特許拒絶査定不服審判
2018-006102
電子写真感光体、電子写真感光体の製造方法、プロセスカートリッジおよび電子写真装置
- 審判番号
- 2018-006102
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-219644外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年05月02日
- 審決日
- 2019年05月08日
- 公報発行日
- 2019年08月30日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (G03G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-219644「電子写真感光体,電子写真感光体の製造方法,プロセスカートリッジおよび電子写真装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月2日出願公開,特開2014-186296〕について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は,成り立たない。
理由
【理 由】
第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2013-219644号(以下「本件出願」という。)は,平成25年10月22日(優先権主張 平成24年11月30日,平成25年2月19日)の出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成28年10月20日付け:手続補正書
平成29年10月17日付け:拒絶理由通知書
平成29年12月22日付け:意見書
平成29年12月22日付け:手続補正書
平成30年 1月30日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年 5月 2日付け:審判請求書
なお,審判請求書は平成30年6月14日付け手続補正書により補正されている。
2 本願発明
本件出願の請求項4に係る発明は,平成29年12月22日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項4に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである(以下「本願発明」という。)。
「 支持体,下引き層,および,感光層をこの順に有する電子写真感光体において,
該下引き層が,
シランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子,
結着樹脂,ならびに,
オクチル酸亜鉛,ナフテン酸亜鉛,およびサリチル酸亜鉛から選択される有機酸金属塩を含有し,
該下引き層に含有される,該有機酸金属塩の含有量と該金属酸化物粒子の含有量の比率(有機酸金属塩/金属酸化物粒子)が,1/200以上2/10以下(質量比)であることを特徴とする電子写真感光体。」
3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,その最先の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。
引用文献3:特開2007-102249号公報
引用文献5:特開2005-10662号公報
なお,引用文献5は周知技術を例示する文献として挙げられたものである。
第2 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献3は,本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,引用文献3には「第1の群の本発明」と「第2の群の本発明」が記載されており,本願発明に関係するのは後者であるため,後者に関する記載を摘記する。また,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,複写機,プリンター等に用いる電子写真感光体及びこれを用いた画像形成装置に関し,詳しくは環境安定性に優れた高耐久性の電子写真感光体及びこれを用いた画像形成装置に関し,さらに詳しくは…(省略)…金属石鹸を含有する中間層を導電性支持体上に有することにより長期間保存安定性に優れた電子写真感光体並びにこれらを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
