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特許拒絶査定不服審判

2017-018261

ホルボールエステルを含む組成物及びその使用法

審判番号
2017-018261
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-002526外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2017年12月08日
審決日
2020年06月18日
公報発行日
2020年12月25日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .536-WZ (A61K) / P18 .537-WZ (A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条4項1号特許法36条6項1号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2016-  2526「ホルボールエステルを含む組成物及びその使用法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月21日出願公開、特開2016- 56192〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 1.手続きの経緯 本願は、2008年1月30日(パリ条約による優先権主張 2007年1月31日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2009-548304号の一部を平成25年7月26日に新たな特許出願とした特願2013-155621号の一部をさらに平成28年1月8日に新たな特許出願としたものであって、平成29年8月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成29年12月8日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 その後、当審において、令和1年8月6日付けで拒絶理由が通知され、これに対して、令和2年2月13日に意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされた。 2.本願発明 本願の請求項1~10に係る発明は、令和2年2月13日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。 「【請求項1】 哺乳類被験体において、 (i)HIV感染を治療する、 (iii)HIV感染により引き起こされる疾患を抑制する、または (iv) HIV感染により引き起こされる疾患を治療する ための組成物であって、それを必要とする哺乳類被験体のためのものであり、10μg~1500μgという有効量の、式Iのホルボールエステル 【化1】 式I [式中、R1およびR2は、水素、ヒドロキシル、 【化2】 [ここで前記低級アルケニルはC1-7アルケニルである] 【化3】 からなる群より選択され、 R3は水素または 【化4】 [ここで前記低級アルキルはC1-7アルキルである] であり、式Iのホルボールエステルは、プロテインキナーゼC(PKC)を活性化するものであり、かつ、式Iのホルボールエステルは、12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセタート(TPA)ではなく、12-デオキシホルボール-13-アセタートでもない]、 またはそのその薬学的に許容される塩を含む組成物、 ここで、HIV感染により引き起こされる1つ以上の症状または疾患が引き起こされ、HIV感染により引き起こされる1つ以上の症状または疾患が、口腔病変、倦怠感、皮膚カンジダ症、発熱、食欲不振、下痢、アフタ性潰瘍、吸収不全、血小板減少症、体重減少、貧血及びリンパ節腫脹、トリ型結核菌複合体、サルモネラ症、梅毒、神経梅毒、結核症、細菌性血管腫症、アスペルギルス症、カンジダ症、コクシジオイデス症、リステリア症、骨盤感染症、バーキットリンパ腫、クリプトコックス髄膜炎、ヒストプラスマ症、カポジ肉腫、リンパ腫、全身性非ホジキンリンパ腫、中枢神経原発リンパ腫、クリプトスポリジウム症、イソスポーラ症、微胞子虫症、カリニ肺炎、トキソプラズマ症、サイトメガロウイルス、肝炎、単純ヘルペス、帯状疱疹、ヒトパピローマウイルス、伝染性軟属腫、口腔毛状白板症、及び進行性巣性白質脳症またはその組み合わせである、前記組成物。」 3.