特許拒絶査定不服審判
2025-002767
空冷を有する工作機械及び工作機械の構成要素を冷却する方法
- 審判番号
- 2025-002767
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-524975
- 請求日
- 2025年02月21日
- 審決日
- 2026年03月17日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
- 【請求人代理人】弁理士法人相原国際知財事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 貴雄
- 審判官 青木 良憲
- 審判官 藤江 大望
- 分類
- P18 .121-Z (B25F) / P18 .56 -Z (B25F) / P18 .575-Z (B25F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023-524975「空冷を有する工作機械及び工作機械の構成要素を冷却する方法」拒絶査定不服審判事件〔2022年(令和4年) 6月 9日国際公開、WO2022/117336、令和 5年11月 2日国内公表、特表2023-546497〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2021年(令和3年)11月17日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2020年12月4日、(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする国際特許出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和5年 4月24日 :国内書面及び明細書等翻訳文の提出
令和6年 5月10日付け:拒絶理由通知書による拒絶の理由の通知
同年 8月20日 :意見書及び手続補正書の提出
同年10月22日付け:拒絶をすべき旨の査定
(拒絶査定、以下「原査定」という。)
令和7年 2月21日 :本件審判(拒絶査定不服審判)の請求
本件審判の請求と同時:手続補正書の提出
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年2月21日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
本件補正は、特許請求の範囲の全文を補正の対象とするものであって、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正がされた(下線は、補正箇所である。)。
「 【請求項1】
動力器具(1)であって、前記動力器具(1)の構成要素(32、20、34、5、38、22)を冷却するための空冷システムを有する動力器具(1)において、
前記動力器具(1)の構成要素(32、20、34、5、38、22)を冷却するためのファン(40)を含み、前記動力器具(1)は、
a)電子機器(20)を有するキャリアユニット(32)と、
b)モータコネクタ(34)と、
c)ステータ(38)とロータ(37)とを有するモータ(5)と、
d)構成要素としてのモータハウジング(22)と、
を含み、
前記ファン(40)は、前記モータ(5)の前記ロータ(37)上に配置されており、減圧を生成するように設計されており、前記減圧によって生成される空気流(35)が前記動力器具(1)の前記構成要素(32、20、34、5、38、22)を冷却し、
前記空気流(35)は、前記ステータ(38)の外側に沿って前記ファン(40)に誘導され、前記ロータ(37)は、エンクロージャ(39)により前記空気流(35)に対して密閉され、
前記キャリアユニット(32)は、前記動力器具(1)の本体内に配置され、前記空気流(35)が前記キャリアユニット(32)内に誘導されて前記電子機器(20)を冷却するように構成される、
ことを特徴とする、
動力器具(1)。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
本件補正前の(すなわち、令和6年8月20日提出の手続補正書により補正がされた)特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
動力器具(1)であって、前記動力器具(1)の構成要素(32、20、34、5、38、22)を冷却するための空冷システムを有する動力器具(1)において、
前記動力器具(1)の構成要素(32、20、34、5、38、22)を冷却するためのファン(40)を含み、前記動力器具(1)は、
a)電子機器(20)を有するキャリアユニット(32)と、
b)モータコネクタ(34)と、
c)ステータ(38)とロータ(37)とを有するモータ(5)と、
d)構成要素としてのモータハウジング(22)と、
を含み、
前記ファン(40)は、前記モータ(5)の前記ロータ(37)上に配置されており、減圧を生成するように設計されており、前記減圧によって生成される空気流(35)が前記動力器具(1)の前記構成要素(32、20、34、5、38、22)を冷却し、
前記空気流(35)は、前記ステータ(38)の外側に沿って前記ファン(40)に誘導され、前記ロータ(37)は、エンクロージャ(39)により前記空気流(35)に対して密閉される、
ことを特徴とする、
動力器具(1)。」
2 本件補正の適否(補正の目的要件)
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「電子機器(20)を有するキャリアユニット(32)」について、上記1(1)にて下線を付した補正箇所のとおり、「前記キャリアユニット(32)は、前記動力器具(1)の本体内に配置され、前記空気流(35)が前記キャリアユニット(32)内に誘導されて前記電子機器(20)を冷却するように構成される」こと(以下「補正事項」という。)を特定し、キャリアユニット(32)の配置位置、及び、キャリアユニット(32)内の電子機器(20)の空気流(35)による冷却の態様を具体的に限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
