特許拒絶査定不服審判
2019-003454
発電機
- 審判番号
- 2019-003454
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-256100外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年03月12日
- 審決日
- 2020年08月12日
- 公報発行日
- 2020年11月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社kaisei
- 【請求人代理人】西 良久
- 分類
- P18 .536-WZ (H02K) / P18 .537-WZ (H02K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2016-256100「発電機」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 7月 5日出願公開、特開2018-108007〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成28年12月28日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年 2月21日 :手続補正書の提出
平成30年 4月26日付け:拒絶理由通知書
平成30年 9月 7日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年12月 5日付け:拒絶査定
平成31年 3月12日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 2月21日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 5月11日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
令和2年5月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下の発明(以下、「本願発明」という。)が記載されている。
「【請求項1】
ハウジングに回転可能に支持された回転軸に取り付けられた円筒状の回転子と、ハウジングに固定された前記回転子の内側に前記回転子と同心に配置された円筒状の内側固定子および前記回転子の外側に前記回転子と同心に配置された円筒状の外側固定子を有し、前記回転子は回転方向に複数の永久磁石を前記磁極が交互に異なり対向する回転子は同じ磁極となる状態に円筒状に配置されているとともに前記内側固定子および外側固定子は前記回転子に対峙する側に前記回転子に配置された永久磁石に対向する位置にそれぞれが回転子を回転させたときに交流電圧を発生させる複数のコイルが並設されており、且つ前記内側固定子および外側固定子に配置されているコイルの一方におけるコイルの自己インダクタンスを他のコイルの自己インダクタンスより高く設定し、前記内側固定子または外側固定子における発電時のコイル極性で前記回転子との間に形成される発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度となるようにずらせてなり、
前記内側固定子および外側固定子を形成する磁性体により形成されるヨークがほぼ頂面が対峙する回転子の内側面または外側面に沿って湾曲しているほぼT字形でその軸線が前記回転軸の中心に向けて配置されていることを特徴とする発電機。」
第3 当審の拒絶理由通知書の概要
当審の拒絶の理由である、令和2年2月21日付け拒絶理由通知の理由は、概略、次の理由1ないし4のとおりである。
理由1 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記(1)、(2)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)本願の請求項1には、「前記内側固定子および外側固定子に配置されているコイルの少なくとも一方におけるコイルの自己インダクタンスを他のコイルの自己インダクタンスより高く設定し」と記載されている。この記載において、次のア及びイの点が不明である。
ア …上記記載における「少なくとも」とは、このような一方のコイルの自己インダクタンスが他方のコイルの自己インダクタンスより高いだけでなく、これらのコイルの自己インダクタンスがどのような状態であることを含むことを特定しているのか不明である。…
イ 「一方におけるコイルの自己インダクタンスを他のコイルの自己インダクタンスより高く設定」することに関し、発明の詳細な説明には、「本実施の形態では以上のように内側固定子4および外側固定子5に配置されているコイル41およびコイル51を高インダクタンスコイルとする場合を示したが、例えば内側固定子のコイルのインダクタンスと外側固定子のインダクタンスを変えて磁束抵抗を減らすためのコイルの高インダクタンス化に差を設けることにより、或いは内側固定子4および外側固定子5の一方を高インダクタンスコイルとすることも可能である」(【0025】)と記載されている。すなわち、内側固定子のコイルのインダクタンスと外側固定子のインダクタンスを変えてコイルの高インダクタンス化に差を設けることで、一方におけるコイルの自己インダクタンスを他のコイルの自己インダクタンスより高く設定する場合と、内側固定子4および外側固定子5の一方のみを高インダクタンスコイルとすることで、一方におけるコイルの自己インダクタンスを他のコイルの自己インダクタンスより高く設定する場合の2つの場合が記載されている。また、単に「一方におけるコイルの自己インダクタンスを他のコイルの自己インダクタンスより高く設定」するだけであれば、これらのコイルについて本願の発明の詳細な説明にいう「高インダクタンス化」することなく、内側固定子のコイルのインダクタンスと外側固定子のインダクタンスを変えることでも設定できることは自明である。
