特許拒絶査定不服審判
2016-016410
電動工具
- 審判番号
- 2016-016410
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-201532外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年11月02日
- 審決日
- 2018年10月30日
- 公報発行日
- 2019年02月22日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【請求人代理人】恩田 誠
- 【請求人代理人】恩田 博宣
- 分類
- P18 .121-WZ (B25F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-201532「電動工具」拒絶査定不服審判事件〔平成26年3月27日出願公開、特開2014- 54708〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
本願は、平成24年9月13日に出願された特願2012-201532号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成28年 3月18日付け:拒絶理由通知
平成28年 5月27日 :意見書及び手続補正書の提出
平成28年 7月26日付け:拒絶査定
平成28年11月 2日 :審判請求書の提出
平成30年 4月20日付け:拒絶理由通知
平成30年 6月25日 :意見書及び手続補正書の提出
第2.本願発明
平成30年6月25日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「モータと、前記モータに電力を供給するための電池と、前記電池の電池電圧を検出する電圧センサと、前記モータの回転動力を減速して出力軸に伝達するとともにその減速比が変更可能に構成された動力伝達部と、前記動力伝達部の減速比を変更する変速用アクチュエータと、出力軸に加わる負荷トルクを検出するトルク検出部と、前記検出した負荷トルクに応じて前記動力伝達部の減速比を変更すべく前記変速用アクチュエータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記動力伝達部の減速比が小さい場合に前記電圧センサにより検出される電池電圧が所定電圧以下となると前記モータを停止させる制御を行った後に、前記変速用アクチュエータを制御して減速比を大きくすることでモータ電流を減少させ前記電池の内部抵抗の影響を低減させるように制御し、前記動力伝達部の減速比が大きい場合に前記電圧センサにより検出される電池電圧が前記所定電圧以下となると前記モータの駆動を停止させることを特徴とする電動工具。」
第3.拒絶の理由
平成30年4月20日付けで当審が通知した拒絶理由は、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開平11-90845号公報
引用文献2:特開2009-56590号公報
第4.引用文献の記載及び引用文献1に記載された発明
1.引用文献1の記載
引用文献1には、図面と共に、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は変速装置を備えた電動工具、殊に電池を電源としている電池式電動工具に関するものである。」
(2)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、電池を電源とするものにおいては、小減速比となっている高速低トルク状態においてモーターロックが生じやすくなり、モーターロック状態となれば変速動作が不能となる。作業負荷の増大に応じて高速低トルク回転状態から減速比を大きくする変速を自動的に行う自動変速機能を備えたものにおいては、本来ならば上記モーターロック状態となる前に低速高トルク回転状態への変速を行うが、作業負荷を電気的に検知して自動変速を行うものであると、電池電源の端子電圧の低下に伴い、作業負荷の検知動作が不能となることがあり、作業負荷をモーター回転数で見ているものにおいては、回転数の急激な低下による回転数検知動作のポイント遅れが原因で自動変速を行う前にモーターロック状態に陥ってしまうことがあり、電池電源の端子電圧の低下時における動作の安定性に問題を有する。
【0004】本発明はこのような点に鑑み為されたものであり、その目的とするところは電池電源の端子電圧が低下した時にもモーターロック状態に陥ってしまうおそれが少ない電池式電動工具を提供するにある。」
