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特許異議申立

2017-700530

有機電界発光素子

審判番号
2017-700530
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2012-133078外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年05月29日
審決日
2018年05月25日
公報発行日
2018年08月31日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(H05B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6034600号発明「有機電界発光素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許6034600号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許6034600号の請求項1、2、4ないし13に係る特許を維持する。 特許6034600号の請求項3についての異議申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6034600号の請求項1~13に係る発明についての出願は、平成24年6月12日に特許出願され、平成28年11月4日にその発明について特許の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年5月29日付けで特許異議申立人安岡重典により特許異議の申立てがなされ、平成29年8月2日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月7日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年12月14日に特許異議申立人安岡重典から意見書が提出され、平成30年1月17日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、同年4月23日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 請求項1に「E1(LUMO)>E2(LUMO)」と記載されているのを、「E1(LUMO)>E2(LUMO)+0.5eV」に訂正する。 (2)訂正事項2 請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 請求項4に「請求項1~3のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1または2」に訂正する。 (4)訂正事項4 請求項5に「請求項1~4のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、2、4のいずれか一項」に訂正する。 (5)訂正事項5 請求項6に「請求項1~5のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、2、4、5のいずれか一項」に訂正する。 (6)訂正事項6 請求項7に「請求項1~6のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、2、4~6のいずれか一項」に訂正する。 (7)訂正事項7 請求項8に「請求項1~7のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、2、4~7のいずれか一項」に訂正する。 (8)訂正事項8 請求項9に「請求項1~8のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、2、4~8のいずれか一項」に訂正する。 (9)訂正事項9 請求項11に「請求項1~10のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、2、4~10のいずれか一項」に訂正する。 (10)訂正事項10 請求項12に「請求項1~10のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、2、4~10のいずれか一項」に訂正する。 (11)訂正事項11 請求項13に「請求項1~10のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1、2、4~10のいずれか一項」に訂正する。 2 訂正の目的の適否 (1)訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1における「LUMOのエネルギーE1(LUMO)」の下限を、「E2(LUMO)」から、「E2(LUMO)+0.5eV」へ減縮するものといえる。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。 (2)訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものといえる。 (3)訂正事項3~11は、いずれも、引用請求項から請求項3を除くものであって、訂正事項2との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものといえる。 3 新規事項の有無 (1)訂正事項1について 願書に添付した明細書の段落【0038】には、「第1正孔輸送層に含まれる材料のLUMOのエネルギーE1(LUMO)と、第2正孔輸送層に含まれる材料のLUMOのエネルギーE2(LUMO)とが、E1(LUMO)>E2(LUMO)+0.4eVを満たすことがより好ましく、E1(LUMO)>E2(LUMO)+0.5eVを満たすことが更に好ましい。」(下線は当審で付与した。)との記載がある。当該記載に基づけば、訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものといえる。 (2)訂正事項2~11について 訂正事項2は、請求項を削除するものであり、訂正事項3~11は、いずれも、訂正事項2との整合を図るものである。訂正事項2~11が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてなされたものであることは明らかである。 (3)以上のとおりであるから、訂正事項1~11は、いずれも、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 4 一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、「LUMOのエネルギーE1(LUMO)」の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、訂正事項2は、請求項を削除するものであり、訂正事項3~11は、いずれも、訂正事項2との整合を図るものであるから、これらの訂正事項も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正前の請求項1~13は、請求項2~13が訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、これら訂正は一群の請求項ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 5 むすび 以上のとおり、訂正請求による訂正事項1~11は、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 第3 取消理由についての判断 1 訂正請求項1ないし13に係る発明 上記訂正請求により訂正された本件特許の請求項1ないし13に係る発明は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 陽極と、正孔注入層と、該正孔注入層に直接接合している第1正孔輸送層と、第2正孔輸送層と、発光層と、陰極と、をこの順に有する有機電界発光素子であって、 該正孔注入層は最低空軌道(LUMO)のエネルギーが-4.0eVよりも小さい材料を含み、かつ、該第1正孔輸送層に含まれる材料のLUMOのエネルギーE1(LUMO)と、該第2正孔輸送層に含まれる材料のLUMOのエネルギーE2(LUMO)とが、E1(LUMO)>E2(LUMO)+0.5eVを満たす有機電界発光素子。 【請求項2】 前記第1正孔輸送層が下記一般式(1)~(3)のいずれかで表される材料の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の有機電界発光素子。 【化1】 上記一般式(1)~(3)中、Mは下記構造を表す。MがXと結合する場合は、Mは結合するXの数だけ下記構造のベンゼン環から水素原子を除いた構造を表す。 【化2】 (R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、シリル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基及びアリールチオ基のいずれかを表す。R1、R2及びR3は、それぞれ結合して環を形成してもよい。) Xは、それぞれ独立して、下記構造のいずれかを表す。 