特許無効審判
2018-800137
ジアルキルホスフィン酸塩
- 審判番号
- 2018-800137
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2004-365603
- 登録番号
- 特許第4870924号(P4870924)
- 請求日
- 2018年12月05日
- 審決日
- 2020年04月06日
- 公報発行日
- 2020年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ホステック 株式会社
- 【請求人代理人】高松 孝行
- 【請求人代理人】鈴木 徳子
- 【被請求人】クラリアント・プロドゥクテ・(ドイチュラント)・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
- 【被請求人代理人】村山 靖彦
- 【被請求人代理人】飯田 雅人
- 【被請求人代理人】服部 映美
- 【被請求人代理人】三縄 隆
- 【被請求人代理人】堀江 健太郎
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 秀次
- 審判官 齊藤 真由美
- 審判官 関 美祝
- 分類
- P1113.537-Y (C07F) / P1113.113-Y (C07F) / P1113.121-Y (C07F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4870924号発明「ジアルキルホスフィン酸塩」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
1 本件特許第4870924号の請求項1~30に係る発明は、2004年12月17日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2003年12月19日(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成23年11月25日に特許権の設定登録がなされた(請求項の数30。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書を「本件明細書」といい、特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」という。)。
2 本件特許について、本件特許の利害関係人である、ホステック株式会社(以下「請求人」という。)から、本件特許請求の範囲の請求項1~30に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の無効審判の請求がなされた。 以下に、本件審判の請求以後の経緯を整理して示す。
平成30年12月 5日差出 審判請求書及び
甲第1号証~甲第6号証の提出
平成31年 2月 4日付け 手続補正指令(方式)
同年 2月21日付け 審判請求書の手続補正書提出
令和 1年 6月20日付け 審判事件答弁書及び
乙第1号証~乙第17号証の提出 同年 9月 9日付け 審理事項通知書の通知
同年10月24日付け 口頭審理陳述要領書及び
乙第18号証の提出(被請求人)
同年10月25日付け 口頭審理陳述要領書及び
甲第7号証~甲第8号証の提出(請求人)
同年11月 8日 口頭審理の実施
同年11月20日付け 上申書(請求人)及び
甲第9号証~甲第11号証の提出
同年12月 6日付け 上申書の提出(被請求人)
同年12月25日付け 上申書(請求人)及び
甲第12号証~甲第14号証の提出
令和 2年 1月17日付け 上申書の提出(被請求人)
同年 1月20日付け 上申書の提出(請求人)
第2 本件発明
本件特許の請求項1~30に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明30」といい、合わせて「本件発明」という。)は、登録時の本件明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1~30に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、R1およびR2は互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC1~C6-アルキルであり;
MはMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよび/またはプロトン化窒素塩基であり;
mは1~4である。]
で表されるジアルキルホスフィン酸塩において、テロマー含有量が0.01~6重量%でありそして該テロマーがエチルブチルホスフィン酸塩、ブチルブチルホスフィン酸塩、エチルヘキシルホスフィン酸塩、ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩である少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物。
【請求項2】
テロマー含有量が0.1~5重量%である、請求項1に記載の難燃剤組成物。
【請求項3】
テロマー含有量が0.2~2.5重量%である、請求項1または2に記載の難燃剤組成物。
【請求項4】
Mがアルミニウム、カルシウム、チタン、亜鉛、錫またはジルコニウムである、請求項1~3のいずれか一つに記載の難燃剤組成物。
【請求項5】
R1およびR2は互いに同じかまたは異なり、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、第三ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシルおよび/またはイソヘキシルである、請求項1~4のいずれか一つに記載の難燃剤組成物。
【請求項6】
アルミニウム-トリス(ジエチルホスフィナート)、亜鉛ビス(ジエチルホスフィナート)、チタニル-ビス(ジエチルホスフィナート)、チタンテトラキス(ジエチルホスフィナート)またはこれらの所望のあらゆる混合物である、請求項1~5のいずれか一つに記載の難燃剤組成物。
【請求項7】
前記ジアルキルホスフィン酸塩の残留湿分濃度が0.01~10重量%である、請求項1~6のいずれか一つに記載の難燃剤組成物。
【請求項8】
前記ジアルキルホスフィン酸塩の粒度が0.1~1000μmである、請求項1~7のいずれか一つに記載の難燃剤組成物。
【請求項9】
少なくとも1種類の前記ジアルキルホスフィン酸塩50~99.9重量%および少なくとも1種類の添加物0.1~50重量%を含有する、請求項1~8のいずれか一つに記載の難燃剤組成物。
【請求項10】
少なくとも1種類の前記ジアルキルホスフィン酸塩95~70重量%および少なくとも1種類の添加物5~30重量%を含有する、請求項9に記載の難燃剤組成物。
【請求項11】
添加物が以下の群から誘導される、請求項9または10に記載の難燃剤組成物:メラミンホスファート、ジメラミンホスファート、ペンタメラミントリホスファート、トリメラミンジホスファート、テトラキスメラミントリホスファート、ヘキサキスメラミンペンタホスファート、メラミンジホスファート、メラミンテトラホスファート、メラミンピロホスファート、メラミンポリホスファート、メラムポリホスファート、メレムポリホスファートおよび/またはメロンポリホスファート。
【請求項12】
添加物が以下の群から選択される、請求項9または10に記載の難燃剤組成物:トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートと芳香族ポリカルボン酸とのオリゴマーエステル、ベンゾグアナミン、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、アラントイン、グリコールウリル、メラミン、メラミンシアヌレート、尿素シアヌレート、ジシアンジアミドおよび/またはグアニジン。
【請求項13】
添加物が以下の亜鉛化合物の群から誘導される、請求項9または10に記載の難燃剤組成物:酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛水和物、炭酸亜鉛、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛、珪酸亜鉛、リン酸亜鉛、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛。
【請求項14】
添加物がカルボジイミド類および/または(ポリ)イソシアヌレート類から誘導される、請求項9または10に記載の難燃剤組成物。
【請求項15】
難燃剤組成物の平均粒度が0.1~3000μmである、請求項1~14のいずれか一つに記載の難燃剤組成物。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一つに記載の難燃剤組成物を含有する、難燃性ポリマー成形材料。
【請求項17】
1~50重量%の請求項1~15のいずれか一つに記載の難燃剤組成物、1~99重量%のポリマーまたはポリマー混合物、0~60重量%の添加物および0~60重量%のフィラーを含有している、請求項16に記載の難燃性ポリマー成形材料。
【請求項18】
ポリマーが熱可塑性ポリマーおよび/または熱硬化性ポリマーの群から誘導される、請求項16又は17のいずれか一つに記載の難燃性ポリマー成形材料。
【請求項19】
環状、長円状、または不揃いな底面を有する円筒状物または球状、枕状、立方体状、平行六面体またはプリズム状の形状を有している、請求項16~18のいずれか一つに記載の難燃性ポリマー成形材料。
【請求項20】
円筒の高さ:直径の比が1:50~50:1である、請求項19に記載の難燃性ポリマー成形材料。
【請求項21】
残留湿分濃度が0.01~10重量%である、請求項16~20のいずれか一つに記載の難燃性ポリマー成形材料。
【請求項22】
難燃性ポリマー成形材料の製造方法において、請求項1~15のいずれか一つに記載の難燃剤組成物をポリマーペレットおよび場合によっては添加物と一緒に混合機中で混合しそしてそれを配合装置中でポリマー溶融物中に高い温度で均一化し、次に均一化されたポリマー押出成形物を引出し、冷却しそして細かく分割することを特徴とする、上記方法。
【請求項23】
配合装置が一軸スクリュー式押出機、マルチゾーンスクリューまたは二軸スクリュー式押出機の群から選ばれる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
加工温度がポリスチレンでは170~200℃であり、ポリプロピレンでは200~300℃であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)では250~290℃であり、ポリブチレンテレフタレート(PBT)では230~270℃であり、ナイロン-6(PA6)では260~290℃であり、ナイロン-6.6(PA6.6)では260~290℃でありそしてポリカルボナートでは280~320℃である、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
スクリュー直径(D)の倍数としての押出機(配合装置)の有効スクリュー長さ(L)は4~200Dである、請求項22~24のいずれか一つに記載の方法。
【請求項26】
請求項1~15のいずれか一つに記載の難燃剤組成物の、難燃性ポリマー成形体での用途。
【請求項27】
請求項1~15のいずれか一つに記載の難燃剤組成物を含有する、難燃性ポリマー成形体、難燃性ポリマーフィルム、難燃性ポリマーフィラメントまたは難燃性ポリマー繊維。
【請求項28】
1~50重量%の請求項1~15のいずれか一つに記載の難燃剤組成物、1~99重量%のポリマーまたはその混合物、0~60重量%の添加物、0~60重量%のフィラーを含有する、難燃性ポリマー成形体、難燃性ポリマーフィルム、難燃性ポリマーフィラメントまたは難燃性ポリマー繊維。
【請求項29】
難燃性ポリマー成形体を製造する方法において、請求項16~21のいずれか一つに記載の難燃性ポリマー成形材料を、射出成形およびプレス成形、発泡射出成形、内部ガス圧射出成形、ブロー成形、注型フィルム製造、カレンダー加工、積層加工、高温での塗装によって加工して難燃性ポリマー成形体を得ることを特徴とする、上記方法。
【請求項30】
加工温度がポリスチレンでは200~250℃であり、ポリプロピレンでは200~300℃であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)では250~290℃であり、ポリブチレンテレフタレート(PBT)では230~270℃であり、ナイロン-6(PA6)では260~290℃であり、ナイロン-6.6(PA6.6)では260~290℃でありそしてポリカルボナートでは280~320℃である、請求項29に記載の方法。」
第3 請求人の請求の趣旨及びその主張の概要並びに証拠方法
1 審判請求書及び口頭審理陳述要領書に記載した無効理由の概要
請求人の請求の趣旨は、「特許第4870924号の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項30に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める。
そして、請求人が主張する無効理由1~3は、概略以下のとおりである(第1回口頭審理調書)。
(1)無効理由1(明確性要件違反)
本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないので、本件の請求項1~30に係る発明についての特許は、特許を受けることができるものではなく、同法同条第6項に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(2)無効理由2(サポート要件違反)
本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、本件の請求項1~30に係る発明についての特許は、特許を受けることができるものではなく、同法同条第6項に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(3)無効理由3(新規性又は進歩性欠如)
本件の請求項1~5、7~10、19~21に係る発明についての特許は、各請求項に係る発明が、本件優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、本件の請求項1~30に係る発明についての特許は、本件優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
2 証拠方法
請求人は、証拠方法として、以下の書証を提出している。
甲第1号証:特表2001-525327号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2000-219772号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2000-34362号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開昭49-74736号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:中華人民共和国国家知的財産権局 無効宣告請求審査決定書(第24784号)(以下「甲5」という。)
甲第6号証:中国特許出願公開第1660857号明細書(以下「甲6」という。)
甲第7号証:令和元年(ワ)第11721号特許権侵害差止請求事件の令和元年10月4日付け原告(審決注:被請求人)第2準備書面(以下「甲7」という。)
甲第8号証:令和元年(ワ)第11721号特許権侵害差止請求事件の令和元年9月17日付け原告(審決注:被請求人)第1準備書面 (以下「甲8」という。)
甲第9号証:STN○R(審決注:○Rは、Rの丸付き文字を表す。以下同様。) ポリマー検索,「テロマー」の検索結果,収録日1984年11月16日,[検索日不明],JAICI化学情報協会(以下「甲9」という。)
甲第10号証:コトバンクの公式ホームページ,「世界大百科事典第2版の解説 テロマー」[online],公開日不明,[検索日不明],インターネットURL:https://kotobank.jp/word/テロマー-1187915(以下「甲10」という。)
