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特許異議申立

2018-700077

検体中のヘモグロビンA1cの免疫測定方法

審判番号
2018-700077
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2014-557383
登録番号
特許第6172163号(P6172163)
請求日
2018年01月30日
審決日
2018年03月30日
公報発行日
2018年05月25日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】富士レビオ株式会社
  • 【権利者代理人】特許業務法人谷川国際特許事務所
  • 【異議申立人】滝口 寿美
審判長/審判官
  • 審判長 福島 浩司
  • 審判官 渡戸 正義
  • 審判官 ▲高▼見 重雄
分類
P1651.121-Y (G01N) / P1651.536-Y (G01N) / P1651.537-Y (G01N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6172163号発明「検体中のヘモグロビンA1cの免疫測定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6172163号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6172163号の請求項1ないし3に係る特許(以下「本件特許」ということがある。)についての出願は、2013年(平成25年)12月26日(優先権主張 平成25年1月16日)を国際出願日として特許出願され、平成29年7月14日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1ないし3に係る特許に対し、平成30年1月30日に特許異議申立人 滝口 寿美 により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6172163号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」といい、本件発明1ないし3を総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの本件発明1は以下のとおりである。 (本件発明1) 「【請求項1】 ラテックス粒子と前処理が施されていない全血検体を低張液中で接触させ、次いで、ラテックス粒子上に吸着したヘモグロビンA1cと抗ヘモグロビンA1c抗体を接触させることを含む、検体中のヘモグロビンA1cの免疫測定方法。」 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、(1)下記の甲第1号証ないし甲第12号証を提出し、本件発明1及び2は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて、本件発明3は、甲第1号証ないし甲第12号証に記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1ないし3に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるから同法第113条第2号に該当し取り消すべきものであり、(2)本件発明1ないし3に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものであり、さらに、(3)本件発明1ないし3に係る特許は、その特許請求の範囲が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである旨主張している(以下、上記(1)ないし(3)に係る申立理由をそれぞれ「取消理由1」ないし「取消理由3」という。)。 特許異議申立人が提出した甲第1号証ないし甲第12号証 甲第1号証:特許第2677753号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開平10-048214号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:肥満と糖尿病、2010年、Vol.9 No.3、p.441-445(以下「甲3」という。) 甲第4号証:グリコヘモグロビンA1cキット メディダスHbA1c S (添付文書)、2009年5月、第1版、p.1-2(以下「甲4」という。) 甲第5号証:取扱説明書 7170S形自動分析装置(I)、日立製作所、1997年、p.(3-23)-(3-24)(以下「甲5」という。) 甲第6号証:特許第4950406号公報(以下「甲6」という。) 甲第7号証:特許第4896347号公報(以下「甲7」という。) 