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特許拒絶査定不服審判

2019-008834

脳機能改善するための食品組成物

審判番号
2019-008834
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2018-506349外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年07月02日
審決日
2020年06月05日
公報発行日
2020年09月25日
結論
請求不成立
審判長/審判官
分類
P18 .536-Z (A23L) / P18 .537-Z (A23L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2018-506349「脳機能改善するための食品組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 1日国際公開、WO2018/021471〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 1 手続の経緯 本願は、2017年7月27日(優先権主張平成28年7月28日(JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、その後の経緯は以下のとおりである。 平成30年 2月14日   手続補正書の提出 平成30年 4月 4日付け 拒絶理由通知 平成30年 8月22日   意見書及び手続補正書の提出 平成30年10月18日付け 拒絶理由通知 平成31年 2月21日   意見書及び手続補正書の提出 平成31年 4月 3日付け 拒絶査定 令和 1年 7月 2日   審判請求書及び手続補正書の提出 令和 1年 8月19日   手続補正書(方式)の提出 2 本願発明 本願の請求項1~7に係る発明は、令和1年7月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は次のとおりのものである。 「【請求項1】 クルミたん白質加水分解物中の分子量500未満のペプチドの含量が、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して55重量%以上であり、かつ、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドを有するクルミたん白質加水分解物を有効成分とし、該チロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドが、Arg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-TyrまたはTyr-Pheである、脳神経疾患の予防または脳機能改善するための食品組成物。」 3 原査定の拒絶の理由 本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、平成30年10月18日付け拒絶理由通知に示した 2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 というものである。 4 発明の詳細な説明及び図面の記載事項 発明の詳細な説明及び図面には、以下の(ア)~(コ)の記載がある。 記載(ア) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、脳機能改善するための食品組成物に関する。」 記載(イ) 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ……。 本発明は、保存安定性が高く、安価に摂取することが出来る脳機能改善機能を有する食品素材を提供することを目的とした。」 記載(ウ) 「【発明の効果】 【0008】 本発明のクルミたん白質加水分解物を摂取することにより、脳機能の改善に役立てることができる」 記載(エ) 「【0012】 (クルミたん白質加水分解物) 本発明で使用されるクルミたん白質加水分解物は、上記クルミたん白質組成物をプロテアーゼ処理することによって得られるペプチド混合物である。クルミたん白質加水分解物は分解度がより高いことが好ましく、特に加水分解物中におけるペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占める、ジペプチド及び/またはトリペプチドの割合が高いことが重要である。具体的には、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占めるジペプチド及び/またはトリペプチドの割合が55重量%以上であることが必要であり、60重量%以上であることが好ましい。 なお本発明では、ジペプチド及び/またはトリペプチドを、分子量500以下の画分から遊離アミノ酸を除いた画分と規定した。したがって、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占めるジペプチド及び/またはトリペプチドの割合は、ペプチド用ゲルろ過クロマトグラフィーにより加水分解物中の分子量500以下のペプチド画分の割合を測定した後、アミノ酸分析により測定した加水分解物中の遊離アミノ酸含量を差し引くことにより算出することが可能である。」 記載(オ) 「【0013】 本発明のクルミたん白質加水分解物にはチロシン及び/またはフェニルアラニンを含有するジペプチド及び/またはトリペプチドを含有することが重要である。 すなわち、本発明は該チロシン及び/またはフェニルアラニンを含有するジペプチド及び/またはトリペプチドを脳機能を改善する有効成分として作用させることを本質とするものである。」 記載(カ) 「【0016】 (プロテアーゼ) 酵素分解は上記クルミたん白質組成物のスラリー又は水溶液を基質とし、プロテアーゼ処理を行う。ここで用いるプロテアーゼは動物起源,植物起源あるいは微生物起源は問わず、プロテアーゼの分類において「金属プロテアーゼ」、「酸性プロテアーゼ」、「チオールプロテアーゼ」、「セリンプロテアーゼ」に分類されるプロテアーゼ、好ましくは「金属プロテアーゼ」、「チオールプロテアーゼ」、「セリンプロテアーゼ」に分類されるプロテアーゼの中から適宜選択することができる。特に2種類以上、あるいは3種類以上の異なった分類に属する酵素を、順次若しくは同時に作用させる分解方法がジペプチドやトリペプチド等の比較的分子量の低いペプチドの割合を増加させることができ好ましい。 