特許異議申立
2016-700698
ギャザー部材
- 審判番号
- 2016-700698
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-158581外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年08月08日
- 審決日
- 2017年08月08日
- 公報発行日
- 2017年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1651.113-YAA(D01F) / P1651.121-YAA(D01F) / P1651.537-YAA(D01F) / P1651.536-YAA(D01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5853065号発明「ギャザー部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5853065号(以下、「本件特許」ともいう。)の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第5853065号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第5853065号の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成26年8月4日に出願され、平成27年12月11日にその特許権の設定登録がされたものである。その後、その特許について、特許異議申立人古川佳靖(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年11月7日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成28年12月28日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成29年2月16日に申立人より意見書が提出され、当審より平成29年4月19日付けで特許権者に審尋し、その指定期間内である平成29年5月18日に回答書が提出され、平成29年6月30日に申立人より上申書が提出されたものである。
第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の請求は、「特許第5853065号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。
(1)訂正事項1
ア.特許請求の範囲の請求項1に、
「ポリアルキレンエーテルジオール、有機ジイソシアネート化合物、及びイソシアネート基と反応する活性水素原子含有化合物から得られるポリウレタン弾性繊維が含有されたギャザー部材であって、該ギャザー部材から取り出した該弾性繊維のソフトセグメント部分の数平均分子量Msが4800以上11000以下であり、該弾性繊維の300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目の300%伸長時の応力(cN/dT)が0.050以上0.150以下であり、300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目の200%応力保持率(%)が65以上95以下であり、300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目後の残留歪み(%)が42以下であり、かつ、前記弾性繊維を構成するポリマーのソフトセグメント部分に含まれるポリアルキレンエーテルジオールの側鎖メチル基の平均個数Nmmsが、下記式(1):
3.8≦Nmms≦35 …式(1)
を満たす、前記ギャザー部材。但し、前記弾性繊維のソフトセグメント部分の数平均分子量Msは、前記ポリアルキレンエーテルジオールと前記有機ジイソシアネートからなるポリウレタン弾性繊維のNMRスペクトル図において、両端がウレタン結合である有機ジイソシアネートのメチレン基のピーク(f1)と、一方がウレタン結合でもう一方がウレア結合である有機ジイソシアネートのメチレン基のピーク(f2)の積分曲線の高さをそれぞれF1、F2としたとき、以下の構造式:
【化1】
{式中、R1~R3は有機基である。}中のソフトセグメント部分の平均繰り返し数mを、下記式(9):
m=2×(F1/F2) …式(9)
により求め、さらに、ソフトセグメント部分の数平均分子量Msとして下記式(10):
Ms=(Mdo+Mdi)×m+Mdo …式(10)
{式中、Mdo:ポリアルキレンエーテルジオールの数平均分子量、Mdi:有機ジイソシアネートの分子量、m:前記式(9)により求めた、前記構造式中のソフトセグメント部分の平均繰り返し数mである。}により求めたものであり、かつ、前記弾性繊維を構成するポリマーのソフトセグメント部分に含まれるポリアルキレンエーテルジオールの側鎖メチル基の平均個数Nmmsは、前記式(10)により求めたソフトセグメント部分の数平均分子量Msを、下記式(5):
Nmms=Nmd×{(Ms-Mdo)/(Mdo+Mdi)+1} …式(5)