3 本件補正の適否(独立特許要件)
上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とすることから、本件補正が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(いわゆる「独立特許要件」)について、以下、検討する。
(1)検討する特許の要件
特許法第29条第2項(進歩性)
・引用する文献
ア 引用文献1
特開2019-217590号公報(原査定の引用文献1)
イ 周知例文献A
特開2007-196363号公報(原査定の引用文献3)
ウ 周知例文献B
特開2011-240441号公報(原査定の引用文献4)
エ 周知例文献C
国際公開第2016/067810号
オ 周知例文献D
国際公開第2018/003369号
カ 周知例文献E
特開2015-116650号公報
(2)本件補正発明の認定
本件補正発明は、上記1(1)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
なお、請求項1において、d)にのみ「構成要素としての」モータハウジング(22)と記載されるが、「構成要素(32、20、34、5、38、22)」と付記された符号に鑑み、ファン(40)により冷却される「構成要素」には、d)モータハウジング(22)のみならず、a)電子機器(20)を有するキャリアユニット(32)と、b)モータコネクタ(34)と、c)ステータ(38)とロータ(37)とを有するモータ(5)と、が含まれることを意図していると解釈する。
(3)引用文献1に記載された発明の認定
ア 引用文献1に記載された事項
引用文献1には、図面とともに次の記載がある(下線は当審にて付した。以下同様。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンマードリル等の電動工具を使用する際に発生する粉塵を集塵するために使用される電動工具用集塵システムに関する。」
「【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、ハンマードリル1に集塵装置40及び吸塵ビット70を装着して電動工具用集塵システムSを形成した例を示す中央縦断面図である。
まず、ハンマードリル1は、出力部3を収容するインナハウジング2と、インナハウジング2の下方に結合され、出力軸6を上向きとしたモータ5を収容するモータハウジング4と、インナハウジング2の外側を覆う外側ハウジング7と、外側ハウジング7の後方からモータハウジング4の下方にかけて設けられるハンドルハウジング8とを有している。
ハンドルハウジング8は、スイッチ10及びスイッチレバー11を備えて外側ハウジング7の後方で上下方向に延びるハンドル部9と、モータハウジング4の下側へ回り込んで、下部に電源となる前後2つのバッテリーパック13,13を装着するバッテリー装着部12とを備えている。バッテリー装着部12内でバッテリーパック13の上側には、制御回路基板を有するコントローラ14が前後方向に収容されている。
・・・
【0017】
また、ケーシング41内の上部前端には、LEDを用いたライト61が設けられて、ハンマードリル1への装着状態でツールホルダ23に装着されたビットの前方を照射可能となっている。
ケーシング41の後壁部44とハンドルハウジング8のバッテリー装着部12との間には、ケーシング41の装着状態で互いに電気的に接続される図示しない端子が設けられており、この端子同士の電気的接続により、集塵用モータ52及びライト61の電源は、バッテリーパック13からコントローラ14を介して得られるようになっている。ここではスイッチ10のON動作を契機として集塵用モータ52が駆動してライト61が点灯する。
・・・
【0022】
そして、ツールホルダ23に装着した吸塵ビット70のビット本体71の先端を被加工材の被加工面に押し当てた状態でハンマードリル1のスイッチレバー11を押し込み操作してスイッチ10をONさせると、モータ5が駆動して出力軸6が回転し、中間軸24及びクランク軸25を回転させる。・・・
【0023】
また、コントローラ14からの給電により、ケーシング41内の集塵用モータ52も駆動して集塵用ファン54が回転するため、集塵経路Rが負圧となってフレキシブルホース81に吸引力が発生する。・・・
【0024】
一方、ファン収容室55に進入した外気の他の部分は、排気流路60から外側ハウジング7の排気導入口7aを通って筒状流路38に至り、バレル部2aと外側ハウジング7との間を通過して本機側排気口7bから排出される。この空気の流れにより、バレル部2aが冷却される。
また、モータ5の出力軸6には、モータ冷却用ファン82が設けられて、バッテリー装着部12におけるコントローラ14の左右外側の側面には、吸気口83が、モータハウジング4の底面には、バッテリー装着部12内と連通する開口84がそれぞれ形成されている。よって、出力軸6の回転に伴うモータ冷却用ファン82の回転により、吸気口83から外気が吸い込まれてコントローラ14を冷却した後、開口84からモータハウジング4内に入ってモータ5を冷却し、外側ハウジング7に設けた図示しない排気口から排出される。この冷却風の一部は、筒状流路38へ合流してバレル部2aを冷却した後、本機側排気口7bから排出される。」
「【図1】
[図:0001437967000001.jpg]
」
イ 引用文献1に記載されているといえる事項
上記アから、引用文献1には、次の事項が記載されているといえる。
(ア)段落【0001】、【0009】の記載、及び、図1の図示内容から、引用文献1には、電動工具としてのハンマードリル1に関する発明が記載されている。