【0017】 このプロテアーゼの分類は、酵素科学の分野において通常行われている活性中心のアミノ酸の種類による分類方法である。各々の代表として「金属プロテアーゼ」にはBacillus中性プロテアーゼ,Streptomyces中性プロテアーゼ,Aspergillus中性プロテアーゼ,『サモアーゼ』等、「酸性プロテアーゼ」にはペプシン,Aspergillus酸性プロテアーゼ,『スミチュームAP』等、「チオールプロテアーゼ」にはブロメライン,パパイン等、「セリンプロテアーゼ」にはトリプシン,キモトリプシン,ズブチリシン,Streptomycesアルカリプロテアーゼ,『アルカラーゼ』,『ビオプラーゼ』等が挙げられる。これら以外の酵素でも作用pHや阻害剤との反応性により、その分類を確認することができる。活性中心が異なる酵素間では、基質への作用部位が大きく異なるため、「切れ残り」を減らし、効率よく酵素分解物を得ることができる。あるいは異なった起源の(起源生物)の酵素を併用することにより、更に効率よく酵素分解物を製造することができる。同分類でも起源が異なれば、基質である蛋白質への作用部位も異なり、結果としてジペプチドやトリペプチドの割合を増やすことができる。これらプロテアーゼはエキソ活性が少ないことが好ましい。 【0018】 プロテアーゼ処理の反応pHや反応温度は、用いるプロテアーゼの特性に合わせて設定すれば良く、通常反応pHは至適pH付近で行い、反応温度は至適温度付近で行えば良い。概ね反応温度は20~80℃、好ましくは40~60℃で反応を行うことができる。反応後は酵素を失活するのに十分な温度(60~170℃程度)で加熱し、残存酵素活性を失活させる。」 記載(キ) 「【実施例】 【0023】 以下、実施例により本発明の実施様態を具体的に説明する。 【0024】 (製造例1) 分離クルミたん白質組成物の調製 非特許文献2に記載の方法に準じて脱脂クルミ粕から分離クルミたん白質組成物を調製した。脱脂クルミ粕に対して1M NaOHでpH11.0に調整した脱イオン水を20倍量加え、25℃で2時間の条件で撹拌した。その後、10,000×g、30分間、4℃の条件で遠心分離し、上清を回収した。遠心分離により生じた沈殿に再度、1 M NaOHでpH11.0に調整した脱イオン水を20倍量加え、25℃で2時間の条件で撹拌し、10,000 ×g、30分間、4℃の条件で遠心分離し、上清を回収した。2回分の上清を合わせ、1 M HClを用いてpH4.5に調整後、4℃で2時間静置した。静置後、10,000×g、30分間、4℃の条件で遠心分離した。遠心分離により得られた沈殿に脱イオン水を加えて水洗後、1 M NaOHを用いてpH7とし、脱イオン水中に再溶解させた。その後、塩透析し、凍結乾燥することにより分離クルミたん白質組成物を得た。分離クルミたん白質組成物の粗蛋白質含量は、分離クルミたん白質組成物の乾燥重量に対して85.0重量%であった。 【0025】 (製造例2) クルミたん白質加水分解物1の調製 製造例1で得られた分離クルミたん白質組成物の3重量%溶液に対して、プロテアーゼとして『アルカラーゼ』(起源;Bacillus Licheniformis、アルカリプロテアーゼ、ノボザイム社製)を対蛋白質当たり0.125重量%加え、pH9.0, 58℃で60分間作用させた。以上の処理の後、反応液を90℃, 20分間加熱して反応を停止した後、凍結乾燥し、加水分解を抑えた試料である、分離クルミたん白質加水分解物1を得た。 【0026】 (製造例3) クルミたん白質加水分解物2の調製 製造例1で得られた分離クルミたん白質組成物の3重量%溶液に対して、プロテアーゼとして『アルカラーゼ』を対蛋白質当たり0.5重量%加え、他は製造例2と同様に調製し、分離クルミたん白質加水分解物2を得た。 【0027】 (製造例4) クルミたん白質加水分解物3の調製 製造例1で得られた分離クルミたん白質組成物の3重量%溶液に対して、プロテアーゼとして『マルチフェクトPR6L』(起源;Bacillus Licheniformis、アルカリプロテアーゼ、ジェネンコア社製)を対蛋白質当たり3重量%加え、他は製造例2と同様に調製し、分離クルミたん白質加水分解物3を得た。 【0028】 (製造例5)ジペプチドおよび/またはトリペプチド高含有クルミたん白質加水分解物4の調製 製造例1で得られた分離クルミたん白質組成物の3重量%溶液に対して、第一のプロテアーゼとして『サモアーゼ』(起源;Bacillus thermoproteolyticus、金属プロテアーゼ、大和化成社製)を対蛋白質当たり1.5重量%加え、pH9.0, 58℃で60分間作用させた。次に該第一反応液に対して、第二のプロテアーゼとして『ビオプラーゼ』(起源;Bacillus sp., セリンプロテアーゼ、ナガセケムテック社製)を対蛋白質当たり1重量%加え、pH7.5に、58℃で60分間作用させた。次に該第二反応液に対して、第三のプロテアーゼとして『スミチームFP』(起源;Asprgillus sp., 金属プロテアーゼ、新日本化学工業社製)を対蛋白質当たり1重量%加え、他は製造例2と同様に調製し、分離クルミたん白質加水分解物4を得た。 【0029】 また、他の食品由来蛋白質の加水分解物と比較するために、市販品を入手した。コラーゲン加水分解物として「FSP-AS-L」(ニッピ社製)を入手し、コントロールとして使用した。」 記載(ク) 「【0035】 (遊離アミノ酸含量及びジ・トリペプチド含量の測定) クルミたん白質加水分解物の分子量分布を、以下のゲルろ過カラムを用いたHPLC法により測定した。ペプチド用ゲルろ過カラムを用いたHPLCシステムを組み、分子量マーカーとなる既知のペプチドをチャージし、分子量と保持時間の関係において検量線を求めた。なお、分子量マーカーは、オクタペプチドとして[β-Asp]-Angiotensin IIのβ-Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-PHe(分子量1046)、ヘキサペプチドとしてAngiotensin IVのVal-Tyr-Ile-His-Pro-PHe(分子量775)、ペンタペプチドとしてLeu-EnkepHalinのTyr-Gly-Gly-PHe-Leu(分子量555)、トリペプチドとしてGlu-Glu-Glu(分子量405)、遊離アミノ酸としてPro(分子量115)を用いた。加水分解物(1%)を10,000rpm、10分間で遠心分離した上清を、ゲル濾過用溶媒で2倍に希釈し、その5μlをHPLCにアプライした。