特許拒絶査定不服審判
2016-012925
車両用ドアのシーリングスクリーン
- 審判番号
- 2016-012925
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-004844
- 請求日
- 2016年08月26日
- 審決日
- 2017年05月30日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】河西工業株式会社
- 【請求人代理人】坂本 智弘
- 審判長/審判官
- 審判長 和田 雄二
- 審判官 島田 信一
- 審判官 尾崎 和寛
- 分類
- P18 .561-WY (B60J) / P18 .121-WY (B60J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-4844号「車両用ドアのシーリングスクリーン」拒絶査定不服審判事件〔平成26年7月28日出願公開、特開2014-136460号、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成25年1月15日の出願であって、平成27年10月5日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年5月23日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年8月26日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年9月27日に前置報告がされ、同年11月30日に審判請求人から前置報告に対する上申書が提出されたものである。
第2 補正の却下の決定
1.補正の却下の決定の結論
平成28年8月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)を却下する。
2.補正の却下の決定の理由
(1)本件補正の内容
本件補正は、補正前の請求項1を、補正後の請求項1に変更する補正事項(以下、「補正事項」という。)を含むものである。
補正前の請求項1及び補正後の請求項1は、それぞれ以下のとおりである。
ア 本件補正前の請求項1
「ドアパネルと、前記ドアパネルの車室側を覆うドアトリムとの間に介在される、車両用ドアのシーリングスクリーンであって、
合成樹脂製のシートからなるベース層と、
前記ベース層に蒸着される薄い金属膜によって形成され、輻射熱を反射する反射層とを具備し、
前記反射層における前記ベース層側とは反対側の面に積層され、該反射層の輻射熱反射性能の経時劣化を防止すると共に、該反射層が他の部材により機械的損傷を受けることを防止する、保護層を有する、
ことを特徴とする車両用ドアのシーリングスクリーン。」
イ 本件補正後の請求項1
「ドアパネルと、前記ドアパネルの車室側を覆うドアトリムとの間に介在される、車両用ドアのシーリングスクリーンであって、
合成樹脂製のシートからなるベース層と、
金属蒸着膜が形成された前記ベース層と、蒸着される薄い無機質材料で構成され紫外線、可視光線、赤外線に対する吸収が極小である金属膜とが、コロナ処理またはアンカーコート処理が施される特殊処理により強固に接着され、前記ベース層と前記金属膜との接着強度が確実に確保され、
前記ドアパネルから前記ドアトリムに向け放射される輻射熱を反射する、薄い前記金属膜よりなる反射層と、を具備し、
前記反射層における前記ベース層側とは反対側の面に積層される保護層であって、前記ベース層と前記保護層との間に前記反射層を封じ込め、
該反射層の輻射熱反射性能の経時劣化を阻止すると共に、前記反射層が他の部品との接触により機械的損傷を受けることを防止することを目的とした、前記保護層を備えることを特徴とする、
車両用ドアのシーリングスクリーン。」(下線は補正箇所を示すために審判請求人が付したものである。)
(2)本件補正の適否の判断
本件補正の補正事項は請求項1に「金属蒸着膜が形成された前記ベース層と、蒸着される薄い無機質材料で構成され紫外線、可視光線、赤外線に対する吸収が極小である金属膜とが、コロナ処理またはアンカーコート処理が施される特殊処理により強固に接着され」という事項を追加する補正を含むものである。
上記補正事項は、審判請求人が平成28年11月30日に提出された上申書を参酌すると、金属蒸着膜が形成されたベース層に、金属蒸着膜とは異なる更なる金属層(金属膜)が特殊処理により接着されることを意味するものと解される。
しかしながら、上記補正事項の根拠として掲げている本件明細書の段落【0024】の記載は、「アルミニウム蒸着膜で反射層22を構成する場合」であり、同段落には、金属蒸着膜が形成されたベース層に、金属蒸着膜とは異なる更なる金属層(金属膜)が特殊処理により接着されることは記載されていない。また、当該事項は、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書、図面(以下、「当初明細書等」という。)全体をとおしてみても記載がなく、当初明細書等から自明でもなく、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、上記のとおり本件補正を却下する。
第3 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1に係る発明は、下記引用文献1-3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.特開2009-23420号公報
2.実公昭50-23929号公報
3.特開2005-186662号公報
第4 本願発明
本件補正は、上記「第2 補正の却下の決定」のとおり、却下された。
