特許拒絶査定不服審判
2016-016431
衝撃工具
- 審判番号
- 2016-016431
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-200146
- 請求日
- 2016年11月02日
- 審決日
- 2017年12月26日
- 公報発行日
- 2018年04月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】マックス株式会社
- 【請求人代理人】中島 健
- 【請求人代理人】瀬川 幹夫
- 審判長/審判官
- 審判長 平岩 正一
- 審判官 柏原 郁昭
- 審判官 刈間 宏信
- 分類
- P18 .121-Z (B25C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-200146「衝撃工具」拒絶査定不服審判事件〔平成26年3月27日出願公開、特開2014-54690〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)9月12日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年3月14日付け :拒絶理由の通知
平成28年5月23日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年7月25日付け :拒絶査定
平成28年11月2日 :審判請求書と同時に手続補正書の提出
第2 平成28年11月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成28年11月2日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「内部機構として打撃ピストン・シリンダ機構を使用して衝撃を発生させて作動する衝撃工具であって、
前記衝撃工具は、燃焼圧力により打撃ピストンを作動して締結材を打ち込むガス燃焼式締結機であり、
燃焼室内にガス燃料を噴射させるガス噴射装置と、
前記内部機構及び前記ガス噴射装置を制御するための制御装置と、
前記制御装置に対して前記ガス噴射装置を作動させるための信号を出力するセンサと、
を備え、
前記制御装置は、前記内部機構を作動させてから所定の条件が成立するまでは、前記センサの入力を受け付けないようにして前記燃焼室内へガス燃料を噴射しないようにしたことを特徴とする、衝撃工具。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成28年5月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「内部機構として打撃ピストン・シリンダ機構を使用して衝撃を発生させて作動する衝撃工具であって、
前記衝撃工具は、燃焼圧力により打撃ピストンを作動して締結材を打ち込むガス燃焼式締結機であり、
燃焼室内にガス燃料を噴射させるガス噴射装置と、
前記内部機構及び前記ガス噴射装置を制御するための制御装置と、
前記制御装置に対して前記ガス噴射装置を作動させるための信号を出力するセンサと、
を備え、
前記制御装置は、前記内部機構を作動させてから所定の条件が成立するまでは、前記センサの入力を受け付けないことを特徴とする、衝撃工具。」
2 補正の適否
上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記制御装置は、前記内部機構を作動させてから所定の条件が成立するまでは、前記センサの入力を受け付けない」ことについて、上記の下線部のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、上記の限定は、出願当初の明細書の段落【0006】、【0033】、【0038】~【0044】及び図3に示されているので新規事項にも相当しない。
そこで補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)摘記事項及び図示事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特表平9-507172号公報(1997年7月22日公表。以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に次の記載がある。
