特許拒絶査定不服審判
2016-018782
ピストン組立品運搬・設置装置およびそれを用いてピストン組立品を運搬および設置する方法
- 審判番号
- 2016-018782
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-523257
- 請求日
- 2016年12月14日
- 審決日
- 2017年11月20日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】フェデラル-モーグル・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
- 【請求人代理人】特許業務法人深見特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 冨岡 和人
- 審判官 金澤 俊郎
- 審判官 松下 聡
- 分類
- P18 .121-Z (F02F) / P18 .575-Z (F02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-523257「ピストン組立品運搬・設置装置およびそれを用いてピストン組立品を運搬および設置する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月 9日国際公開、WO2012/018760、平成25年 9月 2日国内公表、特表2013-534288〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2011年8月2日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2010年8月3日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年2月1日に国内書面が提出され、平成25年3月18日に明細書、特許請求の範囲、及び要約書の翻訳文が提出され、平成26年5月22日に明細書及び図面について補正する手続補正書が提出され、平成27年4月14日付けで拒絶理由が通知され、平成27年7月21日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年12月16日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成28年4月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年8月9日付けで平成28年4月4日にされた手続補正が決定をもって却下されるとともに同日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成28年12月14日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、平成29年2月15日に審判請求書の請求の理由について補正する手続補正書(方式)が提出され、平成29年6月1日に上申書が提出され、さらに平成29年6月26日に上申書が提出されたものである。
第2 平成28年12月14日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年12月14日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
平成28年12月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち、平成27年7月21日に提出された手続補正書による)下記の(1)の記載を下記の(2)の記載に補正するものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
運搬中にピストン組立品を組立てられた状態に保持するようにかつシリンダボアへのピストン組立品の設置を支援するように構成されたピストン組立品運搬・組立装置であって、
内側円筒面で囲まれたボアを有するハウジングを含み、前記内側円筒面は、前記ハウジングの第1末端から前記ハウジングの第2末端に向かって延在し、面取り面が前記第1末端から前記第2末端に向かって外側へ径方向に前記ハウジングの外周面に達するように延在し、前記第2末端は、前記内側円筒面から内側へ径方向に延在してピストン組立品の上冠に軸方向に直面する壁を有する、ピストン組立品運搬・組立装置。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
