特許無効審判
2017-800047
固体麹の製造方法
- 審判番号
- 2017-800047
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2005-380655
- 登録番号
- 特許第4801443号(P4801443)
- 請求日
- 2017年04月03日
- 審決日
- 2018年09月27日
- 公報発行日
- 2018年12月28日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】株式会社 フジワラテクノアート
- 【請求人代理人】井上 義隆
- 【請求人代理人】加藤 真司
- 【請求人代理人】鈴木 守
- 【請求人代理人】安井 友章
- 【被請求人】カワタ工業 株式会社
- 【被請求人代理人】溝上 哲也
- 【被請求人代理人】山本 進
- 審判長/審判官
- 審判長 中島 庸子
- 審判官 小暮 道明
- 審判官 山中 隆幸
- 分類
- P1123.121-Z (C12N) / P1123.536-Z (C12N) / P1123.537-Z (C12N) / P1123.831-Z (C12N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第2項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4801443号発明「固体麹の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第4801443号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
1 本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第4801443号に係る出願(特願2005-380655号)は、平成17年12月29日に出願され、平成23年8月12日に特許権の設定登録がなされたものである。
2 別件無効審判事件について
本件特許につき平成24年11月27日付けで本件と同一の審判請求人(以下、「審判請求人」を「請求人」、「審判被請求人」を「被請求人」という。)により「特許第4801443号発明の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」との趣旨の別件無効審判(無効2012-800196号)が請求された。
被請求人は、平成25年10月29日に、明細書及び特許請求の範囲について、請求項1、2、6及び7を削除することを含む訂正請求を行った。
そして、平成26年3月14日に「請求のとおり訂正を認める。特許第4801443号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。特許第4801443号の請求項1、2、4ないし7に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決(以下「一次審決」という。)がされ、一次審決のうち「特許第4801443号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。」との部分の取消しを求めて審決取消訴訟が提起される一方(平成26年(行ケ)10103号)、「請求項1ないし2及び6ないし7を削除する訂正を認める。」、「請求項4及び請求項5の訂正を認める。特許第4801443号の請求項4及び請求項5に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」の部分は確定した。
その後、平成26年12月24日に知的財産高等裁判所において、一次審決のうち、「特許第4801443号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。」の部分を取り消す判決がなされ、当該判決の確定後の平成27年3月10日に「請求のとおり訂正を認める。 特許第4801443号の請求項3に係る発明についての審判請求は、成り立たない。」との審決(以下「二次審決」という。)がされ、二次審決は平成27年4月20日に確定した。
3 本件特許
本件審判請求時の特許は、平成25年10月29日に訂正された請求項3~5に係る発明の特許である。
請求人は、請求項3に係る発明の特許(以下「本件特許」という。)を無効とする、との審決を求めている。
4 本件無効審判事件の経緯
手続の経緯は、以下のとおりである。
平成29年4月3日 審判請求書
甲1~17号証
甲1、10号証の翻訳文
平成29年4月26日 審判請求書を対象とする手続補正書
平成29年7月11日 答弁書
乙1~5号証
平成29年9月20日付け 審理事項通知書
平成29年10月30日 口頭審理陳述要領書(請求人)
甲18~35号証
甲22号証の翻訳文
平成29年10月30日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
乙6~15号証
平成29年11月2日付け 審尋書
平成29年11月13日 口頭審理
平成29年12月8日 上申書(請求人)
参考資料1~6
平成29年12月8日 上申書(被請求人)
乙16号証
平成29年12月21日 上申書(請求人)
平成29年12月22日 上申書(被請求人)
平成29年12月28日 上申書(請求人)
甲36号証
平成30年1月30日付け 無効理由通知書
平成30年3月5日 意見書(被請求人)
乙17~23号証
平成30年3月27日付け 審決の予告
平成30年7月4日 上申書(請求人)
5 関連する侵害訴訟
本件特許においては、被請求人を原告、請求人を被告とする侵害訴訟(平成28年(ワ)第1453号)について、平成29年12月21日に大阪地方裁判所より、本件特許には、特許法第29条第2項の無効理由があり、原告(被請求人)の被告(請求人)に対する本件特許権に基づく権利行使は、同法104条の3により許されないから、「原告の請求をいずれも棄却する」との判決が言い渡された。
原告(被請求人)は、この判決の取消しなどを求めて控訴したところ(平成30年(ネ)第10007号)、平成30年7月3日に知的財産高等裁判所より、本件特許は、特許法29条2項の無効理由があり、控訴人(被請求人)の被控訴人(請求人)に対する本件特許権に基づく権利行使は、同法104条の3により許されないから、「本件控訴を棄却する」との判決が言い渡された。
第2 本件発明
本件特許の発明(以下「本件発明」という。)は、平成25年10月29日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項3】
少なくとも製麹工程において、回転ドラムが用いられ、撒水又は浸漬、蒸煮、放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において、
前記回転ドラムは、駆動装置により回転される回転ドラム本体と、この回転ドラム本体の内部に装着された品温センサを、少なくとも備え、
種麹の接種後、製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に、
前記回転ドラムが設置された室内の温度及び前記回転ドラム本体内の温度を、共に製麹開始温度となるように調節し、
製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌し、
前記製麹原料の攪拌が、前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ、
前記回転ドラム本体の回転速度は、1回転/30~90秒に設定されていると共に、
前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると、前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い、温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に、前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ、
前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし、
製麹を完了することを特徴とする固体麹の製造方法。
請求人が提示したように、本件発明を分説すると、以下のとおりとなる(以下、それぞれを「構成要件A」、「構成要件B」などという。)。
A 少なくとも製麹工程において、回転ドラムが用いられ、撒水又は浸漬、蒸煮、放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において、
B 前記回転ドラムは、駆動装置により回転される回転ドラム本体と、この回転ドラム本体の内部に装着された品温センサを、少なくとも備え、
CD 種麹の接種後、製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置すると共に、
前記回転ドラムが設置された室内の温度及び前記回転ドラム本体内の温度を、共に製麹開始温度となるように調節し、
E 製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌し、
F 前記製麹原料の攪拌が、前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ、
G 前記回転ドラム本体の回転速度は、1回転/30~90秒に設定されていると共に、
H 前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると、前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い、
I 温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に、前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ、
J 前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし、
K 製麹を完了することを特徴とする固体麹の製造方法。
第3 無効理由の概要
1 請求人が主張する無効理由
請求人は、「特許第4801443号の特許請求の範囲の請求項3に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、本件特許は、以下の無効理由1~4により、無効とすべきものであると主張している。
(無効理由1) 本件発明は、甲1号証及び甲3号証ないし甲6号証に記載された周知技術ないし技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから、同法123条1項2号に該当する。
(無効理由2) 本件発明は、回転ドラム本体内の温度による品温上昇段階で直ちに流動工程に移行させる発明、品温上昇から十数時間が経過した後に流動工程を開始する発明を含み、これらの発明は、明細書に記載された発明の課題を解決できることを、当業者が認識できないから、本件特許は、特許法36条6項1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法123条1項4号に該当する。
(無効理由3) 本件発明には、回転ドラム本体内の温度による品温上昇段階で直ちに流動工程に移行させる発明、品温上昇から十数時間が経過した後に流動工程を開始する発明という、明細書に記載された所望の作用効果を奏することのできない発明が含まれているから、本件特許は、特許法36条4項1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法123条1項4号に該当する。
(無効理由4) 平成25年10月29日付けの訂正請求により、請求項3に、構成要件Jに係る発明特定事項が追加されたが、当該発明特定事項の追加は、「特許請求の範囲の減縮」に該当するものではないから、平成25年10月29日付けの訂正は、特許法134条の2第1項に掲げる事項を目的としたものとはいえず、本件特許は、同法123条1項8号に該当する。
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・甲1号証:米国特許第1,054,324号公報
・甲2号証-1:平成25年10月29日付け訂正請求書(無効2012-800196号事件)