a「本発明の電子制御システムを備えた模範的な圧縮空気ファスナ打込機の側面図を示す図1において、打込機全体は1で示され、ハウジングが2で示されている。ハウジング2は本体部3とハンドル部4とからなる。ハウジング2は金属製の一体成型で構成することもできる。ハウジング2の本体部3の下側にガイド5が設けられ、周知の打込機用駆動軌道(図示せず)を備えている。打込機1はハウジング2に弾倉6を装着され、複数のファスナ7を縦列に装填している。ファスナ7は釘とかステープルなどの適当なタイプのものである。以下説明の便宜上、ファスナ打込機は釘打込機とも呼ぶことがある。」(第14ページ第9行~第16行)
b「以下の記述から明らかになるが、ハウジング2の本体部3はピストン9を備えたシリンダ8とファスナのドライバ10(図2参照)とを有している。」(第14ページ第22行~第23行)
c「次に図2において、ピストン9とドライバ10はシリンダ8中の最上部に位置している。ドライバ10の下端はガイド5内の駆動軌道の上部に位置し、その中にある最前列のファスナの上方に来ていることが当業者には理解できるであろう。」(第15ページ第3行~第6行)
d「打込機を回転させるには、遠隔弁55を作動させて通路54を外気に連通させる。こうすれば圧縮空気は主弁47上に作用する圧縮空気が主弁47を上方に移動して開放状態にする。すると主弁47が上方に移動する間、この同じ空気がシールリング52をシリンダ8の最上端の環状面17上に押し付け維持しようと最初する。この結果、主弁のOリング51がノッチ41より上方のディスク39の周面40と密閉接触するようになって、シリンダ8を開放する前に外気に通じる上記の通路を密封する。主弁47がさらに上方に移動すると、主弁47の拡大下部47cによってシールリング52をシリンダ8の最上端の環状面17から持ち上げることになる。この時点でピストン9が空気室12からの圧縮空気にさらされるから、急速に駆動して相当な力で下方に動きガイド5の駆動軌道中のファスナをワークピースに打ち込む。」(第17ページ第14行~第24行)
e「回路板119に代表される制御回路中にはマイクロプロセッサ120を含む。マイクロプロセッサ120は遠隔弁55のソレノイド内包体89を作動させるだけでなく、打込機1の作動モードを決定もする。」(第23ページ下から5行~下から3行)
f「マイクロプロセッサ120は少なくとも2つの入力端子を有する。1つは、ワークピースに押し付けられて作動位置に移動させられると、ワークピースに応答する安全片15によって閉じられるスイッチ125(図6)によって作動される。もう1つは、トリガ14が作動位置に移動させられると閉じるスイッチ126で作動される。スイッチ125、126は、周知のように好ましくはガラス管に保護されたリードスイッチとなっている。」(第24ページ第7行~第12行)
g「二重運転を防止するために短時間の遅延シーケンスも利用できる。特に比較的強力なファスナ打込機に対してはファスナ駆動が打込機の小刻みな弾みをもたらすことがあるが、これはトリガや安全片に不本意な動作を与えてしまうおそれがあり、不要な時に運転してしまう危険がある。これを防止するにはマイクロプロセッサがトリガや安全片のいずれからの入力も受付けないように1サイクル後の短時間な遅延をもたらすようにセットされていればよい。マイクロプロセッサ120は遠隔弁55のソレノイドが作動するときに短時間遅延を開始する。」(第28ページ第2行~第8行)
h 図2の図示によると、ハウジング本体部3は、内部に、シリンダ8、ピストン9、釘7のドライバ10及び遠隔弁55を含む機構を有する点が見て取れる。
i 図2の図示によると、シリンダ8とピストン9とディスク39とから室が形成されている点が見て取れる。
(イ)引用文献1に記載された発明
a 摘記事項a~d及び図示事項hからみて、引用文献1には「ハウジング本体部3が内部に有するシリンダ8及びピストン9を使用して、ピストン9を急速に駆動して相当な力で下方に動き釘7を打ち込む釘打込機であって、前記釘打込機は、圧縮空気によりピストン9を作動して釘7を打ち込む圧縮空気釘打込機」が記載されている。
b 摘記事項d及び図示事項iからみて、引用文献1には、「圧縮空気釘打込機」が、「シリンダ8とピストン9とディスク39とから形成される室に圧縮空気を導入する主弁47及び遠隔弁55」を備えることが記載されている。
c 摘記事項d、eからみて、主弁47の動作は遠隔弁55の動作に連動しており、遠隔弁55の制御に連動して主弁47が動作しているのであるから、引用文献1には、「圧縮空気釘打込機」が「前記主弁47及び遠隔弁55を制御するマイクロプロセッサ120」を備えることが記載されている。