【化3】 (R4及びR5は、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、シリル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基及びアリールチオ基のいずれかを表す。R4及びR5が結合して環を形成してもよい。) nは0以上の整数を表す。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 前記第2正孔輸送層が下記一般式(4)又は(5)で表される材料の少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の有機電界発光素子。 【化4】 上記一般式(4)および(5)中、 Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、アリール基を表す。Ar1及びAr2のアリール基は、アルキル基、アリール基又はアミノ基で置換されていてもよい。 Ar3は、アルキル基又はアリール基で置換されたアミノ基を表す。Ar3のアミノ基に置換するアリール基は、更にアルキル基、アリール基又はアミノ基で置換されていてもよく、Ar3のアミノ基に置換するアルキル基又はアリール基は、Ar3のアミノ基に置換する他のアルキル基又はアリール基と結合して環を形成してもよい。 Zは、下記構造のいずれかを表す。 【化5】 (R6~R8は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。R6~R8のアリール基は、アルキル基、アリール基又はアミノ基で置換されていてもよい。) 【請求項5】 前記正孔注入層に含まれる、LUMOのエネルギーが-4.0eVよりも小さい材料が、下記一般式(A)で表される材料である、請求項1、2、4のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。 【化6】 ここでRpiはπ電子を4個以上含む有機基を示し、jは1~8の整数を示す。 【請求項6】 前記第1正孔輸送層の膜厚が3~30nmである、請求項1、2、4、5のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。 【請求項7】 前記第2正孔輸送層の膜厚が3~30nmである、請求項1、2、4~6のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。 【請求項8】 前記発光層と前記陰極との間に、更に電子輸送層を有する、請求項1、2、4~7のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。 【請求項9】 前記発光層は発光性ドーパントとホスト材料とを含有し、該発光性ドーパントが燐光発光材料である、請求項1、2、4~8のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。 【請求項10】 前記燐光発光材料がイリジウム系錯体である、請求項9に記載の有機電界発光素子。 【請求項11】 請求項1、2、4~10のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を用いた発光装置。 【請求項12】 請求項1、2、4~10のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を用いた表示装置。 【請求項13】 請求項1、2、4~10のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を用いた照明装置。」(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明4」~「本件特許発明13」という。) 2 証拠について 特許異議申立人安岡重典により提示された証拠は以下のとおりである。 甲第1号証.特表2007-518220号公報 甲第2号証.特開2008-98615号公報 甲第3号証.特開2009-200493号公報 甲第4号証.特表2012-502485号公報 甲第5号証.特開2009-99967号公報 甲第6号証.米国特許出願公開第2011/0297925号明細書 甲第7号証.Yong-Ki Kim 外2名, Energy level alignment at a charge generation interface between 4,4'-bis(N-phenyl-1- naphthylamino)biphenyl and 1,4,5,8,9,11- hexaazatriphenylene-hexacarbonitrile, APPLIED PHYSICS LETTERS, vol.94, p.063305-1~063305-3, 2009 3 取消理由の概要 訂正後の請求項1、2、4~13に係る特許に対して、平成30年1月17日付けで特許権者に通知した取消理由(以下、「本件取消理由」という。)の要旨は、次のとおりである。 本件特許発明1、2、4~13は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第2~7号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1、2、4~13に係る特許は取り消されるべきものである。 4 引用刊行物の記載事項及び引用発明 (1)甲第1号証 ア 本件取消理由に引用され、本件特許の出願前の平成19年7月5日に頒布された刊行物である甲第1号証(特表2007-518220号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。(なお、以下の下線は合議体が引用発明の認定等に用いた箇所を示すために付与したものである。他方、甲第1号証に付されていた下線を省略している。以下同様。) (ア) 「【0025】 有機発光素子 有機発光素子は、正極、負極及び前記正極と負極との間に位置するp型有機物層を備える。前記p型有機物層は、正孔注入層、正孔輸送層、または発光層を備える。前記有機発光素子はまた、前記p型正孔注入層と負極との間に位置する少なくとも一つの有機物層をさらに備えうる。前記有機発光素子が複数の有機物層を備える場合、前記有機物層は、同じ物質または異なる物質で形成されうる。図3は、本発明の例示的な一具現例による有機発光素子を表す。 【0026】 図3を参照すれば、有機発光素子は、基板31、基板31上の正極32、正極32上に位置し、正極32から正孔を受けるp型正孔注入層(HIL:Hole Injection Layer)33、HIL 33上に位置し、発光層(EML:Emitting Layer)35に正孔を伝達する正孔輸送層(HTL:Hole Transporting Layer)34、HTL 34上に位置し、正孔及び電子を利用して発光するEML 35、EML 35上に位置し、負極37からの電子をEML 35に輸送する電子輸送層(ETL:Electron Transporting Layer)36及びETL 36上に位置する負極37を備えうる。HTL 34、EML 35、及びETL 36は、同じ有機物質でまたは異なる有機物質で形成されうる。 【0027】 本発明の例示的な他の具現例によれば、有機発光素子は、基板31、基板31上に位置する正極32、正極32上に位置するp型HTL 34、HTL 34上に位置するEML 35、EML 35上に位置するETL 36及びETL 36上に位置する負極37を含みうる。EML 35及びETL 36は、同じ有機物質でまたは異なる有機物質で形成されうる。 【0028】 本発明の例示的なさらに他の具現例によれば、有機発光素子は、基板31、基板31上の正極32、正極32上に位置するp型EML 35、EML 35上に位置するETL 36及びETL 36上に位置する負極37を備えうる。ETL 36は、有機物質で形成されうる。 【0029】 図3を再び参照すれば、正極32は、正孔をHIL 33、HTL 34、またはEML 35に正孔を輸送し、導電層32a及びn型有機物層32bを備える。導電層32aは、金属、金属酸化物、または導電性ポリマーで形成される。n型有機物層32bのLUMOエネルギー準位と導電層32aのフェルミエネルギー準位とのエネルギー差は、約2eV以下であり、望ましくは、約1eV以下である。n型有機物層32bのLUMOエネルギー準位とp型HIL33のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差は、約1eV以下であり、望ましくは、約0.5eV以下である。NP接合が正極32のn型有機物層32bとp型HIL 33との間で形成される。」 (合議体注:図3は以下の図である。) (イ) 「【0032】 図4は、有機発光素子の理想的なエネルギー準位を示す。このエネルギー準位で、正極及び負極からそれぞれ正孔及び電子を注入するためのエネルギー損失が最小化される。図5は、本発明の例示的な一具現例による有機発光素子のエネルギー準位を示す。 【0033】 図5を参照すれば、本発明の他の例示的な具現例による有機発光素子は、導電層及びn型有機物層(図3参照)を有する正極、p型HIL、HTL、EML、ETL及び負極を備える。前記正極のn型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記正極の導電層のフェルミエネルギー準位とのエネルギー差は、約2eV以下であり、また、前記正極のn型有機物層のLUMOエネルギー準位とp型HILのHOMOエネルギー準位とのエネルギー差は、約1eV以下である。