{式中、Nmd:ポリアルキレンエーテルジオール1分子に含まれる側鎖メチル基の平均個数、Ms:ソフトセグメント部分の数平均分子量、Mdo:ポリアルキレンエーテルジオールの数平均分子量、Mdi:有機ジイソシアネートの分子量である。}に代入して求めたものである。」とあるのを、
イ.「ポリアルキレンエーテルジオール、有機ジイソシアネート化合物、及びイソシアネート基と反応する活性水素原子含有化合物から得られるポリウレタン弾性繊維がホットメルト接着剤を介して不織布に接着されているギャザー部材であって、該ギャザー部材を有機溶媒のシクロヘキサンに10分浸漬し、撹拌した後、該不織布から剥離させて該ギャザー部材から取り出し、1日風乾させた後の該弾性繊維のソフトセグメント部分の数平均分子量Msが6350以上7530以下であり、該弾性繊維の300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目の300%伸長時の応力(cN/dT)が0.050以上0.100以下であり、300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目の200%応力保持率(%)が65以上95以下であり、300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目後の残留歪み(%)が42以下であり、かつ、前記弾性繊維を構成するポリマーのソフトセグメント部分に含まれるポリアルキレンエーテルジオールの側鎖メチル基の平均個数Nmmsが、下記式(1):
3.8≦Nmms≦35 …式(1)
を満たす、前記ギャザー部材。但し、前記弾性繊維のソフトセグメント部分の数平均分子量Msは、前記ポリアルキレンエーテルジオールと前記有機ジイソシアネートからなるポリウレタン弾性繊維のNMRスペクトル図において、両端がウレタン結合である有機ジイソシアネートのメチレン基のピーク(f1)と、一方がウレタン結合でもう一方がウレア結合である有機ジイソシアネートのメチレン基のピーク(f2)の積分曲線の高さをそれぞれF1、F2としたとき、以下の構造式:
【化1】
{式中、R1~R3は有機基である。}中のソフトセグメント部分の平均繰り返し数mを、下記式(9):
m=2×(F1/F2) …式(9)
により求め、さらに、ソフトセグメント部分の数平均分子量Msとして下記式(10):
Ms=(Mdo+Mdi)×m+Mdo …式(10)
{式中、Mdo:ポリアルキレンエーテルジオールの数平均分子量、Mdi:有機ジイソシアネートの分子量、m:前記式(9)により求めた、前記構造式中のソフトセグメント部分の平均繰り返し数mである。}により求めたものであり、かつ、前記弾性繊維を構成するポリマーのソフトセグメント部分に含まれるポリアルキレンエーテルジオールの側鎖メチル基の平均個数Nmmsは、前記式(10)により求めたソフトセグメント部分の数平均分子量Msを、下記式(5):
Nmms=Nmd×{(Ms-Mdo)/(Mdo+Mdi)+1} …式(5)
{式中、Nmd:ポリアルキレンエーテルジオール1分子に含まれる側鎖メチル基の平均個数、Ms:ソフトセグメント部分の数平均分子量、Mdo:ポリアルキレンエーテルジオールの数平均分子量、Mdi:有機ジイソシアネートの分子量である。}に代入して求めたものである。」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2、3についても、同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
本件特許明細書の段落【0022】に、
「側鎖メチル基を持たないエーテルユニット部Aの1ユニットの分子量をMnm、側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの1ユニットの分子量をMm、AとBの共重合比をAr:Br、側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの1ユニット中の側鎖メチル基の個数をNMとしたときの、ポリアルキレンエーテルジオール1分子に含まれる側鎖メチル基の平均個数Nmdは、下記式(2):
Nmd=Mdo/[Mnm×{Ar/(Ar+Br)}+Mm×{Br/(Ar+Br)}]×Ar/(Ar+Br)×NM …式(2)
{式中、Nmd:ポリアルキレンエーテルジオール1分子に含まれる側鎖メチル基の平均個数、Mdo:ポリアルキレンエーテルジオールの数平均分子量、Mnm:側鎖メチル基を持たないエーテルユニット部Aの1ユニットの分子量、Mm:側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの1ユニットの分子量、Ar:側鎖メチル基を持たないエーテルユニット部Aの共重合比、Br:側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの共重合比、NM:側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの1ユニット中の側鎖メチル基の個数である。}により計算することができる。」とあるのを、
