特許拒絶査定不服審判
2016-011289
胃内でアセトアルデヒドを結合するための組成物および方法
- 審判番号
- 2016-011289
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-161521外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年07月27日
- 審決日
- 2017年06月13日
- 公報発行日
- 2017年07月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 分類
- P18 .121-WYA(A61K) / P18 .575-WYA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第1項第3号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-161521「胃内でアセトアルデヒドを結合するための組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日出願公開、特開2013-231080、請求項の数(38)〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
【理 由】
I.手続の経緯
本願は、平成19年5月22日(パリ条約による優先権主張 2006年5月22日 (US)アメリカ合衆国,2006年5月22日 (FI)フィンランド共和国)を国際出願日とする特願2009-511536号の一部を平成25年8月2日に新たな出願としたものであって、平成25年8月16日付けで手続補正がなされ、平成26年7月25日付けの拒絶理由に応答して平成27年2月5日付けで手続補正がなされ、平成27年7月30日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成27年12月24日付けで手続補正がなされたが、平成28年3月18日付けで、平成27年12月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成28年7月27日に拒絶査定不服審判が請求され、平成28年9月13日付けで審判請求理由の手続補正書(方式)が提出されたものである。
II.補正の却下の決定の当否について
審判請求人は、審判請求書において、請求の趣旨として、「原査定を取り消す、本願は特許すべきものであるとの審決を求める。」としており、請求の理由として、「平成27年12月24日付け手続補正でした補正は却下されるべきものではなく、却下の決定は取り消されるべきであると考える。」と主張しているので、平成28年3月18日付けの補正の却下の決定(以下、「本件決定」ともいう。)の当否について検討する。
[補正の却下の決定の当否の結論]
平成28年3月18日付けの補正の却下の決定を取り消す。
[理由]
1.補正の内容
平成27年12月24日付け手続補正(以下、「本件補正」ともいう。)により、特許請求の範囲は、
補正前(平成27年2月5日付け手続補正書参照)の
「【請求項1】
萎縮性胃炎または塩酸欠乏症もしくは低胃酸症を有するヒトの胃腸管の癌発生リスクを低減するために使用される、胃に、または胃、腸および/もしくは結腸に存在するアセトアルデヒドを結合する単一または多粒子製剤形態の非毒性組成物であって、該組成物は、1個またはそれ以上の遊離スルフヒドリルおよび/またはアミノ基を含む1種またはそれ以上のアセトアルデヒド結合化合物(複数可)を含み、該化合物(複数可)は、胃での該化合物(複数可)の持続放出をもたらす非毒性担体と混合される、組成物。
【請求項2】
該非毒性担体が、胃内で分解されることなく、胃内容物中に浮遊するか、または胃粘膜に結合する、胃内ゲルを形成する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
該組成物が、1種またはそれ以上のアセトアルデヒド結合化合物(複数可)、胃内で分解されないポリマー(複数可)、および充填剤(複数可)を含む群から選択される物質を含む、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
該組成物中、アセトアルデヒド結合化合物(複数可)の量が、1ないし40重量%であり、胃内で分解されないポリマー(複数可)の量が、10ないし50重量%であり、充填剤(複数可)の量が、20ないし70重量%である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
該胃内で分解されないポリマーが、メタクリルポリマー、例えばEudragit L、SもしくはRS、またはエチルセルロースまたはこれらの組合せである、請求項3または4記載の組成物。
【請求項6】
該胃内で分解されないポリマーが、マトリクスを形成し、胃内での該アセトアルデヒド結合化合物(複数可)の持続的拡散を可能とする、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
該組成物がマトリクス剤またはマトリクス顆粒の形態である、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
該組成物が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)フィルムのような水溶性フィルムでコーティングされるか、または硬ゼラチンカプセルもしくはHPMCカプセルまたは錠剤または他の製剤形態であり得る、請求項1から7のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
該組成物が、1種またはそれ以上のアセトアルデヒド結合化合物(複数可)、水溶性充填剤(複数可)およびフィルムにより該組成物をコーティングする少なくとも2種のフィルム形成剤を含む群から選択される物質を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
アセトアルデヒド結合化合物(複数可)の量が、1ないし50重量%であり、水溶性充填剤(複数可)の量が、50ないし80重量%である、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
第一の該フィルム形成剤が不水溶性であり、第二の該フィルム形成剤が水溶性であり、該第一のフィルム形成剤が連続フィルムを形成し、該第二のフィルム形成剤が、胃内での該アセトアルデヒド結合化合物(複数可)の持続的拡散を可能にする孔をフィルムに形成する、請求項9または10記載の組成物。
【請求項12】
該フィルム中の水溶性成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)からなり、該フィルム中の不水溶性成分が、エチルセルロースおよび/またはEudragit RSからなる、請求項10記載の組成物。
【請求項13】
該組成物が、胃内に存在するアセトアルデヒドを結合する画分を含み、さらに、化合物が結腸まで放出されないような形態に保護された組成物の画分を含む、請求項1から12のいずれか一項記載の組成物。
【請求項14】
