特許無効審判
2017-800022
L-グルタミン酸生産菌及びL-グルタミン酸の製造方法
- 審判番号
- 2017-800022
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2005-379259
- 登録番号
- 特許第5343303号(P5343303)
- 請求日
- 2017年02月24日
- 審決日
- 2019年01月08日
- 公報発行日
- 2021年08月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】シージェイジャパン 株式会社
- 【請求人代理人】山本 修
- 【請求人代理人】鶴喰 寿孝
- 【請求人代理人】飯村 敏明
- 【請求人代理人】末吉 剛
- 【請求人代理人】西川 喜裕
- 【参加人】シージェー チェイルジェダン コーポレーション
- 【参加人代理人】山本 修
- 【参加人代理人】鶴喰 寿孝
- 【参加人代理人】飯村 敏明
- 【参加人代理人】末吉 剛
- 【参加人代理人】西川 喜裕
- 【被請求人】味の素 株式会社
- 【被請求人代理人】森▲崎▼ 博之
- 【被請求人代理人】中野 亮介
- 【被請求人代理人】白石 真琴
- 審判長/審判官
- 審判長 中島 庸子
- 審判官 高堀 栄二
- 審判官 松浦 安紀子
- 分類
- P1113.121-YAA(C12N) / P1113.536-YAA(C12N) / P1113.537-YAA(C12N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第134条の2第3項、特許法第29条第1項第3号、特許法第135条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第5343303号発明「L-グルタミン酸生産菌及びL-グルタミン酸の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第5343303号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~11]、12について訂正することを認める。
特許第5343303号の請求項1~2及び4~12に係る発明についての審判請求は成り立たない。
特許第5343303号の請求項3に係る発明についての審判請求を却下する。
審判費用は参加によって生じた費用を含めて、請求人及びその参加人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第5343303号に係る出願は、平成17年12月28日(優先権主張 平成16年12月28日、平成17年9月9日)の出願であって、平成25年8月23日に特許権の設定登録がなされたものである。
本件特許についての無効審判の手続の経緯の概要は以下のとおりである。
平成29年2月24日 審判請求書
平成29年4月20日 手続補正書及び上申書
平成29年7月7日 答弁書及び訂正請求書
平成29年10月2日 弁駁書
平成29年11月2日 参加申請書
平成29年12月25日 参加許否の決定
平成30年4月12日 審理事項通知書
平成30年5月22日 口頭審理陳述要領書(請求人及び被請求人)
平成30年6月5日 口頭審理
平成30年6月26日 上申書(被請求人)
平成30年9月27日 補正許否の決定
第2 訂正請求について
1.平成29年7月7日付け訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の内容
本件訂正における訂正事項は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の(ii)に「1若しくは数個」とあるのを、「1~5個」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「424位及び/または437位のプロリンを他のアミノ酸に置換する変異である」とあるのを、「424位のプロリンをアラニン、グリシン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンからなる群から選ばれる1個のアミノ酸に置換し、及び/または437位のプロリンをスレオニン、セリン及びチロシンからなる群から選ばれる1個のアミノ酸に置換する変異である」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記(ii)の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、100位のアラニン及び/または111位のアラニンを他のアミノ酸に置換する変異である、請求項1に記載のコリネ型細菌」とあるのを、「L-グルタミン酸生産能を有するコリネ型細菌であって、変異型yggB遺伝子が導入されたことにより非改変株と比較してL-グルタミン酸生産能が向上したコリネ型細菌であって、前記変異型yggB遺伝子の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、100位のアラニンをスレオニンに、及び/または111位のアラニンをスレオニンもしくはバリンに置換する変異である、コリネ型細菌」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「前記(ii)の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、14位のロイシンと15位のトリプトファンの間に1又は数アミノ酸を挿入する変異である、請求項1に記載のコリネ型細菌」とあるのを、「L-グルタミン酸生産能を有するコリネ型細菌であって、変異型yggB遺伝子が導入されたことにより非改変株と比較してL-グルタミン酸生産能が向上したコリネ型細菌であって、前記変異型yggB遺伝子の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、14位のロイシンと15位のトリプトファンの間に1~5アミノ酸を挿入する変異である、コリネ型細菌」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5」とあるのを、「請求項1、2、4及び5」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6」とあるのを、「請求項1、2及び4~6」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7」とあるのを、「請求項1、2及び4~7」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8」とあるのを、「請求項1、2及び4~8」に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~9」とあるのを、「請求項1、2及び4~9」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~10」とあるのを、「請求項1、2及び4~10」に訂正し、「該培地中又は菌体内に生成蓄積させ、該培地又は菌体からL-グルタミン酸を回収する」とあるのを、「該培地中に生成蓄積させ、該培地からL-グルタミン酸を回収する」に訂正する。
(12)訂正事項12
明細書の段落【0033】の「配列番号5の塩基配列1437-3035番目の配列を有する遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株のyggB遺伝子であり、」のうち、「ATCC13032株」を「ATCC13869株」に訂正する。
2.訂正請求の適否
(1)一群の請求項について
訂正事項1~11に係る訂正前の請求項1~11について、請求項2~5は請求項1を引用し、請求項6~11はそれぞれ請求項1~5、請求項1~6、請求項1~7、請求項1~8、請求項1~9及び請求項1~10を引用するものであって、訂正事項1により訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~11に対応する訂正後の請求項1~11は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正事項1
訂正前の請求項1では、(ii)の置換、欠失、又は挿入されるアミノ酸の個数として「1若しくは数個」と特定していたのを「1~5個」と限定するものであるから、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の段落【0073】には、訂正前の請求項1に記載の「配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列のアミノ酸番号1-23、86-108、及び110-132からなる群から選ばれる領域における1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入」について、「数個の置換、欠失、付加、挿入又は逆位とは、2~20個、好ましくは2~10個、より好ましくは2~5個、さらに好ましくは2~3個を意味する」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、yggB遺伝子における変異の際に置換されるアミノ酸の個数を限定するものであり、当該訂正により訂正前の請求項1に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、かつ、訂正前の請求項1に記載された発明の対象や目的を変更するものとはならないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、すべての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項1に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。
(3)訂正事項2
訂正前の請求項2では、424位及び437位のプロリンを置換するアミノ酸として「他のアミノ酸」とあるのを、それぞれ「アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンからなる群から選ばれる1個のアミノ酸」及び「スレオニン、セリン及びチロシンからなる群から選ばれる1個のアミノ酸」に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の段落【0072】には、424位のプロリンを他のアミノ酸に置換する変異について「424番目のプロリンは、疎水性アミノ酸であるAla、Gly、Val、Leu、Ileに置換されることが望ましく」と記載されており、437位のプロリンを他のアミノ酸に置換する変異について「437番目のプロリンは、側鎖にヒドロキシル基を有するアミノ酸(Thr、Ser、Tyr)に置換することが望ましく」と記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
訂正事項2は、yggB遺伝子における変異後のアミノ酸を限定するものであり、当該訂正により訂正前の請求項2に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、かつ、訂正前の請求項2に記載された発明の対象や目的を変更するものとはならないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、すべての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項2に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。
(4)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、請求項の削除であるから、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項3は、請求項の削除を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(5)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立請求項へ改めるための訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正前の請求項4では、100位及び111位のアラニンを置換するアミノ酸として「他のアミノ酸」とあるのを、それぞれ「スレオニン」及び「スレオニンもしくはバリン」に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項4は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものであり、また、願書に添付した明細書の段落【0075】には、100位のアラニンを他のアミノ酸に置換する変異については「スレオニン残基に置換されていることが望ましい」と記載されており、願書に添付した明細書の段落【0076】には、111位のアラニンを他のアミノ酸に置換する変異について「中でも分岐鎖アミノ酸(バリン、イソロイシン、ロイシン)、特にバリン残基や、側鎖にヒドロキシル基を有するアミノ酸(スレオニン、セリン、チロシン)、特にスレオニン残基に置換されていることが望ましい」と記載されているから、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項4は、yggB遺伝子における変異後のアミノ酸を限定するものであり、当該訂正により訂正前の請求項4に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、かつ、訂正前の請求項4に記載された発明の対象や目的を変更するものとはならないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、すべての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項4に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。
(6)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立請求項へ改めるための訂正であって、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正前の請求項5では、14位のロイシンと15位のトリプトファンの間に挿入されるアミノ酸の数が「1又は数アミノ酸」であるのを、「1~5アミノ酸」に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項5は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものであり、また、願書に添付した明細書の段落【0073】には、訂正前の請求項5が引用する訂正前の請求項1における(ii)に記載の変異について、「数個の置換、欠失、付加、挿入又は逆位とは、2~20個、好ましくは2~10個、より好ましくは2~5個、さらに好ましくは2~3個を意味する」と記載されているから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項5は、yggB遺伝子における変異するアミノ酸の個数を限定するものであり、当該訂正により訂正前の請求項5に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、かつ、訂正前の請求項5に記載された発明の対象や目的を変更するものとはならないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、すべての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項5に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。
(7)訂正事項6~10
訂正事項6~10は、訂正前の請求項6~10が、請求項3を含む他の請求項を引用する記載であったところ、請求項3を削除したことに伴い、引用する請求項の記載を訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項6~10は、引用する他の請求項から一部の請求項が削除されたことに伴い、引用する請求項の記載を訂正するものであるから、訂正事項6~10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項6~10は、引用する他の請求項から一部の請求項が削除されたことに伴い、引用する請求項の記載を訂正するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、すべての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項6~10に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は適用されない。
(8)訂正事項11
訂正事項11は、訂正前の請求項11が、請求項3を含む他の請求項を引用する記載であったところ、請求項3を削除したことに伴い、引用する請求項の記載を訂正するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正前の請求項11では、「該培地中又は菌体内に生成蓄積させ、該培地又は菌体からL-グルタミン酸を回収する」とあり、「該培地中又は菌体内に」、「該培地又は菌体から」と択一的に記載されていたものから、「該培地中に」、「該培地から」に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項11は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項11は、引用する他の請求項から一部の請求項が削除されたことに伴い、引用する請求項の記載を訂正するものであり、また、「該培地中又は菌体内に」、「該培地又は菌体から」との択一的記載から、「該培地中に」、「該培地から」に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項11は、引用する他の請求項から一部の請求項が削除されたことに伴い、引用する請求項の記載を訂正するものであり、また、「該培地中又は菌体内に」、「該培地又は菌体から」と択一的に記載されていたものから、「該培地中に」、「該培地から」に限定するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、すべての請求項について無効審判の請求の対象とされているので、特許法特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(9)訂正事項12
願書に最初に添付した明細書の段落【0033】には、「配列番号5の塩基配列1437-3035番目の配列を有する遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株のyggB遺伝子」と記載され、また、「配列番号83の塩基配列501-2099番目の配列を有する遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032のGenbank Accession No. NC_003450として登録されているゲノム配列中の塩基番号1336092-1337693にコードされており、NCgl 1221として登録されている(NP_600492. Reports small-conductance...[gi:19552490])。」と記載され、配列番号5と配列番号83の塩基配列が何れもATCC13032株の配列とされているが、両配列が重なる1437~2099番目を比較すると配列番号5と配列番号83とで一致しないので、何れかが誤記であることがわかる。
両配列とNCgl 1221の配列を比較すると、配列番号83が、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の配列であることは明らかであるから、配列番号5がATCC13032株である旨の記載が誤記であることは明らかであり、さらに、願書に最初に添付した明細書の段落【0103】には、配列番号5のyggB遺伝子を保有するコリネバクテリウム・グルタミカムの菌株名の説明として「ATCC13869株」との記載があることから、段落【0033】に記載された配列番号5が「ATCC13032株」である旨の記載が誤記であり、正しくは、「ATCC13869株」であることは明らかである。
したがって、訂正事項12は、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
また、訂正事項12は、願書に最初に添付した明細書の段落【0103】に記載されている配列番号5の遺伝子を有する正しいコリネバクテリウム・グルタミカムの菌株名の記載に基づいて誤記を訂正するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項12は、明細書中の誤記を訂正するためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
本件特許無効審判事件においては、すべての請求項について無効審判の請求の対象とされているので、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正請求に対する結論
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正により訂正された請求項1~2及び4~12は、訂正明細書、訂正特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1~2及び4~12に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件訂正発明1」~「本件訂正発明2」及び「本件訂正発明4」~「本件訂正発明12」という。)。なお、請求項3は削除された。
「【請求項1】L-グルタミン酸生産能を有するコリネ型細菌であって、
変異型yggB遺伝子が導入されたことにより非改変株と比較してL-グルタミン酸生産能が向上したコリネ型細菌であって、
前記変異型yggB遺伝子は、(i)、(i’)、(i’’)または(ii)の変異が導入された、コリネ型細菌:
(i)配列番号6、68、84もしくは85のアミノ酸配列のアミノ酸番号419-533の領域もしくは配列番号62のアミノ酸番号419-529の領域の欠失、
(i’)配列番号6、68、84もしくは85のアミノ酸配列のアミノ酸番号419-533の領域もしくは配列番号62のアミノ酸番号419-529の領域へのインサーションシーケンス又はトランスポゾンの挿入、
(i’’)配列番号6、68、84もしくは85のアミノ酸配列のアミノ酸番号419-533の領域もしくは配列番号62のアミノ酸番号419-529の領域に存在するプロリンを他のアミノ酸に置換する変異、
または
(ii)配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列のアミノ酸番号1-23、86-108、及び110-132からなる群から選ばれる領域における1~5個のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入。
【請求項2】前記(i’’)の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、424位のプロリンをアラニン、グリシン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンからなる群から選ばれる1個のアミノ酸に置換し、及び/または437位のプロリンをスレオニン、セリン及びチロシンからなる群から選ばれる1個のアミノ酸に置換する変異である、請求項1に記載のコリネ型細菌。
【請求項3】(削除)
【請求項4】L-グルタミン酸生産能を有するコリネ型細菌であって、
変異型yggB遺伝子が導入されたことにより非改変株と比較してL-グルタミン酸生産能が向上したコリネ型細菌であって、