(イ)段落【0024】の記載から、引用文献1に記載のハンマードリル1は、モータ5の出力軸6に設けられたモータ冷却用ファン82を含んでおり、出力軸6の回転に伴うモータ冷却用ファン82の回転により、外気が、バッテリー装着部12におけるコントローラ14の左右外側の側面に形成された吸気口83から吸い込まれてコントローラ14を冷却した後、バッテリー装着部12内と連通するモータハウジング4の底面の開口84からモータハウジング4内に入ってモータ5を冷却し、外側ハウジング7に設けた排気口から排出されることがわかる。
また、当該外気は、モータハウジング4の底面の開口84からモータハウジング4内に入ることから、モータハウジング4自体も冷却するものといえる。
さらに、段落【0009】、【0017】、【0023】の記載から、引用文献1に記載のコントローラ14は、スイッチ10のON動作によりバッテリーパック13から集塵用モータ52の駆動のために給電する機能を有するものであるところ、段落【0022】の記載から、引用文献1に記載のモータ5も、スイッチ10のONにより駆動されるものであるから、コントローラ14からモータ5に対して給電がされることで、モータ5の回転駆動が制御されるといえる。そして、当該給電のために、離れた位置に配置されるコントローラ14とモータ5とを電気的に接続するための配線やコネクタなどの部材が両者の間に配設されているといえ、当該部材とモータ5とを接続する部分(以下「モータ側接続部分」という。)は、モータ5及びモータハウジング4が冷却されることに伴って冷却されることも明らかである。
以上から、引用文献1に記載のモータ冷却用ファン82は、少なくとも、ハンマードリル1を構成する要素に含まれる、コントローラ14、モータ側接続部分、モータ5、及び、モータハウジング4(以下「ハンマードリル1を構成する要素」という。)を冷却するためのものであるといえる。
そして、引用文献1に記載のハンマードリル1は、ハンマードリル1を構成する要素を冷却するためのモータ冷却用ファン82の、出力軸6の回転に伴う回転により、外気が、吸気口83から吸い込まれてコントローラ14を冷却した後、開口84からモータハウジング4内に入ってモータ5を冷却し、排気口から排出されることから、ハンマードリル1を構成する要素を冷却するための空冷機構を有しているといえる。
(ウ)段落【0024】の記載及び図1の図示内容から、引用文献1に記載のモータ冷却用ファン82は、モータ5の回転軸6に設けられており、また、モータ冷却用ファン82の回転により、吸気口83から外気が吸い込まれることから、減圧を生成するように設計されており、さらに、上記(イ)のとおり、減圧によって生成される外気の流れが、ハンマードリル1を構成する要素を冷却しているといえる。
(エ)段落【0009】の記載及び図1の図示内容から、モータ5の回転軸6は上向きであって、上記(ウ)のとおり、当該回転軸6にモータ冷却用ファン82が設けられることから、上記(イ)を踏まえれば、外気の流れは、モータ5を冷却した後にモータ冷却用ファン82に誘導されるといえる。
(オ)段落【0009】の記載及び図1の図示内容から、コントローラ14は、制御回路基板を有するものであり、ハンマードリル1のハンドルハウジング8のバッテリー装着部12内に収容され、外気の流れによって冷却されるといえる。そして、一般的に、制御回路基板は発熱を伴うものであって、引用発明1においてコントローラ14を外気の流れによって冷却するのは、当該制御回路基板を冷却するためと解される(ただし、外気の流れが制御回路基板に直接接触することで冷却されるのか、外気に直接接触することなく伝熱等により間接的に冷却されるのか、までは開示されていない。)。
ウ 引用文献1に記載された発明
上記ア~イを含む引用文献1に記載された事項を本件補正後の請求項1の記載(上記1(1))に合わせて整理すると、引用文献1には、電動工具に関する、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「電動工具であるハンマードリル1であって、前記ハンマードリル1を構成する要素を冷却するための空冷機構を有するハンマードリル1において、
前記ハンマードリル1を構成する要素を冷却するためのモータ冷却用ファン82を含み、前記ハンマードリル1は、ハンマードリル1を構成する要素として、
a)制御回路基板を有するコントローラ14と、
b)モータ側接続部分と、
c)モータ5と、
d)モータハウジング4と、
を含み、
前記モータ冷却用ファン82は、前記モータ5の出力軸6に設けられており、減圧を生成するように設計されており、前記減圧によって生成される外気の流れが、前記ハンマードリル1を構成する要素を冷却し、
前記外気の流れは、前記モータ5を冷却した後に前記モータ冷却用ファン82に誘導され、
前記コントローラ14は、前記ハンマードリル1のハンドルハウジング8のバッテリー装着部12内に収容され、前記外気の流れが前記コントローラ14の前記制御回路基板を冷却するように構成される、
電動工具であるハンマードリル1。」
(4)周知の技術的事項の認定
ア 周知例文献A~Bに例示される周知の技術的事項
(ア)周知例文献Aに記載された事項
周知例文献Aには、図面とともに次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータを使用する電動工具に関し、特に、モータハウジング部に収容されるブラシレスモータに対する冷却効果および防塵効果を向上させた電動工具の構造に関する。」
「【0040】
図2に示すように、ステータ12の回転軸方向両端部12dおよび12eは、一対のホルダ部材(支持部材)14の挟持部14aによって挟み込まれるようにモータハウジング部50aの内周部50f(図3参照)に固定されている。また、ステータ12の両端部12d、12eおよびロータ13の回転軸方向の両端部13a、13bは、一対のホルダ部材14の隔壁部14bによって包囲されている。一対のホルダ部材14の挟持部14aおよび隔壁部14bは、ステータ12と共に、ステータ12の内周部12b内部に設置されたロータ13を取り囲む密閉構造を形成し、モータハウジング部50a内にモータ3が設置される空間を区画または隔離する。これによって、粉塵がモータ3のロータ13部内に侵入することを防止できる。
