特許異議申立
2017-700083
ポリアミド樹脂組成物及び成形品
- 審判番号
- 2017-700083
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-269155
- 登録番号
- 特許第5959190号(P5959190)
- 請求日
- 2017年02月01日
- 審決日
- 2017年08月23日
- 公報発行日
- 2017年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭化成株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【権利者代理人】秋山 祐子
- 【権利者代理人】大貫 敏史
- 【権利者代理人】江口 昭彦
- 【異議申立人】東レ 株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 小柳 健悟
- 審判官 原田 隆興
- 審判官 藤原 浩子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L) / P1651.851-YAA(C08L) / P1651.853-YAA(C08L) / P1651.857-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第4項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5959190号発明「ポリアミド樹脂組成物及び成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5959190号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲及び明細書のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第5959190号の請求項2ないし9に係る特許を維持する。
特許第5959190号の請求項1に係る特許についての申立を却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5959190号の請求項1ないし9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成23年12月8日の出願であって、平成28年7月1日に特許権の設定登録がなされ、その特許に対して、平成29年2月1日(受理日、同年2月2日)に特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「申立人」という。)から特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、当審において同年4月10日付けで取消理由が通知され、同年6月12日に訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。「本件訂正請求書」による訂正を「本件訂正」という。)及び意見書が提出され、同年6月20日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がなされ、同年7月19日(受理日、同年7月20日)に申立人から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1.本件訂正の内容
本件訂正における請求の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし9について訂正することを求める、というものである。
(1)訂正事項1
請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
請求項1の記載を引用する請求項2の記載を、請求項1の記載を引用しない、独立形式に改める。
すなわち、訂正前の請求項2において、「前記式(1)で示される(Y)の範囲が0.05≦(Y)≦0.8である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。」と記載されているのを、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):銅化合物0.005~0.6質量部と、
を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6~30の高級脂肪酸と炭素数6~30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。」に訂正する(下線は、当審による。以下同様。)
(3)訂正事項3
請求項3の引用先を、請求項2に訂正する。
すなわち、訂正前の請求項3において「請求項1又は2に記載の」と記載されているのを、
「請求項2に記載の」に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項4の引用先を、請求項2又は3に訂正する。
すなわち、訂正前の請求項4において「請求項1~3のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、
「請求項2又は3に記載の」に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項7の引用先を、請求項2~6のいずれか一項に訂正する。
すなわち、訂正前の請求項7において「請求項1~6のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、
「請求項2~6のいずれか一項に記載の」に訂正する。
(6)訂正事項6
請求項8の引用先を、請求項2~7のいずれか一項に訂正する。
すなわち、訂正前の請求項8において「請求項1~7のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、
「請求項2~7のいずれか一項に記載の」に訂正する。
(7)訂正事項7
請求項9の引用先を、請求項2~8のいずれか一項に訂正する。
すなわち、訂正前の請求項9において「請求項1~8のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、
「請求項2~8のいずれか一項に記載の」に訂正する。
(8)訂正事項8
本件特許明細書の【0013】の記載を、特許請求の範囲の訂正内容に合わせて訂正する。
すなわち、訂正前の【0013】の「〔1〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、-0.3≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):銅化合物0.005~0.6質量部と、
を含有するポリアミド樹脂組成物。
〔2〕