d 摘記事項e~gからみて、引用文献1には、「圧縮空気釘打込機」が「マイクロプロセッサ120に対して前記主弁47及び遠隔弁55を作動させるための信号の1つを出力する、ワークピースに押し付けられて作動位置に移動させられると、ワークピースに応答する安全片15によって閉じられるスイッチ125」を備えることが記載されている。
e 摘記事項d及びgからみて、引用文献1には、「前記マイクロプロセッサ120は、前記主弁47及び遠隔弁55を作動させてから開始した短時間遅延が終了するまでは、前記スイッチ125の入力を受付けないようにして前記室内へ圧縮空気を導入しないようにした」ことが記載されている。
上記の摘記事項a~g並びに図示事項h及びiを総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ハウジング本体部3が内部に有するシリンダ8及びピストン9を使用して、ピストン9を急速に駆動して相当な力で下方に動き釘7を打ち込む釘打込機であって、
前記釘打込機は、圧縮空気によりピストン9を作動して釘7を打ち込む圧縮空気釘打込機であり、
シリンダ8とピストン9とディスク39とから形成される室に圧縮空気を導入する主弁47及び遠隔弁55と、
前記主弁47及び遠隔弁55を制御するマイクロプロセッサ120と、
前記マイクロプロセッサ120に対して前記主弁47及び遠隔弁55を作動させるための信号の1つを出力する、ワークピースに押し付けられて作動位置に移動させられると、ワークピースに応答する安全片15によって閉じられるスイッチ125と、
を備え、
前記マイクロプロセッサ120は、前記主弁47及び遠隔弁55を作動させてから開始した短時間遅延が終了するまでは、前記スイッチ125の入力を受付けないようにして前記室内へ圧縮空気を導入しないようにした、圧縮空気釘打込機。」
イ 引用文献2
(ア)摘記事項
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である、特開2008-18513号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。
a「図1は、本実施の形態の釘打機101の全体構成を模式的に示す図であって、ピストンが初期状態の位置にある場合を示すものである。
図1に示すように、本実施の形態の釘打機101は、ハウジング103、ハンドグリップ105、マガジン109、射出部110、トリガ113を主体としてその外郭が形成されている。ハウジング103内には、シリンダ120、ピストン121、ピストン121と一体に形成されたドライバ122、クッションラバー123、ファン130、モータ131、点火プラグ140、ガスボンベ141、噴射口142、燃焼室143、排気口144、点火制御装置150、衝撃センサ160及び光電スイッチ170が設けられている。」(段落【0017】)
b「シリンダ120は、燃焼室143に連接され工具前後方向(図1中の左右方向)に長手状に延在するピストン収容部を構成する。このシリンダ120が、本発明における「シリンダ」に相当する。ピストン121は、シリンダ120内に収容されて、燃焼室143内の燃焼圧力によりこのシリンダ120内を工具前後方向に摺動可能とされている。このピストン121が、本発明における「ピストン部材」に相当する。シリンダ120内の前側領域にはクッションラバー(「バンパ」ともいう)123が設けられており、このクッションラバー123は、ピストン121が釘を打込むために高速駆動されてシリンダ120内の前側領域へと急激に移動したとき、高速駆動されたこのピストン121の衝撃を吸収緩和してピストン121を受け止め、これによってピストン121の余剰なエネルギを吸収する機能を有する。ドライバ122は、ピストン121の摺動に伴って作動し、被加工材に対する釘の打込み作業を遂行する部材を構成する。このドライバ122が、本発明における「工具部材」に相当する。」(段落【0020】)
c「ガスボンベ141は、所定の可燃性ガス(液化ガス)を貯留する機能を有する。このガスボンベ141に充填されている可燃性ガスは、ガス供給経路を通じて燃焼室143と連通されており、このガス供給経路の下流の噴射口142から燃焼室143に供給されるように構成されている。このガスボンベ141及び噴射口142によって、本発明における「ガス供給部」が構成される。」(段落【0022】)