正孔/電子注入または抽出のためのエネルギー障壁が前記正極のn型有機物層によって低くなったため、前記正極のn型有機物層のLUMOエネルギー準位及び前記p型HILのHOMOエネルギー準位を利用して、正孔は、正極からEMLに容易に輸送される。」 (合議体注:図5は以下の図である。) (ウ) 「【0038】 正極 正極は、HIL、HTLまたはEMLのようなp型有機物層内に正孔を注入する。前記正極は、導電層とn型有機物層とを備える。前記導電層は、金属、金属酸化物または導電性ポリマーを含む。前記導電性ポリマーは、導電性ポリマーを含みうる。 【0039】 前記n型有機物層は、p型有機物層に正孔注入のためのエネルギー障壁を低めるため、前記導電層は、多様な導電性物質で形成されうる。例えば、前記導電層は、約3.5ないし5.5eVのフェルミエネルギー準位を有する。例示的な導電性物質の例は、炭素、アルミニウム、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、銀、金、その他の金属及びこれらの合金;酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO:インジウム Tin Oxide)、酸化インジウム亜鉛及びその他のこれと類似した酸化金属;ZnO:Al及びSnO2:Sbのような酸化物と金属との混合物がある。有機発光素子が前面発光型である場合には、前記導電層として透明物質だけでなく、光反射率に優れた不透明物質も使われうる。背面発光型の有機発光素子の場合には、前記導電層として透明物質でなければならず、もし、不透明物質が使われる場合には、透明になるほどと薄膜に形成されねばならない。」 (エ) 「【0040】 n型有機物層が前記導電層とp型有機物層との間に位置し、低電界で正孔をp型有機物層に注入する。n型有機物層は、前記正極のn型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記正極の導電層のフェルミエネルギー準位とのエネルギー差が約2eV以下であり、前記n型有機物層のLUMOエネルギー準位と前記p型有機物層のHOMOエネルギー準位とのエネルギー差が約1eV以下となるように選択される。 【0041】 前記n型有機物層は、例えば、約4ないし7eVのLUMOエネルギー準位及び約10-8cm2/Vsないし約1cm2/Vs、望ましくは、約10-6cm2/Vsないし約10-2cm2/Vsの電子移動度を有する。電子移動度が約10-8cm2/Vs未満であれば、n型有機物層からp型有機物層に正孔を注入し難い。電子移動度が約1cm2/Vsを超えれば、このような物質は、非結晶性ではなく、結晶性である。このような結晶性有機物は、有機発光素子に適用し難い。 【0042】 前記n型有機物層は、真空蒸着または溶液プロセスで形成されうる。前記n型有機物は、これに限定されるものではないが、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素置換の3,4,9,10-ぺリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ置換のPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素置換のNTCDA、シアノ置換のNTCDAまたはヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)を含む。」 (オ) 「【0043】 HILまたはHTL HILまたはHTLは、正極と負極との間に位置するp型有機物層で形成されうる。前記p型HILまたはp型HTLと前記n型有機物層とは、NP接合を形成するので、このNP接合で形成された正孔は、前記p型HILまたはp型HTLを通じてEMLに輸送される。 【0044】 前記p型HILまたはp型HTLのHOMOエネルギー準位は、例えば、前記n型有機物層のLUMOエネルギー準位に対して約1eV以下のエネルギー差、望ましくは、約0.5eVのエネルギー差を有する。前記p型HILまたはp型HTLは、アリールアミン系化合物、導電性ポリマー、または共役部分と非共役部分とが共にあるブロック共重合体を含むが、これに限定されるものではない。」 (カ) 「【0065】 前記HATをガラス表面に蒸着して形成された有機物を利用して、他のUV-VISスペクトルを得、吸収エッジを分析した結果、約3.26eVのバンドギャップを有することが分かった。したがって、HATのLUMOは、約6.54eVの値を有することが分かる。この値は、HAT物質のエキシトン結合エネルギーによって変化されうる。約6.54eVのHOMOエネルギーは、約6.02eVのフェルミ準位より大きい値であるので、LUMO準位がフェルミ準位よりさらに小さな値を有するためには、エキシトン結合エネルギーが約0.52eV以上でなければならない。有機物のエキシトン結合エネルギーは、通常、約0.5eVないし約1eVの値を有するので、前記HATのLUMO準位は、約5.54ないし6.02eVの値を有する。」 (キ) 「【0068】 前記ITO電極上に約100Åの厚さのHATを熱真空蒸着してITO導電層及びHAT n型有機物層を有する正極を形成した。次いで、約1500Åの厚さの4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)及び約500Åの厚さのアルミニウムを順次に真空蒸着して、それぞれp型HTL及び負極を形成して“素子A”を製作した。前記有機物及びアルミニウムの蒸着速度は、それぞれ0.4~0.7Å/sec、及び2Å/secであった。前記蒸着時の真空度は、約2X10-7ないし5X10-8torrであった。」 (ク) 「【0073】 蒸溜水洗浄が終われば、イソプロピルアルコール、アセトン、メタノール溶剤の順序で超音波洗浄して乾燥させた。前記ガラス基板上に約500Åの厚さのAlを真空蒸着し、前記Al導電層上に約100Åの厚さのHAT n型有機物層を熱真空蒸着してAl導電層及びHAT n型有機物層を有する正極を形成した。次いで、約1500Åの厚さの4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)及び約500Åの厚さのアルミニウムを順次に熱真空蒸着して、それぞれp型HTL及び負極を形成した。」 (ケ) 「【0078】 前記ITO上に約500Åの厚さのHATを熱真空蒸着してITO導電層及びHAT n型有機物層を有する透明正極を形成した。HATのHOMOエネルギー準位は、約9.78eVであった。次いで、約400Åの厚さ及び約5.4eVのHOMO準位を有する4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)を真空蒸着して、p型HTLを形成した。前記p型HTL上に約5.7eVのHOMO準位を有するAlq3を約300Åの厚さに真空蒸着して、EMLを形成させた。」 (コ) 「【0088】 次いで、約600Åの厚さ及び約5.46eVのHOMO準位を有する4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)を真空蒸着してp型HTLを形成した。前記p型HTL上に約5.62eVのHOMO準位及び約300Åの厚さのAlq3を真空蒸着して電子輸送及びEMLを形成させた。前記電子輸送及びEML上に約12Åの厚さのLiF薄膜と約2500Åの厚さのAlとを順次に真空蒸着して負極を形成した。」 (サ) 「【0098】 次いで、約400Åの厚さ及び約5.46eVのHOMOエネルギー準位を有する4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)を真空蒸着して、p型HTLを形成した。前記p型HTL上に約5.62eVのHOMO準位及び約500Åの厚さのAlq3を真空蒸着して、電子輸送及びEMLを形成させた。前記電子輸送及びEML上に約12Åの厚さのLiF薄膜と約2500Åの厚さのAlとを順次に真空蒸着して負極を形成した。」 イ 上記記載事項(イ)から、甲第1号証には次の技術事項が示されている。 甲第1号証の図5には、n型有機物層、正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、発光層(EML)、電子輸送層(ETL)のそれぞれのLUMO及びHOMOのエネルギー準位の関係が示されており、正孔注入層のLUMOのエネルギー準位が正孔輸送層のLUMOのエネルギー準位よりも高いことが図示されている。 記載事項(イ)の「図4は、有機発光素子の理想的なエネルギー準位を示す。このエネルギー準位で、正極及び負極からそれぞれ正孔及び電子を注入するためのエネルギー損失が最小化される。図5は、本発明の例示的な一具現例による有機発光素子のエネルギー準位を示す。」との記載に基づけば、甲第1号証には、「正極及び負極からそれぞれ正孔及び電子を注入するためのエネルギー損失を最小化するために、正孔注入層のLUMOのエネルギー準位が正孔輸送層のLUMOのエネルギー準位よりも高いことを含む、n型有機物層、正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、発光層(EML)、電子輸送層(ETL)のそれぞれのLUMO及びHOMOのエネルギー準位の関係を満たすこと」が開示されているといえる。 