(3)「【0007】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態の一例を図2に示す電動ドリルドライバーである電動工具の場合について説明する。まず動力であるモーター6と、出力部であるチャック50を備えた出力軸5に至るまでの減速機構部における変速装置について説明すると、図3~図5に示すように、ギアケース1の一端開口側に配されるモーター6の出力軸60には、歯数の異なる二つのサンギア11,12が固着されており、軸方向に並ぶこれらサンギア11,12には夫々複数個、図示例では3個ずつの遊星ギア21,22が噛み合っている。互いに歯数が異なる両遊星ギア21,22は共にキャリア4によって支持されたもので、遊星ギア21はサンギア11の回りに等間隔で、遊星ギア22はサンギア12の回りに等間隔で支持されており、両遊星ギア21,22は個々に自転を行なうものの、同じ公転を行なうものとなっている。
【0008】そして出力軸60と同心に配されているリングギア31に遊星ギア21がかみ合っており、同じく出力軸60と同心に配されているリングギア32が遊星ギア22とかみ合っている。軸方向に並ぶこれら2つのリングギア31,32のうち、リングギア31はその外周面に複数個の係合突起35が周方向において等間隔に形成されたもので、ギアケース1に対して遊転自在とされている。またリングギア32もギアケース1に対して遊転自在とされたものであるとともに、このリングギア32は、ギアケース1を外レース330とするワンウェイクラッチ33の内レース331を兼ねたものとなっている。」
(4)「【0011】ギアケース1内には、上記遊星機構及び正逆切換リング76とワンウェイクラッチ33の他に、係止リング70が配設されている。軸方向にスライド自在とされている係止リング70は、一方向に移動した時にリングギア31外周面の上記係合突起35と係合する突起71を具備しているもので、この係合によってリングギア31の回転を阻止するとともに、そのスライドで係合突起35と突起71との係合が解除された時、リングギア31の回転を許す。この係止リング70の上記軸方向スライドは、ソレノイドのような切換駆動部材7と、ギアケース1外面に軸66に枢支されるとともに一端を切換駆動部材7に、他端を係止リング70外周面から突設させた連結軸72に連結させたレバー65とによってなされる。
【0012】上記両遊星ギア21,22を支持しているキャリア4は、サンギア41を一体に備えており、このサンギア41の回転はサンギア41とリングギア43とに噛み合う遊星ギア42を支持しているキャリア44に伝達され、更にキャリア44の回転はオートロック機構55を通じて出力軸5に伝達される。ここにおけるオートロック機構55は、モーター6の回転を止めた時に出力軸5をギアケース16に対して自動的にロックしてしまい、モーター6を回転させればこのロックを自動的に解除する機能をもつものであるが、この点については説明を省略する。また、上記リングギア43も遊転自在として、このリングギア43にクラッチばね47のばね圧力でボール48を係合させることで、負荷トルクが所定値以上になった時に出力軸5とサンギア41とを切り離してしまうトルクリミッターを構成しているのであるが、この点についても説明を省略する。図中13は正逆切換リング76の動作空間を確保しつつ正逆切換リング76とリングギア32との間の摺動抵抗を無くして機構ロスの低減を図るために設けられてリングギア32のスラスト受け面となるもので、ギアケース1の一端を閉じている蓋部材10に一体に形成してある。」
(5)「【0014】そして、負荷の増大の検出に応じて切換駆動部材7が作動し、図5(b)に示すように係止リング70が移動して係合突起35と突起71との係合を解除すれば、リングギア31がフリーとなるとともに、負荷につながったキャリア4の停止がサンギア11,12に噛み合う遊星ギア21,22の自転でリングギア31,32を回転させようとするが、この時のリングギア32の回転方向は、上記空転時とは逆方向に、つまりワンウェイクラッチ33によって回転が阻止されている方向となるために、この時点からリングギア32と噛み合った遊星ギア22を通じてキャリア4、そして出力軸5に動力が伝達される。