上端から下端に延在する貫通ボアを有し、前記貫通ボアは前記下端近傍にシリンダボアの直径以下の直径を有する下部領域と、前記上端から前記下部領域に向かって収束するようなテーパ形状である上部領域とを有する詰め円錐体と併用して、運搬中にピストン組立品を組立てられた状態に保持するようにかつ前記シリンダボアへのピストン組立品の設置を支援するように構成されたピストン組立品運搬・組立装置であって、
内側円筒面で囲まれたボアを有するハウジングを含み、前記内側円筒面は、前記ハウジングの第1末端から前記ハウジングの第2末端に向かって延在し、面取り面が前記第1末端から前記第2末端に向かって外側へ径方向に前記ハウジングの外周面に達するように延在し、前記第2末端は、前記内側円筒面から内側へ径方向に延在してピストン組立品の上冠に軸方向に直面する壁を有する、ピストン組立品運搬・組立装置。」(下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)
2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明における「シリンダボアへのピストン組立品の設置を支援する」という発明特定事項について、「上端から下端に延在する貫通ボアを有し、前記貫通ボアは前記下端近傍にシリンダボアの直径以下の直径を有する下部領域と、前記上端から前記下部領域に向かって収束するようなテーパ形状である上部領域とを有する詰め円錐体と併用して」という具体的な態様を追加して限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正によって補正される特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。
3 独立特許要件
(1)引用文献
(1-1)引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である実願平4-66854号(実開平6-25659号)のCD-ROM(以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、レシプロエンジンのシリンダにピストンリングを有するピストンを挿入する際に使用する組付治具に関する。」(段落【0001】)
(イ)「【0006】
【考案が解決しようとする問題点】
しかし、前記図5乃至図7に示す従来例では、組付治具1内にピストン3を手作業で挿入する際に、該ピストン3を傾けて挿入するとピストンリング4がピストン3に対して位置ずれする(ピストン3とピストンリング4とが同心ではなくなる)ため、シリンダ6内に押込むことが不可能になり、無理に押し込んだ場合には、ピストンリング4に欠損が発生する。そして、ピストンリング4のこの欠損は構造上外観からは発見できないので、エンジンの性能劣化を招来する。」(段落【0006】)
(ウ)「【0009】
【問題点を解決するための手段】
本考案は、上記のような従来の問題点を解決するために成されたもので、ピストンに被嵌してピストンの傾き防止とピストンリングの位置決めをして、該ピストンリングの欠損を防止するとゝもに、正確且つ迅速にシリンダにピストンを挿入して組付作業の能率を向上せしめることができるものを提供することを目的としたものであた(当審注:「あた」は「あり」の誤記と認める。)、その要旨は、ピストンに被嵌可能で天面部に窓穴を外周壁に指先の挿入穴を夫々開口するとゝもに、内部にピストンヘッドの外径と同一径の小径部とピストンリングの外径と同一径の大径部とを同軸上に連接形成した組付治具と、上面開口部の内径が前記組付治具の小径部と同一径で、下面開口部の内径がシリンダの内径と同一のテーパ内周面を有する中間挿入具とから構成したことを特徴とするレシプロエンジン用ピストン組付治具にある。」(段落【0009】)
(エ)「【0011】
図において、1はピストン2に被嵌する組付治具で、天面部3を有し下面が開口4された円筒形状で、その内部は天面部3側の小径部5と下面開口部4側の大径部6とからなり、小径部5の内径はピストン2のピストンヘッド2aの外径と同一であり、大径部6の内径はピストンリング7の外径と同一に夫々設定されている。また前記天面部3の裏面は組付治具1の下面と平行であり、組付治具1の下端外周にはフランジ8が形成され、該フランジ8上の外周壁には所定間隔毎に指先が挿入できる挿入穴9が開口しているとゝもに、前記天面部3にはピストン2を押下するための円形状の窓穴10が開口されている。
【0012】
11は上記組付治具1とシリンダブロック12との間に介装される中間挿入具で、該中間挿入具11は上下面が平行に開口した円筒形状で、内周面13は下方に向かって小径となるテーパ面に形成されており、上記中間挿入具11の上面開口部11aの内径はピストン2のピストンリング7の外径と同一であり、その下面開口部11bの内径はシリンダブロック12のシリンダ14に嵌合されたシリンダライナ15の内径と同一に夫々設定されている。