…(省略)…
【0005】
一方,従来から電子写真感光体の支持体と感光層との間に中間層を設けることによりその物性の改善を図ることが試みられており,例えば特許文献8(特開平5-313398号公報)には,中間層にチタネート系カップリング剤を含有させることで,分散性の向上,厚膜化による,温湿度の影響を受けない電子写真感光体が得られることが開示されている。
また,特許文献9:特開平6-236062号公報,特許文献10:特開平7-271078号公報,特許文献11:特開平8-166679号公報,特許文献12:特開平9-80787号公報,特許文献13:特開平9-80788号公報,特許文献14:特開平9-80789号公報等には,中間層にシランカップリング剤,有機金属化合物を含有させることで,上記と同様な効果を持たせた電子写真感光体を得ることが開示されている。
【0006】
しかし,特許文献8(特開平5-313398号公報)に記載のチタネート系カップリング剤を用いた場合では,高温高湿環境下に感光体を長期間保存すると,帯電性の低下,残留電位の上昇が起こってしまう。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
…(省略)…本発明の第2の目的は,上記従来技術の問題点に鑑み,比較的単純な構造の脂肪酸金属塩(金属石鹸)を適量中間層に添加することで,チタネート系カップリング剤と同様な分散性を向上させる効果をもち,しかも,長期間保存においても上記静電特性の劣化が小さい感光体,及びこれを用いた画像形成装置を提供することにある。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0009】
…(省略)…
【0010】
…(省略)…我々は,上記課題に関する検討の過程で,比較的単純な構造の脂肪酸金属塩(金属石鹸)を適量中間層に添加することにより,意外にも,チタネート系カップリング剤と同様な分散性を向上させる効果をもち,しかも,長期間保存においても上記静電特性の劣化が小さい感光体が得られることを見い出し,これに基いて鋭意検討の結果,第2の群の本発明に到達した。
…(省略)…
【0013】
[第2の群の本発明]
また上記第2の目的は,本発明の(8)「導電性支持体と感光層との間に顔料と結着樹脂とを主成分とした中間層を設けてなる電子写真感光体において,該中間層の顔料(P)と結着樹脂(R)との比率P/Rが体積比で1/1乃至3/1の範囲であり,かつ該中間層中に金属石鹸を含有することを特徴とする電子写真感光体」,
(9)「前記金属石鹸がオクチル酸塩であることを特徴とする前記第(8)項に記載の電子写真感光体」,
(10)「前記金属石鹸が該中間層中の顔料(P)に対して0.1重量%乃至5重量%であることを特徴とする前記第(8)項または第(9)項に記載の電子写真感光体」,
(11)「前記顔料(P)が酸化チタンであることを特徴とする前記第(8)項に記載の電子写真感光体」,
…(省略)…
(14)「前記酸化チタンの純度が99%以上であることを特徴とする前記第(8)項,第(11)項,第(12)項又は第(13)項のいずれか1に記載の電子写真感光体」により達成される。
…(省略)…
【発明の効果】
【0015】
…(省略)…第2の群の本発明においては,前記第(8)項の金属石鹸を添加することで,高温高湿下12ヶ月保存後においても,繰り返し疲労による帯電性や残留電位の劣化が少なく,安定性に優れた電子写真感光体を形成でき,前記第(9)項のように,非常に単純な構造であるオクチル酸塩(直鎖状金属塩)を添加することで,より高い効果が得られ,前記第(10)項のように,金属石鹸の添加量を顔料に対して0.1重量%乃至5重量%とすることで,より高い効果が得られ,前記第(11)項のように,顔料を酸化チタンとすることで,より高い効果が得られ,…(省略)…前記第(14)項のように,顔料の酸化チタンの純度を99%以上とすることで,高温高湿下での繰り返し疲労による帯電性や残留電位の劣化が小さく,安定性に優れた電子写真感光体を形成できる。」
ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下,図面を用いて本発明を詳細に説明する。…(省略)…図4は第2の群の本発明を適用して導電性支持体(11)上に中間層(13)を介在させた層構成のものである。
