特許異議申立
2016-700042
燃料チューブ
- 審判番号
- 2016-700042
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2011-227117
- 登録番号
- 特許第5753472号(P5753472)
- 請求日
- 2016年01月21日
- 審決日
- 2017年03月29日
- 公報発行日
- 2017年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】倉敷化工株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人前田特許事務所
- 【権利者代理人】前田 弘
- 【権利者代理人】竹内 宏
- 【権利者代理人】嶋田 高久
- 【権利者代理人】竹内 祐二
- 【権利者代理人】二宮 克也
- 【権利者代理人】原田 智雄
- 【権利者代理人】関 啓
- 【権利者代理人】杉浦 靖也
- 【権利者代理人】河部 大輔
- 【権利者代理人】長谷川 雅典
- 【権利者代理人】岩下 嗣也
- 【権利者代理人】福本 康二
- 【権利者代理人】前田 亮
- 【権利者代理人】間脇 八蔵
- 【権利者代理人】松永 裕吉
- 【権利者代理人】川北 憲司
- 【権利者代理人】岡澤 祥平
- 【異議申立人】山田 武史
- 審判長/審判官
- 審判長 氏原 康宏
- 審判官 尾崎 和寛
- 審判官 和田 雄二
- 分類
- P1651.121-YAA(F16L) / P1651.537-YAA(F16L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5753472号発明「燃料チューブ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5753472号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第5753472号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5753472号の請求項1-8に係る特許についての出願は、平成27年5月29日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人山田武史(以下、「異議申立人」という。)より請求項1-8に対して特許異議の申立てがされ、平成28年3月14日付けで取消理由が通知され、平成28年5月6日に意見書の提出および訂正請求がされ、平成28年11月22日付けで取消理由通知(決定の予告)が通知され、平成29年1月10日に意見書の提出がされたものである。
2.訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者の請求する訂正の内容は以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「上記チューブ本体の第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率が、最外層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率よりも高い」と記載されているのを、「摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率が、上記チューブ本体の第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層の方が最外層よりも高い」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に「内層」と記載されているのを、「第2層」に訂正する。
ウ 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0011】に記載された「上記チューブ本体の第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率が、最外層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率よりも高い」を「摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率が、上記チューブ本体の第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層の方が最外層よりも高い」に訂正する。
エ 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0030】に記載された「内層」を「第2層」に訂正する。
(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無および特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「第2層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率が、最外層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率よりも高い」という発明を特定する事項について、
(i)「第2層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での第2層の曲げ弾性率」が、「最外層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での最外層の曲げ弾性率よりも高い」ことを意味するのか、
(ii)「摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率」が「最外層より第2層の方が高い」ことを意味するのか、不明りょうであったものを、 (ii)の「摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率」が「最外層より第2層の方が高い」ことに明りょうにするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項1は、明細書の段落【0044】、【0088】、【0106】、【0107】、および、段落【0059】の記載内容に照らせば、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
訂正事項2は、訂正前の請求項8に記載された発明を特定する事項である「内層」が 、請求項1での発明を特定する事項である「チューブ本体」のいずれの層に対応する層であるのか不明りょうであったものを、「第2層」と明りょうにするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。また、明細書の段落【0036】、および、段落【0111】の記載内容に照らせば、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
