特許拒絶査定不服審判
2017-011298
炭化水素燃料を使用する内燃エンジンの運転方法
- 審判番号
- 2017-011298
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-505249外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年07月28日
- 審決日
- 2018年09月26日
- 公報発行日
- 2019年03月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ノストラム エナジー ピーティーイー.リミテッド
- 【請求人代理人】特許業務法人平田国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (F02D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-505249「炭化水素燃料を使用する内燃エンジンの運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日国際公開、WO2012/142135、平成26年7月17日国内公表、特表2014-517185〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)4月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年(平成23年)4月11日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年4月1日に上申書が提出されるとともに、特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、平成28年3月31日付けで拒絶理由が通知され、平成28年10月5日に意見書が提出されるとともに、明細書、特許請求の範囲及び図面について補正する手続補正書が提出されたが、平成29年3月21日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成29年7月28日に拒絶査定不服審判が請求され、平成29年9月15日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)が提出され、その後、当審において、平成30年3月12日付けで拒絶理由が通知され、平成30年7月12日に意見書が提出されるとともに、明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。
2.本願発明
本願の請求項1ないし32に係る発明は、平成30年7月12日に提出された手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに平成28年10月5日に提出された手続補正書により補正された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし32に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「炭化水素燃料を使用する内燃エンジンの運転方法であって、
前記内燃エンジンは、少なくとも1本のシリンダと、前記少なくとも1本のシリンダの内部の往復動ピストンと、少なくとも1つの吸気弁と、少なくとも1つの排気弁と、給水源と、前記給水源に接続された水噴射器と、前記少なくとも1本のシリンダに前記炭化水素燃料を噴射するための少なくとも1つの燃料噴射器と、を備え、
前記運転方法の各サイクルにおいて、
前記給水源に接続された前記水噴射器から、前記各サイクルの圧縮ストローク中の前記ピストンの上死点前180°~30°間のいずれかの時点で、前記少なくとも1本のシリンダ内の、温度25℃で1気圧の周囲空気中に水蒸気の飽和点で存在する水の量より多く、かつ、前記少なくとも1本のシリンダに噴射される前記炭化水素燃料の量の20%w/w~800%w/wの量の液状水を、前記少なくとも1本のシリンダ内に噴射する工程と、
理論空燃比よりも大きい空燃比w/wで前記少なくとも1本のシリンダに空気と燃料を供給する工程とを備え、
前記内燃エンジンの有効圧縮比が13:1より大であることを特徴とする、内燃エンジンの運転方法。」
3.拒絶の理由
平成30年3月12日の当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は、次のとおりのものである。
本願の請求項1ないし33に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された引用文献1に記載された発明及び引用文献2ないし4記載の技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1.米国特許第5718194号明細書
引用文献2.特開2000-204990号公報
引用文献3.特開平8-4533号公報
引用文献4.特開2000-8898号公報
4.引用文献
4.1 引用文献1
(1) 引用文献1の記載
当審の拒絶理由に引用され、本願の優先日前にに頒布された米国特許第5718194号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、「IN-CYLINDER WATER INJECTION ENGINE」(筒内水噴射エンジン)について、次の事項が図面とともに記載されている。なお、当審にて和訳した。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)
ア.「1. Field of the Invention
The present invention relates to internal combustion engines in general and water injection engines in particular. Most particularly the invention relates to an internal combustion engine having water injected directly into the cylinder during the compression stroke to improve the efficiency by cooling the compression gases.
