特許異議申立
2018-700067
エステル交換油及びこれをハードストックとする可塑性油脂組成物
- 審判番号
- 2018-700067
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-519938
- 登録番号
- 特許第6172423号(P6172423)
- 請求日
- 2018年01月25日
- 審決日
- 2019年06月21日
- 公報発行日
- 2019年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】不二製油株式会社
- 【異議申立人】川端 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 佐々木 秀次
- 審判官 木村 敏康
- 審判官 蔵野 雅昭
- 分類
- P1651.113-YAA(C11C) / P1651.121-YAA(C11C) / P1651.537-YAA(C11C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6172423号発明「エステル交換油及びこれをハードストックとする可塑性油脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6172423号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、〔3~8〕及び〔9~14〕について、訂正することを認める。
特許第6172423号の請求項3~14に係る特許を維持する。
特許第6172423号の請求項1、2に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6172423号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成29年2月17日〔優先権主張 平成28年2月22日(JP)日本国〕に特願2017-519938号として特許出願され、同年7月14日に特許権の設定登録がされ、同年8月2日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~8に係る発明の特許に対し、平成30年1月25日に川端慶子(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
平成30年 4月24日付け 取消理由通知
同年 6月20日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 7月 5日付け 訂正請求があった旨の通知
同年10月 2日付け 訂正拒絶理由通知
平成31年 1月 8日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 1月24日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 2月 4日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、特許異議申立人は、平成30年7月5日付け及び平成31年2月4日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。
また、特許権者は、平成30年10月2日付けの訂正拒絶理由に対して、指定した期間内に何ら応答していない。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
平成30年6月20日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされるところ、
平成31年1月24日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は『特許第6172423号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求める。』というものであり、その内容は、以下の訂正事項1~7からなるものである(なお、訂正箇所に下線を付す。)。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項3において
「炭素数16個の飽和脂肪酸(以下、C16とする)、炭素数18個の飽和脂肪酸(以下、C18とする)、炭素数22個の飽和脂肪酸(以下、C22とする)の組成比が、下記数式を全て満たす、請求項1又は請求項2に記載の非選択的エステル交換油。
0.2 ≦ C16/C18 ≦ 2.0
5.0 ≦ C16/C22 ≦ 30.0
5.0 ≦ C18/C22」とあるもののうち、訂正前の請求項1の
「構成脂肪酸中の飽和脂肪酸が70~85重量%であり、炭素数12個の飽和脂肪酸(以下、C12とする)が10重量%未満、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸が15~30重量%である、非選択的エステル交換油。」を直接に引用する請求項3の記載を、独立形式での記載に改め、訂正後の請求項3において
「構成脂肪酸中の飽和脂肪酸が70~85重量%であり、炭素数12個の飽和脂肪酸(以下、C12とする)が10重量%未満、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸が15~30重量%であって、炭素数16個の飽和脂肪酸(以下、C16とする)、炭素数18個の飽和脂肪酸(以下、C18とする)、炭素数22個の飽和脂肪酸(以下、C22とする)の組成比が、下記数式を全て満たす、非選択的エステル交換油。
0.2 ≦ C16/C18 ≦ 2.0
