」が作動しなかった場合で、「「前後減速度G1」が「第1しきい値α」よりも再び小さくなれば、「横減速度G2の判定レベル」を再び「第2しきい値β」に上向き調節されるものとするよう構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして、「正面加速度信号を変換した時間にともなう速度VX」、「時間に従う第1閾値THD」については、上記「相違点2について」で検討したとおりである。
したがって、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明の事項を有するものとすることは、引用発明、引用文献5に記載された技術的事項及び周知技術に基いて容易になし得たことである。
そして、本願発明の作用効果について検討しても、引用発明、引用文献5に記載された技術的事項(及び周知技術)に比して、当業者が予測できないような格別のものはない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献5に記載された技術的事項に基いて、あるいは、引用発明、引用文献5に記載された技術的事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、請求人は審判請求書の「三、(2)」において、「例えば、本願発明と最も近似したものと見られる引用文献1では、各衝突方向によって設定された臨界値(α、β、γ)の中の傾斜衝突が発生したと判断される場合、臨界値が最も低い第3の臨界値を選択することが単に開示されているだけであります。換言すると、引用文献1は、斜め衝撃、衝突をモニター及び使用しております。したがって引用文献1は、正面加速度感知信号に基づいて自動車の側面エアバッグを展開を示唆するもではありません。他の引用文献においても、正面衝突による正面加速度感知信号値をモニタリングして、側面エアバッグの展開のための閾値を下向き調節するシステム及び方法によって、正面加速度感知信号に基づいて自動車の側面エアバッグを展開することについては、何の記載も示唆もありません。」と主張する。
しかしながら、上記記載事項(1d)、(1f)及び上記「1(5)」のとおり、引用文献1には、「前後減速度G1」(正面加速度信号に相当)に基づいて「側突エアバッグ21」(側面エアバッグに相当)の展開のための「横減速度G2の判定レベル」を「第2しきい値β」よりも低い「第3しきい値γ」に下げることが示されていることから、上記主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献5に記載された技術的事項に基いて、あるいは、引用発明、引用文献5に記載された技術的事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-009593