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特許拒絶査定不服審判

2016-015103

アルファ2,3-およびアルファ2,6-シアリル化を含む組換えFSH

審判番号
2016-015103
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2014-262056
請求日
2016年10月07日
審決日
2018年07月23日
公報発行日
2019年02月22日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】フエリング・インターナシヨナル・センター・エス・アー
  • 【請求人代理人】大野 聖二
  • 【請求人代理人】松任谷 優子
  • 【請求人代理人】北野 健
審判長/審判官
  • 審判長 中島 庸子
  • 審判官 小暮 道明
  • 審判官 高堀 栄二
分類
P18 .121-WZ (C07K) / P18 .537-WZ (C07K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2014-262056「アルファ2,3-およびアルファ2,6-シアリル化を含む組換えFSH」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 2日出願公開、特開2015-120696〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 本願は、2009年(平成21年)4月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年4月16日 米国、2008年4月25日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願の一部を平成26年12月25日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成27年11月18日付け:拒絶理由通知書 平成28年 2月22日  :意見書の提出 平成28年 6月 3日付け:拒絶査定 平成28年10月 7日  :審判請求書、手続補正書の提出 平成29年11月 2日付け:拒絶理由通知書 平成30年 5月 2日  :意見書の提出 第2 本願発明 本願の請求項1~10に係る発明は、平成28年10月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 α2,3-およびα2,6-シアリル化を含む組換えFSH(rFSH)であって、総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化である、組換えFSH。」 第3 当審の拒絶理由通知書の概要 平成29年11月2日付けで当審が通知した拒絶理由(以下「当審拒理」という。)は、本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引例1~7に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引例1:特表2005-515974号公報 引例2:特表2001-507215号公報 引例3:J. Clin. Endocrinol. Metab., 1994年, Vol.79, No.3, p.756-760 引例4:Cytotechnology, 1996年, Vol.21, No.2, p.171-182 引例5:再公表特許第99/11665号 引例6:Glycoconjugate Journal, 2000年, Vol.17, No.12, p.895-904 引例7:Biochimica et Biophysica Acta, 2000年, Vol.1474, No.3, p.273-282 第4 引用文献の記載事項及び引用発明 1 引用文献の記載 (1)引例1 当審拒理で「引例1」として引用した特表2005-515974号公報(以下「引例1」という。)には、以下の事項が記載されている。 (1-ア)「本発明は、高い程度のシアル酸付加を有し、有効性の増加した、FSH調製物を提供する。」(要約) (1-イ)「驚くべきことに、発明者らは高度にシアル酸付加されたFSHイソフォームが、よりシアル酸付加の少ないイソフォームよりもヒト患者における卵胞形成の刺激において高い有効性を有することを発見した。・・・」(段落【0038】) (1-ウ)「本発明のすべての実施態様において、組換えFSHが好ましい。ヒト患者の治療のためには、組換えヒトFSHが好ましい。本発明の調製物は慣用の組換えFSHから単離されることができ、又はFSHgly+調製物から単離されることができる。」(段落【0057】) (1-エ)「発明者らが“シアリルブースティング”と呼ぶ方法を用いてシアル酸含量を濃縮する方法を提供することも、本発明の側面である。組換えFSH(好ましい)又は組換えFSHgly+調製物(これも好ましい)或いは尿中FSHが、例えばPCT国際特許出願公開第WO98/31826号(Cytel Corporation)中に記載されたCMP-シアル酸のようなシアル酸供与体の存在下で、グリコシルトランスフェラーゼ、特別にはシアリルトランスフェラーゼのような酵素で処理することによってシアリルブースティングに供されることができる。