特許拒絶査定不服審判
2016-015040
発酵乳および抗ウイルス剤の製造方法
- 審判番号
- 2016-015040
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-001788外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年10月06日
- 審決日
- 2017年06月26日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .113-Z (A23C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-1788号「発酵乳および抗ウイルス剤の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年4月16日出願公開、特開2015-70855号〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本願は、2010年11月19日(優先権主張 2009年11月25日、日本国)を国際出願日とする特願2011-543230号の一部を平成27年1月7日に新たな特許出願としたものであって、平成28年7月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年10月6日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。
2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明は、平成28年10月6日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「(i)乳酸菌であるラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)が産生する中性多糖体であること、(ii)IFN-αによる刺激に応答して、中性多糖体を与えない場合に比べて、NK細胞の活性を上昇させることができる中性多糖体であること、および(iii)下記式(1):
【化1】
に示す構造単位を有する中性多糖体であること、の条件を満たす中性多糖体を有効量で有効成分として含む抗ウイルス用発酵乳を製造するための方法であって、前記乳酸菌であるラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)を使用して、原料乳を発酵させて、前記中性多糖体を有効量で含む抗ウイルス用発酵乳を得ることを特徴とする抗ウイルス用発酵乳の製造方法。」
なお、平成28年10月6日付けでなされた手続補正は、明りょうでない記載の釈明または誤記の訂正を目的とするものと認める。
3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2005-194259号公報(以下「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審が付した)。
(1a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ナチュラルキラー(以下「NK」ともいう)細胞活性化作用を有する組成物に関するものである。」
(1b)「【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、NK細胞を活性化する食品由来の組成物を検討したところ、酸性多糖類にNK細胞活性化作用があることを見出して本発明を完成させた。
本発明は、具体的には、
[1] 酸性多糖類を有効成分として含有することを特徴とするNK細胞活性化剤、
[2] 酸性多糖類がリン酸化多糖類である上記[1]記載のNK細胞活性化剤、
[3] 多糖類が乳酸菌由来である上記[1]または[2]記載のNK細胞活性化剤、
[4] 上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のNK細胞活性化剤を含み、NK細胞活性化作用を有するものであることを特徴とし、NK細胞活性化のために用いられる旨の表示を付した発酵乳、
を提供するものである。」
(1c)「【0009】
酸性多糖類を含む食品の形態としては、ヨーグルトの様な発酵乳、飲料等を挙げることができ、健康食品、特定保健用食品、栄養補助食品もしくはNK細胞活性化作用を表示した食品等として使用できる。酸性多糖類と食品衛生上許容できる配合物、例えば、安定化剤、保存料、着色料、香料、ビタミン等の配合物を上記リン酸化多糖類に適宜添加し、混合し、定法により、錠剤、粒状、顆粒状、粉末状、カプセル状、液状、ゼリー状、クリーム状、飲料等の食品とすることが出来る。
このような形態の、NK細胞活性化補助食品を摂取することにより、NK細胞活性化が図られるため、本発明で得られる食品は、インフルエンザなどの感染予防、癌の予防、進行の防止などに寄与することが可能である。」
(1d)「【実施例1】
【0011】
乳酸菌由来多糖の製造
1、乳酸菌の培養