甲第8号証:生化学辞典、1998年10月8日、第3版、p.394-395(以下「甲8」という。) 甲第9号証:特公平06-023754号公報(以下「甲9」という。) 甲第10号証:特開2008-224696号公報(以下「甲10」という。) 甲第11号証:特開2010-276601号公報(以下「甲11」という。) 甲第12号証:生物学辞典、1997年4月10日、第4版第3刷、p.534(以下「甲12」という。) 第4 各証拠の記載事項 1 甲1の記載事項 (1)甲1には、以下の記載がある。 (甲1-1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 抗原および/又は抗体を実質的に吸着していない状態にある不溶性担体粒子に対して、被検試料中の抗原性物質を吸着もしくは結合させ、該抗原性物質に特異的に反応する抗体もしくは抗体複合体を反応させて、不溶性担体粒子を選択的に凝集させる凝集イムノアッセイ法であって、 前記抗体もしくは抗体複合体が、ネイティブな状態で液相中に存在する抗原性物質には実質的に反応せず、不溶性担体に固相化された抗原性物質には特異的に反応する抗体もしくは抗体複合体であることを特徴とする凝集イムノアッセイ法。 【請求項2】 被検試料中の抗原性物質を不溶性担体粒子に吸着もしくは結合させた後、該被検試料を洗浄により除去することなく、抗原性物質に特異的に反応する抗体もしくは抗体複合体を反応させる請求項1記載の凝集イムノアッセイ法。」 (甲1-2)「【0015】 【課題を解決するための手段】本発明者は鋭意研究の結果、被検試料中の抗原性物質の測定に際して該抗原性物質に特異的な抗体を担持させた不溶性担体粒子を用いるのではなく、測定試料たる該抗原性物質自体を不溶性担体粒子に吸着させ、該抗原物質に特異的な抗体もしくは抗体複合体を反応させることにより、上記不溶性担体粒子が選択的に凝集することを見出した。」 (甲1-3)「【0031】ラテックス粒子同士は通常、負の表面電荷により反発しあっているため、比較的分子量の小さい分子を測定する場合に、従来法よりもラテックス同士をより接近させることが重要である本発明では、それだけ強い凝集力を発生させることが好ましいと考えられる。したがって、本発明においては、より凝集力の強い抗体を用いることが好ましいということになる。 【0032】しかし、本発明において測定すべき抗原性物質がIgG分子(分子量約15万)よりも巨大である場合は、逆のこと(より凝集力の弱い抗体で足りる)も成り立つ可能性がある。 【0033】本発明による凝集イムノアッセイ法においては、上述したような理由から、抗原性物質をラテックス等の不溶性担体に吸着させた後、モノクローナル抗体を反応させてもラテックスが凝集しない可能性が考えられるが、そのような場合でも、次のような手段で凝集を起こさせることが可能である。 【0034】表面の負電荷によるラテックス粒子同士の反発力は、ラテックス同士の距離が大きくなれば小さくなる。したがって、モノクローナル抗体の立体構造を大きくすれば、同じ抗体でも凝集を起こすことができる。より具体的には、該モノクローナル抗体と、これに選択的に反応する第二抗体とを反応させてモノクローナル抗体複合体を形成させ、該抗体複合体を、抗原を吸着させたラテックスと反応させれば、ラテックス粒子同士が少し離れた距離で(すなわち、より小さな力で)結合して凝集を起こすことができるようになると考えられる。」 (甲1-4)「【0063】本発明の凝集イムノアッセイ法によれば、ヘモグロビンA1cの測定に関しては、例えば、被検試料(例えば、全血に精製水を加えて溶血したもの)をラテックス(不溶性担体)に吸着させ、抗ヘモグロビンA1cモノクローナル抗体複合体を反応させることにより、ラテックスの選択的凝集を起こさせることができ、この選択的凝集の程度を測定することにより、ヘモグロビンA1cを定量することができる。HPLCで測定したヘモグロビンA1c%値が既知の標準試料を、本発明の凝集イムノアッセイ法により同時に定量して検量線を作成することにより、この検量線に基づき未知の試料のヘモグロビンA1cの分画%値を求めることができる。」 (甲1-5)「【0111】実施例1 ヒトから採取した全血50μLに精製水2mLを加えて溶血させ、被検試料とした。 【0112】ポリスチレンチューブ中に、上記被検試料4μLを取り、これに粒径0.12μmラテックス(積水化学工業社製、「試薬用ラテックス 品番N-100」)を12.5mMグリシン緩衝液 pH8.2(18.8mM塩化ナトリウムを含む)で希釈して0.2%濃度としたラテックス懸濁液を200μL加え、37℃で20分間放置して、上記ラテックスに被検試料中のHbA1cを吸着させた。 【0113】次いで、上記ラテックス懸濁液に、製造例1で得たマウス腹水由来の抗HbA1cモノクローナル抗体と製造例2で得た抗マウスIgGヤギ血清とをGBS-T(GBSにTween20を0.3%溶かしたもの)で希釈し、混合して複合体としたものを200μL加え、37℃で20分間放置して、ラテックスの選択的凝集反応を行った。 