ウ 以上の記載事項(ア)、(ウ)、(エ)及び上記技術事項に基づけば、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「基板31、基板31上の導電層32a及びn型有機物層32bを備える正極32、正極32上に位置し、正極32から正孔を受けるp型正孔注入層(HIL:Hole Injection Layer)33、HIL 33上に位置し、発光層(EML:Emitting Layer)35に正孔を伝達する正孔輸送層(HTL:Hole Transporting Layer)34、HTL 34上に位置し、正孔及び電子を利用して発光するEML 35、EML 35上に位置し、負極37からの電子をEML 35に輸送する電子輸送層(ETL:Electron Transporting Layer)36及びETL 36上に位置する負極37を備え、n型有機物層32bのLUMOエネルギー準位と導電層32aのフェルミエネルギー準位とのエネルギー差は、約2eV以下であり、正極及び負極からそれぞれ正孔及び電子を注入するためのエネルギー損失を最小化するために、正孔注入層のLUMOのエネルギー準位が正孔輸送層のLUMOのエネルギー準位よりも高いことを含む、n型有機物層、正孔注入層(HIL)、正孔輸送層(HTL)、発光層(EML)、電子輸送層(ETL)のそれぞれのLUMO及びHOMOのエネルギー準位の関係を満たし、導電層は、約3.5ないし5.5eVのフェルミエネルギー準位を有し、n型有機物層が前記導電層とp型有機物層との間に位置し、低電界で正孔を正孔注入層、正孔輸送層、発光層を備えるp型有機物層に注入し、約4ないし7eVのLUMOエネルギー準位を有する有機発光素子。」(以下、「引用発明」という。) (2)甲第2号証 本件取消理由に引用され、本件特許の出願前の平成20年4月24日に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2008-98615号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 ア 「【背景技術】 【0002】 有機材料は、有機薄膜トランジスタ(OTFT)や有機発光ダイオード(OLED)、光起電力ダイオード、液晶ディスプレイなどの電子デバイスに広く使用されている。OLEDディスプレイを構成するOLEDなどの有機光活性電子デバイスは、典型的な場合、アノード、正孔輸送層、エミッタ層、電子輸送層、およびカソードからなる。正孔輸送層は、典型的な場合、アノードからエミッタ層のホストまでの注入を高めるのに使用される単一の材料である。エミッタ層は、通常、ドーパントおよびホストからなる。あるいはエミッタ層は、光を放出するホスト、即ち個別のドーパントを必要としないホストを使用して作製することができる。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 色、寿命、および動作電圧を含めた、OLEDデバイスの特性を改善する材料および構造の必要が依然として存在している。」 ウ 「【0050】 4.第1の正孔輸送層 第1の正孔輸送層に用いられる正孔輸送材料の例は、例えば非特許文献2にまとめられている。正孔輸送小分子とポリマーとの両方を使用することができる。一般に使用される正孔輸送分子には、4,4’,4”-トリス(N,N-ジフェニル-アミノ)-トリフェニルアミン(TDATA);4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニル-アミノ)-トリフェニルアミン(MTDATA);N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(TPD);4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP);1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン(mCP);1,1-ビス[(ジ-4-トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(TAPC);N,N’-ビス(4-メチルフェニル)-N,N’-ビス(4-エチルフェニル)-[1,1’-(3,3’-ジメチル)ビフェニル]-4,4’-ジアミン(ETPD);テトラキス-(3-メチルフェニル)-N,N,N’,N’-2,5-フェニレンジアミン(PDA);α-フェニル-4-N,N-ジフェニルアミノスチレン(TPS);p-(ジエチルアミノ)ベンズアルデヒドジフェニルヒドラゾン(DEH);トリフェニルアミン(TPA);ビス[4-(N,N-ジエチルアミノ)-2-メチルフェニル](4-メチルフェニル)メタン(MPMP);1-フェニル-3-[p-(ジエチルアミノ)スチリル]-5-[p-(ジエチルアミノ)フェニル]ピラゾリン(PPPまたはDEASP);1,2-トランス-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)シクロブタン(DCZB);N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(TTB);N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ビス-(フェニル)ベンジジン(α-NPB);および銅フタロシアニンなどのポルフィリン化合物が含まれるが、これらに限定するものではない。一般に使用される正孔輸送ポリマーには、ポリビニルカルバゾール、(フェニルメチル)ポリシラン、ポリ(ジオキシチオフェン)、ポリアニリン、およびポリピロールが含まれるが、これらに限定するものではない。上述のような正孔輸送分子を、ポリスチレンやポリカーボネートなどのポリマーにドープすることにより、正孔輸送ポリマーを得ることも可能である。」 エ 「【0069】 いくつかの実施形態では、第2の正孔輸送材料が、下記の化合物から選択される。 【0070】 【化5】 」 オ 「【0072】 6.光活性材料 いくつかの実施形態では、光活性材料がエレクトロルミネセンスであり、赤、緑、および青の発光色を有する材料から選択される。エレクトロルミネセンス材料には、小分子有機蛍光化合物、蛍光および燐光金属錯体、複合ポリマー、およびこれらの混合物が含まれる。蛍光化合物の例には、ピレン、ペリレン、ルブレン、クマリン、これらの誘導体、およびこれらの混合物が含まれるが、これらに限定するものではない。金属錯体の例には、トリス(8-ヒドロキシキノラート)アルミニウム(Alq3)などの金属キレートオキシノイド化合物;Petrov他の特許文献8と、特許文献9および10に開示されているような、フェニルピリジン、フェニルキノリン、またはフェニルピリミジン配位子を有するイリジウムの錯体や、例えば特許文献11、12、および13に記載されているような有機金属錯体、およびこれらの混合物などの、シクロメタル化イリジウムおよび白金エレクトロルミネセンス化合物が含まれるが、これらに限定するものではない。電荷担持ホスト材料および金属錯体を含むエレクトロルミネセンス放出層が、Thompson他による特許文献14と、BurrowsおよびThompsonによる特許文献15および16に記載されている。複合ポリマーの例には、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリフルオレン、ポリ(スピロビフルオレン)、ポリチオフェン、ポリ(p-フェニレン)、これらのコポリマー、およびこれらの混合物が含まれるが、これらに限定するものではない。 【0073】 いくつかの実施形態では、EL材料が、ホスト材料と共に存在する。いくつかの実施形態では、ホストが電荷担持材料である。EL/ホスト系では、EL材料を、小分子またはポリマーにすることができ、ホストは独立に、小分子またはポリマーにすることができる。 【0074】 いくつかの実施形態では、EL材料が、イリジウムのシクロメタル化錯体である。いくつかの実施形態では、錯体は、フェニルピリジン、フェニルキノリン、およびフェニルイソキノリンから選択された2つの配位子を有し、第3の配位子は、β-ジエノレートである。配位子は、置換されていなくてもよく、あるいは、F、D、アルキル、CN、またはアリール基で置換されていてもよい。」 カ 「【0101】 いくつかの実施形態では、種々の層が下記の範囲の厚さ(単位:Å)を有する:アノード、500~5000Å、いくつかの実施形態では1000~2000Å;第1の正孔輸送層、50~2000Å、いくつかの実施形態では100~1000Å;第2の正孔輸送層、10~2000Å、いくつかの実施形態では50~200Å;光活性層、10~2000Å、いくつかの実施形態では100~1000Å;任意選択の電子輸送層、50~2000Å、いくつかの実施形態では100~1000Å;カソード、200~10000Å、いくつか実施形態では300~5000Å。デバイスにおける電子-正孔再結合ゾーンの位置、したがってデバイスの発光スペクトルは、各層の相対的な厚さに影響される可能性がある。したがって電子輸送層の厚さは、電子-正孔再結合ゾーンが発光層内にあるように選択すべきである。層の厚さの望ましい比は、使用される材料の性質そのものに左右されることになる。」 (3)甲第3号証 本件取消理由に引用され、本件特許の出願前の平成21年9月3日に頒布された刊行物である甲第3号証(特開2009-200493号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、有機発光素子に関する。 (中略) 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 かかる有機発光素子は、多様な長所を有するにもかかわらず、製品に適用し難い。その最も大きな理由は、適正な信頼性を示す寿命特性が得られないという問題である。 【0005】 そこで本発明は、寿命特性を向上させた有機発光素子を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明は、基板と、前記基板上に形成された第1電極及び第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に形成された発光層と、前記発光層と前記第1電極との間に形成された有機層と、前記発光層と前記有機層との間に形成され、前記有機層より低いLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital、最低非占有分子軌道)レベルを有する電子阻止層とを備える有機発光素子を提供する。 【0007】 また本発明は、基板と、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に形成された発光層と、前記第1電極と前記発光層との間に形成された複数の有機層と、前記複数の有機層間に形成された電子阻止層とを備える有機発光素子を提供する。 【発明の効果】 【0008】 本発明による有機発光素子は、発光層と第1電極との間に有機層を具備し、前記発光層と有機層との間に電子阻止層を具備する。従って、発光層を通過した過剰電子が有機層に移動することを防止し、有機発光素子の寿命特性を向上させることができる。 (中略) 【発明を実施するための形態】 【0010】 以下、図面を参照しつつ、本発明についてさらに詳細に説明する。 【0011】 図1は、本発明による有機発光素子の一実施形態の構造を、概略的に図示した断面図である。本実施形態では、基板、前記基板上に形成される第1電極及び第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に形成される発光層とを有し、発光層と第1電極との間に配置された2つの有機層間に電子阻止層が挿入された構造である。具体的には、前記2つの有機層は、第1有機層(正孔注入層)および第2有機層(正孔輸送層)である。 (中略) 【0018】 前記第1有機層(正孔注入層)の上部に、電子阻止層が配置される。電子阻止層は、前記第1有機層より低い最低非占有分子軌道(LUMO)のレベルを有する。従って、発光層を通過した過剰電子のトラップとして作用する。さらに具体的には、前記電子阻止層は、発光層を通過した過剰電子が第1有機層に移動することを最大限に防止し、寿命低下を抑制できる。」 合議体注:図1は以下のとおりである。 イ 「【0042】 場合によって、前記発光層は、発光層ホストに発光ドーパントをさらに付加して調製されうる。蛍光発光型ホストの材料としては、例えば、トリス(8-ヒドロキシ-キノリナート)アルミニウム(Alq3)、9,10-ジ(ナフト-2-イル)アントラセン(AND)、3-tert-ブチル-9,10-ジ(ナフト-2-イル)アントラセン(TBADN)、4,4’-ビス(2,2-ジフェニル-エテン-1-イル)-4,4’-ジメチルフェニル(DPVBi)、4,4’-ビス(2,2-ジフェニル-エテン-1-イル)-4,4’-ジメチルフェニル(p-DMDPVBi)、tert(9,9-ジアリールフルオレン)s(TDAF)、2-(9,9’-スピロビフルオレン-2-イル)-9,9’-スピロビフルオレン(BSDF)、2,7-ビス(9,9’-スピロビフルオレン-2-イル)-9,9’-スピロビフルオレン(TSDF)、ビス(9,9-ジアリールフルオレン)s(BDAF)、4,4’-ビス(2,2-ジフェニル-エテン-1-イル)-4,4’-ジ-(tert-ブチル)フェニル(p-TDPVBi)などが挙げられる。リン光型ホストの材料としては、例えば、1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン(mCP)、1,3,5-トリス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン(tCP)、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TcTa)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、4,4’-ビス(9-カルバゾリル)-2,2’-ジメチル-ビフェニル(CBDP)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)-9,9-ジメチル-フルオレン(DMFL-CBP)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)-9,9-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール)フルオレン(FL-4CBP)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)-9,9-ジ-トリル-フルオレン(DPFL-CBP)、9,9-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール)フルオレン(FL-2CBP)などが用いられうる。 【0043】 前記ドーパントとしては、例えば、PQIr、PQIr(acac)、PQ2Ir(acac)、PIQIr(acac)(PQ:2-フェニルキノリン、acac:アセチルアセトネート)など、公知の材料が用いられうる。ドーパントの含有量は、発光層形成材料によって可変的であるが、一般的に、発光層の形成材料(ホストとドーパントとの総質量)100質量部を基準として、30ないし80質量部であることが好ましい。ドーパントの含有量が前記範囲を外れると、有機発光素子の発光特性が低下する場合がある。」 ウ 「【0051】 以上で述べたように、発光層と有機層との間、より好ましくは、第1電極と発光層との間に形成される第1有機層(正孔注入層)と第2有機層(正孔輸送層)との間に電子阻止層を具備する有機発光素子の構造によれば、前記電子阻止層が前記第1有機層(正孔注入層)より低いLUMOレベルを有することによって、電子をトラップする役割を行える。従って、発光層を通過した過剰電流が第1有機層(正孔注入層)に移動することを防止し、寿命特性を改善できる。」 エ 「【0055】 図2を参照すれば、第1電極と発光層との間に、正孔輸送層を複数層で形成する。すなわち、第1電極上に第1有機層(第1正孔輸送層)を形成し、第1有機層(第1正孔輸送層)上に第2有機層(第2正孔輸送層)をさらに形成する。そして、前記第1有機層(第1正孔輸送層)と前記第2有機層(第2正孔輸送層)との間に、電子阻止層を配置する。 【0056】 前記電子阻止層は、前記第1有機層(第1正孔輸送層)より低いLUMOレベルを有することによって、発光層を通過した過剰電流が第1正孔輸送層に移動することを防止できる。」 オ 「【0071】 前記ガラス基板の上部に、はじめに正孔注入層として、m-MTDATAを真空蒸着し、500Å厚に形成した。正孔注入層のLUMOレベルは、約-2.1eVであった。次に、電子阻止層としてC60を真空蒸着し、50Å厚さに形成した。電子阻止層のLUMOレベルは、およそ-4.4eVであった。次に、正孔輸送層として、α-NPDを真空蒸着して200Å厚に形成した。正孔輸層層のLUMOレベルは、およそ-2.4eVであった。次に、発光層として、リン光ホストであるCBPと、ドーパントであるPQ2Ir(acac)とを400Å厚に形成した。そして電子輸送層として、Alq3を300Å厚に蒸着した後、前記電子輸送層の上部に電子注入層として、LiFを5Å厚に蒸着した。その後、第2電極としてカソード電極を、Alを使用して1,000Å厚に真空蒸着することによって、有機発光素子を作製した。」 (4)甲第4号証 本件取消理由に引用され、本件特許の出願前の平成24年1月26日に頒布された刊行物である甲第4号証(特表2012-502485号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 ア 「【0026】 第1有機発光層が4nmから6nmの厚みを有し、阻止層が12-18nmの厚みを有し、正孔輸送層が12-18nmの厚みを有することが好ましい。他の好ましい範囲は、第1有機発光層が4nmから10nmの厚みを有し、阻止層が12-37nmの厚みを有し、正孔輸送層が12-37nmの厚みを有するものである。」 イ 「【0031】 図1は有機発光装置100を示す。図は必然的に原寸どおりに描かれていない。装置100は、基板110、アノード115、正孔注入層120、正孔輸送層125、電子阻止層130、発光層135、正孔阻止層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155、及びカソード160を含んでよい。カソード160は第1の導電層162及び第2の導電層164を有する複合カソードである。装置100は記載された層を順次堆積することによって作製されてよい。これらの様々な層の性質及び機能、並びに材料の例は、参照によって組み込まれる米国特許第7,279,704号明細書カラム6-10においてより詳細に記述される。 (中略) 【0037】 本発明の実施形態により作製された装置は、フラットパネルディスプレイ、コンピュータモニター、テレビ、看板、内部又は外部照明及び/又は信号のライト、ヘッドアップディスプレイ、完全に透明なディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、レーザプリンター、電話、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、カムコーダ、ビューファインダ、マイクロディスプレイ、車両、大面積壁、劇場又はスタジアムスクリーン、又は標識を含む幅広い消費者製品に組み込まれてよい。パッシブマトリックス及びアクティブマトリックスを含む様々な制御機構が本発明により作製された装置を制御するのに使用されてよい。多くの装置が人間に快適である温度範囲、18℃から30℃等、及びより好ましくは室温(20~25℃)、における使用を意図される。」 ウ 「【0054】 好ましくは、第1有機発光層362は、400nm-500nmの間の波長で可視スペクトル内にピーク発光波長を有し、かつ第1有機発光層内で15-35wt%の濃度を有する第1燐光材料、及び第1燐光材料の三重項エネルギーと比較して少なくとも0.2eV、かつ1.0eVを超えない程度に大きい三重項エネルギーを有する第1ホスト材料を含む。第1ホストの三重項エネルギーが低いことによって、第1燐光材料から第1ホスト材料への望ましくない三重項の移動が起こり得る。ホストの三重項エネルギーが高いと、望ましくない低い導電性を有する層をもたらし得る。第1燐光発光材料の濃度は、多くの装置と比較して比較的高い。しかしながら、この特別な装置の構造において、第1燐光発光材料の濃度が高ければ、装置内での電荷移動機構に影響することによって、装置の性能に好ましく寄与する。ドーパント濃度が高いことによって、層内の正孔輸送が可能になり、再結合領域を広げ得る。燐光ドーパント濃度が高いことによって、ドーパント分子の性能が発光効率の障害にならないことをも確実にする。35%を超える濃度において、濃度消光が問題になり得る。15%未満の濃度において、この特別の構造では、望ましくないことに層362において正孔輸送が抑制され得る。」 エ 「【0058】 第2有機発光層。この濃度は、第2燐光材料が高い正孔伝導率で第2有機発光層を横切って第1有機発光層に正孔を輸送することを可能にする。低い濃度では、そのような輸送は起こらない場合があり、又は起こる場合があるが、正孔伝導率は低い。高い濃度において、電荷バランスが影響を受ける場合があり、また装置効率が低減される。すなわち、濃度が高いことによって、層の正孔輸送能が、正孔が発光層を漏れ出る点まで増加させ得る。化合物Bが、第2燐光材料として用いられて良い材料の好ましい例である。他に使用されてよい材料として、下記表3に列記される、必要とされるピーク発光波長を有する材料が挙げられる 本発明が作用するかについては、どのような理論にも拘束されることなく、100lm/wattを超える装置を含む、非常に優れた出力効率の理由の一つが、双方の層が高い正孔伝導性を有する、二重有機発光層360の使用にあると考えられる。第1有機発光層362内の高い正孔伝導性は、第1燐光材料に対して濃度15-35wt%を用いることによって実行される。正孔伝導性が高いことによって、第1有機発光層362と第2有機発光層361との間の界面から正孔が容易に移動され、再結合領域を拡大し、特に界面近傍での、高濃度の再結合領域に関する問題を低減する。第2有機発光層361内の高い正孔伝導率は、第2燐光材料に対して15-35wt%の濃度を用いることによって実現される。二重発光層360のアノード側にある第2有機発光層361内の正孔伝導は、正孔がアノードから第1有機発光層362と第2有機発光層361との間の界面近傍の再結合領域に達することを可能にする。燐光有機発光装置の発光層内で使用されるホスト・ドーパント結合における正孔輸送は、一般的にドーパント分子上で起こる。上述の濃度において、優れた正孔伝導性が幅広い燐光ドーパント及びそのようなドーパントに対するホストに関する結果であることが期待される。以下の表3は、そのようなホスト及びドーパントの多くの例を提供する。また、そのような高濃度のドーパントを使用することなく、15wt%未満のドーパント濃度において高い正孔伝導率を有するホストとドーパントとの特別な組み合わせを選択することによって、高い正孔伝導性、及びそれに対応する優れた結果を実現することも可能だろう。 【0059】 第3燐光材料は、第2有機発光層内で0.1-3wt%の濃度を有する。第3燐光材料は、そもそも赤色光を発光するために存在し、装置の所定のCIE及びCRIに寄与する。低濃度においては、赤色光を十分に放出しない場合がある。第3燐光材料の発光が赤色光の発光であること、及び/又は3wt%を超える濃度における濃度消光のためである。化合物Cは、第3燐光材料として使用され得る材料の好ましい例である。使用され得る他の材料として、必要とされるピーク発光波長を有する、以下の表3に列記される材料が挙げられる。」 オ 「【0063】 図3に記載される構造において、阻止層350が12-18nmの厚みを持ち、正孔輸送層340が12-18nmの厚みを持つことが好ましい。他の好ましい厚みは、阻止層350が12-37nmの厚みを持ち、正孔輸送層340が12-37nmの厚みを持つことである。これらの厚みは、各層が意図される機能を果たすことを可能にする程度に十分大きいが、装置を横切る電圧降下に不必要に影響する程には厚くない。さらに、図3に説明される層のみを含む構造に関して、注入層が一般的に非常に薄いので、正孔輸送層340と阻止層350との全厚みは、アノード320と二重発光層360との間の距離の殆どに関与する。記載された厚みの範囲は光学キャビティ効果を上手く利用するのに有効である。」 カ 「【0078】 化合物は本発明において使用するために以下のように名前が付けられる。 (中略) 【0080】 【化3】 【0081】 【化4】 【0082】 【化5】 【0083】 【化6】 」 キ 「【0101】 本明細書に記載される材料に加えて、及び/又は組み合わせて、多くの正孔注入層、正孔輸送材料、ホスト材料、ドーパント材料、エキシトン/正孔阻止層材料、電子輸送及び電子注入材料が、OLEDに使用されてよい。本明細書に開示される材料と組み合わせてOLED内で使用されてよい材料の非制限的な例は、下記表3に列記される。表3は材料の非制限的分類を記述する。 【0102】 【表3a】 【0103】 【表3b】 【0104】 【表3c】 【0105】 【表3d】 【0106】 【表3e】 【0107】 【表3f】 【0108】 【表3g】 【0109】 【表3h】 【0110】 【表3i】 【0111】 【表3j】 【0112】 【表3k】 【0113】 【表3l】 【0114】 【表3m】 」 (5)甲第5号証 本件取消理由に引用され、本件特許の出願前の平成21年5月7日に頒布された刊行物である甲第5号証(特開2009-99967号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 ア 「【0005】 そのエレクトロルミネッセンスを利用した発光素子は、発光性の物質が有機化合物であるか、無機化合物であるかによって大別できるが、本発明は、発光性の物質に有機化合物を用いるものである。その場合、発光素子に電圧を印加することにより、一対の電極から電子および正孔がそれぞれ発光性の有機化合物を含む層に注入され、電流が流れる。そして、それらキャリア(電子および正孔)が再結合することにより、発光性の有機化合物が励起状態を形成し、その励起状態が基底状態に戻る際に発光する。」 イ 「【0052】 第1の正孔輸送層である第2の層112、および第2の正孔輸送層第3の層113は、正孔輸送性の高い物質を含む層である。正孔輸送性の高い物質としては、例えば低分子の有機化合物であるNPB(またはα-NPD)、TPD、4,4’-ビス[N-(9,9-ジメチルフルオレン-2-イル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DFLDPBi)、4,4’-ビス[N-(スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-イル)-N―フェニルアミノ]-1,1’-ビフェニル(略称:BSPB)などの芳香族アミン化合物、4,4’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、2,7-ジ(N-カルバゾリル)-スピロ-9,9’-ビフルオレン(略称:SFDCz)、4,4’,4’’-トリス[N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ]トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、N-[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N-フェニル-スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-アミン(略称:YGASF)、N,N’-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル-N,N’-ジフェニルビフェニル-4,4’-ジアミン(略称:YGABP)、1,3,5-トリ(N-カルバゾリル)ベンゼン(略称:TCzB)、4,4’,4’’-トリス(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(略称:TCTA)、4,4’-ビス(N-{4-[N’-(3-メチルフェニル)-N’-フェニルアミノ]フェニル}-N-フェニルアミノ)ビフェニル(略称:DNTPD)や、高分子化合物であるPVK、PVTPA、PTPDMA、Poly-TPDを用いることができる。」 