d「点火制御装置150は、点火プラグ140の電極間にて出力される電力を制御する機能を有する。この点火制御装置150が、本発明における「点火制御装置」に相当する。この点火制御装置150は、トリガスイッチ114等の制御信号伝送対象と電気的に接続されており、制御信号の伝送を行う。具体的には、この点火制御装置150は、点火回路ユニット(後述する点火回路ユニット210,220,230)と、当該点火回路ユニットと電気的に接続されたマイクロコンピュータ(「マイコン」或いは「コントローラ」ともいう)151を備える。このマイコン151は、後述する点火回路1,2の充電コンデンサC1,C2の充電制御や、点火プラグ140のスパークの発生制御をはじめ、モータ131の起動制御及び回転制御を遂行する。このマイコン151が、本発明における「制御部」を構成している。なお、この点火制御装置150には、ホルダ107に収容されたバッテリ108と電気的に接続されており、このバッテリ108から電源が供給される構成になっている。」(段落【0025】)
e「図6中のステップS101では、被加工材Wに対しコンタクトアーム111が押し付けられているか否かを判定する。この判定は、図6に示すように、釘打機101を被加工材Wに向かって移動させるとともに、コンタクトアーム111を被加工材Wに対し押し付けたときのこのコンタクトアーム111の反対方向への移動をコンタクトアームスイッチ112が検出することによって可能となる。このステップS101は、被加工材Wに対しコンタクトアーム111が押し付けられていると判定する(ステップS101のYESの判定)まで継続し、被加工材Wに対しコンタクトアーム111が押し付けられていると判定した場合にステップS102にすすむ。」(段落【0039】)
f「図6中のステップS102では、ファン130の回転に関する制御を行う。この制御に関しては、図7のシーケンスに示すように、ステップS102aによってモータ131が駆動されてファン130の回転動作が開始される。その後、ステップS102bによって、所定時間(図3では8秒)が経過したことがタイマ検知されると、ステップS102cによってモータ131が駆動停止されてファン130の回転動作が停止される。このように、本実施の形態では、ファン130の回転動作の開始が、コンタクトアーム111を被加工材Wに押し付ける動作に連動して遂行される構成とされる。同様に、なおガスボンベ141からの可燃性ガスの供給も、コンタクトアーム111を被加工材Wに押し付ける動作に連動して遂行される(図10参照)。」(段落【0040】)
(イ)引用文献2記載の技術
上記摘記事項から、引用文献2には、次の技術が記載されている。
「圧力によりピストン121を高速駆動して釘を打ち込むガス燃焼式の釘打機101において、前記圧力を可燃性ガスの燃焼圧力とし、燃焼室143に可燃性ガスを噴射させる噴射口142と、点火プラグ140を制御するマイクロコンピュータ151と、被加工材Wに対し押し付けられてコンタクトアーム111が移動したことを検出するコンタクトアームスイッチ112とを備え、燃焼室143への可燃性ガスの噴射を、コンタクトアーム111を被加工材Wに押し付ける動作に連動して遂行する技術。」
(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「釘7」は、本件補正発明の「締結材」に相当する。
(イ)引用発明の「ピストン9」は、「急速に駆動して相当な力で下方に動き釘7を打ち込む」ものだから、本件補正発明の「打撃ピストン」に相当する。
また、引用発明の「ハウジング本体部3が内部に有するシリンダ8及びピストン9」は、「釘打込機」の内部機構と言える。
さらに、引用発明において、「釘打込機」が「ピストン9及びドライバ10を急速に駆動して相当な力で下方に動き釘7を打ち込む」ことは、「釘打込機」が、衝撃を発生させて作動する衝撃工具であることを意味するのは技術的に明らかである。
よって、引用発明の「ハウジング本体部3が内部に有するシリンダ8及びピストン9を使用して、ピストン9を急速に駆動して相当な力で下方に動き釘7を打ち込む釘打込機」は、本願補正発明の「内部機構として打撃ピストン・シリンダ機構を使用して衝撃を発生させて作動する衝撃工具」に相当する。
(ウ)引用発明の「前記釘打込機は、圧縮空気によりピストン9を作動して釘7を打ち込む圧縮空気釘打込機」と、本願補正発明の「前記衝撃工具は、燃焼圧力により打撃ピストンを作動して締結材を打ち込むガス燃焼式締結機」とは、「前記衝撃工具は、圧力により打撃ピストンを作動して締結材を打ち込む締結機」である点で一致する。