胃用および結腸用の画分の相対量が、1:1ないし1:3である、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
該組成物が、胃内に存在するアセトアルデヒドを結合する画分を含み、さらに、該化合物が腸まで放出されないような形態に保護された画分ならびに該化合物(複数可)が結腸まで放出されないような形態に保護された画分を含む、請求項1ないし14のいずれか一項記載の組成物。
【請求項16】
胃用および腸用および結腸用の画分の相対量が、2:1:1、1:1:1、1:1:2、1:2:2、1:2:3および1:1:3を含む群から選択される、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
該画分が、錠剤またはカプセル形態、好ましくは硬ゼラチンカプセルまたはHPMCカプセル形態である、請求項13から16のいずれか一項記載の組成物。
【請求項18】
該組成物が、単回用量あたり、1-500mg、好ましくは10-300mg、より好ましくは100-200mgのアセトアルデヒド結合物質を含む、請求項1から17のいずれか一項記載の組成物。
【請求項19】
該組成物が、錠剤、カプセル、顆粒もしくは粉末、またはそれらの組合せの形態である、請求項1ないし18のいずれか一項記載の組成物。
【請求項20】
該組成物が、直径が約7mm、好ましくは8-15mmの錠剤またはカプセル形態である、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
該1種またはそれ以上のアセトアルデヒド結合化合物(複数可)が、1個またはそれ以上の遊離スルフヒドリル基およびアミノ基を含む、請求項1から20のいずれか一項記載の組成物。
【請求項22】
該1種またはそれ以上のアセトアルデヒド結合化合物(複数可)が、式(I)
【化1】
[式中、
R1は、水素または1-4個の炭素原子を有するアシル基であり、
R2は、スルフヒドリルまたはスルホン基であり、
nは、1、2、3または4である。]
で示されるか、またはアセトアルデヒドを結合し得るこれらの化合物の何れかの塩もしくは誘導体である、請求項1から21のいずれか一項記載の組成物。
【請求項23】
該組成物が、L-システイン、D-システイン、シスチン、システイン酸、システイン グリシン、トレオ-β-フェニル-DL-システイン、エリトロ-β-フェニル-DL-システイン、β-テトラメチレン-DL-システイン、D-ペニシラミンまたはD-ペニシラミンのN末端ジペプチド、セミカルバジド、グルタチオン、還元グルタチオン、DL-ホモシステイン、N-アセチルシステイン、L-システイニル-L-バリン、β-β-テトラメチレン-DL-システイン、システイニル グリシン、メルカプトエチル グリシン、tre-(5)-β-フェニル-DL-システイン、エリトロ-β-フェニル-DL-システイン、塩酸システイン、塩酸チアミン、メタ重亜硫酸ナトリウム、セリン、メチオニン、β-メルカプトエチルアミン、アルギニン、レシチン、グリシン、リシン、塩化アンモニウム、1,4-ジチオスレイトールおよびメルカプタンまたはこれらの何れかの化合物の塩を含む群から選択される1種またはそれ以上のアセトアルデヒド結合化合物(複数可)、ならびに所望によりビタミンB12、A-、D-、E-、C-ビタミン、ナイアシン、ビオチン、チアミン、B2-、B5-、B6-ビタミン、葉酸、クロム、マンガン、セレン、亜鉛および鉄を含む群から選択される物質の少なくとも1個を含んでいてよい、請求項1から22のいずれか一項記載の組成物。
【請求項24】
該1種またはそれ以上のアセトアルデヒド結合化合物(複数可)が、L-システイン、D-システイン、D-ペニシラミン、N-アセチルシステイン、システインに変換される化合物、アセトアルデヒドを結合し得るこれらの化合物の塩または構造類似体である、請求項1から23のいずれか一項記載の組成物。
【請求項25】
該化合物(複数可)が、胃内で少なくとも30分間放出される、請求項1から24のいずれか一項記載の組成物。
【請求項26】
該化合物(複数可)が、胃内で0.5ないし8時間、好ましくは2ないし6時間放出される、請求項1から25のいずれか一項記載の組成物。
【請求項27】
少なくとも1個のペプシノゲン(PG)I、ペプシノゲンII、ペプシノゲンI/ペプシノゲンII比、ガストリン-17B(空腹時)、ガストリン-17S(刺激時)およびHPAB(ヘリコバクター・ピロリ抗体)を含む群から選択される、萎縮性胃炎または塩酸欠乏症または低胃酸症のバイオマーカーの値がこれらの値のカットオフ値または参照値範囲から外れているヒトに投与される、請求項1から26のいずれか一項記載の組成物。
【請求項28】
カットオフ値または参照値と比較して、低いペプシノゲンI値、低いペプシノゲンI/II比、高いガストリン-17B値および高いHPAB(ヘリコバクター・ピロリ抗体)値を含む群から選択される萎縮性体部胃炎のバイオマーカーの少なくとも1個を有するヒトに投与される、請求項27記載の組成物。
【請求項29】
カットオフ値または参照値と比較して、高いペプシノゲンI値、高いペプシノゲンII値、高いガストリン-17B値および高いHPAB(ヘリコバクター・ピロリ抗体)値を含む群から選択される塩酸欠乏症または低胃酸症のバイオマーカーの少なくとも1個を有するヒトに投与される、請求項27記載の組成物。
【請求項30】
ペプシノゲンI値の参照値範囲が30-120μg/lであり、ペプシノゲンIIの参照値範囲が3-10μg/lであり、PGI/PGII比の参照値範囲が3-20であり、ガストリン-17S(刺激時)値の参照値範囲が5-30pmol/lであり、ガストリン-17B(空腹時)の参照値範囲が2-10pmol/lであり、そしてHPABの参照値範囲が0-30EIUである、請求項27から29のいずれか一項記載の組成物。
【請求項31】
バイオマーカーの典型的なカットオフ値が、ペプシノゲンI 30μg/l、ペプシノゲンII 3μg/l、PGI/PGII比 3、ガストリン-17S(刺激時)値 5pmol/l、ガストリン-17B(空腹時) 2pmol/lおよびHPAB 30EIUを含む群から選択される、請求項27から30のいずれか一項記載の組成物。
【請求項32】
-患者から血清サンプルを得て;
-該血清サンプル由来のペプシノゲンI、ペプシノゲンIIおよびガストリン-17Bを定量的に測定し、得られた値とカットオフ値または参照値範囲を比較し;
ここで、該血清サンプル中のペプシノゲンI濃度が、下限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以下であり、PGI/PGII比が、下限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以下であり、そしてガストリン-17B(空腹時)濃度が、上限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以上であることが、塩酸欠乏症または低胃酸症および胃内でのアセトアルデヒド産生をもたらす萎縮性体部胃炎であることを示し;
-有効量のアセトアルデヒド結合化合物(複数可)を含む組成物を食事と関連して、または十分な時間連続的に該患者に投与し;
