特許拒絶査定不服審判
2017-004107
高純度結晶性ジメチルフマラートの調製方法
- 審判番号
- 2017-004107
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2014-514905外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年03月22日
- 審決日
- 2018年07月09日
- 公報発行日
- 2018年08月31日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】バイオジェン・エムエイ・インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】山本 秀策
- 【請求人代理人】森下 夏樹
- 分類
- P18 .536-WY (C07C) / P18 .537-WY (C07C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第5項、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2014-514905「高純度結晶性ジメチルフマラートの調製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月13日国際公開、WO2012/170923、平成26年 9月 4日国内公表、特表2014-522413、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
この出願は、2012年6月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年6月8日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成27年6月5日に上申書および手続補正書が提出され、同年11月26日付けで拒絶理由が通知され、平成28年6月3日に意見書、手続補正書および手続補足書が提出され、同年11月18日付けで拒絶査定され、平成29年3月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年4月5日に手続補正書(方式)が提出され、同年8月24日に上申書が提出され、当審にて、同年12月8日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成30年6月5日に意見書および手続補正書が提出されたものである。
第2 補正の却下の決定
1.補正の却下の決定の結論
平成30年6月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。
2.補正の却下の決定の理由
(1)本件補正の内容
本件補正は、補正前の請求項1の「 【請求項1】
以下を含むジメチルフマラートの調製方法:
(a)フマル酸、および
(b)メタノールを、
硫酸の存在下、フマル酸1kgあたり5.77~5.81リットルのメタノールというメタノールのフマル酸に対する比率で、
1:0.01~1:0.25モル当量の範囲にあるフマル酸:硫酸の比率で、
3.0~27時間にわたって、
60℃~70℃の温度で、
2%~5%の水をさらに含む反応混合物中で反応させて、ジメチルフマラートおよび低レベルのジメチルスルファートを含む生成物混合物を得ることであって、ここで、ジメチルスルファートのレベルが4.0ppm未満である、方法。」を
補正後の請求項1の「 【請求項1】
(a)フマル酸、および
(b)メタノールを、
硫酸の存在下、フマル酸1kgあたり5.77~5.81リットルのメタノールというメ
タノールのフマル酸に対する比率で、
1:0.01~1:0.25モル当量の範囲にあるフマル酸:硫酸の比率で、
3.0~27時間にわたって、
60℃~70℃の温度で、
2%~5%の水をさらに含む反応混合物中で反応させて、ジメチルフマラートおよび低レ
ベルのジメチルスルファートを含む生成物混合物を得ること含む、ジメチルフマラートの
調製方法。」とする補正事項(以下、「補正事項」という。)を含むものである。
上記補正事項は、補正前の発明特定事項である「ここで、ジメチルスルファートのレベルが4.0ppm未満である」との事項を削除するものであって、特許請求の範囲を拡張するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項に掲げるいずれの目的にも該当しないものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件を満たしていないので、上記のとおり本件補正を却下する。
第3 原査定及び当審拒絶理由の概要
1.原査定(平成28年11月18日拒絶査定)の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合しておらず、特許法第36条第6項の規定する要件を満たしていない。
本願請求項1~6に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に適合しておらず、特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしていない。
2.当審拒絶理由の概要
本願請求項1~6に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に適合しておらず、特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしていない。