前記式(1)で示される(Y)の範囲が0.05≦(Y)≦0.8である前記〔1〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔3〕
前記(B)銅化合物が、酢酸銅及びヨウ化銅からなる群より選ばれる少なくとも一種である、前記〔1〕又は〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔4〕
アルカリ金属のハロゲン化合物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の(C)金属ハロゲン化合物をさらに含有する、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔5〕
前記(C)金属ハロゲン化合物が、ヨウ化カリウムである、前記〔4〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔6〕
ハロゲンの含有量と銅の含有量とのモル比(ハロゲン/銅)が、2/1~50/1である、前記〔4〕又は〔5〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔7〕
銅の含有量が、前記(A)ポリアミド100質量部に対して、0.005~0.2質量部である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔8〕
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、(D)無機充填材1~200質量部をさらに含有する、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔9〕
前記〔1〕~〔8〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。」という記載を、
「〔1〕 (削除)
〔2〕
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):銅化合物0.005~0.6質量部と、
を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6~30の高級脂肪酸と炭素数6~30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。
〔3〕
前記(B)銅化合物が、酢酸銅及びヨウ化銅からなる群より選ばれる少なくとも一種である、前記〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔4〕
アルカリ金属のハロゲン化合物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の(C)金属ハロゲン化合物をさらに含有する、前記〔2〕又は〔3〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔5〕
前記(C)金属ハロゲン化合物が、ヨウ化カリウムである、前記〔4〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔6〕
ハロゲンの含有量と銅の含有量とのモル比(ハロゲン/銅)が、2/1~50/1である、前記〔4〕又は〔5〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔7〕
銅の含有量が、前記(A)ポリアミド100質量部に対して、0.005~0.2質量部である、前記〔2〕~〔6〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔8〕
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、(D)無機充填材1~200質量部をさらに含有する、前記〔2〕~〔7〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔9〕
前記〔2〕~〔8〕のいずれか一に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。」に訂正する。
2.訂正要件の適合についての検討
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、訂正事項1は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項1の記載を引用する請求項2の記載を、請求項1の記載を引用しない、独立形式に改めるものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、請求項1の記載を引用する請求項2の記載を、請求項1の記載を引用しない、独立形式に改めるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、請求項1の記載を引用する請求項2の記載を、請求項1の記載を引用しない、独立形式に改めるものであるから、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3ないし7について
ア 訂正の目的について
訂正事項3ないし7は、訂正前の請求項3、4、7、8、9、並びに、請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5及び6について、請求項1を直接的にも間接的にも引用しないものと訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3ないし7は、訂正前の請求項3、4、7、8、9、並びに、請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5及び6について、請求項1を直接的にも間接的にも引用しないものと訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3ないし7は、訂正前の請求項3、4、7、8、9、並びに、請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5及び6について、請求項1を直接的にも間接的にも引用しないものと訂正するものであるから、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、訂正事項3ないし7は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(4)訂正事項8について
ア 訂正の目的について