そうすると、本願の請求項1における「一方におけるコイルの自己インダクタンスを他のコイルの自己インダクタンスより高く設定」するとは、内側固定子に配置されているコイルと外側固定子に配置されているコイルの自己インダクタンスをどのように設定することを特定しているのか不明である。
(2)本願の請求項1には、「内側固定子または外側固定子における発電時のコイル極性で前記回転子との間に形成される発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度ずらせてなり」と記載されているが、この記載により特定される発電機の発明としての事項が不明である。すなわち、「発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度ず」れるのは、発電時であり、このときに当該発電機が有する何らかの事項(構成)により、「発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相」が180度ずれるものと解されるが、この何らかの事項(構成)が本願の請求項1に係る発明では特定されておらず、その結果、「内側固定子または外側固定子における発電時のコイル極性で前記回転子との間に形成される発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度ずらせてなり」とは、どのような事項を特定するのか不明である。…
理由2 この出願は、発明の詳細な説明の記載が次の(1)ないし(4)の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相を180度遅らせることについて
発明の詳細な説明には、「内側固定子および外側固定子に配置されているコイルを高インダクタンスコイルとすることにより、発電時のコイル極性で発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度遅らせる」ことができると記載されているが、コイルのインダクタンスを高いものとしても、交流電圧に対する抵抗値が高くなるだけであり、誘導電流の位相を180度遅らせることにはならないと解される。したがって、どのようにして、コイルを高インダクタンスコイルとすることにより、発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度遅らせるのか不明である。
また、仮に、コイルのインダクタンスを高いものとすることで誘導電流の鎖交磁束に対する位相を変えることができたとしても、本願の発明の詳細な説明には、コイルのインダクタンスの具体的な値と鎖交磁束に対する誘導電流の位相との関係については何ら示されておらず、また、コイルについては、「ケイ素鋼板で形成されている軸部の幅が3mm以下の太さを有するT字形のヨークを用いて且つ少なくとも20turns以上の巻数を有していることにより形成する高インダクタンスコイルを用いた」(【0024】)と記載されているのみである(このときのインダクタンスは示されていない。)。そして、コイルのインダクタンスはコイル巻線の断面積やコイルの長さによっても変わることが知られているから、発明の詳細な説明に記載されたこのコイルのインダクタンスは、不明である。そうすると、発明の詳細な説明には、誘導電流の鎖交磁束に対する位相とコイルのインダクタンスとの関係について何ら示されておらず、誘導電流の鎖交磁束に対する位相を180度遅らせるために適切なコイルのインダクタンスは発明の詳細な説明の記載からは不明である。
さらに、誘導電流の位相の遅れについては、発電機の構造、大きさ、発電電圧や発電周波数などの電気的な特性等の他のパラメータの影響も受けると考えられるところ、発明の詳細な説明には、これらのパラメータと発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相及びコイルのインダクタンスとの関係についても示されていない。
以上のことから、仮に、コイルのインダクタンスを高いものとすることで誘導電流の鎖交磁束に対する位相を変えることができたとしても、本願の発明の詳細な説明の記載から、適切なコイルのインダクタンスを定めることはできず、当業者にとって過度な試行錯誤を要するといえるから、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(2)高インダクタンスコイルについて
まず、発明の詳細な説明に記載された「高インダクタンスコイル」とは、鎖交磁束と誘導電流の位相を180度遅らせるようなインダクタンスを有するコイルと解されるところ、このようなインダクタンス値が不明であるのは上記(1)に示すとおりであるから、「高インダクタンスコイル」とは、どのようなコイルか不明であるが、発明の詳細な説明には、「図3(a)に示すように…例えばケイ素鋼板で形成されている軸部の幅が3mm以下の太さを有するT字形のヨークを有しており、且つ少なくとも20turns以上の巻数を有している」(【0021】)コイルが示され、これに対し、「図3(b)に示した軸部が本実施の形態と異なって細くない」(【0022】)コイルを「通常のコイル」として示していることから、この点について検討する。なお、発明の詳細な説明には、これらの記載以外に具体的なコイルについては示されていない。
一般に、コイルのインダクタンスは、コイルの断面積、透磁率、巻数に比例し、コイルの長さに反比例するから、仮に、図3(a)、(b)に示されるコイルの透磁率、巻数及び長さが等しいと仮定すると、コイル断面積が大きい図3(b)に示される「通常のコイル」のインダクタンスが図3(a)に示されるコイルのインダクタンスより大きいこととなるが、これは、発明の詳細な説明に記載された「高インダクタンスコイル」とは明らかに異なることとなる。そうすると、発明の詳細な説明の記載から、どのようにして「高インダクタンスコイル」を得るのか不明である。