-所望により、十分な時間後、該値を試験して処置の効果をモニターすることを含む方法により、萎縮性胃炎を有すると診断された患者において、胃癌のリスクを低下するための、請求項1から31のいずれか一項記載の組成物。
【請求項33】
-患者から血清サンプルを得て;
-該血清サンプル由来のペプシノゲンI、ペプシノゲンIIおよびガストリン-17Bを定量的に測定し、得られた値と参照値範囲またはカットオフ値を比較し;
ここで、該血清サンプル中のペプシノゲンI濃度が、上限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以上であり、PGI/PGII比が、上限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以上であり、そしてガストリン-17B(空腹時)濃度が、上限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以上であることが、胃内でのアセトアルデヒド産生をもたらす塩酸欠乏症または低胃酸症であることを示し;
-有効量のアセトアルデヒド結合化合物(複数可)を含む組成物を食事と関連して、または十分な時間連続的に該患者に投与し;
-所望により、十分な時間後、該値を試験して処置の効果をモニターすることを含む方法により、制酸剤による塩酸欠乏症または低胃酸症を有すると診断された患者において、胃癌のリスクを低下するための、請求項1から31のいずれか一項記載の組成物。
【請求項34】
前記方法が、ヘリコバクター・ピロリ抗体の存在を検出するためのアッセイを含む、請求項32または33記載の組成物。
【請求項35】
食前、食事中または食後にヒトに投与される、請求項1から34のいずれか一項記載の組成物。
【請求項36】
ヘリコバクター・ピロリ感染または胃食道逆流性疾患の危険を有すると診断されたヒトに投与され、該処置が、PPIまたは胃の酸性度を低下する他の処置剤と併用される、請求項1から35のいずれか一項記載の組成物。
【請求項37】
二日酔い、塩酸欠乏症または低胃酸症、萎縮性体部胃炎、癌、または癌および代謝症候群のリスクを含む群から選択される状態の1個またはそれ以上を有するヒトに投与される、請求項1から36のいずれか一項記載の組成物。」
から、
補正後の
「【請求項1】
萎縮性胃炎または塩酸欠乏症もしくは低胃酸症を有するヒトの胃腸管の癌発生リスクを低減するために使用される、胃に、または胃、腸および/もしくは結腸に存在するアセトアルデヒドを結合する単一または多粒子製剤形態の非毒性組成物であって、アセトアルデヒド結合化合物であるシステイン1ないし40重量%、胃でのシステインの持続放出をもたらす、胃内で分解されないポリマー(複数可)10ないし50重量%、および充填剤(複数可)20ないし70重量%を含み、該ポリマーが、メタクリルポリマーもしくはエチルセルロースまたはこれらの組合せである、組成物。
【請求項2】
該ポリマーが、胃内で分解されることなく、胃内容物中に浮遊するか、または胃粘膜に結合する、胃内ゲルを形成する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
メタクリルポリマーが、Eudragit L、SまたはRSである、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
該胃内で分解されないポリマーが、マトリクスを形成し、胃内でのシステインの持続的拡散を可能とする、請求項2または3記載の組成物。
【請求項5】
該組成物がマトリクス剤またはマトリクス顆粒の形態である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
該組成物が、水溶性フィルムでコーティングされるか、または硬ゼラチンカプセルもしくはHPMCカプセルまたは錠剤または他の製剤形態であり得る、請求項1から5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
水溶性フィルムが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)フィルムである、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
該組成物が、水溶性充填剤(複数可)およびフィルムにより該組成物をコーティングする少なくとも2種のフィルム形成剤を含む群から選択される物質を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
水溶性充填剤(複数可)の量が、50ないし70重量%である、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
第一の該フィルム形成剤が不水溶性であり、第二の該フィルム形成剤が水溶性であり、該第一のフィルム形成剤が連続フィルムを形成し、該第二のフィルム形成剤が、胃内でのシステインの持続的拡散を可能にする孔をフィルムに形成する、請求項8または9記載の組成物。
【請求項11】
該フィルム中の水溶性成分が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)からなり、該フィルム中の不水溶性成分が、エチルセルロースおよび/またはEudragit RSからなる、請求項9記載の組成物。
【請求項12】
該組成物が、胃内に存在するアセトアルデヒドを結合する画分を含み、さらに、システインが結腸まで放出されないような形態に保護された組成物の画分を含む、請求項1から11のいずれか一項記載の組成物。
【請求項13】
胃用および結腸用の画分の相対量が、1:1ないし1:3である、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
該組成物が、胃内に存在するアセトアルデヒドを結合する画分を含み、さらに、システインが腸まで放出されないような形態に保護された画分ならびにシステインが結腸まで放出されないような形態に保護された画分を含む、請求項1ないし13のいずれか一項記載の組成物。
【請求項15】
胃用および腸用および結腸用の画分の相対量が、2:1:1、1:1:1、1:1:2、1:2:2、1:2:3および1:1:3を含む群から選択される、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
該画分が、錠剤またはカプセル形態である、請求項12から15のいずれか一項記載の組成物。
【請求項17】
カプセル形態が、硬ゼラチンカプセルまたはHPMCカプセル形態である、請求項16記載の組成物。
【請求項18】
該組成物が、単回用量あたり、1-500mgのシステインを含む、請求項1から17のいずれか一項記載の組成物。
【請求項19】
該組成物が、単回用量あたり、10-300mgのシステインを含む、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
該組成物が、単回用量あたり、100-200mgのシステインを含む、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
該組成物が、錠剤、カプセル、顆粒もしくは粉末、またはそれらの組合せの形態である、請求項1ないし20のいずれか一項記載の組成物。
【請求項22】