・・・」(段落【0058】) (1-オ)「・・・使用されることのできるシアリルトランスフェラーゼの例は、ST3Gal IIIであり、これはまた、(2,3)-シアリルトランスフェラーゼ(EC2.4.99.6)と呼ばれる。・・・好ましい実施態様において、シアル酸付加法はST3Gal III(好ましくはラット由来)、ST3Gal IV、ST3Gal I、ST6Gal I、ST3Gal V、ST6Gal II、ST6GalNAc I、又はST6GalNAc II、より好ましくはST3Gal III、ST6Gal I、ST3Gal IV、ST6Gal II又はST3Gal V、より特別に好ましくはラット由来のST3Gal IIIを使用する。」(段落【0059】) (1-カ)「シアリルトランスフェラーゼをコードしている、細胞中で発現可能な遺伝子で、FSHを発現している、組換えの又はそうでない細胞をトランスフェクトすることによって、酸性イソフォームが濃縮されたFSHを製造することも可能である。上記遺伝子はゲノムのコード配列(すなわち、イントロンとともに)を含むことができ、又はcDNAコード配列を含むことができる。代わりに、上記細胞のゲノムがシアリルトランスフェラーゼをコードしている内因性の配列を含む場合、FSHの発現を引き起こす構築物が細胞のゲノム中に挿入されることができる。・・・」(段落【0061】) (1-キ)「FSH調製物のシアル酸付加の程度もまた、シアル酸付加に好都合であることが知られている組換えFSHの発現のための細胞を選択することによって増加されることができる。そのような細胞は、高レベルのシアリルトランスフェラーゼを発現する、選択された下垂体細胞及びチャイニーズハムスター卵巣の細胞を含む。・・・」(段落【0062】) (1-ク)「実施例6 シアリルトランスフェラーゼによる“シアリルブースティング” 組換えヒトFSH(“出発物質”;10mg)を4.3mg/mlの濃度で緩衝液(0.1M HEPES、pH7.5)に溶解した。この溶液へ、100mU/mlの濃度となるまで組換えラットシアリルトランスフェラーゼ(ST3Gal III)を添加し、そしてシアル酸供与体としてシチジン-5’-モノホスフェート-N-アセチルノイラミン酸(CMP-NeuAc)を20mMの濃度で添加する。・・・反応を37℃で24時間インキュベートする。実施例3に記載の技術を用いてシアル酸が濃縮された分画を単離する。」(段落【0119】) (1-ケ)「CHO又はHEK293細胞中で発現されたFSH突然変異体調製物を実施例6に記載のとおりに、シアリルブースティングに供した。・・・」(段落【0131】) (2)引例2 当審拒理で「引例2」として引用した特表2001-507215号公報(以下「引例2」という。)には、以下の事項が記載されている。 (2-ア)「組み換え体糖タンパク質が、所望のグリコシル化パターンを生じさせるグリコシル化機構の適切な補助物質を有しない細胞中において産生されるときに、このような非最適化シアリル化パターンが生じることがある。・・・最適なシアリル化パターンの利点は、例えば、清掃速度の減少による糖タンパク質の治療的半減期の増加を含む。シアリル化パターンの変更は外来タンパク質における抗原決定基をマスクすることもでき、それにより、タンパク質に対する免疫応答を抑制しまたは排除することができる。糖タンパク質が結合した糖のシアリル化の変更は変更されたオリゴ糖に特異的な細胞表面レセプターにタンパク質を標的とするために、または、未変更の糖に特異的なレセプターに対する標的をブロックするために用いることもできる。 ・・・本発明の方法を用いた組み換え発現および次の修飾のために注目されるポリペプチドはα1-アンチトリプシン、エリスロポエチン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、アンチトロンビンIII、インターロイキン6、インターフェロンβ、プロテインC、フィブリノゲン等を含む。ポリペプチドのこのリストは例示であり、排他的なものではない。」(15頁17行~16頁12行) (2-イ)「本発明は、α2,6Gal結合及びα2,3Gal結合でシアル酸を加えることにより糖タンパク質のシアリル化パターンを変える方法も提供する。α2,6Gal結合及びα2,3Gal結合の両方は、ヒト血漿糖タンパク質の窒素に結合しているオリゴ糖上に存在する。この態様において、ST3Gal III及びST6Gal Iシアリルトランスフェラーゼはともにこの反応において存在し、再シアリル化反応において形成される2つの結合を再現性のある比率で有するタンパク質を提供する。例えば、最終生成物において両方の結合が望ましい場合には、2種の酵素の混合物が有用な場合がある。」(20頁下から4行~21頁4行) (3)引例3 当審拒理で「引例3」として引用した「J. Clin. Endocrinol. Metab., 1994年, Vol.79, No.3, p.756-760」(以下「引例3」という。)には、以下の事項が記載されている(英語から日本語への翻訳は当審が行った。)。 (3-ア)「FSHは、シアル酸含量の異なる4種類のアスパラギン結合オリゴ糖を有するため、FSHは単一の分子ではなく、アイソフォームの混成群である。・・・組換えhFSHはこれまでCHO細胞で生産されており、下垂体FSH標準及び精製した尿FSHの両方と類似のアイソフォームプロフィールを有している。しかしながら、これらのFSH調製物は、循環において観察されるFSHアイソフォームの全スペクトルを含んでいない。グリコシル化のパターンが異なる細胞株における組換えhFSHの製造は、アイソフォームプロフィールを広げ、潜在的にはその生物学的活性を変化させる可能性がある。」(756頁要約左欄1~12行) (4)引例4 当審拒理で「引例4」として引用した「Cytotechnology, 1996年, Vol.21, No.2, p.171-182」(以下「引例4」という。)には、以下の事項が記載されている(英語から日本語への翻訳は当審が行った。)。 (4-ア)「α2,6及びα2,3シアル酸結合の発現は、Sp2/0細胞が、CMP NeuAc:Galβ1-4GlcNAc α2,6及びCMP NeuAc:Galβ1-4GlcNAc α2,3シアリルランスフェラーゼを含むことを示している。シアル酸残基は、肝臓のクリアランスからの保護だけではなく、分子の立体配置の安定性にも寄与している可能性がある。たとえば、アシアロエリスロポエチンは、熱変性及びトリプシン消化に敏感であることが分かっている(Briggs等、1974年)。α2,6結合シアル酸と比較したα2,3結合の機能的な重要性は現時点で判明していないものの、シアル酸結合の差異が生物活性を決定する上で重要な役割を果たす可能性がある。」(179頁右欄下から2行~180頁左欄12行) (5)引例5 当審拒理で「引例5」として引用した再公表特許第99/11665号(以下「引例5」という。)には、以下の事項が記載されている。 (5-ア)「本来CHO細胞はα2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性を有していないが・・・、これにLee,E.J.ら(J.Biol.Chem.264巻,13848~13855頁,(1989))の方法にあるように強力なプロモーター下に配したα2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することによって、本来細胞の有するα2,3-シアリルトランスフェラーゼ活性と競合することによってその量的優位性によってα2,6結合型シアル酸がα2,3結合型シアル酸と同一分子上に、あるいは優位に付加されたTPOが産生されることになる。・・・ ・・・このように、本発明はまた、CHO細胞にα2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入し、該CHO細胞においてヒトTPO遺伝子を発現させることを含む、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOの製造方法を提供する。さらに本発明は、CHO細胞においてヒトTPO遺伝子を発現させ、該CHO細胞に、α2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入することを含む、少なくともα2,6結合型シアル酸の糖鎖構造をもつヒトTPOの製造方法を提供する。」(15頁6行~16頁13行) (6)引例6 当審拒理で「引例6」として引用した「Glycoconjugate Journal, 2000年, Vol.17, No.12, p.895-904」(以下「引例6」という。)には、以下の事項が記載されている(英語から日本語への翻訳は当審が行った。)。 (6-ア)「本研究において、我々は、シアリル化の度合いを増加し、シアル酸の結合に関するシアリルトランスフェラーゼの種類による影響を調査するため、ネズミGalβ1-3/4GlcNAc-R α2,3-シアリルトランスフェラーゼ(ST3Gal IV)及びラットGalβ1-4GlcNAc-R α2,6-シアリルトランスフェラーゼ(ST6Gal I)のcDNAをIM4/Vh細胞に導入した。・・・我々は、異なるレベルのα2,3-ST及び/またはα2,6-STを発現する4つのクローンを単離した。IM4/Vhクローン由来のhIFN-γのシアリル化の度合いは61.2%であり、これは全てのST形質転換体において約80%の増加であった。過剰発現されたSTの種類と無関係に増加が生じ、また、α2,3-とα2,6-シアル酸の比率は、α2,3-STのα2,6-STに対する割合に対応していた。」(895頁要約6~13行) (6-イ)「さらに、CHO由来糖タンパク質は、シアル酸結合の型について、ヒト由来糖タンパク質と著しく相違する。天然のヒト糖タンパク質は、通常、α2,6-及びα2,3-結合の両方にシアル酸を含むが、CHO細胞では、α2,6-シアリルトランスフェラーゼ(α2,6-ST)遺伝子の機能的コピーを欠損しているため、CHO由来糖タンパク質は、α2,3-結合のシアル酸のみを含む。」(896頁左欄10~16行) (6-ウ)「hIFN-γを産生する2つのCHO細胞株、IM4及びIM4/Vhを用いて実験を行った。」(896頁右欄34~35行) (6-エ)「結論として、我々は、2種類のSTを過剰発現することによって、CHO細胞におけるシアリル化が増加することを示した。