【0015】サンギア12の歯数がサンギア11の歯数より少なく且つ遊星ギア22の歯数が遊星ギア21の歯数より多くなっていることから、高速回転低トルク状態から低速回転高トルク状態に切り換えられたことになる。しかもこの変速は、ワンウェイクラッチ33を利用してリングギア32の回転を止めるために、リングギア31の係止突起35から係止リング70が離れるだけで、リングギア32の回転阻止のために衝突が生じる部材が存在しておらず、従って動作中の変速であるにもかかわらず、スムーズで且つ騒音の無い変速がなされるものである。なお、低速回転高トルク状態から高速回転低トルク状態への復帰は、上記切換駆動部材7の復帰によって行われるとともに、この変速は、モーター6の停止時、またはモーター6の起動時に行われる。」
(6)「【0017】次に、上記切換駆動部材7を作動させる制御回路Cについて説明する。マイクロコンピュータやロジックICによって形成された制御回路Cは、モーター6に設けられたフィードバックジェネレータ(FG)のような速度検出手段SPが入力側に接続されており、作業負荷の増大に伴ってモーター6の回転数が低下した時に切換駆動部材7に変速信号を出力して減速比を大きくする変速動作を行わせるのであるが、この制御回路Cには、上記回転数信号のほかに、変速モード切換スイッチSからの変速モード信号と、上述の回転方向切換ロッド8によるところの正転と逆転との回転方向信号と、速度制御回路によって速度制御がなされるモーター6が最高出力状態となっているかどうかのスピードコントロール・フル信号とが入力されるようになっている。そして変速信号の出力は、これら変速信号と切換信号とスピードコントロール・フル信号も参照して行うものとなっている。」
(7)「【0022】もっともこの電動工具では、グリップ部分に着脱自在に装着される電源としての電池の端子電圧が所定値より低下した時には、制御回路Cを介さずに切換駆動部材7を作動させて低速高トルク状態に切り換えてしまう電圧検知切換回路VPを設けているために、どのような条件にセットされている時でも、電池の端子電圧が所定値より低下したためにモーターロックが生じやすくなっている状態においては、制御回路Cからの変速信号の出力の有無にかかわらず、低速高トルク状態に切り換えられる。
【0023】モーター6に負荷がかかると電池電圧が低下するが、これがモーター6の停止寸前のロック状態だと電圧低下が最大となるとともに、この時には制御回路Cに十分な電圧を供給することができない状態となることがあり、また負荷の検出や制御回路Cの応答性の点から負荷の増大がきわめて急である場合には負荷に応じた自動変速がなされる前にモーターロック状態に陥ってしまうおそれがあるが、このような時には電圧検知切換回路VPの出力によってモーターロックに陥る前に減速比を大きくする変速がなされるものであり、モーターロック状態に陥るおそれがきわめて少なくなっているものである。
【0024】なお、負荷の増大に応じて自動変速するものに適用したものを示したが、負荷検出機能を備えていないものにおいても適用することができるのはもちろんである。また、電池の端子電圧が所定値以下になれば低速高トルク回転状態に移行するようにしたものを示したが、電池の端子電圧の変化量が所定値を越えると低速高トルク回転状態に移行するようにしたものであってもよい。
【0025】
【発明の効果】以上のように本発明においては、電池を電源とするとともに変速手段を備えている電池式電動工具において、電池電源の端子電圧の低下あるいは端子電圧の変化量が所定値を越えた時に上記変速手段を作動させて出力部の回転を高速低トルク回転から低速高トルク回転に切り換える切換手段を備えているために、電池電源の端子電圧が低下した時には低速高トルク回転の状態に無条件に切り換えられてしまうものであり、このためにモーターロック状態に陥るおそれが少なくなっているものであり、使い勝手のよいものである。
【0026】また、上記変速手段が作業負荷の増大にて出力部の回転を高速低トルク回転から低速高トルク回転に切り換える自動変速手段である時には、負荷の状況に応じた減速比での駆動がなされるために、使い勝手がさらに向上する。」
2.引用文献1に記載の技術的事項
上記1.及び図面より、引用文献1には、次の技術的事項が記載されている。
(1)上記1.(7)の「グリップ部分に着脱自在に装着される電源としての電池の端子電圧が所定値より低下した時には、制御回路Cを介さずに切換駆動部材7を作動させて低速高トルク状態に切り換えてしまう電圧検知切換回路VPを設けている」との記載、及び、【図1】における「VP」の回路図の「端子電圧」との図示によれば、電池の電池電圧を検出する手段を有することは明らかである。
3.引用文献1に記載された発明