該組成物が、直径が7mm、または8-15mmの錠剤またはカプセル形態である、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
該組成物が、ビタミンB12、A-、D-、E-、C-ビタミン、ナイアシン、ビオチン、チアミン、B2-、B5-、B6-ビタミン、葉酸、クロム、マンガン、セレン、亜鉛および鉄を含む群から選択される物質の少なくとも1個を含む、請求項1から22のいずれか一項記載の組成物。
【請求項24】
システインが、L-システイン、D-システインおよびそれらの塩を含む群から選択される、請求項1から23のいずれか一項記載の組成物。
【請求項25】
システインが、胃内で少なくとも30分間放出される、請求項1から24のいずれか一項記載の組成物。
【請求項26】
システインが、胃内で0.5ないし8時間放出される、請求項1から25のいずれか一項記載の組成物。
【請求項27】
システインが、胃内で2ないし6時間放出される、請求項26記載の組成物。
【請求項28】
少なくとも1個のペプシノゲン(PG)I、ペプシノゲンII、ペプシノゲンI/ペプシノゲンII比、ガストリン-17B(空腹時)、ガストリン-17S(刺激時)およびHPAB(ヘリコバクター・ピロリ抗体)を含む群から選択される、萎縮性胃炎または塩酸欠乏症または低胃酸症のバイオマーカーの値がこれらの値のカットオフ値または参照値範囲から外れているヒトに投与される、請求項1から27のいずれか一項記載の組成物。
【請求項29】
カットオフ値または参照値と比較して、低いペプシノゲンI値、低いペプシノゲンI/II比、高いガストリン-17B値および高いHPAB(ヘリコバクター・ピロリ抗体)値を含む群から選択される萎縮性体部胃炎のバイオマーカーの少なくとも1個を有するヒトに投与される、請求項28記載の組成物。
【請求項30】
カットオフ値または参照値と比較して、高いペプシノゲンI値、高いペプシノゲンII値、高いガストリン-17B値および高いHPAB(ヘリコバクター・ピロリ抗体)値を含む群から選択される塩酸欠乏症または低胃酸症のバイオマーカーの少なくとも1個を有するヒトに投与される、請求項28記載の組成物。
【請求項31】
ペプシノゲンI値の参照値範囲が30-120μg/lであり、ペプシノゲンIIの参照値範囲が3-10μg/lであり、PGI/PGII比の参照値範囲が3-20であり、ガストリン-17S(刺激時)値の参照値範囲が5-30pmol/lであり、ガストリン-17B(空腹時)の参照値範囲が2-10pmol/lであり、そしてHPABの参照値範囲が0-30EIUである、請求項28から30のいずれか一項記載の組成物。
【請求項32】
バイオマーカーの典型的なカットオフ値が、ペプシノゲンI 30μg/l、ペプシノゲンII 3μg/l、PGI/PGII比 3、ガストリン-17S(刺激時)値 5pmol/l、ガストリン-17B(空腹時) 2pmol/lおよびHPAB 30EIUを含む群から選択される、請求項28から31のいずれか一項記載の組成物。
【請求項33】
-患者から血清サンプルを得て;
-該血清サンプル由来のペプシノゲンI、ペプシノゲンIIおよびガストリン-17Bを定量的に測定し、得られた値とカットオフ値または参照値範囲を比較し;
ここで、該血清サンプル中のペプシノゲンI濃度が、下限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以下であり、PGI/PGII比が、下限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以下であり、そしてガストリン-17B(空腹時)濃度が、上限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以上であることが、塩酸欠乏症または低胃酸症および胃内でのアセトアルデヒド産生をもたらす萎縮性体部胃炎であることを示し;
-有効量のシステインを含む組成物を食事と関連して、または十分な時間連続的に該患者に投与し;
-所望により、十分な時間後、該値を試験して処置の効果をモニターすることを含む方法により、萎縮性胃炎を有すると診断された患者において、胃癌のリスクを低下するための、請求項1から32のいずれか一項記載の組成物。
【請求項34】
-患者から血清サンプルを得て;
-該血清サンプル由来のペプシノゲンI、ペプシノゲンIIおよびガストリン-17Bを定量的に測定し、得られた値と参照値範囲またはカットオフ値を比較し;
ここで、該血清サンプル中のペプシノゲンI濃度が、上限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以上であり、PGI/PGII比が、上限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以上であり、そしてガストリン-17B(空腹時)濃度が、上限値に近いかまたは参照値範囲もしくはカットオフ値以上であることが、胃内でのアセトアルデヒド産生をもたらす塩酸欠乏症または低胃酸症であることを示し;
-有効量のシステインを含む組成物を食事と関連して、または十分な時間連続的に該患者に投与し;
-所望により、十分な時間後、該値を試験して処置の効果をモニターすることを含む方法により、制酸剤による塩酸欠乏症または低胃酸症を有すると診断された患者において、胃癌のリスクを低下するための、請求項1から32のいずれか一項記載の組成物。
【請求項35】
前記方法が、ヘリコバクター・ピロリ抗体の存在を検出するためのアッセイを含む、請求項33または34記載の組成物。
【請求項36】
食前、食事中または食後にヒトに投与される、請求項1から35のいずれか一項記載の組成物。
【請求項37】
ヘリコバクター・ピロリ感染または胃食道逆流性疾患の危険を有すると診断されたヒトに投与され、該処置が、PPIまたは胃の酸性度を低下する他の処置剤と併用される、請求項1から36のいずれか一項記載の組成物。
【請求項38】
二日酔い、塩酸欠乏症または低胃酸症、萎縮性体部胃炎、癌、または癌および代謝症候群のリスクを含む群から選択される状態の1個またはそれ以上を有するヒトに投与される、請求項1から37のいずれか一項記載の組成物。」(注:請求項1での下線は、原文のとおり。他の請求項についての原文での下線は省略した。)
と補正された。
ここで、本件補正は、拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第50条の規定により指定された期間内にするとき(特許法第17条の2第1項第3号)になされたものであり、そのような場合には、特許法第17条の2第5項の各号において規定する要件(請求項の削除、特許請求の範囲のいわゆる限定的限縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明)を目的とするものに限るとされている。