・・・
【0046】
以上の構成により、図2および図3に示すように、吸気口17、貫通穴19、空間部16および排気口18は、冷却風(冷却気体)20の流通路を形成する。モータ3が運転されると回転軸11に取付けられた冷却ファン15が回転し、吸気口17から冷却風20をモータハウジング部50a内に吸引する。吸引された冷却風20は、モータハウジング部50aに設けられた貫通穴19を通り、モータ3のステータ12の外周部12cとモータハウジング部50aの内周部50fの空間部16に流れる。この状態において、ホルダ部材(リブ部材)14により、ステータ12の回転軸方向の両端部12d、12eおよびロータ13の回転軸方向の両端部13aおよび13bは、ホルダ部材(リブ部材)14によって挟み込まれるように、モータハウジング部50aに固定されるので、モータ3は他の空間部より区画または隔離された密閉構造(包囲構造)となる。従って、従来のブラシレスモータの構造に比較してモータ3の内部に外気が入り込むことが極めて少ない構造となり、粉塵が入ることが極めて少ない構造にできる。そして、空間部16に流れ込んだ冷却風20はステータ12の外周部12cを流れ、ステータ12を冷却しながら外気に排出されるので、ステータ12の放熱効果を向上させることができる。従って、本発明によれば、モータの防塵性能および冷却性能を向上させた電動工具を提供できる。」
「【図2】
[図:0001437967000002.jpg]
【図3】
[図:0001437967000003.jpg]
」
(イ)周知例文献Bに記載された事項
周知例文献Bには、図面とともに次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、電動工具に関し、特に、ソフトスタート制御を行う電動工具に関する。」
「【0029】
次に、図2を用いてモータ63の構成について説明する。図2は、図1のII-II断面図である。本実施の形態では、モータ63として、内部磁石配置形の3相ブラシレス直流モータを用いており、モータ63は、ステータ63aと、三相(U、V、W)のステータ巻線63bと、ロータ63cと、を備えている。
・・・
【0033】
図1に戻って全体構成の説明を続ける。図1に示すように、ステータ63aの後端部は、インバータ回路部62の円板状の回路基板によって全面的に覆われており、前端部は、防塵カバー64によって覆われている。このように、インバータ回路部62、ステータ63a、及び、防塵カバー64は、協働してロータ63cを閉塞又は密封する防塵構造(密閉構造)を形成しており、これにより、ロータ63cへの粉塵の侵入を防止している。
・・・
【0035】
モータ63の前端部側には回転出力軸63gと同軸上に冷却用ファン65が設けられている。胴体ハウジング部6の冷却用ファン65近傍には、図示しない排気口が形成されており、胴体ハウジング部6の後端部側には吸気口61が形成されている。この吸気口61から排気口に至る通路が流通路Pを形成しており、流通路Pを空気が通過することにより、スイッチング素子Q1~Q6及びステータ巻線63bの温度上昇を抑制している。また、スイッチング素子Q1~Q6の発熱が大きくなった場合には、冷却用ファン55から流通路Pに冷却用空気を送り出すことで、スイッチング素子Q1~Q6を強制的に冷却することも可能である。」
「【図1】
[図:0001437967000004.jpg]
【図2】
[図:0001437967000005.jpg]
」
(ウ)周知の技術的事項1
上記(ア)~(イ)に例示されるように、モータを冷却するためのファンを含む電動工具において、防塵および冷却のための次の事項は、本件出願前において周知の事項(以下「周知の技術的事項1」という。)であったと認められる。
「ステータとロータとを有するモータを冷却するためのファンを含む電動工具において、モータを冷却するためのファンによって生成される空気流は、ステータの外側に沿って流れ(周知例文献Aの冷却風20の流れ、周知例文献Bの流通路Pを参照。)、ロータは、密閉構造を形成する部材(周知例文献Aの隔壁部14b等、周知例文献Bの防塵カバー64等を参照。)により空気流に対して密閉されること(周知例文献Aの段落【0040】、周知例文献Bの段落【0033】を参照。)。」
イ 周知例文献C~Eに例示される周知の技術的事項
(ア)周知例文献Cに記載された事項
周知例文献Cには、図面とともに次の記載がある。
「[0001]
本発明は、電動モータの動力で作業工具を動作させる電動作業機に関する。」
「[0017]
また、モータケース27内にブラシレスモータ30が収容されている。このブラシレスモータ30は直流電動モータであり、ブラシレスモータ30は、筒形状のステータ31と、ステータ31の内側に配置されたロータ32と、を有している。ロータ32は、出力軸33と、出力軸33に固定されたロータコア32aと、を備えている。電動作業機10の正面視で、出力軸33の回転中心である軸線B1は、軸線A1に対して直角である。
・・・
[0020]
モータケース27内であって、インシュレータ39と軸受36との間に冷却ファン41が設けられている。冷却ファン41は、出力軸33に固定されており、冷却ファン41は出力軸33と共に回転して作業機本体12の外部の空気を、作業機本体12の内部に導入する役割を果たす。このため、底部カバー17に吸気口17aが形成されている。また、中間ケース14において、底部カバー17と同じ方向に延ばされた箇所に吸気口14aが形成されている。作業機本体12の外部と、モータケース27の内部とが、軸孔29及び吸気口17aによりつながっている。作業機本体12の外部と、中間ケース14の内部とが、吸気口14aによりつながっている。
・・・
[0049]