上記1.及び2.並びに図面の図示事項を総合し、技術常識を踏まえて整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1に記載された発明」という。)が記載されている。
「モーター6と、前記モーター6に電力を供給するための電池と、前記電池の電池電圧を検出する手段と、前記モーター6の回転動力を減速して出力軸5に伝達するとともにその減速比が変更可能に構成された減速機構部と、前記減速機構部の減速比を変更する切換駆動部材7と、出力軸5に加わる負荷の増大を検出する手段と、前記検出した負荷の増大に応じて前記減速機構部の減速比を大きくすべく前記切換駆動部材7を制御する制御回路Cと、減速比にかかわらず前記電池電圧を検出する手段により検出される電池電圧が所定値より低下すると前記切換駆動部材7を制御して減速比を大きくする電圧検知切換回路VPとを備える電動工具。」
4.引用文献2の記載
(1)「【0001】
【発明の分野】
【0002】
本発明は、変速を実行すべく選択的に起動されることが可能な信号発生器を有する変速
電動工具(電気ドリル、ねじ回しまたはインパクトドリル等)に関する。」
(2)「【0082】
マイクロコントローラ30は、ポートP3においてバッテリパック電圧を検出するように設計される。マイクロコントローラ30は、ポートP3で受信される、バッテリパック1の残留容量を示す信号を読み取ってもよい。この信号は、電圧信号であってもよい。次に、マイクロコントローラはこれを選択されたしきい値と比較し、バッテリパックが過剰に放電されているかどうかを判断してもよい。バッテリパック1が過剰に放電されていれば、マイクロコントローラ30は、モータ2へ供給される電力を中断するために出力ポートP12をブロックする等の過放電防止プログラムを処理してもよい。図20に示すように、4つのLEDD2、D3、D4、D5は各々、抵抗器R22、R23、R29、R30を介してポートP18、P17、P16、P15へ接続される。これらのLEDは、ハウジング上、ハンドル上または操作者に見える電動工具の他の部位に配置されてもよい。これらのLEDは、異なる組合せ、または異なる色の光を発してバッテリパック1の異なる残留容量レベルを指示してもよい。LEDD2、D3、D4は緑色の光を発し、LED D5は赤い光を発する。」
(3)「【0093】
自動変速ステップは、ステップ733から736までを含む。リングギヤ45が高速位置から低速位置へ移動する際のギヤクラッシュを回避するために、リングギヤ45の回転速度は(好適には、ゼロまで)下げられる。この場合、マイクロコントローラ30は、モータへ供給される電力を一時的に中断する(ステップ733)。例えば、ポートP12はPWM制御信号の出力をブロックされ、これにより、可動部材45の回転速度がゼロまで下げられる。マイクロコントローラ30は次にソレノイド53を制御し、可動部材45を低速位置へ移動させる。先に述べたように、マイクロコントローラ30はHブリッジ回路33を制御して、ソレノイドへ前方向電流を印加させてもよい(即ち、入力ポートA、Bを閉じかつ入力ポートC、Dを開く)。したがって、ソレノイド53のプッシュバー534は起動されて高速位置から低速位置へ移動される(ステップ734)。可動部材45が低速位置に達すると、位置フィードバックスイッチS5が起動され、ポート13を介してマイクロコントローラ30へ出力される低状態信号を生成する。マイクロコントローラ30は、次にモータを軟始動させる(ステップ735)。この場合、マイクロコントローラは、モータの回転速度が正常状態に戻るまで、PWM制御信号のデューティサイクルを変えてモータへ印加される電圧をステップアップさせてもよい。この後、現行速度位置を示すLSフラグが設定され(ステップ736)、プログラムはステップ721へ戻る。リングギヤ45は、高速位置から低速位置へ移動する際に時間間隔を必要とする。したがって、モータの一時停止に先立って、ソレノイドを起動することができる。この場合、リングギヤは、モータの回転パワーが除去された後に回転を固定された構造体に噛み合う。この手段により、リングギヤの回転速度はゼロまで低減されない。リングギヤに加えられる駆動力は存在しないことから、リングギヤは回転的に固定された構造体と滑らかに係合することが可能であり、迅速に行き詰まり状態になる。」
第5.対比
本願発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明における「モーター6」は、本願発明における「モータ」に相当し、以下同様に、「電池電圧を検出する手段」は「電圧センサ」に、「出力軸5」は「出力軸」に、「減速機構部」は「動力伝達部」に、「切換駆動部材7」は「変速用アクチュエータ」に、それぞれ相当する。