前記変異型yggB遺伝子の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、100位のアラニンをスレオニンに、及び/または111位のアラニンをスレオニンもしくはバリンに置換する変異である、コリネ型細菌。
【請求項5】L-グルタミン酸生産能を有するコリネ型細菌であって、
変異型yggB遺伝子が導入されたことにより非改変株と比較してL-グルタミン酸生産能が向上したコリネ型細菌であって、
前記変異型yggB遺伝子の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、14位のロイシンと15位のトリプトファンの間に1~5アミノ酸を挿入する変異である、コリネ型細菌。
【請求項6】前記変異型yggB遺伝子が、下記(a)~(n)より選ばれる変異型yggB遺伝子である請求項1、2、4及び5のいずれか一項に記載のコリネ型細菌:
(a) 配列番号8のアミノ酸配列をコードするDNA、
(b) 配列番号8のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(c) 配列番号20のアミノ酸配列をコードするDNA、
(d) 配列番号20のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(e) 配列番号22のアミノ酸配列をコードするDNA、
(f) 配列番号22のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(g) 配列番号24のアミノ酸配列をコードするDNA、
(h) 配列番号24のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(i) 配列番号64のアミノ酸配列をコードするDNA、
(j) 配列番号64のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(k) 配列番号70のアミノ酸配列をコードするDNA、
(l) 配列番号70のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(m) 配列番号74のアミノ酸配列をコードするDNA、
(n) 配列番号74のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
【請求項7】前記変異型yggB遺伝子の導入により、L-グルタミン酸アナログ耐性が向上したことを特徴とする、請求項1、2及び4~6のいずれか一項に記載のコリネ型細菌。
【請求項8】さらに(i)のsymA遺伝子が不活化するように改変された、請求項1、2及び4~7のいずれか一項に記載のコリネ型細菌。
(i) 配列番号86の塩基番号585~1121の塩基配列を含むDNA。
【請求項9】さらにα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が低下するように改変された、請求項1、2及び4~8のいずれか一項に記載のコリネ型細菌。
【請求項10】コリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属に属する、請求項1、2及び4~9のいずれか一項に記載のコリネ型細菌。
【請求項11】請求項1、2及び4~10のいずれか一項に記載のコリネ型細菌を培地で培養し、L-グルタミン酸を該培地中に生成蓄積させ、該培地からL-グルタミン酸を回収することを特徴とするL-グルタミン酸の製造法。
【請求項12】下記(a)~(n)より選ばれる変異型yggB遺伝子:
(a) 配列番号8のアミノ酸配列をコードするDNA、
(b) 配列番号8のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(c) 配列番号20のアミノ酸配列をコードするDNA、
(d) 配列番号20のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(e) 配列番号22のアミノ酸配列をコードするDNA、
(f) 配列番号22のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(g) 配列番号24のアミノ酸配列をコードするDNA、
(h) 配列番号24のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(i) 配列番号64のアミノ酸配列をコードするDNA、
(j) 配列番号64のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(k) 配列番号70のアミノ酸配列をコードするDNA、
(l) 配列番号70のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(m) 配列番号74のアミノ酸配列をコードするDNA、
(n) 配列番号74のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。」
第4 当事者の主張の概要
1.請求人の主張
請求人は、本件特許第5343303号を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、以下のように主張したが、平成30年5月22日付け口頭審理陳述要領書において無効理由1及び2を取り下げたので、審理の対象となるのは無効理由3、4、5及び6である。
(無効理由1)本件特許の請求項1、3、7、10~11に係る発明は、甲第26号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
(無効理由2)本件特許の請求項7、9に係る発明は、甲第26号証または甲第26号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(無効理由3)本件訂正発明1、4、6~7、9~12は、甲第8号証、甲第2号証、甲第10号証、甲第13号証、甲第14号証及び甲第15号証等に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(無効理由4)本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1~2、4~7、10~12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本件発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
(無効理由5)本件訂正発明1~2、4~7、10~12は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
(無効理由6)本件訂正発明6~12は、明確に記載されているとはいえないから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。
そして、請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特許第5343303号公報
甲第2号証:国際公開第95/34672号
甲第3号証:特開昭61-268185号公報
甲第4号証:特開昭62-201585号公報
甲第5号証:化学大辞典(縮刷版第32刷)(1989)p.268-271
甲第6号証:生化学辞典(第3版)(1998)p.858
甲第7号証:Protein Eng.(2002)15(1),p.29-33
甲第8号証:Eur.J.Biochem.(1997)247,p.572-580
甲第9号証:J.Biol.Chem.(2002)277(31),p.27682-27688
甲第10号証:FEMS Microbiol.Lett.(2003),218,p.305-309
甲第11号証:Nucleotide, The National Center for Biotechnology Information (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/1019251?report=full_report&format=text)
甲第12号証:Metabolic Eng.(1999)1,p.255-261
甲第13号証:Science(2002)298(22),p.1582-1587
甲第14号証:EMBO J.(2003)22(1),p.36-46
甲第15号証:Biophysical J.(2004.Nov.)87,p.3050-3065
甲第16号証:Clustalw Result (http://www.genome.jp/tools/clustalw/)Cgl1270と,本件特許の配列番号84及び85とのアミノ酸配列のアラインメント
甲第17号証:特表2002-508921号公報
甲第18号証:特開昭62-166890号公報
甲第19号証:特開昭63-214189号公報
甲第20号証:特開2004-313202号公報
甲第21号証:Appl.Microbiol.Biotech.(1986)25,p.220-223
甲第22号証:Biotech.Bioeng.(1996)51,p.40-50
甲第23号証:Appl.Env.Microbiol.(1996),62(12),p.4345-4351
甲第24号証:Appl.Env.Microbiol.(1994)60(1),p.126-132
甲第25号証の1:国際公開第2003/046123号
甲第25号証の2:米国特許出願公開第2005/0003494号明細書
甲第26号証:欧州特許出願公開第1108790号明細書
甲第27号証:Clustalw Result (http://www.genome.jp/tools/clustalw/)甲第26号証の配列番号4901と本件特許の配列番号84及び85とのアミノ酸配列のアラインメント
甲第28号証:実験報告書
甲第29号証:生化学辞典(第3版)(1998)p.1217
甲第30号証:特開昭63-214189号公報
甲第31号証:Clustalw Result (http://ww.genome.jp/tools/clustalw/)Cg11270によりコードされるアミノ酸配列と配列番号22及び配列番号24のアミノ酸配列のアライメント
甲第32号証:Clustalw Result (http://ww.genome.jp/tools/clustalw/)大腸菌由来yggB及びコリネ型細菌由来yggBのTM3領域のアミノ酸配列のアライメント
甲第33号証:Clustalw Result (http://ww.genome.jp/tools/clustalw/)本件特許の配列番号84及び配列番号6とのアミノ酸配列のアライメント
甲第34号証:実験報告書
甲第35号証:J.Biol.Sci.(2002)2(3),p.151-156
2.被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の主張する無効理由及び証拠によっては、本件訂正発明を無効にすることはできないと主張した。
そして、被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証:Biosci.Biotechnol.Biochem.(2013)77(5),p.1008-1013
乙第2号証:化学と生物(2012)50(6),p.441-449
乙第3号証:中森茂著「アミノ酸発酵技術の系統化調査」『技術の系統化調査報告 第11集』(独立行政法人国立科学博物館産業技術史資料情報センター編集)(2008)p.58、66、74
乙第4号証:J.Appl.Environ.Microbiol.(2007)73(14),p.4491-4498
乙第5号証:J.Ind.Microbiol.Biotechnol.(2002)28(6),p.333-337
乙第6号証:実験成績証明書「C.glutamicum ATCC13869-19のグルタミン酸生産能の評価、および19型YggB変異の評価」
乙第7号証:真野佳博=川向誠編著『ポイントがわかる分子生物学第2版』(2010年)p.2-3、18-19
乙第8号証:社団法人日本化学会編『標準化学用語辞典』(1998)p.571
乙第9号証:日本光合成学会のウェブサイトの光合成事典の「グリシンベタイン」の項のプリントアウト(http://photosyn.jp/pwiki/index.php?%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%99%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%B3)
乙第10号証:相川直樹ら編集『医学大辞典19版』(2006)p.641
乙第11号証:『14906の化学商品』(2006)p.1614、1645
乙第12号証:「第III部第2章第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い」『特許・実用新案審査基準』p.1-2
乙第13号証:日本農芸化学会誌(1949)23(10),p.426-429
乙第14号証:P.F.Stanbury,A.Whitaker著『発酵工学の基礎』(1992)p.169-172、189-190
乙第15号証:相田浩ら編『アミノ酸発酵』、明石邦彦ら著「1.酸素及び炭酸ガスの効果」(1986)p.127-144
乙第16号証:東京大学農学部農芸化学教室編『実験農芸化学下第3版』(1980)p.201-203
乙第17号証:「坂口フラスコと振盪培養機」と題した有限会社いわしやバイオサイエンスのウェブサイトのプリントアウト(http://www.iwashiyabio.com/newpage03.html)
乙第18号証:「容器形状や振とうの速度・振幅と培養効率について」と題したタイテック株式会社のウェブサイトのプリントアウト(https://taitec. net/wp-content/uploads/2017/05/ADS025_BRs_04_K01.pdf)
乙第19号証:Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1986)83(4),p.917-921
乙第20号証:『南山堂 医学大辞典』(2008)p.1851、2280
乙第21号証:G.E.Schulz,R.H.Scirmer共著『タンパク質 構造・機能・進化』(1987)p.19-29
乙第22号証の1:「第2章生命の化学的基礎」と題した東京医科歯科大学のウェブサイトのプリントアウト(http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textintro/Chapt2.htm#top)
乙第22号証の2:「生物学基礎」と題した東京医科歯科大学のウェブサイトのプリントアウト(http://www.tmd.ac.jp/artsci/biol/textintro/introtop.htm)
乙第23号証:宮田隆著「分子進化学の基礎」物性研究(2003)81(1),p.53-59
乙第24号証:「アミノ酸の製法について」と題した被請求人ウェブサイトのプリントアウト(https//www.ajinomoto.co.jp/amino/manabou/seihou.html)
乙第25号証:岡田弘著『グルタミン酸製造技術の変遷』化学工業(1984)p.76-81
乙第26号証:特許第6196034号公報
第5 甲号証の記載事項
甲第8、2~4、7、9~10、12~15、17~24号証、甲第25号証の1、甲第30、35号証には、以下の事項が記載されている(英語で記載されている証拠は、日本語訳で摘記する。)。
1.甲第8号証
(甲8-1)「細菌は、低浸透圧ストレスに対して、低分子量の溶質を遊離し、一定の膨脹圧を維持することによって応答する。我々は、コリネバクテリウム・グルタミカムにおいて、浸透圧の突然の低下による様々な溶質の排出に関わる、浸透圧調節チャネルの機能を研究している。当該チャネルは、グリシンベタイン及びプロリンのような相溶性の溶質の排出を優先的に媒介する。同じような大きさの分子、例えば、グルタミン酸又はリジンの遊離は、制限され、ATPは、厳しい浸透圧ショックの後であっても、完全に維持された。」(第572頁、要約第1行~第6行)
(甲8-2)「これらの結果は、大腸菌のメカノセンシティブチャネルに類似の浸透圧調節チャネルが、C.グルタミカムに存在することを示唆する。」(第572頁、要約第13行~第14行)
(甲8-3)「表1.C.グルタミカムでの低浸透圧ショック後の溶質排出の特異性。標識又は非標識の相溶性の溶質(グリシンベタイン、プロリン、エクトイン)の蓄積により、あるいはジペプチド(リジン、アラニン)の添加により、高浸透圧条件下(それぞれ1860mOsm及び2100mOsm)で細胞を溶質に負荷した。細胞は、表に示したように希釈した。シリコンオイルの上清及びペレットにおける低浸透圧ショックの1分後、シンチレーションカウンティング(sc.count.)、HPLC、酵素アッセイ、NMR、ルシフェリン/ルシフェラーゼアッセイ、又はフレームフォトメトリー(flame ph.)を用いて排出を測定した。値はμmol・mgdm-1で示す、なぜなら、変化した細胞質体積に基づく真の内部濃度への補正は、総変化の結果のミスリーディングを起こすためである。すべての値は、少なくとも3回の実験の平均である。等モル希釈及び540mOsmに対する低浸透圧ショックのそれぞれに関し、残存した溶質の相対値を示す。
aグリシンベタイン(3mM)及びエクトイン(3mM)を同時に負荷。
bATPの排出は、細胞質のATP総量の2%を超えなかった。
cNa+及びK+の場合、浸透圧のステップは2100、1140、820、420mOsmとした。
d2mMグリシンペタインの存在下で負荷し、競合状態を作出(本文を参照)。」(第575頁、表1)
(甲8-4)「土壌細菌として、C.グルタミカムは、頻繁に起こる緊急事態、即ち、低浸透圧ショックに対して応答する効率的なメカニズムを装備している。浸透圧変化に由来する膜に作用する機械的ストレスは、細胞サイズの有意な変化を定量することにより明らかにされた。我々が研究してきた排出システムは、大腸菌及びL.プランタルムにおいて以前記載したメカノセンシティブチャネル(Berrierら、1992;Schleverら、1993;Glaaskerら、1996)と定性的に類似する方法で低浸透圧ショックに応答する。しかしながら、C.グルタミカムのチャネルは、運搬の特異性と排出活性の制御に関して、いくつかの特異的性質を示す。」(第578頁左欄第37行~第49行)
(甲8-5)「非特異的チャネル阻害剤Gd3+に対するこのチャネルの感受性の欠如は(Berrierら、1992;Schleverら、1993;Haseら、1995)、大腸菌において記載されクローン化されたGd3+感受性MscLチャネルとは異なるものとして、それをさらに定義する(Sukharevら、1994)。しかしながら、この非特異的遮蔽剤が作用しないその他の例も存在する(Berrierら、1996)。したがって、C.グルタミカムのチャネルは、電気生理学的技術を用いることにより大腸菌において同定されたその他のタイプ、即ち、MscSと類似するかもしれない(Martinacら、1987、1990;ZorattiとPetronilli、1988;Berrierら、、1996)。」(第578頁右欄第46行~第55行)
2.甲第2号証
(甲2-1)「α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損したコリネ型L-グルタミン酸生産菌、この細菌を用いたL-グルタミン酸の製造法、及びコリネ型L-グルタミン酸生産菌に由来するα-KGDH活性を有する酵素をコードする遺伝子、この遺伝子を含む組換えDNA、この組換えDNAを保持するコリネ型細菌、及び前記組換えDNAを保持し、L-リジン生産能を有する細菌を用いたL-リジンの製造法を開示する。」(要約)
(甲2-2)「従来よりL-グルタミン酸はブレビバクテリウム属又はコリネバクテリウム属に属するコリネ型細菌を用いた発酵法により工業的に生産されている。」(第1頁第13行~第14行)
(甲2-3)「コリネ型L一グルタミン酸生産菌のα―KGDΗ活性のレベルがL-グルタミン酸の発酵生産に影響を及ぼすことが明らかとなった。従って、薬剤遺伝子の挿入等によるα―KGDH遺伝子活性欠失株の取得、in vitro変異による活性弱化株の取得、プロモーターの改変による発現低下株の取得等により、従来のコリネ型L一グルタミン酸生産菌と比較してさらにL―グルタミン酸生産能が向上した菌株を効率よく育種することが可能となる。」(第33頁下から第6行~最終行)
(甲2-4)「2.請求項1記載のコリネ型L-グルタミン酸生産菌を液体培地中に培養し、培養液中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ、これを採取することを特徴とするL-グルタミン酸の製造法。」(請求項2)
3.甲第3号証
(甲3-1)「グルタミン酸生産性コリネ型細菌は、大量にL-グルタミン酸を生産することが知られている。」(第2頁右上欄第8行~第10行)
(甲3-2)「工業的に有用なグルタミン酸生産性コリネ型細菌に所望の物質を大量に効率よく生産させるために、その細菌のDNA組換え技術による育種改良が試みられている。」(第2頁右上欄第14行~第17行)
4.甲第4号証
(甲4-1)「グルタミン酸生産性コリネ型細菌は、大量にL-グルタミン酸を生産することが知られている。」(第2頁右上欄第8行~第9行)
(甲4-2)「工業的に有用なグルタミン酸生産性コリネ型細菌について、DNA組換技術による育種改良が試みられている。」(第2頁右上欄第14行~第16行)
5.甲第7号証
(甲7-1)「エタノールの産業的生産(例えば、醸造、燃料エタノール生産)において、澱粉の発酵可能な糖への変換は、典型的に65-73℃で起こるため、α―グルコシダーゼの熱安定性は重要である。本件研究では、我々は、4つの植物種由来のα―グルコシダーゼの熱安定性を調査し、それらの推定アミノ酸配列を比較し、そして、野生型酵素に存在する残基のプロリンへの置換による、α-グルコシダーゼの熱安定性への影響を試験した。大麦(Hordeum vulgare)由来のα-グルコシダーゼは、その他3つのα-グルコシダーゼよりも顕著に熱に不安定であった。これら4つのα-グルコシダーゼの公開された推定アミノ酸配列の比較により、大麦の酵素には見られない、最も熱に安定な3つのα-グルコシダーゼにおいて保存されたプロリン残基を明らかにした。部位特異的変異を組換え大麦α-グルコシダーゼに行い、これらの保存された位置でプロリンを有するタンパク質を作成した。これらの変異タンパク質の一つ、T340Pの熱安定性(T50)は、非変異酵素より10℃高かった。」(第29頁、要約)
(甲7-2)「
図3.pH6.0での、組換え大麦α-グルコシダーゼ(rAGL,四角)、T340P変異酵素(三角)、及びA742P変異酵素(円)の活性における温度の影響。0~60℃の範囲の温度、pH6で、rAGL、T340P、及びA742Pを10分インキュベートした。マルトース加水分解の残存速度を、18時間、30℃、pH4.5でアッセイした。残存活性は、非加熱のコントロールのパーセントに基づく(rAGL=0.7nmol/min/ml、T340P酵素=0.9nmo1/min/ml、A742P酵素=1.65nmo1/min/ml。」(第31頁、図3)
(甲7-3)「プロリン残基は熱安定性に重要なため(Matthewsら、1987;Suzukiら、1989)、組換え大麦α-グルコシダーゼにおいて変異を行い、より熱に安定なα-グルコシダーゼに存在する位置にプロリン残基を挿入した。変異を行い、336、340、及び742の位置ヘプロリンを追加した。T340P及びA742Pはα-グルコシダーゼ活性を有する一方、336の位置での変異(R336P)は、不活性なタンパク質をもたらした(データは示さず)。
Garnierらの理論(Garnierら、1978)に基づくペプチド構造プログラム(ウィスコンシンGCGパッケージ、ウィスコンシン、マディソン郡)を用いて行った二次構造の推定は、この残基をβ-シートの中に置いたため(表1)、547の位置では変異を行わなかった。Watanabeらによれば、β-シートの中にプロリン残基を挿入すると、酵素の熱安定性は増強されない(Watanabeら、1991)。