・甲2号証-2:訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲
・甲2号証-3:特許第4801443号公報(本件特許公報)
・甲3号証:信州味噌研究所報告、36号、「新規製麹機の実用化試験」、早出昭雄等、平成7年
・甲4号証:特開昭51-7192号公報
・甲5号証:特公昭39-20212号公報
・甲6号証:実公昭41-1117号公報
・甲7号証:無効2012-800196号の一次審決(平成26年3月14日)
・甲8号証:平成26年(行ケ)10103号知財高裁判決(平成26年12月24日言渡)
・甲9号証:無効2012-800196号の二次審決(平成27年3月10日)
・甲10号証:米国特許第1,201,385号公報
・甲11号証:https://www.koji-za.jp/colunm/moyashi_tanekoji_kojikinのプリントアウト((株)椛屋三左衛門)
・甲12号証:日本工業規格工業用アミラーゼ(JIS K 7001-1990)
・甲13号証:日本醸造協会雑誌、96巻、12号、2001年、806~813頁、「走査電子顕微鏡による麹の観察」
・甲14号証:平成28年(ワ)第1453号の原告準備書面2
・甲15号証:平成26年(行ケ)10103号の原告準備書面3
・甲16号証:平成28年(ワ)第1453号の訴状
・甲17号証:http://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrDisuseJISStandardList?toGnrJISStandardDetailDisuseStandardListのプリントアウト(日本工業標準調査会)
・甲18号証:「特集 第14回醸造に関するシンポジウム」、日本醸造協会雑誌、77巻、10号、「麦芽製造法の変遷とその背景」、706~709頁
・甲19号証:寺元四郎著、「醸造工学」、昭和44年、光琳書院、323~327頁(乙8号証)
・甲20号証:米国特許第700,842号公報(乙6号証)
・甲21号証:平成28年(ワ)第1453号の原告準備書面7
・甲22号証:米国特許第1,263,817号明細書
・甲23号証:日本醸造協会雑誌、89巻、11号、1994年、873~881頁、「麹菌と麹」(乙10号証)
・甲24号証:「味噌の醸造技術」、昭和57年、(財)日本醸造協会発行、71~72頁、152~155頁
・甲25号証:日本醸造協会雑誌、29巻、4号、昭和9年、38~45頁、「酒精」
・甲26号証:「麹学」、平成12年、(財)日本醸造協会発行、217頁~261頁(乙15号証)
・甲27号証:清酒製造技術研修講座《第2巻》、平成12年、日本酒造組合中央会、31頁
・甲28号証:平成26年(行ケ)10103号の原告準備書面2
・甲29号証:日本醸造協会誌、91巻、3号、平成8年、156~166頁、「味噌用米麹製造の基本」
・甲30号証:平成28年(ワ)第1453号の被告準備書面5
・甲31号証:平成28年(ワ)第1453号の原告準備書面6
・甲32号証:https://kotobank.jp/ejword/willのプリントアウト(プログレッシブ英和中辞典(第4版)の「will」)
・甲33号証:別冊Patent 16号、平成28年11月30日、日本弁理士会、195~206頁
・甲34号証:日本醸造協会誌、97巻、10号、2002年、721~726頁、酵素活性が麹の破精に与える影響
・甲35号証:「増補改訂酒造講本」、平成16年、(財)日本醸造協会発行、97~99頁
・甲36号証:平成28年(ワ)1453号大阪地裁判決(平成29年12月21日言渡)
・甲37号証:平成30年(ネ)10007号知財高裁判決(平成30年7月3日言渡)
2 当審が通知した無効理由の概要
当審が通知した無効理由5~9の概要は、以下のとおりである。
(無効理由5) 本件発明は、明確とはいえないから、本件特許は、特許法36条6項2号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法123条1項4号に該当する。
(無効理由6) 本件明細書は、本件発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本件特許は、特許法36条4項1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法123条1項4号に該当する。
(無効理由7) 本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、本件特許は、特許法36条6項1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法123条1項4号に該当する。
(無効理由8) 本件発明は、甲1発明Aと、甲1号証に記載された技術的事項、甲10号証、甲19号証、甲20号証に記載された技術的事項、甲5号証、甲6号証に記載された技術的事項、甲3号証、甲4号証に記載された技術的事項、及び甲34号証、甲35号証、乙1号証に記載された技術的事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから、同法123条1項2号に該当する。
(無効理由9) 本件発明は、甲1発明Bと、甲1号証に記載された技術的事項に基づき、又は甲1発明Bと、甲1号証に記載された技術的事項、甲3号証、甲4号証に記載された技術的事項、及び甲34号証、甲35号証、乙1号証に記載された技術的事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから、同法123条1項2号に該当する。
第4 被請求人の主張
被請求人は、請求人の主張する無効理由1~4及び当審が通知した無効理由5~9はいずれも理由がないと主張している。
被請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
・乙1号証:日本醸造協会誌、87巻、1号、平成4年、17~21頁、「麹の破精込みと麹の香り」
・乙2号証:増補改訂清酒製造技術(第8版)、平成10年、(財)日本醸造協会発行、160~161頁
・乙3号証:日本醸造協会誌、96巻、12号、2001年、806~813頁、走査電子顕微鏡による麹の観察
・乙4号証:ライトハウス英和辞典(第2版)、平成5年、「thick」
・乙5号証:http://www.npo-takamine.org/pop-up/t-lab.htmlのプリントアウト(高峰博士の略歴及びタカミネ・ラボラトリーと酵素事業)
・乙6号証:米国特許第700,842号公報(甲20号証)
・乙7号証-1:米国特許第700,842号公報の訳文
・乙7号証-2:翻訳納品【件名:US700842】と題するメール(平成29年9月1日)日本ビジネス翻訳株式会社
・乙8号証:寺元四郎著、「醸造工学」、昭和44年、光琳書院、323~327頁(甲19号証)
・乙9号証:日本醸造協会雑誌、29巻、4号、昭和9年、38~45頁、「酒精」(甲25号証)
・乙10号証:日本醸造協会雑誌、89巻、11号、1994年、873~881頁、「麹菌と麹」(甲23号証)
・乙11号証:清酒製造技術研修講座《第2巻》、平成12年、日本酒造組合中央会、第4単元「製麹の理論と実際」の14頁、16頁、33~34頁、第5単元「カビと麹の最新知識」の13~15頁
・乙12号証-1:http://www.nrib.go.jp/kou/44kouen.htmのプリントアウト(第44回独立行数法人酒類総合研究所講演 会報告のプログラム)
・乙12号証-2:「麹の品質は予測できるか」と題する論文(平成20年5月21日)
・乙13号証:「第四回改正 国税庁所定分析法注解」、平成5年、(財)日本醸造協会、「211固体こうじ」
・乙14号証:http://www.nada-ken.com/main/jp/index_fu/177.htmlのプリントアウト(灘の酒用語集「グルコアミラーゼ」)
・乙15号証:「麹学」、平成12年、(財)日本醸造協会発行、216~219頁、316~317頁
・乙16号証:平成28年(ワ)第1453号の原告技術説明会用資料
・乙17号証-1:日本醸造協會雑誌、21巻、4号、大正15年、32~36頁、ふすま麹製造法に就き(当審注:「ふすま」は実際には漢字で表記。)
・乙17号証-2:総合学術電子ジャーナルサイト「J-STAGE」、日本醸造協会雑誌21巻、4号の検索結果
・乙18号証:本格焼酎製造技術、平成16年、(財)日本醸造協会発行、「河内式自動製麹装置」
・乙19号証:「麹学 創立80周年記念」、昭和61年、(財)日本醸造協会発行、280~283頁
・乙20号証:日本醸造協会雑誌、97巻、5号、2002年、369~376頁、破精の形成要因
・乙21号証:http://www.nada-ken.com/main/jp/index_shi/161.htmlのプリントアウト(灘の酒用語集「酒母麹」)
・乙22号証:実用新案登録第3134350号公報(平成19年8月9日)
・乙23号証:http://www.nada-ken.com/main/jp/index_se/346.htmlのプリントアウト(灘の酒用語集「製麹機・自動製麹」の項)
第5 認定事実
1 本件明細書の記載事項
本件明細書には、概略、以下の記載がある。
(本-1)「発酵、製薬、生化学工業等に用いられる固体麹の製造方法は、いわゆる麹原料槽内を通気させない無通風方式と、麹原料槽内を通気させる通風方式とに大別される。・・・
一方、通風方式は、無通風方式に較べて、麹原料層を厚くすることができるので、単位面積当たりの固体麹の生産量を可及的大にできるという利点を有している。その反面、麹原料層に吹き込まれる空気は、麹原料層下層の乾燥防止のために飽和状態に近いかなり湿った空気であることが必要とされることから、いわゆる乾いた麹を製造することが困難であり、ヌリハゼ型の水分過多、軟弱、αアミラーゼ過多の麹が製造される傾向にある。」(【0002】~【0004】)
(本-2)「・・・従来は、製麹中に菌糸を切ることは麹菌の生育を弱めることになるので、数回行う手入れ作業以外は、製麹原料を静置して製麹を行なわなければならないとされていたものであった。しかし、本出願人は、接種後の製麹原料の攪拌を従来のように長時間静置することなく行えば、製麹原料表面や空中での菌糸の過度の生育が抑制される反面、製麹原料への菌糸の破精込みが活発になることに思い至ったのである。」(【0010】)
(本-3)「・・・本発明は、複雑な装置を用いたり製麹原料の改質を行ったりすることなく製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし、酵素力価の高い製麹方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る固体麹の製造方法は、少なくとも製麹工程において、回転ドラムが用いられ、撒水又は浸漬、蒸煮、放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において、前記回転ドラムは、駆動装置により回転される回転ドラム本体と、この回転ドラム本体の内部に装着された品温センサを、少なくとも備え、種麹の接種後、製麹原料の品温か上昇するまで製麹原料を静置すると共に、前記回転ドラムが設置された室内の温度及び前記回転ドラム本体内の温度を、共に製麹開始温度となるように調節し、製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌し、前記製麹原料の攪拌が、前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ、前記回転ドラム本体の回転速度は、1回転/30~90秒に設定されていると共に、前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると、前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い、温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に、前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ、前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし、製麹を完了する構成を採用する。」(【0011】~【0012】)