そこで、補正後の請求項1について検討すると、補正前の請求項1において、アセトアルデヒド結合化合物についての「1個またはそれ以上の遊離スルフヒドリルおよび/またはアミノ基を含む1種またはそれ以上の」との特定を「システィン」に限定し、その割合を「1ないし40重量%」に限定し、「胃での該化合物(複数可)の持続放出をもたらす非毒性担体」を「胃内で分解されないポリマー(複数可)10ないし50重量%、および充填剤(複数可)20ないし70重量%を含み、該ポリマーが、メタクリルポリマーもしくはエチルセルロースまたはこれらの組合せ」と限定したものと認められるから、表現の一部の手直しがあるものの、補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一と認められ、上記限定的限縮を目的としていると認められる。
また、他の請求項についても補正されているが、いずれも特許法第17条の2第5項の各号において規定する前記要件を満たしていないとの理由は見出せない。なお、請求項数が37から38に増項されているが、「好ましくは」との記載が不明確であるとの指摘を受けて項分けを行ったことにより生じたものであり、前記要件に反するものであるとまではいえない。
2.本件決定の概要
本件決定は、「平成27年12月24日付けでした手続補正は、請求項1についての補正は限定的減縮を目的としている。この場合、補正後の請求項1及びそれに従属する請求項に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」との判断の下になされたものであり、「補正後の請求項1-38に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。」と判断し、「よって、この補正は同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により上記結論のとおり決定する。」とされていて、下記の引用文献が挙げられている。
記
1.特表2004-512353号公報(以下、「引用例1」と言う。)
8.Scand J Gastroenterol, 2002, Vol.37, No.6, pp.648-655.(以下、「引用例8」と言う。)
9.特開2000-178194号公報(以下、「引用例9」と言う。)
10.特表2002-529505号公報(以下、「引用例10」と言う。)
11.特開昭51-91314号公報(以下、「引用例11」と言う。)
12.別冊 日本臨床 領域別症候群シリーズNo.5 消化管症候群(上巻)、平成6年11月28日 株式会社日本臨床社発行、426-428頁 (以下、「引用例12」と言う。)
13.特表2005-538348号公報(以下、「引用例13」と言う。)
3.当審の判断
3.1 本件補正の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」ともいう。)
本件発明1は、上記「1.」の補正後の請求項1として摘示したものであり、再掲すると次のとおりである。
「【請求項1】 萎縮性胃炎または塩酸欠乏症もしくは低胃酸症を有するヒトの胃腸管の癌発生リスクを低減するために使用される、胃に、または胃、腸および/もしくは結腸に存在するアセトアルデヒドを結合する単一または多粒子製剤形態の非毒性組成物であって、アセトアルデヒド結合化合物であるシステイン1ないし40重量%、胃でのシステインの持続放出をもたらす、胃内で分解されないポリマー(複数可)10ないし50重量%、および充填剤(複数可)20ないし70重量%を含み、該ポリマーが、メタクリルポリマーもしくはエチルセルロースまたはこれらの組合せである、組成物。」
3.2 引用例1
引用例1には、次のような技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。
(1-i)「【請求項1】
アセトアルデヒドを長時間、唾液、胃または大腸において局所的に結合する医薬組成物を調製するための、アセトアルデヒドを結合し、および1以上の遊離スルフヒドリルおよび/またはアミノ基を含む化合物の使用(アセトアルデヒド結合化合物は、該化合物の放出速度を口腔、胃または大腸において調節して、アセトアルデヒド含量を有害と考えられる限界以下に、または医薬組成物を使用しない場合よりも基本的に低く保持するような薬学的に許容される担体と結合している)。
【請求項2】
医薬組成物が、群(L-システイン、D-システイン、システイン酸、システイン・グリシン、トレオまたはエリトロ-β-フェニル-DL-システイン、β-テトラメチレン-DL-システイン、アスコルビン酸、D-ペニシラミンおよびそのN末端ジペプチド、セミカルバチド、還元グルタチオン、D,L-ホモシステイン、N-アセチルシステイン、L-システイニル-L-バリン、β-β-テトラメチレン-DL-システイン、システイニルグリシン、メルカプトエチルグリシン、トレ-(5)-β-フェニル-DL-システイン、エリトロ-β-フェニル-DL-システイン、塩酸チアミン、メタ亜硫酸水素ナトリウム、アルギニン、グリシン、リシン)からの1以上の物質を含むことを特徴とする、請求項1の使用。」(請求項1,2)
(1-ii)「【請求項6】
医薬組成物の担体が、組成物が該アセトアルデヒド結合化合物を口腔、胃または大腸のみでの状態で選択的に放出し得るように選択されることを特徴とする、請求項1-5のいずれかの使用。」(請求項6)
(1-iii)「【請求項11】
胃からのアセトアルデヒドを結合するための医薬組成物であって、
-組成物が、アセトアルデヒドを結合し、1以上の遊離スルフヒドリルおよび/またはアミノ基を含み、薬学的に許容される担体に結合される1以上の物質を含み、そして
-担体が、アセトアルデヒド結合物質が胃中に0.5-8時間放出されるように、有効物質の放出速度を調節する、
ことを特徴とする組成物。」(請求項11)
(1-iv)「【請求項13】
組成物の担体が、群(種々のキトサン、アルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩、水酸化アルミニウム、炭酸水素ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、炭酸水素ナトリウム)より選択される1以上の物質を含むことを特徴とする、請求項11または12の組成物。
【請求項14】・・・略・・・
【請求項15】
組成物中のポリマーの全量が、10-50重量%、好ましくは15-40重量%、最も好ましくは20-30重量%であることを特徴とする、請求項11-14のいずれかの組成物。
【請求項16】
組成物が、結合剤として腸溶性ポリマー、好ましくはメタアクリル酸誘導体を、溶液pH6-7、製剤の全重量の2-5%、好ましくは3-4%用いて、顆粒化されることを特徴とする、請求項11-15のいずれかの組成物。」(請求項13,15,16)
(1-v)「【請求項18】
大腸からのアセトアルデヒドを結合するための医薬組成物であって、
-組成物が、薬学的に許容される担体に結合され、アセトアルデヒドを結合し、1以上の遊離スルフヒドリルおよび/またはアミノ基を含む1以上の物質を含み、そして
-担体が、有効物質が大腸の状態まで0.5-8時間放出されないように、有効物質の放出速度を調節する、
ことを特徴とする組成物。」(請求項18)
(1-vi)「【請求項22】