5.0 ≦ C16/C22 ≦ 30.0
5.0 ≦ C18/C22」に訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項4において
「上昇融点が45~60℃である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の非選択的エステル交換油。」とあるもののうち、訂正前の請求項1を直接に引用する請求項3を直接に引用する請求項4の記載を、訂正後の請求項4において
「上昇融点が45~60℃である、請求項3に記載の非選択的エステル交換油。」に訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の請求項5において
「請求項1~請求項4の何れか1項に記載の非選択的エステル交換油30~5重量%、及び液体油70~95重量%含有する、可塑性油脂組成物。」とあるもののうち、訂正前の請求項1を直接に引用する請求項3を直接又は間接に引用する請求項5の記載を、訂正後の請求項5において
「請求項3又は請求項4の何れか1項に記載の非選択的エステル交換油30~5重量%、及び液体油70~95重量%含有する、可塑性油脂組成物。」に訂正する。
(訂正前の請求項1を直接に引用する請求項3を直接又は間接に引用する請求項5の記載を直接又は間接に引用する請求項6~請求項8も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
訂正前の請求項3において
「炭素数16個の飽和脂肪酸(以下、C16とする)、炭素数18個の飽和脂肪酸(以下、C18とする)、炭素数22個の飽和脂肪酸(以下、C22とする)の組成比が、下記数式を全て満たす、請求項1又は請求項2に記載の非選択的エステル交換油。
0.2 ≦ C16/C18 ≦ 2.0
5.0 ≦ C16/C22 ≦ 30.0
5.0 ≦ C18/C22」とあるもののうち、訂正前の請求項1の
「構成脂肪酸中の飽和脂肪酸が70~85重量%であり、炭素数12個の飽和脂肪酸(以下、C12とする)が10重量%未満、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸が15~30重量%である、非選択的エステル交換油。」を直接に引用する請求項2の
「炭素数18個の一価不飽和脂肪酸(以下、C18:1とする)が10~25重量%である、請求項1に記載の非選択的エステル交換油。」を直接に引用する請求項3の記載を、新たな請求項として独立形式での記載に改め、訂正後の請求項9において
「特許請求の範囲の請求項3の請求項2を引用するものについて、「構成脂肪酸中の飽和脂肪酸が70~85重量%であり、C12が10重量%未満、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸が15~30重量%、炭素数18個の一価不飽和脂肪酸(以下、C18:1とする)が10~25重量%であって、C16、C18、C22の組成比が、下記数式を全て満たす、非選択的エステル交換油。
0.2 ≦ C16/C18 ≦ 2.0
5.0 ≦ C16/C22 ≦ 30.0
5.0 ≦ C18/C22」に訂正する。
(7)訂正事項7
訂正前の請求項4において
「上昇融点が45~60℃である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の非選択的エステル交換油。」とあるもののうち、訂正前の請求項2を直接に引用する請求項3を直接に引用する請求項4の記載を、訂正後の新たな請求項10として
「上昇融点が45~60℃である、請求項9に記載の非選択的エステル交換油。」に訂正するとともに、
訂正前の請求項5において
「請求項1~請求項4の何れか1項に記載の非選択的エステル交換油30~5重量%、及び液体油70~95重量%含有する、可塑性油脂組成物。」とあるもののうち、訂正前の請求項2を直接に引用する請求項3を直接又は間接に引用する請求項5の記載を、訂正後の新たな請求項11として
「請求項9又は請求項10の何れか1項に記載の非選択的エステル交換油30~5重量%、及び液体油70~95重量%含有する、可塑性油脂組成物。」に訂正するとともに、
訂正前の請求項6において
「請求項5に記載の可塑性油脂組成物中の飽和脂肪酸含有量が25重量%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。」とあるもののうち、訂正前の請求項2を直接に引用する請求項3を直接又は間接に引用する請求項6の記載を、訂正後の新たな請求項12として
「請求項11に記載の可塑性油脂組成物中の飽和脂肪酸含有量が25重量%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。」に訂正するとともに、
訂正前の請求項7において
「請求項5又は請求項6に記載の可塑性油脂組成物中のトランス酸含有量が2.0g/100g以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。」とあるもののうち、訂正前の請求項2を直接に引用する請求項3を直接又は間接に引用する請求項7の記載を、訂正後の新たな請求項13として
「請求項11又は請求項12に記載の可塑性油脂組成物中のトランス酸含有量が2.0g/100g以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。」に訂正するとともに、
訂正前の請求項8において