α2,3-STのα2,6-STに対する活性の割合がα2,3-及びα2,6-シアル酸の比率に直接的に影響を与えることが明らかとなった。α2,3-及びα2,6-シアル酸の所望の比率を生産するCHOクローンは、より自然なグリコシル化タンパク質を生産するものであるが、論理的にはα2,3-STのα2,6-STに対する活性の割合を変更することによって得ることができる。」(903頁左欄9~16行) (7)引例7 当審拒理で「引例7」として引用された「Biochimica et Biophysica Acta, 2000年, Vol.1474, No.3, p.273-282」(以下「引例7」という。)には、以下の事項が記載されている(英語から日本語への翻訳は当審が行った。)。 (7-ア)「CHO細胞はグリコシル化された組換えタンパク質の生産のために広く用いられている。我々のグループは、他のグループと同様、α2,6-シアリルトランスフェラーゼ(α2,6-ST)のcDNAを形質転換することによって、CHO細胞のシアリル化の欠点を修正可能なことを示した。そのようなCHO細胞によって生産された糖タンパク質は、ヒトの糖タンパク質と同様、α2,6-及びα2,3-の両方の結合末端のシアル酸残基を示す。」(274頁要約1~3行) (7-イ)「3.7 組換えIFN-γのシアリル化パターン、生物学的活性、及び、体内でのクリアランス クローン54(α2,6-ST+)から精製されたIFN-γのシアル酸配置は、α2,6結合のシアル酸が40.4%、α2,3結合のシアル酸が59.6%であった。反対にクローン43(α2,6-ST-)由来のIFN-γのは予想どおりα2,3結合のみを示した。」(278頁右欄1行~279頁左欄4行) 2 引用発明 摘記事項(1-ア)~(1-カ)及び(1-ク)からみて、引例1には、シアリルトランスフェラーゼを用いたシアリルブースティングによって高度にシアル酸が付加され、有効性の増加した組換えヒトFSHが記載されている。 ここで、組換えヒトFSHはこれまでCHO細胞で生産されているといえるところ(摘記事項(3-ア))、CHO細胞はα2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性を有さない(摘記事項(5-ア)、(6-イ))。そして、摘記事項(1-キ)及び(1-ケ)からみて、引例1には、組換えFSHの発現にCHO細胞を用いることが記載されており、また、摘記事項(1-ク)からみて、引例1には、組換えヒトFSHのシアリルブースティングの実施例として、ST3Gal IIIを用いたシアリル化、すなわち、α2,3-シアリル化が記載されている。 以上からみて、引例1に記載された、高度にシアル酸が付加され、有効性の増加した組換えヒトFSHは、α2,6-シアリルトランスフェラーゼ活性を有さないCHO細胞で生産された組換えヒトFSH、すなわち、α2,3-シアリル化は含むものの、α2,6-シアリル化は含まない組換えヒトFSHに対して、さらなるα2,3-シアリル化を行ったものであると解される。 したがって、引例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「α2,3-シアリル化は含むものの、α2,6-シアリル化は含まない組換えヒトFSHに対して、さらなるα2,3-シアリル化を行った組換えヒトFSH」 第5 対比、判断 (1)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 本願発明と引用発明とは、「シアリル化を含む組換えFSH(rFSH)」である点で一致する。 一方、「組換えFSH(rFSH)」(以下、単に「組換えFSH」という。)について、本願発明は、「α2,3-およびα2,6-シアリル化を含む」こと、及び「総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化である」ことが特定されているのに対し、引用発明は、α2,3-シアリル化は含むもののα2,6-シアリル化は含まず、また、総シアリル化に占めるα2,3-シアリル化の割合も特定されていない点で相違する(以下「相違点」という。)。 (2)判断 ア 相違点について 上記相違点について検討する。 (ア) 引例2に、組み換え体糖タンパク質に対し、α2,6Gal結合及びα2,3Gal結合でシアル酸を加えることにより糖タンパク質のシアリル化パターンを変えること、及びα2,6Gal結合及びα2,3Gal結合の両方は、ヒト血漿糖タンパク質の窒素に結合しているオリゴ糖上に存在するものであることが記載され(摘記事項(2-ア)、(2-イ))、また、引例6に、天然のヒト糖タンパク質は、通常、α2,6-及びα2,3-結合の両方にシアル酸を含むこと、及びα2,3-及びα2,6-シアル酸の所望の比率を生産するCHOクローンはより自然なグリコシル化タンパク質を生産するものであることが記載され(摘記事項(6-イ)、(6-エ))、さらに、引例7に、α2,6-シアリルトランスフェラーゼのcDNAにより形質転換したCHO細胞によって生産された糖タンパク質は、ヒトの糖タンパク質と同様、α2,6-及びα2,3-の両方の結合末端のシアル酸残基を示すことが記載されている(摘記事項(7-ア))。 