野生型組換え大麦α-グルコシダーゼ(rAGL)、並びにT340P及びA742P変異酵素の熱安定性プロフィル(pH6)は、図3に示される。図3に示される、粗抽出物に由来するrAGLの熱安定性プロフィルは、Muslinらにより以前に公開された精製rAGLの熱安定性プロフィル(Muslinら、2000)とほぼ同一であった。実際に、T50は、粗酵素で47.8℃、精製酵素で47.6℃であった。従って、我々は、本研究で使用するいずれの酵素抽出物は精製を要しないと結論した。A742P酵素は、20℃のT50を有し、そして40℃への曝露後は完全に不活性であった。これに対し、T340P酵素は、最も高い熱安定性を示し、50℃より高い温度に加熱されるまで活性を低下させなかった。」(第31頁左欄第6行~右欄第4行)
6.甲第9号証
(甲9-1)「本質的に、すべての生物は機械的な力を検知する。バランス感覚、触覚、及び聴覚は、この能力に依存するヒトでのいくつかのシステムである。微生物も、細胞性エンベロープを介する浸透グラジエントに由来する力を検出しているはずである。これらのシステムの本質的にすべての電気生理学的研究は、これらの力を感知する最も主要なメカニズムの一つとして、メカノセンシティブ(MS)チャネルを示唆している(MSチャネルのレビューに関し、Ref.1を参照)。」(第27682頁左欄第26行~第34行)
7.甲第10号証
(甲10-1)「コリネバクテリウム・グルタミカム遺伝子配列におけるデータベースサーチは、大腸菌のメカノセンシティブチャネル、MscL及びyggBのホモログを明らかにした。これら推定チャネルの生理的役割を解明するために、欠損変異体を構築した。mscL欠失変異体の浸透圧ダウンショックにより誘導されたベタイン排出は、野生型のそれとほとんど同じであったー方、yggB欠失変異体は排出速度を低下させた。興味深いことに、ベタイン排出能がより一層の低下することが期待された二重欠損株は、野生型と比較してわずかに減少した排出速度を有するのみであり、浸透圧ダウンシフト後の死滅率を増加させなかった。これらの結果は、C.グルタミカムは、MscLやYggB/KefAファミリーと関係しない、第3のタイプのメカノセンシティブチャネルを有するかもしれないという仮説を導く。更に、二重欠損変異体において検出された高い運搬能のため、MscM様の活性はベタイン排出に関わりがありそうにない。」(第305頁、要約)
(甲10-2)「細胞が外部浸透圧の急激な低下に曝されると、水の流入が膨脹圧の増加を引き起こし、細胞が破壊され得る。応答として、細胞質の溶質がメカノセンシティブチャネルを介して放出され、膨脹圧の急激な低下が達成される。異なる大きさ及び伝導度のメカノセンシティブチャネルの活性は、グラム陰性及びグラム陽性細菌において示された。少なくとも三つのサブファミリー、MscL、MscS、及びMscMが大腸菌で同定された。」(第305頁左欄第12行~右欄第2行)
(甲10-3)「2.6.アクセション番号
C.グルタミカムのゲノムデータベース(http://gib.genes.nig.ac.jp)におけるのmscL及びyggBのオープンリーディングフレーム(ORF)の番号は、それぞれ、Cg10879及びCg11270である。」(第307頁左欄第8行~第11行)
(甲10-4)「これらは、それぞれ大腸菌のmscL及びyggBに類似する2つのオープンリーディングフレームを明らかにした。MscLホモログ(135アミノ酸残基)は、結核菌のMscLと57%同じアミノ酸を共有し、そして大腸菌のMscLと38%同じアミノ酸を共有し、更にMscLファミリーの典型的な構造的特徴を有する。YggBホモログは、533アミノ酸を有し、大腸菌のyggB、2つのタンパク質の内部のみで29%同一アミノ酸が見いだされた、よりも、様々なミコール酸含有放線菌の対応するホモログに対してより高い相同性を示す(~36%同一)。」(第307頁左欄第19行~第30行)
(甲10-5)「
図1.15秒(閉じたシンボル、実線)及び60秒(オープンシンボル、ドット線)後のダウンショックの程度に対する、排出されたベクイン量の依存性。示された浸透圧のバッファーに懸濁する前に、放射標識したベタインに細胞を前もって負荷した。A:野生型;B:Cg△mscL;C:Cg△yggB;及びD:Cg△mscLAyggB。破線は15秒(Aのグラフのリニアフィット)後の野生型の排出速度を表す。」(第308頁、図1)
8.甲第12号証
(甲12-1)「今回の結果によると、グルタミン酸の排出は、C.グルタミカム2262におけるグルタミン酸の過剰生産のための主要な動力学的ボトルネックと考えることができる。遺伝の報告では、アミノ酸の排出は、C.グルタミカムでのリジン(Ke11eら、1996)、イソロイシン(Morbachら、1996)、及びスレオニン(Reinscheidら、1994)生産のための可能性のある律速ステップとしても推測された。結論として、株又はプロセスの改善に向けられた将来の研究は、細胞のアミノ酸排出能をさらなる増強、ひいてはグルタミン酸の内部蓄積の低減を特に目的とすべきである。」(第260頁右欄第24行~第34行)
9.甲第13号証
(甲13-1)「MscSチャネル、yggBをコードする遺伝子は、Boothとその共同研究者により同定された;」(1582頁第1欄第25行~第27行)
(甲13-2)「MscSにおけるAla106に相当する、ホモログタンパク質KefAにおける922番目の位置での変異は、圧力に対してより感受性であるチャネルを形成し、カリウムに対して超過敏の細胞を形成することが報告されており、チャネルのこの領域の機能的な重要性を強調している。」(第1583頁第3欄第15行~第1584頁第1欄第2行)
(甲13-3)「メカノセンシティビティー。メカノセンシティブチャンネルを同定することにおけるチャレンジの一部に、メカノセンシティビティーに関わる明確な配列モチーフがないことがある;これらチャネルの多様性は、MscSとMscLの構造的相同性の欠如によりさらに強調される。しかしながら、yggB(8)の分析で指摘されるように、両タンパク質での特定の膜貫通ヘリックスは、第4の残基ごとに存在する傾向にある、小さな(Gly及びA1a)保存された残基のパターンを示す。これらの残基、特にG1yは、ヘリックスーヘリックスパッキング相互作用((36)を参照)に関与し、そして、MscS及びMscLの構造において、それらはポア形成ヘリックスのインターフェース部位で発見された。これらのチャネルは、高いコンダクタンス特性を示し、そして、これは、それらの両方とも、MscLで提案されたように(15、18)、クローズ状態とオープン状態の間で、ポア領域において相当なコンフォメーションの再配列を受けることが示唆される。結果として、ポアのヘリックス間のインターフェースでの残基は、クローズ状態及びオープン状態のいずれにおいても、ヘリックスーパッキング相互作用に互換性があるはずである。小さいアミノ酸、特にG1y及びA1aは、これらの位置で、コンダクタンス状態間の相互変換を促進し、よって、これら高コンダクタンス、メカノセンシティブチャネルの特徴かもしれない(37)。」(第1586頁第2欄第22行~第3欄第10行)
10.甲第14号証
(甲14-1)「大腸菌MscSメカノセンシティブチャネルタンパク質の主な構造的特徴を、アルカリホスファターゼ(PhoA)融合、正確な欠損及び部位特異的変異を用いて調査した。PhoAタンパク質融合データは、ポジティブ-インサイド則と組み合わせて、MscSが膜を3回横断し、Nout-Cin構造をとっているというモデルを強く支持する。欠損データは、タンパク質のC末端ドメインは、MscSチャネルの安定性に必須であり、一方、タンパク質はN末端での小さな欠失を寛容するであろうことを示唆する。ゲイン・オブ・ファンクション(GOF)又はロス・オブ・ファンクションのいずれかを示す4つの変異体が同定された:二重変異体I48D/S49PはMscSを不活性化し、一方、MscS変異体T93R、A102P、及びL109Sは強力なGOF表現型を引き起こした。ダウンショック生存アッセイにおいて欠失されたMscKタンパク質の発現がMscL及びMscSに置換できるという証拠により、MscK(以前はKefA)の少なくとも2つのドメインに対するMscSの類似は強化される。機構、保存、及び変異体の影響に関する研究に由来するデータは、MscSチャネルの構造における有意な洞察を提供する。」(第36頁、要約)
(甲14-2)「大腸菌では、MSチャネル活性の3つの認識されたグループが存在し、それらは、電気的伝導度及び活性化のための圧力闇値に基づいて定義される:MscM、低圧力により開かれる低(小)チャネル;MscS、中程度の圧力により開かれる~1nSチャネル;MscL、高い伝導度を示し、非常に高い膜張力でのみ開く(B1ountら、1999;Sukharev、1999)。」(第36頁右欄第5行~第12行)
(甲14-3)「電気生理学的分析により検出された大腸菌のMscS活性は、KefAとYggBの合計である(Levinaら、1999)。YggBタンパク質は、脂質ベシクルにおいて単独で再構成され、MscSと同じ伝導度で機能的チャネルを形成することが示された(Okadaら、2002;Sukharev、2002)。これに基づいて、YggBはMscSに改名すべきであること、そして、類似の伝導度を有するがK+と特異的な相互作用を有するKefAはMscKと呼ぶべきであることが提案された(Liら、2002)。」(第36頁右欄第37行~第45行)
(甲14-4)「
MscSタンパク質の機構。(A)DNASTARに適合されたプログラムを用いて作成された大腸菌MscSタンパク質の疎水性プロット(w=19残基)。
(D)PhoAデータに基づくMscSタンパク質の提案されたトポロジー。シンボル:十、プラスにチャージしたアミノ酸;影を付けた円、提案されたペリプラスムに位置する残基94。」(第37頁、図1A、図1D)
(甲14-5)「これらのデータは、pMscSH6からの非誘導発現に関わる低い濃度で発現させた場合であっても、A102P変異が強いGOF表現型を引き起こすことを示唆する。」(第41頁左欄第25行~第28行)
(甲14-6)「最近、B1ountとその同僚は、類似の形質を示した残基40でのMscSのGOF変異体を単離し、この残基はMscSにおいて類似の「ロッキング」の役割を果たすことを提案した(Okadaら、2002)。V40K及びV4ODの置換のみが、有意なGOF表現型を引き起こした。その他の変化、中程度に親水性の残基への変化並びにグリシンへの変化でさえも、寛容された。この研究では、我々は、三つの新たなMscSGOFアレル、T93R、L109S、及びA102Pを同定し、これらはペリプラスミックループ及びTMS3に存在する。」(第43頁左欄第19行~第28行)
11.甲第15号証
(甲15-1)「周囲環境の様々な刺激に対して保護及び反応する能力は、すべての生物にとり必須である。音、重力、又は浸透圧により発生する機械的な力は、その他の刺激の中で、メカノセンシティブイオンチャネルを含む様々なメカニズムを介して生物により感知される(HamillとMartinac、2001;SukharevとCorey、2004)。これらの膜タンパク質は、機械的刺激の適用により開閉し、したがって、実質的に電気的シグナル(メカノトランスダクション)になる、或いは、単純に、例えば、浸透圧に対する細胞体積の制御又は適合に役立つイオン電流を形成する。」(第3050頁左欄第2行~第13行)
(甲15-2)「
図1.MscSのホモヘプタマー構造。(A)MscS結晶構造のカートゥーン表示。各サブユニットは、異なる色で示される。示唆される膜の位置(Bassら、2002)は影付きのバーとして示される。(B)7量体構造のサブユニットB。このサブユニットは、カートゥーンとリボン表記で示される。膜貫通ドメインは3つのヘリックス(TM1、TM2、及びTM3A-TM3B)及びより大きな細胞質ドメインにより形成される。TM3A-TM3Bヘリックスは、残基Gly113で顕著にねじれ、膜の細胞質側でポアの最も狭い部分に近づく。(C)サーフェス及びチューブ表示において示される2つのモノマーの膜貫通ヘリックス。チャージした残基は、空間充填表記で示され、青(+)及び赤(-)で示される。Leu105及びLeu109の位置(空間充填表記により描かれる)は、矢印で示される。(D)膜貫通ドメインのトップビュー(残基27-128)。ポア残基(96-113)は、サーフェス表記において示される。各サブユニットは、色と文字でラベルされる。1つのサブユニットのTM3Bヘリックスは、隣のサブユニットのTM1及びTM2の間のループのちょうど下に位置する。(E)MscSのサーフェス表記。側面に位置し、底で一つになる7つの細胞質のオープニング。」(第3051頁、図1)
(甲15-3)「ランダム変異実験は、いくつかの機能的に関連する残基を同定した。二重変異I48D/S49P(両残基とも、TM1の細胞質側に位置する、図1B)はチャネルを不活性化し、一方、T93R、L109S、A102P、V40K、及びV40Dは、ゲイン・オブ・ファンクション表現型として同定された(Millerら、2003a;Okadaら、2002)。93、102、及び109の残基がチャネルの伝導特性に影響を与えることは驚くことではないなぜなら、それらはポアを内張りするヘリックス(図1のTM3A)に位置するからである。」(第3051頁右欄第3行~第3052頁左欄第1行)
(甲15-4)「
図6.(A)ポアの閉鎖によるTM3A変形の詳細。サブユニットCヘリックス(残基96-113)のバックボーンは、チューブ表記で示される。残基Gly101、Ala102、Leu105、及びA1a106は、リコリス表記で示される。水素結合は、青で示される。(左)シミュレーションsim1の終わり(4.45ns)でのスナップショット。(右)シミュレーションsim2aのt=6.04nsでのスナップショット。(B)ポア残基(96-113、TM3A)及び周囲の脂質(ファンデルワールス表記、水素原子を白、炭素原子をシアン、そして酸素原子を赤とする)。サブユニットを図1Dのように着色した。各サブユニットの残基Leu105は、空間充填表記で示される。サブユニットA(明るい青)、C(赤)、及びE(オレンジ)は、顕著なねじれを示し、それらのLeu105側鎖はポアを遮蔽する。サブユニットAは脂質と密接する一方で、その他のサブユニットは密接しない。」(第3055頁、図6)
12.甲第17号証
(甲17-1)「【0002】
アミノ酸は、産業上極めて重要であり、アミノ酸の使用は多様である:すなわちたとえばL-リジン、たとえばL-スレオニン、L-メチオニン及びL-トリプトファンは飼料添加物として、L-グルタミン酸(Glutamat)は調味料として、L-イソロイシン及びL-チロシンは医薬業界で、L-アルギニン及びL-イソロイシンは薬剤として、あるいはL-グルタミン酸、L-アスパラギン酸(Asparat)及びL-フエニルアラニンはファインケミカルズの合成用出発化合物として必要とされる。
【0003】
この種々のアミノ酸製造の好ましい方法は、微生物によるバイオテクノロジー法である。というのはこの方法で各アミノ酸の生物学的に有効かつ光学的に活性な形が直ちに得られ、簡単かつ価格上有利な未精製物質を使用することができるからである。微生物としてたとえばコリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)及びその同属菌ssp.フラブム(flavum)及びssp.ラクトフェルメンタム(lactofermentum)(Liebel 等、Int J System Bacteriol(1991)41:255-260) 及びエシェリキア・コリ(大腸菌)(Escherichia coli)及びその同属菌が使用される。
【0004】
しかしこの菌は、一般にアミノ酸を増殖に必要な量でしか産生しないので、過剰のアミノ酸は産生されず、分離もされない。これは細胞内でアミノ酸の生合成が簡単な方法で調節されるということに基づく。したがって生成物産生をコントロールメカニズムの遮断によって増加させる種々の方法はすでに公知である。この方法に於ては、たとえばアミノ酸相似体を、生合成の有効な調節を遮断するために使用する。したがってたとえばL-チロシン- 及びL-フエニルアラニン相似体に耐性であるコリネバクテリウム菌株を使用する方法が開示されている(特開昭51-19037号及び同53-39517号公報)。同様にL-リジン- 又はL-スレオニン相似体に耐性の細菌がコントロールメカニズムを阻害するために使用されることが記載されている(ヨーロッパ特許第0205849号明細書、英国特許第2152509号明細書)。」(段落【0002】~【0004】)
13.甲第18号証
(甲18-1)「グルタミン酸生産性コリネ型細菌は、大量にL-グルタミン酸を生産することが知られている。」(第2頁左上欄第14行~第16行)
14.甲第19号証
(甲19-1)「L-グルタミン酸は調味料として幅広い用途があり、グルタミン酸生産性コリネ型細菌を培養して該細菌にL-グルタミン酸を生産せしめ、生成するL-グルタミン酸を該細菌の培養物から分離する発酵法により工業的に生産されている。」(第2頁左下欄第10行~第14行)
(甲19-2)「これらの細菌を用いてグルタミン酸を製造する際には、発酵終了時のL-グルタミン酸の培地中への蓄積濃度を高めること、および使用原料(W)当りのグルタミン酸の生成量(対糖収率)を向上させることが工業的に重要である。上記目的を達成するために、生産菌の育種改良が種々検討されている.たとえば、グルタミン酸のアナログ(構造類似体)またはグルタミン酸生合成経路の各種中間体のアナログ等に耐性を示す菌株を作製することにより、各種酵素活性のフィードバック阻害や抑制の解除された菌株を育種する方法.またグルタミン酸生合成経路の途中より分岐して副生産物の合成に向かう経路の酵素活性の低下した菌株を育種する方法等が試みられている。一方、グルタミン酸生合成に関与する酵素の活性を強化することによりL-グルタミン酸の生産速度を高めるとともに効率良くL-グルタミン酸を生成させる試みも近年行われるようになり、この目的省達成するためにグルタミン酸の生合成経路に関与する各種酵素遺伝子のクローニングが行われつつある.」(第2頁左下欄第19行~右下欄第19行)
(甲19-3)「しかしながら、L-グルタミン酸発酵においてその生産性を十分向上することのできる菌株については、これまでに報告された例がなかった。」(第3頁右上欄第5行~第7行)
15.甲第20号証
(甲20-1)「【0006】
本発明は、プラスミドを用いることなく目的遺伝子の発現量の適度な強化および調節を行うことができ、アミノ酸を高収率で生産する能力を有する変異株を遺伝子組換え又は変異により構築する方法を提供することを目的とする。
本発明は、副生アスパラギン酸およびアラニンの著しい増加を引き起こすことなく、コリネバクテリア菌株にグルタミン酸を高収率で生産する能力を付与することができるGDH用プロモーターを提供することを目的とする。
本発明は、又、上記GDH用プロモーター配列を持つGDH遺伝子を提供することを目的とする。
本発明は、又、上記遺伝子を有するL-グルタミン酸生産性コリネバクテリア菌株を提供することを目的とする。
本発明は、構築されたアミノ酸生産菌を用いる醗酵法によるアミノ酸の製造法を提供することを目的とする。
本発明は、コリネ型グルタミン酸生産菌を用いる、グルタミン酸の収率を向上させ、より安価にグルタミン酸を製造するグルタミン酸発酵法を提供することを目的とする。」(段落【0006】)
16.甲第21号証
(甲21-1)「本研究では、我々は、フェドバッチ発酵でのコリネバクテリウム・グルタミカムによるグルタミン酸の生産を試験した。対数増殖期に、2種の界面活性剤を非常に正確なステップで添加することによって、アミノ酸の排出を誘導した。界面活性剤のいくつかの効果を報告し、そして排出の誘発におけるそれらの役割を議論する。高濃度又は低濃度の排出されたグルタミン酸のいずれかをもたらす様々な条件での発酵における、細胞内と細胞培地間のグルタミン酸の再分配を我々は観察した。グルタミン酸の細胞内濃度を測定し、生理的状態の変化を反映する細胞容積の変化を考慮した。」(第220頁左欄第31行~右欄第11行)
17.甲第22号証
(甲22-1)「生合成経路と反応エンジニアリングの最適化における進んだ状態との比較において、アミノ酸の過剰生産における重要なステップ:生産物の発酵培地への排出、に向けられた研究は比較的少数である。」(第40頁左欄第41行~右欄第2行)
18.甲第23号証
(甲23-1)「したがって、高濃度のL-イソロイシン生産菌SM13において、このアミノ酸の外部への輸送は、主要な律速反応ステップであり、ゆえに、生物工学の目的のための菌株設計の新しいターゲットである。」(第4345頁、要約第13行~第15行)
19.甲第24号証
(甲24-1)「これらの結果は、C.グルタミカムを用いるスレオニン生産は、このアミノ酸の排出システムにより制限されることが示唆される。」(第126頁、要約第14行~第15行)
20.甲第25号証の1
(甲25の1-1)「
」(第55頁、表1)
21.甲第30号証
(甲30-1)「これらの細菌を用いてグルタミン酸を製造する際には、発酵終了時のL-グルタミン酸の培地中への蓄積濃度を高めること、および使用原料(W)当りのグルタミン酸の生成量(対糖収率)を向上させることが工業的に重要である。上記目的を達成するために、生産菌の育種改良が種々検討されている.たとえば、グルタミン酸のアナログ(構造類似体)またはグルタミン酸生合成経路の各種中間体のアナログ等に耐性を示す菌株を作製することにより、各種酵素活性のフィードバック阻害や抑制の解除された菌株を育種する方法.またグルタミン酸生合成経路の途中より分岐して副生産物の合成に向かう経路の酵素活性の低下した菌株を育種する方法等が試みられている。」(第2頁左下欄第19行~右下欄第12行)
22.甲第35号証
(甲35-1)「基本培地(50ml)を、5mlシード培地と共に、500mlエルレンマイヤーフラスコに2度接種し、ロータリー振とうインキュベーター中、30℃で6日間培養した。」(第151頁右欄第5行~第7行)
(甲35-2)「振とうフラスコ中、撹拌数が50rpmから200rpmに増えると、L-リジン生産は急速に増加し、その後横ばいになった。糖の利用は50rpmから300rpmで増加したが、最大収率は200rpmで観察された(図2)。」(第151頁右欄下から第5行~最終行)
第6 乙号証の記載事項
乙第19号証には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。)。
1.乙第19号証
(乙19-1)「相対的に強固な主鎖角を有するプロリン残基(68)とプロリン残基が水素結合形成の際に供与するアミド基の水素原子を欠如していることが、プロリンをよく知られたCK-ヘリックス構造の破壊者としている(69)。その代りに、相対的に親水性のプロリンの残基は(70)、β-ターン構造にプロリンが頻繁に存在する(すべてトランス型のペプチド結合と共に)ことからも明らかなように、タンパク質鎖の折り畳みを促進する主たる構造上の役割を果たしている(総説として、参考文献71参照)。」(第919頁左欄第8行~第15行)
第7 当審の判断
1.無効理由3(甲第8号証を主引用例とする進歩性)について
(1)甲第8号証に記載された発明
上記記載事項(甲8-1)、(甲8-2)及び(甲8-5)によると、甲第8号証には、「大腸菌のMscSとの類似性が示唆される浸透圧調節チャネルを有するコリネバクテリウム・グルタミカム」の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、請求人は、審判請求書第61頁において、「甲第8号証には、以下の発明(「甲8発明」)が開示されている。 L-グルタミン酸の排出に関わる、E.coliのMscSとの類似性が示唆される浸透圧制御チャネルを有する、コリネバクテリウム・グルタミカム。」と主張し、上記記載事項(甲8-1)及び(甲8-3)を、甲第8号証に「L-グルタミン酸の排出に関わる、E.coliのMscSとの類似性が示唆される浸透圧制御チャネル」が開示されている根拠としているが、甲第8号証には、上記記載事項(甲8-3)の表1の結果に基づいて、「当該チャネルは、グリシンベタイン及びプロリンのような相溶性の溶質の排出を優先的に媒介する。同じような大きさの分子、例えば、グルタミン酸又はリジンの遊離は、制限され、」と記載され(上記記載事項(甲8-1))、また、上記記載事項(甲8-3)の表1の結果は、甲第8号証に記載の「E.coliのMscSとの類似性が示唆される浸透圧制御チャネル」が、L-グルタミン酸の排出に関与することを示すものではないから、上記記載事項(甲8-1)及び(甲8-3)をみても、コリネバクテリウム・グルタミカムの「E.coliのMscSとの類似性が示唆される浸透圧調節チャネル」が、L-グルタミン酸の排出に関わることが甲第8号証に記載されているとは認められないので、請求人の上記主張は採用できない。