「60℃で融解させたのち、15℃で保持し、油脂のSFC%が14%に達するのに要する時間が10分以内である、請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の可塑性油脂組成物。」とあるもののうち、訂正前の請求項2を直接に引用する請求項3を直接又は間接に引用する請求項8の記載を、訂正後の新たな請求項14として
「60℃で融解させたのち、15℃で保持し、油脂のSFC%が14%に達するのに要する時間が10分以内である、請求項11~請求項13のいずれか1項に記載の可塑性油脂組成物。」に訂正する。
2.訂正事項1~7の適否
(1)訂正事項1~2
ア.訂正の目的
訂正事項1及び2は、訂正前の請求項1及び2をそれぞれ削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項1及び2による訂正前の請求項1及び2の削除にともない、訂正前の請求項1~2を直接又は間接に引用する請求項3~8も同様に同1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正がなされているものである。
イ.拡張又は変更の存否
訂正事項1及び2は、訂正前の請求項1及び2の各々を削除するものであるから、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ.新規事項の有無
訂正事項1及び2は、訂正前の請求項1及び2の各々を削除するものであるから、いずれも新規事項を導入するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(2)訂正事項3及び6
ア.訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項1~2を直接又は間接に引用する請求項3の記載のうち、訂正前の請求項1を直接に引用する請求項2を直接に引用するものを削除するとともに、訂正前の請求項1を直接に引用する請求項3の記載を独立形式での記載に改めるものであり、
訂正事項6は、訂正前の請求項1~2を直接又は間接に引用する請求項3の記載のうち、訂正前の請求項1を直接に引用するものを削除するとともに、訂正前の請求項1を直接に引用する請求項2を直接に引用する請求項3の記載を独立形式での記載に改めるものである。
したがって、訂正事項3及び6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものに該当する。
イ.拡張又は変更の存否
訂正事項3及び6は、上記アに示したように「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものであるから、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ.新規事項の有無
訂正事項3及び6は、上記アに示したように「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものであるから、いずれも新規事項を導入するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)訂正事項4~5及び7
ア.訂正の目的
訂正事項4~5及び7は、訂正事項1~2の請求項の削除、並びに訂正事項3及び6の記載形式の訂正にともない、その引用形式の記載を整えて、訂正前の請求項4~8の範囲から訂正前の請求項3を引用しない範囲のものを削除するためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ.拡張又は変更の存否
訂正事項4~5及び7は、訂正前の請求項4~8の範囲から訂正前の請求項3を引用しない範囲のものを削除するためのものであるから、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ.新規事項の有無
訂正事項4~5及び7は、訂正前の請求項4~8の範囲から訂正前の請求項3を引用しない範囲のものを削除するためのものであるから、いずれも新規事項を導入するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(4)一群の請求項について
訂正事項1~7に係る訂正前の請求項1~8について、その請求項2~8はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用しているものであるから、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~14は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、訂正事項1~7による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。
3.訂正の適否のまとめ
以上総括するに、訂正事項1~7による本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1、2、〔3~8〕及び〔9~14〕について訂正を認める。
第3 本件発明
本件訂正により訂正された本件特許の請求項1~14に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明14」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】構成脂肪酸中の飽和脂肪酸が70~85重量%であり、炭素数12個の飽和脂肪酸(以下、C12とする)が10重量%未満、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸が15~30重量%であって、炭素数16個の飽和脂肪酸(以下、C16とする)、炭素数18個の飽和脂肪酸(以下、C18とする)、炭素数22個の飽和脂肪酸(以下、C22とする)の組成比が、下記数式を全て満たす、非選択的エステル交換油。