(3)磁力抵抗をゼロあるいは少なくしつつ、従来の2倍以上の起電力を生じさせることについて
先に述べたように、本願の請求項1に係る発明における従来技術に比して生じさせるとする2倍以上の起電力(あるいは、「通常のコイルを用いる場合に比べては減少しているが」(【0024】)確保できるとされている発電容量)とは、負荷において消費することができる有効電力であると解される。
これに対し、発明の詳細な説明に記載された発電機は、誘導電流に対し誘導起電圧が大きく遅れているものであり、このため、無効電流成分が大きな割合を占めるものとなっていると解される。
そうすると、内側固定子と外側固定子とを設けたとしても、有効電力を増やすことはほとんどできず、どのようにして、従来技術に比して生じさせるとする2倍以上の起電力を確保するのか、あるいは、発電容量を確保するのか不明である。
(4)回転子の磁極について
本願の発明の詳細な説明には、回転子に設ける永久磁石について、「回転子3は回転方向に複数の永久磁石31を磁極S,Nが交互に異なる状態に円筒状に配置されている」(【0018】)と記載され、本願の【図1】にも回転子3の回転方向(周方向)に磁極S,Nが交互に異なる状態に円筒状に配置された状態が示されている。
しかしながら、これらの発明の詳細な説明及び図面の記載から、永久磁石の着磁の方向は明らかでない。
仮に、本願の【図1】に示されるように、N極の磁石とS極の磁石が周方向に交互に配置されているとすると、N極とS極の単極の永久磁石が必要となる。しかし、単極の永久磁石は存在しないから、このような永久磁石の配置をどのように実現するのか不明である。
また、仮に周方向にS極とN極が着磁した永久磁石を用いているとすると(図1の記載において、「S」と記載された磁極と「N」と記載された磁極で1つの永久磁石を構成しているとすると)、永久磁石の磁極Sと磁極N間の磁束は、固定子コイルをほとんど通過しないから、回転子を回転させても誘導電力はほとんど発生しないと解される。そうすると、発明の詳細な説明に記載された発電機により、どのように発電電力を得るのか不明である。
理由3 この出願は、特許請求の範囲の記載が次の(1)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1) 本願の発明の詳細な説明には、「従来の発電機では、永久磁石を有する円筒状の回転子が回転してその外側に配置した固定子コイルの横を通過する際に固定子コイル内に発生する電流によりコイルの周りに磁力線が生じ、その磁力線が回転子ローターの永久磁石から出る磁力線と互いに反対方向にぶつかり合う形で反発力を、あるいは同方向に重なり合う形で吸引力を発生させることにより、回転子ローターの動きを止める作用として働いてしまうことになり」(【0003】)、「発電機のエネルギー効率の低下を招いている」(【0003】)ため、「従来、磁力抵抗をゼロ或いは少なくして発電効率の良好な発電機の開発が進められており」(【0004】)、「複数の発電機を各々の磁石の位置を軸から均等な角度にずらすことで磁石の引力を相殺させる発電機」(【0004】)、「コアレスのコイルを用いた発電機」(【0004】)及び「コイルにおけるコアを軸芯方向にコイルよりも短くする発電機などが提示されている」(【0004】)が、「多数、…の発電機を軸線方向に並設させる必要があ」(【0006】)ったり、「磁束が大きく漏れることからコイルを効率よく縦断する磁束が減少して発電効率が低下して発電機としての機能を発揮できな」(【0006】)かったり、「発電効率が十分でない」(【0006】)という問題があったことから、本願発明は、「磁力抵抗を少なくするだけでなく発電効率に優れた発電機を提供することを課題と」(【0007】)してなされたものである。
これに対し、本願の請求項1には概略、回転子と同心に配置された内側固定子と外側固定子を有し、これら内側固定子と外側固定子はコイルが並設されており、内側固定子および外側固定子に配置されているコイルの少なくとも一方におけるコイルの自己インダクタンスを他のコイルの自己インダクタンスより高く設定し、内側固定子または外側固定子における発電時のコイル極性で前記回転子との間に形成される発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度ずらせてなり、内側固定子および外側固定子を形成する磁性体により形成されるヨークがほぼ頂面が対峙する回転子の内側面または外側面に沿って湾曲しているほぼT字形でその軸線が前記回転軸の中心に向けて配置されている発電機について記載されている。
しかしながら、本願の請求項1に記載されるように、内側固定子および外側固定子に配置されているコイルの少なくとも一方におけるコイルの自己インダクタンスを他のコイルの自己インダクタンスより高く設定し、内側固定子または外側固定子における発電時のコイル極性で前記回転子との間に形成される発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度ずらしたとしても、磁力抵抗を少なくするだけでなく、負荷において消費することができる有効電力を少なくとも従来の発電機と比較して、大きく減少しないようにえることはできないから(…)、本願の請求項1に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された課題を解決するものではない。