…(省略)…
【0065】
次に[第2の群の本発明]について詳細に説明する。
図4に示されるように,第2の群の本発明においては,導電性支持体(11)上に,金属石鹸を含有する中間層(13)を介して感光層が設けられる。
第2の群の本発明に用いる金属石鹸としては,例えば,オクチル酸,ステアリン酸,ラウリン酸,ナフテン酸等の脂肪酸のZn,Co,Mn,Ni,Fe,Pb,Cu,Sn,Al,Mg,Ca,Ba,Liの塩などが挙げられるが,顔料の分散性がより良好な,鎖状の脂肪酸が好ましい。また,第2の群の本発明に用いる金属石鹸は,顔料に対して0.1重量%乃至5重量%の範囲が好ましく,それ以下だと顔料の分散性がやや低下し,また,それ以上だと,静電疲労後の残留電位がやや上昇する。
【0066】
第2の群の本発明における中間層に分散する顔料としては可視光及び近赤外光に殆ど吸収のない,白色またはこれに近いものが,感光体の高感度化の面から見て望ましい。このような顔料として,例えば,無機質の酸化チタン,亜鉛華,硫化亜鉛,鉛白,リトポンなど白色顔料,アルミナ,炭酸カルシウム,硫酸バリウムなどの体質顔料などが挙げられる。特にレーザ光のような可干渉光で感光体に書き込みを行なう場合には,モアレの発生を防止するために,拡散反射率の大きな白色顔料を用いることが良く,酸化チタンが最適である。
…(省略)…
【0068】
またさらに,この酸化チタンは吸湿性がなく環境変動の少ないものが望ましい。即ち,酸化チタン顔料の中には不純物として,Na2O,K2Oのような吸湿性のものがあり,これが高湿時に吸湿して感光体特性を劣化させる原因となっている。したがって,この型の酸化チタン顔料の純度は99.0重量%以上が望ましい。
【0069】
第2の群の本発明における中間層の樹脂としては適宜のものを用いることができるが,その上に感光層を溶剤で塗布することを考え合わせると,一般の有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂が望ましい。このような樹脂としてはポリビニルアルコール,カゼイン,ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂,共重合ナイロン,メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂,ポリウレタン,メラミン樹脂,エポキシ樹脂等の三次元網目構造を形成する硬化型樹脂などが挙げられる。
【0070】
第2の群の本発明の電子写真感光体の感光層は電荷発生層,電荷輸送層を組み合わせて,単層型もしくは,二つ以上の層からなる機能分離型をとることができる。
…(省略)…
【0081】
第2の群の本発明の電子写真感光体に用いられる導電性支持体としては,アルミニウム,黄銅,ステンレス,ニッケル等の金属ドラム及びシート,ポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレン,ナイロン,紙等の材料にアルミニウム,ニッケルなどの金属を蒸着したり,ラミネート,または導電性塗料を塗工したもの,カーボン等の導電性顔料を分散したプラスチックのドラム及びシートなどが挙げられる。」
エ 「【実施例】
【0082】
…(省略)…
【0123】
[第2の群の本発明について]
次に,第2の群の本発明を実施例によって具体的に説明する。
実施例33
アルキド樹脂〔ベッコゾール TD-50-30(大日本インキ化学工業社製)〕18重量%とメラミン樹脂〔ベッカミン P-138(大日本インキ化学工業社製)〕4重量%と金属石鹸(ナフテン酸亜鉛)〔ナフテックスZn(日本化学産業社製)〕0.6重量%をメチルエチルケトン(MEK)30重量%に溶解し,これに純度99.7%の酸化チタン微粉末〔TM-1(富士チタン工業製)〕60重量%を加え,ボールミルで24時間分散し,中間層用塗工液を作成した。これを直径30mm,長さ340mmのアルミニウムドラムに浸漬塗布し,150℃で20分乾燥し,厚さ10μmの中間層を形成した。
【0124】