2. Related Art
Various fluids such as water and water in solution with other substances such as alcohol have been commonly injected into hydrocarbon fueled engines to provide improved engine operation. During the compression stroke, the water droplets vaporize and absorb heat energy produced within the combustion chamber to prevent pre-ignition. The vaporized water is subsequently heated by the burning fuel mixture during the power stroke and expands, increasing the mechanical efficiency of the combustion process. Beneficial side effects may include prevention of carbon buildup on the cylinder walls of the engine. As a result of the beneficial effects of the water injection, the engine is able to run more smoothly and efficiently on a leaner fuel mixture. Additionally, the reduction in peak combustion temperature reduces the formation of oxides of nitrogen and minimizes thermal stresses on the engine components. 」(第1欄第5行ないし第28行))
(和訳)
1.発明の分野
本発明は一般に内燃機関及び特に水噴射エンジンに関する。より詳細には、本発明は、圧縮ガスを冷却することによって効率を改善するために、圧縮行程の間にシリンダ内に水を直接噴射する内燃機関に関する。
2.関連技術
アルコールのような他の物質を含む溶液中の水および水のような様々な流体は、炭化水素燃料エンジンに注入され、エンジン動作を改善する。圧縮行程の間に、水滴は気化し、燃焼室内で発生した熱エネルギーを吸収して早期着火を防止する。気化した水は、その後、燃焼行程中に燃焼燃料混合物によって加熱され、膨張し、燃焼プロセスの機械的効率を高める。有利な副作用には、エンジンのシリンダ壁にカーボンが蓄積するのを防止することが含まれる。水噴射の有益な効果の結果として、エンジンは、より希薄な燃料混合物で、より円滑かつ効率的に作動することができる。さらに、ピーク燃焼温度の低下は、窒素酸化物の形成を減少させ、エンジン構成要素の熱応力を最小にする。
イ.「The present invention includes an engine of at least one cylinder complete with intake/exhaust manifolds and valves, a method of igniting the fuel-air or fuel-enhanced-oxygen-air mixture, an injector/or injectors for dispensing the fuel, two turbochargers, one nitrogen pressure recovery turbine/compressor, three aftercoolers, injectors for atomized or other forms of low-temperature water delivery and oxygen/nitrogen gas separator membranes. The water injection system includes a pressurized water supply and a means for timing and metering the amount of water to be injected at precise time intervals and at precise pressures.
The present invention operates as follows. The inlet air charge is formed from two sources--a filtered ambient air stream and an high oxygen (enriched) content air stream. The total inlet air stream is compressed by a nitrogen pressure recovery turbine/compressor and discharged to a conduit extension of the intake manifold. Since the air stream is both pressurized and heated, due to the work of the turbine/compressor, the airstream must be cooled to increase charge density and reduce work the of the following turbocharger compressor. To that end an aftercooler heat exchanger is supplied, the net of which also increases the mass flow into the engine. The following turbocharger pressure boosts the air stream or enhanced oxygen airstream, discharging through an after cooler to a conduit tee. One leg of the tee goes to a second turbocharger/aftercooler combination and on to the nitrogen/oxygen separators. On the other leg of the tee, gaseous fuel is injected and mixed in the intake manifold. The cool fuel gas further depresses the intake charge temperature and increases density. The fuel-air or fuel-enhanced-oxygen-air mixture enters into the cylinder through the intake manifold and the intake valve. In the present invention, the intake valves are insulated with a high thermal resistance coating reducing heat flux to the fuel-air mixture. The result is that the fuel-air mixture enters the cylinder at a higher density thereby increasing the engine volumetric efficiency.