甲第11号証:コトバンクの公式ホームページ,「化学辞典第2版の解説 テロマー」[online],公開日不明,[検索日不明],インターネットURL:https://kotobank.jp/word/テロマー-1187915 (以下「甲11」という。)
甲第12号証:実験成績証明書(以下「甲12」という。)
作成日:2019年12月20日
実験場所:リーサイド社応用技術研究所
中華人民共和国 江蘇省 泰州市
実験及び作成者:リーサイド社 レイモンド レイ博士
他の実験者:同社 ジャオ フア研究員、
シュウ ウエイ研究員及び
デイン フアシン研究員
甲第13号証:実験成績証明書(以下「甲13」という。)
作成日:2019年12月19日
試験者(責任者): ケリー リー
甲第14号証:実験成績証明書(以下「甲14」という。)
作成日:2019年12月19日
試験者(責任者): ケリー リー
第4 被請求人の答弁の趣旨及びその主張の概要並びに証拠方法
1 答弁の趣旨及びその主張
被請求人の答弁の趣旨は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」であると認める(審判事件答弁書「6.答弁の趣旨」)。
そして、被請求人は請求人が主張する前記無効理由1~3は、審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書において、いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。
2 証拠方法
被請求人は、証拠方法として、以下の書証を提出している。
乙第1号証:pinfaの公式ホームページ,「人間の健康と環境のファクトシート 商品名 ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩 DEPAL, Exolit OP 1230, Exolit OP 930, Exolit OP 935(R)」[online],2007年11月27日,[検索日不明],インターネット URL:https://web.archive.org/web/20140419025145/http:/www.pinfa.eu/uploads/Documents/Exolit_OR.pdf(以下「乙1」という。)
乙第2号証:化学工業日報 2012年11月29日紙面12面「新規リン系難燃剤 パイロット設備新設 本格販売へ市場開拓加速 クラリアント」の記事(以下「乙2」という。)
乙第3号証:工業材料、Vol.59、No.10、(2011)、p.25~31(以下「乙3」という。)
乙第4号証:化学工業日報 2015年6月16日紙面2面「リン系難燃剤 ポリアミド向け次世代品 クラリアント独に専用ライン」の記事(以下「乙4」という。)
乙第5号証:ScienceDirectの公式ホームページ,「Additives for polymers Volume2012,Issue 2,February 2012, Pages 4-5, 非ハロゲン化難燃剤の能力をさらに高めるクラリアント 要約」[online],2012年,[検索日2019年6月12日],インターネットURL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306374712700246 (以下「乙5」という。)
乙第6号証:Chemical Week, (December 19/26, 2011), p.19 「クラリアントは非ハロゲン系難燃剤の第3プラントを建設する」の記事(以下「乙6」という。)
乙第7号証:Plastechの公式ホームページ,「新しいクラリアントの非ハロゲン系難燃剤」[online],2014年1月30日,[検索日2019年6月12日],インターネット URL:https://www.plastech.biz/en/news/New-Clariant-s-non-halogenated-flame-retardants-8280 (以下「乙7」という。)
乙第8号証:メイン州議会の公式ホームページ,「臭素化難燃剤 メイン州議会への第3年次報告書2007年1月」[online],2007年1月,[検索日不明],インターネット URL:http://lldc.mainelegislature.org/Open/Rpts/tp266_5_b76_2007.pdf (以下「乙8」という。)
乙第9号証:Coatings Worldの公式ホームページ,「Clariant Exolitの難燃剤がEUの承認を取得」[online],2013年3月19日,[検索日2019年6月12日],インターネット URL:https://www.coatingsworld.com/contents/view_breaking-news/2013-03-19/clariant-exolit-flame-retardants-receive-eu-recogn-818279 (以下「乙9」という。)
乙第10号証:Natural Foams Technologyの公式ホームページ,「Clariant Exolit OP は優れたGreenScreen○R評価を受けた」[online],2017年1月,[検索日2019年6月12日],インターネットURL: http://www.naturalfoams.com/news/clariants-exolit-op-receives-excellent-greenscreen-rating/ (以下「乙10」という。)
乙第11号証:ToxServices LLCの公式ホームページ,「ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩(CAS #225789―38―8)より安全な化学物質のためのGreenScreen○R(GreenScreen○R)評価」[online],2016年10月31日,[検索日不明],インターネットURL: http://www.naturalfoams.com/wp/wp-content/uploads/2017/01/225789388AluminumdiethylphosphinateGS4v13CertifiedOct2016.pdf (以下「乙11」という。)
乙第12号証:2013年ドイツビジネスイノベーション賞ファイナリストの証明書(以下「乙12」という。)
乙第13号証:特開平11-180990号公報 (以下「乙13」という)乙第14号証:特開平6-240059号公報 (以下「乙14」という。)乙第15号証:特開平5-194566号公報 (以下「乙15」という。)乙第16号証:皆川源信編、「K BOOKS 115 プラスチック添加剤活用ノート」(1996年7月15日)、p.96-97、株式会社工業調査会発行(以下「乙16」という。)
乙第17号証:西澤仁監修、「難燃剤・難燃化材料の最前線」(2015年4月8日)、p.260~261、株式会社シーエムシー出版発行 (以下「乙17」という。)
乙第18号証:実験成績証明書 (以下「乙18」という。)
作成日:2019年7月18日
実験場所:クラリアント プラスチック&コーティング(ドイツランド)GmbH、添加剤ビジネスリサーチセンター
インダストリーストリート300、2703棟、50354、ヒュルト、ドイツ
実験及び作成者:クラリアント プラスチック&コーティング(ドイツランド)GmbH ハラルトペーター バウアー博士、
エルケ シュローサー博士、及び、
セバスチャン ヘロルト博士
第5 無効理由についての当審の判断
当審は、以下に示すとおり、無効理由1~3には理由がないものと判断する。
1 無効理由1(明確性要件違反)について
(1)無効理由1(明確性要件違反)の内容
無効理由1(明確性要件違反)の内容は、以下のア~オのとおりである。
ア 請求項1に記載の「テロマー」は、何を意味するのか不明確である。
イ 請求項1に記載の「テロマー含有量が0.01~6重量%であり」は、何に対するテロマー含有量の割合なのか不明確である。
ウ 請求項1に記載の「テロマー」と「ジアルキルホスフィン酸塩」は、何が異なるのか不明確である。
エ 請求項1に記載の「難燃剤組成物」は、「テロマー」及び「ジアルキルホスフィン酸塩」以外の成分を含むことを許容しているが、残留酢酸塩が含まれる場合、本件の請求項1に係る発明の効果を奏さず矛盾するから、請求項1に記載の「難燃剤組成物」にどのようなものが含まれるのかが不明確である。
オ 請求項1を直接又は間接に引用して特定されている請求項2~30に係る発明についても、上記ア~エで指摘したことが該当するため、同様である。
これらア~オについて、以下検討する。
(2)本件発明1について
ア 前記(1)アの「テロマー」について
請求項1には、「該テロマーがエチルブチルホスフィン酸塩、ブチルブチルホスフィン酸塩、エチルヘキシルホスフィン酸塩、ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩である」と記載され、「テロマー」は特定の化合物で明確に特定されている。
したがって、請求項1の「テロマー」という記載は、明確である。
イ 前記(1)イの「テロマー含有量が0.01~6重量%であり」について
「テロマー」は、前記アで述べたように、請求項1に記載の「エチルブチルホスフィン酸塩、ブチルブチルホスフィン酸塩、エチルヘキシルホスフィン酸塩、ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩」であり、テロマーは請求項1に記載の「式(I)【化1】(構造式省略)[式中・・(省略)・・である。]で表されるジアルキルホスフィン酸塩に包含されるものである。
そうすると、請求項1の「式(I)【化1】(構造式省略)[式中・・(省略)・・である。]で表されるジアルキルホスフィン酸塩において、テロマー含有量が0.01~6重量%であり」という記載は、テロマーを含む該式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩の全体量に対して、テロマー含有量が0.01~6重量%であることを意味すると理解される。
したがって、請求項1の「テロマー含有量が0.01~6重量%であり」という記載は、明確である。
ウ 前記(1)ウの「テロマー」と「ジアルキルホスフィン酸塩」との関係について
前記イで述べたように、テロマーは請求項1に記載の「式(I)【化1】(構造式省略)[式中・・(省略)・・である。]で表されるジアルキルホスフィン酸塩に包含されるものである。
そして、本件発明1は、該式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩のうち、「テロマー」に該当する化合物の全体に対する割合を特定の範囲内とすることにより、ジアルキルホスフィン酸塩の難燃性を改善することに基づく発明[本件明細書の実施例(【0133】~【0155】)の例1~19]であり、「テロマー」が該ジアルキルホスフィン酸塩に包含されるものであることに、矛盾はない。
したがって、請求項1の「テロマー」と「ジアルキルホスフィン酸塩」との関係については、明確である。
エ 前記(1)エの「難燃剤組成物」が含有する成分について
請求項1に記載の「難燃剤組成物」は、「式(I)【化1】(構造式省略)[式中・・(省略)・・である。]で表されるジアルキルホスフィン酸塩」において、「テロマー」含有量が0.01~6重量%であり、該「テロマー」が「エチルブチルホスフィン酸塩、ブチルブチルホスフィン酸塩、エチルヘキシルホスフィン酸塩、ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩である少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩」を含有することを特定したものである。
請求項1に記載の「難燃剤組成物」は、難燃剤である上記「ジアルキルホスフィン酸塩」に関する特定成分以外の成分について、特に含有する物質を特定していない。
しかしながら、本件発明1は、テロマーとして特定種類のものを特定範囲の含有量で含有するアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物として、当業者にとり明確に理解できるものであり、難燃剤組成物におけるアルキルホスフィン酸塩以外の成分が特定されていないからといって、直ちに特許請求の範囲の記載が不明確になるものではない。さらに、本件明細書には、他に含有する物質として、添加物の実施の態様(【0023】~【0025】)が記載され、また、実施例(【0133】~【0155】)として、【表1】(【0154】)には残留酢酸塩の量についてや、【表2】(【0155】)には具体的な添加剤を添加した例も記載されている。
また、本件出願前に公知であった、以下の3(1)ア及びイに示す甲1及び2は、難燃剤組成物に関する文献で、難燃剤組成物として含まれるものについて記載されており、難燃剤組成物としてどのようなものを含むのか本件出願前、良く知られていたものと理解される。
このように、請求項1の記載、発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時における技術常識を勘案すれば、請求項1に記載の「難燃剤組成物」として、どのようなものを含むかは明らかといえ、請求項1に記載の「難燃剤組成物」は、請求項1の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
したがって、請求項1の「難燃剤組成物」の記載は、明確である。
オ 請求人の主張について
(ア)請求人は、令和1年11月20日付け上申書2頁6行~10頁4行において、甲9~甲11を示し、「テロマー」という用語自体は、化学の分野において、一般的に重合度の低い重合体を示す用語であるが、請求項1で「テロマー」として特定されているものは単量体(モノマー)であるから、請求項1に記載の「テロマー」が何を意味するのか不明確であり、そうであれば、請求項1に記載の、「テロマー含有量が0.01~6重量%であり」、「テロマー」と「ジアルキルホスフィン酸塩」との関係、並びに、「難燃剤組成物」が含有する成分についても、不明確である旨を主張している。
しかしながら、前記エで述べたとおり、請求項1の「難燃剤組成物」の記載は明確である。
したがって、請求人のこの主張は採用することができない。
(イ)請求人は、平成30年12月5日差出の審判請求書14頁8~12行において、請求項1記載の「難燃剤組成物」に、残留酢酸塩が含まれる場合、本件発明1の効果を奏さず矛盾するから、請求項1に記載の「難燃剤組成物」にどのようなものが含まれるのか不明確である旨主張している。
しかしながら、この主張は、サポート要件、実施可能要件あるいは進歩性の判断に関する問題であり、明確性要件とは関係がないものである。
したがって、請求人のこの主張は採用することができない。
カ 以上より、本件発明1の記載は、明確である。
(3)前記(1)オの本件発明2~30について
前記(2)で述べたように、本件発明1の記載は明確であり、本件発明1を直接又は間接的に引用して特定されている本件発明2~30の記載についても、その他に不明確な記載もないことから、同様に明確である。
(4)まとめ
本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものである。
よって、本件発明1~30に係る特許は、同法同条第6項に違反して特許されたものではないから、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由1により無効とすべきものではない。
2 無効理由2(サポート要件違反)について
(1)無効理由2(サポート要件違反)の内容
無効理由2(サポート要件違反)の内容は、以下のア~ウのとおりである。
ア 請求項1に記載の「テロマー含有量」は、重量%で特定されているが、本件特許明細書の実施例及び比較例に記載されている「テロマー含有量」はモル%で示されている。本件特許明細書には、重量%とモル%との関係が記載されていない、あるいは、テロマー含有量の測定方法が記載されていないから、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
イ 請求項1に記載の「式(I)【化1】
[式中、R1およびR2は互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC1~C6-アルキルであり;
MはMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよび/またはプロトン化窒素塩基であり;
mは1~4である。]
で表されるジアルキルホスフィン酸塩」は、「R1およびR2」として数多くのアルキル基、並びに、「M」として数多くの金属元素及びプロトン化窒素塩基を含むものである。
しかし、本件特許明細書の実施例に記載されているのは、「ジアルキルホスフィン酸塩」としてジエチルホスフィン酸のAl塩のみである。
そうすると、請求項1に記載の難燃剤組成物において、具体的に効果の記載されたジアルキルホスフィン酸塩は、ジエチルホスフィン酸のAl塩であり、それ以外のジアルキルホスフィン酸塩を含む請求項1に記載の難燃剤組成物が、本件発明が解決しようとする課題を解決できると当業者が認識できるとは認められない。
ウ 請求項1を直接又は間接に引用して特定されている請求項2~30に係る発明についても、上記ア及びイで指摘したことが該当するため、同様である。
これらア~ウについて、以下検討する。
(2)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、請求項の内容の実質的な繰り返し記載の他、以下の記載がある。
ア 背景技術に関する記載
「【0002】ジアルキルホスフィン酸塩およびその製造方法は公知である。例えば国際特許出願公開第99/28327号明細書にはホスフィン酸のアルカリ金属塩から出発して二段階でホスフィン酸塩をもたらす方法が開示されている。このものは最終生成物中に汚染物質として痕跡量の溶剤(酢酸)を含有しており、このことが合成樹脂に意図的に混入した際に不所望の副作用をもたらす。更に従来技術のホスフィン酸塩は、最初の方法段階において有機溶剤を使用することで生じる不所望のテロマー副生成物を含有している。」
イ 本件発明の課題及びその解決手段に関する記載
「【発明が解決しようとする課題】
【0003】それ故に本発明の課題は、残留溶剤含有量、特に酢酸含有量およびテロマー生成物含有量の特に少ない、ある種の金属のジアルキルホスフィン酸塩を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】驚くべきことに本発明者は、残留溶剤(酢酸)含有量およびテロマー生成物含有量の特に少なジアルキルホスフィン酸塩が合成樹脂に混入される時に周囲の合成樹脂の分解(特にポリマー分解)を特に低い水準にする原因になることを見出した。
【0005】周囲の合成樹脂の分解は、加工前後にポリマー溶液の相対粘度(SV)の変化によって評価することができる。SV-値が高ければ高い程、即ち未処理ポリマーの値に近ければ近い程、難燃剤を混入する間のポリマー分解の水準が低い。
【0006】周囲の合成樹脂の分解は溶融容積指数によって評価することもできる。ここでは、問題の添加物を含有するポリマー溶融物の粘度を未処理の溶融物の粘度と比較する。未処理の溶融物に比較して粘度の低下が少なければ少ない程、ますます良好である。」
ウ ジアルキルホスフィン酸塩(テロマーを含む)に関する記載
「【0010】テロマー含有量は好ましくは0.1~5重量%である。
【0011】テロマー含有量が特に好ましくは0.2~2.5重量%である。
【0012】Mは好ましくはアルミニウム、カルシウム、チタン、亜鉛、錫またはジルコニウムである。
【0013】R1およびR2は互いに同じかまたは異なり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、第三ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシルおよび/またはイソヘキシルである。
【0014】有利なジアルキルホスフィン酸塩はアルミニウム-トリス(ジエチルホスフィナート)、アルミニウム-トリス(メチルエチルホスフィナート)、チタニル-ビス(ジエチルホスフィナート)、チタンテトラキス(ジエチルホスフィナート)、チタニル-ビス(メチルエチルホスフィナート)、チタンテトラキス(メチルエチルホスフィナート)、亜鉛-ビス(ジエチルホスフィナート)、亜鉛-ビス(メチルエチルホスフィナート)およびそれらの混合物である。
【0015】テロマーは以下の群のものである:
C2-アルキル-C4-アルキルホスフィン酸塩、 C4-アルキル-C4-アルキルホスフィン酸塩、C2-アルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩、 C4-アルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩、C6-ルキル-C6-アルキルホスフィン酸塩。
【0016】本発明のジアルキルホスフィン酸塩の残留湿分濃度が好ましくは0.01~10重量%、特に0.1~1重量%である。
【0017】本発明のジアルキルホスフィン酸塩の平均粒度は好ましくは0.1~1000μm、特に好ましくは50~500μm、中でも10~100μmである。
【0018】本発明のジアルキルホスフィン酸塩は80~800g/L、特に200~700g/Lの嵩密度を有しているのが好ましい。
・・・・・
【0045】プロトン化窒素塩基とはアンモニア、メラミンおよびトリエタノールアミンのプロトン化塩基、特に NH4+を意味する。これらにはメラミン、尿素、ビュレット、グアニジン、ドデシルグアニジン、アラントイン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、2-アミノ-4-メチルピリミジン、ベンジル尿素、アセチレン尿素、ヒダントイン、マロン酸アミド、アミジン、ジメチル尿素、ジフェニルグアニジン、5,5-ジフェニルヒダントイン、N,N’-ジフェニル尿素、エチレンビス(5-トリアゾン)、グリシン無水物、テトラメチル尿素、メラミンの縮合体、例えばメレム、メラムまたはメロン、または高縮合度のこれらの種類の化合物が有利である。」
エ 測定・試験方法に関する記載
「【0123】溶融容積指数の測定:
成形材料の流動性は溶融容積指数(MVR)を275℃/2.16kgで測定することにより決めた。MVR-値の顕著な上昇はポリマーが分解していることを示している。
【0124】SV(比粘度)数の測定:
比粘度(SV値)はポリマー配合物中での添加物の相容性を評価することを可能とする単位のない特性値である。これは溶剤にポリマーを溶解した溶液の粘度を測定することで導き出される。ポリマー溶液の粘度と純粋溶剤の粘度とを比で算出する。
【0125】0.5gのポリマー試験体(例えばPBT)を、すり合わせガラス製蓋の付いた250mLのエーレンマイヤーフラスコ中に50mLのジクロロ酢酸(S)と一緒に秤量する。試験体を攪拌下に25℃で16時間にわたって溶解する。この溶液をG1ガラス製濾過器で濾過する。20mLの溶液を毛細管に装填し、(ウベローデ)毛細管粘度計中に吊るしそして25℃に温度制御する。SV値は次の式で算出される:
SV値=100×[流動時間(試験体溶液)/流動時間(S)-1)
ジクロロ酢酸の代わりにフェノールと1,2-ジクロロベンゼンまたはm-クレゾールとの混合物(1:1(重量比))を、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートのために使用してもよい。ポリアミドのためには、硫酸、蟻酸またはm-クレゾールを使用してもよい。
【0126】難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験:
難燃剤成分をポリマーペレットおよび場合によっては添加物と混合し、そして二軸スクリュー式押出機(Leistritz LSM 30/34)で230~260℃(GRPBT)の温度でまたは260~280℃(GRPA 66)で加工する。均一化されたポリマー押出成形物を引出し、水浴中で冷却しそして次にペレット化する。
【0127】溶液の乾燥後に成形材料を射出成形機(Aarburg Allrounder)で240~270℃の溶融温度(GRPBT)でまたは260~290℃の溶融温度(GRPA 66)で加工して、試験体を得る。
【0128】UL94(UnderwritersLaboratories):火炎可塑化を各混合物よりなる試験体について、厚さ1.5mmの試験体を用いて測定する。
【0129】V-0:後燃焼時間が10秒より短く、10回の火炎の適用での後燃焼時間の合計が50秒より多くなく、燃焼滴りがなく、試験体が完全には燃え尽きず、火炎の適用の終了後に30秒より長くなく試験体の後焼けがない。
【0130】V-1:火炎の適用の終了後の後燃焼時間が30秒より長くなく、火炎の適用終了後の後燃焼時間の合計が250秒より多くなく、火炎の適用終了後の試験体の後焼けが60秒より長くなく、その他はV-0と同じ判定基準。
【0131】V-2:燃焼滴りによって綿製インジケータが引火するが、他の判定基準はV-1と同じ。
【0132】分類できず(ncl):燃焼分類V-2を満足しない。」
オ 実施例に関する記載
「【0133】本発明を以下の実施例によって更に詳細に説明する。
【0134】例1(比較例):
アルミニウムジアルキルホスフィン酸塩を最初に製造する。この目的のために2.2kg(20.7モル)のホスフィン酸ナトリウム1水和物を8kg(7.62L)の酢酸に溶解しそしてエナメル塗装された鋼鉄製の16Lのジャケット付き耐圧反応器に充填する。反応混合物を85℃に加熱した後に、エチレンを飽和状態が達成されるまで5barに調整された減圧バルブによってエチレンを導入する。連続的攪拌下に、250mLの水に56g(1モル%)の2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライドを溶解した溶液の計量供給によって反応を開始し、そして約5barの平均圧でエチレンの連続供給下に80℃のジャケット温度のもとで反応器中の反応温度を95℃を超えないをように維持するように遊離基開始剤供給速度によって調整する。配量供給時間は合計で3時間である。この混合物を次いで85℃で更に3時間反応させ続ける。反応器を圧力開放しそして室温に冷却する。生成物の総重量は11.7kgである。これは1.2kgのエチレン消費量に相当する(理論値の100%)。
【0135】主としてジエチルホスフィン酸ナトリウムよりなる800gの得られた混合物を2500mLの酢酸に溶解し、そして38g(0.48モル)の水酸化アルミニウムを次いで添加する。次にこの混合物を約4時間にわたって還流下に加熱し、冷却しそして濾過する。得られる固体を最初に1Lの氷酢酸で、次いで1Lの蒸留水でそして最後に500mLのアセトンで洗浄しそして次に減圧下に130℃で乾燥する。
【0136】生成物の組成は次の通りである:
ジエチルホスフィン酸アルミニウム:87.2モル%
エチルブチルホスフィン酸アルミニウム:11.9モル%
エチルホスホン酸アルミニウム:0.9モル%
残量の酢酸塩:0.88重量%
例2(比較例):
ジアルキルホスフィン酸アルミニウムを最初に製造する。この目的のために、2.64kg(20モル)の50%濃度ホスフィン酸水溶液と7kgの酢酸との混合物を、エナメル塗装された鋼鉄製の16Lのジャケット付き耐圧反応器に充填する。反応混合物を100℃に加熱した後に、飽和状態が反応器中で達成されるまで5barに調整された減圧バルブによってエチレンを導入する。500mLの酢酸に56gの2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクロライドを溶解した溶液を、約5barのエチレン圧で100~105℃でこの混合物中に連続的攪拌下に6時間にわたって一様に計量供給する。1時間の後反応時間、反応器の圧力開放および室温への冷却の後に得られる溶液から酢酸溶剤を回転式蒸発器で実質的に十分に除き、次いで10Lの水で処理する。1時間の間に4500g(3.5モル)の46%濃度 Al2(SO4)3・14H2O水溶液を添加する。得られる固体を次に濾過し、各2Lの水で2度洗浄し、130℃で減圧下に乾燥する。
【0137】生成物の組成は次の通りである:
ジエチルホスフィン酸アルミニウム:90.8モル%
エチルブチルホスフィン酸アルミニウム:8.4モル%
エチルホスホン酸アルミニウム:0.8モル%
残量の酢酸塩:0.45重量%
例3(実施例):
最初にジアルキルホスフィン酸アルミニウムを製造する。この目的のために、1500g(14モル)のホスフィン酸ナトリウム1水和物を7.5kgの水に溶解しそしてエナメル塗装された鋼鉄製の16Lのジャケット付き耐圧反応器に充填する。反応混合物を100℃に加熱した後に、エチレンを、反応器中で飽和状態が達成されるまで6barに調整した減圧弁によって導入する。300gの水に17g(0.5モル%)のペルオキシ二硫酸ナトリウムを溶解した溶液を6barのエチレン圧および100~110℃の温度を用いて連続的攪拌下に6時間にわたってこの混合物に一様に供給する。1時間の更なる反応時間、反応器の圧力開放および約90℃への冷却の後に3000g(4.67モルのアルミニウム)のAl2(SO4)3・14H2Oの46%濃度水溶液を60分にわたって添加する。次いで得られる固体を濾去し、2Lの熱水で洗浄しそして130℃で減圧下に乾燥する。
【0138】生成物の組成は次の通りである:
ジエチルホスフィン酸アルミニウム:98.6モル%
エチルブチルホスフィン酸アルミニウム:0.9モル%
エチルホスホン酸アルミニウム:0.5モル%
残量の酢酸塩:0重量%
例4(実施例):
実施例3におけるのと同様にジアルキルホスフィン酸アルミニウムを最初に製造する。生成物の組成は次の通りである:
ジエチルホスフィン酸アルミニウム:96.5モル%
エチルブチルホスフィン酸アルミニウム:2.7モル%
エチルホスホン酸アルミニウム:0.8モル%
残量の酢酸塩:0重量%
例5(実施例):
最初にジアルキルホスフィン酸アルミニウムを製造する。この目的のために、1500g(14モル)のホスフィン酸ナトリウム1水和物を7.5kgの水に溶解しそしてエナメル塗装された鋼鉄製の16Lのジャケット付き耐圧反応器に充填する。反応混合物を100℃に加熱した後に、エチレンを、反応器中で飽和状態が達成されるまで20barに調整した減圧弁によって導入する。300gの水に32g(1モル%)のペルオキシ二硫酸アンモニウムを溶解した溶液を20barのエチレン圧および100~110℃の温度を用いて連続的攪拌下に6時間にわたってこの混合物に一様に供給する。1時間の更なる反応時間、反応器の圧力開放および約90℃への冷却の後に3000g(4.67モルのアルミニウム)のAl2(SO4)3・14H2Oの46%濃度水溶液を60分にわたって添加する。次いで得られる固体を濾去し、2Lの熱水で洗浄しそして130℃で減圧下に乾燥する。
【0139】生成物の組成は次の通りである:
ジエチルホスフィン酸アルミニウム:93.9モル%
エチルブチルホスフィン酸アルミニウム:5.5モル%
エチルホスホン酸アルミニウム:0.6モル%
残量の酢酸塩:0重量%
例6:
100重量%のポリブチレンテレフタレート1よりなる混合物を二軸スクリュー式押出機中で230~260℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、ポリマー成形材料を得る。乾燥後に成形材料を射出成形機で240~270℃の溶融温度で加工して、ポリマー成形体を得る。測定された粘度数は1072である。試験体はUL 94で分類不能である。
【0140】例7:
25重量%の例1の生成物と75重量%のポリブチレンテレフタレート1との混合物を二軸スクリュー式押出機で230~260℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、難燃性ポリマー成形材料を得る。乾燥後に成形材料を射出成形機で240~270℃の溶融温度で加工して、ポリマー成形体を得る。測定された粘度数は719である。試験体のUL94分類はV-2である。
【0141】例8:
25重量%の例2の生成物と75重量%のポリブチレンテレフタレート1との混合物を二軸スクリュー式押出機で230~260℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、難燃性ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で240~270℃の溶融温度で加工して、難燃性ポリマー成形体を得る。測定された粘度数は758である。試験体のUL94分類はV-2である。