「側鎖メチル基を持たないエーテルユニット部Aの1ユニットの分子量をMnm、側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの1ユニットの分子量をMm、AとBの共重合比をAr:Br、側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの1ユニット中の側鎖メチル基の個数をNMとしたときの、ポリアルキレンエーテルジオール1分子に含まれる側鎖メチル基の平均個数Nmdは、下記式(2):
Nmd=Mdo/[Mnm×{Ar/(Ar+Br)}+Mm×{Br/(Ar+Br)}]×Br/(Ar+Br)×NM …式(2)
{式中、Nmd:ポリアルキレンエーテルジオール1分子に含まれる側鎖メチル基の平均個数、Mdo:ポリアルキレンエーテルジオールの数平均分子量、Mnm:側鎖メチル基を持たないエーテルユニット部Aの1ユニットの分子量、Mm:側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの1ユニットの分子量、Ar:側鎖メチル基を持たないエーテルユニット部Aの共重合比、Br:側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの共重合比、NM:側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの1ユニット中の側鎖メチル基の個数である。}により計算することができる。」に訂正する。
2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア.訂正事項1のうち「ポリウレタン弾性繊維がホットメルト接着剤を介して不織布に接着されているギャザー部材であって、該ギャザー部材を有機溶媒のシクロヘキサンに10分浸漬し、撹拌した後、該不織布から剥離させて該ギャザー部材から取り出し、1日風乾させた後の該弾性繊維」とする訂正は、「ギャザー部材」について「ポリウレタン弾性繊維がホットメルト接着剤を介して不織布に接着されている」ことを限定するとともに、ポリウレタン弾性繊維をギャザー部材から取り出す態様について「ギャザー部材を有機溶媒のシクロヘキサンに10分浸漬し、撹拌した後、該不織布から剥離させて該ギャザー部材から取り出し、1日風乾させた」旨限定するものであって、この訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、この訂正は、当審の平成28年11月7日付けで通知された記載不備に係る取消理由に対して、ポリウレタン弾性繊維をギャザー部材から取り出す態様を明確にするものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものにも該当する。
また、訂正事項1のうち「該弾性繊維のソフトセグメント部分の数平均分子量Msが6350以上7530以下」とする訂正は、「弾性繊維のソフトセグメント部分の数平均分子量Ms」の数値範囲を、訂正前に「4800以上11000以下」であったものを更に限定するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1のうち「該弾性繊維の300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目の300%伸長時の応力(cN/dT)が0.050以上0.100以下」とする訂正は、「弾性繊維の300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目の300%伸長時の応力(cN/dT)」の数値範囲を、訂正前に「0.050以上0.150以下」であったものを更に限定するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ.本件特許明細書の段落【0034】には「本実施形態のギャザー部材は、こうした部位に特に好適に用いられる。ギャザー部材は、弾性糸が伸長された状態でホットメルト等を介して不織布等に接着される方法を含む、紙おむつ、生理用品、マスク、包帯の製造工程における通常の方法により作製することができる。」と記載され、同じく段落【0040】には「前記(4)の方法で作製したギャザー部材を有機溶媒のシクロヘキサンに10分浸漬し、撹拌した。撹拌後、不織布から剥離した弾性繊維を取り出し、1日風乾させた。」と記載されている。
また、同じく段落【0054】の【表2】には、実施例1、2及び4の「弾性繊維のソフトセグメント部分の数平均分子量Ms」が、それぞれ「7520」、「6350」、「7530」であることが記載されている。これらは、訂正された「6350以上7530以下」の範囲のうち、下限値である「6350」(実施例2)と上限値である「7530」(実施例4)を示すとともに、範囲内の「7520」(実施例1)である。
さらに、同じく段落【0054】の【表2】には、実施例1、2及び4の「弾性繊維の300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目の300%伸長時の応力(cN/dT)」が、「0.050以上0.100以下」の範囲の、「0.059」、「0.100」、「0.095」であることが記載されている。