ウ 「【0180】 なお、本実施の形態で示した発光装置(アクティブマトリクス型、パッシブマトリクス型)は、いずれも本発明の発光効率の高い発光素子を用いて形成されることから、消費電力が低減された発光装置を得ることができる。」 エ 「【0184】 図11(B)は本発明に係るコンピュータであり、本体9201、筐体9202、表示部9203、キーボード9204、外部接続ポート9205、ポインティングデバイス9206等を含む。このコンピュータにおいて、表示部9203には、本発明の発光装置を適用することができる。本発明の発光装置は、高い発光効率が得られるという特徴を有していることから、本発明の発光装置を適用することで消費電力の低減されたコンピュータを得ることができる。」 オ 「【0188】 また、本発明の発光装置は、照明装置として用いることもできる。図12は、本発明の発光装置をバックライトとして用いた液晶表示装置の一例である。図12に示した液晶表示装置は、筐体1201、液晶層1202、バックライト1203、筐体1204を有し、液晶層1202は、ドライバIC1205と接続されている。また、バックライト1203は、本発明の発光装置が用いられおり、端子1206により、電流が供給されている。」 カ 「【0199】 次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第1の層1511上にN-[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N-フェニル-スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-アミン(略称:YGASF)を10nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層である第2の層1512を形成した。 【0200】 次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第2の層1512上に、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)を20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層である第3の層1513を形成した。」 キ 「【0236】 次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第1の層1611上にN-[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]-N-フェニル-スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-アミン(略称:YGASF)を10nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層である第2の層1612を形成した。」 ク 「【0277】 次に、抵抗加熱を用いた蒸着法により、第2の層1612上に、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)を20nmの膜厚となるように成膜し、正孔輸送層である第3の層1613を形成した。」 (6)甲第6号証 本件取消理由に引用され、本件特許の出願前の2011年12月8日に頒布された刊行物である甲第6号証(米国特許出願公開第2011/0297925号明細書)には、以下の事項が記載されている。 ア 「[0055] In general, all further materials as employed in accordance with the prior art in organic electroluminescent devices can also be employed in combination with the compounds of the formulae (1) to (6). The emitting layer here may comprise fluorescent and/or phosphorescent dopants, preferably in each case in combination with a matrix material (host material).」 下線部の翻訳文 「ここで、発光層は蛍光及び/又は燐光ドーパントを、好ましくは各々の場合にマトリックス材料(ホスト材料)と組み合わせて含んでいてもよい。」 イ 「[0060] Suitable phosphorescent compounds are, in particular, compounds which emit light, preferably in the visible region, on suitable excitation and in addition contain at least one atom having an atomic number of greater than 20, preferably greater than 38 and less than 84, particularly preferably greater than 56 and less than 80. The phosphorescent emitters used are preferably compounds which contain copper, molybdenum, tungsten, rhenium, ruthenium, osmium, rhodium, iridium, palladium, platinum, silver, gold or europium, in particular compounds which contain iridium or platinum. For the purposes of the present application, all luminescent metal complexes which contain the above-mentioned metal are referred to as phosphorescent compounds.」 下線部の翻訳文 「用いる燐光発光体は好ましくは・・・イリジウム化合物・・・である。」 ウ 「[0065] Suitable hole-transport or hole-injection materials are furthermore, for example, the materials indicated in the following table.」 翻訳文 「好適な正孔輸送材料または正孔注入材料はさらに、たとえば、以下の表に示した材料である。」 (合議体注:段落[0065]の上記記載に続く表中には、以下の構造式が含まれている。) エ 「[0083] In Examples 3 to 8 below, the results for various OLEDs are presented. Glass plates coated with structured ITO (indium-tin oxide) form the substrates of the OLEDs. For improved processing, 20 nm of PEDOT (spin-coated from water; purchased from H. C. Starck, Goslar, Germany; poly-(3,4-ethylenedioxy-2,5-thiophene)) are applied to the substrate. The OLEDs consist of the following layer sequence: substrate/PEDOT 20 nm/hole-injection layer (HIL) 5 nm/hole-transport layer (HTL-1) 20 nm/hole-transport layer (HTL-2) 20 nm/emission layer (EML) 30 nm/electron-transport layer (ETL) 20 nm and finally a cathode.」 下線部の翻訳文 「OLEDは以下の層の順序からなる:基板/PEDOT 20nm/正孔注入層(HIL)5nm/正孔輸送層(HTL-1)20nm/正孔輸送層(HTL-2)20nm/発光層(EML)30nm/電子輸送層(ETL)20nmおよび最後にカソード。」 (7)甲第7号証 本件取消理由に引用され、本件特許の出願前の2009年に頒布された刊行物である甲第7号証(Yong-Ki Kim 外2名, Energy level alignment at a charge generation interface between 4,4'-bis(N-phenyl-1-naphthylamino)biphenyl and 1,4,5,8,9,11-hexaazatriphenylene-hexacarbonitrile, APPLIED PHYSICS LETTERS, vol.94, pp.063305-1~063305-3, 2009)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。 