(エ)引用発明において、「主弁47及び遠隔弁55」の動作により「シリンダ8とピストン9とディスク39とから形成される室に圧縮空気を導入」されることによって、「ピストン9」が「急速に駆動して相当な力で下方に動き釘7を打ち込む」のだから、「シリンダ8とピストン9とディスク39とから形成される室」への「圧縮空気」の導入の態様は「噴射」と言えるものであり、また、「主弁47及び遠隔弁55」は「噴射装置」と言えるものであるのは、技術的に明らかである。
よって、引用発明の「シリンダ8とピストン9とディスク39とから形成される室に圧縮空気を導入する主弁47及び遠隔弁55」と、本願補正発明の「燃焼室内にガス燃料を噴射させるガス噴射装置」とは、「室内に気体を噴射させる噴射装置」である点で一致する。
(オ)引用発明の「前記主弁47及び遠隔弁55を制御するマイクロプロセッサ120」と、本願補正発明の「前記内部機構及び前記ガス噴射装置を制御するための制御装置」とは、「前記噴射装置を制御するための制御装置」である点で一致する。
(カ)引用発明の「前記マイクロプロセッサ120に対して前記主弁47及び遠隔弁55を作動させるための信号の1つを出力する、ワークピースに押し付けられて作動位置に移動させられると、ワークピースに応答する安全片15によって閉じられるスイッチ125」は、本願補正発明の「前記制御装置に対して前記噴射装置を作動させるための信号を出力するセンサ」に相当する。
(キ)引用発明の「短時間遅延」が終了することは、本願補正発明の「所定の条件が成立する」ことに相当する。
よって、引用発明の「前記マイクロプロセッサ120は、前記主弁47及び遠隔弁55を作動させてから開始した短時間遅延が終了するまでは、前記スイッチ125の入力を受付けないようにして前記室内へ圧縮空気を導入しないようにした」ことと、本願補正発明の「前記制御装置は、前記内部機構を作動させてから所定の条件が成立するまでは、前記センサの入力を受け付けないようにして前記燃焼室内へガス燃料を噴射しないようにした」こととは、「前記制御装置は、前記内部機構を作動させてから所定の条件が成立するまでは、前記センサの入力を受け付けないようにして前記室内へ気体を噴射しないようにした」点で一致する。
イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「内部機構として打撃ピストン・シリンダ機構を使用して衝撃を発生させて作動する衝撃工具であって、
前記衝撃工具は、圧力により打撃ピストンを作動して締結材を打ち込む締結機であり、
室内に気体を噴射させる噴射装置と、
前記噴射装置を制御するための制御装置と、
前記制御装置に対して前記噴射装置を作動させるための信号を出力するセンサと、
前記制御装置は、前記内部機構を作動させてから所定の条件が成立するまでは、前記センサの入力を受け付けないようにして前記室内へ気体を噴射しないようにした、衝撃工具。」
<相違点1>
引用発明は、「燃焼圧力」によりピストンを作動させる「ガス燃焼式」締結機であるのに対し、本件補正発明は、「圧縮空気」によりピストンを作動させる「圧縮空気式」締結機である点。
そして、この相違に伴い、引用発明では圧縮空気を噴射する「室」が、本願補正発明では「燃焼室」であり、引用発明では圧縮空気を噴射する「噴射装置」が、本願補正発明では「ガス噴射装置」である点。
<相違点2>
引用発明では、「制御装置」が「内部機構」を制御しないのに対し、本願補正発明では、「制御装置」が「内部機構」を制御する点。
(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献2には、(2)イ(イ)に示したように、圧力によりピストン121を高速駆動して釘を打ち込むガス燃焼式の釘打機101において、前記圧力を可燃性ガスの燃焼圧力とし、燃焼室143に可燃性ガスを噴射させる噴射口142と、点火プラグ140を制御するマイクロコンピュータ151と、被加工材Wに対し押し付けられてコンタクトアーム111が移動したことを検出するコンタクトアームスイッチ112とを備え、燃焼室143への可燃性ガスの噴射を、コンタクトアーム111を被加工材Wに押し付ける動作に連動して遂行するという技術的事項が示されている。