【0114】HbA1c値が既知の検体をスタンダードとして同様に凝集反応を行い、分光光度計(ベックマン、DUー640)を用いて660nmの吸光度を測定し、標準曲線を求めた。このようにして求めたHbA1cの標準曲線を図1のグラフに示す。この標準曲線から、未知検体中のA1cのパーセント値を求めた。ラテックス法の対照法として、自動測定装置、Hi-Auto A1c HA-8121型(京都第一科学製)によるHPLC法でHbA1cを測定して、ラテックス法とHPLC法双方の測定値の相関を求めた。結果を図2のグラフに示す。図2においては、HPLC測定データはlabile HbA1cを含むA1c%を示した。図2に示すようにラテックス法とHPLC法との間には、良好な相関関係が見られた。」 (2)甲1に記載された発明 (甲1-4)に記載された凝集イムノアッセイ法及び(甲1-5)に記載された実施例1は、(甲1-1)に記載された凝集イムノアッセイ法において、抗原性物質及び抗体複合体をそれぞれヘモグロビンA1c及び抗ヘモグロビンA1cモノクローナル抗体複合体として具体化したものであるから、(甲1-4)及び(甲1-5)で用いられる不溶性担体である「ラテックス」は、抗原及び/又は抗体を実質的に吸着していない状態のものである。 また、(甲1-4)及び(甲1-5)に記載された「ラテックスの選択的凝集」は、(甲1-1)に記載された「ネイティブな状態で液相中に存在する抗原性物質には実質的に反応せず、不溶性担体に固相化された抗原性物質には特異的に反応する」ことに相当する。 そうすると、(甲1-1)ないし(甲1-5)の記載から、甲1には、 「 ヒトから採取した全血50μLに精製水2mLを加えて溶血させ、被検試料とし、 ポリスチレンチューブ中に、上記被検試料4μLを取り、これに抗原及び/又は抗体を実質的に吸着していない状態にある粒径0.12μmのラテックスを12.5mMグリシン緩衝液 pH8.2(18.8mM塩化ナトリウムを含む)で希釈して0.2%濃度としたラテックス懸濁液を200μL加え、37℃で20分間放置して、上記ラテックスに被検試料中のヘモグロビンA1cを吸着させ、 次いで、上記ラテックス懸濁液に、抗ヘモグロビンA1cモノクローナル抗体と抗マウスIgGヤギ血清とをGBS-Tで希釈し、混合して複合体とした抗ヘモグロビンA1cモノクローナル抗体複合体を200μL加え、37℃で20分間放置して、ラテックスの選択的凝集反応を行い、 この選択的凝集の程度を測定することによりヘモグロビンA1cを定量する、凝集イムノアッセイ法。」 の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 2 甲2の記載事項 甲2は、「免疫測定方法」に関する文献であって、その【特許請求の範囲】、【0006】、【0009】、【0012】、【0013】及び【0026】ないし【0028】の記載から、 「 被検体試料中の抗原あるいは抗体と特異的に反応する抗体あるいは抗原を固定化した不溶性粒子と、被検体試料中の抗原あるいは抗体とを凝集反応させ、生じた凝集混合液に対する光照射による吸光度変化又は散乱光変化を測定する免疫測定方法であって、前記被検体試料として全血を低張液と混合することにより全血を強制的に溶血させたものを用いる、免疫測定方法。」 の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。 3 甲3の記載事項 甲3は、2009年6月に株式会社三和化学研究所から発売されたヘモグロビンA1c測定装置である「A1c GEAR S」に関する文献であって、 「1μlの全血検体を検体希釈液で溶血させ、未感作ラテックス液中に添加し、検体中に存在する総ヘモグロビンをラテックス表面に非特異的に吸着させて固相化し、次に固相化ヒトヘモグロビンA1cに特異的なモノクローナル抗体を添加して凝集させ、波長660nmにおける吸光度の変化量を測定して総ヘモグロビン中に占めるヘモグロビンA1cの比率を測定する、ラテックス凝集法であって、ヘモグロビンA1c測定装置『A1c GEAR S』を用いて測定時間約6分で行う、ラテックス凝集法」 の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。 4 甲4の記載事項 甲4は、甲3に記載されたヘモグロビンA1c測定装置「A1c GEAR S」で使用するグリコヘモグロビンA1cキットである「メディダスHbA1c S」の添付文書であって、【用法・用量(操作方法)】の記載から、「測定開始から測定終了まで約6分であり、測定時間が2分であること」が記載されているものと認められる。 