【0013】
次に、シリンダ14にピストン2を挿入する工程について説明すると、先ず図2に示すように、シリンダブロック12の上に中間挿入具11を載置して、該中間挿入具11とシリンダ14とを同軸上に一致させて固定する。
【0014】
一方、ピストン2に治具本体1を被嵌して該治具本体1の天面部3の裏面にピストン2のピストンヘッド2aの上面を密着させると、該ピストンヘッド2aが小径部5に嵌合するので、ピストン2は治具本体1と同軸となって傾斜が防止されるとゝもに、ピストンリング7は大径部6に嵌合するので、ピストン2と同軸(センタリング機能)となってピストンリング7の位置ずれが防止される。
【0015】
そこで、上記治具本体1とピストン2とは、挿入穴9に挿入した指により一体的に持ち上げ、図3に示すように、ピストン2の下部及びコンロッド16を上記中間挿入具11に挿入し、その上面に治具本体1の下面を接合して両者を同軸に固定した後、治具本体1の挿入穴9穴から指先を引き出す。
【0016】
そして、上記組付治具1の天面部3の窓穴10からピストン2を押下すると、該ピストン2は中間挿入具11内に進入する。そして、図4に示す如く、ピストンリング7は中間挿入具11のテーパ内周面13により下降するにしたがって次第に収縮し、中間挿入具11の下面開口部11bでシリンダライナ15の内径と同一径になってシリンダ14内の所定位置に挿入することができる。なお、上記治具本体1の下面と中間挿入具11の上面、該中間挿入具11の下面とシリンダ14の上面との各接合面に位置決め機能を有する嵌合部を設ければ、接合する両者のセンタリングが的確となり、シリンダ14へのピストン2の挿入が正確且つ迅速に行える。」(段落【0011】ないし【0016】)
(オ)「【0017】
【考案の効果】
本考案に係るレシプロエンジン用ピストン組付治具は、上記のように、ピストンに被嵌可能で天面部に窓穴を外周壁に指先の挿入穴を夫々開口するとゝもに、内部にピストンヘッドの外径と同一径の小径部とピストンリングの外径と同一径の大径部とを同軸上に連接形成した組付治具と、上面開口部の内径が前記組付治具の小径部と同一径で、下面開口部の内径がシリンダの内径と同一のテーパ内周面を有する中間挿入具とから構成したものであるから、治具本体の窓穴からピストンを押下するだけでシリンダ内に円滑且つ迅速に挿入することができる。したがって、組付作業の能率向上を図ることが出来るとゝもに、ピストンリングの欠損の発生もないといった諸効果がある。」(段落【0017】)
イ 上記ア及び図面の記載から分かること
(カ)上記ア(ア)ないし(オ)(特に段落【0001】、【0009】及び【0016】を参照。)及び図面の記載から、引用文献1には、中間挿入具11と併用してシリンダ14へのピストン2の挿入を支援するレシプロエンジン用ピストン組付治具の治具本体1が記載されていることが分かる。
(キ)上記ア(ア)ないし(オ)(特に段落【0012】を参照。)及び図面の記載から、引用文献1に記載されたレシプロエンジン用ピストン組付治具の中間挿入具11は、上下面が平行に開口した円筒形状であり、下面開口部11bの内径はシリンダブロック12のシリンダ14に嵌合されたシリンダライナ15の内径と同一に設定され、中間挿入具11の内周面13は下方に向かって小径となるテーパ面に形成されていることが分かる。
(ク)上記ア(ア)ないし(オ)(特に段落【0011】を参照。)及び図面の記載から、引用文献1に記載されたレシプロエンジン用ピストン組付治具の治具本体1は、ピストン2に被嵌するものであり、天面部3を有し下面が開口4された円筒形状で、その内部は天面部3側の小径部5と下面開口部4側の大径部6とからなり、小径部5の内径はピストン2のピストンヘッド2aの外径と同一であり、大径部6の内径はピストンリング7の外径と同一に夫々設定されていることが分かる。
(ケ)上記ア(ア)ないし(オ)(特に段落【0014】を参照。)及び図面の記載から、ピストン2に治具本体1を被嵌して該治具本体1の天面部3の裏面にピストン2のピストンヘッド2aの上面を密着させると、該ピストンヘッド2aが小径部5に嵌合するので、ピストン2は治具本体1と同軸となって傾斜が防止されるとゝもに、ピストンリング7は大径部6に嵌合するので、ピストン2と同軸(センタリング機能)となってピストンリング7の位置ずれが防止されることが分かる。