加えて、燃焼室143への可燃性ガスの噴射が、コンタクトアーム111を被加工材Wに押し付ける動作に応じたものであること、及び、コンタクトアーム111の移動はコンタクトアームスイッチ112により検出されることからみて、釘打機101に、燃焼室143内に可燃性ガスを噴射させる可燃性ガス噴射装置が存在し、マイクロコンピュータ151が、点火プラグ140のみならず、可燃性ガス噴射装置も制御し、マイクロコンピュータ151に対して可燃性ガス噴射装置を作動させるための信号がコンタクトアームスイッチ112から出力されていることは技術的に明らかである。
ここで、引用文献1の第34ページ第2行~第3行の「また上述のほかにも例えばドライバが圧縮空気手段以外のもので作動されるファスナ打込機もある。例えばドライバが、内燃機関とか、ソレノイド機構、弾み車、プロペラなどの手段によって作動されるものもある。」と記載されていることからして、引用文献1に接した当業者であれば、引用発明のピストン9を動作させるにあたり、圧縮空気に代えて、内燃機関すなわち燃焼圧力を利用するということは十分に想到し得る事項にすぎない。
そして、釘打込機のピストンの動作に燃焼圧力を利用することは、当該技術分野では周知であり、その具体的構成として、引用文献2に記載された構成を採用することに困難性は認められない。
イ 相違点2について
本願補正発明では、内部機構である「打撃ピストン・シリンダ機構」について、打撃ピストンとシリンダとを備えていること以外は特定されていないため、制御装置が、前記内部機構をどのように制御しているのか不明であるところ、本件明細書を参照(例えば、段落【0030】等。)すると、制御装置における内部機構の制御とは、点火プラグを制御することと理解できる。
そのため、本件補正発明における制御装置の内部機構の制御を、そのようなものとして解釈すると、上記アに示したように、引用発明のピストン9の動作に燃焼圧力を利用するにあたり、引用文献2記載の具体的構成を採用することに困難性は認められないところ、引用文献2記載の具体的構成は、マイクロコンピュータ151が点火プラグ140を制御する点を包含するものであるから、係る構成を採用後の釘打込機は自ずと、制御装置が内部機構を制御する構成を備えたものとなるのは明らかである。
よって、係る採用によって、相違点1が解消されれば、相違点2が存在しなくなることは明らかである。
ウ したがって、本件補正発明は、引用発明及び従来公知の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は審判請求書の第5ページ第7行~第15行で「そもそも引用文献1は主引例適格性がなく、引用文献1記載の発明に基づいて本願発明に容易に想到できたはずもない。
すなわち、引用文献1には確かに本願発明に類似した構成が開示されているものの、この構成の解決課題は「打ち込み時の振動によって意図しない打ち込み動作が行われないようにすること」であり、本願発明の解決課題である「使用者が意図しないタイミングでガスが噴射される問題を解決し、無駄なガス消費を抑えること」とは相違する。このように引用文献1は本願発明とは異なる課題に基づくものであり、本願発明の課題を解決するために引用文献1を基礎とすることはない。」と主張している。
しかしながら、(4)アに示したように、引用文献1には、引用発明の釘打込機のピストン9を動作させるにあたり、圧縮空気に代えて、内燃機関すなわち燃焼圧力を利用することが示唆されているから、その構成を具体化するために当業者が、引用文献2に記載された構成を採用しようとすることは、自然な発想であると言える。
そして、本願補正発明の解決課題である「使用者が意図しないタイミングでガスが噴射される課題を解決し、無駄なガス消費を抑えること」については、引用文献1に開示されていないことに関わらず、引用文献2の「ガスボンベ141からの可燃性ガスの供給も、コンタクトアーム111を被加工材Wに押し付ける動作に連動して遂行される」との記載(段落【0040】を参照。)からみて、上記採用によって得られた釘打込機の機能として、当業者が普通に予測し得る結果にすぎないから、上記主張は採用できない。
イ 審判請求人は審判請求書の第7ページ第13行~第27行で「また、拒絶査定においては、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の構成を適用する動機付けについては何ら説明していないが、引用文献2に記載されたような燃焼式ファスナが周知であるとしても、何の動機付けもなく当然に両者を組み合わせることができるわけではない。