【0142】例9(実施例):
25重量%の例3の生成物と75重量%のポリブチレンテレフタレート1との混合物を二軸スクリュー式押出機で230~260℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、難燃性ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で240~270℃の溶融温度で加工して、難燃性ポリマー成形体を得る。測定された粘度数は1023である。試験体のUL94分類はV-0である。
【0143】例10(実施例):
25重量%の例4の生成物と75重量%のポリブチレンテレフタレート1との混合物を二軸スクリュー式押出機で230~260℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、難燃性ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で240~270℃の溶融温度で加工して、難燃性ポリマー成形体を得る。測定された粘度数は1034である。試験体のUL94分類はV-0である。
【0144】例11(実施例):
25重量%の例5の生成物と75重量%のポリブチレンテレフタレート1との混合物を二軸スクリュー式押出機で230~260℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、難燃性ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で240~270℃の溶融温度で加工して、難燃性ポリマー成形体を得る。測定された粘度数は995である。試験体のUL94分類はV-0である。
【0145】例12:
12重量%の例1の生成物、6重量%のメラミンシアヌレート、52重量%のポリブチレンテレフタレート2および30重量%のガラス繊維1の混合物を二軸スクリュー式押出機で230~260℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、難燃性ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で240~270℃の溶融温度で加工して、難燃性ポリマー成形体を得る。測定された粘度数は716である。試験体のUL94分類はV-1である。
【0146】例13:
12重量%の例3の生成物、6重量%のメラミンシアヌレート、52重量%のポリブチレンテレフタレート2および30重量%のガラス繊維1の混合物を二軸スクリュー式押出機で230~260℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、難燃性ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で240~270℃の溶融温度で加工して、難燃性ポリマー成形体を得る。測定された粘度数は1005である。試験体のUL94分類はV-0である。
【0147】例14:
70重量%のナイロン-6.6および30重量%のガラス繊維1の混合物を二軸スクリュー式押出機で260~280℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、難燃性ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で260~290℃の溶融温度で加工して、ポリマー成形体を得る。測定された溶融容積指数は5.8cm3/分である。
【0148】例15(比較例):
11.4重量%の例1の生成物、5.7重量%のメラミンポリホスファート、0.9重量%の硼酸亜鉛、52重量%のナイロン6.6および30重量%のガラス繊維1よりなる混合物を二軸スクリュー式押出機で260~280℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、難燃性ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で260~290℃の溶融温度で加工して、ポリマー成形体を得る。測定された溶融容積指数は16.7cm3/分である。試験体のUL94分類はV-2である。
【0149】例16:
11.4重量%の例3の生成物、5.7重量%のメラミンポリホスファート、0.9重量%の硼酸亜鉛、52重量%のナイロン-6.6および30重量%のガラス繊維1よりなる混合物を二軸スクリュー式押出機で260~280℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で260~290℃の溶融温度で加工して、ポリマー成形体を得る。測定された溶融容積指数は4.1cm3/分である。試験体のUL94分類はV-0である。
【0150】例17:
11.4重量%の例4の生成物、5.7重量%のメラミンポリホスファート、0.9重量%の硼酸亜鉛、52重量%のナイロン-6.6および30重量%のガラス繊維1よりなる混合物を二軸スクリュー式押出機で260~280℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で260~290℃の溶融温度で加工して、ポリマー成形体を得る。測定された溶融容積指数は5.6cm3/分である。試験体のUL94分類はV-0である。
【0151】例18:
12重量%の例4の生成物、6重量%のメラミンポリホスファート、52重量%のナイロン-6および30重量%のガラス繊維2よりなる混合物を二軸スクリュー式押出機で260~280℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で260~290℃の溶融温度で加工して、ポリマー成形体を得る。測定された溶融容積指数は4.9cm3/分である。試験体のUL94分類はV-0である。
【0152】例19:
30重量%の例4の生成物および70重量%のポリスチレンよりなる混合物を二軸スクリュー式押出機で170℃で、“難燃性合成樹脂成形材料および合成樹脂成形体の製造、加工および試験”の一般的説明の通りに配合し、ポリマー成形材料を得る。乾燥後に該成形材料を射出成形機で200~250℃の溶融温度で加工して、ポリマー成形体を得る。試験体のUL94分類はV-0である。
【0153】 使用した薬品:
メラミンポリホスファート Melapur 200/70、製造元:Ciba-SC
メラミンシアヌレート Melapur MC、製造元:Ciba SC
硼酸亜鉛 Firebrake ZB、製造元:Borax
酸化亜鉛 製造元:Rheinchemie
ポリブチレンテレフタレート1 Celanex2300 GV1/30、製造元:Celanese, USA
ポリブチレンテレフタレート2 Celanex2500、製造元:Celanese,USA
ナイロン-6,6 UltramidA3、製造元:BASF
ナイロン-6 Zytel7301、製造元:DuPont
ポリスチレン ポリスチレン143E、製造元:BASF
ガラス繊維1 VetrotexEC10 983、4.5mm、製造元:Saint Gobain
ガラス繊維2 Chop Vantage 3540、製造元:PPG
【0154】【表1】
【0155】【表2】
」
(3)本件発明1~30の解決しようとする課題について
発明の詳細な説明の、特に、背景技術の記載(【0002】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0003】)及び実施例の記載(【0133】~【0155】)等からみて、本件発明1~15の解決しようとする課題は、高い難燃性の、テロマー生成物含有量の特に少ない、ある種の金属のジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物を提供すること、本件発明16~21の解決しようとする課題は、高い難燃性の、テロマー生成物含有量の特に少ない、ある種の金属のジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物を含有する難燃性ポリマー成形材料を提供すること、本件発明22~25の解決しようとする課題は、高い難燃性の、テロマー生成物含有量の特に少ない、ある種の金属のジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物を含有する難燃性ポリマー成形材料の製造方法を提供すること、本件発明26の解決しようとする課題は、高い難燃性の、テロマー生成物含有量の特に少ない、ある種の金属のジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物の、難燃性ポリマー成形体での用途を提供すること、本件発明27~28の解決しようとする課題は、高い難燃性の、テロマー生成物含有量の特に少ない、ある種の金属のジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物を含有する、難燃性ポリマー成形体、難燃性ポリマーフィルム、難燃性ポリマーフィラメントまたは難燃性ポリマー繊維を提供すること、及び、本件発明29~30の解決しようとする課題は、高い難燃性の、テロマー生成物含有量の特に少ない、ある種の金属のジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物を含有する難燃性ポリマー成形体の製造方法を提供することであると認める。
(4)判断
ア 本件発明1について
(ア)前記(1)アの「テロマー含有量」について
a 「テロマー含有量」が「重量%」で特定されていることについて
本件発明1には、「テロマー含有量が0.01~6重量%」(審決注:下線は当審が付与。以下同様。)と特定されているが、発明の詳細な説明の実施例(【0133】~【0155】)には、本件発明1の「テロマー」に該当するエチルブチルホスフィン酸のAl塩の含有量が「モル%」で示されている。
一般に、モル%から重量%への変換方法は、以下に示すように、本件出願当時、当業者における技術常識である。
ジエチルホスフィン酸Al塩の分子量約390及びエチルブチルホスフィン酸Al塩の分子量約474であり、請求項1には、「式(I)【化1】(構造式省略)[式中・・(省略)・・である。]で表されるジアルキルホスフィン酸塩において、テロマー含有量が0.01~6重量%」と特定されていることから、本件発明1の実施例である、例3及び4のテロマーであるエチルブチルホスフィン酸Al塩の重量%は、それぞれ以下のように変換できる。
例3 : 1.10重量%[=100×(0.009×474)g/(0.986×390+0.009×474)g]
例4 : 3.29重量%[=100×(0.027×474)g/(0.965×390+0.027×474)g]
そして、当該例3及び4の難燃剤組成物は、テロマー含有量が0.01~6重量%の範囲内であり、当該例3及び4の難燃剤組成物を含有するポリマー成形体において、客観的な実験結果として高い難燃性(V-0)であることが裏付けられている[【表2】の例9、10、13及び16~19(【0155】)]。
b テロマー含有量の測定方法について
本件明細書には、テロマー含有量の測定方法についての具体的な記載はない。
しかしながら、本件出願当時、ジアルキルホスフィン酸塩のような有機リン化合物の測定方法は、以下に示すように、当業者における周知技術であったと認められる。
以下の3(1)アに示すように、甲1の実施例(甲1d 【0051】、【0053】、【0056】、【0059】、【0062】)には、31P-NMRにより、ジアルキルホスフィン酸塩の含有量を成分毎に測定したことが記載されている。
乙13には、「【0015】・・反応液のNMR測定によりジフェニルホスフィン酸1―オクテン―2―イルが74%の収率で生成していることが判明した」と、NMR測定により、ホスフィン酸アルケニル誘導体の生成量を測定し収率を明らかにしたことが記載されている。
乙15には、「【0039】粗製の材料の生成物含有率を、各々31P-NMRスペクトルにより測定し、そして一般には70ないし95%であった(全Pの)。・・・1. 2,4,6-トリメチルフェニル-フェニル亜ホスフィン酸2,4-ジ-tert-ブチルフェニルエステル(変法a):・・・95%の上記化合物の含有率〔31P―NMR:δ(CDCL3 )=111.1ppm〕を有する64gの無色結晶が得られた。・・・・」と、各種ジアリール亜ホスフィン酸アリールエステルの含有量を、各々31P-NMRスペクトルにより測定したことが記載されている。
そうすると、当業者は、本件明細書に直接の記載がなくとも、本件出願当時の周知技術であった31P-NMRによる測定方法により、請求項1に記載の「式(I)【化1】(構造式省略)[式中・・(省略)・・である。]で表されるジアルキルホスフィン酸塩」中の「テロマー」の含有量を測定することができるといえる。
(イ)前記(1)イの「式(I)【化1】(構造式省略)[式中・・(省略)・・である。]で表されるジアルキルホスフィン酸塩」について
a 発明の詳細な説明には、実施例の【表1】(【0154】)に、本件発明1の実施例として、例3及び4に、ジアルキルホスフィン酸塩としてジエチルホスフィン酸のAl塩、及び、テロマーとしてエチルブチルホスフィン酸のAl塩[前記(ア)aで示したように、例3:1.10重量%、例4:3.29重量%]を含有する難燃剤組成物が記載され、さらに【表2】(【0155】)の例9、10、13及び16~19には、当該例3及び4の難燃剤組成物をそれぞれ含有するポリマー成形体を得、それらの難燃性をUL94規格の測定し、その測定結果は全てUL94分類「V-0」すなわち高い難燃性であることが示されている。
b 発明の詳細な説明には、一般的な実施の態様の記載として、請求項1に記載の「式(I)【化1】(構造式省略)[式中・・(省略)・・である。]で表されるジアルキルホスフィン酸塩」の、「ジアルキル」に相当する「R1およびR2」、並びに、「塩」に相当する「M」について、「【0013】R1およびR2は互いに同じかまたは異なり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、第三ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、n-ヘキシルおよび/またはイソヘキシルである。【0014】有利なジアルキルホスフィン酸塩はアルミニウム-トリス(ジエチルホスフィナート)、アルミニウム-トリス(メチルエチルホスフィナート)、チタニル-ビス(ジエチルホスフィナート)、チタンテトラキス(ジエチルホスフィナート)、チタニル-ビス(メチルエチルホスフィナート)、チタンテトラキス(メチルエチルホスフィナート)、亜鉛-ビス(ジエチルホスフィナート)、亜鉛-ビス(メチルエチルホスフィナート)およびそれらの混合物である」、「【0012】Mは好ましくはアルミニウム、カルシウム、チタン、亜鉛、錫またはジルコニウムである」及び「【0045】プロトン化窒素塩基とはアンモニア、メラミンおよびトリエタノールアミンのプロトン化塩基、特に NH4+を意味する。これらにはメラミン、尿素、ビュレット、グアニジン、ドデシルグアニジン、アラントイン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、2-アミノ-4-メチルピリミジン、ベンジル尿素、アセチレン尿素、ヒダントイン、マロン酸アミド、アミジン、ジメチル尿素、ジフェニルグアニジン、5,5-ジフェニルヒダントイン、N,N’-ジフェニル尿素、エチレンビス(5-トリアゾン)、グリシン無水物、テトラメチル尿素、メラミンの縮合体、例えばメレム、メラムまたはメロン、または高縮合度のこれらの種類の化合物が有利である」と記載されている。
当該記載を裏付けるように、実施例には、前記aで述べたように、例3及び4に、ジアルキルホスフィン酸塩としてジエチルホスフィン酸のAl塩、及び、テロマーとしてエチルブチルホスフィン酸のAl塩(例3:1.10重量%、例4:3.29重量%)を含有する難燃剤組成物、さらに、例9、10、13及び16~19には、当該例3及び4の難燃剤組成物をそれぞれ含有するポリマー成形体を得、それらが高い難燃性であることが示されている。