そうすると、組換えヒト糖タンパク質としては、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を含むものの方が、より天然のヒト糖タンパク質に近いことが本願優先日当時の当業者の技術常識であったといえる。 (イ) 引例2に、ST3Gal III及びST6Gal Iシアリルトランスフェラーゼを用いた再シアリル化反応により、2つの結合、すなわちα2,3-及びα2,6-結合を有するタンパク質を提供ことが記載されるとともに、その対象となる組換え糖タンパク質として、α1-アンチトリプシン、エリスロポエチン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、アンチトロンビンIII、インターロイキン6、インターフェロンβ、プロテインC、フィブリノゲンなどが例示され(摘記事項(2-ア)、(2-イ))、そして、引例5に、α2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入したCHO細胞により、α2,3結合型及びα2,6結合型の両シアル酸が付加された形のTPOを発現させることが記載され(摘記事項(5-ア))、また、引例6に、hIFN-γを産生するCHO細胞株に、ST3Gal IV及びST6Gal IのcDNAを導入し、α2,3-及びα2,6-シアル酸の両方を含むhIFN-γを産生することが記載され(摘記事項(6-ア)、(6-ウ)、(6-エ))、さらに、引例7に、α2,6-シアリルトランスフェラーゼ(α2,6-ST)のcDNAで形質転換したCHO細胞により、α2,6結合及びα2,3結合のシアル酸を有するIFN-γを生産し、そののシアリル化パターン及び生物学的活性を確認したことが記載されている(摘記事項(7-ア)及び(7-イ))。 そうすると、種々の糖タンパク質を対象として、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を含む組換え糖タンパク質を調製すること、及び、その際に、α2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入したCHO細胞を用いることは、本願優先日当時の当業者の周知技術であったといえる。 (ウ) 引例2に、糖タンパク質の清掃速度すなわちクリアランス速度の減少による治療的半減期の増加や、その免疫応答の抑制又は排除を目的に、該糖タンパク質のシアリル化パターンを最適なものとすることが記載されており(摘記事項(2-ア)、(2-イ))、そして、引例4に、α2,6結合及びα2,3結合というシアル酸結合の差異が生物活性を決定する上で重要な役割を果たす可能性があることが記載されており(摘記事項(4-ア))、また、引例6に、α2,3-とα2,6-シアル酸の比率は、α2,3-STのα2,6-STに対する割合に対応し、α2,3-及びα2,6-シアル酸の所望の比率を生産するCHOクローンは、論理的には、α2,3-STのα2,6-STに対する活性の割合を変更することによって得ることができることが記載され(摘記事項(6-ア)、(6-エ))、さらに、引例7には、組換えIFN-γすなわち組換え糖タンパク質のシアリル化パターン及び生物学的活性を確認したことが記載されている(摘記事項(7-イ))。 (エ) 前記(ア)及び(イ)に示した当業者の技術常識や周知技術、前記(ウ)に示した知見、並びに、引用発明が、組換えヒトFSHの有効性を高めることを目的とし(摘記事項(1-ア)、(1-イ))、及びヒト患者の治療に使用されるものであること(摘記事項(1-ウ))をも考慮すれば、当業者であれば、より天然のヒト糖タンパク質に近いものとすること自体を目的として、あるいは、より天然のヒト糖タンパク質に近いものとすることによって、ヒトに用いた際の免疫応答の抑制や治療的半減期の増加を期待して、引用発明を、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を含む組換えヒトFSHとして調製しようとし、また、その際に、α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率についても検討するといえ、その具体的手段も、少なくとも以下に示すa及びbという、当業者が容易になし得る2通りの手段があったといえるから、これらの手段のいずれによっても、引用発明の組換えヒトFSHを、α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の両方を含み、かつ、α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化を所望の比率で有する組換えヒトFSHとして調製することが可能であったといえる。 