理由4 この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2015-173584号公報又は特開平11-164536号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 本願の発明の詳細な説明の記載
本願の発明の詳細な説明の記載には、以下の1ないし5の記載があり、また、本願の図面には、以下の6に示すような【図1】ないし【図4】が示されている。なお、【図4】は、平成30年9月7日付けの手続補正書により補正された補正後の図である。また、下線は理解のために当審で付与した。
1 「【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石を有する円筒状の回転子と、前記回転子と同心に配置された複数のコイルを配置した円筒状の固定子を有し、回転子を回転させたときに交流電圧を発生させる発電機において回転子の回転を阻止するように発生する磁力抵抗を減少させた発電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、磁石の磁力線内でコイルを移動させるとコイル内に起電力(電圧)が発生し、コイル内を電流が流れるという電磁誘導を利用して磁石のエネルギーを電気エネルギーに変換することで発電する発電機が知られている。
【0003】
ところで、前記従来の発電機では、永久磁石を有する円筒状の回転子が回転してその外側に配置した固定子コイルの横を通過する際に固定子コイル内に発生する電流によりコイルの周りに磁力線が生じ、その磁力線が回転子ローターの永久磁石から出る磁力線と互いに反対方向にぶつかり合う形で反発力を、あるいは同方向に重なり合う形で吸引力を発生させることにより、回転子ローターの動きを止める作用として働いてしまうことになり(これが磁力抵抗)、発電効率の低下を招くことから磁力抵抗を一定の出力電力を得るのに余分な外部エネルギーが必要になり、発電機のエネルギー効率の低下を招いている。」
2 「【0007】
本発明は、磁力抵抗を少なくするだけでなく発電効率に優れた発電機を提供することを課題とする。」
3 「【0009】
インダクションコイルは、流れる電流によって形成される磁場にエネルギーを蓄えることができる受動素子(コイル)であり、蓄えられる磁気エネルギーの量はそのインダクタンスで決定され、電線を何回も巻くことでアンペールの法則に従いコイル内の磁場が強くなる。ファラデーの電磁誘導の法則に従い、コイル内の磁界の変化に比例して誘導起電力が生じ、レンツの法則に従い、誘導電流は磁界の変化を妨げる方向に流れる。また、インダクタは交流電流を遅延させ再形成する能力がある。
【0010】
また、鎖交磁束が時間と共に変化すると、コイルに起電力が発生(電磁誘導現象)し、このとき発生する起電力を誘導起電力といい、誘導起電力によって回路に流れる電流を誘導電流といい、誘導起電力は、磁束鎖交数(巻数×鎖交磁束)の時間的変化に比例し(ファラデーの法則)、誘導起電力は、鎖交磁束の変化を妨げる方向に発生する(レンツの法則など)。
【0011】
本発明では、前記内側固定子および外側固定子に配置されているコイルを高インダクタンスコイルとすることにより、発電時のコイル極性で発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度遅らせることにより磁力抵抗をゼロ或いは少なくすることができる。
【0012】
また、本発明においては従来の1つの回転子に1つの固定子、或いは1つの固定子に複数の回転子を備えたものと異なり、1つの回転子の両側に誘導電流を生じるコイルを有する内側固定子と外側固定子を備えることにより少なくとも従来の2倍以上の起電力を生じさせることが可能となり磁力抵抗を少なくすることによる起電力の減少を補って余るものである。
【0013】
また、本発明において、前記内側固定子および外側固定子を形成する磁性体により形成されるヨークがほぼ頂面が対峙する回転子の内側面または外側面に沿って湾曲しているほぼT字形でその軸線が前記回転軸の中心に向けて配置されている場合には本発明に必要な高インダクタンスコイルを容易に設定することができる。
【0014】
更に、本発明において特に前記コイルを形成するヨークがケイ素鋼板で形成されていることにより抵抗が少なく、軸部の幅が3mm以下で少なくとも20turns以上の巻数を有していることにより、鎖交磁束が20倍となり、発電時のコイル極性で発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度遅らせることにより磁力抵抗をゼロ或いは少なくすることができるとともに「鎖交磁束Φ×コイルの巻数N」の時間的変化率に比例するだけの起電力を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、磁力抵抗を少なくするだけでなく発電効率に優れた発電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好ましい実施の形態についての断面概略図。
【図2】図1に示した実施の形態についての鎖交磁束、誘導起電力、誘導電流の関係図。
【図3】図1に示した実施の形態における高インダクタンスコイルと従来のインダクタンスコイルの概略図。
【図4】図1に示した実施の形態において従来のインダクタンスコイルを用いた場合の鎖交磁束、誘導起電力、誘導電流の関係図。」
4 「【0017】
図1は本発明の好ましい実施の形態についての断面概略図を示すものであり、ハウジング1に回転可能に支持された回転軸2に取り付けられた円筒状の回転子3と、ハウジング1に固定された前記回転子3の内側に前記回転子3と同心に配置された円筒状の内側固定子4および前記回転子3外側に前記回転子3と同心に配置された円筒状の外側固定子5を有している。
【0018】