Upon entering the cylinder, the fuel-air or fuel-enhanced-oxygen-air mixture begins to absorb heat rapidly. This increase in temperature of the mixture is undesirable. Efficiency is sacrificed due to increased piston work requirements to compress the hotter gases. Therefore during the compression stroke, a water injection system injects high pressure, low temperature atomized water into the cylinder, mitigating this heat flux. As a result, the work of compression is reduced due to the decreased fuel-air or fuel-enhanced-oxygen-air mixture temperature and pressure. Furthermore, the injection of cooling water works to reduce the temperature of the fuel-air or fuel-enhanced-oxygen-air mixture below the pre-ignition temperature during compression, thereby allowing a higher, more efficient compression ratio. The lower temperature of compression along with the head absorption capacity of the water translate to a lower combustion temperature. Lower combustion temperatures translate into lower NOx emissions.」(第5欄第41行ないし第6欄30行)
(和訳)
本発明は、吸気/排気マニホールド及びバルブを備えた少なくとも1つのシリンダのエンジン、燃料空気又は燃料増強酸素空気混合気を点火する方法、燃料を分配するための1つのインジェクタ又は複数のインジェクタ、2つのターボチャージャ、1つの窒素圧力回収タービン/コンプレッサー、3つのアフタークーラー、噴霧されたまたは他の形態の低温水供給用のインジェクターおよび酸素/窒素ガスセパレーター膜を含む。注水システムは、加圧された水供給源と、正確な時間間隔と正確な圧力で注入される水の量を計時し計量するための手段とを含む。
本発明は以下のように動作する。入口空気充填物は、濾過された周囲空気流と、高酸素(豊富な)含有空気流との2つの供給源から形成される。全入口空気流は、窒素圧力回収タービン/圧縮機によって圧縮され、吸気マニホルドの導管延長部に排出される。空気流は、タービン/圧縮機の仕事のために加圧されかつ加熱されるので、空気密度を冷却して次のターボチャージャ圧縮機の仕事を減少させるために、空気流を冷却しなければならない。この目的のために、アフタークーラー熱交換器が供給され、それはまたエンジンへの質量流量を増加させる。次のターボチャージャー圧力は、アフタークーラーを通ってT字管に排出される空気流または増強された酸素空気流を高める。T字管のうちの1つは、第2のターボチャージャー/アフタークーラーの組み合わせに進み、窒素/酸素セパレーターに向かう。T字管のうちの他の管には、気体燃料が吸気マニホールドに噴射され、混合される。冷却された燃料ガスは、吸気チャージ温度をさらに低下させ、密度を増加させる。燃料空気または燃料増強酸素空気混合気は、吸気マニホルドおよび吸気バルブを通ってシリンダ内に入る。本発明では、吸気バルブは、燃料空気混合気への熱流を減少させる高耐熱コーティングで絶縁されている。その結果、燃料空気混合気はシリンダ内に高密度で進入し、それによってエンジン容積効率が向上する。
気筒に入ると、燃料空気または燃料増強酸素空気混合気は急速に熱を吸収し始める。混合気のこの温度上昇は望ましくない。より高い温度のガスを圧縮するためのピストン作業の必要性が増大するため、効率は犠牲になる。従って、圧縮行程の間、水噴射システムは高圧の低温噴霧水をシリンダ内に噴射し、この熱流束を緩和する。その結果、燃料空気または燃料増強酸素空気混合気の温度および圧力が低下するために圧縮作業が減少する。さらに、冷却水の噴射は、圧縮中の燃料空気または燃料増強酸素空気混合気の温度を早期着火温度よりも低くするように作用し、より高い、より効率的な圧縮比を可能にする。水の熱吸収能力に伴うより低い圧縮温度は、より低い燃焼温度に変換される。より低い燃焼温度は、より低いNOx排出につながる。