(本-4)「前記製麹原料の攪拌の方式として、回転ドラム方式、コンベア落下方式、製麹棚原料攪拌方式、回転円盤内攪拌方式が採用される。ここにいう「攪拌」とは、製麹原料の固体を隣あう固体と分離させたり、他の固体と接触させたりすることを繰り返す動作を意味するものとして用いることとする。
前記製麹原料の攪拌が回転ドラム方式によるものである場合、攪拌は、ドラムの回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われる。そして、温度及び湿度が任意に調整されたドラム内で製麹原料が落下する時に、熱交換が行われ、適切な製麹温度が維持されることになる。」(【0013】~【0014】)
(本-5)「この方式の場合、ドラムの回転速度が速すぎると、製麹原料の過度に乾燥し、菌糸の生育に必要な水分が不足する一方、回転速度が遅すぎると、熱交換が不十分になり製麹原料品温が上昇し、適切な製麹温度が維持できなくなると共に、製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育が活発になり、菌糸どうしの過度な絡み合いが発生するので、1回転/30~90秒に設定されていることが好ましい。」(【0015】)
(本-6)「本発明は、種麹の接種後、製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置し、製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌させる構成を採用しているので、製麹原料を満遍なく製麹室の空気に触れさせ、麹菌の生育に好適な条件を与えることができ、人力による手入れあるいは手入れ機による手入れや、手入れ後のいわゆる盛りを不要とし、製造コストを低減できる。
しかも、製麹原料表面や原料外空中での菌糸の過度な絡み合いが抑制され、ひいては製麹原料中の菌糸の生育が活発になり、酵素力価の高い固体麹を得ることができる。
また、攪拌の速度を、任意に設定できるので、麹菌の種類あるいは製麹原料に応じた最適の麹菌生育環境が作りやすい。」(【0018】~【0020】)
(本-7)「図1及び図2は、回転ドラム方式による製麹方法を示すもので、図1は、この製造方法に用いられる回転ドラム(D)の概略図、図2はこの回転ドラム(D)の回転時において、製麹原料層(S)の上部から製麹原料(ss)(ss)…が落下する様子を示す模式図である。
前記回転ドラム(D)は、給水蒸気兼用管(3)が挿通される主軸(2)を有する回転ドラム本体(1)が駆動装置(M)により回転されてなるもので、回転ドラム本体(1)の内部に装着された品温センサー(4)と、回転ドラム本体(1)の外壁に設けられた原料投入口(5)と、外部に設けられた送風バルブ(6)、給蒸バルブ(8)、給水バルブ(9)、排気バルブ(10)とを主な構成要素としている。
また、図示省略したが、回転ドラム本体(1)に空調機、ファン、制御盤が接続されている。」(【0022】~【0024】)
(本-8)「回転ドラム(D)が設置された室内の温度及び回転ドラム本体(1)内の温度を、共に製麹開始温度となるように調節し、製麹原料(S)の品温上昇開始に合わせて回転ドラム本体(1)の回転を始め、製麹を行う。
この回転に伴って、製掬原料(S)は、図2に示すように、製麹原料層の最上部にあるものが順次落下することにより、攪拌させる。この製麹時に最上部にある製麹原料は、回転ドラム本体(1)内の空気に触れることにより、熱交換を行い、麹菌の繁殖に伴う発熱により上昇した品温が低下され、常に好適な品温下で製麹が行われることになる。」(【0027】~【0028】)
(本-9)「回転ドラム(D)が設置された製麹室の室内温度、回転ドラム本体内温度のいずれをも摂氏35度に設定して製麹を開始し、品温の上昇が始まった約15時間後に、回転ドラム本体(1)を60秒に一回転の割合で回転させ、約25時間回転を続け製麹を完了した。その間、品温設定を摂氏37度とし、品温センサ(4)が品温の上昇を感知すると、送風バルブ(6)を開いて断続的に冷却を行った。」(【0033】)
(本-10) 上記製麹完了後、国税庁所定分析法(平成3年改正法)に基づいて、グルコアミラーゼ活性、α-アミラーゼ活性、酸性プロテアーゼ活性及び酸性カルボキシペプチダーゼ活性を求めたところ、いずれも従来の固体麹に較べて優れた値が得られた。
本実施例による、吟醸麹としての固体麹の
グルコアミラーゼ活性は、 280単位/gこうじ
α-アミラーゼ活性は、 950単位/gこうじ
酸性プロテアーゼ活性は、 3158単位/gこうじ
酸性カルボキシペプチダーゼ活性は、6053単位/gこうじ、であり、いずれの活性も従来方式による固麹よりも優れたものであった。
すなわち、従来の一般的な静置方式により製造された固体麹の
グルコアミラーゼ活性は、 202単位/gこうじ
α-アミラーゼ活性は、 743単位/gこうじ
酸性プロテアーゼ活性は、 2625単位/gこうじ
酸性カルボキシペプチダーゼ活性は、3430単位/gこうじ、であった。
また、本実施例による、清酒麹としての固体麹の
グルコアミラーゼ活性は、 305単位/gこうじ
α-アミラーゼ活性は、 1251単位/gこうじ
酸性プロテアーゼ活性は、 3233単位/gこうじ
酸性カルボキシペプチダーゼ活性は、6128単位/gこうじで、あり、いずれの活性も従来方式による固体麹よりも酵素力価の優れたものであった。
すなわち、従来の一般的な静置方式により製造された清酒麹としての固体麹の
グルコアミラーゼ活性は、 215単位/gこうじ
α-アミラーゼ活性は、 975単位/gこうじ
酸性プロテアーゼ活性は、 2753単位/gこうじ
酸性カルボキシペプチダーゼ活性は、4471単位/gこうじであった。」(【0034】~【0038】)
2 引用刊行物の記載事項
(1)甲1号証
(1-1)「以前より、効率的な成長のために静置は必須と考えられていた。これは、培地の動きにより、表面にまかれた胞子が移動してしまうと考えられていたためである。
しかしながら、私は、ある程度の量の動きは許容できるだけでなく、非常に有利であることを発見した。これは、ある程度の量の動きは、成長を妨げないだけでなく、実際には成長を促進させ、しかも操作の無駄を大いに省けるからである。私はまた、動きのある製造では、菌糸の成長は異なっており、糸状体は短く茂った、多くの枝が大幅に増加し、これにより、もやし胞子の頭を生じさせる多くの端を成長させることを発見した。」(1頁15~31行、訳文1頁14~22行)
(1-2)「私の発明を実施する際、塊が連続的に攪拌されるようにし、これにより、塊の粒子は、空気に接近させるために、連続的に表面に導かれる。しかしながら、この攪拌は、塊における菌糸の糸状体の形質を変えることはあっても、菌の成長を実質的に妨げるような激しさはない。この攪拌は、粒子に1周期の動きを遂げさせるようにし、1分間当たり約1回ないし2回を超えないようにし、好ましくは、この攪拌の速度は、適当に増加させてもよいが、私は、1分間当たり10周期に達すると、成長は実質的に妨げられることを見出した。」(1頁53~68行、訳文1頁32行~2頁2行)
(1-3)「成長に必要な空気を供給し、ガスが発生するのと同じ速さでガスを除去するために、湿った空気の流れを塊に当てながら、好ましくは1分間当たり1回ないし2回の回転により塊を転回させる空気式麦芽製造ドラムを採用することが好ましい。」(1頁71~77行、訳文2頁3~7行)
(1-4)「麹の製造方法の実施例 約3ないし4フィートの深さを形成するのに十分な培地がドラム内に導入される。この培地は、ふすま100重量部に対し水が60ないし80重量部以下含まれるように湿らせた小麦ふすまからなるのが好ましい。その後、1時間以下の間、蒸気に当てて培地が殺菌される。ドラムの回転が開始され、塊を冷却するために空気を流す。約30℃に冷却されると、ドラムの回転及び空気の流れが停止され、乾いたふすま1500重量部に対し、ふるいにかけたもやし胞子約1重量部の割合、又は乾いたふすま200重量部に対し、ふるいにかけていないもやし胞子約1重量部の割合で、541,617の私の出願のもやし胞子が塊に加えられる。」(1頁79~95行、訳文2頁8~16行)。
(1-5)「胞子と培地とを完全に混合するようにドラムを十分に回転させた後、停止させ、菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなるまで、約16時間ないし20時間、塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておく。その後、ドラムの回転が再開され、空気の流れが開始される。空気の流れは、塊の温度が上昇するにつれて増加するように調整される。塊の温度は、40℃ないし42℃に到達することもあるが、空気は流れが安定的に増加され、また、冷たく湿った状態に維持されることで、塊の温度は菌の成長の最適点である30℃付近に下げて維持することが可能である。温度を30℃付近に維持する試みは、しばしば偶発的にその温度を下回る結果となることがあり、菌の成長を妨げることになるため、35℃ないし38℃の温度は、最終生成物の品質にも、工程を完結させる時間にも実質的に影響を及ぼさないので、塊をこの温度付近に維持することが好ましい。」(1頁95行~2頁8行、訳文2頁16~27行)
(1-6)「40時間ないし50時間の間、ドラムの回転及び空気の流れにさらされると、塊全体に菌の成長が行き渡り、表面には培地を静置したときの菌の成長に観られるような絹状光沢は現われない。しかし、これとは反対に、短く茂った糸状体と非常に多くの数の枝が現れる。このとき、工程は完結し、製造された麹の塊は、ドラム内で乾燥させるか、又はドラム内から取り出して乾燥させるようにすればよい。この麹は、糖化力が非常に均一化されており、静置して原料上で菌を成長させて製造するよりも明らかに強くなる。」(2頁8~23行、訳文2頁27~34行)
(1-7)「糖化物の製造方法であって、糖化胞子を培地にまき、塊を通常は攪拌状態に維持することで空気との接触を確保しながら、前記培地を培養状態下に置くことで構成される糖化物の製造方法。」(2頁65~70行、訳文3頁22~24行)
(2)甲3号証
(2-1)「ドラム中心のパイプには温度センサ、湿度センサを取付けた。・・・室温を制御するために空調ユニットを設け、加湿は電気ヒーターをサイリスタで操作し、冷却は通常のクーラーを用いて室温を制御している。加湿あるいは冷却した空気は、空調ユニットと製麹室をつないだダクト内を循環させる方式をとっている。製麹室は外寸4.4(開口)×2.7(奥行き)×2.7(高さ)mのプレハブで壁、天上は保温材で囲ってある。麹の温度管理は室温の調節と回転速度の変速で行い、種付け後の蒸し米は引き込んでからはドラム内に堆積し、発熱が旺盛になると思われる時間をタイマーでセットし自動的に回転するようになっている。」(20頁右欄7行~21頁左欄17行)
(2-2)「ドラムの回転速度が10時間に1回の非常に緩やかな回転でも20分~30分もすると塊はなくなり」(21頁左欄28~30行)
(2-3)「室温と品温との差が大きいため水分が奪われたものと推察できる。」(22頁左欄16~18行)
(2-4)「2.連絡回転により麹の塊はできなかった」(22頁右欄25行)
(3)甲4号証
(3-1)「断熱室2の内部に種麹添加原料攪拌用横向回動ドラム3を横軸4により支持し、同ドラム3を1回転毎に急速および緩慢転勤させる機構を設け、かつ上記ドラム3を間歇回転させるタイマーを同ドラム駆動用電動機6に接続してなる自動製麹装置。」(1頁左欄4~9行)
(3-2)「断熱室2の温度は温度制御装置19で設定された湿度に自動的に調整され、温度は温度制御装置で設定された温度に熱風機17により自動的に調整される。」(2頁左上欄7~10行)
(3-3)「種麹と蒸米とは広げられた状態で混合攪拌を行いかつ人力で行うために団塊状の綴じ合いを均一に解し難く製品むらを生じ易い欠陥があった。」(2頁右上欄6~9行)
(4)甲5号証
(4-1)「引込後凡そ10~18時間で麹の品温は発育適温以上に達し、且又呼吸によるCO2もドラム1中に鬱積してくるので、先に設定された上限温度に達すると自動温度に達すると自動温度調節計22によってドラム1の回転と湿潤新鮮空気の通気が行なわれ、下限温度に冷却されて切返作業は終了する。」(1頁右欄下から2行~2頁左欄4行)」
(4-2)「麹の自然発熱期(引込後凡そ4~6時間位で発熱を始め10~18時間で製麹の適温以上に達する。)」(1頁右欄下から7行~下から5行)
(4-3)「製麹条件
原料 外地産粳白米(タイ精米) 150kg