組成物が、腸溶性フィルムで被膜され、アセトアルデヒド結合物質を含む顆粒を含み、その顆粒のフィルム形成腸溶性ポリマーが、pH6.0-7.5、好ましくは6.5-7.0の溶液中で加水分解され、顆粒の全重量中の腸溶性ポリマーが5-30%、好ましくは6.5-7.0%であり、顆粒が充填剤としてリン酸水素カルシウムなどの難溶性物質を20-40%、好ましくは25-35%、およびpH6.0-7.5、好ましくは6.5-7.0の溶液中で加水分解される腸溶性ポリマーを結合剤として選択的に含み、顆粒中のその量が2-5%、好ましくは3-4%であることを特徴とする、請求項18-21のいずれかの組成物。
【請求項23】
組成物が、1以上の遊離スルフヒドリルおよび/またはアミノ基を有する化合物を含むことを特徴とする、請求項6-22のいずれかの組成物。
【請求項24】
組成物の担体が、群(ヒドロキシプロピルメチルセルロース-アセテートスクシネート(HPMC-AS)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、メタアクリル酸-メチルメタアクリレート-コポリマーなどの腸溶性ポリマー)からの1以上の物質を含むことを特徴とする、請求項18-23のいずれかの組成物。」(請求項22~24)
(1-vii)「【請求項28】
胃からのアセトアルデヒドを結合するための医薬組成物であって、
-組成物が、薬学的に許容される担体に結合されるLおよび/またはD-システインを含み、そして
-担体が、アセトアルデヒド結合物質が胃中に0.5-8時間放出されるように、システインの放出速度を調節する、
ことを特徴とする組成物。
【請求項29】
大腸からのアセトアルデヒドを結合するための医薬組成物であって、
-組成物が、薬学的に許容される担体に結合されるLおよび/またはD-システインを含み、そして
-担体が、システインが大腸の状態まで0.5-8時間放出されないように、システインの放出速度を調節する、
ことを特徴とする組成物。」(請求項28,29)
(1-viii)「【0002】
アセトアルデヒドが動物で癌を起こすことが知られている(Feron et al, (1982) Eur J Cancer Clin Oncol 18; 13-31)。また、アセトアルデヒドがヒトの唾液および消化管に生じるときに局所的な癌原性であることも知られている。このことは次の事実によって支持されている。すなわち、アルコールを非常に飲するアジア人は、アルデヒド・デヒドロゲナーゼ-2(ALDH2)酵素の家族性低活性改変を有し、アルコール摂取後に口腔、咽頭、消化管で癌発生の危険性と唾液中のアルデヒド含量が増加している(Vaekevaeinen et al, (2000) Alcohol Clin Exp Res 24: 873-877)。」(段落【0002】)
(1-ix )「【0005】
アセトアルデヒドはまた、胃中に酸が存在しないか、薬物により酸が除去されたような状態において、微生物代謝の結果として胃中で生成する(Vaekevaeinen et al, (2000) Alimentary Pharmacology Therapeutics, in press)。さらに、アセトアルデヒドが大腸で生成することが知られている。正常な菌相を示す腸細菌がエタノールをアセトアルデヒドに転換し得るからである(Jokelainen et al, (1996) Gut 39: 100-104)。」(段落【0005】)
(1-x )「【0013】
本発明は、唾液、胃、大腸において局所的に生成する有害量のアセトアルデヒドが、本発明の製剤を用いることにより、局所的に、迅速に、高濃度で化学的に安全な形態になるとの驚くべき知見に基づいている。結合する物質がアセトアルデヒドの全作用期間を通じて十分高い量で放出されるので、局所のアセトアルデヒド量は低いままである。このように、アセトアルデヒドによる癌に罹る危険性が減少する。」(段落【0013】)
(1-xi)「【0040】
胃に作用する医薬製剤
「胃に対する局所作用を有する長時間作用製剤」は、胃液によって湿り、胃の粘膜に接着するか、または胃の内容物中に浮遊して、胃中での存在が長くなり、胃中での長い放出および薬物の局所作用を確実にするような、すべてのモノリシック(一体式)または多様式の錠剤、カプセル、顆粒を意味する。胃に局所的に作用し得る長時間作用製剤は、経口服用される液体(混合物)であり得、その物理的構造がゲルでもあり得る。
【0041】
胃に対する局所作用を有する医薬組成物に必要な特殊な性質は、医薬組成物ができるだけ長く胃に留まることである。技術的に、このことは2つの方法で解決できる。胃の粘膜に接着する製剤をつくるか、胃の内容物中に浮遊する製剤をつくるかである。製剤を胃の粘膜に固着さすには、添加物としてキトサンなどのカチオン性ポリマーを用いる。胃中に浮遊する製剤は、ゲルを形成するポリマー(例えば、アルギン酸)を用いて、また製剤に炭酸水素ナトリウムを加えて準備する。炭酸水素ナトリウムは胃酸の影響で二酸化炭素を放出し、そしてゲル中に気泡を形成する。胃中に浮遊する液状ゲルはまた、アルギン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、炭酸水素ナトリウム、およびアセトアルデヒド結合化合物を加える得る水から調製できる。対応する液体製剤は、アセトアルデヒド結合物質をキトサンの分散液に加えることでも得ることができる。胃に長時間留まる他の製剤は、HBS(商標)(水動力学的均衡系)として知られる製剤である。比較的大きな錠剤をつくり(直径が少なくとも7-10mm)、消化管で分解しないが、例えば、そこに作られた孔から有効物質を放出する(Oros(商標))ようなフィルムで被膜するときに、その製剤は胃中に長時間留まり得る。しかし、必要条件は、このような製剤が食後に服用されることである。
【0042】・・・略・・・
【0043】・・・略・・・
【0044】
胃で放出される本発明の製剤は、少なくとも1つのポリマー、多くの場合2つのポリマーを有する。ポリマーは、製剤を胃の粘膜に接着するか、胃内容物に浮遊するゲルを形成して、薬物を胃中でできるだけ長く、最小で2時間保持するのに働く。ポリマーの別の働きは有効物質の放出を延長することである。
【0045】
胃中で局所的にアセトアルデヒドを結合する製剤は、胃中でゲルを形成する錠剤またはゲルを形成する粉末や顆粒の混合物を含むカプセルであり得る。アセトアルデヒド結合物質に加えて、製剤は、胃中でゲルを形成するポリマー、例えば、キトサン、アルギン酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボマー、水酸化アルミニウムなどを含有する。胃中での浮遊を促進するために、製剤は炭酸水素ナトリウムも含有することがある。
【0046】
製剤中のポリマーの量は、10-50%、好ましくは15-40%、最も好ましくは20-30%である。
炭酸水素ナトリウムの量は、ポリマー量の10-30%、好ましくは20%である。
【0047】
胃中でアセトアルデヒドを局所的に結合する製剤は、錠剤または顆粒であり得る。そこでは、アセトアルデヒドが必要な充填剤と混合され、ついで結合剤としての腸溶性ポリマーで顆粒化されている。使用される結合剤は、いかなる既知のポリマーであってよく、好ましくは溶液pH6-7のポリマーである。最も好ましいポリマーは、メタアクリル酸誘導体であって、商標名 Eudragit L および Eudragit S で知られている。製剤中の腸溶性ポリマーの量は、好ましくは2-5%、最も好ましくは3-4%である。」(段落【0040】~【0047】)