加水分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占める分子量500以下のペプチド画分の割合(%)を、全体の吸光度のチャート面積に対する、分子量500以下の範囲(時間範囲)の面積の割合によって求めた(使用カラム:Superdex Peptide7.5/300GL(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)。溶媒:1重量%SDS/10mMリン酸緩衝液, pH8.0,カラム温度25℃, 流速0.25ml/min, 検出波長:220nm)。 【0036】 次に、アミノ酸分析によりクルミたん白質加水分解物中の遊離アミノ酸含量の測定を行った。加水分解物(4mg/ml)を等量の3重量%スルホサリチル酸に加え、室温で15分間振とうした。10,000rpmで10分間遠心分離し、得られた上澄みを0.45μmフィルターでろ過し、アミノ酸分析器(日本電子製 JLC500V)にて、遊離アミノ酸を測定した。蛋白質中の遊離アミノ酸含量はケルダール法にて得られた蛋白質含量に対する割合として算出した。 以上より得られた、「分子量500以下のペプチド画分の割合」から「遊離アミノ酸含量」を差し引いた値を、さらに総たん白質量で割った値を加水分解物中の「ジ・トリペプチド含量」とした。なお、「ジ・トリペプチド含量」の用語は、本発明の請求項に記載の「ジペプチド及び/またはトリペプチド」の含量を意味する。 【0037】 (表1)各種食品たん白質加水分解物の分析値 【0038】 (表2)クルミたん白質加水分解物のアミノ酸量 」 記載(ケ) 「【0039】 (実施例1、比較例1~3) 製造例5で得られた分離クルミたん白質分解物4の経口摂取による脳機能改善効果を評価するために、段落0032~0033に記載された方法で、マウスへのクルミたん白質加水分解物の経口投与、大脳皮質の摘出および脳内カテコールアミンの測定を行った(実施例1)。 また、製造例2~4で得られた分離クルミたん白質分解物について、実施例1と同様にして脳内カテコールアミンの測定を行った(比較例1~3)。 脳内カテコールアミンの測定結果を表3及び図1~3に示した。 【0040】 (表3) 【0041】 比較例1~3におけるクルミたん白質加水分解物1~3の経口摂取では、脳内におけるノルアドレナリンおよびその代謝物質である3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコールとドーパミン濃度のコントロールに対する有意な変化は観察されなかった。一方で、実施例1におけるクルミたん白質加水分解物4の経口摂取では、コントロールに対して有意な脳内のノルアドレナリンおよびその代謝物質である3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコールとドーパミンの濃度上昇が観察された。クルミたん白質加水分解物4とクルミたん白質加水分解物1~3の差は、ジ・トリペプチド含量の違いが大きく(表1)、ジ・トリペプチド含量の違いが脳内カテコールアミン濃度変化に強く影響する可能性が示唆された。 ノルアドレナリンおよびドーパミンは、脳内において主要な神経伝達物質として広く知られており、認知、記憶や情動といった人間にとって重要な要素に強く関与している。また、脳内のノルアドレナリン濃度上昇だけでなく、その代謝物質である3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール濃度も上昇していることより、脳内で増加したノルアドレナリンが効率よく使用および代謝されていることが分かる。 またさらに、表1のように実施例で使用したクルミたん白質加水分解物4中には脂質がほとんど含まれていないため、実施例1でのクルミたん白質加水分解物4の経口摂取による脳機能改善効果は、クルミたん白質加水分解物4に主に含まれているペプチドに起因すると考えられる。以上より、クルミたん白質加水分解物4の摂取が特異的に脳機能改善効果を有することが強く示唆された。」 記載(コ) 「【0042】 (実施例2) マウスへのArg-Tyr, Tyr-Asn, Phe-Tyr,Tyr-Pheの経口投与を行い、実施例1と同様の方法で大脳皮質の摘出を行い、脳内の3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール(MHPG)の測定を行った。なお、Arg-Tyr, Tyr-Asn, Phe-Tyr, Tyr-Pheは、ジェンスクリプトジャパン株式会社で受託合成したものを用いた。 測定結果を図4に示した。 【0043】 Arg-Tyr, Tyr-Asn, Phe-Tyr,Tyr-Pheの4種のペプチドの経口摂取では、コントロールに対して有意な3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール(MHPG)の濃度上昇が観察された。従って、Arg-Tyr, Tyr-Asn, Phe-Tyr, Tyr-Pheの4種のペプチドの摂取が特異的に脳機能改善効果を有することが示唆された。」 記載(サ) 「【図4】 」 5 当審の判断 (1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)の検討 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきといえる。 これを本件について検討すると、令和1年7月2日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項ならびに発明の詳細な説明における記載(ア)、記載(イ)及び記載(ウ)から、本願発明の課題は 「保存安定性が高く、安価に摂取することが出来る、脳神経疾患の予防または脳機能改善するための食品組成物」を提供することであると認められる。 発明の詳細な説明には、脱脂クルミ粕から得た分離クルミたん白質に対して、プロテアーゼとして「アルカラーゼ」を作用させて得られたクルミたん白質加水分解物1及びクルミたん白質加水分解物2、プロテアーゼとして「マルチフェクトPR6L」を作用させて得られたクルミたん白質加水分解物3、プロテアーゼとして「サモアーゼ」、「ビオプラーゼ」及び「スミチームFP」を順に作用させて得られたクルミたん白質加水分解物4について(記載(キ))、そのジ・トリペプチド含量は、クルミたん白質加水分解物1が45.7重量%、クルミたん白質加水分解物2が52.5重量%、クルミたん白質加水分解物3が53.3重量%、クルミたん白質加水分解物4が60.3重量%であったことが記載されている(記載(ク))。 