第4 本願発明
本件補正は、前記「第2 補正の却下の決定」のとおり、却下された。
したがって、本願請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」~「本願発明6」といい、併せて「本願発明」ともいう。)は、平成29年3月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
以下を含むジメチルフマラートの調製方法:
(a)フマル酸、および
(b)メタノールを、
硫酸の存在下、フマル酸1kgあたり5.77~5.81リットルのメタノールというメタノールのフマル酸に対する比率で、
1:0.01~1:0.25モル当量の範囲にあるフマル酸:硫酸の比率で、
3.0~27時間にわたって、
60℃~70℃の温度で、
2%~5%の水をさらに含む反応混合物中で反応させて、ジメチルフマラートおよび低レベルのジメチルスルファートを含む生成物混合物を得ることであって、ここで、ジメチルスルファートのレベルが4.0ppm未満である、方法。
【請求項2】
ジメチルスルファートのレベルが3.0ppm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジメチルスルファートのレベルが2.0ppm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ジメチルスルファートのレベルが1.0ppm未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
さらに、前記ジメチルフマラートの粒径を小さくさせることを含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記ジメチルフマラートの小さくさせた粒径が20μmから250μmの範囲である、請求項5に記載の方法。
第5 原査定についての判断
1.判断
(1)原査定の内容
原査定は、明細書の【0044】の記載は、望まれる数値範囲の例示でしかなく、【0080】の「立証済みの許容範囲」には、正常動作範囲外を含み、何が立証済みであるのかも不明であり、単離、乾燥、粉砕等に関する表2~7も請求項1と異なる調製方法のものであり、実施例がいずれの実施形態に対応するものであるのか不明であるし、ジメチルスルファートのレベルが4.0ppm未満のジメチルフマラートを含む生成物混合物に関して一切記載がなく、審判請求人が提出した手続補足書に添付した甲第5号証の「4.0ppm」との記載も、実測値ではなく、補正後の請求項1の反応方法とは別の硫酸エステル不純物分解反応速度に基づく予測値であることを指摘し、前記「第3 1.」のとおり、特許法第36条第6項第1号および特許法第36条第4項第1号の適合性を問うものである。
(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の判断
まず、本願発明1につき、特許法第36条第6項第1号について判断する。
ア 本願発明1は、【0078】~【0081】の実施例4の【0080】の【表1】の「正常動作範囲」に記載されている条件とフマル酸1kgに対する硫酸(触媒)の比率以外は同一であって、フマル酸1kgに対する硫酸(触媒)の比率についても、「立証済みの許容範囲」と同一の条件であり、実施例4の【0081】には、「【0081】 ジメチルフマラートの形成を、図1に示す各種硫酸量に基づき分析した。正常動作条件を使用した異なる量の硫酸触媒(0.01、0.05、および0.25mol当量)との反応により、同様の単離収量(78~79%)で、フマル酸水素メチルが不検出量のジメチルフマラートを得た。(フーリエ変換赤外分光で構成し、かつ高速液体クロマトグラフィにより計測された最終の濃度へと正規化した)反応プロファイルにより、反応を十分に長い時間で行った場合、生成物の平衡濃度が、使用した硫酸触媒の全てのレベルで達成されたことが示唆される。」(下線は当審にて追加。以下同様。)との記載もある。
【0078】【0079】に示された、表1の「正常動作範囲」,「立証済みの許容範囲」と重複する条件でジメチルフマラートが製造されていることを踏まえれば、【0080】記載の条件で、ジメチルフマラートが製造できることは明らかである。
イ そして、本願明細書には、【0025】【0026】にフマル酸、フマル酸水素メチル、ジメチルフマラートの平衡反応に関して、【0050】にモノメチルスルファートおよびジメチルスルファート(以下、「DMS」ともいう。)の発生および消費についての多段階反応機構に関して、【0052】【0053】にモノメチルスルファートの形成及び加水分解に関して、【0054】にDMSのメタノリシスおよび加水分解に関して、【0055】~【0057】にDMSの形成反応及びDMSの形成に関する速度定数の計算に関しての各説明が、【0104】にモノメチルスルファートの正反応速度定数6.4×10-5L/mol・秒、【0105】にモノメチルスルファートの加水分解反応速度定数6.4×10-8L/mol・秒、【0109】にDMSのメタノリシスについての速度定数4.1×10-5L/mol・秒、【0111】にDMSの加水分解速度定数2.3×10-4L/mol・秒との各データを得たことの各説明が、それぞれ記載され、本願発明1によるジメチルフマラート中のDMS減少の理論的説明がなされている。