a 摘記事項(1-カ)からみて、引例1には、FSHを発現している細胞を、シアリルトランスフェラーゼをコードする遺伝子で形質転換することが記載されており、また、前記(イ)のとおり、α2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入したCHO細胞を用いて、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を含む組換え糖タンパク質を調製することは本願優先日当時の当業者の周知技術であり、さらに、前記(ウ)のとおり、α2,3-シアリルトランスフェラーゼとα2,6-シアリルトランスフェラーゼの活性の割合を調整することにより、α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率を変更することができるから、α2,6-シアリルトランスフェラーゼcDNAを導入したCHO細胞を組換えヒトFSHの生産に用いることにより、α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の両方を含む組換えヒトFSHを得ること、及び、その際に、α2,3-シアリルトランスフェラーゼとα2,6-シアリルトランスフェラーゼの活性の割合を調整することにより、α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率を所望のものに調整することは当業者が容易になし得ることである。 b 引用発明の組換えヒトFSHはα2,3-シアリル化は含むもののα2,6-シアリル化は含まないが、摘記事項(1-エ)及び(1-オ)からみて、引例1には、シアリルブースティングにおいて、α2,6-シアリルトランスフェラーゼである「ST6Gal I」や「ST6Gal II」を用いることが記載されているから、引用発明の組換えヒトFSHを、「ST6Gal I」や「ST6Gal II」等のα2,6-シアリルトランスフェラーゼで処理し、α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の両方を含む組換えヒトFSHを得ること、及び、その際に、α2,6-シアリルトランスフェラーゼによる処理条件を調整することにより、α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率を所望のものに調整することは当業者が容易になし得ることである。 (オ) 以上のとおりであるから、引用発明の組換えヒトFSHを、α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の両方を含み、かつ、α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化を所望の比率で有する、すなわち、総シアリル化に占めるα2,3-シアリル化を所望の割合で有する組換えヒトFSHとして調製することは、上記a及びbいずれの手段によっても、当業者が容易になし得ることである。 そして、本願発明の組換えFSHについて、「総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化である」ことが特定されているものの、α2,3-シアリル化の割合を上記範囲に調整することに技術的な困難性は見出せないから、このようなα2,3シアリル化の割合は当業者が適宜調整しうる範囲の一つに過ぎないといえる。 したがって、引用発明において、上記相違点の構成を採用することは、当業者が容易になし得ることである。 イ 本願発明の効果について 本願発明の組換えFSHについて、「総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化である」と特定されることにより奏される効果について検討する。 本願明細書の【0013】には、本願発明の課題として、「ヒト尿からもたらされる産物の生理化学的および薬物動態学的特性をより厳密に再現または模倣するrFSH産物を有することが望まれている。既知の組換え産物と比較して薬物動態学的特性(複数可)が向上したrFSH産物を有することが望まれている。」と記載され、【0015】には「実施例4では、α2,3結合シアル酸およびα2,6結合シアル酸のレベルが両方とも低いグリカンを含有するFSHを発現した組換えFSH細胞系が作製された(図6)。シアル酸含有量が限定されているこの塩基性物質(図4)は、予測どおり、ラットの循環から非常に迅速に除去された(図7)。その後、この細胞系を、α2,6-シアリル-トランスフェラーゼをコードする遺伝子を付加する第2の操作・・・ステップに供した(実施例5)。その結果生じたrFSHは、高度にシアリル化されており、尿のFSHと同様のシアル酸含有量およびpI分布を示した(図5)。しかしながら、この物質は、シアル酸含有量が低かった元の物質と同様の速度でラットの循環から非常に迅速に除去された(図8)。天然の生物学的に活性なFSHのシアル酸の一部は、α2,6結合であることが知られているため、これは予期しない観察だった。」と記載され、【0017】には「驚くべきことに、本出願者らは、本発明のrFSHが、他の組換え産物より、天然ヒト尿産物の生理化学的および薬物動態学的特性をより厳密に再現または模倣することができることを見出した。」と記載され、【0018】には「本発明は、α2,3シアル酸およびα2,6シアル酸の混在する、したがってより厳密に天然FSHに類似している組換え型FSHである。IVF技術における卵巣刺激および排卵誘発の制御に本化合物を使用すると、その結果として既存の組換え産物と比較してより自然な卵巣刺激がもたらされることになることが予想される。」と記載されている。 