「ジ・トリペプチド含量」とは、クルミたん白質加水分解物中の「分子量500以下のペプチド画分の割合」から「遊離アミノ酸含量」を差し引いた値を、さらに総たん白質量で割った値であるとされるところ(記載(ク))、「分子量500以下のペプチド」と「分子量500未満のペプチド」とは、「分子量500のペプチド」を含むか否かの違いはあるものの、技術常識に照らして、その量の違いは無視できる程度であるといえる。 したがって、発明の詳細な説明には、クルミたん白質加水分解物1~4について、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」が記載されているといえる。 また、発明の詳細な説明には、クルミたん白質加水分解物1~4をマウスに経口摂取させた際のマウス脳内におけるノルアドレナリン、3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール及びドーパミン濃度は、クルミたん白質加水分解物1~3を摂取させた場合には有意な変化が観察されない一方、クルミたん白質加水分解物4を摂取させた場合には上昇が観察されたことが記載されている(記載(ケ))。 発明の詳細な説明または図面にはさらに、合成したArg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-Tyr、Tyr-Pheをマウスに経口摂取させた際のマウス脳内の3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール濃度は、コントロールに対して有意に上昇したと記載される(記載(コ))一方、合成したArg-Tyrをマウスに経口摂取させた際のマウス脳内の3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール濃度は、コントロールに対して有意には上昇しなかったことが図面の記載から読み取れる(記載(サ))。 ここで、マウス脳内におけるノルアドレナリン、3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール又はドーパミン濃度の上昇は、技術常識に照らして、脳機能改善効果を示唆するものと認められる。 しかし、発明の詳細な説明には、クルミたん白質加水分解物1~4のいずれについても、そのジ・トリペプチド含量及び構成アミノ酸の割合は示されるものの(記載(ク))、Arg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-TyrまたはTyr-Pheを有するものであることは記載されておらず、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドを有するものであることも記載されていない。 また、発明の詳細な説明における、クルミたん白質加水分解物4をマウスに経口摂取させた際に、マウス脳内におけるノルアドレナリン、3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール及びドーパミン濃度の上昇が観察された旨の記載(記載(ケ))、及び、合成したArg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-Tyr、Tyr-Pheをマウスに経口摂取させた際のマウス脳内の3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール濃度は、コントロールに対して有意に上昇したとの記載(記載(コ))及び合成したArg-Tyrをマウスに経口摂取させた際のマウス脳内の3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール濃度は、コントロールに対して有意には上昇しなかったことを示す記載(記載(サ))が、クルミたん白質加水分解物4がArg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-TyrまたはTyr-Pheを有するものであることの根拠となるものではない。 一般に、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)は、発明の詳細な説明に「活性中心が異なる酵素間では、基質への作用部位が大きく異なる」(記載(カ)の段落【0017】)と記載されるように、その種類によって基質特異性(切断するアミノ酸配列)が異なり、プロテアーゼ処理により得られるペプチドの種類が変化することが当業界の技術常識であるにもかかわらず、クルミたん白質加水分解物1~4を得るために用いられたプロテアーゼの「アルカラーゼ」、「マルチフェクトPR6L」、「サモアーゼ」、「ビオプラーゼ」及び「スミチームFP」については、その基質特異性や得られるペプチドの種類が発明の詳細な説明に記載されていないことを考慮すると、発明の詳細な説明の記載及び当業界の技術常識からは、クルミたん白質加水分解物1~4のいずれについても、Arg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-TyrまたはTyr-Pheを有するものであるとは当業者は認識できず、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドを有するものであるとも当業者は認識できない。 したがって、発明の詳細な説明の記載及び当業界の技術常識からは、クルミたん白質加水分解物中の分子量500未満のペプチドの含量が、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して55重量%以上であり、かつ、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドであるArg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-TyrまたはTyr-Pheを有するクルミたん白質加水分解物が、脳機能改善効果を奏するとは、当業者は認識できない。 そして、発明の詳細な説明には、「特に加水分解物中におけるペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占める、ジペプチド及び/またはトリペプチドの割合が高いことが重要である。」(記載(エ))及び「本発明のクルミたん白質加水分解物にはチロシン及び/またはフェニルアラニンを含有するジペプチド及び/またはトリペプチドを含有することが重要である。」