(コ)上記ア(エ)(特に段落【0016】を参照。)の「上記治具本体1の下面と中間挿入具11の上面、該中間挿入具11の下面とシリンダ14の上面との各接合面に位置決め機能を有する嵌合部を設ければ、接合する両者のセンタリングが的確となり、シリンダ14へのピストン2の挿入が正確且つ迅速に行える」との記載から、治具本体1の下面と中間挿入具11の上面の接合面に位置決め機能を有する嵌合部を設ければ、接合する両者のセンタリングが的確となり、シリンダ14(のシリンダライナ15内)へのピストン2の挿入が正確且つ迅速に行えることが分かる。
ウ 引用発明及び引用文献1記載の技術
上記ア、イ及び図面の記載を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「上面開口部11aから下面開口部11bに延在する開口を有し、前記開口は前記下面開口部11b近傍にシリンダライナ15の内径と同一の直径を有する下面開口部11bと、前記上面開口部11aから前記下面開口部11bに向かって収束するようなテーパ面とを有する中間挿入具11と併用して、被嵌時にピストン2を組立てられた状態に保持するようにかつ前記シリンダライナ15の内部へのピストン2の設置を支援するように構成されたピストン組付治具の治具本体1であって、
内側円筒面で囲まれた小径部5及び大径部6を有する円筒形状部を含み、前記内側円筒面は、前記円筒形状部の下面開口部4側から前記円筒形状部の天面部3側に向かって延在し、前記天面部3側は、前記内側円筒面から内側へ径方向に延在してピストン2のピストンヘッド2aに軸方向に直面する天面部3を有する、ピストン組付治具の治具本体1。」
また、引用文献1の明細書の段落【0016】等の記載から、引用文献1には、次の技術(以下、「引用文献1記載の技術」という。)が記載されているといえる。
<引用文献1記載の技術>
「治具本体1と中間挿入具11の接合面に位置決め機能を有する嵌合部を設けることにより、接合する両者のセンタリングが的確となり、シリンダ14へのピストン2の挿入が正確且つ迅速に行える技術。」
(1-2)引用文献2
ア 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭63-62597号(実開平1-166743号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
(ア)「産業上の利用分野
この考案は、シリンダボアを有するシリンダ部と、燃焼室を画成するヘッド部とが一体に鋳造されてなる内燃機関の一体型シリンダブロックに関する。」(第1ページ第13行ないし第17行)
(イ)「そのため、シリンダ軸心に対し曲がった状態で押し込まれたりし易く、作業性が悪いとともに、ピストンランドやピストンリングが傷付く虞れがある。
課題を解決するための手段
そこで、この考案は、シリンダボアを有するシリンダ部と、燃焼室を画成するヘッド部とが一体に鋳造されてなる内燃機関の一体型シリンダブロックにおいて、上記シリンダボアの下端の周縁に、筒状をなすピストン挿入用治具の端部と嵌合する嵌合部を形成したことを特徴としている。
作用
ピストン組み込み時には、ピストンはピストン挿入用治具内周に保持され、ピストンリングが径方向に圧縮された状態となる。そして、このピストン挿入用治具がシリンダボア下端の嵌合部に嵌め込まれる。これにより、ピストンとシリンダボアとが確実に同軸状態に保たれるので、コネクティングロッドを叩いて押し込んでやれば良い。」(第4ページ第2行ないし第20行)
(ウ)「一方、ロアデッキ17の下面、詳しくは、シリンダボア2の下端の周縁に、第2図に詳示するように、ピストン挿入用治具18の端部と嵌合可能な嵌合部19が凹設されている。この嵌合部19は、シリンダボア2下端周縁を一段凹ませたもので、シリンダ軸線と平行な側壁面19aを有している。尚、この嵌合部19は、隣接する気筒との干渉を避けるために、クランク軸方向が短径となった楕円形に形成されている。
上記嵌合部19に嵌め込まれるピストン挿入用治具18は、例えば第3図,第4図に示すように、半円筒形をなす一対のクランプ20をヒンジ21にて開閉可能に連結し、かつヒンジ21と反対側に係止片22およびロックピン23を設けた構成となっている。また、各クランプ20の底部に、半円形の底壁24が設けられており、かつここに、ピストン30から延びたコネクティングロッド25を位置決めするための矩形の切欠部26が形成されている。そして、この挿入用治具18の上端部には、上記嵌合部19と比較的密に嵌合し得る比較的肉厚な楕円形のフランジ部27が設けられている。」(第6ページ第9行ないし第7ページ第10行)
(エ)「次に、上記構成において、シリンダボア2内にピストン30を組み込む際の手順を説明する。
先ず、ピストンリング28を装着したピストン30を上記ピストン挿入用治具18内に嵌め込み、係止片22をロックする。すなわち、ピストンリング28をピストン30と同一径まで圧縮する。尚、この状態では、ピストンリング28が総てピストン挿入用治具18内に収容され、かつトップランド部29が治具18先端から僅かに突出した状態となっている。