次にポリビニルブチラール樹脂〔エスレック BL-S(積水化学工業社製)〕4重量%をシクロヘキサノン150重量%に溶解し,これに下記構造式(21)のトリスアゾ顔料10重量%を加えてボールミルで48時間分散後さらにシクロヘキサノン210重量%を加えて3時間分散を行なった。これを容器に取り出し,固形分が1.5重量%となるようにシクロヘキサノンで希釈した。こうして得られた電荷発生層用塗工液を前記中間層上に浸漬塗布し,150℃10分間乾燥し,厚み0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0125】
【化26】
【0126】
次に,電荷輸送物質として下記構造式(22)のα-フェニルスチルベン化合物8重量%,ポリカーボネート樹脂〔パンライトL-1250(帝人化成社製)〕10重量%,シリコーンオイル〔KF-50(信越化学工業社製)〕0.001重量%を90重量%の塩化メチレンに溶解した。こうして得られた電荷輸送層用塗布液を前記電荷発生層上に浸漬塗布し,100℃10分間乾燥させ,厚さ25μmの電荷輸送層を形成した。
【0127】
【化27】
【0128】
実施例34
実施例33において,ナフテン酸亜鉛の代わりにオクチル酸亜鉛〔オクチックスZn(日本化学産業社製)〕を用いた以外は,実施例33と同様にして実施例34の電子写真感光体を作成した。
【0129】
実施例35
実施例33において,中間層中への金属石鹸の添加量を0.12重量%にした以外は,実施例33と同様にして実施例35の電子写真感光体を作成した。
【0130】
実施例36
実施例33において,中間層中への金属石鹸の添加量を3重量%にした以外は,実施例33と同様にして実施例36の電子写真感光体を作成した。
【0131】
実施例37
実施例33において,中間層中への金属石鹸の添加量を0.03重量%にした以外は,実施例33と同様にして実施例37の電子写真感光体を作成した。
【0132】
実施例38
実施例33において,中間層中への金属石鹸の添加量を4.8重量%にした以外は,実施例33と同様にして実施例38の電子写真感光体を作成した。
…(省略)…
【0140】
以上のようにして作られた電子写真感光体を,30℃,80%RHの条件下で12ヶ月暗所保存し,その後,20℃,50%RHの環境において,実機内で感光体の表面電位が測定できるように改造した普通紙複写機〔imagio MF250(リコー社製)〕にて白紙画像を出力させ,初期における地肌汚れと実機内の暗部電位VD(V)を,黒ベタ画像を出力させて明部電位VL(V)を評価した。
【0141】
その後,そのままの環境で暗箱中にて電子写真感光体ドラムを1000rpmで回転させながら,コロナ帯電及び露光(LEDアレイ λ=660nm)により表面電位が-850V,通過電流が-50μAになるように調整して,60分間の強制疲労をかけた直後の白色画像の地肌汚れと実機内暗部電位VD’(V)と実機内明部電位VL’(V)を初期と同様に評価した。
【0142】
地肌汚れの評価は複写画像をルーペで観察し,1cm2あたりの0.05mm以上の黒斑点の個数で判定した。黒斑点の個数が1個未満の画像を○,1~5個の画像を△,6個以上の画像を×とした。なお,評価結果が○,△であれば実用になるが,×であれば実用に適さない場合がある。表2にその結果を示す。
【0143】
【表2】
*)チタネート系カップリング剤添加量(wt%)
【0144】
このように,金属石鹸の添加量,顔料と樹脂の体積比を実施例の範囲とすることで,疲労後においても,良好な帯電性,残留電位,画像が得られる。
【0145】
実施例42
実施例33において,中間層中の酸化チタン微粉末を純度97.0%の酸化チタン微粉末〔JR(帝国化工製)〕に変えた以外は実施例33と同様にして実施例42の電子写真感光体を作成した。
【0146】
実施例43
実施例34において,中間層中の酸化チタン微粉末を純度97.0%の酸化チタン微粉末〔JR(帝国化工製)〕に変えた以外は実施例34と同様にして実施例43の電子写真感光体を作成した。
【0147】
このようにして得られた実施例42,43の感光体を実施例33,34の感光体とともに30℃,80%RHの条件下で12ヶ月暗所保存し,その後今度は30℃,80%RHの環境下で,20℃,50%RHのときと同様な評価を行なった。結果を表3に示す。
【0148】
【表3】
【0149】
このように,顔料である酸化チタンの純度を実施例の範囲とすることで,高温高湿条件下の疲労後においても,良好な帯電性,残留電位,画像が得られる。
…(省略)…
【0156】
