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特許拒絶査定不服審判

2019-000179

シンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスク、インフルエンザ予防方法及び該予防装置

審判番号
2019-000179
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-124198外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年01月09日
審決日
2020年04月22日
公報発行日
2020年08月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .536-WZ (A41D) / P18 .537-WZ (A41D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法36条6項2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2017-124198「シンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスク、インフルエンザ予防方法及び該予防装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月28日出願公開、特開2017-172103〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 1.経緯 この出願(以下「本願」という。)は、平成24年1月28日に出願した特願2012-15998号の一部を平成29年6月26日に新たな特許出願としたものであって、平成29年10月12日(受付日)に手続補正書が提出され、平成30年4月26日付けで拒絶理由が通知され、平成30年9月12日(受付日)に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年9月28日付けで拒絶査定がなされ、平成31年1月9日(受付日)に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同時に手続補正がなされ、令和1年9月27日付けで当審より拒絶理由が通知され、令和1年11月28日(受付日)に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願の請求項1に係る発明 本願の令和1年11月28日(受付日)の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「マスク本体、 鼻孔及び/又は口の接触部、 室内の空間23.3m3当たりの空気中で0.7mg/h~5.0mg/hのシンナムアルデヒドを揮発放散によりマスク使用者に持続吸引するように調整された量の揮発性のシンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物、ここで、該調整された量は12時間の持続吸引では8.4mg~120mg、9時間の持続吸引では6.3mg~90mg又は6時間の持続吸引では4.2mg~60mgであり、並びに、 該抽出物を収納したポケット、ここで、該ポケットは該シナモン抽出物を交換可能であり、かつ該鼻孔及び/又は口の接触部側に有する、 を有するインフルエンザ予防用マスク。」 3.当審が令和1年9月27日付けで通知した拒絶理由 当審が令和1年9月27日付けで通知した拒絶理由のうち、理由1として通知した特許法第36条第4項第1号及び同法第6項第2項に係る理由は、以下の理由である。 理由1)本件出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (1)特許法第36条第4項第1号に係る理由 「室内の空間23.3m3当たりの空気中で0.7mg/h~5.0mg/hのシンナムアルデヒドに対応するシンナムアルデヒド」を、揮発放散によりマスク使用者に供給する「インフルエンザ予防用マスク」が、具体的に、どのような構成を備えるのか、発明の詳細な説明に、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 (2)特許法第36条第6項第2号に係る理由 「室内の空間23.3m3当たりの空気中で0.7mg/h~5.0mg/hのシンナムアルデヒド」を揮発放散し得るシンナムアルデヒドの量は、その「室内の空間23.3m3」の環境(例えば、温度、湿度、空気の循環等)により変わることが明らかであるから、その量は定まらず不特定であり、そのような、不特定の量のシンナムアルデヒドを有する「インフルエンザ予防用マスク」は、物の発明として明確とはいえない。 4.当審の判断 (1)本願の明細書の記載 「【技術分野】 【0001】 本発明は、シンナムアルデヒド(「CA」と略する場合がある)を用いたインフルエンザ予防用マスク、インフルエンザ予防方法及び該予防装置に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の課題は、インフルエンザウイルスの予防に必要なシンナムアルデヒドの空気中の濃度範囲の設定及び該濃度範囲を基とした、シンナムアルデヒドを使用したインフルエンザ予防方法及び該予防装置を提供することである。」 