次に、この状態でピストン挿入用治具18のフランジ部27をシリンダブロック1の嵌合部19に嵌め込む。これにより、ピストン挿入用治具18の内周面とシリンダボア2内周面とが完全に連続した状態となる。つまり、シリンダボア2とピストン30とが確実に同軸状態に保たれる。同時に、コネクティングロッド25は、切欠部26に嵌合しているためピストン30の軸心に沿った位置に保持される。そこで、このコネクティングロッド25の下端をハンマ等で叩いてやれば、ピストン30は、スムースにシリンダボア2内に挿入される。
尚、上記実施例では、嵌合部19ならびにフランジ部27を楕円形としたが、気筒間のスペースに余裕があれば、勿論真円形としても良い。」(第7ページ第11行ないし第8ページ第15行)
(オ)「次に第5図に示す実施例は、シリンダボア2の下端周縁に、径方向の幅が比較的狭い嵌合部19を凹設した例である。この場合には、ピストン挿入用治具18として、比較的薄肉な円筒状のものが用いられる。」(第8ページ第16行ないし第20行)
(カ)「考案の効果
以上の説明で明らかなように、この考案に係る内燃機関の一体型シリンダブロックにおいては、シリンダボア下端の周縁に、ピストン挿入用治具の端部と嵌合する嵌合部を形成したので、ピストンをシリンダボア下端側から組み込むに際して、ピストンとシリンダボアとを確実に同軸状態に保持でき、ピストンをスムースに挿入できるとともに、ピストンのリングランド等における傷付きを防止できる。」(第9ページ第6行ないし第15行)
イ 上記ア及び図面の記載から分かること
(サ)上記ア(ア)ないし(カ)及び図面の記載から、引用文献2には、シリンダボアを有するシリンダ部と、燃焼室を画成するヘッド部とが一体に鋳造されてなる内燃機関の一体型シリンダブロックにおいて、上記シリンダボアの下端の周縁に、筒状をなすピストン挿入用治具の端部と嵌合する嵌合部を形成し、ピストン挿入用治具18の上端部には、上記嵌合部19と嵌合する端部を設けた技術が記載されていることが分かる。
(シ)上記ア(オ)及び第5図の記載から、シリンダボアの下端の周縁にテーパー形状の嵌合部19を形成し、ピストン挿入用治具18の上端部には、上記嵌合部19と嵌合するテーパー形状の端部を設けた技術が記載されていることが分かる。
(ス)上記ア(イ)の「ピストン組み込み時には、・・・これにより、ピストンとシリンダボアとが確実に同軸状態に保たれる」という記載、及び(カ)の「この考案に係る内燃機関の一体型シリンダブロックにおいては、シリンダボア下端の周縁に、ピストン挿入用治具の端部と嵌合する嵌合部を形成したので、ピストンをシリンダボア下端側から組み込むに際して、ピストンとシリンダボアとを確実に同軸状態に保持でき、ピストンをスムースに挿入できるとともに、ピストンのリングランド等における傷付きを防止できる。」という記載から、シリンダボアの下端の嵌合部とピストン挿入用治具の端部とが嵌合することにより、ピストンとシリンダボアとが確実に同軸状態に保たれ、ピストンをスムースに挿入できるとともに、ピストンのリングランド等における傷付きを防止できるという作用効果を奏することが分かる。
ウ 引用文献2記載の技術
上記ア、イ及び図面の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「シリンダボアの下端の周縁にテーパー形状の嵌合部19を形成し、ピストン挿入用治具18の上端部には、上記嵌合部19と嵌合するテーパー形状の端部を設けた技術。」
(2)対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「上面開口部11a」は、その技術的意義からみて、本願補正発明における「上端」に相当し、以下同様に、「下面開口部11b」は「下端」及び「下部領域」に、「テーパ面」は「テーパ形状である上部領域」に、「中間挿入具11」は「詰め円錐体」に、「ピストン2」は「ピストン組立品」に、「シリンダライナ15の内部」は「シリンダボア」に、「小径部5及び大径部6」は「ボア」に、「円筒形状部」は「ハウジング」に、「下面開口部4側」は「第1末端」に、「天面部3側」は「第2末端」に、「ピストンヘッド2a」は「上冠」に、「天面部3」は「壁」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「シリンダライナ15の内径と同一」は、「シリンダボアの直径以下」と重複する。
また、引用発明における「被嵌時」は、ピストン2に治具本体1を被嵌した場所からシリンダライナ15の内部へのピストン2の挿入を行う場所への移動中を含むものであるから、「移動中」という限りにおいて、本願補正発明における「運搬中」と共通する。