訂正事項3は、訂正事項1に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
訂正事項4は、訂正事項2に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、これらの訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第2号および第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、および、同条第9項において準用する同法126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1-8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」-「本件発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
複数の層を径方向に積層してなるとともに最内層である第1層が導電性を有する樹脂で構成され且つ最外層が熱溶融性樹脂で構成されたチューブ本体と、該チューブ本体の端部が挿入されて摩擦溶接されるチューブ挿入溝を有するコネクタと、を備えた燃料チューブであって、
上記チューブ本体は少なくとも3つの層を積層してなり、
摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率が、上記チューブ本体の第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層の方が最外層よりも高いことを特徴とする燃料チューブ。
【請求項2】
請求項1記載の燃料チューブにおいて、
上記チューブ本体の第2層に含まれる可塑剤の含有割合が最外層に含まれる可塑剤の含有割合よりも低いことを特徴とする燃料チューブ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の燃料チューブにおいて、
上記チューブ本体の第2層を形成する樹脂の融点が最外層を形成する樹脂の融点よりも高いことを特徴とする燃料チューブ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の燃料チューブにおいて、
上記チューブ本体の第2層を形成する樹脂の融点が225℃以上であり、最外層を形成する樹脂の融点が200℃未満であることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の燃料チューブにおいて、
上記チューブ本体の第2層の厚みは、チューブ本体の厚みの20%以上に設定されていることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の燃料チューブにおいて、
上記チューブ本体の第1層はフッ素系樹脂からなることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の燃料チューブにおいて、
上記チューブ本体の最外層はPA11又はPA12からなることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の燃料チューブにおいて、
上記チューブ本体の第2層は、PA6、PA6T、PA66、及びPA612のいずれかの樹脂からなることを特徴とする燃料チューブ。」
(2)取消理由の概要
特許異議申立人の主張および提出した証拠に基づいて、訂正後の請求項1-8に係る発明に対して、当審において平成28年11月22日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は次のとおりである。
ア 請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3に記載の周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は取り消されるべきものである。
イ 請求項2に係る発明は、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3に記載の周知の技術、刊行物4に記載の周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2に係る特許は取り消されるべきものである。
ウ 請求項3、4、6-8に係る発明は、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3、刊行物5に記載の周知の技術、刊行物4に記載の周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項3、4、6-8に係る特許は取り消されるべきものである。
エ 請求項5に係る発明は、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3に記載の周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができた、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3に記載の周知の技術、刊行物4に記載の周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができた、あるいは、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3、刊行物5に記載の周知の技術、刊行物4に記載の周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項5に係る特許は取り消されるべきものである。
刊行物1:特開2001-108175号公報
刊行物2:特開2004-203012号公報
刊行物3:特開2007-196522号公報
刊行物4:特開平10-30760号公報
刊行物5:舊橋 章 著、「製品開発に役立つ プラスチック材料入門」、 初版、日刊工業新聞社、2005年9月30日発行、
第114-115ページ、第120-121ページ、
第128-129ページ
なお、刊行物1は異議申立人による特許異議申立書での甲第1号証であり、以下同様に、刊行物2は甲第4号証、刊行物3は甲第5号証、刊行物4は甲第6号証、刊行物5は甲第8号証である。
(3)当審の判断
ア 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由ア-エについて