さらに、整流回路53の表面53aにヒートシンク135が取り付けられている。ヒートシンク135は熱伝導性を有する金属、例えば、アルミニウム、銅により形成されている。ヒートシンク135は整流回路53の表面53aに接触しており、ヒートシンク135に複数のフィン137が設けられている。複数のフィン137は軸線B1に沿った方向に延ばされている。複数のフィン137は、互いに間隔をおいて平行に並べられている。複数のフィン137同士の間に溝138が形成されている。制御基板71の側面視で、溝138の底部は表面53aと平行である。基板ケース82の収容室130内に、各種の部品、例えば、整流回路53、スイッチング回路121、制御基板71、ヒートシンク135が配置されて、基板ユニット143を構成している。」
「[図1]
[図:0001437967000006.jpg]
」
「[0064]
(変更例1)図8~図10は、基板ユニット143の変更例1である。図8~図10に示す基板ユニット143は、収容室130における整流回路53及びスイッチング回路121の配置位置を変更し、かつ、基板ケース82の構造が、図4~図6の基板ユニット143の構造とは異なる。
[0065]
変更例1における基板ケース82は、本体部129と共に収容室130を形成するカバー131を有する。軸線A1に沿った方向で、カバー131とモータケース27との間に、本体部129が配置されている。基板ケース82の構成は、図4~図6に示す基板ケース82と同様である。
・・・
[0067]
側壁133において、軸線B1に沿った方向で吸気口14aに最も近い箇所に、吸気口133aが設けられている。吸気口133aは、収容室130と基板ケース82の外部とをつないでいる。つまり、収容室130は、吸気口133a及び吸気口14aを介して、作業機本体12の外部とつながっている。また、軸線B1に沿った方向で、吸気口133aは、通路87と吸気口14aとの間に配置されている。通路87は、軸線B1に沿った方向で吸気口133aと排気口146との間に配置されている。
[0068]
この様に、変更例1においてはカバー131を設けたことで、冷却風を基板ケース82内に集中し、冷却効率が向上する。
・・・
[0071]
図8~図10の基板ユニット143において、吸気口84dを通って収容室130内に吸い込まれた空気は、流通経路D1に沿って流れ通路87からモータケース27内へ移動する。吸気口84cを通って収容室130へ吸い込まれる空気は流通経路D3に沿って流れ、流通経路D1の空気と合流する。整流回路53の熱、スイッチング素子Tr1~Tr6の熱は、収容室130内に吸い込まれた空気に伝達される。したがって、整流回路53及びスイッチング素子Tr1~Tr6の温度上昇が抑制される。
・・・
[0074]
また、図8の基板ユニット143においては、吸気口84d,84c(当審注:助詞がないのは誤記であり、「を」が入ると認められる。)空気が通るため、側壁84により空気の流れが阻害されることを抑制でき、空気の流れをスムースとすることができる。図8の基板ユニット143は、整流回路53を冷却する空気の流れの向きと、スイッチング回路121を冷却する空気の流れの向きとが同じであり、流通経路D1における空気の流れがスムースとなる。」
「[図8]
[図:0001437967000007.jpg]
」
「[図9]
[図:0001437967000008.jpg]
」
(イ)周知例文献Dに記載された事項
周知例文献Dには、図面とともに次の記載がある。
「[0001]
本発明は、ディスクグラインダ等の電動工具に関する。」
「[0058]
次に、図11の展開図を用いてモータハウジング200とその後方側に収容されるインバータ回路部230の内部構造を説明する。モータハウジング200は、合成樹脂の一体成形によって製造されるもので、モータ105を収容するモータ収容部202の前方側に外径が大きく形成されたファン収容部201が形成される。ファン収容部201の内部には冷却ファン106(図10参照)を収容するために外径が大きく形成されるとともに、外周の4箇所には、ギヤケース104(図10参照)をネジで固定するためのネジボス部205a~205d(但し、図では205bは見えない)が形成される。モータハウジング200の後方開口部付近には、インバータ回路部230を収容するための大径の回路基板収容部204が形成される。ここでは、モータ収容部202の直径に対して回路基板収容部204の直径が大きいように形成される。そのため、モータ収容部202から回路基板収容部204に至る接続部分は、テーパー状に広がるテーパー部203となっている。テーパー部203の内側部分には、軸受108bを保持するための軸受ホルダ210と風窓212(ともに図10参照)が形成される。
[0059]
インバータ回路部230は、回路基板241に電子部品が搭載されたIGBT回路素子群240と、それらを収容するための容器状の円筒ケース231によって形成される。円筒ケース231は略円筒状の外周面233の一方側(前方側)を底面232にて塞いだもので、その内部空間にIGBT回路素子群240が収容される。円筒ケース231内にモータ駆動用のスイッチング素子を配置することにより、制御回路基板262よりもモータ105側に配置可能となるので、回路基板241からモータ105への配線を短くすることができ、組み立てが容易となるとともに、無駄な配線を巡らせる分の空間を省略することで電動工具の大型化を抑制できる。円筒ケース231は、開口側がハンドル部160側(後向き)、即ち空気の吸気側になるように配置され、閉鎖面である底面232がモータ105側(前向き)になるように配置される。インバータ回路部230がモータハウジング200の後方側の回路基板収容部204の内部に収容されると、その後方側から支持部材130が装着される。・・・
[0061]