(2)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲8発明との対比
本件明細書の段落【0006】には、「コリネ型細菌のyggB遺伝子は、エシェリヒア・コリのyggB遺伝子のホモログであり(非特許文献2,3)、メカノセンシティブチャンネル(mechanosensitive channel)の一種として解析されているが、(非特許文献4)」と記載されており、また、メカノセンシティブチャンネルが浸透圧調節チャネルとしての機能を有することは技術常識である。
よって、本件訂正発明1に記載のyggB遺伝子は、浸透圧調節チャネルの一種の遺伝子であり、また、コリネバクテリウム・グルタミカムなどのコリネ型細菌が、浸透圧調節チャネルを有していれば、その遺伝子を有することは明らかであるから、本件訂正発明1と甲8発明とを対比すると、両者は、浸透圧調節チャネル遺伝子を有するコリネ型細菌である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)本件訂正発明1は、L-グルタミン酸生産能を有するコリネ型細菌であって、変異型yggB遺伝子が導入されたことにより非改変株と比較してL-グルタミン酸生産能が向上したコリネ型細菌であって、前記変異型yggB遺伝子は、(i)配列番号6、68、84もしくは85のアミノ酸配列のアミノ酸番号419-533の領域もしくは配列番号62のアミノ酸番号419-529の領域の欠失、(i’)配列番号6、68、84もしくは85のアミノ酸配列のアミノ酸番号419-533の領域もしくは配列番号62のアミノ酸番号419-529の領域へのインサーションシーケンス又はトランスポゾンの挿入、(i’’)配列番号6、68、84もしくは85のアミノ酸配列のアミノ酸番号419-533の領域もしくは配列番号62のアミノ酸番号419-529の領域に存在するプロリンを他のアミノ酸に置換する変異、または(ii)配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列のアミノ酸番号1-23、86-108、及び110-132からなる群から選ばれる領域における1~5個のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入の変異が導入された、コリネ型細菌であるのに対し、甲8発明は、そのような特定がされていない点。
イ 相違点についての検討
上記相違点について検討する。
上記記載事項(甲8-5)には、「C.グルタミカムのチャネルは、電気生理学的技術を用いることにより大腸菌において同定されたその他のタイプ、即ち、MscSと類似するかもしれない」との示唆があるものの、上記記載事項(甲8-1)~(甲8-5)は、甲第8号証に記載の浸透圧調節チャネルの遺伝子が、yggB遺伝子であることを示す記載とはいえず、また、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製し、その変異型yggB遺伝子をコリネ型細菌に導入することを開示も示唆もしていない。
甲第2号証には、コリネ型細菌において、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損させることが記載されている(上記記載事項(甲2-1)~(甲2-4))が、上記記載事項(甲2-1)~(甲2-4)は、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製し、その変異型yggB遺伝子をコリネ型細菌に導入することを開示も示唆もしていない。
甲第10号証には、コリネバクテリウム・グルタミカムに、大腸菌のyggB遺伝子及びMscL遺伝子のホモログが存在すること、yggB遺伝子ホモログのオープンリーディングフレームはCgl1270であること、yggB欠失変異体はベタインの排出速度を低下させたことが記載されている(上記記載事項(甲10-1)~(甲10-5))が、yggB遺伝子がL-グルタミン酸の排出に関与することは記載されておらず、上記記載事項(甲10-1)~(甲10-5)は、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製し、その変異型yggB遺伝子をコリネ型細菌に導入することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第13号証には、大腸菌において、yggBの106番目のアラニンに相当する、ホモログタンパク質KefAにおける922番目の位置での変異は、圧力に対してより感受性であるチャネルを形成し、カリウムに対して超過敏の細胞を形成することが報告されており、チャネルのこの領域の機能的な重要性を強調することが記載されている((甲13-1)~(甲13-2))が、甲第13号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのyggB遺伝子に関する文献ではなく、また、L-グルタミン酸の排出に関する記載もないから、上記記載事項(甲13-1)~(甲13-3)は、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製し、その変異型yggB遺伝子をコリネ型細菌に導入することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第14号証には、大腸菌のメカノセンシティブチャンネルには、MscM、MscS及びMscLがあること、YggBはMscSに改名すべきであること、大腸菌のyggBは、286個のアミノ酸より構成される3回膜貫通タンパク質であること、MscSにはゲイン・オブ・ファンクション(GOF)変異体があり、T93R、L109S及びA102Pのアミノ酸置換を有するGOF変異体を得ることが記載されている(上記記載事項(甲14-1)~(甲14-6))が、甲第14号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのyggB遺伝子に関する文献ではなく、また、L-グルタミン酸の排出に関する記載もないから、上記記載事項(甲14-1)~(甲14-6)は、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製し、その変異型yggB遺伝子をコリネ型細菌に導入することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第15号証には、大腸菌のyggBの膜貫通ドメインTM3は、TM3A及びTM3Bで構成され、TM3A(96-113番目のアミノ酸)がチャネルのポアを形成すること、TM3Aの101番目のグリシン、102番目のアラニン、105番目のロイシン及び106番目のアラニンが、チャネルのポアの遮蔽に関与していることが記載されている(上記記載事項(甲15-1)~(甲15-4))が、甲第15号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのyggB遺伝子に関する文献ではなく、また、L-グルタミン酸の排出に関する記載もないから、上記記載事項(甲15-1)~(甲15-4)は、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製し、その変異型yggB遺伝子をコリネ型細菌に導入することを示唆する記載であるとはいえない。
よって、甲第2、10、13~15号証の記載は、コリネバクテリウム・グルタミカムのyggB遺伝子がL-グルタミン酸の排出に関与することを示す記載であるとはいえず、また、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製し、その変異型yggB遺伝子をコリネ型細菌に導入することを示唆する記載であるとはいえない。また、周知技術ないし技術常識を示す証拠として提出された甲第3~4、7、9、12、17~24号証、甲第25号証の1、甲第30、35号証にも、コリネバクテリウム・グルタミカムのyggB遺伝子がL-グルタミン酸の排出に関与することを示す記載はなく、また、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製し、その変異型yggB遺伝子をコリネ型細菌に導入することの動機付けとなるような記載はないから、甲第2、10、13~15号証の記載及び本願優先日前の周知技術に基づいても、甲8発明において、浸透圧調節チャネルの遺伝子として、yggB遺伝子を選択し、さらに、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製し、その変異型yggB遺伝子をコリネ型細菌に導入することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
ウ 本件訂正発明1の効果について
本件明細書の実施例2~13の記載から、本件訂正発明1は、L-グルタミン酸生産能を向上させたコリネ型細菌を提供することができるという、甲8発明に比べて格別顕著な効果を奏するといえる。
エ まとめ
したがって、本件訂正発明1は、甲第8号証、甲第2号証、甲第10号証、甲第13号証、甲第14号証及び甲第15号証に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)請求人の主張について
請求人は、平成29年10月2日付け弁駁書において、「グルタミン酸生産能を有することが周知であったコリネ型細菌について、L-グルタミン酸の生産性を高めるという周知の課題を解決するために、重要な問題として認識されていた菌体内のL-グルタミン酸の菌体外への排出に着目し(技術常識)、コリネ型細菌のL-グルタミン酸の排出能を増強することは、当業者が容易に試みる事項である。その際、L-グルタミン酸の排出能を有する浸透圧制御チャネルを標的として選択し、それによるL-グルタミン酸の排出効率を高めることは当然である。 L-グルタミン酸の排出効率を高める手段として、浸透圧制御チャネルかつ機械受容チャネルであるyggB(MscS)のTM3に変異を導入することが知られていた(甲14発明及び甲15発明)。TM3(およそ96-127番目のアミノ酸)は、yggBタンパク質のチャネルのポア形成に重要であり、TM3の変異により、チャネルがオープンになった状態が実現する。 そこで、L-グルタミン酸の排出効率を高めることを目的として、甲8発明のコリネバクテリウム・グルタミカムのyggB(Cgl1270に特定される(甲10号証)。)に対し、甲14発明又は甲15発明を適用してTM3のアミノ酸を変異させ、相違点1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項である。」と主張している。
しかしながら、上記(2)イで述べたように、甲第14号証、甲第15号証は、yggB(MscS)がL-グルタミン酸の排出に関与するチャネルであることを示す文献ではないから、「L-グルタミン酸の排出効率を高める手段として、浸透圧制御チャネルかつ機械受容チャネルであるyggB(MscS)のTM3に変異を導入することが知られていた(甲14発明及び甲15発明)。」との請求人の上記主張は失当であり、また、上記(1)及び(2)イで述べたように、「甲8発明」は、「大腸菌のMscSとの類似性が示唆される浸透圧調節チャネルを有するコリネバクテリウム・グルタミカム」の発明であり、当該浸透圧調節チャネルがyggBであることを示す記載は甲第8号証にはないから、「甲8発明のコリネバクテリウム・グルタミカムのyggB」との請求人の上記主張は失当である。
また、上記(1)及び(2)イで述べたように、甲第8号証、甲第10号証には、コリネバクテリウム・グルタミカムのyggBが、L-グルタミン酸の排出に関与することが記載されているとはいえないから、甲8発明の「大腸菌のMscSとの類似性が示唆される浸透圧調節チャネル」に対して、甲第10号証の記載を参照して、甲第14号証、甲第15号証の記載事項を適用しても、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製し、その変異型yggB遺伝子をコリネ型細菌に導入することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえないから、請求人の上記主張は採用できない。
(4)本件訂正発明6~7、9~11について
本件訂正発明6~7、9~10は、本件訂正発明1に更なる限定を加えた発明であり、また、本件訂正発明11は、本件訂正発明1のコリネ型細菌を使用する方法の発明であるから、上記(2)で述べたように、本件訂正発明1が、甲第8号証、甲第2号証、甲第10号証、甲第13号証、甲第14号証及び甲第15号証に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件訂正発明6~7、9~11も、甲第8号証、甲第2号証、甲第10号証、甲第13号証、甲第14号証及び甲第15号証に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項1の記載を引用しないものとし、独立請求項とした発明であり、実質的に本件訂正発明1の(ii)の「配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列のアミノ酸番号1-23、86-108、及び110-132からなる群から選ばれる領域における1~5個のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入」の変異の下位概念に該当する「配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、100位のアラニンをスレオニンに、及び/または111位のアラニンをスレオニンもしくはバリンに置換する変異」を有する変異型yggB遺伝子が導入されたコリネ型細菌に係る発明であるから、上記(2)で述べたように、本件訂正発明1が、甲第8号証、甲第2号証、甲第10号証、甲第13号証、甲第14号証及び甲第15号証に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件訂正発明4も、甲第8号証、甲第2号証、甲第10号証、甲第13号証、甲第14号証及び甲第15号証に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件訂正発明12について
ア 本件訂正発明12と甲8発明との対比
本件明細書の段落【0006】には、「コリネ型細菌のyggB遺伝子は、エシェリヒア・コリのyggB遺伝子のホモログであり(非特許文献2,3)、メカノセンシティブチャンネル(mechanosensitive channel)の一種として解析されているが、(非特許文献4)」と記載されており、また、メカノセンシティブチャンネルが浸透圧調節チャネルとしての機能を有することは技術常識である。
よって、本件訂正発明12に記載のyggB遺伝子は、浸透圧調節チャネルの一種の遺伝子であり、また、コリネバクテリウム・グルタミカムなどのコリネ型細菌が、浸透圧調節チャネルを有していれば、その遺伝子を有することは明らかであるから、本件訂正発明12と甲8発明とを対比すると、両者は、浸透圧調節チャネル遺伝子である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)本件訂正発明12は、「下記(a)~(n)より選ばれる変異型yggB遺伝子:
(a) 配列番号8のアミノ酸配列をコードするDNA、
(b) 配列番号8のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(c) 配列番号20のアミノ酸配列をコードするDNA、
(d) 配列番号20のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(e) 配列番号22のアミノ酸配列をコードするDNA、
(f) 配列番号22のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(g) 配列番号24のアミノ酸配列をコードするDNA、
(h) 配列番号24のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(i) 配列番号64のアミノ酸配列をコードするDNA、
(j) 配列番号64のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(k) 配列番号70のアミノ酸配列をコードするDNA、
(l) 配列番号70のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。
(m) 配列番号74のアミノ酸配列をコードするDNA、
(n) 配列番号74のアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌に導入することにより、過剰量のビオチンを含む培地で培養したときの該コリネ型細菌のL-グルタミン酸生産能を向上させるDNA。」であるのに対し、甲8発明は、そのような特定がされていない点。
イ 相違点についての検討
上記相違点について検討する。
上記記載事項(甲8-5)には、「C.グルタミカムのチャネルは、電気生理学的技術を用いることにより大腸菌において同定されたその他のタイプ、即ち、MscSと類似するかもしれない」との示唆があるものの、上記記載事項(甲8-1)~(甲8-5)は、甲第8号証に記載の浸透圧調節チャネルの遺伝子が、yggB遺伝子であることを示す記載とはいえず、また、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製することを開示も示唆もしていない。
甲第2号証には、コリネ型細菌において、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を欠損させることが記載されている(上記記載事項(甲2-1)~(甲2-4))が、上記記載事項(甲2-1)~(甲2-4)は、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製することを開示も示唆もしていない。
甲第10号証には、コリネバクテリウム・グルタミカムに、大腸菌のyggB遺伝子及びMscL遺伝子のホモログが存在すること、yggB遺伝子ホモログのオープンリーディングフレームはCgl1270であること、yggB欠失変異体はベタインの排出速度を低下させたことが記載されている(上記記載事項(甲10-1)~(甲10-5))が、yggB遺伝子がL-グルタミン酸の排出に関与することは記載されておらず、上記記載事項(甲10-1)~(甲10-5)は、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第13号証には、大腸菌において、yggBの106番目のアラニンに相当する、ホモログタンパク質KefAにおける922番目の位置での変異は、圧力に対してより感受性であるチャネルを形成し、カリウムに対して超過敏の細胞を形成することが報告されており、チャネルのこの領域の機能的な重要性を強調することが記載されている((甲13-1)~(甲13-2))が、甲第13号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのyggB遺伝子に関する文献ではなく、また、L-グルタミン酸の排出に関する記載もないから、上記記載事項(甲13-1)~(甲13-3)は、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製することを示唆する記載とはいえない。
甲第14号証には、大腸菌のメカノセンシティブチャンネルには、MscM、MscS及びMscLがあること、YggBはMscSに改名すべきであること、大腸菌のyggBは、286個のアミノ酸より構成される3回膜貫通タンパク質であること、MscSにはゲイン・オブ・ファンクション(GOF)変異体があり、T93R、L109S及びA102Pのアミノ酸置換を有するGOF変異体を得ることが記載されている(上記記載事項(甲14-1)~(甲14-6))が、甲第14号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのyggB遺伝子に関する文献ではなく、また、L-グルタミン酸の排出に関する記載もないから、上記記載事項(甲14-1)~(甲14-6)は、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製することを示唆する記載であるとはいえない。
甲第15号証には、大腸菌のyggBの膜貫通ドメインTM3は、TM3A及びTM3Bで構成され、TM3A(96-113番目のアミノ酸)がチャネルのポアを形成すること、TM3Aの101番目のグリシン、102番目のアラニン、105番目のロイシン及び106番目のアラニンが、チャネルのポアの遮蔽に関与していることが記載されている(上記記載事項(甲15-1)~(甲15-4))が、甲第15号証は、コリネバクテリウム・グルタミカムのyggB遺伝子に関する文献ではなく、また、L-グルタミン酸の排出に関する記載もないから、上記記載事項(甲15-1)~(甲15-4)は、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製することを示唆する記載であるとはいえない。
よって、甲第2、10、13~15号証の記載は、コリネバクテリウム・グルタミカムのyggB遺伝子がL-グルタミン酸の排出に関与することを示す記載であるとはいえず、また、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製することを示唆する記載であるとはいえない。また、周知技術ないし技術常識を示す証拠として提出された甲第3~4、7、9、12、17~24号証、甲第25号証の1、甲第30、35号証にも、コリネバクテリウム・グルタミカムのyggB遺伝子がL-グルタミン酸の排出に関与することを示す記載はなく、また、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製することの動機付けとなるような記載はないから、甲第2、10、13~15号証の記載及び本願優先日前の周知技術に基づいても、甲8発明において、浸透圧調節チャネルの遺伝子として、yggB遺伝子を選択し、さらに、L-グルタミン酸生産能を向上させるために、変異型yggB遺伝子を作製することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
ウ 本件訂正発明12の効果について
本件明細書の実施例2~13の記載から、本件訂正発明12は、L-グルタミン酸生産能を向上させたコリネ型細菌を提供することができるという、甲8発明に比べて格別顕著な効果を奏するといえる。
エ まとめ
したがって、本件訂正発明12は、甲第8号証、甲第2号証、甲第10号証、甲第13号証、甲第14号証及び甲第15号証に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2.無効理由4(実施可能要件)及び無効理由5(サポート要件)について
(1)本件発明の詳細な説明の記載内容
本件発明の詳細な説明には、以下の内容が記載されている。
ア.「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コリネ型細菌を用いたL-グルタミン酸の製造において、L-グルタミン酸生産能力を向上させる新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本研究者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、yggB遺伝子がコリネ型細菌のL-グルタミン生産に関与していることを明らかにし、yggB遺伝子を用いてコリネ型細菌を改変することにより、L-グルタミン酸の生産能が大幅に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0007】~【0008】)