ウ.「The goal of the present invention is to increase operational thermodynamic efficiency and reduce NOx emissions by increasing the compression ratio and optionally increasing the oxygen content of the air supply. This goal can be achieved by the following objectives of the project: 1) allow operation at a higher compression ratio by utilizing water injection to mitigate the associated high compression temperatures; 2) optionally increase the oxygen content of the air supply by utilizing a nitrogen/oxygen gas separator membrane.」(第6欄第46ないし55行)
(和訳)
本発明の目的は、圧縮比を増加させ、場合により空気供給の酸素含有量を増加させることにより、作動熱力学的効率を高め、NOx排出を低減することである。この目標は、プロジェクトの以下の目標によって達成することができる。1)関連する高圧縮温度を緩和するために注水を利用することにより、より高い圧縮比での運転を可能にする。 2)必要に応じて、窒素/酸素ガス分離膜を利用して空気供給の酸素含有量を増加させる。
エ.「The engine 0 includes at least one thermally treated piston 22 with a yttria-zirconium coating for reduced heat transfer to the piston crown. The engine also includes at least one cylinder head 24 with at least one combustion chamber 12 which is equipped with up to two sparkplugs 18a and 18b, at least one intake valve 11, at least one exhaust valve 25, and one water injector 17 each per cylinder. The intake and exhaust valves 11 and 25 and engine head 24 facing the combustion chamber 12 of each cylinder is coated with yttria-zirconium up to, but not including the valve seats. The intake manifold 10 is fitted with a fuel injector 21 while the head 24 is fitted with water injector 17.」(第7欄第50ないし61行)
(和訳)
エンジン0は、ピストンクラウンへの熱伝達を低減するために、イットリア - ジルコニウムコーティングを有する少なくとも1つの熱処理されたピストン22を含む。 エンジンはまた、シリンダーごとに2つまでのスパークプラグ18aおよび18b、少なくとも1つの吸気バルブ11、少なくとも1つの排気バルブ25、および1つの水インジェクタ17を備えた少なくとも1つの燃焼室12を有する少なくとも1つのシリンダヘッド24を含む。各シリンダの燃焼室12に面する吸気及び排気バルブ11及び25並びにエンジンヘッド24は、イットリア - ジルコニウムでコーティングされているが、バルブシートは含まない。 インテークマニホールド10には、燃料インジェクタ21が取り付けられ、ヘッド24には、水インジェクタ17が取り付けられている。
オ.「Upon entering the combustion chamber 12, the fuel-air mixture begins to increase in temperature rapidly. This increase in the temperature of the fuel-air or fuel-enhanced-oxygen-air mixture is caused by a combination of heat of convection and radiation heat from the combustion chamber walls. Upon closure of intake valve 11 the temperature of the fuel-air or fuel-enhanced-oxygen-air mixture rises further due to the work of compression of the piston stroking towards top dead center. Therefore, during the compression stroke valve 16 