また、引用発明における「ピストン組付治具の治具本体1」は、「ピストン組立品組立装置」という限りにおいて、本願補正発明における「ピストン組立品運搬・組立装置」と共通する。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「上端から下端に延在する貫通ボアを有し、前記貫通ボアは前記下端近傍にシリンダボアの直径以下の直径を有する下部領域と、前記上端から前記下部領域に向かって収束するようなテーパ形状である上部領域とを有する詰め円錐体と併用して、移動中にピストン組立品を組立てられた状態に保持するようにかつ前記シリンダボアへのピストン組立品の設置を支援するように構成されたピストン組立品組立装置であって、
内側円筒面で囲まれたボアを有するハウジングを含み、前記内側円筒面は、前記ハウジングの第1末端から前記ハウジングの第2末端に向かって延在し、前記第2末端は、前記内側円筒面から内側へ径方向に延在してピストン組立品の上冠に軸方向に直面する壁を有する、ピストン組立品組立装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
(ア)本願補正発明は、「運搬中」にピストン組立品を組立てられた状態に保持するように構成された「ピストン組立品運搬・組立装置」であるのに対し、引用発明は、被嵌時にピストン2を組立てられた状態に保持するように構成されたピストン組付治具の治具本体1である点(以下、「相違点1」という。)。
(イ)本願補正発明においては、「面取り面が前記第1末端から第2末端に向かって外側へ径方向にハウジングの外周面に達するように延在」するのに対し、引用発明においては、そのような面取り面が設けられていない点(以下、「相違点2」という。)。
イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
引用文献1の段落【0014】に記載されているように、引用発明の治具本体1は、「ピストン2に治具本体1を被嵌して該治具本体1の天面部3の裏面にピストン2のピストンヘッド2aの上面を密着させると、該ピストンヘッド2aが小径部5に嵌合するので、ピストン2は治具本体1と同軸となって傾斜が防止されるとゝもに、ピストンリング7は大径部6に嵌合するので、ピストン2と同軸(センタリング機能)となってピストンリング7の位置ずれが防止される。」という機能を有するものである。
したがって、治具本体1は、ピストン2に被嵌して運搬するのに適しているといえる。
また、引用発明の治具本体1は、ピストン2に治具本体1を被嵌した場所から、シリンダ14へのピストン2の挿入を行う場所までピストン2を運搬するときに用いられるものである。
したがって、引用発明の治具本体1をピストン2の運搬に用い、ピストン組立品運搬装置に兼用することにより、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。
(イ)相違点2について
引用文献1の段落【0016】には、「上記治具本体1の下面と中間挿入具11の上面、該中間挿入具11の下面とシリンダ14の上面との各接合面に位置決め機能を有する嵌合部を設ければ、接合する両者のセンタリングが的確となり、シリンダ14へのピストン2の挿入が正確且つ迅速に行える。」と記載されており、治具本体1と中間挿入具11の接合面に位置決め機能を有する嵌合部を設けることにより、接合する両者のセンタリングが的確となり、シリンダ14へのピストン2の挿入が正確且つ迅速に行えるということ(上記「引用文献1記載の技術」を参照。)が記載されている。
一方、引用文献2には、
「シリンダボアの下端の周縁にテーパー形状の嵌合部19を形成し、ピストン挿入用治具18の上端部には、上記嵌合部19と嵌合するテーパー形状の端部を設けた技術。」(上記「引用文献2記載の技術」)が記載され、それにより、「ピストンをシリンダボア下端側から組み込むに際して、ピストンとシリンダボアとを確実に同軸状態に保持でき、ピストンをスムースに挿入できるとともに、ピストンのリングランド等における傷付きを防止できる。」(上記第2 3(1)(1-2)ア(カ)を参照。)という作用効果を奏することも記載されている。
なお、引用文献2の明細書中には、ピストン挿入用治具18の上端部に、嵌合部19と嵌合する「テーパー形状の」端部を設けることについて、明確には記載されていないが、図示されているテーパー形状の端部は、他の実施例と同様に、ピストンとシリンダボアとを確実に同軸状態に保持するために設けられたことは、考案の効果(上記(1-2)ア(カ))の記載からみて明らかである。