そして、前記回転子3は回転方向に複数の永久磁石31を磁極S,Nが交互に異なる状態に円筒状に配置されているとともに前記内側固定子4および外側固定子5は前記回転子3に対峙する側に前記回転子3に配置された永久磁石31に対向する位置にそれぞれが回転子3を回転させたときに交流電圧を発生させる複数のコイル41,51が並設されている。
【0019】
本実施の形態では回転子3を形成する永久磁石31は12個が軸心に対して互いに30度の角度に設置されている。各永久磁石31は高い誘導起電力を得る必要がある場合には高磁気を発揮する材質のものを選択して使用することが好ましい。
【0020】
また、前記内側固定子4および外側固定子5は、それぞれ軸心に対して18個のコイル41およびコイル51が互いに20度の角度を有して軸線を同軸にして放射状に隣接配置されている。
【0021】
加えて、本実施の形態では前記内側固定子4および外側固定子5を構成するコイル41およびコイル51は高インダクタンスコイルであり、例えば図3(a)に示すように頂面を回転子3を構成する磁石31の内周面または外周面に沿って湾曲させた例えばケイ素鋼板で形成されている軸部の幅が3mm以下の太さを有するT字形のヨークを有しており、且つ少なくとも20turns以上の巻数を有していることが好ましい。
【0022】
図4は前記図3(b)に示した軸部が本実施の形態と異なって細くない通常のコイルを用いて図1に示した本発明の実施例と同様に形成した発電機(図示せず)における鎖交磁束、誘導起電力、誘導電流の関係を示すものであり、誘導電流Iは誘導起電圧eに対して少し遅れた位相を生じる。コイル内の磁界の変化に比例して誘導起電力が生じ、レンツの法則に従い、誘導電流は磁界の変化を妨げる方向に流れる。また、インダクタは交流電流を遅延させ再形成する能力があり、鎖交磁束が時間と共に変化すると、コイルに起電力が発生(電磁誘導現象)し、このとき発生する誘導起電力によって回路に流れる誘導起電力は、磁束鎖交数(巻数×鎖交磁束)の時間的変化に比例し(ファラデーの法則)、誘導起電力は、鎖交磁束の変化を妨げる方向に発生することから磁束抵抗が生じる。
【0023】
これに対して、本実施の形態では図2に示すように、前記内側固定子4および外側固定子5に配置されているコイル41およびコイル51を高インダクタンスコイルとすることにより、発電時のコイル極性で発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度遅らせることにより磁力抵抗をゼロ或いは少なくすることができるものである。
【0024】
また、本実施の形態における内側固定子4および外側固定子5に配置されているコイル41およびコイル51は軸芯(ヨーク)がないコイルだけで形成せずに抵抗が少ないケイ素鋼板で形成されている軸部の幅が3mm以下の太さを有するT字形のヨークを用いて且つ少なくとも20turns以上の巻数を有していることにより形成する高インダクタンスコイルを用いたことにより発電時のコイル極性で発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度遅らせることにより磁力抵抗をゼロ或いは少なくすることだけでなく通常のコイルを用いる場合に比べては減少しているが発電容量も確保できるようにしており、特に、回転子3を挟むようにして内側と外側にそれぞれ高インダクタンスのコイルを用いた内側固定子4と外側固定子5を配置したことから少ない占有体積でも多くの発電量を確保することができるものである。」
5 「【0026】
尚、本実施の形態では内側固定子4および外側固定子5に配置されているコイル41およびコイル51をケイ素鋼板で形成されている軸部の幅が3mm以下の太さを有するT字形のヨークを用いて且つ少なくとも20turns以上の巻数を有していることにより高インダクタンスコイルとする場合を示したが、本発明はハウジングに回転可能に支持された回転軸に取り付けられた円筒状の回転子と、ハウジングに固定された前記回転子の内側に前記回転子と同心に配置された円筒状の内側固定子および前記回転子の外側に前記回転子と同心に配置された円筒状の外側固定子を有し、前記回転子は回転方向に複数の永久磁石を磁極を交互に異なる状態に円筒状に配置されているとともに前記内側固定子および外側固定子は前記回転子に対峙する側に前記回転子に配置された永久磁石に対向する位置にそれぞれが回転子を回転させたときに交流電圧を発生させる複数のコイルが並設されており、且つ前記内側固定子および外側固定子に配置されているコイルの少なくとも一方が発電時のコイル極性で発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度遅らせることにより磁力抵抗をゼロ或いは少なくすることができる高インダクタンスコイルであればよく、他の構成による高インダクタンスコイルであってもよいことは言うまでもない。」
6 【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
第5 判断
事案に鑑み、上記第3に示す理由2から検討する。
1 理由2(特許法第36条第4項第1号)について
発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件(以下、「実施可能要件」という。)に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
そして、本願発明は、発電機という物の発明であるから、実施可能要件を満たすためには、過度の試行錯誤を要することなく、本願発明である「磁力抵抗を少なくするだけでなく発電効率に優れた発電機」(【0007】)を生産し、使用して、発電を行うことができると当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明の記載があることを要する。
(1)回転子の磁極について