opens to inject high pressure atomized water into the combustion chamber 12 through injector 17. The injected water will rapidly evaporate and mitigate the excessive temperature rise. As a result the work of compression is reduced due to the decreased fuel-air or fuel-enhanced-oxygen-air mixture temperature and pressure. Furthermore, the injection of cooling water works to keep the temperature od the fuel-air or fuel-enhanced-oxygen-air mixture below the dieseling temperature during compression thereby eliminating pre-ignition.」(第8欄第62行ないし第9欄第13行)
(和訳)
燃焼室12に入ると、燃料空気混合気は急速に温度が上昇し始める。燃料空気または燃料増強酸素空気混合気の温度のこの上昇は、燃焼室壁からの対流熱および輻射熱の組み合わせによって引き起こされる。吸気弁11が閉鎖されると、上死点に向かうピストンの圧縮作業のために、燃料空気または燃料増強酸素空気混合気の温度がさらに上昇する。したがって、圧縮行程中に弁16が開き、インジェクタ17を介して高圧霧状の水を燃焼室12に噴射する。注入された水は急速に蒸発し、過剰な温度上昇を緩和します。その結果、燃料空気または燃料増強酸素空気混合気の温度および圧力が低下するため、圧縮作業が減少する。さらに、冷却水の噴射は、圧縮中の燃料空気または燃料増強酸素空気混合気の温度をディーゼル温度以下に保ち、それによって早期着火を排除するように作用する。
カ.「Because of the measures taken above, the compression ratio of the present invention can be raised to as high as that for a normal diesel engine. This is beneficial since the net efficiency of combustion engines is affected by the compression ratio. The fuel-air mixture at the end of the compression stroke is a high pressure, relatively low temperature, oxygen enriched, higher water vapor content, lower nitrogen content mixture as compared to conventional spark/plasma ignited engines. The combustion process is initiated by firing spark plugs 18a and 18b with high voltage pulse trains. With this process, ignition of the ultra-lean fuel-air mixture is enhanced and will preclude misfires.」(第9欄第24ないし35行)
(和訳)
上記の対策のために、本発明の圧縮比は、通常のディーゼルエンジンの圧縮比と同等に高くすることができる。これは、燃焼機関の正味効率が圧縮比の影響を受けるので有益である。圧縮行程終了時の燃料空気混合気は、従来のスパーク/プラズマ点火エンジンと比較して、高圧、比較的低温、酸素富化、より高い水蒸気含有量、より低い窒素含有率の混合気である。燃焼プロセスは、スパークプラグ18aおよび18bを高圧パルス列で点火することによって開始される。このプロセスにより、超希薄混合気の点火が高められ失火が防止される。
キ.上記ア.の記載から、引用文献1には、炭化水素燃料を使用するエンジン0の運転方法が記載されることが明らかである。
ク.上記エ.及び第1図の記載から、エンジン0は、少なくとも1本のシリンダ23と、少なくとも1本のシリンダ23の内部のピストン22と、少なくとも1つの吸気バルブ11と、少なくとも1つの排気バルブ25と、ウォーターリザーバ14と、ウォーターリザーバ14に接続された水インジェクタ17と、燃料を噴射するための少なくとも1つのインジェクタ21とを備えることが明らかである。
ケ.上記イ.、オ.及び第1図の記載から、引用文献1には、エンジン0の運転方法の各サイクルにおいて、ウォーターリザーバ14に接続された水インジェクタ17から、各サイクルの圧縮行程中のいずれかの時点で、低温噴霧水を、少なくとも1本のシリンダ23内に噴射する工程を備えることが明らかである。