10%乳清をプロテアーゼで55℃、8時間処理した後酵母エキスを0.5%添加、pH7.0に調製したものにLactobacillus bulgaricusOLL1073R-1株(FERM P-17227)を接種し、37℃、24時間の静置培養を行った。
2、多糖の精製
10-20Lの培養液より菌体を遠心分離(22800 x g,4℃,20min)した後、エタノール沈殿(60-70%(v/v))を2回行った。沈殿物はMilliQ水に溶解し、トリクロロ酢酸(final 10%)によるタンパク変性、遠心分離(22800 x g,4℃,20min)による不溶物の除去を行った。
MilliQ水に対する透析、凍結乾燥を行った後、0.02M Tris-HCl(pH8.6)に溶解し、陰イオン交換樹脂であるDEAE-Sepharose(Amersham Biosciences)を用いて中性多糖と酸性多糖の分離を行った(図1)。中性多糖はPass画分として回収し、酸性多糖はNaClを用いて0-0.5Mイオン強度勾配による溶出で回収した。
・・・」
(1e)「【実施例3】
【0013】
多糖産生乳酸菌を利用した発酵乳の作製
NK活性上昇作用を有する酸性多糖体を産生するL. bulgaricus OLL1073R-1を用いて発酵乳を作製した。生乳、脱脂粉乳、砂糖を使用し、SNF9.7%、FAT3.05%、砂糖3.0%に調製した溶液(以下発酵乳Mix)にL. bulgaricus OLL1073R-1、S. thermophilus OLS3059(FERM P-15487)をスターター菌として加え、43℃で発酵を行った。酸度0.7で発酵を終了し、4℃で1日保存することで最終酸度0.78となった。また、対照発酵乳としてL. bulgaricus OLL1256及びS. thermophilus OLS3295をスターター菌として用いた発酵乳についても作製した。」
(1f)「【実施例4】
【0014】
多糖産生乳酸菌を利用した発酵乳のNK活性
1、多糖産生乳酸菌を利用した発酵乳のマウスへの経口投与試験
マウスBALB/c(雄、11週齢、SLC社)32匹を1群8匹で4群に分け、以下の投与物を4週間、ゾンデにより強制経口投与を行った。
1) 蒸留水投与群 1.0ml/body/day
2) L. bulgaricus OLL1073R-1発酵乳(実施例3)投与群 200mg/body/day
3) 対照発酵乳(実施例3)投与群 200mg/body/day
4) 発酵乳Mix(実施例3)投与群 200mg/body/day
発酵乳、発酵乳Mixは凍結乾燥物を用い、投与時に200mg/mlで蒸留水に懸濁した。
2、NK活性測定
4週間の投与終了後、個々のマウスよりそれぞれ脾臓を取り出し、細胞をRPMI1640(10%FCS)に懸濁することにより脾臓細胞懸濁液(1×107cells/ml)を調製した。
この脾臓細胞をエフェクター細胞、YAC-1細胞をターゲット細胞としてNK活性をfluorescence activated cell sorter(以下FACSとする)を用いて測定した。ターゲット細胞であるYAC-1は3,3’-dioctadecyloxacarbocyanine perchlorate(以下Dioとする)により蛍光染色した後、脾臓細胞とともに96穴マイクロプレート(丸底)を用いて37℃、5%CO2条件下で4時間培養を行った。培養終了前にPropidium Iodide(以下PIとする)を培養液に加え、死細胞を染色した。培養終了後、Johannの論文を参考にFACSを用いてDio、PIともに染色された細胞を死滅したYAC-1細胞として検出した(Johann S, Blumel G, Lipp M, Forster R,J Immunol Methods,185(2),209-16(1995))。なお、エフェクター細胞とターゲット細胞の比率は40:1とした。
その結果、発酵乳投与では多糖体産生菌であるL. bulgaricus OLL1073R-1を使用した発酵乳投与群においてNK活性がコントロールである蒸留水投与群に比べ有意に高く(p<0.05)、発酵乳Mixと対照発酵乳に対しては高い傾向(p<0.1)が見られた(図4)。」
以上の記載によると、引用例には、
「L. bulgaricus OLL1073R-1を用いた発酵乳の製造方法であって、
生乳、脱脂粉乳、砂糖を使用し、調製した溶液にL. bulgaricus OLL1073R-1、S. thermophilus OLS3059をスターター菌として加え、発酵を行う、
インフルエンザなどの感染予防、癌の予防、進行の防止などに寄与する発酵乳の製造方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明の「L. bulgaricus OLL1073R-1」は、本願発明の「ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)」に相当し、また、「乳酸菌」でもあり、
引用発明の「生乳、脱脂粉乳」は、本願発明の「原料乳」に相当し、
そして、引用発明の「発酵乳」は、「インフルエンザなどの感染予防」に寄与することから、本願発明の「抗ウイルス用」といえる。
よって、両者は、