このように,第2の群の本発明において中間層中の顔料の酸化チタンと酸化スズの比を実施例の範囲とすることで,低温低湿条件下の疲労後においても,良好な帯電性,残留電位,画像が得られる。」
オ 図4
(2) 引用発明
ア 引用発明A
引用文献3に記載された実施例33(【0123】~【0127】,【0140】~【0144】及び【0147】~【0149】)からみて,引用文献3には,次の発明が記載されている(以下「引用発明A」という。)。
「 アルキド樹脂18重量%とメラミン樹脂4重量%とナフテン酸亜鉛0.6重量%をメチルエチルケトン30重量%に溶解し,これに純度99.7%の酸化チタン微粉末60重量%を加えボールミルで分散して中間層用塗工液を作成し,
中間層用塗工液をアルミニウムドラムに浸漬塗布し,乾燥して厚さ10μmの中間層を形成し,
次に,厚さ0.2μmの電荷発生層を形成し,
次に,厚さ25μmの電荷輸送層を形成して作られた電子写真感光体であって,
30℃,80%RHの条件下で12ヶ月暗所保存し,その後,20℃,50%RHの環境において,普通紙複写機にて,初期における地肌汚れ,暗部電位VD(V)及び明部電位VL(V)を評価したところ,「○」(1cm2あたりの0.05mm以上の黒斑点の個数が1個未満),「-880V」及び「-200V」であり,その後,そのままの環境で強制疲労をかけた直後の地肌汚れ,暗部電位VD’(V)及び明部電位VL’(V)を初期と同様に評価したところ,「○」,「-865V」及び「-220V」であり,このように,疲労後においても,良好な帯電性,残留電位,画像が得られており,
また,
30℃,80%RHの条件下で12ヶ月暗所保存し,その後今度は30℃,80%RHの環境下で同様な評価を行なったところ,初期における地肌汚れ,暗部電位VD(V)及び明部電位VL(V)が「○」,「-880V」及び「-200V」,強制疲労をかけた直後の地肌汚れ,暗部電位VD’(V)及び明部電位VL’(V)が「○」,「-855V」及び「-205V」であり,このように,高温高湿条件下の疲労後においても,良好な帯電性,残留電位,画像が得られている,
電子写真感光体。」
イ 引用発明B
引用文献3に記載された実施例34(【0128】,【0140】~【0144】及び【0147】~【0149】)からみて,引用文献3には,次の発明も記載されている(以下「引用発明B」という。)。
「 引用発明Aにおいて,ナフテン酸亜鉛の代わりにオクチル酸亜鉛を用いた以外は,同様にして作成した電子写真感光体であって,
30℃,80%RHの条件下で12ヶ月暗所保存し,その後,20℃,50%RHの環境において,普通紙複写機にて,初期における地肌汚れ,暗部電位VD(V)及び明部電位VL(V)を評価したところ,「○」,「-880V」及び「-200V」であり,その後,そのままの環境で強制疲労をかけた直後の地肌汚れ,暗部電位VD’(V)及び明部電位VL’(V)を初期と同様に評価したところ,「○」,「-865V」及び「-210V」であり,このように,疲労後においても,良好な帯電性,残留電位,画像が得られており,
また,
30℃,80%RHの条件下で12ヶ月暗所保存し,その後今度は30℃,80%RHの環境下で同様な評価を行なったところ,初期における地肌汚れ,暗部電位VD(V)及び明部電位VL(V)が「○」,「-880V」及び「-200V」,強制疲労をかけた直後の地肌汚れ,暗部電位VD’(V)及び明部電位VL’(V)が「○」,「-860V」及び「-205V」であり,このように,高温高湿条件下の疲労後においても,良好な帯電性,残留電位,画像が得られている,
電子写真感光体。」
(3) 引用文献5の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献5は,本件優先日前に頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,周知技術の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,複写機,プリンター及びファクシミリ等に用いられる画像形成装置及びプロセスカートリッジに関する。
…(省略)…
【0035】
【発明の実施の形態】
…(省略)…
【0048】
次に,電子写真感光体12の好ましい例について詳述する。
…(省略)…
【0051】
図2に示す電子写真感光体12は,導電性支持体1上に中間層5,電荷発生層2,電荷輸送層3が順次積層された構造を有するものである。