麹菌種 焼酎用河内菌白麹種 150g」(2頁右欄下から13行~下から10行)
(5)甲6号証
(5-1)「本考案の装置で製麹するには先づドラムの原料出入口13から製麹室7に浸漬吸収して洗米を投入して密閉し、ドラム1を少し回転して多孔板6上に平に収容したる後ドラムを停止状態として・・・蒸気を送入し・・・米を蒸強する。
蒸強が完了したならば・・・蒸気室兼通気室8に冷風を供給して・・・冷却し、品温35℃まで冷却したときにこれを停止し、而る後ドラム1の出入口13から麹種を投入し、続いてドラム1を回転して・・・よく混合してドラムの回転を停止しす平状態で放置(通風せず)する。約12時間程度の放置によって温度が上昇しサーミスターの指示温度に達したならばドラムを数回転し停止した上で通風を行う、・・・」(1頁右欄16~33行)
(6)甲10号証
(6-1)「糖化物の製造装置」(1頁3行、訳文1頁3行)
(6-2)「以前より、十分な成長のために静置は必須と考えられていた。これは、培地の動きにより、表面に混合された胞子が移動してしまうと考えられていたためである。しかしながら、私は、ある程度の量の動きは許容できるだけでなく、非常に有利であることを発見した。これは、ある程度の量の動きは、成長を妨げないだけでなく、実際には成長を促進させ、しかも操作の無駄を大いに省けるからである。私はまた、動きのある製造では、菌糸の成長は異なっており、糸状体は短く厚くなり(糸状体は短く密になり)、多くの枝が非常に増加し、これにより、もやし胞子の頭を生じさせる多くの端を成長させることを発見した。」(1頁25~36行、訳文1頁17~24行)
(6-3)「私の発明は、塊が連続的に攪拌されるように装置を構成し、これにより、塊の粒子は、空気に接近させるために、連続的に表面に導かれる。しかしながら、この攪拌は、塊における菌糸の糸状体の形質を変えることはあっても、菌の成長を実質的に妨げるような激しさはない。
この攪拌は、粒子に1周期の動きを遂げさせるようにし、1分間当たり約1回ないし2回を超えないようにし、好ましくは、この攪拌の速度は、適当に増加させてもよいが、私は、1分間当たり10周期に達すると、成長は実質的に妨げられることを見い出した。」 (1頁60~75行、訳文1頁35行~2頁6行)
(6-4)「ドラムは、発芽準備のために停止させてもよいし、この期間中緩やかに、すなわち、5分間中に約1回の速度で回転してもよい。この準備的な停止、又は緩やかなドラムの回転の後は、ドラムは30時間ないし40時間の期間、1分間ないし3分間ごとに1回転の速度で回転させる。この期間は、通常、ジアスターゼ形成物、すなわち本事例である麹の発芽を完結させるに十分である。」(3頁3~13行、訳文4頁16~21行)
(6-5)「ドラムの回転中、邪魔板25(これまでに説明した)は、底部の培地の塊を持ち上げ、塊の頂部で崩す作用をし、塊がドラムの底部に重力で動き又は崩れると、胞子形成物の塊の新たな部分は、空気の流れの動きに連続的に向けられることが理解される。これは、塊が空気の流れに連続的に向けられるという強く望まれる最適な結果であることが理解される。」(3頁14~25行、訳文4頁22~26行)
(6-6)
(7)甲12号証
(7-1)「糖化力 でんぷん及びその分解物等に作用して、そのグルコシド類を加水分解し、還元力を生成する活性」(1頁13~14行)
(8)甲18号証
(8-1)「浸漬を終った大麦は、・・・横置二重円筒形をした発芽缶(ドラム)に移し、加湿調温した空気を麦粒層に強制通風して発芽をコントロールする。」(707頁右欄8~12行)
(9)甲19号証(乙8号証)
(9-1)
(10)甲20号証(乙6号証)
(10-1)「ドラムの容量よりも少ない量の材料が、ドラムによって搬送されるので、時折その自重で、ドラムの横方向に斜線に落下する。」(2頁47~51行、訳文3頁16~18行)
(11)甲23号証(乙10号証)
(11-1)「麹の原料は、主とし米、麦、大豆と小麦の混合物で酵素生産にはふすまが用いられる。麹菌の増殖には窒素源の多いものが適しており、米での増殖が最も緩慢である(第7図)。」(877頁左欄15~18行)
(12)甲24号証
(12-1)「麦は米に比べて、浸漬中の吸水も早いだけに、麦の表面水分は飛びやすい。」(152頁8~9行)
(12-2)「接種した麹菌胞子は、環境の温度が30~35℃、関係湿度が97%以上になると、2~5時間で発芽し、8~10時間目頃から発熱をはじめる。精麦歩合が高いほど、そしてある程度までは含水率が高いほど早く発芽する。生育の最適温度は37~38℃と高く、範囲も狭い。麦の製麹では、引き込み後10~18時間で麹の品温はあがり、最高36~38℃位になるよう管理する。」(152頁14~18行)
(13)甲25号証(乙9号証)
(13-1)「引き込み後一二-一六時間経過すれば菌は僅かに繁殖を始めて温度も上昇し三二-三四度となり、香気に変化を来す。依って米麹の場合と同様に切返を行ふ。此の操作に依って品温を低下せしめ三〇度内外に保ち堆積して放置するのである。」(44頁上欄21~24行)
(14)甲26号証
(14-1)「IV-3 味噌麹」(256頁1行)
(14-2)「(4)製麹 ・・・(i)接種 麹菌分生子の接種は上述の種麹を蒸米に均質に散布するものであるが・・・接種した分生子は、環境の温度が30~35℃、湿度95%以上で3~5時間で発芽し、菌糸は伸長し、8~10時間目頃からは、発熱による品温の上昇が顕著になる。そして、接種後18時間目頃からは、発熱がますます盛んになり、40℃を越すことになるので、切返しを行ない、・・・以後の麹菌の発育を促進する。」(261頁4~15行)
(15)甲29号証
(15-1)「味噌用米麹製造の基本」(表題)
(15-2)「発芽の最適温度は35~38℃前後であるが、作業時間帯の関係で翌朝の盛込みに合わせるため、通常夏季は30~32℃、冬期は33~35℃の引込みにする。引込み後5時間前後で発芽し、8~10時間目から発熱を始める。・・・蒸米の水分が25~45%の範囲では、品温が35℃以下の場合、水分が多いほど増殖の立ち上がりが速い」(164頁左欄末8行~165頁右欄1行)
(16)甲34号証
(16-1)「麹の酵素活性と破精との関係については、種もやしをかえて製麹したところ破精込みが良い菌では酵素活性が高くなった。あるいは破精込みの悪い菌はプロテアーゼ系の酵素活性が増加する傾向にあったなどの報告がある。しかしこれまでに個々の酵素活性と破精込みの関係について調べた報告は見られない。」(721頁左欄末5行~右欄1行)
(16-2)「酵素活性の高いグループは4つの酵素活性とも高く、低いグループは4つの酵素活性とも低い傾向を示した。破精歩合と各酵素活性との間には強い相関が認められ、酵素活性は麹の破精に強い影響を与えることが推察できた」(723頁右欄3~7行)
(16-3)「α-アミラーゼ活性が高いほどデンプンを主体とする蒸米内部組織の崩壊がより早く進み、その結果麹菌糸が蒸米内部に伸長しやすくなり、破精込みの程度が大きくなったと考えられた。・・・酸性プロテアーゼ活性の高低が破精歩合に影響しなかったのも、酸性プロテアーゼが蒸米内部の組織変化にあまり関与しないためであると推察される。」(725頁左欄末7行~右欄8行)
(17)甲35号証
(17-1)「(1)正常な麹・・・
1)総破精
蒸米の表面だけでなく内部にも総体に菌糸が破精込んでいる(肉眼で菌糸が白く見える状態を破精といい図の黒い部分に相当する)麹を総破精麹といい、このような麹は糖化力、たんぱく分解力ともに強く、酵母の栄養になるアミノ酸, ビタミン類等の生産物が多く酒母用として、また粕歩合を減らして酒化率を上げる経済的な酒造りに適している。
2)突き破精
麹の表面には菌糸の生えていない部分を残しているが、破精ているところは、盛り上がり、しかも米粒の内部には麹菌がよく破精込んでいるものを突き破精麹という。この麹も糖化力、たんぱく分解力ともにかなり強いが麹菌の生産物は総破精麹に比べるとやや少なく、特に味のきれいな高品質酒の醪の掛麹として適している。・・・
(2)異常な麹・・・
1)ヌリ破精
米粒の表面だけ菌糸が生えていて、内部に破精込みの悪い麹をヌリ麹という。・・・酵素力は弱く、酒は味薄く粕歩合が多く、かつ裏打ちする。」(97頁下から7行~98頁下から3行)
(18)乙1号証
(18-1)「全国の酒造場20社から麹を集め、製造要因、酵素力価、菌体分布等を分析し、その結果を主成分分析した結果を第7図に示す。この結果は破精込みが酵素力価と深く関わっていることを示しているが、特に破精込みが悪いとプロテアーゼ、酸性カルボキシペプチターゼ力価が増加する傾向にあることを示している点に興味がもたれる。」(19頁左欄下から8行~下から2行)
(19)乙13号証
(19-1)「こうじを酒税法では以下のように定義づけている。「こうじ」とは、デンプン質物又はこれともみがら等を混和した物品にかび類を繁殖させたもの・・・で、デンプン質を糖化させることができるものをいい・・・この原料は液状のものも含まれている。」(211頁右欄9~17行)
(19-2)「(6)ばか破精;菌糸が米粒全体をおおってはいるが、こうじが柔らかく指で容易につぶせるもの。蒸米水分が多くこうじ室の湿度が高い場合に生じやすく、酵素力は弱い。」(212頁左欄下から3行~右欄2行)
(20)乙17号証-1
(20-1)「ふすま麹製造法に就き」(32頁表題(当審注:「ふすま」は実際には漢字で表記。))
(20-2)「(ハ)普通引込温度は二十八度位、床にあること十三時間位で品温三十二度位となり」(34頁9行)
(20-3)「右は最初から盛り其後は積替のみで加減したものである。此の他最初は床に置き三三度になった時三〇度に冷して盛ったもの、手入を一回乃至数回行ったもの、手入の時期を菌糸の全然現れぬ時期に行ったもの、又は微に菌糸の現れて来た時行ったもの、菌糸が相当発育して後軽く手を入れたるもの、等に就て種々試験した結果次の如き結論を得た」(35頁19~21行)
(20-4)第一日午後4時半に品温28℃で引込みした原料は、第二回午前5時から品温が28℃のまま積替を行い、同日午後5時に品温が30℃となって品温上昇に至ったこと。(35頁11~15行)
(21)乙20号証
(21-1)「Fig.5から蒸米吸水率70%におけるα-アミラーゼと酸性プロテアーゼの生産量は、蒸米吸水率40%の場合の5~6割に達しているが、グルコアミラーゼは2割以下の生産量に過ぎず」(375頁右欄下から12行~下から9行))
第6 当審の判断
事案に鑑み、無効理由4、無効理由5、無効理由7及び無効理由8の順に検討する。
1 無効理由4(訂正要件)について
請求人は、平成25年10月29日付けの訂正請求による、請求項3への構成要件Jに係る発明特定事項を追加する訂正は、「特許請求の範囲の減縮」に該当するものではないから、当該訂正は、特許法134条の2第1項に掲げる事項を目的としたものではないと主張する。
ここで、当該訂正請求による訂正は、訂正前の請求項1及び2を引用する従属請求項であった訂正前の請求項3を独立請求項に変更するために、訂正前の請求項1及び2の発明特定事項を請求項3に記載するとともに、下記の(1)~(5)の限定を加えるものである。
(1)訂正前の請求項2の「回転ドラム」について、「前記回転ドラムは、駆動装置により回転される回転ドラム本体と、この回転ドラム本体の内部に装着された品温センサを、少なくとも備え」るとの限定。
(2)訂正前の請求項1の「種麹の接種後、製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置」する工程について、「前記回転ドラムが設置された室内の温度及び前記回転ドラム本体内の温度を、共に製麹開始温度となるように調節」するとの限定。
(3)訂正前の請求項2の「製麹工程」について、「前記品温センサが前記品温の上昇を感知すると、前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行」うとの限定。
(4)訂正前の請求項2の「製麹工程において、回転ドラムが用いられ、製麹原料の攪拌が、ドラムの回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われる」について、「温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に、前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ」るとの限定。