「【発明の効果】 【0010】 本発明では、シンナムアルデヒドによるインフルエンザ予防用マスク、インフルエンザ予防方法及び該予防装置を提供することが可能となった。」 「【発明を実施するための形態】 ・・・・ 【0014】 (シンナムアルデヒドの量) シンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物は、シンナムアルデヒドと同等量を空気中に放散させるためには、約55~66倍の量が必要である。 加えて、シンナムアルデヒドを12時間、0.7mg/h~5.0mg/hで空気中に放散させるには、8.4mg~120mgのシンナムアルデヒド量が必要である。なお、1時間当たりのシンナムアルデヒドの放散量は、下記実施例2より、0.7mg/h~5.0mg/hと算出している。 同様に、9時間の場合には、6.3mg~90mg、6時間の場合には、4.2mg~60mg、3時間の場合には、2.1mg~30mgである。 【0015】 (シンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防方法) 本発明のシンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防方法では、シンナムアルデヒド又はシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を室内中に放散させることを特徴とする。なお、1時間当たりのシンナムアルデヒドの放散量は、下記実施例2より、0.7 mg/h~5.0mg/hと算出している。 加えて、シンナムアルデヒド又はシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を様々な物品に噴霧又は塗布することによっても、インフルエンザ予防を行うことができる。 ・・・・ 【0018】 (シンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスク) 本発明のシンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスク6の構成を図6又は図7で例示する。 インフルエンザ予防用マスク6では、通気性を有する布又はシートなどからなるマスク本体7に、鼻孔及び/又は口を覆う通気性を有する布又はシート等からなる鼻孔及び/又は口の接触部8、シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を塗布又は含浸させた布又はシートなどからなる吸着層9、又は、シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を収納可能な袋形状態10を有する。 【0019】 本発明のシンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスク6は、マスク本体7と鼻孔及び/又は口の接触部8間に、シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を塗布又は含浸させた吸着層9を挟むことで製造可能である。また、シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物の残存量が少なくなった吸着層9を容易に交換することができる。 また、本発明のシンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスク6は、マスク本体7にポケット(袋形状態10)を付けることにより製造可能である。これにより、シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物の残存量が少なくなった袋形状態5に、シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を容易に添加することができる。 加えて、本発明のシンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスクは、吸着層9を従来のマスク(市販されているマスク)内に導入すること、又は袋形状態10を設けることにより作製することもできる。また、本発明のシンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスクは、従来のマスクの本体のシートに直接、シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を塗布又は含浸させることにより作製することができる。 【0020】 本発明のシンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスクでは、1時間当たりのシンナムアルデヒドの放散量は、下記実施例2より、0.7mg/h~5.0mg/hとなるように調整する。下記実施例1及び実施例2の結果により、該放散量なら、インフルエンザの予防を行うことができると考えられる。 1時間当たりのシンナムアルデヒドの放散量の調整方法としては、シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を揮発性の高い溶媒と混合する。 