…(省略)…
【0054】
まず,導電性支持体12について説明する。導電性支持体12の材質としては,導電性を有するものであれば特に制限されず,例えば,アルミニウム,ニッケル,クロム,ステンレス鋼等の金属類…(省略)…等が挙げられる。
…(省略)…
【0056】
次に,中間層5について説明する。中間層5は,微粒子8(金属酸化物微粒子及び/又は表面処理金属酸化物微粒子)及び結着樹脂を含んで構成されるものである。
【0057】
金属酸化物微粒子としては,例えば,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化錫,酸化アルミニウム等が挙げられ,中でも酸化チタン,酸化亜鉛が好ましく,酸化亜鉛が特に好ましい。かかる金属酸化物微粒子を用いることにより,電子写真感光体特性の環境変動を十分に低減し,筋状濃度ムラや黒点による画質欠陥の発生を十分に抑制することができる傾向がある。
【0058】
また,表面処理金属酸化物微粒子は,上記金属酸化物微粒子をシランカップリング剤,チタネート系カップリング剤及びアルミネート系カップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種のカップリング剤で被覆処理してなるものである。微粒子8としては,金属酸化物微粒子,表面処理金属酸化物微粒子をそれぞれ単独で又はこれらを組み合わせて用いることができるが,本発明においては,表面処理金属酸化物微粒子を単独で又は金属酸化物微粒子と組み合わせて用いることが好ましい。かかる表面処理金属酸化物微粒子を用いることにより,中間層5の比抵抗及びその環境依存性を容易に且つ確実に制御することができるとともに,感光層4への電荷注入の制御及び電子写真プロセスにおける残留電位の低減の双方を高水準で両立することができ,電子写真感光体特性の環境変動をより十分に低減し,且つ,筋状濃度ムラや黒点による画質欠陥の発生をより十分に抑制することができる傾向がある。
…(省略)…
【0064】
これらのカップリング剤を用いた被覆処理は,実質的にカップリング剤と反応しない溶媒中にカップリング剤を溶解させた溶液(処理液)に,被覆処理前の金属酸化物微粒子を分散させることにより行うことが好ましい。
…(省略)…
【0066】
このようにして被覆処理された金属酸化物微粒子について所定の熱処理(焼き付け)を施すことによって,カップリング剤の反応による被膜の形成をより完全なものとすることができる。
…(省略)…
【0075】
中間層5は,例えば微粒子8と結着樹脂とを所定の溶媒に混合/分散して中間層形成用塗布液を調製し,この中間層形成用塗布液を導電性支持体1上に塗布し,乾燥することによって形成することができる。
…(省略)…
【0224】
【発明の効果】
以上説明したように,本発明によれば,レーザビームの本数を数多くできる面発光レーザアレイを用いた場合であっても,電子写真感光体特性の環境変動を低減し,且つ,筋状の濃度ムラや黒点の発生を十分に抑制することができ,形成する画像の高画質化,画像形成速度の高速化及び装置の小型化が容易に実現可能な画像形成装置及びプロセスカートリジを提供することができる。」
イ 図2
2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明Aを対比すると,以下のとおりである。
ア 電子写真感光体
引用発明Aの「電子写真感光体」は,「中間層用塗工液をアルミニウムドラムに浸漬塗布し,乾燥して厚さ10μmの中間層を形成し」,「次に,厚さ0.2μmの電荷発生層を形成し」,「次に,厚さ25μmの電荷輸送層を形成して作られた」ものである。
ここで,電子写真感光体に関する技術常識を勘案すると,引用発明Aの「アルミニウムドラム」は,「電子写真感光体」において「支持体」として機能するものと理解される。同様に,引用発明Aの「中間層」は「下引き層」として,引用発明Aの「電荷発生層」と「電荷輸送層」を併せたものは「感光層」として機能するものと理解される。また,上記の各層の形成順からみて,引用発明Aの「電子写真感光体」は,「アルミニウムドラム」,「中間層」,並びに,「電荷発生層」及び「電荷輸送層」をこの順に有するといえる。