(5)訂正前の請求項1及び2の「攪拌」について、「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発に」することの限定。
そうすると、(5)に対応する、請求項3への構成要件Jに係る発明特定事項を追加する訂正も、特許法134条の2第1項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものというべきである。
したがって、請求人が指摘する無効理由4は理由がない。
2 無効理由5(明確性要件)について
(1)「製麹開始温度」及び「品温上昇」の温度について
本件発明は、「種麹の接種後、製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置する」こと(構成要件CD)、「前記回転ドラムが設置された室内の温度及び前記回転ドラム本体内の温度を、共に製麹開始温度となるように調節」すること(構成要件CD)、及び「製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは・・・間欠的に攪拌」すること(構成要件E)を発明特定事項としている。
ここで、製麹工程における温度、湿度などは、所望の製麹を行うにあたり、その成否を左右する重要な因子であることは本件出願時の当業者の技術常識であるから、固体麹の製造方法という製麹に係る発明であって、構成要件Jに示されるような、「製麹原料への菌糸の破精込み」が「活発」な製麹を行うものである本件発明においても、「製麹開始温度」及び攪拌の契機となる「品温上昇」の温度には、所望の製麹を行うための一定の範囲が存在するといえる。
しかし、本件発明において、「製麹開始温度」の範囲、及び「品温上昇」の温度の範囲は、発明特定事項として具体的に特定されてはおらず、また、本件発明における他の発明特定事項により自ずと定まるものともいえない。
そこで、本件明細書の記載をみてみると、摘記事項(本-9)からみて、「製麹開始温度」に35℃が含まれること、及び「品温上昇」の温度に37℃が含まれることが理解できるものの、本件明細書には「製麹開始温度」及び「品温上昇」の温度を定義付ける記載は存在せず、本件出願時の技術常識を参酌しても、「製麹開始温度」に含まれている若しくは除かれている温度の範囲、並びに「品温上昇」の温度に含まれている若しくは除かれている温度の範囲を理解することはできない。
この点について、被請求人の主張をみてみると、被請求人は、平成29年12月8日付け上申書で、「種麹を接種した直後の品温から0.01℃程度の品温上昇では、麹菌の発芽により放出される代謝熱(自己発熱)による品温上昇が十分とは言い難いと考えられるので、通常は、種麹を接種した直後の品温よりも一定程度高い温度をドラムの回転を開始する基準の温度とする。・・・具体的な一例を挙げて説明すると、「麹学」(乙15)の219頁下4行に「菌糸生育の最適温度は、37~38℃と発芽条件と比較して高く・・・」と記載されているとおり一般に菌糸生育の最適温度は発芽条件(例えば30~35℃)と比較して高いものであるため、菌糸生育最適温度(例えば37~38℃)に品温が上昇してからドラムの回転を開始し、ドラム回転中は菌糸生育最適温度を保つようにしてドラム回転による熱交換を行うようにすれば良い。」(8頁末8行~9頁5行)と述べ、「製麹開始温度」と「種麹を接種した直後の品温」が区別されること、「製麹開始温度」は接種直後の品温より一定程度高い温度であること、「品温上昇」の温度は、菌糸生育最適温度(例えば37~38℃)であり、発芽条件(例えば30~35℃)と比較して高いことを説明している一方、平成30年3月5日付け意見書で、乙21号証を示して、「技術常識として、白米を用いた製麹では、約15時間後に、種麹を接種した時点の品温(30℃)から3℃程上昇し品温は33℃となること、約15時間後は従来法でいえば「切返し」を行う時間に相当し、蒸米中に麹菌の繁殖が進んでいる状態であることは、既に説明したとおりである。従って、構成要件Cの「品温が上昇」の意味は極めて明確であ」る(48頁13行~17行)、「文言上、蒸米に種麹を接種したときの品温(30℃)から7℃上昇した「37℃」も、構成要件Eの「品温上昇後」に含まれることは明らかである。」(49頁5行~7行)と述べ、「品温上昇」の温度は、切り返し時の温度である33℃や37℃が含まれると説明している。 以上からみて、被請求人は、「品温上昇」の温度が、発芽条件の温度(例えば30~35℃)とは異なると説明することもあれば、発芽条件の温度である33℃も含まれると説明することもあり、被請求人の説明を踏まえても、「品温上昇」の温度に含まれている若しくは除かれている温度の範囲を理解することはできない。また、被請求人の説明を踏まえても、「製麹開始温度」に含まれている若しくは除かれている温度の範囲を理解することはできない。
以上のとおりであるから、本件発明において、「製麹開始温度」及び「品温上昇」の温度の範囲を当業者が理解又は特定することはできない。
(2)「温度及び湿度が任意に調整」について
本件発明は、「温度及び湿度が任意に調整された前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に、前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われ」ること(構成要件I)を発明特定事項としている。
ここで、「任意」は、「新村出編、広辞苑、2版増補版7刷、岩波書店、昭和57年10月15日発行、1710頁」によれば、「心のままにすること」、「その人の自由意思にまかせること」を意味するから、「温度及び湿度が任意に調整」との文言は、特定の温度範囲、湿度範囲を除く趣旨ではないと解することもできるものの、前記(1)で検討したとおり、製麹工程における温度、湿度などは、所望の製麹を行うにあたり、その成否を左右する重要な因子であることは本件出願時の当業者の技術常識であるから、構成要件Jに示されるような、「製麹原料への菌糸の破精込み」が「活発」な製麹を行うものである本件発明においても、構成要件Iにおいて調整されるべき「温度」及び「湿度」には、所望の製麹を行うための一定の範囲が存在するといえる。
しかし、本件発明において、これらの「温度」及び「湿度」の範囲は、発明特定事項として具体的に特定されてはおらず、また、本件発明における他の発明特定事項により自ずと定まるものともいえない。
そこで、本件明細書の記載をみてみると、「温度及び湿度が任意に調整されたドラム内で製麹原料が落下する時に、熱交換が行われ、適切な製麹温度が維持される」(摘記事項(本-4))との記載はあるものの、本件明細書には、これらの「温度」及び「湿度」を定義付ける記載は存在せず、本件出願時の技術常識を参酌しても、これらの「温度」及び「湿度」に含まれている若しくは除かれている範囲を理解することはできない。
この点について被請求人の主張をみてみると、被請求人は、平成30年3月5日付け意見書で、乙22及び23号証(乙22号証が、本件出願日より後に出願されたものである点、及び乙23号証が、平成28年11月22日に閲覧されたインターネット掲載記事であって、本件出願日に掲載されていた内容は不明である点はひとまずおく。)を示して、「本件明細書は、ドラムの回転を開始する前の段階で、回転ドラム本体内温度を35℃とすることを開示しており、ドラム内の温度条件はこの実施例が記載されていることで十分に明確である。本件明細書は、湿度条件について具体的な数値を示した箇所はないが、機械製麹では、具体的に湿度何%と目標を定めず、例えば冷水シャワー水をくぐらせることで除湿する方向に制御するといった単純な制御であっても「湿度を調整」に該当することは、技術常識」(50頁6行~12行)であること、及び「送風バルブ(6)の先に存在する空調機から除湿された空気をドラム内に送って調整することや、流動工程中は排気バルブ(10)を開いてドラム内の湿った空気を外部に逃がして調整することが図1の装置構成から読み取れ、本件発明の構成要件Iの「湿度が任意に調整された」の意味は明確」(48頁1行~4行)であることを述べ、要するに、本件明細書の記載や本件出願時の技術常識を参酌すれば、「温度及び湿度が任意に調整された」の意味が明確であることを主張しているといえる。
しかし、被請求人が指摘する「除湿された空気をドラム内に送って調整する」、「ドラム内の湿った空気を外部に逃がして調整する」なる記載や、製麹開始温度35℃が、任意に調整された温度であることを示す記載は本件明細書に存在せず、仮に、これらの主張を採用したとしても、本件発明において、構成要件Iにおいて調整されるべき「温度」及び「湿度」に含まれている若しくは除かれている範囲を理解することはできない。
以上のとおりであるから、本件発明の構成要件Iにおいて調整されるべき「温度」及び「湿度」の範囲を当業者が理解又は特定することができない。
(3)まとめ
以上からみて、本件発明の発明特定事項である、「製麹開始温度」、「品温上昇」の温度、並びに「温度及び湿度が任意に調整」における「温度」及び「湿度」の意味する範囲はいずれも明確とはいえないから、本件発明は明確とはいえない。
したがって、本件特許は、特許法36条6項2号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法123条1項4号に該当する。
3 無効理由7(サポート要件)について
(1)本件発明の課題
摘記事項(本-3)からみて、本件発明の解決しようとする課題は、「複雑な装置を用いたり製麹原料の改質を行ったりすることなく製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし、酵素力価の高い製麹方法を提供すること」であると認められる。
(2)判断
ア 前記2(1)及び(2)に示したとおり、製麹工程における温度、湿度などは、所望の製麹を行うにあたり、その成否を左右する重要な因子であることは本件出願時の当業者の技術常識であるから、本件発明において採用される温度及び湿度の範囲は、本件発明の課題を解決するにあたり、重要な因子であるというべきである。
しかし、前記2(1)及び(2)で検討したとおり、本件出願時の技術常識を参酌しつつ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、わずかに、「製麹開始温度」として35℃、攪拌の契機となる「品温上昇」の温度として37℃が含まれることが理解できるのみであり、本件発明の課題を解決するにあたり重要な因子であるというべき、「製麹開始温度」、「品温上昇」の温度、並びに「温度及び湿度が任意に調整」における「温度」及び「湿度」に含まれている若しくは除かれている範囲を当業者は理解することはできない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
イ また、上記アに示したとおり、本件発明において、「製麹開始温度」、「品温上昇」の温度、並びに「温度及び湿度が任意に調整」における「温度」及び「湿度」に含まれている若しくは除かれている範囲を当業者は理解することはできず、これらの範囲が特定されているとはいえないから、本件発明には、品温が十分には上昇していない段階で攪拌を開始する態様や、飽和状態に近いかなり湿った「湿度」の態様も包含されているといえるところ、前者の態様については、菌糸の育成が阻害され(甲8号証の13頁下から5行~下から2行)、後者の態様については、摘記事項(本-1)からみて、ヌリハゼ型の水分過多、軟弱、αアミラーゼ過多の麹が製造される傾向になるから、いずれも、本件発明の課題が解決できるものではない。
したがって、本件発明には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないというべきであり、よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
ウ 上記ア及びイからみて、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
(3)被請求人の主張
ア 「製麹開始温度」及び「品温上昇」の温度について
被請求人は、平成30年3月5日付け意見書で、「製麹開始温度」及び「品温上昇」の温度は、実施例によってサポートされており、当該実施例から、製麹開始温度の意味は理解でき、0.01℃のような僅かな品温上昇でドラムの回転を開始する例や、品温上昇が既に確認されているのに長時間放置しておく例のような技術的に無意味な例が本件明細書にないのは当然であると主張している(50頁下から5行~52頁4行)。