訂正事項8は、上記訂正事項1ないし7に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項8は、上記訂正事項1ないし7に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であり、訂正事項1ないし7は、それぞれ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないものであるから、訂正事項8も特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8は、上記訂正事項1ないし7に係る訂正に伴い訂正される特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であって、訂正事項1ないし7は、それぞれ、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
エ 願書に添付した明細書に訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項8は、特許請求の範囲に記載した全ての請求項に関係しており、本件訂正では、実質的に全ての請求項について訂正を請求している。
したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものである。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項2ないし9は、訂正前の請求項1の記載を直接又は間接的に引用しており、訂正事項1によって削除される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし9に対応する訂正後の請求項1ないし9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(6)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項ないし第6項に適合するものであるから、本件訂正を認める。
第3 本件特許発明
特許第5959190号の請求項1ないし9に係る発明(それぞれ、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】
(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、からなるポリアミド、または、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミドであり、
当該ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))
(B):銅化合物0.005~0.6質量部と、
を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6~30の高級脂肪酸と炭素数6~30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。
【請求項3】
前記(B)銅化合物が、酢酸銅及びヨウ化銅からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
アルカリ金属のハロゲン化合物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の(C)金属ハロゲン化合物をさらに含有する、請求項2又は3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)金属ハロゲン化合物が、ヨウ化カリウムである、請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
ハロゲンの含有量と銅の含有量とのモル比(ハロゲン/銅)が、2/1~50/1である、請求項4又は5に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
銅の含有量が、前記(A)ポリアミド100質量部に対して、0.005~0.2質量部である、請求項2~6のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記(A)ポリアミド100質量部に対して、(D)無機充填材1~200質量部をさらに含有する、請求項2~7のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
請求項2~8のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。」
なお、本件特許発明1には、「全カルボン酸成分中」及び「全カルボキシル末端基中」との記載があるが、「εカプロラクタム」はポリアミド原料としてはカルボン酸成分ではないことから、「全カルボン酸成分中」には「εカプロラクタム」は含まれず、一方、ポリアミドを得る際には「εカプロラクタム」が開環しカルボキシル基が生成することから、「全カルボキシル末端基中」には「εカプロラクタム」由来のカルボキシル末端基も含まれると解し、以下検討する。
第4 取消理由の概要
1.本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2.本件特許は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
3.本件特許の請求項1、8及び9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1号第3号に該当し特許を受けることができないから、本件特許の請求項1、8及び9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4.本件特許の請求項1、3ないし9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1、3ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
甲第1号証:特開2007-182071号公報(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:申立人の従業員である高村元が平成29年1月6日付けで作成した「実験報告書」(以下、「甲2」という。)
甲第3号証:特開2003-277605号公報(以下、「甲3」という。)
甲第4号証:福本修編、「ポリアミド樹脂ハンドブック」、初版、日刊工業新聞社、昭和63年1月30日発行、第111ないし113ページ(以下、「甲4」という。)
第5 当審の判断
事案に鑑み、取消理由3及び4、取消理由1、取消理由2の順に検討する。
1.取消理由3及び4の検討
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する工程を経て電子顕微鏡観察で数平均内径10~80nmの凹部で表面が覆われたアルミニウム合金部品と、
前記アルミニウム合金部品の前記表面に射出成形で固着され、主成分がポリアミド樹脂で従成分が耐衝撃性改良材である樹脂分組成の熱可塑性合成樹脂組成物部品と