(記載(オ))との記載があることを踏まえると、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」が特定割合以上であれば、クルミたん白質加水分解物の有するジペプチドの有無や種類によらず、クルミたん白質加水分解物は脳機能効果を奏すると、当業者が認識できるとは認められない。 仮に、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」が特定割合以上であれば、クルミたん白質加水分解物の有するジペプチドの有無や種類によらず、クルミたん白質加水分解物は脳機能効果を奏すると、当業者は認識できたとしても、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」が45.7重量%、52.5重量%又は53.3重量%であるクルミたん白質加水分解物1~3は脳機能改善効果を奏しないものであり、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」が60.3重量%であるクルミたん白質加水分解物4は脳機能改善効果を奏するものであることから、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」が55重量%以上60.3重量%未満の範囲においてもクルミたん白質加水分解物が脳機能効果を奏するとは、当業者は認識できない。 また、発明の詳細な説明には、「特に加水分解物中におけるペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に占める、ジペプチド及び/またはトリペプチドの割合が高いことが重要である。」(記載(エ))及び「本発明のクルミたん白質加水分解物にはチロシン及び/またはフェニルアラニンを含有するジペプチド及び/またはトリペプチドを含有することが重要である。」(記載(オ))との記載があり、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」が45.7重量%、52.5重量%又は53.3重量%であるクルミたん白質加水分解物1~3は脳機能改善効果を奏しないものであることを踏まえると、発明の詳細な説明または図面に、合成したArg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-Tyr、Tyr-Pheをマウスに経口摂取させた際のマウス脳内の3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール濃度は、コントロールに対して有意に上昇したとの記載(記載(コ))及び合成したArg-Tyrをマウスに経口摂取させた際のマウス脳内の3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール濃度は、コントロールに対して有意には上昇しなかったことを示す記載(記載(サ))があることによっても、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」によらず、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドであるArg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-TyrまたはTyr-Pheを有するクルミたん白質加水分解物は脳機能効果を奏すると、当業者が認識できるとは認められない。 なお、平成30年8月22日に提出された意見書に添付された実験成績証明書には、「アルカラーゼ」及び「マルチフェクトPR-6L」を用いて得られたジ・トリペプチド含量58.2重量%のクルミたん白質加水分解物A、及び「スミチームLP」、「プロテックス7L」及び「プロテアーゼA」を用いて得られたジ・トリペプチド含量61.9重量%のクルミたん白質加水分解物Bはともに、脳内におけるノルアドレナリン、3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール又はドーパミン濃度を上昇させたことが記載され、平成31年2月21日に提出された意見書に添付された実験成績証明書には、クルミたん白質加水分解物A、及びクルミたん白質加水分解物Bはともに、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドであるPhe-Tyrを有することが確認された旨記載されている。 しかし、特許出願におけるサポート要件充足は特許出願人が証明責任を負うと解され、特許出願後に特許出願人が実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、サポート要件を充足させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。 また、たとえ当該実験成績証明書の記載を参酌したとしても、クルミたん白質加水分解物A、Bを得る際の反応条件(「アルカラーゼ」及び「マルチフェクトPR-6L」または「スミチームLP」、「プロテックス7L」及び「プロテアーゼA」を同時に用いたのか順番に用いたのか、反応pH、反応温度、反応時間など)が不明である上に、発明の詳細な説明に記載された、「サモアーゼ」、「ビオプラーゼ」及び「スミチームFP」を順番に用いて得られたクルミたん白質加水分解物4の有するジペプチドの有無及び種類を示すものでもない。 そして、当該実験成績証明書の記載は、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」が55重量%以上58.2重量%未満の範囲にあるクルミたん白質加水分解物が脳機能効果を奏する根拠となるものではなく、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドであるArg-Tyr、Tyr-AsnまたはTyr-Pheを有するクルミたん白質加水分解物が脳機能改善効果を奏する根拠となるものでもない。 したがって、たとえ当該実験成績証明書の記載を参酌したとしても、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」が55重量%以上58.2重量%未満の範囲にあるクルミたん白質加水分解物が脳機能改善効果を奏するとは、当業者は認識できず、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドであるArg-Tyr、Tyr-AsnまたはTyr-Pheを有するクルミたん白質加水分解物が脳機能改善効果を奏するとも、当業者は認識できない。 