(ア)刊行物の記載
刊行物1(特開2001-108175号公報)には、以下、a-dの技術的事項が記載されていると認められる。
a
刊行物1の段落【0001】、【0015】、【0016】、【0027】-【0029】には、図3、図6とともに、燃料用の「コネクタとチューブ端部構造部との相互結合」に関する実施態様が開示されるところ、刊行物1には、そうした相互結合により得られる「燃料チューブ」を対象とした発明が記載されているものといえる。
b
刊行物1(特に段落【0015】、【0016】、図3)での「第1のチューブ部材端部構造部12」は、「プラスチック材料で作られた壁20」を有し、「壁20」は「多層壁を規定」するとされているところ、この「多層壁」について、
(a)「外部環境と反応せず、また、種々の腐食にさらされるのと同様、種々の衝撃、振動疲労、および温度変化に耐え(中略)比較的厚い外層22を有する」、「壁20の形成に使用するのに適した材料は、紫外線劣化、急激な温度変化、およびガソリンとその添加剤に対して抵抗がある、溶融処理可能で押し出し可能ないかなる熱可塑性材料でも良い」と記載され、「外層22」について、「ナイロン12のような各適切な材料で形成」すると記載されている。してみると「外層22」は、少なくとも、溶融処理可能な熱可塑性樹脂で構成されることが明らかである。
(b)「中間層26」は、「プラスチックの第1のチューブ端部構造部12を通る流体移動によって生ずる静電荷を放散するのに十分な電気的導電性を現わす、黒鉛または他の適切な材料で形成される」と記載されていることからみて、電気的導電性を有する材料で構成されることが明らかである。
(c)「内層24」については、「プラスチック壁またはチューブの壁を通るガソリンの浸透を制限するために自動車の燃料ラインで幅広く使用されている種々の弗化重合材料で形成される。」との記載からみて、ガソリンの浸透を制限する弗化重合材料で構成されることが明らかである。
(d)してみると、刊行物1に記載された「第1のチューブ部材端部構造部12」は、「プラスチック材料で作られた壁20を有し、壁20は多層壁を規定し、外層22は溶融処理可能な熱可塑性樹脂で形成され、中間層26は電気的導電性を有する材料で構成され、内層24はガソリンの浸透を制限する弗化重合材料材料で形成される」ものといえる。
c
刊行物1(特に段落【0026】)の「いくつかの変形を持った保持部材50と実質的に同様に形成された保持部材80は、第1のチューブ端部構造部12の一端部にスピン溶接される。」との記載からみて、上記イ(d)の「第1のチューブ部材端部構造部12」は、図3に示された「保持部材50」のみならず、図6に示された「保持部材80」とも組み合わせ得るものである。
d
刊行物1(特に段落【0027】-【0029】、図6)での「保持部材80」は、「第1のチューブ端部構造部12の一端部にスピン溶接される」、「環状で端部が開口した溝90が内側フランジ86と外側フランジ88との間に形成されている」、「スピン溶接工程中に第1のチューブ端部構造部12の端部を収容するための溝90」と記載されていることからみて、「環状で端部が開口した溝90が形成され、溝90がスピン溶接工程中に第1のチューブ部材端部構造部12の端部を収容する」ことが明らかである。
以上の刊行物1に記載の技術的事項によれば、刊行物1には、
「プラスチック材料で作られた壁20を有し、壁20は多層壁を規定し、外層22は溶融処理可能な熱可塑性樹脂であるナイロン12で形成され、中間層26は電気的導電性を有する材料で構成され、内層24はガソリンの浸透を制限する弗化重合材料材料で形成される第1のチューブ部材端部構造部12と、環状で端部が開口した溝90が形成され、溝90がスピン溶接工程中に第1のチューブ部材端部構造部12の端部を収容する保持部材80、を備えた燃料チューブ。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(イ)判断
a 本件発明1について
(a)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「燃料チューブ」は、本件発明1の「燃料チューブ」に相当する。そして、引用発明の「燃料チューブ」の「プラスチック材料で作られた壁20を有し、壁20は多層壁を規定し」との構成は、技術的意義からみて、本件発明1の「燃料チューブ」の「複数の層を径方向に積層してなる」構成に相当する。そして、引用発明の「燃料チューブ」は、「外層22は溶融処理可能な熱可塑性樹脂であるナイロン12で形成され、中間層26は電気的導電性を有する材料で構成され、内層24はガソリンの浸透を制限する弗化重合材料材料で形成される第1のチューブ部材端部構造部12と」「を備える」ものであるから、少なくとも3つの層を積層しているものといえる。 よって、引用発明の「外層22は溶融処理可能な熱可塑性樹脂であるナイロン12で形成され、中間層26は電気的導電性を有する材料で構成され、内層24はガソリンの浸透を制限する弗化重合材料材料で形成される第1のチューブ部材端部構造部12と、」「を備える」「燃料チューブ」は、本件発明1の「上記チューブ本体は少なくとも3つの層を積層してな」る「燃料チューブ」に相当する。
引用発明の「外層22」は、「溶融処理可能な熱可塑性樹脂であるナイロン12で形成され」ることからみて、引用発明の「外層22は溶融処理可能な熱可塑性樹脂で形成され」は、本件発明1の「最外層が熱溶融性樹脂で構成され」に相当する。
引用発明の「中間層26」は、「プラスチック材料で作られた壁20」の構成要素であることから、引用発明の「中間層26は電気的導電性を有する材料で構成され」ることは、本件発明1の「最内層である第1層は導電性を有する樹脂で構成され」ることとの対比において、「層のうち1つは導電性を有する樹脂で構成され」ることの限度で相当する。
また、引用発明の「燃料チューブ」の「壁20は多層壁を規定し」ているから、引用発明は複数の層を持つ、すなわち、本件発明1の「第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層」に相当する構成を有することは明らかである。
引用発明の「第1のチューブ部材端部構造部12」は、その技術的意義からみて、本件発明1の「チューブ本体」に相当する。
引用発明の「保持部材80」は、その技術的意義からみて、本件発明1の「コネクタ」に相当し、前者での「環状で端部が開口した溝90が形成され、溝90がスピン溶接工程中に第1のチューブ部材端部構造部12の端部を収容する」は、後者での「チューブ本体の端部が挿入されて摩擦溶接されるチューブ挿入溝を有する」に相当する。
以上のことから、両者は、
「複数の層を径方向に積層してなるとともに層のうち1つは導電性を有する樹脂で構成され且つ最外層が熱溶融性樹脂で構成されたチューブ本体と、該チューブ本体の端部が挿入されて摩擦溶接されるチューブ挿入溝を有するコネクタと、を備えた燃料チューブであって、