以上の記載から、本願発明が、天然FSHに類似し、既知の組換え産物と比較して薬物動態学的特性が向上している組換えFSHを提供することを課題とすること、及び組換えFSHにおいて、α2,3シアリル化及びα2,6シアリル化のレベルが両方とも低いものや、高度にα2,6シアリル化されたものは、ラットの循環から非常に迅速に除去されてしまう、すなわち、半減期が短いことが理解できる。 しかし、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の比率について、本願明細書の実施例では、「総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化」とは異なる範囲である、「α2,3シアリル化は65%~85%の範囲・・・であり、α2,6シアリル化は15%~35%・・・」の範囲であるものが実施例8bに記載されるに止まり、他の実施例を参照しても、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の比率は記載されていない。そして、本願明細書の【0022】には「本発明によるrFSH・・・は、総シアリル化の10%以上が、α2,3シアリル化であってもよい。例えば、総シアリル化の20、30、40、50、60、70、80、または90%以上が、α2,3シアリル化であってもよい。rFSH・・・は、総シアリル化の65~85%、例えば総シアリル化の70~80%、例えば総シアリル化の71~79%の量のα2,3シアリル化を含んでいてもよい。本発明のrFSH・・・は、総シアリル化の50%以下が、α2,6シアリル化であってもよい。例えば、総シアリル化の40、30、20、10、または5%以下が、α2,6シアリル化であってもよい。rFSH・・・は、総シアリル化の15~35%、例えば総シアリル化の20~30%、例えば総シアリル化の21~29%の量のα2,6シアリル化を含んでいてもよい。」(下線は当審にて付した。)と記載されているものの、全て「であってもよい」又は「含んでいてもよい」とされていることから、これらの記載は例示に過ぎず、これらの記載から、ここで示された範囲内であることの利点や、範囲を逸脱することによる欠点を理解することはできない。 したがって、「総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化」である組換えFSHが、具体的に如何なる効果を備え、既知の組換え産物と比較して薬物動態学的特性がどの程度向上しているのかを本願明細書の記載から理解することはできない。 この点について、審判請求書において、請求人は、「・・・国際公開WO2012/017058号公報では、その表4に示されるようなα2,3シアリル化43%であり、α2,6シアリル化57%である組換えFSH・・・が、α2,3シアリル化100%のGonal Fや、α2,3シアリル化75%でありα2,6シアリル化25%であるBravelleと比較して、約2倍のCmaxを示し、25IUの単回投与では、本願発明の範囲に含まれるFSHのみが卵胞増殖効果を示しています。また、国際公開WO2015/158875号公報は、国際公開WO2012/017058号公報の臨床試験結果を記載していますが、Gonal Fの1/2または3/4の用量でも、これより高い卵胞成長促進効果を示します(表2および4)。このように本願発明が優れていることは、これらの追加的資料からも理解できる」と主張するものの、前記のとおり、本願明細書には、実施例を含めて、「総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化」である組換えFSHそのものや当該組換えFSHの有する効果が明記されていないので、本願発明の効果を、本願優先日より後に公開された公報の記載内容により補うことはできない。もっとも、上記公報において薬理効果が裏付けられている組換えFSHは、DSM ACC3078として本願出願日後に寄託された、すなわち、本願優先日当時には入手することが困難であったというべきヒト細胞株GT-5sから調製される特定のグリコシル化パターンを持つものであり、上記公報に記載された薬理効果が、本願発明の組換えFSHの薬理効果を示すものであるとはいえない。したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。 以上からみて、本願発明の組換えFSHについて、「総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化である」と特定されることにより当業者が予測できない顕著な効果が奏されているとは推認できず、この点からみても、このようなα2,3シアリル化の割合は当業者が適宜調整しうる範囲の一つに過ぎないといえる。 (3)平成30年5月2日提出の意見書における請求人の主張について ア 本願発明の非容易想到性について (ア)請求人の主張 引例1には、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を有する組換えFSHに当業者を動機付ける記載は存在せず、加えて、総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化である組換えFSHに当業者を動機付ける記載は存在しない。