円筒ケース231の外周形状は、モータハウジング200の回路基板収容部204の内側形状に沿った形で軸方向に連続する窪みやレール部等が形成される。まず、モータハウジング200の円筒状のネジボス206a~206dを避けるために窪ませた回り止め保持部234a~234dが形成される。また、モータハウジング200の内壁部分に形成された溝部207a、207bと嵌合するために回転軸線A1方向に延びるレール部237a、237bが形成される。円筒ケース231の左右両側部分には、支持部材130の軸方向後方側から流れてIGBT付近に当たった冷却風をモータ105側へ流す風路を確保するための切り込み部236a、236bが形成される。
・・・
[0069]
リブ211の後方側はインバータ回路部230を収容するための空間となっており、回路基板収容部204の内周面には溝部207a、207bとレール部208が形成される。円筒形の軸受ホルダ210の後端位置はリブ211の後端位置よりも後方側になるように配置され、軸受ホルダ210の後端開口面がインバータ回路部230の円筒ケース231の底面232の中央付近に形成された円筒状の凸部と嵌合する。この結果、容器状の円筒ケース231に回路基板241を収容させることで組み立てが容易となり、かつ円筒ケース231の開口を吸気口側に向けたので吸気口からの空気が基板に当たり易くなり(ケース内に入り込みやすくなり)、冷却効果が向上する。さらに、底面232と風窓212の入り口部分には、軸方向に対して所定の隙間が形成されるので、風窓212よりも上流側から流れ込む冷却風が、軸方向だけでなく径方向にも流れることができる。モータ105はモータハウジング200の前方側の開口から挿入され、モータ105のステータ105bを保持するための溝部209a、209bが形成される。溝部209a、209bの溝部分にはモータ105のステータ105bの外面部に形成されたレール部が係合することによりモータ105を保持する。」
「[図10]
[図:0001437967000009.jpg]
[図11]
[図:0001437967000010.jpg]
」
(ウ)周知例文献Eに記載された事項
周知例文献Eには、図面とともに次の記載がある。
「【0001】
本発明は、電動モータにより先端工具を駆動するようにした電動工具に関する。」
「【0035】
制御基板78は、図3および図5に示されるように、台座板85に収容されている。制御基板78は、モータハウジング14cに隣り合って、つまり隣接して配置されており、モータハウジング14cの外周面に軸方向に沿って、ハウジング14の内部に固定されている。制御基板78は、ブラシレスモータ31の端面を覆う底部カバー37とブラシレスモータ31との間に配置されており、モータハウジング14cに隣接しているので、ファン79により生成される冷風流路内に配置される。これにより、制御基板78の冷却特性を向上させることができる。
・・・
【0039】
このように、制御基板78を破線矢印で示す冷風流路C内に配置することにより、モータ冷却風を、ブラシレスモータ31を冷却するための冷却風としても利用して、インバータ回路65のように、発熱する電子機器の冷却をも行うことができる。制御基板78に設けられる電子機器のうち、巻線に対する転流制御や速度制御を行うためのインバータ回路65を構成するスイッチング素子は、発熱量が多いが、冷風流路Cに制御基板78を配置することによって、モータ冷却風によりインバータ回路65が冷却され、スイッチング素子が過加熱されることが防止され、スイッチング素子を含めた制御基板78の耐久性を向上させることができるとともに、制御基板78から発生する熱がハウジング14に伝達されることなく、打撃工具10aの作業性を向上させることができる。」
「【図3】
[図:0001437967000011.jpg]
」
「【0052】
図18は電動工具の他の一例としてのグラインダ10hを示す平面図であり、図19は図18の縦断面図である。図20はグラインダの基部ハウジングの内部を示す拡大断面図であり、図21は図20におけるH-H線断面図である。
・・・
【0057】
制御基板78は台座板85に設けられており、台座板85はハウジング14の長手方向に延びて基部ハウジング14eに固定されている。台座板85は底壁部85aと、底壁部85aの外周部に一体となった側壁部85bとを有し、側壁部85bには通気口84eに対向させて通気口84gが設けられている。したがって、ファン79を回転駆動すると、通気口84eから外気がハウジング14内に流入し、流入した外気は通気口84gから台座板85内のスイッチング素子FETに吹き付けられて、制御基板78、ヒートシンク87およびスイッチング素子FETが冷却される。通気口84eから流入した外気は、制御基板78に沿って流れた後に、モータ31を通過して通気口84fから外部に排出される。」
「【図19】
[図:0001437967000012.jpg]
【図20】
[図:0001437967000013.jpg]
【図21】
[図:0001437967000014.jpg]
」
(エ)周知の技術的事項2
上記(ア)~(ウ)に例示されるように、電子機器(周知例文献Cにおける収容室130内の制御基板71等の各種部品、周知例文献Dにおける円筒回路基板241のIGBT回路素子群240、周知例文献Eにおける制御基板78に設けられる電子機器)を冷却するためのファンを含む電動工具において、次の事項は、本件出願前において周知の事項(以下「周知の技術的事項2」という。)であったと認められる。
「電子機器を冷却するためのファンを含む電動工具において、電子機器を有するキャリアユニット(周知例文献Cにおける基盤ユニット143、周知例文献Dにおける円筒ケース231、周知例文献Eにおける台座板85を参照。)が設けられ、ファンによって生成される空気流がキャリアユニット内に誘導されて(周知例文献Cの段落[0071]等の空気が吸い込まれる旨、周知例文献Dの段落[0069]等の空気がケース内に入り込む旨、周知例文献Eの【0057】等の外気がスイッチング素子に吹き付けられる旨の記載を参照。)前記電子機器を冷却すること。」
(5)本件補正発明と引用発明1との対比
ア 相当関係
本件補正発明と引用発明1とを対比すると、発明を特定するための事項に次の相当関係があるといえる。