本願の発明の詳細な説明には、上記第4に示すように本願発明の実施の形態である発電機が記載されており、そのような発電機の断面概略図として、本願の図面には、【図1】(第4・6参照)が示されている。これらによれば、発電機の回転子3に配置される永久磁石31の磁極に関し、発明の詳細な説明には、「前記回転子3は回転方向に複数の永久磁石31を磁極S,Nが交互に異なる状態に円筒状に配置されている」(上記第4・4参照)と記載され、また、本願の【図1】には、発電機の回転子3には回転方向(周方向)に磁極S,Nが交互に配置された円筒状の状態が示されている。そして、このように磁極を配置することを本願発明では「回転子は回転方向に複数の永久磁石を前記磁極が交互に異なり対向する回転子は同じ磁極となる状態に円筒状に配置されている」と特定していると解される。
一方、単極の磁極のみを有する磁石は存在せず、1つの磁石にはN極とS極がそれぞれ存在することが技術常識として知られている。
そうすると、発明の詳細な説明及び図面に示された回転子の永久磁石は、単極の永久磁石のN極とS極が交互に配置されたものではなく、N極とS極とを有する双極の永久磁石を配置したものであり、その場合、双極の永久磁石にあるN極とS極との間には、磁力線の流れを妨げるものはないから、磁力線は、隣接する異極の間で磁束が流れると解される。したがって、回転子の回転方向に複数の永久磁石を磁極が交互に異なるように配置すると、これら永久磁石の各磁極間を結ぶ磁力線は、永久磁石から大きく離れることなく、回転子の回転方向に沿って形成される。
ところで、本願発明において、発電が行われるには、回転子の永久磁石から、固定子のコイルに向かって磁束が流れなければならない。その固定子のコイルについて本願発明では、「前記回転子の内側に前記回転子と同心に配置された円筒状の内側固定子および前記回転子の外側に前記回転子と同心に配置された円筒状の外側固定子を有し、」「前記内側固定子および外側固定子は前記回転子に対峙する側に前記回転子に配置された永久磁石に対向する位置にそれぞれが回転子を回転させたときに交流電圧を発生させる複数のコイルが並設されて」いることを特定し、このようなコイルとして、本願の発明の詳細な説明には、「前記内側固定子4および外側固定子5は、それぞれ軸心に対して18個のコイル41およびコイル51が互いに20度の角度を有して軸線を同軸にして放射状に隣接配置されている」(【0020】)と記載され、【図1】及び【図3】には、回転子の回転中心を中心とした放射状に配置されるコイル41及びコイル51が示されている。また、これらの図面から、発明の詳細な説明に記載されたコイル41とコイル51が巻かれるT字型のヨーク(第4・4参照)はコイル41とコイル51が巻かれていない部分が回転子に配置される磁石31と対向するように配置されていることがわかる。
以上のことから、発明の詳細な説明に記載された発電機は、回転子の回転方向に複数の磁極が交互に異なるように配置されているため、永久磁石の各磁極間を結ぶ磁力線は、永久磁石から大きく離れることなく、回転子の回転方向に沿って形成され、この磁力線に対し、発明の詳細な説明に記載されたコイル41とコイル51は、回転子の回転中心を中心とした放射状に配置されているため、永久磁石が形成するほとんどの磁力線はコイル41とコイル51を通らないと解されるから、発明の詳細な説明に記載された発電機は、コイル41とコイル51により起電力を得ることはできない。
コイル41とコイル51により起電力が得られるためには、これらのコイル41とコイル51とを磁束が流れる必要があるが、そのためには、N極の内周及び外周に向かって磁束が流れる必要があり、そのためには、回転子の永久磁石は単極の磁石でなければならなくなる。しかしながら、そのような単極の磁極のみを有する永久磁石は、上述のように存在しないから、コイル41とコイル51により起電力が得られるように回転子の永久磁石を配置することはできない。
また、仮に、回転子の永久磁石から離れる磁力線が形成されたとしても、コイル41とコイル51とが形成されていないT字型のヨークの部分が磁石31と対向する位置に配置されているため、このヨークの部分を回転子の円周方向に通る磁力線が形成されるだけで、コイル41とコイル51とを発電機として一般に期待できる起電力が得られるほどの磁力線は通過しないから、発明の詳細な説明に記載された発電機は、コイル41とコイル51により発電機として期待できるだけの起電力を得ることはできない。
以上のことから、本願の発明の詳細な説明の記載は、「磁力抵抗を少なくするだけでなく発電効率に優れた発電機」が得られると当業者が理解できる程度に記載されたものではない。
(2)発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相を180度遅らせるインダクタンスについて
本願発明は、「内側固定子および外側固定子に配置されているコイルの一方におけるコイルの自己インダクタンスを他のコイルの自己インダクタンスより高く設定し、前記内側固定子または外側固定子における発電時のコイル極性で前記回転子との間に形成される発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度となるようにずらせてな」るものである。