当審が通知した拒絶理由の概要 当審が通知した令和1年8月6日付けの拒絶の理由の概要は、「この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」及び「この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」という理由を含み、概略、以下の点を指摘している。 本願明細書の発明の詳細な説明には、TPAが、HIV感染を治療する効果、及びHIV感染により引き起こされる症状を治療する効果を有することを当業者が認識できるように記載されていると認められる。しかし、請求項1に記載された式Iのホルボールエステルの符号の定義を満足する、TPAではない化合物が、TPAと同様に、請求項1の(ii)(審決注:補正後の(i)記載の医薬用途に相当)、(iv)記載の所期の効果を有することについて試験を行い、該試験の結果から実際にそのような効果を確認したとの記載はない。また、TPAと本件化合物との化学構造上の共通部分が請求項に規定される組成物の医薬用途に寄与しているとの記載や理論的な説明はないし、本願出願時に、上記構造と医薬用途との間にすでに確立された相関関係があることを示す技術常識もみあたらない。そうすると、当業者が、TPAに関する薬理試験結果の記載に接しても、請求項1に記載された式Iのホルボールエステルの符号の定義を満足する、TPAではない化合物が、哺乳類被験体において、TPAと同様、請求項1に記載の(ii)(審決注:補正後の(i)記載の医薬用途に相当)、(iv)のための組成物として、所期の効果を有することを認識することができるとはいえない。 4.当審の判断 4-1 特許法第36条第4項第1号に規定する要件について 特許法第36条第4項第1号の規定によれば、発明の詳細な説明は、その発明の属する分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない、との要件、いわゆる実施可能要件に適合するものでなければならない。そして、該実施可能要件における「実施」には、物の発明について、特許法第2条第3項第1号に規定する「その物の使用をする行為」が含まれる。 そうすると、発明の詳細な説明が、物の発明について、実施可能要件を満たすためには、その発明の属する技術も分野における通常の知識を有する者がその物の使用をすることができる程度のものである必要がある。 ここで、上記物の発明が、ある物質の未知の属性に基づき当該物質の新たな医薬用途を提供しようとする物の発明(いわゆる医薬用途発明)である場合について検討する。 医薬の技術分野においては、現在でも、物質の名称や化学構造だけからその未知の医薬用途を予測することは困難であり、何らかの薬理試験結果によらなければその物質の新たな医薬用途を認識することができない、という事情が存在する。 したがって、医薬の技術分野における上記事情に鑑みれば、発明の詳細な説明の記載が、医薬用途発明を使用することができる程度のものであるといえるためには、薬理試験結果によらずとも、その未知の医薬用途を予測することができる物質を用いているなどの特段の事情でもない限り、発明の詳細な説明に当該物質が実際にその医薬用途に使用できることを当業者が認識することができる程度に薬理試験結果を記載する必要がある。 本願発明は、前記2で認定したとおり、 哺乳類被験体において、 (i)HIV感染を治療する、 (iii)HIV感染により引き起こされる疾患を抑制する、または (iv) HIV感染により引き起こされる疾患を治療する ための、それを必要とする哺乳類被験体のためのものであり、HIV感染により引き起こされる1つ以上の症状または疾患が引き起こされ、HIV感染により引き起こされる1つ以上の症状または疾患が、請求項1に記載のものである組成物の発明であり、請求項1に記載の式Iのホルボールエステル、該式Iのホルボールエステルは、12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセタート(TPA)ではなく、12-デオキシホルボール-13-アセタートでもない、(以下、「本願化合物」ともいう。)の未知の属性に基づき、請求項1の(i)、(iii)、または(iv)記載の医薬用途を提供しようとする物の発明(いわゆる医薬用途発明)である。 そして、本願化合物に、薬理試験結果によらずとも、その未知の医薬用途を予測することができる物質であるといった特段の事情は見いだせないから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本願発明を使用することができる程度のものであるといえるためには、本願明細書の発明の詳細な説明に、本願化合物が、請求項1の(i)、(iii)、または(iv)記載の医薬用途に使用できることを当業者が認識することができる程度薬理試験結果を記載する必要がある。 