0.2 ≦ C16/C18 ≦ 2.0
5.0 ≦ C16/C22 ≦ 30.0
5.0 ≦ C18/C22
【請求項4】上昇融点が45~60℃である、請求項3に記載の非選択的エステル交換油。
【請求項5】請求項3又は請求項4の何れか1項に記載の非選択的エステル交換油30~5重量%、及び液体油70~95重量%含有する、可塑性油脂組成物。
【請求項6】請求項5に記載の可塑性油脂組成物中の飽和脂肪酸含有量が25重量%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。
【請求項7】請求項5又は請求項6に記載の可塑性油脂組成物中のトランス酸含有量が2.0g/100g以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。
【請求項8】60℃で融解させたのち、15℃で保持し、油脂のSFC%が14%に達するのに要する時間が10分以内である、請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の可塑性油脂組成物。
【請求項9】特許請求の範囲の請求項3の請求項2を引用するものについて、「構成脂肪酸中の飽和脂肪酸が70~85重量%であり、C12が10重量%未満、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸が15~30重量%、炭素数18個の一価不飽和脂肪酸(以下、C18:1とする)が10~25重量%であって、C16、C18、C22の組成比が、下記数式を全て満たす、非選択的エステル交換油。
0.2 ≦ C16/C18 ≦ 2.0
5.0 ≦ C16/C22 ≦ 30.0
5.0 ≦ C18/C22
【請求項10】上昇融点が45~60℃である、請求項9に記載の非選択的エステル交換油。
【請求項11】請求項9又は請求項10の何れか1項に記載の非選択的エステル交換油30~5重量%、及び液体油70~95重量%含有する、可塑性油脂組成物。
【請求項12】請求項11に記載の可塑性油脂組成物中の飽和脂肪酸含有量が25重量%以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。
【請求項13】請求項11又は請求項12に記載の可塑性油脂組成物中のトランス酸含有量が2.0g/100g以下であることを特徴とする可塑性油脂組成物。
【請求項14】60℃で融解させたのち、15℃で保持し、油脂のSFC%が14%に達するのに要する時間が10分以内である、請求項11~請求項13のいずれか1項に記載の可塑性油脂組成物。」
第4 当審の判断
1.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
本件特許の訂正前の請求項1~8に係る発明に対して平成30年4月24日付けで特許権者に通知した取消理由、及び平成31年1月8日付けの取消理由〈決定の予告〉の概要は次のとおりである。
理由1.本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第1項第4号の規定により取り消されるべきものである。
記
本件明細書の記載によっては、C16、C18又はC22の飽和脂肪酸の組成比を特定の数値で示す場合にのみ良好な口溶けと保存物性を示していると理解するにとどまり、本件発明1の、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸含量及びC12の飽和脂肪酸の含量の規定のみで本件発明の課題が解決できるとはいえない。本件請求項2,4~8についても同様である。
理由2.本件特許の請求項1,2,4,5,7,8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証~甲第6号証それぞれに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、取り消すべきものである。
理由3.本件特許の請求項1,2,4~8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証~甲第6号証のそれぞれに記載された発明、又は甲第1号証~甲第6号証のそれぞれに記載された発明及び周知の技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、取り消すべきものである。
(2)引用刊行物及びその記載事項
取消理由通知において提示した甲第1~13号証は、次のとおりである。
甲第1号証:特開2015-136329号公報
甲第2号証:特開2006-160906号公報
甲第3号証:特開2006-325509号公報
甲第4号証:特開2009-81999号公報
甲第5号証:特開2008-220290号公報
甲第6号証:特開2015-136328号公報
甲第7号証:阿部芳郎監修、油脂・油糧ハンドブック、初版第1刷、昭和63年5月25日発行、第260頁~第261頁、第480頁~第483頁
甲第8号証:特開2014-50343号公報
甲第9号証:特公昭51-33922号公報
甲第10号証:特開2005-176615号公報
甲第11号証:特開2010-130919号公報
甲第12号証:特開2012-23号公報
甲第13号証:特開2012-105583号公報
2.理由1(サポート要件)について
理由1の記載不備についての指摘は、本件特許の1~2及び4~8に係る発明は、本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められないということを趣旨とするものであるところ、訂正後の請求項1~2は削除され、訂正後の請求項3~14に係る発明は、理由1を通知していない訂正前の請求項3に記載された事項を発明特定事項とするものに限定されている。