よって、訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ.また、訂正事項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
本件特許明細書の段落【0022】の式(2)は、「ポリアルキレンエーテルジオール1分子に含まれる側鎖メチル基の平均個数(Nmd)」を求める式であって、
Mdo:ポリアルキレンエーテルジオールの数平均分子量、
Mnm:側鎖メチル基を持たないエーテルユニット部Aの1ユニットの分子量、
Mm:側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの1ユニットの分子量、
Ar:側鎖メチル基を持たないエーテルユニット部Aの共重合比、
Br:側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの共重合比、
NM:側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの1ユニット中の側鎖メチル基の個数
の各値から求められる式(2)は、[ポリアルキレンエーテルジオールの平均重合度(1分子中に重合している平均ユニット数)]と、[側鎖メチル基を持たないエーテルユニット部Aと側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bのうち、側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの割合]と、[側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの1ユニット中の側鎖メチル基の個数]とを、掛け合わせるものであることは明らかである。
しかし、上記の[側鎖メチル基を持たないエーテルユニット部Aと側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bのうち、側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの割合]の項について、本件特許明細書の段落【0022】の式(2)中では、「Ar/(Ar+Br)」と記載されており、これは、側鎖メチル基を持たないエーテルユニット部Aの割合を意味しており、この記載では側鎖メチル基を持つエーテルユニット部Bの割合を求めることにならず、「Ar/(Ar+Br)」の記載のうち分子の「Ar」は、明らかな誤記であるといえる。
ここで、訂正事項2は、この明らかな誤記である段落【0022】の式(2)の「Ar/(Ar+Br)」との記載を、「Br/(Ar+Br)」と訂正するものであり、「ポリアルキレンエーテルジオール1分子に含まれる側鎖メチル基の平均個数(Nmd)」を求めようとする式(2)の意味と整合する。
実際、式(2)を、
Nmd=Mdo/[Mnm×{Ar/(Ar+Br)}+Mm×{Br/(Ar+Br)}]×Br/(Ar+Br)×NM
とすると、例えば、本件特許明細書の実施例1についてみれば、各値を【表1】から、「Mdo:1800、Mnm:72、Mm:86、Ar:90、Br:10、NM:2」とすると、「4.9」と算出され、【表1】中の値とも合致する。
よって、訂正事項2の訂正は、明らかな誤記を正しい記載に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2の訂正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定にも適合するものである。、
(3)一群の請求項について
上記訂正事項1及び2に係る各訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.請求項1~3に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~3に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、本件訂正発明1は、上記「第2 1.(1)イ」に示すとおりのものである。
2.取消理由の概要
訂正前の請求項1~3に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
[理由1]本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1には、「ギャザー部材から取り出した」旨規定されているが、ギャザー部材からの取り出す態様によって、ギャザー部材から取り出した繊維の物性は変動し得るものであり、そのような物性により特定される「ギャザー部材」は、明確ではない。
(2)明細書中(段落【0022】)の式(2)の「Ar/(Ar+Br)」は誤記ではないか。
[理由2]本件特許の請求項1~3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
[理由3]本件特許の請求項1~3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:特開2006-144192号公報
甲第2号証:特開平9-136937号公報
3.取消理由1(特許法第36条違反)に係る当審の判断