【0021】 本発明のシンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスクでは、長時間にわたって呼気とともに、鼻、口腔内、咽喉、上気道に、シンナムアルデヒドを供給することができる。 本発明のシンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスクの具体的な効果としては、インフルエンザの予防に加え、のどの消炎・乾き防止、声がれの防止、咽頭炎の防止、扁桃腺炎の防止、口内炎・口臭の除去、鼻炎予防・治療・加湿、鼻詰まり改善、花粉症予防、睡眠導入効果等があげられる。」 「【実施例1】 【0023】 (マウスインフルエンザウイルス肺炎に対するシンナムアルデヒドの効果の確認) マウスインフルエンザウイルス肺炎に対するシンナムアルデヒドの予防効果を確認した。詳細は、以下の通りである。 なお、本実施例は、富山大学倫理委員会にて医35の承認を得て行い、飼育及び実験は国立大学法人富山大学動物実験取扱規則に従って実施した。 【0024】 (材料) 1.試薬 Trans-cinnamaldehyde(CA、製造元:和光純薬)をdimethylsulfoxide(DMSO)で40mMに希釈した原溶液をEagle's minimum essential medium(MEM)又はDulbecco's modified MEM(DMEM)で適宜希釈して用いた。 2.ウイルスと細胞 A型インフルエンザウイルスA/PR/8/34(PR-8)(H1N1型)株を10日齢の有精鶏卵の漿尿膜腔に接種し、35℃で3日間培養して得られた感染漿尿液を適宜希釈してウイルス液として用いた。 また、ウイルス感染細胞としてMDCK細胞を用い、8%非働化牛胎仔血清を添加したMEM又は10%非働化牛胎仔血清を添加したDMEMを用いて培養した。 3.実験動物 日本エスエルシー株式会社より非近交系ICR雌性4週齢マウスを購入し、そして飼育した。 4.統計解析 すべての値は、平均値±標準偏差で表示した。解析には、Student-t検定又は分散分析を用い、危険率0.05%をもって有意とした。 【0025】 (方法及び結果) マウス馴化PR-8(LA-PR8)を用いたインフルエンザ肺炎モデル(参考文献:J.Virol.74,2472-2476,2000)で、シンナムアルデヒドのin vivoでの抗インフルエンザ効果を検討した。 図1Aに示すように、ウイルスに感染させてCAを投与していない群(コントロール群)では、4日目から感染死が認められ、感染8日目までに80%が死亡した。 対照的に、マウス1匹につき250μgのCAを1日1回経鼻投与した群(経鼻投与群)では、感染第8日においても70%のマウスが生存していた(p<0.05)。しかし、10日の観察期間の最後の2日で急速に生存率が減少し、最終的に30%となった。 しかし、飼育籠内にCAを留置して持続吸引させた群(吸引群)では感染8日時点で全ての感染マウスが生存し(p<0.05)、最終的には生存率はやや減少して80%となった。 体重の変化は図1Bに示した。ウイルス感染させず薬物も投与していない群(無処置群)のマウスが日を追って体重を増していくのに対して、コントロール群では感染3日目より体重が減少し始めたが、経鼻投与群及び吸入群は、無処置群と比較して、有意な体重減少は見られなかった。 さらに、薬物吸引とウイルス増殖の関係を評価するために、BALF中のウイルス量をコントロール群と吸入群とで比較した。コントロール群では感染6日の時点において1.9×107PFUと著しい高値を示した。一方、吸入群ではその約10分の1の1.6×106 PFUと、マウス肺(気管支、肺胞)でのウイルス増殖を有意に抑制した(図2)。 【0026】 本実施例の結果により、哺乳動物はシンナムアルデヒドを吸入投与することによって、インフルエンザウイルス肺炎に対して有害効果を伴うことなしに治療効果があることを確認にした。 以上により、空気中にある一定以上のシンナムアルデヒド濃度を有する環境下では、インフルエンザの予防を行うことができることを確認した。」 「【実施例2】 【0027】 (シンナムアルデヒドの空気中の濃度範囲の設定) インフルエンザ予防に必要な空気中のシンナムアルデヒド濃度を測定した。詳しくは、実験動物飼育ケージを使用して、該ケージ内でシンナムアルデヒドを放散させ、空気中のシンナムアルデヒド濃度を測定した。詳細は、以下の通りである。 【0028】 (材料と器材) 1.試薬 シンナムアルデヒド(和光純薬工業製試薬特級)、メタノール(和光純薬工業製残留農薬・PCB試験用)、アセトニトリル(和光純薬工業製高速液体クロマトグラフ用)を使用した。 2.使用機器 ケージ(内寸):底部200mm x 140mm、上部260mm x 190mm、高さ135mm、プラスチック製 ポンプ:柴田科学製MP-シグマ30N型 温湿度計:エスペックミック製RS-12 捕集管:柴田科学製DNPHカートリッジ(アクティブサンプリング用) 高速液体クロマトグラフ:島津製作所製LC20Aシステム 【0029】 (方法) ・・・・ 2.放散試験方法 1.5mLのエッペンドルフ製プラスチックチューブ内にシンナムアルデヒド50mgと純水0.95mLを入れ、ふたをして1分間振とうした。次に、該ふたを開け、ケージの底部中央に立位で固定した。該ケージに金網(網目18mm)をかぶせ、5時間静置した。