ウ したがって、上記実施例4において、表1のエステル化反応パラメータの範囲の製造条件で、ジメチルフマラートが平衡状態で形成されたことが読み取れ、上記各反応の速度定数の検討からDMS消費に寄与する反応速度が形成に寄与する反応速度よりはるかに大きいことが読み取れるのであるから、当業者であれば、本願明細書の記載からジメチルフマラート中のDMSは相当程度少なくなっていることが理解できる。
そして、上記の点に加えて、本願明細書においては、高純度のジメチルフマラートが含有する低レベルのDMS量に関して、【0040】に4ppm未満、3ppm未満、2ppm未満、1ppm未満という実施形態を記載していることも考慮すると、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明でないとまですることはできない。
また、後記(3)イのとおり、上記高純度のジメチルフマラートが含有する低レベルのDMS量に関しては、甲第5号証において確認されている事項と符合するものでもある。
(3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)の判断
次に、同じく本願発明1につき、特許法第36条第4項第1号について判断する。
ア 前記(2)で述べたのと同様に、本願明細書には、本願発明1に対応した実施例として、【0080】の【表1】に「正常動作範囲」とともに「立証済みの許容範囲」が示されており、そのエステル化反応条件は、同一のものであるから、当業者であれば、その他の実施例の記載や、多段平衡反応の反応速度等の理論的説明を参考に、本願発明1のジメチルフマラートの調製方法を実施することに過度な試行錯誤を要するとまではいえないといえる。
フマル酸のエステル化によって、ジメチルスルファートのレベルが4.0ppm未満のジメチルフマラートが生成したことの具体的実験の直接の記載はないものの、ジカルボン酸のメタノールによるエステル化反応が基本的反応であり、ジカルボン酸の種類として代表的なフマル酸を選択したことによりエステル化反応として特異な変化を生じるとは考えられないことからみて、当業者であれば、本願明細書の記載および技術常識を参考に、ジメチルフマラート中のジメチルスルファートの低減を図り、過度な試行錯誤なく本願発明1を実施できるものといえる。
イ 手続補足書の甲第5号証の記載について
手続補足書の甲第5号証の記載について一応検討する。
審判請求人が提出した手続補足書に添付した甲第5号証(Organic Process Reserch and Development, 2012,16,232-239)には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(イa)「結果と考察
この調査は、商業的なジエステル合成における硫酸由来の不純物を形成する可能性をより良く理解するために行われた。反応は、出発物質であるジカルボン酸のエステル化を達成するためにメタノールと触媒量の硫酸を用いる(式1)。硫酸由来の反応副産物は、潜在的に、モノメチルスルファートとジメチルスルファートを含み得る。
まず、2つの硫酸エステル不純物(MMS、DMS)の形成をさらに研究するために必要とされるベースライン条件を確立するためにエステル化反応速度論が検討された。反応混合物は、1当量のジカルボン酸、16.6当量のメタノール(5.7容量)および0.25当量の濃H2SO4(0.12容量)からなった。この溶液を65℃における穏やかな還流状態まで加熱し、時間経過のサンプルを1H NMRにより分析した。反応は3時間以内に完了し、積分ピークデータを用いて、図1に示される反応速度論プロフィールを生じた(ミリモル 対 時間)。」(233頁 左欄第4~5段落)
(イb)「DynoChem反応速度モデルと、プロセス流において測定されたDMS濃度の比較。
誘導された速度常数は、DMSの形成/分解の動態を予測するために作製された反応速度モデルに全データを統計的に当てはめることから得られた。その後、このモデルを用いて、疑似エステル化プロセス流におけるDMSの形成を研究し、そして、プラントにおいて用いられる典型的な3時間操作ウィンドウ内で、定常状態レベルのジメチルスルファートが形成されることを実証した。無水の開始条件を想定すると、反応容器中のDMSの定常状態の濃度は、反応混合物中で4ppmを超えないと予測された17。典型的に、製造プラントにおいて用いられる試薬等級のメタノールは無水ではなく、加水分解の速度(k-2)が、DMSの形成(k2)よりも5桁速いため、混入水が、この反応系におけるDMSの形成をさらに抑制さえするであろう。しかしながら、この計算は、プロセスの欠陥モードの評価における最悪のケースのシナリオとして用いられ得る。
速度常数を予測するために最初に使用されたそれらの化学システムは、医薬物質製造中存在するであろうカルボン酸を含んでではいなかった。ジメチルサルフェートは強力なアルキル化試薬であり、カルボン酸置換体と反応したのかもしれないし、さらに混合物中のDMS濃度を減少させている。Teasdaleは、サルフォネートエステル形成は、反応混合物が、やや過剰の弱塩基含む場合に効果的に抑制され、それが医薬物質のシミュレートに使用されたと依然に報告している5。
全ての成分を含有するプロセス中の反応混合物を、GC-MSによってDMS含量について試験し、その結果は、表2のエントリー1に示されるように、<0.5μg/mL(ppm)であった。反応溶液中のDMS濃度は、反応速度モデルからの予測値を下回っており、ジメチルスルファートが、実際のプロセス条件下では、測定可能なレベルにおいて生成されなかったことが確認される。