また、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」が55重量%以上58.2重量%未満の範囲にあるクルミたん白質加水分解物が脳機能改善効果を奏すること、及び、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドであるArg-Tyr、Tyr-AsnまたはTyr-Pheを有するクルミたん白質加水分解物が脳機能改善効果を奏することは、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくても、出願時の技術常識に照らして、当業者が認識できる範囲のものとはいえない。 以上より、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、「保存安定性が高く、安価に摂取することが出来る、脳神経疾患の予防または脳機能改善するための食品組成物」を提供するという本願発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるとはいえない。 よって、本願発明は発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許請求の範囲の記載は特許法第36項第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (2)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)の検討 特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明に係る物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。 発明の詳細な説明には、脱脂クルミ粕から得た分離クルミたん白質に対して、プロテアーゼとして「アルカラーゼ」を作用させて得られたクルミたん白質加水分解物1及びクルミたん白質加水分解物2、プロテアーゼとして「マルチフェクトPR6L」を作用させて得られたクルミたん白質加水分解物3、プロテアーゼとして「サモアーゼ」、「ビオプラーゼ」及び「スミチームFP」を順に作用させて得られたクルミたん白質加水分解物4について(記載(キ))、そのジ・トリペプチド含量は、クルミたん白質加水分解物1が45.7重量%、クルミたん白質加水分解物2が52.5重量%、クルミたん白質加水分解物3が53.3重量%、クルミたん白質加水分解物4が60.3重量%であったことが記載されている(記載(ク))。 「ジ・トリペプチド含量」とは、「分子量500以下のペプチド画分の割合」から「遊離アミノ酸含量」を差し引いた値を、さらに総たん白質量で割った値であるとされるところ(記載(ク))、「分子量500以下のペプチド」と「分子量500未満のペプチド」とは、「分子量500のペプチド」を含むか否かの違いはあるものの、技術常識に照らして、その量の違いは無視できる程度であるといえる。 したがって、発明の詳細な説明には、クルミたん白質加水分解物1~4について、「クルミたん白質加水分解物中の、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対する、分子量500未満のペプチドの含量」が記載されているといえる。 しかし、発明の詳細な説明には、クルミたん白質加水分解物1~4のいずれについても、Arg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-TyrまたはTyr-Pheを有するものであることは記載されておらず、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドを有するものであることも記載されていない。 また、発明の詳細な説明または図面における、クルミたん白質加水分解物4をマウスに経口摂取させた際に、マウス脳内におけるノルアドレナリン、3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール及びドーパミン濃度の上昇が観察された旨の記載(記載(ケ))、及び、合成したArg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-Tyr、Tyr-Pheをマウスに経口摂取させた際のマウス脳内の3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール濃度は、コントロールに対して有意に上昇したとの記載(記載(コ))及び合成したArg-Tyrをマウスに経口摂取させた際のマウス脳内の3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール濃度は、コントロールに対して有意には上昇しなかったことを示す記載(記載(サ))が、クルミたん白質加水分解物4がArg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-TyrまたはTyr-Pheを有するものであることの根拠となるものではない。 そして、発明の詳細な説明には、酵素処理におけるプロテアーゼの例、反応pH及び反応温度の記載はあるものの(記載(カ))、「特に2種類以上、あるいは3種類以上の異なった分類に属する酵素を、順次若しくは同時に作用させる分解方法がジペプチドやトリペプチド等の比較的分子量の低いペプチドの割合を増加させることができ好ましい。」(記載(カ)の段落【0016】)及び「同分類でも起源が異なれば、基質である蛋白質への作用部位も異なり、結果としてジペプチドやトリペプチドの割合を増やすことができる。」(記載(カ)の段落【0017】)との記載がある一方、プロテアーゼの種類と特定のジペプチドとの関連についての記載がないことにも示されるように、その記載は、ジペプチドやトリペプチドの割合を増加させるためのものにとどまるものである。