また、引例1の高シアリル化FSHは非常に満足のいくものであるから、これを更に改変する動機付けを当業者に与えるものではない。さらに、引例2~7のいずれにも、α2,3-及びα2,6-シアリル化を含むことと、総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化であることとで特定された発明については示唆も開示もなされてない。 (イ)検討 引例1に、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を合わせて有することの重要性が明示的に記載されていなくとも、前記(2)ア(エ)で検討したとおり、当業者であれば、引用発明をより天然に近いものあるいはより効果的なものとするために、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を含む組換えヒトFSHとして調製しようとし、また、その際に、α2,3-シアリル化及びα2,6-シアリル化の比率についても検討するといえ、その具体的手段も、前記(2)ア(エ)a及びbで検討したとおりである。 さらに、本願発明の組換えFSHについて、「総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化である」ことが特定されているものの、α2,3-シアリル化の割合を上記範囲に調整することに技術的な困難性は見出せず、かつ、α2,3-シアリル化の割合を上記範囲に特定することにより当業者が予測できない顕著な効果が奏されているとも推認できないから、このようなα2,3シアリル化の割合は当業者が適宜調整しうる範囲の一つに過ぎないというべきことは、前記(2)ア(オ)及び(2)イで検討したとおりである。 したがって、この点における請求人の主張を採用することはできない。 イ 本願発明の効果について (ア)請求人の主張 本願明細書の【0015】には、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化とを低いレベルで含有するFSHも、高度にα2,6-シアリル化したFSHも迅速にラット循環から除去されることが記載されているところ、本願発明の組換えFSHは、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の両方を有し、より天然のFSHに類似する一方、上記のような過剰なα2,6-シアリル化を有さず、迅速にクリアランスされにくいものである。そして、本願の実施例1~5に、α2,3-シアリルトランスフェラーゼで遺伝子操作された202クローン、及びα2,6-シアリルトランスフェラーゼで遺伝子操作された210クローンが開示されており、実施例8bの組換えFSHは、様々なシアリル化を有する組換えFSHの一例に過ぎない。また、α2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化とを有する上に、総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化であることで確かに優れた活性を有することは、国際公開第2012/017058号及び国際公開第2015/158875号に示されている。 (イ)検討 確かに、実施例1~5を通じ、α2,3-シアリルトランスフェラーゼで遺伝子操作された202クローン、及びα2,6-シアリルトランスフェラーゼで遺伝子操作された210クローンを得た旨が記載されてはいるものの、これらのクローンにおけるα2,3-シアリル化とα2,6-シアリル化の比率の具体的数値はおろか、その数値範囲も記載されてはおらず、そもそも本願明細書に様々なシアリル化を有する組換えFSHが記載されていると解することはできない。 そして、前記(2)イで検討したとおり、本願明細書の実施例には、「総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化」とは異なる範囲である、「α2,3シアリル化は65%~85%の範囲・・・であり、α2,6シアリル化は15%~35%・・・」の範囲であるものが実施例8bに記載されるに止まり、「総シアリル化の40~50%がα2,3シアリル化」である組換えFSHが、具体的に如何なる効果を備え、既知の組換え産物と比較して薬物動態学的特性がどの程度向上しているのかを本願明細書の記載から理解することはできないのである。 また、前記(2)イで検討したとおり、本願発明の効果を、本願優先日より後に公開された公報である国際公開第2012/017058号及び国際公開第2015/158875号の記載内容により補うこともできないのである。 したがって、この点における請求人の主張を採用することはできない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引例1に記載された発明及び引例2~7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する

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2016-015103

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