(1)ア.本件は、紙おむつ等のギャザー部のポリウレタン弾性糸は、「おむつの製造工程において弾性繊維は延伸工程やホットメルトによる接着工程等を経ることから、工程中に物性が変化し、使用方法によっては効果の程度が変動する」(本件特許明細書の段落【0003】)ため、「ギャザー部材を構成する弾性繊維が、特定の伸長時応力、回復力、残留歪み物性を有することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った」(同【0006】)ものであり、このギャザー部材を構成する弾性繊維の物性を、本件訂正発明1は、「ポリアルキレンエーテルジオール、有機ジイソシアネート化合物、及びイソシアネート基と反応する活性水素原子含有化合物から得られるポリウレタン弾性繊維がホットメルト接着剤を介して不織布に接着されているギャザー部材であって、該ギャザー部材を有機溶媒のシクロヘキサンに10分浸漬し、撹拌した後、該不織布から剥離させて該ギャザー部材から取り出し、1日風乾させた」ポリウレタン弾性繊維の物性により特定している。
申立人は、特許異議申立書(16頁6~13行)において、「ギャザー部材の素材、ギャザー部材への取り付け態様(例えば、熱を加えるか否か、どのような接着剤を使用するのかなど)、ギャザー部材からの取り外し態様(例えば、張力を作用させて取り外すのであればその張力の大きさがどの程度であるかなど)によって、ギャザー部材から取り出す繊維の物性は、大きく変動しうるし、意図的に大きな変動を伴うこともできる。・・・・『ギャザー部材から取り出した』旨の規定があることで、構成要件C~G(特に繊維の物性に関する構成要件D~F)は、無限とも言えるほど多彩に変化しうるということになり、発明の範囲を確定することができない。」と主張する。
そこで本件訂正発明1をみると、ギャザー部材の素材については「ポリアルキレンエーテルジオール、有機ジイソシアネート化合物、及びイソシアネート基と反応する活性水素原子含有化合物から得られるポリウレタン弾性繊維」と「不織布」からなり、ギャザー部材への取り付け態様については「ホットメルト接着剤を介して」接着し、ギャザー部材からの取り外し態様については「ギャザー部材を有機溶媒のシクロヘキサンに10分浸漬し、撹拌した後、不織布から剥離させてギャザー部材から取り出し、1日風乾させた」ものと、申立人が主張する物性が変動する要因として挙げる事項は、本件訂正発明1において特定されている。そして、申立人は、ギャザー部材から取り外す際、張力を作用させて取り外すのであればその張力の大きさがどの程度であるかにより、ギャザー部材から取り出す繊維の物性は大きく変動しうると主張するが、本件特許明細書に「ギャザー部材を有機溶媒のシクロヘキサンに10分浸漬し、撹拌した。撹拌後、不織布から剥離した弾性繊維を取り出し、1日風乾させた。」(段落【0040】)とあるように、「ポリウレタン弾性繊維」と「不織布」の素材同士を「ホットメルト接着剤を介して」取り付けたものを、「シクロヘキサン」に浸漬、撹拌して取り外す際に、ポリウレタン弾性繊維の物性が変わる程の外力を加えて引き剥がさないと、不織布からポリウレタン弾性繊維を取り出せないものではなく、取り外す際の外力により、ポリウレタン弾性繊維の物性が変動するというようなことはない。また、他に変動すると認めるに足る要因もない。
すると、本件訂正発明1で特定された態様により取り出されたポリウレタン弾性繊維の物性が変動するとは直ちにはいえず、取り出されたポリウレタン弾性繊維の物性で特定される本件訂正発明1は明確である。
また、本件訂正発明2及び3も同様である。
イ.さらに、本件特許明細書の段落【0035】~【0047】には、ポリウレタン弾性繊維の物性の計測方法が記載され、段落【0048】~【0054】には、具体的な実施例1~5とともに比較例1~3も記載されているから、これらの記載を参酌すれば、当業者であれば、本件訂正発明1~3を実施することが困難であるとはいえない。
ウ.申立人は、平成29年2月16日の意見書(「3(1)」)で、弾性部材の伸長の倍率の違いや、ホットメルト接着剤の種類の違いにより、不織布から取り出した際のポリウレタン弾性繊維の物性が変動し得ることを実験により確認した旨主張するが、この申立人の実験は、ポリウレタン弾性部材の伸長倍率やホットメルト接着剤の種類の違いにより、取り出す前のポリウレタン弾性部材の物性に差違が生じることを確認しているにすぎず、取り出す態様により物性に差違が生じることを示すものではなく、取り出したポリウレタン弾性部材の物性により特定される本件訂正発明1~3が、明確ではないとする根拠となり得るものではない。また、申立人の、ギャザー部材の作製後の期間の違い(意見書では製造直後か7ヶ月経過後か)により物性が変わるとの主張についても、上記と同様である。
また、申立人は、同じく意見書で、「作用させる剥離力、剥離速度、剥離の際の弾性繊維の掴み代をどのように設定するかなどによっても、物性は容易に変動する」とも主張するが、有機溶媒のシクロヘキサンに浸漬して撹拌することにより、ポリウレタン弾性繊維の物性が変わる程の外力を加えないと不織布からポリウレタン弾性繊維を取り出せないものとはいえず、取り出す際の外力によりポリウレタン弾性繊維の物性が変動するというようなことがないことは、上記アで述べたとおりであり、この申立人の主張も採用できない。