また、テーパー形状の嵌合部と嵌合するテーパー形状の端部を設けることによって、2つの部材の軸線を同軸状態に保持する技術は、技術常識ともいえるものであって、例えば、特開平11-33847号公報(特に段落【0024】、【0025】、【0028】及び【0035】並びに図6、9及び12を参照。)にも、その作用効果が記載されている。
したがって、引用発明において、治具本体1の下面と中間挿入具11の上面にテーパー形状の端部(嵌合部)を形成することにより、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。
(ウ)作用効果について
そして、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明、引用文献1記載の技術、及び引用文献2記載の技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願補正発明は、引用発明、引用文献1記載の技術、及び引用文献2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年12月14日付けの手続補正は上記のとおり決定をもって却下されたので、本願の特許請求の範囲は、平成27年7月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに平成26年5月22日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載されたとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]の1(1)の【請求項1】に記載したとおりである。
2 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献1には、図面とともに、上記第2の[理由]の3(1)(1-1)に摘記したとおりの事項、引用文献1記載の技術、及び次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
<引用発明1>
「被嵌時にピストン2を組立てられた状態に保持するようにかつ前記シリンダライナ15の内部へのピストン2の設置を支援するように構成されたピストン組付治具の治具本体1であって、
内側円筒面で囲まれた小径部5及び大径部6を有する円筒形状部を含み、前記内側円筒面は、前記円筒形状部の下面開口部4側から前記円筒形状部の天面部3側に向かって延在し、前記天面部3側は、前記内側円筒面から内側へ径方向に延在してピストン2のピストンヘッド2aに軸方向に直面する天面部3を有する、ピストン組付治具の治具本体1。」
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献2には、図面とともに、上記第2の[理由]の3(1)(1-2)に摘記したとおりの事項及び引用文献2記載の技術が記載されている。
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献3(特開昭47-10153号公報)には、第5ページ左上欄第1行ないし第6ページ左上欄第6行、第7ページ左下欄第15行ないし第8ページ右上欄第11行及び図面の記載からみて、以下の技術が記載されている。
<引用文献3記載の技術1及び引用文献3記載の技術2>
「シリンダー内径へピストンリングが組み付けられたピストンを装着するために用いる取付けスリーブ70において、前記取付けスリーブ70の出口端部には、円錐形の傾斜面を有する裁頭円錐形表面36,112を備え、シリンダ内径の上端部には外側に拡径する切欠面56が形成され、前記裁頭円錐形表面36,112と前記切欠面56が実質的に同一平面で係合する技術。」(以下、「引用文献3記載の技術1」という。)
「裁頭円錐形表面36と切欠面56とが摺動自在に係合することで取付けスリーブ20の載頭円錐形表面36をシリンダー内径52の切欠面56上にしっかりと嵌挿させることができるという技術。」(以下、「引用文献3記載の技術2」という。)
3 対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「ピストン2」は、その技術的意義からみて、本願発明における「ピストン組立品」に相当し、以下同様に、「シリンダライナ15の内部」は「シリンダボア」に、「小径部5及び大径部6」は「ボア」に、「円筒形状部」は「ハウジング」に、「下面開口部4側」は「第1末端」に、「天面部3側」は「第2末端」に、「ピストンヘッド2a」は「上冠」に、「天面部3」は「壁」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1における「被嵌時」は、ピストン2に治具本体1を被嵌した場所からシリンダライナ15の内部へのピストン2の挿入を行う場所への移動中を含むものであるから、「移動中」という限りにおいて、本願発明における「運搬中」と共通する。