からなる金属樹脂複合体。
・・・(略)・・・
【請求項9】
請求項1~8から選択される1項に記載の金属樹脂複合体において、
前記熱可塑性合成樹脂組成物が、樹脂分組成100質量部に対して充填材1~200質量部が含まれていることを特徴とする金属樹脂複合体。
【請求項10】
請求項9に記載の金属樹脂複合体において、
前記充填材が、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、及びガラス粉から選ばれる1種以上の充填材であることを特徴とする金属樹脂複合体。」
イ 「【0001】
本発明は、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品等に用いられるアルミニウム合金と高強度樹脂の複合体とその製造方法に関する。更に詳しくは、各種機械加工で作られた軽金属合金形状物と熱可塑性合成樹脂を一体化した構造物に関し、各種電子機器、家電製品、医療機器、車両用構造部品、車両搭載用品、建築資材の部品、その他の構造用部品、外装用部品等に用いられる軽金属合金と樹脂の複合体とその製造方法に関する。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、超微細凹部で覆われたアルミニウム合金の形状物を用意してこれを射出成形金型にインサートし、そこへポリアミド樹脂組成物を射出すると、アルミニウム合金部分と成形された樹脂成形物が接合した一体化物が得られることが分かっている。樹脂部分とアルミニウム合金部分との接合力を、ポリアミド系樹脂のコンパウンド、その他の工夫により、更に高めることができないか挑戦した。
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記目的を達成する。
本発明の目的は、アルミニウム合金と主成分がポリアミド樹脂の熱可塑性合成樹脂組成物との接合強度を強くした、アルミ合金と樹脂の複合体及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、アルミニウム合金と主成分がポリアミド樹脂の熱可塑性合成樹脂組成物との接合するときに生産性が高い、アルミ合金と樹脂の複合体及びその製造方法を提供することにある。」
エ 「【0079】
以下、本発明の実施例を実験例に代えて詳記する。実施例で使用した共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造法と粘度数の測定方法は以下のとおりである。
〔参考例1 共重合ポリアミド(ブロックポリマー)の製造方法〕
それぞれの共重合ポリアミドの原料となるジアミンと酸の等モル塩などの原料をそれぞれの質量比で反応器に投入し、投入した樹脂分全量と同量の純水を加え、重合缶内をN2で置換した後、攪拌しながら加熱を開始し、缶内圧力を最大20kg/cm2に調整しながら最終到達温度を270℃とし反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で20時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で50時間以上乾燥した。
〔参考例2 粘度数の測定方法〕
ISO307標準方法に従って96%硫酸での粘度数測定を行った。」
オ 「【0082】
一方、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーを参考例1の方法で合成した。得られた合成樹脂の参考例2記載の方法で測定した粘度数は85ml/gであり、溶融粘度は、フローテスター「CFT-500(日本国京都府、株式会社島津製作所製)にての温度270℃、荷重98.1N(10kgf)の条件下にて380ポイズであった。二軸押出機「TEM-35B(東芝機械株式会社製)」にて、ガラス繊維「RES03-TP91(日本板硝子株式会社製)」をサイドフィーダーから添加量が50質量%となるように供給しながら、シリンダー温度280℃で溶融混練してペレット化したポリアミド系樹脂組成物を得た。」
(2)甲1発明
したがって、甲1には、摘示ア~オからみて、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーを以下参考例1の方法で合成した共重合ポリアミドを有するポリアミド系樹脂組成物。
<参考例1>
それぞれの共重合ポリアミドの原料となるジアミンと酸の等モル塩などの原料をそれぞれの質量比で反応器に投入し、投入した樹脂分全量と同量の純水を加え、重合缶内をN2で置換した後、攪拌しながら加熱を開始し、缶内圧力を最大20kg/cm2に調整しながら最終到達温度を270℃とし反応させた。水浴中に吐出したポリマーをストランドカッターでペレタイズした。得られたペレットは95℃熱水中で20時間処理し、未反応モノマーや低重合物を抽出除去した。抽出後のペレットは80℃で50時間以上乾燥した。」
(3)対比・検討
ア 本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明を対比する。
甲1発明における「アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからナイロン66成分として77質量%、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから6Iナイロン成分として17質量%、ナイロン6成分として6質量%から成るブロックポリマーを以下参考例1の方法で合成した共重合ポリアミド」は、その構成モノマーからみて、本件特許発明1における「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、を、含むポリアミド」であって、「(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド」に相当する。
甲1発明における「ポリアミド系樹脂組成物」は「炭素数6~30の高級脂肪酸と炭素数6~30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩」を含有するものではないから、本件特許発明1における「ポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6~30の高級脂肪酸と炭素数6~30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)」に相当する。
したがって、本件特許発明2と甲1発明は、
「(A):(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、
を、含むポリアミドであって、
当該ポリアミドが、