さらに、申立人は、同じく意見書で、シクロヘキサンの量、撹拌の態様、浸漬や撹拌の際の温度等の取り出し方、測定方法が規定されていない旨主張するが、上述したように、シクロヘキサンに浸漬して撹拌する際、ポリウレタン弾性繊維の物性が変わる程の外力を加えないと不織布からポリウレタン弾性繊維を取り出せないものでもなく、また、ポリウレタン弾性繊維の物性が変わることが容易に予測できるような取り外し方を、あえて取るようなことはしないことも明らかであるし、測定方法についても、本件特許明細書に記載の方法に依ることが明らかであるから、シクロヘキサンの量、撹拌の態様、浸漬や撹拌の際の温度等の取り出し方、測定方法についてまで、請求項に規定することが求められるものではない。
申立人は、平成29年6月30日の上申書(4頁3行~末行)で、「シクロヘキサンに10分浸漬し、撹拌した後、1日風乾させる」か否かにより、「300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目の300%伸長時の応力(cN/dT)」が変わることを実験により確認した旨主張するが、この申立人の実験も、「ギャザー部材を有機溶媒のシクロヘキサンに10分浸漬し、撹拌した後、不織布から剥離させてギャザー部材から取り出し、1日風乾させた」という本件の取り出す態様を経て、取り出したポリウレタン弾性部材の物性に差違が生じることを示したものではなく、取り出したポリウレタン弾性部材の物性により特定される本件訂正発明1~3が、明確ではないとする根拠とはなり得ない。
エ.また、本件特許明細書の段落【0022】中の式(2)の誤記は、本件訂正請求により訂正された。
オ.よって、本件訂正発明1~3は明確であり、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件訂正発明1~3に係る特許が、特許法第36条第6項第2号及び同条第4項第1号に規定される要件を満たしていないとすることはできない。
(2)申立人が特許異議申立書に記載する特許法第36条第6項第1号に係る特許異議申立理由は、上記取消理由には採用しなかったが、本件訂正発明1~3は、本件特許明細書において具体的な実施例1~5とともに比較例1~3が示されることで、本件訂正発明1~3の効果を確認されているところ、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるということができるから、本件訂正発明1~3に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていないとすることはできない。
4.取消理由2及び3(特許法第29条違反)に係る当審の判断
(1)提出された証拠に記載された発明
申立人が提出した甲第1号証(特に、実施例1の記載、段落【0057】)には以下の発明が記載されている。
「THFと3-メチルTHKの共重合体であるポリエーテルジオール(3-メチルTHFの比率が約15モル%、保土ヶ谷化学(株)製、PTG-L3500、分子量3500)と、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とを、1:1.85のモル比で窒素気流下、90℃、無溶媒の条件で4時間反応させ、得られたイソシアネート末端ウレタンプレポリマ585gを、1225gのジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解し、6.38gのエチレンジアミンと1.39gの1,2-ジアミノプロパンと0.92gのジエチルアミンとの混合液を160gのDMAcで希釈した鎖伸長剤溶液を添加し攪拌して重合体溶液を製造し、得られた重合体溶液(ポリウレタン濃度30重量%)を紡糸溶液として乾式紡糸し製造された、33デシテックス/4フィラメントの弾性糸であって、このソフトストレッチ性と耐熱性に優れる弾性糸を用いた、紙おしめなどの漏れ防止用の締め付け材料」(以下、「甲1発明」という。)
また、申立人が提出した甲第2号証(特に、実施例1の記載、段落【0030】)には以下の発明が記載されている
「10.2モル%の3メチル-テトラヒドロフランを含む分子量2016のコポリエーテルグリコール1モルに対しMDIは1.7モルの比でN2気流中90℃180分間固相重合して、NCO含量2.41%を有するイソシアネート末端コポリエーテルグリコール(ソフトセグメントの分子量L=5503)とし、このイソシアネート末端コポリエーテルグリコールを50℃に冷却し、DMACを添加して36%の固形物を有する混合物とし、5分間強く掻き混ぜを行ない溶解させ、強く掻き混ぜながら追加量のDMAC中に87モル%のエチレンジアミンと13モル%のジエチルアミンからなる化学量論的な量の混合物を添加して溶液重合を行い、得られたセグメント化コポリエーテルグリコールポリウレタン-尿素重合体の溶液は32%の固形分(重量基準)を含み、この重合体溶液にビス(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタンとt-ブチルジエタノールアミンの重付加重合物およびジビニルベンゼンパラクレゾール共重合物を添加し、この溶液を乾式紡糸して40d、4フィラメント凝固糸を製造し、このフィラメントを640m/minの速度で引張り、775m/minで巻取りを行い得た、ポリウレタン弾性繊維であって、この低温特性および耐熱性に優れるポリウレタン弾性繊維を用いた、紙おしめ等のサニタリー品の漏れ防止締め付け部材」(以下、「甲2発明」という。)