5 甲5の記載事項 甲5は、日立製作所製の7170S形自動分析装置の取扱説明書であって、表3-1の記載から、「測定ポイント17の時間が約5分に相当すること」が記載されているものと認められる。 6 甲6の記載事項 甲6は、「不溶性担体粒子を用いる免疫測定方法およびその試薬」に関する文献であって、その【特許請求の範囲】、【0003】、【0005】ないし【0008】、【0010】、【0015】ないし【0017】、【0030】ないし【0033】、及び【0045】ないし【0048】の記載から、 「 人血液をEDTA採血管で採血後、2時間放置して沈殿した血球層10μLをとり、精製水1mLで希釈し、これを-20℃で凍結保存し使用直前に融解したものを検体とし、 ビシン緩衝剤(同仁化学社製、pH7.8)3.26g/L、アジ化ナトリウム(関東化学社製)0.1g/L、炭酸水素ナトリウム(関東化学社製)0.1g/L、並びに、ヘモグロビンA1c及びヘモグロビンA1cと反応する抗体のいずれをも結合していないラテックス(粒径0.0775μm、積水化学社製)0.033重量%からなるラテックス懸濁液であるR1試薬240μLに、上記検体を3.2μL添加し、 37℃で5分間反応させた後、ビシン緩衝剤(同仁化学社製、pH7.0)3.26g/L、塩化ナトリウム(和光純薬社製)15.0g/L、ツイーン20(和光純薬社製)2.0g/L、アジ化ナトリウム(関東化学社製)0.1g/L、 抗ヒトHbA1cマウスモノクローナル抗体0.025g(IgG換算)/L、及び抗マウスIgGヤギポリクローナル抗体(和光純薬社製)0.04g(IgG換算)/LからなるR2試薬80μLを添加し、 37℃で5分反応させた後に、主波長450nm、副波長800nmにおける吸光度変化量を2ポイントエンド法により測定し、検体中のヘモグロビンA1cのヘモグロビンに対する割合を測定する、免疫測定方法。」 の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されているものと認められる。 7 甲7の記載事項 甲7は、「不溶性担体粒子比濁免疫測定用試薬」に関する文献であって、その【特許請求の範囲】、【0006】、【0007】、【0026】、及び【0044】ないし【0048】の記載から、「検体中のヘモグロビンA1cを検出する不溶性担体粒子比濁免疫測定において、抗原及び抗体を担持していないラテックスの懸濁液として、ビシン又はトリシン緩衝剤を含む緩衝液を用いることにより、ラテックス表面の荷電状態を安定化し、ラテックスに結合した抗原又は抗体の遊離を防止し、ラテックス凝集反応を安定化して、精確な測定結果が得られるようにすること」が記載されているものと認められる。 8 甲8の記載事項 甲8は、生化学に関する辞典であって、「グッドの緩衝液」についての説明が記載されている。 9 甲9の記載事項 甲9は、「白血球保護剤を含む流動式血球計測法溶解試薬」に関する文献であって、第2頁左欄30-32行、同頁右欄8-16行、同頁同欄31-45行、及び第3頁右欄15-22行の記載から、「白血球に好ましくない影響を与えることなく赤血球を溶解することができ、他方白血球の光散乱測定が可能な、流動式血球計数型装置に使用する試薬として、TRIS 5mM、HEPES 2.5mM、及びメトキシエタノール 250mMを混合し、pHを8.5に調節した赤血球溶解用試薬」が記載されているものと認められる。 10 甲10の記載事項 甲10は、「赤血球の溶解のための新規の試薬及び方法」に関する文献であって、その【特許請求の範囲】、【0001】、【0014】、【0020】及び【0021】の記載から、「白血球にとって非毒性であり、かつ脂肪族アルデヒド型の固定化剤の使用に適合する、赤血球の溶解のための溶解試薬であって、4~9のpHにおいて使用される、イミダゾリジン及びイミダゾリン、モルフォリン、ピペリジン及びピロリジンから成る群から選ばれる飽和窒素含有複素環化合物である溶解剤と、HEPES、MOPS及びMESから選択されるpH6.5~7.5の有効量の緩衝剤とを含む、溶解試薬」が記載されているものと認められる。 11 甲11の記載事項 甲11は、「等速電気泳動法」に関する文献であって、【0068】の記載から、「全血をグッド緩衝液に適宜溶解させて再構成して得られた処理物を血液由来試料とすること」が記載されているものと認められる。 12 甲12の記載事項 甲12は、生物学に関する辞典であって、「酸塩基平衡」の項の中に「正常のヒトの血液のpH」についての説明が記載されている。 第5 判断 1 特許法第29条の規定に係る申立て(取消理由1)について (1)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「抗原及び/又は抗体を実質的に吸着していない状態にある粒径0.12μmのラテックス」は、本件発明1の「前処理が施されていない全血検体を低張液中で接触させ」る前の「ラテックス粒子」に相当する。 (イ)本件特許についての出願の願書に添付された明細書(以下「本件特許明細書」という。)の「本発明の方法は、採血後の全血を前処理なしでそのまま用いることを特徴とする。『前処理』とは、ラテックス粒子と検体とを接触させる前に検体に対して施される処理であり、溶血処理及びタンパク質変性処理が包含される。採血後の血液の溶血を防ぐためのEDTA添加やヘパリン添加は本発明にいう『前処理』に包含されない。」(【0012】)という記載によれば、本件発明1における「前処理」は、溶血処理を含むものである。 そうすると、甲1発明の「ヒトから採取した全血50μLに精製水2mLを加えて溶血させ」た「被検試料」と、本件発明1の「前処理が施されていない全血検体」とは、「全血に係る検体試料」である点において共通する。 (ウ)甲1発明は、被検試料4μLにラテックス懸濁液を200μLを加えて、ラテックスに被検試料中のヘモグロビンA1cを吸着させるものであることから、ラテックス懸濁液中でラテックスと被検試料とを接触させるものといえる。 そうすると、甲1発明の「ラテックス懸濁液」と、本件発明1の「低張液」とは、「ラテックス粒子」と「全血に係る検体試料」との接触を行う「液」である点において共通する。 (エ)甲1発明の「抗ヘモグロビンA1cモノクローナル抗体複合体」と、本件発明1の「抗ヘモグロビンA1c抗体」とは、「ヘモグロビンA1cに対する抗体」である点において共通する。 (オ)甲1発明の「ヘモグロビンA1cを定量する、凝集イムノアッセイ法」は、本件発明1の「検体中のヘモグロビンA1cの免疫測定方法」に相当する。 (カ)上記(ア)ないし(オ)を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、 「 ラテックス粒子と全血に係る検体試料を液中で接触させ、次いで、ラテックス粒子上に吸着したヘモグロビンA1cとヘモグロビンA1cに対する抗体を接触させることを含む、検体中のヘモグロビンA1cの免疫測定方法。」 の発明である点において一致し、次の相違点1ないし3において相違する。 (相違点1) ラテックス粒子と接触させる全血に係る検体試料が、本件発明1においては、「前処理が施されていない全血検体」であるのに対し、甲1発明においては、「全血50μLに精製水2mLを加えて溶血させ」た「被検試料」である点。 (相違点2) 「ラテックス粒子」と「全血に係る検体試料」とを、本件発明1においては、「低張液」中で接触させるのに対し、甲1発明においては、「抗原及び/又は抗体を実質的に吸着していない状態にある粒径0.12μmのラテックスを12.5mMグリシン緩衝液 pH8.2(18.8mM塩化ナトリウムを含む)で希釈して0.2%濃度としたラテックス懸濁液」中で接触させるものの、「低張液」中であることは特定されていない点。 (相違点3) ヘモグロビンA1cに対する抗体が、本件発明1においては、複合体であることが特定されていない「抗ヘモグロビンA1c抗体」であるのに対し、甲1発明においては、「抗ヘモグロビンA1cモノクローナル抗体複合体」である点。 イ そこで、上記相違点1に係る構成が容易想到であるかについて検討する。 本件発明1は、前処理が施されていない全血検体を用いるとともに、ラテックス粒子との接触を上記相違点2に係る低張液中で行うことと相まって、全血の溶血工程とヘモグロビンのラテックス粒子への吸着工程とを一工程で行えるようにしたものである。 これに対し、甲2には、不溶性粒子と被検体試料中の抗原あるいは抗体とを凝集反応させる免疫測定方法が記載されているが、用いる被検体試料は、全血を低張液と混合することにより全血を強制的に溶血させたものであるから、本件発明1で特定される「前処理が施されていない全血検体」には該当しない。 甲3には、検体中に存在するヘモグロビンを未感作ラテックス表面に吸着させるヘモグロビンA1cのラテックス凝集法が記載されているが、未感作ラテックス液中に添加される全血検体は、全血検体を検体希釈液で溶血させたものであり、本件発明1で特定される「前処理が施されていない全血検体」には該当しない。 甲6には、検体中に存在するヘモグロビンをヘモグロビンA1c及びヘモグロビンA1cと反応する抗体のいずれをも結合していないラテックスに吸着させるヘモグロビンA1cの免疫測定方法が記載されているが、用いる検体は、人血液をEDTA採血管で採血後、2時間放置して沈殿した血球層10μLをとり、精製水1mLで希釈し、これを-20℃で凍結保存し使用直前に融解したものであるから、精製水を用いた希釈によって溶血しているものと認められる。よって、甲6の検体は、本件発明1で特定される「前処理が施されていない全血検体」には該当しない。 また、甲4及び5にも、ラテックス粒子と前処理が施されていない全血検体とを接触させることは記載されていない。 