したがって,引用発明Aの「アルミニウムドラム」,「中間層」,「電荷発生層」と「電荷輸送層」を併せたもの,及び「電子写真感光体」は,それぞれ,本願発明の「支持体」,「下引き層」,「感光層」及び「電子写真感光体」に相当する。また,引用発明Aの「電子写真感光体」は,本願発明の「電子写真感光体」における,「支持体,下引き層,および,感光層をこの順に有する」という構成を具備する。
イ 下引き層
引用発明Aの「中間層」は,「アルキド樹脂18重量%とメラミン樹脂4重量%とナフテン酸亜鉛0.6重量%をメチルエチルケトン30重量%に溶解し,これに純度99.7%の酸化チタン微粉末60重量%を加えボールミルで分散して中間層用塗工液を作成し」,「中間層用塗工液をアルミニウムドラムに浸漬塗布し,乾燥して」「形成し」てなるものである。
ここで,引用発明Aの「中間層用塗工液」における上記の材料からみて,引用発明Aの「中間層」は,「酸化チタン微粉末」,「アルキド樹脂」及び「メラミン樹脂」,並びに,「ナフテン酸亜鉛」を含有する。また,物質に関する技術常識を勘案すると,引用発明Aの「酸化チタン微粉末」は,「金属酸化物粒子」に該当する。同様に,引用発明Aの「ナフテン酸亜鉛」は,「有機酸金属塩」に該当する。そして,電子写真感光体に関する技術常識を勘案すると,引用発明Aの「アルキド樹脂」及び「メラミン樹脂」は,「中間層」において「結着樹脂」として機能するものと理解される。
したがって,引用発明Aの「中間層」と本願発明の「下引き層」は,「金属酸化物粒子」,「結着樹脂,ならびに」,「オクチル酸亜鉛,ナフテン酸亜鉛,およびサリチル酸亜鉛から選択される有機酸金属塩を含有し」という構成において,共通する。
ウ 含有量の比率
引用発明Aの「中間層」は,前記イで述べた材料から形成してなる。
ここで,引用発明Aの「中間層」に含有される,「ナフテン酸亜鉛」の含有量と「酸化チタン微粉末」の含有量の比率(ナフテン酸亜鉛/酸化チタン微粉末)は,「ナフテン酸亜鉛」の含有量が0.6質量%,「酸化チタン微粉末」の含有量が60質量%であるから,1/100(質量比)と計算される。
したがって,引用発明Aの「中間層」は,本願発明の「下引き層」における,「該下引き層に含有される,該有機酸金属塩の含有量と該金属酸化物粒子の含有量の比率(有機酸金属塩/金属酸化物粒子)が,1/200以上2/10以下(質量比)である」という要件を満たす。
(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明Aは,次の構成で一致する。
「 支持体,下引き層,および,感光層をこの順に有する電子写真感光体において,
該下引き層が,
金属酸化物粒子,
結着樹脂,ならびに,
オクチル酸亜鉛,ナフテン酸亜鉛,およびサリチル酸亜鉛から選択される有機酸金属塩を含有し,
該下引き層に含有される,該有機酸金属塩の含有量と該金属酸化物粒子の含有量の比率(有機酸金属塩/金属酸化物粒子)が,1/200以上2/10以下(質量比)である電子写真感光体。」
イ 相違点
本願発明と引用発明Aは,次の点で相違する。
(相違点)
「金属酸化物粒子」が,本願発明は「シランカップリング剤で表面処理された」ものであるのに対して,引用発明Aは,このように特定されたものではない点。
(3) 判断
黒点の発生を抑制するために,電子写真感光体の中間層に含有させる金属酸化物粒子として,シランカップリング剤で被覆処理した金属酸化物粒子を用いることは,例えば,引用文献5(特に,【0051】~【0058】の下線部を参照。)に記載されているように,周知技術である。また,引用発明Aの「電子写真感光体」の「地肌汚れ」は「○」と評価され,実用になるものであるが,黒点による画質欠陥の発生をより十分に抑制することができた方が良いことは,「電子写真感光体」として望まれる性質からみて,明らかである。
そうしてみると,引用発明Aにおいて,黒点による画質欠陥の発生をより十分に抑制することを目的として,上記の周知技術を採用することは,当業者が容易に発明をすることができたものである。
また,このようにしてなる引用発明Aの「電子写真感光体」は,相違点に係る本願発明の構成を具備したものとなる。
(4) 効果について
本願発明の効果は,「常温常湿環境下で繰り返し使用した場合の明部電位の変動と,高温高湿環境下で繰り返し使用した場合の明部電位の変動との差が抑制された電子写真感光体…を提供することができる」(【0012】)というものである。