(a)アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、(b)イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとからなる単位と、εカプロラクタムからなる単位と、からなるポリアミド、
を含有するポリアミド樹脂組成物(但し、炭素数6~30の高級脂肪酸と炭素数6~30の高級アルコールとの高級脂肪酸エステル化物及び高級脂肪酸の金属塩を含有するものを除く。)。」
である点で一致し、次の点において相違する。
<相違点1>
本件特許発明2は、「ポリアミド中における全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が、0.05≦(x)≦0.5であり、
かつ、下記式(1)で示される(Y)が、0.05≦(Y)≦0.8である(A)ポリアミド100質量部と、
(Y)=[(EG)-(x)]/[1-(x)] ・・・(1)
(前記式(1)中、(EG)は、(A)ポリアミド中に含有されている全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率を示し、下記式(2)で示される。
(EG)=イソフタル酸末端基量/全カルボキシル末端基量 ・・・(2))」で示される(x)、(EG)及び(Y)の関係を満たすのに対して、甲1発明は、当該関係を満たすことが明らかではない点。
<相違点2>
本件特許発明2は、「(B):銅化合物0.005~0.6質量部」を含有するのに対して、甲1発明は、当該化合物を含有しない点。
相違点1について検討する。
甲2の表2には、甲1発明の参考例1の方法で合成した共重合ポリアミドは、(x)、(EG)及び(Y)の数値が、それぞれ0.18、-0.2及び0.013であることが示されており、これは本件特許発明2における(x)、(EG)及び(Y)の関係を満たしていない。
甲1発明の課題は、甲1の摘示ウからみて、「アルミニウム合金と主成分がポリアミド樹脂の熱可塑性合成樹脂組成物との接合強度を強くした、アルミ合金と樹脂の複合体及びその製造方法を提供すること」、及び、「アルミニウム合金と主成分がポリアミド樹脂の熱可塑性合成樹脂組成物との接合するときに生産性が高い、アルミ合金と樹脂の複合体及びその製造方法を提供すること」であるが、甲1には、当該課題との関係において、共重合ポリアミドの(x)、(EG)及び(Y)の数値範囲を設定することについて記載されておらず、共重合ポリアミドの(x)、(EG)及び(Y)の数値範囲の意味等についても記載されていない。
そうすると、甲1発明において、共重合ポリアミドの(x)、(EG)及び(Y)の数値範囲を、本件特許発明2の数値範囲とすることは、動機付けもなく、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
以上のとおりであるから,相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲1発明に記載された発明ではなく、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない
イ 本件特許発明3ないし9について
本件特許発明3ないし9は、本件特許発明2を直接又は間接的に引用するものであって、上記相違点1に係る共重合ポリアミドの(x)、(EG)及び(Y)の数値範囲をそのまま引用するものであるから、本件特許発明2と同様に判断され、本件特許発明3ないし9は甲1発明に記載された発明ではなく、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない
2.取消理由1の検討
取消理由1の概略は以下のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明には、(Y)として-0.3≦(Y)<0.05の範囲にあるとポリアミドが上記「成形体表面外観の安定性、耐衝撃特性が優れ、かつ耐熱エージング性に優れたもの」であることを示す実施例は開示されていない。また、本件特許の発明の詳細な説明には、(Y)が「全カルボキシル末端基において、イソフタル酸末端基がどれだけ選択的に存在しているかを表す指標」であることは記載されるが、そのことから上記-0.3≦(Y)<0.05の範囲にあるポリアミドが、上記本件特許発明の課題を解決できることが当業者に認識できるとはいえず、また出願時の技術常識ともいえない。
してみると、本件特許発明1は、本件特許の発明の詳細な説明において上記本件特許発明の課題が解決されると当業者が認識できる範囲を超えて、特許を請求するものである。
そうすると、本件特許発明1及び引用する本件特許発明3ないし9の範囲まで、本件特許の発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(1)本件特許発明2について
本件特許明細書の発明の詳細な説明によれば、「本発明においては、上記事情に鑑み、過酷な成形条件下において成形した場合においても、成形体の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、かつ耐熱エージング性に優れたポリアミド樹脂組成物及び成形品を提供することを主な目的とする」(【0011】)ことが記載されることから、本件特許発明が解決しようとする課題(以下、「本件特許発明の課題」という。)は、「成形体の表面外観の安定性が良好で、耐衝撃特性に優れ、かつ耐熱エージング性に優れたポリアミド樹脂組成物及び成形品」を提供することである。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「全カルボキシル末端基において、イソフタル酸末端基がどれだけ選択的に存在しているかを表す指標」としてブロック化比率(Y)を挙げ(【0020】)、「(Y)の範囲を-0.3≦(Y)≦0.8とすることにより、本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、過酷な成形条件下における成形体表面外観の安定性、耐衝撃特性が優れ、かつ耐熱エージング性に優れたものとなる」(【0023】)ことが記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明には、(Y)として0.05≦(Y)≦0.8の範囲にある0.15~0.57のポリアミドが上記「成形体表面外観の安定性、耐衝撃特性が優れ、かつ耐熱エージング性に優れたもの」であることを示す実施例が開示されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明には、(Y)が「全カルボキシル末端基において、イソフタル酸末端基がどれだけ選択的に存在しているかを表す指標」であることが記載されており、実施例の記載からみても、0.05≦(Y)≦0.8の範囲にあるポリアミドが、本件特許発明の課題を解決できることが当業者に認識できるといえる。