また、引用発明1における「ピストン組付治具の治具本体1」は、「ピストン組立品組立装置」という限りにおいて、本願発明における「ピストン組立品運搬・組立装置」と共通する。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「移動中にピストン組立品を組立てられた状態に保持するようにかつシリンダボアへのピストン組立品の設置を支援するように構成されたピストン組立品組立装置であって、
内側円筒面で囲まれたボアを有するハウジングを含み、前記内側円筒面は、前記ハウジングの第1末端から前記ハウジングの第2末端に向かって延在し、前記第2末端は、前記内側円筒面から内側へ径方向に延在してピストン組立品の上冠に軸方向に直面する壁を有する、ピストン組立品組立装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
(ア)本願発明は、「運搬中」にピストン組立品を組立てられた状態に保持するように構成された「ピストン組立品運搬・組立装置」であるのに対し、引用発明1は、被嵌時にピストン2を組立てられた状態に保持するように構成されたピストン組付治具の治具本体1である点(以下、「相違点1’」という。)。
(イ)本願発明においては、「面取り面が前記第1末端から第2末端に向かって外側へ径方向にハウジングの外周面に達するように延在」するのに対し、引用発明1においては、そのような面取り面が設けられていない点(以下、「相違点2’」という。)。
イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1’について
相違点1’は、相違点1と同じものである。
したがって、引用発明1の治具本体1をピストン2の運搬に用い、ピストン組立品運搬装置に兼用することにより、相違点1’に係る本願補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。
(イ)相違点2’について
引用文献1には、「治具本体1と中間挿入具11の接合面に位置決め機能を有する嵌合部を設けることにより、接合する両者のセンタリングが的確となり、シリンダ14へのピストン2の挿入が正確且つ迅速に行える技術」(上記「引用文献1記載の技術」)が記載されている。
また、引用文献2には、「シリンダボアの下端の周縁にテーパー形状の嵌合部19を形成し、ピストン挿入用治具18の上端部には、上記嵌合部19と嵌合するテーパー形状の端部を設けた技術。」(上記「引用文献2記載の技術」)が記載され、それにより、「ピストンをシリンダボア下端側から組み込むに際して、ピストンとシリンダボアとを確実に同軸状態に保持でき、ピストンをスムースに挿入できるとともに、ピストンのリングランド等における傷付きを防止できる。」(上記第2 3(1)(1-2)ア(カ)を参照。)という作用効果を奏することも記載されている。
また、引用文献3には、上記「引用文献3記載の技術1」及び「引用文献3記載の技術2」が記載されている。
してみれば、引用発明1において、引用文献1記載の技術、引用文献3記載の技術1及び引用文献3記載の技術2を踏まえ、引用文献2記載の技術に倣って、治具本体1の下面と中間挿入具11の上面にテーパー形状の端部(嵌合部)を形成することにより、相違点2’に係る本願発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到できたことである。
(ウ)作用効果について
そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明1、引用文献1記載の技術、引用文献2記載の技術、引用文献3記載の技術1及び引用文献3記載の技術2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願発明は、引用発明1、引用文献1記載の技術、引用文献2記載の技術、引用文献3記載の技術1及び引用文献3記載の技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明1、引用文献1記載の技術、引用文献2記載の技術、引用文献3記載の技術1及び引用文献3記載の技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 結語
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-018782