当該薬理試験が、医薬用途発明における医薬用途の処置を必要とする患者または対象症状を有する患者や対象疾患の患者に対して行った臨床試験であり、当該患者において、所期の医薬用途に使用できたと認められる試験結果が得られたというのであれば、当業者は、その医薬用途の処置を必要とする患者において、本願化合物が実際にその医薬用途に使用できることを認識することができる。 また、当該薬理試験が、動物実験や試験管内実験といった非臨床試験であっても、当業者が技術常識を踏まえてその結果をみると、医薬用途発明における医薬用途の処置を必要とする患者において、ある物質が実際にその医薬用途に使用できることを認識することができる試験であれば足りる。ここで、上記技術常識は、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすか否かを検討すべき特許出願の出願時のものである。 4-1-1 本願明細書の記載事項 (1)「【0114】 (実施例3) TPA治療を受けたHIV+患者の第1の臨床試験 1995年に輸血によってHIV感染し、HIVの標準治療では難治性の症状のある35~52歳の患者12人(男性5人、女性7人)がTPA治療を受けた。無菌食塩水200ml中の体重補正用量のTPA(75μg/m2)が1時間にわたるi.v.により各患者に投与された。この投与量が治療の最初の3日間1日1回投与された。その後、この投与量が4日目から18日目まで1日おきに各患者に投与され、6ヶ月間の休息期間を経て、同一プロトコルに従い2回目の治療が行われた。 【0115】 TPAの初回投与量の投与前、及び治療サイクルの4日目及び40日目に血液試料を収集した。モノクローナル抗体(Becton Dickson Scientific社、ニュージャージー州フランクリンレイク)及びフローサイトメーター(B. D. Bioscicnce社、カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて末梢血中のCD3、CD4、CD8のレベルを測定した。 【0116】 表1に示されるように、CD3、CD4、CD8レベルにおける一貫した変化または相関性は認められなかった。 【0117】 【表1】略 下の表2から分かるように、ウイルス負荷の変化についても、5人の患者ではHIVが増加し、他の7人では変化がないか、または減少するという同様の一貫性のない結果となった。 【0118】 【表2】略 ウイルス量とCD3、CD4、CD9レベルとの相関性がないにも関わらず、治療後11人の患者に大きな改善が見られた。8人の患者は症状がなくなり、そのうち5人は6~12ヶ月間寛解となった。さらに3人の患者で症状が軽減した。」(段落0114~0118) (2)「【0119】 (実施例4) TPA治療を受けたHIV+患者の第2の臨床試験 実施例3の患者9人がTPAの第2の治療を受けた。これらの9人のうち7人が第2の試験の開始時に無症状であった。症状があり、以前にTPAの治療を受けていない10人目の患者(患者番号2a)がこの試験に加えられた。各患者には無菌食塩水200ml中の体重補正用量のTPA(75μg/m2)が静脈注射で1時間にわたり投与された。この投与量が1日1回、10日間連続して各患者に投与され、10日間の休息期間を挟んで3サイクル、合計30回TPAが投与された。患者5a、6a、8aはTPA治療開始から1ヶ月前に抗AIDS薬の摂取を停止し、3回目のサイクルの1ヶ月後に再度摂取を開始した。患者1~4a、7a、及び9a~10aは治療中も抗AIDS薬の摂取を継続した。 【0120】 治療開始の3日前、1回目の10日間のTPA投与サイクル終了後、及び最後のTPA投与後に血液試料を採取し、CD3、CD4、CD8、WBC、RBC、HGB、血小板を測定した。 【0121】 表3に示されるように、1回目及び3回目のTPA投与後にすべての患者においてCD3の増加が見られ、かつ2人の患者(5a及び10a)を除いて3回目のサイクルで最も高い値が認められた。CD8及びCD4は増加傾向にあった。これらの結果は、TPA治療で免疫系が強化されることを示唆している。HIV量ではばらつきのある結果が得られた(表4)。一部の患者におけるHIV量は当該方法で検出できる下限を下回った(200未満)が、他の患者ではやや増加した。WBC、RBC、HGB、血小板(表5)の測定では正常な変動が見られた。 【0122】 【表3】略 【0123】 【表4】略 【0124】 【表5】略 第1の臨床試験で以前にTPA治療を受けた9人の患者のうち、第2の臨床試験の開始前に1人(番号9a)のみAIDSの症状が見られた。第2の臨床試験のTPA治療の3サイクル後、この患者と、TPA治療を受けたことがなかった別の患者(番号2a)は、AIDSの症状が消失し、平常の活動を行うことができるようになった。残りの8人の患者はAIDSの症状がない状態で試験を開始し、試験終了の時点で症状は見られなかった。全患者が観察下におかれた。抗AIDS薬での治療は中断されることなく継続された。 