「活性中心が異なる酵素間では、基質への作用部位が大きく異なる」(記載(カ)の段落【0017】)と記載されるように、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)はその種類によって基質特異性(切断するアミノ酸配列)が異なり、プロテアーゼ処理により得られるペプチドの種類が変化することが当業界の技術常識であるにもかかわらず、クルミたん白質加水分解物1~4を得るために用いられたプロテアーゼの「アルカラーゼ」、「マルチフェクトPR6L」、「サモアーゼ」、「ビオプラーゼ」及び「スミチームFP」についてさえも、その基質特異性や得られるペプチドの種類が発明の詳細な説明に記載されていないことを考慮すると、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から「クルミたん白質加水分解物中の分子量500未満のペプチドの含量が、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して55重量%以上であり、かつ、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドであるArg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-TyrまたはTyr-Pheを有するクルミたん白質加水分解物」を得るためには、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要すると認められる。 なお、平成30年8月22日に提出された意見書に添付された実験成績証明書には、「アルカラーゼ」及び「マルチフェクトPR-6L」を用いて得られたジ・トリペプチド含量58.2重量%のクルミたん白質加水分解物A、及び「スミチームLP」、「プロテックス7L」及び「プロテアーゼA」を用いて得られたジ・トリペプチド含量61.9重量%のクルミたん白質加水分解物Bについて記載され、平成31年2月21日に提出された意見書に添付された実験成績証明書には、クルミたん白質加水分解物A、及びクルミたん白質加水分解物Bはともに、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドであるPhe-Tyrを有することが確認された旨記載されている。 しかし、特許出願における実施可能要件充足は特許出願人が証明責任を負うと解され、特許出願後に特許出願人が実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、実施可能要件を充足させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである。 また、たとえ当該実験成績証明書の記載を参酌したとしても、クルミたん白質加水分解物A、Bを得る際の反応条件(「アルカラーゼ」及び「マルチフェクトPR-6L」または「スミチームLP」、「プロテックス7L」及び「プロテアーゼA」を同時に用いたのか順番に用いたのか、反応pH、反応温度、反応時間など)が不明である上に、発明の詳細な説明に記載された、「アルカラーゼ」を用いて得られたクルミたん白質加水分解物1及びクルミたん白質加水分解物2、「マルチフェクトPR6L」を用いて得られたクルミたん白質加水分解物3、並びに、「サモアーゼ」、「ビオプラーゼ」及び「スミチームFP」を順番に用いて得られたクルミたん白質加水分解物4の有するジペプチドの有無及び種類を示すものでもない。 したがって、たとえ当該実験成績証明書の記載を参酌したとしても、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から「クルミたん白質加水分解物中の分子量500未満のペプチドの含量が、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して55重量%以上であり、かつ、構成アミノ酸としてチロシン及び/またはフェニルアラニンを有するジペプチドであるArg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-TyrまたはTyr-Pheを有するクルミたん白質加水分解物」を得るためには、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要すると認められる。 以上より、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の食品組成物を生産し、使用することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 よって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3)請求人の主張の検討 請求人は、審判請求書の請求の理由において 「本発明のクルミたん白質加水分解物をどのように得るかは、本願の明細書の段落[0016]~[0019]に詳しく記載されています。その一部の例として、クルミたん白質加水分解物4の場合のプロテアーゼの組合せが実施例で示されています。 本願発明の段落[0016]~[0019]の記載内容をみて検討すれば、自ずと本願の脳機能改善効果を有する加水分解物を得ることができるプロテアーゼの組合せがどのようなものか知ることができるのであり、必要以上に実施例を示す必要は無く、加水分解物4を得ることができるプロテアーゼの組合せを示すことができれば十分であり、「加水分解物4のみ」と認定されるのは、審査基準に照らせば、「発明の詳細な説明に記載された特定の具体例にとらわれて、必要以上に特許請求の範囲の減縮を求めることになる」ものと思料致します。」、 「しかし、クルミたん白質加水分解物中の分子量500未満のペプチドの含量が、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して55重量%以上という規定に対して、55重量%の数値に近い58.2重量%のデータが示されていますので、この数値で十分に55重量%以上という範囲をサポートできるものと思料致します。 従って、クルミたん白質加水分解物中の分子量500未満のペプチドの含量が、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して、55重量%以上の範囲まで拡張ないし一般化できるものと思料致します。」、及び 「つまり、脳機能改善効果のあるジペプチドとして、Arg-Tyr、Tyr-AsnまたはTyr-Pheを含有するクルミたん白質加水分解物も、Phe-Tyrと同列で記載されています。また、Phe-Tyrと同列で記載されているArg-Tyr、Tyr-AsnまたはTyr-Pheを含有するクルミたん白質加水分解物についても、Phe-Tyrと同様、[0016]~[0019]の記載の方法を適宜選択することで得ることができると、当業者であれば認識できます。 従って、Phe-Tyrからなるジペプチドを含有している加水分解物以外の、Arg-Tyr、Tyr-AsnまたはTyr-Pheを含有するクルミたん白質加水分解物の範囲まで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化することができるものと思料致します。」 