してみると、本件特許発明2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件特許発明の課題が解決されると当業者が認識できる範囲内のものであるから、発明の詳細な説明に記載したものといえる。
(2)本件特許発明3ないし9について
本件特許発明3ないし9は、本件特許発明2を直接又は間接的に引用するものであって、ブロック化比率(Y)の数値をそのまま引用するものであるから、本件特許発明2と同様に判断され、発明の詳細な説明に記載したものといえる。
3.取消理由2の検討
取消理由2の概略は以下のとおりである。
本件特許明細書の発明の詳細な説明では、「上記式(1)におけるブロック化比率の指標となる(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要」であることが示され、そのブロック化の制御方法として、重合系内の圧力、重合温度などを調節することが示されているが(段落【0038】ないし段落【0041】)、何れの条件も一般的なポリアミドを製造する際の条件であり、具体的にどのような操作を実施すると(Y)の値が調節でき、上記-0.3≦(Y)≦0.8の範囲に包含される所望の(Y)の値を得られるのかについて記載がない。さらに、(Y)の値を算出するために必要な(EG)についても、その調節方法すら記載がなく、それら調節方法が出願時の技術常識であったともいえない。
よって、出願時の技術常識を参酌しても、請求項1に記載のポリアミドのうち実施例で具体的に製造されたポリアミド以外のものについては、どのようにすれば製造できるのかを、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が理解できるとはいえない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
以下、検討する。
本件特許明細書には、以下のとおり記載されている。
「【0038】
((A)ポリアミドの製造方法)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する(A)ポリアミドの製造方法としては、上述したようにその他の共重合成分を有するポリアミド共重合体である場合を含めて、前記全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)が0.05≦(x)≦0.5であり、上記式(1)におけるブロック化比率の指標である(Y)の範囲が-0.3≦(Y)≦0.8、好ましくは0.05≦(Y)≦0.8となるようなポリアミド(又はポリアミド共重合体)が得られればよい。
ポリアミドの製造方法としては、例えば、アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(熱溶融重合法);熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(熱溶融重合・固相重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物の水溶液、又は水の懸濁液を加熱し、析出したプレポリマーをさらにニーダー等の押出機で再び溶融させて重合度を上昇させる方法(プレポリマー・押出重合法);アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、及び必要に応じてその他の成分の混合物、固体塩又は重縮合物を、固体状態を維持したまま重合(固相重合法)させる方法等が挙げられる。
全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)を上記数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量の調整、重合条件の調整が有効である。
上記式(1)におけるブロック化比率の指標となる(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要である。具体的には、重合系内で、溶融状態を維持しながら、圧力を適宜調整し、重合温度を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上としながら、均一混合下において重縮合反応を進め、最終重合内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるような条件下で重合させる熱溶融重合法を用いることにより制御することができる。
【0039】
重合形態としては、特に限定されず、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
また、重合装置も特に限定されず、公知の装置、例えば、オートクレーブ型の反応器、タンブラー型反応器、ニーダー等の押出機型反応器等を用いることができる。
【0040】
上述したように、(Y)が-0.3≦(Y)≦0.8の範囲となるようにするには、熱溶融重合法が好ましく、より好ましくはバッチ式の熱溶融重合法が挙げられる。
バッチ式の熱溶融重合法の一例について以下に説明する。
重合温度条件については特に限定されないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは170℃以上である。
例えば、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は水溶液を110~200℃の温度下で攪拌し、約60~90%まで水蒸気を徐々に抜いて加熱濃縮する。
その後、内部圧力を約1.5~5.0MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
その後、水及び/又はガス成分を除きながら、圧力を約1.5~5.0MPa(ゲージ圧)に保ち、内部温度が好ましくは240℃以上、より好ましくは245℃以上に達した時点で、水及び/又はガス成分を除きながら圧力を徐々に抜き、最終内部温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは260℃以上になるように、常圧で又は減圧して重縮合を行う熱溶融重合法を用いることができる。
さらには、アジピン酸、イソフタル酸、及びヘキサメチレンジアミンとの混合物、固体塩又は重縮合物を融点以下の温度で熱重縮合させる固相重合法等も用いることができる。」
(1)全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)の調整について
上記【0038】の記載から、(x)を数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量、すなわち、イソフタル酸成分/全カルボン酸成分を調整することとされている。