【0125】 表4に示されるように、全患者にCD3、4、8レベルの増加が見られ、CD3レベルの増加が最も顕著かつ一貫していた。HIVのウイルス負荷にはばらつきがあった。3人の患者では検出不能(<200)となり、他の6人ではやや増加し、1人は減少した。」(段落119~125 (3)【0126】 (実施例5) TPA治療を受けたHIV+患者の第3の臨床試験 男性2人、女性4人、37~52歳の6人の患者(患者番号13~18)がTPAの治療を受けた。これらの患者のうち4人が抗HIV薬と組み合わせて前の2回の臨床試験でTPA治療を受けた。残る2人の患者はTPA治療を受けたことはないが、以前に抗HIV薬レジメンを受けていた。第3の臨床試験開始の3日前にすべての治療が停止され、TPA治療の終了から60日後まで再開されなかった。標準HIV治療の再開は地域の保健機関によって要求された。 【0127】 本試験において各患者は無菌食塩水200ml中のTPA150μgを毎日1.5~2時間にわたる静脈内点滴で60日間投与を受け、合計9.0mgの投与量が投与された。60日間のTPA治療の終了後、これら患者はさらに60日間観察下におかれたが、更なる治療は受けなかった。 【0128】 フローサイトメトリーを用いて治療前、及び再度30日目及び60日目に末梢血のCD3、CD4、CD8レベルを測定し、カリフォルニア州サンディエゴのB.D.Bioscience社から適切な抗体を取得した。中国北京市の広安門医院(Kuang Ann men Hospital)で従来の方法を用いてウイルス負荷が判定された。患者のRBC、WBC、血小板、ヘモグロビンのレベルも測定された。 【0129】 表6に示されるように、6人の患者のウイルス負荷は試験開始時では低いか、または検出不能であり、かつ従来の抗レトロウイルス療法の中止にもかかわらず臨床試験期間中低いままであった。加えて、プラズマウイルス負荷が1ml当たり50HIVコピー以下の患者において発生することがこれまでに報告されている(Harrigan et al,AIDS 13,F59~F62(1999))ような、抗レトロウイルス療法停止6~15日後のウイルス量のリバウンドは認められなかった。CD3、CD4、CD8レベルはばらつきがあり、結論に達しなかった。 【0130】 【表6】略 TPA治療の前、TPA治療開始から15日、30日、45日、60日後、及びTPA治療停止から30日後に白血球(WBC)、赤血球(RBC)、ヘモグロビン(Rb)、血小板(PLt)を測定した。表7に示されるように、ほとんどの値は平常の範囲内であった。 【0131】 この第3の臨床試験に参加した患者らには、抗レトロウイルス療法が中止されたときに通常見られるような、ウイルス負荷のリバウンドは起きなかった。また、患者らは120日間の観察及び治療の期間中AIDS症状の再発はなく、平常の生活を送ることが可能であった。 【0132】 【表7】略 (実施例6) ケーススタディ 実施例3、4、5のプロトコルに従ってTPAで治療を受けた、最初に症状のあったAIDS患者の治療結果である。複数の試験に参加した患者は2つ以上の患者番号で識別されている場合がある。すべての患者識別番号は表1~7の患者番号に対応する。」(段落0126~0132) 上記(1)の記載によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、HIVに感染し、標準治療で難治性の症状のある12人の患者がTPA治療を受けたところ8人の患者は症状がなくなり、3人の患者は症状が軽減したことが記載されている。 また、上記(2)の記載によれば、上記(1)記載の患者のうち9人及び新たな患者1名の計10人が、10日/サイクル、3サイクルのTPA治療を受けたところ、TPA治療で免疫系が強化されたことを示唆する結果が得られたこと、9人のうちAIDS症状のあった1人の患者、及び初めてTPA治療を受けたAIDS症状の見られた1名の患者の症状はいずれも消失したこと、上記9人の残り8名の患者については試験開始時、終了時とも症状は見られなかったことが記載されている。 そして、上記(3)の記載によれば、上記(1)(2)に記載のTPA試験を受けた患者4人(抗HIV薬と組み合わせて)と以前に抗HIV薬を受けていたがTPA治療を受けたことがない2人の患者の計6人が、試験開始3日前に全ての治療を停止し、60日間のTPA投与を受け、TPA終了時から60日後まで治療が再開されなかったところ、従来のレトロウイルス療法の中止にもかかわらず、試験期間中ウイルス負荷が低いままであり、120日間の観察及び治療期間中、AIDS症状の再発がなかったことが記載されている。 上記試験はいずれもHIV感染患者に対しTPAを投与してその治療効果を確認したものであるから、上記薬理試験結果の記載をみた当業者であれば、TPAが哺乳類被験体におけるHIV感染を治療するために、及びHIV感染により引き起こされる症状または疾患を治療するために使用できることを認識することができるといえる。 