しかしながら,引用発明Aと周知技術を組み合わせてなる「電子写真感光体」は,本願発明の構成を全て具備するものである。そして,引用発明Aは,もとより,「20℃,50%RH」及び「30℃,80%RH」において,ともに「良好な帯電性,残留電位,画像が得られている」ものである。
そうしてみると,本願発明の効果は,当業者が期待する範囲を超える顕著な効果であるということはできない。
(5) 引用発明Bについて
引用発明Aに替えて,引用発明Bに基づいて検討しても,同様である。
(6) 審判請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書(平成30年6月14日付け手続補正書により補正されたもの)において,概略,引用文献3に触れた当業者が,引用文献5を更に参酌したとしても,依然として,本願発明における第1の技術課題である「繰り返し使用時の電位変動」を見出すことは不可能なことは明らかである,また,当然ながら,本願発明における第1の技術課題を見出していない以上,引用文献3及び引用文献5を参酌して,係る技術課題を解決するための構成の検討を行おうという動機付けが得られるはずがないと主張する。
しかしながら,本願発明は,上記(3)で述べたとおりの動機付けに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
審判請求人は,平成29年12月22日付け意見書において,概略,本願発明において,特に重要なのは,下引き層(下引き層用塗布液)に含有される,有機酸金属塩の含有量と金属酸化物粒子の含有量の比率(有機酸金属塩/金属酸化物粒子)を特定の範囲(1/200以上2/10以下)とする点であるが,係る比率は,「シランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子」を用いた際に適用することで初めて顕著な効果を奏する特徴であり,「シランカップリング剤で表面処理されていない金属酸化物粒子」を用いた場合には,係る比率を満足しようがしまいが効果に差は生じない,と主張する。
しかしながら,引用発明A及び引用発明Bは,本願発明の「該下引き層に含有される,該有機酸金属塩の含有量と該金属酸化物粒子の含有量の比率(有機酸金属塩/金属酸化物粒子)が,1/200以上2/10以下(質量比)である」という要件を満たすものである。
(当合議体注:なお,引用文献3の【0065】には,「第2の群の本発明に用いる金属石鹸は,顔料に対して0.1重量%乃至5重量%の範囲が好ましく」と記載されている。そうしてみると,引用文献3が示唆する含有量の比率は,下限において,本願発明の範囲を外れるものと評価される。しかしながら,引用文献3の【0143】の【表2】の「疲労後地肌汚れ」の欄における,「○」と「△」の付き方に着目すると,金属石鹸の好ましい下限値は,「0.1重量%」ではなく「1%」となる。数値範囲で考えても,本願発明の含有量の比率は,引用文献3の記載が示唆する範囲内のものと考えられる。)
さらにすすんで検討すると,引用文献5の【0058】には,「表面処理金属酸化物微粒子を用いることにより,中間層5の比抵抗及びその環境依存性を容易に且つ確実に制御することができるとともに,感光層4への電荷注入の制御及び電子写真プロセスにおける残留電位の低減の双方を高水準で両立することができ,電子写真感光体特性の環境変動をより十分に低減し,且つ,筋状濃度ムラや黒点による画質欠陥の発生をより十分に抑制することができる傾向がある」と記載されている。
審判請求人の主張が,仮に,「シランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子」と「該下引き層に含有される,該有機酸金属塩の含有量と該金属酸化物粒子の含有量の比率(有機酸金属塩/金属酸化物粒子)が,1/200以上2/10以下(質量比)であること」の相乗効果を主張するものであるとしても,そのような効果は,引用文献5の上記の記載からみて,当業者が予想できない顕著な効果ということはできない。
したがって,審判請求人の主張は採用できない。
第3 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用文献3に記載された発明及び周知技術に基づいて,本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
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2018-006102