本願の発明の詳細な説明には、内側固定子4および外側固定子5に配置されるコイル41とコイル51のインダクタンスについて、「内側固定子および外側固定子に配置されているコイルを高インダクタンスコイルとすることにより、発電時のコイル極性で発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度遅らせることにより磁力抵抗をゼロ或いは少なくすることができる」(上記第4・3【0011】参照)と記載され、また同様の事項が【0023】(上記第4・4参照)にも記載されているが、このような発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相について180度となるようにずらせることができるコイルのインダクタンスの具体的な値は、発明の詳細な説明に明記されていない。また、コイルについて、「抵抗が少ないケイ素鋼板で形成されている軸部の幅が3mm以下の太さを有するT字形のヨークを用いて且つ少なくとも20turns以上の巻数を有していることにより形成する高インダクタンスコイルを用い」(上記第4・4【0024】参照)ることは、記載されているが、このときのコイルのインダクタンスについては発明の詳細な説明の記載からは不明である。
さらに、誘導電流の位相の遅れについては、固定子コイルのインダクタンスだけでなく、発電機の構造、大きさ、発電周波数などの電気的な特性等の他のパラメータも関係すると考えられが、発明の詳細な説明には、これらのパラメータと発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相及びコイルのインダクタンスとの関係についても示されていない。
また、仮に、固定子コイルのインダクタンスを、実験的に求めるとしても、本願の発明の詳細な説明には、上記のように発電に関する各種パラメータと発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相及びコイルのインダクタンスとの関係について示されておらず、さらに、固定子コイルのインダクタンスを実験の手法などについても記載されていない。
以上のことから、コイルのインダクタンスを高いものとすることで誘導電流の鎖交磁束に対する位相を変えることができたとしても、本願の発明の詳細な説明の記載から、発電機の適切なコイルのインダクタンスを定めることはできず、本願発明の発電機を得るには、当業者にとって過度な試行錯誤を要するといえるから、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(3)高インダクタンスコイルについて
発明の詳細な説明に記載された「高インダクタンスコイル」とは、鎖交磁束と誘導電流の位相を180度遅らせるようなインダクタンスを有するコイルと解されるところ、このようなインダクタンス値が不明であるのは上記(2)に示すとおりであるから、「高インダクタンスコイル」とは、どのようなコイルか不明であるが、仮に、この「高インダクタンスコイル」のインダクタンスの値が特定されたとしても、このようなインダクタンスを有するコイルをどのようにして得るのか、発明の詳細な説明の記載からは、不明である。
発明の詳細な説明には、「図3(a)に示すように…例えばケイ素鋼板で形成されている軸部の幅が3mm以下の太さを有するT字形のヨークを有しており、且つ少なくとも20turns以上の巻数を有している」(上記第4・4の【0021】)コイルが示され、これに対し、「図3(b)に示した軸部が本実施の形態と異なって細くない」(【0022】)コイルを「通常のコイル」として示していることから、この点について検討する。なお、発明の詳細な説明には、これらの記載以外に具体的なコイルについては示されていない。
本願の発明の詳細な説明には、図3(a)に示すようなコイル及び図3(b)に示すようなコイルの具体的なコイルのインダクタンス値は示されておらず、また、これらのコイルの巻き方の状態や、コイルの長さなどは示されていない。また、これらのコイルを用いて発電したときの鎖交磁束、誘導起電圧、誘導電流の状態が【図2】および【図4】(上記第4・6参照)に示されているが、これら磁束及び電圧、電流の具体的な値(大きさ及び波長等)が示されたものではなく、発明の詳細な説明及び図面に示されたものから、本願発明のコイルは、どのようなものか具体的に特定することはできない。したがって、発明の詳細な説明及び図面の記載からは、鎖交磁束と誘導電流の位相を180度遅らせるようなインダクタンスを有するコイルとは、どのようなコイルか不明であるから、どのようにして本願発明の「コイル」を得るのか不明である。
なお、一般に、コイルのインダクタンスは、断面積、軸芯の透磁率、巻数の2乗に比例し、コイルの長さに反比例するから、仮に、図3(a)、(b)に示される軸芯の透磁率、巻数が等しいと仮定すると、コイル断面積が大きい図3(b)に示される「通常のコイル」のインダクタンスが図3(a)に示されるコイルのインダクタンスより大きいこととなるが、これは、発明の詳細な説明に記載された「高インダクタンスコイル」とは明らかに異なることとなる。そうすると、発明の詳細な説明の記載から、どのようにして「高インダクタンスコイル」を得るのか不明である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
(4)磁力抵抗をゼロあるいは少なくしつつ、従来の2倍以上の起電力を生じさせることについて
発明の詳細な説明の記載によれば、本願発明の発電機は、「1つの回転子の両側に誘導電流を生じるコイルを有する内側固定子と外側固定子を備えることにより少なくとも従来の2倍以上の起電力を生じさせることが可能となり磁力抵抗を少なくすることによる起電力の減少を補って余るものである」(上記第4・3の【0012】)とされている。ここで、従来技術に比して生じさせるとする2倍以上の起電力(あるいは、「通常のコイルを用いる場合に比べては減少しているが」(上記第4・4の【0024】)確保できるとされている発電容量)とは、負荷において消費することができる有効電力であると解される。
これに対し、発明の詳細な説明に記載された発電機は、誘導電流に対し誘導起電圧が大きく遅れているものであり、このため、無効電流成分が大きな割合を占めるものとなっていると解される。