ここで、本願発明が、当業者が実施可能であるように本願明細書の発明の詳細な説明に、本願化合物について記載されているというためには、本願明細書の発明の詳細な説明に、請求項1の(i)、(iii)、または(iv)記載の医薬用途に使用できることを当業者が認識することができるように記載されていなければならない。 4-1-2 本願発明について 請求項1に、式Iのホルボールエステルに関して、「10μg~1500μgという有効量の、式Iのホルボールエステルであり、・・・式I[式中、・・・式Iのホルボールエステルは、12-O-テトラデカノイルホルボール-13-アセタート(TPA)ではなく、12-デオキシホルボール-13-アセタートでもない」と規定されており、また、組成物に関して、「式Iのホルボールエステルまたはそのその薬学的に許容される塩を含む組成物」と規定されているとおり、TPAは、その化学構造上は請求項1に記載された式Iのホルボールエステルの符号の定義を満足するものであるが、上記請求項から除かれているから本願化合物ではないし、またTPAを含む組成物は、本願発明に係る組成物ではない。そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、TPA以外の式Iのホルボールエステルについて薬理試験結果は一切記載されていない。 そこで、本願明細書の発明の詳細な説明に、TPAではない本願化合物が、請求項1の(i)、(iii)、または(iv)記載の医薬用途に使用できることを当業者が認識できるように記載されているといえるかについて、以下、検討する。 本願明細書の発明の詳細な説明に、TPAが、請求項1のHIV感染を治療する、及びHIV感染により引き起こされる症状を治療するために使用できることを当業者が認識できるように記載されていると認められることは、前記4-1-1で説示のとおりである。そして、上記効果は、請求項1の(i)、(iv)記載の医薬用途に相当するものである。 しかし、請求項1に記載された式Iのホルボールエステルの符号の定義を満足する、TPAではない化合物、すなわち本願化合物が、請求項1の(i)、(iii)、または(iv)記載の、感染を治療する、疾患を抑制する、または疾患を治療することができるか否かについて試験を行い、該試験の結果から実際に上記治療または抑制を確認したとの記載はない。 TPAは、その化学構造上は請求項1の式Iのホルボールエステルの符号の定義を満足するものであり、TPAと本願化合物とは共通の化学構造を有するものであるが、本願明細書には、TPAと本件化合物との化学構造上の共通部分が請求項に規定される組成物の医薬用途に寄与しているとの記載や理論的な説明はない。また、本願出願時に、上記構造と医薬用途との間にすでに確立された相関関係があることを示す技術常識もみあたらない。そして、ホルボールエステルと称される化合物の性質は、置換基の選択や化合構造の改変により変化するものであることが本願出願時に知られていることを参酌すれば(必要であれば、国際公開第01/82927号((当審において通知した拒絶理由における引例2に同じ) 特にp10 16~19行参照)、TPAではない本願化合物が、TPAと共通の化学構造を有するからといって、直ちにTPAと同じ性質を有するとか同じ医薬用途に使用できるといえるものではない。 そうすると、当業者は本願明細書の発明の詳細な説明に記載される前記4-1-1において指摘した薬理試験結果の記載に接しても、本願化合物が、哺乳類被験体において、TPAと同様、請求項1に記載の(i)、(iii)、または(iv)記載の医薬用途に使用できることを認識できるとはいえない。 以上のとおり、本願出願時の技術常識を参酌しても本願明細書の発明の詳細な説明に、TPAな説明ではない式Iのホルボールエステルである本願化合物が、請求項1の(i)、(iii)、または(iv)記載の医薬用途に使用できることを当業者が認識できるように記載されているとは認められない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明について、当業者が実施をできる程度に明確かつ十分に記載されていない。 4-1-3 請求人の主張について 請求人は、令和2年2月13日に提出された意見書(p27)において、TPAやPDBu等のホルボールエステル化合物が細胞外試験系でPKC経路を活性化することが技術常識として知られており、本願明細書の実施例において、TPAがHIV感染治療したことが実証されており、当業者が、そのような本願実施例における臨床結果に基づき参考資料7の記載をみたならば、本願の式Iのホルボールエステル化合物が、PKC経路活性化という作用機序により、生体内でのHIV感染治療という医薬用途を実現している、と合理的に理解する、と主張する。 