してみると、甲1ないし6には、ラテックス粒子と接触させる全血に係る検体試料として前処理が施されていない全血検体を用いることを動機付ける記載はないから、甲1ないし6に接した当業者といえども、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を容易に想到することができたとはいえない。 ウ したがって、上記相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1ないし6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 以上のとおりであるから、本件発明1についての特許異議申立人の取消理由1には理由がない。 特許異議申立人は、当業者は、技術革新の流れとして溶血工程と吸着工程の効率化、すなわち時間スケールの短縮の流れも認識しているはずであり、溶血工程と吸着工程の時間バランスについて検討することは自然な流れであるから、その試行錯誤の中で仮に溶血工程の時間をゼロにすること、すなわち、溶血工程自体を省略することを選択肢の一つとして試すことに想到することは突飛なことではなく、ラテックス粒子を浮遊させた低張液に直接全血を接触させることを試してみる動機は十分存在したと考えられる旨主張している。 しかしながら、仮に時間スケールの短縮という課題が存在していた場合、各工程にかかる時間を短縮するための手段を模索することは自然な取組であるといえるが、必要性があって行っている工程を、何の根拠もなく省略することが、自然な発想であるとは認められない。 よって、特許異議申立人の上記主張は理由がない。 (2)本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1を更に減縮したものであるところ、本件発明1についての特許異議申立人の取消理由1に理由がないことは、上記(1)で検討したとおりであるから、本件発明2及び3についての特許異議申立人の取消理由1も同様に理由がない。 2 特許法第36条第4項第1号に規定する要件に係る申立て(取消理由2)について 特許異議申立人は、 (1)本件特許明細書の【0013】には、「本発明で用いる低張液は、全血を溶血させることができる程度に浸透圧が低い水性の液体であれば特に限定されない」と記載されているにもかかわらず、【0034】ないし【0037】に記載された溶血試験において対照として用いられた、アジ化ナトリウムを主成分とする低浸透圧の緩衝液である市販のキットに含まれる検体希釈液では、クリアな溶血は認められなかったこと、 (2)上記のアジ化ナトリウムを主成分とする低浸透圧の緩衝液について、具体的な処方や濃度が全く開示されていないこと、 (3)本件発明の実施例で使用されている、緩衝能が中性からアルカリ側で最大となるグッドバッファーを主成分とする低浸透圧の緩衝液(R1緩衝液)は、グッドバッファーの種類や他の成分が不明であるとともに、具体的な溶剤の濃度や浸透圧が全く開示されていないこと、 から、採用し得る低張液を判断する術はなく、本件発明を実施するためにはほぼ偶然に頼った過度の試行錯誤が必要であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない旨主張している。 そこで、特許異議申立人の上記主張について検討する。 全血を低張液やグッドバッファーを含む緩衝液等を用いて溶血させることは、甲2、3、9ないし11に記載されているように従来周知な技術事項であることから、本件発明を実施するための溶血に適した浸透圧や緩衝液の種類を見いだすことは、当業者にとって過度の試行錯誤を要することとは認められない。 そうすると、採用し得る低張液の具体的な成分や浸透圧が開示されていないことをもって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないということはできない。 よって、本件発明についての特許異議申立人の取消理由2には理由がない。 3 特許法第36条第6項第1号に規定する要件に係る申立て(取消理由3)について 特許異議申立人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでないことから、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明により十分にサポートされたものではない旨主張している。 しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえないことは、上記2で検討したとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 よって、本件発明についての特許異議申立人の取消理由3には理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-700077

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