ポンプ吸引口にシリコンチューブを繋ぎ、さらに、該チューブの先端にDNPHカートリッジを繋ぎ、ケージ内の設定した空間部位から空気採取を行った。 設定した空間部位は、発生源であるチューブ開口部から約150mm離れ、金網からの距離約20mmのポイント1(最遠部)、チューブ開口部から約65mm離れ、金網からの距離約65mmのポイント2(中間部)、チューブ開口部から約15mm上部のポイント3(近接部)及びバックグランドを知るためのポイント0の4か所とした。 空気採取時の吸引速度と時間(採取量)は、ポイント1及びポイント2では200mL/分で25分間(5L)、ポイント3では100mL/分で10分間(1L)、ポイント0では500mL/分で60分間(30L)とした。ポイント1からポイント3の空気採取は各3回ずつ繰り返した。 放散試験は、25±1℃、相対湿度37-38%の条件下で行った。 ・・・・ 【0030】 (結果) ・・・・ 【0031】 2.シンナムアルデヒドの空気中の濃度 ケージ内に設定した空間部位及びバックグラウンドにおけるシンナムアルデヒドの濃度測定結果を図4に示す。 図4に示す通り、発生源の近接部位であるポイント3の濃度は最大値424μg/m3、最小値185μg/m3、平均値320μg/m3で各部位の中で最も高い濃度であった。中間部のポイント2では最大値130μg/m3、最小値62μg/m3、平均値92μg/m3であった。最遠部のポイント1では、最大値133μg/m3、最小値103μg/m3、平均値123μg/m3であった。各部位での測定値のばらつきは変動係数で13.8%から28.3%であった。なお、バックグラウンドのポイント0では不検出であった。 加えて、シンナムアルデヒドの発生は、動物実験を模してエッペンドルフのチューブ(1.5mL)に50mgのシンナムアルデヒドを入れ、水で1mLとし、よく振とうした後にケージ底部中央に立位で設置した。この混合比では、水に対する溶解度(約1.1%)以上のため2液は分離した。平衡に到達した後は、上層の水の表面から一定速度でシンナムアルデヒドが放散し、放散した分だけ下層のシンナムアルデヒドが水層に移行して、長く平衡状態が続いたと考えられる。 【0032】 3.シンナムアルデヒドの放散量の特定 上記の室内中のシンナムアルデヒド濃度62μg/m3(最小値)~424μg/m3(最大値)を維持するための1時間当たりのシンナムアルデヒドの放散量は、下記条件より、0.7mg/h~5.0mg/hと算出した。 室内中のシンナムアルデヒド:62μg/m3~424μg/m3 空間:6畳間(23.3m3) 換気回数:0.5回/時間 【0033】 4.ヒトでのインフルエンザ予防に必要な放散量の特定 上記1時間当たりのシンナムアルデヒドの放散量0.7mg/h~5.0mg/hでは、マウスの、インフルエンザの予防を行うことができる。そこで、ヒトでのインフルエンザ予防に必要な放散量を算出した。詳細は、以下の通りである。 【0034】 マウス(25g)の肺換気量値は、約45(ml/分)である(参照:http://www.nichidokyo.or.jp/environmental_monitoring.html)。 ヒト(60kg)の分時換気量は、約7200~12000(ml/分){1回換気量(10ml/kg×60kg=600ml)×呼吸回数12~20回}である。 よって、ヒトの方がマウスより160~267倍の空気を吸入している。 一方、種差による換算量は、文献Dose translation from animal to human studies revisited. The FASEB Journal, 22(3), 659-661, 2008.(http://www.fasebj.org/content/22/3/659.full)により、以下となる。 ヒトにおける換算量(mg/kg)=動物における量(mg/kg)×動物Km(マウス3)/ヒトKm(37) よって、ヒト60kg、マウス25gとすると体重換算で2400倍となるが、種差の関係で3/37になり、ヒトでは195倍の投与量が必要となる。 ヒトはマウスより160~267倍の空気を吸入しているが、195倍の投与量が必要である。 以上により、ヒトでのインフルエンザ予防に必要な大気中のシンナムアルデヒド濃度はマウスでのインフルエンザ予防に必要な大気中のシンナムアルデヒド濃度とほぼ同じであると算出できた。」 「【実施例4】 【0037】 (シンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスクの製造方法) 本発明の図6又は図7で例示されるようなシンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスク6の製造方法の概要は以下の通りである。 【0038】 (吸着層9を有するマスク) シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を吸着層9に塗布又は含浸させる。該シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を吸着させた吸着層9をマスク本体7と鼻孔及び/又は口の接触部8間に挟む(参照:図6)。これにより、本発明のマスクを製造することができる。 【0039】 (袋形状態10を有するマスク) マスク本体7の鼻孔及び/又は口の接触部8との接触側にポケット(袋形状態10)を設置する。