参考資料7には、TPA、PDBuの2種のホルボールエステルがともにリンパ球細胞でのHIV-1複製を刺激したが、単球細胞では刺激しなかったことから、これらのホルボールエステルはHIV複製の調節の類似の機構を介して、すなわちPKC活性化により作用したことを示唆しているとの記載がある(p291左欄 考察の項 1~8行)。 しかし、参考資料7には、「本研究の目的は、急性感染におけるTリンパ球と単球細胞におけるHIV-1複製に対する2つの異なるホルボールエステル誘導体の作用を調査し比較することであった。」と記載があること(p289右欄12~15行)、また、HIV-1複製の調節機構がPKC活性化によるとの上記記載は、上記2つのホルボールエステルについての試験結果から導かれたものであることに照らせば、上記記載がホルボールエステル全般について当てはまることと直ちに理解するとはいえない。そうすると、たとえ、当業者が、本願実施例における臨床結果に基づき参考資料7の記載をみたとしても、PDBuはTPAと同様の効果を有するといえるとしても、その他の化合物をも包含する本願化合物がそのすべてにわたり、生体内でのHIV感染治療という医薬用途を実現している、と合理的に理解するとまでいうことはできない。 また、請求人は、当業者であれば、本願明細書におけるTPAについて実証された結果から、及び、式Iの共通構造を有するホルボールエステル化合物がPKC経路を活性化するという技術常識や本願明細書の背景技術の欄の記載等から、式Iの共通構造を有するホルボールエステル化合物についても、同様の結果が得られる蓋然性が高い、と合理的に理解する、とも主張する。 しかし、本願明細書の背景技術を記載した段落0002には、ホルボールエステルには、PKC活性化以外にも種々の生物学的特性があることが報告されているとの記載があるように、ホルボールエステルに共通の性質はPKC活性に限られるものではないから、ホルボールエステルに共通の性質はすべからくPKC経路の活性化と関連するものであると直ちに結論づけることはできない。 仮に、PKC経路の活性化がHIV-1複製の調節の機構であるとの参考資料7記載の推論が事実であるといえたとしても、国際公開第01/82927号((当審において通知した拒絶理由における引例2に同じ) の表3のPKC活性%の記載によれば、TPAは、10ng/mL、2.7μg/mLにおいて、各々、96%、98%ときわめて高い活性を示すが、本願化合物の中には、たとえば、化合物(4)(12-O-デカノイルホルボール-13-(2-メチルブチレート))のように、いずれの濃度においても0%である化合物も存在するのであるから、高PKC活性を示すTPAがHIV感染を治療することができたからといって、TPAに比べてはるかに低いPKC活性を示す本願化合物にあっても、TPAと同様、生体内でのHIV感染治療という医薬用途を実現できることが明らかであると直ちにいえるものではない。 したがって、請求人の主張は、いずれも、上記結論を左右しない。 4-2 特許法第36条第6項第1号に規定する要件について 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件、いわゆるサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 本願明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、本願発明が解決しようとする課題は、請求項1に記載の(i)、(iii)、または(iv)記載の医薬用途において有効な組成物を提供することであると認められる。 しかしながら、理由4-1-2で説示したとおり、本願出願時の技術常識を参酌しても、本願明細書の発明の詳細な説明にTPAではない式Iのホルボールエステルである本願化合物が、請求項1の(i)、(iii)、または(iv)記載の医薬用途に使用できることを当業者が認識できるように記載されているといえないのであるから、本願発明は、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものと認めることはできず、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。 したがって、本願出願時の技術常識を参酌しても、本願明細書の発明の詳細な説明に、本願発明の上記課題が解決されるものと認識することができる程度の記載ないし示唆があるとまで認めることはできない。 5.むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2017-018261

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