イ.「【0069】
<III> 本発明の変異型yggB遺伝子
以下、変異型yggB遺伝子の具体例を挙げる。ただし、変異型yggB遺伝子は、コリネ型細菌においてビオチンが過剰量存在する条件で、L-グルタミン酸生産能を向上させうる変異であれば特に制限されない。
【0070】
(III-1)C末端側変異
この変異は、配列番号6、68、84もしくは85のアミノ酸番号419-533の配列、または配列番号62のアミノ酸番号419-529の配列をコードする領域の塩基配列の一部に導入された変異である。例えば、この領域は、配列番号5の塩基配列においては、塩基番号2692-3035番目に相当する。上記領域の塩基配列中の少なくとも一部に変異が導入されていればいずれでもよいが、インサーションシーケンス(以下ISという)や、トランスポゾンが挿入されたものが好ましい。変異は、アミノ酸置換を伴うもの(ミスセンス変異)や、上記ISの挿入によってフレームシフト変異が導入されたもの、ナンセンス変異が導入されたものの何れでもよい。
【0071】
(III-1-1)転移因子の挿入による変異(2A-1型変異)
C末端側変異の一例として、配列番号5の2691番目のGの次にISが挿入された変異が挙げられる。この変異が導入された変異型yggB遺伝子の塩基配列を配列番号7に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号8に示す。配列番号8においては、配列番号6の419位のバリンから下流の領域が短いISに由来する配列に置換されている。なお、配列番号7にて挿入されたISは、IS1207(Genbank accession No. X96962) 、IS719: (Genbank accession No E12759)と相同性の高い配列である。
上記変異型yggB遺伝子を2A-1型変異と呼ぶ。2A-1型変異には、配列番号6、62、68、84および85のC末端側の該領域を欠失または置換する変異が含まれる。
また、上記領域に他のISが挿入されたもの、例えば上述したようなtransposaseをコードするISが挿入されたものも、本発明の範囲に含まれる。transposaseが導入される位置は上記領域のいずれの位置でもよいが、それぞれのtransposaseが認識しやすい箇所やISが挿入しやすいホットスポットの位置が好ましい。
【0072】
(III-1-2)プロリン残基を他のアミノ酸に置換する変異(66型変異、22型変異)
またC末端側変異の一例として、配列番号6、68、84もしくは85のアミノ酸番号419-533の配列、または配列番号62のアミノ酸番号419-529の領域内に存在するプロリンを他のアミノ酸に置換する変異が挙げられる。置換してもよいプロリンは、配列番号6の以下の位置に存在する。
424番目のプロリン残基(配列番号62、68、84、85の424番目)
437番目のプロリン残基(配列番号62、68、84、85の437番目)
453番目のプロリン残基(配列番号62、68、84、85の453番目)
457番目のプロリン残基(配列番号62、68、84、85の457番目)
462番目のプロリン残基(配列番号62、68、84、85の462番目)
469番目のプロリン残基(配列番号62、68、84、85の469番目)
484番目のプロリン残基(配列番号62、68、84、85の484番目)
489番目のプロリン残基(配列番号62、68、84、85の489番目)
497番目のプロリン残基(配列番号62、68、84、85の497番目)
515番目のプロリン残基(配列番号62、68、84、85の515番目)
529番目のプロリン残基(配列番号68、84、85の529番目、配列番号62番目の525番目)
533番目のプロリン残基(配列番号68、84、85の533番目、配列番号62番目の529番目)
yggB遺伝子のC末端側のプロリン残基は、YggBタンパク質の立体構造維持の為に重要な役割を果たしていると考えられる。(Protein Eng. 2002 Jan;15(1):29-33、J Biol Chem.1991 Dec 25;266(36):24287-94.)中でも424番目と437番目のプロリンが他のアミノ酸に置換することが望ましい。ここで他のアミノ酸とは、プロリン以外のアミノ酸で天然型アミノ酸であればいずれのアミノ酸でもよく、Lys,Glu,Thr,Val,Leu,Ile,Ser,Asp,Asn,Gln,Arg,Cys,Met,Phe,Trp,Tyr,Gly,Ala,Hisから選択される残基に置換すればよい。特に、424番目のプロリンは、疎水性アミノ酸であるAla、Gly、Val、Leu、Ileに置換されることが望ましく、中でも分岐鎖アミノ酸であるLeu、Val、Ileが望ましい。(66型変異)424番目のプロリンをロイシンに置換する変異として、例えば、配列番号67の1673位の“C”を“T”に置換する変異が挙げられる。この変異型yggB遺伝子を配列番号69に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号70に示す。
また、437番目のプロリンは、側鎖にヒドロキシル基を有するアミノ酸(Thr,Ser,Tyr)に置換することが望ましく、中でもSerへの置換が望ましい。(22型変異)437番目のプロリンをセリンに置換する変異としては、例えば配列番号5の2745位のCをTに置換する変異が挙げられる。また、本変異は、3060位のCをTに置換する変異を伴っていてもよい。この変異型yggB遺伝子を配列番号73に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号74に示す。
【0073】
(III-2)膜貫通領域の変異
yggB遺伝子がコードするYggBタンパク質は、5個の膜貫通領域を有していると推測される。配列番号6、62、68、84、85の野生型のYggBタンパク質のアミノ酸配列において、膜貫通領域はそれぞれ、アミノ酸番号1~23(第1膜貫通領域)、25~47(第2膜貫通領域)、62~84(第3膜貫通領域)、86~108(第4膜貫通領域)、110~132(第5膜貫通領域)の領域に相当する。これらをコードするDNAは配列番号5の1437-1505、1509-1577、1620-1688、1692-1760、1764-1832番目の塩基に該当する。本発明の変異は、この膜貫通領域をコードするDNA内に変異を有していることが望ましく、変異導入は1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、付加、挿入又は逆位を含む変異で、フレームシフト変異、ナンセンス変異を伴わないものが望ましい。従って、ここでアミノ酸配列の置換の場合は、アミノ酸置換を伴うミスセンス変異が好ましく、上記数個の置換、欠失、付加、挿入又は逆位とは、2~20個、好ましくは2~10個、より好ましくは2~5個、さらに好ましくは2~3個を意味する。またアミノ酸の挿入、欠失変異は、1~数塩基のポイントミューテーションの導入や、フレームシフト変異を伴わない塩基配列導入、例えば、3,6,9,12,15,18、または21塩基の挿入または欠失、好ましくは、3,6、または9塩基の欠失または挿入、より好ましくは3塩基の塩基配列の欠失または挿入が望ましい。
【0074】
例えば、以下のような変異が例として挙げられる。
(III-2-1)第1膜貫通領域の変異(A1型変異)
この変異は、配列番号6、62、68、84、85に示されるアミノ酸配列において、14番目のロイシン残基、15番目のトリプトファン残基間に1又は数アミノ酸挿入された変異である。具体例としては、14番目のロイシン残基、15番目のトリプトファン残基間に、3アミノ酸導入されたもの、例えばCys-Ser-Leuが挿入されたものが挙げられ、この変異の例として、配列番号5の1480番目のGの次にTTCATTGTGが挿入された変異が挙げられる。この変異が導入された変異型yggB遺伝子の塩基配列を配列番号19に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号20に示す。
【0075】
(III-2-2)第4膜貫通領域の変異(19型変異)
この変異は、配列番号6、62、68、84、85に示されるアミノ酸配列において、100番目のアラニン残基が、他のアミノ酸残基へ置換した変異である。他のアミノ酸とは、アラニン以外のアミノ酸残基であればいずれでもよく、他のアミノ酸とはアルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、メチオニン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トリプトファン、チロシン、バリン、スレオニンを意味するが、中でも側鎖にヒドロキシル基を有するアミノ酸(スレオニン、セリン、チロシン)に置換されていることが望ましく、特にスレオニン残基に置換されていることが望ましい。一例として配列番号5の1734番目のGがAに置換された変異が挙げられる。この変異が導入された変異型yggB遺伝子の塩基配列を配列番号21に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号22に示す。
【0076】
(III-2-3)第5膜貫通領域の変異(L30型変異、8型変異)
この変異は、配列番号6、62、68、84、85に示されるアミノ酸配列において、111番目のアラニン残基が、他のアミノ酸残基へ置換した変異である。他のアミノ酸とは、アラニン以外のアミノ酸残基であれば、いずれでもよく、他のアミノ酸とはアルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、メチオニン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トリプトファン、チロシン、バリン、スレオニンを意味するが、中でも分岐鎖アミノ酸(バリン、イソロイシン、ロイシン)、特にバリン残基や、側鎖にヒドロキシル基を有するアミノ酸(スレオニン、セリン、チロシン)、特にスレオニン残基に置換されていることが望ましい。この変異の例として、配列番号5の1768番目のCがTに置換された変異(L30型変異)や、配列番号61の837番目のGがAに置換された変異(8型変異)が挙げられる。L30型変異が導入された変異型yggB遺伝子の塩基配列を配列番号23に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号24に示す。8型変異が導入された変異型yggB遺伝子の塩基配列を配列番号63に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号64に示す。
【0077】
上記の「変異型yggB遺伝子」は、ビオチンが過剰量存在する条件におけるL-グルタミン酸生産能を向上させる機能を有する限り、上述の変異を含む機能的に均等な遺伝子、例えば、配列番号7の塩基番号1437~2705の塩基配列を含むDNA、配列番号19の塩基番号1437~3044の塩基配列を含むDNA、配列番号21の塩基番号1437~3035の塩基配列を含むDNA、配列番号23の塩基番号1437-3035の塩基配列を含むDNA、配列番号63の塩基番号507-2093の塩基配列を含むDNA、配列番号69の塩基番号403-2001の塩基配列を含むDNA、配列番号73の塩基番号548-2146の塩基配列を含むDNAのような変異型遺伝子と実質的に相同な遺伝子で、これらと相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチドまたは該塩基配列の一部を有するプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子であってもよい。ここでストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件のことをいう。例えば、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件が挙げられ、具体的には、60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、さらに好ましくは、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度、温度で、1回より好ましくは2~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0078】
変異型yggB遺伝子がコードするタンパク質としては、同タンパク質の活性がビオチンが過剰量存在する条件においてL-グルタミン酸生産能を向上させる機能を有する限り、機能的に均等なタンパク質例えば、配列番号8、20、22、24、64,70,74から選択されるアミノ酸配列において、上記変異点のアミノ酸以外にさらに、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有するものであってもよい。ここで、数個とは、例えば、2~20個、好ましくは2~10個、より好ましくは2~5個を意味する。上記置換は保存的置換(中性変異)が好ましく、保存的置換としては、alaからser又はthrへの置換、argからgln、his又はlysへの置換、asnからglu、gln、lys、his又はaspへの置換、aspからasn、glu又はglnへの置換、cysからser又はalaへの置換、glnからasn、glu、lys、his、asp又はargへの置換、gluからgly、asn、gln、lys又はaspへの置換、glyからproへの置換、hisからasn、lys、gln、arg又はtyrへの置換、ileからleu、met、val又はpheへの置換、leuからile、met、val又はpheへの置換、lysからasn、glu、gln、his又はargへの置換、metからile、leu、val又はpheへの置換、pheからtrp、tyr、met、ile又はleuへの置換、serからthr又はalaへの置換、thrからser又はalaへの置換、trpからphe又はtyrへの置換、tyrからhis、phe又はtrpへの置換、及び、valからmet、ile又はleuへの置換が挙げられる。また、上述したように、配列番号85のXaaのアミノ酸が置換されてもよい。さらに、本発明のyggB遺伝子は、配列番号8、20、22、24、64,70,74のアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有するタンパク質をコードし、コリネ型細菌で変異型yggBがコードするタンパク質と同等の活性を有するタンパク質をコードするホモログも含む。
【0079】
特に、以下のアミノ酸は配列番号8、20、22、24、64,70,74のアミノ酸配列において置換されていてもよい。
48位のGlu(好ましくはArgによる置換)
275位のAsp(好ましくはSerによる置換)
298位のGlu(好ましくはAlaによる置換)
343位のAla(好ましくはValによる置換)
396位のPhe(好ましくはIleによる置換)
438位のSer(好ましくはGlyによる置換)
445位のVal(好ましくはAlaによる置換)
454位のAla(好ましくはValによる置換)
457位のPro(好ましくはSerによる置換)
474位のSer(好ましくはAspによる置換)
517位のVal(好ましくは欠失)
518位のGlu(好ましくは欠失)
519位のAla(好ましくは欠失)
520位のPro(好ましくは欠失)」(段落【0069】~【0079】)
ウ.「【0081】
本発明のコリネ型細菌は、変異型yggB遺伝子を導入することにより、L-グルタミン酸アナログに対する耐性が向上したものであってもよい。本発明でL-グルタミン酸アナログとは、L-グルタミン酸-γ-メチルエステル、α-メチルグルタミン酸、β-ヒドロキシグルタミン酸、メチオニンスルホキシミン、グルタミン酸-γ-モノヒドロキサメ-ト、2-アミノ-4-ホスホノ酪酸、L-グルタミン酸-γ-モノエチルエステル、L-グルタミン酸ジメチルエステル、L-グルタミン酸-ジ-t-ブチルエステル、モノフロログルタミン酸、L-グルタミン酸ジエチルエステル、D-グルタミン酸、4-フルオログルタミン酸が挙げられる。L-グルタミン酸アナログに対する耐性の向上とは、最少培地に4-フルオログルタミン酸を添加して一昼夜培養した際に、親株の生菌数(コロニー形成能を有する菌数)を1/100まで抑制できるような濃度においても1/10以上の増殖を示すことをいう。具体的には、1.25mM、好ましくは2.5mM、より好ましくは、5mM以上の4-フルオログルタミン酸に耐性を有することを意味する。
」(段落【0081】)
エ.「【実施例2】
【0095】
<C.glutamicum ATCC13869由来odhA変異株の構築>
コリネ型細菌のα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼをコードしているodhA遺伝子の配列は既に明らかにされている(Microbiology 142,3347-3354,(1996)、GenBank accession No.D84102)。公開されているodhA遺伝子の配列を基に、配列番号1、2に記載のプライマーを設計しATCC13869株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、odhA遺伝子の内部配列のみを増幅した。増幅したPCR断片をBamHIで完全分解し、実施例1で構築したpBS4SのBamHI部位に挿入したプラスミドpBS4SΔsucAintを構築した(構築図は図3に記載)。
【0096】
電気パルス法(特開平2-207791)にてC.glutamicum ATCC13869へpBS4SΔsucAintを導入し、カナマイシン25μg/mlを含むCM-Dex寒天培地(グルコース 5g/l、ポリペプトン 10g/l、酵母エキス 10g/l、KH2PO4 1g/l、MgSO4・7H2O 0.4g/l、FeSO4・7H2O 0.01g/l、MnSO4・4~5H2O 0.01g/l、尿素 3g/l、大豆蛋白加水分解液1.2g/l、寒天 20g/l、NaOHを用いてpH7.5に調整:オートクレーブ120℃20分)上に塗布した。31.5℃にて培養後、生育してきた株を、相同組換えによって染色体上にpBS4SΔsucAintが組み込まれた1回組換え株であることをPCRにて確認した。なお1回組換え株であることの確認は、候補株の染色体を鋳型にし、pBS4S上の特異的配列(配列番号3)と染色体上の配列(配列番号4)をプライマーにしたPCRを行うことによって、容易に確認することが出来る(非組み換え株の染色体上にはpBS4Sの配列が存在していないため、PCRによって増幅される断片が出現しないことから判別可能となる)。
【0097】
こうして取得した1回組換え株を2A-1株と名付けた。野生株ATCC13869および2A-1株を20mlのフラスコ培地(グルコース30g/l, 硫酸アンモニウム 15g/l, KH2PO4 1g/l, MgSO4・7H2O 0.4g/l, FeSO4・7H2O 0.01g/l, MnSO4・4~5H2O 0.01g/l, VB1 200μg/l, Biotin300μg/l, 大豆加水分解物(T-N)0.48g/l, KOHを用いてpH8.0に調整:オートクレーブ115℃10分)に接種した後、予め乾熱滅菌しておいた炭酸カルシウムを1g加え、31.5℃で振とう培養した。完全に糖を消費したのち、培地中のL-グルタミン酸濃度を測定した。結果を表1に示す(OD620は101倍希釈の濁度で菌体量の指標であり、Glu(g/L)はL-グルタミン酸の蓄積量を示す)。親株のATCC13869ではL-グルタミン酸を全く生成しない条件においても2A-1株ではL-グルタミン酸生産能を有することが確認された。
【0098】
【表1】
」(段落【0095】~【0098】)
オ.「【実施例3】
【0099】
<2A-1由来odhA復帰株の構築>
取得した2A-1株は、染色体上のodhA遺伝子がpBS4SΔT¥sucAintによって破壊されている。この株から染色体上のプラスミドを脱落させればodhAは野生型に復帰する。一方、odhAが欠損した株では、糖を含まない培地での生育が著しく遅いが、odhAが野生型に復帰すれば糖を含まないCM2B(ポリペプトン 10g/l、酵母エキス 10g/l、NaCl 5g/l、Biotin 10μg/L、寒天 20g/l、KOHを用いてpH7.0に調整)のような培地でも良好に生育すると推測される。そこで、2A-1株をCM2Bプレートに塗布し、生育改善株を誘導した。こうして出現した生育改善株2A-1R株をCM2Bプレートで純化し、そのカナマイシン感受性を調べたところ、すべてカナマイシン感受性であり、スクロース耐性であることが明らかとなった。
【0100】
pBS4SΔsucAintにはカナマイシン耐性遺伝子とレバンシュークラーゼをコードするsacB遺伝子が含まれているため、pBS4SΔsucAintを有する株ではカナマイシン耐性とスクロース感受性を示し、脱落した株ではカナマイシン感受性を示し、またスクロース耐性を示すこととなる。これらの結果から2A-1R株ではodhAが野生型に復帰していることが示唆された。さらにodhA遺伝子の配列を確認した結果、odhA遺伝子には変異がないことが確認されたことから、2A-1R株ではodhAは野生型に復帰していると結論した。2A-1R株のグルタミン酸生産能を実施例2と同様の方法で確認した。結果を表2に示す。(OD620は101倍希釈の菌体量、Glu(g/L)はL-グルタミン酸の蓄積量を示す)2A-1R株のグルタミン酸蓄積は2A-1株には劣るものの野生株ATCC13869よりも遥かに高いことが示された(表2)。また、糖を完全に消費した後も振とうを続けたところ、2A-1Rではグルタミン酸の分解が認められ、odhAが野生型に復帰していることが裏付けられた(図4)。
【0101】
【表2】
【実施例4】
【0102】
<2A-1R株のグルタミン酸生成に関与する遺伝子の単離>
2A-1R株は、CM2Bプレート培地上においては、野生株ATCC13869とほぼ変わらない速度でコロニーを形成できる。しかし、最少培地(グルコース20g/l,硫酸アンモニウム 2.64g/L, KH2PO4 0.5g/L, K2HPO4 0.5g/L, MgSO4・7H2O 0.25g/L, FeSO4・7H2O 0.01g/L, MnSO4・7H2O 0.01g/L,CaCl2 0.01g/L, CuSO4 0.02mg/L, MOPS 40g/L, プロトカテク酸 30mg/L, VB1・HCl200μg/L, Biotin 300μg/L, 寒天 20g/L, NaOHを用いてpH6.7に調整)プレート上では野生株ATCC13869に比し著しくコロニー形成速度が低下していることが明らかとなった。そこで、最少培地で2A-1R株の生育を回復できる遺伝子の探索をおこなった。
【0103】
ATCC13869株の染色体DNAをSau3AIで部分分解し、シャトルベクターpVK9をBamHIで処理したものとライゲーションし、ライゲーション反応液をエタノール沈殿した後、E.coli DH5α(タカラバイオ)のエレクトロコンピテントセルを電気パルス法で形質転換した。pVK9は、pHSG299(タカラバイオ)のAvaII部位を平滑末端化し、pHK4(特開平05-007491)に含まれるコリネ型細菌内で自律複製可能な領域をBamHIおよびKpnIで切り出し平滑末端化した断片を挿入したシャトルベクターである。形質転換後の菌体はカナマイシン25μg/mlを含むLBプレート培地(ポリペプトン 10g/l、酵母エキス 5g/l、NaCl 5g/l、寒天 20g/l、NaOHを用いてpH7.0に調整)に塗布し、37℃で一晩培養した。翌日出現したコロニーを全てエーゼでかきとり、プラスミドを抽出しATCC13869のライブラリーとした。このライブラリーを実施例3で得られた2A-1R株に電気パルス法にて形質転換し、カナマイシン25μg/mlを含む最少培地プレートに塗布し、コロニー形成速度が向上した株をスクリーニングした。コロニー形成速度が向上した株よりプラスミドを抽出した結果、配列番号5に記す断片がpVK9のBamHI部位に挿入されていたことが明らかとなった。このプラスミドをpL5kと命名した。
【0104】