c さらに、以下の3(1)アに示すように、本件出願前公知文献である甲1には、「【0002】【従来の技術】有機リン含有酸のアルミニウム塩は難燃剤として公知である」と記載され、有機リン含有酸塩である、甲1に記載の「ジアルキルホスフィン酸塩」(甲1a請求項1)の、「アルキル」として、直鎖状又は分枝状のC1~C6のアルキルのみならずさらに広範囲の「アルキル」を包含する上位概念のアルキルを意味するものが示され、また、「塩」としても、Alのみならず、Mg、Ca、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na及びKを適用可能であることが示され(甲1a請求項1)、そのようなジアルキルホスフィン酸塩が難燃剤として有効であることが示されているといえる。
さらに、本件出願前公知文献である甲2にも、以下の3(1)イに示すように、従来技術として「【0002】【従来の技術】ホスフィン酸の塩(ホスフィネート)は、熱可塑性ポリマーの有効な難燃剤であることがわかっている。このことは、アルカリ金属塩・・及び他の金属の塩・・の両方に当てはまる」(甲2b)と記載され、「ホスフィン酸の塩」として、「
[式中、R1及びR2は、同一かまたは異なり、線状または分枝状のC1-C6-アルキル、及び/またはアリールであり・・Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン及び/または亜鉛イオンであり・・」(甲2a)と記載され、「R1及びR2」として、直鎖状又は分枝状のC1-C6-のアルキルのみならずさらに広範囲の「アルキル」を包含する上位概念のアルキル、及び、「塩」として、アルミニウムイオンのみならず、カルシウムイオン及び亜鉛イオンが適用されることが記載されている(甲2a請求項1)。
また、以下の3(2)に示すように、本件出願前公知文献である乙16(乙16a)にも示されているように、リン系難燃剤の作用機構として、リン化合物の熱分解により生成したリン酸層の被膜が酸素遮断層を形成すると同時に脱水作用により樹脂表面に炭素被膜を形成し酸素や熱を遮断し難燃効果を発揮することは、本件出願時良く知られた技術的事項であったと認められ、この技術的事項より、ジアルキルホスフィン酸塩において難燃性を発揮するために重要なのはジアルキルホスフィン酸であって、「塩」はジアルキルホスフィン酸と塩を形成できるものであれば、難燃性を有し得ることは、当業者が理解していたものといえる。
d そうすると、本件発明1は、アルキルホスフィン酸塩において、テロマーとして特定種類のものを特定範囲の含有量とすることにより高い難燃性を有することを見出した点に技術的特徴がある発明であって、周知技術として、ホスフィン酸塩は有効な難燃剤であることが分かっており、アルキルホスフィン酸塩については、周知のものが使用できること、そして、該リン系難燃剤の作用機構より、塩はホスフィン酸と塩を形成できるものであれば難燃性を有し得ることは、当業者が理解していたことである。
したがって、当業者は、本件明細書に、本件発明1の実施例である例3及び4の記載があれば、本件明細書の実施の態様の記載及び周知技術を参酌し、本件発明1の「ジアルキルホスフィン酸塩」の、「ジアルキル」として、互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC1~C6-アルキル全体、及び、「塩」として、Alのみならず、Mg、Ca、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよび/またはプロトン化窒素塩基の全体にわたり、同様の高い難燃性を有するものを提供し得ると理解でき、本件発明1の前記課題を解決できることを認識するといえる。
(ウ)請求人の主張について
請求人は、令和1年11月20日付け上申書10頁5~下から3行において、「テロマー」が重合度の低い重合体と解するべきであることを前提とし、多数の異なる分子量を有する重合体のモル%から重量%への変換は技術常識ではなく、その変換方法について本件明細書に記載されていないから、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない旨を主張している。
しかしながら、前記1(2)オで述べたように、本件発明1の「テロマー」は特定の化合物で明確に特定されたものである以上、前記(ア)で述べたとおりであるから、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
したがって、請求人のこの主張は採用することができない。
(エ)以上より、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
イ 前記(1)ウの本件発明2~30について
本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる以上、さらに特定事項を含んだ本件発明2~15、本件発明1を発明特定事項として含んだ本件発明16~30についても、前記アで述べたことが該当するため、同様に発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
(5)まとめ
本件発明1~30は発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。
よって、本件発明1~30に係る特許は、同法同条第6項に違反して特許されたものではないから、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由2により無効とすべきものではない。
3 無効理由3(新規性又は進歩性欠如)について
(1)請求人提出の各証拠の内容
ア 甲1の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲1には、以下の事項が記載されている。
甲1a「【特許請求の範囲】
【請求項1】ジアルキルホスフィン酸塩を製造する方法において、
a)アルキル亜ホスホン酸および/またはホスフィン酸および/またはそれらのアルカリ金属塩を遊離基開始剤の存在下にオレフィンと反応させてジアルキルホスフィン酸および/またはそれのアルカリ金属塩を得、
b)a)に従って得られたジアルキルホスフィン酸および/またはそれのアルカリ金属塩をMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Naおよび/またはKの金属化合物と反応させて、これら金属のジアルキルホスフィン酸塩を得ることを特徴とする、上記方法。
・・・・・
【請求項16】オレフィンとしてエチレン、n-、i-プロピレン、n-、i-ブテン、n-、i-ペンテン、n-、i-ヘキセン、n-、i-オクテン、1-デセン、1,3-シクロオクタジエン、1,3-シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンおよび/または2,4,4-トリメチルペンテン異性体混合物を使用する請求項1~14のいずれか一つに記載の方法。
・・・・・
【請求項24】請求項1~23のいずれか一つに記載の方法で製造されたジアルキルホスフィン酸金属塩を難燃剤の製造に用いる方法。」
甲1b「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ジアルキルホスフィン酸塩を製造する方法およびその方法で製造されたジアルキルホスフィン酸塩の用途に関する。
【0002】
【従来の技術】
有機燐含有酸のアルミニウム塩は難燃剤として公知である。これらは色々な方法で製造できる。
・・・・・
【0005】
ヨーロッパ特許出願公開(A)第0,327,496号明細書によれば、水酸化アルミニウムとアルキルホスホン酸ジエステルとを水の不存在下に約180℃で反応させて同様にホスホン酸半エステルのアルミニウム塩が得られる。
・・・・・
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
それ故に本発明の課題は、特に簡単で経済的な方法でジアルキルホスフィン酸あるいはそれのアルカリ塩だけでなく、所望の目的生成物、即ち特定の金属のジアルキルホスフィン酸塩を製造できる、ジアルキルホスフィン酸塩を製造する方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この課題は、
a)アルキル亜ホスホン酸および/またはホスフィン酸および/またはそれらのアルカリ金属塩を遊離基開始剤の存在下にオレフィンと反応させてジアルキルホスフィン酸および/またはそれのアルカリ金属塩を得、
b)a)に従って得られたジアルキルホスフィン酸および/またはそれのアルカリ金属塩をMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Naおよび/またはKの金属化合物と反応させて、これら金属のジアルキルホスフィン酸塩を得る
ことを特徴とする、冒頭に記載の方法によって解決される。」
甲1c「【0029】
オレフィンとしてはエチレン、n-、i-プロピレン、n-、i-ブテン、n-、i-ペンテン、n-、i-ヘキセン、n-、i-オクテン、1-デセン、1,3-シクロオクタジエン、1,3-シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンおよび/または2,4,4-トリメチルペンテン異性体混合物を使用するのが好ましい。
【0030】
オレフィンは官能性基を有していてもよい。
【0031】
オレフィンとしては一般式
【0032】【化1】
[式中、R1 ~R4は互いに同一であるか異なり、水素原子、炭素原子数1~18のアルキル基、フェニル、ベンジルまたはアルキル置換された芳香族基である。」
で表される化合物が適している。
【0033】
同様に式
【0034】【化2】
で表される環状オレフィン、特にシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテンおよびシクロデセンが適している。
【0035】式
【0036】【化3】
[式中、R5~R10は互いに同一であるか異なり、水素原子または炭素原子数1~6のアルキル基でありそしてR11は(CH2)nであり、ただしnは0~6である。]
で表される開鎖ジエンでもよい。この場合、ブタジエン、イソプレンおよび1,5-ヘキサジエンであるのが有利である。
【0037】
シクロジエンとしては1,3-シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンおよび1,5-シクロオクタジエン並びにノルボルナジエンが有利である。
・・・・・
【0048】
本発明は更に本発明の方法で製造されたジアルキルホスフィン酸金属塩を難燃剤の製造に用いることにも関する。」
甲1d「【0051】
【実施例】
本発明を以下の実施例によって説明する:
実施例1:
a)メチルエチルホスフィン酸の製造:
1000g(12.5モル)のメチル亜ホスホン酸を50g(0.18モル、1.5モル%)の2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライドと一緒にオートクレーブ中に最初に導入しそしてこの混合物を攪拌下に最初に60℃に加熱する。その後にエチレンを反応器中に20barの圧力で飽和状態まで導入する。最高81℃で17時間の反応時間の後に反応器を圧力開放しそして冷却する。収量は1.35kgである。
31P-NMR メチルエチルホスフィン酸:92.4モル%
メチルブチルホスフィン酸: 6.2モル%
メチル亜ホスホン酸: 0.9モル%
未知の成分: 0.5モル%。
【0052】
b)アルミニウム塩の製造:
メチルエチルホスフィン酸およびメチルブチルホスフィン酸を主成分とするa)に従って得られた1100gの混合物を2800mLの酢酸に溶解し、270g(3.4モル)の水酸化アルミニウムを添加する。この混合物還流下に5時間加熱し、次いで冷却し、吸引濾過しそして真空乾燥室で135℃で乾燥する。全部で1172gの生成物が得られる。これは97%の収率に相当する。メチルエチルホスフィン酸のアルミニウム塩の含有量は93.2モル%であり、メチルブチルホスフィン酸のアルミニウム塩は6.1モル%である。
【0053】
実施例2:
a)ジエチルホスフィン酸(Na-塩として)の製造:
2.2kg(20.7モル)のホスフィン酸ナトリウム1水和物を8kg(7.62モル)の酢酸に溶解しそして16Lのエナメル加工したスチール製のジャケット付耐圧反応器に最初に導入する。反応混合物を85℃まで加熱した後に、5barに調整した減圧弁を通して反応器中にエチレンを飽和状態まで導入する。反応を定常的攪拌下に、250mLの水に56g(1モル%)の2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライドを溶解した溶液の計量供給によって開始し、この遊離器開始剤の計量供給速度によって、反応器内の反応温度が約5barの平均圧でのエチレンの定常的供給下に80℃のジャケット温度にて95℃以上に上昇しない様に制御する。計量供給時間は全部で3時間である。この混合物をその後に85℃で更に3時間反応させる。反応器を圧力開放し、室温に冷却しそして内容物を分析する。
31P-NMR ジエチルホスフィン酸ナトリウム塩: 87.0モル%
エチルブチルホスフィン酸ナトリウム塩:11.9モル%
モノエチルホスフィン酸ナトリウム塩: 0.9モル%
ホスフィン酸ナトリウム塩: 0.1モル%
未知の成分: 0.1モル%。
【0054】
全重量は11.7kgである。これは1.2kgのエチレン吸収量に相当する(理論値の100%)。
【0055】
b)ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩の製造:
ジエチルホスフィン酸ナトリウム塩を主成分とするa)に従って得られた800gの混合物を2500mLの酢酸に溶解し、次に38g(0.48モル)の水酸化アルミニウムを添加する。次いで還流下に約4時間加熱し、冷却しそして濾別する。得られる固体を最初に1Lの氷酢酸で洗浄し、次いで1Lの蒸留水でそして最後に500mLのアセトンで洗浄し、次に130℃で減圧下に乾燥する。収量:183g(理論値の92%)。
【0056】
実施例3:
a)ジエチルホスフィン酸(Na-塩として)の製造:
2.12kg(20モル)のホスフィン酸ナトリウム1水和物を7kgの酢酸に溶解しそして16Lのエナメル加工されたスチールより成るジャケット付耐圧反応器に最初に導入する。反応混合物を100℃に加熱した後に、5barに調整した減圧弁を通して反応器中にエチレンを飽和状態まで導入する。500mLの酢酸に32.8g(1モル%)のアゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)を溶解した溶液を、5barのエチレン圧および100~105℃の温度で定常的攪拌下に6時間にわたって一様に計量供給する。1時間の後反応時間の後に反応器を放圧し、室温に冷却しそして内容物を分析する。
31P-NMR ジエチルホスフィン酸ナトリウム塩: 91.3モル%
ブチルエチルホスフィン酸ナトリウム塩: 7.7モル%
エチルホスホン酸ナトリウム塩: 0.7モル%
未知の成分: 0.3モル%。
【0057】
エチレン吸収量は1160gである(理論値の100%)。
【0058】
b)ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩の製造:
a)に従って得られた溶液に520g(6.67モル)の水酸化アルミニウムを添加し、4時間80℃に加熱しそして更に4時間還流下に加熱する。次いで得られる固体を濾別し、相前後して各2Lの酢酸および2Lの水でそれぞれ2度洗浄しそして130℃で減圧下に乾燥する。収量:2210g(理論値の85%)。
【0059】
実施例4:
a)ジエチルホスフィン酸の製造:
2.64kg(20モル)の50%濃度ホスフィン酸水溶液と7kgの酢酸との混合物をエナメル加工されたスチールより成る16Lのジャケット付耐圧反応器に最初に導入する。反応混合物を100℃に加熱した後に、5barに調整した減圧弁を通してエチレンを反応器中に飽和状態まで導入する。5barのエチレン圧および100~105℃の温度で定常的攪拌下に6時間にわたって、500mLの酢酸に56g(1モル%)の4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)を溶解した溶液を一様に計量供給する。1時間の後反応時間の後に反応器を放圧し、室温に冷却しそして内容物を分析する。
31P-NMR ジエチルホスフィン酸: 90.6モル%