したがって、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年12月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、本願発明は、第2 2.(1)アに記載したとおりである。
第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)1ページ1欄21行~25行
「自動車の扉体は周知のようにドア外板1の内面にドア内板2を嵌着し、更に化粧パネル3を重層し、更に必要により押えパネル4を結合させ、扉ガラス昇降機構、扉開閉機構を附設した構造となつている。」
(2)1ページ1欄25行~35行
「而してドア内板2には、後目の扉ガラス取換え等の補修作業の為、数個の作業穴5,5……及び排水溝6等が穿設されている。ところがこの作業穴5,5……及び排水溝6は、雨水及び外部の塵埃が扉ガラスを伝つてドア外板1とドア内板2との間に浸入したとき、これを容易にドア内板2内面に導き、車室内を湿らせたり化粧パネル3を汚損したりする欠点を生ずるので、この作業穴5,5……及び排水溝6の内面には防水フイルム7を張設して、雨水、塵埃の浸入を防止するものである。(第1図参照)」
(3)1ページ1欄36行~同2欄1行
「この防水フイルム7は、従来はポリエチレンフイルム塩化ビニールフイルム又は防水布等を合成ゴム系の溶液型接着剤で接着し、又は感圧性接着剤で接着されているものである。」
(4)上記記載事項(1)によれば、化粧パネル3は扉体の車室側を覆うものであり、さらに上記記載事項(2)を参酌すると、防水フィルム7は、自動車の扉体と前記扉体の車室側を覆う化粧パネル3との間に介在されるものといえる。
したがって、上記引用文献2には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「自動車の扉体と、前記扉体の車室側を覆う化粧パネル3との間に介在される、自動車の扉体の防水フィルム7であって、
防水フィルム7はポリエチレンフィルムからなる、
自動車の扉体の防水フィルム7。」
2.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0001】
本発明は、複数の孔が形成された板金パネルに1枚のシーリングカバーを防水性接着剤によって貼着することによって前記複数の孔を塞ぐ車両のシーリングカバー貼付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の車体やドアの室内側の面を形成する板金パネルには作業用や軽量化用又は部品の取付用に複数の孔が形成されている。例えば、図5に車両用ドア103の縦断面を示すが、該車両用ドア103の室内側のインナーパネル106には孔108,109が形成されており、これらの孔108,109から車体やドア103の内部に水や埃が侵入すると車体やドア103の機能が害される可能性がある。このため、インナーパネル106にビニールシート等のシーリングカバー111をブチルテープ等の防水性接着剤112,113によって貼着することによって複数の孔108,109を塞ぐことが行われている。」
したがって、上記引用文献1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「車両用ドア103のインナーパネル106の孔108,109を塞ぐように貼着されるシーリングカバー111。」
3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】
車室を区画形成するための車体を略水平な境界線を境にして車体上部と車体下部とに2分割し、前記車体上部には反射機能を有する手段を設ける一方、前記車体下部には放熱機能を有する手段を設けてなる自動車用の熱機能構造体。
【請求項2】
前記境界線は、ドアパネル上端とサイドシル下端とを地表面からの垂線で結んだ縦線における略中央位置に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車用の熱機能構造体。」
(2)「【0040】
反射材としては、金属箔などの金属薄膜を具備したもの、金属を蒸着したフィルム(金属蒸着樹脂フィルム)で構成される反射層を具備したもの、金属薄膜や反射層を組み合わせたものなどから選ばれる。
【0041】
反射材は、取り付け対象部品の面上に、反射機能を有する薄板を保持させる形態であることが好ましい。反射材単体は厚みが数十nm程度と薄くても十分な熱反射機能を発揮するが、反射材単体では形状を維持することが困難である。また、アウターパネルやインナーパネルを利用することを考慮すると、それらパネルの裏面に反射機能を付与するためには、当該裏面上に、反射機能を有する薄板を保持させる形態が好ましい。薄板を保持させるには、接着層などを介して付着させるのが簡便である。また、反射材を薄板とすることにより、当該反射材を、アウターパネルやインナーパネルの複雑な形状に合致させて、それらパネルの裏面上に密着させることが可能となる。パネルの裏面上に密着させることにより、反射材の基材が断熱層としての機能を発揮して、熱侵入を抑制することもできる。
【0042】
これより、反射材は、赤外反射機能を有する薄板を基材上に保持することが好ましい。赤外反射機能を有する薄板としては、金属箔、金属を蒸着したフィルム、各々単独またはそれらの組み合わせからなるものである。反射材は理想的には、熱すなわち赤外線の反射率(赤外反射率)が70%以上であることが望ましく、材料の入手性、ハンドリングのし易さから見て、赤外線反射機能を有する層が金属蒸着された熱線反射フィルムであることが特に望ましい。
【0043】