しかし、前記(2)アに示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、「製麹開始温度」として35℃、攪拌の契機となる「品温上昇」の温度として37℃が含まれることが示されるのみであり、「製麹開始温度」及び「品温上昇」の温度に含まれている若しくは除かれている範囲を当業者は理解することはできないというべきであるから、被請求人の主張を採用することはできない。また、無効理由7は、僅かな品温上昇でドラムの回転を開始する例や長時間放置しておく例のような技術的に無意味な例が、本件明細書に存在しないことを前提としたものではないから、この点についての被請求人の主張は失当である。
イ 「温度及び湿度が任意に調整」について
被請求人は、平成30年3月5日付け意見書で、「温度及び湿度が任意に調整された」について、機械製麹では単純な制御であっても「湿度を調整」という発明特定事項をサポートでき、本件明細書でも、空調機から除湿された空気をドラム内に送って調整することや、ドラム内の湿った空気を外部に逃がして調整することが図1の装置構成から読み取れることを根拠に、本件発明は、本件明細書でサポートされていると主張している(52頁5~24行)。
しかし、前記2(2)で検討したとおり、「除湿された空気をドラム内に送って調整する」、「ドラム内の湿った空気を外部に逃がして調整する」なる記載は本件明細書に存在しないから、被請求人の主張を採用することはできない。
(4)まとめ
以上からみて、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
したがって、本件特許は、特許法36条6項1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法123条1項4号に該当する。
4 無効理由8(進歩性)について
(1)甲1号証に記載された発明
ア 甲1号証の記載事項
甲1号証には、小麦ふすまの培地ともやし胞子とを含む塊を、攪拌状態に維持することで、空気との接触を確保し、1分間当たり1回ないし2回、ドラム内で塊を転回させ、培養状態下に置く、糖化物の製造方法が記載され(摘記事項(1-7)、(1-2))、水で湿らせた小麦ふすまからなる培地に蒸気に当てて培地を殺菌すること(摘記事項(1-4))、菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなるまで、約16時間ないし20時間、塊の温度を約30℃に維持した状態で静置し、その後、ドラムが回転されること(摘記事項(1-5))、塊の温度が40℃ないし42℃に到達すると、空気は流れが安定的に増加され、また、冷たく湿った状態に維持されることで、塊の温度は菌の成長の最適点である30℃付近、好ましくは35℃ないし38℃の温度付近に維持されること(摘記事項(1-5))、塊が連続的に攪拌され、塊の粒子を空気に接近させるために、連続的に表面に導かれること(摘記事項(1-2))、ドラムとしては、空気式麦芽製造ドラムを採用するのが好ましいこと(摘記事項(1-3))、ある程度の量の動きが、菌糸の成長を妨げないだけでなく、実際には成長を促進させること(摘記事項(1-1))、製造された麹は、糖化力が非常に均一化されており、静置して原料上で菌を成長させて製造するよりも明らかに強くなること(摘記事項(1-6))が記載されている。
イ 摘記事項(1-1)及び(1-5)の補足説明
(ア) 被請求人は、平成29年7月11日付けの答弁書で、甲1号証の1頁100行の「from 16 to 20 hours」に続き、未来形で「when the mass will begin to heat by itself owing to the germination of funguns spores」が記載されていることを理由に、甲1号証の1頁97~102行(訳文2頁17~19行)は、「菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなり始めるであろう、16時間ないし20時間、塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておく」と訳すべきである(16頁下から3行~18頁13行)と主張する。
しかし、16~20時間が、30℃で静置しておく時間であるとともに、菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなり始める時間を意図したものであることは、文脈からも明らかである。また、甲25号証には、ふすまこうじの製造で、「引き込み後一二-一六時間経過すれば菌は僅かに繁殖を始めて温度も上昇し三二-三四度とな」ることが(摘記事項(13-1))、そして、乙17号証-1には、ふすま麹の製造で、「二十八度位、床にあること十三時間位で品温三十二度位」になることが(摘記事項(20-1)、(20-2))記載されている。また、小麦ふすま以外にも、麦麹で、2~5時間で発芽し、8~10時間目頃から発熱(摘記事項(12-2))、味噌麹で、環境の温度が30~35℃で3~5時間で発芽、8~10時間目頃から発熱(摘記事項(14-1)、(14-2))、味噌用米麹で、5時間前後で発芽、8~10時間目から発熱、品温が35℃以下の場合、水分が多いほど増殖の立ち上がりが速い(摘記事項(15-1)、(15-2))、米麹で、引込後凡そ4~6時間位で発熱(摘記事項(4-2)、(4-3))、米麹で約12時間程度の放置によって温度上昇(摘記事項(5-1))することが当業者に知られており、さらに、甲23号証によれば、米での増殖が最も緩慢である(摘記事項(11-1))とされている。
そうすると、米より麹菌の増殖が早いとされる小麦ふすまともやし胞子を含む塊(製麹原料)を、約30℃で、約16時間ないし20時間も静置すれば、通常は、自らが熱くなり、品温の上昇が観察されることは技術常識ということができる。
したがって、甲1号証の訳文は、「菌胞子の発芽により塊がそれ自体で熱くなるまで、約16時間ないし20時間、塊の温度を約30℃に維持した状態で静置しておく」を採用するのが適切である。
一方、甲1号証1頁28行、2頁15行(訳文1頁21行、2頁30行)に記載の「thicker」の訳文「厚く」、「厚い」を、被請求人が主張する「茂った」と訳すことについては、平成29年10月30日付け口頭審理陳述要領書で請求人が争わない旨の回答をしており、甲1号証の訳文として「厚く」及び「厚い」をいずれも「茂った」に置き換えたものを採用する。
(イ)被請求人の主張
被請求人は、平成30年3月5日付け意見書で、乙17号証-1を提示の上、「ふすま」を原料に用いた製麹において24時間30分後に品温上昇する例もあるから(摘記事項(20-3)、(20-4))、「甲1明細書に記載されている時間が「16時間ないし20時間」であるとしても、それだけで品温上昇が認められる時間と断じることはできない。」(12頁1~4行)と主張する。
しかし、上記指摘の箇所は、乙17号証-1において「最初から盛り其後は積替のみで加減した」場合の品温を示したものであり、一方で、前記アで検討したとおり、甲25号証に「一二-一六時間経過すれば菌は僅かに繁殖を始めて温度も上昇し三二-三四度となり」の記載も存在するのであるから(摘記事項(13-1)、ふすまを製麹原料に用い、約30℃、約16時間ないし20時間も静置すれば、通常は、品温の上昇が観察されると解すべきである。
また、被請求人は、平成30年3月5日付け意見書で、「16時間ないし20時間」が、塊がそれ自体で熱くなり始めるであろうという不確かな時間である理由として、要するに、甲1号証の出願と同一発明者による出願である甲10号証では「ドラムは、発芽準備のために停止させてもよい」との表現に改められていること(9頁15行~19行)や、同じく甲1号証の出願と同一発明者による出願である甲22号証では「発芽準備のために10ないし12時間の期間停止させてもよい」と記載されており、甲1号証の「16時間ないし20時間」とは6ないし8時間のずれがあること(11頁10~15行)を挙げる。
しかし、甲10号証及び甲22号証が示す「発芽準備のための期間」と、甲1号証が示す「塊がそれ自体で熱くなり始める」時間とは表現ぶりが異なっているため、両者の時間が相違しても不自然とはいえない。加えて、約30℃に維持した状態で、約16時間ないし20時間も静置すれば、通常は、製麹原料が自ら熱くなることは当業者に広く知られるから、甲10号証、甲22号証のみを根拠に、「16時間ないし20時間」が、塊がそれ自体で熱くなり始める点において不確かな時間と解することはできない。
以上からみて、被請求人の上記主張はいずれも採用できない。
ウ 甲1発明A
以上からみて、甲1号証には、
「回転ドラムが用いられ、水で湿らせた後に蒸気を当てて殺菌した小麦ふすまにもやし胞子を接種する麹の製造方法において、もやし胞子の接種後、菌胞子の発芽により、小麦ふすまの培地ともやし胞子とを含む塊を、それ自体で熱くなり始めるまで、約16時間ないし20時間、約30℃に維持した状態で静置し、その後、1分間当たり1回ないし2回の回転により攪拌し、塊の温度が40℃ないし42℃に到達すると、空気は流れが安定的に増加され、冷たく湿った状態に維持され、塊の温度が菌の成長の最適点である30℃付近、好ましくは35℃ないし38℃の温度付近で維持され、前記攪拌により、菌糸の成長が促進し、静置して製造するよりも糖化力を明らかに強くする、麹の製造方法」
の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されていると認められる。
(2)対比
ア 本件発明には、前記2及び3で検討したとおり、「製麹開始温度」、「品温上昇」の温度、及び「温度及び湿度が任意に調整」における「温度」及び「湿度」についての記載不備が存在する。
そこで、上記の各記載不備について以下のような解釈に基づき、本件発明と甲1発明Aとを対比する。
「製麹開始温度」が、温度の特定が無い「製麹に適した温度」(被請求人が提出した平成30年3月5日付け意見書の49頁下から4~1行参照。)を意味し、「品温上昇」が、麹菌の繁殖が進むことによる品温上昇(本件明細書の【0047】、被請求人が提出した平成30年3月5日付け意見書の48頁13~16行参照)、すなわち、「菌胞子の発芽によって、小麦ふすまの培地ともやし胞子とを含む塊が、それ自体で熱くなり始める」ことを意味する。また、「温度及び湿度が任意に調整」における「温度」及び「湿度」は、文言上は、特定の温度及び湿度を排除するものではないから、「35℃ないし38℃の温度付近」の状態をも含む。
イ 甲1発明Aの「水で湿らせた後に蒸気を当てて殺菌した小麦ふすま」、「もやし胞子」、「麹」は、本件発明の「撒水又は浸漬、蒸煮、放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料」、「種麹」、「固体麹」に相当する。そうすると、甲1発明Aの「回転ドラムが用いられ、水で湿らせた後に蒸気を当てて殺菌した小麦ふすまにもやし胞子を接種する麹の製造方法」は、本件発明の「少なくとも製麹工程において、回転ドラムが用いられ、撒水又は浸漬、蒸煮、放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法」に相当する。
甲1発明Aの「回転ドラム」は、甲1発明Aにおいて駆動装置により回転されることは明らかであるから、本件発明の「駆動装置により回転される回転ドラム本体」に相当する。
甲1発明Aの「約16時間ないし20時間、約30℃に維持した状態」で、小麦ふすまを含む製麹原料の品温が上昇することは技術常識から明らかなので、甲1発明Aの「もやし胞子の接種後、菌胞子の発芽により、小麦ふすまの培地ともやし胞子とを含む塊を、それ自体で熱くなり始めるまで、約16時間ないし20時間、約30℃に維持した状態で静置し」は、本件発明の「種麹の接種後、製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置する」に相当し、甲1発明Aの「その後、1分間当たり1回ないし2回の回転により攪拌」は、本件発明の「製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌」すること、及び「回転ドラム本体の回転速度は、1回転/30~90秒に設定されている」ことに相当する。