すなわち、引用文献1記載の発明においては、すでに目的が達成されており、引用文献2記載の構成を適用したからといって何も新たな効果が生じるわけでもなく、動機付けとなり得るようなものは存在しない。
むしろ、引用文献2に記載されたような燃焼式ファスナにおいては、振動によって作動信号が発生しても(準備動作が行われていないので)打ち込み動作が行われることはない。言い換えると、このような周知の燃焼式ファスナにおいては、引用文献1記載の発明の課題(振動による意図しない打ち込み動作を防止する)がそもそも存在しない。よって、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の構成を適用しようとする発想が自然に生じるはずもなく、ましてや、このように自らの課題(すなわち効果)を無効化するような構成をあえて適用することに何の動機付けもなく容易に想到できたはずはない。」と主張している。
しかしながら、「引用文献1記載の発明に引用文献2記載の構成を適用する動機付け」については、(4)アに示したように、引用文献1には、引用発明の釘打込機のピストン9を動作させるにあたり、圧縮空気に代えて、燃焼圧力を利用することが示唆されているから、その構成を具体化するために当業者が、引用文献2に記載された構成を採用しようとすることは、自然な発想であると言えるから、十分な動機付けが存在すると考えられる。
また、「このように自らの課題(すなわち効果)を無効化するような構成をあえて適用することに何の動機付けもなく容易に想到できたはずはない。」については、上記採用によって得られた釘打込機において、振動によって、安全弁15によって閉じられるスイッチ125は作動信号を発生させず、トリガ14が作動位置に移動させられると閉じるスイッチ126のみが作動信号を発生させた場合、及び、トリガ14が作動位置に移動させられると閉じるスイッチ126は作動信号を発生させず、安全弁15によって閉じられるスイッチ125のみが作動信号を発生させた場合、前者では、スイッチ125が作動信号を発生させていないので、準備動作が行われず、後者では、スイッチ126が作動信号を発生させていないので、トリガ14が作動位置に移動していないことになり、いずれの場合も確かに、マイクロプロセッサ120が、前記スイッチ125及び126の入力を受け付けないように短時間遅延を開始するまでもなく、打ち込み動作は行われないものの、引用文献1記載の発明の課題である、振動による意図しない打ち込み動作の防止自体は達成されている。
なお、上記採用によって得られた釘打込機において、振動によって、安全弁15によって閉じられるスイッチ125、及び、トリガ14が作動位置に移動させられると閉じるスイッチ126が共に作動信号を発生させた場合には、当然、マイクロプロセッサ120が、前記スイッチ125及び126の入力を受け付けないように短時間遅延を開始することによって、振動による意図しない打ち込み動作の防止が達成されている。
このように、引用文献1記載の発明に引用文献2記載の構成を適用しても、短時間遅延を開始することによって、振動による意図しない打ち込み動作の防止を達成する、という引用文献1の効果が無効化されるとは言えない。
よって、上記主張は採用できない。
(6)本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年11月2日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成28年5月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2並びにそれらの記載事項は前記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。
3 対比・判断
本願発明は、前記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記燃焼室内へガス燃料を噴射しないようにした」とする限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2(4)で検討したように、引用発明及び従来周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び従来周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-016431