(ア)引用発明1の「電動工具であるハンマードリル1」は、モータ5を動力として駆動する工具であるから、本件補正発明における「動力器具(1)」に相当し、引用発明1の「前記ハンマードリル1を構成する要素を冷却するための空冷機構」は、モータ冷却用ファン82による外気の流れによって電動工具を構成する要素を冷却することから、本件補正発明における「前記動力器具(1)の構成要素(32、20、34、5、38、22)を冷却するための空冷システム」に相当し、以下同様に、「モータ冷却用ファン82」は「ファン(40)」に相当し、「外気の流れ」は「空気流(35)」に相当する。
(イ)引用発明1におけるコントローラ14は、制御回路基板を有するものであって、コントローラ14によるモータ5、52等への給電等の電気的な制御(上記(3)イ(イ)を参照。)は、その制御回路基板によってなされることは、自明であるから、引用発明1の「制御回路基板を有するコントローラ14」は、本件補正発明における「電子機器(20)を有するキャリアユニット(32)」に相当する。また、引用発明1の「モータ側接続部分」は本件補正発明の「モータコネクタ(34)」に相当する。さらに、モータがロータとステータを有することは一般的な事項(必要であれば、周知例文献Aの【0040】、周知例文献Bの【0031】を参照。)であるから、引用発明1の「モータ5」は、本件補正発明における「ステータ(38)とロータ(37)とを有するモータ(5)」に相当する。また、引用発明1では、a)~d)のそれぞれを「ハンマードリル1を構成する要素」として認定しているので、引用発明1の「モータハウジング4」は、本件補正発明の「構成要素としてのモータハウジング(22)」に相当する。
(ウ)引用発明1のモータ冷却用ファン82は、モータ5の出力軸6に設けられているところ、モータがロータを有するとともに、ロータが出力軸を備えることも一般的な事項(必要であれば、周知例文献Cの[0017]を参照。)であるから、引用発明1の「前記モータ冷却用ファン82は、前記モータ5の出力軸6に設けられて」いることは、本件補正発明の「前記ファン(40)は、前記モータ(5)の前記ロータ(37)上に配置されて」いることに相当する。同様に、「減圧を生成するように設計されており、前記減圧によって生成される外気の流れが、前記ハンマードリル1を構成する要素を冷却」することは、「減圧を生成するように設計されており、前記減圧によって生成される空気流(35)が前記動力器具(1)の前記構成要素(32、20、34、5、38、22)を冷却」することに相当する。
(エ)本件補正発明における「前記空気流(35)は、前記ステータ(38)の外側に沿って前記ファン(40)に誘導され」る点は、冷却対象である「構成要素」の符号に(5)及び(38)を含む(上記(2)を参照。)ことからみて、空気流(35)がステータ(38)の外側に沿った流れとして生成されることでモータ(5)を冷却し、その冷却後にファン(40)に誘導されると認められるから、引用発明1における「前記外気の流れは、前記モータ5を冷却した後に前記モータ冷却用ファン82に誘導され」ることと、本件補正発明の「前記空気流(35)は、前記ステータ(38)の外側に沿って前記ファン(40)に誘導され、前記ロータ(37)は、エンクロージャ(39)により前記空気流(35)に対して密閉され」ることとは、「前記空気流は、前記モータを冷却して前記ファンに誘導され」ることに限り共通する。
(オ)引用文献1の段落【0009】には、ハンマードリル1が、インナハウジング2、モータハウジング4、外側ハウジング7、ハンドルハウジング8を有していることが記載されるから、引用発明1における「ハンドルハウジング8」は、本件補正発明の「本体」に相当する。してみると、引用発明1における「前記コントローラ14は、前記ハンマードリル1のハンドルハウジング8のバッテリー装着部12内に収容され」ることは、本件補正発明の「前記キャリアユニット(32)は、前記動力器具(1)の本体内に配置され」ることに相当する。さらに、引用発明1における「前記外気の流れが前記コントローラ14の前記制御回路基板を冷却するように構成される」ことは、本件補正発明の「前記空気流(35)が前記キャリアユニット(32)内に誘導されて前記電子機器(20)を冷却するように構成される」ことと、「前記空気流が前記電子機器を冷却するように構成される」ことに限り共通する。
イ 一致点
上記アから、本件補正発明と引用発明1とは、次の一致点で一致する。
[一致点]
「動力器具であって、前記動力器具の構成要素を冷却するための空冷システムを有する動力器具において、
前記動力器具の構成要素を冷却するためのファンを含み、前記動力器具は、
a)電子機器を有するキャリアユニットと、
b)モータコネクタと、
c)ステータとロータとを有するモータと、
d)構成要素としてのモータハウジングと、
を含み、
前記ファンは、前記モータの前記ロータ上に配置されており、減圧を生成するように設計されており、前記減圧によって生成される空気流が前記動力器具の前記構成要素を冷却し、
前記空気流は、前記モータを冷却して前記ファンに誘導され、
前記キャリアユニットは、前記動力器具の本体内に配置され、前記空気流が前記電子機器を冷却するように構成される、
動力器具。」
ウ 相違点
他方、本件補正発明と引用発明1とは、次の相違点1~2で相違する。
(ア) 相違点1
モータを冷却してファンに誘導される空気流に関して、本件補正発明においては、空気流は「前記ステータの外側に沿って」誘導され、当該空気流に対して「ロータは、エンクロージャにより密閉され」るのに対し、引用発明1は、外気の流れ(空気流)によりモータのどの部分をどのように冷却するのか、不明である点。
(イ) 相違点2
電子機器を冷却する構成に際して、本件補正発明では、「前記空気流が前記キャリアユニット内に誘導されて冷却する」のに対し、引用発明1は、どのような外気の流れ(空気流)によって制御回路基板(電子機器)を冷却するのか、不明である点。
(6)相違点についての判断
ア 相違点1