pL5kの挿入配列と、既に公開されているコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032のゲノム配列(Acc.No.NC_003450)を比較した結果、pL5kには完全長のORFとして、配列番号6に示すアミノ酸配列をもつORFのみが含まれていることが明らかとなった。ORFが膜タンパク質か否かは、インターネット上で利用可能なプログラム「SOSUI」によって予測可能である(2004/10/07 現在http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/sosuiframe0E.htmlにリンクされている)。「SOSUI」でこのORFを解析した結果、5回の膜貫通領域が存在していることが示唆された。配列番号6のアミノ酸配列において、膜貫通領域はそれぞれ、アミノ酸番号1~23、25~47、62~84、86~108、110~132の領域に相当する。これらをコードするDNA配列は、配列番号5の1437-1505、1509-1577、1620-1688、1692-1760、1764-1832番目の塩基配列に、膜貫通領域のアミノ酸配列は配列番号25-29、表3に示した
【0105】
【表3】
【0106】
さらに公知の文献を調べた結果、このORFはYggB(NCgl 1221)として解析されているORFであることが明らかとなった(FEMS Microbiology letters 218(2003)305-309)。
【実施例5】
【0107】
<2A-1R株のYggB遺伝子の変異点同定>
2A-1R株の最少培地における生育をpL5Kが相補したことから、2A-1R株のyggB遺伝子には何らかの変異がある可能性が示唆された。そこで、2A-1R株のyggB遺伝子の塩基配列を決定した。その結果2A-1R株ではYggB遺伝子のC末端側の領域にISが挿入されていることが明らかとなった(図5)。2A-1R株の変異型yggB遺伝子の塩基配列を配列番号7に、アミノ酸配列を配列番号8に記した。このことから、2A-1R株のグルタミン酸生産能は、yggB遺伝子の変異によって維持されていた可能性が示唆された。なお、この変異は2A-1R株のみならず2A-1株にも存在していた。odhA遺伝子に変異を導入した際に、安定してグルタミン酸を細胞外に放出するためのサプレッサー変異として起こった変異であると推測される。ここで、ISが挿入されたこの変異を、2A-1型変異とした。」(段落【0099】~【0107】)
カ.「【実施例6】
【0108】
<2A-1型yggB変異株構築とL-グルタミン酸生産能評価>
(6-1)2A-1型変異の野生株への導入と評価(1回組換え株)
2A-1株の染色体DNAを鋳型として、配列番号9と配列番号10に示す合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、2A-1型変異を有するyggB遺伝子断片を増幅した。増幅産物はSacIで処理し、実施例1のpBS3のSacI部位に挿入した。2A-1型変異を有するyggB断片がクローニングされたプラスミドをpBS3yggB2Aと名付けた。電気パルス法にてC.glutamicum ATCC13869にpBS3yggB2Aを導入し、カナマイシン25μg/mlを含むCM-Dex寒天培地上に塗布した。31.5℃にて培養後生育してきた株を、相同組換えによって染色体上にpBS3yggB2Aが組み込まれた1回組換え株であることをPCRで確認した。得られた一回組換え株を13869-2Aとした。この株では、野生型のyggB遺伝子と変異型のyggB遺伝子の両方が発現していることとなる。
【0109】
取得したyggB変異導入株13869-2Aのグルタミン酸生産能を、実施例2記載の方法にて確認した。その結果を表4に示す(OD620は101倍希釈の菌体量、Glu(g/L)はL-グルタミン酸の蓄積量を示す)。13869-2A株では、ATCC13869株がL-グルタミン酸を生成しない条件でも、明確なグルタミン酸生産能が確認できた。このことから、YggB遺伝子の変異により、グルタミン酸生産が誘導できることが示された。
【0110】
【表4】
【0111】
(6-2)2A-1型変異の野生株への導入と評価(2回組換え株)
変異型遺伝子のみを有する株を構築する為、13869-2A株をCM-Dex液体培地で一夜培養した懸濁液をS10寒天培地(スクロース 100g/l、ポリペプトン 10g/l、酵母エキス 10g/l、KH2PO4 1g/l、MgSO4・7H2O 0.4g/l、FeSO4・7H2O 0.01g/l、MnSO4・4~5H2O 0.01g/l、尿素 3g/l、大豆蛋白加水分解液1.2g/l、寒天 20g/l、NaOHを用いてpH7.5に調整:オートクレーブ120℃20分)上に塗布し31.5℃で培養した。出現したコロニーのうち、カナマイシン感受性を示す株をs2B寒天培地上で純化した。これらの株より染色体DNAを調整し、配列番号9と配列番号10に示す合成DNAをプライマーとしてPCRを行い変異を確認し、yggB遺伝子にIS様配列が挿入されていた株を13869-2A-7とした。
【0112】
取得した13869-2A-7株のグルタミン酸生産能を、実施例2記載の方法にて確認した。その結果を表5に示す。(OD620は101倍希釈の菌体量、Glu(g/L)はL-グルタミン酸の蓄積量を示す)。13869-2A-7株では、2A-1R株と同等以上のグルタミン酸生産能を示したことから、ビオチン過剰量存在下でのL-グルタミン酸生産は、yggB遺伝子の変異によって引き起こされることが確認できた。
【0113】
【表5】
」(段落【0108】~【0113】)
キ.「【実施例7】
【0114】
<A1型YggB変異株の構築と評価>
上述のL-グルタミン酸生産性のodhA変異株を解析した結果、上述の2A-1変異の他にyggB遺伝子上に5種類の変異を見出した。以下、それぞれA1型変異、19型変異、L30型変異、8型変異、66型変異とし、前者3つについてはATCC13869の染色体に変異を導入して効果を確認した。8型変異についてはATCC14067の染色体に変異を導入して効果を確認した。66型変異に関しては、C.melassecola ATCC17965の染色体に変異を導入して効果を確認した。
【0115】
A1型変異は、配列番号5の1480番目のGの次にTTCATTGTGが挿入された変異であり、配列番号6のアミノ酸配列の14番目のロイシン残基、15番目のトリプトファン残基間にシステイン、セリン、ロイシン残基が挿入された変異である。この変異が導入された変異型yggB遺伝子の塩基配列を配列番号19に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号20に示す。
【0116】
A1型変異遺伝子の取得は次のようにすれば行うことが出来る。配列番号30に示す合成DNAと配列番号31に示す合成DNAをプライマーとして、ATCC13869株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、N末端側断片を調製する。同様に配列番号32と配列番号33の合成DNAをプライマーとして、C末端側断片を調製する。続いてN末端側断片とC末端側断片を等量混合したものを鋳型として、配列番号9と配列番号34の合成DNAをプライマーとしてPCRを行えばA1型YggB遺伝子の部分断片を取得できる。得られたYggB断片はSacIで処理してpBS4SのSacI部位に挿入することにより、変異導入用のプラスミドが構築可能である。このようにして得られたpBS4 YggBA1を実施例6記載の方法と同様にATCC13869株の染色体に挿入した後、脱落させる。得られたカナマイシン感受性株のyggB遺伝子の配列を決定し、A1型に置換されていた株を選択すれば、A1型変異を有する株を構築することができる。このような変異を持つA1型変異株をATCC13869-A1株とした。
【0117】
ATCC13869-A1株と親株のATCC13869株を実施例2と同様の方法で培養を行った。培養終了後、培養液中に含まれるL-グルタミン酸の量を公知の方法で測定した。
A1変異を染色体上に導入した、ATCC13869-A1株は親株のATCC13869株と比べてL-グルタミン酸蓄積が大幅に向上していた。
【0118】
【表6】
」(段落【0114】~【0118】)
ク.「【実施例8】
【0119】
<19型YggB変異株の構築と評価>
19型変異は、配列番号5の1734番目のGがAに置換された変異であり、配列番号6のアミノ酸配列の100番目のアラニンがスレオニンに置換された変異である。この変異が導入された変異型YggB遺伝子の塩基配列を配列番号21に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号22に示す。実施例7と同様の方法にて、19型変異が導入されたyggB変異株を構築した。具体的には、配列番号30に示す合成DNAと配列番号35に示す合成DNAをプライマーとして、ATCC13869株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、N末端側断片を調製する。同様に配列番号33と配列番号36の合成DNAをプライマーとして、C末端側断片を調製する。続いてN末端側断片とC末端側断片を等量混合したものを鋳型として、配列番号9と配列番号34の合成DNAをプライマーとしてPCRを行えば19型YggB遺伝子の部分断片を取得できる。得られたYggB断片はSacIで処理してpBS4SのSacI部位に挿入することにより、変異導入用のプラスミドが構築可能である。このようにして得られたpBS4 YggB19を実施例6記載の方法と同様にATCC13869株の染色体に挿入した後、脱落させる。得られたカナマイシン感受性株のyggB遺伝子の配列を決定し、19型に置換されていた株を選択すれば、19型変異を有する株を構築することができる。このような変異を持つ19型変異株をATCC13869-19株とした。
【0120】
ATCC13869-19株と親株のATCC13869株を実施例2と同様の方法で培養を行った。培養終了後、培養液中に含まれるL-グルタミン酸の量を公知の方法で測定した。19変異を染色体上に導入した、ATCC13869-19株は親株のATCC13869株と比べてL-グルタミン酸蓄積が大幅に向上していた。
【0121】
【表7】
」(段落【0119】~【0121】)
ケ.「【実施例9】
【0122】
<L30型YggB変異株の構築>
L30型変異は、配列番号5の1768番目のCがTに置換された変異であり、配列番号6の111番目のアラニンがバリンに置換された変異である。この変異が導入された変異型YggB遺伝子の塩基配列を配列番号23に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号24に示す。
実施例7と同様の方法にて、L30型変異が導入されたyggB変異株を構築した。具体的には、配列番号30に示す合成DNAと配列番号37に示す合成DNAをプライマーとして、ATCC13869株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、N末端側断片を調製する。同様に配列番号34と配列番号38の合成DNAをプライマーとして、C末端側断片を調製する。続いてN末端側断片とC末端側断片を等量混合したものを鋳型として、配列番号9と配列番号34の合成DNAをプライマーとしてPCRを行ないL30型YggB遺伝子の部分断片を取得する。得られた変異型YggB断片はSacIで処理してpBS4SのSacI部位に挿入することにより、変異導入用のプラスミドを構築した。このようにして得られたpBS4 YggB-Lを実施例6記載の方法と同様にATCC13869株の染色体に挿入した後、脱落させる。得られたカナマイシン感受性株のyggB遺伝子の配列を決定し、L30型に置換されていた株を選択し、L30型変異を有する株を構築した。このような変異を持つL30型変異株をATCC13869-L株とした。
【0123】
ATCC13869株と、ATCC13869-L株を実施例2と同様の方法で培養を行い、培養終了後、培養液中に含まれるL-グルタミン酸の量を公知の方法で測定した。結果を表8に示す。(OD620は101倍希釈の菌体量、Glu(g/L)はL-グルタミン酸の蓄積量を示す)。L-30変異を導入したATCC13869-L30株は親株のATCC13869株と比べてL-グルタミン酸蓄積が大幅に向上していた。
【0124】
【表8】
」(段落【0122】~【0124】)
コ.「【実施例10】
【0125】
<変異型yggB遺伝子導入株のL-グルタミン酸生成条件における培養評価>
コリネ型細菌はTween40等の脂肪酸系界面活性剤の添加や、ビオチン制限によりグルタミン酸生成を誘導できる。そこで、ATCC13869株とATCC13869-19株について、Tween40添加条件およびビオチン制限条件での培養も行った。シード培養は、20mlのフラスコ培地(グルコース80g/l, 硫酸アンモニウム 30g/l, KH2PO4 1g/l, MgSO4・7H2O 0.4g/l, FeSO4・7H2O 0.01g/l, MnSO4・4~5H2O 0.01g/l, VB1 200μg/l, Biotin 60μg/l, 大豆加水分解物(T-N)0.48g/l, KOHを用いてpH8.0に調整:オートクレーブ115℃10分)に接種した後、予め乾熱滅菌しておいた炭酸カルシウムを1g加え、31.5℃で振とう培養した。完全に糖を消費した培養液を種培養液とした。Tween40添加培養においては、種培養液2mlを20mlのフラスコ培地(グルコース80g/l, 硫酸アンモニウム 30g/l, KH2PO4 1g/l, MgSO4・7H2O 0.4g/l, FeSO4・7H2O 0.01g/l, MnSO4・4~5H2O 0.01g/l, VB1 200μg/l, Biotin 60μg/l, 大豆加水分解物(T-N)0.48g/l, KOHを用いてpH8.0に調整:オートクレーブ115℃10分)に接種した後、予め乾熱滅菌しておいた炭酸カルシウムを1g加え、31.5℃で振とう培養した。培養開始後、OD620(x101)=0.2に到達した時点で、最終濃度5g/LとなるようにTween40を添加し培養を継続した。ビオチン制限培養においては、種培養液1mlを20mlのフラスコ培地(グルコース80g/l, 硫酸アンモニウム 30g/l, KH2PO4 1g/l, MgSO4・7H2O0.4g/l, FeSO4・7H2O 0.01g/l, MnSO4・4~5H2O 0.01g/l, VB1 200μg/l, 大豆加水分解物(T-N)0.48g/l, KOHを用いてpH8.0に調整:オートクレーブ115℃10分)に接種した後、予め乾熱滅菌しておいた炭酸カルシウムを1g加え、31.5℃で振とう培養した。この条件ではビオチンの終濃度が約2.9μg/Lとなる。
Tween40添加培養およびビオチン制限培養ともに、培養開始後40時間後の培地中のL-グルタミン酸濃度を測定した。結果を表9に示す(OD620は101倍希釈の菌体量、Glu(g/L)はL-グルタミン酸の蓄積量を示す)。ATCC13869-19株では、L-グルタミン酸生産条件でもL-グルタミン酸の蓄積の増大が認められた。
【0126】
【表9】
【0127】
ATCC13869株、ATCC13869-L30、ATCC13869-A1株、ATCC13869-19株、プラスミドによるyggB増幅株についても、Tween40添加培養を行なった。CM-Dexプレートに一夜培養した菌体を1/6プレート分かきとり、20mlのフラスコ培地(グルコース80g/l, 硫酸アンモニウム30g/l, KH2PO4 1g/l, MgSO4・7H2O 0.4g/l, FeSO4・7H2O 0.01g/l, MnSO4・4~5H2O 0.01g/l, VB1 200μg/l, Biotin 60μg/l, 大豆加水分解物(T-N)0.48g/l, KOHを用いてpH8.0に調整:オートクレーブ115℃10分)に接種した後、予め乾熱滅菌しておいた炭酸カルシウムを1g加え、31.5℃で振とう培養した。培養開始5時間後にTween40を終濃度1g/Lとなるように添加し、培養開始から24時間後の菌体量とL-グルタミン酸の収量を分析した。その結果、表10に示すように、ATCC13869-19, ATCC13869-L30, ATCC13869-A1株、野生型のyggB遺伝子増幅株(ATCC13869/pL5k-1)ともにL-グルタミン酸生産条件でのL-グルタミン酸の収量が向上していることが示された。
【0128】
【表10】
」(段落【0122】~【0128】)
サ.「【実施例11】
【0129】
<8型YggB変異株の構築>
8型変異は、配列番号61の837位のGがAに置換された変異であり、配列番号62の111位のアラニンがスレオニンに置換されている。この変異が導入された変異型YggB遺伝子の塩基配列を配列番号63に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号64に示す。
実施例7と同様の方法にて、8型変異が導入されたyggB変異株を構築する。具体的には、配列番号30に示す合成DNAと配列番号65に示す合成DNAをプライマーとして、Brevibacterium flavumATCC14067株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、N末端側断片を調製する。同様に配列番号34と配列番号66の合成DNAをプライマーとして、C末端側断片を調製する。続いてN末端側断片とC末端側断片を等量混合したものを鋳型として、配列番号9と配列番号34の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、8型YggB遺伝子の部分断片を取得する。得られた変異型YggB断片はSacIで処理してpBS4SのSacI部位に挿入することにより、変異導入用のプラスミドを構築する。このようにして得られたpBS4 YggB8を実施例6記載の方法と同様にATCC14067株の染色体に挿入した後、脱落させる。得られたカナマイシン感受性株のyggB遺伝子の配列を決定し、8型に置換されていた株を選択し、8型変異を有する株を構築する。このような変異を持つ8型変異株をATCC14067yggB8株とする。」(段落【0129】)
シ.「【実施例12】
【0130】
<66型YggB変異株の構築>
66型変異は、配列番号67の1673番目のCがTに置換された変異であり、配列番号68の424番目のプロリンがロイシンに置換されている。この変異が導入された変異型YggB遺伝子の塩基配列を配列番号69に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号70に示す。
実施例7と同様の方法にて、66型変異が導入されたyggB変異株を構築する。具体的には、配列番号30に示す合成DNAと配列番号71に示す合成DNAをプライマーとして、C.melassecolaATCC17965株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、N末端側断片を調製した。同様に配列番号34と配列番号72の合成DNAをプライマーとして、C末端側断片を調製する。続いてN末端側断片とC末端側断片を等量混合したものを鋳型として、配列番号9と配列番号10の合成DNAをプライマーとしてPCRを行えば66型yggB遺伝子の部分断片を取得できる。得られた変異型YggB断片をSacIで処理してpBS4SのSacI部位に挿入することにより、変異導入用のプラスミドを構築する。このようにして得られたpBS4 YggB66を実施例6記載の方法と同様にATCC17965株の染色体に挿入した後、脱落させる。得られたカナマイシン感受性株のyggB遺伝子の配列を決定し、66型に置換されていた株を選択することで、66型変異を有する株を構築できる。このような変異を持つ66型変異株をyggB66株とする。」(段落【0130】)
ス.「【実施例13】
【0131】
<in vitro変異による変異型yggB遺伝子のスクリーニング>
(13-1)yggB欠損株の構築
変異型のyggB遺伝子をin vitroでyggBに変異をランダムに導入し、その中から界面活性剤等の添加なしにグルタミン酸生産が可能となるクローンを選択することも出来る。変異型遺伝子のスクリーニングを行うため、まずyggB欠損株を構築した。配列番号39に示す合成DNAと配列番号40に示す合成DNAをプライマーとして、ATCC13869株の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、N末端側断片を調製した。同様に配列番号41と配列番号42の合成DNAをプライマーとして、C末端側断片を調製した。配列番号40と41は互いに相補的である。続いてN末端側断片とC末端側断片を等量混合したものを鋳型として、配列番号39と配列番号42の合成DNAをプライマーとしてPCRを行ないyggB遺伝子のORFを欠失した断片を取得した。
【0132】
得られたPCR断片はSacIで処理してpBS4SのSacI部位に挿入することにより、欠損変異導入用のプラスミドを構築した。このようにして得られたpBS4ΔYggBを実施例6記載の方法でATCC13869株の染色体に挿入した後、脱落させた。得られたカナマイシン感受性株の染色体DNAを鋳型として、配列番号39と配列番号42の合成DNAをプライマーとしてPCRを行い、yggB遺伝子が欠損していることを確認した。得られたyggB遺伝子欠損株をATCC13869ΔyggB株とした。
【0133】
(13-2)変異型yggB遺伝子のin vitro スクリーニング
一方、yggB遺伝子の変異処理は以下のようにして行った。まず、プラスミドpL5kはyggB遺伝子以外の領域を若干含んでいるため、pL5kをXhoIとSalIで処理し、セルフライゲーションすることにより、プラスミドpL5kXSを得た。なおSalI認識部位は、配列番号5の塩基配列上には存在しないが、pBS3のマルチクローニングサイトに存在している。得られたpL5kXS約10μgを500mMリン酸緩衝液、400mMヒドロキシルアミン、1mM EDTA (pH6.0)に溶解し、75℃で30分から90分処理することにより変異を導入した。変異導入後のプラスミドは、SUPREC-02(タカラバイオ)で脱塩した後、実施例6記載の方法でATCC13869ΔyggB株に導入し、Km25μg/mlを含むCM2B培地で形質転換体を選択した。また、対照として変異処理前のpL5kXSについてもATCC13869ΔyggB株に導入した。出現した形質転換体を、CM2BGU2培地(実施例3記載のCM2B培地にグルコース10g/Lと15g/LのUreaを含む)2mlの液体培地に接種し、31.5℃で5時間しんとう培養したのち、グルタミン酸濃度を定量した。
表11に、ATCC13869ΔyggBを変異処理したpL5kXSで形質転換した株をCM2BGU2培地にて試験管培養評価した結果を示す。変異処理時間60分と90分のプラスミド混合物から得られた形質転換体の中には、1g/L以上のL-グルタミン酸を蓄積するクローンが3クローンが存在していた。なお、培地中にもともと含まれていたグルタミン酸は0.16g/Lであり、ATCC13869ΔyggB/pL5kXS(変異処理なし)のグルタミン酸蓄積量は0.31g/Lであった。
表12に、ATCC13869ΔyggBを変異処理したpL5kXSで形質転換した株をCM2BGU培地(Ureaが1.5g/Lである以外はCM2BGU2培地と同組成)にて試験管培養評価した結果を示す。変異処理時間90分のプラスミド混合物から得られた形質転換体の中に、1g/L以上のL-グルタミン酸を蓄積するクローンが1クローン存在していた。
・・・・・・・・・・・・
【0136】
表11において、60分の変異処理時間を行うことで1g/L以上のL-グルタミン酸を蓄積する生産能を獲得したプラスミドをpL5kXSm-22,表12において、90分の変異処理時間を行うことで0.9g/L以上のL-グルタミン酸生産能を獲得したプラスミドをpL5kXSm-27とした。ATCC13869ΔyggB/pL5kXS株、ATCC13869ΔyggB/pL5kXSm-27株、ATCC13869ΔyggB/pL5kXSm-22株を、実施例2記載の条件で培養し、4時間後の菌体量とL-グルタミン酸蓄積を分析した。表13に、独立した3回の実験による平均値を示した。ATCC13869ΔyggB/pL5kXSm-27株、ATCC13869ΔyggB/pL5kXSm-22株では有意にL-グルタミン酸蓄積が上昇していることが確認でき、in vitroでのランダムな変異導入によってもL-グルタミン酸に有利な変異型遺伝子が構築可能であることが示された。なお、pL5kXSm-22が含むyggB遺伝子の配列は、配列番号73に示した。(22型変異)