上記チューブ本体は少なくとも3つの層を積層してなり、
上記チューブ本体の第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層を有する、燃料チューブ。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「最内層である第1層が導電性を有する樹脂で構成されているのに対し、引用発明では、「中間層26は電気的導電性を有する材料で構成され」ていはいるものの、「中間層26」が最内層であるか否か明らかでない点。
<相違点2>
本件発明1は、「摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率が、上記チューブ本体の第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層の方が最外層よりも高い」との事項を備えるのに対し、引用発明では、そのような事項を備えるとはされていない点。
(b)判断
以下、上記各相違点について検討する。
(b1)事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
本件発明1の燃料チューブのチューブ本体は、最内層を導電性を有する材料とし、最外層を機械的特性や外部環境を考慮してナイロン12とし、そして、中間層を燃料透過防止性を考慮してナイロン9Tとする構造となっている。
一方、燃料チューブとして、本願出願前に頒布された刊行物2には、最内層を導電性フィラーを配合したナイロン12とし、最外層を耐薬品性、柔軟性を備えたナイロン12とし、そして、中間層を燃料透過防止性を備えたナイロン9Tとした構成の燃料チューブ本体が記載され(特に請求項2、6、9、段落【0003】、段落【0006】-【0007】、段落【0033】、段落【0058】-【0059】、段落【0061】、段落【0081】、図1、参照。)、また、本願出願前に頒布された刊行物3には、最内層を導電材料を含有する含フッ素エチレン性重合体とし、最外層を耐候性、耐外傷性のあるナイロン12(ポリアミド12)とし、そして、中間層を耐燃料透過性のあるナイロン9T(PA9T)とした構成の燃料チューブ本体が記載されている(特に請求項3、9、段落【0011】、【0019】-【0020】、【0031】-【0032】、【0043】、図2、参照。)。
要するに、最内層を導電性を有する材料とし、最外層を機械的特性や外部環境を考慮してナイロン12とし、そして、中間層を燃料透過防止性を考慮してナイロン9Tとする構造の燃料チューブ本体は周知であるといえる。
そこで、上記周知の燃料チューブ本体を、引用発明のチューブ本体(保持部材80を除いた部分)として適用することが当業者にとって容易想到であるかについて検討する。
本件発明1の燃料チューブは、従来の燃料チューブのチューブ本体の最内層が、コネクタとのスピン溶接時にコネクタからの反力を受けてチューブ挿入溝の内周側壁面から離間する向きに変形するものであることから(本件明細書の段落【0006】)、燃料チューブのチューブ本体の最内層が、コネクタとのスピン溶接時にコネクタからの反力を受けてチューブ挿入溝の内周側壁面から離間する向きに変形し、スピン溶接終了後における最内層とコネクタとの物理的な接触性が低下し、延いては、コネクタとチューブ本体とを含む燃料チューブ全体の電気抵抗値が高くなるという課題認識の下に(本件明細書の段落【0006】)、この課題を解決するために、本願発明1では、「摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率が、上記チューブ本体の第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層の方が最外層よりも高い」という構成を採用し、スピン溶接時に、チューブ本体2の最内層4が該挿入溝11の内周側壁面12からの反力により径方向外側(内周側壁面12から離間する向き)に変形しようとするのを内層5により抑制し、スピン溶接後のコネクタ3と最内層4との物理的な接触性を向上させたものである(本件明細書の段落【0059】)。要するに、本願発明1においては、チューブ本体の最内層はスピン溶接時に溶融しないものといえる(溶融すると弾性率がほぼゼロになり反力を受けることがなくなるため。)。
これに対して、引用発明の燃料チューブは、その端部構造部12が保持部材80の溝90に収容され、スピン溶接されているものであるところ、その溶接態様は、端部構造部12の表面と溝90のテーパーがつけられた部分との間に外側溶接部分領域を確立し、端部構造部12の内層と内側フランジ86のテーパーがつけられた部分との間に内側溶接領域を確立し、これによって、端部構造部12の中間部を保持部材80の溝90に密封的に封止するものである(刊行物1の段落【0028】)。このように引用発明の燃料チューブは、多層からなるチューブ端部構造部の最外層と共に最内層も溶融して保持部材80(本件発明1のコネクタに相当する。)にスピン溶接接合されているものであるから、引用発明には、本件発明1の前提となった、燃料チューブのチューブ本体の最内層が、コネクタとのスピン溶接時にコネクタからの反力を受けてチューブ挿入溝の内周側壁面から離間する向きに変形し、スピン溶接終了後における最内層とコネクタとの物理的な接触性が低下し、延いては、コネクタとチューブ本体とを含む燃料チューブ全体の電気抵抗値が高くなるという本件発明1が解決しようとする特有の課題が内在しない。このために、上記従来周知の燃料チューブ本体を引用発明の燃料チューブ本体として適用し、上記相違点に係る本件発明1の構成としようとする動機付けがない。
また、引用発明は、上記のように燃料チューブの端部構造部12の最内層がスピン溶接時に溶融する必要があるところ、上記周知の燃料チューブ本体は、燃料チューブ本体の最内層がスピン溶接時に溶融するか否かは明らかでないため、上記従来周知の燃料チューブ本体を、引用発明の燃料チューブ本体として適用することが当業者にとって容易であったと直ちにはいえない。
よって、相違点2に係る本願発明1の構成とすることが、引用発明および上記従来周知の燃料チューブから、当業者にとって容易であったとはいえない。
(b2)次に、相違点1について検討する。
引用発明においては、多層からなるチューブ端部構造部の最内層は内側溶接領域を確立するためにスピン溶接時に溶融するものであることが必要となることは、上記(b1)に説示のとおりである。しかしながら、上記周知の燃料チューブ本体は、燃料チューブ本体の最内層がスピン溶接時に溶融するか否かは明らかでないため、上記従来周知の燃料チューブ本体を、引用発明の燃料チューブ本体として適用することが当業者にとって容易であったと直ちにはいえないことも上記(b1)に説示のとおりである。