ブチルホスフィン酸: 8.4モル%
エチル亜ホスフィン酸: 0.8モル%
未知の成分: 0.2モル%。
【0060】
エチレン吸収量は1160gである(理論値の100%)。
【0061】
b)ジエチルホスフィン酸のアルミニウム塩の製造:
a)に従って得られた溶液を回転式蒸発器で主として溶剤の酢酸を除き、次いで10Lの水と混合する。1時間の間にAl2(SO4)3・14H2Oの4500g(3.5モル)の46%濃度水溶液を添加する。次いで得られる固体を濾別し、相前後して各2Lの酢酸および2Lの水でそれぞれ2度洗浄しそして130℃で減圧下に乾燥する。収量:2520g(理論値の82%)。
【0062】
実施例5:
a)ジオクチルホスフィン酸(Na-塩)の製造:
攪拌機、還流冷却器および計量供給器を備えた2Lの三首フラスコに42.4g(0.4モル)のホスフィン酸ナトリウム1水和物、134.4g(1.2モル)の1-オクテンおよび1kgの酢酸より成る混合物に激しい定常的攪拌下に95℃で16時間にわたって、50gの酢酸に1.5g(2モル%)の2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)を溶解した溶液を一様に計量供給する。1時間の後反応および室温への冷却の後に内容物を分析する:
31P-NMR ジオクチルホスフィン酸: 94.1モル%
ヘキサデシルオクチルホスフィン酸:4.2モル%
オクチル亜ホスフィン酸: 1.1モル%
未知の成分: 0.6モル%。
【0063】
b)ジオクチルホスフィン酸のアルミニウム塩の製造:
a)に従って得られた溶液に10.4g(0.13モル)の水酸化アルミニウムを添加し、80℃で4時間加温し、更に還流下に16時間加熱する。次いで得られる固体を濾別し、相前後して各200mLの酢酸および200mLの水でそれぞれ2度洗浄しそして130℃で減圧下に乾燥する。収量:90g(理論値の75%)。」
イ 甲2の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲2には、以下の事項が記載されている。
甲2a「【請求項1】成分Aとして、以下の式(1) で表されるホスフィン酸塩及び/または以下の式(II)で表されるジホスフィン酸塩及び/またはこれらのポリマー;
【化1】
[式中、R1及びR2は、同一かまたは異なり、線状または分枝状のC1-C6-アルキル、及び/またはアリールであり、R3は、線状または分枝状のC1-C10-アルキレン、C6-C10- アリーレン、-アルキルアリーレンまたは-アリールアルキレンであり、Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン及び/または亜鉛イオンであり、mは、2または3であり、nは、1または3であり、xは、1または2である]及び、成分Bとして、合成無機化合物及び/または鉱物性物質、を含む、熱可塑性ポリマー用の難燃剤コンビネーション。
・・・・・
【請求項8】成分Bが、ケイ素の酸素化合物、マグネシウム化合物、周期律表第2主族の金属の金属炭酸塩、赤リン、亜鉛化合物またはアルミニウム化合物である、請求項1~7のいずれか一つの難燃剤コンビネーション。
【請求項9】ケイ素の酸素化合物が、オルトケイ酸のまたはこれの縮合物の塩またはエステル、シリケート、ゼオライト、シリカ、ガラス粉末、ガラス-セラミック粉末またはセラミック粉末である、請求項8の難燃剤コンビネーション。
【請求項10】マグネシウム化合物が、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、炭酸マグネシウムまたは炭酸カルシウムマグネシウムである、請求項8の難燃剤コンビネーション。
【請求項11】亜鉛化合物が、酸化亜鉛、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、リン酸亜鉛、ホウ酸亜鉛または硫化亜鉛である、請求項8の難燃剤コンビネーション。
【請求項12】アルミニウム化合物が、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムである、請求項1~11のいずれか一つの難燃剤コンビネーション。
【請求項13】更に別の成分Cとして窒素化合物を含む、請求項1~12のいずれか一つの難燃剤コンビネーション。
・・・・・
【請求項15】成分Cが、ベンゾグアナミン、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、アラントイン、グリコウリル、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート及び/またはメラミンピロホスフェートである、請求項13または14の難燃剤コンビネーション。
【請求項16】熱可塑性ポリマーを難燃性にするために、請求項1~15のいずれか一つの難燃剤コンビネーションを使用する方法。」
甲2b「【0002】
【従来の技術】ホスフィン酸の塩(ホスフィネート)は、熱可塑性ポリマーの有効な難燃剤であることがわかっている。このことは、アルカリ金属塩(ドイツ特許出願公開第2 252 258 号)及び他の金属の塩(ドイツ特許出願公開第2 447 727 号)の両方に当てはまる。
【0003】ホスフィン酸カルシウム及びホスフィン酸アルミニウムは、ポリエステル中で特に有効なものとして開示されており、これらを使用した方が、アルカリ金属塩を使用するよりもポリマー性成形材料の材料特性の劣化は少なくて済む(ヨーロッパ特許出願公開第0 699 708 号)。
【0004】上記のホスフィン酸塩とある種の窒素含有化合物との相乗性コンビネーションも見出されており、これらは、数多くのポリマーに対して、ホスフィン酸塩を単独で使用する場合よりもより効果的な難燃剤である(PCT/EP97/01664並びにドイツ特許出願公開第197 34 437号及びドイツ特許出願公開第197 37 727号)。
【0005】
【本発明の説明】驚くべきことに、窒素を含まない無機及び/または鉱物性化合物を少量加えることによっても、熱可塑性ポリマーに対する様々なホスフィン酸塩の難燃剤としての効果を顕著に向上できることがここに見出された。
【0006】更にまた、上記添加剤が、窒素含有相乗剤と組み合わせたホスフィン酸塩の難燃剤としての効果も高め得るということも見出された。
・・・・・
【0015】成分Bは、好ましくは、ケイ素の酸素化合物、マグネシウム化合物、周期律表の第2主族の金属の金属炭酸塩、赤リン、亜鉛化合物またはアルミニウム化合物である。
【0016】ケイ素の酸素化合物は、好ましくは、オルトケイ酸及びこれの縮合生成物の塩もしくはエステル、シリケート、ゼオライト、シリカ、ガラス粉末、ガラス- セラミック粉末またはセラミック粉末である。
【0017】マグネシウム化合物は、好ましくは、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、炭酸マグネシウムまたは炭酸カルシウムマグネシウムである。
・・・・・
【0019】亜鉛化合物は、好ましくは、酸化亜鉛、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、リン酸亜鉛、ホウ酸亜鉛または硫化亜鉛である。
【0020】アルミニウム化合物は、好ましくは、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムである。
【0021】該新規難燃剤コンビネーションは、好ましくは、更に別の成分Cとして窒素化合物を含む。
・・・・・
【0024】成分Cは、好ましくは、ベンゾグアナミン、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、アラントイン、グリコルリル、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート及び/またはメラミンピロホスフェートである。
【0025】更に本発明は、該新規難燃剤コンビネーションを、熱可塑性ポリマーを難燃性にするために使用する方法をも提供する。本発明の目的において及びHans Dominghaus 氏が“Die Kunststoffe und ihre Eigenschaften”,第5版(1998),第14頁において述べるように、熱可塑性ポリマーとは、分子鎖が、分枝側鎖を持たないかあるいは様々な長さの分枝側鎖を様々な数で有し、そして加熱時に軟化しかつ事実上所望とする如何なる形にでも成形できるポリマーである。 」
甲2c「【0043】成分Bとして使用し得る他の化合物は、亜鉛化合物、例えば酸化亜鉛、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、リン酸亜鉛及び硫化亜鉛、並びに式fZnO・gB2O3・hH2O(式中、f、g及びhは0~14である)で表されるホウ酸亜鉛である。
【0044】必要に応じて、該新規難燃剤コンビネーションは、成分Cとして、式(III) ~(VIII)で表される窒素化合物またはこれらの式によって表される化合物の混合物を含んでいてもよい。これらの化合物は、ドイツ特許出願公開第197 37 727号に開示されている。なお、このドイツ特許出願公開明細書の内容は、ここで引用することによって全てここに掲載されたものとする。
【0045】上記の化合物の他に、使用し得る成分Cは、ヨーロッパ特許出願公開第584 567 号に記載されるような、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートと芳香族ポリカルボン酸とのオリゴマー性エステル、及び式(NH4) y H3-yPO4 または(NH4PO3)z (これらの式中、yは1~3であることができ、そしてzは所望とされる如何なる数であることができ(例えば、1~10,000)、典型的には鎖長分布の平均値としても与えられる)で表される窒素含有リン酸塩である。
・・・・・
【0052】上記ホスフィン酸塩は、使用するポリマーの種類及び所望とされる特性に依存して、様々な物理的形態で該新規難燃剤コンビネーション中に使用し得る。例えば、ポリマー中でより良好な分散状態を達成するためには、ホスフィン酸塩を微細な形態に粉砕してもよい。また必要に応じて、異なるホスフィン酸塩の混合物を使用することもできる。
【0053】本発明によるホスフィン酸塩は熱的に安定しており、加工中にポリマーを分解させることもないし、プラスチック成形材料の製造プロセス中にそれに作用することもない。このホスフィン酸塩は、熱可塑性ポリマーの製造及びその加工に通常の条件下に非揮発性である。
【0054】ポリマーに添加する、本発明による無機化合物(成分B)の量は、広い範囲内で変えることができる。使用量は、通常、プラスチック成形材料全体を基準として0.1 ~10重量%である。理想的な量は、ポリマーの性質、使用するホスフィン酸塩(成分A)の性質、使用する窒素含有化合物(成分C)並びにこの無機化合物自体の種類に依存する。好ましくは0.3 ~7重量%、特に0.5 ~5重量%の量で使用するのがよい。上記の無機化合物の二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0055】ポリマーに添加する、窒素化合物(成分C)の量は広い範囲で変えることができる。使用量は、通常、プラスチック成形材料全体を基準にして1~30重量%である。理想的な量は、ポリマーの性質、使用するホスフィン酸塩(成分A)の性質、使用する無機化合物(成分B)の性質、並びに窒素化合物自体の性質に依存する。好ましくは3~20重量%の量、特に5~15重量%の量で使用するのがよい。
【0056】難燃剤成分A及びB及び場合によってはCは、例えば、粉末及び/またはペレットの形態のこれらの成分の全てを混合機中で前もって混合し、次いで配合機(例えば二軸スクリュー押出機)中で、ポリマー溶融物中にこれらを均質化することによって、熱可塑性ポリマー中に導入することができる。通常、ここで得られた溶融物は、押出物として取り出し、冷却しそしてペレット化する。成分A、B(及び使用する場合はC)は、計量添加システムを介して、配合機中に別々に直接導入することもできる。
【0057】前もって作製したポリマーペレットまたはポリマー粉末に該難燃剤成分A、B及びCを混合し、この混合物を直接射出成形機で加工して成形品を作製することもできる。
【0058】ポリエステルの場合は、例えば、その重縮合中に直接、ポリエステル溶融物中に難燃剤成分A、B及びCを添加することもできる。
【0059】成分A、B及び使用する場合はCから製造される該新規難燃剤コンビネーションの他に、フィラー及び強化材を成形材料中に添加することもでき、このようなフィラー及び強化材には、例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、または鉱物、例えばチョークなどがある。該成形材料は他の添加剤、例えば酸化防止剤、光安定剤、潤滑剤、着色剤、成核剤または耐電防止剤なども含むことができる。ヨーロッパ特許出願公開第584 567 号には、使用し得る添加剤の例が記載されている。
【0060】本発明による難燃性プラスチック成形材料は、成形品(moldings)、フィルム、フィラメント及び繊維を、例えば射出成形、押出成形または圧縮成形により製造するのに適している。」
ウ 甲3の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲3には、以下の事項が記載されている。
甲3a「【請求項1】非溶融物質を含有するナイロン6製品類を、ε-カプロラクタムを実質的に留出させることなく還流させながら解重合した後、解重合反応液にε-カプロラクタムを添加し、非溶融物質を分離・回収するナイロン6製品類のリサイクル方法。」
甲3b「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ガラス繊維などの非溶融物質を含有するナイロン6製品類のケミカルリサイクル方法に関し、さらに詳しくは、非溶融物質を分離・回収しつつε-カプロラクタムを効率的に回収するリサイクル方法に関するものである。
・・・・・
【0017】この解重合工程には、さらにモノカルボン酸を添加することが、解重合反応液の粘度を低下させる点から好ましい。重合反応が進行しようとした場合、末端封鎖剤として作用することにより重合度が増すことを抑制できるからである。たとえば、酢酸、プロピオン酸、ステアリン酸、安息香酸などが挙げられ、特に好ましくは酢酸が用いられる。」
エ 甲4の記載事項
本件優先日前に頒布された刊行物である甲4には、以下の事項が記載されている。
甲4a「2.特許請求の範囲
(式中Meはアルカリ金属であり、Rは同じ又は異なれる飽和の、開鎖状の、場合により分枝した又は環状のアルキル基、アリール基又はアリールアルキレン基(炭素原子数1~16)を、R1は飽和の、開鎖状の、場合により分枝した又は環状のアルキレン基、アリーレン基又はアリーレンアルキレン基-アルキレン基に1~6個の炭素原子を有する-を意味する)
なるホスフィン酸或はジホスフィン酸のアルカリ塩を含むことを特徴とする熱可塑性ポリエステル。」(1頁左下欄特許請求の範囲)
甲4b「
」(4頁表)
オ 甲5の内容
本件特許出願のファミリーで中国で登録された特許についての、中華人民共和国国家知的財産権局 無効宣告請求審査決定書(第24784号)。
カ 甲6の内容
本件特許出願のファミリーで中国への特許出願の公開公報である中国特許出願公開第1660857号明細書。
キ 甲7の内容
令和元年(ワ)第11721号特許権侵害差止請求事件の令和元年10月4日付け原告(審決注:被請求人)第2準備書面。
ク 甲8の内容
令和元年(ワ)第11721号特許権侵害差止請求事件の令和元年9月17日付け原告(審決注:被請求人)第1準備書面。
ケ 甲9の内容
STN○R ポリマー検索による,「テロマー」の検索結果。
コ 甲10の内容
コトバンクに収録されている「世界大百科事典第2版の解説 テロマー」の用語説明。
サ 甲11の内容
コトバンクに収録されている「化学事典第2版の解説 テロマー」の用語説明。
シ 甲12の内容
本件特許明細書であるJP4870924に記載されている方法で調製した、ジアルキルホスフィン酸塩を含む難燃剤組成物FR-A、FR-B及びFR-C、並びに、これら難燃剤組成物のポリマ-成形体の、難燃性についての実験成績証明書。
ス 甲13の内容
甲12で調製したジアルキルホスフィン酸塩を含む難燃剤組成物FR-A及びそのポリマ-成形体の、難燃性についての実験成績証明書。