そして、各原料の仕込み比を変化させることによって、ポリアミド共重合体の共重合組成比を変化/制御できることは、出願時の技術常識(例えば、特開2010-150445号公報(平成29年6月12日付け意見書(以下、「特許権者の意見書」という。)に添付された「参考文献1」)【0041】、特開2011-111576号公報(同「参考文献2」)【0042】等)である。
そうすると、全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)は、原料の仕込み量、すなわち、イソフタル酸成分/全カルボン酸成分を調整することによって、本件特許発明2の数値範囲内に制御することは、当業者が、過度の試行錯誤を伴わずにできるものであるといえる。
(2)ブロック化比率(Y)の調整について
上記【0038】~【0040】には、ブロック化比率の指標となる(Y)を上記数値範囲内に制御するためには、イソフタル酸成分のブロック化を制御することが必要であり、重合系内で、溶融状態を維持しながら、圧力を適宜調整し、重合温度を特定温度としながら、均一混合下において重縮合反応を進め、最終重合内部温度が特定温度になるような条件下で重合させる熱溶融重合法を用いること、バッチ式の熱溶融重合法の一例が示され、固相重合法等も用いることができることが記載されている。
そして、製造例1~9では、【0038】及び【0040】に記載した条件で、熱溶融重合法により、本件特許発明2の(x)及び(Y)を満たすポリアミドA1~A9を製造できること、製造例14及び17では、【0038】及び【0040】に記載した条件とは異なる条件で、熱溶融重合したポリアミドA14及び17は、本件特許発明2の(Y)を満たさないことが確認できるといえる。
そうすると、【0038】及び【0040】に記載した条件で、熱溶融重合法により、ポリアミド共重合体のブロック化比率(Y)を調整することは、当業者が、過度の試行錯誤を伴わずにできるものであるといえる。
(3)全カルボキシル末端基中のイソフタル酸末端基比率(EG)の調整について
本件特許明細書の製造例1~4、7~9では、過剰アジピン酸の添加によって、本件特許発明2の(x)及び(Y)を満たすポリアミドA1~A4、A7~A9を製造でき、(EG)の値も調整できることが確認できるといえる。
そして、(EG)の調整は、ポリアミド共重合体の末端調整であることは、(EG)の定義から明らかなことであり、ポリアミド共重合体の末端調整において、末端調整剤を使用することは周知慣用技術であり(例えば、特開2006-124669号公報(特許権者の意見書に添付された「参考文献3」)【0035】、【0037】、【0039】、特開2002-194210号公報(同「参考文献4」)【0022】、特開平11-92657号公報(同「参考文献5」)【0009】、【0010】、特開平3-76755号公報(同「参考文献6」)の3頁右下欄9~15行、特開2011-219635号公報(同「参考文献7」)【0019】、【0020】)、その際、末端調整剤としてアジピン酸を用いることも周知慣用技術(例えば、参考文献3、5、6、7)といえる。
そして、参考文献4【0022】の「末端調整剤として…二塩基酸を用いるとアミノ末端基が減少するとともにカルボキシル末端基が増大する。」との記載から、末端調整剤として、ジカルボン酸を用いるとアミノ末端基が減少するとともにカルボキシル末端基が増大することが、本件特許の出願時の技術常識と理解でき、これに加え、本件特許明細書の【表1】の過剰にアジピン酸を添加した実施例とそうでない実施例の比較から、アジピン酸を過剰に用いると(EG)が減少することが理解できる。
そうすると、本件特許明細書の製造例、及び、周知慣用技術から、ポリアミド共重合体のイソフタル酸末端基比率(EG)を調整することは、当業者が、過度の試行錯誤を伴わずにできるものであるといえる。
(4)まとめ
したがって、当業者が、本件特許明細書の記載及び周知慣用技術から、過度の試行錯誤を伴うことなく、本件特許発明2の共重合ポリアミドの(x)、(Y)及び(EG)の数値範囲に調節することができるといえる。
以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項2ないし9に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は、平成29年7月19日(受理日、同年7月20日)付け意見書(以下、「申立人の意見書」という。)において、概略以下のとおり主張している。
ア (x)の調整について、本件のような「原料仕込み比≠共重合組成比」となる重合条件については不明であるから、どのようにすれば(x)及び(Y)の値を特定の範囲にすればよいのか依然として不明である。
イ (EG)の調整について、発明の詳細な説明に具体的に製造方法が記載された物以外の物については、どのように作るかが理解できない。また、過剰のアジピン酸の添加による方法に関し、アジピン酸が末端封止剤であることは、本件特許明細書に記載されておらず、アミノ末端基が減少するとともにカルボキシル末端基が増大するという効果については一切記載されていない。
上記アについては、上記(1)で述べたとおり、本件特許明細書には、(x)を数値範囲内に制御するための方法としては、原料の仕込み量、すなわち、イソフタル酸成分/全カルボン酸成分を調整することが記載されており、各原料の仕込み比を変化させることによって、ポリアミド共重合体の共重合組成比を変化/制御できることは、出願時の技術常識といえるから、全カルボン酸成分中のイソフタル酸成分比率(x)は、原料の仕込み量、すなわち、イソフタル酸成分/全カルボン酸成分を調整することによって、本件特許発明2の数値範囲内に制御することは、当業者が、過度の試行錯誤を伴わずにできるものであるといえる。
上記イに関しては、上記(3)で述べたとおり、本件特許明細書の製造例において、(EG)の値も調整できることが確認できるといえるし、(EG)の調整は、ポリアミド共重合体の末端調整であることは、(EG)の定義から明らかなことであり、ポリアミド共重合体の末端調整において、末端調整剤を使用すること周知慣用技術であるから、本件特許明細書の製造例、及び、周知慣用技術から、ポリアミド共重合体のイソフタル酸末端基比率(EG)を調整することは、当業者が、過度の試行錯誤を伴わずにできるものであるといえる。
したがって、申立人の主張を採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件特許発明2ないし9に係る特許を取り消すことができない。
そして、他に本件特許発明2ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許発明1に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許発明1に対して、申立人がした特許異議の申し立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700083