甲1発明Aの「塊の温度が40℃ないし42℃に到達すると、空気は流れが安定的に増加され、冷たく湿った状態に維持され、塊の温度が菌の成長の最適点である30℃付近、好ましくは35℃ないし38℃の温度付近で維持され」は、温度が上昇した場合に冷却を行う、すなわち、冷却を断続的に行うものといえるから、本件発明の「品温の上昇を感知すると、前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い、温度及び湿度が任意に調整され」に相当する。
以上より、本件発明と甲1発明Aとの一致点及び相違点は以下のとおりであると認められる。
(一致点)「少なくとも製麹工程において、回転ドラムが用いられ、撒水又は浸漬、蒸煮、放冷等の原料処理工程を経て製麹可能となされた製麹原料に種麹を接種することにより固体麹を製造する方法において、
前記回転ドラムは、駆動装置により回転される回転ドラム本体を、少なくとも備え、
種麹の接種後、製麹原料の品温が上昇するまで製麹原料を静置し、
製麹原料の品温上昇後に製麹原料を常にあるいは少なくとも1~10分間隔で間欠的に攪拌し、
前記回転ドラム本体の回転速度は、1回転/30~90秒に設定されていると共に、
前記品温の上昇を感知すると、前記回転ドラム本体内に送風して断続的に冷却を行い、温度及び湿度が任意に調整され、
製麹を完了することを特徴とする固体麹の製造方法。」
(相違点1)本件発明では、製麹原料の攪拌が、前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ、前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に、前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われるのに対して、甲1発明Aでは言及がない点。
(相違点2)本件発明では、回転ドラム本体の内部に装着された品温センサを備えるのに対して、甲1発明Aでは、品温センサについて明示がない点。
(相違点3)本件発明では、回転ドラムが設置された室内の温度及び前記回転ドラム本体内の温度を、共に製麹開始温度となるように調節しているのに対して、甲1発明Aでは明らかでない点。
(相違点4)本件発明では、「前記攪拌により前記製麹原料表面や原料外空中での菌糸の生育を抑制して前記製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし」ているのに対して、甲1発明Aでは、「前記攪拌により、菌糸の成長が促進し、静置して製造するよりも糖化力を明らかに強くし」ている点。
(3)相違点1~4の検討
ア 相違点1について
(ア) 甲1号証には、「私の発明を実施する際、塊が連続的に攪拌されるようにし、これにより、塊の粒子は、空気に接近させるために、連続的に表面に導かれる。」(摘記事項(1-2))、「成長に必要な空気を供給し、ガスが発生するのと同じ速さでガスを除去するために、湿った空気の流れを塊に当てながら、好ましくは1分間当たり1回ないし2回の回転により塊を転回させる空気式麦芽製造ドラムを採用することが好ましい。」(摘記事項(1-3))、「40時間ないし50時間の間、ドラムの回転及び空気の流れにさらされると、塊全体に菌の成長が行き渡り、・・・」(摘記事項(1-6))との記載がある。
これらの記載によれば、甲1発明Aにおいては、ドラムの回転により、塊の粒子の一つ一つが、代わる代わる空気に接触し得る表面に導かれること、具体的には、ドラムが回転することにより製麹原料の塊がドラム内で傾斜面を形成し、その傾斜面から塊の粒子が落下し、表面にある塊の粒子とそれ以外の粒子とが順次入れ替わることが開示されているということができる。また、ドラム本体内で塊の粒子が落下する際にその粒子が空気に触れること、冷却のために供給される空気が製麹原料の温度より低いことはいずれも明らかであるから、甲1発明Aにおいては、ドラム本体内で製麹原料が傾斜面から順次落下する際に、ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換が行われることも開示されているというべきである。
したがって,相違点1は,本件発明と甲1発明Aとの実質的な相違点とはならない。
(イ) 仮に、相違点1が実質的な相違点であったとしても、以下のa及びbで示すとおり、甲1発明Aにおいて、相違点1で示される発明特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たものである。
a 甲10号証は、糖化物の製造装置(摘記事項(6-1)に関する米国特許明細書であって、甲1発明と発明者が共通するものであるところ、摘記事項(1-1)及び(1-2)で示される甲1号証の記載と同様の記載が、甲10号証の摘記事項(6-2)及び(6-3)に存在することから、甲10号証は、甲1号証に記載された製造方法を実施するための製造装置を示したものであることは明らかである。
ここで、甲10号証には、邪魔板25が、底部の培地の塊を持ち上げ、塊の頂部で崩す作用をし、塊がドラムの底部に重力で動き又は崩れると、胞子形成物の塊の新たな部分は、空気の流れの動きに連続的に向けられることが記載され(摘記事項(6-5))、また、摘記事項(6-6)によれば、甲10号証には、ドラム内で原料層が傾斜面を形成していることが示されるから、甲10号証におけるドラム内の攪拌は、「回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ」ており、当該攪拌により、原料層が回転ドラム本体内の空気の流れに触れ、その結果として原料層には「熱交換」が生じていると理解できる。
そうすると、甲1発明Aにおいて、甲1号証に記載された「塊が連続的に攪拌されるようにし、これにより、塊の粒子は、空気に接近させるために、連続的に表面に導かれる」(摘記事項(1-2))を実現する手段として甲10号証に記載された装置を採用して、「製麹原料の攪拌が、前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ、前記回転ドラム本体内で前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に、前記回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換」することは当業者が容易に想到し得たものである。
b 甲1号証には、「空気式麦芽製造ドラムを採用することが好ましい。」(摘記事項(1-3))と記載されるところ、甲18号証によれば、当該ドラムは、横置二重円筒形をした発芽缶(ドラム)で、加湿調温した空気を麦粒層に強制通風して発芽をコントロールするものであることが、当業者に知られている(摘記事項(8-1))。そして、甲19号証に記載された図面の装置(摘記事項(9-1))には、ドラム内で麦粒層が傾斜面を形成すること、甲20号証には、「ドラムの容量よりも少ない量の材料が、・・・時折その自重で、ドラムの横方向に斜線に落下する。」こと(摘記事項(10-1))が記載される。
そうすると、甲1発明Aにおいて、甲19号証、甲20号証に記載されるような公知の空気式麦芽製造ドラムを採用すること、特に、甲1号証に記載された、「空気の流れは、塊の温度が上昇するにつれて増加するように調整される」こと(摘記事項(1-5))、「塊が連続的に攪拌されるようにし、これにより、塊の粒子は、空気に接近させるために、連続的に表面に導かれる」こと(摘記事項(1-2))、及び「空気は流れが安定的に増加され、また、冷たく湿った状態に維持される」こと(摘記事項(1-5))を実現する機能又は構造を備えた装置を採用することは当業者が容易に想到し得たものである。そして、このような装置を採用することにより、「製麹原料の攪拌が、前記回転ドラム本体の回転により生じる原料層の傾斜面からの落下により行われ」るとともに、「前記製麹原料が前記傾斜面から順次落下する時に、前記回転ドラム本体内の空気に触れること」が生じ、また、空気に触れることで「熱交換」が行われるということができる。
したがって、仮に、相違点1が実質的な相違点であったとしても、相違点1の発明特定事項は、甲1発明Aにおいて、甲10号証、甲19号証、甲20号証のうちのいずれかの装置を採用することで当業者が容易になし得たものである。
(ウ)被請求人の主張
被請求人は、平成30年3月5日付け意見書で、空気式麦芽製造ドラムでは、原料層の上部に達した空気は既に交換済みのものであって、もはや熱交換できない空気であるから、温度及び湿度が任意に調整された回転ドラム本体内で、製麹原料が傾斜面から順次落下する時に回転ドラム本体内の空気に触れることにより熱交換を行うことは不可能である点(24頁下から7行~下から3行)、甲1発明Aは、原料層に直接空気を通す製法(内部通風式)を用いることを前提として製麹の諸条件を決めており、甲1発明Aに、内部通風式でない甲10号証のドラムを組み合わせる動機づけがない点(25頁14行~16行)を挙げ、甲1発明Aにおいて、甲10号証、甲19号証、甲20号証のうちのいずれかの装置を採用するのは困難であると主張する。
そもそも、前記(ア)で検討したとおり、相違点1は,本件発明と甲1発明Aとの実質的な相違点ではないといえることはおくとして、被請求人の上記主張を検討すると、甲1発明Aにおいて、大部分の空気が原料層を通して引き込まれるにしても、甲1発明Aにおいて、空気は塊の温度を菌の成長の最適点である30℃付近、好ましくは35℃ないし38℃の温度付近で維持するためのものであるから、表面部分を含む塊の全体に対し、菌の成長の最適点というべき温度に調整可能な空気が用いられると考えるのが自然であり、甲1発明Aにおいて、被請求人のいうような、ドラム内での位置によってはもはや熱交換できないような条件の空気は用いられないというべきである。
また、甲1号証は、「空気式麦芽製造ドラムを採用することが好ましい」(摘記事項(1-3))と記載されるに止まるから、当該記載が、内部通風式ではない甲10号証に記載の装置の採用を阻害するとまではいえない。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
(エ) 以上からみて、相違点1は、甲1発明Aとの実質的な相違点とならないし、仮に、相違点であったとしても、甲10号証、甲19号証、甲20号証に記載された技術的事項に基づき当業者が容易になし得たものである。
イ 相違点2について
(ア) 甲1号証には、「品温センサ」という語は明示的には記載されていないものの、特定の品温を感知すると塊を冷却するための送風を停止すること(摘記事項(1-4))、塊の温度を35℃ないし38℃付近に維持することが好ましいこと(摘記事項(1-5))が記載されている。これらの記載は、甲1号証の回転ドラム内部に製麹原料(塊)の温度(品温)を計測するための装置、すなわち「品温センサ」が設置されていることを前提とするものと理解される。
そうすると、品温センサの設置については、甲1発明Aに開示されているものといってよいから、この点は本件発明と甲1発明Aとの実質的な相違点とはならない。
(イ) 仮に、相違点2が実質的な相違点であったとしても、以下で示すとおり、甲1発明Aにおいて、相違点2で示される発明特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たものである。
すなわち、一般に、回転ドラムが設置された製麹装置を用いた製麹方法において、製麹原料を製麹に適した温度に温度制御することは周知技術である。
そして、甲5号証に、設定された温度に達すると、自動温度調節計によりドラムの回転と湿潤新鮮空気の通気が行なわれ、下限温度に冷却されて切返作業は終了すること(摘記事項(4-1))、甲6号証に、温度が上昇しサーミスターの指示温度に達するとドラムを数回転し、停止した上で通風を行うこと(摘記事項(5-1))が記載されることも分かるように、上記技術課題に対応するために、回転ドラムにセンサを設けることも、当業者に各種知られている。
以上からみて、仮に、相違点2が実質的な相違点であったとしても、甲1発明Aにおいて、回転ドラム本体の内部に甲5号証、甲6号証に記載されるようなセンサを備えることは、当業者が容易になし得たものである。
(ウ) 以上からみて、相違点2は、甲1発明Aとの実質的な相違点とならないし、仮に、相違点であったとしても、甲5号証、甲6号証に記載された技術的事項、及び上記周知技術に基づき当業者が容易になし得たものである。
ウ 相違点3について