セ 甲14の内容
甲12で調製したジアルキルホスフィン酸塩を含む難燃剤組成物FR-C及びそのポリマ-成形体の、難燃性についての実験成績証明書。
(2)被請求人提出の各証拠の内容
ア 乙1の内容
本件発明製品が「EXOLIT OP1230, EXOLIT OP930, EXOLIT OP935(R)」という商品名で生産・販売されていること。
イ 乙2の内容
クラリアントは2004年に「EXOLIT OP」の生産を開始し、順調に販売量が伸びてきたことから生産能力の倍増を決めたこと。
ウ 乙3の内容
電子機器が難燃剤の添加等で安全対策が取られてきたこと。欧州及びアメリカで難燃剤の安全性規制がされてきたこと。
エ 乙4の内容
クラリアントは、リン系難燃剤の生産体制を強化するため、ポリアミド樹脂用の次世代品の専用ラインを設けることを決めたこと。
オ 乙5の内容
クラリアントは、ドイツに非ハロゲン化難燃剤Exolit○R OPの第3の生産設備を追加する計画を発表し、2013年に稼働開始予定で、この設備は2010年第4四半期に増産計画が最初に伝えられて以来3倍の生産能力をもたらすことになること。
カ 乙6の内容
クラリアントは、ドイツに非ハロゲン系難燃剤の第3の生産拠点を建設する計画を発表し、この拠点は、2013年に完成予定で、2010年からの拠点の3倍の生産能力となること。
キ 乙7の内容
クラリアントは、2014年3月11~13日にJEC Europeにおいて非ハロゲン化難燃剤Exolit OPの製品群が、輸送及び建築用途に大きな有用性があることを発表予定であること。
ク 乙8の内容
非臭素系難燃剤は、クラリアントがExolit○R OPの商業生産を開始した2005年まで利用できなかったこと。
ケ 乙9の内容
非ハロゲン化難燃剤Exolit OPが、臭素系難燃剤と同等の難燃性等を提供しながら煙の発生や望ましくない成分が少ないことが見出されたこと、及び、クラリアントは、非ハロゲン化難燃剤Exolit OPにより、ドイツビジネスイノベーション賞のファイナリストにノミネートされたこと。
コ 乙10の内容
クラリアントのExolit○R OPは優れたGreenScreen○R評価を受けたこと。
サ 乙11の内容
ジエチルホスフィン酸アルミニウム塩(CAS 番号225789―38―8、別名EXOLIT OP930, EXOLIT OP935, EXOLIT OP945, EXOLIT OP1230, EXOLIT OP1240)は、GreenScreen Benchmaek TMスコア3と評価されたこと。
シ 乙12の内容
2013年ドイツビジネスイノベーション賞ファイナリストの証明書
ス 乙13の記載事項
乙13a「【0015】実施例1
・・反応液のNMR測定によりジフェニルホスフィン酸1―オクテン―2―イルが74%の収率で生成していることが判明した。」
セ 乙14の記載事項
乙14a「【0044】・・・
実施例
・・・・・
(A)テトラキス―(2,4―ジ―t―ブチルフェニル)―4,4―ビフェニレン―ジホスホユニット、市販品
【0045】
・・・・・
含有量40%(31P-NMR)
(B)テトラキス―(2,4―ジ―t―ブチルフェニル)―4,4―ビフェニレン―ジホスホユニット(ドイツ特許第4,218,411号明細書に従ってMgOで加水分解に対して安定化されている)
含有量40%(31P-NMR)
(C)テトラキス―(2,4―ジ―t―ブチルフェニル)―4,4―ビフェニレン―ジホスホユニット(ドイツ特許第4,218,411号明細書の実施例2aに従う)
含有量70%(31P-NMR)
(D)6―(2―トルイル)―6H―ジベンゾ-[c,e][1,2]-オキサホスホリン)
【0046】
・・・・・
含有量約97%(31P-NMR)
(E)ビス―(1―ナフチル)亜ホスフィン酸―2,4―ジ-t-ブチルフェニル-エステル
【0047】
・・・・・
含有量約90%(31P-NMR)
(F)1―ナフチル-亜ホスフィン酸―ビス-(2,4―ジ-t-ブチルフェニル)エステル
【0048】
・・・・・
含有量約98%(31P-NMR)」
ソ 乙15の記載事項
乙15a「【0039】粗製の材料の生成物含有率を、各々31P-NMRスペクトルにより測定し、そして一般には70ないし95%であった(全Pの)。上記の場合において、生成物を特徴付けのため好適な溶剤から再結晶した。
1. 2,4,6-トリメチルフェニル-フェニル亜ホスフィン酸2,4-ジ-tert-ブチルフェニルエステル(変法a):29.9gの1-ブロモ-2,4,6-トリメチルベンゼンおよび23.6gのブロモベンゼンから出発して、126℃の融点および95%の上記化合物の含有率[31P-NMR:δ(CDCL3 )=111.1ppm]を有する64gの無色結晶が得られた。128ないし130℃の融点を有する無色結晶がアセトンから再結晶された。」
タ 乙16の記載事項
乙16a「a) 作用機構
りん化合物の熱分解により生成したリン酸層の被膜が酸素遮断層を形成すると同時に脱水作用により樹脂表面に炭素被膜を形成し酸素や熱を遮断し難燃効果を発揮する。」
チ 乙17の記載事項
乙17a「
・・・・・・・・・・・・ 」
(3)甲1に記載された発明
甲1は、ジアルキルホスフィン酸塩を製造する方法及びその方法で製造されたジアルキルホスフィン酸塩の用途(難燃剤)に関し記載するもの(甲1b【0002】~【0003】)であって、請求項1には「ジアルキルホスフィン酸塩を製造する方法において、a)アルキル亜ホスホン酸および/またはホスフィン酸および/またはそれらのアルカリ金属塩を遊離基開始剤の存在下にオレフィンと反応させてジアルキルホスフィン酸および/またはそれのアルカリ金属塩を得、b)a)に従って得られたジアルキルホスフィン酸および/またはそれのアルカリ金属塩をMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Naおよび/またはKの金属化合物と反応させて、これら金属のジアルキルホスフィン酸塩を得ることを特徴とする、上記方法」(甲1a【請求項1】)と記載され、その具体例として、実施例2及び3には、請求項1の方法を実施しジアルキルホスフィン酸金属塩を含有する組成物を得たこと(甲1d【0053】~【0058】)が記載されている。
そして、この得られたジアルキルホスフィン酸金属塩を含有する組成物を難燃剤として用いることは、請求項24の「請求項1・・のいずれか一つに記載の方法で製造されたジアルキルホスフィン酸金属塩を難燃剤の製造に用いる方法」(甲1a)という記載、「【0002】有機燐含有酸のアルミニウム塩は難燃剤として公知である」(甲1b)及び「【0048】・・本発明の方法で製造されたジアルキルホスフィン酸金属塩を難燃剤の製造に用いる・・」(甲1c)より明らかであり、甲1に記載されているといえる。
そうすると、甲1には、
「Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Naおよび/またはKの金属とジアルキルホスフィン酸との金属塩を含有する難燃剤組成物」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(4)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
a 本件発明1の「ジアルキルホスフィン酸塩」における「ジアルキルホスフィン酸」は、「式(I)【化1】(構造式省略)[式中、R1およびR2は互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC1~C6-アルキル」であり、「ジアルキル」(R1及びR2が該当)が、「互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC1~C6-アルキル」であるホスフィン酸である。
他方、甲1発明の「ジアルキルホスフィン酸」は、技術的に、本件発明1の「式(I)【化1】(構造式省略)」において、式中のR1及びR2が共にアルキルであるものといえ、該R1及びR2がどのような種類のアルキルであるのかは明らかでないものといえる。
そうすると、本件発明1の「式(I)【化1】(構造式省略)[式中、R1およびR2は互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC1~C6-アルキルであ」る「ジアルキルホスフィン酸」と、甲1発明の「ジアルキルホスフィン酸」とは、式(I)【化1】(構造式省略)[式中、R1およびR2はアルキルである]で表されるジアルキルホスフィン酸である点で共通する。
b 本件発明1の「ジアルキルホスフィン酸塩」における「塩」は、「MはMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよび/またはプロトン化窒素塩基であ」る金属塩(各金属元素の価数により、mは1~4のいずれかとなる)である。
他方、甲1発明の「金属塩」は、塩となる「金属」が「Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Naおよび/またはK」であるものである。各金属元素の価数により、ホスフィン酸の配位数は1~4のいずれかとなると技術的には理解される。
そうすると、甲1発明の「Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Naおよび/またはKの」「金属塩」は、本件発明1の「MはMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kおよび/またはプロトン化窒素塩基であり;mは1~4である」「塩」に相当する。
そうすると、両者は、
「式(I)【化1】
[式中、R1およびR2はアルキルであり;
MはMg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Zn、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na、Kであり;
mは1~4である。]
で表されるジアルキルホスフィン酸塩を含有する難燃剤組成物」
である点で一致し、以下の点において相違する。
相違点1:式(I)で表されるジアルキルホスフィン酸塩のR1およびR2のアルキルについて、本件発明1では、互いに同じかまたは異なり、直鎖状のまたは枝分かれしたC1~C6-アルキルであるのに対し、甲1発明ではどのようなアルキルであるのか明らかでない点
相違点2:難燃剤組成物の含有成分について、本件発明1では、テロマーを含み、その種類が、エチルブチルホスフィン酸塩、ブチルブチルホスフィン酸塩、エチルヘキシルホスフィン酸塩、ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩である少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩であり、その含有量が0.01~6重量%と特定されているのに対し、甲1発明では、テロマーを含むこと並びにテロマーの種類及び含有量について明らかでない点
(イ)判断
a 新規性について
事案に鑑み、相違点2から検討する。
甲1発明の含有成分及びその含有量として、本件発明1で特定される「テロマー」を特定量含有することは、甲1に記載も示唆もされていない。
したがって、相違点2は、実質的な相違点といえる。
よって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲1発明ではない。
b 進歩性について
(a) 相違点について
i 相違点1について
甲1の記載を検討すると、請求項1(甲1a)に、ジアルキルホスフィン酸塩の製造方法であって、アルキル亜ホスホン酸および/またはホスフィン酸および/またはそれらのアルカリ金属塩を遊離基開始剤の存在下にオレフィンと反応させてジアルキルホスフィン酸および/またはそれのアルカリ金属塩を得、それを特定の金属化合物と反応させて、該金属のジアルキルホスフィン酸塩を得ることが記載され、該「オレフィン」の実施の態様として「【0029】オレフィンとしてはエチレン、n-、i-プロピレン、n-、i-ブテン、n-、i-ペンテン、n-、i-ヘキセン、・・を使用するのが好ましい」(甲1c)と記載されていることから、甲1発明の「ジアルキルホスフィン酸塩」の「アルキル」は、直鎖状又は分枝状のC1~C6アルキルを含むものであり、直鎖状又は分枝状のC1~C6アルキルが好ましい態様として例示されているといえる。
そうすると、甲1発明において、「ジアルキル」として、甲1の上記実施の態様の記載に基づき、直鎖状又は分枝状のC1~C6アルキルを選択することは、当業者であれば容易に想起できる技術的事項といえ、相違点1の構成を採用することは容易に想到するものといえる。
ii 相違点2について
一般に、ジアルキルホスフィン酸塩を製造する際、所望のジアルキルホスフィン酸塩のみならず、他の種類のジアルキルホスフィン酸塩やモノアルキルホスフィン酸塩等も生成され、それらを含むものをジアルキルホスフィン酸塩の難燃剤組成物として用いることは、甲1の実施例1~5からも理解されるように、本件優先日前、良く知られていた技術的事項と認められる(甲1c【0048】、甲1d)。そして、製造した所望のジアルキルホスフィン酸塩中に、副生成物である他の種類のジアルキルホスフィン酸塩やモノアルキルホスフィン酸塩等が存在していても、生成物全体を難燃剤組成物として用いるのに対して問題はなく、副生成物が難燃性に悪影響を及ぼすことは認識されていなかったと理解するのが合理的であり自然であると認められる。
そして、甲1の実施例2又は3に記載される、エチルブチルホスフィン酸塩(実施例2)又はブチルエチルホスフィン酸塩(実施例3)は、本件発明1のテロマーにあたるものであるが、これらのジアルキルホスフィン酸塩(テロマー)が、難燃性に悪影響を及ぼすことは認識されていなかったことから、これらのジアルキルホスフィン酸塩(テロマー)の含有量を所定の範囲にしようと動機付けられる記載や示唆が甲1にあるとはいえない。
また、甲2~4に記載の技術的事項及び周知技術を参酌しても、本件発明1の上記特定の「テロマー」に注目し、その含有量を所定の範囲とすることを導き出す記載や示唆を認めることができない。
そうすると、甲1発明及び甲1~4の記載を組み合わせたとしても、含有成分として、本件発明1のテロマーである、エチルブチルホスフィン酸塩、ブチルブチルホスフィン酸塩、エチルヘキシルホスフィン酸塩、ブチルヘキシルホスフィン酸塩および/またはヘキシルヘキシルホスフィン酸塩である少なくとも1種類のジアルキルホスフィン酸塩を含むこと、並びに、その含有量が0.01~6重量%であるとすることについては、甲1~4いずれの甲号証にも記載も示唆もなく、本件優先日当時の周知技術であったとも認められず、他に動機付けられるものもない以上、本件発明1の相違点2に係る構成を採用することは、当業者といえども、甲1~4の記載及び周知技術から容易に想到し得る技術的事項であるとはいえない。
(b)本件発明1の効果について
本件発明1の効果は、本件明細書の実施例(【0133】~【0155】)に、本件発明1に該当する例3及び4[【表1】(【0154】)]を含有するポリマー成形体において、客観的な実験結果として裏付けられており[【表2】(【0155】)]、本件発明1の特定の「テロマー」及びその含有量を特定の割合とすることにより、高い難燃性が得られるということを見出したものであり、本件発明1の前記効果は甲1~4の記載及び周知技術から当業者が予測し得たものとはいえない。
c 請求人の主張について
(a)請求人は、審判請求書16頁下から10行~18頁11行において、以下のi及びiiを主張している。
i 「テロマー含有量が0.01~6重量%」について
本件発明1の「テロマー」と称する物質は、ジアルキルホスフィン塩を製造する際に当然生成される副産物であり、この副産物の量を調整することによって、際立って優れた効果が生じることは考えられず、特に、本件発明1の「テロマー含有量が0.01~6重量%」は、上限と下限の濃度差が600倍もあり、このような濃度範囲において、この範囲外の効果と比較して、際立った効果が生じるとは考えられない。
さらに、本件明細書には、テロマーと称する物質の含有量の濃度範囲の臨界的意義も記載されていない。
ii 本件発明1の効果は「残留酢酸塩が含まれていないことによる効果」であることについて