また、引用文献1に記載された発明における「負荷の増大を検出する手段」に関し、「負荷」とは、「負荷トルク」であることは明らかであって、「負荷の増大を検出」とは、「負荷トルクを検出」といえるから、当該「負荷の増大を検出する手段」は、請求項1に係る発明における「トルク検出部」に相当する。
さらに、引用文献1に記載された発明における「電池電圧が所定値より低下する」ことは、本願発明における「電池電圧が所定電圧以下となる」ことに相当する。
そして、引用文献1に記載された発明における「制御回路C」及び「電圧検知切換回路VP」は、その機能や作用からして、両方を合わせて、本願発明における「制御部」に相当する。
また、引用文献1に記載された発明の「減速比にかかわらず前記電池電圧を検出する手段により検出される電池電圧が所定値より低下すると前記切換駆動部材7を制御して減速比を大きくする」は、減速比の大小によらず切換駆動部材7を制御し、減速比を大きくさせているから、本願発明の「前記動力伝達部の減速比が小さい場合に前記電圧センサにより検出される電池電圧が所定電圧以下となると前記変速用アクチュエータを制御して減速比を大きくする」と一致する。
さらに、引用文献1に記載された発明において、減速機構部の減速比を大きくすれば、その作用として、モータ電流が減少するため、電池の内部抵抗の影響が低減されることは明らかである。
そうすると、両者は次の点で一致する。
「モータと、前記モータに電力を供給するための電池と、前記電池の電池電圧を検出する電圧センサと、前記モータの回転動力を減速して出力軸に伝達するとともにその減速比が変更可能に構成された動力伝達部と、前記動力伝達部の減速比を変更する変速用アクチュエータと、出力軸に加わる負荷トルクを検出するトルク検出部と、前記検出した負荷トルクに応じて前記動力伝達部の減速比を変更すべく前記変速用アクチュエータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記動力伝達部の減速比が小さい場合に前記電圧センサにより検出される電池電圧が所定電圧以下となると前記変速用アクチュエータを制御して減速比を大きくすることでモータ電流を減少させ前記電池の内部抵抗の影響を低減させるように制御する電動工具。」
そして、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明では、「制御部」が「動力伝達部の減速比が大きい場合に電圧センサにより検出される電池電圧が所定電圧以下となるとモータの駆動を停止させる」のに対し、引用文献1に記載された発明では、係る構成を有するかどうか明らかでない点。
[相違点2]
本願発明では、「モータを停止させる制御を行った後に、変速用アクチュエータを制御して減速比を大きくする」、すなわち、減速比を大きくする前にモータを停止させるのに対し、引用文献1に記載された発明では、切換駆動部材7(本願発明の「変速用アクチュエータ」に相当。)により、減速機構部の減速比を大きくする前にモータ-6を停止させることが示されていない点。
第6.判断
上記相違点について、判断する。
1.相違点1について
本願の出願日前に頒布された引用文献2の段落【0082】には、「マイクロコントローラ30は、ポートP3においてバッテリパック電圧を検出するように設計される。マイクロコントローラ30は、ポートP3で受信される、バッテリパック1の残留容量を示す信号を読み取ってもよい。この信号は、電圧信号であってもよい。次に、マイクロコントローラはこれを選択されたしきい値と比較し、バッテリパックが過剰に放電されているかどうかを判断してもよい。バッテリパック1が過剰に放電されていれば、マイクロコントローラ30は、モータ2へ供給される電力を中断するために出力ポートP12をブロックする等の過放電防止プログラムを処理してもよい。」と記載されていることから、マイクロコントローラは検出されたバッテリパック電圧がしきい値以下となるとモータ2へ供給される電力を中断すること、すなわち、制御部は電圧センサにより検出される電池電圧が所定電圧以下となるとモータの駆動を停止させることが好ましいことが本願の出願日前に当業者にとり公知であった。