本発明で用いられる赤外線反射機能を有する層としては、アルミニウム箔、銅箔、アルミニウム酸化物、銅酸化物を樹脂フィルム表面にスパッタリングすることによって得られる金属蒸着フィルム、透明な樹脂層を付着させたアルミニウム箔、透明な樹脂層を付着させた銅箔、アルミニウムを付着させた樹脂フィルム、反射塗料を塗布した樹脂フィルム、反射材および/または白色顔料を混ぜ込んだ樹脂フィルム、アルミニウム酸化物、銅酸化物をポリエステル若しくはポリエステル繊維で構成された不織布にスパッタリングすることによって得られる金属蒸着フィルムを用いることができるが、特に限定はされない。
【0044】
貼り付けるフィルムがアルミニウム箔、銅箔、透明な樹脂層で表面を保護したアルミニウム箔、透明な樹脂層で表面を保護した銅箔の場合、その厚みは1μmから1000μm、特に5μmから50μmが好適である。厚さが1μm未満であると強度が低く取り扱い時に破損しやすい。一方、1000μmを超えると、柔軟性が損なわれ、貼り付け作業性が低下してしまうからである。」
(3)「【0078】
図6は、自動車用の熱機能構造体に用いられるドア構造体30の一例を示す図である。
【0079】
図示するドア構造体30にあっては、車体上部52に設ける反射機能を有する手段61として、アウターパネル31の裏面およびインナーパネル32の裏面の両方に反射材65を貼り付け、多重反射が生じるようにしてある。また、室内トリム33であるドアトリムの裏面にも反射材66が貼り付けられている。一方、車体下部53に設ける放熱機能を有する手段62として、アウターパネル31の裏面に赤外吸収塗料67を塗布して、塗布面の遠赤外領域の放射率を非塗布面の放射率よりも高くする塗膜を形成してある。」
したがって、上記引用文献3には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
「ドア構造体30であって、車体上部52にあたるアウターパネル31の裏面、インナーパネル32の裏面、及び室内トリム33であるドアトリムの裏面に、反射機能を有する手段61として金属蒸着フィルム、透明な樹脂層で表面を保護したアルミニウム箔等からなる反射材66を貼り付け、車体下部53にあたるアウターパネル31の裏面に放熱機能を有する手段62として赤外吸収塗料67を塗布すること。」
第6 対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
引用発明における「自動車の扉体」、「化粧パネル3」及び「自動車の扉体の防水フィルム7」は、本願発明における「ドアパネル」、「ドアトリム」及び「車両用ドアのシーリングスクリーン」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「ドアパネルと、前記ドアパネルの車室側を覆うドアトリムとの間に介在される、車両用ドアのシーリングスクリーン。」
(相違点)
本願発明は、「シーリングスクリーン」が「合成樹脂製のシートからなるベース層と、前記ベース層に蒸着される薄い金属膜によって形成され、輻射熱を反射する反射層とを具備し、前記反射層における前記ベース層側とは反対側の面に積層され、該反射層の輻射熱反射性能の経時劣化を防止すると共に、該反射層が他の部材により機械的損傷を受けることを防止する、保護層を有する」のに対し、
引用発明の「防水フィルム7」はポリエチレンフィルムからなるが、そのような構成を備えていない点。
2.相違点についての判断
上記相違点について検討すると、「第5 引用文献、引用発明等」の「3.引用文献3について」に記載のとおり、引用文献3には「ドア構造体30であって、車体上部52にあたるアウターパネル31の裏面、インナーパネル32の裏面、及び室内トリム33であるドアトリムの裏面に、反射機能を有する手段61として金属蒸着フィルムや透明な樹脂層で表面を保護したアルミニウム箔等からなる反射材66を貼り付け、車体下部53にあたるアウターパネル31の裏面に放熱機能を有する手段62として赤外吸収塗料67を塗布すること」という技術的事項が記載されている。
しかしながら、引用発明の「防水フィルム7」は、雨水、塵埃の浸入を防止するものであるところ(引用文献2の記載事項(2)を参照。)、引用文献2の実用新案請求の範囲、考案の詳細な説明、及び図面をとおしてみても、「防水フィルム7」に断熱の機能を付与することについて、記載も示唆もされていないので、引用発明に引用文献3に記載された技術的事項を組み合わせる動機付けは存在しない。
仮に、自動車の扉体の構造において、断熱機能を付与することが一般的な課題だとして、引用発明に引用文献3に記載されている技術的事項を組み合わせても、引用文献3に記載されている技術的事項は、ドア構造体30の車体上部52にあたる箇所に反射材66が貼り付けられるものであるのに対し、引用発明の「防水フィルム7」は扉体の下部付近に設けられた排水溝6をも覆う機能を有するものであるから、「防水フィルム7」の上部に反射材を貼り付ける構造には至るが、当業者といえども、上記相違点に係る本願発明の「シーリングスクリーン」が「合成樹脂製のシートからなるベース層と、前記ベース層に蒸着される薄い金属膜によって形成され」との構成、つまり「シーリングスクリーン」の全体的に金属膜を形成する構成を導き出すことはできない。
よって、本願発明は、当業者であっても、引用発明、引用文献3に記載されている技術的事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。
また、本願発明と引用文献1に記載されている発明との対比においても、同様の相違点が掲げられるが、同様の理由により、引用文献1に記載されている発明及び引用文献3に記載されている技術的事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。
第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明又は引用文献1に記載されている発明、及び引用文献3に記載されている技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-012925