この反応系をさらに検証するために、DMSストック溶液を重量測定で調製し、そして、アリコートを、1000ppmの濃度にて反応混合物にスパイクした。反応の過程の間、サンプルを採取し、そして、改良GC-MSサンプル抽出調製手順を用いて、溶液をDMSについて分析した。ジメチルスルファートは、1時間後に20ppmで存在し、わずか3時間後には<0.5ppmまで急速に減少した。(表2)
APIもまたDMSについて試験したが、これは医薬品中で検出されなかった(この方法の検出限界である0.1ppm未満)。
これらの実験中にリアクタ内にスパイクされたジメチルスルファートは、反応速度モデルによって予測されたレベル(溶液中に4ppm)を250倍超えていた。これらの結果は、プロセスの条件が実際に、生成されるDMSのインサイチュレベルを制御することを確認するものである。1つの可能な説明は、DMSと大過剰(3700倍)で存在するカルボン酸基質の間の反応である18。この反応は、式7として示される。
反応マトリクス内でのDMSの効率的な消費は、この不純物のレベルが毒性学的懸念のための閾値に達さないことを確実にする。」(236頁右欄下から10行~237頁右欄式(7)下10行)
(イc)「実験項
・・・
全 NMRスペクトルを取得し、Varian 500MHz NMRを使用して2.5ppmでのDMSO-d6と比較照合した。濃硫酸、ジカルボン酸(出発物質)、およびジメチルエステル(生成物)を、Sigma-Aldrich Chemical Companyから入手した。MMS(Na塩)およびDMSの信頼できる標準試料(Authentic standard)をSigma-Aldrich社から入手した。スパイク特定目的で、MMSの信頼できる試料を、市販のナトリウム塩のメタノール溶液をAmberlite FPA22レジン(H型、10モル当量)に通し、フラッシュエバポレータで油状になるまで濃縮させて、調製した。
・・・
DMSは、延長したメタノリシス後に平衡に達した直後に、ごく微量に存在していたが、DMSピークのS/N比は、10超:1であり、したがって、信頼性よく計測可能であった。
・・・
全実験データを当てはめて、速度定数データを作成し、総合的な速度論的モデルをDynoChem(version3.3)を使用して実施した。
・・・
DMSスパイク実験(spiking experiment)。DMSのストック溶液が調製され、種々のプロセス条件(表2)でジメチルサルフェートの処理のために使用が試みられた。
反応混合物中の最終濃度として(APIに対して)0.55%(5500ppm)のDMSを、反応開始時に、反応混合物(100グラムバッチ)に添加した。以下の条件を、本スパイク実験に使用した:
1.100gのジカルボン酸出発材料を入れる。
2.580mLのMeOHを入れ、480rpmで撹拌を開始しる。
3.21.3gの硫酸を入れる。
4.反応物を65±1℃まで加熱する。
5.DMS(~0.58g正確に秤量し、結果として得られるAPIに対し0.55%wt/wt(5500ppm))を入れる。
6.この温度で3時間維持する。3時間の反応時間中、分析のためにアリコートを取り出す。
7.8時間で22℃まで冷却し、2時間保持する。
8.濾過し、ケーキを70mLのMeOHで4回洗浄する。
9.ケーキを22℃で100mmHgにて乾燥させた。
10.DMS含量に関し、乾燥APIのサンプルを採取する。」(237頁右欄下から3行~238頁右欄15行)
(イd)「(脚注17)
実質的に無水の開始条件を想定すると、DynoChemにより予測した場合、定常状態条件下では、DMSの2.39×10-5モデルが反応混合物中に存在する。DMSの量を出発物質であるジカルボン酸(1mol)に対して正規化し、(mol DMS/mol 出発物質)として表される、24ppmの値が得られ得る。有効なDMS溶液濃度は、反応容積(約6容量)について較正することによって、4ppmであると決定された。」(239頁左欄13~19行)
ウ 甲第5号証の記載の検討
(ア)上記(イa)の記載からみて、甲第5号証は、出発物質であるジカルボン酸のエステル化を達成するためにメタノールと触媒量の硫酸を用いる反応において、硫酸由来の反応副産物であるモノメチルスルファートとジメチルスルファートをエステル化反応速度論から検討したものであって、反応混合物は、本願発明に該当する1当量のジカルボン酸、16.6当量のメタノール(5.7容量)および0.25当量の濃H2SO4(0.12容量)の割合で反応させているものであることが理解できる。
また、上記(イb)(イd)記載からみて、DynoChem反応速度モデルにより予測した場合、反応容器中のDMSの定常状態の濃度は、反応混合物中で4ppmを超えないと予測でき、系内の水分も考慮に入れるとさらに抑制されると理解できる。
また、表2におけるDMSのスパイクを行わなかった表2のエントリー1に示されるように、<0.5μg/mL(ppm)であったこと、表2のエントリー3に示されるように、1000ppmの濃度で反応混合物にスパイクした場合もDMSは、わずか3時間後には<0.5ppmまで急速に減少したことが実験によって確かめられている。
さらに、上記(イc)の記載からみて、甲第5号証の実験項の記載は、本願明細書の【0097】~【0103】と対応するものであり、本願明細書で記載検討している上記(2)で検討しているフマル酸、フマル酸水素メチル、ジメチルフマラートの平衡反応機構、モノメチルスルファートおよびジメチルスルファートの発生および消費についての多段階反応機構に関する事項も甲第5号証と同様のものである。