(1-xii)「【0051】
大腸に作用する医薬製剤
「大腸において局所作用を有する長時間作用製剤」は、小腸の末端または大腸までの全過程で製剤が浮遊するまで、容量を長期にわたって放出しないような、すべての一体式または複数式の錠剤、カプセル、顆粒などを意味する。
【0052】
アセトアルデヒド結合物質を大腸で長期にわたり放出する本発明の製剤は、アセトアルデヒド結合物質を小腸の最後の部分までまたは大腸まで保持してから、問題の物質を、放出メカニズムがなにであれ、放出できる。
【0053】
大腸でアセトアルデヒドを結合する医薬組成物は経口投与する。経口投与の薬物を大腸に放出せしめるのに使用できる技術は多数存在する。最も機能的な溶液は、腸溶性ポリマーの使用に基づく。胃の酸性環境で溶解しないが、少なくともpH7で溶解するようなフィルム被膜を、錠剤または顆粒でつくることができる。製剤をつくる際に、大腸の微生物作用で分解するポリサッカライドまたはアゾ結合でつくられたポリマーを使用できる。商標 Oros で知られる製剤の形態も使用でき、その開口部が腸溶性ポリマーで最初に被覆されているとき、その溶液pHは7である。
【0054】
有用なポリマーには、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース-アセテートスクシネート(HPMC-AS)、特に Aqoat(商標)や Aquoat AS-HF(商標)で市販されている等級のもの、セルロースアセテートフタレート(CAP)、Aquateric(商標)で市販されている等級のもの、メタアクリル酸-メチルメタアクリレート-コポリマー、特に Eudraagit-S(商標)で市販されている等級のものがある。」(段落【0051】~【0054】)
(1-xiii)「【0069】
実施例3
胃でアセトアルデヒドを結合する局所的長時間作用医薬製剤は、下記のように、アセトアルデヒドによる癌の危険性を低下さすために、調製および使用する。
胃でアセトアルデヒドを局所的に結合する製剤の相対的組成は、例えば、下記のとおりである:
システイン 60部
キトサン 10~40部
リン酸水素カルシウム 0~30部
【0070】
粉末混合物を製薬工業で用いられている通常のミキサー(例えば、ブレンダー)で混合す
る。ついで、粉末混合物を、顆粒化液として2.5%酢酸を用いて、顆粒にする。顆粒化液は同じブレンダーに加え得る。湿った粉末の塊を、スクリーンプレートまたは穴明きプレート(開き口の直径2mm)を通して圧縮した。形成した顆粒を乾燥し、スクリーンした。スクリーン・フラクション1.2-1.7mmを取りだし、システイン含量が100mgになるように硬ゼラチンカプセル中に分散した。
【0071】
上記のように調製した錠剤を服用して、アルコール性飲料の摂取などで、胃のアセトアルデヒド含量の増加を起こしやすい場合に、アセトアルデヒドにより局所的に起こされた癌の危険性を低下さす。投与は、血中にアルコールが存在する限り4~6時間の間隔で行う。」(段落【0069】~【0071】)
(1-xiv)「【0072】
実施例4
大腸でアセトアルデヒド結合物質を長時間に放出する医薬組成物は、下記のように、アセトアルデヒドによる癌の危険性を低下さすために、調製および使用できる。
所望のように腸溶性顆粒を含み、アセトアルデヒドを結合する腸溶性錠剤の組成は、例えば、下記のとおりである:
腸溶性顆粒:システイン 100mg
リン酸水素カルシウム 40mg
Eudragits-S 5mg
Aqoat AS-HF 40mg
腸溶性錠剤:脂溶性顆粒 185mg
微結晶性セルロース 185mg
ステアリン酸マグネシウム 4mg
タルク 4mg
Aqoat AS-HF 40mg
【0073】
システインおよび充填剤として働くリン酸水素カルシウムを一緒に混合する。Eudragit S をエタノールに溶解し(20%溶液)、溶液を用いて粉末混合物を湿らす。湿った塊を顆粒に圧縮する。乾燥顆粒をスクリーンし、1.2-1.7mmの顆粒フラクション Aqoat AS-HF で被膜する。被膜液の組成は次のとおり:Aqoat AS-HF 10%、クエン酸トリエチル3.5%、ステアリン酸マグネシウム3%、水83.5%。被膜された顆粒を微結晶性セルロース(例えば、Emcocel LP 200 (商標))と混合し、最後に滑沢剤:ステアリン酸マグネシウムおよびタルクを混合物に加える。次いで、混合物を打錠し、最後に顆粒の場合と同様にして錠上に腸溶性被膜をつくる。すべての操作段階において、ミキサー、顆粒機、スクリーン装置、フィルム被膜装置、打錠機は、製薬工業で通常使用されているものを使用できる。」(段落【0072】)
これらの記載からみて、特に、
(a)唾液、胃または腸の局所のアセトアルデヒド量が低減されると癌に罹る危険性が減少すること(摘示(1-i)、(1-viii)、(1-x)参照)、
(b)アセトアルデヒド結合化合物として、遊離スルフヒドリルやアミノ基を含む化合物、例えばシステインが具体的に挙げられていて、実施例でも用いられていること(摘示(1-i)、(1-xiii)、(1-xiv)参照)、
(c)アセトアルデヒド結合化合物の放出を、担体を用い、前記局所で選択的に、放出し得るように選択すること(摘示(1-ii)、(1-iii)参照)
(d)顆粒などの粒子形態で用いられ得ること(摘示(1-iv)参照)
などを理解できることも勘案すると、
引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」ともいう。)が記載されているといえる。
<引用例1発明>
「胃腸管の癌発生リスクを低減するために使用される、胃または腸からのアセトアルデヒドを結合するための医薬組成物であって、前記組成物が、アセトアルデヒドを結合し、薬学的に許容される担体に結合される1以上の物質であるシステインを含み、そして、担体が、システインが胃中に0.5-8時間放出されるように、または、システインが大腸の状態まで0.5-8時間放出されないように、システインの放出速度を調節する粒子製剤形態の組成物。」
3.3 対比・判断
そこで、本件発明1と引用例1発明を対比する。
引用例1には、胃に作用する医薬製剤に関して、医薬組成物ができるだけ長く胃に留まることが必要な性質であると記載されており(摘示(1-xi)参照)、大腸に作用する医薬製剤に関して、小腸の最後の部分まで又は大腸まで保持してから、アセトアルデヒド結合物質を放出できると記載されている(摘示(1-xii)参照)。
すなわち、引用例1発明の「胃中に0.5-8時間放出されるように」、あるいは、「大腸の状態まで0.5-8時間放出されないように」、「システインの放出速度が調節された」とは、胃または大腸において局所作用を有するシステインの長時間の放出を規定した事項であると認められる。
そうすると、両発明は、
「胃腸管の癌発生リスクを低減するために使用される、胃または大腸に存在するアセトアルデヒドを結合する粒子製剤形態であって、アセトアルデヒド結合化合物であるシステインと胃または大腸でのシステインの持続放出をもたらす物質を含む、組成物」
で一致し、
少なくとも、次の相違点1~4で相違する。
<相違点>
1.「胃腸管の癌発生リスク」を有する対象者が、本願発明1では、「萎縮性胃炎または塩酸欠乏症もしくは低胃酸症を有するヒト」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのように特定されていない点