よって、相違点1に係る本件発明1の構成とすることが、引用発明および上記従来周知の燃料チューブから、当業者にとって容易であったとはいえない。
(b3)そして、本件発明1は、上記各相違点に係る構成を有することにより、「最外層の曲げ弾性率を低減することなく、摩擦溶接時に生じる第1層の変形を第2層によって確実に抑制することができ、よって、チューブの柔軟性を確保しながら、摩擦溶接後における第1層とコネクタとの物理的な接触性を向上させて燃料チューブの通電性を改善することができる」(明細書段落【0014】)という顕著な作用効果を奏するものであるといえる。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3に記載の周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
b 本件発明2-8について
本件発明2-8は、本件発明1をさらに限定したものであり、本件発明1が刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3に記載の周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないことと同様に、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3に記載の周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明2は、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3に記載の周知の技術、刊行物4に記載の周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明3、4、6-8は、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3、刊行物5に記載の周知の技術、刊行物4に記載の周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明発明5は、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3に記載の周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができた、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3に記載の周知の技術、刊行物4に記載の周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができた、あるいは、刊行物1に記載された発明および刊行物2、刊行物3、刊行物5に記載の周知の技術、刊行物4に記載の周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.取消理由通知において採用しなかった、特許異議申立理由および特許異議申立人の提出した証拠について
(ア)特許異議申立人の提出した証拠のうち、上記取消理由通知において採用しなかった証拠である、甲第2号証、甲第3号証および甲第7号証においても、上記各相違点に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。
(イ)特許異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、本件発明1-8においては、チューブ本体を構成する樹脂についてはその物性(摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率)について規定するものの、樹脂名については具体的に規定されていないが、発明の詳細な説明に樹脂名が具体的に開示されているもののみが、本件発明1の効果が確認されているのみであって、本件発明1で規定する樹脂にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、本件発明1-8が解決しようとする課題を解決するためには、チューブ本体を構成する樹脂の具体的な樹脂の種類によらず、樹脂の持つ物性(摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率)が重要であると考えられ、出願時の技術常識に照らせば、発明の詳細な説明に具体的に開示され、効果が確認された樹脂以外にも、本件発明1で規定するような、物性(摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ剛性率)を持てば、上記課題が解決できることは当業者であれば容易に認識可能であるといえる。
よって、上記特許異議申立人の主張には理由がない。
(ウ)特許異議申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、「本件特許発明1は、『燃料チューブ』(物の発明)であるが、本件特許発明1には、『該チューブ本体の端部が挿入されて摩擦溶接される』および『第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率が、最外層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率よりも高い』という、その物の製造方法が記載されていると認められる」から、本件特許発明1-8は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、上記本件特許発明1における記載は、単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないものであり、その物の製造方法が記載されているものではないといえる。
よって、上記特許異議申立人の主張には理由がない。
なお、上記本件発明1における「第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率が、最外層の摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率よりも高い」という記載は、訂正請求により「摩擦溶接時の温度に相当する温度での曲げ弾性率が、上記チューブ本体の第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層の方が最外層よりも高い」と訂正された。
4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由および特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2016-700042