などと述べる。 しかし、発明の詳細な説明の段落【0016】~【0019】には、酵素処理におけるプロテアーゼの例、反応pH及び反応温度の記載はあるものの、「特に2種類以上、あるいは3種類以上の異なった分類に属する酵素を、順次若しくは同時に作用させる分解方法がジペプチドやトリペプチド等の比較的分子量の低いペプチドの割合を増加させることができ好ましい。」(段落【0016】)及び「同分類でも起源が異なれば、基質である蛋白質への作用部位も異なり、結果としてジペプチドやトリペプチドの割合を増やすことができる。」(段落【0017】)との記載がある一方、プロテアーゼの種類と特定のジペプチドとの関連についての記載がないことにも示されるように、その記載は、ジペプチドやトリペプチドの割合を増加させるためのものにとどまるものである。「活性中心が異なる酵素間では、基質への作用部位が大きく異なる」(段落【0017】)と記載されるように、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)はその種類によって基質特異性(切断するアミノ酸配列)が異なり、プロテアーゼ処理により得られるペプチドの種類が変化することが当業界の技術常識であるにもかかわらず、クルミたん白質加水分解物1~4を得るために用いられたプロテアーゼの「アルカラーゼ」、「マルチフェクトPR6L」、「サモアーゼ」、「ビオプラーゼ」及び「スミチームFP」についてさえも、その基質特異性や得られるペプチドの種類が発明の詳細な説明に記載されていないことを考慮すると、「本願発明の段落[0016]~[0019]の記載内容をみて検討すれば、自ずと本願の脳機能改善効果を有する加水分解物を得ることができるプロテアーゼの組合せがどのようなものか知ることができる……」との請求人の主張は受け入れられない。 また、クルミたん白質加水分解物中の分子量500未満のペプチドの含量が、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して58.2重量%であるクルミたん白質加水分解物のデータは、出願後の平成30年8月22日提出の意見書に添付された実験成績証明書において示されたものであるところ、特許出願におけるサポート要件及び実施可能要件充足は特許出願人が証明責任を負うと解され、特許出願後に特許出願人が実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、サポート要件及び実施可能要件を充足させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきであるし、たとえ当該実験成績証明書の記載を参酌したとしても、発明の詳細な説明には、クルミたん白質加水分解物中の分子量500未満のペプチドの含量が、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して53.3重量%であるクルミたん白質加水分解物3は脳機能改善効果を奏しないこと、及び、脳内のノルアドレナリン、3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコール及びドーパミンの濃度上昇が観察されたクルミたん白質加水分解物4と観察されなかったクルミたん白質加水分解物1~3ではジ・トリペプチド含量の違いが大きく(表1)、ジ・トリペプチド含量の違いが脳内カテコールアミン濃度変化に強く影響する可能性が示唆されたことが示されている(段落【0041】)以上、58.2重量%よりも53.3重量%に近い55重量%の場合に、脳機能改善効果を奏するとは認められないことから、「……55重量%の数値に近い58.2重量%のデータが示されていますので、この数値で十分に55重量%以上という範囲をサポートできるものと思料致します。」との請求人の主張は受け入れられない。 また、マウスへのArg-Tyr、Tyr-Asn、Phe-Tyr、Tyr-Pheの経口投与による脳内の3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニルグリコールの濃度上昇は、Phe-Tyr、Tyr-Asn、Tyr-Phe、Arg-Tyrの順にその程度が劣り、特にArg-Tyrはコントロールと有意差がなかったことが示されている(記載(サ))。しかも、クルミたん白質加水分解物中の分子量500未満のペプチドの含量が、ペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対して58.2重量%、61.9重量%であるクルミたん白質加水分解物A、Bは、出願後の平成30年8月22日提出の意見書に添付された実験成績証明書において示されたものであり、それらがPhe-Tyrを有するクルミたん白質加水分解物であることはさらに後の平成31年2月21日提出の意見書に添付された実験成績証明書において示されたものである。上述のとおり、特許出願後に特許出願人が実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、サポート要件及び実施可能要件を充足させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきであるし、たとえ当該実験成績証明書の記載を参酌したとしても、例えばArg-TyrをPhe-Tyrと同列に扱うことはできないことは発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願時の技術常識から明らかであり、「脳機能改善効果のあるジペプチドとして、Arg-Tyr、Tyr-AsnまたはTyr-Pheを含有するクルミたん白質加水分解物も、Phe-Tyrと同列で記載されています。また、Phe-Tyrと同列で記載されているArg-Tyr、Tyr-AsnまたはTyr-Pheを含有するクルミたん白質加水分解物についても、Phe-Tyrと同様、[0016]~[0019]の記載の方法を適宜選択することで得ることができると、当業者であれば認識できます。」との請求人の主張は受け入れられない。 よって、請求人の主張はいずれも受け入れられない。 6 むすび 以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2019-008834

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