コ.上記ア.、オ.及びカ.の記載から、引用文献1には、エンジン0の運転方法の各サイクルにおいて、超希薄燃焼をするように少なくとも1本のシリンダ23に空気と燃料を供給する工程を備えることが明らかである。
サ.上記ウ.及びカ.の記載から、引用文献1には、エンジン0の圧縮比がディーゼルエンジンの圧縮比と同等の高圧縮比であることが明らかである。
(2) 引用発明
上記(1)及び図面の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
<引用発明>
「炭化水素燃料を使用するエンジン0の運転方法であって、
前記エンジン0は、少なくとも1本のシリンダ23と、前記少なくとも1本のシリンダ23の内部のピストン22と、少なくとも1つの吸気バルブ11と、少なくとも1つの排気バルブ25と、ウォーターリザーバ14と、前記ウォーターリザーバ14に接続された水インジェクタ17と、前記炭化水素燃料を噴射するための少なくとも1つのインジェクタ21と、を備え、
前記運転方法の各サイクルにおいて、
前記ウォーターリザーバ14に接続された前記水インジェクタ17から、前記各サイクルの圧縮行程中のいずれかの時点で、低温噴霧水を、前記少なくとも1本のシリンダ23内に噴射する工程と、
超希薄燃焼をするように前記少なくとも1本のシリンダ23に空気と燃料を供給する工程とを備え、
前記エンジン0の圧縮比がディーゼルエンジンの圧縮比と同等の高圧縮比であるエンジン0の運転方法。」
4.2 引用文献2
当審の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2000-204990号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「ガソリン自己着火内燃機関」について、次の事項が図面とともに記載されている。
ア.「【請求項1】 ピストン往復運動をクランク軸回転運動に変換し出力を得る火花点火4サイクル内燃機関において、少なくともバルブ開閉時期を可変と出来る可変動弁機構を有し、吸気弁閉時期を可変にすることにより有効圧縮比を可変とし機関運転条件に応じて圧縮比を高め、火花点火から自己着火燃焼すなわち均質予混合気圧縮着火への切り替わりを行い、前記自己着火運転領域における高負荷時に水を噴射できる噴射装置を備えたことを特徴とするガソリン自己着火内燃機関。」
イ.「【0005】しかしながら、従来の水噴射機構は、運転領域によらず噴射される等、制御が十分でないため、これを自己着火燃焼を有する機関システムに適応した場合は、以下の問題点が生じる。
(1)自己着火運転域の特に低負荷領域においては、水噴射をすると逆に自己着火現象が起こりにくくなり、機関運転条件が不能となると共に、運転可能な負荷範囲が更に制限されてしまう。
(2)機関運転条件の全域にわたり自己着火燃焼が成立するのは困難であるため、機関システムとしては、火花点火との組み合わせシステムとなる。これを前提に考えると、水噴射は、火花点火時との組み合わせシステムとなる。これを前提に考えると、水噴射は、火花点火運転時に、特に低負荷時には不要となり、水ポンプ駆動損失等に起因する燃費の悪化が生じる。
【0006】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、水噴射を自己着火燃焼を有する機関システムに適応する場合、運転条件により水噴射の量、有無等の制御を行うことにより、機関のより広い負荷範囲で高効率かつ低Nox排出である均質予混合圧縮着火燃焼を実現すると共に、ノッキングの発生を抑制しながら、火花点火との切り替わりをスムーズに行うことを目的とする。」
ウ.「【0018】
【発明の作用】請求項1に記載の発明においては、あらかじめ設定された自己着火高負荷運転時に、水噴射を行い、耐ノック性の向上を図り、供給燃料量をアップを可能とする。それにより、高負荷域への運転領域が拡大され、より広い運転領域において、低エミッション化、低燃費化が達成される。」
4.3 引用文献3
当審の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開平8-4533号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「ガス燃料エンジン」について、次の事項が図面とともに記載されている。
ア.「【0012】本発明の目的とするところは、過早着火及びノッキングの発生を防止してエンジンの高出力化を図るとともに排ガス中のNOx を低減することにある。」
イ.「【0018】71は副燃焼室3に装着されたグロープラグ等からなる電気加熱補助着火手段、8は副燃焼室3に併設された水噴射弁で、ピストン1の圧縮行程の途中において副燃焼室3内に水を噴射する。10は水噴射弁8に水を圧送する水ポンプである。」
ウ.「【0021】ピストン1が圧縮行程に入ると、主燃焼室2内の希薄ガス燃料は圧縮せしめられてその圧力及び温度が上昇するとともにその一部は噴口11を通って副燃焼室3内に流入する。圧縮行程の途中では水噴射弁8より副燃焼室3内に水が噴射され、副燃焼室3及びこの中に流入した希薄ガス燃料の温度上昇が抑制される。」
4.4 引用文献4