ア 「In summary, we studied the molecular energy level alignment between HAT-CN and NPB using UPS. While the work function of a 20 nm thick HAT-CN film deposited on Au is about 6.1 eV, it remained a good conducting molecular layer. Our data also clearly indicate that the LUMO of HAT-CN is very close to the Fermi level and the HOMO of NPB is located only about 0.3 eV below Fermi level at this molecular interface. This arrangement allows the electrons from the NPB HOMO to be easily excited to the HAT-CN LUMO, forming a charge carrier generation interface. A detailed energy level alignment diagram at the interface was constructed.」(第063305-3頁左欄第13行~同頁右欄第8行) 翻訳文 「まとめると、HAT-CNとNPBとの間での分子エネルギーレベルアライメントを、UPSを使用して検討した。Auに蒸着された20nm厚のHAT-CN薄膜の仕事関数が約6.1eVであるが、HAT-CN薄膜は、良好な導電性分子層のままであった。筆者らのデータはまた、HAT-CNのLUMOがフェルミ準位に非常に近く、NPBのHOMOがこの分子界面でのフェルミ準位よりもほんの約0.3eV低く位置することを明瞭に示している。このアライメントにより、NPBのHOMOからの電子がHAT-CNのLUMOに容易に励起され、電荷キャリア生成界面を形成することが可能となる。この界面での詳細なエネルギーレベルアライメントダイアグラムが構築された。」 5 本件取消理由に対する判断 (1)本件特許発明1 ア 対比 本件特許発明1と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「有機発光素子」が有する「導電層32a」、「正孔輸送層34」、「発光層35」、「負極37」は、その有機発光素子における配置及び機能に基づけば、それぞれ、本件特許発明1の「有機電界発光素子」が有する「陽極」、「第2正孔輸送層」、「発光層」、「陰極」に相当するといえる。 (イ)引用発明の「n型有機物層32b」は、導電層とp型正孔輸送層との間に位置し、「低電界で正孔をp型有機物層に注入」する機能を有することから、本件特許発明1の「正孔注入層」に相当する。 (ウ)引用発明の「p型正孔注入層33」は、技術的にみて、n型有機物層との界面から正孔輸送層へ正孔を輸送するものといえるから、本件特許発明1の「正孔注入層に直接接合している第1正孔輸送層」に相当する。 (エ)引用発明は、「有機発光素子」であって、「導電層32a」、「n型有機物層32b」、「p型正孔注入層33」、「正孔輸送層34」、「発光層35」、「負極37」が、この順に配置されることから、本件特許発明1の「陽極と、正孔注入層と、該正孔注入層に直接接合している第1正孔輸送層と、第2正孔輸送層と、発光層と、陰極と、をこの順に有する有機電界発光素子」とする要件を満たしている。 (オ)上記(ア)~(エ)に基づけば、本件特許発明1と引用発明とは、 「陽極と、正孔注入層と、該正孔注入層に直接接合している第1正孔輸送層と、第2正孔輸送層と、発光層と、陰極と、をこの順に有する有機電界発光素子。」である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1]本件特許発明1の正孔注入層が、「最低空軌道(LUMO)のエネルギーが-4.0eVよりも小さい材料を含」むのに対し、引用発明のn型有機物層32bが、約4ないし7eVのLUMOエネルギー準位を有するとされる点。 [相違点2]本件特許発明1では、「該第1正孔輸送層に含まれる材料のLUMOのエネルギーE1(LUMO)と、該第2正孔輸送層に含まれる材料のLUMOのエネルギーE2(LUMO)とが、E1(LUMO)>E2(LUMO)+0.5eVを満たす」のに対し、引用発明では、p型正孔注入層33のLUMOのエネルギー準位が正孔輸送層34のLUMOのエネルギー準位よりも高いとされるものの、正孔輸送層34のLUMOのエネルギー準位+0.5eVよりも高いとは特定されていない点。 イ 判断 事案に鑑みて、[相違点2]について検討する。 本件特許の明細書の段落【0112】~【0127】に記載された各実施例のうち、実施例3は、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。これに対し、実施例8は、上記[相違点2]に係る構成を除く本件特許発明1の構成を具備するものである。そして、両者は、上記[相違点2]に係る構成を除いて、全く同じ構成を具備するものである(段落【0123】表3)。そうしてみると、上記[相違点2]に係る本件特許発明1の構成によってもたらされる効果の違いは、実施例3と実施例8との効果の比較により理解できると考えられるところ、実施例3の初期耐久性を示すLT90の値は1200時間であるのに対し、実施例8の初期耐久性を示すLT90の値は350時間にとどまる(段落【0126】表4)。このような初期耐久性の違いは、甲第1号証~甲第7号証の記載からは予測することができない効果である。 また、甲第3号証の記載事項ウ及び記載事項エには、過剰電流が正孔輸送層に移動することを防止することで、有機発光素子の寿命特性を改善できることが記載されている。しかしながら、そのために採用された甲第3号証に記載の課題解決手段は、過剰電子をトラップする電子阻止層を設ける(記載事項ア)というものであるから、本件特許発明1のものとは異なる。 そうしてみると、仮に、引用発明に甲第3号証に記載された技術事項を適用したとしても、本件特許発明1の上記[相違点2]に係る構成とはならない。 ウ むすび 以上のとおり、本件特許発明1は、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第7号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。 (2)本件特許発明2、4~13 本件特許発明2、4~13は、いずれも、前記[相違点2]に係る、本件特許発明1の「該第1正孔輸送層に含まれる材料のLUMOのエネルギーE1(LUMO)と、該第2正孔輸送層に含まれる材料のLUMOのエネルギーE2(LUMO)とが、E1(LUMO)>E2(LUMO)+0.5eVを満たす」とする要件を具備するものである。そうすると、本件特許発明2,4~13は、本件特許発明1と同じ理由により、当業者が甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第7号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるということができない。 5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に対する判断 特許異議申立人安岡重典は、本件特許発明が発明の効果を奏するにあたり、特許請求の範囲の記載により特定される要件以外に必要不可欠な要件があるとし、本件特許の明細書の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲にはその要件について記載がないから、本件特許発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しているとは言えず、発明が明確に記載されていないと主張している。 しかしながら、特許請求の範囲の記載により特定される要件以外に必要不可欠な要件があるとする事情を見いだすことはできず、この点において特許請求の範囲の記載が不明確とはいえず、発明の詳細な説明が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえない。 よって、上記特許異議申立人の主張には理由がない。 6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載された取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4~13に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、2、4~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項3に対して特許異議申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2017-700530

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