2.胃または大腸でのシステインの持続放出をもたらす物質及び該物質の組成物中の成分割合について、本願発明1では、「システイン1ないし40重量%、胃でのシステインの持続放出をもたらす、胃内で分解されないポリマー(複数可)10ないし50重量%、および充填剤(複数可)20ないし70重量%を含み、該ポリマーが、メタクリルポリマーもしくはエチルセルロースまたはこれらの組合せである」と特定されているのに対し、引用例1発明では「アセトアルデヒドを結合し、薬学的に許容される担体に結合される1以上の物質であるシステインを含み、そして、担体が、システインが胃中に0.5-8時間放出されるように、または、システインが大腸の状態まで0.5-8時間放出されないように、システインの放出速度を調節する」とされている点
3.アセトアルデヒドの存在について、本願発明1では、「胃に、または胃、腸および/もしくは結腸に存在する」(注;胃が必須)と特定されているのに対し、引用例1発明では「胃または腸に存在する」とされている点
4.組成物について、本願発明1では、「単一または多粒子製剤形態の非毒性」と特定されているのに対し、引用例1発明ではそのように特定されていない点
そこで、先ず、これらの相違点1、2について併せ検討する。
引用例1には、胃におけるシステインの持続放出は記載されているものの、「萎縮性胃炎または塩酸欠乏症もしくは低胃酸症を有するヒト」を対象とすることは記載されていない。
引用例1には、「アセトアルデヒドはまた、胃中に酸が存在しないか、薬物により酸が除去されるような状態において、微生物代謝の結果として胃中で生成する」(摘示(1-ix)参照)との記載がある。しかし、該記載は、胃中でのアセトアルデヒドの生成状況を説明するにとどまるものであり、該記載から直ちに、引用例1発明の対象者として、「萎縮性胃炎または塩酸欠乏症もしくは低胃酸症を有するヒト」を想到することは当業者といえどもなし得ることとはいえない。
ところで、引用例8には、微生物のエタノール代謝によって、萎縮性胃炎患者にエタノール飲酒の後に高いアセトアルデヒドレベルが生じること(要約の結論を参照)、胃には通常微生物がおらず、胃のpHが5以上になるなら微生物の増殖が予想されること(648頁左下欄1~3行参照)、萎縮性胃炎が胃癌のリスク要因であること(651頁右欄下から2~1行参照)が記載されている。これら記載をあわせみた当業者が、仮に、萎縮性胃炎などの胃内のpHが上昇した病態にあるヒトにあっては、胃内に通常は存在しない微生物が増殖する可能性があることを理解し、微生物代謝の結果としてアルデヒドが胃内で生成することを想到し得たとしても、引用例1には、胃内に存在するアセトアルデヒド結合物質であるシステインを含む医薬組成物ができるだけ長く胃に留まるための手段として、たとえば、実施例には、担体としてキトサンが用いられており(摘示(1-xiii)の実施例3参照)、また、本件明細書の記載をみても、その他の手段としても、胃に浮遊させるべくゲルを構成するポリマーであるアルギン酸を用いることが記載されているが(摘示(1-xi))、上記相違点2に記載の、メタクリルポリマーもしくはエチルセルロースまたはこれらの組合せといったポリマーについては記載も示唆もない。
引用例1には、大腸に作用させる医薬製剤として、大腸に至るまではシステインを放出させず、大腸において放出させるための手段として、Eudragit Sを腸溶性製剤として用いることが記載されているのであり(摘示(1-xiv)の実施例4参照)、該手段を胃に作用させることが求められる医薬製剤に用いることは当業者といえども想到し得るものではない。
たしかに、引用例1には、アセトアルデヒド結合物質(審決注:アセトアルデヒドと記載されているが、結合物質の誤記と認める)が必要な充填剤と混合され、次いで結合剤としての腸溶性ポリマーで顆粒化されるとされ、そのようなポリマーとしてメタクリル酸誘導体であるEudragitLとEudragitLSが例示されている(摘示(1-xi)の段落【0047】参照)。しかし、その量は好ましくは2~5%とされており、顆粒化するための結合剤として添加されるにすぎない。
これに対して、本件発明1は、請求項1に規定されるとおり、「胃でのシステインの持続放出をもたらす、胃内で分解されないポリマー(複数可)10ないし50重量%、および充填剤(複数可)20ないし70重量%を含み、該ポリマーが、メタクリルポリマーもしくはエチルセルロースまたはこれらの組合せである、組成物」であって、当業者といえども、引用例1において顆粒化のための結合剤ポリマーとして2~3%配合するとされているメタクリルポリマーを、「胃でのシステインの持続放出をもたらす」組成物を得るために、その成分割合を10ないし50重量%にまで増加させようとする動機付けがあるとはいえない。
また、引用例9~11には、活性成分がシステインではなく、また低胃酸症状に対するものではないが、徐放性または持続性の経口医薬製剤において、マトリックス用高分子として、エチルセルロースやメタクリル酸エステルの共重合体、オイドラギットを用いることの記載がある(引用例1の請求項3,4、段落【0008】、引用例10の請求項12,13、段落【0013】、引例11の第3頁右上欄3行~同頁左下欄13行)。しかし、それらは低胃酸状態を意図したものとは認められないから、上記判断を左右するものではない。
そして、引用例12、13には、萎縮性胃炎について、本件発明1の実施態様(請求項28~34)で特定する血清ペプシノゲンI値、I/IIの比、ガストリン-17などについて言及されているにすぎず、上記判断を左右する記載は見出せない。
よって、相違点1、2に係る発明特定事項をあわせ採用することは、引用例8~11の記載を勘案しても引用例1記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、相違点3,4について検討するまでもなく、本件発明1(本件請求項1に係る発明)は、引用例8~13の記載を勘案しても引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえないので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により上記結論のとおり決定するとした本決定の判断は妥当ではない。
4.むすび
よって、平成28年3月18日付けの補正の却下の決定を取り消す。
III.本願発明について
上記のとおり、平成28年3月18日付けの補正の却下の決定は取り消されたので、本願の請求項1~38に係る発明は、平成27年12月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~38に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。
そして、本願については、原査定の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を見出せない。
よって、結論のとおり審決する。
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2016-011289