そして、引用文献1には、段落【0003】に「・・・本来ならば上記モーターロック状態となる前に低速高トルク回転状態への変速を行うが、作業負荷を電気的に検知して自動変速を行うものであると、電池電源の端子電圧の低下に伴い、作業負荷の検知動作が不能となることがあり、作業負荷をモーター回転数で見ているものにおいては、回転数の急激な低下による回転数検知動作のポイント遅れが原因で自動変速を行う前にモーターロック状態に陥ってしまうことがあり、電池電源の端子電圧の低下時における動作の安定性に問題を有する。」と記載されているとおり、「電池電源の端子電圧の低下」に課題があることが認識されている。そうすると、引用文献1に記載された発明において、減速比を大きくした場合でも、「電池電源の端子電圧の低下」した場合に何らかの対応を行おうとすることは当業者であれば十分に想到しうる事項にすぎない。
してみると、引用文献1に記載された発明において、減速機構部の減速比が大きい場合において制御部は電圧センサにより検出される電池電圧が所定電圧以下となるとモータの駆動を停止させるという引用文献2に記載された事項を適用する動機付けは十分にあるといえる。
したがって、引用文献1に記載された発明に引用文献2に記載された事項を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである
2.相違点2について
減速機構部の減速比を大きくする際にモータを停止させた後にことは周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開2009-56590号公報(平成29年5月1日付けで当審が通知した拒絶理由の引用文献2)の段落【0093】の「自動変速ステップは、ステップ733から736までを含む。リングギヤ45が高速位置から低速位置へ移動する際のギヤクラッシュを回避するために、リングギヤ45の回転速度は(好適には、ゼロまで)下げられる。この場合、マイクロコントローラ30は、モータへ供給される電力を一時的に中断する(ステップ733)。」との記載、及び、特開2012-30347号公報の段落【0003】の「この従来の電動工具では、切替部材が他のギア部材に係合する際の衝撃を抑えるため、ソレノイドを起動させる際には、あわせてモータの回転を停止または低減させている。」との記載参照。)である。
そうすると、減速機構部の減速比を大きくする等、変速の際に、モータを回転させたまま行うか、あるいは、モータを停止させて行うかは、変速機構に応じて当業者が適宜選択し得る事項であり、また、引用文献1に記載された発明及び上記周知技術は、電動工具という共通の技術分野に属するものであることを考慮すると、引用文献1に記載された発明に上記周知技術を適用して、減速機構部の減速比を大きくする前にモータを停止させるようにして、相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように構成することに困難性は認められない。
3.また、全体として見ても本願発明の奏する作用及び効果についても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項並びに上記周知技術から当業者が容易に予測し得る範囲のものであって、格別なものとはいえない。
4.したがって、本願発明は引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項並びに上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
5.請求人の主張について
請求人は、平成30年6月25日提出の意見書の第2ページ第8ないし11行において「一旦モータを停止させてから減速比を大きくするので、長期間の稼働で内部のグリス等が少なくなって動力伝達部の減速比変更に大きな力が必要となったとしても、減速比を変えるための変速用アクチュエータへの給電不足が生じることもない本願発明とは明らかに相違しています。」旨の主張している。
しかしながら、当該「一旦モータを停止させてから減速比を大きくするので、長期間の稼働で内部のグリス等が少なくなって動力伝達部の減速比変更に大きな力が必要となったとしても、減速比を変えるための変速用アクチュエータへの給電不足が生じることもない」旨の主張は、明細書の記載に基づかないものであるから、格別なものとであるとは認められず採用することができない。
第7.むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項並びに上記周知技術に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-016410