そうすると、内側固定子と外側固定子とを設けたとしても、有効電力を増やすことは、ほとんどできず、どのようにして、従来技術に比して生じさせるとする2倍以上の起電力を確保するのか、あるいは、発電容量を確保するのか不明である。したがって、本願の発明詳細な説明の記載は、従来の2倍以上の起電力を生じさせることが可能であるとする本願発明の発電機を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
以上の(1)ないし(4)に示すように、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
2 理由3(特許法第36条第6項第1号違反)について
次に、上記第3に示す理由3について検討する。
特許法第36条第6項第1号に規定する要件(以下、「サポート要件」という。)に適合するには、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなければならない。
これを本願発明についてみると、本願の発明の詳細な説明には、「従来の発電機では、永久磁石を有する円筒状の回転子が回転してその外側に配置した固定子コイルの横を通過する際に固定子コイル内に発生する電流によりコイルの周りに磁力線が生じ、その磁力線が回転子ローターの永久磁石から出る磁力線と互いに反対方向にぶつかり合う形で反発力を、あるいは同方向に重なり合う形で吸引力を発生させることにより、回転子ローターの動きを止める作用として働いてしまうことになり」(【0003】)、「発電機のエネルギー効率の低下を招いている」という問題があったことから、本願発明は、「磁力抵抗を少なくするだけでなく発電効率に優れた発電機を提供することを課題と」(【0007】)してなされたものであることが理解できる。
これに対し、本願発明は、上記第2に示すとおりであるところ、本願発明のように、内側固定子および外側固定子に配置されているコイルの一方におけるコイルの自己インダクタンスを他のコイルの自己インダクタンスより高く設定しても、磁力抵抗を少なくするだけでなく、負荷において消費することができる有効電力を少なくとも従来の発電機と比較して、大きく減少しないようにえることはできないから(前記理由2(1)及び(4)参照。)、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された課題を解決するものではない。
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
3 審判請求人の意見について
審判請求人は、令和2年5月11日提出の意見書において、概略、次の(1)ないし(4)ような主張している。
(1)発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相を180度遅らせることは、実験的に位相のずれを測定し、結果的に180度遅らせた状態とするものである。
(2)「高インダクタンスコイル」とは、鎖交磁束と誘導電流の位相を180度遅らせるようなインダクタンスを有するコイルと解され、(当審注:このようなインダクタンス値は、)実験的に180位相がずれる数値を求めるものである。本願の図3(a)(b)は、単にコイルの形状や巻数が異なる例を図示したものにすぎない。
(3)磁力抵抗をゼロあるいは少なくしつつ、従来の2倍以上の起電力を生じさせることについて、本願発明では、前述の通り、発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相を180度遅らせることによって磁力抵抗をゼロあるいは少なくしつつ、従来のよりも大きな起電力を生じさせることが可能となった。本願発明では、内側固定子と外側固定子がそれぞれ発電を行うことができるので、いずれか一方しか固定子が無い従来の発電機に比べて磁力抵抗を少なくするだけでなく発電効率に優れた発電機を提供できるものである。
(4)(当審注:本願の発明の詳細な説明、及び図面には、)回転子3の回転方向(周方向)に磁極S,Nが交互に異なる状態に円筒状に配置された状態が示されている。図1に示した磁石は、単極の永久磁石のような特殊な永久磁石ではなく、同一の放射線状に並ぶ内側固定子と外側固定子の対向する面に対して同じ磁極S,Nが向かい合うことを示した説明図である。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載から、実験的に高インダクタンスコイルのインダクタンス値を求めることは、過度の試行錯誤を要することは、上記1(2)に示すとおりである。また、本願の図3(a)(b)は、単にコイルの形状や巻数が異なる例を図示したものにすぎないとしても、本願の発明の詳細な説明及び図面には、発電機の鎖交磁束と誘導電流の位相を180度遅らせるコイルについて記載されていないことにかわりはない。
また、本願発明のように内側固定子と外側固定子を並べても、負荷において消費することができる有効電力が増加することにならないのは、上記1(4)に示すとおりである。
さらに、請求人は、図1に示した磁石は、単極の永久磁石のような特殊な永久磁石ではなく、(当審注:図1は、)同一の放射線状に並ぶ内側固定子と外側固定子の対向する面に対して同じ磁極S,Nが向かい合うことを示した説明図であると主張するが、このように配置した場合において、内側固定子と外側固定子において発電がほとんど行われないのは、上記1(1)に示すとおりである。
以上のことから、請求人の主張は採用することができない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許請求の範囲の記載が同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余の拒絶理由を検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2019-003454