そして、シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を該ポケットに添加する(参照:図7)。これにより、本発明のマスクを製造することができる。」 「 」 (2)特許法第36条第4項第1号に係る理由について ア 発明の詳細な説明は、請求項に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなければならず、当業者が、明細書又は図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、請求項に係る発明を実施しようとした場合に、どのように実施するのか理解できないときには、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていないこととなる。 イ そこで、本願発明について検討すると、本願発明のインフルエンザ予防用マスクは、「室内の空間23.3m3当たりの空気中で0.7mg/h~5.0mg/hのシンナムアルデヒドを揮発放散によりマスク使用者に持続吸引するように調整された量の揮発性のシンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物、ここで、該調整された量は12時間の持続吸引では8.4mg~120mg、9時間の持続吸引では6.3mg~90mg又は6時間の持続吸引では4.2mg~60mgであり」、「該抽出物を収納したポケット、ここで、該ポケットは該シナモン抽出物を交換可能であり、かつ該鼻孔及び/又は口の接触部側に有する」との事項を含むものである。 一方、明細書及び図面の記載によれば、実施例1の実験結果から、「哺乳動物はシンナムアルデヒドを吸入投与することによって、インフルエンザウイルス肺炎に対して有害効果を伴うことなしに治療効果があることを確認にした。」「空気中にある一定以上のシンナムアルデヒド濃度を有する環境下では、インフルエンザの予防を行うことができることを確認した。」(段落【0026】)とされる。さらに、実施例2の実験結果から、室内の空間23.3m3の空気中で、シンナムアルデヒド濃度62μg/m3(最小値)~424μg/m3(最大値)を維持するために必要とされる1時間当たりのシンナムアルデヒドの放散量は、0.7mg/h~5.0mg/hとされる。また、その0.7mg/h~5.0mg/hの放散量で空気中に放散させるには、段落【0014】より、12時間の場合には8.4mg~120mgのシンナムアルデヒド量が必要であり、同様に、9時間の場合には、6.3mg~90mg、6時間の場合には、4.2mg~60mg、3時間の場合には、2.1mg~30mgである。さらに、マスクへのシナモン抽出物の適用については、図6に、シナモン抽出物を吸着層9に塗布又は含浸させ、吸着層9をマスク本体7と鼻孔及び/又は口の接触部8間に挟むものとする実施例が、図7に、マスク本体7の鼻孔及び/又は口の接触部8との接触側にポケット(袋形状態10)を設置し、シナモン抽出物を該ポケットに添加する実施例が示されている。 ウ ここで、本願発明の「室内の空間23.3m3当たりの空気中で0.7mg/h~5.0mg/hのシンナムアルデヒドを揮発放散によりマスク使用者に持続吸引するように調整された量の揮発性のシンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物、ここで、該調整された量は12時間の持続吸引では8.4mg~120mg、9時間の持続吸引では6.3mg~90mg又は6時間の持続吸引では4.2mg~60mgであり」との事項は、上記の明細書及び図面の記載を踏まえると、インフルエンザの予防を行うために、室内の空間23.3m3当たりの空気中からヒトに吸入投与する場合は、1時間当たり0.7mg/h~5.0mg/hのシンナムアルデヒドを揮発放散するように調整される必要があり、その場合の調整された量は、12時間の持続吸引では8.4mg~120mg、9時間の持続吸引では6.3mg~90mg又は6時間の持続吸引では4.2mg~60mgであるが、マスクを介する場合も、室内の空間23.3m3当たりの空気中から吸入投与する場合と同じ量を持続吸引できるように調整された量の「揮発性のシンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物」を意味するものと解される。 しかし、本願の明細書又は図面には、室内の空間に放散されたシンナムアルデヒドを吸入するのではなく、口と鼻の直前に配置されたマスクに適用された場合に、マスクに対して「揮発性のシンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物」を、どの程度の量、配置すれば良いのか記載されていない。実際、放散源から室内の空間に放散されたシンナムアルデヒドを吸入するのに対して、放散源が口と鼻の直前に配置されたマスクから吸入する場合は、放散したもののうち、より多くの量のシンナムアルデヒドを吸入できることが明らかであリ、ヒトに対して効果を発現させるための、空気中の放散量と、口と鼻の直前から吸引する場合との相関関係や、室内の空間に放散するのではなく、シナモン抽出物を収納したポケットから放散する場合の放散量の変化の程度については、本願の明細書又は図面に記載されていないし、それらが技術常識であるともいえない。 