22型変異は、437番目のプロリンをセリンに置換する変異であり、例えば配列番号5の2745位のCをTに置換する変異である。また、本変異は、3060位のCをTに置換する変異を伴っている。この変異型yggB遺伝子を配列番号73に、該遺伝子にコードされる変異型YggBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号74に示す。
【0137】
【表13】
【0138】
(13-3)変異型遺伝子のコリネ型細菌への導入とL-グルタミン酸生産確認
(13-2)で得られた新規変異型yggB遺伝子をコリネ型細菌に導入する。導入方法は、実施例6に記載された方法でpBS4Sに変異型遺伝子を導入し、ATCC13869の染色体上の野生型のyggB遺伝子と置換した。この新規変異型遺伝子を導入した株と親株のATCC13869株を実施例2と同様の方法で培養を行う。培養終了後、培養液中に含まれるL-グルタミン酸の量を公知の方法で測定し、変異導入株がL-グルタミン酸の蓄積が向上していることを確認する。このような方法でL-グルタミン酸生産能の向上したyggB変異株を取得することが出来る。」(段落【0131】~【0138】)
セ.「【実施例14】
【0139】
<変異型yggB遺伝子保持株のグルタミン酸アナログ感受性>
(14-1)固体培地における4-フルオログルタミン酸感受性
yggB変異によってL-グルタミン酸の生産能が向上している株では、L-グルタミン酸アナログ感受性が低下していることが予測された。そこで、yggB変異によるL-グルタミン酸のアナログとして、4-フルオログルタミン酸に対する感受性の変化を検討した。実施例4記載の最少培地に、NaOHでpH6.7に調整しフィルター滅菌した4-フルオログルタミン酸を終濃度7.5mMとなるように添加した。ATCC13869株、ATCC13869-L30株、ATCC13869-A1株をCM-Dex培地に塗布して一夜培養した後集菌し、滅菌した0.85%のNaCl溶液で洗浄し、図6上部に記載の菌濃度となるように希釈してプレートにスポットした。プレートは31.5℃で培養し、その経時変化を図6に示した。4-フルオログルタミン酸を無添加の条件では、ATCC13869株が最も生育が速いのに対し、4-フルオログルタミン酸添加条件ではATCC13869株の生育が抑えられ、ATCC13869-L株およびATCC13869-A1株の方が生育が良好であることが示された。
【0140】
(14-2)液体培地における4-フルオログルタミン酸感受性
実施例4記載の最少培地(ただし寒天を含まない)に、NaOHでpH6.7に調整しフィルター滅菌した4-フルオログルタミン酸を終濃度1.25mM, 2.5mM, 5mM, 10mM, 20mMとなるように添加した。ATCC13869株、ATCC13869ΔyggB株、ATCC13869-L30株、ATCC13869-A1株をCM-Dex培地に塗布して31.5℃で一夜培養した後集菌し、滅菌した0.85%のNaCl溶液で洗浄し、液体培地に接種し31.5℃にて振とう培養した。各菌株において、4-フルオログルタミン酸を無添加の培地でのOD660の値が1に到達した時点で培養を終了し、培養液を適当に希釈してCM-Dexプレートに塗布した。翌日出現したコロニー数を計測し、液体培養終了時の生菌数とした。4-フルオログルタミン酸無添加区の生菌数を1として、4-フルオログルタミン酸添加による相対生菌数の変化を図7に示した。ATCC13869-A1株およびATCC13869-L30株では、4-フルオログルタミン酸に対する感受性が低下(4フルオログルタミン酸耐性が向上)していることが明らかとなった。
これらの結果から、4-フルオログルタミン酸等、グルタミン酸の構造類縁体の感受性を指標としたスクリーニングによっても本発明のyggB変異株が取得できることが示された。」(段落【0139】~【0140】)
(2)本件訂正発明の課題
本件訂正発明の課題は、コリネ型細菌を用いたL-グルタミン酸の製造において、L-グルタミン酸生産能力を向上させる新規な技術を提供することである(上記記載内容ア.)。
(3)本件明細書の実施例8の実験結果について
請求人は、本件訂正発明11について、本件明細書の実施例8において、野生株であるATCC13869と19型yggB変異株であるATCC13869-19とのグルタミン酸生産量が比較されているが、グルタミン酸の生産量は、ATCC13869では0.5g/L、ATCC13869-19では0.7g/Lであり(表7)、両者の差(0.2g/L)は、実施例2及び3の測定結果の数値からすると、誤差の範囲内にすぎず、ATCC13869-19によってL-グルタミン酸の生産能力が向上したとはいえない、また、甲28号証、甲第34号証を提示して、本件明細書の実施例8の条件(Tween40添加またはビオチン制限を課さない条件)では、野生株ATCC13869も19型変異株であるATCC13869-19も、L-グルタミン酸を生産しなかったのに対し、Tween40添加またはビオチン制限の条件で初めてATCC13869-19はL-グルタミン酸を生産したことから、本件訂正発明11は、「L-グルタミン酸生産能力を向上させる新規な手段を提供する」という課題が解決できない範囲に及ぶ、また、発明の詳細な説明は、当業者がL-グルタミン酸の生産能力を向上させて発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、本件明細書の実施例8の実験結果については、各菌株培養後のグルタミン酸濃度は、野生株が0.5g/Lであるのに対し、19型yggB変異株は0.7g/Lを示しており(上記記載内容のク.の表7)、19型YggB変異の導入によりグルタミン酸生産能が野生型の1.4倍になったことが明確に記載されており、また、実施例8には、「ATCC13869-19株と親株のATCC13869株を実施例2と同様の方法で培養を行った。」と記載されている(上記記載内容ク.の【0120】)ものの、実施例2と実施例8とは別々に行われた実験であり、実施例8の実験では、実施例8の「ATCC13869株」と実施例8の「ATCC13869-19株」とは、用いた菌株が異なるという点以外はすべて同一条件下で実験が行われたものと認められ、その測定結果の数値を比較することができるが、実施例2の「ATCC13869株」と実施例8の「ATCC13869株」とは、必ずしもそうとはいえないから、実施例2及び3の測定結果の数値は、実施例8とは別に行われた実験において測定された数値であり、その数値を根拠に実施例8の実験結果を誤差の範囲内にすぎないということはできず、それ以外に「両者の差(0.2g/L)は、誤差の範囲内にすぎ」ないことを裏付ける証拠は何ら提出されていないので、本件明細書の実施例8の実験結果は、19型YggB変異体によるコリネ型細菌のグルタミン酸生産能の向上を示したものであるといえるから、発明の詳細な説明は、当業者がL-グルタミン酸の生産能力を向上させて発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。また、この実施例8の結果は、非誘導条件下での再現実験により複数回再現されており(乙第6号証の実験1及び2の結果参照)、このことからも、実施例8の実験結果は、19型YggB変異体の導入によるコリネ型細菌のグルタミン酸生産能の向上を示したものであるといえる。
また、甲第28号証、甲第34号証の実験結果は、「三角フラスコ」を用いた低速での撹拌培養による実験結果であって、そもそも本件明細書には、「三角フラスコ」を用いて培養を行うことは全く記載されておらず、本件明細書に記載されている「坂口フラスコ」を用いて、本件明細書の実施例8の実験条件に沿った実験を行っても、本件明細書の実施例8の実験結果が再現できなかった証拠は提出されていないので、甲第28号証、甲第34号証の記載事項が、本件訂正発明11は、「L-グルタミン酸生産能力を向上させる新規な手段を提供する」という課題が解決できない範囲に及ぶことの根拠になるとはいえない。
よって、本件訂正発明11は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(4)コリネ型細菌の培養条件について
請求人は、本件訂正発明11について、本件明細書の実施例10によると、Tween40を添加した条件またはビオチン制限条件という特定の条件下に限り、ATCC13869-19のL-グルタミン酸生産量がATCC-13869と比較して向上したことから、「L-グルタミン酸生産能力を向上させる新規な手段を提供する」という課題は、Tween40を添加した条件又はビオチン制限条件下でのみ解決できるといえるが、本件訂正発明11には、これらの条件が加えられておらず、通常の培養による製造法が記載されているにすぎないから、本件訂正発明11は、上記課題が解決できない範囲に及ぶ、また、発明の詳細な説明は、当業者がTween40添加又はビオチン制限なしでもL-グルタミン酸の生産能力を向上させて発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、本件訂正発明は、上記課題を解決するための手段として、「yggB遺伝子がコリネ型細菌のL-グルタミン生産に関与していることを明らかにし、yggB遺伝子を用いてコリネ型細菌を改変することにより、L-グルタミン酸の生産能が大幅に向上することを見出し」たものであり(上記記載内容ア.)、コリネ型細菌の培養条件といった好適条件は発明特定事項として課題解決に必ずしも必要な事項ではなく、また、本件明細書の実施例10は、Tween40を添加した条件またはビオチン制限条件というL-グルタミン酸生成を誘導できる条件を試験した実験であり(上記記載内容コ.)、その条件下でしかL-グルタミン酸生産量の向上が見られないことを示すものではなく、上記(3)で述べたように、実施例8の実験結果は、非誘導条件下で19型YggB変異体によるコリネ型細菌のグルタミン酸生産能の向上を示したものといえる(上記記載内容エ.及びク.)から、本件訂正発明11は、「L-グルタミン酸生産能力を向上させる新規な手段を提供する」という課題が解決できない範囲に及ぶとはいえず、また、発明の詳細な説明は、当業者がTween40添加又はビオチン制限なしでもL-グルタミン酸の生産能力を向上させて発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないともいえない。
よって、本件訂正発明11は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(5)2A-1型変異(本件訂正発明1の(i)及び(i’)の変異)について
請求人は、本件訂正発明1について、本件訂正発明1の(i)の変異が導入されたコリネ型細菌及びそのL-グルタミン酸の生産性は発明の詳細な説明には記載されておらず、また、発明の詳細な説明において、本件訂正発明1の(i’)の変異が導入され、L-グルタミン酸の生産性向上が実際に確認されたコリネ型細菌は、配列番号6の419番目から下流のアミノ酸が欠失され、そのC末端側に5つのアミノ酸(Gly-Leu-Phe-Leu-Phe)よりなるISが挿入された変異yggB(配列番号8のアミノ酸配列)が導入されたコリネ型細菌のみであり(実施例5及び6、表4及び表5)、419-529番目の領域の任意の位置に任意の長さ及び配列のIS又はトランスポゾンが挿入された変異yggBを有するコリネ型細菌を取得したこと、及びそのL-グルタミン酸の生産能を確認したことは具体的に示されていないので、このような変異yggBを有するコリネ型細菌が、上記実施例に示された変異yggB(配列番号8)を有するコリネ型細菌と同等のL-グルタミン酸の生産性を有すると理解することはできないから、当業者は、本件明細書の記載から、本件訂正発明1の(i)及び(i’)の変異により、L-グルタミン酸の生産能力向上という課題が解決できることを認識できず、また、発明の詳細な説明は、本件訂正発明1の(i)及び(i’)の変異により、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、本件明細書の実施例5及び6には、配列番号6のアミノ酸配列のアミノ酸番号419から下流部分のC末端側にトランスポゾンにより挿入されたIS(インサーションシークエンス)である5個のアミノ酸が挿入された2A-1型変異が開示され、当該変異を導入したコリネ型細菌のグルタミン酸生産能の向上を確認したことが記載されており(上記記載内容オ.及びカ.)、この2A-1型変異は、配列番号6のアミノ酸配列のアミノ酸番号419―533のYggBタンパク質のC末端側領域が欠失し、5個のアミノ酸に置換されたものであり、その変異の態様からすれば、実質的にはYggBタンパク質のアミノ酸番号419以降のC末端領域が欠失した変異であるといえるから、当業者であれば、実施例5及び6の記載から、YggBタンパク質のアミノ酸番号419以降のC末端領域が欠失した変異について同様の効果が得られることを認識できるものであり、また、当業者であれば、実施例5及び6の結果は、YggBタンパク質のアミノ酸番号419以降のC末端領域の立体構造が改変されることで生じたものと理解することができるから、YggBタンパク質のアミノ酸番号419以降のC末端領域にIS又はトランスポゾンの挿入を導入したコリネ型細菌について、アミノ酸番号419以降のC末端領域の立体構造が改変された場合には、本件明細書の上記実施例に記載の変異と同様の効果が得られることを認識できるので、当業者であれば、本件明細書の上記実施例の記載(上記記載内容オ.及びカ.)及び本件明細書の記載(上記記載内容イ.)から、本件訂正発明1の(i)及び(i’)の変異により、L-グルタミン酸の生産能力向上という課題が解決できることを認識でき、また、発明の詳細な説明は、本件訂正発明1の(i)及び(i’)の変異により、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、本件訂正発明1の(i)及び(i’)の変異について、本件訂正発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(6)66型変異、22型変異(本件訂正発明1の(i’’)の変異)について
請求人は、本件訂正発明1について、発明の詳細な説明において、本件訂正発明1の(i’’)の変異が導入され、L-グルタミン酸の生産性が実際に確認されているコリネ型細菌は、437番目のプロリンがセリンに置換された変異yggB(配列番号74のアミノ酸配列)が導入されたコリネ型細菌のみであり(実施例13)、配列番号68の424番目のプロリンがロイシンに置換された変異yggB(配列番号70のアミノ酸)が導入されたコリネ型細菌(実施例12)については、L-グルタミン酸の生産性は確認されておらず、配列番号6等の419-533又は419-529の領域に存在する任意のプロリンの1つ以上をその他の任意のアミノ酸に置換した場合に、実施例13に示された具体例(437番目のプロリンをセリンに置換、配列番号74)と同様にL-グルタミン酸の生産性が向上することを認識できず、また、発明の詳細な説明は、本件訂正発明1の(i’’)の変異により、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、本件明細書の実施例12及び13には、アミノ酸番号424のプロリンがロイシンに置換された66型変異を導入したコリネ型細菌を構築したことが記載され(上記記載内容シ.)、アミノ酸番号437のプロリンがセリンに置換された22型変異を導入したコリネ型細菌を構築したこと、そのL-グルタミン酸生産能が向上したことが記載されており(上記記載内容ス.)、また、配列番号6等のアミノ酸配列のアミノ酸番号419-533の領域に存在するプロリンの位置については、本件明細書の段落【0072】に具体的に記載されている(上記記載内容イ.)から、当業者であれば、本件明細書の上記実施例の記載(上記記載内容シ.及びス.)及び本件明細書の記載(上記記載内容イ.)に従って、配列番号6等のアミノ酸配列のアミノ酸番号419-533の領域に存在するプロリンを他のアミノ酸に置換する変異を導入したコリネ型細菌を構築し、その中からL-グルタミン酸の生産能が向上したコリネ型細菌を取得することに、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験を行う必要があると認められないから、発明の詳細な説明は、本件訂正発明1の(i’’)の変異を有する変異型yggB遺伝子が導入され、L-グルタミン酸生産能が向上したコリネ型細菌に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
また、本件明細書には、上述の如く、配列番号6等のアミノ酸配列のアミノ酸番号419-533の領域に存在するプロリンを他のアミノ酸に置換する変異を導入したコリネ型細菌がL-グルタミン酸の生産能を向上させることができた実施例が少なくとも1つ存在し、また、本件明細書の段落【0072】には、yggB遺伝子のC末端側のプロリン残基は、YggBタンパク質の立体構造維持の為に重要な役割を果たしていると考えられることが記載されている(上記記載内容イ.)から、当業者であれば、本件明細書の上記実施例の記載(上記記載内容シ.及びス.)及び本件明細書の記載(上記記載内容イ.)、並びにタンパク質の構造におけるプロリンの役割についての乙第19号証等の記載から、配列番号6等のアミノ酸配列のアミノ酸番号419-533の領域に存在するプロリンを他のアミノ酸に置換する変異を導入したコリネ型細菌について、アミノ酸番号419以降のC末端領域の立体構造が改変された場合には、本件明細書の上記実施例に記載の変異と同様の効果が得られることを認識でき、L-グルタミン酸生産能の向上という課題が解決できることが認識できるといえるから、本件訂正発明1の(i’’)の変異を有する変異型yggB遺伝子が導入され、L-グルタミン酸生産能が向上したコリネ型細菌に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。
よって、本件訂正発明1の(i’’)の変異について、本件訂正発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(7)膜貫通領域の変異(本件訂正発明1の(ii)の変異)について
請求人は、本件訂正発明1について、配列番号6等のアミノ酸配列のアミノ酸1-23番目の領域での変異について、コリネ型細菌へ変異を導入し、L-グルタミン酸の生産性が実際に確認されているのは、14番目のロイシンと15番目のトリプトファンの間に3アミノ酸からなるIS(Cys-Ser-Leu)が挿入された1例に過ぎず(実施例7)、当該1-23番目でのアミノ酸の置換や欠失については具体的に示されておらず、配列番号6等のアミノ酸配列の1-23番目において、1~5個の任意のアミノ酸を任意のアミノ酸で置換または欠失させた場合、任意の位置に1~5個の任意のアミノ酸を挿入した場合に実施例7に示された具体例と同様に、L-グルタミン酸の生産性が向上することを当業者は認識することができない、また、配列番号6等のアミノ酸配列のアミノ酸86-108番目の領域での変異について、コリネ型細菌へ変異を導入し、L-グルタミン酸の生産性が実際に確認されているのは、100番目のアラニンをスレオニンに置換した1例に過ぎず(実施例8)、当該86-108番目でのアミノ酸の挿入や欠失については具体的に示されておらず、配列番号6等のアミノ酸配列の86-108番目において、1~5個の任意のアミノ酸を任意のアミノ酸で置換または欠失させた場合、任意の位置に1~5個の任意のアミノ酸を挿入した場合に、実施例8に示された具体例と同様にL-グルタミン酸の生産性が向上することを当業者は認識することができない、さらに、配列番号6等のアミノ酸配列の111-132番目の領域での変異について、コリネ型細菌へ変異を導入し、L-グルタミン酸の生産性が実際に確認されているのは、111番目のアラニンをバリンに置換した1例に過ぎず(実施例9及び11)、当該111-132番目でのアミノ酸の挿入や欠失については具体的に示されておらず、配列番号6等のアミノ酸配列の111-132番目において、1~5個の任意のアミノ酸を任意のアミノ酸で置換または欠失させた場合、任意の位置に1~5個の任意のアミノ酸を挿入した場合に、実施例9及び11に示された具体例と同様にL-グルタミン酸の生産性が向上することを当業者は認識することができない、また、発明の詳細な説明は、本件訂正発明1の(ii)の変異により、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、本件明細書の実施例7~9及び11には、14番目のロイシンと15番目のトリプトファンの間に3アミノ酸からなるIS(Cys-Ser-Leu)が挿入されたA1型変異を導入したコリネ型細菌を構築し、そのL-グルタミン酸生産能が向上したことが記載され(上記記載内容キ.)、100番目のアラニンがスレオニンに置換された19型変異を導入したコリネ型細菌を構築したこと、そのL-グルタミン酸生産能が向上したことが記載されており(上記記載内容ク.)、111番目のアラニンがバリンに置換されたL30型変異を導入したコリネ型細菌を構築したこと、そのL-グルタミン酸生産能が向上したことが記載されており(上記記載内容ケ.)、111番目のアラニンがスレオニンに置換された8型変異を導入したコリネ型細菌を構築したことが記載されており(上記記載内容サ.)、また、配列番号6等のアミノ酸配列のアミノ酸番号1-23、86-108、110-132の領域は、23個のアミノ酸からなるアミノ酸配列という限定された領域であり、さらに、訂正請求により、アミノ酸番号1-23、86-108、110-132の領域に導入されるアミノ酸の置換、欠失、又は挿入の個数は1~5個に限定されているから、当業者であれば、本件明細書の上記実施例の記載(上記記載内容キ.~ケ.及びサ.)及び本件明細書の記載(上記記載内容イ.)に従って、配列番号6等のアミノ酸配列のアミノ酸番号1-23、86-108、及び110-132からなる群から選ばれる領域において、1~5個のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入した変異を導入したコリネ型細菌を構築し、その中からL-グルタミン酸の生産能が向上したコリネ型細菌を取得することに、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験を行う必要があると認められないから、発明の詳細な説明は、本件訂正発明1の(ii)の変異を有する変異型yggB遺伝子が導入され、L-グルタミン酸生産能が向上したコリネ型細菌に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
また、本件明細書には、上述の如く、配列番号6等のアミノ酸配列のアミノ酸番号1-23、86-108、110-132の領域における1~5個のアミノ酸の変異を導入したコリネ型細菌がL-グルタミン酸の生産能を向上させることができた実施例がそれぞれ少なくとも1つ存在し、また、配列番号6等のアミノ酸配列のアミノ酸番号1-23、86-108、110-132の領域は、23個のアミノ酸からなるアミノ酸配列という限定された領域で、かつ、上記実施例の変異の位置の近傍の領域であり、さらに、訂正請求により、アミノ酸番号1-23、86-108、110-132の領域に導入されるアミノ酸の置換、欠失、又は挿入の個数は1~5個に限定されているから、当業者であれば、本件明細書の上記実施例の記載(上記記載内容キ.~ケ.及びサ.)及び本件明細書の記載(上記記載内容イ.)から、配列番号6等のアミノ酸配列のアミノ酸番号1-23、86-108、及び110-132からなる群から選ばれる領域において、1~5個のアミノ酸の置換、欠失、又は挿入した変異を導入したコリネ型細菌について、L-グルタミン酸生産能の向上という課題が解決できることが認識できるといえるから、本件訂正発明1の(ii)の変異を有する変異型yggB遺伝子が導入され、L-グルタミン酸生産能が向上したコリネ型細菌に係る発明は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではない。