上記(4)ア(ウ)に示した周知の技術的事項1は、本件出願前において当業者に周知であった。
そして、引用発明1と周知の技術的事項1とは、モータを冷却するためのファンを含む電動工具に関するものである点で、技術分野が関連し、また、機能・作用が共通する。また、引用発明1においても、モータの冷却時にモータの防塵機能を高めたいとの課題が内在することは、明らかである。
してみると、引用発明1において、外気の流れ(空気流)によりモータを冷却するにあたり、防塵の機能も有する周知の技術的事項1を採用し、外気の流れ(空気流)がモータ5のステータの外側に沿って流れるようにし、ロータは、密閉構造を形成する部材(エンクロージャ)により外気の流れ(空気流)に対して密閉されるようにすることで、上記相違点1に係る本件補正発明とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
イ 相違点2
上記(4)イ(エ)に示した周知の技術的事項2は、本件出願前において当業者に周知であった。
そして、引用発明1と周知の技術的事項2とは、電子機器を冷却するためのファンを含む電動工具に関するものである点で、技術分野が関連し、また、機能・作用が共通する。また、引用発明1において、コントローラ14(キャリアユニット)が有する制御回路基板(電子機器)をより効率的に冷却したいとの課題が内在することは、明らかである。
してみると、引用発明1において、コントローラ14(キャリアユニット)が有する制御回路基板(電子機器)を冷却するにあたり、周知の技術的事項2を適用し、外気の流れ(空気流)がコントローラ14(キャリアユニット)内に誘導されることで制御回路基板(電子機器)を冷却することで、上記相違点2に係る本件補正発明とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(7)審判請求書における請求人の主張について
本件請求人は、令和7年2月21日提出の審判請求書において、概ね、上記相違点2については引用文献1に開示も示唆もされていない旨を主張する。
しかしながら、上記(6)イで検討したように、上記相違点2に係る本件補正発明の構成は、周知の技術的事項2(上記(4)イ(エ)を参照。)として示したように、本件出願前における周知の事項であったといえ、引用発明1に当該周知の技術的事項2を適用することに困難性も認められないから、当該請求人の主張を採用することはできない。
(8)本件補正の適否(独立特許要件)の小括
したがって、本件補正発明は、引用発明1及び周知の技術的事項1~2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4 本件補正についてのむすび
上記3のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり、決定する。
第3 本件発明について
1 本件発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本件出願の請求項1~13に係る発明は、本件補正前の、すなわち令和6年8月20日提出の手続補正書により補正がされた特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2の[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の本件発明に対する拒絶の理由は、原査定に説示される令和6年5月10日付け拒絶理由通知書に理由3として示した進歩性欠如に関する理由であって、概略、次のとおりである。
「本件発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用文献1に記載された発明及び引用文献3~4に例示される周知の技術的事項に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
ここで、引用文献1は、上記第2の[理由]3(1)アに示した引用文献1であり、引用文献3は、上記第2の[理由]3(1)イに示した周知例文献Aであり、引用文献4は、上記第2の[理由]3(1)ウに示した周知例文献Bである。
3 各引用文献に記載された発明、技術的事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、3~4に記載された事項、及び、引用文献1に記載された引用発明1、周知の技術的事項1は、上記第2の[理由]3(3)及び同(4)アに示したとおりである。
4 対比
本件発明は、上記第2の[理由]3で検討した本件補正発明から、補正事項(上記第2の[理由]2)による限定を削除したものである。
そして、本件補正発明と引用発明1とを対比した際の相違点のうち、相違点2(上記第2の[理由]3(5)ウ(イ))は、当該補正事項に基づくものであるから、本件補正発明から補正事項を削除した本件発明と、引用発明1とを対比すると、両者は、相違点1(上記第2の[理由]3(5)ウ(ア))と同様の相違点(以下単に「相違点」という。)のみで相違する。
5 相違点に対する判断
相違点1に係る本件補正発明の構成が、前記第2の[理由]3(6)アに記載したとおり、引用発明1、及び、周知の技術的事項1に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるから、上記相違点に係る本件発明の構成も同様に、引用発明1、及び、周知の技術的事項1に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
第4 むすび
以上のとおり、本件発明は、引用文献1に記載された発明(引用発明1)及び引用文献3~4に例示される周知の技術的事項(周知の技術的事項1)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、原査定の拒絶の理由のとおり、拒絶をされるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-002767