本件明細書には、本件発明1の効果として、難燃性ポリマーの粘度及びUL94規格の測定結果に基づく難燃性が記載されており、これらの効果は、以下の根拠(i)及び(ii)より、残留酢酸塩が含まれていないことによる効果と考えるべきであり、その場合、本件発明1は際立って優れた効果を有していないと考えるべきである。
(i)難燃性ポリマーの粘度について、本件明細書の段落【0002】及び甲3の段落【0017】(甲3b)の記載より、残留酢酸塩が合成樹脂に混入した際に副作用をもたらすことが知られており、本件明細書の段落【0004】の記載も併せれば、本件明細書の実施例の【表1】(【0154】)に記載の例1、2(比較例)と、例3、4(本件発明1の実施例)との粘度の相違は、本件発明1による効果ではなく、残留酢酸塩が含まれているか否かの違いによる効果と考えるべき。
(ii)UL94規格の測定結果について、本件明細書の「【0006】・・未処理の溶融物に比較して粘度の低下が少なければ少ない程、ますます良好である」という記載、及び甲4の表(甲4b)より、本件発明1に僅かに含まれているテロマーの濃度を変えても、それを含む難燃性ポリマーの粘度が本件明細書に記載されている程変化するとは考えられず、またポリマーの粘度と難燃性には関係性がないことが分かること、故に、UL94規格の測定結果についても、残留酢酸塩の含有の有無の違いによる効果と考えるべき。
(b)請求人は、令和1年11月20日付け上申書(請求人)の11頁5~24行において、令和1年6月20日付け答弁書(被請求人)の16頁下から5行~17頁末行の記載について、「上記は、本件特許発明1のようなリン系難燃剤の作用機構からも明らかである。リン系難燃剤の作用機構は、燃焼時、リン化合物の熱分解により生成したメタリン酸の層が被膜となり酸素を遮断し、同時に脱水作用により樹脂表面にチャー(炭素被膜)を形成し、酸素および熱を遮断することで、難燃効果を発揮するというものである(乙第16号証・・、乙第17号証・・)・・したがって、Mm+で表される陽イオンは、上記の通りジアルキルホスフィン酸と塩を形成できるものであれば、本件特許発明1のジアルキルホスフィン酸塩は難燃性を発揮できると当然に予測される」との記載を引用し、公知情報に基づき、本件発明1の式Iで表されるジアルキルホスフィン酸塩が難燃性を示すことを自認していること、同書(被請求人)22頁1~3行の「「テロマー含有量が0.01~6重量%」における下限値である「0.01重量%」は、テロマーが、ジアルキルホスフィン酸塩を製造する際に当然生成される副産物であって」との記載を引用し、テロマーと称する物質が、難燃性を示すジアルキルホスフィン酸塩を製造する際に生成される副産物であることを自認していること、そうであれば、甲1に記載されている発明から、副産物であるテロマーと称する物質の濃度を低減すれば、難燃性が向上することは、当業者であれば容易に想到し得る旨を主張している。
(c)請求人は、令和1年11月20日付け上申書(請求人)の11頁25行~13頁18行において、本件発明1が、甲1の実施例3のジエチルホスフィン酸のAl塩を含有する難燃性組成物と比較して、顕著な効果を有するか明らかでなく、甲1号証に記載の発明並びに乙16及び乙17に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1が公知技術(テロマーと称する物質の含有量の範囲が0.01~6重量%以外の濃度の難燃性組成物)と比較して、優れた難燃性を有していないことを示す実験成績証明書を補強証拠として提出予定であることを主張し、令和1年12月25日付け上申書(請求人)にて、実験成績証明書(甲12~甲14)を提出し、甲1の実施例3に記載の発明と比較し、本件発明1は顕著な効果を奏していないこと、それ故、甲1より、容易に想到し得たことを主張している。
そこで、これらの点について、以下検討する。
請求人の(a)の主張について
i 「テロマー含有量が0.01~6重量%」について
本件明細書の実施例(【0133】~【0155】)には、本件発明1に該当する例3及び4[【表1】(【0154】)テロマーであるエチルブチルホスフィン酸Al塩の重量%が、例3は1.10重量%、例4は3.29重量%(令和1年6月20日付け答弁書13頁の表)]を含有する難燃剤組成物であり、その難燃剤組成物を含むポリマー成形体の実施例である例9、10、13、16~19[【表2】(【0155】)]の、難燃性についてのUL94規格の測定結果は、いずれも「V-0」であり、難燃性が高いことが示されている。これに対し、比較例である例1及び2[【表1】(【0154】) のテロマーであるエチルブチルホスフィン酸Al塩の重量%が、例1は14.23重量%、例2は10.11重量%(上記表)]を含有する難燃剤組成物であり、その難燃剤組成物を含むポリマー成形体の比較例である例7、8、12、15[【表2】(【0155】)]のUL94規格の測定結果は、いずれも「V-2」又は「V-1」であり、難燃性が低いことが示されている。
両者の相違の一つは、テロマー含有量の相違であり、テロマー含有量を調整することにより、「テロマー含有量が0.01~6重量%」の範囲内において、優れた効果が生じるものと理解される。
テロマー含有量の範囲の臨界的意義については、本件発明1は、特定種類のジアルキルホスフィン酸をテロマーとして特定し、その含有量が特定範囲内であると、難燃性が向上することを見出したことに基づく発明であって、前記b(a)iiで述べたように、この点については、甲1~4の記載及び技術常識を勘案しても、記載も示唆もされておらず、それを容易に想到し得るものではない以上、該含有量の特定範囲につき、臨界的意義を問うまでもないといえる。
したがって、請求人のこの主張は採用することができない。
ii 本件発明1の効果は「残留酢酸塩が含まれていないことによる効果」であることについて
前記b(b)で述べたように、本件発明1の効果は、本件明細書の実施例(【0133】~【0155】)に、本件発明1に該当する例3及び4[【表1】(【0154】)]を含有するポリマー成形体の客観的な実験結果として裏付けられている[【表2】(【0155】)]効果である、高い難燃性を奏することであると認められる。
(i)根拠(i)について、本件明細書には、「【0002】・・最終生成物中に汚染物質として痕跡量の溶剤(酢酸)を含有しており、このことが合成樹脂に意図的に混入した際に不所望の副作用をもたらす」こと、及び、「【0004】・・残留溶剤(酢酸)含有量・・の特に少ないジアルキルホスフィン酸塩が合成樹脂に混入される時に周囲の合成樹脂の分解(特にポリマー分解)を特に低水準にする原因になる・・」ことが記載され、残留溶剤(酢酸)が合成樹脂に混入されると、合成樹脂の分解(特にポリマー分解)という不所望の副作用をもたらすことが記載されているにすぎない。
また、甲3の段落【0017】(甲3b)には、「この解重合工程には、さらにモノカルボン酸を添加することが、解重合反応液の粘度を低下させる点から好ましい。重合反応が進行しようとした場合、末端封鎖剤として作用することにより重合度が増すことを抑制できるからである。・・特に好ましくは酢酸が用いられる」と記載されているが、これは、モノカルボン(酢酸)が解重合工程で末端封止剤として作用し、それにより重合度が増すことを抑制できることが記載されているにすぎない。
これらは、残留溶剤(酢酸)が難燃性に影響するものであることについては、何ら記載も示唆もされておらず、残留溶剤(酢酸)が難燃性に影響するものであることとの関係は明らかでないから、残留溶剤(酢酸)が難燃性に影響するものであるとは認められず、本件発明1の効果が「残留酢酸塩が含まれていないことによる効果」であるとまではいえない。
(ii)根拠(ii)について、UL94規格の測定結果は、難燃性についての測定結果である。
本件明細書の段落【0006】には「・・合成樹脂の分解は溶融容積指数によって評価することもできる。ここでは、問題の添加物を含有するポリマー溶融物の粘度を未処理の溶融物の粘度と比較する。未処理の溶融物に比較して粘度の低下が少なければ少ない程、ますます良好である」と記載され、合成樹脂の分解は溶融容積指数によって評価することもでき、それは未処理の溶融物と比較し粘度の低下が少ない程良好であることが記載されているにすぎず、難燃性との関係が明らかでない。
また、甲4の表4には(甲4b)、
が記載されているが、この表の記載より、粘度と難燃性との関係をどのように検討することにより、請求人の主張する、本件発明1に僅かに含まれているテロマーの濃度を変えても、それを含む難燃性ポリマーの粘度が本件明細書に記載されている程変化するとは考えられず、またポリマーの粘度と難燃性には関係性がないことが分かる、といえるのか不明である。
そして、これらには、残留溶剤(酢酸)が難燃性に影響するものであることについては、何ら記載も示唆もされておらず、残留溶剤(酢酸)が難燃性に影響するものであることとの関係は明らかでないから、残留溶剤(酢酸)が難燃性に影響するものであるとは認められず、本件発明1の効果が「残留酢酸塩が含まれていないことによる効果」であるとはいえない。
(iii)乙18(実験成績証明書)には、本件発明1の難燃剤組成物が、残留酢酸塩の存在下でも、高い難燃性を示すことが示されており、本件発明1の効果が「残留酢酸塩が含まれていないことによる効果」であるとは認められない。
なお、請求人は、令和1年11月20日付け上申書1頁下から2行~2頁4行で、乙18の試験は、被請求人の関連会社によって行われたもので、結果について客観性に疑いがあるから、第三者機関による試験を行うべきである旨主張しているが、乙18が明らかに客観性に疑いがあるという根拠はみあたらず、当該主張は採用できない。
(iv)以上より、本件発明1の効果は「残留酢酸塩が含まれていないことによる効果」であるとの請求人の主張は採用することができない。
請求人の(b)の主張について
請求人が引用する、令和1年6月20日付け答弁書(被請求人)の16頁下から5行~17頁末行の記載は、無効理由2(サポート要件違反)に対する反論として、本件発明1の式(I)中の「Mm+」における「M」として、実施例で実施されているAl以外の金属でも、Alと同様にアルキルホスフィン酸塩は難燃性を示すことを説明した記載で、リン系難燃剤の作用機構が良く知られていたことを説明しているに過ぎず、前記b(a)iiで述べたように、ジアルキルホスフィン酸塩製造の際の副生成物を含む生成物全体を難燃剤組成物として用いるのに対して問題はなく、副生成物が難燃性に悪影響を及ぼすことは認識されていなかった以上、テロマーを低減すれば難燃性が向上することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、請求人のこの主張は採用することができない。
請求人の(c)の主張について
i 請求人の(c)の主張に対し、被請求人は、令和2年1月17日付け上申書「V 第1」(2頁12~末行)において、請求人の当該主張は、無効審判請求書に全く記載されておらず、実質的に請求の理由の要旨変更に該当するものであるから、請求人の当該主張は排除されるべきである旨主張する。
この点につき、無効審判請求書の16頁下から7行~末行において、請求人は「本件特許発明1のテロマーと称する物質は、ジアルキルホスフィン酸塩を製造する際に当然生成される副産物である。これらの副産物の量を調整することによって、際立って優れた効果が生じることは考えられない。特に本件特許発明1では、「テロマー含有量が0.01~6重量%」と記載されており・・・このような濃度範囲において、この範囲外の効果と比較して、際立って優れた効果が生ずるとは考えられない」と主張しており、それを客観的に裏付けようとして、甲12~14の実験成績証明書を提出していると理解される。それ故、請求人の当該主張は、実質的に請求の理由の要旨変更に該当するものとはいえないと、当審は判断する。
そこで、請求人の当該主張について、以下検討する。
ii 前記b(a)iiで述べたように、相違点2については、甲1~4の記載及び技術常識を勘案しても、記載も示唆もされておらず、それを容易に想到し得るものではない以上、本来、効果を検討するまでもないが、念のため、公知の難燃剤組成物である甲1の実施例3に記載の組成物と比較し、本件発明1は顕著な効果を奏していないと、請求人が令和1年12月25日付け上申書で主張する根拠である、甲12~14の実験成績証明書の内容について検討する。
iii 請求人は、当該上申書の「5.(1)~(4)」で、甲12~14において、本件発明1に含まれる難燃剤組成物(「FR-A」)と、本件発明1に含まれない難燃剤組成物(「FR-B」及び「FR-C」)を作成し、甲1の実施例3の組成物中のブチルエチルホスフィン酸Al(本件発明1のテロマーに該当)の濃度が、前記「FR-B」と「FR-C」との間に相当するものであり、「FR-A」、「FR-B」及び「FR-C」の難燃性試験(UL94)の結果がいずれも同じ(「V-0」)ことから、公知の難燃剤組成物である甲1の実施例3の組成物も同様の効果(難燃性)を有することを示そうとしている。
しかしながら、甲1の実施例3において、ジエチルホスフィン酸Al塩の難燃性組成物は、ジエチルホスフィン酸Na塩の組成物を製造(甲1d【0056】)した後、ジエチルホスフィン酸Al塩の組成物を製造して得ている。ジエチルホスフィン酸Na塩の組成物は、ジエチルホスフィン酸Naやブチルエチルホスフィン酸Naのモル%が明らかであるから、重量%へ変換し、各含有量(重量%)は明らかであるが、ジエチルホスフィン酸Al塩の組成物は、このNa塩組成物を用いて製造されており(甲1d【0058】)、最終的に製造されたジエチルホスフィン酸Al塩の組成物中のジエチルホスフィン酸Al及びブチルエチルホスフィン酸Alの各モル%は明らかでない。
それ故、甲1の実施例3のジエチルホスフィン酸Al塩の組成物中のジエチルホスフィン酸Al及びブチルエチルホスフィン酸Alの正確な各含有量(モル%より換算する重量%)は、不明である。
iv このように、甲12~14では、甲1の実施例3の組成物の各成分の正確な含有量(重量%)が不明であるにもかかわらず、あたかも正確な含有量(重量%)であることを前提として、本件発明1と比較していることから、甲12~14に基づく主張は、その前提において誤りがあると認められる。
したがって、本件発明1は、甲1の実施例3に記載の組成物と比較し、顕著な効果を奏していないとはいえない。
v よって、請求人のこの主張は採用することができない。
(ウ)小括
以上より、本件発明1は、本件優先日前に頒布された甲1に記載された発明であるとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、ということができない。
また、本件発明1は、甲1に記載された発明並びに甲2~4に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、ということはできない。
イ 本件発明2~30について
本件発明1は、本件優先日前に頒布された甲1に記載された発明であるとはいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明2~5、7~10、本件発明1を発明特定事項として含んだ本件発明19~21についても、前記アで述べたことが該当するため、同様に、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1は、甲1に記載された発明並びに甲2~4に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、さらに特定事項を含んだ本件発明2~15、本件発明1を発明特定事項として含んだ本件発明16~30についても、前記アで述べたことが該当するため、同様に、甲1に記載された発明並びに甲2~4に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(5)まとめ
よって、本件発明1~30についての特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効理由3及び4により無効にすべきものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明1~30についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり決定する。
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2018-800137