よって、本件訂正発明1の(ii)の変異について、本件訂正発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(8)配列番号85のアミノ酸配列について
請求人は、本件訂正発明1について、発明の詳細な説明において、野生型yggBタンパク質として具体的に示されているのは、配列番号6、68、84及び62のみであり、配列番号6の複数箇所(48番目、275番目、298番目、343番目、396番目、438番目、445番目、454番目、457番目、474番目及び517-520番目)のアミノ酸に対して、任意のアミノ酸への置換又は欠失を行ったことは具体的に示されていないので、配列番号6の上記複数箇所において、任意のアミノ酸で置換した場合や欠失させた場合に、yggBタンパク質として機能するのか当業者は認識することができないし、そのような置換や欠失が導入されたアミノ酸配列に対して、本件訂正発明1の(i)、(i’)、(i’’)又は(ii)の変異をさらに導入した場合に、L-グルタミン酸の生産性が向上することを当業者は認識することができず、また、発明の詳細な説明は、配列番号85のアミノ酸配列に対して、本件訂正発明1の(i)、(i’)、(i’’)又は(ii)の変異を導入することにより、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、配列番号85のアミノ酸配列は、コリネ型細菌に保存されるYggBタンパク質のアミノ酸配列を示したものであり、配列番号6等で示すYggBタンパク質のアミノ酸配列のうち、アミノ酸置換・欠失が起こっていてもよい箇所をXaaで示したものである(本明細書の段落【0035】~【0036】、上記記載内容イ.の【0078】~【0079】、等)から、配列番号85のアミノ酸配列についても、他の配列番号のアミノ酸配列と同様にYggBタンパク質としての機能を有すると当業者は認識することができるし、また、本件訂正発明1の(i)、(i’)、(i’’)又は(ii)の変異を導入した場合についても、上記(5)~(7)で述べたように、L-グルタミン酸の生産能力向上という課題が解決できることを認識することができ、発明の詳細な説明は、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、配列番号85のアミノ酸配列について、本件訂正発明1は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(9)本件訂正発明2について
請求人は、本件訂正発明2について、発明の詳細な説明において、本件訂正発明2の変異が導入され、L-グルタミン酸の生産性が実際に確認されているコリネ型細菌は、437番目のプロリンがセリンに置換された変異yggB(配列番号74のアミノ酸配列)が導入されたコリネ型細菌のみであり(実施例13)、配列番号68の424番目のプロリンがロイシンに置換された変異yggB(配列番号70のアミノ酸)が導入されたコリネ型細菌(実施例12)については、L-グルタミン酸の生産性は確認されておらず、配列番号6等の424番目及び/又は437番目のプロリンをその他のアミノ酸に置換(424番目のプロリンについて、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、又はイソロイシンに置換;437番目のプロリンについて、スレオニン、セリン、又はチロシンに置換)した場合に、実施例13に示された具体例(437番目のプロリンをセリンに置換、配列番号74)と同様に、L-グルタミン酸の生産性が向上することを認識できず、本件訂正発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものではない、また、発明の詳細な説明は、本件訂正発明2の変異により、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、上記(6)で述べた理由と同様の理由に加えて、さらに、訂正請求により、訂正後の請求項2は、「前記(i’’)の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、424位のプロリンをアラニン、グリシン、バリン、ロイシン、及びイソロイシンからなる群から選ばれる1個のアミノ酸に置換し、及び/または437位のプロリンをスレオニン、セリン及びチロシンからなる群から選ばれる1個のアミノ酸に置換する変異である」のように、424位または437位のプロリンから置換されるアミノ酸が限定されているから、本件訂正発明2の変異について、L-グルタミン酸の生産能力向上という課題が解決できることを認識することができ、また、発明の詳細な説明は、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、本件訂正発明2は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(10)本件訂正発明4について
請求人は、本件訂正発明4について、本件明細書には、配列番号6等のアミノ酸における111位のアラニンをスレオニンに置換した変異が導入されたコリネ型細菌及びそのL-グルタミン酸の生産性、配列番号6等のアミノ酸における100位のアラニンをスレオニンに置換する変異が導入されたコリネ型細菌及びそのL-グルタミン酸生産性、111位のアラニンをスレオニンもしくはバリンに置換する変異が導入されたコリネ型細菌及びそのL-グルタミン酸生産性についての実施例は記載されていないので、本件訂正発明4の全範囲において、実施例8、9または11に示された具体例と同様のL-グルタミン酸生産性が達成されることを当業者は認識できず、本件訂正発明4は、発明の詳細な説明に記載されたものではない、また、発明の詳細な説明は、本件訂正発明4の変異により、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、上記(7)で述べた理由と同様の理由に加えて、さらに、訂正請求により、訂正後の請求項4は、「前記変異型yggB遺伝子の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、100位のアラニンをスレオニンに、及び/または111位のアラニンをスレオニン又はバリンに置換する変異である」のように、100位または111位のアラニンから置換されるアミノ酸が限定されているから、本件訂正発明4の変異について、L-グルタミン酸の生産能力向上という課題が解決できることを認識することができ、また、発明の詳細な説明は、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、本件訂正発明4は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(11)本件訂正発明5について
請求人は、本件訂正発明5について、配列番号6等の14位のロイシンと15位のトリプトファンの間に挿入される1~5個の任意のアミノ酸の組み合わせは膨大であり、タンパク質を構成する各アミノ酸は、タンパク質の2次構造の形成や3次元構造の安定化に関わり、タンパク質の機能発現に大きく影響することが知られているから、本件訂正発明5の全範囲において、実施例7に示された僅か1つの具体例と同様に、L-グルタミン酸の生産性が向上することを当業者は認識することはできず、本件訂正発明5は、発明の詳細な説明に記載されたものではない、また、発明の詳細な説明は、本件訂正発明5の変異により、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、上記(7)で述べた理由と同様の理由に加えて、さらに、訂正請求により、訂正後の請求項5は、「前記変異型yggB遺伝子の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、14位のロイシンと15位のトリプトファンの間に1~5アミノ酸を挿入する変異である」のように、14位のロイシンと15位のトリプトファンの間に挿入されるアミノ酸の個数は1~5個に限定されているから、本件訂正発明5の変異について、L-グルタミン酸の生産能力向上という課題が解決できることを認識することができ、また、発明の詳細な説明は、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、本件訂正発明5は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(12)本件訂正発明6について
請求人は、本件訂正発明6について、配列番号8、20、22、24、64、70、74のアミノ酸配列に1~5個の更なる変異が導入されたアミノ酸配列、それをコードする遺伝子、及び当該変異によるL-グルタミン酸の生産性に関して、本件明細書は実質的に記載していないが、タンパク質を構成する各アミノ酸は、タンパク質の2次構造の形成や3次元構造の安定化に関わり、タンパク質の機能発現に大きく影響することが知られているから、配列番号8、20、22、24、64、70、74のアミノ酸配列において、1~5個の任意のアミノ酸について置換または欠失を行った場合、あるいは任意の部位に1~5個の任意のアミノ酸を挿入または付加した場合に、どのような変異タンパク質が、過剰量のビオチンを含む培地中でL-グルタミン酸の生産性向上をもたらすのか理解することはできないので、本件訂正発明6は、発明の詳細な説明に記載されたものではない、また、発明の詳細な説明は、本件訂正発明6により、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、配列番号8、20、22、24、64、70、74のアミノ酸配列を有するタンパク質は、それぞれ423個、536個、533個、533個、529個、533個、533個のアミノ酸からなるアミノ酸配列を有するタンパク質であるから、423個、536個、533個、533個、529個、533個、533個のアミノ酸のうちの、1~5個程度の任意のアミノ酸を置換または欠失させた場合や任意の部位に1~5個程度の任意のアミノ酸を挿入または付加させた場合に、元のタンパク質の活性を失わない蓋然性が高いことは本件出願時の技術常識であり、また、当業者であれば、本件明細書の記載から、変異を導入するとYggBタンパク質の活性が失われてしまうようなアミノ酸の位置等については理解することが可能であるから、本件訂正発明6について、L-グルタミン酸の生産能力向上という課題が解決できることを認識することができ、また、発明の詳細な説明は、L-グルタミン酸の生産性が向上することが理解できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、本件訂正発明6は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(13)本件訂正発明7について
請求人は、本件訂正発明7について、本件明細書には、配列番号20の変異型yggBが導入されたATCC13869-A1株及び配列番号22の変異型yggBが導入されたATCC13869-L30株が、4-フルオログルタミン酸の感受性を低下させたことが確認されている(実施例14)に過ぎず、4-フルオログルタミン酸に対する耐性に関する結果から、L-グルタミン酸アナログに包含される全ての化合物に対してコリネ型細菌がどのような耐性を有するのか理解することできないから、本件訂正発明7に包含される極めて広範なコリネ型細菌のいずれもが、様々な化合物が広く包含されるL-グルタミン酸アナログ一般に対して耐性を向上させることは認識できず、本件訂正発明7は、発明の詳細な説明に記載されたものではない、また、発明の詳細な説明は、本件訂正発明7のコリネ型細菌がL-グルタミン酸アナログ耐性を向上させることが理解できる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、本件明細書の実施例14には、変異型yggB遺伝子の導入により、グルタミン酸アナログである4-フルオログルタミン酸耐性が向上した菌株を取得した(上記記載内容セ.)ことが記載され、この実施例14では、A1型変異、L30型変異の変異型yggB遺伝子が導入された2種の菌株がグルタミン酸アナログ耐性を有していたことが開示されており、当業者であれば、複数の変異型yggB遺伝子導入菌株の結果が開示された本件明細書の上記実施例の記載及び本件明細書の記載(上記記載内容ウ.)を踏まえ、変異型yggB遺伝子の導入により、グルタミン酸アナログに耐性を有する菌株を取得できることを認識できるから、本件訂正発明7は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、また、複数の変異型yggB遺伝子導入菌株の結果が開示された本件明細書の上記実施例の記載及び本件明細書の記載(上記記載内容ウ.)から、変異型yggB遺伝子の導入により、グルタミン酸アナログに耐性を有する菌株を取得できることは当業者であれば理解することができるから、発明の詳細な説明は、本件訂正発明7のコリネ型細菌がL-グルタミン酸アナログ耐性を向上させることが理解できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。
よって、本件訂正発明7は、発明の詳細な説明に記載されたものといえ、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(14)本件訂正発明10について
本件訂正発明10は、本件訂正発明1~2、4~7に更なる限定を加えた発明であるから、上記(5)~(13)で述べたように、本件訂正発明1~2、4~7は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1~2、4~7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる以上、本件訂正発明10は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(15)本件訂正発明11について
請求人は、本件特許の請求項11に係る発明について、コリネ型細菌を培地で培養し、L-グルタミン酸を該培地中に生成させること、及び菌体からL-グルタミン酸を回収することについては、本件明細書には記載されておらず、また、発明の詳細な説明は、本件特許の請求項11に記載の方法により、L-グルタミン酸を製造ができる程度に明確かつ十分に記載されていない、と主張している。
しかしながら、訂正請求により、請求項11は、「コリネ型細菌を培地で培養し、L-グルタミン酸を該培地中に生成蓄積させ、該培地からL-グルタミン酸を回収する」に訂正され、L-グルタミン酸の生成蓄積及び回収は、培地からのみとしているので、本件訂正発明11は、発明の詳細な説明に記載されたものといえ、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明11の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(16)本件訂正発明12について
本件訂正発明12は、本件訂正発明6に記載の変異型yggB遺伝子と実質的に同一の変異型yggB遺伝子に係る発明であるから、上記(12)で述べたように、本件訂正発明6は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる以上、本件訂正発明12は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、また、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
(17)まとめ
したがって、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件訂正発明1~2、4~7、10~12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるから、本件発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、とすることはできず、また、本件訂正発明1~2、4~7、10~12は、発明の詳細な説明に記載されたものといえるから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。
3.無効理由6(明確性要件)について
(1)本件訂正発明6、12の記載について
請求人は、本件訂正発明6、12の記載について、「過剰量のビオチン」という記載において、「過剰量」とはいかなる量をいうのか不明であるから、本件訂正発明6、12は、明確に記載されているとはいえない、と主張している。
しかしながら、本件明細書の段落【0032】には、「過剰量のビオチン」について、「「過剰量のビオチンを含む条件」とは、例えば、培地中にビオチンを30μg/L以上、好ましくは40μg/L、さらに好ましくは50μg/L含む条件をいう。」と記載されており、本件明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮すれば、「過剰量のビオチン」という記載の意味内容を理解することができるから、本件訂正発明6、12は、明確に記載されているといえる。
(2)本件訂正発明7の記載について
請求人は、本件訂正発明7の記載について、コリネ型細菌が「L-グルタミン酸アナログ耐性が向上したことを特徴とする」と記載されているが、「L-グルタミン酸アナログ」にはどのような物質が具体的に包含されるのか、その範囲が明らかでないから、本件訂正発明7は、明確に記載されているとはいえない、と主張している。
しかしながら、本件明細書の段落【0068】には、「L-グルタミン酸アナログ」について、「L-グルタミン酸アナログとしては、L-グルタミン酸-γ-メチルエステル、α-メチルグルタミン酸、β-ヒドロキシグルタミン酸、メチオニンスルホキシミン、グルタミン酸-γ-モノヒドロキサメ-ト、2-アミノ-4-ホスホノ酪酸、L-グルタミン酸-γ-モノエチルエステル、L-グルタミン酸ジメチルエステル、L-グルタミン酸-ジ-t-ブチルエステル、モノフロログルタミン酸、L-グルタミン酸ジエチルエステル、D-グルタミン酸、4-フルオログルタミン酸が挙げられ、特に4-フルオログルタミン酸アナログが使用できる。」と記載されており、本件明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮すれば、「L-グルタミン酸アナログ」に包含される具体的な物質を理解することができるから、本件訂正発明7は、明確に記載されているといえる。
(3)本件訂正発明8の記載について
請求人は、本件訂正発明8の記載について、「コリネ型細菌」に関する発明と「DNA」に関する発明という異なる2つの発明が併記されており、また、「さらに(i)のsym遺伝子が不活性化するように改変された」と記載されているが、訂正後の請求項1の(i)の変異型yggBタンパク質との関係が不明であるから、本件訂正発明8は、明確に記載されているとはいえない、と主張している。
しかしながら、本件訂正発明8は、「コリネ型細菌」に係る発明であることは明らかであり、また、本件訂正発明8の「(i)のsymA遺伝子」は、訂正後の請求項1の(i)ではなく、訂正後の請求項8の「(i)配列番号86の塩基番号585~1121の塩基配列を含むDNA。」を示すものであることは明らかであるから、本件訂正発明8は、明確に記載されているといえる。
(4)本件訂正発明9の記載について
請求人は、本件訂正発明9の記載について、「α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が低下するように改変された」と記載されているが、比較の対象が特定されておらず、何に比べてα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が「低下」するのか不明であるから、本件訂正発明9は、明確に記載されているとはいえない、と主張している。
しかしながら、本件明細書の段落【0083】には、「α‐ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性」について、「「α‐ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が低下する」とは、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼの活性が野生株又は親株等の非改変株に対して低下していることをいう。」と記載されており、本件明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮すれば、「α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が低下する」という記載の意味内容を理解することができるから、本件訂正発明9は、明確に記載されているといえる。
(5)本件訂正発明10、11の記載について
本件訂正発明10、11は、訂正後の請求項6~9を引用するものであるが、上記(1)~(4)で述べたように、本件訂正発明6~9は、明確に記載されているといえる以上、本件訂正発明10、11も、明確に記載されているといえる。
(6)本件訂正発明6の訂正後の請求項4、5を引用する部分の記載について
請求人は、本件訂正発明6の訂正後の請求項4、5を引用する部分の記載について、本件訂正発明4は、「前記変異型yggB遺伝子の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、100位のアラニンをスレオニンに、及び/または111位のアラニンをスレオニンもしくはバリンに置換する変異である、コリネ型細菌」に係る発明であるが、本件訂正発明6の(e)~(j)以外の変異型yggB遺伝子との関係が不明であり、また、本件訂正発明5は、「前記変異型yggB遺伝子の変異は、配列番号6、62、68、84もしくは85のアミノ酸配列において、14位のロイシンと15位のトリプトファンの間に1~5アミノ酸を挿入する変異である、コリネ型細菌」に係る発明であるが、本件訂正発明6の(c)~(d)以外の変異型yggB遺伝子との関係が不明であるから、本件訂正発明6及び訂正後の請求項6を引用する本件訂正発明7~11は、明確に記載されているとはいえないと、平成30年5月22日付け口頭審理陳述要領書(第8頁下から第4行~第9頁最終行)で新たに主張している。
しかしながら、本件明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮すれば、本件訂正発明6の訂正後の請求項4を引用する部分については、(e)~(j)の変異型yggB遺伝子が対応し、また、本件訂正発明6の訂正後の請求項5を引用する部分については、(c)~(d)の変異型yggB遺伝子が対応することは明らかであるから、本件訂正発明6及び訂正後の請求項6を引用する本件訂正発明7~11は、明確に記載されているといえる。
(7)まとめ
したがって、本件訂正発明6~12は、明確に記載されているといえるから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、とすることはできない。
4.本件特許の請求項3に係る発明についての審判請求
本件特許の請求項3は、上記第2のとおり、本件訂正により削除された。その結果、本件特許の請求項3に係る発明についての審判請求は、その対象を欠くこととなったので、不適法な請求であり、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下すべきものである。
第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件訂正発明1~2及び4~12の特許を無効とすることはできない。
また、本件特許の請求項3に係る発明は、本件訂正により削除されたため、それらに対して請求人がした審判の請求については却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、参加によって生じた費用を含めて請求人及びその参加人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-800022