当審の拒絶理由に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2000-8898号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「ディーゼルエンジンの予混合強制点火燃焼方法」について、次の事項が図面とともに記載されている。
ア.「【0005】
【発明が解決しようとする課題】前述のように、従来のディーゼルエンジンにおいては混合気の濃度やガス温度の不均一が発生し、スモークの発生やNOX 量が増大するが、この対策として予混合燃焼方式が採用されている。しかし、この予混合燃焼方式においては自着火が発生し、燃焼速度のコントロールができず、希薄予混合気を確実に燃焼させる制御ができず、燃料を定着火させ、燃焼を安定して行わせることが望まれていた。
【0006】そこで本発明では、燃料を希薄予混合方式とし、燃料の噴射のタイミングに工夫をし、更に水を適度に噴射して混合することにより、自着火を防止し、予混合化を促進して確実な燃焼を行わせることのできるディーゼルエンジンの予混合強制点火燃焼方法を提供することを課題としてなされたものである。」
イ.「【0020】図2は水噴射のタイミングを示す図であり、上記の図1で説明した実施の第1形態における水噴射のタイミングである。工程(B)において、水は-90°から0°の範囲において水噴射ノズル6から噴射されるが、好ましくは霧状にして吹き出し、燃料、空気との混合を良好にするように噴射させる。このような期間に水を噴射することにより、着火核が成長しないように冷却し、又、水の噴射による運動量により着火核を攪拌により成長しないようにするものである。これにより自着火が防止され、工程(C)による点火用燃料弁7からの燃料で着火がなされる。
【0021】図3は本発明の実施の第2形態に係るディーゼルエンジンの予混合強制点火燃焼方法の水噴射のタイミングを示す図であり、水の噴射は図1に示す工程(B)においてなされる。水の噴射の時点はピストンの位置で-150°~120°の範囲でなされ、(a)は主燃料ノズルから層状に噴射される例である。即ち、図示のように、燃料15a、水16、燃料15bのように層を形成し、噴射される。
【0022】図3(b)は実施の第2形態において、燃料と水とをそれぞれ2系統から独立に同じ-150°~120°の範囲のタイミングで噴射する例であり、この場合には燃料はメイン燃料弁5から、水は水噴射弁6からそれぞれ噴射される。」
ウ.「【0024】上記に説明の水の量としては、第1,第2実施の形態のいずれにおいても水の最大値としては燃料/水=1/1、あるいは少い例では7/3程度とし、燃料の量は変化せず水の分だけシリンダ1内への流入量が増すものである。」
5.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、その構造、機能又は技術的意義からみて、引用発明における「エンジン0」は本願発明における「内燃エンジン」に相当し、以下同様に、「シリンダ23」は「シリンダ」に、「ピストン22」は「往復動ピストン」に、「吸気バルブ11」は「吸気弁」に、「排気バルブ25」は「排気弁」に、「ウォーターリザーバ14」は「給水源」に、「水インジェクタ17」は「水噴霧器」に、「インジェクタ21」は「燃料噴霧器」に、「低温噴霧水」は「液状水」に、「超希薄燃焼をするように」は「理論空燃比よりも大きい空燃比w/wで」にそれぞれ相当する。
また、引用発明における「前記ウォーターリザーバ14に接続された前記水インジェクタ17から、前記各サイクルの圧縮行程中のいずれかの時点で、低温噴霧水を、前記少なくとも1本のシリンダ23内に噴射する工程」と、本願発明における「前記給水源に接続された前記水噴射器から、前記各サイクルの圧縮ストローク中の前記ピストンの上死点前180°~30°間のいずれかの時点で、前記少なくとも1本のシリンダ内の、温度25℃で1気圧の周囲空気中に水蒸気の飽和点で存在する水の量より多く、かつ、前記少なくとも1本のシリンダに噴射される前記炭化水素燃料の量の20%w/w~800%w/wの量の液状水を、前記少なくとも1本のシリンダ内に噴射する工程」とは、「前記給水源に接続された前記水噴射器から、前記各サイクルの圧縮ストローク中のいずれかの時点で、液状水を、前記少なくとも1本のシリンダ内に噴射する工程」という限りにおいて一致し、また、引用発明における「前記エンジン0の圧縮比がディーゼルエンジンの圧縮比と同等の高圧縮比である」ことと、本願発明における「前記内燃エンジンの有効圧縮比が13:1より大である」こととは、「前記内燃エンジンの有効圧縮比が高圧縮比である」ことという限りにおいて一致する。
以上から、本願発明の用語に倣って整理すると、本願発明と引用発明とは、
「炭化水素燃料を使用する内燃エンジンの運転方法であって、
前記内燃エンジンは、少なくとも1本のシリンダと、前記少なくとも1本のシリンダの内部の往復動ピストンと、少なくとも1つの吸気弁と、少なくとも1つの排気弁と、給水源と、前記給水源に接続された水噴射器と、前記少なくとも1本のシリンダに前記炭化水素燃料を噴射するための少なくとも1つの燃料噴射器と、を備え、
前記運転方法の各サイクルにおいて、
前記給水源に接続された前記水噴射器から、前記各サイクルの圧縮ストローク中のいずれかの時点で、液状水を、前記少なくとも1本のシリンダ内に噴射する工程と、