したがって、取消理由通知において示した理由1により、訂正後の請求項3~14に係る発明の特許を取り消すことはできない。
3.理由2(新規性)及び理由3(進歩性)について
理由2の新規性についての指摘は、本件特許の1~2、4~5及び7~8に係る発明が新規性を有さないことを趣旨とするものであり、理由3の進歩性についての指摘は、本件特許の1~2及び4~8に係る発明が進歩性を有さないことを趣旨とするものであるところ、訂正後の請求項1~2は削除され、訂正後の請求項3~14に係る発明は、理由2、3を通知していない訂正前の請求項3に記載された事項を発明特定事項とするものに限定されている。
したがって、取消理由通知において示した理由2及び3により、訂正後の請求項3~14に係る発明の特許を取り消すことはできない。
4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(新規性)
特許異議申立人が主張する申立理由1は「本件特許発明1、2、4、5、7は、甲第1号証乃至甲第8号証に記載の事項より、甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明である。」から、特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)に違反するというものである。
そして、申立理由1(新規性)は、上記「第4 1.(1)」に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。
(2)申立理由2(進歩性)
特許異議申立人が主張する申立理由2は「本件特許発明1、2、4乃至8は、甲第1号証乃至甲第10号証に記載の事項より、甲第1号証乃至甲第6号証及び甲第9号証乃至甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易にすることができたものである。」から、特許法第29条第2項(同法第113条第2号)に違反するというものである。
そして、申立理由2(進歩性)は、上記「第4 1.(1)」に示したとおり取消理由通知において採用されているから、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に該当しない。
(3)申立理由3(サポート要件)
ア.申立理由3の概要
特許異議申立人が主張する申立理由3は「本願の発明の詳細な説明や当該技術分野の技術常識を勘案しても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。他の請求項についても同様である。」から、特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)に違反するというものである。
そして、C22の飽和脂肪酸(ベヘン酸)は融点が非常に高く、これを相当量含むと口溶けが悪くなるなどが知られているところ、本件明細書の実施例1~3はいずれもC22を多く含む特殊な油脂である「ハイエルシン酸菜種極度硬化油」をエステル交換の油脂配合としており、
(あ)C22に関連する事項が請求項3の範囲外となる油脂についても同様の効果が得られるとは、本件明細書の記載及び技術常識を考慮しても当業者が推認できる根拠がないこと、並びに
(い)請求項3の範囲よりも、本件明細書の段落0019の「8.0<C16/C22≦15.0」及び同段落0020の「10.0≦C18/C22」の記載に基づいて発明の範囲が確定されるべきであること、
について主張をしている。
イ.判断
上記(あ)の請求項3の範囲外のものがサポート要件に違反する旨の主張について、訂正後の請求項3~14に係る発明は、訂正前の請求項3に記載された事項を発明特定事項とするものに限定されているので、この点についての記載不備は解消している。
上記(い)の請求項3の範囲が更に限定されるべきとの主張について、甲第11号証にはベヘン酸含量0.10~5.00質量%の範囲内外で、甲第12号証にはベヘン酸含量0.5~10質量%の範囲内外で、甲第13号証にはベヘン酸残基の占める割合が2.5~5.5質量%の範囲内外で、食感の良さなどの有用性が左右されることが示されている。
しかして、例えば、本件明細書の段落0030の「
」との記載にある実施例1のC22含有量の2.5重量%という値を0.5~5.0重量%の範囲まで拡張させた場合に、請求項3のC22に関連する組成比の範囲は「6.8≦C16/C22≦68」及び「8.7≦C18/C22」となるので、請求項3の「5.0≦C16/C22≦30.0」及び「5.0≦C18/C22」という範囲が、その実施例1~3の試験結果により裏付けられた範囲に比して不当に広すぎるとまでは認識できない。
したがって、甲第11~13号証を含む出願時の技術常識に照らし、本件発明3~14がサポート要件に違反するとはいえないから、申立理由3(サポート要件)について理由があるものとすることはできない。
4.むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、本件発明3~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、この他に本件発明3~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、訂正前の請求項1~2は削除されているので、請求項1~2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2018-700067