(イ)甲第5号証には、出発物質であるジカルボン酸がフマル酸であることや、水分量が2~5%であることの記載はないものの、ジカルボン酸のメタノールによるエステル化反応が基本的反応であり、ジカルボン酸の種類として代表的なフマル酸を選択したことによりエステル化反応として特異な変化を生じるとは考えられないこと、水分量は、エステル化反応の進行や原料から当然系内に存在しているといえる。
そうすると、甲第5号証の理論的結果及び実験結果は、特許請求の範囲の請求項1に係る発明について記載した明細書の記載とDMSの低レベルの程度に関する化学的事実として符合する結果であるといえる。
そして、甲第5号証の理論的結果及び実験結果は、結果的に本願が、本願発明1に関して、実施可能要件を満たしているという前記アに示した結論を補足するものであるともいえる。
(4)請求項1に係る発明についてのまとめ
前記(2)のとおり、本願明細書において、ジメチルスルファートのレベルが4.0ppm未満のジメチルフマラートを含む生成物混合物に関して、発明の詳細な説明において、実験において確認した記載がないとの拒絶査定の特許法第36条第6項第1号の拒絶理由は存在しない。
また、前記(3)のとおり、本願明細書の記載及び技術常識からみて、請求項1に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、拒絶査定の特許法第36条第4項第1号の拒絶理由は存在しない。
(5)請求項2~6に係る発明について、
ア 請求項1に係る発明について検討したのと同様に、本願明細書に記載された反応機構に関する理論的説明および正常動作範囲等を示した実施例の記載、高純度のジメチルフマラートが含有する低レベルのDMS量の実施態様(3ppm未満、2ppm未満、1ppm未満)の記載、エステル化反応の技術常識からみて、請求項2~4に係る発明についても、発明の詳細な説明に記載されたものであり、拒絶査定の特許法第36条第6項第1号の拒絶理由は存在しない。
イ また、本願明細書の記載やそれに符合する甲第5号証の化学的事実を考慮すると、請求項2~4に係る発明についても、本願明細書の記載及び技術常識からみて、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、拒絶査定の特許法第36条第4項第1号の拒絶理由は存在しない。
ウ また、本願明細書実施例8において、20~40μm前後までジメチルフマラートの粒径を小さくできたことの記載があるのであるから、請求項5~6に係る発明についても、本願明細書の記載及び技術常識からみて、発明の詳細な説明に記載されたものであり、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえ、拒絶査定の特許法第36条第6項第1号の拒絶理由および特許法第36条第4項第1号の拒絶理由は存在しない。
2.小括
以上のとおり、原査定を維持することはできない。
第6 当審拒絶理由について
当審では、特許請求の範囲に係る発明について、【0080】の表1に記載されたエステル化反応パラメータの正常動作範囲において、不純物であるジメチルスルファマートがごく微量になったジメチルフマラートが形成されるのかどうかに関して、特許法第36条第4項第1号の拒絶理由を通知している。
しかしながら、平成30年6月5日付け意見書3頁の「本願明細書0015段落は、本願発明のプロセスが、「ジメチルスルファートをごく微量しか含有しない高純度のジメチルフマラートを生成する」と記載しています。したがいまして、実施例4の表1の「正常動作範囲」に記載されるとおりの反応パラメーターを採用する本願発明の方法が、「ジメチルスルファートをごく微量しか含有しない」ジメチルフマラートを生成することは明らかです。
加えて、本願の実施例12は、ジメチルスルファートのメタノリシスがジメチルスルファート(DMS)の減衰と、ジメチルエーテルの形成(溶液から泡立っている)を引き起こしたことを記載しています。また、0100段落には、「DMSは、延長したメタノリシス後に平衡に達した直後に、ごく微量に存在していた」と記載されており、さらに、0050段落には、メタノールによるジメチルスルファートの消費についての多段階反応機構の提案が記載されています。
それゆえ、当業者は、請求項1に記載されるように高濃度のメタノールを用いることで、ごく低レベルのジメチルスルファートを含む高純度のジメチルフマラートが生成され、本願の解決課題が解決されることを理解しました。」との審判請求人の主張、及び本願明細書に記載された反応機構に関する理論的説明および正常動作範囲等を示した実施例の記載、高純度のジメチルフマラートが含有する低レベルのDMS量の実施態様の記載、エステル化反応の技術常識に加えて、それらに符合する前記甲第5号証の理論的結果及び実験結果を参酌すると、この拒絶の理由は解消していると判断できる。
第7 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載について、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであり、発明の詳細な説明の記載が当業者が、その発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件及び同法同条第4項第1号の要件を満たしている。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2017-004107