理論空燃比よりも大きい空燃比w/wで前記少なくとも1本のシリンダに空気と燃料を供給する工程とを備え、
前記内燃エンジンの有効圧縮比が高圧縮比である内燃エンジンの運転方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
「前記給水源に接続された前記水噴射器から、前記各サイクルの圧縮ストローク中のいずれかの時点で、液状水を、前記少なくとも1本のシリンダ内に噴射する工程」に関して、
本願発明は「前記給水源に接続された前記水噴射器から、前記各サイクルの圧縮ストローク中の前記ピストンの上死点前180°~30°間のいずれかの時点で、前記少なくとも1本のシリンダ内の、温度25℃で1気圧の周囲空気中に水蒸気の飽和点で存在する水の量より多く、かつ、前記少なくとも1本のシリンダに噴射される前記炭化水素燃料の量の20%w/w~800%w/wの量の液状水を、前記少なくとも1本のシリンダ内に噴射する工程」であるのに対し、
引用発明は、圧縮行程中の何れかの時点ではあるものの、圧縮行程中の「前記ピストンの上死点前180°~30°間」のいずれかの時点との限定がなく、また、低温噴霧水に関して、「少なくとも1本のシリンダ内の、温度25℃で1気圧の周囲空気中に水蒸気の飽和点で存在する水の量より多く、かつ、前記少なくとも1本のシリンダに噴射される炭化水素燃料の量の20%w/w~800%w/wの量」であるとの限定がされていない点。
<相違点2>
「前記内燃エンジンの有効圧縮比が高圧縮比である」ことに関して、
本願発明は、前記内燃エンジンの有効圧縮比が「13:1より大である」のに対し、
引用発明は、前記エンジン0の圧縮比がディーゼルエンジンの圧縮比と同等の高圧縮比である点。
各相違点について検討する。
<相違点1> について
エンジンの燃焼室内の燃焼現象は、要求されるエンジンの運転条件、燃焼室の形状、燃料の噴射形態(燃料量、噴射タイミング、噴射弁の取付位置、生成される噴霧の態様等)、吸排気弁の開閉タイミングなどの様々な要因により異なるものであるところ、燃焼室内の異常な燃焼現象であるノッキングや早期着火を抑制するために水噴射を行う内燃機関において、要求されるエンジンの運転条件や燃料の噴射形態などに基づいて水の噴射タイミングや噴射量を制御することは、例えば、引用文献2、引用文献3及び引用文献4に記載されるように周知技術であり、特に、引用文献4には、水の噴射タイミングが圧縮行程であるピストン2の位置が-90°から0°の範囲であること(段落【0020】及び図2)及びピストン2の位置が-150°~-120°の範囲であること(段落【0021】及び図3)並びに燃料と水の比が燃料/水=1/1あるいは7/3であることの記載がある。ここで、燃料/水=1/1あるいは7/3が重量比であると解しても体積比であると解しても、本願発明の「20%w/w~800%w/w」の範囲に含まれることになる。
しかるに、引用発明においても、早期着火を防止するために、低温噴霧水を噴射する際に、噴射タイミングや噴射量を実験的に最適化又は好適化することは、当業者にとって通常の創作能力の発揮にすぎず、低温噴霧水を噴射するタイミングをピストンの上死点前180°~30°間のいずれかの時点とし、噴射量を炭化水素燃料の量の20%w/w~800%w/wの量とすることも、上記引用文献4の記載に鑑みれば、当業者が普通に想定する範囲の値といえる。
また、本願発明における「温度25℃で1気圧の周囲空気中に水蒸気の飽和点で存在する水の量」とはいわゆる飽和水蒸気量と解すことができるから、液状水が「温度25℃で1気圧の周囲空気中に水蒸気の飽和点で存在する水の量より多く」ということは、水が水蒸気ではなく液体として存在し得ることを単に示しているにすぎず、引用発明においても、低温噴霧水は霧化されているとしても液体であることは明らかであるから、この点は実質的な相違点ではない。
<相違点2>について
一般的なディーゼルエンジンの圧縮比が13:1より大きいことは例示するまでもなく周知であるから、引用発明のエンジン0も圧縮比が13:1より大きいことは明らかであり、この点は実質的な相違点ではない。
<本願発明の効果>について
本願の明細書の段落【0105】ないし【0110】並びに図10及び図11には、(実施例1)として、「水噴射は、上死点前300°、3ミリ秒間k80psi(当審注:「k80」は「80」の誤記と思われる)でポート噴射した」実験、及び、(実施例2)として、「水噴射は、上死点前300°で3ミリ秒間80psiで行った」実験と水噴射無しの実験との比較が記載されているが、これらは本願発明と条件が異なるものであるから、本願発明の実施例とは認められない。
さらに、本願の明細書全体をみても、本願発明による格別顕著な効果について客観的に理解できる説明は一切なく、本願発明は、引用発明及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
6.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
7.結語
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2017-011298