(ア) 甲1号証には、ドラム内への空気の供給により塊の温度を下げることが記載されるから(摘記事項(1-5))、この供給される空気は、塊の温度及びドラム内の温度より低いものが予定されているものと理解でき、かつ、当該空気は、ドラムが設置されている場所のドラム外の空気が利用されていると理解できるので、甲1号証では、ドラム内の温度を調節するために、ドラム外すなわち製麹機が設置されている空間の温度も、製麹に適した温度に調節されていると解釈する余地がある。そして、この解釈によれば、甲1号証には、回転ドラム内に供給される空気の温度(室温)を適宜調節すべきこと、すなわち回転ドラムが設置された室内の温度及び回転ドラム本体内の温度を共に製麹に適した温度、すなわち製麹開始温度になるように調節すべきことが開示されているといえる。
したがって、相違点3は、本件発明と甲1発明Aとの実質的な相違点とはならない。
(イ) 一方、上記解釈が採用できないとしても、甲1発明Aにおいて、相違点3で示される発明特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たものである。
すなわち、甲3号証は、製麹機の実用化に関する論文であって、温度センサを有する回転ドラムを備えた製麹機をプレハブ式製麹室内に設置し、製麹室の温度を調節することにより麹の温度管理を行うことが記載されている(摘記事項(2-1))。
ここでは、麹が塊となることの問題点が指摘されるとともに(摘記事項(2-2)、(2-4))、室温と品温の差が大きいと麹の水分が奪われることが問題点とされており(摘記事項(2-3))、麹の温度管理の中には、塊が生じないようにすること、及び室温と品温の差を小さくすることが実質的に含まれているといえる。また、甲4号証は、製麹装置に関する発明に係る公開特許公報であって、回転ドラム式製麹機を断熱室内に設置し、断熱室の温度を調節しながら製麹を行うことが記載されている(摘記事項(3-1)、(3-2))。ここでも、麹が塊になる問題点が指摘されている(摘記事項(3-3))。
以上のとおり、製麹工程において、温度は、製麹に影響を及ぼす要素の1つであり、室内に回転ドラム式製麹機を設置した場合、室温及び回転ドラム内の温度はいずれも製麹に影響するから、両者を共に適宜調整することは周知技術であるといえる。そして、回転ドラム内の外壁に近接した部分の温度が製麹機を設置した環境温度の影響を受けることは自明であるから、回転ドラム内を適正な温度に維持するためには、回転ドラムを断熱構造にしない限り、室温を適宜調整することが不可欠といえる。
したがって、回転ドラムに断熱機構を見出すことのできない甲1発明Aにおいて、回転ドラム内の温度を管理するために、上記周知技術を採用することは、当業者が適宜なし得る範囲のことである。
(ウ) 以上からみて、相違点3は、甲1発明Aとの実質的な相違点とならないし、仮に、相違点であったとしても、上記周知技術に基づき当業者が容易になし得たものである。
エ 相違点4について
(ア) 甲35号証によれば、「破精込みが活発」とは、総破精又は突き破精の状態を指すものであり、それぞれが、糖化力、たんぱく分解力が共に強いとされており、逆にヌリ破精は異常な麹と位置づけられ、酵素力は弱いとされている(摘記事項(17-1))。
甲34号証は、破精込みが良い菌株と酵素活性の相関を示した技術論文であり、破精込みが良い菌では酵素活性が高く、酵素活性が麹の破精に強い影響を与えることが推察でき(摘記事項(16-1)、(16-2))、α-アミラーゼ活性が高いほどデンプンを主体とする蒸米内部組織の崩壊がより早く進み、その結果麹菌糸が蒸米内部に伸長しやすくなり、破精込みの程度が大きくなったと考えられ(摘記事項(16-3))、酸性プロテアーゼ活性の高低が破精歩合に影響しなかったのも、酸性プロテアーゼが蒸米内部の組織変化にあまり関与しないためであると推察される(摘記事項(16-3))ことが示されている。
そして、乙1号証には、破精込みが酵素力価に深く関わっていることが示され(摘記事項(18-1))、乙13号証には、ばか破精は、酵素力が弱いことが記載されている(摘記事項(19-2))。また、乙20号証には、蒸米吸水率70%のアミラーゼと酸性プロテアーゼの生産量が、蒸米吸水率40%の5~6割、グルコアミラーゼは2割以下の生産量に過ぎないことが記載されている(摘記事項(21-1))。さらに、甲12号証によれば、糖化力は、でんぷん及びその分解物等に作用して、そのグルコシド類を加水分解し、還元力を生成する活性をいい(摘記事項(7-1))、乙13号証が示すように、酒税法では、麹は、デンプン質を糖化させることができるものをいうとされている(摘記事項(19-1))。
以上の記載を踏まえると、破精込み、糖化力、酵素力価は、強い相関関係があること、破精込みには、たんぱく分解に寄与する酵素よりも、α-アミラーゼ等の糖化に寄与する酵素の影響が大きいこと、及び破精込みの活発な麹は、ヌリ破精、ばか破精の麹と比べ、糖化やたんぱく分解に寄与する酵素を含めて全般的に酵素活性(酵素力価)が高く、糖化力も強いことが理解できる。
そうすると、菌糸の破精込みが活発であることと、デンプンを分解し、そのグルコシド類を加水分解する力を示す糖化力が強いこと、更には糖化に寄与する酵素を中心に酵素の活性(酵素力価)が高いことは、客観的には、同じ現象を異なる指標で表現したものにすぎないものということができる。
したがって、糖化力が強い麹の製造方法に関して記載された甲1号証は、明示的に破精込みに触れる記載はないものの、客観的には、破精込みが活発な麹の製造方法を開示しているものと変わりがないということができる。
よって、甲1発明Aの「静置して製造するよりも糖化力を明らかに強く」するは、本件発明の「製麹原料への菌糸の破精込みを活発にし」に対応したものであり、相違点4は実質的な相違点とはいえない。
(イ) さらに、以下のとおり、本件明細書と甲1号証の記載からも、甲1発明Aの「糖化力を明らかに強くする」は、本件発明の「破精込みを活発にし」に対応すると判断することができる。
すなわち、本件明細書には、「接種後の製麹原料の攪拌を従来のように長時間静置することなく行えば、製麹原料表面や空中での菌糸の過度の生育が抑制される反面、製麹原料への菌糸の破精込みが活発になることに思い至った」(摘記事項(本-2))、「ドラムの回転速度が速すぎると、製麹原料が過度に乾燥し、菌糸の生育に必要な水分が不足する一方、回転速度が遅すぎると、熱交換が不十分になり製麹原料品温が上昇し、適切な製麹温度が維持できなくなる・・・、1回転/30~90秒に設定されていることが好ましい」(摘記事項(本-5))と記載されている。
一方、甲1号証には、「ある程度の量の動きは、成長を妨げないだけでなく、実際には成長を促進させ、しかも操作の無駄を大いに省けるからである。私はまた、動きのある製造では、菌糸の成長は異なっており、糸状体は短く茂った、多くの枝が大幅に増加し、これにより、もやし胞子の頭を生じさせる多くの端を成長させることを発見した。」(摘記事項(1-1))、「湿った空気の流れを塊に当てながら、好ましくは1分間当たり1回ないし2回の回転により塊を転回させ」(摘記事項(1-3))、「この攪拌は、塊における菌糸の糸状体の形質を変えることはあっても、菌の成長を実質的に妨げるような激しさはない。・・・1分間当たり約1回ないし2回を超えないようにし、・・・1分間当たり10周期に達すると、成長は実質的に妨げられることを見出した」(摘記事項(1-2))と記載されている。
このように、両者の記載は、表現ぶりが異なるものの、製麹原料を、菌糸の生育に必要な水分が不足しないように、ドラム内を冷やしつつ、一定の速度で攪拌することにより、菌糸の育成を阻害せず、静置して製造するよりも菌糸の成長を促す点で共通の技術手段を採用しており、本件発明では、製麹原料中の菌糸の生育が活発になり、酵素力価の高い固体麹(摘記事項(本-6))、すなわち破精込みの活発な固体麹(摘記事項(本-3))が得られるのに対し、甲1号証では、静置して製造するよりも菌糸が成長した(摘記事項(1-1))、糖化力が明らかに強い固体麹(摘記事項(1-6))が製造されている。
ここで、製麹原料に対して、菌糸の成長が促進すれば、酵素活性(酵素力価)が高くなることは、当業者に予見可能な事項であり、「糖化力が明らかに強く」は、α-アミラーゼ等の糖化に寄与する酵素活性(酵素力価)が高いことに着目した記載であると認められる。
そして、甲35号証に照らすと、この「糖化力が明らかに強く」の記載から、酵素活性(酵素力価)が低いヌリ破精やばか破精ではなく、酵素活性(酵素力価)が高い破精込みの活発な総破精又は突き破精が生成していることを推認できるから(摘記事項17-1))、甲1発明Aの「静置して製造するよりも糖化力を明らかに強く」することは、本件発明の「製麹原料への菌糸の破精込みを活発に」することに対応したものということができる。
以上のことからも、相違点4は、実質的な相違点とはいえない。
(ウ)被請求人の主張
被請求人は、平成29年12月22日付け上申書で「甲1の加水率は60~80%であるから、明らかに水分過多で、α-アミラーゼ過多のべた付き傾向のヌリハゼ型の麹となる。」(7頁1~3行)、平成30年3月5日付け意見書で「ふすまに水を60~80%加えて蒸煮、冷却すると、実際の加水率もほぼ同じ割合になることは技術常識である」(41頁5~7行)と主張し、甲1号証の加水率からはヌリハゼ型の麹となると主張する。
上記主張について検討すると、まず、甲1号証には、「ふすま100重量部に対し水が60ないし80重量部以下含まれるように湿らせた小麦ふすま」(摘記事項(1-4))と記載されるだけで、「60ないし80重量部」という値が、製麹に供されるふすまが実際に吸収する水分量、すなわち吸水率に相当するとまではいえない。
また、甲1発明Aは「菌糸の成長が促進し、静置して製造するよりも糖化力を明らかに強くする、麹の製造方法」に係るものであるところ、糖化力が強いとされる麹にヌリハゼ型の麹が含まれることを示す証拠が被請求人から提示されているわけでもない。そして、むしろ、乙20号証では、ヌリハゼ型の麹に相当すると解せる蒸米吸水率70%は、蒸米吸水率40%に比べると、アミラーゼ、グルコアミラーゼの生産量が共に低い(摘記事項(21-1))とされている、すなわち、糖化力が弱いとされているから、ヌリハゼ型の麹は糖化力が弱い麹であると評価すべきものである。また、この点について、被請求人も、平成29年12月8日付け上申書で「ヌリハゼ型の麹は、破精込みの良い麹と比較すると、グルコアミラーゼ活性、α-アミラーゼ活性は共に低く、特にα-アミラーゼ過多となる傾向があって、グルコアミラーゼ活性が低くなる(段落0004)。従って、ヌリハゼ型の麹は、破精込みの良い麹と比較すると、糖化力は低いと解して良い。」(10頁14~18行)と述べ、上記乙20号証の記載に沿った説明を行っている。そうすると、ヌリハゼ型の麹は糖化力が弱い麹であるといえるところ、甲1発明Aは「菌糸の成長が促進し、静置して製造するよりも糖化力を明らかに強くする、麹の製造方法」に係るものであるから、糖化力の弱いヌリハゼ型の麹を製造するものではないというべきである。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
(エ) 以上からみて、相違点4は、甲1発明Aとの実質的な相違点とはいえない。
(4)小括
本件発明は、甲1発明Aと、甲1号証に記載された技術的事項、甲10、甲19及び甲20号証に記載された技術的事項、甲5及び甲6号証に記載された技術的事項、甲3及び甲4号証に記載された技術的事項、並びに甲34、甲35及び乙1号証に記載された技術的事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法123条1項2号に該当する。
第7 むすび
前記第6の1で検討したとおり、平成25年10月29日付けの訂正請求は、特許法134条の2第1項ただし書きの規定に適合するから、請求人の主張する無効理由4によっては、本件特許を無効とすることはできない。
一方、前記第6の2及び3で検討したとおり、本件特許は、特許法36条6項2号及び6項1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであるから、同法123条1項4号に該当し、また、前記第6の4で検討したとおり、本件特許は、本件発明が特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから、同法123条1項2号に該当する。
したがって、請求人の主張した無効理由1~3、並びに当審が通知した無効理由6及び9を検討するまでもなく、無効理由5、7及び8により、本件特許は無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-800047