そのため、マスクにシナモン抽出物を適用する場合、室内の空間23.3m3当たりの空気中から吸入投与する場合と同じ量を持続吸引できるように調整された量を探すために、個々に試験する必要があり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や実験をする必要があるものといえる。 エ 請求人は、令和元年11月28日(受付日)の意見書で、 「補正後請求項1では、構成要件「該調整された量は12時間の持続吸引では8.4mg~120mg、9時間の持続吸引では6.3mg~90mg又は6時間の持続吸引では4.2mg~60mgであり」を追加し、「抽出物を収納したポケット、ここで、該ポケットは該シナモン抽出物を交換可能であり、かつ該鼻孔及び/又は口の接触部側に有する」を有します。補正後請求項1の対象のインフルエンザ予防用マスクでは、抽出物を収納したポケットは鼻孔、口の接触部側に有することにより、温度、湿度、空気の循環等の影響を受けにくい構造になっています。加えて、補正後請求項1の対象のインフルエンザ予防用マスクが有する揮発性のシンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物の量を特定致しました。さらに、インフルエンザ効果を得ることができる吸引方法である「持続吸引」に限定致しました(参照:段落0025)。 これにより、補正後請求項1の対象のインフルエンザ予防用マスクでは、シナモン抽出物を必要に応じて適宜交換することにより、室内の空間23.3m3当たりの空気中で0.7mg/h~5.0mg/hのシンナムアルデヒドをマスク使用者に持続吸引させることができます。」(「3-1-2.」欄)、 「補正後請求項1の対象のインフルエンザ予防マスクは、シナモン抽出物を必要に応じて適宜交換することにより、室内の空間23.3m3当たりの空気中で0.7mg/h~5.0mg/hのシンナムアルデヒドをマスク使用者に持続吸引させることができます。すなわち、発明の詳細な説明に、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に補正後請求項1の対象となるインフルエンザ予防用マスクが記載されています。すなわち、発明の詳細な説明に、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に補正後請求項1の対象となるインフルエンザ予防用マスクが記載されています。」(「3-1-3.」欄)と主張する。 しかし、追加した構成要件「該調整された量は12時間の持続吸引では8.4mg~120mg、9時間の持続吸引では6.3mg~90mg又は6時間の持続吸引では4.2mg~60mgであり」は、室内の空間23.3m3当たりの空気中で0.7mg/h~5.0mg/hのシンナムアルデヒドを揮発放散させるために必要な量であり、マスクに適用した場合の量ではない。 また、「抽出物を収納したポケットは鼻孔、口の接触部側に有することにより、温度、湿度、空気の循環等の影響を受けにくい構造」であり、「シナモン抽出物を必要に応じて適宜交換」することができるとしても、上記ウで述べたように、マスクに適用する場合での、室内の空間23.3m3当たりの空気中から吸入投与する場合と同じ量を持続吸引できるように調整された量を探すには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や実験をする必要があり、マスクに対して、具体的にどの程度の量を、どのように配置するのか記載していない本願の発明の詳細な説明は、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。 よって、請求人の上記主張は採用することはできない。 オ そうすると、本願の明細書又は図面の記載及び技術常識に基づいても、本願発明の「室内の空間23.3m3当たりの空気中で0.7mg/h~5.0mg/hのシンナムアルデヒドを揮発放散によりマスク使用者に持続吸引するように調整された量の揮発性のシンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物」を、どのようにマスクに適用するのか理解できないから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に記載されているものとはいえない。 (3)特許法第36条第6項第2号に係る理由について 上記(2)で述べたように、本願の明細書又は図面の記載及び技術常識に基づいても、本願発明の「室内の空間23.3m3当たりの空気中で0.7mg/h~5.0mg/hのシンナムアルデヒドを揮発放散によりマスク使用者に持続吸引するように調整された量の揮発性のシンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物」を、どのようにマスクに適用するのか理解できないものであるから、そのような量のシナモン抽出物を備えるマスクは、物の発明として明確とはいえない。 5.むすび 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明に係る請求項1についての記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2019-000179

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