「抗ウイルス用発酵乳を製造するための方法であって、乳酸菌であるラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)を使用して、原料乳を発酵させて、抗ウイルス用発酵乳を得る抗ウイルス用発酵乳の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。
相違点;本願発明では、製造される発酵乳が、(i)乳酸菌であるラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)が産生する中性多糖体であること、(ii)IFN-αによる刺激に応答して、中性多糖体を与えない場合に比べて、NK細胞の活性を上昇させることができる中性多糖体であること、および(iii)下記式(1):
【化1】
に示す構造単位を有する中性多糖体であること、の条件を満たす中性多糖体を有効量で有効成分として含むとされているのに対し、引用発明では、そのような特定がない点。
上記相違点について検討すると、
本願発明において、発酵乳の製造方法において具体的に特定されている製造工程は、乳酸菌であるラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)を使用して、原料乳を発酵させることのみであって、引用発明の発酵乳の製造方法と異なる点はなく、また、記載事項(1d)の記載からみて、L. bulgaricus OLL1073R-1により産生された中性多糖体を含むことは明らかであり、その構成単位は、本願と同じ乳酸菌で産生されたものであるから、上記式(1)で示されているものと認められる。
そして、本願発明の「IFN-αによる刺激に応答して、中性多糖体を与えない場合に比べて、NK細胞の活性を上昇させることができる中性多糖体であること」との事項は、中性多糖体の性質を述べるまでで、具体的な製造工程を特定するものではない。また、本願発明の「中性多糖体を有効量で有効成分として含む」との事項は、中性多糖体の具体的な量を特定するものではない。そうすると、製造方法に異なる点がない以上、本願発明と引用発明とで、上記生産された中性多糖体の性質及び量に差があるものとすることはできない。
したがって、上記相違点は実質的な相違点ではないことより、本願発明は、引用例に記載された発明である。
なお、請求人は、審判請求書において、「一般に、微生物が産生する公知の組成物Xの中に、特定の効果を有することが知られている物質A、及び、効果が未知であった物質Bが含まれている場合(ただし、物質A、Bのいずれも公知であるとする。)において、物質Bが特定の効果(例えば、抗ウイルス)を有することを初めて見出したときに、組成物Xが公知であることを理由として、「物質Bを有効成分として含む・・・用発酵乳」の発明としての新規性が否定されることはないと思料します。」(第6頁)と主張するが、本願発明は「発酵乳の製造方法」の発明であって、上記したように引用発明の製造方法と異なる点はなく、また、発酵乳を製造する以外に新たな用途を提供するものではないことより、上記請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、審判請求書において、「本願発明では、特定の中性多糖体に関し、単に『含まれている』のではなく、『有効量で含まれている』との条件が付されています。このため、上述の例において、酸性多糖類が有効量で含まれており、かつ、中が有効量で含まれていない発酵乳は、本願発明に包含されません。逆に、酸性多糖類が有効量で含まれておらず、かつ、中性多糖体が有効量で含まれている発酵乳は、本願発明に包含されます。そして、摂取される中性多糖体の量は、例えば、発酵乳への中性多糖体の追加の添加や、発酵乳の摂取量の増加などによって、「有効量」になるように調整することができます。」(第6~7頁)とも主張するが、本願発明において、上記したように中性多糖体の具体的な量が特定されているものではなく、また、「発酵乳への中性多糖体の追加の添加」及び「発酵乳の摂取量の増加」について特定されているものではない。そして、本願発明において、上記「有効量」とするための格別な製造工程が特定されているものではなく、また、本件明細書の実施例2(段落【0045】)において、「乳酸菌である1073R-1株を用いて、常法により、乳酸菌飲食品としてヨーグルトを製造したところ、本発明の飲食品組成物に該当する、中性多糖体(NPS)を含有する所望の抗ウイルス用のヨーグルト食品を得ることができた」とされているように、上記「有効量」とするために格別な製造工程を必要とするものでもないことから、上記請求人の主張は、採用できない。
そもそも、請求人が審判請求書で引用する「改訂審査基準」は、物の発明における用途限定について示した基準であり、製造方法の発明に適用するのは適切ではない。
5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものあるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、原査定は妥当であり、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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