(2)ア.本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、
本件訂正発明1が「ギャザー部材を有機溶媒のシクロヘキサンに10分浸漬し、撹拌した後、不織布から剥離させてギャザー部材から取り出し、1日風乾させた後の弾性繊維」の物性について、「弾性繊維のソフトセグメント部分の数平均分子量Msが6350以上7530以下であり、弾性繊維の300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目の300%伸長時の応力(cN/dT)が0.050以上0.100以下であり、300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目の200%応力保持率(%)が65以上95以下であり、300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目後の残留歪み(%)が42以下であり、かつ、前記弾性繊維を構成するポリマーのソフトセグメント部分に含まれるポリアルキレンエーテルジオールの側鎖メチル基の平均個数Nmmsが、3.8≦Nmms≦35を満たす」ものであるのに対し、
甲1発明には、ギャザー部材から取り外した「弾性糸」の物性は特定されておらず、本件訂正発明1のような物性を備えるのか不明である点で、少なくとも相違する。
イ.本件は、前記「3.(1)ア」で述べたように、ポリウレタン弾性繊維はおむつの製造工程により物性が変化することから、ギャザー部材から取り出した弾性繊維の物性について、課題を解決し得る弾性繊維の物性を特定したものである。これに対し、甲1発明はそのようなものではなく、むしろ製造した弾性糸自体の物性について特定するものである。
しかも、申立人が、甲第1号証の実施例1の記載、本件特許明細書の段落【0038】、【0040】~【0047】の記載に従って得たとするギャザー部材から取り外したポリウレタン弾性繊維であっても(特許異議申立書11頁下から3行~12頁末行)、その物性を測定して得られた値は、弾性繊維のソフトセグメント部分の数平均分子量Msが「7540」、300%伸張回復繰り返し試験における繰り返し3回目の300%伸長時の応力(cN/dT)が「0.11」であり、これらの値は本件訂正発明1のものと相違している。
よって、上記相違点は実質的なものであり、本件訂正発明1は甲1発明ではない。
ウ.本件訂正発明1と甲2発明との対比においても、上記相違点と同様に、甲2発明には、ギャザー部材から取り外した「ポリウレタン弾性繊維」の物性は特定されておらず、本件訂正発明1のような物性を備えるのか不明である点で、少なくとも相違する。
そして、甲2発明も、甲1発明と同様に製造した弾性糸自体の物性により特定するものであり、申立人が特許異議申立書において示す甲第2号証の実施例の追試結果においても、本件訂正発明1で特定される各数値範囲をすべて満たすものは示されていない。
よって、上記相違点は実質的なものであり、本件訂正発明1は甲2発明でもない。
(3)申立人は、甲第1号証、甲第2号証の他に、甲第3号証(特開2001-39627号公報)及び甲第4号証(特開2005-320636号公報)を提出するが、甲第3号証及び甲第4号証にも、上記相違点について記載も示唆もされていない。
本件は、おむつの製造工程において、弾性繊維は延伸工程やホットメルトによる接着工程等を経て物性が変化することから、ギャザー部材から取り出した弾性繊維の物性について、課題を解決し得る弾性繊維の物性を特定したものであるが、甲第1号証~甲第4号証のいずれもギャザー部材から取り出した弾性繊維の物性について記載するものではなく、ギャザー部材から取り出した弾性繊維の物性に着目しようとする動機付けがない以上、本件訂正発明1は、甲1発明又は甲2発明並びに甲第1号証~甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件訂正発明2及び3は、いずれも本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件訂正発明1は、上記のように、甲1発明又は甲2発明ではなく、甲1発明又は甲2発明並びに甲第1号証~甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件訂正発明2及び3も、甲1発明又は甲2発明ではなく、甲1発明又は甲2発明並びに甲第1号証~甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5)よって、本件訂正発明1~3は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。
5.むすび
以上のとおり、本件訂正発明1~3に係る特許については、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
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2016-700698